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特許7130461固体電解質用LATP結晶粒子及びその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-26
(45)【発行日】2022-09-05
(54)【発明の名称】固体電解質用LATP結晶粒子及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C01B 25/45 20060101AFI20220829BHJP
   H01B 1/06 20060101ALI20220829BHJP
【FI】
C01B25/45 T
H01B1/06 A
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2018117838
(22)【出願日】2018-06-21
(65)【公開番号】P2019218248
(43)【公開日】2019-12-26
【審査請求日】2021-04-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000000240
【氏名又は名称】太平洋セメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000084
【氏名又は名称】特許業務法人アルガ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山下 弘樹
(72)【発明者】
【氏名】大神 剛章
【審査官】廣野 知子
(56)【参考文献】
【文献】特表2017-534545(JP,A)
【文献】特表2013-507317(JP,A)
【文献】国際公開第2018/062092(WO,A1)
【文献】特開2016-155707(JP,A)
【文献】LIU Xingang et al.,ACS APPLIED MATERIALS & INTERFACES,American Chemical Society,2017年03月03日,9,11696-11703
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 25/00-25/48
H01B 1/00-1/24
H01M 10/05-10/058、10/36-10/39
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(1):Li1+aAl Ti(PO ・・・(1)
(式(1)中、MはSc、In、Fe、Cr、Ga、Y、La、Zn、Si、Mn、Ge、Nd、Sr又はVから選ばれる1種又は2種以上を示し、a、b、c及びdは、0≦a≦4、0<b≦2、0≦c≦2、0<d<2、a+3b+(Mの価数)×c+4d=8を満たす数を示す。)
で表され、平均粒径が5nm~70nmであり、BET比表面積が15m /g以上であり、かつ水溶性不純物の含有量が500ppm以下である、固体電解質用LATP結晶粒子。
【請求項2】
次の工程(I)~(III):
(I)チタン化合物と、リチウム化合物、アルミニウム化合物及びリン酸化合物の3種から選ばれる原料化合物と、セルロースナノファイバーと、水とを混合して、25℃におけるpHが5~9である混合液を調製する工程
(II)得られた混合液を100℃以上の水熱反応に付した後、セルロースナノファイバーが混在してなる水熱反応生成物を洗浄し、次いで乾燥して、セルロースナノファイバーが混在してなる前駆体混合物を得る工程
(III)得られたセルロースナノファイバーが混在してなる前駆体混合物を400℃~1000℃で焼成する工程
を備える、固体電解質用LATP結晶粒子の製造方法。
【請求項3】
工程(III)における焼成が、大気雰囲気下又は酸素雰囲気下である、請求項に記載の固体電解質用LATP結晶粒子の製造方法。
【請求項4】
工程(II)において水熱反応生成物を洗浄するにあたり、水熱反応生成物の乾燥質量1質量部に対して5質量部~50質量部の水を用いる、請求項又はに記載の固体電解質用LATP結晶粒子の製造方法。
【請求項5】
工程(I)において用いる原料化合物が、リチウム化合物、アルミニウム化合物及びリン酸化合物の3種であり、かつ
工程(II)で得られる前駆体混合物が、リチウム、チタン、並びにアルミニウム含有のリン酸塩又は水酸化物と、セルロースナノファイバーとの混合物である、請求項のいずれか1項に記載の固体電解質用LATP結晶粒子の製造方法。
【請求項6】
工程(I)において用いる原料化合物が、リチウム化合物、アルミニウム化合物及びリン酸化合物から選ばれる1種又は2種であり、かつ
工程(II)において洗浄した水熱反応生成物を乾燥する前に、リチウム化合物、アルミニウム化合物及びリン酸化合物から選ばれる少なくとも1種又は2種の原料化合物を添加及び混合する、請求項のいずれか1項に記載の固体電解質用LATP結晶粒子の製造方法。
【請求項7】
原料化合物として用いるチタン化合物及びアルミニウム化合物が、硫酸塩、硝酸塩、炭酸塩、酢酸塩、シュウ酸塩、塩化物、酸化物、水酸化物、又はハロゲン化物である、請求項のいずれか1項に記載の固体電解質用LATP結晶粒子の製造方法。
【請求項8】
工程(I)において混合液を調製するにあたり、さらに金属(M)化合物(Mは、Sc、In、Fe、Cr、Ga、Y、La、Zn、Si、Mn、Ge、Nd、Sr又はVから選ばれる1種又は2種以上を示す。)を混合する、請求項のいずれか1項に記載の固体電解質用LATP結晶粒子の製造方法。
【請求項9】
金属(M)化合物が、ハロゲン化物、硫酸塩、有機酸塩、水酸化物、塩化物、硫化物、酸化物又はこれらの水和物である、請求項に記載の固体電解質用LATP結晶粒子の製造方法。
【請求項10】
固体電解質用LATP結晶粒子が、下記式(1):
Li1+aAl Ti(PO ・・・(1)
(式(1)中、MはSc、In、Fe、Cr、Ga、Y、La、Zn、Si、Mn、Ge、Nd、Sr又はVから選ばれる1種又は2種以上を示し、a、b、c及びdは、0≦a≦4、0<b≦2、0≦c≦2、0<d<2、a+3b+(Mの価数)×c+4d=8を満たす数を示す。)
で表される、請求項のいずれか1項に記載の固体電解質用LATP結晶粒子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、全固体リチウムイオン二次電池等の二次電池に用いるための、固体電解質用LATP結晶粒子及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
現在実用化されているリチウムイオン二次電池は、電解液に可燃性の有機溶媒を用いているため、液漏れや発火等に対する安全対策を充分に講じる必要があり、また電池の小型化や薄膜化の難易度も高い。ところが、酸化物系や硫化物系の固体電解質を備えた全固体リチウムイオン二次電池であると、エネルギー密度が高い上に、可燃物を用いることなく製造することができるため、安全対策を講じる負担が軽減され、製造コストや生産性を容易に高めることが可能となる。こうしたことから、高い有用性に期待がかかる固体電解質材料については、種々の開発が活発化しつつある。
【0003】
なかでも、NASICON型の結晶構造を有するLi1.3Al0.3Ti1.7(PO43等のリン酸リチウム系複合酸化物(以後、「LATP」と称す。)は、化学的安定性に優れる酸化物系の固体電解質であるという特徴に加えて、室温において10-4S/cm台もの高いリチウムイオン伝導度を示すという優れた特性を有しており、大いに期待される固体電解質材料の一つである。こうしたLATP結晶粒子は、高純度化や粒子の微細化の実現が重要であるところ、従来、固相法、ゾルゲル法、ガラス化法等の方法により製造されていたLATP結晶粒子は、微細化を図るために粉砕処理を施さざるを得ず、かかる粉砕処理によってブロードな粒度分布を有する結晶粒子となってしまい、リチウムイオン伝導性の低下を招くおそれがあった。
【0004】
一方、得られる結果物の高純度化と微細化が期待できる製造方法として水熱法がある。例えば、LATP結晶粒子の製造方法に水熱法を適用した技術として、特許文献1には、水熱法によりAl及びTiを含む前駆体を製造した後、かかる前駆体にLi及びPを加えて焼成する方法が開示されており、また特許文献2及び非特許文献1には、水熱法によりAl、Ti、Li及びPを含む前駆体を製造した後、かかる前駆体を焼成する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】米国特許出願公開第2014/0162136号明細書
【文献】米国特許出願公開第2016/0043432号明細書
【非特許文献】
【0006】
【文献】Electrochemica Acta,176(2015),p.1364-1373
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記特許文献に記載の製造方法により得られるLATP結晶粒子は、水熱法により得られた前駆体を用いることにより、粒子の微細化を図ってはいるものの、成分溶出が生じるために前駆体の洗浄を回避せざるをえない。そのため、原料由来の水溶性不純物の除去が不十分となるおそれが高く、LATP結晶粒子の微細化のみならず高純度化をも実現するには、未ださらなる改善を要する状況にある。
【0008】
したがって、本発明の課題は、LATP結晶粒子の微細化のみならず、高純度化をも実現することにより、優れたリチウムイオン伝導性を発現し得る、二次電池の固体電解質として有用なLATP結晶粒子及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
そこで本発明者は、種々検討したところ、セルロースナノファイバーを用いて特定の混合液を調製しつつ特定の工程を経ることにより、上記特許文献に記載の製造方法により得られるLATP結晶粒子よりも微細な粒子であり、かつ水熱法を適用した製造方法でありながら、前駆体の洗浄による成分溶出の発生を懸念する必要がなく、高純度なLATP結晶粒子が得られることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0010】
