(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-29
(45)【発行日】2022-09-06
(54)【発明の名称】タール含有ガスの分析方法及び分析装置
(51)【国際特許分類】
G01N 1/22 20060101AFI20220830BHJP
C10J 3/54 20060101ALI20220830BHJP
【FI】
G01N1/22 F
C10J3/54 L
(21)【出願番号】P 2019067319
(22)【出願日】2019-03-29
【審査請求日】2021-10-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100086911
【氏名又は名称】重野 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100144967
【氏名又は名称】重野 隆之
(72)【発明者】
【氏名】雪田 忍
(72)【発明者】
【氏名】▲国▼下 敦史
【審査官】福田 裕司
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-040885(JP,A)
【文献】特開2009-014644(JP,A)
【文献】特開2011-252859(JP,A)
【文献】特開2008-039459(JP,A)
【文献】特開2000-009609(JP,A)
【文献】特開平08-075620(JP,A)
【文献】特開平03-210391(JP,A)
【文献】米国特許第4541916(US,A)
【文献】中国特許出願公開第102585917(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 1/22
C10J 3/54
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
コークス炉ガス及び熱分解炉ガスの少なくとも一方であるタール含有ガス中の成分を分析する方法であって、
該タール含有ガスに含まれるミスト中のタール成分及びダストを、水及び親水性液体の少なくとも一方よりなる第1の吸収液で捕集する工程(1)、及び
該工程(1)を経たガス中のタール成分を疎水性液体よりなる第2の吸収液で捕集する工程(2)を有し、
該工程(1)で得たミスト中のタール成分と、該工程(2)で得たガス中のタール成分のそれぞれを分析することを特徴とするタール含有ガスの分析方法。
【請求項2】
前記工程(1)において、タール成分除去装置のガス流路から抜出ノズルにより抜き出した前記タール含有ガスを導入配管を経て前記第1の吸収液を貯留する第1の容器内に導入して該第1の吸収液中を流通させることにより、前記ミスト中のタール成分及びダストを捕集し、前記工程(2)において、前記工程(1)を経たガスを前記第2の吸収液を貯留する第2の容器内に導入して該第2の吸収液中を流通させることにより、該ガス中のタール成分を捕集することを特徴とする請求項1に記載のタール含有ガスの分析方法。
【請求項3】
前記抜出ノズル内と前記導入配管内を疎水性液体に接触させることにより、該抜出ノズル内と該導入配管内に付着したタール成分を抽出して第1の抽出液を得、
前記タール成分及びダストを捕集した前記第1の吸収液を疎水性液体に接触させた後相分離することにより、該第1の吸収液中のタール成分を抽出した第2の抽出液を得、
該第1の抽出液中のタール成分と該第2の抽出液中のタール成分とを合わせて、前記ミスト中のタール成分として分析することを特徴とする請求項2に記載のタール含有ガスの分析方法。
【請求項4】
コークス炉ガス及び熱分解炉ガスの少なくとも一方であるタール含有ガス中の成分を分析する装置であって、
水及び親水性液体の少なくとも一方よりなる第1の吸収液を貯留する第1の容器と、
疎水性液体よりなる第2の吸収液を貯留する第2の容器と、
分析に供するタール含有ガスを該第1の容器内に導入して、該第1の容器内の該第1の吸収液中に流通させる導入配管と、
該第1の吸収液を流通したガスを該第1の容器から該第2の容器に送給して該第2の容器内の該第2の吸収液中に流通させる移送配管と
を備えることを特徴とするタール含有ガスの分析装置。
【請求項5】
前記第1の容器と前記第2の容器との間に空容器を有すると共に、前記第2の容器の後段に疎水性液体を貯留する第3の容器を有し、
前記第1の吸収液を流通したガスは、該空容器を経て、前記移送配管により前記第2の容器に導入され、
