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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-22
(45)【発行日】2022-08-30
(54)【発明の名称】制御装置
(51)【国際特許分類】
   G05D 3/00 20060101AFI20220823BHJP
   G05B 19/404 20060101ALI20220823BHJP
【FI】
G05D3/00 Q
G05B19/404 K
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2019066586
(22)【出願日】2019-03-29
(65)【公開番号】P2020166569
(43)【公開日】2020-10-08
【審査請求日】2020-12-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000002945
【氏名又は名称】オムロン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】特許業務法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】安井 勇人
(72)【発明者】
【氏名】島村 純児
(72)【発明者】
【氏名】仲野 征彦
(72)【発明者】
【氏名】大倉 嵩史
(72)【発明者】
【氏名】島村 知行
【審査官】松本 泰典
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-167255(JP,A)
【文献】特開2013-011937(JP,A)
【文献】特開2016-004435(JP,A)
【文献】特開2017-033345(JP,A)
【文献】特開平08-263114(JP,A)
【文献】特開2018-153882(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G05D 3/00-3/20
G05B 19/18-19/416;19/42-19/46
B21B 1/00-11/00;47/00-99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
主軸に対応する主軸駆動装置に、従軸に対応する従軸駆動装置を同期制御させる制御装置であって、
前記制御装置から指令位置を前記従軸駆動装置に対して出力する工程における、該制御装置から該従軸駆動装置への該指令位置の伝送による伝送遅れと該従軸駆動装置での制御遅れとに基づいて該指令位置の補正量を算出する算出部と、
前記主軸駆動装置の位置情報を用いて算出される前記従軸駆動装置の基準指令位置に、前記補正量を反映させて補正後の前記指令位置を生成する生成部と、
前記主軸駆動装置の速度変化が生じてからの所定期間において前記従軸駆動装置の位置が前記主軸駆動装置の位置を超えないように、前記補正量を、前記算出部によって算出された値よりも少なく調整する調整部と、
を備える、制御装置。
【請求項2】
前記調整部は、前記主軸駆動装置の速度変化時において前記従軸駆動装置の位置が前記主軸駆動装置の位置と一致するように、前記補正量を調整する、
請求項1に記載の制御装置。
【請求項3】
前記調整部は、前記所定期間において、時間の経過とともに、前記基準指令位置に反映させる補正量を前記算出部によって算出された値にまで徐々に近付ける、
請求項1又は請求項2に記載の制御装置。
【請求項4】
前記調整部は、前記所定期間において、前記従軸駆動装置の加速度が許容加速度を超えない範囲で、前記基準指令位置に反映させる補正量を調整する、
請求項1から請求項3の何れか1項に記載の制御装置。
【請求項5】
前記主軸駆動装置と前記従軸駆動装置とを対の駆動装置としたときに、前記制御装置は、該対の駆動装置を複数有する作業装置において、該対の駆動装置における該主軸駆動装置と該従軸駆動装置との間の同期制御を実行するとともに、該対の駆動装置同士の同期制
御を実行するように構成される、