すなわち、本発明は、式(1):Li1+aAlb1 cTid(PO43 ・・・(1)
(式(1)中、M1はSc、In、Fe、Cr、Ga、Y、La、Zn、Si、Mn、Ge、Nd、Sr又はVから選ばれる1種又は2種以上を示し、a、b、c及びdは、0≦a≦4、0<b≦2、0≦c≦2、0<d<2、a+3b+(M1の価数)×c+4d=8を満たす数を示す。)
で表され、平均粒径が5nm~70nmであり、かつ水溶性不純物の含有量が500ppm以下である、固体電解質用LATP結晶粒子を提供するものである。
【0011】
また本発明は、次の工程(I)~(III):
(I)チタン化合物と、リチウム化合物、アルミニウム化合物及びリン酸化合物の3種から選ばれる原料化合物と、セルロースナノファイバーと、水とを混合して、25℃におけるpHが5~9である混合液を調製する工程
(II)得られた混合液を100℃以上の水熱反応に付した後、セルロースナノファイバーが混在してなる水熱反応生成物を洗浄し、次いで乾燥して、セルロースナノファイバーが混在してなる前駆体混合物を得る工程
(III)得られたセルロースナノファイバーが混在してなる前駆体混合物を400℃~1000℃で焼成する工程
を備える、固体電解質用LATP結晶粒子の製造方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明の製造方法によれば、水溶性不純物の含有を有効に低減しつつ、適度な粒径を有しながらリチウムイオン伝導性に優れるLATP結晶粒子を得ることができ、これを固体電解質として用いることにより、充放電特性に優れた二次電池を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】実施例1で得られたLATP結晶粒子を示すSEM像である。
図2】実施例1で得られたLATP結晶粒子のX線回折パターンである。
図3】比較例1で得られたLATP結晶粒子を示すSEM像である。
図4】比較例2で得られたLATP結晶粒子を示すSEM像である。
図5】比較例2で得られたLATP結晶粒子のX線回折パターンである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明の製造方法により得られる固体電解質用LATP結晶粒子(以下、単に「LATP結晶粒子」とも称する)は、NASICON型の結晶構造を有する酸化物であり、具体的には、例えば下記式(1)で表される。
Li1+aAlb1 cTid(PO43 ・・・(1)
(式(1)中、M1はSc、In、Fe、Cr、Ga、Y、La、Zn、Si、Mn、Ge、Nd、Sr又はVから選ばれる1種又は2種以上を示し、a、b、c及びdは、0≦a≦4、0<b≦2、0≦c≦2、0<d<2、a+3b+(M1の価数)×c+4d=8を満たす数を示す。)
【0015】
上記式(1)で表されるLATP結晶粒子は、少なくともリチウム、アルミニウム及びチタンを含むリン酸塩化合物であり、式(1)中、M1は、Sc、In、Fe、Cr、Ga、Y、La、Zn、Si、Mn、Ge、Nd、Sr又はVから選ばれる1種又は2種以上を示し、好ましくはSc、Ga又はYである。また、式(1)中、aは0≦a≦4であって、bは0<b≦2であり、cは0≦c≦2であり、dは0<d<2であり、そしてこれらa、b、c及びdは、a+3b+(M1の価数)×c+4d=8を満たす数である。具体的には、例えば、Li1.4Al0.4Ti1.6(PO43、Li1.3Al0.3Ti1.7(PO43、Li1.2Al0.2Ti1.8(PO43、Li1.1Al0.1Ti1.9(PO43、Li1.3Al0.27Ga0.03Ti1.7(PO43、Li1.3Al0.27Sc0.03Ti1.7(PO43、Li1.3Al0.270.03Ti1.7(PO43が挙げられる。
【0016】
本発明のLATP結晶粒子の製造方法は、次の工程(I)~(III):
(I)チタン化合物と、リチウム化合物、アルミニウム化合物及びリン酸化合物の3種から選ばれる原料化合物と、セルロースナノファイバーと、水とを混合して、25℃におけるpHが5~9である混合液を調製する工程
(II)得られた混合液を100℃以上の水熱反応に付した後、セルロースナノファイバーが混在してなる水熱反応生成物を洗浄し、次いで乾燥して、セルロースナノファイバーが混在してなる前駆体混合物を得る工程
(III)得られたセルロースナノファイバーが混在してなる前駆体混合物を400℃~1000℃で焼成する工程
を備える。
【0017】
工程(I)は、チタン化合物と、リチウム化合物、アルミニウム化合物及びリン酸化合物の3種から選ばれる原料化合物と、セルロースナノファイバーと、水とを混合して、25℃におけるpHが5~9である混合液(A)を調製する工程である。このように、LATP結晶粒子を形成させるためのチタン化合物と上記原料化合物とともに、セルロースナノファイバーと水を用いつつ、pHを上記範囲に制御した混合液(A)を得ることにより、後述する工程(II)における水熱反応に付して得られるセルロースナノファイバーが混在してなる水熱反応生成物において、化学組成の均質性を高めつつ、LATP結晶粒子の微細化に大いに寄与させることができる。
【0018】
用い得るチタン化合物としては、例えば、チタンの硫酸塩、硝酸塩、炭酸塩、酢酸塩、シュウ酸塩、酸化物、水酸化物、ハロゲン化物などが挙げられる。具体的には、例えば、硫酸チタニル、硫酸チタン、塩化チタン、酢酸チタン等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0019】
チタン化合物とともにLATP結晶粒子を形成させるための原料化合物の1種として用い得るリチウム化合物としては、水酸化物、塩化物、炭酸塩、硫酸塩、及び有機酸塩から選ばれる1種又は2種以上が挙げられる。より具体的には、例えば、水酸化リチウム又はその水和物、過酸化リチウム、塩化リチウム、炭酸リチウム、硫酸リチウム、酢酸リチウム、シュウ酸リチウム等を好適に用いることができる。
【0020】
上記原料化合物の1種として用い得るアルミニウム化合物としては、例えば、アルミニウムの硫酸塩、硝酸塩、炭酸塩、酢酸塩、乳酸塩、シュウ酸塩、酸化物、水酸化物、ハロゲン化物などが挙げられる。具体的には、例えば、硫酸アルミニウム、酢酸アルミニウム、乳酸アルミニウム等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0021】
上記原料化合物の1種として用い得るリン酸化合物としては、オルトリン酸(H3PO4、リン酸)、メタリン酸、ピロリン酸、三リン酸、四リン酸、リン酸アンモニウム、リン酸水素アンモニウム等が挙げられる。なかでも、得られる混合液(A)のpHを制御するためのpH調整剤としても作用させ得る観点から、リン酸を用いるのが好ましく、70質量%~90質量%濃度の水溶液として用いるのが好ましい。
【0022】
混合液(A)を調製するにあたり、LATP結晶粒子を形成させるためのチタン化合物と原料化合物以外の金属化合物として、さらに金属(M1)化合物を混合してもよい。ここで、M1は、アルミニウム及びチタン以外の金属であり、Sc、In、Fe、Cr、Ga、Y、La、Zn、Si、Mn、Ge、Nd、Sr及びVから選ばれる1種又は2種以上を示し、好ましくはSc、Ga又はYである。かかる金属(M1)化合物としては、ハロゲン化物、硫酸塩、有機酸塩、水酸化物、塩化物、硫化物、酸化物、又はこれらの水和物等が挙げられる。なかでも、混合液(A)中における反応を効率的に進行させる観点から、硫酸塩及び有機酸塩から選ばれる1種又は2種以上が好ましい。
【0023】
上記チタン化合物、及び原料化合物とともに用いるセルロースナノファイバーは、後述する工程(II)での水熱反応において、水熱反応生成物の核生成や結晶成長の場として機能する。そして、かかる工程(II)において、化学組成の均質性が高い微細な水熱反応生成物(LATPの前駆体)を生成させた後、後述する工程(III)を経ることによりほぼ全てのセルロースナノファイバーが焼失するため、本発明で得られるLATP結晶粒子内にはほとんど残存しない。すなわち、本発明のLATP結晶粒子が微細な粒子であることは、セルロースナノファイバーを用いることによって微細なLATPの前駆体が得られ、セルロースナノファイバーが障壁となってLATP結晶粒子の焼結を抑制することによる。
【0024】
また、セルロースナノファイバーは、後述の工程(III)においてほぼ全てが焼失することから、本発明で得られるLATP結晶粒子は電子伝導性を有さないため、二次電池の固体電解質として用いた際に正極-負極間で短絡が生じることはない。
【0025】
セルロースナノファイバーとは、全ての植物細胞壁の約5割を占める骨格成分であって、かかる細胞壁を構成する植物繊維をナノサイズまで解繊等することにより得ることができる軽量高強度繊維であり、セルロースナノファイバー由来の炭素は、周期的構造を有する。かかるセルロースナノファイバーの繊維径は、1nm~100nmであり、水への良好な分散性も有している。
【0026】
原料化合物は、リチウム化合物、アルミニウム化合物及びリン酸化合物の3種から選ばれる化合物であって、工程(I)においてチタン化合物及びセルロースナノファイバーとともに用いる化合物である。これらリチウム化合物、アルミニウム化合物及びリン酸化合物のうち、工程(I)において原料化合物として用いる化合物は、1種であってもよく2種であってもよく、或いはこれら3種全てであってもよい。
【0027】
