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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-29
(45)【発行日】2022-09-06
(54)【発明の名称】走行中の車両の状態のモニタリング装置
(51)【国際特許分類】
   B60C 23/06 20060101AFI20220830BHJP
   B60C 19/00 20060101ALI20220830BHJP
   G01M 17/02 20060101ALI20220830BHJP
【FI】
B60C23/06 A
B60C19/00 H
G01M17/02
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2018150768
(22)【出願日】2018-08-09
(65)【公開番号】P2020026160
(43)【公開日】2020-02-20
【審査請求日】2021-06-23
(73)【特許権者】
【識別番号】000183233
【氏名又は名称】住友ゴム工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100124039
【弁理士】
【氏名又は名称】立花 顕治
(74)【代理人】
【識別番号】100179213
【弁理士】
【氏名又は名称】山下 未知子
(72)【発明者】
【氏名】梁瀬 未南夫
【審査官】岡崎 克彦
(56)【参考文献】
【文献】特開平11-235907(JP,A)
【文献】特開2010-210262(JP,A)
【文献】特開2011-102077(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60C 23/00-23/20
B60C 19/00
G01M 17/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
走行中の車両の状態をモニタリングするモニタリング装置であって、
走行中の前記車両の振動状態に関する時系列のセンシングデータを固定バンドパスフィルターに通すことにより、前記センシングデータの第1周波数帯域の成分を抽出する第1フィルタリング部と、
前記第1フィルタリング部により抽出された前記第1周波数帯域の成分を、前記第1周波数帯域内で移動可能な可変バンドパスフィルター又は可変バンドストップフィルターに通すことにより、前記第1周波数帯域よりも帯域幅が狭い第2周波数帯域の成分を抽出又は除去する第2フィルタリング部と、
前記第2周波数帯域を特定する値及び前記第2周波数帯域の成分の少なくとも一方に基づき、前記センシングデータの共振周波数を決定するピーク決定部と
を備える、
モニタリング装置。
【請求項2】
前記センシングデータは、前記車両に装着された車輪の回転情報である、
請求項1に記載のモニタリング装置。
【請求項3】
前記第2周波数帯域の帯域幅は、4Hz~12Hzである、
請求項2に記載のモニタリング装置。
【請求項4】
前記第1周波数帯域の帯域幅は、前記第2周波数帯域の帯域幅よりも4Hz~10Hz広い、
請求項2又は3に記載のモニタリング装置。
【請求項5】
前記ピーク決定部は、前記第2周波数帯域を特定する値に基づき、前記共振周波数を前記第2周波数帯域の中心周波数として決定する、
請求項1から4のいずれかに記載のモニタリング装置。
【請求項6】
前記ピーク決定部は、前記可変バンドパスフィルターを通過した前記第2周波数帯域の成分を自己回帰モデルに基づいて時系列解析することにより、前記共振周波数を決定する、
請求項1から4のいずれかに記載のモニタリング装置。
【請求項7】
前記第2フィルタリング部は、前記第1周波数帯域の成分を、前記可変バンドストップフィルターに通すことにより、前記第2周波数帯域の成分を除去し、
前記ピーク決定部は、
前記第2周波数帯域の中心周波数を少なくとも含み、前記第1周波数帯域よりも帯域幅が狭い帯域の信号を通すバンドパスフィルターを定義し、
前記第1周波数帯域の成分を、前記定義したバンドパスフィルターに通し、
前記定義したバンドパスフィルターを通過した成分を自己回帰モデルに基づいて時系列解析することにより、前記共振周波数を決定する、
請求項1から4のいずれかに記載のモニタリング装置。
【請求項8】
前記決定された共振周波数に基づいて、前記車両に装着されているタイヤの減圧を検出する減圧検出部
をさらに備える、請求項1から7のいずれかに記載のモニタリング装置。
【請求項9】
前記可変バンドパスフィルターは、当該可変バンドパスフィルターを通過する信号のスペクトルの面積が最大となるように、自身の中心周波数を適応的に変化させる、請求項1から6及び8のいずれかに記載のモニタリング装置。