請求項1から請求項4の何れか1項に記載の制御装置。
【請求項6】
主軸に対応する主軸駆動装置に、従軸に対応する従軸駆動装置を同期制御させる制御方法であって、
指令位置を前記従軸駆動装置に対して出力する工程における、該従軸駆動装置への該指令位置の伝送による伝送遅れと該従軸駆動装置での制御遅れとに基づいて該指令位置の補正量を算出し、
前記主軸駆動装置の位置情報を用いて算出される前記従軸駆動装置の基準指令位置に、前記補正量を反映させて補正後の前記指令位置を生成し、
前記主軸駆動装置の速度変化が生じてからの所定期間において前記従軸駆動装置の位置が前記主軸駆動装置の位置を超えないように、前記補正量を、前記算出された値よりも少なく調整する、
制御方法。
【請求項7】
前記主軸駆動装置と前記従軸駆動装置とを対の駆動装置としたときに、該対の駆動装置を複数有する作業装置において、該対の駆動装置における該主軸駆動装置と該従軸駆動装置との間の同期制御を実行するとともに、該対の駆動装置同士の同期制御を実行する、
請求項6に記載の制御方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主軸駆動装置と従軸駆動装置を同期制御する制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
機械、設備などの動作の制御として、モータの運動を制御するためのモーション制御があり、そのモーション制御には電子カムや電子ギア等の同期制御に関する各種制御が含まれる。このような同期制御では、主軸と従軸の同期が図られることで、主軸に対応する主軸駆動装置と従軸に対応する従軸駆動装置を含む作業装置に所望の作業を実行させることができる。一方で、同期制御では、主軸で測定された情報が処理されて従軸へ伝送されるまでの伝送遅れによって主軸および従軸間に同期ずれが生じうる。例えば、特許文献1には、この同期ずれに関して、測定された主軸位置をフィルタによりシフトさせる技術が開示されている。
【0003】
また、特許文献2には、同期制御を行う制御装置が、主軸の位置を用いて従軸の指令位置を算出し、従軸に対してその指令位置に応じた出力を行うプロセッサを備えるとともに、従軸への指令位置の伝送による遅れおよび従軸での制御遅れに起因する同期ずれを、指令位置の補正によって補償する技術が開示されている。すなわち、当該技術は、従軸側の遅れによる同期ずれの解消を図るものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2014-119904号公報
【文献】特開2016-167255号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
モーション制御として主軸駆動装置と従軸駆動装置との同期制御を行おうとする場合、その制御装置で従軸駆動装置の指令位置を生成し、それを従軸駆動装置に出力する。このとき、生成した指令位置を従軸駆動装置に届けるとともに、従軸駆動装置でサーボ制御が行われる必要がある。そのため、同期制御により従軸駆動装置を実際に駆動する際には、制御装置から従軸駆動装置への伝送のための時間(伝送時間)や従軸駆動装置内でのサーボ制御における応答時間を要することとなり、これらの時間が従軸駆動装置に関連する、主軸と従軸の同期ずれの要因となる。そこで、上記の従来技術は、これらの同期ずれの影響を解消するために、従軸駆動装置への指令位置の補正を行っている。
【0006】
しかし、従来技術による指令位置の補正では、上記伝送時間や応答時間等から算出される補正量をそのまま従軸駆動装置への指令値に加算している。そのため、主軸駆動装置が一定速度で駆動している定常状態では主軸駆動装置と従軸駆動装置は概ね同期制御されるが、主軸駆動装置の速度が変化した直後では補正量が過大となってしまい、従軸駆動装置の位置が主軸駆動装置の位置を超えてしまい同期制御が好適に実現されない状態となるおそれがある。このような同期制御の乱れは、主軸駆動装置と従軸駆動装置を有する作業装置の作業内容に好ましくない影響を及ぼし得る。
【0007】
