(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-29
(45)【発行日】2022-09-06
(54)【発明の名称】シリコーンゴム複合体
(51)【国際特許分類】
B30B 15/02 20060101AFI20220830BHJP
B32B 27/36 20060101ALI20220830BHJP
C08L 83/04 20060101ALI20220830BHJP
B32B 25/20 20060101ALI20220830BHJP
【FI】
B30B15/02 E
B32B27/36
C08L83/04
B32B25/20
(21)【出願番号】P 2018059207
(22)【出願日】2018-03-27
【審査請求日】2021-02-04
(73)【特許権者】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 隆信
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 秀次
(72)【発明者】
【氏名】長江 洋志
【審査官】長谷川 大輔
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-293056(JP,A)
【文献】特開2002-234273(JP,A)
【文献】特開2014-021081(JP,A)
【文献】特開2004-066690(JP,A)
【文献】特開2011-031554(JP,A)
【文献】特開2011-037020(JP,A)
【文献】特開2008-073919(JP,A)
【文献】特開2010-005807(JP,A)
【文献】特開2005-297234(JP,A)
【文献】特開平07-084269(JP,A)
【文献】特開2001-130155(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B30B15/00-15/08
B32B1/00-43/00
C08K3/00-13/08
C08L1/00-101/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリエステル系樹脂を主成分とする基材シート(A)と、シリコーンゴム層(D)とが一体化してなるシリコーンゴム複合体であって、
該シリコーンゴム層(D)の表面の算術表面粗さ(Ra)が0.1~2μmであり、かつ、前記(Ra)とシリコーンゴム層(D)の厚み(t)とシリコーンゴム層(D)の厚みのばらつき(△t)との関係が下記式(1)を満たすことを特徴とする
プレス成形用シリコーンゴム複合体。
(Ra)(△t)/(t)≦0.05・・・(1)
【請求項2】
前記シリコーンゴム層(D)の厚み(t)が50~500μmであることを特徴とする請求項1に記載の
プレス成形用シリコーンゴム複合体。
【請求項3】
前記シリコーンゴム層(D)が、ポリジメチルシロキサンを主成分とするシリコーンエラストマー樹脂を含むことを特徴とする請求項1又は2に記載の
プレス成形用シリコーンゴム複合体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気・電子製品に組み込まれるIC、半導体、受動部品等の、ディスプレー・タッチパネル関連製品部材やLED照明製品部材等において、プレス成形に利用するための各種離型材、滑り止め材( 以下「離型材等」という)として好適に使用できるシリコーンゴム複合体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来からシリコーンゴムは、耐熱性や電気的性質に優れていることから、離型材等の用途に使用されている。
【0003】
しかしながら、シリコーンゴム単体からなるシートをそのままプレス成形の離型材等として使用しようとすると、ゴム製品であるがために変形を生じ、組みつけ寸法精度が悪くなったり、しわが生じたりして、作業性に問題があった。
【0004】
そこで、上記問題点を解消するためにシリコーンゴム単体とプラスチックシートあるいはフィルムを複合一体化することが検討されている。
【0005】
複合化の一つの方法として、あらかじめ架橋されたシリコーンゴム単体とプラスチックシートあるいはフィルムとを接着剤を介して複合化する方法、両面テープ貼り合わせや粘着剤塗布等の方法で、粘着層を介して複合化する方法がある。この場合、通常シリコーンゴム用の接着剤あるいは粘着剤が用いられるが、接着剤あるいは粘着剤を別に塗布する必要性があり、加工コストが高くなるとか、長尺の複合体が得られにくい等の不都合がある。
