(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-16
(45)【発行日】2022-08-24
(54)【発明の名称】定着装置、定着装置の製造方法および画像形成装置
(51)【国際特許分類】
G03G 15/20 20060101AFI20220817BHJP
G03G 15/00 20060101ALI20220817BHJP
【FI】
G03G15/20 515
G03G15/00 550
(21)【出願番号】P 2018103711
(22)【出願日】2018-05-30
【審査請求日】2021-04-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000001270
【氏名又は名称】コニカミノルタ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】深谷 守
【審査官】藤井 達也
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-198838(JP,A)
【文献】特開2017-120334(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0259280(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G03G 13/00
G03G 13/20
G03G 15/00
G03G 15/20
G03G 21/16-21/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
無端状の定着ベルトと、
前記定着ベルトを加熱する熱源と、
前記定着ベルトの内周側に配置されるパッド部材と、
前記定着ベルトを介して前記パッド部材と対向する位置に配置され、前記定着ベルトを前記パッド部材に向けて押し付けながら回転する加圧回転部材と、
前記パッド部材および前記定着ベルトの間において積層される複数枚のグラファイトシートと、
複数枚の前記グラファイトシートの積層方向において互いに隣り合う前記グラファイトシート同士が接触するように、複数枚の前記グラファイトシートを一体に保持する保持具と、を備え
、
前記保持具は、複数枚の前記グラファイトシートをその積層方向における両側から付勢する弾性体からなる、定着装置。
【請求項2】
無端状の定着ベルトと、
前記定着ベルトを加熱する熱源と、
前記定着ベルトの内周側に配置されるパッド部材と、
前記定着ベルトを介して前記パッド部材と対向する位置に配置され、前記定着ベルトを前記パッド部材に向けて押し付けながら回転する加圧回転部材と、
前記パッド部材および前記定着ベルトの間において積層される複数枚のグラファイトシートと、
複数枚の前記グラファイトシートの積層方向において互いに隣り合う前記グラファイトシート同士が接触するように、複数枚の前記グラファイトシートを一体に保持する保持具と、を備え、
前記定着ベルトおよび前記加圧回転部材の間には、定着ニップ部が形成され、
複数枚の前記グラファイトシートは、前記保持具から、前記保持具に対して前記定着ニップ部の反対側に張り出す張り出し部を有する、定着装置。
【請求項3】
無端状の定着ベルトと、
前記定着ベルトを加熱する熱源と、
前記定着ベルトの内周側に配置されるパッド部材と、
前記定着ベルトを介して前記パッド部材と対向する位置に配置され、前記定着ベルトを前記パッド部材に向けて押し付けながら回転する加圧回転部材と、
前記パッド部材および前記定着ベルトの間において積層される複数枚のグラファイトシートと、
複数枚の前記グラファイトシートの積層方向において互いに隣り合う前記グラファイトシート同士が接触するように、複数枚の前記グラファイトシートを一体に保持する保持具と、
前記保持具と一体に設けられ、複数枚の前記グラファイトシートを前記パッド部材に対して固定する固定部と、を備え、
前記パッド部材には、凹部が設けられ、
前記固定部は、前記凹部に係合される凸部を有する、定着装置。
【請求項4】
無端状の定着ベルトと、
前記定着ベルトを加熱する熱源と、
前記定着ベルトの内周側に配置されるパッド部材と、
前記定着ベルトを介して前記パッド部材と対向する位置に配置され、前記定着ベルトを前記パッド部材に向けて押し付けながら回転する加圧回転部材と、
前記パッド部材および前記定着ベルトの間において積層される複数枚のグラファイトシートと、
複数枚の前記グラファイトシートの積層方向において互いに隣り合う前記グラファイトシート同士が接触するように、複数枚の前記グラファイトシートを一体に保持する保持具と、
前記保持具と一体に設けられ、複数枚の前記グラファイトシートを前記パッド部材に対して固定する固定部と、を備え、
前記定着ベルトおよび前記加圧回転部材の間には、定着ニップ部が形成され、
前記保持具および前記固定部は、前記パッド部材のうち前記定着ベルトと前記加圧回転部材との間を通過する記録媒体の軌跡から離間した部位に設けられる、定着装置。
【請求項5】
前記保持具および前記固定部は、前記パッド部材を挟んで前記定着ニップ部の裏側に設けられる、請求項
4に記載の定着装置。
【請求項6】
無端状の定着ベルトと、
前記定着ベルトを加熱する熱源と、
前記定着ベルトの内周側に配置されるパッド部材と、
前記定着ベルトを介して前記パッド部材と対向する位置に配置され、前記定着ベルトを前記パッド部材に向けて押し付けながら回転する加圧回転部材と、
前記パッド部材および前記定着ベルトの間において積層される複数枚のグラファイトシートと、
複数枚の前記グラファイトシートの積層方向において互いに隣り合う前記グラファイトシート同士が接触するように、複数枚の前記グラファイトシートを一体に保持する保持具と、を備え、
前記保持具は、記録媒体の通過方向における複数枚の前記グラファイトシートの上流側の端部を包囲する形状を有するとともに複数枚の前記グラファイトシートをその積層方向の両側から挟み込んでいる、定着装置。
【請求項7】
前記保持具は、複数枚の前記グラファイトシートを、前記加圧回転部材の軸方向の全幅に渡って保持するように構成される、請求項1
から6のいずれか1項に記載の定着装置。
【請求項8】
前記定着ベルトおよび前記加圧回転部材の間には、定着ニップ部が形成され、
前記保持具は、前記定着ニップ部よりも記録媒体の通過方向における上流側に設けられる、請求項1から
7のいずれか1項に記載の定着装置。
【請求項9】
請求項
3から
5のいずれか1項に記載の定着装置を製造する方法であって、
