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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-29
(45)【発行日】2022-09-06
(54)【発明の名称】タイヤ用モールド及びタイヤの製造方法
(51)【国際特許分類】
   B29C 33/02 20060101AFI20220830BHJP
   B29C 35/02 20060101ALI20220830BHJP
【FI】
B29C33/02
B29C35/02
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2018153904
(22)【出願日】2018-08-20
(65)【公開番号】P2020028978
(43)【公開日】2020-02-27
【審査請求日】2021-06-23
(73)【特許権者】
【識別番号】000183233
【氏名又は名称】住友ゴム工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000280
【氏名又は名称】特許業務法人サンクレスト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】三浦 広貴
【審査官】今井 拓也
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第108367521(CN,A)
【文献】特開2006-321107(JP,A)
【文献】特開2015-193201(JP,A)
【文献】特開2016-203593(JP,A)
【文献】特開2000-108130(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 33/02
B29C 35/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
生タイヤの外面にタイヤの外面を形づける、キャビティ面を有するモールドであって、
前記タイヤのトレッドを成形するトレッドリングと、
前記トレッドリングの端に連なり、当該タイヤのサイドウォールを成形するサイドプレートと、
を備え、
前記トレッドリングが周方向に並ぶ複数のセグメントから構成され、
前記セグメントの端面と前記サイドプレートの端面とが合わせられることにより構成される境界が、前記キャビティ面の法線に沿って当該キャビティ面から外向きに延びるテーパー部と、前記テーパー部の端から軸方向外向きに延びる同径部とを有し、
前記テーパー部に、前記キャビティ面から外向きに延びる溝が設けられ、
前記サイドプレートの端面に凹みが設けられ、当該凹みが前記セグメントの端面と組み合わされることにより、前記溝が構成される、タイヤ用モールド。
【請求項2】
前記溝の幅が0.1mm以上0.5mm以下である、請求項1に記載のタイヤ用モールド。
【請求項3】
前記溝の深さが3.0mm以上10.0mm以下である、請求項1又は2に記載のタイヤ用モールド。
【請求項4】
前記同径部が、少なくとも10.0mmの軸方向長さを有する、請求項1からのいずれかに記載のタイヤ用モールド。
【請求項5】
前記キャビティ面が、トレッド成形面と、前記トレッド成形面の端に連なる一対のショルダー成形面と、前記ショルダー成形面の端に連なる一対のサイド成形面とを含み、
前記テーパー部の端が前記ショルダー成形面に位置する、請求項1からのいずれかに記載のタイヤ用モールド。
【請求項6】
前記モールドの中心軸を含む平面に沿った、当該モールドの断面において、
前記ショルダー成形面の中心に、前記テーパー部の端が位置する、請求項に記載のタイヤ用モールド。
【請求項7】
請求項1からのいずれかに記載のモールドを用いて、生タイヤからタイヤを成形する、タイヤの製造方法であって、
前記モールドを開いて当該モールドに前記生タイヤを投入する工程と、
前記モールドを閉じて当該モールド内で前記生タイヤを加圧及び加熱する工程と
を含む、タイヤの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タイヤ用モールド及びタイヤの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
タイヤは、モールド内で生タイヤ(未架橋状態のタイヤ)を加圧及び加熱することにより得られる。モールド内で、生タイヤの外面はモールドの内面に押し付けられる。これにより、生タイヤの外面にタイヤの外面が形づけられる。モールドの内面は、キャビティ面と称される。