【0006】
さらに、このような不都合を解決するためにプラスチックシートあるいはフィルムにシリコーン系プライマーを塗布し、シリコーン未架橋ゴムを貼り合わせ、しかる後、熱架橋させると同時にシリコーンゴムと一体化させることが検討されている。しかしながら、プラスチックシートあるいはフィルムが結晶性ポリエステル樹脂を主体とする場合には、シリコーン系プライマーと該プラスチックシートあるいはフィルムとの接着性に乏しく、得られる複合体に剥離等の問題が生じ易い。
【0007】
また、該プラスチックシートあるいはフィルムが耐熱性の低いものである場合、シリコーンゴム架橋時に熱が加わるため、適用できない。さらに、該プラスチックシートあるいはフィルムとシリコーンゴムとの熱膨脹の差が大きいため、得られる複合体にカールが生じるという問題があった。
加えて、厚み精度が十分でないことから、該プラスチックシートあるいはフィルムを積載ないしロール状に集積したとき、その集積量が大きくなるにつれてしわや折れ曲がりを生じたりして元の形状に戻らず、離型材としての利用が困難になることがあった。
【0008】
上述の問題点を解消できるシリコーンゴム複合体として、特許文献1では、結晶性ポリエステル樹脂を主体とするシートあるいはフィルムの少なくとも片面に、下塗り層と下塗り層に対して親和性が高く、かつシリコーン樹脂を含有する薄膜層を順に形成し、特定の硬度を有するシリコーンエラストマー樹脂からなるシリコーンゴム層を形成し、上記シートあるいはフィルムとシリコーンゴム層が一体化してなるシリコーンゴム複合体の提案がされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかし、特許文献1のシリコーン複合体を電気・電子製品部材に関わるプレス成形の離型材として使用した際に、条件によっては、出来上がる成形部材の厚み精度が十分ではなく、気泡の跡やしわが入る不具合が発生し、歩留まり生産性が不十分となる場合があり、具体的な改善が望まれていた。
さらに、シリコーンゴム面どうしの密着によって作業性が低下するという問題が発生する場合もあった。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者等は、上述した課題を解決すべく鋭意検討したところ、ポリエステル系樹脂を主成分とする基材シートと、シリコーンゴム層とが一体化してなるシリコーンゴム複合体において、該シリコーンゴム層の表面の算術表面粗さと、算術表面粗さ、シリコーンゴム層の厚み及びシリコーンゴム層の厚みのばらつきが特定の関係を満足することにより、プレス成形の離型材として使用した際、得られる成形体の厚み精度がよく、気泡の跡やしわが発生しにくく、成形体の生産性を改善できるシリコーンゴム複合体を提供できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0012】
即ち、本発明は以下を要旨とする。
【0013】
[1] ポリエステル系樹脂を主成分とする基材シート(A)と、シリコーンゴム層(D)とが一体化してなるシリコーンゴム複合体であって、
該シリコーンゴム層(D)の表面の算術表面粗さ(Ra)が0.1~2μmであり、かつ、前記(Ra)とシリコーンゴム層(D)の厚み(t)とシリコーンゴム層(D)の厚みのばらつき(△t)との関係が下記式(1)を満たすことを特徴とするシリコーンゴム複合体。
(Ra)(△t)/(t)≦0.05・・・(1)
【0014】
[2] 前記シリコーンゴム層(D)の厚み(t)が50~500μmであることを特徴とする[1]に記載のシリコーンゴム複合体。
【0015】
[3] 前記シリコーンゴム層が、ポリジメチルシロキサンを主成分とするシリコーンエラストマー樹脂を含むことを特徴とする[1]又は[2]に記載のシリコーンゴム複合体。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、プレス成形の離型材として使用した際、得られる成形体の厚み精度が適切な範囲となるため、気泡の跡やしわが発生しにくく、成形体の生産性を改善できるシリコーンゴム複合体を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態の一例としてのシリコーンゴム複合体(以下、「本複合体」とも称する)について説明する。但し、本発明の範囲が以下に説明する実施形態に限定されるものではない。
