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特許7131661粘着シート、フレキシブル画像表示装置部材、光学部材及び画像表示装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-29
(45)【発行日】2022-09-06
(54)【発明の名称】粘着シート、フレキシブル画像表示装置部材、光学部材及び画像表示装置
(51)【国際特許分類】
   C09J 7/38 20180101AFI20220830BHJP
   C09J 175/04 20060101ALI20220830BHJP
   C09J 201/00 20060101ALI20220830BHJP
【FI】
C09J7/38
C09J175/04
C09J201/00
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2021102102
(22)【出願日】2021-06-21
(62)【分割の表示】P 2020189729の分割
【原出願日】2020-11-13
(65)【公開番号】P2021155754
(43)【公開日】2021-10-07
【審査請求日】2021-06-21
(31)【優先権主張番号】P 2019210797
(32)【優先日】2019-11-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2020064014
(32)【優先日】2020-03-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000707
【氏名又は名称】弁理士法人市澤・川田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】田畑 大樹
(72)【発明者】
【氏名】峯元 誠也
【審査官】本多 仁
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-222841(JP,A)
【文献】特開2019-173005(JP,A)
【文献】特開2017-119801(JP,A)
【文献】特開2013-035920(JP,A)
【文献】特開2018-062595(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09J 1/00-201/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ウレタン結合を含有する化合物を主成分樹脂として含む粘着剤から形成される粘着シートであって、
周波数1Hzの剪断モードで動的粘弾性測定により得られる損失正接(tanδ)の極大値が-20℃以下にあり、
接触角法により測定される、粘着シート表面のハンセン溶解度パラメーター(δd,δp,δh)において、極性項δpが2.0MPa0.5以上であり、かつ、水素結合項δhが5.0MPa0.5以上である粘着シート。
【請求項2】
周波数1Hzの剪断モードで動的粘弾性測定により得られる85℃の貯蔵剪断弾性率(G’(85℃))が、0.01MPa以上0.20MPa以下である請求項1に記載の粘着シート。
【請求項3】
ゲル分率が55%以上である請求項1又は2に記載の粘着シート。
【請求項4】
前記ウレタン結合を含有する化合物が、高分子成分を幹成分とし、ポリウレタンを枝成分とするグラフト重合体である請求項1~のいずれかに記載の粘着シート。
【請求項5】
前記粘着剤がラジカル開始剤を含む請求項に記載の粘着シート。
【請求項6】
前記ウレタン結合を含有する化合物が、水酸基末端ウレタンプレポリマーを含む請求項1~のいずれかに記載の粘着シート。
【請求項7】
請求項1~のいずれかに記載の粘着シートの少なくとも片面に部材シートを備えた積層体であって、
該部材シート表面のハンセン溶解性パラメーターと、該粘着シート表面のハンセン溶解性パラメーターのHSP距離(Ra)が17.0以下である、光学部材。
【請求項8】
粘着層の少なくとも片面に部材シートを備えた積層体であって、
前記粘着層は、ウレタン結合を含有する化合物を主成分樹脂として含む粘着剤から形成され、周波数1Hzの剪断モードで動的粘弾性測定により得られる損失正接(tanδ)の極大値が-20℃以下にあり、かつ、接触角法により測定される、粘着層表面のハンセン溶解度パラメーター(δd,δp,δh)において、極性項δpが2.0MPa0.5以上であり、かつ、水素結合項δhが5.0MPa0.5以上であり、
該部材シート表面のハンセン溶解性パラメーターと、該粘着層表面のハンセン溶解性パラメーターのHSP距離(Ra)が17.0以下である、光学部材。
【請求項9】
部材シートに対する、60℃における300mm/min剥離速度での180度剥離強度が10.0N/25mm以上である請求項又はに記載の光学部材。
【請求項10】
前記部材シートが、ポリイミド、エポキシ樹脂及びポリエステルからなる群から選択される一種又は二種以上の樹脂を主成分樹脂とするものである請求項のいずれか一項に記載の光学部材。
【請求項11】
請求項7~10のいずれかに記載の光学部材を備えた画像表示装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粘着シート、フレキシブル画像表示装置部材、光学部材及び画像表示装置に関する。より詳しくは、本発明は、屈曲可能な画像表示装置に好適に使用される粘着シート、さらには、画像表示装置を構成する部材シート又はフレキシブル部材に対して強固に粘着できる粘着シート又は粘着層と、それらを用いた光学部材又はフレキシブル画像表示装置部材に関するものであって、屈曲可能な画像表示装置の信頼性向上に寄与するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、有機発光ダイオード(OLED)や量子ドット(QD)を用いたフレキシブルあるいは屈曲可能な画像表示装置が開発され、広く商用化されつつある。
このような画像表示装置では、複数の部材シートが透明な接着シートで貼り合された構造をしており、折り曲げに伴う部材シート間の歪を吸収できる柔らかさを備えつつ、強固に部材シートを粘着することができる粘着シートが求められてきている。
【0003】
従来の画像表示装置に広く使用されてきた粘着シートは、酸を実質的に含有しない酸フリーのアクリル系粘着シートであった。
しかし、近年、屈曲用の画像表示装置に対応するためにアクリルポリマー組成を見直した、低いTg(ガラス転移温度)を有する粘着シートが提案されてきている。
例えば特許文献1には、(メタ)アクリル酸エステル共重合体と架橋剤とを含有し、所定のクリープコンプライアンス値を有し、復元性を改良した粘着剤が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2019-123826号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
屈曲可能な画像表示装置の登場により、それに用いられる部材シートも屈曲に対応したものが用いられつつある。例えば前面のカバーフィルムとして、屈曲による引張ストレスに強く、白化しにくく、高温信頼性が高く、耐擦性に優れた、透明なポリイミドフィルムが採用されてきている。
