(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-24
(45)【発行日】2022-09-01
(54)【発明の名称】回転駆動装置
(51)【国際特許分類】
H02K 11/40 20160101AFI20220825BHJP
H02K 9/19 20060101ALI20220825BHJP
H02K 7/116 20060101ALI20220825BHJP
B60K 6/445 20071001ALI20220825BHJP
B60K 6/365 20071001ALI20220825BHJP
B60K 6/387 20071001ALI20220825BHJP
【FI】
H02K11/40
H02K9/19 Z
H02K7/116
B60K6/445 ZHV
B60K6/365
B60K6/387
(21)【出願番号】P 2018155581
(22)【出願日】2018-08-22
【審査請求日】2021-07-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000005348
【氏名又は名称】株式会社SUBARU
(74)【代理人】
【識別番号】110001357
【氏名又は名称】弁理士法人つばさ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】浅尾 進也
【審査官】中島 亮
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-011441(JP,A)
【文献】特開2017-187107(JP,A)
【文献】特開2016-201900(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02K 5/00 - 5/26
H02K 11/00 -11/40
H02K 9/19
H02K 7/116
B60K 6/445
B60K 6/365
B60K 6/387
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
油路を有する固定部と、
前記固定部に対し第1の相対位置と第2の相対位置との間を移動可能に設けられ、前記油路における油圧の変化に応じて、前記固定部に対する第1の相対位置と前記固定部に対する第2の相対位置との間を可逆的に移動可能に設けられた移動部と、
前記固定部に対し回転可能に設けられ、前記第1の相対位置において前記移動部を介して前記固定部と導通し、前記第2の相対位置において前記移動部との導通が遮断される回転体と
を備
え、
前記移動部は、前記油圧の変化に応じて、前記第2の相対位置と、前記第2の相対位置よりも前記固定部から突出した前記第1の相対位置との間を直進運動するようになっている
回転駆動装置。
【請求項2】
前記移動部は、第1の方向に沿って前記直進運動が可能であり、
前記回転体は、前記第1の方向に沿った回転軸を中心に回転可能である
請求項
1記載の回転駆動装置。
【請求項3】
前記移動部の外周面に設けられた導電体をさらに備え、
前記回転体は、前記移動部の前記外周面と対向する内周面を有すると共に前記移動部に対し回転可能に設けられ、
前記移動部が前記第1の相対位置にある場合、前記導電体は前記回転体の前記内周面上を摺動するようになっており、
または、
前記移動部の内周面に設けられた導電体をさらに備え、
前記回転体は、前記移動部の前記内周面と対向する外周面を有すると共に前記移動部に対し回転可能に設けられ、
前記移動部が前記第1の相対位置にある場合、前記導電体は前記回転体の前記外周面上を摺動するようになっている、
請求項
2記載の回転駆動装置。
【請求項4】
前記導電体は前記移動部の前記外周面に設けられ、前記移動部が前記第1の相対位置にある場合に前記導電体は前記回転体の内部に収容され、前記移動部が前記第2の相対位置にある場合に前記導電体は前記回転体の外部に露出している
請求項
3記載の回転駆動装置。
【請求項5】
前記移動部を前記第2の相対位置から前記第1の相対位置へ戻す方向の付勢力を、前記移動部に対し付与する付勢部材をさらに備えた
請求項1から請求項
4のいずれか1項に記載の回転駆動装置。
【請求項6】
前記油圧が第1の値である場合に、前記移動部は前記第1の相対位置にあり、
前記油圧が前記第1の値よりも低い第2の値である場合に、前記移動部は前記第2の相対位置にある