【0018】
<本複合体>
本複合体は、ポリエステル系樹脂を主成分とする基材シート(A)とシリコーンゴム層(D)とが一体化してなるものである。本発明において、「一体化してなる」とは、基材シートとシリコーンゴム層とを手で剥離しようとする際に、層間で剥離しない程度に接着していることをいう。
【0019】
また、本複合体は、特定の厚み及び特定の表面粗さを有するシリコーンゴムと、ポリエステル系樹脂を主体とするシートが積層されているため、しわや折れ曲がりが生じず、プレス成形の離型材として使用した際の成形体の生産性が向上でき、さらにはシリコーンゴム面どうしの密着による作業性低下を改善することができる。
【0020】
<ポリエステル系樹脂を主成分とする基材シート(A)>
本発明に使用されるポリエステル系樹脂を主成分とする基材シート(A)の材料としては、耐熱性や機械的強度の観点から結晶性のポリエステル系樹脂であることが好ましく、例えばポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等が挙げられる。なかでも、耐熱性、フィルムの腰、平滑性、商業的入手のしやすさ等に加え、後述するシリコーンゴム層(D)との接着性の観点から、ポリエチレンテレフタレートであることがより好ましい。
【0021】
また、機械的強度の観点から、基材シート(A)は少なくとも1軸に延伸されていることが好ましい。
【0022】
該基材シート(A)の厚みは、10~350μmの範囲のものが好適に使用できる。該基材シート(A)の厚みが10μm以上であると、表面に他の層を形成させる時、しわ等が発生しにくくなり好ましい。一方、350μm以下であると、シートが硬すぎることなく、後述する下塗り層等を塗工しやすくなる傾向がある。かかる観点から、基材シートあるいはフィルムの厚みは、15~300μmであることがより好ましく、20~250μmであることがさらに好ましい。
【0023】
本複合体では、上記基材シート(A)において、前記シリコーンゴム層(D)が一体化される側の表面に、非晶性ポリマーを主成分とする下塗り層(B)及びシリコーン樹脂を含有する薄膜層(C)をこの順に有することがさらに好ましい。
【0024】
<下塗り層(B)>
下塗り層(B)は、非晶性ポリマーを主成分として含むことが好ましい。非晶性ポリマーとしては、上記基材シート(A)に均一に塗布できるものであれば特に限定されるものではなく、ポリウレタン樹脂、アクリル樹脂、非晶性ポリエステル樹脂等実質的に結晶性の無いポリマーから適宜選択すればよい。
【0025】
具体例としては、ポリエステル樹脂及び/又はポリエーテル樹脂をウレタン結合等で直鎖状に高分子量化したポリウレタン樹脂、アクリル酸及び/又はメタクリル酸エステルの共重合体からなるアクリル樹脂、酸成分あるいはグリコール成分が2種類以上の単量体よりなる共重合ポリエステル樹脂が挙げられる。これら非晶性樹脂は、薄膜に塗工されるので、通常有機溶剤で希釈した状態、あるいは水中に乳化又は可溶化させて適度な濃度に調整したものが使用される。
【0026】
上記下塗り層(B)は、耐熱性、耐溶剤性を向上させる目的で、架橋構造を持つものであってもよく、この場合、上記非晶性ポリマーは、主鎖あるいは側鎖にカルボキシル基、水酸基、アミノ基等架橋性官能基を持つものであり、架橋剤としては、ポリイソシアネート、メラミン、多官能エポキシ樹脂、金属化合物等から適時選択される。また、塗工液には、上記架橋剤のほか、界面活性剤等からなるレベリング剤、シリカ等ブロッキング防止剤、増粘剤等が添加されていても良い。
【0027】
下塗り層(B)の乾燥後の厚みは、0.01~5μmの範囲であることが好ましい。下塗り層の厚みが0.01μm以上であれば、塗布厚みの調整が容易であり、また、後述するシリコーン樹脂を含有する薄膜層(C)との接着性も良好となるため好ましい。また、膜厚が5μm以下であれば、下塗り層の塗工が困難になることもない。かかる観点から、下塗り層の厚みは0.05~4μmであることがより好ましく、0.1~3μmであることがさらに好ましい。また、塗布方法としては、使用する塗工液に応じて公知の方法を適用することができる。塗工液のレベリング性や密着性を上げる目的で、基材シート(A)の塗工面にあらかじめコロナ処理等の表面処理を施すこともできる。
【0028】
<シリコーン樹脂を含有する薄膜層(C)>
本発明の薄膜層(C)に主成分として含まれるシリコーン系樹脂としては、塗布後、加熱あるいはUV照射等で架橋被膜を形成するものや、シリコーンゴム層架橋時に同時に架橋被膜を形成するもの等が挙げられる。
