(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-29
(45)【発行日】2022-09-06
(54)【発明の名称】内燃機関のチェーン張力調整装置
(51)【国際特許分類】
F02B 67/06 20060101AFI20220830BHJP
F16H 7/08 20060101ALI20220830BHJP
H02K 33/02 20060101ALI20220830BHJP
H02K 35/02 20060101ALI20220830BHJP
【FI】
F02B67/06 A
F16H7/08 B
H02K33/02 A
H02K35/02
(21)【出願番号】P 2019099861
(22)【出願日】2019-05-29
【審査請求日】2021-08-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000003218
【氏名又は名称】株式会社豊田自動織機
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 文哉
【審査官】池田 匡利
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-071362(JP,A)
【文献】特開2003-206770(JP,A)
【文献】特開2003-148569(JP,A)
【文献】特開2004-072844(JP,A)
【文献】特開2003-294094(JP,A)
【文献】国際公開第2014/038157(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02B 67/06
F16H 7/08
H02K 33/02
H02K 35/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
無端チェーンと摺接可能な可動ガイド部材と、
前記無端チェーンに対して前記可動ガイド部材を変位可能に支持する支持部材と、
前記支持部材に設けられ、前記可動ガイド部材に対して進退可能なプランジャと、
前記プランジャを前記可動ガイド部材へ向けて付勢するばね部材と、を有する内燃機関のチェーン張力調整装置において、
前記無端チェーンと摺接する前記可動ガイド部材が揺動するときに誘導起電力を発生する誘導起電力部と、
前記誘導起電力部の誘導起電力により生じる電流を一方向に通す半導体素子と、
前記半導体素子により一方向に流れる電流によって駆動され、前記ばね部材のばね力を増大するアクチュエータと、を有することを特徴とする内燃機関のチェーン張力調整装置。
【請求項2】
前記アクチュエータはリニアモータであり、
前記リニアモータは、
前記支持部材に設けられるステータと、
前記ばね部材を押圧可能であって前記ばね部材の付勢方向に往復移動するスライダと、を有することを特徴とする請求項1記載の内燃機関のチェーン張力調整装置。
【請求項3】
前記誘導起電力部は、
前記支持部材に設けられ、前記半導体素子と通電可能なコイルと、
前記可動ガイド部材に設けられ、前記コイルに挿入される磁石と、を有することを特徴とする請求項1又は2記載の内燃機関のチェーン張力調整装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、内燃機関のチェーン張力調整装置に関する。
【背景技術】
【0002】
内燃機関のチェーン張力調整装置の従来技術としては、例えば、特許文献1に開示されたチェーンテンショナが知られている。特許文献1に開示されたチェーンテンショナでは、チェーンテンショナのハウジングに形成された収容孔には、同収容孔の底面とこれに対向するプランジャの底面との間に圧縮コイルばねが配設されている。また、圧縮コイルばねのコイルの内側において互いに対向するように、プランジャの底面に永久磁石が固定されているとともに、収容孔の底面に電磁石が固定されている。チェーンテンショナは、永久磁石と電磁石との間に作用する磁力と、圧縮コイルばねの付勢力との合力をプランジャを介してチェーンを案内する可動ガイドに伝達し、同可動ガイドに対する付勢力を調整することでチェーンの張力を調整する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に開示されたチェーンテンショナは、機関回転速度およびカムシャフトの回転位相に基づいて電磁石に供給する電流を増減する。このため、このチェーンテンショナでは、回転速度センサやカムポジションセンサのほか、電流を制御する電子制御装置等が必要となり、その結果、装置が複雑化すると共に製作コストも増加するという問題がある。つまり、特許文献1に開示されたチェーンテンショナでは、可動ガイドに生じるエネルギーが張力調整のために利用されることはない。
【0005】
