(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-30
(45)【発行日】2022-09-07
(54)【発明の名称】精製されたトランス-1,2-ジフルオロエチレン(HFO-1132(E))及び/又は1,1,2-トリフルオロエチレン(HFO-1123)の製造方法
(51)【国際特許分類】
C07C 17/383 20060101AFI20220831BHJP
C07C 21/18 20060101ALI20220831BHJP
【FI】
C07C17/383
C07C21/18
(21)【出願番号】P 2020106757
(22)【出願日】2020-06-22
【審査請求日】2021-06-02
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000002853
【氏名又は名称】ダイキン工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】野口 敦史
(72)【発明者】
【氏名】高桑 達哉
(72)【発明者】
【氏名】田渕 昭一
【審査官】牧野 晃久
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2015/141678(WO,A1)
【文献】特開平07-291878(JP,A)
【文献】特表2001-513520(JP,A)
【文献】特開2016-130236(JP,A)
【文献】前尚樹,フロン破壊・再生技術の海外展開,OECC会報第83号,第83号,2018年,PP.15-17
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C
C09K 5/04
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジフルオロメタン(HFC-32)と、トランス-1,2-ジフルオロエチレン(HFO-1132(E))及び/又は1,1,2-トリフルオロエチレン(HFO-1123)とを含む組成物1を蒸留して、前記組成物1からHFC-32が低減された組成物2を得る蒸留工程、及び
前記組成物2を抽出溶媒と接触させ、HFO-1132(E)及び/又はHFO-1123を含み、前記組成物2からHFC-32が低減された組成物を得る抽出蒸留工程を含み、
前記組成物2が、HFC-32と、HFO-1132(E)及び/又はHFO-1123とを含む共沸組成物又は共沸様組成物である、
精製されたHFO-1132(E)及び/又はHFO-1123の製造方法。
【請求項2】
前記蒸留工程を0.05~5MPaG(ゲージ圧)の圧力下で行う、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記抽出蒸留工程で得られた組成物を精留して、HFO-1132(E)を主成分として含む組成物と、HFO-1123を主成分として含む組成物とに分離する精留工程を含む、請求項
1又は2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記抽出蒸留工程で使用した抽出溶媒を回収し、回収した抽出溶媒を前記抽出蒸留工程に再循環させる抽出溶媒回収工程を含む、請求項1~
3のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項5】
前記抽出蒸留工程を0.05~5MPaG(ゲージ圧)の圧力下で行う、請求項1~
4のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項6】
前記抽出溶媒が、飽和炭化水素化合物、ハロゲン化炭化水素化合物、ニトリル化合物、エーテル化合物、ケトン化合物、アルコール化合物及びエステル化合物からなる群より選択される少なくとも1種の化合物である、請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項7】
前記抽出溶媒が、30~135℃の標準沸点を有する、請求項1~
6のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項8】
前記抽出溶媒が、シクロヘキサン、四塩化炭素、アセトニトリル、ジ-n-プロピルエーテル、アセトン、メタノール及び酢酸エチルからなる群より選択される少なくとも1種の化合物である、請求項1又は2に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、精製されたトランス-1,2-ジフルオロエチレン(HFO-1132(E))及び/又は1,1,2-トリフルオロエチレン(HFO-1123)の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
HFO-1132(E)は、地球温暖化係数(GWP)が小さいため、温室効果ガスであるジフルオロメタン(HFC-32)、1,1,1,2,2-ペンタフルオロエタン(HFC-125)を代替する冷媒として注目されている。
【0003】
特許文献1には、下式(1):
CH2FX (1)
(式(1)中、Xはハロゲン原子である。)
で表される化合物から熱分解を伴う合成反応により1,2-ジフルオロエチレンを製造することを特徴とする1,2-ジフルオロエチレンの製造方法が開示されている。
【0004】
特許文献2には、1,1,1,2-テトラフルオロエタン(HFC-134a)の脱フッ化水素により1,1,2-トリフルオロエチレン(HFO-1123)を製造することを特徴とするHFO-1123の製造方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2013-241348号公報
【文献】国際公開2009/010472号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本開示は、HFO-1132(E)及び/又はHFO-1123を効率よく精製する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示は、例えば、以下の項に記載の発明を包含する。
項1.
ジフルオロメタン(HFC-32)と、トランス-1,2-ジフルオロエチレン(HFO-1132(E))及び/又は1,1,2-トリフルオロエチレン(HFO-1123)とを含む組成物1を蒸留して、前記組成物1からHFC-32が低減された組成物2を得る蒸留工程、及び
前記組成物2を抽出溶媒と接触させ、HFO-1132(E)及び/又はHFO-1123を含み、前記組成物2からHFC-32が低減された組成物を得る抽出蒸留工程を含み、
前記組成物2が、HFC-32と、HFO-1132(E)及び/又はHFO-1123とを含む共沸組成物又は共沸様組成物である、
精製されたHFO-1132(E)及び/又はHFO-1123の製造方法。
項2.
前記蒸留工程を0.05~5MPaG(ゲージ圧)の圧力下で行う、項1に記載の製造方法。
項3.
ジフルオロメタン(HFC-32)と、トランス-1,2-ジフルオロエチレン(HFO-1132(E))及び/又は1,1,2-トリフルオロエチレン(HFO-1123)とを含む共沸組成物又は共沸様組成物を抽出溶媒と接触させ、前記共沸組成物又は前記共沸様組成物からHFC-32が低減された組成物を得る抽出蒸留工程を含む、
精製されたHFO-1132(E)及び/又はHFO-1123の製造方法。
項4.
前記抽出蒸留工程で得られた組成物を精留して、HFO-1132(E)を主成分として含む組成物と、HFO-1123を主成分として含む組成物とに分離する精留工程を含む、項1~3のいずれか一項に記載の製造方法。
項5.