前記保持具により、複数枚の前記グラファイトシートを一体化する工程と、
前記複数枚の前記グラファイトシートを一体化する工程の後、前記固定部により、複数枚の前記グラファイトシートを前記パッド部材に対して固定する工程と、を備える、定着装置の製造方法。
【請求項10】
請求項1から
8のいずれか1項に記載の定着装置を備える、画像形成装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、定着装置、定着装置の製造方法および画像形成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
たとえば、国際公開第2016/104759号(以下、「特許文献1」という。)には、複数枚のグラファイトシートと、各グラファイトシート同士を接着する接着層とを備える熱輸送構造体が開示されている。熱輸送構造体は、複数枚のグラファイトシートの積層方向について、互いに隣り合うグラファイトシート間に接着層が配置された固定部と、上記の積層方向について、互いに隣り合うグラファイトシート同士が接着層を介さずに隙間をおいて対向するように配置された熱伝達部とを有している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
定着ベルトにより用紙等の記録媒体を加熱、加圧して、記録媒体にトナー像を定着させる定着装置が知られている。このような定着装置において、A6またはA5のような小サイズの用紙を定着装置に連続して通紙すると、定着ベルトの非通紙領域では、定着ベルトから用紙への熱伝達が進まない。このため、定着ベルトが局所的に温度上昇するという現象が発生して、トナー像の定着性にばらつきが生じたり、画質の均一性が損なわれたりすることがある。
【0005】
一方、非通紙領域からの熱伝達を促すため、複数枚のグラファイトシートを配置することにより、定着ベルトの均熱性を高めることが考えられる。複数枚のグラファイトシートが両面テープ等の接着剤により一体とされている場合、各グラファイトシートの破損が抑制され、ハンドリングが容易になるという点で好ましい。
【0006】
しかしながら、定着装置の駆動に伴う熱により、接着剤が揮発することによってガスが発生したり、接着剤が熱収縮したりすることにより、グラファイトシートに剥がれが生じ、それにより、グラファイトシートによる良好な伝熱性の確保が困難となる懸念がある。
【0007】
また、接着剤の熱伝導率はグラファイトシートの熱伝導率よりも小さいため、すなわち、接着剤が熱抵抗となるため、定着ベルトから、複数枚のグラファイトシートのうち定着ベルトから最も遠い側に配置されたシートへの伝熱量が低下する。そのため、当該シート内のその面方向への伝熱量が小さくなる。
【0008】
本発明の目的は、グラファイトシートによる高い伝熱性を確保することが可能な定着装置と、この定着装置の製造方法と、このような定着装置を備える画像形成装置とを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この発明に従った定着装置は、無端状の定着ベルトと、定着ベルトを加熱する熱源と、定着ベルトの内周側に配置されるパッド部材と、定着ベルトを介してパッド部材と対向する位置に配置され、定着ベルトをパッド部材に向けて押し付けながら回転する加圧回転部材と、パッド部材および定着ベルトの間において積層される複数枚のグラファイトシートと、複数枚のグラファイトシートの積層方向において互いに隣り合うグラファイトシート同士が接触するように、複数枚のグラファイトシートを一体に保持する保持具とを備える。
【0010】
本定着装置は、保持具によって複数枚のグラファイトシートが一体に保持されることにより、積層方向に互いに隣り合うグラファイトシート同士が接触するため、グラファイトシートによる高い伝熱性を確保することができる。
【0011】
また好ましくは、定着装置において、保持具と一体に設けられ、複数枚のグラファイトシートをパッド部材に対して固定する固定部をさらに備える。
【0012】
このようにすれば、パッド部材に対して複数枚のグラファイトシートを固定する際の作業を良好にできる。
【0013】
また好ましくは、保持具は、複数枚のグラファイトシートを、加圧回転部材の軸方向の全幅に渡って保持するように構成される。
【0014】
このようにすれば、保持具による保持に起因してグラファイトシートに生じる応力を、加圧回転部材の軸方向に渡って分散させることができる。これにより、グラファイトシートの破損を抑制することができる。
【0015】
また好ましくは、保持具は、複数枚のグラファイトシートをその積層方向における両側から付勢する弾性体からなる。
【0016】
このようにすれば、簡単な構成で複数枚のグラファイトシートを一体に保持することが可能となる。
【0017】
また好ましくは、定着ベルトおよび加圧回転部材の間には、定着ニップ部が形成される。保持具は、定着ニップ部よりも記録媒体の通過方向における上流側に設けられる。
【0018】
このようにすれば、複数枚のグラファイトシートのうち最も定着ベルト側に配置されたシートが、定着ベルトに随伴しにくくなる。これにより、当該シートにシワが生じることを抑制できる。
【0019】
また好ましくは、定着ベルトおよび加圧回転部材の間には、定着ニップ部が形成される。複数枚のグラファイトシートは、保持具から、保持具に対して定着ニップ部の反対側に張り出す張り出し部を有する。
【0020】
このようにすれば、張り出し部の分、各グラファイトシートの伝熱面積が大きくなるため、グラファイトシートの均熱性が向上する。
【0021】
また好ましくは、パッド部材には、凹部が設けられる。固定部は、凹部に係合される凸部を有する。
【0022】
このようにすれば、凸部および凹部の係合により、各グラファイトシートが保持具を介して有効にパッド部材に固定される。
【0023】
また好ましくは、定着ベルトおよび加圧回転部材の間には、定着ニップ部が形成される。保持具および固定部は、パッド部材のうち定着ベルトと加圧回転部材との間を通過する記録媒体の軌跡から離間した部位に設けられる。
【0024】
このようにすれば、定着ニップ部を通過する記録媒体が保持具および固定部に干渉することが回避される。
【0025】
さらに好ましくは、保持具および固定部は、パッド部材を挟んで定着ニップ部の裏側に設けられる。
【0026】
このようにすれば、上記効果がより確実に得られる。
この発明に従った定着装置の製造方法は、保持具により、複数枚のグラファイトシートを一体化する工程と、複数枚のグラファイトシートを一体化する工程の後、固定部により、複数枚のグラファイトシートをパッド部材に対して固定する工程とを備える。