本発明は、このような問題に鑑みてなされたものであり、主軸駆動装置と従軸駆動装置との同期制御について、主軸と従軸の同期ずれを解消し好適な同期制御を実現する技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明においては、上記課題を解決するために、主軸駆動装置の速度変化が生じてからの所定期間では、伝送遅れと制御遅れに基づいて算出された補正量を少なくなるように調整した上で、従軸駆動装置への指令位置を生成する構成を採用した。これにより、速度変化時の主軸と従軸の同期ずれを好適に解消することができる。
【0009】
具体的に、本発明は、主軸に対応する主軸駆動装置に、従軸に対応する従軸駆動装置を同期制御させる制御装置であって、前記制御装置から指令位置を前記従軸駆動装置に対して出力する工程における、該制御装置から該従軸駆動装置への該指令位置の伝送による伝送遅れと該従軸駆動装置での制御遅れとに基づいて該指令位置の補正量を算出する算出部と、前記主軸駆動装置の位置情報を用いて算出される前記従軸駆動装置の基準指令位置に、前記補正量を反映させて補正後の前記指令位置を生成する生成部と、前記主軸駆動装置の速度変化が生じてからの所定期間において前記従軸駆動装置の位置が前記主軸駆動装置の位置を超えないように、前記補正量を、前記算出部によって算出された値よりも少なく調整する調整部と、を備える。
【0010】
上記の制御装置は、主軸に対応する主軸駆動装置と従軸に対応する従軸駆動装置とを同期制御する装置である。当該同期制御の一例としては、電子カムプロファイルに基づいて行われる電子カム制御や、主軸と従軸との間を所定の比例関係に従って制御する電子ギア制御等が例示できる。当該同期制御が行われている間は、主軸と従軸との相関が想定された関係となり、その相関によって主軸駆動装置と従軸駆動装置との連携で、両駆動装置を有する作業装置により所定仕事が実現され得る。
【0011】
ここで、制御装置から従軸駆動装置に対して指令位置を出力する工程において、指令位置が制御装置から従軸駆動装置に届くまでに要する時間である伝送遅れと、その指令位置に従って従軸駆動装置で行われる位置制御(例えば、位置に関するサーボ制御等)の応答時間である制御遅れが、実際には生じる。これらの従軸駆動装置側での遅れは、主軸と従軸間の同期制御に乱れを生じさせる要因となる。そこで、算出部は、これらの遅れに基づいて、同期制御の乱れを解消するための指令位置の補正量を算出する。例えば、主軸駆動装置の速度と遅れ時間の積を、指令位置の補正量とすることができる。
【0012】
そして、生成部が、上記の補正量を基準指令位置に反映させることで、最終的に従軸駆動装置へ出力される補正後の指令位置が生成される。なお、当該基準指令位置は、従軸駆動装置側での上記遅れを考慮せずに、主軸駆動装置の位置情報を用いて算出される従軸駆動装置の指令位置である。換言すれば、仮に従軸駆動装置側での上記遅れが無ければ、主軸と従軸との間の同期ずれを生じさせることなく従軸駆動装置を駆動可能な指令位置である。
【0013】
しかし、このように補正量を基準指令位置に反映させると、主軸駆動装置の速度が変化したタイミングでは、基準指令位置に対して補正量が急に反映されることになり、従軸駆動装置の位置が主軸駆動装置の位置を超えてしまい、かえって同期制御が乱れるおそれがある。そこで、上記の制御装置では、調整部が、主軸駆動装置の速度変化が生じてからの所定期間において、基準指令位置に反映される補正量を、算出部により算出された値よりも少なく調整する。当該所定期間は、主軸駆動装置の速度が変化したタイミングを含む期間であり、その期間の長さは、上記の伝送遅れと制御遅れを反映するものである。このような調整処理を経ることで、従軸駆動装置への指令位置が急に変動することを抑制でき、以て速度変化時の主軸と従軸との間の同期制御の乱れを抑制できる。
【0014】
なお、調整部による補正量の調整は、上記の所定期間において行われる。そのため、主軸駆動装置の速度が変化してから所定期間経過した後は、調整部による調整が行われない
補正量、すなわち、算出部によって算出された補正量が基準指令位置に反映されてもよい。
【0015】