前記第2の容器を流通したガスは、該第3の容器に導入されて該第3の容器内の疎水性液体中を流通した後該分析装置外へ排出されることを特徴とする請求項4に記載のタール含有ガスの分析装置。
【請求項6】
前記第2の容器及び/又は前記第3の容器を冷却する冷却槽を有することを特徴とする請求項4又は5に記載のタール含有ガスの分析装置。
【請求項7】
タール成分除去装置に設けられるタール含有ガスの分析装置であって、
前記第2の容器又は前記第3の容器から流出するガス流量を検出するガスメータを有し、
該タール成分除去装置のガス流路から前記タール含有ガスを抜き出す抜出ノズルに前記導入配管が接続され、該導入配管にガス流量調整バルブが設けられていることを特徴とする請求項4ないし6のいずれか1項に記載のタール含有ガスの分析装置。
【請求項8】
請求項4ないし7のいずれか1項に記載のタール含有ガスの分析装置を用いて前記タール含有ガスを分析することを特徴とする請求項1ないし3のいずれか1項に記載のタール含有ガスの分析方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コークス炉ガス及び/又は熱分解炉ガスであるタール含有ガスに含まれるミスト中のタール成分及びダストと、ガス中のタール成分をそれぞれ分離して定量することが可能なタール含有ガスの分析方法及び分析装置に関する。
【背景技術】
【0002】
コークス炉ガス、熱分解炉ガスには、タール成分及びダストが含まれているため、これらのタール含有ガスはタール成分とダストをタール成分除去装置で除去した後、後工程に送給されている。
【0003】
このタール含有ガスの性状やタール成分除去装置の処理性能を評価、判定するためには、タール成分除去装置による処理前後のガス中のタール成分やダストを分析・定量する必要がある。
【0004】
従来、タール含有ガスの分析方法として、特許文献1には、トルエン吸着法でガスサンプリングすることが記載されているが、この方法ではガス中にミストが存在する場合、ミスト中のタール成分とガス中のタール成分を分離して定量することはできず、ミスト中のタール成分とガス中のタール成分を併せたタール成分の定量しかできない。
【0005】
特許文献2には、真空捕集瓶でガス中のタール成分を捕集することが記載されているが、この方法でもガス中にミストが存在する場合、ミスト中のタール成分とガス中のタール成分を分離して定量することはできず、ミスト成分中のタール成分とガス成分中のタール成分を併せた定量となる。特許文献2にはまた、ジクロロメタンを充填したインピンジャーを通してガス中のタール成分を捕集したことも記載されているが、この方法でもガス中にミストが存在する場合、ミスト中のタール成分とガス中のタール成分を分離して定量することはできず、ミスト中のタール成分とガス中のタール成分を併せた定量となる。
【0006】
特許文献3には、ジクロロメタンを充填した五連式ガス洗浄瓶を通してガス中のタール成分を捕集することが記載されているが、この方法でもガス中にミストが存在する場合、ミスト中のタール成分とガス中のタール成分を分離して定量することはできず、ミスト中のタール成分とガス中のタール成分を併せた定量しかできない。
【0007】
また、特許文献1~3で用いられているトルエンやジクロロメタンは水に比べて揮発性が高いため、長時間ガスを流すことが困難であり、ダストの捕集には不適当である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2008-132482号公報
【文献】特許第4897112号公報
【文献】特開2016-187786号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
コークス炉ガスや熱分解炉ガスを処理するタール成分除去装置の性能を評価する場合、このタール成分除去装置のミスト中のタール成分の除去性能と、ガス中のタール成分の除去性能とをそれぞれ評価することが重要である。
【0010】
即ち、例えば、タール含有ガスの分析の結果、ミスト中のタール成分の除去率や分解率は高いが、ガス中のタール成分の除去率や分解率が低いことが判明したタール成分除去装置であれば、このタール成分除去装置の入口側でガス温度を降温させてガス中のタール成分を一部ミスト化することで、タール成分除去装置全体としての除去率や分解率を向上させることができる。逆に、ミスト中のタール成分の除去率や分解率が低く、ガス中のタール成分の除去率や分解率が高いことが判明したタール成分除去装置であれば、このタール成分除去装置の入口側でガス温度を昇温させてミスト中のタール成分を一部ガス化することで、タール成分除去装置全体としての除去率や分解率を向上させることができる。
