(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-24
(45)【発行日】2022-09-01
(54)【発明の名称】計測方法
(51)【国際特許分類】
G01B 11/06 20060101AFI20220825BHJP
【FI】
G01B11/06 H
(21)【出願番号】P 2018125172
(22)【出願日】2018-06-29
【審査請求日】2020-08-17
(73)【特許権者】
【識別番号】500216466
【氏名又は名称】住重アテックス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105924
【氏名又は名称】森下 賢樹
(74)【代理人】
【識別番号】100116274
【氏名又は名称】富所 輝観夫
(72)【発明者】
【氏名】豊嶋 崇
(72)【発明者】
【氏名】武田 圭弘
【審査官】眞岩 久恵
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-039977(JP,A)
【文献】特開2010-169633(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2018/0017506(US,A1)
【文献】登録実用新案第3009570(JP,U)
【文献】特開平08-015163(JP,A)
【文献】特開2010-160014(JP,A)
【文献】特開平11-325842(JP,A)
【文献】特開2000-146565(JP,A)
【文献】特許第3764949(JP,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01B 11/00-11/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
長手方向に切断して内面を露出させた複数の管
のそれぞれの長手方向の両端部に固定治具を取り付け、前記複数の管のそれぞれの
前記長手方向が重力方向となるように立てた状態で、
前記固定治具を通じて前記長手方向に印加される張力によって前記複数の管を固定して並べることと、
前記複数の管に向けてレーザを照射する照射部と、前記複数の管からのレーザの反射光を撮像する撮像部とを含むスキャナの位置および向きを変えながら、前記複数の管のそれぞれの内面および外面を撮像した複数の撮像画像を取得することと、
前記取得した複数の撮像画像に基づいて、前記複数の管のそれぞれの内面と外面を含む三次元形状データを算出することと、
前記三次元形状データに基づいて、前記複数の管のそれぞれの内面と外面の間の厚みの分布を示す厚みデータを算出することと、を備えることを特徴とする計測方法。
【請求項2】
前記スキャナを撮像するトラッカを用いて前記スキャナの位置および向きを計測することをさらに備え、
前記三次元形状データは、前記トラッカにより計測される前記スキャナの複数の撮像位置における位置および向きと、前記複数の撮像位置のそれぞれにて前記スキャナにより撮像される複数の撮像画像と、に基づいて算出されることを特徴とする請求項1に記載の計測方法。
【請求項3】
前記スキャナの位置および向きは、前記スキャナを機械的に支持する支持機構により制御され、
前記三次元形状データは、前記支持機構により制御される前記スキャナの複数の撮像位置における位置および向きと、前記複数の撮像位置のそれぞれにて前記スキャナにより撮像される複数の撮像画像と、に基づいて算出されることを特徴とする請求項1に記載の計測方法。
【請求項4】
前記三次元形状データに基づいて、前記複数の管のそれぞれの内面の位置座標に対してその位置での厚みの数値を対応付けたコンター図を生成することをさらに備えることを特徴とする請求項1から
3のいずれか一項に記載の計測方法。
【請求項5】
前記複数の管のそれぞれの長手方向の長さは1m以上であり、
前記スキャナを前記複数の管から1m以内の距離に配置して前記複数の撮像画像を取得することを特徴とする請求項1から
4のいずれか一項に記載の計測方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、対象物の厚みの計測方法および計測システムに関する。
【背景技術】
【0002】
石油精製プラントや石油化学プラント等の熱交換器チューブ(単に管ともいう)の腐食減肉検査として、超音波探傷法などの非破壊検査以外に、管を抜き取って検査するサンプリング検査が実施されている。サンプリング検査では、抜き取った管を縦半分に切断する半割加工を施し、半割加工により露出した管の内面を検査員が目視で腐食減肉箇所を確認する。確認した腐食減肉箇所は、ポイントマイクロメータなどを用いて残肉厚値が計測される。