ただし、工程(I)において、これら原料化合物の3種全てではなく、その一部である1種又は2種を用いる場合、最終生成物であるLATP結晶粒子を得るべく、全行程を通して原料化合物の3種全てを用いることとなるよう、後述する工程(II)において、水熱反応で得られたセルロースナノファイバーが混在してなる水熱反応生成物に、これら原料化合物のうちの少なくとも1種又は2種を添加及び混合するのがよい。例えば、工程(I)において、原料化合物としてリチウム化合物のみを用いた場合、工程(II)においては、原料化合物として、少なくともアルミニウム化合物及びリン酸化合物を用いる。また工程(I)において、原料化合物としてアルミニウム化合物及びリン酸化合物を用いた場合、工程(II)においては、原料化合物として、少なくともリチウム化合物を用いる。すなわち、後述するとおり、工程(I)において、これら原料化合物の3種全てを用いる場合は、工程(II)において、これらを一括して水熱反応に付すこととなる。一方、工程(I)において、原料化合物の1種又は2種を用いる場合は、工程(II)において、3種の原料化合物の一部を水熱反応に付すこととなる。
【0028】
金属(M1)化合物を用いる場合、金属(M1)化合物とアルミニウム化合物とが対になるように用いればよい。すなわち、工程(I)において原料化合物としてアルミニウム化合物を用いる場合は、混合液(A)に金属(M1)化合物も混合すればよく、工程(II)において原料化合物としてアルミニウム化合物を用いる場合は、工程(II)において、水熱反応で得られたセルロースナノファイバーが混在してなる水熱反応生成物にアルミニウム化合物と共に金属(M1)化合物も添加及び混合すればよい。
【0029】
以下、工程(I)において原料化合物として用いる化合物が、リチウム化合物、アルミニウム化合物及びリン酸化合物の3種全てである場合を「製造方法(X)」と称し、工程(I)において原料化合物として用いる化合物が、リチウム化合物、アルミニウム化合物及びリン酸化合物から選ばれる1種又は2種である場合を「製造方法(Y)」と称し、各々製造方法(X)が備える上記工程(I)~(III)を「工程(Ix)~(IIIx)」、製造方法(Y)が備える上記工程(I)~(III)を「工程(Iy)~(IIIy)」と別称し、具体的に説明する。
【0030】
製造方法(X)は、工程(Ix)~(IIIx)を備える固体電解質用LATP結晶粒子の製造方法である。かかる製造方法(X)では、工程(Ix)において用いる原料化合物が、リチウム化合物、アルミニウム化合物及びリン酸化合物の3種全てである。すなわち、工程(Ix)は、チタン化合物と、リチウム化合物、アルミニウム化合物及びリン酸化合物の3種の原料化合物と、セルロースナノファイバーと、水とを混合して、25℃におけるpHが5~9である混合液(Ax)を調製する工程である。
かかる工程(Ix)では、具体的には、リチウム化合物、アルミニウム化合物、チタン化合物、セルロースナノファイバー及び水を含有する混合液(ax-1)と、リン酸化合物及び水を含有する混合液(ax-2)を各々調製した後、これらの混合液を混合して混合液(Ax)を調製する。これにより、得られる混合液(Ax)中には、化学組成の均質性が高く充分に小径化されてなる反応生成物、すなわちリン酸三リチウム、リン酸アルミニウム及び酸化チタン水和物とセルロースナノファイバーとの混合物が含有されることとなり、次工程(II)における水熱反応生成物の微細化、ひいては工程(III)におけるLATP結晶粒子の微細化を効果的に図ることができる。
【0031】
混合液(ax-1)は、チタン化合物とともに、原料化合物であるリチウム化合物及びアルミニウム化合物と、必要に応じて金属(M1)化合物とをセルロースナノファイバーとともに水に混合することにより調製する。かかる混合液(ax-1)におけるこれらチタン化合物、リチウム化合物、アルミニウム化合物、及び金属(M1)化合物の合計含有量は、混合液(ax-2)との混合によって生じる反応生成物の化学組成の均質性を高める観点から、混合液(ax-1)中の水100質量部に対し、好ましくは1質量部~50質量部であり、より好ましくは5質量部~30質量部であり、さらに好ましくは5質量部~20質量部である。
セルロースナノファイバーの含有量は、混合液(ax-1)中の水100質量部に対し、好ましくは0.01質量部~20質量部であり、より好ましくは0.05質量部~15質量部であり、さらに好ましくは0.1質量部~10質量部である。
【0032】
また、混合液(ax-1)を調製するにあたり、アルミニウム化合物とチタン化合物の混合割合は、アルミニウム量とチタン量のモル比(Al:Ti)で、好ましくは1:100~1:1であり、より好ましくは1:50~1:2であり、さらに好ましくは1:19~1:3である。
【0033】
さらに、混合液(ax-1)を調製するにあたり、リチウム化合物、アルミニウム化合物、チタン化合物及び金属(M1)化合物の混合割合は、リチウム量と、アルミニウム、チタン及び金属(M1)の合計量とのモル比(Li:(Al+Ti+M1))で、好ましくは1:2~2:1であり、より好ましくは1:1.9~1:1.2であり、さらに好ましくは1:1.8~1:1.3である。
【0034】
混合液(ax-1)は、各成分をより均一に分散させる観点から、混合液(ax-2)と混合する前に、予め撹拌してもよい。混合液(ax-1)を撹拌する時間は、好ましくは5分間~3時間であり、より好ましくは10分間~2時間であり、さらに好ましくは15分間~90分間である。撹拌速度は、反応容器内壁面での混合液(ax-1)の流速に換算して、好ましくは10cm/秒~200cm/秒であり、より好ましくは15cm/秒~150cm/秒、さらに好ましくは20cm/秒~100cm/秒である。
【0035】
混合液(ax-2)は、リン酸化合物、及び水を混合することにより調製する。かかる混合液(ax-2)におけるリン酸化合物の含有量は、混合液(ax-2)中の水100質量部に対し、好ましくは3質量部~20質量部であり、より好ましくは5質量部~15質量部であり、さらに好ましくは7質量部~15質量部である。
【0036】
混合液(ax-2)の25℃におけるpHは、得られる混合液(Ax)の25℃におけるpHを5~9に調整する観点から、好ましくは12~14であり、より好ましくは12.5~14であり、さらに好ましくは13~14である。混合液(ax-2)のpHを上記範囲に調整する上で、さらにpH調整剤を用いてもよい。かかるpH調整剤は、特に限定されるものではないが、混合液(ax-2)のpH調整を容易に行う観点から、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム又は水酸化アンモニウム等の水酸化物を用いるのが好ましい。
【0037】
混合液(ax-2)は、各成分をより均一に溶解又は分散させる観点から、混合液(ax-1)と混合する前に、予め撹拌してもよい。混合液(ax-2)を撹拌する時間は、好ましくは1分間~30分間であり、より好ましくは2分間~20分間であり、さらに好ましくは2分間~10分間である。また撹拌速度は、反応容器内壁面での混合液(ax-2)の流速に換算して、好ましくは10cm/秒~200cm/秒であり、より好ましくは15cm/秒~150cm/秒、さらに好ましくは20cm/秒~100cm/秒である。
【0038】
製造方法(X)における工程(Ix)では、上記混合液(ax-1)と上記混合液(ax-2)とを混合して、混合液(Ax)とする。混合液(ax-1)と混合液(ax-2)の混合方法は、特に限定されるものではないが、撹拌している混合液(ax-1)に混合液(ax-2)を滴下するのが好ましい。このように、リチウム化合物、アルミニウム化合物、チタン化合物、セルロースナノファイバー、及び必要に応じてさらに金属(M1)化合物を含む混合液(ax-1)に、リン酸化合物を含む混合液(ax-2)を滴下して少量ずつ加えることにより、反応生成物の化学組成の均質性を一層高めることができる。
この際、混合液(ax-2)の混合液(ax-1)への滴下速度は、10質量部の混合液(ax-1)に対し、好ましくは0.1質量部/分~0.4質量部/分であり、より好ましくは0.15質量部/分~0.4質量部/分であり、さらに好ましくは0.2質量部/分~0.35質量部/分である。混合液(ax-2)を滴下する際の混合液(ax-1)の撹拌速度は、反応容器内壁面での混合液(ax-1)の流速に換算して、好ましくは10cm/秒~200cm/秒であり、より好ましくは15cm/秒~150cm/秒、さらに好ましくは20cm/秒~100cm/秒である。
【0039】
混合液(Ax)を得るにあたり、混合する混合液(ax-1)と混合液(ax-2)との質量比((ax-1):(ax-2))は、好ましくは20:1~1:4であり、より好ましくは10:1~1:3であり、さらに好ましくは5:1~2:3である。
【0040】
混合液(ax-1)と混合液(ax-2)を混合する際の混合液(ax-1)の温度は、好ましくは10℃~80℃であり、より好ましくは15℃~70℃であり、さらに好ましくは20℃~60℃である。また混合液(ax-2)の温度は、好ましくは10℃~80℃であり、より好ましくは15℃~70℃であり、さらに好ましくは20℃~60℃である。
【0041】
混合液(ax-1)と混合液(ax-2)を混合する時間は、好ましくは10分間~24時間であり、より好ましくは15分間~18時間であり、さらに好ましくは30分間~12時間である。またこの際、各成分をより均一に溶解又は分散させ、反応生成物の化学組成の均質性を高める観点から、撹拌してもよい。撹拌速度は、反応容器内壁面での混合液(Ax)の流速に換算して、好ましくは10cm/秒~200cm/秒であり、より好ましくは15cm/秒~150cm/秒、さらに好ましくは20cm/秒~100cm/秒である。
【0042】
混合液(ax-1)と混合液(ax-2)を混合することによって、リチウムリン酸塩、アルミニウムリン酸塩及び酸化チタン水和物とともに、セルロースナノファイバーを含有する混合液(Ax)が得られる。これらリン酸三リチウム、リン酸アルミニウム及び酸化チタン水和物は、平均粒径が100nm以下の微粒子であり、後述する工程(IIx)において水熱反応に付す工程を経ることにより、LATP結晶粒子の前駆体とセルロースナノファイバーとを含む前駆体混合物(Bx)を良好に生成する。かかる混合液(Ax)中におけるリチウムリン酸塩、アルミニウムリン酸塩及び酸化チタン水和物の合計含有量は、混合液(Ax)中に、好ましくは0.5質量%~40質量%であり、より好ましくは1質量%~35質量%であり、さらに好ましくは1.5質量%~30質量%である。セルロースナノファイバーの含有量は、混合液(Ax)中に、好ましくは0.02質量%~40質量%であり、より好ましくは0.1質量%~30質量%であり、さらに好ましくは0.2質量%~20質量%である。また、混合液(Ax)の25℃におけるpHは、5~9であって、好ましくは5.5~8.5であり、より好ましくは6~8である。かかる範囲内となるよう混合液(Ax)のpHを調整するにあたり、必要に応じて上記pH調整剤を用いてもよい。
