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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-29
(45)【発行日】2022-09-06
(54)【発明の名称】タイヤ
(51)【国際特許分類】
   B60C 11/12 20060101AFI20220830BHJP
   B60C 11/03 20060101ALI20220830BHJP
【FI】
B60C11/12 D
B60C11/03 100A
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2018239947
(22)【出願日】2018-12-21
(65)【公開番号】P2020100288
(43)【公開日】2020-07-02
【審査請求日】2021-10-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000183233
【氏名又は名称】住友ゴム工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104134
【弁理士】
【氏名又は名称】住友 慎太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100156225
【弁理士】
【氏名又は名称】浦 重剛
(74)【代理人】
【識別番号】100168549
【弁理士】
【氏名又は名称】苗村 潤
(74)【代理人】
【識別番号】100200403
【弁理士】
【氏名又は名称】石原 幸信
(72)【発明者】
【氏名】岡田 崇史
(72)【発明者】
【氏名】若杉 将史
【審査官】岩本 昌大
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-140047(JP,A)
【文献】特開2017-193337(JP,A)
【文献】特開2016-101802(JP,A)
【文献】特開2018-111451(JP,A)
【文献】特開2014-184828(JP,A)
【文献】特開2018-52151(JP,A)
【文献】特開2017-24454(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60C 1/00-19/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
トレッド部を有するタイヤであって、
前記トレッド部は、タイヤ周方向に連続して延びるクラウン主溝と、
前記クラウン主溝と第1トレッド端との間でタイヤ周方向に連続して延びる第1ショルダー主溝と、
前記クラウン主溝と前記第1ショルダー主溝との間に区分された第1ミドル陸部と、
前記クラウン主溝を介して前記第1ミドル陸部と隣り合う第2ミドル陸部と、
前記第1ショルダー主溝を介して前記第1ミドル陸部と隣り合う第1ショルダー陸部とを有し、
前記第1ミドル陸部には、前記第1ミドル陸部を完全に横切る複数の第1横断サイプが設けられており、
前記第2ミドル陸部には、前記第2ミドル陸部を完全に横切る複数の第2横断サイプが設けられており、
前記第1ショルダー陸部には、前記第1ショルダー主溝からタイヤ軸方向外側に延びる複数の第1ショルダーサイプが設けられ、
前記第1横断サイプのそれぞれは、前記第1ショルダー主溝を介して、前記第1ショルダーサイプのそれぞれと滑らかに連続するように配置されており、かつ、前記クラウン主溝を介して前記第2横断サイプのそれぞれとは滑らかに連続しないように配置されている、
タイヤ。
【請求項2】
前記第1横断サイプは、その長さ方向に沿って前記第1ショルダー陸部側に延長した領域が、前記第1ショルダーサイプの前記第1ショルダー主溝側の端部と重複する、請求項1記載のタイヤ。
【請求項3】
前記第1横断サイプをその長さ方向に沿って前記第2ミドル陸部側に延長した第1領域と、前記第2横断サイプをその長さ方向に沿って前記第1ミドル陸部側に延長した第2領域とは、前記クラウン主溝内において互いに重複しない、請求項1又は2記載のタイヤ。
【請求項4】
前記クラウン主溝内において、前記第1領域と前記第2領域とのタイヤ周方向の最小離間距離は、3.0~6.0mmである、請求項3記載のタイヤ。