このような透明ポリイミドフィルムは、高温信頼性と透明性を両立するために、芳香族骨格とイミド基及び/又はアミド基を多く含有しており、種類によってはフッ素系の官能基を含有していることもある。よって、極めて極性の高いフィルムとなっており、従来のディスプレイに使用されていた粘着シートでは、強固に粘着することができず、屈曲のストレスで剥がれたり、ディスプレイの使用者が保護フィルムの一部と勘違いして剥がしてしまったりするという問題が生じていた。
【0006】
また、偏光板アッセンブリに関して増々の薄型化が進んでおり、塗布型の液晶層やTACフィルム(セルローストリアセテートフィルム)を最表面に積層するなどして、最表面が高極性である薄型の部材シートが登場してきており、このような部材シートも従来の粘着シートでは強固に粘着することが困難であった。
【0007】
さらにまた、耐屈曲性を改良したポリエステル系フィルムやエポキシ系フィルムも、屈曲用ディスプレイの部材シートとして注目されてきている。
【0008】
特許文献1に記載があるような(メタ)アクリル酸エステル共重合体からなり、低Tg、かつ、高架橋度の粘着シートは、低温でも柔らかく、一定の復元性を有している。
【0009】
しかし、それ故に粘着力を発現しづらいという課題があり、特に透明なポリイミドなどの高極性の部材シートに対して強固に粘着することが困難であった。
【0010】
そして、粘着シートの部材シートへの粘着力が弱い場合、折り畳み動作や屈曲状態での高温保管などでデラミや発泡といった欠陥を生じることがあり、画像表示装置の信頼性を損なうという問題があった。
【0011】
また、画像表示装置に対する薄型化や小曲率半径化の要求は年々厳しくなる見通しであり、それに伴い、粘着シートに対する強粘着化のニーズも高まっており、従来公知の技術では屈曲の要求を満たしつつ、部材シートに強固に保持できる粘着シートが得られなかった。
【0012】
そこで、本発明は、極性の高い部材シート又はフレキシブル部材に対して強固に粘着することができ、しかも屈曲性にも優れた、新たな粘着シート又は粘着層、これらを用いた光学部材、フレキシブル画像表示装置部材及び画像表示装置を提供せんとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の一態様は、ウレタン結合を含有する化合物を主成分樹脂として含む粘着剤から形成される粘着シートであって、周波数1Hzの剪断モードで動的粘弾性測定により得られる損失正接(tanδ)の極大値が-20℃以下にあり、接触角法により測定される、粘着シート表面のハンセン溶解度パラメーター(δd,δp,δh)において、極性項δpが2.0MPa0.5以上であり、かつ、水素結合項δhが5.0MPa0.5以上である粘着シートである。
本発明の一態様はまた、粘着層の少なくとも片面に部材シートを備えた積層体であって、前記粘着層は、ウレタン結合を含有する化合物を主成分樹脂として含む粘着剤から形成され、周波数1Hzの剪断モードで動的粘弾性測定により得られる損失正接(tanδ)の極大値が-20℃以下にあり、かつ、接触角法により測定される、粘着層表面のハンセン溶解度パラメーター(δd,δp,δh)において、極性項δpが2.0MPa0.5以上であり、かつ、水素結合項δhが5.0MPa0.5以上であり、該部材シート表面のハンセン溶解性パラメーターと、該粘着層表面のハンセン溶解性パラメーターのHSP距離(Ra)が17.0以下である、光学部材である。
本発明の一態様はまた、当該光学部材を備えた画像表示装置である。
【0014】
本発明の一態様はまた、2つのフレキシブル部材が粘着層を介して貼り合わされた構成を有するフレキシブル画像表示装置部材であって、前記粘着層は、周波数1Hzの剪断モードで動的粘弾性測定により得られる損失正接(tanδ)の極大値が-20℃以下にあり、かつ、接触角法により測定される、粘着層表面のハンセン溶解度パラメーター(δd,δp,δh)において、極性項δpが2.0MPa0.5以上であり、かつ、水素結合項δhが5.0MPa0.5以上である、フレキシブル画像表示装置部材である。
【0015】
本発明の一態様はさらに、前記粘着シート又は前記粘着層の少なくとも片面に部材シートを備えた積層体であって、該部材シート表面のハンセン溶解性パラメーターと前記粘着シート又は前記粘着層表面のハンセン溶解性パラメーターのHSP距離(Ra)が17.0以下である、光学部材及び当該光学部材を備えた画像表示装置である。
【発明の効果】
【0016】
本発明の粘着シート又は粘着層は、高極性の部材シート又はフレキシブル部材に対して大きな粘着力を示し、かつ、屈曲性にも優れている。例えば折り畳み動作をしても、屈曲状態で高温保管しても、デラミや発泡といった欠陥の発生を抑えることができる。
よって、屈曲可能な画像表示装置に好適に使用することができる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明を詳しく説明する。ただし、本発明の内容が以下に説明する実施形態に限定されるものではない。
【0018】
<<本粘着シート>>
本発明の実施形態の一例に係る粘着シート(以下、「本粘着シート」と称することがある)は、周波数1Hzの剪断モードで動的粘弾性測定により得られる損失正接(tanδ)の極大値が-20℃以下にある粘着シートであって、接触角法により測定される粘着シート表面のハンセン溶解度パラメーター(δd, δp, δh)において、極性項δpが2.0MPa0.5以上であり、かつ、水素結合項δhが5.0MPa0.5以上である。
【0019】
<<本フレキシブル画像表示装置部材>>
本発明の実施形態の一例に係るフレキシブル画像表示装置部材(以下、「本フレキシブル画像表示装置部材」と称することがある。)は、2つのフレキシブル部材が粘着層を介して貼り合わされた構成を有し、前記粘着層(以下、「本粘着層」と称することがある。)は、周波数1Hzの剪断モードで動的粘弾性測定により得られる損失正接(tanδ)の極大値が-20℃以下にあり、かつ、接触角法により測定される、粘着層表面のハンセン溶解度パラメーター(δd,δp,δh)において、極性項δpが2.0MPa0.5以上であり、かつ、水素結合項δhが5.0MPa0.5以上である。
なお、本粘着層は、その形態に制限はなく、予めシート状に成形されたシート状粘着製品が本フレキシブル画像表示装置部材に貼り合わされて形成されたものであっても、本フレキシブル画像表示装置部材に粘着層が直接形成されたものであってもよい。
【0020】
<損失正接(tanδ)>
本粘着シート及び本粘着層は、周波数1Hzの剪断モードで動的粘弾性測定により得られる損失正接(tanδ)の極大値が-20℃以下にあることが好ましい。
この極大値は-30℃以下にあることがより好ましく、-40℃以下にあることがさらに好ましい。下限については特に定めないが通常-70℃以上である。
【0021】
さらに本粘着シート及び本粘着層は、周波数1Hzの剪断における損失正接(tanδ)の極大値のピークが、-60~-20℃の温度範囲に存在することが特に好ましい。
この極大値の温度は、粘着シート及び本粘着層のガラス転移温度(以下、Tgと呼ぶことがある。)の目安となるものであり、この値が-20℃以下であることで、低温での貯蔵弾性率が十分下がり、屈曲操作によるストレスを低減することが可能となる。
種々の温度における弾性率(貯蔵弾性率)G’、粘性率(損失弾性率)G”及びtanδ=G”/G’はひずみレオメーターを用いて測定することができる。
【0022】
本粘着シート及び本粘着層の損失正接(tanδ)の極大値、及び、該極大値のピークの温度は、本粘着シート及び本粘着層を構成する樹脂のモノマーの種類、樹脂の質量平均分子量、分岐構造などの調整や、低Tgオリゴマーの配合添加によって、上記範囲に調整することができる。