請求項1から請求項
5のいずれか1項に記載の回転駆動装置。
【請求項7】
前記油圧の変化は前記回転体の回転数の変化と連動しており、
前記油圧が前記第1の値であるときに前記回転体の回転数は第1の回転数となり、前記油圧が前記第2の値であるときに前記回転体の回転数は前記第1の回転数よりも低い第2の回転数となる
請求項
6記載の回転駆動装置。
【請求項8】
回転駆動源と、
前記回転体を回転駆動するとともに、前記回転駆動源により回転駆動される出力軸と
をさらに備え、
前記油圧の変化は前記出力軸の回転数の変化と連動しており、
前記油圧が前記第1の値であるときに前記出力軸の回転数は第1の回転数となり、前記油圧が前記第2の値であるときに前記出力軸の回転数は前記第1の回転数よりも低い第2の回転数となる
請求項
6記載の回転駆動装置。
【請求項9】
前記回転体を回転駆動する電動機をさらに備えた
請求項1から請求項
8のいずれか1項に記載の回転駆動装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、車両等の駆動系に搭載される回転駆動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車両等の駆動系に搭載されるモータジェネレータでは、ロータとステータとの間の電位差によってロータ軸に発生する軸電流および軸電圧に起因する電食が問題となる場合がある。そこで、電食を防止するため、例えばブラシ等によりロータとステータとを電気的に導通することで電位差を低減するようにした構造がこれまでに提案されている(例えば特許文献1~3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2011-135720号公報
【文献】特開2011-135722号公報
【文献】特開2015-19487号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、このようなモータジェネレータを有する回転駆動装置に対しては、高い動作信頼性を有することが望まれる。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示の一実施態様としての回転駆動装置は、固定部と、移動部と、回転体とを備える。固定部は油路を有する。移動部は、固定部に対し第1の相対位置と第2の相対位置との間を移動可能に設けられ、油路における油圧の変化に応じて、固定部に対する第1の相対位置と固定部に対する第2の相対位置との間を可逆的に移動可能に設けられている。回転体は、固定部に対し回転可能に設けられ、第1の相対位置において移動部を介して固定部と導通し、第2の相対位置において移動部との導通が遮断される。移動部は、油圧の変化に応じて、第2の相対位置と、第2の相対位置よりも固定部から突出した第1の相対位置との間を直進運動するようになっている。
【0006】
本開示の一実施態様としての回転駆動装置では、油路における油圧の変化に応じて、移動部が第1の相対位置と第2の相対位置との間を可逆的に移動可能となっている。移動部が第1の相対位置にあるときに回転体は固定部と導通し、移動部が第2の相対位置にあるときに回転体と固定部との導通が遮断されるようになっている。
【発明の効果】
【0007】
本開示の一実施形態としての回転駆動装置によれば、油路における油圧の変化に応じて、回転体と固定部とが導通した導通状態と、回転体と固定部との導通が遮断された遮断状態との切り替えがなされる。よって、常時導通状態となる場合よりも導通部分が摺動する頻度が小さくなり、導通部分の摩耗等に対して高い信頼性を有することとなる。
また、油路の油圧が低い、すなわち、エンジンが低回転、低負荷の場合の燃費が特に要求される場合において導通部分の摩擦が低くなるので、効果的に動力を伝達することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本開示の一実施の形態に係る車両駆動システムの概略構成例を表す模式図である。
【
図2A】
図1に示した回転駆動装置の詳細構成例を表す第1の模式断面図である。
【
図2B】
図1に示した回転駆動装置の詳細構成例を表す第2の模式断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本開示の実施の形態について、図面を参照して詳細に説明する。なお、説明は以下の順序で行う。