【請求項5】
前記第1横断サイプの少なくとも1本は、タイヤ軸方向の両端部を除く位置で底部が隆起した浅底部を有する、請求項1ないし4のいずれかに記載のタイヤ。
【請求項6】
前記第1ミドル陸部には、前記クラウン主溝から延びかつ前記第1ミドル陸部内で途切れる複数の第1非横断サイプが設けられており、
前記第2ミドル陸部には、前記クラウン主溝から延びかつ前記第2ミドル陸部内で途切れる複数の第2非横断サイプが設けられている、請求項1ないし5のいずれかに記載のタイヤ。
【請求項7】
前記第1非横断サイプのそれぞれは、前記クラウン主溝を介して前記第2非横断サイプのそれぞれとは滑らかに連続していない、請求項6記載のタイヤ。
【請求項8】
前記第1非横断サイプをその長さ方向に沿って前記第2ミドル陸部側に延長した第3領域と、前記第2非横断サイプをその長さ方向に沿って前記第1ミドル陸部側に延長した第4領域とは、前記クラウン主溝内において互いに重複しない、請求項7記載のタイヤ。
【請求項9】
前記クラウン主溝内において、前記第3領域と前記第4領域とのタイヤ周方向の最小離間距離は、1.0~2.0mmである、請求項8記載のタイヤ。
【請求項10】
前記クラウン主溝と前記第1非横断サイプとの連通部には、面取り部が設けられ、
前記面取り部は、第1ミドル陸部の踏面、前記クラウン主溝の溝壁及び前記第1非横断サイプのサイプ壁のそれぞれと連なる傾斜面を有する、請求項6ないし9のいずれかに記載のタイヤ。
【請求項11】
前記第1ショルダー陸部には、タイヤ軸方向に延びる第2ショルダーサイプが設けられ、
前記第2ショルダーサイプは、タイヤ軸方向の内端が前記第1ショルダー陸部内で途切れ、
前記第1非横断サイプをその長さ方向に沿って前記第1ショルダー陸部側に延長した領域は、前記第2ショルダーサイプの前記内端と重複する、請求項6ないし10のいずれかに記載のタイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タイヤに関し、詳しくは、ミドル陸部にサイプが設けられたタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
下記特許文献1には、ミドル陸部に軸方向サイプが設けられた空気入りタイヤが記載されている。特許文献1の空気入りタイヤは、軸方向サイプによって、ミドル陸部の剛性の維持及び排水性の向上を期待している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2014-205420号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1の空気入りタイヤは、操縦安定性、とりわけ走行時にスリップ角が与えられたときの応答性(以下、「初期応答性」という。)において、改善の余地があった。一方、操縦安定性を高めるため、トレッド部の陸部を高剛性化すると、陸部に偏摩耗が発生するという問題があった。
【0005】
本発明は、以上のような問題点に鑑み案出なされたもので、耐摩耗性を損ねることなく、優れた操縦安定性を発揮し得るタイヤを提供することを主たる課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、トレッド部を有するタイヤであって、前記トレッド部は、タイヤ周方向に連続して延びるクラウン主溝と、前記クラウン主溝と第1トレッド端との間でタイヤ周方向に連続して延びる第1ショルダー主溝と、前記クラウン主溝と前記第1ショルダー主溝との間に区分された第1ミドル陸部と、前記クラウン主溝を介して前記第1ミドル陸部と隣り合う第2ミドル陸部と、前記第1ショルダー主溝を介して前記第1ミドル陸部と隣り合う第1ショルダー陸部とを有し、前記第1ミドル陸部には、前記第1ミドル陸部を完全に横切る複数の第1横断サイプが設けられており、前記第2ミドル陸部には、前記第2ミドル陸部を完全に横切る複数の第2横断サイプが設けられており、前記第1ショルダー陸部には、前記第1ショルダー主溝からタイヤ軸方向外側に延びる複数の第1ショルダーサイプが設けられ、前記第1横断サイプのそれぞれは、前記第1ショルダー主溝を介して、前記第1ショルダーサイプのそれぞれと滑らかに連続するように配置されており、かつ、前記クラウン主溝を介して前記第2横断サイプのそれぞれとは滑らかに連続しないように配置されている。