【0027】
本定着装置の製造方法では、グラファイトシートによる高い伝熱性を確保することができる定着装置が簡単に製造される。
【0028】
この発明に従った画像形成装置は、上述のいずれかに記載の定着装置を備える。
このように構成された画像形成装置によれば、グラファイトシートによる高い伝熱性を確保することにより、トナー像の定着性にばらつきが生じることを抑制できる。これにより、画質の均一性を向上させることができる。
【発明の効果】
【0029】
以上に説明したように、この発明によれば、グラファイトシートによる高い伝熱性を確保することが可能な定着装置と、この定着装置の製造方法と、このような定着装置を備える画像形成装置とを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【
図1】本発明の第1実施形態の画像形成装置の全体構成を概略的に示す図である。
【
図2】
図1に示される画像形成装置の定着装置を示す図である。
【
図3】パッド部材、保持具および固定部を概略的に示す斜視図である。
【
図4】各グラファイトシート、保持具および固定具を概略的に示す正面図である。
【
図6】
図2中の定着装置における熱の伝わり方を説明するための図である。
【
図7】グラファイトシート間の全域に接着層が介在する場合(比較例)における厚さ方向についての伝熱量を概略的に説明する図である。
【
図8】グラファイトシート間の全域に接着層が介在する場合(比較例)における軸方向についての伝熱量を概略的に説明する図である。
【
図9】
図7に示される比較例の使用前における画像である。
【
図10】
図7に示される比較例の使用後における画像である。
【
図12】固定部の変形例とパッド部材との関係を示す図である。
【
図13】固定部と固定部材とパッド部材との関係を示す図である。
【
図14】本発明の第2実施形態の定着装置のグラファイトシートおよび保持具を概略的に示す平面図である。
【
図15】
図14に示されるグラファイトシートおよび保持具が固定部によりパッド部材に固定された状態を示す正面図である。
【
図16】本発明の第3実施形態の定着装置の保持具を概略的に示す正面図である。
【
図18】
図16に示される保持具の変形例を示す正面図である。
【
図20】本発明の第4実施形態の定着装置の保持具を概略的に示す正面図である。
【
図22】本発明の第5実施形態の定着装置の保持具を概略的に示す正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
この発明の実施形態について、図面を参照して説明する。なお、以下で参照する図面では、同一またはそれに相当する部材には、同じ番号が付されている。
【0032】
(第1実施形態)
図1は、本発明の第1実施形態の画像形成装置の全体構成を概略的に示す図である。この画像形成装置1は、電子写真プロセス技術を利用した中間転写方式のカラー画像形成装置である。画像形成装置1は、感光体ドラム413上に形成されたY(イエロー)、M(マゼンタ)、C(シアン)およびK(ブラック)の各色トナー像を中間転写ベルト21に一次転写する。画像形成装置1は、中間転写ベルト21上で4色のトナー像を重ね合わせた後、搬送される記録媒体に二次転写することにより画像形成する。記録媒体は、たとえば、普通紙である。
【0033】
画像形成装置1には、タンデム方式が採用されている。タンデム方式では、YMCKの4色に対応する各感光体ドラム413が、中間転写ベルト21の走行方向(
図1中の矢印Aに示す方向)に沿って配置されている。タンデム方式では、一回の手順で、YMCKの4色のトナー像が順次、中間転写ベルト21上に転写される。
【0034】
画像形成装置1は、画像読取部10と、画像処理部30と、画像形成部40と、搬送部50と、定着装置60とを有する。
【0035】
画像読取部10は、ADF(Auto Document Feeder)と称される自動原稿給紙装置11および原稿画像走査装置12(スキャナー)を有する。自動原稿給紙装置11は、原稿トレイに載置された原稿Jを搬送機構により搬送して原稿画像走査装置12へ送り出す。自動原稿給紙装置11により、原稿トレイに載置された多数の原稿Jの画像(両面を含む)を連続して一挙に読み取ることが可能となる。
【0036】
原稿画像走査装置12は、自動原稿給紙装置11からコンタクトガラス上に搬送された原稿またはコンタクトガラス上に載置された原稿を光学的に走査する。原稿画像走査装置12は、原稿からの反射光をCCD(Charge Coupled Device)センサ12aの受光面上に結像させ、原稿画像を読み取る。画像読取部10は、原稿画像走査装置12による読取結果に基づいて入力画像データーを生成する。この入力画像データーには、画像処理部30において所定の画像処理が施される。
【0037】
画像処理部30は、画像読取部10により生成された入力画像データーに対して、初期設定またはユーザー設定に応じたデジタル画像処理を行う回路等を有する。たとえば、画像処理部30は、階調補正データー(階調補正テーブル)に基づいて階調補正を行う。
【0038】
画像処理部30は、入力画像データーに対して、階調補正の他、色補正、シェーディング補正等の各種補正処理、および、圧縮処理等を施す。これらの処理が施された画像データーに基づいて、画像形成部40が制御される。
【0039】
画像形成部40は、画像形成ユニット41Y,41M,41C,41Kと、中間転写ユニット42とを有する。画像形成ユニット41Y,41M,41C,41Kと、中間転写ユニット42とは、画像処理部30により処理が施された画像データーに基づいて、Y成分、M成分、C成分およびK成分の各色のトナーによる画像を形成する。
【0040】
画像形成ユニット41Y,41M,41C,41Kは、同様の構成を有する。図示および説明の便宜上、共通する構成要素は同一の符号で示し、それぞれを区別する場合には符号にY,M,C,Kを添えて示すこととする。
図1では、Y成分用の画像形成ユニット41Yの構成要素についてのみ符号が付され、その他の画像形成ユニット41M,41C,41Kの構成要素については符号が省略されている。
【0041】