【請求項10】
前記可変バンドストップフィルターは、当該可変バンドストップフィルターで除去される信号のスペクトルの面積が最大となるように、自身の中心周波数を適応的に変化させる、請求項1から5ならびに7及び8のいずれかに記載のモニタリング装置。
【請求項11】
走行中の車両の状態をモニタリングするためのモニタリングプログラムであって、
走行中の前記車両の振動状態に関する時系列のセンシングデータを固定バンドパスフィルターに通すことにより、前記センシングデータの第1周波数帯域の成分を抽出することと、
前記抽出された前記第1周波数帯域の成分を、前記第1周波数帯域内で移動可能な可変バンドパスフィルター又は可変バンドストップフィルターに通すことにより、前記第1周波数帯域よりも帯域幅が狭い第2周波数帯域の成分を抽出又は除去することと、
前記第2周波数帯域を特定する値及び前記第2周波数帯域の成分の少なくとも一方に基づき、前記センシングデータの共振周波数を決定することと
をコンピュータに実行させる、モニタリングプログラム。
【請求項12】
走行中の車両の状態をモニタリングするためのモニタリング方法であって、
走行中の前記車両の振動状態に関する時系列のセンシングデータを固定バンドパスフィルターに通すことにより、前記センシングデータの第1周波数帯域の成分を抽出することと、
前記抽出された前記第1周波数帯域の成分を、前記第1周波数帯域内で移動可能な可変バンドパスフィルター又は可変バンドストップフィルターに通すことにより、前記第1周波数帯域よりも帯域幅が狭い第2周波数帯域の成分を抽出又は除去することと、
前記第2周波数帯域を特定する値及び前記第2周波数帯域の成分の少なくとも一方に基づき、前記センシングデータの共振周波数を決定することと
を含む、モニタリング方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、走行中の車両の状態のモニタリング装置、プログラム及び方法に関する。
【背景技術】
【0002】
車両を快適に走行させるためには、タイヤの空気圧が調整されていることが重要である。空気圧が適正値を下回ると、タイヤの耐久性や耐摩耗性、操縦安定性等が悪化したり、ハイドロプレーニングが起き易くなったり、また、燃費が悪くなるという問題が生じ得るからである。従来より、タイヤの減圧を自動的に検出するシステム(Tire Pressure Monitoring System; TPMS)が研究されている。タイヤが減圧しているという情報は、例えば、運転者への警報に用いることができる。
【0003】
タイヤの減圧を検出する方式には、タイヤに圧力センサを取り付ける等して、タイヤの空気圧を直接的に計測する方式の他、他の指標値を用いてタイヤの減圧を間接的に評価する方式がある。このような間接的な評価方式の1つとしては、共振周波数方式(Resonance Frequency Method; RFM)が知られている。RFMは、減圧により車輪速信号に含まれるタイヤの共振周波数特性が変化することを利用するものである。
【0004】
しかしながら、車載のコンピュータリソースは限られるため、高速フーリエ変換(FFT)を用いてタイヤの共振周波数特性の変化を解析することは時として困難である。このため、従来の手法においては、例えば特許文献1に示すように、周波数領域への変換を行わずに、共振周波数を推定している。具体的には、特許文献1では、時系列データとして取得される車輪速信号を、K次の自己回帰(autoregressive; AR)モデルに基づいて時系列解析する。具体的には、次の式(1)で示されるモデルにおけるパラメータθ=[a1,a2,・・・,aK]をカルマンフィルタ(逐次最小二乗法)で推定する。
【0005】
【数1】
【0006】
ここで、y(t)は時刻tにおける車輪速、εは白色ノイズを表しており、Kはモデルの次数である。共振周波数は、ARモデルを表わす伝達関数の極に対応する周波数として推定される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2009-274639号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、ARモデルを適用する帯域幅内にタイヤの共振ピークとは異なるノイズピークが存在すると、ARモデルに基づいて導出される共振周波数は、そのようなノイズピークに引っ張られて、真のタイヤの共振周波数からずれてしまう。よって、ノイズピークを避けるため、ARモデルを適用する帯域幅を狭く設定することが考えられる。