【0023】
<貯蔵弾性率>
さらに本粘着シート及び本粘着層は、-20℃での貯蔵弾性率(G’(-20℃))が1MPa以下であることが好ましく、中でも900kPa以下であるのがさらに好ましい。
該G’(-20℃)が上記範囲内であれば、部材シートの割れを防止することができる。
また、このようなG’(-20℃)を達成するには、本粘着シート及び本粘着層のガラス転移温度(Tg)が-20℃以下であるのが好ましい。
【0024】
屈曲可能な画像表示装置に使用される粘着シート及び本粘着層は、折り畳む速度(周波数)において柔らかくある必要があり、高周波数にて柔軟であるためには、動的粘弾性の温度-時間換算測により、低温域でG’が低いこと、つまり、粘着シート及び本粘着層のガラス転移温度(Tg)が低いことが求められる。
【0025】
本粘着シート及び本粘着層は、周波数1Hzの剪断モードで動的粘弾性測定により得られる85℃の貯蔵剪断弾性率(G’(85℃))が、0.01MPa以上0.20MPa以下であることであるのが好ましい。
本粘着シート及び本粘着層の85℃の貯蔵剪断弾性率(G’(85℃))は0.18MPa以下であるのがより好ましく、中でも0.15MPa以下であるのがより好ましく、0.12MPa以下であるのがさらに好ましい。
他方、当該貯蔵剪断弾性率(G’(85℃))の下限値に関しては、形状維持の観点から、0.01MPa以上であるのが好ましい。
貯蔵剪断弾性率(G’(85℃))が上記範囲内であれば、例えば本粘着シート又は本粘着層を部材シート又はフレキシブル部材に貼着して積層シート又はフレキシブル画像表示装置部材を形成した際、常温から高温において、積層シート又はフレキシブル画像表示装置部材の折り曲げ時の層間応力を小さくすることができ、部材シート又はフレキシブル部材のデラミや割れを抑制することができる。
【0026】
<ハンセン溶解度パラメーター>
本粘着シート及び本粘着層は、接触角法により測定される、粘着シート表面のハンセン溶解度パラメーター(δd,δp,δh)において、極性項δpが2.0MPa0.5以上であり、かつ、水素結合項δhが5.0MPa0.5以上であるのが好ましい。
【0027】
ここで、ハンセンの溶解度パラメーター(HSP)は、ある物質が他のある物質にどのくらい溶けるのかという溶解性を表す指標である。HSPは、ヒルデブランド(Hildebrand)によって導入された溶解度パラメーターを、分散項δd、極性項δp、水素結合項δhの3成分に分割し、三次元空間に表したものである。分散項δdは分散力による効果、極性項δpは双極子間力による効果、水素結合項δhは水素結合力による効果を示し、
δd: 分子間の分散力に由来するエネルギー
δp: 分子間の極性力に由来するエネルギー
δh: 分子間の水素結合力に由来するエネルギー
と、表記される。(ここで、それぞれの単位はMPa0.5である。)
HSPの定義と計算は、下記の文献に記載されている。
Charles M. Hansen著、Hansen Solubility Parameters: A Users Handbook(CRCプレス、2007年)。
【0028】
分散項はファンデルワールス力、極性項はダイポール・モーメント、水素結合項は水、アルコールなどによる作用をそれぞれ反映している。
そして、HSPによるベクトルが似ているもの同士は溶解性が高いと判断でき、ベクトルの類似度はハンセン溶解度パラメーターの距離(HSP距離)で判断し得る。
また、ハンセンの溶解度パラメーターは、溶解性の判断だけではなく、ある物質が他のある物質中にどの程度存在しやすいか、すなわち分散性がどの程度良いかの判断の指標ともなり得る。
【0029】
本発明において表面のHSP[δd、δp、δh]は、HSP既知の各種溶媒の液滴2μLを、シート表面へ接触させ30秒後の接触角の値から、Young-Dupreの式及び、畑・北崎、拡張ホークスの式からγsLを算出し、ハンセン溶解度パラメーターと表面張力の関係(式1)(Hansen Solubility Parameters 50th anniversary conference,preprint 2017 PP.14-21(2017))から、Rと(γsL/(VL 1/3))1/2が相関するように決定される。
(式1)δ 2 2+0.068δ 2=13.9γsL(1/(VL 1/3))
【0030】
本粘着シート及び本粘着層は、粘着シート又は粘着層表面のハンセン溶解度パラメーター(δd,δp,δh)において、極性項δpは、2.0MPa0.5以上であることが好ましく、3.0MPa0.5以上であることがさらに好ましい。また、水素結合項δhは、5.0MPa0.5以上が好ましく、6.0MPa0.5以上がさらに好ましい。
本粘着シート及び本粘着層のδp及びδhが上記範囲にあることで、ポリイミドシートやエポキシシート、TACシートなどの高極性の部材シートへの濡れが良くなり、界面接着力が高まり、従来アクリル系の粘着シートよりも粘着力を向上することができる。
【0031】
このような表面HSPの粘着シート及び本粘着層を得るには、例えばポリウレタン、ポリエステル、ポリアミド等のδp,δhの高い成分が粘着シート表面に露出するように、粘着シートを形成するための粘着剤の種類や配合量で調整することが好ましい。
とりわけ、ウレタン結合を有する化合物を含む粘着剤を用いることが好ましい。
【0032】
また、アクリルポリマーなどの高分子成分を幹成分とし、これにポリウレタン、ポリエステル、ポリアミドなどを枝成分としてグラフトさせたグラフト重合体を含む粘着剤を使用することが好ましい。
特にグラフト重合体を使用する方法は、ポリウレタン、ポリエステル、ポリアミド成分の量が少なくても、表面のδp,δhを効率良く高めることができるため、更に好ましい。
【0033】
<ゲル分率>
本粘着シート及び本粘着層のゲル分率は55%以上であることが好ましく、60%以上であることがさらに好ましく、65%以上であることがより好ましい。
本粘着シート及び本粘着層のゲル分率が55%以上であることにより、形状を十分に保持することができる。
【0034】
<ウレタン系重合体>
以下、本粘着シート及び本粘着層を構成する粘着剤が含有する重合体のうち、代表的なものであるウレタン系重合体について詳述する。
なお、本発明においては、重合体と称する場合であっても、単独重合体及び共重合体の両方を包括する意味である。
【0035】
ウレタン系重合体は、ウレタン結合を分子内に有する高分子化合物である。
【0036】
本粘着シート及び本粘着層は、ウレタン系重合体を含む粘着剤から形成されるのが好ましい。とりわけ、ウレタン系重合体を主成分樹脂として含む硬化性組成物を硬化して形成されるのが好ましい。
硬化前成分としてウレタン系重合体を含むことで、本粘着シート及び本粘着層の接着力及び凝集力を高めることができる。
【0037】
なお、「主成分樹脂」とは、本粘着シート又は本粘着層を構成する樹脂の中で最も含有質量の多い樹脂の意味であり、本粘着シート又は本粘着層を構成する樹脂の中で50質量%以上、中でも60質量%以上、中でも70質量%以上、中でも80質量%以上、中でも90質量%以上(100質量%を含む)を占める場合が想定される。
【0038】
ウレタン系重合体を作製する方法の一つに、水酸基とイソシアネートとの重合反応によるものがある。
【0039】
原料として用いられる水酸基としては、ポリオールが好適に用いられ、例えばポリエーテルポリオール類、ポリエステルポリオール類、ポリカーボネート系ポリオール類、ポリオレフィンポリオール類、アクリルポリオール類が挙げられる。これらの化合物は単独で用いても、複数種用いてもよい。