なお、混合液(Ax)中において、セルロースナノファイバーとともにこれらのリチウムリン酸塩、アルミニウムリン酸塩及び酸化チタン水和物が生成され、混合物としてこれらが含有されてなることは、X線回折によって確認することができる。
【0043】
製造方法(X)における工程(IIx)は、工程(Ix)で得られた混合液(Ax)を100℃以上の水熱反応に付した後、セルロースナノファイバーが混在してなる水熱反応生成物を洗浄し、次いで乾燥して、セルロースナノファイバーが混在してなる前駆体混合物(Bx)を得る工程である。かかる工程(IIx)における水熱反応は、混合液(Ax)を充填した反応容器を圧力容器等に格納して加圧下で行う。
【0044】
なお、工程(IIx)に移行する前に、予め工程(Ix)で得られた混合液(Ax)を撹拌する場合、かかる撹拌は反応容器内で行えばよく、次いで反応容器を圧力容器等に格納すればよい。かかる撹拌は、セルロースナノファイバーが混在してなる前駆体混合物(Bx)を効率的に生成させる観点から、圧力容器等に格納された反応容器内において工程(IIx)における水熱反応が完了するまで継続するのが好ましい。この際における混合液(Ax)の撹拌速度は、反応容器内壁面での混合液(Ax)の流速に換算して、好ましくは15cm/秒以上であり、より好ましくは15cm/秒~80cm/秒であり、さらに好ましくは15cm/秒~70cm/秒である。撹拌方法としては、この撹拌速度が実現可能であれば特に限定されないが、例えば撹拌羽根を用いる方法、又は特開2014-118328号公報に記載のポンプを使用して合成容器中のスラリーを撹拌する方法等を好適に使用することができる。
さらに、上記撹拌方法を用いる際に、混合液(Ax)全体において均一に水熱反応を生じさせる観点から、反応容器内に邪魔板を設置したり、撹拌翼の回転方向やポンプの送液方向を間欠的に逆転したりすることによって、混合液(Ax)の流れに擾乱を生じさせるのが有効である。
【0045】
水熱反応に付す際の混合液(Ax)の温度(反応温度)は、100℃以上であればよく、好ましくは130℃~250℃であり、より好ましくは140℃~230℃である。この際の圧力及び反応時間は、反応温度が100℃以上の場合は0.3MPa以上で10分間以上が好ましく、130℃~250℃で反応を行う場合は0.3MPa~2.0MPaで10分間~24時間が好ましく、140℃~230℃で反応を行う場合は0.4MPa~1.8MPaで10分間~16時間が好ましい。
【0046】
また、水熱反応における反応容器内の雰囲気は限定されるものではないが、雰囲気の調整の容易性の観点から、空気下又は水蒸気下が好ましい。
【0047】
次いで、混合液(Ax)を上記水熱反応に付した後、セルロースナノファイバーが混在してなる水熱反応生成物を洗浄し、次いで乾燥する。かかるセルロースナノファイバーが混在してなる水熱反応生成物は、水熱反応後の混合液(Ax)を固液分離すればよく、得られるセルロースナノファイバーが混在してなる水熱反応生成物は、リチウム及びチタン含有リン酸複合酸化物と水酸化アルミニウムとの混合物と、セルロースナノファイバーとの混合物、すなわちLATP結晶粒子の前駆体とセルロースナノファイバーとが混在してなる前駆体混合物(Bx)が含有されてなる。固液分離に用いる装置としては、例えば、フィルタープレス機、遠心濾過機等が挙げられる。なかでも、効率的にセルロースナノファイバーが混在してなる水熱反応生成物を得る観点から、フィルタープレス機を用いるのが好ましい。
【0048】
次いで、回収されたセルロースナノファイバーが混在してなる水熱反応生成物は、原料由来のアニオン成分等の水溶性不純物を効果的に除去する観点から、洗浄する。かかる洗浄には水を用いればよく、その水の量は、セルロースナノファイバーが混在してなる水熱反応生成物の乾燥質量1質量部に対し、好ましくは5質量部~50質量部であり、より好ましくは7質量部~50質量部であり、さらに好ましくは9質量部~50質量部である。かかる水の温度は、水溶性不純物を効果的に除去する観点から、好ましくは5℃~70℃であり、より好ましくは20℃~70℃である。
【0049】
洗浄したセルロースナノファイバーが混在してなる水熱反応生成物は、次に乾燥する。乾燥手段としては、噴霧乾燥、恒温乾燥、流動床乾燥、外熱式乾燥、凍結乾燥、真空乾燥等が挙げられるが、なかでも、後述する工程(III)における焼成を経ることによって得られるLATP結晶粒子が、必要以上に増大するのを有効に制御して充分に微細化を図る観点から、噴霧乾燥又は恒温乾燥とするのが好ましい。
【0050】
乾燥後に得られるセルロースナノファイバーが混在してなる前駆体混合物(Bx)は、リチウム、チタン、並びにアルミニウムを含有するリン酸塩又は水酸化物と、セルロースナノファイバーとの混合物であるか、或いはリチウム、チタン、アルミニウム、並びに金属(M1)を含有するリン酸塩又は水酸化物と、セルロースナノファイバーとの混合物である。かかるセルロースナノファイバーが混在してなる前駆体混合物(Bx)の平均粒径は、レーザー回折・散乱法に基づく粒度分布におけるD50値で、好ましくは5nm~150nmであり、より好ましくは5nm~100nmである。ここで、粒度分布測定におけD50値とは、レーザー回折・散乱法に基づく体積基準の粒度分布により得られる値であり、D50値は累積50%での粒径(メジアン径)を意味する。したがって、乾燥手段として噴霧乾燥を採用する場合、用いるスプレードライヤーの運転条件を適宜最適化することにより、かかるセルロースナノファイバーが混在してなる前駆体混合物(Bx)の粒径を調整すればよい。
また、セルロースナノファイバーが混在してなる前駆体混合物(Bx)は、好ましくはリン酸三リチウムを含有する混合物であり、この場合、セルロースナノファイバーが混在してなる前駆体混合物(Bx)中におけるリン酸三リチウムと、アルミニウム、チタン及び金属(M1)の水酸化物又はリン酸塩の混合物との質量比(リン酸三リチウム:アルミニウム、チタン及び金属(M1)の少なくともいずれかを含有する水酸化物又はリン酸塩の合計量)は、好ましくは1:3~2:1であり、より好ましくは1:2.5~1:1であり、さらに好ましくは1:2~1:1.2である。
【0051】
工程(IIIx)は、工程(IIx)で得られたセルロースナノファイバーが混在してなる前駆体混合物(Bx)を400℃~1000℃で焼成する工程である。かかる工程(IIIx)を経ることにより、セルロースナノファイバーのほぼ全てが焼失し、極めて微細な粒子であって高純度である、固体電解質として非常に有用なLATP結晶粒子を得ることができる。
【0052】
工程(IIIx)における焼成温度は、得られるLATP結晶粒子の結晶性を高めつつ、有効に粒子の微細化を図る観点から、400℃~1000℃であって、好ましくは500℃~900℃であり、より好ましくは600℃~800℃である。また焼成時間は、同様の観点から、好ましくは0.5時間~30時間であり、より好ましくは1時間~24時間であり、さらに好ましくは1時間~18時間である。
【0053】
上記焼成における雰囲気は、セルロースナノファイバーのほぼ全てを焼失させる観点から、大気雰囲気下又は酸素雰囲気下が好ましい。かかる焼成に用いる装置としては、上記雰囲気下において温度の調整が可能な物であれば特に限定されず、バッチ式、連続式、加熱方式(間接又は直接)のいずれの方式のものも使用することができ、例えば、外熱キルンやローラーハース等の焼成炉が挙げられる。
セルロースナノファイバーのほぼ全てが焼失したことは、炭素・硫黄分析装置を用いて測定した炭素量で確認することができる。本発明のLATP結晶粒子の炭素量は、電子伝導性を低くして二次電池の固体電解質として用いても正極-負極間に短絡を生じさせない観点から、炭素・硫黄分析装置による測定値で、好ましくは0質量%~0.5質量%であり、より好ましくは0質量%~0.3質量%であり、さらに好ましくは0質量%~0.1質量%である。
【0054】
製造方法(Y)は、工程(Iy)~(IIIy)を備える固体電解質用LATP結晶粒子の製造方法である。かかる製造方法(Y)では、工程(Iy)において用いる原料化合物が、リチウム化合物、アルミニウム化合物及びリン酸化合物から選ばれる1種又は2種であって、3種全てではない。すなわち、工程(Iy)は、チタン化合物と、リチウム化合物、アルミニウム化合物及びリン酸化合物から選ばれる1種又は2種の原料化合物と、セルロースナノファイバーと、水とを混合して、25℃におけるpHが5~9である混合液(Ay)を調製する工程である。
【0055】
ここで用いる原料化合物としての具体的な態様としては、リチウム化合物の1種のみ、リン酸化合物の1種のみ、リチウム化合物とアルミニウム化合物との2種、リチウム化合物とリン酸化合物との2種、アルミニウム化合物とリン酸化合物との2種の態様が挙げられる。なかでも、後述する工程(IIy)において、LATP結晶粒子の前駆体とセルロースナノファイバーとが混在してなる前駆体混合物(By)を効率的に得る観点から、原料化合物として、アルミニウム化合物とリン酸化合物を用いるのが好ましい。
なお、工程(Iy)において用いるチタン化合物、原料化合物、セルロースナノファイバー、及び必要に応じて用い得る金属(M1)化合物は、上記製造方法(X)の工程(Ix)と同様である。
【0056】