1.実施の形態(ロータとステータとの導通状態と、ロータとステータとの絶縁状態との切り替えを行うことのできる回転駆動装置を備えた車両駆動システムの例)
2.変形例
【0010】
<1.実施の形態>
[車両駆動システム100の概略構成]
図1は、本開示の一実施の形態に係る車両駆動システム100における動力伝達系の概略構成例を、模式的に表したものである。車両駆動システム100は、エンジン200とモータジェネレータ121とを備えたハイブリッド車両(以下、単に「車両」という。)に搭載され、その車両の駆動を行うものである。
図1に示したように、車両駆動システム100は、エンジン200の駆動力によって回転する出力軸110、発電用のモータジェネレータ121を含む回転駆動装置120、車両駆動用のモータジェネレータ131を含む回転駆動装置130、遊星歯車機構140、遊星歯車機構150、前輪160、およびプロペラシャフト170を備えている。なお、「エンジン200」は本開示の「回転駆動源」に対応する一具体例であり、「出力軸110」は本開示の「出力軸」に対応する一具体例である。
【0011】
なお、モータジェネレータ121およびモータジェネレータ131は、それぞれ本開示の「電動機」に対応する一具体例である。プロペラシャフト170は、図示しない後輪に駆動力を伝達する部材である。
【0012】
車両駆動システム100は、さらに、出力軸110とモータジェネレータ121との間に減速ギヤ180,182を備え、遊星歯車機構140とモータジェネレータ131との間に伝達ギヤ190,192および車輪駆動軸210を備え、遊星歯車機構150とプロペラシャフト170との間にカップリング230を備え、モータジェネレータ131と前輪160との間にパーキングギヤ250、伝達ギヤ220,222および駆動軸162を有している。
【0013】
モータジェネレータ121は、出力軸110から伝達されるエンジン200からの駆動力により回転駆動する駆動軸122を有している。駆動軸122は、本開示の「回転体」に対応する一具体例である。モータジェネレータ121は、例えば三相交流タイプの交流同期モータであり、主に発電機として動作する。モータジェネレータ121は、出力軸110から伝達されるエンジン200からの駆動力を利用して発電を行い、発電された電力は後述のバッテリ70に充電されるほか、車両駆動用のモータジェネレータ131の駆動源として使用される。モータジェネレータ121は、後述のオイルポンプ42により循環されるオイルなどの液体によって冷却される液冷式の電動モータ、すなわち電動機である。なお、モータジェネレータ121は、交流同期モータに限定されるものではなく、交流誘導モータまたは直流モータであってもよい。
【0014】
遊星歯車機構140は、キャリア142、ピニオンギヤ144、サンギヤ145およびリングギヤ146を有している。エンジン200の駆動力は、出力軸110から減速ギヤ180,182を経由してキャリア142に伝達され、ピニオンギヤ144およびサンギヤ145を介して駆動軸122に伝達されるようになっている。また、キャリア142に伝達されたエンジン200の出力軸110の駆動力は、ピニオンギヤ144を介してリングギヤ146に伝達されるようになっている。リングギヤ146の駆動力は、伝達ギヤ190,192を介して車輪駆動軸210へ伝達されるようになっている。
【0015】
モータジェネレータ131は出力軸132を有する例えば三相交流タイプの交流同期モータであり、主に車両駆動用の駆動力を生成する動力源として動作する。モータジェネレータ131は、モータジェネレータ121と同様、オイルポンプ42により循環されるオイルなどの液体によって冷却される液冷式の電動モータ、すなわち電動機である。なお、モータジェネレータ131は、交流同期モータに限定されるものではなく、交流誘導モータまたは直流モータであってもよい。遊星歯車機構150は、ピニオンギヤ152と、キャリア154と、車輪駆動軸210に固定されたリングギヤ156とを有している。キャリア154は、回動しないように固定されている。すなわち、遊星歯車機構150のピニオンギヤ152は公転しない。出力軸132の駆動力は、ピニオンギヤ152を介して、車輪駆動軸210に固定されたリングギヤ156に伝達される。これにより、エンジン200の出力軸110の駆動力と車両駆動用のモータジェネレータ131の駆動力とが車輪駆動軸210で合算されるようになっている。
【0016】