【0029】
上述の薄膜層(C)に使用可能なシリコーン系樹脂の例として、付加型シリコーン樹脂、縮合型シリコーン樹脂、UV硬化型シリコーン樹脂等が挙げられる。付加型のシリコーン系樹脂としては、ビニル基を含有するポリジメチルシロキサンをベースポリマーとし、架橋剤としてポリメチルハイドロジェンシロキサンを配合し、白金触媒の存在下反応硬化させて得られるものが挙げられ、縮合型シリコーン樹脂としては、末端にシラノール基を含有するポリジメチルシロキサンをベースポリマーとし、架橋剤としてポリメチルハイドロジェンシロキサンを配合し、有機スズ触媒存在下で加熱硬化して得られるものが挙げられる。
【0030】
UV硬化型シリコーン樹脂としては、アクリロイル基あるいはメタクリロイル基を含有するポリジメチルシロキサンをベースポリマーとするもの、メルカプト基とビニル基を含有するポリジメチルシロキサンをベースポリマーとするもの、前述の付加型シリコーン系樹脂配合物、あるいはカチオン硬化機構で硬化するエポキシ基を含有するポリジメチルシロキサンをベースポリマーとするもの等に光重合開始剤を配合し、UV光を照射することによって硬化させるものが挙げられる。
【0031】
上述のシリコーン系樹脂配合物に溶剤を適時添加することにより塗工液を調整し、基材シート(A)上に塗工することにより、薄膜層(C)を形成する。
【0032】
該塗工液には、下塗り層(B)との親和性を上げる目的で、シランカップリング剤等の添加剤が含まれることが好ましい。この目的を満たすシランカップリング剤は、一般式YRSiX3で表される化合物で、Yはビニル基、エポキシ基、アミノ基、メルカプト基等の有機官能基、Rはメチレン、エチレン、プロピレン等アルキレン基、Xはメトキシ基、エトキシ基等加水分解性官能基あるいはアルキル基である。具体的化合物として、例えばビニルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、γーグリシジルプロピルトリメトキシシラン、γ-グリシジルプロピルトリエトキシシラン、N-β (アミノエチル)-γ-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-β(アミノエチル) -γ-アミノプロピルメチルジメトキシシラン、γ-メルカプトプロピルトリメトキシシラン等が挙げられる。
【0033】
上記塗工液の塗布厚みは、溶剤乾燥後で0.01~1μmであることが好ましい。塗布厚みが0.01μm以上であれば、均一な厚みの硬化被膜が得られ、かつ、シリコーンエラストマー層との接着力も十分に得られる。また、上記組成のシリコーン系樹脂は一般に膜強度がそれほど強くないため、複合体の剥離強度を評価する際、該シリコーン系樹脂層で凝集破壊が起こる傾向にあるが、その膜厚が1μm以下であれば、前記シリコーン系樹脂層の凝集破壊を抑制し、複合体として十分な強度を得ることができる。かかる観点から、下塗り層の溶剤乾燥後の厚みは0.03~0.7μmであることがより好ましく、0.05~0.5μmであることがさらに好ましい。
【0034】
塗工方法としては、下塗り層(B)と同様に薄膜が精度良く得られる方法であれば特に限定されるものではなく、公知の塗工方法が適用できる。
【0035】
<シリコーンゴム層(D)>
本発明で使用するシリコーンゴム層(D)は、該シリコーンゴム層(D)の算術表面粗さ(Ra)が0.1~2μmであって、さらに、該シリコーンゴム層(D)の厚み(t)と厚みのばらつき(△t)の関係が(Ra)(△t)/(t)≦0.05である。
【0036】
シリコーンゴム層(D)の厚み(t)は、50μm以上であることが好ましい。シリコーンゴム層(D)の厚みが50μm以上であると、複合体としてのゴム弾性の性質を得やすくなる。かかる観点から、シリコーンゴム層(D)の厚みは、60μm以上であることがより好ましく、70μm以上であることがさらに好ましい。一方、厚みの上限は、用途やコスト等から好ましくは500μmであり、より好ましくは450μmであり、さらに好ましくは400μm、特に好ましくは350μmである。なお、本発明において厚みとは、任意の10点の厚みを測定したときの平均厚みをいう。
【0037】
シリコーンゴム層(D)の算術表面粗さ(Ra)は、0.1~2μmである。0.1μm未満であると、表面が平滑すぎるため、成形材やプレス板にシリコーンゴム複合体の一部が粘着により引っかかって位置合わせができないという不具合が生じる。また、プレス成形時に引っ掛かりとすべりのバランスを欠いて気泡を生じ、成形材を硬化する過程で硬化不良を起こし、結果として成形材の生産性や寸法信頼性を損なう。かかる観点から、Raは0.2μm以上であることがより好ましく、0.4μm以上であることがさらに好ましい。