【0003】
モールドとして、割モールドタイプのモールドが知られている。割モールドタイプのモールドは、複数のセグメントと、一対のサイドプレートと、一対のビードリングとを備える。複数のセグメントは、周方向に配列され、トレッドリングを構成する。このトレッドリングは、タイヤのトレッドを成形する。それぞれのサイドプレートはトレッドリングに連なり、タイヤのサイドウォールを成形する。それぞれのビードリングは、サイドプレートに連なり、タイヤのビードの部分を成形する。
【0004】
モールドに生タイヤを投入するとき、モールドは開かれる。投入後、モールドは閉じられる。このとき、セグメントはサイドプレートに向かって径方向に移動し、セグメントの端面がサイドプレートとの端面と合わせられる。両端面が密着し、セグメントは静止する。これにより、このモールドにはセグメントとサイドプレートとの境界が構成される。この境界は、モールドの分割位置とも称される。
【0005】
このモールドでは、セグメントの十分な静止の観点から、タイヤの回転軸に相当するモールドの中心軸を含む平面に沿った、このモールドの断面において、このセグメントの端面とサイドプレートとの端面とは、軸方向に延びるように構成される。したがって、これら端面によって構成される境界も、軸方向に延びる。
【0006】
タイヤの製造では、セグメントの端面とサイドプレートの端面とが合わせられるとき、生タイヤのゴム組成物が両端面の間に噛み込むことがある。この場合、タイヤの外面に、噛み込んだゴム組成物からなる膜状の余分なゴム(バリとも称される。)が形成される。この余分なゴムは、例えば、トリミング装置を用いて刈り取られる。
【0007】
タイヤの外面に形成される余分なゴムは薄く、この余分なゴムの刈り取りには時間がかかる。この余分なゴムがモールドに貼りついた場合には、次のタイヤの成形においてこの余分なゴムがモールド内に混入する恐れがある。このような事情から、セグメントとサイドプレートとの境界に溝を設ける等して、タイヤの外面に形成される余分なゴムの形状を刈り取りやすい形状に整えることが検討されている(例えば、特許文献1)。
【0008】
特許文献1では、セグメントのキャビティ面側縁部に切欠き部が設けられ、セグメントとサイドプレートとの境界にくさび状の空間が設けられる。この特許文献1では、この空間を、セグメントの端面とサイドプレートの端面との間に噛み込んだゴム組成物の逃げ代として用い、余分なゴムの形状を刈り取りが容易な形状に整えることが試みられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特開2016-210091号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
前述したように、特許文献1が開示するモールドには、くさび状の空間がセグメントとサイドプレートとの境界に設けられる。この境界は、モールドにおいて軸方向に延びるので、この空間に基づいて形成される余分なゴムも軸方向に延びる。
【0011】
モールドにおいて、セグメントとサイドプレートとの境界は通常、タイヤのトレッド面とサイド面との境界部分に対応する部分に設けられる。前述の軸方向に延びる余分なゴムは、タイヤの外面の法線に沿うのではなく、この法線に対して傾斜する。
【0012】
前述のトリミング装置は、タイヤの外面に沿って移動する。このトリミング装置では、このタイヤの外面の法線に沿って延びる余分なゴムの刈り取りは容易である。しかし、この法線に対して傾斜する余分なゴムの刈り取りは難しく、刈り取りに時間がかかる。このため、特許文献1に開示されたモールドでは、余分なゴムの刈り取りのためにその形状が整えられたものの、この余分なゴムがタイヤの外面の法線に対して傾斜するので、この余分なゴムの刈り取りは難しく、この刈り取りに時間がかかる恐れがある。このモールドには、外観品質及び生産性の観点から、改善の余地がある。
【0013】
余分なゴムがタイヤの外面の法線に沿うようにこの余分なゴムを形成すれば、トリミング装置は余分なゴムを容易に刈り取ることができる。しかしこの場合、セグメントとサイドプレートとの境界が軸方向に対して傾斜するように、モールドは構成される。
【0014】
前述したように、モールドを閉じる際、セグメントはサイドプレートに向かって径方向に移動する。セグメントとサイドプレートとの境界の向きが軸方向に対して傾斜するように構成された場合、径方向に移動するセグメントをサイドプレートが十分に静止できない恐れがある。この場合、サイドプレートに対するセグメントの位置が安定しないので、外観品質が損なわれることが懸念される。
