IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 住友金属鉱山株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-酸化鉱石の製錬方法 図1
  • 特許-酸化鉱石の製錬方法 図2
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-16
(45)【発行日】2022-08-24
(54)【発明の名称】酸化鉱石の製錬方法
(51)【国際特許分類】
   C22B 23/02 20060101AFI20220817BHJP
【FI】
C22B23/02
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2018180517
(22)【出願日】2018-09-26
(65)【公開番号】P2020050905
(43)【公開日】2020-04-02
【審査請求日】2021-04-08
(73)【特許権者】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(72)【発明者】
【氏名】井関 隆士
【審査官】中西 哲也
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-062557(JP,A)
【文献】特開昭53-043027(JP,A)
【文献】特開昭48-066514(JP,A)
【文献】特開昭61-056255(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22B 1/00-61/00
C21B 11/00-15/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ニッケル酸化鉱石の塊状物と直径0.5cm以上20cm以下の炭素質還元剤の塊状物とを同一の粉砕装置に供給し、それらの塊状物を粉砕して混合物を得る粉砕混合工程と、
得られた混合物に還元処理を施してメタルとスラグとを含む還元物を得る還元工程と、
を含むニッケル酸化鉱石の製錬方法。
【請求項2】
前記粉砕装置はジョークラッシャー、ロールミル、ハンマークラッシャー、ロールクラッシャー、及びダブルロールクラッシャーのいずれか1種である
請求項1に記載のニッケル酸化鉱石の製錬方法。
【請求項3】
前記粉砕混合工程において、得られた混合物を混練する
請求項1又は2に記載のニッケル酸化鉱石の製錬方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸化鉱石の製錬方法に関するものであり、例えば、ニッケル酸化鉱石等の酸化鉱石を原料として炭素質還元剤により還元することで還元物を得る製錬方法に関する。
【背景技術】
【0002】
酸化鉱石の一種であるリモナイトあるいはサプロライトと呼ばれるニッケル酸化鉱石の製錬方法として、熔錬炉を使用してニッケルマットを製造する乾式製錬方法、ロータリーキルンあるいは移動炉床炉を使用して鉄とニッケルの合金(以下、鉄とニッケルの合金を「フェロニッケル」ともいう)を製造する乾式製錬方法、オートクレーブを使用して高温高圧で酸浸出し、ニッケルやコバルトが混在した混合硫化物(ミックスサルファイド)を製造する湿式製錬方法等が知られている。
【0003】
上述した様々な方法の中で、特に乾式製錬法を用いてニッケル酸化鉱石を還元して製錬する場合、反応を進めるために原料のニッケル酸化鉱石を適度な大きさに破砕する等して塊状物化する処理が前処理として行われる。
【0004】
具体的に、ニッケル酸化鉱石を塊状物化する、すなわち粉状や微粒状の鉱石を塊状にする際には、そのニッケル酸化鉱石と、それ以外の成分、例えばバインダーやコークス等の還元剤とを混合して混合物とし、さらに水分調整等を行った後に塊状物製造機に装入して、例えば一辺あるいは直径が10mm以上30mm以下程度の成形物(ペレット、ブリケット等を指す。以下、単に「ペレット」ということもある)とするのが一般的である。
【0005】