【0011】
このようなことから、タール含有ガス中のタール成分をミスト中のタール成分とガス中のタール成分とに分離してそれぞれ定量することが重要であるが、従来のトルエン吸収法、真空捕集法、ジクロロメタン吸収法では、タール含有ガスに含まれるミスト中のタール成分とガス中のタール成分及びダストを全て捕集することはできても、ミスト中のタール成分とガス中のタール成分とを分離することができない。このため、従来法では測定されたタール成分濃度はミスト中のタール成分とガス中のタール成分の合計となり、タール成分がミストとして捕集されたのかガスとして捕集されたのか定量することが不可能であった。また、長時間ガスを流すことが困難であり、ダストの捕集が難しいという欠点もあった。
【0012】
本発明は上記従来技術の問題点を解決し、タール含有ガスに含まれるミスト中のタール成分及びダストと、ガス中のタール成分をそれぞれ分離して定量することができるタール含有ガスの分析方法及び分析装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者は、上記課題を解決すべく検討を重ねた結果、タール含有ガスに含まれるミスト中のタール成分とダストをまず水及び/又は親水性液体で捕集し、その後、疎水性液体でガス中のタール成分を捕集することにより、ミスト中のタール成分及びダストと、ガス中のタール成分を分離して回収することができ、これを定量することで、タール含有ガスに含まれるミスト中のタール成分とガス中のタール成分をそれぞれ定量することができることを見出した。
本発明はこのような知見に基づいて達成されたものであり、以下を要旨とする。
【0014】
[1] コークス炉ガス及び熱分解炉ガスの少なくとも一方であるタール含有ガス中の成分を分析する方法であって、該タール含有ガスに含まれるミスト中のタール成分及びダストを、水及び親水性液体の少なくとも一方よりなる第1の吸収液で捕集する工程(1)、及び該工程(1)を経たガス中のタール成分を疎水性液体よりなる第2の吸収液で捕集する工程(2)を有し、該工程(1)で得たミスト中のタール成分と、該工程(2)で得たガス中のタール成分のそれぞれを分析することを特徴とするタール含有ガスの分析方法。
【0015】
[2] 前記工程(1)において、タール成分除去装置のガス流路から抜出ノズルにより抜き出した前記タール含有ガスを導入配管を経て前記第1の吸収液を貯留する第1の容器内に導入して該第1の吸収液中を流通させることにより、前記ミスト中のタール成分及びダストを捕集し、前記工程(2)において、前記工程(1)を経たガスを前記第2の吸収液を貯留する第2の容器内に導入して該第2の吸収液中を流通させることにより、該ガス中のタール成分を捕集することを特徴とする[1]に記載のタール含有ガスの分析方法。
【0016】
[3] 前記抜出ノズル内と前記導入配管内を疎水性液体に接触させることにより、該抜出ノズル内と該導入配管内に付着したタール成分を抽出して第1の抽出液を得、前記タール成分及びダストを捕集した前記第1の吸収液を疎水性液体に接触させた後相分離することにより、該第1の吸収液中のタール成分を抽出した第2の抽出液を得、該第1の抽出液中のタール成分と該第2の抽出液中のタール成分とを合わせて、前記ミスト中のタール成分として分析することを特徴とする[2]に記載のタール含有ガスの分析方法。
【0017】
[4] コークス炉ガス及び熱分解炉ガスの少なくとも一方であるタール含有ガス中の成分を分析する装置であって、水及び親水性液体の少なくとも一方よりなる第1の吸収液を貯留する第1の容器と、疎水性液体よりなる第2の吸収液を貯留する第2の容器と、分析に供するタール含有ガスを該第1の容器内に導入して、該第1の容器内の該第1の吸収液中に流通させる導入配管と、該第1の吸収液を流通したガスを該第1の容器から該第2の容器に送給して該第2の容器内の該第2の吸収液中に流通させる移送配管とを備えることを特徴とするタール含有ガスの分析装置。
【0018】
[5] 前記第1の容器と前記第2の容器との間に空容器を有すると共に、前記第2の容器の後段に疎水性液体を貯留する第3の容器を有し、前記第1の吸収液を流通したガスは、該空容器を経て、前記移送配管により前記第2の容器に導入され、前記第2の容器を流通したガスは、該第3の容器に導入されて該第3の容器内の疎水性液体中を流通した後該分析装置外へ排出されることを特徴とする[4]に記載のタール含有ガスの分析装置。