【0015】
本発明は、このような実状に鑑みてなされたものであり、外観品質の向上が達成された空気入りタイヤを得ることができる、タイヤ用モールド及び当該モールドを用いたタイヤの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明に係る好ましいタイヤ用モールドは、生タイヤの外面にタイヤの外面を形づける、キャビティ面を有するモールドであって、
前記タイヤのトレッドを成形するトレッドリングと、
前記トレッドリングの端に連なり、当該タイヤのサイドウォールを成形するサイドプレートと、
を備える。前記トレッドリングは、周方向に並ぶ複数のセグメントから構成される。前記セグメントの端面と前記サイドプレートの端面とが合わせられることにより構成される境界は、前記キャビティ面の法線に沿って当該キャビティ面から外向きに延びるテーパー部と、前記テーパー部の端から軸方向外向きに延びる同径部とを有する。前記テーパー部に、前記キャビティ面から外向きに延びる溝が設けられる。
【0017】
好ましくは、このタイヤ用モールドでは、前記サイドプレートの端面に、凹みが設けられる。当該凹みが前記セグメントの端面と組み合わされることにより、前記溝は構成される。
【0018】
好ましくは、このタイヤ用モールドでは、前記溝の幅が0.1mm以上0.5mm以下である。
【0019】
好ましくは、このタイヤ用モールドでは、前記溝の深さは3.0mm以上10.0mm以下である。
【0020】
好ましくは、このタイヤ用モールドでは、前記同径部は、少なくとも10.0mmの軸方向長さを有する。
【0021】
好ましくは、このタイヤ用モールドでは、前記キャビティ面の形状は、トレッド成形面と、前記トレッド成形面の端に連なる一対のショルダー成形面と、前記ショルダー成形面の端に連なる一対のサイド成形面とを含む。前記テーパー部の端は前記ショルダー成形面に位置する。
【0022】
好ましくは、このタイヤ用モールドでは、前記モールドの中心軸を含む平面に沿った、当該モールドの断面において、前記ショルダー成形面の中心に、前記テーパー部の端は位置する。
【0023】
本発明に係る好ましいタイヤの製造方法は、前述のモールドを用いて、生タイヤからタイヤを成形する、タイヤの製造方法であって、
(1)モールドを開いて当該モールドに前記生タイヤを投入する工程、及び
(2)前記モールドを閉じて当該モールド内で前記生タイヤを加圧及び加熱する工程
を含む。
【発明の効果】
【0024】
本発明のタイヤ用モールドでは、テーパー部に設けられた溝が、セグメントとサイドプレートとの間に噛み込んだゴム組成物の逃げ代として機能する。この溝は、キャビティ面の法線に沿ってこのキャビティ面から外向きに延びる。このため、このモールドで製造されたタイヤでは、外面に形成される余分なゴムはこの外面の法線に沿って延びる。この余分なゴムは、例えば、トリミング装置により、効率よくそして十分に刈り取られる。このモールドでは、良好な生産性を維持しながら外観品質の向上が達成されたタイヤが得られる。
【0025】
このモールドでは、刈り取られた余分なゴムはある程度の大きさを有する。この余分なゴムは、従来のモールドで発生する薄い膜状の余分なゴムのようにモールドに貼りつくことはない。このモールドを用いてタイヤを製造することにより、刈り取った余分なゴムが異物としてモールド内に混入することも防止される。このモールドでは、良好な外観品質を有するタイヤが安定に製造される。
【0026】
さらにこのモールドでは、同径部が軸方向に延びる。このため、モールドを閉じる際に、径方向内向きに移動するセグメントをサイドプレートが十分に静止できる。このモールドでは、その閉状態において、サイドプレートに対するセグメントの位置が安定する。このモールドでは、良好な外観品質を有するタイヤがより安定に製造される。
【0027】
本発明によれば、外観品質の向上が達成された空気入りタイヤを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
図1図1は、本発明の一実施形態に係るタイヤ用モールドが示された平面図である。
図2図2は、図1のモールドのII-II線に沿った断面図である。
図3図3は、図2のモールドの一部が示された断面図である。
図4図4は、モールドを閉じる際のセグメントの動きを説明する説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、適宜図面が参照されつつ、好ましい実施形態に基づいて、本発明が詳細に説明される。
【0030】