【0003】
近年、レーザを三次元スキャンすることにより、対象物の三次元形状を計測する技術が普及している。例えば、廃液燃焼炉やガス化炉といった竪型燃焼炉の内壁面を保護する耐火材の減肉量を計測する方法が提案されている。この方法では、竪型燃焼炉の内部に計測装置を挿入することで、内壁面の三次元形状が計測される(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
直径が2~3cm程度の熱交換器チューブを検査する場合、サブミリメートル以下の精度で残肉量を計測できることが好ましい。しかしながら、半割加工をした管の厚みをポイントマイクロメータなどで手作業で計測する場合、計測に時間がかかり、検査員の技量にも左右されるため、管の残肉量を必ずしも高精度で計測することができない。管の内面形状をレーザスキャンにより計測すれば、短時間で網羅的に内面形状を把握できるが、半割加工時に管が湾曲するなどの変形が生じることがあり、内面形状のみからでは厚みを正確に特定できないおそれがある。
【0006】
本発明のある態様の例示的な目的のひとつは、対象物の厚みを短時間かつ高精度で計測する技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のある態様の計測方法は、対象物に向けてレーザを照射する照射部と、対象物からのレーザの反射光を撮像する撮像部とを含むスキャナの位置および向きを変えながら、対象物の表面および裏面の撮像画像を取得することと、取得した撮像画像に基づいて、対象物の表面および裏面を含む三次元形状データを算出することと、三次元形状データに基づいて、対象物の表面と裏面の間の厚みの分布を示す厚みデータを算出することと、を備える。
【0008】
本発明の別の態様は、計測システムである。この計測システムは、対象物に向けてレーザを照射する照射部と、対象物からのレーザの反射光を撮像する撮像部とを含むスキャナと、スキャナを用いて撮像される対象物の撮像画像に基づいて、対象物の厚みデータを算出する制御装置と、を備える。制御装置は、スキャナの位置および向きを変えながら撮像される対象物の表面および裏面の撮像画像を取得し、取得した撮像画像に基づいて、対象物の表面および裏面を含む三次元形状データを算出し、三次元形状データに基づいて、対象物の表面と裏面の間の厚みの分布を示す厚みデータを算出する。
【0009】
なお、以上の構成要素の任意の組み合わせや本発明の構成要素や表現を、方法、装置、システムなどの間で相互に置換したものもまた、本発明の態様として有効である。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、対象物の厚みを短時間かつ高精度で計測できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】
図1(a)~(c)は、管のサンプリング検査の様子を模式的に示す図である。
【
図2】実施の形態に係る計測システムの構成を模式的に示す図である。
【
図4】支持位置を変えて対象物を計測する様子を模式的に示す図である。
【
図5】制御装置の機能構成を概略的に示すブロック図である。
【
図6】実施の形態に係る計測方法の流れを示すフローチャートである。
【
図7】
図7(a),(b)は、変形例に係る対象物の計測方法を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を実施するための形態について詳細に説明する。なお、以下に述べる構成は例示であり、本発明の範囲を何ら限定するものではない。また、図面の説明において同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を適宜省略する。また、以下の説明において参照する図面において、各構成部材の大きさや厚みは説明の便宜上のものであり、必ずしも実際の寸法や比率を示すものではない。
【0013】
本実施の形態は、石油精製プラントや石油化学プラント等に設置される熱交換器チューブの腐食減肉検査に関し、一部の管を抜き取って検査するサンプリング検査に関する。サンプリング検査では、抜き取った管を縦半分に切断する半割加工を施し、半割加工により露出した管の内面を検査する。
【0014】
図1(a)~(c)は、管10のサンプリング検査の様子を模式的に示す図である。