【0007】
本発明のタイヤにおいて、前記第1横断サイプは、その長さ方向に沿って前記第1ショルダー陸部側に延長した領域が、前記第1ショルダーサイプの前記第1ショルダー主溝側の端部と重複するのが望ましい。
【0008】
本発明のタイヤにおいて、前記第1横断サイプをその長さ方向に沿って前記第2ミドル陸部側に延長した第1領域と、前記第2横断サイプをその長さ方向に沿って前記第1ミドル陸部側に延長した第2領域とは、前記クラウン主溝内において互いに重複しないのが望ましい。
【0009】
本発明のタイヤにおいて、前記クラウン主溝内において、前記第1領域と前記第2領域とのタイヤ周方向の最小離間距離は、3.0~6.0mmであるのが望ましい。
【0010】
本発明のタイヤにおいて、前記第1横断サイプの少なくとも1本は、タイヤ軸方向の両端部を除く位置で底部が隆起した浅底部を有するのが望ましい。
【0011】
本発明のタイヤにおいて、前記第1ミドル陸部には、前記クラウン主溝から延びかつ前記第1ミドル陸部内で途切れる複数の第1非横断サイプが設けられており、前記第2ミドル陸部には、前記クラウン主溝から延びかつ前記第2ミドル陸部内で途切れる複数の第2非横断サイプが設けられているのが望ましい。
【0012】
本発明のタイヤにおいて、前記第1非横断サイプのそれぞれは、前記クラウン主溝を介して前記第2非横断サイプのそれぞれとは滑らかに連続していないのが望ましい。
【0013】
本発明のタイヤにおいて、前記第1非横断サイプをその長さ方向に沿って前記第2ミドル陸部側に延長した第3領域と、前記第2非横断サイプをその長さ方向に沿って前記第1ミドル陸部側に延長した第4領域とは、前記クラウン主溝内において互いに重複しないのが望ましい。
【0014】
本発明のタイヤにおいて、前記クラウン主溝内において、前記第3領域と前記第4領域とのタイヤ周方向の最小離間距離は、1.0~2.0mmであるのが望ましい。
【0015】
本発明のタイヤにおいて、前記クラウン主溝と前記第1非横断サイプとの連通部には、面取り部が設けられ、前記面取り部は、第1ミドル陸部の踏面、前記クラウン主溝の溝壁及び前記第1非横断サイプのサイプ壁のそれぞれと連なる傾斜面を有するのが望ましい。
【0016】
本発明のタイヤにおいて、前記第1ショルダー陸部には、タイヤ軸方向に延びる第2ショルダーサイプが設けられ、前記第2ショルダーサイプは、タイヤ軸方向の内端が前記第1ショルダー陸部内で途切れ、前記第1非横断サイプをその長さ方向に沿って前記第1ショルダー陸部側に延長した領域は、前記第2ショルダーサイプの前記内端と重複するのが望ましい。
【発明の効果】
【0017】
本発明のタイヤにおいて、第1ミドル陸部には、第1ミドル陸部を完全に横切る複数の第1横断サイプが設けられている。第2ミドル陸部には、第2ミドル陸部を完全に横切る複数の第2横断サイプが設けられており、第1ショルダー陸部には、第1ショルダー主溝からタイヤ軸方向外側に延びる複数の第1ショルダーサイプが設けられている。前記第1横断サイプのそれぞれは、前記第1ショルダー主溝を介して、前記第1ショルダーサイプのそれぞれと滑らかに連続するように配置されており、かつ、前記クラウン主溝を介して前記第2横断サイプのそれぞれとは滑らかに連続しないように配置されている。
【0018】
タイヤの旋回時の初期応答性を向上させるために、タイヤにスリップ角が与えられたときのトレッド部の捻り剛性を高めることが重要である。発明者らの実験によると、上述のように、第1横断サイプ、第2横断サイプ及び第1ショルダーサイプを互いに関連付けて配置すると、スリップ角が与えられたときに、第1ショルダー陸部から第2ミドル陸部にかけての捻り剛性が最適化され、ひいては、初期応答性が向上することがわかった。
【0019】
また、直進走行時に大きな接地圧が作用する第1ミドル陸部及び第2ミドル陸部には、それぞれ第1横断サイプ及び第2横断サイプが設けられている。これらの第1横断サイプ及び第2横断サイプは、前記第1ミドル陸部及び第2ミドル陸部の剛性を低下させることなく、接地時の各陸部の変形を許容する。したがって、本発明のタイヤは、初期応答性を向上させながら、前記第1ミドル陸部及び第2ミドル陸部の路面に対する滑りを低減し、耐摩耗性の悪化も防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本発明の一実施形態のタイヤのトレッド部の展開図である。