画像形成ユニット41は、露光装置411と、現像装置412と、感光体ドラム413と、帯電装置414と、ドラムクリーニング装置415とを有する。感光体ドラム413は、アルミニウム製の導電性円筒体(アルミ素管)を有する負帯電型の有機感光体(OPC:Organic Photo-conductor)である。感光体ドラム413のドラム径は、たとえば、80[mm]である。感光体ドラム413の外周面には、アンダーコート層(UCL:Under Coat Layer)、電荷発生層(CGL:Charge Generation Layer)および電荷輸送層(CTL:Charge Transport Layer)が順次積層されている。感光体ドラム413は、駆動モーター(不図示)から動力が伝達されることにより回転する。
【0042】
電荷発生層は、電荷発生材料(たとえば、フタロシアニン顔料)を樹脂バインダー(たとえば、ポリカーボネイト)に分散させた有機半導体である。電荷発生層は、露光装置411により露光され、一対の正電荷と負電荷を生じる。
【0043】
電荷輸送層は、正孔輸送性材料(電子供与性含窒素化合物)を樹脂バインダー(たとえば、ポリカーボネイト)に分散させたものからなる。電荷輸送層は、電荷発生層で発生した正電荷を電荷輸送層の表面まで輸送する。
【0044】
帯電装置414は、光導電性を有する感光体ドラム413の表面を一様に負極性に帯電させる。露光装置411は、たとえば、半導体レーザーで構成される。露光装置411は、感光体ドラム413に対して各色成分の画像に対応するレーザー光を照射する。
【0045】
感光体ドラム413の電荷発生層で正電荷が発生し、電荷輸送層の表面まで輸送されることにより、感光体ドラム413の表面電荷(負電荷)が中和される。感光体ドラム413の表面には、周囲との電位差により各色成分の静電潜像が形成される。
【0046】
現像装置412は、二成分現像方式の現像装置である。現像装置412は、感光体ドラム413の表面に各色成分のトナーを付着させることにより静電潜像を可視化してトナー像を形成する。
【0047】
ドラムクリーニング装置415は、感光体ドラム413の表面に摺接されるドラムクリーニングブレードを有する。ドラムクリーニング装置415は、一次転写後に感光体ドラム413の表面に残存するトナーを除去する。
【0048】
中間転写ユニット42は、中間転写ベルト21と、一次転写ローラー422と、複数の支持ローラー423と、二次転写部23と、ベルトクリーニング装置426とを有する。中間転写ベルト21は、無端状である。中間転写ベルト21は、複数の支持ローラー423にループ状に張架される。複数の支持ローラー423のうちの少なくとも1つは、駆動ローラーで構成され、その他は従動ローラーで構成される。
【0049】
たとえば、K成分用の一次転写ローラー422Kよりも中間転写ベルト21の走行方向の下流側に配置されるローラー423Aが駆動ローラーであることが好ましい。これにより、中間転写ベルト21の走行速度を一定に保持しやすくなる。ローラー423Aが回転することにより、中間転写ベルト21は矢印A方向に一定速度で走行する。
【0050】
中間転写ベルト21は、導電性および弾性を有する。中間転写ベルト21は、表面に体積抵抗率がたとえば8~11[logΩ・cm]である高抵抗層を有する。中間転写ベルト21については、導電性および弾性を有するものであれば、材質、厚さおよび硬度を限定しない。
【0051】
一次転写ローラー422は、中間転写ベルト21の内周面側に配置される。一次転写ローラー422は、感光体ドラム413に対向して配置される。一次転写ローラー422は、中間転写ベルト21を挟んで、感光体ドラム413に圧接される。これにより、一次転写ニップ部N1が形成される。
【0052】
中間転写ベルト21が一次転写ニップ部N1を通過する際、感光体ドラム413上のトナー像が中間転写ベルト21に順次重ねて一次転写される。具体的には、一次転写ローラー422に一次転写バイアスを印加し、中間転写ベルト21の裏面側(一次転写ローラー422と当接する側)にトナーと逆極性の電荷を付与する。これにより、トナー像は中間転写ベルト21に静電的に転写される。
【0053】
中間転写ベルト21上に静電転写されたトナー像は、その後二次転写部23に搬送される。記録媒体が二次転写部23を通過する際、中間転写ベルト21上のトナー像が記録媒体に二次転写される。具体的には、二次転写ローラー33に二次転写バイアスを印加し、記録媒体の二次転写ローラー33と当接する側にトナーと逆極性の電荷を付与する。これにより、トナー像は記録媒体に静電的に転写される。
【0054】
ベルトクリーニング装置426は、中間転写ベルト21の外周面に接触する。ベルトクリーニング装置426は、二次転写後に中間転写ベルト21の表面に残留するトナーを除去する。
【0055】
トナー像が転写された記録媒体は二次転写部23を通過した後、定着装置60に搬送される。定着装置60は、トナー像が二次転写された記録媒体を加熱および加圧することにより、記録媒体にトナー像を定着させる。定着装置60の詳細については後述する。
【0056】
搬送部50は、記録媒体を搬送する。搬送部50は、給紙部51と、排紙部52と、搬送経路部53とを有する。給紙部51は、給紙トレイユニット51a,51b,51cを有する。給紙トレイユニット51a,51b,51cには、坪量やサイズ等に基づいて識別された用紙S(規格用紙、特殊用紙)が予め設定された種類毎に収容される。
【0057】
給紙トレイユニット51a,51b,51cに収容されている用紙Sは、最上部から一枚ずつ送出され、搬送経路部53に搬送される。搬送経路部53は、レジストローラー対53aを含む複数の搬送ローラー対を有する。レジストローラー対53aが配設されたレジストローラー部は、記録媒体の傾きおよび片寄りを補正する。記録媒体は、搬送経路部53を通じて二次転写部23に搬送される。二次転写部23において、中間転写ベルト21上のトナー像が用紙Sの一方の面に一括して二次転写され、その後の定着装置60において定着工程が施される。
【0058】
定着装置60を通過した記録媒体は、排紙部52に搬送される。排紙部52は、搬送ローラー対(排紙ローラー対)52aを有する。画像形成された記録媒体は、搬送ローラー対52aを通じて外部に排出される。
【0059】
続いて、定着装置60の構造について詳細に説明する。
図2は、
図1に示される画像形成装置の定着装置を示す図である。
【0060】
図1および
図2に示されるように、定着装置60は、無端状の定着ベルト61と、熱源62と、パッド部材63と、加圧回転部材64と、積層される複数枚のグラファイトシート65と、保持具66と、固定部67と、摺動シート69と、支持部材72と、を有する。定着装置60は、熱源62から発せられた熱が定着ベルト61に直接伝達されるダイレクト加熱(加熱ローラーレス)方式である。なお、