図1(a)は、検査対象となる管10を模式的に示す。熱交換器チューブとして用いられる管10は、例えば、直径Dが2cm~3cm程度であり、長さLが1m以上である。管10の長さLは様々であり、1.5m程度に切り揃えられたものや、3m、6mまたは9mといった定尺寸法のものもある。未使用の腐食減肉のない管10の厚みは、2mm~3mm程度である。
【0015】
図1(b)は、半割加工がされた半割管12を模式的に示す。半割管12は、
図1(a)の管10を破線Aに沿って長手方向に切断したものであり、一つの管10から二つの半割管12ができあがる。半割加工により、管10の内面14が露出し、内面14に生じる減肉部18を目視で直接的に確認することができる。
【0016】
図1(c)は、半割管12の断面図であり、
図1(b)の破線Bで示される断面に相当する。図示されるように、減肉部18の厚みt’は、腐食減肉が発生していない箇所の厚みtよりも小さい。熱交換器チューブのサンプリング検査では、このような減肉部18の厚みt’を計測し、チューブの腐食状況を把握する。具体的には、減肉部18における半割管12の内面14と外面16の間の距離を計測することで減肉部18の厚みt’を特定する。
【0017】
半割管12の従来の検査では、内面14の全体にわたって減肉部の有無を目視で確認し、目視で確認した箇所の厚みt’をポイントマイクロメータなどで計測する。例えば、管10の長さLが6m程度の場合、1本の管につき100箇所ないし200箇所が計測箇所となる。そのため、全ての計測箇所の厚みt’を計測するには時間がかかり、複数本の管の計測を完了するにはさらなる作業時間を要する。
【0018】
熱交換器チューブのサンプリング検査は、通常、石油精製プラントや石油化学プラント等の稼働停止を伴うため、限られた期間内に完了する必要がある。また、検査結果に応じて熱交換器チューブを新品に交換する必要がある場合であっても、当初の稼働停止期間内に交換工事も含めて完了することが好ましく、その事前の検査工程はより早期に完了することが求められる。そのため、多数の検査員を動員して短期間で検査を完了させなければならない。その一方で、多数の検査員が検査することで、検査員の技量によっては検査精度がばらつくおそれが生じる。また、管全体の厚みを網羅的に把握することは事実上不可能であるため、管の残肉量を必ずしも高精度で計測することができない。
【0019】
そこで、本実施の形態では、対象物の形状をレーザスキャンによって計測する「3Dレーザ計測」の技術を熱交換器チューブの腐食減肉検査に適用する。本実施の形態によれば、レーザスキャンによって半割管12の立体形状の点群データが得られるため、管全体の厚みを網羅的に把握することができる。また、多数の計測箇所をポイントマイクロメータなどで地道に一つずつ計測する必要がなくなるため、極めて短い時間で検査を完了することができる。
【0020】
図2は、実施の形態に係る計測システム50の構成を模式的に示す図である。計測システム50は、支持台60の上に水平に配置される複数の半割管12を計測対象物とする。本実施の形態では、複数本の半割管12を同時計測することで、より短い時間で計測作業を完了できる。
【0021】
図面において、鉛直方向(重力方向)をz方向とし、z方向に直交する方向をx方向およびy方向としている。
図2において、複数本の半割管12の長手方向をy方向としており、複数本の半割管12は、x方向に並べられている。半割管12は、内面14が下側(-z方向)、外面16が上側(+z方向)となる向きで並べられている。
【0022】
計測システム50は、スキャナ20と、トラッカ30と、制御装置40とを備える。
スキャナ20は、第1照射部22と、第1撮像部24と、マーカ26と、把持部28とを含む。スキャナ20は、例えば、検査員が手で持って扱われ、スキャナ20を動かしながら連続的にデータが取得される。なお、本書においてスキャナ20を動かしながら連続的にデータを取得することを単に「スキャンする」ともいう。また、以下の説明における「複数の撮像位置」とは、スキャナ20をスキャンしながら撮像データを連続的に取得する際に時々刻々と変化するスキャナ20の各位置のことをいい、各データが取得される瞬間またはタイミングでのスキャナ20の各位置のことをいう。
【0023】
第1照射部22は、対象物に向けてレーザパターンC1を照射する。第1撮像部24は、対象物からのレーザパターンC1の反射光を撮像する。第1撮像部24は、CCDセンサやCMOSセンサなどの撮像素子と、撮像素子にレーザパターンの反射光を導くための撮像光学系とを有するカメラ等で構成される。スキャナ20には二つの第1撮像部24が設けられており、いわゆるステレオカメラの構成となっている。