図1は、本発明の一実施形態に係るタイヤ用モールド2の平面図である。図1において、紙面に対して垂直な方向はこのモールド2の軸方向である。このモールド2の軸方向は、タイヤの軸方向に相当する。この図1において、符号CAはこのモールド2の中心軸である。この中心軸CAは、タイヤの回転軸に相当する。
【0031】
図2には、図1のII-II線に沿った、モールド2の断面がブラダーB及び生タイヤRTとともに示される。図1において、II-II線は径方向に延びる。この図2は、このモールド2の中心軸を含む平面に沿った、このモールド2の断面図である。この図2において、左右方向はモールド2の径方向であり、上下方向はこのモールド2の軸方向である。この紙面に対して垂直な方向は、このモールド2の周方向である。モールド2の径方向はタイヤの径方向に相当し、モールド2の周方向はタイヤの周方向に相当する。
【0032】
ブラダーBは、架橋ゴムからなる。ブラダーBには、例えば、スチームのような加圧加熱媒体が充填される。これにより、ブラダーBは図2に示されるように膨張する。この加圧加熱媒体を排出することにより、ブラダーBは収縮する。
【0033】
生タイヤRTは、未架橋状態のタイヤである。図示されないが、このタイヤはトレッド、サイドウォール、ビード等の多数の部材を備える。このタイヤの製造では、成形機(図示されず)においてこれら部材を組み合わせることにより、生タイヤRTは成形される。
【0034】
モールド2は、トレッドリング4と、一対のサイドプレート6と、一対のビードリング8とを備える。このモールド2は、トレッドリング4、一対のサイドプレート6及び一対のビードリング8を組み合わせることにより構成される。
【0035】
トレッドリング4は周方向に延びる。トレッドリング4はリング状である。このトレッドリング4は、複数のセグメント10を有する。図1に示されるように、このモールド2では、9つのセグメント10が周方向に並べられる。このトレッドリング4は、周方向に並ぶ9つのセグメント10から構成される。
【0036】
それぞれのサイドプレート6は、トレッドリング4の端に連なる。このサイドプレート6は、このトレッドリング4の端から径方向内向きに延びる。
【0037】
それぞれのビードリング8は、サイドプレート6の端に連なる。このビードリング8は、径方向においてサイドプレート6の内側に位置する。
【0038】
図示されないが、このモールド2がセットされる加硫機には、モールド2の開閉手段が設けられる。詳述しないが、この加硫機の開閉手段には、割モールドタイプのモールドの開閉のために一般的に用いられる開閉手段が適用される。
【0039】
モールド2が開かれるとき、開閉手段は、上側のサイドプレート6a及びビードリング8aを上昇させながらセグメント10を径方向外向きに移動させる。その後、開閉手段は、セグメント10並びに上側のサイドプレート6a及びビードリング8aを上昇させる。モールド2が閉じられるとき、この開閉手段は、セグメント10並びに上側のサイドプレート6a及びビードリング8aを下降させる。その後、上側のサイドプレート6a及びビードリング8aをさらに下降させながら、セグメント10を径方向内向きに移動させる。
【0040】
図2に示されたモールド2は、閉じられた状態にある。閉状態にあるモールド2では、セグメント10の端面12とサイドプレート6の一方の端面14とが合わせられる。このサイドプレート6の他方の端面16とビードリング8の端面18とが合わせられる。これにより、このモールド2には、セグメント10とサイドプレート6との境界20、そしてサイドプレート6とビードリング8との境界22が構成される。このセグメント10とサイドプレート6との境界20、そしてサイドプレート6とビードリング8との境界22は、このモールド2の分割位置である。
【0041】
このタイヤの製造では、成形機において準備された生タイヤRTはモールド2がセットされた加硫機(図示されず)に搬送される。モールド2が開かれ、このモールド2に生タイヤRTが投入される。ブラダーBに加圧加熱媒体が充填される。図2に示されるように、モールド2が閉じられ、生タイヤRTはモールド2内で加圧及び加熱される。これにより、タイヤが得られる。
【0042】
このタイヤの製造方法では、モールド2を用いて、生タイヤRTからタイヤが成形される。この製造方法は、
(1)モールド2を開いて当該モールド2に前記生タイヤRTを投入する工程、及び
(2)前記モールド2を閉じて当該モールド2内で前記生タイヤRTを加圧及び加熱する工程
を含む。
【0043】