しかし、それは、共振周波数の探索範囲が狭まることを意味するため、結果的に共振周波数を正しく算出できないことにもなり得るし、減圧検出を行う場合であれば、減圧感度(減圧により生じるタイヤの共振周波数の変化の大きさ)が低下する。従って、共振周波数の探索範囲を維持したまま、ノイズの影響をキャンセルして、共振周波数を精度よく算出できるようにすることが望まれる。なお、このことは、タイヤの減圧検出の場面に限らず、車両の走行中に取得される車両の振動状態に関するセンシングデータの共振周波数に基づき、走行中の車両の状態をモニタリングすることが要求される場面全般に当てはまり得る。タイヤの減圧検出の場面以外のこのような場面としては、例えば、乗心地と関連するバネ上及びバネ下共振のゲイン/周波数や、シミーやシェイク等の車両の振動ゲイン/周波数をモニタリングする場面や、車両が走行する路面の状態やタイヤの摩耗の状態を判定する場面等が想定される。
【0009】
本発明は、共振周波数の探索範囲を維持したまま、走行中の車両の振動状態に関するセンシングデータからノイズの影響をキャンセルして、共振周波数を精度よく算出することができるモニタリング装置、方法及びプログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の第1観点に係るモニタリング装置は、走行中の車両の状態をモニタリングするモニタリング装置であって、走行中の前記車両の振動状態に関する時系列のセンシングデータを固定バンドパスフィルターに通すことにより、前記センシングデータの第1周波数帯域の成分を抽出する第1フィルタリング部と、前記第1周波数帯域の成分を、前記第1周波数帯域内で移動可能な可変バンドパスフィルター又は可変バンドストップフィルターに通すことにより、前記第1周波数帯域よりも帯域幅が狭い第2周波数帯域の成分を抽出又は除去する第2フィルタリング部と、前記第2周波数帯域を特定する値及び前記第2周波数帯域の成分の少なくとも一方に基づき、前記センシングデータの共振周波数を決定するピーク決定部とを備える。
【0011】
本発明の第2観点に係るモニタリング装置は、第1観点に係るモニタリング装置であって、前記センシングデータは、前記車両に装着された車輪の回転情報である。
【0012】
本発明の第3観点に係るモニタリング装置は、第2観点に係るモニタリング装置であって、前記第2周波数帯域の帯域幅は、4Hz~12Hzである。
【0013】
本発明の第4観点に係るモニタリング装置は、第2観点又は第3観点に係るモニタリング装置であって、前記第1周波数帯域の帯域幅は、前記第2周波数帯域の帯域幅よりも4Hz~10Hz広い。
【0014】
本発明の第5観点に係るモニタリング装置は、第1観点から第4観点のいずれかに係るモニタリング装置であって、前記ピーク決定部は、前記第2周波数帯域を特定する値に基づき、前記共振周波数を前記第2周波数帯域の中心周波数として決定する。
【0015】
本発明の第6観点に係るモニタリング装置は、第1観点から第4観点のいずれかに係るモニタリング装置であって、前記ピーク決定部は、前記可変バンドパスフィルターを通過した前記第2周波数帯域の成分を自己回帰モデルに基づいて時系列解析することにより、前記共振周波数を決定する。
【0016】
本発明の第7観点に係るモニタリング装置は、第1観点から第4観点のいずれかに係るモニタリング装置であって、前記第2フィルタリング部は、前記第1周波数帯域の成分を、前記可変バンドストップフィルターに通すことにより、前記第2周波数帯域の成分を除去する。前記ピーク決定部は、前記第2周波数帯域の中心周波数を少なくとも含み、前記第1周波数帯域よりも帯域幅が狭い帯域の信号を通すバンドパスフィルターを定義し、前記第1周波数帯域の成分を、前記定義したバンドパスフィルターに通し、前記定義したバンドパスフィルターを通過した成分を自己回帰モデルに基づいて時系列解析することにより、前記共振周波数を決定する。
【0017】
本発明の第8観点に係るモニタリング装置は、第1観点から第7観点のいずれかに係るモニタリング装置であって、前記決定された共振周波数に基づいて、前記車両に装着されているタイヤの減圧を検出する減圧検出部をさらに備える。
【0018】
本発明の第9観点に係るモニタリングプログラムは、走行中の車両の状態をモニタリングするためのモニタリングプログラムであって、以下のことをコンピュータに実行させる。
(1)走行中の前記車両の振動状態に関する時系列のセンシングデータを固定バンドパスフィルターに通すことにより、前記センシングデータの第1周波数帯域の成分を抽出すること
(2)前記第1周波数帯域の成分を、前記第1周波数帯域内で移動可能な可変バンドパスフィルター又は可変バンドストップフィルターに通すことにより、前記第1周波数帯域よりも帯域幅が狭い第2周波数帯域の成分を抽出又は除去すること