図2図1の第1ミドル陸部、第2ミドル陸部及び第1ショルダー陸部の拡大図である。
図3】(a)は、図2のA-A線断面図であり、(b)は、図2のB-B線断面図である。
図4図2の第1非横断サイプの拡大斜視図である。
図5】比較例1のタイヤのトレッド部の展開図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施の一形態が図面に基づき説明される。
図1には、本実施形態のタイヤ1のトレッド部2の展開図が示されている。本実施形態のタイヤ1は、例えば、乗用車用の空気入りタイヤとして好適に使用される。但し、本発明のタイヤ1は、このような使用態様に限定されるものではない。
【0022】
図1に示されるように、タイヤ1のトレッド部2には、タイヤ周方向に連続して延びる1本のクラウン主溝3と、クラウン主溝3と第1トレッド端Te1との間でタイヤ周方向に連続して延びる第1ショルダー主溝4と、クラウン主溝3と第2トレッド端Te2との間でタイヤ周方向に連続して延びる第2ショルダー主溝5とが設けられている。
【0023】
第1トレッド端Te1及び第2トレッド端Te2は、正規リム(図示せず)にリム組みされかつ正規内圧が充填され、しかも無負荷である正規状態のタイヤ1に、正規荷重を負荷してキャンバー角0°で平面に接地させたときの最もタイヤ軸方向外側の接地位置である。
【0024】
「正規リム」は、タイヤが基づいている規格を含む規格体系において、当該規格がタイヤ毎に定めているリムであり、例えばJATMAであれば "標準リム" 、TRAであれば "Design Rim" 、ETRTOであれば "Measuring Rim" である。
【0025】
「正規内圧」は、タイヤが基づいている規格を含む規格体系において、各規格がタイヤ毎に定めている空気圧であり、JATMAであれば "最高空気圧" 、TRAであれば表 "TIRE LOAD LIMITS AT VARIOUS COLD INFLATION PRESSURES" に記載の最大値、ETRTOであれば "INFLATION PRESSURE" である。
【0026】
「正規荷重」は、タイヤが基づいている規格を含む規格体系において、各規格がタイヤ毎に定めている荷重であり、JATMAであれば "最大負荷能力" 、TRAであれば表 "TIRE LOAD LIMITS AT VARIOUS COLD INFLATION PRESSURES" に記載の最大値、ETRTOであれば "LOAD CAPACITY" である。
【0027】
本実施形態のクラウン主溝3は、例えば、タイヤ赤道C上に配されている。
【0028】
タイヤ赤道Cから第1ショルダー主溝4又は第2ショルダー主溝5の溝中心線までのタイヤ軸方向の距離L1は、例えば、トレッド幅TWの0.20~0.30倍であるのが望ましい。トレッド幅TWは、前記正規状態における第1トレッド端Te1から第2トレッド端Te2までのタイヤ軸方向の距離である。
【0029】
各主溝の溝幅W1は、例えば、トレッド幅TWの4~7%であるのが望ましい。各主溝の溝深さは、例えば、5~10mmであるのが望ましい。
【0030】
トレッド部2には、クラウン主溝3、第1ショルダー主溝4及び第2ショルダー主溝5が設けられることにより、第1ミドル陸部6及び第2ミドル陸部7、並びに、第1ショルダー陸部8及び第2ショルダー陸部9が区分されている。
【0031】
第1ミドル陸部6は、クラウン主溝3と第1ショルダー主溝4との間に区分されている。第2ミドル陸部7は、クラウン主溝3と第2ショルダー主溝5との間に区分されている。第2ミドル陸部7は、クラウン主溝3を介して第1ミドル陸部6と隣り合っている。
【0032】
第1ショルダー陸部8は、第1ショルダー主溝4と第1トレッド端Te1との間に区分されている。第1ショルダー陸部8は、第1ショルダー主溝4を介して第1ミドル陸部6と隣り合っている。第2ショルダー陸部9は、第2ショルダー主溝5と第2トレッド端Te2との間に区分されている。第2ショルダー陸部9は、第2ショルダー主溝5を介して第2ミドル陸部7と隣り合っている。