一方、シリコーンゴム層(D)の算術表面粗さ(Ra)が2μmを超えると、プレス成形時のすべり性は確保できるが、凹凸差が大きく成形材やプレス板に貼り付けする際に接着不良を起こし、成形材の寸法信頼性を損なう。かかる観点から、Raは1.5μm以下であることがより好ましく、1.2μm以下であることがさらに好ましく、1μm以下であることが特に好ましい。
【0038】
本発明のシリコーンゴム層(D)は、さらに、シリコーンゴム層(D)の厚み(t)と厚みのばらつき(△t)の関係が(Ra)(△t)/(t)≦0.05を満足する。ここで、シリコーンゴム層(D)の厚み(t)は、上述した通り任意の10点の厚みを測定したときの平均値であり、単位はμmである。また、厚みのばらつき(△t)は、シート厚み(t)の標準偏差を4倍した値とする。また、(Ra)の単位はμmとする。
【0039】
(Ra)(△t)/(t)の値が0.05を超えると、表面粗さ及び/又は厚みのばらつきが大きく、成形材の寸法精度にばらつきが生じ、結果として生産性が低下する。かかる観点から、(Ra)(△t)/(t)の値は0.045以下であることがより好ましく、0.04以下であることがさらに好ましい。
一方、(Ra)(△t)/(t)の下限はシリコーン同士の密着防止の観点から、一般的には0.01であり、好ましくは0.015である。
【0040】
また、△t/tは、0.2以下であることが好ましく、0.15以下であることがさらに好ましい。Δt/tが0.2以下であると、プレス成形時のすべり性を確保でき、成形材やプレス板に貼り付けする際の接着性が向上し、成形材の寸法信頼性が良好となりやすく、好ましい。△t/tの下限は0.01が好ましく、0.02がより好ましい。
【0041】
このように、シリコーンゴム層(D)の算術表面粗さ(Ra)の値や、シリコーンゴム層(D)の厚み(t)と厚みのばらつき(△t)の関係を制御することにより、成形材やプレス板への接触状態を良好にするとともに、プレス成形後の成形材の寸法精度を向上させ、成形効率を向上させることができる。
【0042】
このようなシリコーンゴム層(D)は、例えば、使用面にエンボスを形成させることによって得ることができる。エンボス形成方法は、工業的に知られているエンボス加工により成形でき、例えば、エンボスロール転写、エンボスベルト転写、エンボスフィルム転写、サンドブラスト、表面結晶化等種々の方法を用いることができる。特に、架橋後のシートを外力や汚染から保護し、搬送、巻き取り、貯蔵、さらにはシート使用時のハンドリング性を改良できることからエンボスフィルム転写による方法が好ましい
【0043】
シリコーンゴム層(D)に使用可能なシリコーン系樹脂の例として、ポリジメチルシロキサンを主成分とするシリコーンエラストマー樹脂が好ましく挙げられる。
また、シリコーンゴム層(D)は、ビニル基を含有するポリジメチルシロキサンを主成分とするシリコーンエラストマー樹脂を含むことも、圧縮永久歪みの調整の観点から好ましい。ビニル基を含有する場合は、ポリジメチルシロキサン全量に対するビニル基の含有量は、0.05~5モル%であることが好ましく、0.5~4モル%であることがより好ましく、1~3モル%であることがさらに好ましい。ビニル基の含有量が0.05モル%であれば、シリコーンエラストマー樹脂の架橋密度を調整しやすくなり、所望の圧縮永久歪みを有するシリコーンエラストマー樹脂を得ることができる。一方、5モル%以下であれば、シリコーンエラストマー樹脂が過度に硬化することがないため好ましい。
【0044】
このようなシリコーンエラストマー樹脂として、市販品を使用することもできる。市販品としては、信越化学工業社製ミラブル型シリコーンコンパウンドやモメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ社製ミラブル型シリコーンゴムを使用することができる。
【0045】
シリコーンエラストマー樹脂を硬化する手段としては、硬化触媒を添加する方法、高温加熱する方法、架橋剤を添加する方法、そして放射線照射による架橋方法等が挙げられる。
【0046】
なかでも、本複合体におけるシリコーンエラストマーは、放射線により硬化させることが好ましい。放射線による硬化は、触媒や架橋剤の残渣等による耐熱、耐光信頼性を損なう懸念がない。また、硬化時に熱が加わらないため、熱劣化の懸念もなく好ましい。