ここで、上記の制御装置において、前記調整部は、前記主軸駆動装置の速度変化時において前記従軸駆動装置の位置が前記主軸駆動装置の位置と一致するように、前記補正量を調整してもよい。このように補正量の調整が行われることで、主軸と従軸との間の同期制御の乱れをより好ましく抑制できる。
【0016】
また、上述までの制御装置において、前記調整部は、前記所定期間において、時間の経過とともに、前記基準指令位置に反映させる補正量を前記算出部によって算出された値にまで徐々に近付けてもよい。このように当該補正量を、算出部によって算出された値にまで近づけていくことで、所定期間が経過した後に基準指令位置に調整されない補正量をそのまま反映させるときに、従軸駆動装置への指令位置の変化を小さくでき、以て、同期制御中の従軸駆動装置の振動を抑制することができる。
【0017】
なお、前記調整部は、前記所定期間において、前記従軸駆動装置の加速度が許容加速度を超えない範囲で、前記基準指令位置に反映させる補正量を調整してもよい。従軸駆動装置においては、所定の目的、例えば、装置やユーザの保護、装置により実行される所定作業の精度確保等の目的で、従軸駆動装置で許容される加速度に上限が設定される場合がある。その上限となる加速度が、上記許容加速度である。上記のように所定期間は、主軸駆動装置の速度変化に対応する期間であり、基準指令位置に補正量が反映されることで従軸駆動装置に対して外力が加えられやすい状況となっている。そこで、所定期間での従軸駆動装置の加速度に上限を設定することで、従軸駆動装置に関する所定の目的を果たしつつ主軸と従軸との同期ずれを可及的に抑制することができる。
【0018】
ここで、上述までの制御装置において、前記主軸駆動装置と前記従軸駆動装置とを対の駆動装置としたときに、前記制御装置は、該対の駆動装置を複数有する作業装置において、該対の駆動装置における該主軸駆動装置と該従軸駆動装置との間の同期制御を実行するとともに、該対の駆動装置同士の同期制御を実行するように構成されてもよい。このように制御装置が、複数の対の駆動装置を多段階に制御する場合には、上流側の対の駆動装置において生じた同期ずれは、下流側の対の駆動装置に大きな影響を及ぼし得る。しかし、本願の制御装置によれば、主軸駆動装置の速度変化時においても主軸と従軸の同期ずれを好適に抑制できるため、制御装置が複数の対の駆動装置を多段階に制御する場合でも装置全体を好適に同期制御することが可能となる。
【発明の効果】
【0019】
主軸駆動装置と従軸駆動装置との同期制御について、主軸と従軸の同期ずれを解消し好適な同期制御を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】制御装置である標準PLCを含む制御システムの概略構成を示す図である。
図2】実施形態の標準PLCの制御構造を示す図である。
図3】同期制御を行う主軸と従軸の動きを説明する第1の図である。
図4】同期制御を行う主軸と従軸の動きを説明する第2の図である。
図5】主軸と従軸の同期制御に関する処理のフローチャートである。
図6】同期制御を行う主軸と従軸の動きを説明する第3の図である。
図7】制御装置である標準PLCにより多段階の同期制御が実行される圧延装置の概略を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
<適用例>
実施形態に係る制御装置の適用例について、図1図4に基づいて説明する。図1の上段(a)は、当該制御装置を含む制御システムの概略構成図である。当該制御システムは、ネットワーク1と、サーボドライバ4と、標準PLC(Programmable Logic Controller)5とを備える。サーボドライバ4は、2つの制御軸に対応する2台のモータ2a、2b
を有する装置6をサーボ制御するためのサーボ制御装置である。なお、図1に示す制御システムは、1台のサーボドライバ4で2台の制御軸(モータ)が駆動可能に構成されているが、そのような構成に代えて、1つの制御軸毎に1台のサーボドライバ4が配置され、各サーボドライバ4がネットワーク1で接続される構成を採用することもできる。そして、サーボドライバ4に対して、装置6に含まれる2台のモータを同期制御するための指令が標準PLC5から供給される。この標準PLC5が、本願開示の制御装置に相当する。