塊状物化して得られるペレットには、含有する水分を「飛ばす」ために、ある程度の通気性が必要となる。さらに、その後の還元処理においてペレット内で均一に還元が進まないと、得られる還元物の組成が不均一になり、メタルが分散したり偏在したりする等の不都合が生じる。そのため、ペレットを作製する際には混合物を均一に混合したり、得られたペレットを還元する際には可能な限り均一な温度を維持することが重要となる。
【0006】
加えて、還元処理により生成するメタル(フェロニッケル)を粗大化させることも非常に重要な技術である。生成したフェロニッケルが、例えば数10μm以上数100μm以下の細かな大きさであった場合、同時に生成するスラグと分離することが困難となり、フェロニッケルとしての回収率(収率)が大きく低下してしまう。そのため、還元後のフェロニッケルを粗大化する処理が必要となる。
【0007】
例えば、特許文献1には、金属酸化物と炭素質還元剤とを含む塊成物を、移動床型還元溶融炉の炉床上に供給して加熱し、金属酸化物を還元溶融させる粒状金属の製造方法において、塊成物同士の距離を0としたときの塊成物の炉床への最大投影面積率に対する、塊成物の炉床への投影面積率の相対値を敷密度としたとき、平均直径が19.5mm以上32mm以下の塊成物を、敷密度が0.5以上0.8以下になるように炉床上に供給して加熱する方法が開示されている。この方法では、塊成物の敷密度と平均直径とを併せて制御することで、粒状金属鉄の生産性を高められることが記載されている。
【0008】
しかしながら、特許文献1にあるような、特定の直径を有するものを塊成物として用いる方法では、特定の直径を有しないものを取り除く必要があるため、塊成物を作製する際に収率が低いという問題があった。また、特許文献1の方法では、塊成物の敷密度を0.5以上0.8以下に調整する必要があり、塊成物を積層させることもできないため、生産性が低く、しかも製造コストが高いものであった。
【0009】
このように、酸化鉱石を混合及び還元して金属や合金を製造する技術には、生産性を高め、製造コストを低減させ、メタルの品質を高める点で、多くの課題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】特開2011-256414号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、ニッケル酸化鉱石等の酸化鉱石を含む混合物を還元することでメタルを製造する製錬方法において、得られるメタルの品位を高めることができ、高品質のメタルを効率的に製造することができる酸化鉱石の製錬方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者は、酸化鉱石の塊状物と炭素質還元剤の塊状物とを同一の粉砕装置に供給して混合物を得て混合物を粉砕することにより、上記課題を解決することができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0013】
(1)本発明の第1は、酸化鉱石の塊状物と炭素質還元剤の塊状物とを同一の粉砕装置に供給し、それらの塊状物を粉砕して混合物を得る粉砕混合工程と、得られた混合物に還元処理を施してメタルとスラグとを含む還元物を得る還元工程と、を含む酸化鉱石の製錬方法である。
【0014】
(2)本発明の第2は、第1の発明において、前記粉砕装置はジョークラッシャー、ロールミル、ハンマークラッシャー、ロールクラッシャー、及びダブルロールクラッシャーのいずれか1種である酸化鉱石の製錬方法である。
【0015】
(3)本発明の第3は、第1又は第2の発明において、前記粉砕混合工程において、得られた混合物を混練する酸化鉱石の製錬方法である。
【0016】
(4)本発明の第4は、第1から第4のいずれかの発明において、前記酸化鉱石はニッケル酸化鉱石である酸化鉱石の製錬方法である。
【発明の効果】
【0017】
本発明に係る酸化鉱石の製錬方法によれば、高品質なメタルを効率的に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】ニッケル酸化鉱石の製錬方法の流れの一例を示す工程図である。