【0033】
本実施形態のトレッド部2は、実質的に点対称のトレッドパターンで構成されている。このため、以下で説明される第1ミドル陸部6の構成は、第2ミドル陸部7に適用することができる。また、第1ショルダー陸部8の構成は、第2ショルダー陸部9に適用することができる。
【0034】
図2には、第1ミドル陸部6、第2ミドル陸部7及び第1ショルダー陸部8の拡大図が示されている。図2に示されるように、第1ミドル陸部6には、第1ミドル陸部6を完全に横切る複数の第1横断サイプ11が設けられている。第2ミドル陸部7には、第2ミドル陸部7を完全に横切る複数の第2横断サイプ12が設けられている。第1ショルダー陸部8には、第1ショルダー主溝4からタイヤ軸方向外側に延びる複数の第1ショルダーサイプ31が設けられている。なお、本明細書において、「サイプ」とは、幅が2.0mm未満の切れ込みを意味する。
【0035】
第1横断サイプ11のそれぞれは、第1ショルダー主溝4を介して、第1ショルダーサイプ31のそれぞれと滑らかに連続するように配置されている。また、第1横断サイプ11のそれぞれは、クラウン主溝3を介して第2横断サイプ12のそれぞれとは滑らかに連続しないように配置されている。
【0036】
なお、本明細書において、「一方のサイプが主溝を介して他方のサイプと滑らかに連続する」とは、一方のサイプをその長さ方向に沿って延長した領域と、他方のサイプをその長さ方向に沿って延長した領域とについて、主溝内でのタイヤ周方向の最小離間距離が1.0mm未満であることを意味する。なお、サイプが曲がっている場合、前記領域は、サイプの主溝側の端における曲率を保って延びるものとする。
【0037】
空気入りタイヤの旋回時の初期応答性を向上させるために、タイヤにスリップ角が与えられたときのトレッド部の捻り剛性を高めることが重要である。発明者らの実験によると、上述のように、第1横断サイプ11、第2横断サイプ12及び第1ショルダーサイプ31を互いに関連付けて配置すると、スリップ角が与えられたときに、第1ショルダー陸部8から第2ミドル陸部7にかけての捻り剛性が最適化され、ひいては、初期応答性が向上することがわかった。
【0038】
また、直進走行時に大きな接地圧が作用する第1ミドル陸部6及び第2ミドル陸部7には、それぞれ第1横断サイプ11及び第2横断サイプ12が設けられている。これらの第1横断サイプ11及び第2横断サイプ12は、第1ミドル陸部6及び第2ミドル陸部7の剛性を低下させることなく、接地時の各陸部の変形を許容する。したがって、本発明の空気入りタイヤは、初期応答性を向上させながら、第1ミドル陸部6及び第2ミドル陸部7の路面に対する滑りを低減し、耐摩耗性の悪化も防止できる。
【0039】
第1横断サイプ11を第1ショルダー陸部8側に延長した領域17aと、第1ショルダーサイプ31を第1ミドル陸部6側に延長した領域17bとの第1ショルダー主溝4内におけるタイヤ周方向の最小離間距離(以下、第1最小離間距離という場合がある。)は、0.5mm未満であるのが望ましい。本実施形態では、前記領域17aと前記領域17bとが重複している(すなわち、第1最小離間距離が0である。)。さらに望ましい態様では、第1横断サイプ11は、その長さ方向に沿って第1ショルダー陸部8側に延長した領域17aが、第1ショルダーサイプ31の第1ショルダー主溝4側の端部と重複する。このようなサイプの配置は、第1ミドル陸部6及び第1ショルダー陸部8が一体となって動き易く、初期応答性をさらに高めるのに役立つ。
【0040】
第1横断サイプ11をその長さ方向に沿って第2ミドル陸部7側に延長した第1領域21と、第2横断サイプ12をその長さ方向に沿って第1ミドル陸部6側に延長した第2領域22とは、クラウン主溝3内において互いに重複しない。クラウン主溝3内において、第1領域21と第2領域22とのタイヤ周方向の最小離間距離(以下、第2最小離間距離という場合がある。)は、少なくとも1.0mm以上である。望ましい態様として、本実施形態の第2最小離間距離は、3.0~6.0mmである。このようなサイプの配置は、第1ミドル陸部6及び第2ミドル陸部7の偏摩耗を抑制するのに役立つ。
【0041】