(3)前記第2周波数帯域を特定する値及び前記第2周波数帯域の成分の少なくとも一方に基づき、前記センシングデータの共振周波数を決定すること
【0019】
本発明の第10観点に係るモニタリング方法は、走行中の車両の状態をモニタリングするためのモニタリング方法であって、以下のことを含む。
(1)走行中の前記車両の振動状態に関する時系列のセンシングデータを固定バンドパスフィルターに通すことにより、前記センシングデータの第1周波数帯域の成分を抽出すること
(2)前記第1周波数帯域の成分を、前記第1周波数帯域内で移動可能な可変バンドパスフィルター又は可変バンドストップフィルターに通すことにより、前記第1周波数帯域よりも帯域幅が狭い第2周波数帯域の成分を抽出又は除去すること
(3)前記第2周波数帯域を特定する値及び前記第2周波数帯域の成分の少なくとも一方に基づき、前記センシングデータの共振周波数を決定すること
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、まず、走行中の車両の振動状態に関するセンシングデータを、固定バンドパスフィルターを用いて、共振周波数の探索範囲となる第1周波数帯域の成分に絞り込む。次に、同成分に、第1周波数帯域内で移動可能な可変バンドパスフィルター又は可変バンドストップフィルターを適用し、第1周波数帯域をこれよりも狭く、共振周波数を含む第2周波数帯域にさらに絞り込む。よって、共振周波数の探索範囲(第1周波数帯域)を維持したまま、共振周波数の真のピークが存在する範囲(第2周波数帯域)を絞り込むことができる。これにより、センシングデータからノイズの影響をキャンセルして、共振周波数を精度よく算出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】本発明の一実施形態に係るモニタリング装置が車両に搭載された様子を示す模式図。
図2】モニタリング装置の電気的構成を示すブロック図。
図3】減圧検出処理の流れを示すフローチャート。
図4】比較例に係る共振周波数の値のグラフ。
図5】実施例1に係る共振周波数の値のグラフ。
図6】実施例2に係る共振周波数の値のグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、図面を参照しつつ、本発明の一実施形態に係る走行中の車両の状態のモニタリング装置、プログラム及び方法について説明する。
【0023】
<1.モニタリング装置の構成>
図1は、モニタリング装置2が車両1に搭載された様子を示す模式図である。モニタリング装置2は、車両1に搭載される制御ユニットとして実現され、走行中の車両1の状態をモニタリングする。車両1は、4輪車両であり、左前輪タイヤFL、右前輪タイヤFR、左後輪タイヤRL及び右後輪タイヤRRを備えている。モニタリング装置2は、これらのタイヤFL,FR,RL,RRの減圧を検出する機能を備えており、タイヤFL,FR,RL,RRの減圧が検出されると、車両1に搭載されている警報表示器3を介してその旨の警報を行う。このような減圧検出処理の流れの詳細については、後述する。
【0024】
タイヤFL,FR,RL,RRの減圧は、車輪の回転情報に基づいて検出される。タイヤFL,FR,RL,RRには(より正確には、タイヤFL,FR,RL,RRが取り付けられている車輪には)、各々、車輪速センサ6が取り付けられている。車輪速センサ6は、各々、車両1の走行中、自身の取り付けられた車輪の回転情報として、車輪速信号、すなわちタイヤFL,FR,RL,RRの回転速度を表す信号(以下、センシングデータという)を所定のサンプリング周期で検出する。本実施形態では、センシングデータのサンプリング周期は、4ミリ秒(サンプリング周波数に換算すると、250Hz)である。車輪速センサ6は、モニタリング装置2に通信線5aを介して接続されており、車輪速センサ6で時々刻々センシングされるセンシングデータは、通信線5aを介してリアルタイムにモニタリング装置2に送信される。こうして取得される時系列のセンシングデータは、走行中の車両1の振動状態を表す。
【0025】
車輪速センサ6としては、走行中のタイヤFL,FR,RL,RRの回転速度を検出できるものであれば、どのようなものでも用いることができる。例えば、電磁ピックアップの出力信号から回転速度を測定するタイプのセンサを用いることもできるし、ダイナモのように回転を利用して発電を行い、このときの電圧から回転速度を測定するタイプのセンサを用いることもできる。車輪速センサ6の取り付け位置も、特に限定されず、回転速度の検出が可能である限り、センサの種類に応じて、適宜、選択することができる。