かかる混合液(Ay)中における水の含有量は、かかる混合液(Ay)中の原料化合物の合計含有量1質量部に対し、好ましくは5質量部~50質量部であり、より好ましくは5質量部~40質量部であり、さらに好ましくは5質量部~30質量部である。セルロースナノファイバーの含有量は、混合液(Ax)中に、好ましくは0.02質量%~40質量%であり、より好ましくは0.1質量%~30質量%であり、さらに好ましくは0.2質量%~20質量%である。また、混合液(Ay)の25℃におけるpHは、5~9であって、好ましくは5.5~8.5であり、より好ましくは6~8である。かかる範囲内となるよう混合液(Ay)のpHを調整するにあたり、必要に応じて製造方法(X)において用い得るpH調整剤と同様のものを用いてもよい。
【0057】
混合液(Ay)は、各成分をより均一に溶解又は分散させる観点から、撹拌してもよい。混合液(Ay)を撹拌する時間は、好ましくは10分間~180分間であり、より好ましくは20分間~120分間であり、さらに好ましくは30分間~120分間である。撹拌速度は、反応容器内壁面での混合液(Ay)の流速に換算して、好ましくは10cm/秒~200cm/秒であり、より好ましくは15cm/秒~150cm/秒、さらに好ましくは20cm/秒~100cm/秒である。
【0058】
混合液(Ay)の温度は、好ましくは10℃~80℃であり、より好ましくは15℃~70℃であり、さらに好ましくは20℃~60℃である。
【0059】
なお、混合液(Ay)にあたり、例えば原料化合物としてリン酸化合物を含む2種の化合物を用いる場合、上記製造方法(X)の工程(Ix)で用いる混合液(ax-1)及び混合液(ax-2)と同様にして、リン酸化合物以外の原料化合物とセルロースナノファイバーと水を含有する混合液(ay-1)と、リン酸化合物及び水を含有する混合液(ay-2)を各々調製した後、これらの混合液を混合してもよい。混合液(ay-1)は混合液(ax-1)に準じ、混合液(ay-2)は混合液(ax-2)に準じて調製する。また、これら混合液(ay-1)と混合液(ay-2)の混合方法及び諸条件は、製造方法(X)の工程(Ix)に準じて適宜選択すればよい。
例えば、混合液(ay-1)と混合液(ay-2)の混合方法は、特に限定されるものではないが、撹拌している混合液(ay-1)に混合液(ay-2)を滴下するのが好ましい。このように、リチウム化合物、アルミニウム化合物、チタン化合物、セルロースナノファイバー及び必要に応じてさらに金属(M1)化合物を含む混合液(ay-1)に、リン酸化合物を含む混合液(ay-2)を滴下して少量ずつ加えることにより、反応生成物の化学組成の均質性を一層高めることができる。
【0060】
製造方法(Y)における工程(IIy)は、工程(Iy)で得られた混合液(Ay)を100℃以上の水熱反応に付した後、セルロースナノファイバーが混在してなる水熱反応生成物を洗浄し、次いでリチウム化合物、アルミニウム化合物及びリン酸化合物から選ばれる少なくとも1種又は2種の原料化合物を添加及び混合した後に乾燥して、LATP結晶粒子の前駆体とセルロースナノファイバーとが混在してなる前駆体混合物(By)を得る工程である。かかる工程(IIy)における水熱反応は、混合液(Ay)を充填した反応容器を圧力容器等に格納して加圧下で行う。
【0061】
なお、工程(IIy)に移行する前に、予め工程(Iy)で得られた混合液(Ay)を撹拌する場合、かかる撹拌は反応容器内で行えばよく、次いで反応容器を圧力容器等に格納すればよい。かかる撹拌は、LATP結晶粒子の前駆体を効率的に生成させる観点から、圧力容器等に格納された反応容器内において工程(IIy)における水熱反応が完了するまで継続するのが好ましい。この際における混合液(Ay)の撹拌速度は、上記製造方法(X)における工程(IIx)と同様である。
【0062】
水熱反応に付す際の混合液(Ay)の温度(反応温度)は、100℃以上であればよく、好ましくは130℃~250℃であり、より好ましくは140℃~230℃である。この際の圧力及び反応時間は、反応温度が100℃以上の場合は0.3MPa以上で10分間以上が好ましく、130℃~250℃で反応を行う場合は0.3MPa~2.0MPaで10分間~24時間が好ましく、140℃~230℃で反応を行う場合は0.4MPa~1.8MPaで10分間~16時間が好ましい。
【0063】
また、水熱反応における反応容器内の雰囲気は限定されるものではないが、雰囲気の作製の容易性の観点から、空気下又は水蒸気下が好ましい。
【0064】
混合液(Ay)を上記水熱反応に付した後、セルロースナノファイバーが混在してなる水熱反応生成物を洗浄する。かかるセルロースナノファイバーが混在してなる水熱反応生成物は、水熱反応後の混合液(Ay)を固液分離すればよい。固液分離に用いる装置としては、例えば、フィルタープレス機、遠心濾過機等が挙げられる。なかでも、効率的にセルロースナノファイバーが混在してなる水熱反応生成物を得る観点から、フィルタープレス機を用いるのが好ましい。
【0065】
次いで、回収されたセルロースナノファイバーが混在してなる水熱反応生成物は、原料由来のアニオン成分等の水溶性不純物を効果的に除去する観点から、水を用いて洗浄する。かかる水の量は、セルロースナノファイバーが混在してなる水熱反応生成物の乾燥質量1質量部に対し、好ましくは5質量部~50質量部であり、より好ましくは7質量部~50質量部であり、さらに好ましくは9質量部~50質量部である。かかる水の温度は、水溶性不純物を効果的に除去する観点から、好ましくは5℃~70℃であり、より好ましくは20℃~70℃である。
回収されたセルロースナノファイバーが混在してなる水熱反応生成物の平均粒径は、レーザー回折・散乱法に基づく粒度分布におけるD50値で、好ましくは5nm~150nmであり、より好ましくは5nm~100nmである。ここで、粒度分布測定におけD50値とは、レーザー回折・散乱法に基づく体積基準の粒度分布により得られる値であり、D50値は累積50%での粒径(メジアン径)を意味する。
【0066】
次に、洗浄したセルロースナノファイバーが混在してなる水熱反応生成物に、リチウム化合物、アルミニウム化合物及びリン酸化合物から選ばれる少なくとも1種又は2種の原料化合物を添加及び混合する。これにより、極めて微細な粒子であって純度が高く、固体電解質として非常に有用なLATP結晶粒子を生成させるための、セルロースナノファイバーが混在してなる前駆体を得ることができる。
【0067】
ここで、セルロースナノファイバーが混在してなる水熱反応生成物に添加及び混合する原料化合物は、工程(Iy)において用いた原料化合物とともに、本発明の製造方法全行程を通して原料化合物の3種全てを用いることとなるよう、選択すればよい。例えば、工程(Iy)においてリチウム化合物の1種のみを用いた場合は、工程(IIy)では少なくともアルミニウム化合物とリン酸化合物との2種を用い、工程(Iy)においてリン酸化合物の1種のみを用いた場合は、工程(IIy)では少なくともリチウム化合物とアルミニウム化合物との2種を用いればよい。なかでも、効率的にセルロースナノファイバーが混在してなる前駆体混合物(By)を得る観点から、原料化合物として、少なくともリチウム化合物を用いるのが好ましい。
工程(Iy)及び工程(IIy)において用いる原料化合物の好適な態様としては、具体的には、工程(Iy)において水酸化リチウムを用い、工程(IIy)において水酸化アルミニウム及びリン酸を用いる態様、或いは工程(Iy)において硫酸リチウムを用い、工程(IIy)において硫酸アルミニウム及びリン酸アンモニウムを用いる態様が挙げられる。
【0068】
また、工程(IIy)において用いる原料化合物は、得られるLATP結晶粒子の高純度化を図る観点から、純度の高いものが好ましく、具体的には、純度が99%以上であればよく、好ましくは99.5%以上であり、より好ましくは99.9%以上である。
【0069】
工程(IIy)において用いる原料化合物の合計量は、LATP結晶粒子の組成ずれを抑制する観点から、水熱反応に付した後に得られるセルロースナノファイバーが混在してなる水熱反応生成物の乾燥質量1質量部に対し、好ましくは0.1質量部~4質量部であり、より好ましくは0.2質量部~3質量部であり、さらに好ましくは0.3質量部~2.5質量部である。
【0070】
工程(IIy)において用いる原料化合物及び必要に応じて用いる金属(M1)化合物の平均粒径は、後述する工程(IIIy)における焼成反応を効率的に進行させ、LATP結晶粒子を効率的に得る観点から、いずれの化合物も、好ましくは300nm以下であり、より好ましくは250nm以下であり、さらに好ましくは200nm以下である。
【0071】
洗浄したセルロースナノファイバーが混在してなる水熱反応生成物に原料化合物を添加し、混合する手段としては、均一な混合を実現する観点から、湿式混合が好ましい。かかるセルロースナノファイバーが混在してなる水熱反応生成物に原料化合物を添加及び混合する際、撹拌を効果的に行うことを可能とする観点、及び各成分を充分に分散させて混合状態を良好なものとする観点から、水を用いる。これらセルロースナノファイバーが混在してなる水熱反応生成物、原料化合物及び水の添加順序は特に制限されないが、予めセルロースナノファイバーが混在してなる水熱反応生成物及び水を添加及び混合したスラリーに、原料化合物を添加及び混合するのが好ましい。ここで用いる水の使用量は、スラリーの分散又は混合状態から適宜選択すればよい。
【0072】
かかるスラリーの混合時間は、充分に撹拌して混合を行う観点から、好ましくは15分間~5時間であり、より好ましくは30分間~3時間である。また、混合時の温度は、好ましくは5℃~50℃であり、より好ましくは10℃~30℃である。混合装置としては、特に限定されず、例えばマグネチックスターラーや回転翼を備えた装置等、スラリーの混合を行うことが可能な通常の装置を使用することができる。
スラリー中におけるセルロースナノファイバーが混在してなる水熱反応生成物、原料化合物、及び金属(M1)化合物の合計含有量は、スラリー中に、好ましくは1質量%~40質量%であり、より好ましくは2質量%~30質量%であり、さらに好ましくは3質量%~25質量%である。また、スラリー中におけるセルロースナノファイバーが混在してなる水熱反応生成物と原料化合物との質量比(セルロースナノファイバーが混在してなる水熱反応生成物:原料化合物)は、好ましくは10:1~1:4であり、より好ましくは5:1~1:3であり、さらに好ましくは3:1~1:2.5である。