図2に示されるように、ブラダーBはモールド2の内側に位置する。閉状態のモールド2内では、膨張したブラダーBによって、生タイヤRTの外面RSはモールド2の内面24に押し付けられる。これにより、生タイヤRTの外面RSにタイヤの外面が形づけられる。このモールド2の内面24はキャビティ面とも称される。このモールド2は、生タイヤRTの外面RSにタイヤの外面を形づける、キャビティ面24を有する。なお、このタイヤの製造では、ブラダーBに代えて、タイヤの内面形状が外面に構成された剛体コアが用いられてもよい。
【0044】
タイヤの外面には通常、トレッドパターン等が設けられる。このため、モールド2のキャビティ面24には、例えば、このトレッドパターンに対応する突条(図示されず)が設けられる。本発明においては、特に言及がない限り、この突条等の凹凸が設けられていないと仮定して得られる仮想キャビティ面が、キャビティ面24として表わされる。
【0045】
図3には、閉状態にあるモールド2の一部が示される。この図3は、図2に示されたモールド2の断面のうち、セグメント10とサイドプレート6との境界20の部分を示す。この図3において、左右方向はモールド2の径方向であり、上下方向はこのモールド2の軸方向である。この紙面に対して垂直な方向は、このモールド2の周方向である。
【0046】
図3に示されるように、このモールド2では、セグメント10とサイドプレート6との境界20は、その内側部分を構成するテーパー部26と、その外側部分を構成する同径部28とを有する。
【0047】
図3において、符号PBはテーパー部26の一方の端である。この端PBは、キャビティ面24上に位置する。図3に示された断面において、テーパー部26は軸方向外向きに拡径しつつキャビティ面24から直線状に延びる。このモールド2では、テーパー部26は軸方向に対して傾斜する。
【0048】
図3において、実線TLはテーパー部26の端PBにおけるキャビティ面24の接線である。角度θは、テーパー部26、具体的には、このテーパー部26を構成するサイドプレート6の端面14がこの接線TLに対してなす角度である。このモールド2では、この角度θは75°以上105°以下である。このモールド2では、テーパー部26は、キャビティ面24の法線に沿ってこのキャビティ面24から外向きに延びる。
【0049】
このモールド2では、同径部28は、軸方向においてテーパー部26の他方の端PAから外向きに延びる。この同径部28は軸方向に沿う。
【0050】
図3に示されるように、このモールド2では、テーパー部26に溝30が設けられる。この溝30は、キャビティ面24から外向きに延びる。
【0051】
前述したように、テーパー部26はキャビティ面24の法線に沿ってこのキャビティ面24から外向きに延びる。したがって、このテーパー部26に設けられる溝30も、このキャビティ面24の法線に沿ってこのキャビティ面24から外向きに延びる。
【0052】
このモールド2では、テーパー部26において、サイドプレート6の端面14に凹み32が設けられる。この凹み32がセグメント10の端面12と組み合わされることにより、前述の溝30が構成される。このモールド2では、テーパー部26において、セグメント10の端面12に凹み32が設けられてもよい。この場合、このセグメント10の凹み32がサイドプレート6の端面14と組み合わされることにより、溝30が構成される。この凹み32がセグメント10及びサイドプレート6のいずれに設けられるかは、材質等が考慮されて適宜決められる。
【0053】
このモールド2では、凹み32は、底面34とこの底面34に対して起立する壁36とで構成される。この凹み32はステップ上の段差である。底面34は、テーパー部26におけるサイドプレート6の端面14と平行である。壁36は、底面34に対して直交する。なお、この底面34と壁36とで構成される角が丸められてもよい。このモールド2では、溝30の根元部分において、溝30がキャビティ面24の法線に沿ってこのキャビティ面24から外向きに延びるように構成されるのであれば、凹み32の形状に特に制限はない。
【0054】
前述したように、このモールド2のキャビティ面24は、生タイヤRTの外面RSにタイヤの外面を形づける。図示されないが、タイヤの外面は、路面を踏みしめるトレッド面と、このトレッド面の端に連なる一対のショルダー面と、このショルダー面の端に連なる一対のサイド面とを含む。したがって、このキャビティ面24は、トレッド面を形づけるトレッド成形面38と、トレッド成形面38の端に連なりショルダー面を形づける一対のショルダー成形面40と、ショルダー成形面40の端に連なりサイド面を形づける一対のサイド成形面42とを有する。
【0055】