図2では、複数枚のグラファイトシート65が単一の層で示されている。
【0061】
熱源62は、たとえば、ハロゲンヒーターからなる。熱源62は、定着ベルト61の内周側に配置されている。熱源62は、発光することで定着ベルト61を内側から加熱する。定着ベルト61は、両端部の保持部材により保持されている。定着ベルト61の外周側には、温度センサ(不図示)が設けられており、熱源62は、所定の温度目標(たとえば、150℃~180℃の範囲内の定着温度)が達成されるように制御される。
【0062】
熱源62は、ロングヒータ62Aと、ショートヒータ62Bとを有する。加圧回転部材64の軸方向におけるロングヒータ62Aの長さ(熱源長さ)は、加圧回転部材64の軸方向におけるショートヒータ62Bの長さ(熱源長さ)よりも大きい。熱源62は、サイズが大きい用紙の定着工程では、ロングヒータ62Aが発熱し、サイズが小さい用紙(たとえば、A6およびA5サイズの用紙)の定着工程では、ショートヒータ62Bが発熱するように制御される。
【0063】
パッド部材63は、定着ベルト61の内周側に配置されている。パッド部材63は、樹脂材料から形成されている。パッド部材63は、たとえば、PPS(ポリフェニレンサルファイド)から形成されている。パッド部材63の構造の詳細については後述する。
【0064】
加圧回転部材64は、たとえば、加圧ローラーからなる。加圧回転部材64は、外周面にシリコンゴムから形成された弾性層を有する。加圧回転部材64は、定着ベルト61の外周側に配置されている。加圧回転部材64は、定着ベルト61を介して、パッド部材63と対向して配置されている。加圧回転部材64は、図示しない駆動源により駆動回転する。具体的に、加圧回転部材64は、定着ベルト61がパッド部材63に押し付けられた状態で定着ベルト61がパッド部材63に対して相対移動するように定着ベルト61をパッド部材63に向けて押し付けながら回転する。これにより、
図2に示されるように、定着ベルト61および加圧回転部材64の間には、定着ニップ部Nが形成される。定着ベルト61および加圧回転部材64は、定着ニップ部Nにおいて互いに圧接されている。加圧回転部材64は、定着ベルト61を従動回転させることによって記録媒体110を搬送する。
【0065】
支持部材72は、定着ベルト61の内周側に配置されている。支持部材72は、加圧回転部材64の軸方向に延びる形状を有している。支持部材72は、パッド部材63を支持している。
図1に示されるように、支持部材72に、反射部材74が設けられてもよい。反射部材74は、支持部材72のうち熱源62に対向する部位に設けられる。反射部材74は、熱源62からの輻射熱を定着ベルト61に向けて反射するように構成される。
【0066】
ここで、パッド部材63について詳細に説明する。
図3は、パッド部材、保持具および固定部を概略的に示す斜視図である。
図2および
図3に示されるように、パッド部材63は、湾曲する第1表面63Aと、平坦な第2表面63Bと、平坦な第3表面63Cと、平坦な第4表面63Dと、平坦な第5表面63Eと、平坦な第6表面63Fとを有している。
【0067】
第1表面63Aは、定着ニップ部Nを形成する表面である。第1表面63Aは、第2表面63B側に凸となるように湾曲する形状を有している。第2表面63Bは、パッド部材63のうち第1表面63Aとは反対側の表面で構成されている。第3表面63Cは、記録媒体110の通過方向の上流側において第1表面63Aと第2表面63Bとを接続している。第3表面63Cと第1表面63Aとの境界部は、湾曲している。第4表面63Dは、記録媒体110の通過方向の下流側において第1表面63Aと第2表面63Bとを接続している。第4表面63Dと第1表面63Aとの境界部は、鋭角に形成されている。第4表面63Dの面積は、第3表面63Cの面積よりも大きい。第5表面63Eは、加圧回転部材64の軸方向について第1表面63A~第4表面63Dのそれぞれの一方側の端部に接続されている。第6表面63Fは、加圧回転部材64の軸方向について第1表面63A~第4表面63Dのそれぞれの他方側の端部に接続されている。
【0068】
第2表面63Bには、第1表面63A側に向かって窪む形状を有する凹部63bが設けられている。凹部63bは、加圧回転部材64の軸方向に沿って延びる形状を有する。具体的には、凹部63bは、加圧回転部材64の軸方向についてパッド部材63の一端(第5表面63E)から他端(第6表面63F)に至るように延びる形状を有する。
【0069】
図3に示されるように、凹部63bは、一対の対向壁部63b1と、上壁部63b2とを有する。一対の対向壁部63b1は、記録媒体110の通過方向に互いに対向している。各対向壁部63b1は、第2表面63Bから第1表面63Aに向かって立ち上がる形状を有する。各対向壁部63b1は、平坦に形成されている。上壁部63b2は、各対向壁部63b1のうち第1表面63A側(
図3の上側)の端部同士を接続している。上壁部63b2は、平坦に形成されている。記録媒体110の通過方向における上壁部63b2の寸法は、第2表面63Bと直交する方向における各対向壁部63b1の寸法よりも大きい。ただし、凹部63bの形状は、これに限られない。
【0070】
各グラファイトシート65は、アルミニウムまたは銅などと比較して高い熱伝導率を有するグラファイトからなるシートである。各グラファイトシート65は、その厚み(シート厚み)が小さいほど面方向の熱伝導率が高くなる特性を有する。各グラファイトシート65は、パッド部材63および定着ベルト61の間に配置される。各グラファイトシート65は、定着ベルト61において熱源62と対向する部位のうちの非通紙領域(相対的に高温の部位)からの熱の伝達を促進させる部材である。換言すれば、各グラファイトシート65は、定着ベルト61の均熱性を高めるための部材である。
図2に示されるように、各グラファイトシート65は、パッド部材63の第1表面63Aを覆う形状を有している。各グラファイトシート65は、パッド部材63に固定される。
【0071】
図4は、各グラファイトシート、保持具および固定具を概略的に示す正面図である。
図4に示されるように、保持具66は、複数枚のグラファイトシート65の積層方向において互いに隣り合うグラファイトシート65同士が接触するように、複数枚のグラファイトシート65を一体に保持する。保持具66は、耐熱性を有する樹脂、金属、セラミック等の材料からなる。
【0072】
図5は、
図4の平面図である。
図5に示されるように、保持具66は、複数枚のグラファイトシート65を、加圧回転部材64の軸方向(