【0024】
マーカ26は、スキャナ20の位置および向きをトラッカ30で捕捉するために設けられる。マーカ26は、スキャナ20に複数設けられ、複数のマーカ26の位置をトラッカ30で捕捉することにより、スキャナ20の位置および向きが特定される。
【0025】
把持部28は、検査員がスキャナ20を使用するときに手で掴む部分である。把持部28は、第1照射部22および第1撮像部24の裏側に設けられる。そのため、検査員が把持部28を掴むと、検査員の正面に位置する対象物に向けて第1照射部22からのレーザパターンを照射し、対象物からのレーザパターンの反射光を第1撮像部24で撮像できる。
【0026】
トラッカ30は、第2撮像部34を含む。トラッカ30は、スキャナ20を使用する範囲が正面となるように配置される。トラッカ30は、スキャナ20を用いた一連の計測中には動かさないようにする。ただし、一つのトラッカ位置で計測可能となる対象物の範囲は、トラッカの性能にもよるが3m程度であるため、それを越える範囲の対象物を計測する場合、計測範囲を複数に分割し、分割された計測範囲ごとにトラッカの位置を変えて対象物を計測する。なお、複数台のトラッカを同時に組み合わせて用いることで、各トラッカに対応する複数の計測範囲にわたって連続的に対象物を計測することもできる。
【0027】
第2撮像部34は、スキャナ20のマーカ26からの反射光を撮像する。第2撮像部34は、上述の第1撮像部24と同様に構成され、例えば、CCDセンサやCMOSセンサなどの撮像素子と、撮像素子にマーカ26からの反射光を導くための撮像光学系とを有するカメラ等で構成される。図示していないが、トラッカ30には二つの第2撮像部34が設けられ、いわゆるステレオカメラの構成となっている。
【0028】
二つの第2撮像部34は、例えば、赤外線カメラにより構成される。この場合、スキャナ20に設けられるマーカ26は、第2撮像部34にて撮像可能な赤外線を反射させるように構成されてもよい。トラッカ30は、スキャナ20に向けて赤外線を照射する第2照射部を備えてもよい。第2照射部は、例えば、赤外線LEDなどの光源を含んでもよい。
【0029】
制御装置40は、スキャナ20およびトラッカ30から取得する撮像画像に基づいて、対象物の三次元形状データを算出する。制御装置40は、対象物の三次元形状データに基づいて、対象物の厚みの分布を示す厚みデータを算出する。制御装置40は、第1ケーブル51を介してスキャナ20と接続され、第2ケーブル52を介してトラッカ30と接続されている。制御装置40は、有線接続ではなく、無線接続によりスキャナ20およびトラッカ30からのデータを取得してもよい。
【0030】
図3は、対象物の計測方法を模式的に示す図であり、
図2の構成をx方向から見たときに相当する。検査員は、スキャナ20を矢印Sで示すようにスキャンさせながらデータ取得することにより、長手方向に延びる半割管12の全体をスキャナ20を用いて撮像する。検査員は、半割管12の外面16の上方でスキャナ20aをスキャンさせることで、半割管12の外面16をスキャナ20で撮像する。また、半割管12の内面14の下方でスキャナ20bをスキャンさせることで、半割管12の内面14をスキャナ20で撮像する。
【0031】
スキャナ20による計測時において、半割管12からスキャナ20までの距離hを適切に保つことで、半割管12の内面14および外面16の計測精度を高めることができる。スキャナ20の性能にもよるが、対象物からスキャナ20までの距離を1m以内、好ましくは20cm~40cm程度とすることで、半割管12の内面14および外面16の形状をサブミリメートル以下の精度で計測できる。
【0032】
半割管12は、半割管12の長手方向(y方向)に間隔を空けて並べられた複数の支持台60a,60b,60cの上に配置されている。半割管12は、支持台上に位置する第1部分L1と、支持台上に位置しない第2部分L2とを有する。第1部分L1の下面は支持台60に接触しているため、第1部分L1の内面14をスキャナ20bで撮像することができない。そこで、本実施の形態では、第2部分L2を計測した後に支持台60の位置をずらすことにより、支持台60により隠れていた第1部分L1が計測されるようにする。
【0033】
図4は、支持位置を変えて対象物を計測する様子を模式的に示す図であり、
図3に示す第1部分L1を避けて支持台60を配置した状態を示す。このようにして支持台60の位置を変えて半割管12を計測することで、半割管12の全体を網羅的に計測することができる。例えば、支持台60の上に第2部分L2が位置するようにすることで、第1部分L1の内面14をスキャナ20で撮像できる。