図2において、一点鎖線CLはモールド2の軸方向中心線である。この中心線CLは、タイヤの赤道面に相当する。この中心線CLは、赤道面相当線とも称される。符号PWは、キャビティ面24の軸方向幅が最大を示す位置(以下、最大幅位置という。)である。符号PTはトレッド成形面38とショルダー成形面40との境界であり、符号PSはショルダー成形面40とサイド成形面42との境界である。このモールド2では、径方向において境界PSは最大幅位置PWよりも外側に位置する。
【0056】
図2に示されたキャビティ面24において、一方の最大幅位置PWから他方の最大幅位置PWまでのゾーンの形状は複数の円弧を用いて表される。言い換えれば、このゾーンの形状は複数の円弧を含む。このキャビティ面24においては、境界PTから境界PSまでのゾーンがショルダー成形面40に対応し、このショルダー成形面40の形状は単一の円弧で表される。このモールド2では、ショルダー成形面40を表す円弧は、一方の最大幅位置PWから他方の最大幅位置PWまでのゾーンの形状を構成する複数の円弧の中で最も小さな半径を有する。
【0057】
図2に示されるように、このモールド2では、セグメント10とサイドプレート6との境界20、具体的には、この境界20の一部をなすテーパー部26の端PBはショルダー成形面40に位置する。詳細には、図2に示された、モールド2の中心軸を含む平面に沿った、このモールド2の断面において、ショルダー成形面40の中心に、このテーパー部26の端PBは位置する。
【0058】
前述したように、タイヤの製造においては、モールド2に生タイヤRTが投入されると、モールド2は閉じられる。このモールド2が開状態から閉状態に移行するとき、セグメント10とサイドプレート6との間に生タイヤRTのゴム組成物が■み込まれる。
【0059】
このモールド2では、テーパー部26に設けられた溝30が、セグメント10とサイドプレート6との間に噛み込んだゴム組成物の逃げ代として機能する。前述したように、この溝30は、キャビティ面24の法線に沿ってこのキャビティ面24から外向きに延びる。このため、このモールド2で製造されたタイヤでは、外面に形成される余分なゴムはこの外面の法線に沿って延びる。この余分なゴムの刈り取りは容易であるので、例えば、トリミング装置(図示されず)により、この余分なゴムは効率よくそして十分に刈り取られる。このモールド2では、外観品質の向上が達成されたタイヤが得られる。
【0060】
前述したように、テーパー部26が前述の接線TLに対してなす角度θは75°以上105°以下である。テーパー部26の溝30により形成される余分なゴムがより効率よくそしてより十分に刈り取られる観点から、テーパー部26は実質的にキャビティ面24の法線に沿ってこのキャビティ面24から外向きに延びるのが好ましい。具体的には、この角度θは80°以上100°以下が好ましく、85°以上95°以下がより好ましく、88°以上92°以下がさらに好ましい。
【0061】
このモールド2では、刈り取られた余分なゴムはある程度の大きさを有する。この余分なゴムは、従来のモールドで発生する薄い膜状の余分なゴムのようにモールド2に貼りつくことはない。このモールド2を用いてタイヤを製造することにより、刈り取った余分なゴムが異物としてモールド2内に混入することも防止される。このモールド2では、良好な外観品質を有するタイヤが安定に製造される。
【0062】
さらにこのモールド2では、同径部28が軸方向に延びる。すなわち、セグメント10の端面12のうち、同径部28を構成する部分12aと、サイドプレート6の端面14のうち、この同径部28を構成する部分14aとは、軸方向に延びる。このため、図4に示されるように、モールド2を閉じる際に、径方向内向きに移動するセグメント10をサイドプレート6が十分に静止できる。このモールド2では、その閉状態において、サイドプレート6に対するセグメント10の位置が安定する。このモールド2では、良好な外観品質を有するタイヤがより安定に製造される。
【0063】
図3において、両矢印WGは溝30の幅である。両矢印DGは、溝30の深さである。両矢印LCは、同径部28の軸方向長さである。
【0064】
このモールド2では、溝30の幅WGは0.1mm以上が好ましく、0.5mm以下が好ましい。この溝30の幅WGが0.1mm以上に設定されることにより、適度な厚さを有する余分なゴムが形成される。この余分なゴムはモールド2に貼り付きにくい。この溝30の幅WGが0.5mm以下に設定されることにより、余分なゴムの厚さが適切に維持される。この余分なゴムは、十分に刈り取られる。
【0065】