【0019】
[6] 前記第2の容器及び/又は前記第3の容器を冷却する冷却槽を有することを特徴とする[4]又は[5]に記載のタール含有ガスの分析装置。
【0020】
[7] タール成分除去装置に設けられるタール含有ガスの分析装置であって、前記第2の容器又は前記第3の容器から流出するガス流量を検出するガスメータを有し、該タール成分除去装置のガス流路から前記タール含有ガスを抜き出す抜出ノズルに前記導入配管が接続され、該導入配管にガス流量調整バルブが設けられていることを特徴とする[4]ないし[6]のいずれかに記載のタール含有ガスの分析装置。
【0021】
[8] [4]ないし[7]のいずれかに記載のタール含有ガスの分析装置を用いて前記タール含有ガスを分析することを特徴とする[1]ないし[3]のいずれかに記載のタール含有ガスの分析方法。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、タール含有ガスに含まれるミスト中のタール成分及びダストと、ガス中のタール成分をそれぞれ分離して定量することができる。
このため、タール成分除去装置の処理性能を的確に評価して、タール成分除去効率向上のための適切な対策を講じることができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】本発明のタール含有ガスの分析装置の実施の形態の一例を示す模式図である。
【
図2】比較例1で用いたタール含有ガスの分析装置を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下に本発明の実施の形態を詳細に説明する。
【0025】
まず、本発明のタール含有ガスの分析方法及び分析装置の分析対象のタール含有ガスや吸収液として用いる親水性液体、疎水性液体等について説明する。
【0026】
[タール含有ガス]
本発明における分析対象となるタール含有ガスは、コークス炉ガス又は熱分解炉ガスであるが、タール含有ガスはこれらの混合ガスであってもよい。
【0027】
<コークス炉ガス>
コークス炉ガスは石炭からコークスを製造する際にコークス炉内から発生するガスである。具体的には、石炭を600℃以上の温度で加熱乾留してコークスを製造する際に発生するガスで、一般的な組成として、水素10~70体積%、メタン20~70体積%、メタン以外の炭化水素(エチレン等のオレフィン類等)1~15体積%、一酸化炭素4~9体積%、二酸化炭素1~6体積%、窒素1~13体積%、酸素0~0.5体積%、硫化水素等の硫黄化合物0.3~1.5体積%、アンモニア等の窒素化合物0.3~1.8体積%、ベンゾール類0.1~1.8体積%、及びその他の石炭由来のスラッジ等の微量成分を含む。
本発明における分析対象となるコークス炉ガスの組成は限定されないが、通常、水素、二酸化炭素、一酸化炭素、メタン、窒素等を主成分とするとともに、タール成分を含有する。
本発明における分析対象となるコークス炉ガス中のタール成分の含有割合は限定されないが、通常100~4000mg/Nm3である。
また、本発明における分析対象となるコークス炉ガス中の粗軽油成分の含有割合は限定されないが、通常1000~35000mg/Nm3である。
【0028】
<熱分解炉ガス>
熱分解炉ガスとは、石炭を熱分解炉で熱分解する際に発生するガスである。本発明における分析対象となる熱分解炉ガスの組成は限定されないが、通常、水素、二酸化炭素、一酸化炭素、メタン、窒素等とタール成分を含有する。
本発明における分析対象となる熱分解炉ガス中のタール成分の含有割合は限定されないが、通常100~4000mg/Nm3である。
また、本発明における分析対象となる熱分解炉ガス中の粗軽油成分の含有割合は限定されないが、通常1000~35000mg/Nm3である。
【0029】
なお、本発明におけるコークス炉ガス及び熱分解炉ガスは、必ずしも完全なガス状態とされている必要は無く、粉塵、ヒューム、煙、ミスト等のエアロゾルであってもよく、ガス中にこれらの状態のものを含有していてもよい。更には、ガスが凝集又は凝固することによって形成された液状又は固体状のものも包含する。
【0030】
コークス炉ガス及び熱分解炉ガス中のガス組成及びタール成分の含有割合は、何れもガスクロマトグラフィー装置、具体的にはガスクロマトグラフィー-質量分析(Gas Chromatography-Mass spectrometry、GC/MS)装置により定量することができる。
【0031】
[タール]