本発明は上記の問題点に鑑みてなされたもので、本発明の目的は、可動ガイド部材の揺動により生じるエネルギーを利用して低回転時におけるチェーンの張力を調整することが可能な内燃機関のチェーン張力調整装置の提供にある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の課題を解決するために、本発明は、無端チェーンと摺接可能な可動ガイド部材と、前記無端チェーンに対して前記可動ガイド部材を変位可能に支持する支持部材と、前記支持部材に設けられ、前記可動ガイド部材に対して進退可能なプランジャと、前記プランジャを前記可動ガイド部材へ向けて付勢するばね部材と、を有する内燃機関のチェーン張力調整装置において、前記無端チェーンと摺接する前記可動ガイド部材が揺動するときに誘導起電力を発生する誘導起電力部と、前記誘導起電力部の誘導起電力により生じる電流を一方向に通す半導体素子と、前記半導体素子により一方向に流れる電流によって駆動され、前記ばね部材のばね力を増大するアクチュエータと、を有することを特徴とする。
【0007】
本発明では、内燃機関が低回転で運転されるとき、回転変動を受ける無端チェーンのばたつきにより可動ガイド部材が揺動すると、誘導起電力部では可動ガイド部材の揺動による誘導起電力が発生する。半導体素子が誘導起電力部の誘導起電力により生じる電流を一方向に通し、アクチュエータは半導体素子により一方向に流れる電流によって駆動される。アクチュエータの駆動によりばね部材のばね力が増大するので、ばね部材の付勢力が増大し、付勢力を受けるプランジャによって可動ガイド部材を無端チェーンに押し付ける力が増大する。その結果、可動ガイド部材の揺動を抑制することができ、無端チェーンのばたつきによる異音の発生を抑制することができる。
【0008】
また、上記の内燃機関におけるチェーン張力調整装置において、前記アクチュエータはリニアモータであり、前記リニアモータは、前記支持部材に設けられるステータと、前記ばね部材を押圧可能であって前記ばね部材の付勢方向に往復移動するスライダと、を有する構成としてもよい。
この場合、アクチュエータとしてのリニアモータが駆動されると、リニアモータのスライダが、ばね部材を押圧する方向へ移動することができ、ばね部材のばね力を増大することができる。
【0009】
また、上記の内燃機関におけるチェーン張力調整装置において、前記誘導起電力部は、前記支持部材に設けられ、前記半導体素子と通電可能なコイルと、前記可動ガイド部材に設けられ、前記コイルに挿入される磁石と、を有する構成としてもよい。
この場合、可動ガイド部材が無端チェーンのばたつきにより揺動すると、コイルに挿通された磁石がコイル内にて変位するので、誘導起電力によって磁石の変位に応じた電流がコイルに発生する。その結果、可動ガイド部材の揺動によりアクチュエータを駆動することができる。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、可動ガイド部材の揺動により生じるエネルギーを利用して低回転時におけるチェーンの張力を調整することが可能なチェーン張力調整装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の実施形態に係る内燃機関のチェーン張力調整装置の側面図である。
【
図2】本発明の実施形態に係る内燃機関のチェーン張力調整装置の概要を模式的に示す概略図である。
【
図3】(a)~(c)は内燃機関のチェーン張力調整装置による無端チェーンの張力調整を模式的に説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態に係るチェーン張力調整装置について図面を参照して説明する。本実施形態のチェーン張力調整装置は、内燃機関であるディーゼルエンジンにおけるクランクシャフトに設けたクランクスプロケットとバランスシャフトに設けたバランススプロケットに懸装された無端チェーンの張力を調整するチェーン張力調整装置に適用した例である。
【0013】
車両などに搭載される内燃機関としてのディーゼルエンジンでは、
図1に示すようにクランクシャフト10とバランスシャフト11が備えられている。クランクシャフト10にはクランクスプロケット12が備えられ、バランスシャフト11にはバランススプロケット13が備えられている。クランクスプロケット12とバランススプロケット13とには無端状のチェーンである無端チェーン14が掛装されている。ディーゼルエンジンが運転されるとクランクシャフト10が回転するため、無端チェーン14を介して回転力がバランススプロケット13に伝達され、バランスシャフト11が回転する。
【0014】
無端チェーン14の傍らにはチェーン張力調整装置20が配置されている。チェーン張力調整装置20は、無端チェーン14の張力を調整するための装置である。チェーン張力調整装置20は、無端チェーン14と摺接する可動ガイド部材21と、可動ガイド部材21を支持する支持部材22と、可動ガイド部材21に当接可能なプランジャ23と、プランジャ23を無端チェーン14へ向けて付勢するコイルスプリング24と、を有している。