【0022】
上記制御システムでは、標準PLC5から送られてくる指令を用いて、装置6においてモータ2aとモータ2bとの間で同期制御が実行される。当該同期制御として、電子カム制御や電子ギア制御等が例示できる。本実施形態では、モータ2aの制御軸を主軸とし、当該モータ2aを主軸駆動装置とする。また、モータ2bの制御軸を従軸とし、当該モータ2bを従軸駆動装置とする。この同期制御のために、標準PLC5は、モータ2aの位置情報を用いてモータ2bの指令位置を制御周期ごとに算出し、モータ2bへ出力する。
【0023】
ここで、装置6においては所定の作業が実行されるように標準PLC5から指令が出され、モータ2a、2bがその指令に追従するように、サーボドライバ4が各モータをフィードバック制御する。指令が供給されたサーボドライバ4は、モータ2a、2bに接続されている各エンコーダから出力されたフィードバック信号を受けることで、各モータの出力が指令に追従するように、モータ2に駆動電流を供給する。この供給電流は、交流電源からサーボドライバ4に対して送られる交流電力が利用される。本実施例では、サーボドライバ4は三相交流を受けるタイプのものであるが、単相交流を受けるタイプのものでもよい。なお、本願ではサーボドライバ4によるフィードバック制御の形態は特定のものに限定されない。また、サーボドライバ4の構成は、本願発明の核をなすものではないため、その詳細な開示は割愛する。
【0024】
ここで、図1の下段(b)に基づいて、制御システムにおける同期ずれについて説明する。制御システムでは、主軸位置(主軸駆動装置であるモータ2aの位置)が特定され、主軸位置がネットワーク1を介して標準PLC5に入力されるのに要する時間T1、標準PLC5のプロセッサが主軸位置を受けてから指令位置に応じた出力(例えば、従軸駆動装置であるモータ2bの位置信号の送信)を行うまでに要する時間T2、前記出力がネットワーク1を介してモータ2bに入力されるのに要する時間T3(本願の伝送遅れに相当する)、およびモータ2bでのサーボ制御に関連する遅れ時間T4(本願の制御遅れに相当する)のそれぞれによって同期ずれが生じる。従軸の遅れ時間T4は、従軸のサーボドライバ4の処理時間、モータ2bに関連する装置6内での摩擦等に起因した応答遅れ等によって生じるもので、例えば、ネットワーク1経由で従軸位置信号がモータ2bに受信されてから、これが電気的信号に変換されてモータ2bに取り付けられたエンコーダの値が変化するまでの時間で表すことができる。
【0025】
ここで、時間T1+時間T2を主軸側の遅れ、時間T3+時間T4を従軸側の遅れとする。そして、標準PLC5では、主軸側の遅れ(T1+T2)による同期ずれと、従軸側の遅れ(T3+T4)による同期ずれを別々に補償する。ここで、図2に基づいて、標準PLC5の制御構造について説明する。標準PLC5は、同期制御の対象であるモータ2a、2bの動作(モーション)に関する指令(指令位置)を生成し、サーボドライバ4へ供給する。標準PLC5は、従軸指令位置算出部50、従軸補正量算出部51、生成部52、調整部53、主軸シフト部55の機能部を有している。そして、これらの機能部によ
る各処理は、標準PLC5に搭載されている演算処理装置によって演算実行される。また、標準PLC5は、図示しない記憶装置(メモリ)も有しており、同期制御に必要な情報が当該記憶装置に記憶されている。
【0026】
主軸シフト部55は、主軸位置情報と、制御周期Nにおける遅れ時間T1[N]および遅れ時間T2[N]とを用いて、例えば式1に示すように制御周期Nにおける主軸速度Vm[N]を用いて、制御周期Nにおける主軸シフト量(T1+T2間の主軸の移動量)を算出することができる。
主軸シフト量[N]=Vm[N]×(T1[N]+T2[N])・・・(式1)
本実施形態では、主軸位置を主軸シフト量だけ進める方向にシフトさせてシフト後主軸位置とする。なお、主軸シフト量[N]とは制御周期Nにおける主軸シフト量のことを意味しており、Vm[N]、T1[N]およびT2[N]はすべて制御周期Nにおける値である。
【0027】