【0047】
放射線としては、例えば電子線、X線、γ線等が挙げられる。これらの放射線は工業的にも広く利用されているものであり、容易に利用可能であり、エネルギー効率の良い方法である。これらの中でも、吸収損失がほとんどなく、透過性が高いという観点から、γ線を利用することが好ましい。
【0048】
γ線の照射線量としては、樹脂種や架橋基の量、そして線源の種類により、適宜選択して決定することができる。本複合体において、例えば、γ線の照射線量は、20~150kGyであることが好ましい。照射線量が20kGy以上であれば、シリコーンゴム層(D)を十分に硬化させることができ、結果として所望の圧縮永久歪を得ることができる。一方、照射線量が150kGy以下でれば、分解反応による低分子量成分の増加を抑制できる。かかる観点から、照射線量は50~120kGyであることがより好ましく、60~100kGyであることがさらに好ましい。
【0049】
さらに、上記シリコーンエラストマー樹脂は、フュームドシリカ、沈殿シリカ、ケイソウ土、石英粉等の補強性充填剤や各種加工助剤、耐熱性向上剤等の他、エラストマーとしての機能性を持たせる各種添加剤を含有するものである。この機能性添加剤としては、難燃性付与剤、放熱性フィラー、導電性フィラー等が挙げられる。
【0050】
<カバーシート(E)>
本発明においては、シリコーンゴム層(D)の表面の算術表面粗さを所望の範囲に調整する方法として、カバーシート(E)を使用する方法が好ましく採用される。
カバーシート(E)は、エンボスフィルムであることが好ましく、本複合体のシリコーンゴム層(D)にカバーシート(E)を転写させることによって、所望の表面粗さの複合体を得ることができる。また、架橋後のシートを外力や汚染から保護し、搬送、巻き取り、貯蔵、さらにはシート使用時のハンドリング性を改良する役割を担うものである。
【0051】
エンボス転写に好ましいカバーシートとしては、それ自体が非粘着性(シートどうしが粘着しない)で強度が高いものが好ましく用いられる。具体的には、ポリエチレンテレフタレート(PET)等のプラスチックフィルム、あるいはアルミ箔、銅箔等の金属箔が好適である。さらに、シリコーンゴム層(D)に所望の算術表面粗さ(Ra)を転写するための凹凸を有していることが重要である。
【0052】
上述の理由により、カバーシートの表面粗さは、好ましくは0.1~5μm、より好ましくは0.2~3μm、さらに好ましくは0.5~1μmである。このようなカバーシートは市販品から適宜選択することができる。
【0053】
<積層構成>
なお、本発明の複合体の層構成は、最終用途に応じて、(A)/(D)の2層構成や(D)/(A)/(D)等の3層構成のものが使用できる。さらに、(A)層と(D)層の間に、上述した下塗り層(B)やシリコーン樹脂を含有する薄膜層(C)を適宜備えていることが好ましい。
【0054】
<本複合体の製造方法>
本複合体の製造方法は、特に限定されるものではないが、例えば、以下の様な方法を用いることができる。具体的な製造方法としては、基材シート(A)の少なくとも片面に、下塗り層(B)、シリコーン樹脂を含有する薄膜層(C)、シリコーンゴム層(D)、カバーシート(E)をこの順に設け、該シリコーンゴム層(D)をγ線照射により硬化させることが好ましい。
【0055】
まず、前述のポリエステル系樹脂を主体としてなる基材シート(A)の少なくとも片面に、下塗り層(B)としての塗工液を塗布し、次いで乾燥、さらに必要に応じて熱架橋させることにより、下塗り層(B)を形成させる。塗布方法としては、塗工液に適した公知の方法が適用でき、別工程で製膜されたプラスチックシートあるいはフィルムに塗布しても良いし、該プラスチックシートあるいはフィルムの未延伸シートに直接塗工液を塗布した後に延伸して、下塗り層(B)を形成させたものであってもよい。また、塗工液のレベリング性や密着性を上げる目的で塗工面にあらかじめコロナ処理等の表面処理を施すこともできる。
【0056】
次に、下塗り層(B)上に、シリコーン樹脂を含有する薄膜層(C)を塗工する。塗布方法としては、上述の下塗り層(B)と同様に、公知の方法を使用することができる。
【0057】
さらに、シリコーンエラストマー樹脂からなるシリコーンゴム層(D)を、次の方法により形成する。まず、シリコーン樹脂を含有する薄膜層(C)の上に未架橋状態でシリコーンエラストマー樹脂からなるシリコーンゴム層(D)を積層する。積層方法としては、上記未架橋シリコーンエラストマー樹脂を押出成形、射出成形、カレンダー成形、プレス成形等によって、シート状に成形した後に薄膜層(C)の上に積層しても良く、また公知のコーティング方法によって、薄膜層(C)の上に直接製膜するという方法であってもよい。