車輪駆動軸210の駆動力は、伝達ギヤ220,222を介して前輪160の駆動軸162に伝達される。前輪160は、駆動軸162に伝達された車輪駆動軸210の駆動力によって回転駆動される。また、車輪駆動軸210の駆動力はカップリング230によって前後輪の回転数差が吸収され、プロペラシャフト170に伝達される。通常の走行時においては、エンジン200の回転数と発電用のモータジェネレータ121の回転数との比率により車輪駆動軸210の回転数が定まる。一例として、エンジン出力のうち30%が発電用のモータジェネレータ121による発電に費やされ、残りの70%が車輪の駆動に費やされる。なお、本実施形態では、車輪駆動軸210の駆動力が前輪160および後輪に伝達されるフルタイム4WDの車両駆動システム100を例示している。しかしながら、車輪駆動軸210の駆動力が前輪160および後輪のいずれかに伝達されるFF方式またはFR方式の車両駆動システムにも、車両駆動システム100を適用することもできる。
【0017】
車両駆動システム100は、
図1に示したように、エンジンコントロールユニット(以下、単に「ECU」という。)80と、ハイブリッド車コントロールユニット(以下、単に「HEV-ECU」という。)50と、CAN(Controller Area Network)90と、パワーコントロールユニット(以下「PCU」という)60と、バッテリ70と、オイルパン41と、オイルポンプ42と、オイルクーラ43とをさらに備えている。
【0018】
エンジン200は、燃料噴射装置、点火装置、およびスロットルバルブなどを備えており、その動作はECU80により制御される。ECU80には、出力軸110の回転位置(エンジン回転数)を検出するクランク角センサ、アクセルペダルの踏み込み量すなわちアクセルペダルの開度を検出するアクセルペダルセンサ、およびエンジン200の冷却水の温度を検出する水温センサ等の各種センサが接続されている。
【0019】
ECU80は、取得したこれらの各種情報、及びHEV-ECU50からの制御情報に基づいて、燃料噴射装置や点火装置およびスロットルバルブ等の各種デバイスを制御することによりエンジン200を制御する。また、ECU80は、CAN90を介して、アクセルペダル開度や、エンジン回転数、および冷却水温度などの各種情報を、HEV-ECU50へ送信するようになっている。
【0020】
オイルパン41は、モータジェネレータ121,131、減速ギヤ180,182、伝達ギヤ190,192,220,222、および遊星歯車機構140,150などについての潤滑および冷却を行うためのオイルを貯留する容器である。
【0021】
オイルポンプ42は、オイルパン41に貯留されているオイルを、モータジェネレータ121およびモータジェネレータ131などへ供給する機械式のオイルポンプである。オイルポンプ42は、エンジン200によって駆動され、オイルパン41に貯留されているオイルを吸い上げ、昇圧して吐出する。オイルポンプ42から吐出されたオイルはオイルクーラ43に圧送されたのち、油路44,45などをそれぞれ介してモータジェネレータ121およびモータジェネレータ131などへ供給される。モータジェネレータ121およびモータジェネレータ131などへ供給されたオイルは車両駆動システム100の内部を循環してオイルパン41へ戻るようになっている。この車両駆動システム100では、エンジン200の出力軸110の回転数と連動してオイルポンプ42からのオイルの吐出量が変化するようになっている。具体的には、エンジン200の出力軸110の回転数の上昇にともなってオイルポンプ42からのオイルの吐出量が増加し、エンジン200の出力軸110の回転数の下降にともなってオイルポンプ42からのオイルの吐出量も減少するようになっている。なお、機械式のオイルポンプ42としては、例えば、同軸式の内接ギヤ・トロコイドタイプのものや、チェーン駆動式のベーンタイプのものなどが好適に用いられる。
【0022】
車両駆動システム100では、電動オイルポンプをさらに設けるようにしてもよい。電動オイルポンプは、例えば、エンジン200が停止されているときに、電動モータにより駆動され、オイルパン41に貯留されているオイルを昇圧して吐出し、オイルクーラ43に圧送することができる。そのような電動オイルポンプの駆動は、HEV-ECU50によって制御される。
【0023】