従軸指令位置算出部50は、シフト後主軸位置と、主軸位置情報とを用いて従軸指令位置(本願の基準指令位置に相当する)を算出する。例えば、電子ギア制御による同期演算方式の場合、ギア比Gにより制御周期Nにおける従軸指令位置は式2により求めることができる。
従軸指令位置[N]=従軸指令位置[N-1]+G×(シフト後主軸位置[N]-シフト後主軸位置[N-1])・・・(式2)
このようにシフト後主軸位置を用いることで、制御周期Nにおける主軸側の遅れ(T1+T2)による同期ずれが補償される。
【0028】
従軸補正量算出部51は、従軸指令位置から算出される制御周期Nにおける従軸指令速度Vs[N]と、遅れ時間T3[N]および遅れ時間T4[N]と、例えば式3の方法により制御周期Nにおける補正量(T3[N]+T4[N]の間の従軸移動量)を算出する。
従軸補正量[N]=Vs[N]×(T3[N]+T4[N])・・・式3
【0029】
生成部52は、従軸指令位置算出部50により算出された従軸指令位置に、従軸補正量算出部51によって算出された従軸補正量を反映させて、補正後の指令位置を生成する。生成された補正後の指令位置は、従軸駆動装置であるモータ2bのサーボドライバ4へ出力される。出力された指令位置は、サーボドライバ4への入力から遅れ時間T4後にモータ2bの動作に反映されることになる。このように従軸補正量を従軸指令位置に反映させることで、従軸側の遅れ(T3+T4)による同期ずれを補償することができる。
【0030】
しかし、このような指令位置の補正が行われる場合でも、主軸駆動装置であるモータ2aの速度が変化した際には同期制御の乱れが生じるおそれがある。そこで、当該同期制御の乱れを抑制するために従軸補正量の調整を行う機能部が、調整部53である。先ず、図3に基づいて当該同期制御の乱れについて説明する。図3の上段に示すグラフは、同期制御が行われている際の、モータ2a、2bの位置の推移を表し、下段に示すグラフは、従軸補正量算出部51によって算出された従軸補正量の推移である。なお、両グラフとも横軸は時間であり、その時間の経過は、標準PLC5での制御周期の進行を意味する。
【0031】
図3の上段に示す線L1は、主軸駆動装置であるモータ2aの位置推移を表す。また、線L2は、上記の指令位置の補正が行われない場合の、従軸駆動装置であるモータ2bの位置推移である。線L1は同期制御が開始された時間t0から始まり線L2はそれより遅れた時間t1から始まっている。この時間差t1-t0は、従軸側での遅れ時間T3及びT4に起因するものである。また、図3の下段のグラフは、上記の通り従軸補正量の推移を表す。従軸補正量は、上記の式3に示すように従軸指令速度Vsに基づいて算出され、
更に従軸指令速度Vsは従軸指令位置から算出されるとともに、その従軸指令位置は、上記の式2に示すようにシフト後主軸位置から算出される。したがって、主軸位置の推移が開始されると同時に、従軸補正量も時間t0から所定量ΔX1で推移することになる。
【0032】
このような従軸補正量の推移が得られるとき、生成部52によってその従軸補正量をそのまま従軸指令位置に反映させて生成された、補正後の指令位置がモータ2bに入力されたときの位置推移が、図3の上段に線L3で示されている。線L1と線L3を比較して分かるように、モータ2aの速度変化が生じてからの所定期間、すなわち、遅れ時間T3及びT4に関連する時間t0~t1の期間において、モータ2bの位置がモータ2aの位置を超えてしまい同期制御が乱れた状態となっている。なお、時間t1以降においては、両モータの位置ずれは解消している。
【0033】
そこで、調整部53が、このような同期制御の乱れを抑制するために、生成部52によって従軸指令位置に反映される従軸補正量の調整を行う。調整部53による調整について、図4に基づいて説明する。図4の上段に示す線L1は、主軸駆動装置であるモータ2aの位置推移を表し、図3に示す線L1と同じ推移を辿っている。また、図4に示す線L2は、上記の指令位置の補正が行われない場合の、従軸駆動装置であるモータ2bの位置推移を表し、図3に示す線L2と同じ推移を辿っている。
【0034】