【0058】
次いで、シリコーンゴム層(D)上にカバーシート(E)を載せた後、放射線により硬化させ、使用時又は必要に応じてカバーシートを剥離することで、本発明の複合体を得ることができる。放射線としては、γ線、電子線、X線等が好適に使用できる。
【0059】
上述のように、本複合体においては、シリコーンゴム層(D)をγ線照射により硬化させることが好ましい。γ線の照射線量は、シリコーンゴム層(D)において所望の圧縮永久歪みを得る観点から、20~150kGyで照射することが好ましく、50~120kGyで照射することがより好ましく、60~100kGyで照射することがさらに好ましい。
【0060】
また、この照射線量の選定には、シリコーンゴムの架橋密度の他、基材として使用するプラスチックフィルムの耐放射線性も考慮に入れる必要がある。この点、本発明で使用するポリエステル系樹脂は、一般に放射線に対する耐性に優れ、本発明の目的に極めて適合した基材である。
【0061】
本発明のシリコーンゴム複合体は、プレス成形時の離型材として優れた特性を有しているので、例えば、電気・電子製品に組み込まれるIC、半導体、受動部品等のディスプレー・タッチパネル関連製品部材やLED照明製品部材等の成形体の製造に好適に用いることができる。
【0062】
本発明において「主成分」と表現した場合、特に記載しない限り、当該主成分の機能を妨げない範囲で他の成分を含有することを許容する意を包含する。
この際、当該主成分の含有割合を特定するものではないが、主成分(2成分以上が主成分である場合には、これらの合計量)は組成物中の50質量%以上、好ましくは70質量%以上、特に好ましくは90質量%以上(100%含む)を占めるものである。
また、本発明において、「X~Y」(X,Yは任意の数字)と表現した場合、特にことわらない限り「X以上Y以下」の意と共に、「好ましくはXより大きい」及び「好ましくはYより小さい」の意を包含する。
また、本発明において、「X以上」(Xは任意の数字)と表現した場合、特にことわらない限り「好ましくはXより大きい」の意を包含し、「Y以下」(Yは任意の数字)と表現した場合、特にことわらない限り「好ましくはYより小さい」の意を包含する。
【0063】
なお、一般的に「シート」とは、JISにおける定義上、薄く、その厚みが長さと幅のわりには小さく平らな製品をいい、一般的に「フィルム」とは、長さ及び幅に比べて厚みが極めて小さく、最大厚みが任意に限定されている薄い平らな製品で、通常、ロールの形で供給されるものをいう(JIS K6900:1994)。しかし、「シート」と「フィルム」の境界は定かでなく、本発明において文言上両者を区別する必要がないので、本発明においては、「フィルム」と称する場合でも「シート」を含むものとし、「シート」と称する場合でも「フィルム」を含むものとする。
【実施例】
【0064】
以下に実施例を示すが、これらにより本発明は何ら制限を受けるものではない。なお、実施例中に示す結果は以下の方法で評価を行った。
【0065】
(1)厚み(t)
下記記載のプレス成形用のシリコーンゴム複合体について、任意の10点の厚みを測定し平均値を算出した。
【0066】
(2)算術表面粗さ(Ra)
下記記載のプレス成形用のシリコーンゴム複合体について、JIS B0601:2013に従い測定した。
【0067】
(3)厚みのばらつき(△t)
下記記載のプレス成形用のシリコーンゴム複合体について、上記(1)で測定した厚み(t)の標準偏差の4倍の値として算出した。
【0068】
(4)成形性
下記記載の条件でプレス成形した後にシリコーンゴム複合体を剥離し、得られた成形体10個のうちの任意の1個を選択し、その成形体の外観(硬化性樹脂層側)について以下の基準で評価した。
○:気泡の跡やしわがない
△:気泡の跡やしわが1点確認できるが、実用範囲内である
×:気泡の跡やしわが2点以上確認できる
【0069】
(5)成形体のばらつき
下記記載の条件でプレス成形した後にシリコーンゴム複合体を剥離し、得られた成形体10個の硬化性樹脂層部分の厚み(成形体中心部)を顕微鏡による断面観察により計測した。次いで、10個の成形体の厚みの平均値(Tn)と厚みの標準偏差の4倍の値(Tσ)を算出し、以下の基準で評価した。
○:(Tσ)/(Tn)≦0.1