前記抽出蒸留工程で使用した抽出溶媒を回収し、回収した抽出溶媒を前記抽出蒸留工程に再循環させる抽出溶媒回収工程を含む、項1~4のいずれか一項に記載の製造方法。
項6.
前記抽出蒸留工程を0.05~5MPaG(ゲージ圧)の圧力下で行う、項1~5のいずれか一項に記載の製造方法。
項7.
前記抽出溶媒が、飽和炭化水素化合物、ハロゲン化炭化水素化合物、ニトリル化合物、エーテル化合物、ケトン化合物、アルコール化合物及びエステル化合物からなる群より選択される少なくとも1種の化合物である、項1~6のいずれか一項に記載の製造方法。
項8.
前記抽出溶媒が、30~135℃の標準沸点を有する、項1~7のいずれか一項に記載の製造方法。
項9.
前記抽出溶媒が、シクロヘキサン、四塩化炭素、アセトニトリル、ジ-n-プロピルエーテル、アセトン、メタノール及び酢酸エチルからなる群より選択される少なくとも1種の化合物である、項1~8のいずれか一項に記載の製造方法。
項10.
冷媒を含有する共沸又は共沸様組成物であって、
前記冷媒が、トランス-1,2-ジフルオロエチレン(HFO-1132(E))、1,1,2-トリフルオロエチレン(HFO-1123)及びジフルオロメタン(HFC-32)を含有し、該三成分の総濃度が、前記冷媒全体に対して99.5質量%以上であり、且つ
該三成分の質量比が、該三成分を各頂点とする三角組成図において、
点A(HFO-1132(E)/HFO-1123/HFC-32=
39.6質量%/1.5質量%/58.9質量%)、
点B(HFO-1132(E)/HFO-1123/HFC-32=
64.5質量%/1.4質量%/34.1質量%)、
点C(HFO-1132(E)/HFO-1123/HFC-32=
0.9質量%/70.2質量%/28.9質量%)及び
点D(HFO-1132(E)/HFO-1123/HFC-32=
0.9質量%/80.1質量%/19.0質量%)
の4点を通る図形で囲まれた領域の範囲内にある、共沸又は共沸様組成物。
【発明の効果】
【0008】
本開示によれば、HFO-1132(E)及び/又はHFO-1123を効率よく精製することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図2】実施例1の抽出蒸留工程において、シクロヘキサンを抽出溶媒として用いた場合のHFO-1123/HFC-32気液平衡図である。横軸はHFO-1123の液相モル分率を、縦軸はHFO-1123の気相モル分率を意味する。
【
図3】実施例1の抽出蒸留工程において、シクロヘキサンを抽出溶媒として用いた場合のHFO-1132(E)/HFC-32気液平衡図である。横軸はHFO-1132(E)の液相モル分率を、縦軸はHFO-1132(E)の気相モル分率を意味する。
【
図5】実施例2の抽出蒸留工程において、アセトニトリルを抽出溶媒として用いた場合のHFO-1123/HFC-32気液平衡図である。横軸はHFO-1123の液相モル分率を、縦軸はHFO-1123の気相モル分率を意味する。
【
図6】実施例2の抽出蒸留工程において、アセトニトリルを抽出溶媒として用いた場合のHFO-1132(E)/HFC-32気液平衡図である。横軸はHFO-1132(E)の液相モル分率を、縦軸はHFO-1132(E)の気相モル分率を意味する。
【
図8】抽出溶媒を用いない場合のHFO-1123/HFC-32気液平衡図である。横軸はHFO-1123の液相モル分率を、縦軸はHFO-1123の気相モル分率を意味する。
【
図9】抽出溶媒を用いない場合のHFO-1132(E)/HFC-32気液平衡図である。HFO-1132(E)/HFC-32気液平衡図である。横軸はHFO-1132(E)の液相モル分率を、縦軸はHFO-1132(E)の気相モル分率を意味する。
【
図10】HFO-1132(E)、HFO-1123及びHFC-32の三角組成図における、HFO-1132(E)、HFO-1123及びHFC-32の質量比(点A、B、C及びDの4点を頂点とする四角形で囲まれた領域)を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明者らは、鋭意研究を行った結果、HFC-32と、HFO-1132(E)及び/又はHFO-1123を含む組成物を蒸留した後、抽出溶媒と接触させることによって、HFO-1132(E)及び/又はHFO-1123を効率よく精製できることを見出した。
【0011】
本開示は、かかる知見に基づき、更に研究を重ねた結果完成されたものである。
【0012】
本明細書において、「~」を用いて表される数値範囲は、「~」の前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む範囲を意味する。
【0013】
本明細書において、共沸組成物とは、一定圧力下で液相と気相との組成間に差がなく、あたかも一つの物質のように挙動する組成物を意味する。
【0014】
本明細書において、共沸様組成物とは、共沸組成を形成できる組成物において、共沸組成に近似する組成を有する組成物であって、共沸組成物に近い挙動を示す組成を意味する。共沸様組成物は組成の変化をほとんど伴わずに蒸留及び/又は還流され得る。したがって、共沸様組成物は、共沸組成物とほぼ同等に取り扱える。
【0015】
本明細書において、標準沸点とは、標準大気圧1013.25hPaにおける沸点を意味する。
【0016】
本明細書において、ゲージ圧とは、大気圧を基準とした相対圧力のことであり、絶対圧から大気圧を差し引いた圧力差を意味する。
【0017】
本明細書において、冷媒の「純度」とは、ガスクロマトグラフィーでの定量分析による成分比率(モル%)を意味する。
【0018】