【0073】
次いで、洗浄したセルロースナノファイバーが混在してなる水熱反応生成物に原料化合物を添加及び混合した後、例えば上述のようなスラリーを調製した後、乾燥して、LATP結晶粒子の前駆体とセルロースナノファイバーとが混在してなる前駆体混合物(By)を得る。乾燥手段としては、例えば、噴霧乾燥、恒温乾燥、真空乾燥、凍結乾燥等が挙げられる。なかでも、粉砕することなく均一に微細化されたセルロースナノファイバーが混在してなる前駆体混合物(By)を得る観点、及び調製したスラリーを用いつつ効率的にセルロースナノファイバーが混在してなる前駆体混合物(By)を得る観点から、噴霧乾燥とするのがよい。かかる噴霧乾燥によって、調製したスラリーを有効活用しながら、水熱反応生成物と原料化合物とセルロースナノファイバーとが均一に混在してなるセルロースナノファイバーが混在してなる前駆体混合物(By)を造粒物として容易に得ることが可能であり、これを後述する工程(IIIy)において焼成することによって、極めて微細な粒子であって高純度である、二次電池の固体電解質として非常に有用なLATP結晶粒子を得ることができる。
噴霧乾燥により造粒物を得た場合、かかる造粒物の平均粒径は、レーザー回折・散乱法に基づく粒度分布におけるD50値で、好ましくは5nm~150nmであり、より好ましくは5nm~100nmである。
【0074】
セルロースナノファイバーが混在してなる前駆体混合物(By)中におけるチタン量とアルミニウム量とのモル比(Ti:Al)は、好ましくは100:1~1:1であり、より好ましくは50:1~2:1であり、さらに好ましくは19:1~3:1である。
【0075】
また、セルロースナノファイバーが混在してなる前駆体混合物(By)中におけるリチウム量とアルミニウム量とのモル比(Li:Al)は、好ましくは1.01:0.01~1.7:0.7であり、より好ましくは1.05:0.05~1.5:0.5であり、さらに好ましくは1.1:0.1~1.5:0.5である。
【0076】
製造方法(Y)における工程(IIIy)は、工程(IIy)で得られたセルロースナノファイバーが混在してなる前駆体混合物(By)を400℃~1000℃で焼成する工程である。具体的な焼成条件は、上記製造方法(X)における工程(IIIx)と同様である。
【0077】
このように、本発明の製造方法は、平均粒径が有効に微細化され、かつ水溶性不純物の含有量が十分に低減されてなるLATP結晶粒子を得ることができる。したがって、優れた充放電特性を発現し得る全固体リチウムイオン二次電池用固体電解質を、簡便に製造することができる。
【0078】
具体的には、本発明の製造方法により得られるLATP結晶粒子は、優れたリチウムイオン伝導性を発現させる観点から、水溶性不純物の含有量が極めて少なく、例えば、原料化合物として硫酸塩を用いた場合、得られるLATP結晶粒子中の水溶性不純物の含有量(SO3量)は、好ましくは500ppm以下であり、より好ましくは300ppm以下である。
【0079】
また、本発明の製造方法により得られるLATP結晶粒子の平均粒径は、優れたリチウムイオン伝導性を発現させる観点から、好ましくは5nm~70nmであり、より好ましくは5nm~60nmであり、さらに好ましくは5nm~50nmである。ここで、LATP結晶粒子の平均粒径とは、SEM又はTEMの電子顕微鏡を用いた観察における、数十個の粒子の粒径(長軸の長さ)の測定値の平均値を意味する。
【0080】
さらに、本発明の製造方法により得られるLATP結晶粒子の平均結晶子径は、優れたリチウムイオン伝導性を発現させる観点から、好ましくは5nm~70nmであり、より好ましくは5nm~60nmであり、さらに好ましくは5nm~50nmである。ここで、LATP結晶粒子の平均結晶子径は、Cu-kα線による回折角2θの範囲が10°~80°のX線回折プロファイルについて、シェラーの式を適用して求めた値を意味する。
【0081】
また、本発明の製造方法により得られるLATP結晶粒子のBET比表面積は、LATP結晶粒子同士又はLATP結晶粒子と電極材料間の接触確率を充分に確保する観点から、好ましくは15m2/g以上であり、より好ましくは25m2/g以上であり、さらに好ましくは30m2/g以上である。
【0082】
これらLATP結晶粒子の平均結晶子径とLATP結晶粒子のBET比表面積との比(平均結晶子径/BET比表面積)は、1.0×10-10g/m~7×10-9g/mであって、好ましくは2.0×10-10g/m~6×10-9g/mであり、より好ましくは2.5×10-10g/m~5×10-9g/mである。
【0083】
本発明の製造方法により得られるLATP結晶粒子のタップ密度は、0.5g/cm3~3.0g/cm3であり、好ましくは0.6g/cm3~2.8g/cm3であり、より好ましくは0.7g/cm3~2.6g/cm3である。固体電解質であるLATP結晶粒子が、かかるタップ密度を有することは、全固体リチウムイオン二次電池における固体電解質相を形成するときにLATP結晶粒子の充填性を向上させ、これによって緻密なLATP固体電解質相を得ることが可能となり、全固体リチウムイオン二次電池として優れた充放電特性を発現することに大きく寄与するものと考えられる。
【0084】
こうして本発明の製造方法により得られるLATP結晶粒子を固体電解質として適宜適用できる二次電池としては、正極と負極と固体電解質を必須構成とするものであって、正極活物質層、固体電解質層、及び負極活物質層の順に積層配置された積層体が形成されるものであれば特に限定されない。
【0085】
ここで、正極活物質層については、リチウムイオン等の金属イオンを充電時には放出し、かつ放電時には吸蔵することができれば、その材料構成は特に限定されるものではなく、公知の材料構成のものを用いることができる。例えば、原料化合物を水熱反応させることにより得られる各種ポリアニオン型正極活物質からなる正極活物質層を好適に用いることができる。
【0086】
また、負極活物質層については、リチウムイオン等を充電時には吸蔵し、かつ放電時には放出することができれば、その材料構成は特に限定されるものではなく、公知の材料構成のものを用いることができる。例えば、原料を水熱反応させることにより得られるチタンニオブ酸化物やチタン酸ナトリウムリチウム複合酸化物からなる負極活物質層を好適に用いることができる。
【0087】
また、本発明のLATP結晶粒子を用いて二次電池を製造する方法としては、特に限定されず、公知の方法を使用できる。例えば、特開2017-10816号公報に記載されるように、正極活物質層、及び負極活物質層に内包される固体電解質粒子として、本発明のLATP結晶粒子を用い、固体電解質層には本発明以外の固体電解質を用いてもよい。
【0088】
上記の構成を有する二次電池の形状としては、特に制限を受けるものではなく、コイン型、円筒型,角型等種々の形状や、ラミネート外装体に封入した不定形状であってもよい。
【実施例
【0089】
以下、本発明について、実施例に基づき具体的に説明する。なお、表中に特に示さない限り、各成分の含有量は質量%を示す。
【0090】
[製造例1](LiCoPO4正極活物質粒子の製造)
LiOH・H2Oを12.72gと水40mLを混合して、スラリー(c-1)を得た。得られたスラリー(c-1)を、25℃の温度に保持しながら3分間撹拌しつつ85質量%のH3PO4を11.53g、35mL/分で滴下し、撹拌速度400rpmで1時間撹拌することにより、Li3PO4スラリー(c-2)を得た。次に、得られたLi3PO4スラリー(c-2)全量に対し、CoSO4・7H2Oを21.08g添加して、スラリー(c-3)とした後、これをオートクレーブに投入し、170℃で1時間の水熱反応を行った。オートクレーブ内の圧力は、0.8MPaであった。生成した水熱反応物をろ過し、次いで、水熱反応物1質量部に対して12質量部の水により洗浄した。洗浄した水熱反応物を-50℃で12時間凍結乾燥して、LiCoPO4正極活物質粒子(粒子径100nm)を得た。
【0091】
[実施例1]
水40mLにLi2SO4・H2Oを0.84g、Al2(SO43・16H2Oを0.95g、TiOSO4・1.5H2Oを3.18g及びセルロースナノファイバー(Ama-10002、スギノマシン製、含水率98質量%)を19.29g混合して、混合液(ax-1)1を得た。また、水40mLにLiOH・H2Oを3.3g及び85質量%のH3PO4 を3.46g混合して、混合液(ax-2)1を得た。25℃における混合液(ax-2)1のpHは7.0であった。
次いで、得られた混合液(ax-1)1を25℃の温度に保持しながら、撹拌速度200rpmで60分間撹拌した後、そのまま撹拌を継続している混合液(ax-1)1に、撹拌速度200rpmで5分間撹拌した混合液(ax-2)1を50mL/分で全量滴下して混合した後、さらに撹拌速度200rpmで30分間撹拌して、混合液(Ax)1を得た。かかる混合液(Ax)1の25℃におけるpHは4.5であり、生成したリチウムリン酸塩、アルミニウムリン酸塩及び酸化チタン水和物とセルロースナノファイバーの合計含有量は、3質量%であった。
【0092】
得られた混合液(Ax)1をオートクレーブに投入し、180℃、1.3MPaでの水熱反応を5時間行った。生成したセルロースナノファイバーが混在してなる水熱反応生成物を吸引ろ過し、次いで得られたセルロースナノファイバーが混在してなる水熱反応生成物をセルロースナノファイバーが混在してなる水熱反応生成物1質量部に対して12質量部の水で洗浄した後、80℃で12時間恒温乾燥してセルロースナノファイバーが混在してなる前駆体混合物(Bx)1を得た。X線回折法による定性分析から、得られたセルロースナノファイバーが混在してなる前駆体混合物(Bx)1中における混合物は、Li3PO4とAlPO4とTi(OH)1.36(HPO4)1.32・2.3H2Oとセルロースナノファイバーの混合物であり、X線回折-リートベルト法によるLi3PO4とAlPO4とTi(OH)1.36(HPO4)1.32・2.3H2Oの質量比は、Li3PO4:AlPO4:Ti(OH)1.36(HPO4)1.32・2.3H2O=1:0.7:8であった。