【0040】
ポリエーテルポリオール類の開始剤としては、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリエチレンプロピレングリコール、ポリテトラメチレンエーテルグリコール、ポリヘキサメチレンエーテルグリコール等が挙げられる。
【0041】
ウレタン系重合体を得るために使用されるイソシアネート化合物としては、トリレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、メチレンジフェニルジイソシアネート、フェニレンジイソシアネート、ナフタレンジイソシアネート、トリジンジイソシアネート等の芳香族ジイソシアネート;α,α,α’,α’-テトラメチルキシリレンジイソシアネート等の芳香環を有する脂肪族ジイソシアネート;メチレンジイソシアネート、プロピレンジイソシアネート、リジンジイソシアネート、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート等の脂肪族ジイソシアネート;シクロヘキサンジイソシアネート、メチルシクロヘキサンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、イソプロピリデンジシクロヘキシルジイソシアネート等の脂環族ジイソシアネート等が例示される。これらは単独で用いても、複数種併用してもよい。
【0042】
本発明においては、ウレタン系重合体としては、水酸基末端ウレタンプレポリマー、又は、高分子成分を幹成分とし、ポリウレタンを枝成分とするグラフト重合体が好ましい。
【0043】
これらの中でも、高い耐屈曲性を有する観点から、アクリル系重合体からなる幹成分(主鎖)にポリウレタンが枝成分として結合したグラフト重合体が好ましい。
【0044】
前記水酸基末端ウレタンプレポリマーは、複数種の水酸基などの活性水素基含有化合物と1種以上のポリイソシアネートとを共重合反応させて得られる反応生成物であり、鎖全体がウレタン結合を有している。
【0045】
一方、アクリル系重合体を幹成分として、ポリウレタンが枝成分として結合したグラフト重合体は、枝成分にウレタン結合が存在している。この重合体から形成される粘着シート及び粘着層においては、枝成分部位が表面に集中するため、高いδp、δhを表面に有する粘着シート及びび粘着層となっていると考えられる。
ここで、主鎖(幹成分)であるアクリル系重合体の質量平均分子量は、例えば50,000~800,000、枝成分のポリウレタン部位の質量平均分子量は、例えば1,000~20,000である。
質量平均分子量は、ポリスチレン換算でゲル浸透クロマトグラフィーを用いて測定した値である。
【0046】
このように、本粘着シート及び本粘着層は、ウレタン結合を有する分子鎖を含むウレタンポリマー鎖(「ウレタン成分セグメント」とも称する。)と、(メタ)アクリル酸エステル成分由来の分子鎖を有するアクリルポリマー鎖(「アクリル成分セグメント」とも称する。)と、を含む粘着剤を用いて形成することが好ましい。
【0047】
より具体的には、前記粘着剤が、(a)前記ウレタン成分セグメント及びアクリル成分セグメントの両方が主鎖を構成するブロックポリマー、(b)前記ウレタン成分セグメント又は前記アクリル成分セグメントが主鎖を構成し、他方のセグメントが側鎖を構成するグラフトポリマー、(c)前記ウレタン成分セグメント又は前記アクリル成分セグメントの一方と、他方のセグメントとが架橋している架橋ポリマー、(d)アクリルポリマー及びウレタン系ポリマーを含むポリマーブレンドから選択される何れか1種以上のポリマーを含む態様を挙げることができる。
【0048】
また、前記において、アクリル成分セグメントとウレタン成分セグメントが共有結合で結合していることが好ましい。
【0049】
なお、アクリル系重合体からなる幹成分(主鎖)にポリウレタンが枝成分として結合したグラフト重合体は、例えばアクリット8BRシリーズ、アクリット8HYシリーズ(いずれも大成ファインケミカル(株)商品名)として入手可能である。
【0050】
<その他粘着成分>
本粘着シート及び本粘着層は、粘着剤に含まれる重合体として、単一の上記ウレタン系重合体を含むものであってもよいし、2種類以上の重合体を含むものであってもよい。
例えば上記ウレタン系重合体のほかに、ポリエステル、ポリアミド、又は、アクリル系重合体を含んでいてもよい。
【0051】
<その他の成分>
本粘着シート及び本粘着層は、その他、開始剤、架橋剤、粘着付与剤、硬化促進剤、充填剤、カップリング剤、紫外線吸収剤、紫外線安定剤、酸化防止剤、安定剤、顔料、防錆剤又はこれらの幾つかの組み合わせを添加されていてもよい。
これら添加剤の量は、典型的には、粘着シート及び粘着層の硬化に悪影響を与えないように、又は粘着シート及び粘着層の物理的特性に悪影響を与えないように選択するのが好ましい。
【0052】
<表面>
本粘着シート及び本粘着層の少なくとも片面に、ブロッキング防止や異物付着防止の観点から保護フィルムを積層させることが好ましい。あるいは、必要に応じて、エンボス加工や種々の凹凸(円錐や角錐形状や半球形状など)加工を行ってもよい。
また、各種被着部材への接着性を向上させる目的で、表面にコロナ処理、プラズマ処理及びプライマー処理などの各種表面処理を行ってもよい。
【0053】
特に、本発明の粘着シート及び本粘着層は、その少なくとも片面に離型フィルムが積層された積層体としてもよい。ここで離型フィルムとしては、光透過性とコストの観点から、離型処理したPET(ポリエチレンテレフタレート)フィルムを採用することが好ましい。
【0054】
<全光線透過率、ヘイズ>
本粘着シート及び本粘着層は、厚み100μmの時の全光線透過率が85%以上であることが好ましく、88%以上であることがより好ましく、91%以上であることがより好ましい。
【0055】
また、本粘着シート及び本粘着層は、ヘイズが1.0以下であることが好ましく、0.5以下であることがさらに好ましく、特に0.2以下であることがより好ましい。
ヘイズが1.0以下であることにより、用途によっては表示装置用に使用できる粘着シート乃至粘着層となる。
ここで、全光線透過率はJIS K7361-1に準じて、ヘイズはJIS K7136に準じてそれぞれ測定されるものである。
【0056】
<厚み>
本粘着シート及び本粘着層の厚みは、特に制限されるものではない。0.005mm以上であるのが好ましく、より好ましくは0.01mm以上、更に好ましくは0.15mm以上である。
一方、上限として、好ましくは1.0mm以下、より好ましくは0.7mm以下、更に好ましくは0.5mm以下である。
厚みが0.005mm以上であれば、ハンドリング性が良好であり、また、厚みが1.0mm以下であれば、積層体の薄型化に寄与することができる。
【0057】
<本粘着シートの好ましい用途>
本粘着シートは、ディスプレイ部材を構成する部材(「ディスプレイ部材」とも称する)、とりわけ、ディスプレイを作製するのに用いるディスプレイ用のフレキシブル部材の貼合に使用することが好ましく、フレキシブルディスプレイを作製するのに用いるフレキシブルディスプレイ用の粘着部品として使用することが特に好ましい。
なお、フレキブル部材については、後述するものと同一のものを使用することができる。
【0058】
<本フレキシブル画像表示装置部材の構成要素>
次に、本フレキシブル画像表示装置部材の構成要素のうち、本粘着層以外の要素について説明する。
【0059】
<フレキシブル部材>