図2】粉砕処理に供する各塊状物を同一のジョークラッシャーによって一緒に粉砕したときの状態を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の具体的な実施形態について詳細に説明する。なお、本発明は、以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲で種々の変更が可能である。また、本明細書において、「X~Y」(X、Yは任意の数値)との表記は、「X以上Y以下」の意味である。
【0020】
≪1.酸化鉱石の製錬方法の概要≫
本実施の形態に係る酸化鉱石の製錬方法は、原料鉱石である酸化鉱石(酸化物)を炭素質還元剤と混合し、その混合物(ペレット)に対して製錬炉(還元炉)内で還元処理を施すことによって、メタルとスラグとを生成させるものである。
【0021】
例えば、酸化鉱石として、酸化ニッケルや酸化鉄等を含有するニッケル酸化鉱石を原料とし、そのニッケル酸化鉱石と炭素質還元剤とを混合して成形物を形成して、成形物に含まれるニッケルを優先的に還元し、また鉄を部分的に還元することで、鉄とニッケルの合金であるフェロニッケルを製造する方法が挙げられる。
【0022】
そして、本実施の形態に係る酸化鉱石の製錬方法では、酸化鉱石と炭素質還元剤とを含む混合物の調製に際して、酸化鉱石の塊状物と炭素質還元剤の塊状物とを同一の粉砕装置に供給し、それらの塊状物を一緒に粉砕して混合物を得ることを特徴としている。
【0023】
このような方法によれば、還元処理に供する混合物中の原料成分であるの酸化鉱石と炭素質還元剤との粒度及び粒度分布を略同等にすることができる。そして、このような混合物に対して還元処理を施すことにより、その混合物中において還元反応が均一に進みやすくなり、得られるメタルの品位を高めることができる。
【0024】
≪2.ニッケル酸化鉱石を用いてフェロニッケルの製造する製錬方法≫
以下では、原料鉱石であるニッケル酸化鉱石に含まれるニッケル(酸化ニッケル)と鉄(酸化鉄)を還元することで、鉄-ニッケル合金のメタルを生成させ、さらに、そのメタルを分離することによってフェロニッケルを製造する製錬方法を例に挙げて説明する。
【0025】
具体的に、本実施の形態に係るニッケル酸化鉱石の製錬方法は、図1に示すように、原料成分であるニッケル酸化鉱石と炭素質還元剤とを粉砕し混合して混合物を得る粉砕混合工程S1と、得られた混合物に還元処理を施してメタルとスラグとを含む還元物を得る還元工程S2と、還元物からメタルとスラグを分離する分離工程S3と、を含む。
【0026】
<2-1.粉砕混合工程>
粉砕混合工程S1は、原料成分である、ニッケル酸化鉱石と炭素質還元剤とを粉砕し、混合して、混合物を得る工程である。また、任意成分の添加剤として、鉄鉱石、フラックス成分、バインダー等を含有させて混合物を得る。粉砕混合工程S1を経て得られる混合物は、次工程の還元工程S2における処理(還元処理)に供されるものとなる。
【0027】
原料鉱石であるニッケル酸化鉱石としては、特に限定されないが、リモナイト鉱、サプロライト鉱等を用いることができる。なお、ニッケル酸化鉱石は、酸化ニッケル(NiO)と、酸化鉄(Fe)とを少なくとも含有する。
【0028】
炭素質還元剤としては、特に限定されないが、例えば、石炭粉、コークス粉等が挙げられる。
【0029】
炭素質還元剤の含有量(混合物中に含まれる炭素質還元剤の含有量)としては、ニッケル酸化鉱石を構成する酸化ニッケルの全量をニッケルメタル還元するのに必要な化学当量と、酸化鉄(酸化第二鉄)を金属鉄に還元するのに必要な化学当量との両者合計値(便宜的に「化学当量の合計値」ともいう)を100質量%としたときに、50.0質量%以下の割合とすることが好ましく、40.0量%以下の割合とすることがより好ましい。鉄の還元量を抑えて、ニッケル品位を高めることができ、高品質のフェロニッケルを製造することができる。また、炭素質還元剤の混合量としては、化学当量の合計値を100質量%としたときに、10.0質量%以上の割合とすることが好ましく、15.0質量%以上の割合とすることがより好ましい。ニッケルの還元を効率的に進行させることができ生産性が向上する。