本発明で分析するタール成分は、熱分解される原料により性状が異なるが、炭素が5個以上含まれた有機化合物であって、鎖式炭化水素や環式炭化水素などからなる混合物を指す。具体的には、石炭の熱分解であれば、例えば、ナフタレン、メチルナフタレン、フェナントレン、アントラセンなど縮合多環芳香族などが主成分である。熱分解タールは、熱分解直後の高温状態ではガス状で存在する。
【0032】
<ミスト中のタール成分>
ミスト中のタール成分は、インデン、ナフタレン、1-メチルナフタレン、2-メチルナフタレン、アセナフテン、ビフェニル、エチルナフタレン、2,7-ジメチルナフタレン、1,4-ジメチルナフタレン、1,3-ジメチルナフタレン、2,3-ジメチルナフタレン、フルオレン、ジベンゾフラン、フェナントレン、アントラセン、フルオランテン、ピレンなどの炭化水素を含む常温常圧で液体のものである。
【0033】
<ガス中のタール成分>
ガス中のタール成分は、スチレン、p-キシレン、o-キシレン、インデン、ベンゾフラン、ナフタレン、1-メチルナフタレン、2-メチルナフタレン、ビフェニレン、フルオレン、ジベンゾフラン、フェナントレン、アントラセン、フルオランテン、ピレンなどの炭化水素を含む常温常圧で気体のものである。
【0034】
[ダスト]
タール含有ガス中のダストとしては、石炭粉、コークス粉、配管錆、石炭由来のスラッジなどを含む常温常圧で固体の成分が挙げられる。
【0035】
[第1の吸収液]
本発明で用いる第1の吸収液は、水及び親水性液体の少なくとも一方であり、水のみであってもよく、親水性液体のみであってもよく、これらの混合液であってもよい。
【0036】
親水性液体とは、SP値が13以上、例えば13~24のもの、具体的には、メタノール等の1種又は2種以上を用いることができる。
【0037】
SP値(溶解性パラメーター:Solubility Parameter)は、溶解性の尺度となるものである。SP値は数値が大きいほど極性が高く、逆に数値が小さいほど極性が低いことを示す。本発明において、SP値は次の方法により実測される値である。
サンプル0.5gを100ml三角フラスコに秤量し、アセトン10mlを加えて樹脂を溶解させる。ここへ、マグネチックスターラーで攪拌しながら、ヘキサンを滴下していき、溶液に濁りが生じた点(濁点)のヘキサンの滴下量(vh)を求める。次に、ヘキサンの代わりに脱イオン水を使用したときの、濁点における脱イオン水の滴下量(vd)を求める。vh、vdより、SP値は参考文献:SUH、CLARKE、J.P.S.A-1、5、1671~1681(1967)により示された式を用いて求めることができる。また、サンプルがアセトンに溶解しないなど、溶解性パラメーターが上記の方法により求めることができない場合には、Fedorsらが提案した方法によって推算する。具体的には「POLYMER ENGINEERING AND SCIENCE,FEBRUARY,1974,Vol.14,No.2,ROBERT F.FEDORS.(147~154頁)」を参照して求めることができる。
【0038】
第1の吸収液としては、取り扱い性、コスト、廃液処理等の観点から、水を用いることが好ましい。
【0039】
[第2の吸収液]
本発明で用いる第2の吸収液は疎水性液体よりなる。この疎水性液体としては、SP値が10以下、例えば7~10のものが挙げられ、具体的には、クロロホルム、テトラクロロエタン、トリクロロエタン等のハロゲン化炭化水素系溶媒、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族系溶媒、n-ヘキサン、n-へプタン、n-ペンタン等の脂肪族炭化水素系溶媒、テトラヒドロフラン等の環状エーテル系溶媒等が挙げられる。
これらの疎水性液体は1種のみを用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0040】
これらの疎水性液体のうち、第2の吸収液としてはタール成分のSP値と吸収液のSP値の差が小さい程吸収量は増加する傾向であることよりトルエン、キシレン、クロロホルム、テトラヒドロフラン等を用いることが好ましく、特にトルエン、クロロホルム、テトラヒドロフランが好ましい。
【0041】
なお、後述の第3の吸収瓶を設ける場合、第3の吸収瓶内の疎水性液体としても、上記の第2の吸収液と同様のものを用いることができる。
【0042】
[抽出用疎水性液体]