本フレキシブル画像表示装置部材を構成するフレキシブル部材としては、例えば有機エレクトロルミネッセンス(EL)ディスプレイ等のフレキシブルディスプレイ、カバーレンズ(カバーフィルム)、偏光板、偏光子、位相差フィルム、バリアフィルム、視野角補償フィルム、輝度向上フィルム、コントラスト向上フィルム、拡散フィルム、半透過反射フィルム、電極フィルム、透明導電性フィルム、金属メッシュフィルム、タッチセンサーフィルム等のディスプレイ用のフレキシブル部材を挙げることができる。これらのうちのいずれか1種又は2種のうちの2つを組み合わせて使用すればよい。例えばフレキシブルディスプレイと、その他のフレキシブル部材との組み合わせや、カバーレンズと、その他のフレキシブル部材との組み合わせを挙げることができる。
【0060】
なお、フレキシブル部材とは、屈曲可能な部材、とりわけ、繰り返し屈曲可能な部材であることを意味する。特に、屈曲半径が25mm以上の湾曲形状に固定が可能な部材、とりわけ、屈曲半径25mm未満、より好ましくは、屈曲半径3mm未満での繰り返しの曲げ作用に耐えることができる部材であるのが好ましい。
【0061】
フレキシブル部材と粘着層との粘着力は、剥離周波数(速度)における損失弾性率(G”)の大きさといった粘弾性的な要素と、濡れなどの界面接着力の要素などにより決まるのが通常である。
しかし、屈曲用の低Tgである粘着層は、粘弾性上の制約から大きな改善が見込めない可能性があり、粘着層の表面HSPは界面接着力の向上に寄与している可能性が高いことが分かってきた。
【0062】
そこで、フレキシブル部材表面のハンセン溶解性パラメーターと、本粘着層表面のハンセン溶解性パラメーターとのHSP距離(Ra)が17.0以下であることが好ましく、16.0以下であることがより好ましく、15.0以下であることがさらに好ましい。
ここで、HSP距離(Ra)は(式2)で算出される。
(式2)HSP距離(Ra)={4×(δd-δd+(δp-δp+(δh-δh0.5
なお、式2中、δd、δp及びδhはそれぞれ、本粘着層のδd、δp及びδhを示し、δd、δp及びδhはそれぞれ、フレキシブル部材のδd、δp及びδhを示す。
【0063】
前記HSP距離(Ra)を上記範囲とすることで、フレキシブル部材と本粘着層との粘着力を十分に高めることができる。
粘着力の評価方法は様々であるが、例えば、本粘着層は、フレキシブル部材、特に極性の高いフィルムからなるフレキシブル部材に対する、60℃における300mm/min剥離速度での180度剥離強度(JIS Z 0237)を10.0N/25mm以上とすることができ、さらに好ましくは11.0N/25mm以上とすることができる。
フレキシブル部材と本粘着層との粘着力が上記範囲であることで、屈曲時のストレスで部材シートが剥離することなく、画像表示装置の信頼性を向上させることができる。
【0064】
前記HSP距離を上記範囲とするためには、例えば本粘着層のδp,δhを高めるか、フレキシブル部材側に本粘着層のHSPに近いHSPを有するプライマーを塗布するなどすればよい。
但し、これらの方法に限定するものではない。
【0065】
<<本光学部材>>
本発明の実施形態の一例に係る光学部材(以下、「本光学部材」と称することがある)は、上述した本粘着シート又は本粘着層の少なくとも片面に部材シートを備えた積層体である。
【0066】
本光学部材は、部材シート(以下「第1の部材シート」と称することがある)と、本粘着シート又は本粘着層と、任意の部材シート(以下「第2の部材シート」と称することがある)とが、この順で積層されてなる構成を備えた積層シートであってもよい。
この際、第1の部材シートと第2の部材シートは同じでもよいし、異なるものでもよい。
【0067】
<部材シート>
本粘着シート又は本粘着層の被着体となる部材シートの主成分樹脂としては、例えばポリシクロオレフィン、セルローストリアセテート樹脂、ポリメチルメタクリレート、ポリエステル、エポキシ樹脂、ポリイミドなどが挙げられ、これらのうちに一種の樹脂であっても、又は二種以上の樹脂であってもよい。
【0068】
ここで「主成分樹脂」とは、部材シート又は部材シートを形成する樹脂組成物を構成する樹脂の中で最も多い質量比率を占める成分であることをいい、具体的には部材シート又は該部材シートを形成する樹脂組成物の50質量%以上を占めるものであり、55質量%以上、中でも60質量%以上を占めるのがさらに好ましい。
【0069】
また、部材シートは薄膜ガラスであってもよい。ここで、薄膜ガラスとは、上記で挙げた部材シートの厚みを有するガラスを指す。
【0070】
中でも、ポリイミド、エポキシ樹脂及びポリエステルからなる群から選択される一種又は二種以上の樹脂を主成分樹脂とする部材シートは、特に高極性であるが、本粘着シート又は本粘着層はδp、δhが高いため、特に効果を見出すことができる。
中でも、ポリイミドを主成分とするポリイミドフィルムは、高Tg、かつ、低線膨張係数で高温信頼性に優れ、引張強度も高く、折り曲げによる白化も起こり難いため、フレキシブルディスプレイの部材シートとして好適に使用される。
【0071】
通常のポリイミドは、褐色であることが多いが、ジアミン成分とジカルボン酸成分の化学構造を適切に選択し、バンドギャップを調整した透明なポリイミドフィルムが特に好ましい。
【0072】
<光学部材の厚み>
本光学部材の厚みは、特に制限されるものではない。例えば画像表示装置に使用される場合の一例としては、本光学部材はシート状であり、その厚みが0.01mm以上であれば、ハンドリング性が良好であり、また、厚みが1.0mm以下であれば、積層体の薄型化に寄与することができる。
よって、本光学部材の厚みは、0.01mm以上であるのが好ましく、中でも0.03mm以上、特に0.05mm以上であるのがより好ましい。一方、上限に関しては、1.0mm以下であるのが好ましく、中でも0.7mm以下、特に0.5mm以下であるのがさらに好ましい。
【0073】
<HSP距離(Ra)>
部材シートと粘着シート又は粘着層との粘着力は、剥離周波数(速度)における損失弾性率(G”)の大きさといった粘弾性的な要素と、濡れなどの界面接着力の要素などにより決まるのが通常である。
しかし、屈曲用の低Tgの粘着シート又は粘着層は、粘弾性上の制約から大きな改善が見込めない可能性があり、粘着剤の表面HSPは界面接着力の向上に寄与している可能性が高いことが分かってきた。
【0074】
そこで、本光学部材においては、部材シート表面のハンセン溶解性パラメーターと、本粘着シート又は本粘着層表面のハンセン溶解性パラメーターとのHSP距離(Ra)が17.0以下であることが好ましく、16.0以下であることがより好ましく、15.0以下であることがさらに好ましい。
ここで、HSP距離(Ra)は(式2)で算出される。
(式2)HSP距離(Ra)={4×(δd-δd+(δp-δp+(δh-δh0.5
なお、式2中、δd、δp及びδhはそれぞれ、本粘着シートのδd、δp及び
δhを示し、δd、δp及びδhはそれぞれ、本部材シートのδd、δp及びδh
を示す。
【0075】
前記HSP距離(Ra)を上記範囲とすることで、部材シートと本粘着シート又は本粘着層との粘着力を十分に高めることができる。
粘着力の評価方法は様々であるが、例えば、本粘着シート又は本粘着層は、部材シート、特に極性の高いフィルムからなる部材シートに対する、60℃における300mm/min剥離速度での180度剥離強度(JIS Z 0237)を10.0N/25mm以上とすることができ、さらに好ましくは11.0N/25mm以上とすることができる。