本明細書において、主成分とは、好ましくは85モル%~99.9モル%、より好ましくは90モル%~99.9モル%、更に好ましくは95モル%~99.9モル%、特に好ましくは99モル%~99.9モル%含まれている成分を意味する。
【0019】
本明細書において、抽出蒸留とは、標準沸点が極めて近く、通常の蒸留による分離が困難な2成分又は3成分からなり比揮発度(相対揮発度)が1に近い混合物又は共沸組成をもつ組み合わせの混合物に、抽出溶媒を加えて抽出用混合物とし、元の2成分又は3成分の相対揮発度を1から隔たらせることにより、分離を容易にする蒸留操作を意味する。なお、相対揮発度が1の場合は、蒸留による分離は不可能になる。
【0020】
本開示は、以下の実施形態を含む。
【0021】
(製造方法1)
本開示の製造方法1は、精製されたHFO-1132(E)及び/又はHFO-1123の製造方法であって、
HFC-32と、HFO-1132(E)及び/又はHFO-1123とを含む組成物1を蒸留して、組成物1からHFC-32が低減された組成物2を得る蒸留工程と、
蒸留工程で得られた組成物2を抽出溶媒と接触させ、HFO-1132(E)及び/又はHFO-1123を含み、組成物2からHFC-32が低減された組成物を得る抽出蒸留工程と、
をこの順に有する。
【0022】
製造方法1において、蒸留工程で得られた組成物2は、HFC-32と、HFO-1132(E)及び/又はHFO-1123とを含む共沸組成物又は共沸様組成物である。
【0023】
(製造方法2)
本開示の製造方法2は、精製されたHFO-1132(E)及び/又はHFO-1123の製造方法であって、
HFC-32と、HFO-1132(E)及び/又はHFO-1123とを含む共沸組成物又は共沸様組成物を抽出溶媒と接触させ、当該共沸組成物又は当該共沸様組成物からHFC-32が低減された組成物を得る抽出蒸留工程を有する。
【0024】
(蒸留工程)
製造方法1の蒸留工程は、HFC-32と、HFO-1132(E)及び/又はHFO-1123とを含む組成物1(以下、「蒸留用組成物」と表記することがある。)を蒸留して、組成物1中のHFC-32が低減された組成物2を得る工程である。言い換えれば、上記蒸留工程は、蒸留用組成物を蒸留して、蒸留用組成物中のHFC-32の含有割合を減少させる工程である。
【0025】
蒸留工程における「低減」とは、蒸留用組成物中の化合物の含有割合を減少させることを意味する。例えば、蒸留用組成物中のHFC-32を低減させることにより、製造方法1の抽出蒸留工程において抽出蒸留する絶対量を減らし、エネルギーコストを削減することが可能となる。
【0026】
蒸留工程では、エネルギーコスト削減の観点から、組成物1中のHFC-32の含有割合を、好ましくは80質量%以上、より好ましくは85質量%以上、更に好ましくは90質量%以上、特に好ましくは95質量%以上減少させる。
【0027】
HFC-32(標準沸点:-51.7℃)とHFO-1123(標準沸点:-60℃)とは共沸又は共沸様を示し、HFO-1123とHFC-32との共沸組成物又は共沸様組成物は、HFO-1123及びHFC-32のいずれの沸点よりも低い温度(-61.4℃)の沸点を有する。製造方法1の蒸留工程では、この性質を利用して、蒸留塔においてHFC-32と、HFO-1123及びHFC-32の共沸組成物又は共沸様組成物とを蒸留によって分離する。
【0028】
また、HFC-32とHFO-1132(E)(標準沸点:-53℃)とは共沸又は共沸様を示し、HFC-32とHFO-1132(E)との共沸組成物又は共沸様組成物は、HFC-32及びHFO-1132(E)のいずれの沸点よりも低い温度(-54.8℃)の沸点を有する。製造方法1の蒸留工程では、この性質を利用して、蒸留塔においてHFC-32と、HFO-1123及びHFC-32の共沸組成物又は共沸様組成物とを蒸留によって分離する。
【0029】
組成物1は、HFC-32とHFO-1132(E)とHFO-1123とを含むことが好ましい。この場合、HFC-32とHFO-1132(E)とHFO-1123とは共沸し、HFC-32とHFO-1132(E)とHFO-1123との共沸組成物又は共沸様組成物は、HFO-1123とHFC-32との共沸組成物又は共沸様組成物の沸点温度からHFO-1123とHFC-32との共沸組成物又は共沸様組成物までの沸点温度で沸騰する。製造方法1の蒸留工程では、この性質を利用して、蒸留塔においてHFC-32と、HFO-1132(E)、HFO-1123及びHFC-32の共沸組成物又は共沸様組成物とを蒸留によって分離する。
【0030】
製造方法1の蒸留工程における蒸留とは、共沸蒸留であることが好ましい。
【0031】
組成物1は、HFC-32とHFO-1132(E)及び/又はHFO-1123をこれらの濃度の総和で、好ましくは99.5質量%以上、より好ましくは99.7質量%以上、より一層好ましくは99.8質量%以上、更に好ましくは99.9質量%以上含有する。
【0032】
組成物1は、HFC-32、HFO-1132(E)及びHFO-1123を含有することが好ましい。この場合、組成物1は、HFO-1123、HFO-1132(E)及びHFC-32をこれらの濃度の総和で、好ましくは99.5質量%以上、より好ましくは99.7質量%以上、より一層好ましくは99.8質量%以上、更に好ましくは99.9質量%以上含有する。
【0033】
組成物1は、HFO-1123、HFO-1132(E)及び/又はHFC-32のみからなることがより好ましい(但し、不可避的不純物の含有は許容される)。
【0034】
組成物1はHFO-1132(E)、HFO-1123及びHFC-32のみからなることが特に好ましい(但し、不可避的不純物の含有は許容される)。