オイルクーラ43は、オイルポンプ42の下流側に設けられ、オイルポンプ42から吐出されたオイルと例えば空気などの冷却媒体との間で熱交換を行い、オイルを冷却する空冷式のオイルクーラである。なお、オイルクーラ43は空冷式のオイルクーラに限定されず、例えば、オイルと冷却水との間で熱交換を行う水冷式のオイルクーラであってもよい。
【0024】
駆動力源であるエンジン200、モータジェネレータ121およびモータジェネレータ131は、HEV-ECU50によって総合的に制御される。
【0025】
HEV-ECU50は、例えば、演算を行うマイクロプロセッサと、そのマイクロプロセッサに各処理を実行させるためのプログラム等を記憶するROMと、演算結果などの各種データを記憶するRAMと、その記憶内容が保持されるバックアップRAMと、入出力I/Fとを有する。
【0026】
HEV-ECU50には、例えば、外気の温度を検出する外気温センサや、車両の速度を検出する車速センサなどを含む各種センサが接続されている。また、HEV-ECU50は、CAN90を介して、エンジン200を制御するECU80やビークルダイナミック・コントロールユニット(以下「VDCU」という)等と相互に通信可能に接続されている。HEV-ECU50は、CAN90を介して、ECU80およびVDCUから、例えば、エンジン回転数、冷却水温度、およびアクセルペダル開度等の各種情報を受信する。
【0027】
HEV-ECU50は、取得したこれらの各種情報に基づいて、エンジン200、モータジェネレータ121およびモータジェネレータ131の駆動を総合的に制御する。HEV-ECU50は、例えば、アクセルペダル開度(運転者の要求)、車両の運転状態、バッテリ70の充電状態(SOC)などに基づいて、エンジン200の要求出力、ならびに、モータジェネレータ121のトルク指令値およびモータジェネレータ131のトルク指令値を求めて出力する。
【0028】
ECU80は、上記したECU50から出力されるエンジン200の要求出力に基づき、例えばエンジン200におけるスロットルバルブの開度を調節する。また、PCU60は、上記したECU50から出力されるトルク指令値に基づき、後述のインバータ61を介して、モータジェネレータ121の駆動およびモータジェネレータ131の駆動を行う。
【0029】
PCU60は、インバータ61と、DC-DCコンバータ62とを有している。インバータ61は、バッテリ70からの直流電力を三相交流の電力に変換してモータジェネレータ131へ供給するものである。PCU60は、上述したように、HEV-ECU50から受信したトルク指令値に基づき、インバータ61を介して、モータジェネレータ121およびモータジェネレータ131を駆動する。なお、インバータ61は、モータジェネレータ121およびモータジェネレータ131において発電した交流電圧を直流電圧に変換し、バッテリ70を充電する。また、DC-DCコンバータ62は、補機類や各ECUの電源として使用するために、バッテリ70の直流高電圧を12Vまで降圧するものである。
【0030】
[車両駆動システム100の動作]
(車両前進動作)
車両駆動システム100により車両を前進させる際には、車輪駆動軸210の駆動力によって前輪160および後輪が駆動される。車輪駆動軸210の駆動力は、エンジン200において発生する駆動力から発電用のモータジェネレータ121による発電に費やされる駆動力を減算した駆動力と、車両駆動用のモータジェネレータ131において発生する駆動力とが車輪駆動軸210上で合算されたものである。ただし、車両駆動システム100は、走行条件に応じて、モータジェネレータ131のみの駆動力による走行と、エンジン200の駆動力およびモータジェネレータ131の駆動力の双方による走行との切り替えを行うことができる。また、エンジン200の駆動力の一部が発電用の回転駆動装置120の駆動軸122に伝達されることによって、発電用のモータジェネレータ121によって発電が行われる。
【0031】
(車両後進動作)
また、車両駆動システム100により車両を後進させる際には、車両駆動用のモータジェネレータ131を、前進の際と逆方向に回転させる。これにより、車輪駆動軸210を車両前進時に対して逆回転させ、車両の後進が行われる。
【0032】
[回転駆動装置120の概略構成]
次に、
図2Aおよび
図2Bを参照して、本開示の一実施態様としての回転駆動装置について説明する。
図2Aおよび
図2Bは、いずれも、
図1に示した車両駆動システム100のうちの回転駆動装置120の一部を拡大した模式断面図である。