部材シートと本粘着シート又は本粘着層との粘着力が上記範囲であることで、屈曲時のストレスで部材シートが剥離することなく、画像表示装置の信頼性を向上させることができる。
【0076】
前記HSP距離を上記範囲とするためには、例えば粘着シート又は本粘着層のδp,δhを高めるか、部材シート側に粘着シート又は本粘着層のHSPに近いHSPを有するプライマーを塗布するなどすればよい。
但し、これらの方法に限定するものではない。
【0077】
<<本粘着シート、本粘着層、本光学部材の製造方法>>
次に、本粘着シート、本粘着層及び本光学部材の製造方法について説明する。但し、以下の説明は、本粘着シート、本粘着層及び本光学部材を製造する方法の一例であり、本粘着シート、本粘着層及び本光学部材はかかる製造方法により製造されるものに限定されるものではない。
【0078】
本粘着シートの作製においては、例えばウレタン系ポリマー、必要に応じて、アクリル系モノマー、アクリル系ポリマー、オレフィン系モノマー、オレフィン系ポリマー、粘着付与剤、開始剤、架橋剤、その他の成分などを含有する、本粘着シート形成用の粘着剤樹脂組成物(「本粘着層用樹脂組成物」とも称する)を調製する。
次に、当該粘着剤樹脂組成物をシート状に成形し、架橋反応させて硬化させ、必要に応じて適宜加工を施すことにより、本粘着シートを作製すればよい。
但し、この方法に限定するものではない。
【0079】
また、本粘着層の作製においては、上記と同様にして本粘着層用樹脂組成物を調整し、これを部材シート又はフレキシブル部材上にコーティングし、当該樹脂組成物を硬化させることにより、本粘着層を形成すればよい。
【0080】
そして、本粘着シート又は本粘着層を、第1の部材シート乃至第2の部材シートに貼着することにより、本光学部材を作製することができる。
但し、このような製造方法に限定するものではない。
【0081】
本粘着シート又は本粘着層形成用の粘着剤樹脂組成物を調製する際、上記原料を、温度調節可能な混練機(例えば、ディスパー、一軸押出機、二軸押出機、プラネタリーミキサー、二軸ミキサー、加圧ニーダー等)を用いて混練すればよい。
なお、種々の原料を混合する際、シランカップリング剤、酸化防止剤等の各種添加剤は、予め樹脂とともにブレンドしてから混練機に供給してもよいし、予め全ての材料を溶融混合してから供給してもよいし、添加剤のみを予め樹脂に濃縮したマスターバッチを作製し供給してもよい。
【0082】
(開始剤)
本粘着シート又は本粘着層に硬化性を付与するためには、上述のように、本粘着シート又は本粘着層形成用の粘着剤樹脂組成物を硬化、言い換えれば架橋させるのが好ましい。
この際、第1の部材シート乃至第2の部材シートに本粘着シート又は本粘着層形成用の粘着剤樹脂組成物を塗布して架橋させてもよいし、本粘着シート又は本粘着層形成用の粘着剤樹脂組成物を架橋させて貼着してもよい。
【0083】
本粘着シート又は本粘着層形成用の粘着剤樹脂組成物を硬化させるには、本粘着シート又は本粘着層形成用の粘着剤樹脂組成物は開始剤或いは架橋剤を含むのが好ましい。
該開始剤としては、特に限定されない。例えば熱により活性化するもの、活性エネルギー線により活性化するもの、いずれも使用できる。また、ラジカルを発生し、ラジカル反応を引き起こすもの、カチオンやアニオンを発生し、付加反応を引き起こすものいずれも使用することができる。
好ましい開始剤としては、ラジカル開始剤であり、とりわけ、光ラジカル開始剤が好ましい。
【0084】
光ラジカル開始剤は、例えば紫外線や可視光線等の光、より具体的には、波長200nm~780nmの光を照射することにより活性なラジカル種を発生する化合物を好ましい例として挙げることができる。
前記光ラジカル開始剤としては、開裂型光開始剤、及び、水素引抜型開始剤のいずれも使用することができ、また、両者を併用することも可能である。
【0085】
前記開裂型光開始剤としては、例えば2,2-ジメトキシ-1,2-ジフェニルエタン-1-オン、1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2-ヒドロキシ-2-メチル-1-フェニル-プロパン-1-オン、1-(4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル)-2-ヒドロキシ-2-メチル-1-プロパン-1-オン、2-ヒロドキシ-1-[4-{4-(2-ヒドロキシ-2-メチル-プロピオニル)ベンジル}フェニル]-2-メチル-プロパン-1-オン、オリゴ(2-ヒドロキシ-2-メチル-1-(4-(1-メチルビニル)フェニル)プロパノン)、フェニルグリオキシリック酸メチル、2-ベンジル-2-ジメチルアミノ-1-(4-モルフォリノフェニル)ブタン-1-オン、2-メチル-1-[4-(メチルチオ)フェニル]-2-モルフォリノプロパン-1-オン、2-(ジメチルアミノ)-2-[(4-メチルフェニル)メチル]-1-[4-(4-モルホリニル)フェニル]-1-ブタノン、ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)-フェニルフォスフィンオキサイド、2,4,6-トリメチルベンゾイルジフェニルフォスフィンオキサイド、(2,4,6-トリメチルベンゾイル)エトキシフェニルホスフィンオキサイド、ビス(2,6-ジメトキシベンゾイル)2,4,4-トリメチルペンチルフォスフィンオキサイド、又はこれらの誘導体などを挙げることができる。
【0086】
前記開裂型光開始剤を使用すると、光反応終了後に光開始剤が構造変化して失活するため、硬化反応が終了した後の粘着剤樹脂組成物中に活性種として残存することがなく、粘着剤樹脂組成物に予期せぬ光劣化等をもたらすおそれがないため、好ましい。
【0087】
前記水素引抜型光開始剤としては、例えばベンゾフェノン、4-メチル-ベンゾフェノン、2,4,6-トリメチルベンゾフェノン、4-フェニルベンゾフェノン、3,3’-ジメチル-4-メトキシベンゾフェノン、4-(メタ)アクリロイルオキシベンゾフェノン、2-ベンゾイル安息香酸メチル、ベンゾイル蟻酸メチル、ビス(2-フェニル-2-オキソ酢酸)オキシビスエチレン、4-(1,3-アクリロイル-1,4,7,10,13-ペンタオキソトリデシル)ベンゾフェノン、チオキサントン、2-クロロチオキサントン、3-メチルチオキサントン、2,4-ジメチルチオキサントン、2-メチルアントラキノン、2-エチルアントラキノン、2-tert-ブチルアントラキノン、2-アミノアントラキノン、又はこれらの誘導体などを挙げることができる。
【0088】
前記水素引抜き型光開始剤を使用すると、光開始剤がポリマーのさまざまな部位からも水素引き抜き反応をし得ることから、より複雑な架橋構造を形成することができるため好ましい。
また、水素引抜き型光開始剤は、一度光硬化反応に用いた後であっても、再度光照射することで繰り返し活性種として機能し得ることから、後述する、いわゆる後硬化(ポストキュア)タイプとして粘着剤樹脂組成物を使用する場合においては、後硬化時の光反応の起点となることができる点で好ましい。
【0089】
特に本発明においては、前述したアクリル系重合体からなる幹成分(主鎖)にポリウレタンが枝成分として結合したグラフトポリマーに対して、水素引き抜き型光開始剤を用いて光硬化反応をした場合、高極性の部材シートに対して高い耐屈曲性を有する粘着シート又は粘着層とすることができる。
従って、本粘着シート又は本粘着層は水素引き抜き開始剤を含むことが好ましい。
【0090】
一方、架橋構造形成には、光開始剤以外にも熱開始剤を使用することができる。