第1横断サイプ11は、例えば、クラウン主溝3から第1ショルダー主溝4まで直線状に延びている。また、第1横断サイプ11は、例えば、タイヤ軸方向に対して一方向に傾斜している。第1横断サイプ11のタイヤ軸方向に対する角度は、例えば、15~35°であるのが望ましい。
【0042】
図3(a)には、図2の第1横断サイプ11のA-A線断面図が示されている。図3(a)に示されるように、第1横断サイプ11は、例えば、第1ミドル陸部6の踏面で開口する開口部28と、開口部28のタイヤ半径方向内側に配され、かつ、開口部28よりも小さい幅の幅狭部29とを含んでいる。開口部28の幅W4は、例えば、1.0~1.8mmである。幅狭部29の幅W5は、例えば、0.6~1.0mmである。このような第1横断サイプ11は、第1ミドル陸部6の剛性を維持しつつ、ウェット性能の向上も期待できる。
【0043】
図3(b)には、図2の第1横断サイプ11のB-B線断面図が示されている。図3(b)に示されるように、第1横断サイプ11は、例えば、底部が隆起した浅底部27を有しているのが望ましい。浅底部27は、例えば、タイヤ軸方向の両端部を除く位置で隆起しているのが望ましい。また、浅底部27は、第1ミドル陸部6のタイヤ軸方向の中心を横切っている。このような浅底部27は、初期応答性と耐摩耗性とをバランス良く高める。
【0044】
上述の効果をさらに高めるために、浅底部27の深さd2は、例えば、第1横断サイプ11の最大の深さd1の0.45~0.65倍であるのが望ましい。浅底部27のタイヤ軸方向の長さL5は、例えば、第1ミドル陸部6のタイヤ軸方向の幅W2(図2に示す)の0.55~0.70倍であるのが望ましい。
【0045】
なお、上述の第1横断サイプ11の各構成は、第2横断サイプ12に適用することができる。
【0046】
図2に示されるように、本実施形態において、第1ミドル陸部6には、クラウン主溝3から延びかつ第1ミドル陸部6内で途切れる複数の第1非横断サイプ13が設けられている。第1ミドル陸部6において、第1横断サイプ11と第1非横断サイプ13とは、タイヤ周方向に交互に設けられている。より望ましい態様では、第1横断サイプ11と第1非横断サイプ13とは、タイヤ周方向に実質的に等間隔で配置されている。
【0047】
同様に、第2ミドル陸部7には、クラウン主溝3から延びかつ第2ミドル陸部7内で途切れる複数の第2非横断サイプ14が設けられている。第2ミドル陸部7において、第2横断サイプ12と第2非横断サイプ14とは、タイヤ周方向に交互に設けられている。より望ましい態様では、第2横断サイプ12と第2非横断サイプ14とは、タイヤ周方向に実質的に等間隔で配置されている。
【0048】
第1非横断サイプ13のそれぞれは、クラウン主溝3を介して第2非横断サイプ14のそれぞれとは滑らかに連続していないのが望ましい。具体的には、第1非横断サイプ13をその長さ方向に沿って第2ミドル陸部7側に延長した第3領域23と、第2非横断サイプ14をその長さ方向に沿って第1ミドル陸部6側に延長した第4領域24とは、クラウン主溝3内において互いに重複していない。このような第1非横断サイプ13及び第2非横断サイプ14は、第1ミドル陸部6及び第2ミドル陸部7の偏摩耗をさらに抑制することができる。
【0049】
クラウン主溝3内において、第3領域23と第4領域24とのタイヤ周方向の最小離間距離(以下、第3最小離間距離という場合がある。)は、例えば、1.0~6.0mmであり、より望ましくは1.0~2.0mmである。このような第1非横断サイプ13及び第2非横断サイプ14は、初期応答性と耐摩耗性とをバランス良く高めることができる。
【0050】
図4には、第1非横断サイプ13の拡大斜視図が示されている。図4に示されるように、クラウン主溝3と第1非横断サイプ13との連通部13aには、面取り部25が設けられているのが望ましい。なお、面取り部25は、第1ミドル陸部6の踏面、クラウン主溝3の溝壁及び第1非横断サイプ13のサイプ壁のそれぞれと連なる傾斜面25aを有する。
【0051】
本実施形態の第1ミドル陸部6は、第1横断サイプ11及び第1非横断サイプ13が設けられることによって、クラウン主溝3側が相対的に変形し易い。このため、第1ミドル陸部6に大きな接地圧が作用したときや、タイヤにスリップ角が付与されたとき、面取り部25の外面の一部を接地させることが可能であり、第1ミドル陸部6の実質的な接地面積が大きくなる。したがって、旋回時の初期応答性が高められ、ひいては優れた操縦安定性が期待できる。