【0035】
蒸留工程で使用する蒸留塔の理論段数は、好ましくは10段以上、より好ましくは20段以上である。蒸留工程で使用する蒸留塔の理論段数は、経済的な観点から、好ましくは60段以下、より好ましくは50段以下である。
【0036】
蒸留工程において、蒸留用組成物を蒸留塔の中段に供給することが好ましい。
【0037】
蒸留工程において、蒸留を行う圧力は0.05~5MPaG(ゲージ圧)が好ましい。蒸留を行う圧力の下限値は、好ましくは0.05MPaG、より好ましくは0.1MPaG、更に好ましくは0.25MPaG、特に好ましくは0.5MPaGである。蒸留を行う圧力の上限値は、好ましくは5MPaG、より好ましくは4MPaG、更に好ましくは3MPaG、特に好ましくは2MPaGである。
【0038】
蒸留工程におけるHFC-32の供給量については、通常、蒸留塔に供給されるHFO-1123 1molに対して、1~500molとすることが適当であり、5~400molとすることが好ましく、10~300molとすることがより好ましい。
【0039】
蒸留用組成物としては、原料としてHFC-32を使用し、HFO-1132(E)を製造する際に得られる組成物が挙げられる。具体的には、蒸留用組成物としては、HFC-32を熱分解反応に供することにより得られるHFO-1132(E)を含む反応ガス中の、反応生成物であるHFO-1123、HFO-1132(E)及び未反応のHFC-32を含む組成物が挙げられる。
【0040】
蒸留塔の還流比は特に限定されないが、好ましくは1~300であり、より好ましくは10~200である。
【0041】
蒸留工程は、不連続操作または連続操作で行うことができ、工業的には連続操作での実施が好ましい。
【0042】
蒸留工程で得られる組成物2は、蒸留用組成物を蒸留することにより、蒸留塔の塔頂からの留出液として得られる。組成物2は、抽出蒸留用組成物として以下の抽出蒸留工程に供給される。
【0043】
組成物1中のHFC-32の含有量に対する組成物2中のHFC-32の含有量は、好ましくは5質量%以下、より好ましくは3質量%以下であり、下限値は、好ましくは0.5質量%以上、より好ましくは1質量%以上である。
【0044】
組成物2は、好ましくはHFC-32とHFO-1132(E)とHFO-1123とを含む共沸組成物又は共沸様組成物である。
【0045】
(抽出蒸留工程)
製造方法1の抽出蒸留工程は、組成物2を抽出溶媒と接触させ、HFO-1132(E)及び/又はHFO-1123を含み、組成物2よりHFC-32が低減された組成物を得る工程である。言い換えれば、製造方法1の抽出蒸留工程は、抽出溶媒の存在下、蒸留工程で得られた組成物2を抽出蒸留して、HFO-1132(E)及び/又はHFO-1123を含み、組成物2よりHFC-32が低減された組成物を得る工程である。
【0046】
製造方法1の抽出蒸留工程は、組成物2を抽出溶媒と接触させ、HFO-1132(E)及び/又はHFO-1123を含み、実質的にHFC-32を含まない組成物を得る工程であることが好ましい。製造方法1の抽出蒸留工程は、組成物2を抽出溶媒と接触させ、HFO-1132(E)及びHFO-1123を含み、且つ、実質的にHFC-32を含まない組成物を得る工程であることがより好ましい。
【0047】
製造方法2の抽出蒸留工程は、HFC-32と、HFO-1132(E)及び/又はHFO-1123とを含む共沸組成物又は共沸様組成物を抽出溶媒と接触させ、当該共沸組成物又は当該共沸様組成物からHFC-32が低減された組成物を得る工程である。言い換えれば、製造方法2の抽出蒸留工程は、抽出溶媒の存在下、HFC-32と、HFO-1132(E)及び/又はHFO-1123とを含む共沸組成物又は共沸様組成物を抽出蒸留して、当該共沸組成物又は当該共沸様組成物からからHFC-32が低減された組成物を得る工程である。
【0048】
製造方法2における上記共沸組成物又は共沸様組成物は、HFC-32とHFO-1132(E)及び/又はHFO-1123をこれらの濃度の総和で、好ましくは99.5質量%以上、より好ましくは99.7質量%以上、より一層好ましくは99.8質量%以上、更に好ましくは99.9質量%以上含有する。
【0049】
製造方法2における上記共沸組成物又は共沸様組成物は、HFC-32、HFO-1132(E)及びHFO-1123を含有することが好ましい。この場合、製造方法2における上記共沸組成物又は共沸様組成物は、HFO-1123、HFO-1132(E)及びHFC-32をこれらの濃度の総和で、好ましくは99.5質量%以上、より好ましくは99.7質量%以上、より一層好ましくは99.8質量%以上、更に好ましくは99.9質量%以上含有する。
【0050】
製造方法2における上記共沸組成物又は共沸様組成物は、HFO-1123、HFO-1132(E)及び/又はHFC-32のみからなることがより好ましい(但し、不可避的不純物の含有は許容される)。
【0051】
製造方法2の抽出蒸留工程は、HFC-32と、HFO-1132(E)及び/又はHFO-1123とを含む共沸組成物又は共沸様組成物を抽出溶媒と接触させ、HFO-1132(E)及び/又はHFO-1123を含み、実質的にHFC-32を含まない組成物を得る工程であることが好ましい。製造方法2の抽出蒸留工程は、HFC-32と、HFO-1132(E)及び/又はHFO-1123とを含む共沸組成物又は共沸様組成物を抽出溶媒と接触させ、HFO-1132(E)及びHFO-1123を含み、且つ、実質的にHFC-32を含まない組成物を得る工程であることがより好ましい。
【0052】