図5の上下方向)の全幅に渡って保持するように構成される。具体的に、保持具66は、複数枚のグラファイトシート65のうち記録媒体110の通過方向における上流側(
図5の右側)の端部を加圧回転部材64の軸方向の全幅に渡って保持している。本実施形態では、
図3に示されるように、保持具66は、一方向(
図3の上方向)に開口する保持具本体661と、その開口を塞ぐように保持具本体661に接続される蓋部662とを有する。
【0073】
図3および
図5に示されるように、加圧回転部材64の軸方向と平行な方向(
図5における上下方向)における保持具本体661の幅は、同方向における各グラファイトシート65の幅よりも大きく設定されている。蓋部662は、ねじ等の締結部材80によって保持具本体661に接続される。締結部材80によって蓋部662が保持具本体661に接続されることにより、保持具本体661および蓋部662は、複数枚のグラファイトシート65をその積層方向の両側から挟み込む。これにより、保持具66に対する各グラファイトシート65の変位が規制される。
【0074】
固定部67は、保持具66と一体に設けられている。固定部67は、保持具66を介して複数枚のグラファイトシート65をパッド部材63に対して固定する。固定部67は、パッド部材63のうち、保持具66を定着ニップ部Nよりも記録媒体110の通過方向における上流側に位置させる部位に固定される。また、固定部67は、パッド部材63のうち、保持具66および固定部67を記録媒体110の軌跡から離間させる部位に固定される。本実施形態では、固定部67は、パッド部材63の凹部63bに固定される。固定部67は、凹部63bに対応し、かつ、係合する(圧入される)形状を有する凸部により構成されている。具体的に、
図3に示されるように、固定部67は、保持具本体661の幅方向と平行な方向に沿って連続的に延びる形状を有する。この凸部からなる固定部67が凹部63bに係合することにより、
図2に示されるように、保持具66および固定部67は、定着ニップ部Nよりも記録媒体110の通過方向における上流側でかつ定着ニップ部Nを通過する記録媒体110の軌跡から離間した位置に設けられる。固定部67は、保持具66によって複数枚のグラファイトシート65が保持された後、凹部63bに固定される。なお、複数枚のグラファイトシート65のうち保持具66により保持される側とは反対側(
図4の左側)の端部は、パッド部材63の第4表面63Dなどに接着されてもよい。
【0075】
摺動シート69は、各グラファイトシート65および定着ベルト61の間に設けられる。摺動シート69は、各グラファイトシート65および定着ベルト61間の摩擦力を低減させるために設けられる。摺動シート69は、パッド部材63に固定されている。
【0076】
ここで、定着装置60の具体的な一例を説明する。定着ベルト61は、耐熱性、強度および表面平滑性を考慮して、厚み60μmのPI基材(ベース材)と、厚み200μmのゴム層(弾性層)と、厚み30μmのPFAチューブ(離形層)との3層から構成されている(直径25mm)。
【0077】
加圧回転部材64は、直径25mmの加圧ローラからなる。加圧回転部材64は、その外周面に配置されるゴム層(厚み3mm)と、厚み30μmのPFAチューブ(離形層)とを有する。
【0078】
熱源62は、管径5.5mmのハロゲンヒータからなる。熱源62は、全幅発光のロングヒータと、中央部発光のショートヒータとを有する。
【0079】
パッド部材63は、液晶ポリマーからなる。支持部材72は、SECCの板材(厚み2mm)からなる。反射部材74は、反射率の高いシートからなる。
【0080】
図6は、
図2中の定着装置における熱の伝わり方を説明するための図である。
図6中には、無端状の定着ベルト61と、定着ベルト61を両端として、その内側に配置される熱源62、支持部材72、パッド部材63および複数枚のグラファイトシート65とが模式的に表わされている。DR1は、加圧回転部材64の回転軸方向を示しており、以下、「軸方向DR1」という。
【0081】
図6を参照して、熱源62は、軸方向DR1において長さH(以下、「熱源長さH」という)を有する。熱源62は、熱源長さHに渡って、定着ベルト61をその内周側から加熱する(
図6中の矢印Z)。
【0082】
定着ニップ部Nを通過する用紙等の記録媒体の幅をD(以下、「用紙幅D」という)とする。
図6中に示す点線は、定着ニップ部Nを用紙が通過する領域である(以下、「通紙領域」という)。通紙領域では、定着ベルト61の熱が用紙に伝達されるため、連続して通紙されたとしても、通紙領域における定着ベルト61(
図6中の領域F)の温度は、大きくは上昇しない。
【0083】
しかしながら、定着工程時に最大用紙幅の全体を加熱できるように、熱源長さHを用紙幅Dよりも大きくする必要がある。この場合、定着ベルト61の、熱源長さHに渡って加熱される領域(以下、「加熱領域」という)であって、かつ、非通紙領域でもある領域(以下、「端部領域R」という)が存在することになる。連続通紙により端部領域Rの温度が大きく上昇しても、その熱が用紙に伝達されることがないため、端部領域Rの温度は大きく上昇していく。このような端部領域Rにおける温度上昇は、A5またはA6のような用紙幅が小さい用紙に印刷する場合が生じ易い。
【0084】
本実施形態の定着装置60においては、端部領域Rにおける温度上昇を抑制するため、高熱伝導性のグラファイトシート65が、パッド部材63と定着ベルト61との間に配置されている。
【0085】
端部領域Rにおける定着ベルト61の熱は、グラファイトシート65に伝わる(
図6中の矢印C)。グラファイトシート65に伝わった熱は、軸方向DR1においてグラファイトシート65のうち領域Fの外側に向かって拡散する(
図6中の矢印E)。拡散した熱は、定着ベルト61の低温部I(非通紙領域であって、非加熱領域である領域)に伝わる(
図6中の矢印G)。
【0086】
このようにグラファイトシート65による伝熱の機能が発揮されることによって、端部領域Rの熱が定着ベルト61の低温部Iに分散され、その結果、定着ベルト61において均熱の効果が奏される。
【0087】
なお、
図3および
図4に示される積層タイプのグラファイトシート65が用いられた場合、各グラファイトシート65は、その厚みが小さいほど面方向の熱伝導率が高くなる特性を有するため、複数枚のグラファイトシート65の厚み(熱容量)を小さく抑えつつ、グラファイトシート65において高い熱伝導性を得ることができる。これにより、グラファイトシート65による定着ベルト61の均熱効果を高めることができる。
【0088】