得られたセルロースナノファイバーが混在してなる前駆体混合物(Bx)1を、空気雰囲気下600℃で4時間焼成して、セルロースナノファイバーを完全に焼失させつつ、LATP結晶粒子X1を得た。得られたLATP結晶粒子X1は、Li1.3Al0.3Ti1.7(PO43単相であり、平均粒径は50nm、平均結晶子径は50nm、BET比表面積は40m2/gであった。また、ICP発光分光分析法による、得られたLATP結晶粒子X1が含有するSO3量(原料由来の水溶性不純物)は100ppmであった。
得られたLATP結晶粒子X1のSEM写真を図1に、X線回折パターンを図2に示す。
【0093】
[実施例2]
水40mLにAl2(SO43・16H2Oを0.95g、TiOSO4・1.5H2Oを3.18g及びセルロースナノファイバーを19.29g混合して、混合液(ay-1)1を得た。また、水40mLに29質量%のNH4OHを5.29g及び85質量%のH3PO4を2.96g混合して、混合液(ay-2)1を得た。次いで、得られた混合液(ay-1)1を25℃の温度に保持しながら、撹拌速度200rpmで60分間撹拌した後、そのまま撹拌を継続している混合液(ay-1)1に、撹拌速度200rpmで5分間撹拌した混合液(ay-2)1を50mL/分で全量滴下して混合した後、さらに撹拌速度200rpmで30分間撹拌して、原料化合物の合計含有量1質量部に対し、水の含有量が7.3質量部である混合液(Ay)1を得た。かかる混合液(Ay)1の25℃におけるpHは6.5であった。
得られた混合液(Ay)1をオートクレーブに投入し、180℃、1.3MPaでの水熱反応を5時間行った。生成したセルロースナノファイバーが混在してなる水熱反応生成物を吸引ろ過し、次いでこれをセルロースナノファイバーが混在してなる水熱反応生成物1質量部に対して12質量部の水で洗浄して、セルロースナノファイバーが混在してなる水熱反応生成物(by)1を得た。X線回折法による定性分析から、得られたセルロースナノファイバーが混在してなる水熱反応生成物(by)1は、AlPO4、Ti(OH)1.36(HPO4)1.32・2.3H2O及びセルロースナノファイバーの混合物であった。
【0094】
水30mLに得られたセルロースナノファイバーが混在してなる水熱反応生成物(by)1の全量を混合し、得られたスラリーを撹拌速度200rpmで撹拌しながら、さらにLiOH・H2Oを0.56g及び85質量%のH3PO4を0.5g混合した後、30分間撹拌を継続した。この際、セルロースナノファイバーが混在してなる水熱反応生成物(by)1の乾燥質量1質量部に対するLiOH・H2O及びH3PO4の合計量は、0.24質量部であった。撹拌終了後、スラリー全量を80℃で12時間恒温乾燥して、セルロースナノファイバーが混在してなる前駆体混合物(By)1を得た。X線回折法による定性分析から、得られたセルロースナノファイバーが混在してなる前駆体混合物(By)1は、Li3PO4、AlPO4、Ti(OH)1.36(HPO4)1.32・2.3H2O及びセルロースナノファイバーの混合物であり、X線回折-リートベルト法によるLi3PO4とAlPO4とTi(OH)1.36(HPO4)1.32・2.3H2Oの質量比は、Li3PO4:AlPO4:Ti(OH)1.36(HPO4)1.32・2.3H2O=1:0.7:8であった。
得られたセルロースナノファイバーが混在してなる前駆体混合物(By)1を空気雰囲気下600℃で4時間焼成して、セルロースナノファイバーを完全に焼失させつつ、LATP結晶粒子Y1を得た。得られたLATP結晶粒子Y1は、Li1.3Al0.3Ti1.7(PO43単相であり、平均粒径は60nm、平均結晶子径は50nm、BET比表面積は35m2/gであった。また、ICP発光分光分析法による、得られたLATP結晶粒子Y1が含有するSO3量(原料由来の水溶性不純物)は100ppmであった。
【0095】
[実施例3]
水40mLにAl2(SO43・16H2Oを0.95g、TiOSO4・1.5H2Oを3.18g及びセルロースナノファイバーを19.29g混合して、混合液(ay-1)2を得た。また、水40mLに29質量%のNH4OHを5.29g及びLiOH・H2Oを1.84g混合して、混合液(ay-2)2を得た。次いで、得られた混合液(ay-1)2を25℃の温度に保持しながら、撹拌速度200rpmで60分間撹拌した後、そのまま継続している混合液(ay-1)2に、撹拌速度200rpmで5分間撹拌した混合液(ay-2)2を50mL/分で全量滴下して混合した後、さらに撹拌速度200rpmで30分間撹拌して、原料化合物の合計含有量1質量部に対し、水の含有量が8質量部である混合液(Ay)2を得た。かかる混合液(Ay)2の25℃におけるpHは7.5であった。
得られた混合液(Ay)2をオートクレーブに投入し、180℃、1.3MPaでの水熱反応を5時間行った。生成したセルロースナノファイバーが混在してなる水熱反応生成物を吸引ろ過し、次いでこれをセルロースナノファイバーが混在してなる水熱反応生成物1質量部に対して12質量部の水で洗浄して、セルロースナノファイバーが混在してなる水熱反応生成物(by)2を得た。X線回折法による定性分析から、得られたセルロースナノファイバーが混在してなる水熱反応生成物(by)2は、LiAl2(OH)7・2H2O、(Li1.810.19)Ti25・2H2O及びセルロースナノファイバーの混合物であった。
【0096】
水30mLに得られたセルロースナノファイバーが混在してなる水熱反応生成物(by)2の全量を混合し、得られたスラリーを撹拌速度200rpmで撹拌しながら、さらに85質量%のH3PO4を3.46g混合した後、30分間撹拌を継続した。この際、セルロースナノファイバーが混在してなる水熱反応生成物(by)2の乾燥質量1質量部に対するH3PO4の合計量は、1.3質量部であった。撹拌終了後、スラリー全量を80℃で12時間恒温乾燥して、セルロースナノファイバーが混在してなる前駆体混合物(By)2を得た。X線回折法による定性分析から、得られたセルロースナノファイバーが混在してなる前駆体混合物(By)2は、Li3PO4、AlPO4、Ti(OH)1.36(HPO4)1.32・2.3H2O及びセルロースナノファイバーの混合物であり、X線回折-リートベルト法によるLi3PO4とAlPO4とTi(OH)1.36(HPO4)1.32・2.3H2Oの質量比は、Li3PO4:AlPO4:Ti(OH)1.36(HPO4)1.32・2.3H2O=1:0.7:8であった。
得られたセルロースナノファイバーが混在してなる前駆体混合物(By)2を空気雰囲気下600℃で4時間焼成して、セルロースナノファイバーを完全に焼失させつつ、LATP結晶粒子Y2を得た。得られたLATP結晶粒子Y2は、Li1.3Al0.3Ti1.7(PO43単相であり、平均粒径は60nm、平均結晶子径は50nm、BET比表面積は35m2/gであった。また、ICP発光分光分析法による、得られたLATP結晶粒子Y2が含有するSO3量(原料由来の水溶性不純物)は100ppmであった。
【0097】
[実施例4]
水40mLにTiOSO4・1.5H2Oを3.18g及びセルロースナノファイバーを19.29g混合して、混合液(ay-1)3を得た。また、水40mLに29質量%のNH4OHを5.29g、LiOH・H2Oを0.56g及び85質量%のH3PO4を3.11g混合して、混合液(ay-2)3を得た。次いで、得られた混合液(ay-1)3を25℃の温度に保持しながら、撹拌速度200rpmで60分間撹拌した後、そのまま撹拌を継続している混合液(ay-1)3に、撹拌速度200rpmで5分間撹拌した混合液(ay-2)3を50mL/分で全量滴下して混合した後、さらに撹拌速度200rpmで30分間撹拌して、原料化合物の合計含有量1質量部に対し、水の含有量が8質量部である混合液(Ay)3を得た。かかる混合液(Ay)3の25℃におけるpHは7.5であった。
得られた混合液(Ay)3をオートクレーブに投入し、180℃、1.3MPaでの水熱反応を5時間行った。生成したセルロースナノファイバーが混在してなる水熱反応生成物を吸引ろ過し、次いでこれをセルロースナノファイバーが混在してなる水熱反応生成物1質量部に対して12質量部の水で洗浄して、セルロースナノファイバーが混在してなる水熱反応生成物(by)3を得た。X線回折法による定性分析から、得られたセルロースナノファイバーが混在してなる水熱反応生成物(by)3は、Li3PO4、Ti(OH)1.36(HPO4)1.32・2.3H2O及びセルロースナノファイバーの混合物であった。
【0098】
水30mLに得られたセルロースナノファイバーが混在してなる水熱反応生成物(by)3の全量を混合し、得られたスラリーを撹拌速度200rpmで撹拌しながら、さらにAl(OH)3を0.23g及び85質量%のH3PO4を0.35g混合した後、30分間撹拌を継続した。この際、セルロースナノファイバーが混在してなる水熱反応生成物(by)3の乾燥質量1質量部に対するAl(OH)3及びH3PO4の合計量は、0.13質量部であった。撹拌終了後、スラリー全量を80℃で12時間恒温乾燥して、セルロースナノファイバーが混在してなる前駆体混合物(By)3を得た。X線回折法による定性分析から、得られたセルロースナノファイバーが混在してなる前駆体混合物(By)3は、Li3PO4、AlPO4、Ti(OH)1.36(HPO4)1.32・2.3H2O及びセルロースナノファイバーの混合物であり、X線回折-リートベルト法によるLi3PO4とAlPO4とTi(OH)1.36(HPO4)1.32・2.3H2Oの質量比は、Li3PO4:AlPO4:Ti(OH)1.36(HPO4)1.32・2.3H2O=1:0.7:8であった。