本開示の製造方法1及び2における抽出蒸留工程は共通している。本明細書において、本開示の製造方法1及び2における抽出蒸留工程を「本開示の抽出蒸留工程」と表記することがある。
【0053】
本明細書において、実質的にHFC-32を含まないとは、製造方法1及び2の抽出蒸留工程で得られた組成物中のHFC-32の含有量が、好ましくは1質量%未満、より好ましくは0.5質量%未満、特に好ましくは0.1%未満であることを意味する。
【0054】
本開示の抽出蒸留工程において、抽出溶媒は、飽和炭化水素化合物、ハロゲン化炭化水素化合物、ニトリル化合物、エーテル化合物、ケトン化合物、アルコール化合物及びエステル化合物からなる群より選択される少なくとも1種の化合物であることが好ましい。
【0055】
飽和炭化水素化合物としては、n-ペンタン、n-ヘキサン、n-ヘプタン、n-オクタン、シクロペンタン、シクロヘキサン、シクロヘプタン、ベンゼン、トルエン等が挙げられる。これらの中でも、シクロヘキサンが好ましい。
【0056】
ハロゲン化炭化水素化合物としては、ジクロロメタン、トリクロロメタン、テトラクロロメタン(四塩化炭素)、1,1-ジクロロエタン、1,2-ジクロロエタン、1,1,1-トリクロロエタン、1,1,2-トリクロロエタン等が挙げられる。これらの中でも、四塩化炭素が好ましい。
【0057】
ニトリル化合物としては、アセトニトリル、プロパンニトリル、イソブチロニトリル等が挙げられる。これらの中でも、アセトニトリルが好ましい。
【0058】
エーテル化合物としては、ジ-n-プロピルエーテル、ジイソプロピルエーテル、2-メトキシ-2-メチルプロパン、2-エトキシ-2-メチルプロパン等が挙げられる。これらの中でも、ジ-n-プロピルエーテルが好ましい。
【0059】
ケトン化合物としては、アセトン、ジエチルケトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロペンタノン等が挙げられる。これらの中でも、アセトンが好ましい。
【0060】
アルコール化合物としては、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、1-ブタノール(n-ブチルアルコール)、2-メチル-1-プロパノール(i-ブチルアルコール)、2-ブタノール(sec-ブチルアルコール)、2-メチル-2-プロパノール(t-ブチルアルコール)等が挙げられる。これらの中でも、メタノールが好ましい。
【0061】
エステル化合物としては、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸イソプロピル、酢酸ブチル等が挙げられる。これらの中でも、酢酸エチルが好ましい。
【0062】
これらの抽出溶媒は、それぞれ単独で、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0063】
本開示の抽出蒸留工程において、抽出溶媒は、シクロヘキサン、四塩化炭素、アセトニトリル、ジ-n-プロピルエーテル、アセトン、メタノール及び酢酸エチルからなる群より選択される少なくとも1種であることがより好ましく、シクロヘキサン及びアセトニトリルが特に好ましい。
【0064】
本開示の抽出蒸留工程における標準沸点の温度範囲に関しては、抽出溶媒と抽出蒸留工程における分離対象となる化合物が、単蒸留、ストリッピング等で分離できる程度の温度差、通常20℃以上の温度差があればよいが、標準沸点が高すぎると抽出溶媒自体が分解されるおそれがある。それ故、抽出溶媒の標準沸点は、抽出蒸留を効率良く行う観点から、好ましくは30~135℃、より好ましくは35~120℃、更に好ましくは40~100℃、特に好ましくは50~90℃である。
【0065】
製造方法1及び2における抽出溶媒の使用量は、抽出蒸留塔に供給される組成物に対して1倍当量以上20倍当量以下であることが好ましい。
【0066】
製造方法1及び2において、抽出蒸留の対象となる組成物中のHFC-32の濃度(純度)は、好ましくは50モル%以下、より好ましくは25モル%以下である。
【0067】
本開示の抽出蒸留工程で使用する抽出蒸留塔の理論段数は、好ましくは10段以上、より好ましくは20段以上である。抽出蒸留工程で使用する抽出蒸留塔の理論段数は、経済的な観点から、好ましくは60段以下、より好ましくは50段以下である。
【0068】
本開示の抽出蒸留工程において、抽出蒸留塔の上段に抽出溶媒を供給することが好ましい。本開示の抽出蒸留工程で使用する抽出溶媒は、本開示の抽出溶媒回収工程で回収し、再循環させた抽出溶媒であることが好ましい。抽出蒸留塔の還流比は特に限定されないが、好ましくは1~20であり、より好ましくは3~10である。
【0069】
本開示の抽出蒸留工程において、抽出蒸留を行う圧力は0.05~5MPaG(ゲージ圧)が好ましい。圧力の下限値は、好ましくは0.05MPaG、より好ましくは0.1MPaG、更に好ましくは0.25MPaG、特に好ましくは0.5MPaGである。圧力の上限値は、好ましくは5MPaG、より好ましくは4MPaG、更に好ましくは3MPaG、特に好ましくは2MPaGである。
【0070】
本開示の抽出蒸留工程は、不連続操作または連続操作で行うことができ、工業的には連続操作での実施が好ましい。更に、抽出蒸留を繰り返すことにより、留出成分を高純度化することができる。
【0071】
製造方法1及び2において、HFC-32とHFO-1123との共沸組成物又は共沸様組成物から、HFC-32を留出させる場合、抽出溶媒を加えた際のHFO-1123に対するHFC-32の相対揮発度が1以上、好ましくは1.2以上になるような抽出溶媒を用いるとよい。これにより、HFC-32の気相モル分率が増加することで気相にHFC-32が増加し、抽出蒸留塔の塔頂からHFC-32を分離可能となり、抽出蒸留塔の塔底からは抽出溶媒とHFO-1123とが得られる。