【0052】
また、本実施形態の第1ミドル陸部6は、面取り部25が設けられることにより、連通部13aが接地するときの打音を小さくすることができ、ノイズ性能を高めることができる。
【0053】
望ましい態様では、面取り部25の傾斜面25aが曲面で構成されている。また、本実施形態では、傾斜面25aが第1ミドル陸部6の外方に向かって凸となる曲面で構成されている。このような面取り部25は、第1ミドル陸部6に作用する接地圧が大きくなったとき、傾斜面を滑らかに接地させることができ、面取り部25周辺の偏摩耗を抑制することができる。
【0054】
面取り部25の最大の深さは、例えば、2.0~4.0mmであり、望ましくは2.5~3.5mmである。
【0055】
図2に示されるように、トレッド平面視において、傾斜面25aと第1ミドル陸部6の踏面との間の踏面側エッジ26は、曲線状が望ましく、円弧状であるのがより望ましい。
【0056】
面取り部25は、例えば、クラウン主溝3の溝縁3eと第1非横断サイプ13のエッジ13eとの角度が鈍角となるコーナ部分に配されているのが望ましい。すなわち、トレッド平面視において、踏面側エッジ26に連なる第1非横断サイプ13のエッジ13eと、踏面側エッジ26に連なるクラウン主溝3の溝縁3eとの間の角度は、鈍角である。このような面取り部25は、鋭角となるコーナ部分に配されるよりも大きな傾斜面を有し、上述の効果をさらに発揮することができる。
【0057】
トレッド平面視において、面取り部25のタイヤ軸方向の長さL6は、例えば、第1非横断サイプ13のタイヤ軸方向の長さL2の好ましくは0.30倍以上、より好ましくは0.35倍以上であり、好ましくは0.45倍以下、より好ましくは0.40倍以下である。このような面取り部25は、操縦安定性とノイズ性能とをバランス良く高めることができる。
【0058】
同様の観点から、クラウン主溝3の溝縁3eに沿った面取り部25の長さは、面取り部25のタイヤ軸方向の長さL6の0.90~1.50倍であるのが望ましい。
【0059】
本実施形態では、第1非横断サイプ13と連なる面取り部25は、第1非横断サイプ13のタイヤ周方向の一方側に設けられ、第2非横断サイプ14と連なる面取り部25は、第2非横断サイプ14のタイヤ周方向の他方側に設けられている。また、第1非横断サイプ13と連なる面取り部25を第1非横断サイプ13の長さ方向に沿って延長した領域は、第2非横断サイプ14と連なる面取り部25を第2非横断サイプ14の長さ方向に沿って延長した領域と重複しない。このような面取り部25の配置は、第1ミドル陸部6及び第2ミドル陸部7の偏摩耗をさらに抑制することができる。
【0060】
上述の面取り部25は、第1非横断サイプ13のみに設けられ、第1横断サイプ11には設けられていない。これにより、面取り部によって通常走行時の接地面積が過度に減じられるのを防ぐことができる。
【0061】
第1非横断サイプ13は、例えば、タイヤ軸方向に対して傾斜している。第1非横断サイプ13は、例えば、第1横断サイプ11と同じ向きに傾斜している。第1非横断サイプ13のタイヤ軸方向に対する角度は、例えば、15~35°である。さらに望ましい態様として、本実施形態では、第1横断サイプ11と第1非横断サイプ13とが互いに平行に配されている。
【0062】
第1非横断サイプ13のタイヤ軸方向の長さL2は、例えば、第1ミドル陸部6のタイヤ軸方向の幅W2の好ましくは0.40~0.60倍であり、より好ましくは0.51~0.55倍である。
【0063】
第1非横断サイプ13の第1ミドル陸部6内の途切れ端13bは、例えば、2本の第1横断サイプ11の間に区分されるブロック片6aの中央部付近に配されているのが望ましい。具体的には、第1非横断サイプ13の途切れ端13bは、ブロック片6aの踏面の図心との距離が5mm未満の位置に設けられるのが望ましい。さらに望ましい態様では、第1非横断サイプ13の途切れ端13bは、ブロック片6aの踏面の図心上に配される。このような第1非横断サイプ13は、その途切れ端13bの周辺の偏摩耗を抑制できる。
【0064】
なお、上述の第1非横断サイプ13の各構成は、第2非横断サイプ14に適用することができる。