後述の抜出ノズル及び導入配管からのタール成分の抽出に用いる疎水性液体、及びミスト中のタール成分を捕集した第1の吸収液の抽出に用いる疎水性液体としては、上記の第2の吸収液の疎水性液体として例示したものと同様のものを用いることができるが、ミスト中のタール成分に含まれる成分を用いると、抽出に用いた疎水性液体との区別がつかなくなるため、トルエン、キシレン等の芳香族系溶媒は不適当であり、クロロホルム、テトラクロロエタン等のハロゲン化炭化水素系溶媒を用いることが好ましい。
これらは、1種のみを用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0043】
[タール含有ガスの分析方法及び分析装置]
本発明のタール含有ガスの分析方法は、コークス炉ガス及び熱分解炉ガスの少なくとも一方であるタール含有ガス中の成分を分析する方法であって、該タール含有ガスに含まれるミスト中のタール成分及びダストを、水及び親水性液体の少なくとも一方よりなる第1の吸収液で捕集する工程(1)、及び該工程(1)を経たガス中のタール成分を疎水性液体よりなる第2の吸収液で捕集する工程(2)を有し、該工程(1)で得たミスト中のタール成分と、該工程(2)で得たガス中のタール成分のそれぞれを分析することを特徴とするものであり、好ましくは、コークス炉ガス及び熱分解炉ガスの少なくとも一方であるタール含有ガス中の成分を分析する装置であって、水及び親水性液体の少なくとも一方よりなる第1の吸収液を貯留する第1の容器と、疎水性液体よりなる第2の吸収液を貯留する第2の容器と、分析に供するタール含有ガスを該第1の容器内に導入して、該第1の容器内の該第1の吸収液中に流通させる導入配管と、該第1の吸収液を流通したガスを該第1の容器から該第2の容器に送給して該第2の容器内の該第2の吸収液中に流通させる移送配管とを備える本発明のタール含有ガスの分析装置を用いて実施される。
【0044】
図1は本発明のタール含有ガスの分析装置の実施の形態の一例を示す模式図であり、
図1において、1は、タール成分除去装置等のガス流路、2は第1の吸収液を貯留する第1の容器(以下「第1の吸収瓶」と称す場合がある。)、3は空容器(以下「空瓶」と称す場合がある。)、4は第2の吸収液を貯留する第2の容器(以下「第2の吸収瓶」と称す場合がある。)、5は疎水性液体を貯留する第3の容器(以下「第3の吸収瓶」と称す場合がある。)、6はガスメーター、7は抜出ノズル、8は流量調整バルブ、9は冷却槽をそれぞれ示す。
【0045】
このタール含有ガスの分析装置では、タール成分除去装置等のガス流路1から分析用のタール含有ガスが、抜出ノズル7で分取され、導入配管11を経て第1の吸収瓶2に導入される。第1の吸収瓶2に導入されたタール含有ガスは、第1の吸収瓶2内に貯留された第1の吸収液内を流通し、その間にタール含有ガスに含まれるミスト中のタール成分とダストが、第1の吸収液中に捕集される。第1の吸収液を流通したガスは、次いで、配管12より空瓶3に送給される。この空瓶3は、第1の吸収液の飛沫が後段の第2の吸収瓶3に流入するのを防止する目的で設置されている。
【0046】
空瓶3を経たタール含有ガスは更に配管13より第2の吸収瓶4に導入される。第2の吸収瓶4に導入されたタール含有ガスは、第2の吸収瓶4内に貯留された第2の吸収液内を流通し、その間にタール含有ガスに含まれるガス中のタール成分が、この第2の吸収液中に捕集される。第2の吸収液を流通したガスは、次いで、配管14より第3の吸収瓶5に送給される。第3の吸収瓶5は、第2の吸収瓶4でガス中のタール成分がすべて捕集されていることを確認するために予備的に設けられているものであつて、第2の吸収瓶4と同様の疎水性液体が貯留されている。第3の吸収瓶5に導入され、第3の吸収瓶5内に貯留された疎水性液体内を流通したガスは、配管15、ガスメーター6を経て分析装置外に排出される。この排出ガスは、必要に応じて浄化処理した後大気中に放出するか、或いはタール成分除去装置の被処理ガス導入側又は処理ガス排出側に返送される。
【0047】
図1のタール含有ガスの分析装置において、第2の吸収液を貯留する第2の吸収瓶4及び第3の吸収瓶5は、揮発性の疎水性液体の揮散を防止するために冷却槽9内に設けられ、氷水浴等で冷却されている。
【0048】
抜出ノズル7からタール成分除去装置等のガス流路1からタール含有ガスを分取するに当っては、ガス流路1のダストとミスト濃度を正確に測るために、ガス流路1におけるガス流速と同等のガス流速となるようにタール含有ガスを分取することが好ましい。従って、ガスメーター6のガス流速(単位時間当たりのガス流量)に基づき、導入配管11に設けられた流量調整バルブ8の開度を調整し、抜出ノズル7から分取するタール含有ガスのガス流速を調節することが好ましい。