【0026】
図2は、モニタリング装置2の電気的構成を示すブロック図である。モニタリング装置2は、ハードウェアとしては、車両1に搭載されている制御ユニットであり、図2に示されるとおり、I/Oインターフェース11、CPU12、ROM13、RAM14、及び不揮発性で書き換え可能な記憶装置15を備えている。I/Oインターフェース11は、車輪速センサ6や警報表示器3等の外部装置との通信を実現する通信装置である。ROM13には、車両1の各部の動作を制御するためのプログラム7が格納されている。CPU12は、ROM13からプログラム7を読み出して実行することにより、仮想的に第1フィルタリング部21、第2フィルタリング部22、ピーク決定部23及び減圧検出部24として動作する。各部21~24の動作の詳細は、後述する。記憶装置15は、ハードディスクやフラッシュメモリ等で構成される。なお、プログラム7の格納場所は、ROM13ではなく、記憶装置15であってもよい。RAM14及び記憶装置15は、CPU12の演算に適宜使用される。
【0027】
警報表示器3は、減圧が起きている旨をユーザに伝えることができる限り、例えば、液晶表示素子や液晶モニター等、任意の態様で実現することができる。例えば、警報表示器3は、四輪タイヤFL,FR,RL,RRにそれぞれ対応する4つのランプを、タイヤの実際の配列に併せて配置したものとすることができる。また、ランプは1つだけであってもよく、いずれかのタイヤで減圧が検出された場合に点灯するように構成することもできる。警報表示器3の取り付け位置も、適宜選択することができるが、例えば、インストルメントパネル上等、ドライバーに分かりやすい位置に設けることが好ましい。制御ユニット(モニタリング装置2)がカーナビゲーションシステムに接続される場合には、カーナビゲーション用のモニターを警報表示器3として使用することも可能である。警報表示器3としてモニターが使用される場合、警報はモニター上に表示されるアイコンや文字情報とすることができる。
【0028】
<2.減圧検出処理>
以下、図3を参照しつつ、タイヤFL,FR,RL,RRの減圧を検出するための減圧検出処理について説明する。図3に示す減圧検出処理は、例えば、車両1の走行が開始したときに開始し、走行が停止したときに終了する。本処理は、共振周波数方式(RFM)の減圧検出処理であり、RFMは、タイヤの空気圧が変化すると、タイヤの共振周波数fRが変化することを利用する。よって、本処理では、後述するとおり、タイヤの共振周波数fRが算出され、これに基づくタイヤの減圧検出が行われる。なお、以下では、簡単のため、左前輪タイヤFLの減圧が検出される様子を説明するが、残りのタイヤFR,RL,RRについても同様の処理が行われるものとする。
【0029】
まず、ステップS1では、第1フィルタリング部21が、車輪速センサ6から時々刻々送信されてくる、タイヤFLの回転速度を表すセンシングデータを取得する。ここで取得されるセンシングデータは、I/Oインターフェース11を介して受信される。
【0030】
ステップS1は、回転速度を表すセンシングデータが一定量以上溜まるまで繰り返され、その後、ステップS3に進む。ステップS3では、第1フィルタリング部21が、こうして溜められた回転速度に関する時系列のセンシングデータをハイパスフィルターに通すことにより、直流成分(0Hzの成分)を除去する。ステップS3は、後続のステップS5におけるアクティブノイズコントロールの前処理としての意味を持つ。
【0031】
なお、図3に点線で示すように、ステップS1の後、ステップS2として、ステップS1で取得された回転速度を表すセンシングデータを、回転加速度を表すセンシングデータに変換してもよい。回転加速度は、回転速度を微分することにより取得される。この場合、以後の処理では、回転速度を表すセンシングデータに代えて、回転加速度を表すセンシングデータが使用される。また、この場合、ステップS3は省略することができる。回転加速度は、回転速度を時間微分したものであり、既に直流成分が除去されているからである。
【0032】
続くステップS4では、第1フィルタリング部21は、ステップS3を経た時系列のセンシングデータのダウンサンプリング(デシメーション)を行う。本実施形態では、前述のとおり、車輪速センサ6によるサンプリング周波数が250Hzであり、ナイキスト周波数がその半分の125Hzであるため、ダウンサンプリング前の有効帯域は、0~125Hzである。本実施形態では、サンプル数を0.5倍となるように間引く。そのため、ステップS3を経た時系列のセンシングデータを、62.5Hz以上を除去するローパスフィルターに通し、有効帯域が0~62.5Hzのセンシングデータを導出する。