【0033】
図2Aおよび
図2Bに示したように、回転駆動装置120は、駆動軸122のうちの遊星歯車機構140と反対側の端部に設けられたガイド1と、固定部2とをさらに有している。回転駆動装置120では、駆動軸122の回転軸122J上にガイド1と、固定部2とが配置されている。
【0034】
固定部2は、例えば車両駆動システム100の全体を収容する筐体、もしくはその筐体に固定された部材であり、モータジェネレータ121等の冷却を行うオイルが循環する油路21を有している。油路21は、
図1に示した油路44と連通しており、オイルパン41からオイルポンプ42とオイルクーラ43と油路44とを順次経由したオイルが供給されるようになっている。固定部2は、駆動軸122の端面3Sと対向する端面2Sの一部に設けられた凹部22を有している。凹部22は、例えば略円柱状の空間であり、底面22Sと壁面22Wとを有している。凹部22にはガイド1の一部が収容され、固定部2により、ガイド1が駆動軸122の回転軸122Jに沿って可逆的に移動可能に保持されている。凹部22の底面22Sには、油路21からオイルが吐出される吐出口22Kが設けられている。また、凹部22の壁面22Wのうち、端面2Sの近傍には、フランジ23が設けられている。さらに、固定部2の凹部22には、コイルばねなどの付勢部材24が設けられ、ガイド1を凹部22の底面22Sに向けて付勢するようになっている。付勢部材24は、フランジ23と当接する第1端部24T1と、ガイド1の一部と当接する第2端部24T2とを含んでいる。
【0035】
ガイド1は、回転軸122J上に延びる貫通孔1Hを有する筒状の部材であり、凹部22の底面22Sと対向する端面11Sを含むフランジ11と、端面11Sと反対側の端面12Sを含む先端部分12とを有する。フランジ11の、端面11Sと反対側の面13Sは、付勢部材24の第2端部24T2と当接している。ガイド1は、固定部2に対し、
図2Aに示した第1の相対位置L1と、
図2Bに示した第2の相対位置L2との間を移動可能に設けられている。なお、
図2Aおよび
図2Bでは、便宜上、端面12Sの位置を基準に第1の相対位置L1および第2の相対位置L2を表している。なお、ガイド1は本発明の「移動部」に対応する一具体例である。
【0036】
ガイド1は、固定部2の油路21における油圧P、すなわちモータジェネレータ121に供給されるオイルの圧力の変化に応じて、固定部2に対する第1の相対位置L1と固定部2に対する第2の相対位置L2との間を回転軸122Jに沿って可逆的に直進運動可能に設けられている。より具体的には、油路21における油圧Pが比較的高い第1の値P1である場合に、ガイド1は第1の相対位置L1にある(
図2A参照)。付勢部材24によるガイド1に対する-X方向の付勢力よりも油圧P(=P1)によるガイド1に対する+X方向の付勢力が上回るので、ガイド1が+X方向へ押し出された状態となるからである。これに対し、油路21における油圧Pが比較的低い第2の値P2(P2<P1)である場合には、ガイド1は第2の相対位置L2にある(
図2B参照)。付勢部材24によるガイド1に対する-X方向の付勢力が油圧P(=P2)によるガイド1に対する+X方向の付勢力を上回るので、ガイド1が-X方向へ押し戻された状態となるからである。なお、油路21における油圧Pの変化は出力軸110の回転数の変化と連動している。具体的には、油路21の油圧Pが第1の値P1であるときに出力軸110の回転数は比較的高い第1の回転数R1となり、油路21の油圧Pが第2の値P2であるときには出力軸110の回転数は第1の回転数R1よりも低い第2の回転数R2(<R1)となる。
【0037】
図3Aは回転軸122Jに沿って固定部2側から眺めたガイド1の平面図であり、
図3Bは回転軸122Jに沿って駆動軸122側から眺めたガイド1の平面図である。
図2A、
図2Bおよび
図3Bに示したように、ガイド1の外周面14には、導電性材料からなるアースブラシ15が立設している。アースブラシ15は、
図3Bに示したように、例えば回転軸122Jと直交する面内において回転軸122Jを取り巻く方向に全周に亘って設けられている。
図2Aに示したように、ガイド1が第1の相対位置L1にある場合、駆動軸122がアースブラシ15と接することになる。これに対し、