【0072】
製造方法1及び2において、HFC-32とHFO-1132(E)との共沸組成物又は共沸様組成物から、HFC-32を留出させる場合、抽出溶媒を加えた際のHFO-1132(E)に対するHFC-32の相対揮発度が1以上、好ましくは1,2以上になるような抽出溶媒を用いるとよい。これにより、HFC-32の気相モル分率が増加することで気相にHFC-32が増加し、抽出蒸留塔の塔頂からHFC-32を分離可能となり、抽出蒸留塔の塔底からは抽出溶媒とHFO-1132(E)とが得られる。
【0073】
本開示の抽出蒸留工程において、抽出溶媒の使用量は、組成物2に対して1倍当量以上20倍当量以下であることが好ましい。
【0074】
(精留工程)
本開示の製造方法1及び2における精留工程は共通している。本明細書において、本開示の製造方法1及び2における精留工程を「本開示の精留工程」と表記することがある。
【0075】
本開示の製造方法1及び2は、本開示の抽出蒸留工程で得られた組成物を精留して、HFO-1132(E)を主成分として含む組成物と、HFO-1123を主成分として含む組成物とに分離する精留工程を有することが好ましい。
【0076】
本開示の精留工程は、本開示の抽出蒸留工程で得られた組成物を精留塔で精留することにより、該組成物から、HFO-1132(E)を主成分として含む組成物と、HFO-1123を主成分として含む組成物とを分離し、精製されたHFO-1132(E)と精製されたHFO-1123とを得る工程である。
【0077】
上記HFO-1132(E)を主成分として含む組成物には、HFO-1132(E)及びHFO-1123が含まれている。当該組成物において、HFO-1132(E)とHFO-1123との合計量に対するHFO-1132(E)の割合(モル%)は、好ましくは85モル%~99.9モル%、より好ましくは90モル%~99.9モル%、更に好ましくは95モル%~99.9モル%、特に好ましくは99モル%~99.9モル%である。
【0078】
上記HFO-1123を主成分として含む組成物には、HFO-1123及びHFO-1132(E)が含まれている。当該組成物において、HFO-1123とHFO-1132(E)との合計量に対するHFO-1123の割合(モル%)は、好ましくは85モル%~99.9モル%、より好ましくは90モル%~99.9モル%、更に好ましくは95モル%~99.9モル%、特に好ましくは99モル%~99.9モル%である。
【0079】
本開示の精留工程で使用する精留塔の理論段数は、好ましくは10段以上、より好ましくは20段以上である。本開示の精留工程で使用する精留塔の理論段数は、経済的な観点から、好ましくは60段以下、より好ましくは50段以下である。
【0080】
本開示の精留工程において、本開示の抽出蒸留工程で得られた組成物は精留塔の中段に供給することが好ましい。
【0081】
本開示の精留工程において、精留を行う圧力は0.05~5MPaG(ゲージ圧)が好ましい。該圧力の下限値は、好ましくは0.05MPaG、より好ましくは0.1MPaG、更に好ましくは0.25MPaG、特に好ましくは0.5MPaGである。該圧力の上限値は、好ましくは5MPaG、より好ましくは4MPaG、更に好ましくは3MPaG、特に好ましくは2MPaGである。
【0082】
本開示の精留塔の還流比は特に限定されないが、好ましくは5~30であり、より好ましくは10~20である。
【0083】
本開示の精留工程は、不連続操作または連続操作で行うことができ、工業的には連続操作での実施が好ましい。
【0084】
本開示の製造方法1及び2は、蒸留工程と、抽出蒸留工程と、精留工程とをこの順に有することが好ましい。
【0085】
(抽出溶媒回収工程)
本開示の製造方法1及び2における抽出溶媒回収工程は共通している。本明細書において、本開示の製造方法1及び2における抽出溶媒回収工程を「本開示の抽出溶媒回収工程」と表記することがある。
【0086】
本開示の製造方法1及び2は、本開示の抽出蒸留工程で使用した抽出溶媒を回収し、回収した抽出溶媒を抽出蒸留工程に再循環させる抽出溶媒回収工程を有することが好ましい。
【0087】
本開示の抽出溶媒回収工程で使用する抽出溶媒回収塔の理論段数は、好ましくは5段以上、より好ましくは10段以上である。抽出溶媒回収工程で使用する抽出溶媒回収塔の理論段数は、経済的な観点から、好ましくは30段以下、より好ましくは20段以下である。
【0088】
本開示の抽出溶媒回収工程において、蒸留を行う圧力は0.05~5MPaG(ゲージ圧)が好ましい。
【0089】
本開示の抽出溶媒回収塔の還流比は特に限定されないが、好ましくは1~10であり、より好ましくは1~3である。
【0090】
本開示の抽出溶媒回収工程は、不連続操作または連続操作で行うことができ、工業的には連続操作での実施が好ましい。
【0091】
本開示の製造方法1及び製造方法2は、蒸留工程、抽出蒸留工程、精留工程及び抽出溶媒回収工程を含むことが好ましく、蒸留工程、抽出蒸留工程、精留工程及び抽出溶媒回収工程からなることがより好ましい。
【0092】
(共沸又は共沸様組成物)
本開示の共沸又は共沸様組成物は、冷媒1を含有する。
【0093】
冷媒1は、HFO-1132(E)、HFO-1123及びHFC-32を必須成分として含有する。以下、本項目において、HFO-1132(E)、HFO-1123及びHFC-32を「三成分」とも称する。
【0094】
冷媒1全体における、三成分の総濃度は99.5質量%以上である。換言すると、冷媒1は、三成分をこれらの濃度の総和で99.5質量%以上含有する。