【0015】
支持部材22から説明すると、支持部材22はディーゼルエンジンの本体(図示せず)に取り付けられている。支持部材22の上端部25はクランクスプロケット12に接近して位置し、支持部材22の下端部26はバランススプロケット13に接近して位置する。上端部25には、可動ガイド部材21の支点軸28を挿通可能とする軸孔27が形成されている。可動ガイド部材21の中間部には、プランジャ23が収容される空間29が形成されている。また、下端部26には凹部30が形成されている。凹部30はチェーン側に開口を有する有底孔であり、凹部30にはコイル31が挿入されている。
【0016】
可動ガイド部材21は無端チェーン14に沿うように、無端チェーン14と支持部材22との間に配置されている。可動ガイド部材21の支点軸28側の端部32は、クランクスプロケット12に接近して位置し、支点軸28を介して支持されている。可動ガイド部材21の支点軸28側の端部32と反対側となる端部33はバランススプロケット13に接近して位置する。可動ガイド部材21の無端チェーン14側には、無端チェーン14をガイドするガイド面34が形成されている。ガイド面34は、両端部32、33から中心部へ向かうにつれて無端チェーン14側へ膨出するような円弧状の面である。可動ガイド部材21のガイド面34と反対側の背面35は可動ガイド部材21と対向する。端部33には可動ガイド部材21のコイル31内に挿入可能な棒状の磁石36が備えられている。
【0017】
可動ガイド部材21は支点軸28を中心に揺動可能である。可動ガイド部材21の揺動により可動ガイド部材21の端部33が支持部材22から離れる方向へ変位すると、可動ガイド部材21は無端チェーン14を押し付けることになり、無端チェーン14の張力は増大する。逆に、可動ガイド部材21の端部33が支持部材22に近づく方向へ変位すると、可動ガイド部材21は無端チェーン14から離れる方向へ変位することになり、無端チェーン14の張力は低減する。
【0018】
プランジャ23は、可動ガイド部材21に対して進退可能であって可動ガイド部材21と当接可能である。プランジャ23における可動ガイド部材21側の先端部37は、空間29から可動ガイド部材21へ向けて突出しており、プランジャ23の背面にはコイルスプリング24が挿入可能な凹部38が形成されている。プランジャ23の凹部38にはばね部材としてのコイルスプリング24が挿入されている。コイルスプリング24は、圧縮ばねであってプランジャ23と後述するアクチュエータとしてのリニアモータ40との間に介在されている。コイルスプリング24は、プランジャ23を可動ガイド部材21へ押し付ける方向の付勢力をプランジャ23に常に付与する。したがって、プランジャ23の先端部37はコイルスプリング24の付勢力により可動ガイド部材21に常に当接する。
【0019】
ところで、チェーン張力調整装置20はリニアモータ40を有している。リニアモータ40は支持部材22に取り付けられており、通電によって磁界を形成するステータ41と、通電時にプランジャ23の突出方向と同じ方向に変位可能なスライダ42とを備えている。スライダ42にはロッド43が備えられ、ロッド43にはコイルスプリング24の端部を支持する受け部材44が取り付けられている。
【0020】
リニアモータ40では通電によってステータ41に磁界が形成されると、スライダ42がプランジャ23へ近づく方向へ変位し、このとき、プランジャ23と受け部材44の間のコイルスプリング24が圧縮される。コイルスプリング24を圧縮することによりコイルスプリング24が撓み、コイルスプリング24のばね力が増大する。リニアモータ40の通電が解除され、ステータ41の磁界が消失する状態では、スライダ42はコイルスプリング24の付勢力を受けて原位置へ復帰し、コイルスプリング24のばね力が低減する。したがって、リニアモータ40はコイルスプリング24のばね力を増大するアクチュエータに相当する。
【0021】
また、チェーン張力調整装置20は、リニアモータ40へ通電のための電力を誘導起電力により発生させるための誘導起電力部45と、発生した電力をリニアモータ40へ通電するための電気回路46を有している。
【0022】
図1、
図2に示すように、誘導起電力部45は、支持部材22に備えられたコイル31とコイル31に挿入可能であって可動ガイド部材21に備えられた磁石36を有している。コイル31は、電磁誘導による起電力を発生させるためのコイルである。磁石36は、コイル31内へ挿通可能な棒状の磁石である。無端チェーン14と摺接する可動ガイド部材21が揺動すると、コイル31に対して磁石36が変位するので誘導起電力部45には誘導起電力が発生する。具体的には、コイル31への磁石36の挿入方向への変位では、コイル31には磁石36の挿入方向の変位に応じた一方へ流れる電流が発生する。逆に、コイル31から抜け出す方向への磁石36の変位では、コイル31には磁石36の挿入方向の変位に応じた他方へ流れる電流が発生する。