熱開始剤の例としては、アゾ化合物、キニーネ、ニトロ化合物、アシルハロゲン化物、ヒドラゾン、メルカプト化合物、ピリリウム化合物、イミダゾール、クロロトリアジン、ベンゾイン、ベンゾインアルキルエーテル、ジケトン、フェノン、並びにジラウロイルペルオキシド及びNOF Co.からPERHEXA TMHとして入手可能な1,1-ジ(t-ヘキシルペルオキシ)-3,3,5-トリメチルシクロヘキサン等の有機ペルオキシドが挙げられる。
【0091】
(架橋剤)
また、架橋構造形成のために、多官能(メタ)アクリレート等の架橋剤を使用することができる。水酸基などの活性水素基を含有した高分子量成分であれば、イソシアネートやカルボジイミドなどによって架橋することが可能である。中でもイソシアネートが好ましく、上記ポリウレタンの章で記載したイソシアネート類を好適に用いることができる。
【0092】
特に上述した水酸基末端ウレタンプレポリマーに対しては、架橋剤を使用することがとりわけ好ましい。
また、架橋反応の促進のために、遷移金属触媒などをさらに添加することも、粘着シート又は粘着層形成のプロセス上好ましい。
【0093】
開始剤は、本粘着シート又は本粘着層の総質量に基づいて0.01~10質量%、又は0.01~5質量%の濃度で用いられることが多い。複数の開始剤からなる混合物を用いてもよい。
【0094】
(粘着付与剤)
本粘着シート又は本粘着層形成用の粘着剤樹脂組成物乃至本粘着シート又は本粘着層は、必要に応じて、粘着付与剤を含むものであってもよい。一般に、粘着付与剤は、粘着剤組成物の粘着性を高める任意の化合物又は化合物の混合物であってもよい。
粘着付与剤としては、特に限定されるものではなく、従来公知のものを使用することができる。例えばテルペン系粘着付与剤、フェノール系粘着付与剤、ロジン系粘着付与剤、脂肪族系石油樹脂、芳香族系石油樹脂、共重合系石油樹脂、脂環族系石油樹脂、キシレン樹脂、エポキシ系粘着付与剤、ポリアミド系粘着付与剤、ケトン系粘着付与剤、エラストマー系粘着付与剤などが挙げられ、これらを1種又は2種以上を組み合わせて使用できる。
【0095】
(硬化促進剤)
本粘着シート又は本粘着層形成用の粘着剤樹脂組成物乃至本粘着シート又は本粘着層は、必要に応じて、硬化促進剤を含むものであってもよい。
本粘着シート又は本粘着層形成用の粘着剤樹脂組成物の硬化反応を促進するために、従来公知の硬化促進剤を添加することができる。
【0096】
(成形)
本粘着シート形成用の粘着剤樹脂組成物をシート状に成形する方法としては、公知の方法、例えばウェットラミネーション法、ドライラミネート、Tダイを用いる押出キャスト法、押出ラミネート法、カレンダー法やインフレーション法、射出成形法、注液硬化法等を採用することができる。中でも、シートを製造する場合は、ウェットラミネーション法、押出キャスト法、押出ラミネート法が好適である。
【0097】
(硬化)
本粘着シート又は本粘着層形成用の粘着剤樹脂組成物が開始剤を含む場合、熱及び/又は活性エネルギー線を照射し硬化させることにより、硬化物を製造することができる。
特に、本粘着シート又は本粘着層形成用の粘着剤樹脂組成物を成形体成形したものに、熱及び/又は活性エネルギー線を照射することにより、本粘着シートを製造することができる。
ここで、照射する活性エネルギー線としては、α線、β線、γ線、中性子線、電子線などの電離性放射線、紫外線、可視光線などが挙げられ、中でも光学装置構成部材へのダメージ抑制や反応制御の観点から紫外線が好適である。
また、活性エネルギー線の照射エネルギー、照射時間、照射方法などに関しては特に限定されず、開始剤を活性化させてモノマー成分を重合できればよい。
【0098】
<別の製造方法>
本粘着シートの製造方法の別の実施態様として、上述の本粘着シート形成用の粘着剤樹脂組成物を適切な溶剤に溶解させ、各種コーティング手法を用いて実施することもできる。
コーティング手法を用いた場合、上記の活性エネルギー線照射硬化の他、熱硬化させることにより本粘着シートを得ることもできる。
【0099】
コーティングの場合、粘着シートの厚みは塗工厚みと塗工液の固形分濃度によって調整できる。
【0100】
なお、ブロッキング防止や異物付着防止の観点から、本粘着シート又は本粘着層の少なくとも片面に、離型層が積層されてなる保護フィルムを設けることもできる。
また、必要に応じて、エンボス加工や種々の凹凸(円錐や角錐形状や半球形状など)加工を行ってもよい。
また、各種部材シートへの接着性を向上させる目的で、表面にコロナ処理、プラズマ処理及びプライマー処理などの各種表面処理を行ってもよい。
【0101】
<<本フレキシブル画像表示装置部材の製造方法>>
本フレキシブル画像表示装置部材の製造方法としては、特に制限されるものではなく、上述のように、本粘着層形成用の樹脂組成物をフレキブル部材上にコーティングして形成してもよいし、予め当該樹脂組成物を用いてシート状に成形した後に、フレキブル部材と貼合してもよい。
【0102】
<<本画像表示装置>>
本光学部材を組み込むことで、例えば本光学部材を他の画像表示装置構成部材に積層することで、本光学部材を備えた画像表示装置(「本画像表示装置」とも称する)を形成することができる。
特に本光学部材は、低温及び高温における環境下で折り畳み操作をしても、積層シートのデラミや割れを防止でき、復元性も良好であるから、フレキシブル画像表示装置を形成することができる。
なお、フレキシブル画像表示装置とは、より具体的には、屈曲半径が25mm以上の湾曲形状に固定が可能な部材、とりわけ、屈曲半径25mm未満、より好ましくは、屈曲半径3mm未満での繰り返しの曲げ作用に耐えることができる部材からなる画像表示装置をいう。
【0103】
上記他の画像表示装置構成部材としては、上述した、偏光フィルム、位相差フィルム等の光学フィルム、液晶材料及びバックライトパネルなどのフレキシブル部材を挙げることができる。
【0104】
<<語句の説明など>>
本発明においては、「フィルム」と称する場合でも「シート」を含むものとし、「シート」と称する場合でも「フィルム」を含むものとする。
また、画像表示パネル、保護パネル等のように「パネル」と表現する場合、板体、シート及びフィルムを包含するものである。
【0105】
本明細書において、「X~Y」(X,Yは任意の数字)と記載した場合、特にことわらない限り「X以上Y以下」の意と共に、「好ましくはXより大きい」或いは「好ましくはYより小さい」の意も包含するものである。
また、「X以上」(Xは任意の数字)と記載した場合、特にことわらない限り「好ましくはXより大きい」の意を包含し、「Y以下」(Yは任意の数字)と記載した場合、特にことわらない限り「好ましくはYより小さい」の意も包含するものである。
【実施例
【0106】
本発明は、以下の実施例により更に説明される。但し、実施例はいかなる方法でも本発明を限定することを意図するものではない。
【0107】
1.原料
(1) ウレタン重合体;質量平均分子量60万、ポリエーテル型OH基末端ウレタンプレポリマー(ヘキサメチレンジイソシアネート19wt%,イソホロンジイソシアネート5wt%,ポリプロピレングリコール76wt%)
(2) ウレタングラフトアクリル系重合体:質量平均分子量:70万(ブチルアクリレートと2-ヒドロキシエチルアクリレートとの共重合体を幹ポリマーとし、分子量8600のウレタンポリマーをグラフト鎖として1.2wt%含有する重合体)、
(3) 2官能ウレタンアクリレート:紫光UV-3700B(三菱ケミカル(株))