ここで、図4の下段のグラフは、式3に従って算出された従軸補正量に対して、調整部53による調整が行われたときの従軸補正量の推移を表している。詳細には、時間t0~t1の所定期間において、従軸補正量が初期値0から始まって、式3に従って算出されたΔX1になるように徐々に増加し、時間t1以降は、従軸補正量が当初の算出値ΔX1に維持されるように、当該調整が行われる。換言すれば、調整部53は、時間t0~t1の所定期間においては、当初の算出値ΔX1よりも少なくなるように調整される。この結果、生成部52によって生成された、補正後の指令位置がモータ2bに入力されたときの位置推移は、図4で線L3で示すように、線L1で示すモータ2aの位置推移と一致する。したがって、調整部53によって、時間t0~t1の所定期間において、従属駆動装置であるモータ2bの位置が主軸駆動装置であるモータ2aの位置を超えないように、従軸補正量の調整が行われたことになる。
【0035】
このように調整部53により従軸補正量が調整され、その調整された従軸補正量が生成部52によって従軸指令位置に反映されて、モータ2bへの補正後の指令位置が生成される。モータ2bは、ネットワーク1を経てこの補正後の指令位置をサーボドライバ4を介して受け取り、そこでサーボ制御されることで、図4の上段に示すように、遅れ時間T3及びT4にかかわらず、モータ2aに対して好適に同期制御されることになる。
【0036】
<同期制御>
ここで、図5に基づいて、装置6においてモータ2aとモータ2bとの同期制御が行われるときの処理の流れについて説明する。図5に示す処理は、標準PLC5により同期制御が行われている際に、その制御周期ごとに繰り返し実行される。先ず、S101では、従軸指令位置算出部50により基準指令位置に相当する従軸指令位置の算出が行われる。続いて、従軸補正量算出部51により、上記の式3に従って従軸補正量が算出される。この算出された従軸補正量は、調整部53による調整は施されていない。
【0037】
次に、S103では、現時点が、主軸駆動装置であるモータ2aの速度変化が生じてからの所定期間に属しているか否かが判定される。当該所定期間は、上記の通り、遅れ時間T3及びT4に関連する期間であり、標準PLC5の記憶領域に予め記憶されている。そして、S103で肯定判定されると処理はS104へ進み、否定判定されると処理はS105へ進む。S104では、調整部53による調整が行われる。図4に示す形態では、調
整部53は、従軸補正量が、同期制御の開始時間t0からt1までの所定期間において時間経過とともに0(零)からS102で算出された算出値ΔX1まで線形増加するように調整を行う。なお、調整部53による調整は、このような線形増加の形態に限られない。
【0038】
また、調整部53は、所定期間t0~t1におけるモータ2bの加速度を考慮して、従軸補正量の調整を行ってもよい。例えば、調整部53は、モータ2bの加速度が許容加速度を超えない範囲で従軸補正量の調整を行ってもよい。ここで言う許容加速度は、モータ2bや装置6の保護や、装置6における所定作業の精度低下の回避等の様々な観点から適宜設定することができる。設定された許容加速度は、標準PLC5の記憶領域に記憶されている。所定期間t0~t1は、モータ2aの速度変化が生じた直後の期間であり、従軸指令位置に従軸補正量の反映が行われるとモータ2bに外力や衝撃が加えられやすい。そこで、上記のように、モータ2bの加速度が許容加速度を超えないように従軸補正量の調整を行うことで、同期制御時のモータ2bの振動等を好適に抑制しつつ主軸と従軸との同期ずれを可及的に抑制することができる。S104の処理が終了すると、S105へ進む。
【0039】
S105では、生成部52による、補正後の指令位置の生成が行われる。すなわち、S103で肯定判定されるとS104で調整された従軸補正量が反映された、補正後の指令位置が生成される。また、S103で否定判定されるとS102で算出された従軸補正量がそのまま反映された、補正後の指令位置が生成される。そして、続くS106では、補正後の指令位置がネットワーク1を経てサーボドライバ4を介してモータ2bへ出力される。
【0040】