【0023】
電気回路46はコイル31とリニアモータ40を電気的に接続する回路であり、電気回路46には一方向の電流を通す半導体素子としてのダイオード47と、一方向に流れる電流を増幅する増幅器48を備えている。ダイオード47は電気回路46においてコイル31とリニアモータ40との間に設けられており、コイル31からリニアモータ40へ向けて一方向に流れる電流のみを許容する。したがって、ダイオード47は、コイル31からリニアモータ40へ向けて他方へ流れる電流を通さない。つまり、ダイオード47は誘導起電力部45の誘導起電力により生じる電流を一方向に通す半導体素子に相当する。増幅器48はダイオード47とリニアモータ40との間に設けられており、コイル31からリニアモータ40へ向けて一方向に流れる電流をリニアモータ40が作動できる程度まで増幅する機能を有している。
【0024】
このように、本実施形態のチェーン張力調整装置20は、誘導起電力部45、電気回路46、ダイオード47および増幅器48を有するので、無端チェーン14のばたつきによって可動ガイド部材21が揺動するとリニアモータ40を駆動する電力が得られる。そして、リニアモータ40の駆動によりコイルスプリング24のばね力を増大させることができる。
【0025】
次に、本実施形態に係るチェーン張力調整装置20による無端チェーン14の張力の調整について説明する。ディーゼルエンジンは高回転で運転されるときクランクシャフト10の回転変動は生じているものの、低回転で運転されるとき比べて小さいため、無端チェーン14のばたつきは小さく、無端チェーン14のばたつきによる可動ガイド部材21の振動も小さい。一方、低回転で運転されるときは、高回転で運転されるときよりもクランクシャフト10の回転変動が大きいため、無端チェーン14のばたつきも大きくなる。低回転での運転では無端チェーン14のばたつきにより、可動ガイド部材21が支点軸28を中心に揺動する。
図3(a)に示すように、可動ガイド部材21の揺動が大きいと、可動ガイド部材21の端部33の変位は大きくなり、可動ガイド部材21に設けた磁石36はコイル31に対して挿入方向への変位と抜け出し方向への変位を繰り返す。
【0026】
誘導起電力部45では、磁石36のコイル31に対する挿入方向への変位と抜け出し方向への変位の反復により、コイル31に電力が発生してコイル31に電流が流れる。具体的には、コイル31への磁石36の挿入方向への変位では、コイル31には磁石36の挿入方向の変位に応じた一方へ流れる電流(点線矢印)が発生する。逆に、コイル31から抜け出す方向への磁石36の変位では、コイル31には磁石36の挿入方向の変位に応じた他方へ流れる電流が発生する。
【0027】
電気回路46には、一方へ流れる電流のみを通すダイオード47が設けられているので電気回路46において他方へ向かう電流は流れない。一方へ流れる電流は増幅器48によって増幅される。このため、リニアモータ40は増幅された電流の通電により作動する。
図3(b)に示すように、リニアモータ40の作動により、スライダ42がプランジャ23へ接近する方向へ変位する。スライダ42の変位によりコイルスプリング24が圧縮され、コイルスプリング24のばね力が増大する。コイルスプリング24のばね力が増大することにより、可動ガイド部材21に対するプランジャ23の押圧力が増大し、可動ガイド部材21の揺動が抑制される。
【0028】
可動ガイド部材21の揺動が抑制されると、磁石36のコイル31に対する変位が小さくなり、誘導起電力部45では、電力が殆ど生じなくなる。このため、可動ガイド部材21の揺動によって生じた電力がリニアモータ40にて消費されると、スライダ42はコイルスプリング24の付勢力を受けて原位置へ向けて変位する。
図3(c)に示すように、スライダ42が原位置に復帰すると、ばね力が低減され、可動ガイド部材21は再び大きく揺動することが可能な状態となる。
【0029】
このように、本実施形態のチェーン張力調整装置20は、可動ガイド部材21の揺動によって生じた電力をリニアモータ40の作動のために活用する。スライダ42がプランジャ23側へ変位するリニアモータ40の作動中は、ばね力が増大することで、可動ガイド部材21の揺動が抑制される。電力がリニアモータ40にて消費され、スライダ42が原位置に復帰しても、可動ガイド部材21が大きく揺動することで再び電力が発生し、発生した電力によりリニアモータ40が作動され、可動ガイド部材21の揺動が抑制される。つまり、リニアモータ40が作動している間は、ばね力が増大することで、可動ガイド部材21の揺動が抑制される。そして、チェーン張力調整装置20によるコイルスプリング24のばね力の増大と低減が周期的に繰り返されることにより、可動ガイド部材21の揺動は周期的に抑制される。
【0030】