【0049】
図1に示すタール含有ガスの分析装置により、タール含有ガスの分析を行うには、所定時間、或いは所定流量のタール含有ガスを第1の吸収瓶2、空瓶3、第2の吸収瓶4及び第3の吸収瓶5に順次流通させた後、通ガスを停止し、抜出ノズル7と導入配管11を取り出し、抜出ノズル7と導入配管11内を前述の疎水性液体で洗浄して、抜出ノズル7及び導入配管11内壁に付着したタール成分を抽出する。この疎水性液体による洗浄で得られた第1の抽出液中のタール成分はミスト中のタール成分として後述の第2の抽出液と合わせて分析する。
【0050】
また、第1の吸収瓶2内の第1の吸収液を疎水性液体と混合する。この混合液を濾過してダストを分離した後、相分離して第1の吸収液中に捕集されたタール成分を疎水性液体側に抽出して第2の抽出液を得る。
【0051】
この第2の抽出液と第1の抽出液を合わせてミスト中のタール成分の分析を行う。
【0052】
また、上記分離したダストは、ミスト中のダストとして分析する。このダストの分離には、ダストを固液分離できるものであればよく、特に制限はないが、例えば孔径5.0μm以下、好ましくは0.1~5.0μm程度のガラスフィルター等を用いることができる。
【0053】
第3の吸収瓶4内の第2の吸収瓶については、そのままガス中のタール成分の分析に供する。
なお、第4の吸収瓶5内の疎水性液体の中にもタール成分が捕集されている場合は、この第4の吸収瓶5内の疎水性液体についても分析し、第3の吸収瓶4内の第2の吸収瓶中のタール成分と第4の吸収瓶内の疎水性液体中のタール成分を合わせてガス中のタール成分とする。
【0054】
このような本発明のタール含有ガスの分析方法及び分析装置によれば、タール含有ガスに含まれるミスト中のタール成分及びダストと、ガス中のタール成分とをそれぞれ分析して定量することができる。
【0055】
従って、例えば、タール成分除去装置の被処理ガスと処理ガスのそれぞれについて、本発明に従って分析を行うことにより、このタール成分除去装置について、ミスト中のタール成分の除去性能と、ガス中のタール成分の除去性能とをそれぞれ評価することができ、評価結果に基づいて適切な対策を講じることができる。
即ち、例えば、タール含有ガスの分析の結果、ミスト中のタール成分の除去率や分解率は高いが,ガス中のタール成分の除去率や分解率が低いことが判明した場合には、このタール成分除去装置の入口側でガス温度を降温させてガス中のタール成分を一部ミスト化することで、タール成分除去装置全体としての除去率や分解率を向上させることができる。逆に、ミスト中のタール成分の除去率や分解率が低く、ガス中のタール成分の除去率や分解率が高いことが判明した場合には、このタール成分除去装置の入口側でガス温度を昇温させてミスト中のタール成分を一部ガス化することで、タール成分除去装置全体としての除去率や分解率を向上させることができる。
【0056】
なお、
図1は、本発明のタール含有ガスの分析装置の実施の形態の一例を示すものであって、本発明のタール含有ガスの分析装置は、何ら図示のものに限定されるものではない。
例えば、空瓶の代りに、第1の吸収瓶側に向けて下り勾配となるガス移送配管を設けて第2の吸収瓶への飛沫の流入を防止するようにすることもできる。
また、第2の吸収瓶によるタール成分の捕集効率が十分でない場合には、第3の吸収瓶の後段に更に第4、第5の吸収瓶を設けることもできる。
また、疎水性液体を貯留する第2の吸収瓶及び第3の吸収瓶の冷却手段についても冷却槽に何ら限定されるものではなく、冷媒ジャケットなどで直接吸収瓶を冷却するようにすることもできる。
【0057】
本発明は、コークス炉ガス及び/又は熱分解炉ガスであるタール含有ガスからタール成分とダストを除去するタール成分除去装置の処理性能の評価に有効に適用されるが、これに限らず、タール含有ガスに含まれるミスト中のタール成分とガス中のタール成分の分析に幅広く適用することができる。
【実施例】
【0058】
以下に実施例を挙げて本発明をより具体的に説明する。
【0059】
なお、以下の実施例及び比較例において、タール成分とダストの分析は、以下のGC-MS装置により行った。
<GC-MS装置>
Agilent社製 5975MSD
カラム名:HP-5ms
カラム長:30m
カラム内径:0.320mm
膜厚:0.25μm
【0060】
[実施例1]
図1に示す本発明のタール含有ガスの分析装置により、タール含有ガスの分析を行った。
【0061】