このようにS101~S106の処理が周期制御ごとに繰り返されることで、モータ2aの速度変化が生じたときであっても、遅れ時間T3及びT4にかかわらず、モータ2aに対して好適に同期制御されることになる。
【0041】
<その他の実施形態>
ここで、図5に示す処理が適用された別の例を、図6に示す。図6の上段に示す線L11は、主軸駆動装置であるモータ2aの位置推移を表している。また、図6に示す線L12は、上記の指令位置の補正が行われない場合の、従軸駆動装置であるモータ2bの位置推移を表している。これらの位置推移から分かるように、時間t0で同期制御が始まり時間t11(t11>t1)までは図4に示す推移と同じであるが、時間t11においてモータ2aの速度が更に上昇し、それにモータ2bを同期させている。すなわち、時間t11において、同期制御において2度目の速度変化が生じており、当該2度目の速度変化に対応する所定期間は、時間t11~t12の期間である。
【0042】
時間t11で同期制御におけるモータ2a、2bの速度はそれ以前の速度より上昇しているため、時間t11以降において従軸補正量算出部51により算出される従軸補正量ΔX2は、上記のΔX1よりも大きくなる。そして、所定期間t11~t12の期間において、調整部53は、従軸補正量がΔX1からΔX2に線形増加するように調整を行う。この調整により、図6の上段で線L13で示すように、生成部52によって生成された、補正後の指令位置が入力されたときのモータ2bの位置推移は線L11で示すモータ2aの位置推移と一致する。
【0043】
<装置6の例>
ここで、装置6の一例として、図7に示す圧延装置が挙げられる。当該圧延装置は、圧延加工を行う2つの圧延ローラを有するスタンドを5台(スタンド1~5)有し、各スタンドは直列に配置されている。スタンド1~5のそれぞれに含まれる一方の圧延ローラにはモータが接続されており、当該モータは標準PLC5からの指令に従って駆動制御され
る。そして、スタンド1のモータとスタンド2のモータは、前者を主軸、後者を従軸として同期制御され、スタンド2のモータとスタンド3のモータは、前者を主軸、後者を従軸として同期制御され、スタンド3のモータとスタンド4のモータは、前者を主軸、後者を従軸として同期制御され、スタンド4のモータとスタンド5のモータは、前者を主軸、後者を従軸として同期制御される。すなわち、図7に示す圧延装置では、スタンド1とスタンド2、スタンド2とスタンド3、スタンド3とスタンド4、スタンド4とスタンド5のそれぞれの組合せにおけるモータ同士が同期制御されるとともに、これらのスタンドの組合せ同士の同期制御も行われている。このように同期制御が多段階で形成されている圧延装置では、上流側での同期制御の乱れが下流側に増幅して伝わっていき、圧延加工の精度低下を招きやすい。しかし、本願の標準PLCによれば主軸駆動装置の速度変化が生じた場合でも同期制御の乱れを好適に抑制でき、以て、圧延加工の精度低下を十分に回避することができる。
【0044】
<付記1>
主軸に対応する主軸駆動装置(2a)に、従軸に対応する従軸駆動装置(2b)を同期制御させる制御装置(5)であって、
前記制御装置(5)から指令位置を前記従軸駆動装置(2b)に対して出力する工程における、該制御装置(5)から該従軸駆動装置(2b)への該指令位置の伝送による伝送遅れと該従軸駆動装置(2b)での制御遅れとに基づいて該指令位置の補正量を算出する算出部(51)と、
前記主軸駆動装置(2a)の位置情報を用いて算出される前記従軸駆動装置(2b)の基準指令位置に、前記補正量を反映させて補正後の前記指令位置を生成する生成部(52)と、
前記主軸駆動装置(2a)の速度変化が生じてからの所定期間において前記従軸駆動装置(2b)の位置が前記主軸駆動装置(2a)の位置を超えないように、前記補正量を、前記算出部(51)によって算出された値よりも少なく調整する調整部(53)と、
を備える、制御装置(5)。
【符号の説明】
【0045】
1: ネットワーク
2a、2b: モータ
5: 標準PLC
50: 従軸指令位置算出部
51: 従軸補正量算出部
52: 生成部
53: 調整部
55: 主軸シフト部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7