なお、ディーゼルエンジンが高回転で運転されるときのクランクシャフト10の回転変動は、低回転で運転されるときと比較して小さいため、可動ガイド部材21の揺動は小さく、誘導起電力部45にリニアモータ40を作動させるだけの電力は生じない。したがって、高回転で運転されるとき、プランジャ23は、ばね力を積極的に増大させない状態のコイルスプリング24の付勢力を受けて可動ガイド部材21を押圧し、無端チェーン14の張力を調整する。
【0031】
本実施形態のチェーン張力調整装置20は以下の作用効果を奏する。
(1)ディーゼルエンジンが低回転で運転され、クランクシャフト10の回転変動を受ける無端チェーン14のばたつきにより可動ガイド部材21が揺動すると、誘導起電力部45において可動ガイド部材21の揺動によって誘導起電力が発生する。ダイオード47が誘導起電力部45の誘導起電力により生じる電流を一方向に通し、リニアモータ40はダイオード47により一方向に流れる電流によって駆動される。リニアモータ40の駆動によりコイルスプリング24のばね力が増大するので、コイルスプリング24の付勢力が増大し、プランジャ23によって可動ガイド部材21を無端チェーン14に押し付ける力が増大する。その結果、可動ガイド部材21の揺動を抑制することができ、可動ガイド部材21の揺動による異音の発生を抑制することができる。
【0032】
(2)アクチュエータはリニアモータ40であり、リニアモータ40は、支持部材22に設けられるステータ41と、コイルスプリング24を押圧可能であってコイルスプリング24の付勢方向に往復移動するスライダ42と、を有する。このため、アクチュエータとしてのリニアモータ40が駆動されると、リニアモータ40のスライダ42が、コイルスプリング24を押圧する方向へ移動することができ、コイルスプリング24のばね力を増大することができる。
【0033】
(3)誘導起電力部45は、支持部材22に設けられ、ダイオード47と通電可能なコイル31と、可動ガイド部材21に設けられ、コイル31に挿入される磁石36と、を有する。このため、可動ガイド部材21が無端チェーン14により揺動すると、コイル31に挿通された磁石36がコイル内にて変位するので、誘導起電力によって磁石36の変位に応じた電流がコイル31に発生する。その結果、可動ガイド部材21の揺動によりリニアモータ40を駆動することができる。
【0034】
(4)リニアモータ40のスライダ42がプランジャ23側に変位し始めてから電力を消費して原位置に復帰するまでのリニアモータ40の作動中は、コイルスプリング24の番定数が増大するので可動ガイド部材21の揺動を抑制することができる。したがって、誘導起電力部45、ダイオード47およびリニアモータ40を備えない従来の装置と比較すると、無端チェーン14がばたつく時間を低減することができ、その結果、可動ガイド部材21の揺動により異音が発生する時間を低減することができる。
【0035】
(5)可動ガイド部材21の揺動によって生じた電力をリニアモータ40の作動のために活用するため、別に電源や制御装置を設ける必要がない。したがって、チェーン張力調整装置20の構造が簡単となり、また、チェーン張力調整装置20の製作コストを抑制することができる。
【0036】
本発明は、上記の実施形態に限定されるものではなく発明の趣旨の範囲内で種々の変更が可能であり、例えば、次のように変更してもよい。
【0037】
○ 上記の実施形態では、アクチュエータとしてリニアモータを用いる例を説明したが、アクチュエータはリニアモータに限定されない。アクチュエータは、例えば、ステッピングモータを用いてもよく、少なくとも、通電によってばね部材のばね力を増大させることができる機能を備えればよい。
○ 上記の実施形態では、誘導起電力部は、可動ガイド部材に設けた磁石と、支持部材に設けたコイルと、を有しているとしたがこれに限らない。誘導起電力部は、可動ガイド部材にコイルを設け、支持部材に磁石を設けるようにしてもよい。
○ 上記の実施形態では、内燃機関としてのディーゼルエンジンに本発明を適用した例を説明したが、適用の対象はこれに限らない。本発明は、例えば、ガソリンエンジンに適用することも可能である。また、本発明のチェーン張力調整装置は、内燃機関においてクランクシャフトの回転をバランスシャフトに伝達する無端チェーン以外の無端チェーンに対して張力を調整するようにしてもよい。
〇 上記の実施形態では、半導体素子としてダイオードを用いたが、半導体素子はダイオードに限定されない。半導体素子は、誘導起電力部の誘導起電力により生じる電流を一方向にのみ通す半導体素子であれば、特に種類は問われない。
【符号の説明】
【0038】
10 クランクシャフト
11 バランスシャフト
12 クランクスプロケット
13 バランススプロケット
14 無端チェーン
20 チェーン張力調整装置
21 可動ガイド部材
22 支持部材
23 プランジャ
24 コイルスプリング
28 支点軸
29 空間
30 凹部
31 コイル
34 ガイド面
36 磁石
40 リニアモータ(アクチュエータ)
41 ステータ
42 スライダ
45 誘導起電力部
46 電気回路
47 ダイオード
48 増幅器