【0034】
図5は、制御装置40の機能構成を概略的に示すブロック図である。制御装置40は、第1取得部41、第2取得部42、位置計算部43、形状計算部44、厚み計算部46、出力部48を備える。
【0035】
図5に示される各ブロックは、ハードウェア的には、コンピュータのCPUをはじめとする素子や機械装置で実現でき、ソフトウェア的にはコンピュータプログラム等によって実現されるが、ここでは、それらの連携によって実現される機能ブロックを描いている。したがって、これらの機能ブロックはハードウェア、ソフトウェアの組み合わせによっていろいろなかたちで実現できることは、当業者に理解されるところである。制御装置40の一例として、汎用のノートパソコンやタブレット型パソコンを用いることができる。
【0036】
第1取得部41は、複数の撮像位置でスキャナ20が撮像した撮像画像を取得する。第2取得部42は、トラッカ30が撮像した複数の撮像位置でのスキャナ20を含む撮像画像を取得する。
【0037】
位置計算部43は、第2取得部42が取得したトラッカ30の撮像画像に基づいて、複数の撮像位置におけるスキャナ20の位置および向きを算出する。位置計算部43は、スキャナ20の複数のマーカ26のそれぞれの空間座標を算出し、複数のマーカ26の空間座標からスキャナ20の位置(空間座標値)と向き(撮像方向)とを特定する。位置計算部43は、例えば、トラッカ30の二つの第2撮像部34の視差を利用し、二つの第2撮像部34の撮像画像に含まれるマーカ26の空間座標を三角測量によって算出する。
【0038】
形状計算部44は、スキャナ20の撮像画像と、位置計算部43により算出されたスキャナ20の位置および向きとに基づいて、測定対象物の三次元形状データを算出する。形状計算部44は、スキャナ20の二つの第1撮像部24の視差を利用し、第1撮像部24の撮像画像に含まれる対象物の表面の空間座標を三角測量によって算出する。これにより、形状計算部44は、複数の撮像位置のそれぞれで撮像される撮像画像に基づいて、対象物の部分的な三次元形状データを算出する。
【0039】
形状計算部44が算出する部分的な三次元形状データは、撮像時のスキャナ20の位置および向きを基準とする座標系で定義される。そこで、形状計算部44は、位置計算部43により算出されるスキャナ20の撮像時の位置および向きを用いて、部分的な三次元形状データを共通座標系のデータに座標変換する。共通座標系の基準(原点)は特に問わないが、例えば、トラッカ30の位置を基準とすることができる。
【0040】
形状計算部44は、さらに、共通座標系で定義される部分的な三次元形状データを統合し、対象物全体の三次元形状データを算出する。例えば、複数の撮像位置に対応するスキャナ20の複数の撮像画像から得られる複数の部分的な三次元形状データをつなぎ合わせることで、対象物全体の三次元形状データを算出できる。
【0041】
厚み計算部46は、形状計算部44が算出した三次元形状データから対象物の厚みの分布を示す厚みデータを算出する。対象物の厚みは、対象物の表面と裏面の間の距離であり、半割管12の内面14と外面16の間の距離である。厚み計算部46は、例えば、半割管12の内面14の位置座標に対してその位置での厚みの数値を対応付けたコンター図を生成する。コンター図では、半割管12の内面14の長手方向および周方向の二次元座標上に厚みの数値が色の差異として表示される。厚み計算部46は、算出した厚みデータに基づいて、減肉量の分布を示すデータを作成してもよい。例えば、未使用の管10の厚みから三次元形状データに基づく厚みを減算することで、減肉量を求めることができる。
【0042】
出力部48は、形状計算部44が算出した三次元形状データや厚み計算部46が算出した厚みデータを外部に出力する。出力部48は、三次元形状データや厚みデータをデータファイルとして出力してもよいし、ディスプレイなどの表示装置にグラフとして表示するための画像ファイルとして出力してもよい。
【0043】
つづいて、本実施の形態に係る計測方法の流れを説明する。
図6は、実施の形態に係る計測方法の流れを示すフローチャートである。まず、計測システム50を用意し、トラッカ30の正面に計測の対象物となる半割管12を配置する(S10)。つづいて、スキャナ20を移動させながら対象物の表面と裏面を撮像する(S12)。具体的には、半割管12の内面14および外面16をスキャナ20を移動させながら撮像する。次に、スキャナ20の撮像画像を取得し、撮像画像に基づいて対象物の三次元形状データを算出する(S14)。算出した三次元形状データに基づいて、対象物の表面と裏面との間の厚みの分布を示す厚みデータを算出する(S16)。具体的には半割管12の内面14と外面16の間の厚みを三次元形状データから算出する。