△:0.1<(Tσ)/(Tn)≦0.3(実用範囲内である)
×:0.3<(Tσ)/(Tn)
【0070】
(6)成形体の厚み精度
下記記載の条件でプレス成形した後にシリコーンゴム複合体を剥離し、得られた成形体10個のうち任意の1個を選択し、顕微鏡の断面観察により、任意の10点について硬化性樹脂層部分の厚み(成形体中心部)を計測した。得られた成形体の厚みから、1個の成形体中の厚みの平均値(Tn)と厚みの標準偏差の4倍の値(Tσ)を算出し、以下の基準で評価した。
○:(Tσ)/(Tn)≦0.1
△:0.1<(Tσ)/(Tn)≦0.3(実用範囲内である)
×:0.3<(Tσ)/Tn
【0071】
(実施例1~3及び比較例1~4)
[基材シート(A)]
コロナ処理を施した厚み50μmの2軸延伸ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム(三菱ケミカル(株)製 ダイアホイルS-100)を用いた。
【0072】
[下塗り層(B)]
非晶性ポリエステル樹脂、(東洋紡績(株)製、商品名バイロン240)14質量部、ポリイソシアネート(東ソー(株)製、商品名コロネートL)2質量部を溶剤(MEK/トルエン=1/4(質量比))84質量部に希釈し、塗工液とした。これを上記PETフィルムに乾燥後の膜厚が1.0μmになるようにバーコーターで塗工し、ギアオーブン中で、100℃×10分間溶剤乾燥及び架橋を行ない、下塗り層(B-1)とした。
【0073】
[シリコーン樹脂を含有する薄膜層(C)]
縮合型シリコーン樹脂組成物(東レ・ダウコーニングシリコーン(株)製、商品名SRX290)20質量部及び硬化剤(東レ・ダウコーニングシリコーン(株)製、商品名SRX242C)1.2質量部を溶剤(トルエン)78.8質量部に希釈して塗工液を得た。これを下塗り層(B)の上に所定の乾燥後膜厚0.2μmになるようにバーコーターで塗工し、ギアオーブン中で、100℃×10分間乾燥及び架橋を行ない、薄膜層とした。
【0074】
[シリコーンゴム層(D)]
シリコーンエラストマー樹脂としてミラブル型シリコーンコンパウンド(信越化学工業社製、商品名KE-561U)を用い、プレス成形法にて、厚み200μmの未架橋シートを得た。このシートを薄膜層(C)に接するように積層し、さらにその上にカバーシート(E)を載せて、室温、プレス圧50kg/cm2で複合体を作成した。この複合体のシリコーンエラストマー層面に、加速電圧200kVの電子線照射装置にて100kGyの電子線を照射し、シリコーンゴム層(D)を形成し、その後、カバーシートを剥離することにより、シリコーン複合体を得た。カバーシートの表面粗さは、サンドブラスト処理条件を適宜変更することにより調整し、得られるシリコーンゴム層(D)の表面粗さが所望の値となるようにした。
【0075】
得られたシリコーンゴム複合体から10cm×10cmのシートを切り出し、プレス成形用のシートとし、シリコーンゴム層(D)の算術平均粗さ(Ra)、厚みのばらつき(Δt)、(Δt)/(t)、(Ra)(Δt)/(t)を評価した結果を表1に示す。
【0076】
続いて、プレス成形用のシリコーンゴム複合体のシリコーンゴム層(D)側に、エポキシ樹脂からなる硬化性樹脂層(10mm×10mm×10μm厚み)をハンドロールにて加圧転写し、転写面に10mm×10mm×1mm厚みのシリコ-ン基板を載せて、金属製の熱板間に挟み、130℃、0.01Paにて1時間、硬化性樹脂層の硬化・接着を行った。放冷後の硬化性樹脂成形体部分について、上述の成形性、成形体のばらつき、成形体の厚み精度を評価した結果を表1に示す。
【0077】
(実施例4)
シリコーンゴム層(D)の厚みを300μmとした以外は、実施例1と同様にしてシリコーンゴム複合体を得た。得られた複合体及び成形体について評価した結果を表1に示す。
【0078】
【0079】
表1の結果より、実施例1~4の複合体は、シリコーンゴム層(D)の算術表面粗さ(Ra)が所定の値であり、かつ、(Ra)(△t)/(t)が所定の値であることにより、厚み精度のよい複合体が得られ、かつ、この複合体をプレス成形の離型材として使用した際の成形体の生産性が良好であることがわかった。また、実施例1~4の複合体は、シリコーンゴム面どうしの密着によって作業性が低下することもなかった。
一方、表面粗さ(Ra)と(Ra)(△t)/(t)のいずれか又は両方が本発明の範囲外である比較例1~4の複合体は、成形性、成形体のばらつき、成形体の厚み精度のいずれか又は全てが悪いことがわかった。