【0030】
また、任意成分の添加剤である鉄鉱石としては、例えば、鉄品位が50.0質量%程度以上の鉄鉱石、ニッケル酸化鉱石の湿式製錬により得られるヘマタイト等を用いることができる。また、フラックス成分としては、例えば、酸化カルシウム、水酸化カルシウム、炭酸カルシウム、二酸化珪素等を挙げることができる。また、バインダーとしては、例えば、ベントナイト、多糖類、樹脂、水ガラス、脱水ケーキ等を挙げることができる。
【0031】
なお、下記表1に、粉砕混合工程S1にて混合する、一部の原料粉末の組成(質量%)の一例を示すが、原料粉末の組成としてはこれに限定されない。
【0032】
【表1】
【0033】
さて、従来の酸化鉱石の製錬方法では、例えば、ニッケル酸化鉱石や炭素質還元剤等の各成分をそれぞれ別々に粉砕して、所定粒径の粉末状にし、得られた粉末状の各成分を混合して混合物とすることが一般的であった。しかしながら、混合物を調製するにあたって、ニッケル酸化鉱石の塊状物と炭素質還元剤の塊状物とをそれぞれ同一条件で粉砕した場合であっても、得られる粉末状の各成分の粒度や粒度分布には大きな差が生じることが多かった。混合物を構成するニッケル酸化鉱石の粉末と炭素質還元剤の粉末との間に粒度や粒度分布の差があると、それらを混合させて混合物としたときに、それぞれの粒子の間に空隙が形成されてしまう。そして、そのような混合物に対して還元処理を施すと、混合物中における還元反応が均一に進行せず、ばらつきが生じてしまい、結果として低品質のメタルが製造されてしまうという問題があった。
【0034】
そこで、本実施の形態に係るニッケル酸化鉱石の製錬方法では、ニッケル酸化鉱石の塊状物と炭素質還元剤の塊状物とを同一の粉砕装置に供給し、これらの塊状物を一緒に粉砕することを特徴としている。ここで、「塊状物」とは、ニッケル酸化鉱石や炭素質還元剤の粉砕前の形態のものであって、各成分を混合して混合物を構成する粉末成分となる前の形態のものである。なお、粗粉砕されたものは塊状物の概念に含まれる。
【0035】
このような方法によれば、粉砕装置内において粒度や粒度分布が略同等のニッケル酸化鉱石の粉末と炭素質還元剤の粉末とが得られるようになり、そのような粒度が略均一な成分から構成される混合物を調製することができる。そして、このように調製された混合物に対して還元処理を施すことで、混合物中の還元反応を均一に生じさせることができ、還元処理を経て得られるメタルの品位を高めることができ、高品質なメタルを製造することが可能となる。
【0036】
図2は、各塊状物の混合物を、ジョークラッシャーによって粉砕したときの様子を模式的に示す図である。なお、図2は、ジョークラッシャーの一部分の構成を示す。ジョークラッシャーは、2枚の金属製の刃板により対象を粉砕する粉砕装置である。具体的には、1枚の固定刃板11を固定し、もう1枚の振動刃板12を揺動させて、両刃板11、12間に塊状物を供給して対象の破砕を行う。
【0037】
具体的に、粉砕混合工程S1では、まず、所定大きさのニッケル酸化鉱石の塊状物a及び炭素質還元剤の塊状物bを準備する。塊状物の大きさが大き過ぎると、粉砕装置に供給して適切に粉砕することが困難となる場合があるため、例えば1000cm以上の大きなニッケル酸化鉱石や炭素質還元剤については、粗粉砕して塊状物を得ることが好ましい。例えば、塊状物の直径は0.5cm以上20cm以下程度の大きさであることが好ましく、0.5cm以上15cm以下程度の大きさであることがより好ましい。直径が0.5cm以上20cm以下程度の大きさの塊状物を粉砕装置に供給し、粉砕することにより、粒度や粒度分布がより均一な混合物を得ることができる。
【0038】
次に、図2に示すように、ニッケル酸化鉱石の塊状物aと炭素質還元剤の塊状物bとをジョークラッシャーに供給する。このとき、任意成分の添加剤として、鉄鉱石、フラックス成分等についても併せて供給し、一緒に粉砕するようにしてもよい。
【0039】
そして、そのジョークラッシャーにおいて、ニッケル酸化鉱石の塊状物aと炭素質還元剤の塊状物bとを同時に粉砕して、粒度や粒度分布が略同等になった粉末を得る。
【0040】