得られたセルロースナノファイバーが混在してなる前駆体混合物(By)3を空気雰囲気下600℃で4時間焼成して、セルロースナノファイバーを完全に焼失させつつ、LATP結晶粒子Y3を得た。得られたLATP結晶粒子Y3は、Li1.3Al0.3Ti1.7(PO43単相であり、平均粒径は60nm、平均結晶子径は50nm、BET比表面積は35m2/gであった。また、ICP発光分光分析法による、得られたLATP結晶粒子Y3が含有するSO3量(原料由来の水溶性不純物)は100ppmであった。
【0099】
[実施例5]
水40mLにTiOSO4・1.5H2Oを3.18g及びセルロースナノファイバーを19.29g混合して、混合液(ay-1)4を得た。また、水40mLにLiOH・H2Oを1.46g混合して、混合液(ay-2)4を得た。次いで、得られた混合液(ay-1)4を25℃の温度に保持しながら、撹拌速度200rpmで60分間撹拌した後、そのまま撹拌を継続している混合液(ay-1)4に、撹拌速度200rpmで5分間撹拌した混合液(ay-2)4を50mL/分で全量滴下して混合した後、さらに撹拌速度200rpmで30分間撹拌して、原料化合物の合計含有量1質量部に対し、水の含有量が20質量部である混合液(Ay)4を得た。かかる混合液(Ay)4の25℃におけるpHは4.5であった。
得られた混合液(Ay)4をオートクレーブに投入し、180℃、1.3MPaでの水熱反応を5時間行った。生成したセルロースナノファイバーが混在してなる水熱反応生成物を吸引ろ過し、次いでこれをセルロースナノファイバーが混在してなる水熱反応生成物1質量部に対して12質量部の水で洗浄して、セルロースナノファイバーが混在してなる水熱反応生成物(by)4を得た。X線回折法による定性分析から、得られたセルロースナノファイバーが混在してなる水熱反応生成物(by)4は、(Li1.810.19)Ti25・2H2O及びセルロースナノファイバーの混合物であった。
【0100】
水30mLに得られたセルロースナノファイバーが混在してなる水熱反応生成物(by)4の全量を混合し、得られたスラリーを撹拌速度200rpmで撹拌しながら、さらにAl(OH)3を0.23g及び85質量%のH3PO4を3.46g混合した後、30分間撹拌を継続した。この際、セルロースナノファイバーが混在してなる水熱反応生成物(by)4の乾燥質量1質量部に対するAl(OH)3及びH3PO4の合計量は、2.4質量部であった。撹拌終了後、スラリー全量を80℃で12時間恒温乾燥して、セルロースナノファイバーが混在してなる前駆体混合物(By)4を得た。X線回折法による定性分析から、得られたセルロースナノファイバーが混在してなる前駆体混合物(By)4は、Li3PO4、AlPO4、Ti(OH)1.36(HPO4)1.32・2.3H2O及びセルロースナノファイバーの混合物であり、X線回折-リートベルト法によるLi3PO4とAlPO4とTi(OH)1.36(HPO4)1.32・2.3H2Oの質量比は、Li3PO4:AlPO4:Ti(OH)1.36(HPO4)1.32・2.3H2O=1:0.7:8であった。
得られたセルロースナノファイバーが混在してなる前駆体混合物(By)4を空気雰囲気下600℃で4時間焼成して、セルロースナノファイバーを完全に焼失させつつ、LATP結晶粒子Y4を得た。得られたLATP結晶粒子Y4は、Li1.3Al0.3Ti1.7(PO43単相であり、平均粒径は60nm、平均結晶子径は50nm、BET比表面積は35m2/gであった。また、ICP発光分光分析法による、得られたLATP結晶粒子Y4が含有するSO3量(原料由来の水溶性不純物)は100ppmであった。
【0101】
[実施例6]
水40mLに29質量%のNH4OHを5.29g、TiOSO4・1.5H2Oを3.18g及びセルロースナノファイバーを19.29g混合して、得られた混合液(ay-1)5を25℃の温度に保持しながら、撹拌速度200rpmで60分間撹拌した後、そのまま撹拌を継続している混合液(ay-1)5に、85質量%のH3PO4 1.96gを混合した後、さらに30分間撹拌して、原料化合物の合計含有量1質量部に対し、水の含有量が12質量部である混合液(Ay)5を得た。かかる混合液(Ay)5の25℃におけるpHは6.5であった。
得られた混合液(Ay)5をオートクレーブに投入し、180℃、1.3MPaでの水熱反応を5時間行った。生成したセルロースナノファイバーが混在してなる水熱反応生成物を吸引ろ過し、次いでこれをセルロースナノファイバーが混在してなる水熱反応生成物1質量部に対して12質量部の水で洗浄して、セルロースナノファイバーが混在してなる水熱反応生成物(by)5を得た。X線回折法による定性分析から、得られたセルロースナノファイバーが混在してなる水熱反応生成物(by)5は、Ti(OH)1.36(HPO4)1.32・2.3H2O及びセルロースナノファイバーの混合物であった。
【0102】
水30mLに得られたセルロースナノファイバーが混在してなる水熱反応生成物(by)5の全量を混合し、得られたスラリーを撹拌速度200rpmで撹拌しながら、さらにLiOH・H2Oを0.56g、Al(OH)3を0.23g及び85質量%のH3PO4を1.5g混合した後、30分間撹拌を継続した。この際、セルロースナノファイバーが混在してなる水熱反応生成物(by)5の乾燥質量1質量部に対するLiOH・H2O、Al(OH)3及びH3PO4の合計量は、0.5質量部であった。撹拌終了後、スラリー全量を80℃で12時間恒温乾燥して、セルロースナノファイバーが混在してなる前駆体混合物(By)5を得た。X線回折法による定性分析から、得られたセルロースナノファイバーが混在してなる前駆体混合物(By)5は、Li3PO4、AlPO4、Ti(OH)1.36(HPO4)1.32・2.3H2O及びセルロースナノファイバーの混合物であり、X線回折-リートベルト法によるLi3PO4とAlPO4とTi(OH)1.36(HPO4)1.32・2.3H2Oの質量比は、Li3PO4:AlPO4:Ti(OH)1.36(HPO4)1.32・2.3H2O=1:0.7:8であった。
得られたセルロースナノファイバーが混在してなる前駆体混合物(By)5を空気雰囲気下600℃で4時間焼成して、セルロースナノファイバーを完全に焼失させつつ、LATP結晶粒子Y5を得た。得られたLATP結晶粒子Y5は、Li1.3Al0.3Ti1.7(PO43単相であり、平均粒径は60nm、平均結晶子径は50nm、BET比表面積は35m2/gであった。また、ICP発光分光分析法による、得られたLATP結晶粒子Y5が含有するSO3量(原料由来の水溶性不純物)は100ppmであった。
【0103】
[比較例1]
水40mLにAl2(SO43・16H2Oを0.95g及びTiOSO4・1.5H2Oを3.18g混合して、混合液(az-1)1を得た。得られた混合液(az-1)1に、LiOH・H2Oを0.56g混合して、混合液(az-2)1を得た。得られた混合液(az-2)1に、85質量%のH3PO4を3.46gを混合して、混合液(Az)1を得た。かかる混合液(Az)1の25℃におけるpHは0.9であった。得られた混合液(Az)1をオートクレーブに投入し、180℃、1.3MPaでの水熱反応を12時間行った。生成した水熱反応生成物をエバポレータにより溶媒を留去し、前駆体混合物(Bz)1を得た。得られた前駆体混合物(Bz)1を、空気雰囲気下900℃で6時間焼成してLATP結晶粒子Z1を得た。
得られたLATP結晶粒子Z1は、Li1.3Al0.3Ti1.7(PO43単相であり、平均粒径は250nm、平均結晶子径は150nm、BET比表面積は15m2/gであった。また、含有するSO3量(原料由来の水溶性不純物)は3000ppmであった。
得られたLATP結晶粒子Z1のSEM写真を図3に示す。
【0104】
[比較例2]
水40mLにLiOH・H2Oを0.56g混合して、混合液(az-1)2を得た。得られた混合液(az-1)2に、Al23を0.15g、TiO2を1.36g、85質量%のH3PO4を3.46g混合し、180℃で12時間恒温乾燥して前駆体混合物(Bz)2を得た。得られた前駆体混合物(Bz)2を、空気雰囲気下700℃で12時間焼成してLATP結晶z2を得た。得られたLATP結晶z2を、遊星ボールミルを用いて450rpmで10時間粉砕してLATP結晶粒子Z2を得た。
得られたLATP結晶粒子Z2は、Li1.3Al0.3Ti1.7(PO43単相であり、平均粒径は350nm、平均結晶子径は300nm、BET比表面積は10m2/gであった。
得られたLATP結晶粒子Z2のSEM写真を図4に、X線回折パターンを図5に示す。
【0105】
《評価試験》
実施例1~6及び比較例1~2で得られたLATP結晶粒子X1、Y1~Y5及びZ1~Z2を用い、全固体リチウムイオン二次電池を作製した。
具体的には、正極に製造例1で得られたLiCoPO4正極活物質粒子を用い、正極活物質:固体電解質(質量比)を75:25の配合割合で混合した後、プレス用冶具に投入して正極活物質層とした。さらに、その層上に固体電解質粒子のみをさらに投入して固体電解質層として積層させた後、ハンドプレスを用いて16MPaで2分間プレスして、φ14mmの円盤状の正極を得た。次いで、負極としてリチウム箔を固体電解質層側に取り付けることで、全固体リチウムイオン二次電池を作製した。
【0106】
作製した全固体リチウムイオン二次電池を用いて、充電条件を16mA/g、電圧5.0Vの定電流充電、放電条件を16mA/g、終止電圧3.5Vの定電流放電とした場合の、16mA/gにおける放電容量を求めた。なお、充放電試験は全て45℃で行った。結果を表1に示す。
【0107】
【表1】
【0108】
上記結果より、実施例1~6の製造方法で得られたLATP結晶粒子は、比較例1の製造方法で得られたLATP結晶粒子に比して、平均粒径及び平均結晶子径が小さく、BET比表面積が大きく、かつ水溶性不純物の含有量が有効に低減された粒子であり、これを用いた全固体リチウムイオン二次電池において優れた放電容量を示すことがわかる。また、比較例2の製造方法で得られたLATP結晶粒子は、結晶子径が大きく、さらにボールミル粉砕による粒子径のばらつきが大きいため、固体電解質層の密度が低下し、放電容量が小さくなったと考えられる。
図1
図2
図3
図4
図5