【0033】
続くステップS5では、第1フィルタリング部21は、ステップS4を経た時系列のセンシングデータに対し、アクティブノイズコントロール(Active noise control; ANC)を適用する。これにより、センシングデータから周期ノイズをできる限り除去し、ステップS8で決定されるタイヤFLの共振周波数fRの精度を高めることができる。
【0034】
ANCの参照信号として、共振周波数fRを算出しようとしているタイヤ(以下、自己タイヤという)の回転速度を表す過去のセンシングデータを使用することができる。あるいは、ANCの参照信号として、自己タイヤと同軸で左右反対側のタイヤ(例えば、左前輪タイヤFLであれば、右前輪タイヤFR)のセンシングデータを使用することができる。この場合、現在のセンシングデータと、直近の所定量の過去のセンシングデータとを組み合わせたものを使用することができる。あるいは、ANCの参照信号として、自己タイヤと同側で前後反対側のタイヤ(例えば、左前輪タイヤFLであれば、左後輪タイヤRL)のセンシングデータを使用することができる。なお、前輪タイヤのセンシングデータを参照して後輪タイヤのセンシングデータのノイズを消す場合には、前輪タイヤの過去のセンシングデータが参照される。一方、後輪タイヤのセンシングデータを参照して前輪タイヤのセンシングデータのノイズを消す場合には、後輪タイヤの将来のセンシングデータが参照される。これは、路面の継ぎ目を乗り越すときに生じるノイズを消す場面を考えると分かり易く、特定の継ぎ目を、まず前輪タイヤ乗り越し、その後、後輪タイヤが乗り越すからである。あるいは、これらの複数の参照信号に基づくANCを適宜組み合わせた多重ANCを適用することで、さらに効果的にノイズを除去することができる。ANCでは、主としてエンジンノイズのような周期ノイズを除去することができる。
【0035】
続くステップS6では、第1フィルタリング部21は、ステップS5を経たセンシングデータを固定バンドパスフィルターに通すことにより、第1周波数帯域の成分を抽出する。第1周波数帯域は、予め定められており、タイヤFLの減圧及び昇圧で変化する共振周波数fRの変化範囲を含むように定められることが好ましい。このような観点から、本実施形態の第1周波数帯域は、タイヤFLのねじり共振周波数の周辺(典型的には、30Hz~50Hzの周辺)の帯域である。また、同観点からは、第1周波数帯域の帯域幅は、好ましくは8Hz~22Hzであり、より好ましくは、10Hz~20Hzである。
【0036】
続くステップS7では、第2フィルタリング部22が、ステップS6を経たセンシングデータ、すなわち、第1周波数帯域の成分を可変バンドパスフィルターに通すことにより、第2周波数帯域の成分を抽出する。本実施形態では、第2周波数帯域の帯域幅は、第1周波数帯域よりも狭く、予め定められている。第2周波数帯域の帯域幅は、好ましくは4Hz~12Hzである。また、第1周波数帯域の帯域幅は、第2周波数帯域の帯域幅よりも好ましくは4Hz~10Hz広い。
【0037】
ステップS7で使用される可変バンドパスフィルターは、バンドパスフィルターの一種であり、同フィルターを通過する信号ゲイン(スペクトルの面積)が最大となるように、同フィルターの中心周波数を適応的に変化させるフィルターである。このフィルターの適応アルゴリズムとして、例えば、LMSアルゴリズムを用いることができる。第2フィルタリング部22は、第1周波数帯域内で、可変バンドパスフィルターを移動させながら、同フィルターを通過するセンシングデータの信号ゲインが最大となるような第2周波数帯域を決定し、こうして決定された第2周波数帯域の成分を抽出する。
【0038】
ところで、第1周波数帯域内で最も大きなピークがタイヤの共振周波数fRであれば、最終的に決定される第2周波数帯域は共振周波数fRに追従し、第2周波数帯域の中心周波数付近に共振周波数fRが現れる。そのため、第1周波数帯域の成分に可変バンドパスフィルターを適用することにより、共振周波数fRの探索範囲(第1周波数帯域)の広さを維持したまま、共振周波数fRが存在する範囲をこれよりも狭い範囲(第2周波数帯域)へと絞り込むことができる。また、第2周波数帯域が第1周波数帯域よりも狭いことで、注目している帯域内に余分なノイズピークが含まれる確率は低くなり、ステップS8で最終的に決定されるタイヤの共振周波数fRがノイズの影響を受け難くなる。
【0039】