(4) アクリル重合体(a);質量平均分子量60万、2-エチルヘキシルアクリレート54wt%,4-ヒドロキシブチルアクリレート7wt%、N-ビニルピロリドン2wt%、ラウリルアクリレート37wt%の構成成分からなるポリマー。
(5) アクリル重合体(b);質量平均分子量68万、n-ヘキシルアクリレート80wt%,4-ヒドロキシブチルアクリレート20wt%の構成成分からなるポリマー。
(6) Esacure TZT(IGM社製、光重合開始剤、2,4,6-トリメチルベンゾフェノン及び4-メチルベンゾフェノンの混合物)
(7) コロネートL;東ソー(株)製、イソシアネート系架橋剤
(8) ナーセルアルミニウム;アセチルアセトン金属錯体、日本化学産業(株)製
(9) 溶剤;酢酸エチル
【0108】
<粘着シートの製造方法>
表1に記載した配合で均一に混合し、固形分が30wt%になるように酢酸エチルを添加して液を調製した。次に、離型処理されたポリエチレンテレフタレートフィルム(三菱ケミカル株式会社製、ダイアホイルMRV(V03)厚さ:100μm)上に、エルコメーター社製 バードフィルムアプリケーターを用いて、前記調製した液を展開し、90℃のオーブンで10分間乾燥させた。
【0109】
実施例1-2及び比較例1-3に関しては、120℃、3分の熱処理によって熱架橋し、その上から離型処理されたポリエチレンテレフタレートフィルム(三菱ケミカル株式会社製、ダイアホイルMRQ厚さ:50μm)をハンドロールでラミネートし、50℃で24h養生することで、離型フィルムに挟まれた粘着シートを得た。
一方、実施例3に関しては、乾燥後、両面を離型PETフィルムでラミネートされた状態で、高圧水銀灯により1.5J/cmのUVを照射し、架橋した。
粘着シートの厚みは、それぞれアプリケーターのギャップを調整することで表1の様にした。
【0110】
<粘着シートの評価試験>
(ゲル分率)
実施例及び比較例で作製した粘着シートから離型フィルムを取り除いたものについて、下記の測定を行った。
1)粘着シートを秤量し(W1)、予め重さを測った200メッシュのSUS(ステンレス製)メッシュ(W0)に包む。
2)上記SUSメッシュを100mLの酢酸エチルに24時間浸漬する。
3)SUSメッシュを取り出し、75℃で4時間半乾燥する。
4)乾燥後の質量(W2)を求め、下記式より粘着シートのゲル分率を測定する。
ゲル分率(%)=100×(W2-W0)/W1
【0111】
(表面HSP、HSP距離(Ra))
粘着シートの表面のHSPは以下のように測定した。
実施例及び比較例で作製した粘着シートから離型PETフィルムを片面剥がして粘着シートを露出させ、そこにHSP既知の11種の溶媒2.0μLの液滴を滴下し、30秒後の接触角を記録し、接触角の値から、Young-Dupreの式及び、畑・北崎、拡張ホークスの式からγsLを算出し、ハンセン溶解度パラメーターと表面張力の関係(式1)(Hansen Solubility Parameters 50th anniversary conference,preprint2017PP.14-21(2017))から、Rと(γsL/(VL 1/3))1/2が相関するように決定した。
(式1)δ 2 2+0.068δ 2=13.9γsL(1/(VL 1/3))
【0112】
また、部材シートの表面に関しても、同様の手順でHSPを決定した。結果を表1に示す。
さらに上記で測定された粘着シートの表面HSP及び部材シートの表面HSPの値から、HSP距離(Ra)を算出した。
【0113】
(動的粘弾性)
実施例及び比較例で作製した粘着シートから両面の離型フィルムを剥がし、該粘着シートを複数枚重ねることで、厚みが約0.8mmのシートを作製した。さらに、これを直径8mmの円形に打ち抜いたものを、レオメータ(ティー・エイ・インスツルメント・ジャパン株式会社製、DHR-2)を用いて、粘着治具:Φ8mmパラレルプレート、歪み:0.1%、周波数:1Hz、温度:-70~100℃、昇温速度:3℃/minの条件で測定することで、粘着シートの貯蔵弾性率(G’)、損失弾性率(G”)、損失正接(tanδ)を得た。
表1に結果を示す。
【0114】
(粘着力)
部材シートとしてのKOLON社製CPI(50μm)を、両面テープでSUS板に貼り付け、実施例及び比較例で作製した粘着シートから離型PETフィルムを片面剥がして粘着シートを露出させ、裏打ちフィルムとしてポリエチレンテレフタレートフィルム(三菱ケミカル社製「ダイアホイルS-100」、厚さ50μm)をハンドローラーにてロール圧着した。これを、25mm幅×150mm長の短冊状に裁断し、残る離型フィルムを剥がして露出した粘着面に、部材シートとしてのKOLON社製CPI(50μm)を、ハンドローラーを用いてロール貼着して、部材シート面を両面テープでSUS板に貼り付け、SUS板/両面テープ/部材シート(CPI)/粘着シート/裏打ちフィルム(PET)からなる積層体を作成した。そして、この積層体にオートクレーブ処理(60℃、ゲージ圧0.2MPa、20分)を施して仕上げ貼着し、粘着シート/部材シート間の粘着力測定サンプルを作製した。
【0115】
裏打ちフィルムを180°をなす角度に60℃において剥離速度300mm/分にて引っ張りながら、部材シートから裏打ちフィルムを剥離し、ロードセルで引張強度を測定して、粘着シートの部材シートに対する、0.3m/min粘着力として、180°剥離強度(N/25mm)を測定した。表1に結果を示す。
【0116】
<積層体の作製>
実施例及び比較例で作製した粘着シートの一方の離型フィルムを剥がし、KOLON社製CPI(50μm)をロール貼合し、残る離型フィルムを剥がして、もう一枚のKOLON社製CPI(50μm)を貼合して積層体を得た。そして、この積層体にオートクレーブ処理(60℃、ゲージ圧0.2MPa、20分)を施して仕上げ貼着し、評価サンプルとしての積層体とした。
【0117】
(屈曲保管性)
このようにして得られた積層体を、40mm×100mmに裁断して屈曲保管性の評価用サンプルとした。評価サンプルを曲率半径R:3mmにてU字形状に折り畳んで固定し、85℃85%RHの環境下で24時間保管した。
試験後の評価用サンプルを目視観察し、部材シートと粘着シートとの界面で剥離や発泡がみられたものを「×(no good)」、上記欠陥が見られなかったものを「〇(good)」と判定した。特に欠陥が見られず、積層体の復元角度が150°以上に復元する、復元性の良好なものを「◎(very good)」とした。表1に結果を示す。
【0118】
(ヘイズ;HAZE)
部材シートを両面に貼合して作製した積層体を評価用サンプルとした。ヘーズメータ(日本電色工業社製「NDH5000」)を用いて、JIS K7136に準拠して、ヘイズ値を測定した。結果を表1に示す。
【0119】
表1に、粘着シート配合、粘着シートのゲル分率、粘着シートの動的粘弾性、粘着シートの表面HSP、粘着シートと部材シートとのHSP距離、粘着力、屈曲保管性試験の結果を示した。
【0120】
【表1】
【0121】
実施例1~3より、δp、δhが大きくなるように粘着シートの配合を調整することで、高極性の部材シートとのHSP距離が近くなり、それに伴い粘着力も向上していることが分かる。
一般的に薄い粘着シートでは、屈曲保管で欠陥が出やすい傾向があるが、実施例2では、薄い粘着シートでも積層体のデラミや発泡を抑制できているが示されている。
ウレタンがグラフトされたアクリル系重合体を用いた、実施例3の粘着シートは、特に耐屈曲性に優れていた
一方、アクリル系重合体からなる比較例1~3はδp、δhが小さく、高極性の部材シートとの粘着力が劣っており、屈曲保管性試験においても剥離が生じた。