ここで、ジョークラッシャー等の粉砕装置にてニッケル酸化鉱石の塊状物と炭素質還元剤の塊状物とを一緒に粉砕すると、その粉砕装置内での粉砕に伴い、得られる粉末状の各成分が混合された状態となっている。したがって、粉砕装置から排出される粉末は、ニッケル酸化鉱石と炭素質還元剤とが均一に混合された混合物である(図2にて示す「混合物C」)。
【0041】
ただし、粉砕装置による粉砕の後に、その粉砕装置から取り出した粉末を、別途混合機等を用いて混合することを排除するものではない。粉砕装置による粉砕後に、得られた粉末を混合機等に装入して混合することによって、より均一に粉末状となったニッケル酸化鉱石と炭素質還元剤とを混合して混合物を調製することができる。このような場合においても、ニッケル酸化鉱石の塊状物と炭素質還元剤の塊状物とを、同一の粉砕装置を用いて同時に粉砕する処理を行っていることから、粒度や粒度分布が略同等のすべての粉末が混合機等により混合されることとなる。
【0042】
粉砕装置としては、図2を用いて例示したジョークラッシャーに限られない。具体的には、ジョークラッシャーのほかに、ロールミル、ハンマークラッシャー、ロールクラッシャー、及びダブルロールクラッシャー等から選ばれる1種を使用することができる。
【0043】
上述のようにして得られた混合物に対して、さらに混練を行ってもよい。原料粉末を含む混合物を混練することによって、混合物に対して圧力(せん断力)を加えることができ、炭素質還元剤や原料粉末等の凝集を解いてその混合物をより均一に混合させた状態とすることができる。また、混練を行うことにより混合物の粒子の間に形成される空隙をさらに減少させることができる。
【0044】
混練は、ブラベンダー等のバッチ式ニーダー、バンバリーミキサー、ヘンシェルミキサー、ヘリカルローター、ロール、一軸混練機、二軸混練機等を用いて行うことができる。
【0045】
また、混練を行った後、押出機を用いて押出してもよい。これにより、混合物に対して圧力(せん断力)が加えられ、炭素質還元剤や原料粉末等の凝集を解いてその混合物をより均一に混合させた状態とすることができる。さらに、混合物内の空隙を減少させることができる。これらのことから、後述する還元工程S2において混合物の還元反応が均一に起りやすくなり、得られるメタルの品位を高めることができ、高品質なメタルを製造することができる。
【0046】
押出機は、高圧、高せん断力で混合物を混練して成形できるものであることが好ましく、一軸押出機、二軸押出機等を挙げることができる。特に、二軸押出機を備えたものであることが好ましい。高圧、高せん断で混合物を混練することにより、原料粉の混合物の凝集を解くことができ、また効果的に混練することができるうえ、混合物の強度を高めることができる。また、二軸押出機を備えたものを用いることにより、連続的に高い生産性を保ちながら混合物を得ることができる。
【0047】
また、混合物を所定形状の成形物(ペレット)に成形してもよい。成形物の形状としては、例えば、球状、直方体状、立方体状、円柱状等とすることができる。このような形状は、簡易な形状であって複雑なものではないため、成形コストを抑制しつつ不良品の発生を抑制することができ、得られる成形物の品質も均一となり、歩留り低下を抑制することができる。
【0048】
成形物の形状は、特に球状であることが好ましい。球状の成形物であることにより還元処理が均一に施され、ばらつきが少なく、かつ生産性の高い製錬を行うことができる。成形物の形状を球状とする場合には、直径が10mm以上30mm以下程度となるように成形することができる。また、直方体状、立方体状、円柱状等とする場合には、概ね、縦、横の内寸が500mm以下程度となるように成形することができる。
【0049】
成形物の大きさとしては、特に限定されないが、成形物の体積が8000mm以上であることが好ましい。成形物の体積が8000mm以上であることにより、成形コストが抑制され、さらに、成形物全体に占める表面積の割合が低くなるため、還元処理が均一に施され、ばらつきが少なく、かつ生産性の高い製錬を行うことができる。
【0050】