図2Bに示したように、ガイド1が第2の相対位置L2にある場合、駆動軸122はアースブラシ15から離間するようになっている。なお、アースブラシ15は、本開示の「導電体」に対応する一具体例である。さらに、ガイド1の外周面14のうち、回転軸122Jに沿った方向におけるアースブラシ15と端面12Sとの間には、シールリング16が設けられている。シールリング16は絶縁性の樹脂からなり、その外周面は駆動軸122の内周面31上を摺動するようになっている。また、
図3Aに示したように、回転軸122Jを中心として放射状に延びる4つの溝11Gが端面11Sに設けられている。これらの溝11Gにも油路21からのオイルが流れ込むようになっている(
図2B)。
【0038】
駆動軸122は、固定部2に固定されたベアリング25により、固定部2に対し回転軸122Jを中心として回転可能に支持されている。駆動軸122は、例えば内周面31と外周面32とを含む略円筒状の導電部材であり、自らの内部において回転軸122Jに沿って延びる油路33を有している。駆動軸122は、その内周面31が、ガイド1の外周面14に設けられたシールリング16と当接しつつ回転するようになっている。駆動軸122は、内周面31と外周面32とを繋ぐ複数の孔34をさらに有している。油路33には、ガイド1の端面12Sを含む先端部分12が挿入されるようになっている。このため、油路33は、
図2Aおよび
図2Bに示したように、ガイド1の貫通孔1Hを通じて固定部2の油路21と連通することとなる。したがって、油路44を経由して固定部2の油路21へ供給されたオイルは、貫通孔1Hを経由して油路33へ流れ込んだのち、複数の孔34から駆動軸122の外側へ排出されるようになっている。なお、複数の孔34から駆動軸122の外側へ排出されたオイルはオイルパン41へ戻り、再度、モータジェネレータ121等へ供給されるようになっている。
【0039】
[回転駆動装置120の作用効果]
本実施の形態の回転駆動装置120およびそれを備えた車両駆動システム100によれば、油路21における油圧Pの変化に応じて、駆動軸122と固定部2とが導通した導通状態と、駆動軸122と固定部2との導通が遮断された遮断状態との切り替えがなされる。よって、常時導通状態となる場合よりも高い動作信頼性を有することとなる。
【0040】
具体的には、回転駆動装置120では、駆動軸122は、第1の相対位置L1にあるガイド1を介して固定部2と導通するようになっている。
図2Aに示したように、ガイド1が第1の相対位置L1にある場合、すなわち、ガイド1が比較的高い油圧P(=P1)によって+X方向へ押し出されている場合、駆動軸122がアースブラシ15と接することになるからである。上述したように、油圧Pの変化は出力軸110の回転数の変化と連動しており、油圧Pが第1の値P1であるときに出力軸110の回転数は比較的高い第1の回転数R1となる。このような出力軸110の回転数の高い状態ではエンジン200は高回転高負荷で運転されており、モータジェネレータ121は高電圧を発生し、駆動軸122には高い軸電流および軸電圧が発生する。このため、仮に駆動軸122とガイド1および固定部2との導通が遮断されている場合、ロータである駆動軸122の電位は、ステータである固定部2の電位よりも比較的高くなる。よって、固定部2に固定されて駆動軸122を支持するベアリング25に、電食が発生してしまう。しかしながら、回転駆動装置120では、導電体であるアースブラシ15を介して駆動軸122とガイド1および固定部2とを導通させるようにしたので、固定部2と駆動軸122との電位差がなくなる。その結果、ベアリング25における電食の発生を効果的に防ぐことができる。
【0041】
一方、油路21の油圧Pが第2の値P2であるときには出力軸110の回転数は第1の回転数R1よりも低い第2の回転数R2(<R1)となる。そのような状態ではエンジン200が低負荷、低回転であるので、モータジェネレータ121に発生する電圧は低い。よって、駆動軸122とガイド1および固定部2との間において、ベアリング25における電食が発生するような電位差は生じない。そこで、
図2Bに示したように、ガイド1が第2の相対位置L2にある場合には、駆動軸122と固定部2との導通が遮断されるようになっている。比較的低い油圧P(=P2)であることからガイド1が付勢部材24の-X方向の付勢力によって-X方向へ後退し、駆動軸122がアースブラシ15から離間するからである。このように、低回転、低トルクで出力軸110が回転している場合、駆動軸122とアースブラシ15との接触を回避し、それらの間の摩擦抵抗をなくすことにより、効率的に動力を伝達することができる。また、一時的に駆動軸122とアースブラシ15との接触を回避することで、アースブラシ15の摩耗を低減することもできる。