図7は、グラファイトシート間の全域に接着層が介在する場合(比較例)における厚さ方向についての伝熱量を概略的に説明する図である。
図8は、グラファイトシート間の全域に接着層が介在する場合(比較例)における軸方向についての伝熱量を概略的に説明する図である。
図7に示されるように、比較例では、接着層165が熱抵抗となるため(グラファイトシート65の熱伝達率よりも接着層165の熱伝達率の方が小さいため)、熱源62からパッド部材63に近づくにしたがって次第にグラファイトシート65を介したパッド部材63への伝熱量(グラファイトシート65の厚さ方向の伝熱量)が低下する。このため、
図8に示されるように、パッド部材63に近づくにしたがって次第に加圧回転部材64の軸方向(
図8の左右方向)への伝熱量も小さくなる。よって、グラファイトシート65の均熱効果が十分に発揮されない。
【0089】
図9は、
図7に示される比較例の使用前における画像である。
図10は、
図7に示される比較例の使用後における画像である。
図9および
図10に示されるように、使用前に比べ、使用後は、グラファイトシート間に隙間が生じていること(伝熱性が低下していること)が分かる。これは、接着剤の揮発や熱収縮に起因している。
【0090】
これに対し、本実施形態では、複数枚のグラファイトシート65のうち記録媒体110の通過方向における上流側の端部は、保持具66に保持される(挟持される)ことによって互いに接触しており、しかも、複数枚のグラファイトシート65のうち積層方向について定着ニップ部Nと重なる部位は、加圧回転部材64からの押圧を受けることによってパッド部材63の第1表面63Aに沿いつつ互いに接触している。よって、グラファイトシート65の良好な伝熱性が確保される。
【0091】
さらに、従来のように複数枚のグラファイトシートが接着剤で一体とされている場合とは異なり、接着剤からのガスの発生等に起因するグラファイトシート65の剥がれの発生が回避される。加えて、接着剤から揮発成分が発生しないため、環境性にも優れている。
【0092】
また、保持具66は、複数枚のグラファイトシート65を、加圧回転部材64の軸方向の全幅に渡って保持するように構成されているため、各グラファイトシート65のうち保持具66に保持されている部位の近傍の生じる応力が加圧回転部材64の軸方向の全幅に渡って分散される。よって、グラファイトシート65の破損が抑制される。
【0093】
また、保持具66は、定着ニップ部Nよりも記録媒体110の通過方向における上流側に設けられるため、複数枚のグラファイトシート65のうち最も定着ベルト61側に配置されたシートが定着ベルト61に随伴されることによって当該シートにシワが生じることが抑制される。
【0094】
また、固定部67は、パッド部材63の凹部63bに係合される凸部を有するため、この凸部および凹部63bの係合により、各グラファイトシート65が保持具66を介して有効にパッド部材63に固定される。
【0095】
また、保持具66および固定部67は、パッド部材63のうち定着ベルト61と加圧回転部材64との間を通過する記録媒体110の軌跡から離間した部位に設けられるため、定着ニップ部Nを通過する記録媒体110が保持具66および固定部67に干渉することが回避される。具体的に、固定部67は、パッド部材63のうち比較的大きな面積を有する第2表面63Bに固定されるため、固定部67がパッド部材63に強固に固定される。
【0096】
また、定着装置60の製造方法は、保持具66により、複数枚のグラファイトシート65を一体化する工程と、複数枚のグラファイトシート65を一体化する工程の後、固定部67により、複数枚のグラファイトシート65をパッド部材63に対して固定する工程とを備えている。この製造方法では、グラファイトシート65による高い伝熱性を確保することができる定着装置60が簡単に製造される。
【0097】
なお、保持具66および固定部67が、定着ニップ部Nよりも記録媒体110の通過方向における上流側で、かつ、定着ニップ部Nを通過する記録媒体110の軌跡から離間した位置に設けられるのであれば、固定部67は、パッド部材63の第2表面63Bに設けられた凹部63bではなく、パッド部材63の第3表面63Cに固定されてもよい。この態様では、上記実施形態よりも定着ニップ部Nに近い位置に各グラファイトシート65のうち保持具66により挟持された部位(熱伝達率が高い部位)が位置するため、定着ベルト61の均熱性がより高まる。
【0098】
また、固定部67が省略され、保持具66が接着部材(耐熱性を有する両面テープなど)によってパッド部材63に接着されてもよい。ただし、上記実施形態のように、固定部67により保持具66がパッド部材63に固定される場合、接着部材が用いられる場合に比べて熱劣化が抑制されるため、耐久性が向上する。さらに、グラファイトシート65のパッド部材63への接続時におけるグラファイトシート65へのシワの発生が抑制される。
【0099】
なお、固定部67は、加圧回転部材64の軸方向に沿って連続的に延びる形状に限られない。
図11は、固定部の変形例を示す斜視図である。この
図11に示されるように、固定部67は、加圧回転部材64の軸方向に沿って隙間を置いて配置された複数の突起により構成されてもよい。この態様では、上記実施形態に比べ、固定部67の製造に使用される材料が削減される。
【0100】
図12は、固定部の変形例とパッド部材との関係を示す図である。
図12に示されるように、固定部67は、保持具66から離間するにしたがって固定部67の幅方向と直交する方向(
図12の左右方向)の寸法が次第に小さくなる形状に形成されてもよい。この態様では、固定部67のパッド部材63への挿入性が高まり、組み立て性が向上する。
【0101】
図13は、固定部と固定部材とパッド部材との関係を示す図である。
図13に示されるように、定着装置60は、保持具66を介して各グラファイトシート65をパッド部材63に固定する固定部材70をさらに備えていてもよい。固定部材70は、各グラファイトシート65を貫通した状態でパッド部材63の第2表面63Bに固定される。このような固定部材70として、ねじが好ましく用いられる。この態様では、上記実施形態に比べて保持具66がパッド部材63に対してより強固に固定されるため、耐久性が向上する。
【0102】
(第2実施形態)
次に、
図14および
図15を参照しながら、本発明の第2実施形態の定着装置60におけるグラファイトシート65について説明する。なお、第2実施形態では、第1実施形態と異なる部分についてのみ説明を行い、第1実施形態と同じ構造、作用及び効果の説明は繰り返さない。