また、粉砕された混合物を所定の還元用の容器に充填してもよい。容器に充填された混合物が容器に充填された状態のまま還元処理が施されることにより、後述する分離工程S3において還元されたメタルが磁選等の処理によりメタルを分離回収し易くなり、ロスを抑制することができる。
【0051】
粉砕混合工程S1では、粉砕された混合物を乾燥する乾燥処理を施してもよい。本実施の形態におい乾燥処理を施すことは必須の態様ではないが、後述する還元処理において水分の気化に伴う成形物の膨張を防ぐことができる。
【0052】
混合物を乾燥する方法は、特に限定されず、混合物を所定の乾燥温度(例えば、300℃以上400℃以下)に保持する方法や所定の乾燥温度の熱風を混合物に対して吹き付けて乾燥させる方法等、従来公知の手段を用いることができる。このような乾燥処理により、例えば、混合物の固形分が70質量%程度で、水分が30質量%程度となるようにする。なお、乾燥処理時における混合物自身の温度としては100℃未満とすることが好ましく、これにより水分の突沸等による混合物の破裂を抑制できて好ましい。
【0053】
また、乾燥処理は連続して一度に行ってもよいし複数回に分けて行ってもよい。乾燥処理を複数回に分けて行うことにより混合物の破裂をより効果的に抑制することができる。なお、乾燥処理を複数回に分けて行った場合において、2回目以降の乾燥温度としては、150℃以上400℃以下が好ましい。この範囲で乾燥することにより、還元反応が進むことなく乾燥することが可能となる。
【0054】
下記表2に、乾燥処理後の混合物における固形分中組成(質量部)の一例を示す。なお、成形物の組成としては、これに限定されるものではない。
【0055】
【表2】
【0056】
<2-2.還元工程>
還元工程S2は、得られた混合物を加熱して還元処理を施してメタルとスラグとを含む還元物を得る工程である。還元工程S2における加熱還元処理により、製錬反応(還元反応)が進行して、フェロニッケルメタル(以下、単に「メタル」という)と、フェロニッケルスラグ(以下、単に「スラグ」という)とが分かれて生成する。
【0057】
ここで、本実施の形態では、粉砕混合工程S1において、粒度や粒度分布が略同等である、ニッケル酸化鉱石と炭素質還元剤とを含む混合物を調製していることから、そのような混合物に対して還元処理を施すことにより、還元反応が均一に生じさせることができ、結果として、得られるメタルの品位を高めて高品質なメタルを製造することができる。
【0058】
還元工程S2における還元処理は、ニッケル酸化鉱石を含む混合物を、所定の還元温度に加熱した還元炉に装入することによって行われる。還元処理においては、原料鉱石であるニッケル酸化鉱石に含まれる酸化ニッケルは可能な限り完全にかつ優先的に還元し、一方で、ニッケル酸化鉱石に含まれる酸化鉄は一部だけ還元して、目的とする高いニッケル品位のフェロニッケルが得られる、いわゆる部分還元を施す。
【0059】
還元処理では、例えば1分程度のわずかな時間で、先ず還元反応の進みやすい混合物の表面近傍において混合物中のニッケル酸化鉱石及び鉄酸化物が還元されメタル化してフェロニッケルとなり、殻(シェル)を形成する。一方で、殻の中では、その殻の形成に伴ってスラグ成分が徐々に熔融して液相のスラグが生成する。これにより、混合物中では、メタルと、スラグとが分かれて生成する。
【0060】
そして、処理時間が10分程度経過すると、還元反応に関与しない余剰の炭素質還元剤がメタルに取り込まれて融点を低下させて、メタルも液相となる。なお、この還元物の体積は、還元炉に装入する混合物と比較すると、50%以上60%以下程度の体積に収縮している。
【0061】
還元処理における温度(還元温度)としては、特に限定されないが、1200℃以上1450℃以下の範囲とすることが好ましく、1300℃以上1400℃以下の範囲とすることがより好ましい。このような温度範囲で還元することによって、均一に還元反応を生じさせることができ、品質のばらつきを抑制したフェロニッケルを生成させることができる。また、より好ましくは1300℃以上1400℃以下の範囲の還元温度で還元することで、比較的短時間で所望の還元反応を生じさせることができる。
【0062】