このモールド2では、溝30の深さDGは3.0mm以上が好ましく、10.0mm以下が好ましい。この溝30の深さDGが3.0mm以上に設定されることにより、必要な長さを有する余分なゴムが形成される。この余分なゴムは刈り取りやすい上に、モールド2に貼り付きにくい。この溝30の深さDGが10.0mm以下に設定されることにより、余分なゴムの長さが適切に維持される。この余分なゴムの倒れが防止されるので、この余分なゴムは刈り取りやすい。
【0066】
このモールド2では、同径部28は少なくとも10.0mmの軸方向長さLCを有する。この同径部28の軸方向長さLCが10.0mm以上に設定されることにより、モールド2を閉じる際に、径方向内向きに移動するセグメント10をサイドプレート6がより十分に静止できる。このモールド2では、その閉状態において、サイドプレート6に対するセグメント10の位置が安定する。なお、この軸方向長さLCは長いほど好ましいので、セグメント10の静止の観点において好ましい上限は設定されない。この軸方向長さLCはモールド2の構成によって適宜設定される。
【0067】
以上の説明から明らかなように、本発明によれば、外観品質の向上が達成された空気入りタイヤを得ることができる。
【0068】
今回開示した実施形態はすべての点で例示であって制限的なものではない。本発明の技術的範囲は前述の実施形態に限定されるものではなく、この技術的範囲には特許請求の範囲に記載された構成と均等の範囲内でのすべての変更が含まれる。
【実施例
【0069】
以下、実施例などにより、本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は、かかる実施例のみに限定されるものではない。
【0070】
[実施例1]
図1-3に示されたモールドを用いてタイヤ(サイズ=195/80R15)を製造した。このモールドでは、セグメントの端面とサイドプレートの端面とが合わせられることにより構成される境界は、キャビティ面の法線に沿ってこのキャビティ面から外向きに延びるテーパー部と、このテーパー部の端から軸方向外向きに延びる同径部とを有するように構成された。このテーパー部に、キャビティ面から外向きに延びる溝が設けられた。このことが、表1の[溝の向き]の欄に「図3」で表されている。なお、この実施例1では、溝の幅WGは0.3mmに設定された。溝の深さDGは、5.0mmに設定された。同径部の軸方向長さLCは、50mmに設定された。
【0071】
[比較例1]
従来のモールドを用いてタイヤ(サイズ=195/80R15)を製造した。この比較例1では、セグメントの端面とサイドプレートの端面とが合わせられることにより構成される境界は軸方向に延びる。この境界には、溝は設けられていない。このことが、表1の[溝の向き]の欄に「-」で表されている。
【0072】
[比較例2]
従来のモールドを用いてタイヤ(サイズ=195/80R15)を製造した。この比較例2では、セグメントの端面とサイドプレートの端面とが合わせられることにより構成される境界は軸方向に延びる。この比較例2では、この境界に溝が設けられた。境界が軸方向に延びるので、この溝も軸方向に延びる。このことが、表1の[溝の向き]の欄に「軸方向」で表されている。なお、溝の形状、すなわち、溝の幅WGは、及び溝の深さDGは、実施例1と同じように設定された。
【0073】
[外観品質の確認]
各例において、タイヤを1000本製造した。タイヤの外観を目視で確認し、刈り残しの発生率、そして、異物混入の発生率を得た。その結果が、下記の表1に示されている。数値が小さいほど好ましい。
【0074】
【表1】
【0075】
表1に示されるように、実施例1では、刈り残し発生率及び異物混入発生率の両方が比較例1に比してかなり低い。この実施例1では、異物混入の発生率が比較例2と同等であるが、刈り残し発生率がこの比較例2よりも低い。この実施例1では、比較例1及び2よりも評価が高い。この評価結果から、本発明の優位性は明らかである。
【産業上の利用可能性】
【0076】
以上説明されたモールドの境界(すなわち分割位置)に関する技術は、種々のタイヤのモールドにおいて適用することができる。
【符号の説明】
【0077】
2・・・モールド
4・・・トレッドリング
6・・・サイドプレート
8・・・ビードリング
10・・・セグメント
12・・・セグメント10の端面
14・・・サイドプレート6の一方の端面
20・・・セグメント10とサイドプレート6との境界
24・・・モールド2の内面(キャビティ面)
26・・・テーパー部
28・・・同径部
30・・・溝
38・・・トレッド成形面
40・・・ショルダー成形面
42・・・サイド成形面
図1
図2
図3
図4