【0103】
図14は、本発明の第2実施形態の定着装置のグラファイトシートおよび保持具を概略的に示す平面図である。
図15は、
図14に示されるグラファイトシートおよび保持具が固定部によりパッド部材に固定された状態を示す正面図である。これら
図14および
図15に示されるように、各グラファイトシート65は、保持具66から、保持具66に対して定着ニップ部Nの反対側に張り出す張り出し部65aを有している。すなわち、張り出し部65aは、保持具66から、各グラファイトシート65のうちパッド部材63の第1表面63A上に重ねられる部位65bが位置する側とは反対側(
図14の右側)に向かって張り出す形状を有する。
【0104】
この態様では、上記実施形態に比べて張り出し部65aの分各グラファイトシート65の伝熱面積が大きくなるため、グラファイトシート65の均熱性が向上する。
【0105】
(第3実施形態)
次に、
図16および
図17を参照しながら、本発明の第3実施形態の定着装置60における保持具66について説明する。なお、第3実施形態では、第1実施形態と異なる部分についてのみ説明を行い、第1実施形態と同じ構造、作用及び効果の説明は繰り返さない。
【0106】
図16は、本発明の第3実施形態の定着装置の保持具を概略的に示す正面図である。
図17は、
図16の平面図である。これら
図16および
図17に示されるように、本実施形態の保持具66は、複数枚のグラファイトシート65をその積層方向における両側から付勢しながら挟持する弾性体からなる。具体的に、保持具66は、固定部67を支持する第1壁663と、積層方向に第1壁663と対向する第2壁664と、第1壁663および第2壁664を連結する第3壁665とを有する。第3壁665は、第2壁664の自由端側の端部が第1壁663の自由端側の端部に向けて付勢される状態で第1壁663および第2壁664を連結している。なお、
図17において斜線で示される部位は、各グラファイトシート65のうち第1壁663および第2壁664によって挟持される部位を表している。
【0107】
この態様では、簡単な構成により、複数枚のグラファイトシート65同士が接触するようにこれらグラファイトシート65を一体に保持することが可能となる。
【0108】
図18は、
図16に示される保持具の変形例を示す正面図である。
図19は、
図18の平面図である。第3実施形態において、
図18および
図19に示されるように、第1壁663および第2壁664は、各グラファイトシート65を屈曲させた状態でこれらグラファイトシート65を積層方向の両側から挟持する挟持部663a,664aを有していてもよい。各挟持部663a,664aは、積層方向の一方側(
図18の下側)に向かって凸となるように屈曲する形状を有している。
【0109】
(第4実施形態)
次に、
図20および
図21を参照しながら、本発明の第4実施形態の定着装置60における保持具66について説明する。なお、第4実施形態では、第1実施形態と異なる部分についてのみ説明を行い、第1実施形態と同じ構造、作用及び効果の説明は繰り返さない。
【0110】
図20は、本発明の第4実施形態の定着装置の保持具を概略的に示す正面図である。
図21は、
図20の平面図である。これら
図20および
図21に示されるように、本実施形態の保持具66は、各グラファイトシート65をその積層方向の両側から挟持する挟持体により構成されている。具体的に、保持具66は、固定部67を支持する第1壁671と、積層方向に第1壁671と対向する第2壁672と、第1壁671および第2壁672を連結する第3壁673と、第1壁671および第2壁672間において第1壁671とともに各グラファイトシート65を挟持する挟持板674と、挟持板674を第1壁671に向けて押し付ける少なくとも1つのクランプ675とを有する。少なくとも1つのクランプ675として、ねじが好ましく用いられる。
図21に示されるように、少なくとも1つのクランプ675は、第2壁672の幅方向(
図21の上下方向)に沿って並ぶように設けられた複数の(この例では5つの)クランプ675を有している。
【0111】
この態様においても、複数枚のグラファイトシート65同士が接触するようにこれらグラファイトシート65が一体に保持される。
【0112】
(第5実施形態)
次に、
図22を参照しながら、本発明の第5実施形態の定着装置60における保持具66について説明する。なお、第5実施形態では、第1実施形態と異なる部分についてのみ説明を行い、第1実施形態と同じ構造、作用及び効果の説明は繰り返さない。
【0113】
図22は、本発明の第5実施形態の定着装置の保持具を概略的に示す正面図である。
図22に示されるように、本実施形態の保持具66は、固定部67を支持する第1壁681と、積層方向に第1壁681と対向する第2壁682と、第1壁681および第2壁682を連結する第3壁683と、各グラファイトシート65をその積層方向に貫通した状態で第1壁681および第2壁682に固定される少なくとも1つの貫通部材684とを有している。第1壁681および第2壁682間の寸法は、複数枚のグラファイトシート65の全体の厚さと実質的に同じに設定される。このため、第1壁681および第2壁682間において各グラファイトシート65がその積層方向に変位することが抑制される。なお、少なくとも1つの貫通部材684は、
図21に示される複数のクランプ675と同様、複数の(たとえば5つの)貫通部材684を有していてもよい。
【0114】
この態様においても、複数枚のグラファイトシート65同士が接触するようにこれらグラファイトシート65が一体に保持される。
【0115】
なお、今回開示された実施形態はすべての点で例示であって、制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した実施形態の説明ではなく特許請求の範囲によって示され、さらに特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0116】
この発明は、定着装置および画像形成装置に適用される。
【符号の説明】
【0117】
1 画像形成装置、10 画像読取部、30 画像処理部、40 画像形成部、50 搬送部、60 定着装置、61 定着ベルト、62 熱源、63 パッド部材、63A 第1表面、63B 第2表面、63b 凹部、63b1 対向壁部、63b2 上壁部、64 加圧回転部材、65 グラファイトシート、66 保持具、67 固定部、69 摺動シート、70 固定部材、72 支持部材、N 定着ニップ部。