還元処理における時間(処理時間)としては、還元炉の温度に応じて設定されるが、10分以上であることが好ましく、15分以上であることがより好ましい。
【0063】
還元処理においては、上述した範囲の還元温度になるまで、例えばバーナー等により還元炉の内部温度を上昇させ、昇温後にその温度を維持してもよい。
【0064】
なお、還元温度(℃)と還元時間(分)の数値を乗じた値を還元に要した熱量は、20000(℃×分)以上40000(℃×分)以下の範囲であることが好ましい。これにより、高品質なメタルを効率的に製造することができる。
【0065】
還元炉としては、特に限定されないが、単一の炉を用いても、移動炉床炉等の炉床が回転移動等して工程ごとに連続的に処理可能となる炉を用いてもよい。その中でも、還元炉として移動炉床炉を用いることで、連続的に還元反応を進行させ、一つの設備で反応を完結させることができる。また、工程ごとに別々の炉を使用して操業を行った場合、炉と炉との間を移動させる際に、温度が低下してヒートロスが生じる可能性がある。また、雰囲気ガスに変化を生じさせてしまい、炉に再装入したときに即座に反応を生じさせることができないことがある。この点、移動炉床炉を使用して一つの設備で各工程での処理を行うことで、ヒートロスが低減されるとともに炉内雰囲気も的確に制御できるため、反応をより効果的に進行させることができる。
【0066】
移動炉床炉としては、特に限定されず、例えば、円形状であって複数の処理領域に区分けされた回転炉床炉を用いることができる。回転炉床炉では、所定の方向に回転しながら、各領域においてそれぞれの処理を行う。この回転炉床炉では、各領域を通過する際の時間(移動時間、回転時間)を制御することで、それぞれの領域での処理温度を調整することができ、回転炉床炉が1回転する毎に混合物が製錬処理される。また、移動炉床炉としては、ローラーハースキルン等であってもよい。
【0067】
還元処理では、混合工程S1から得られた混合物を還元炉に装入するにあたって、予めその還元炉内の炉床に炭素質還元剤(以下、「炉床炭素質還元剤」ともいう)を敷き詰めて、その敷き詰められた炉床炭素質還元剤の上に混合物を載置するようにしてもよい。また、炉床に、酸化物を主成分とする床敷材を敷いて、その上に混合物を載置してもよい。このように、炉床に炭素質還元剤や床敷材等を敷いて、その上に混合物を載置することによって、炉床と混合物の反応を抑制することができ、延いては炉床の寿命を延ばすことができる。
【0068】
ここで、上述した還元処理の後、得られたメタルとスラグとからなる還元物を、例えば同一の還元炉内において所定の温度で保持する温度保持処理を施すようにしてもよい。より具体的には、温度保持処理では、還元処理により得られた還元物を、還元炉から取り出さずに、同一の還元炉内で所定の温度で一定時間保持する。このように、同一の還元炉において還元物に対して温度保持処理を施すことにより、半溶融状態の還元物中でメタルを有効に沈降させてメタル相とスラグ相との分離を促進させることができる。これにより、メタルの回収率を高めることができ、より高品質なメタルを得ることができる。
【0069】
還元処理後における還元炉内の雰囲気ガスは、主に炭素質還元剤に由来するCOガスであり、CO等の還元性ガスが多く含まれており、不活性ガス等も含まれるが、酸素等の酸化性ガスは殆ど含まれない。したがって、酸素等の酸化性ガスが殆ど含まれない加熱還元処理後の還元炉内において、雰囲気ガスを伴った状態(還元物が酸化雰囲気から遮断された状態)で、得られた還元物を所定の温度に保持することで、還元物中のメタルが酸化されることを効果的に抑制しつつ還元物中のメタルを沈降させることができる。
【0070】
温度保持の処理時間(温度保持時間)としては、特に制限されないが、10分以上1000分以下であることが好ましく、30分以上180分以下であることがより好ましい。
【0071】
<2-3.分離工程>
分離工程S3は、得られた還元物からメタルとスラグを分離する工程である。具体的には、混合物に対する還元加熱処理によって得られた、メタル相(メタル固相)とスラグ相(スラグ固相)とを含む混在物(還元物)からメタル相を分離して回収する。
【0072】