【0095】
冷媒1において、三成分の質量比は、該三成分を各頂点とする三角組成図において、
点A(HFO-1132(E)/HFO-1123/HFC-32=
39.6質量%/1.5質量%/58.9質量%)、
点B(HFO-1132(E)/HFO-1123/HFC-32=
64.5質量%/1.4質量%/34.1質量%)、
点C(HFO-1132(E)/HFO-1123/HFC-32=
0.9質量%/70.2質量%/28.9質量%)及び
点D(HFO-1132(E)/HFO-1123/HFC-32=
0.9質量%/80.1質量%/19.0質量%)
の4点を頂点とする四角形で囲まれた領域の範囲内にある。
【0096】
本項目において、三成分を各頂点とする三角組成図とは、
図10に示すように、上記三成分(HFO-1132(E)、HFO-1123及びHFC-32)を頂点とし、HFO-1132(E)、HFO-1123及びHFC-32の濃度の総和を100質量%とする三成分組成図を意味する。
【0097】
本開示において、三成分の総濃度が、冷媒1全体に対して99.7質量%以上であれば好ましく、99.8質量%以上であればより好ましく、99.9質量%以上であれば更に好ましい。
【0098】
本開示において、冷媒1は、HFO-1132(E)、HFO-1123及びHFC-32のみからなることが特に好ましい(但し、不可避的不純物の含有は許容される)。
【0099】
本開示の共沸又は共沸様組成物は、製造方法1の蒸留工程で得られる組成物2と同一である。
【0100】
本開示の共沸又は共沸様組成物は、本開示の製造方法1のための原料として使用することができる。
【0101】
本開示の共沸又は共沸様組成物は、本開示の製造方法1の精製されたHFO-1132(E)及び/又はHFO-1123を製造するために用いられる。
【0102】
本開示の共沸又は共沸様組成物は、本開示の製造方法1の中間体である。
【実施例】
【0103】
以下に実施例を記載し、本開示を具体的に説明する。但し、本開示はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0104】
実施例において、HFO-1132(E)等の各成分の純度は下記の測定装置及び測定条件により測定した。
【0105】
測定装置:ガスクロマトグラフィー(FID検出器を使用)
各成分の純度(表1~3のモル%に相当)の計算方法:
・HFO-1132(E)の純度=HFO-1132(E)のモル数/(HFO-1132(E)のモル数+HFO-1123のモル数+HFC-32のモル数)
・HFO-1123の純度=HFO-1123のモル数/(HFO-1132(E)のモル数+HFO-1123のモル数+HFC-32のモル数)
・HFC-32の純度=HFC-32のモル数/(HFO-1132(E)のモル数+HFO-1123のモル数+HFC-32のモル数)
【0106】
(実施例1)
図1に示すフロー図に従って、HFO-1123とHFO-1132(E)とHFC-32とを含む組成物を原料として、蒸留工程と抽出蒸留工程と抽出溶媒回収工程と精留工程とからなるプロセスを用いて、精製されたHFO-1132(E)及びHFO-1123を製造した。以下の表1に実施例1の物質収支を示す。
【0107】
(蒸留工程)
蒸留用組成物としてHFC-32とHFO-1132(E)とHFO-1123とを含む組成物を準備した。該組成物を、40段の理論段数を持つ蒸留塔の塔頂から20段目より、2030mol/hrの流量で蒸留塔に供給した。なお、蒸留塔の塔内圧力は0.5MPaGであり、その塔頂部にはコンデンサーが設置されており、塔底部にはリボイラーが設置されている。
【0108】
蒸留塔の塔頂部から純度50.0モル%のHFC-32を59.6mol/hrで留出するようにリボイラー負荷とコンデンサー負荷とを調整し、蒸留分離を行った。この時のコンデンサー熱量を算出したところ、40616kcal/hrであり、リボイラー熱量を算出したところ、40617kcal/hrであった。
【0109】
表1に示すように、HFO-1123とHFO-1132(E)とHFC-32とを含む組成物中のHFC-32が大幅に低減された。
【0110】
(抽出蒸留工程)
蒸留塔の塔頂より抜き出した留出液(抽出蒸留用組成物)を、40段の理論段数を持つ抽出蒸留塔の塔頂から20段目より、59.6mol/hrの流量で抽出蒸留塔に供給し、更に抽出溶媒としてシクロヘキサンを、抽出蒸留塔の塔頂から5段目より、600.0mol/hrの流量(抽出蒸留塔に供給された抽出蒸留用組成物の流量の約10倍当量)で抽出蒸留塔に供給した。なお、抽出蒸留塔の塔内圧力は0.5MPaGであり、抽出蒸留塔の塔頂部にはコンデンサーが設置されており、塔底部にはリボイラーが設置されている。
【0111】
抽出蒸留塔の塔頂部から純度99.7モル%のHFC-32を29.9mol/hrで留出するようにリボイラー負荷とコンデンサー負荷とを調整し、蒸留分離を行った。この時のコンデンサー熱量を算出したところ、273kcal/hrであり、リボイラー熱量を算出したところ、1908kcal/hrであった。
【0112】
図2は、上記抽出蒸留用組成物に対して抽出溶媒としてシクロヘキサンを約10倍当量使用した場合のHFO-1123/HFC-32気液平衡図である。
図2に示すように、シクロヘキサンを抽出溶媒として用いて0.5MPaGの圧力下で蒸留操作を行うことにより、HFO-1123とHFC-32とを分離できることが確認された。
【0113】
図3は、上記抽出蒸留用組成物に対して抽出溶媒としてシクロヘキサンを約10倍当量使用した場合のHFO-1132(E)/HFC-32気液平衡図である。