また、タイヤの回転速度が速いほど、路面からの加振周波数が高くなるため、車輪速に基づくセンシングデータのゲインは、周波数が大きくなるほど大きくなる傾向にある。これは、車両1の走行速度に依存するノイズを生み、このノイズは、車両の状態を判定するための指標値として共振周波数fRを算出する上では、除去されるべきノイズとなる。この点、以上のとおり、本実施形態では、第2周波数帯域が第1周波数帯域よりも狭いことで、注目している帯域内に含まれるこの種のノイズの量が減り、ステップS8で減圧検出の指標値として決定されるタイヤの共振周波数fRがノイズの影響を受け難くなる。
【0040】
続くステップS8では、ピーク決定部23が、可変バンドパスフィルターを通過したセンシングデータの第2周波数帯域の成分に基づいて、タイヤFLの共振周波数fRを決定する。本実施形態では、ピーク決定部23は、第2周波数帯域の成分を、2次の自己回帰(AR)モデルに基づいてカルマンフィルターにより時系列解析し、ピーク周波数を共振周波数fRとする。あるいは、第2周波数帯域の成分を、高次(3次以上)の自己回帰(AR)モデルに基づいてカルマンフィルターにより時系列解析する。続いて、こうして推定されたARモデルのパラメータと推定に用いたセンシングデータとから、モデルに与えられたと仮定できる入力信号を復元する。そして、この入力信号と出力信号(センシングデータ)にバンドパスフィルター等の適当な信号処理を施した後に、2次の自己回帰移動平均(Autoregressive Moving Average; ARMA)モデルに基づいてカルマンフィルターによりシステムを決定する。そして、このときのピーク周波数を共振周波数fRとして決定してもよい。なお、高次のARモデル及び高次のARMAモデルにより共振周波数を算出する方法は、公知であるため、ここでは詳細な説明を省略するが、必要であれば、特許文献1や特開2011-102077号公報を参照されたい。
【0041】
続くステップS9では、減圧検出部24が、ステップS7で算出された減圧検出を行うための指標値としての共振周波数fRと、記憶装置15に記憶されている閾値とを比較し、前者が後者以下であれば、処理がステップS10に進められる。一方、後者が大きければ、ステップS1に戻る。
【0042】
ステップS10では、減圧検出部24が、減圧の警報を行う。具体的には、減圧検出部24は、車両1に搭載されている警報表示器3を点灯させ、タイヤFLが減圧状態にあることをドライバーに対し報知する。ステップS9が終わると、減圧検出処理が終了する。
【0043】
<3.変形例>
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない限りにおいて、種々の変更が可能である。例えば、以下の変更が可能である。また、以下の変形例の要旨は、適宜組み合わせることができる。
【0044】
<3-1>
上記実施形態では、タイヤの減圧検出を行うべく、車輪速信号(あるいは、これを微分した回転加速度を表すセンシングデータ)を用いて、共振周波数が決定された。しかしながら、走行中の車両の振動状態に関するセンシングデータから共振周波数を決定する上記アルゴリズムは、その他の場面においても適用可能である。例えば、乗心地や車両の振動(シミー、シェイク等)の状態、車両が走行する路面の状態やタイヤの故障(摩耗を含む)の状態等を判定するために、同様に、車輪速信号からピーク周波数やピークレベルを導出することが求められる場面があるが、このような場面でも、ステップS3~S8の方法を適用することができる。また、乗心地や車両の振動(シミー、シェイク等)の状態、路面の状態やタイヤの故障(摩耗を含む)の状態等を判定するために、タイヤや車輪、ナックルに取り付けられた加速度センサ(振動センサ)の出力信号から共振周波数を導出することが求められる場面があるが、このような場面でもステップS3~S8の方法を適用することができる。
【0045】
<3-2>
上記実施形態では、第2周波数帯域の成分にARモデルを適用することにより、共振周波数fRが決定された。しかしながら、ピーク決定部23は、ステップS7で決定された第2周波数帯域を特定する値に基づき、共振周波数fRを決定してもよい。例えば、共振周波数fRを第2周波数帯域の中心周波数(その近傍の周波数を含む)として決定してもよい。
【0046】
<3-3>
また、以下の方法で共振周波数fRを決定してもよい。まず、第2フィルタリング部22は、可変バンドパスフィルターに代えて、第1周波数帯域の成分を可変バンドストップフィルターに通すことにより、第2周波数帯域の成分を除去する。可変バンドストップフィルターは、バンドストップフィルターの一種であり、同フィルターで除去される信号ゲイン(スペクトルの面積)が最大となるように、同フィルターの中心周波数をLMSアルゴリズム等を用いて、適応的に変化させるフィルターである。第2フィルタリング部22は、第1周波数帯域内で、可変バンドパスフィルターを移動させながら、同フィルターで除去されるセンシングデータの信号ゲインが最大となるような第2周波数帯域を決定し、こうして決定された第2周波数帯域の成分を除去する。続いて、ピーク決定部23は、こうして決定された第2周波数帯域を特定する値に基づき、共振周波数fRを決定してもよい。例えば、共振周波数fRを第2周波数帯域の中心周波数(その近傍の周波数を含む)として決定してもよい。