【0065】
第1ショルダー陸部8には、上述の第1ショルダーサイプ31に加え、第1ショルダー横溝30及び第2ショルダーサイプ32が設けられている。第1ショルダー横溝30と第2ショルダーサイプ32とは、タイヤ周方向に交互に設けられている。
【0066】
第1ショルダー横溝30は、例えば、第1トレッド端Te1からタイヤ軸方向内側に延び、第1ショルダー陸部8内で途切れている。なお、第1ショルダーサイプ31は、第1ショルダー主溝4から第1ショルダー横溝30の内端30iまで延びている。
【0067】
第1ショルダー横溝30のタイヤ軸方向の長さL3は、例えば、第1ショルダー陸部8のタイヤ軸方向の幅W3の0.75~0.79倍であるのが望ましい。
【0068】
第1ショルダー横溝30は、例えば、タイヤ軸方向に対して0~20°の角度で配されているのが望ましい。本実施形態の第1ショルダー横溝30は、例えば、タイヤ軸方向に対する角度がタイヤ軸方向内側に向かって漸増している。
【0069】
第2ショルダーサイプ32は、例えば、第1トレッド端Te1からタイヤ軸方向内側に延びている。第2ショルダーサイプ32は、タイヤ軸方向の内端32iが第1ショルダー陸部8内で途切れている。さらに望ましい態様では、第2ショルダーサイプ32の内端32iは、第1ショルダー横溝30の内端30iよりも第1トレッド端Te1側に位置している。このような第2ショルダーサイプ32は、第1ショルダー陸部8の剛性分布を均一にし、初期応答性を高めるのに役立つ。
【0070】
第2ショルダーサイプ32のタイヤ軸方向の長さL4は、例えば、第1ショルダー横溝30のタイヤ軸方向の長さL3の0.75~0.95倍であるのが望ましい。
【0071】
第1非横断サイプ13をその長さ方向に沿って第1ショルダー陸部8側に延長した領域は、第2ショルダーサイプ32の内端32iの近傍を通るのが望ましい。具体的には、前記領域と前記内端32iとの最小離間距離が5mm未満であるのが望ましい。さらに望ましい態様として、本実施形態では、第1非横断サイプ13をその長さ方向に沿って第1ショルダー陸部8側に延長した領域は、第2ショルダーサイプ32の内端32iと重複している。このような第1非横断サイプ13及び第2ショルダーサイプ32の配置は、走行の各サイプの変形を均一にし、ひいては耐摩耗性を高めることができる。
【0072】
以上、本発明の一実施形態のタイヤが詳細に説明されたが、本発明は、上記の具体的な実施形態に限定されることなく、種々の態様に変更して実施され得る。
【実施例
【0073】
図1の基本パターンを有するサイズ195/65R15のタイヤが、表1の仕様に基づき試作された。比較例1として、図5に示されるように、ミドル陸部aに設けられた横断サイプbが、ショルダー陸部cに設けられたショルダーサイプdと滑らかに連続しないように配置されているタイヤが試作された。なお、比較例1のタイヤは、上記の構成を除き、図1に示されるものと実質的に同じトレッドパターンを有している。各テストタイヤの操縦安定性及び耐摩耗性がテストされた。各テストタイヤの共通仕様やテスト方法は、以下の通りである。
リム:15×6.0
タイヤ内圧:200kPa
テスト車両:排気量1500cc、前輪駆動車
タイヤ装着位置:全輪
【0074】
<操縦安定性>
上記テスト車両でドライ路面を走行したときの操縦安定性(旋回時の初期応答性を含む)が、運転者の官能により評価された。結果は、比較例1を100とする評点であり、数値が大きい程、操縦安定性が優れていることを示す。
【0075】
<耐摩耗性>
摩耗エネルギー測定装置が用いられ、トレッド部の摩耗エネルギーが測定された。結果は、比較例1の前記摩耗エネルギーを100とする指数であり、数値が小さい程、摩耗エネルギーが小さく、耐摩耗性に優れていることを示す。
テストの結果が表1に示される。
【0076】
【表1】
【0077】
テストの結果、実施例のタイヤは、耐摩耗性を損ねることなく、優れた操縦安定性を発揮していることが確認できた。
【符号の説明】
【0078】
2 トレッド部
3 クラウン主溝
4 第1ショルダー主溝
6 第1ミドル陸部
7 第2ミドル陸部
8 第1ショルダー陸部
11 第1横断サイプ
12 第2横断サイプ
31 第1ショルダーサイプ
Te1 第1トレッド端
図1
図2
図3
図4
図5