【0042】
仮に、モータジェネレータを運転する際、駆動軸とアースブラシとを常時接触させるようにすると、駆動軸とアースブラシとの摩擦が常時発生することとなる。その場合、摩擦抵抗に起因して、動力伝達の際の伝達損失量の増加が懸念される。そのうえ、アースブラシの摩耗が顕著になり、点検頻度の上昇および交換頻度の上昇が懸念される。これに対し、本実施の形態の回転駆動装置120であればそのような問題は回避できる。
【0043】
さらに、この回転駆動装置120では、アースブラシ15はガイド1の外周面14に設けられ、ガイド1が第1の相対位置L1にある場合にアースブラシ15は駆動軸122の内部に収容され、ガイド1が第2の相対位置L2にある場合にアースブラシ15は駆動軸122の外部に露出するようになっている。よって、アースブラシ15の使用に伴う摩耗の程度の確認やアースブラシ15の交換の作業を容易に行うことができる。
【0044】
また、本実施の形態では、ガイド1を第2の相対位置L2から第1の相対位置L1へ戻す-X方向の付勢力を、付勢部材24によりガイド1に対し付与するようにしたので、姿勢によらず、油圧Pに応じたガイド1の位置を正確に制御できる。
【0045】
また、本実施の形態では、回転駆動装置120における駆動軸122とガイド1および固定部2との導通と、およびその導通の遮断との切り替えを、機械構造上の工夫により油圧の変化を利用して自動的に行うようにした。このため、電子制御に頼ることなく上記の効果を得ることができる。
【0046】
<2.変形例>
以上、実施の形態を挙げて本開示を説明したが、本開示はこれらの実施の形態等に限定されず、種々の変形が可能である。
【0047】
例えば上記実施の形態では、発電用のモータジェネレータ121を含む回転駆動装置120を本開示の「回転駆動装置」に対応する一具体例として例示して説明するようにしたが、駆動用のモータジェネレータ131を含む回転駆動装置130を本開示の「回転駆動装置」としてもよい。
【0048】
また、上記実施の形態では、移動部としてのガイド1の外周面14と当接する導電体としてのアースブラシ15を設け、ガイド1の先端部分12を回転体としての駆動軸122の油路33に挿入することで導電体と回転体との導通を図るようにしたが、本開示はこれに限定されるものではない。移動部の内周面に導電体を設け、移動部が第1の相対位置にある場合に、導電体が回転体の外周面上を摺動するようになっていてもよい。
【0049】
例えば上記実施の形態では、ハイブリッド車両に搭載される車両駆動システムおよびモータジェネレータを例示して説明するようにしたが、本開示はこれに限定されるものではない。例えば電気自動車におけるモータジェネレータおよびそれを備えた車両駆動システムにも適用可能であり、その場合はモータジェネレータの出力軸の回転数と連動してオイルポンプからのオイルの吐出量が変化するような構成としてもよい。また、液体を循環させることにより冷却を行うモータジェネレータであって、その液体の圧力の変化を伴うものであれば、本開示の「回転駆動装置」を適用できる可能性がある。
【0050】
なお、本明細書中に記載された効果はあくまで例示であって限定されるものではなく、また、他の効果があってもよい。
【符号の説明】
【0051】
1…ガイド、1H…貫通孔、11…フランジ、11S~13S…端面、12…先端部分、14…外周面、15…アースブラシ、16…シールリング、2…固定部、21…油路、22凹部、22S…底面、22W…壁面、23…フランジ、24…付勢部材、31…内周面、32…外周面、33…油路、34…孔、41…オイルパン、42…オイルポンプ、43…オイルクーラ、44,45…油路、50…HEV-ECU、60…PCU、80…ECU、90…CAN、100…車両駆動システム、110,132…出力軸、120,130…回転駆動装置、121,131…モータジェネレータ、122,162…駆動軸、122J…回転軸、140,150…遊星歯車機構、142,154…キャリア、144,152…ピニオンギヤ、145…サンギヤ、146,156…リングギヤ、160…前輪、170…プロペラシャフト、180,182…減速ギヤ、190,192,220,222…伝達ギヤ、200…エンジン、230…カップリング。