タール成分除去装置の被処理ガス導入口(入口)と、処理ガスの排出口(出口)の直近の配管(ガス流路)1にそれぞれ抜出ノズル7を取り付け、導入配管(塩ビチューブ)11内の流速が2.9m/sとなるように流量調整バルブ8を設定して、ガス流路1内の流速と同じ速度にした。第1の吸収瓶2には純水を50mL入れ、空瓶3を介して、第2の吸収瓶4と第3の吸収瓶5を設け、第2の吸収瓶4と第3の吸収瓶5にはそれぞれトルエンを50mLずつ入れた。
これらの瓶をそれぞれ塩ビチューブ12~15で接続した。また、トルエンを入れた第2の吸収瓶4と第3の吸収瓶5は、氷水で10℃に冷却してトルエンの揮発を防止した。
【0062】
タール含有ガスを100L通ガスした後、抜出ノズル7とガス導入用塩ビチューブ11を取り外し、抜出ノズル7内と導入用塩ビチューブ11内をクロロホルムで洗浄することにより、内面に付着したタール成分を抽出した(各々5mL×10回)。
また、第1の吸収瓶2内の捕集水をクロロホルム5mLと混合し、この混合液を孔径0.5μmのガラスフィルターで濾過分離してダストを回収した後、濾液を相分離して捕集水中のタール成分を抽出したクロロホルム層を回収した。このクロロホルム層と、抜出ノズル7と導入用塩ビチューブ11内の抽出に用いたクロロホルムとを合わせてGC-MS分析を行ってミスト中のタール分を測定した。
【0063】
一方、第2の吸収瓶4中のタール成分を捕集したトルエンについてもGC-MS分析を行って、ガス中のタール成分を測定した。
【0064】
なお、空瓶3にはミストの飛散、流入はなく、ミスト中のタール成分とダストは、第1の吸収瓶2とその上流で捕集されたことが確認された。
また、第3の吸収瓶5中のトルエンにはタール成分は捕集されておらず、ガス中のタール成分は第2の吸収瓶4内のトルエンですべて捕集されたことが確認された。
【0065】
タール成分除去装置の入口ガス(被処理ガス)と出口ガス(処理ガス)のミスト中のタール成分の分析結果を表1に、ガス中のタール成分の分析結果を表2にそれぞれ示す。
【0066】
【0067】
【0068】
なお、捕集水中のダスト濃度は、タール除去装置入口では0.53mg/m3、出口では0.15mg/m3であった。
【0069】
以上の結果から、このタール除去装置では、ミスト中のタール成分除去率は約23%(入口385mg/m3⇒出口298mg/m3)、ガス中のタール成分除去率は約1%(入口233mg/m3⇒出口231mg/m3)、ダストの除去率は約71%(入口0.53mg/m3⇒出口0.15mg/m3)であることが分かり、このタール成分除去装置では、ガス中のタール成分の除去は殆どできないという処理能力の評価をすることができた。
【0070】
[比較例1]
図2に示すタール含有ガスの分析装置により、タール含有ガスの分析を行った。
図2のタール含有ガスの分析装置は、第1の吸収瓶21と第2の吸収瓶22に純水をそれぞれ100mL入れ、その後段に空瓶23を設け、これらを塩ビチューブ24,25,26,27でつないだものである。
図2において、
図1に示す部材と同一機能を奏する部材には同一符号を付してある。
【0071】
このタール含有ガスの分析装置をタール成分除去装置の処理ガスの排出口(出口)の直近の配管に接続し、ガス流路1内のガス流速と同じガス流速でタール含有ガスを100L通ガスした後、抜出ノズル7と塩ビチューブ24を取り外してクロロホルム(5mL×10回)で洗浄して抜出ノズル7と塩ビチューブ24内に付着したタール成分を抽出、回収した。
【0072】
また、第1の吸収瓶21と第2の吸収瓶22と空瓶23にそれぞれクロロホルムを10mL入れて捕集水とクロロホルムの混合液とし、この混合液を孔径0.5μmのガラスフィルターで濾過してダストを分離回収した。その後、濾液を相分離し、分離したクロロホルム相と、抜出ノズル7と塩ビチューブ24内のタール成分を抽出、回収したクロロホルムとを混合し、GC-MS分析を行った。
【0073】
その結果、タール成分は297mg/m3で、ダスト濃度は0.15mg/m3と測定された。
この測定結果は、実施例1における出口ガスのミスト中のタール成分の合計濃度と、ダスト濃度とよく一致していたが、この方法ではミスト中のタール成分しか測定することができず、ガス中のタール成分を測定することができないため、タール成分除去装置の性能を詳しく評価することはできない。
【符号の説明】
【0074】
1 ガス流路
2 第1の容器(第1の吸収瓶)
3 空容器(空瓶)
4 第2の容器(第2の吸収瓶)
5 第3の容器(第3の吸収瓶)
6 ガスメーター
7 抜出ノズル
8 流量調整バルブ
9 冷却槽