固体として得られたメタル相とスラグ相との混在物からメタル相とスラグ相とを分離する方法としては、例えば、篩い分けによる不要物の除去に加えて、比重による分離や、磁力による分離等の方法を利用することができる。
【0073】
また、得られたメタル相とスラグ相は、濡れ性が悪いことから容易に分離することができ、大きな混在物に対して、例えば、所定の落差を設けて落下させる、あるいは篩い分けの際に所定の振動を与える等の衝撃を与えることで、その混在物からメタル相とスラグ相とを容易に分離することができる。
【実施例
【0074】
以下、本発明の実施例及び比較例を示してより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に何ら限定されるものではない。
【0075】
[混合物の調製]
<実施例>
ニッケル酸化鉱石の原料に対して、直径5.0cmの篩を用いて篩処理を行うことによって、直径5.0cm以下のニッケル酸化鉱石の塊状物を得た。また、炭素質還元剤(石炭粉、炭素含有量:85質量%)に対して、直径2.0cmの篩を用いて篩処理を行うことによって、直径2.0cm以下の炭素質還元剤の塊状物を得た。
【0076】
得られたニッケル酸化鉱石の塊状物と、炭素質還元剤の塊状物とを、同一の粉砕装置に供給し、それらの塊状物を一緒に粉砕することにより、実施例1~11の混合物を得た。なお、炭素質還元剤(石炭粉)は、ニッケル酸化鉱石に含まれる酸化ニッケルと酸化鉄(Fe)とを過不足なく還元するのに必要な量を100質量%としたときに27質量%の割合となる量で含有させた。
【0077】
<比較例>
上記の実施例と同様に、直径5.0cm以下のニッケル酸化鉱石の塊状物と、直径2.0cm以下の炭素質還元剤の塊状物とを得たのち、それぞれ別々の粉砕装置に供給して、ニッケル酸化鉱石の塊状物のみの粉砕と、炭素質還元剤の塊状物のみを粉砕とを、それぞれ行った。これにより、一の粉砕装置からニッケル酸化鉱石の粉末を得て、他の粉砕装置から炭素質還元剤の粉末を得た。
【0078】
その後、得られたニッケル酸化鉱石の粉末と、炭素質還元剤の粉末とを、混合機内に装入し、適量の水を添加しながら混合して比較例1~5の混合物を得た。
【0079】
[還元処理]
得られた実施例1~11及び比較例1~5の混合物を、適宜水分を添加してパン型造粒機を使って直径15±0.5mmの球状の混合物(試料)を得たのち、各試料を還元炉に装入して、表3に示す条件で還元処理を施した。なお、還元炉の炉床には予め灰(主成分はSiO、その他の成分としてAl、MgO等の酸化物を少量含有する)を敷き詰め、その上に混合物試料を載置するようにした。
【0080】
[分離処理]
還元処理により得られた還元物を還元炉から取り出し、冷却した後、実施例1~11及び比較例1~5の試料を粉砕し、磁力選別によってメタルを回収した。
【0081】
各試料について、ニッケルメタル化率、メタル中ニッケル含有率を、ICP発光分光分析器(SHIMAZU S-8100型)により分析して算出した。
【0082】
ニッケルメタル化率、メタル中のニッケル含有率、ニッケルメタルの回収率は、以下の式(1)、(2)により算出した。
ニッケルメタル化率=メタル中のニッケルの質量÷(還元物中の全てのニッケルの質量)×100(%) ・・・(1)式
メタル中ニッケル含有率=メタル中のニッケルの質量÷(メタル中のニッケルと鉄の合計質量)×100(%) ・・・(2)式
【0083】
【表3】
【0084】
表3の結果からわかるように、実施例1~11では、比較例1~5と比べてニッケルメタル化率、メタル中ニッケル含有率及びメタル回収率がいずれも高くなった。このことは、還元処理に供する混合物の調製にあたり、ニッケル酸化鉱石の塊状物と炭素質還元剤の塊状物とを同一の粉砕装置に供給してそれら塊状物を一緒に粉砕するようにしたことで、粒度や粒度分布が略同等の成分により混合物が構成されるようになったことから、混合物中の還元反応が均一に起こるようになったためと考えられる。
【符号の説明】
【0085】
1 粉砕装置(ジョークラッシャー)
11 固定刃板
12 振動刃板
a 酸化鉱石の塊状物
b 炭素質還元剤の塊状物
C 混合物
図1
図2