【0047】
<3-4>
また、以下の方法で共振周波数fRを決定してもよい。まず、第2フィルタリング部22は、可変バンドパスフィルターに代えて、第1周波数帯域の成分を可変バンドストップフィルターに通すことにより、第2周波数帯域の成分を除去する。続いて、ピーク決定部23は、第2周波数帯域の中心周波数を少なくとも含み(典型的には、第2周波数帯域の中心周波数を中心周波数とする)、第1周波数帯域よりも帯域幅が狭い帯域(第2周波数帯域と同じとすることができる)の信号を通すバンドパスフィルターを定義する。そして、第1周波数帯域の成分を同バンドパスフィルターに通し、同バンドパスフィルターを通過した成分をステップS8と同様にARモデル及びARMAモデルに基づいて時系列解析することにより、共振周波数fRを決定してもよい。
【0048】
<3-5>
変形例3-4のように、第2周波数帯域の成分を通過させる可変バンドパスフィルターによらず、第2周波数帯域の成分を除去する可変バンドストップフィルターを用いたとしても、第2周波数帯域の成分を抽出することは可能である。そして、そのような場合には、上記実施形態と同じく、ARモデル及びARMAモデルに基づいて共振周波数fRを決定することができる。別の例を挙げると、以下の方法で共振周波数fRを決定してもよい。まず、第2フィルタリング部22は、第1周波数帯域の成分を可変バンドストップフィルターに通すことにより、第2周波数帯域の成分を除去する。続いて、ピーク決定部23は、可変バンドストップフィルターに通す直前のセンシングデータから、可変バンドストップフィルターを通過し、第2周波数帯域の成分が除去されたセンシングデータを引くことにより、センシングデータに含まれる第2周波数帯域の成分を取得する。そして、こうして取得されたセンシングデータを、ステップS8と同様にARモデル及びARMAモデルに基づいて時系列解析することにより、共振周波数fRを決定してもよい。
【実施例
【0049】
以下に、本発明の実施例1及び2と、比較例について説明する。まず、車両の駆動輪である右前輪及び左前輪に取り付けられた車輪速センサから車輪速信号(センサデータ)を収集し、以後、上記実施形態に係るステップS3~S6を実行した。このとき、ステップS5のANCでは、参照信号として、自己タイヤの過去のセンシングデータを使用した。ステップS6では、33Hz~47Hzの帯域を通過させる固定バンドパスフィルターを使用した。
【0050】
以上のとおりのステップS3~S6の実行後のセンシングデータに、ステップS8と同様のARモデル及びARMAモデルを適用し、共振周波数を算出した(比較例)。
【0051】
一方、ステップS3~S6の実行後のセンシングデータに、さらにステップS7及びS8を実行し、共振周波数を算出した(実施例1)。ここでのステップS7では、33Hz~47Hzの帯域内を移動する10Hzの帯域幅の可変バンドパスフィルターを使用した。
【0052】
また、ステップS3~S6の実行後のセンシングデータに、さらにステップS7を実行し、その後、変形例3-2のように、第2周波数帯域の中心周波数を共振周波数として決定した(実施例2)。ここでのステップS7でも、33Hz~47Hzの帯域内を移動する10Hzの帯域幅の可変バンドパスフィルターを使用した。
【0053】
タイヤの正常圧、15%減圧及び30%減圧の場合の車輪速信号に対し、比較例並びに実施例1及び2の各方法で共振周波数を算出した。比較例の結果を図4に、実施例1の結果を図5に、実施例2の結果を図6に示す。これらの各グラフの横軸は、センシングデータのデータ個数(すなわち、時間軸)であり、各グラフ内の一点鎖線のラインは、正常圧のときの平均値を示す。
【0054】
これらのグラフからは、特に30%減圧の場合を見ると分かり易いが、実施例1及び2の方が、比較例よりも、減圧感度が高い(正常圧と30%減圧の差が大きい)。よって、実施例1及び2の方法で算出された共振周波数に基づけば、十分な判定精度で減圧の検出を行うことができることが確認された。
【符号の説明】
【0055】
1 車両
2 モニタリング装置(コンピュータ)
7 プログラム
21 第1フィルタリング部
22 第2フィルタリング部
23 ピーク決定部
24 減圧検出部
図1
図2
図3
図4
図5
図6