【0044】
本実施の形態によれば、半割管12の内面14および外面16をレーザスキャンにより計測するため、内面14および外面16の三次元形状を短時間で網羅的に把握できる。また、半割管12の内面14のみを計測するのではなく、内面14と外面16の双方を計測して半割管12の三次元形状を算出することで、内面14と外面16の間の厚みをより正確に算出できる。例えば、管10の半割加工によって半割管12が湾曲し、内面14および外面16の形状が理想的な円筒形状から変形したとしても、内面14と外面16の間の厚みを正確に算出できる。これにより、半割管12の減肉腐食検査の検査精度を向上させるとともに、検査に必要な時間を大幅に短縮できる。
【0045】
本実施の形態によれば、複数の半割管12を並べて同時に計測し、複数の半割管12を一体的な計測対象物として測定することにより、1本ずつ計測する場合と比較して、スキャナ20を移動させて複数の半割管12の全体を撮像するのにかかる時間を短くできる。
【0046】
本実施の形態によれば、複数の半割管12を支持台60の上に載置することで隠れてしまう第1部分L1とそうでない第2部分L2とを2回に分けて計測することで、半割管12の長手方向の全体の厚みを算出できる。
【0047】
以上、本発明を実施の形態にもとづいて説明した。本発明は上記実施の形態に限定されず、種々の設計変更が可能であり、様々な変形例が可能であること、またそうした変形例も本発明の範囲にあることは、当業者に理解されるところである。
【0048】
図7(a),(b)は、変形例に係る対象物の計測方法を模式的に示す図である。上述の実施の形態では、長尺の半割管12を支持台60の上に水平に載置して計測する場合について示した。変形例では、半割管12を立てた状態で計測してもよく、半割管12の長手方向の両端部12a,12bの少なくとも一方を固定した状態で計測してもよい。
【0049】
図7(a)は、支持構造70に半割管12を懸架して計測する様子を示す。半割管12は、長手方向の両端部12a,12bにワイヤやフックといった固定治具72a,72bが取り付けられる。半割管12は、固定治具72a,72bを通じて半割管12の長手方向に印加される張力によって固定される。本変形例によれば、支持台60により計測箇所の一部が隠れてしまうことを防ぐことができ、1回の計測で半割管12の全体を計測できる。
【0050】
図7(b)は、支持構造80に半割管12を嵌合させて計測する様子を示す。半割管12は、下端部12bが支持構造80の固定部82に嵌めあわされて固定される。その結果、半割管12は、片持ち梁のようにして立った状態で支持される。本変形例においても、支持台60により計測箇所の一部が隠れてしまうことを防ぐことができ、1回の計測で半割管12の全体を計測できる。
【0051】
上述の実施の形態では、トラッカ30を用いてスキャナ20の位置および向きを捕捉する場合について示した。変形例では、スキャナ20をロボットアームなどの機械的な支持機構を用いて支持し、スキャナ20の位置および向きを制御してもよい。この場合、スキャナ20の位置および向きを制御しながら対象物が撮像されるため、トラッカ30を用いずにスキャナ20の位置および向きを把握できる。したがって、本変形例においても、上述の実施の形態と同様、対象物の三次元形状データを算出し、厚みデータを得ることができる。
【0052】
上述の実施の形態では、半割管12を計測対象物とする場合について示した。変形例では、半割管12以外を計測対象物としてもよく、経年使用に伴って腐食減肉しうる任意の構造物の表面を計測対象としてもよい。例えば、平板状の部材を計測対象物としてもよい。この場合、平板状の部材の表面と裏面の双方を計測することで、表面と裏面の厚みを算出し、減肉量を把握することができる。また、腐食減肉検査以外の用途に上述の計測システム50を用いてもよく、任意の部材の厚みを計測するために計測システム50を用いてもよい。
【符号の説明】
【0053】
10…管、12…半割管、14…内面、16…外面、18…減肉部、20…スキャナ、22…第1照射部、24…第1撮像部、26…マーカ、28…把持部、30…トラッカ、34…第2撮像部、40…制御装置、50…計測システム、60…支持台、L1…第1部分、L2…第2部分。