図3に示すように、シクロヘキサンを抽出溶媒として用いて0.5MPaGの圧力下で蒸留操作を行うことにより、HFO-1132(E)とHFC-32とを分離できることが確認された。
【0114】
(抽出溶媒回収工程)
抽出蒸留工程において塔底より抜き出した缶出液を、10段の理論段数を持つ抽出溶媒回収塔(以下、単に「回収塔」と称する)の塔頂から5段目より、629.7mol/hrの流量(HFO-1123の流量:9.9mol/hr、HFO-1132(E)の流量:19.8mol/hr、シクロヘキサンの流量:600.0mol/hr)で回収塔に供給した。なお、回収塔の塔内圧力は0.5MPaGであり、その塔頂部にはコンデンサーが設置されており、塔底部にはリボイラーが設置されている。
【0115】
回収塔の塔頂部から、純度33.4モル%のHFO-1123と純度66.5モル%のHFO-1132(E)とを含む組成物を29.7mol/hrで留出するようにリボイラー負荷とコンデンサー負荷とを調整し、蒸留分離を行った。この時のコンデンサー熱量を算出したところ、273kcal/hrであり、リボイラー熱量を算出したところ、1908kcal/hrであった。
【0116】
なお、回収塔の塔底より抜き出したシクロヘキサンを含む缶出液(シクロヘキサンの流量:600.0mol/hr)は、抽出蒸留工程に再循環して使用した。
【0117】
(精留工程)
回収塔の塔頂より抜き出した留出液を、40段の理論段数を持つ精留塔の塔頂から20段目より、29.7mol/hrの流量で精留塔に供給した。なお、精留塔の塔内圧力は0.5MPaGであり、その塔頂部にはコンデンサーが設置されており、塔底部にはリボイラーが設置されている。
【0118】
精留塔の塔頂部から純度90.6モル%のHFO-1123を10.8mol/hrで留出するようにリボイラー負荷とコンデンサー負荷とを調整し、精留を行った。この時のコンデンサー熱量を算出したところ、938kcal/hrであり、リボイラー熱量を算出したところ、945kcal/hrであった。
【0119】
得られた缶出液をガスクロマトグラフィーで組成分析した結果、純度99.5モル%のHFO-1132(E)が含まれていることがわかった。
【0120】
【0121】
(実施例2)
図4に示すフロー図に従って、HFO-1123とHFO-1132(E)とHFC-32とを含む組成物を原料として、蒸留工程と抽出蒸留工程と抽出溶媒回収工程と精留工程とからなるプロセスを用いて、精製されたHFO-1132(E)及びHFO-1123を製造した。以下の表2に実施例2の物質収支を示す。
【0122】
(蒸留工程)
蒸留用組成物としてHFO-1123とHFO-1132(E)とHFC-32とを含む組成物を準備した。該組成物を、40段の理論段数を持つ蒸留塔の塔頂から20段目より、2030mol/hrの流量で蒸留塔に供給した。なお、蒸留塔の塔内圧力は0.5MPaGであり、その塔頂部にはコンデンサーが設置されており、塔底部にはリボイラーが設置されている。
【0123】
蒸留塔の塔頂部から純度50.0モル%のHFC-32を59.6mol/hrで留出するようにリボイラー負荷とコンデンサー負荷とを調整し、蒸留分離を行った。この時のコンデンサー熱量を算出したところ、40616kcal/hrであり、リボイラー熱量を算出したところ、40617kcal/hrであった。
【0124】
表2に示すように、HFO-1123とHFO-1132(E)とHFC-32とを含む組成物中のHFC-32が大幅に低減された。
【0125】
(抽出蒸留工程)
蒸留塔の塔頂より抜き出した留出液(抽出蒸留用組成物)を、40段の理論段数を持つ抽出蒸留塔の塔頂から20段目より、59.6mol/hrの流量で抽出蒸留塔に供給し、更に抽出溶媒としてアセトニトリルを、抽出蒸留塔の塔頂から5段目より、600.0mol/hrの流量(抽出剤蒸留塔に供給された抽出蒸留用組成物の流量の約10倍当量)で抽出蒸留塔に供給した。なお、抽出蒸留塔の塔内圧力は0.5MPaGであり、抽出蒸留塔の塔頂部にはコンデンサーが設置されており、塔底部にはリボイラーが設置されている。
【0126】
抽出蒸留塔の塔頂部から純度33.5モル%のHFO-1123と純度66.0モル%のHFO-1132(E)とを含む組成物を29.9mol/hrで留出するようにリボイラー負荷とコンデンサー負荷とを調整し、蒸留分離を行った。この時のコンデンサー熱量を算出したところ、804kcal/hrであり、リボイラー熱量を算出したところ、2592kcal/hrであった。
【0127】
図5は、抽出蒸留用組成物に対して抽出溶媒としてアセトニトリルを約10倍当量使用した場合のHFO-1123/HFC-32気液平衡図である。
図5に示すように、アセトニトリルを抽出溶媒として用いて0.5MPaGの圧力下で蒸留操作を行うことにより、HFO-1123とHFC-32とを分離できることが確認された。
【0128】
図6は、抽出蒸留用組成物に対して抽出溶媒としてアセトニトリルを約10倍当量使用した場合のHFO-1132(E)/HFC-32気液平衡図である。
図6に示すように、アセトニトリルを抽出溶媒として用いて0.5MPaGの圧力下で蒸留操作を行うことにより、HFO-1132(E)とHFC-32とを分離できることが確認された。
【0129】
(抽出溶媒回収工程)
抽出蒸留工程において塔底より抜き出した缶出液を、10段の理論段数を持つ抽出溶媒回収塔(以下、単に「回収塔」と称する)の塔頂から5段目より、629.8mol/hrの流量(HFO-1132(E)の流量:0.1mol/hr、HFC-32の流量:29.7mol/hr、アセトニトリルの流量:600.0mol/hr)で回収塔に供給した。なお、回収塔の塔内圧力は0.5MPaGであり、その塔頂部にはコンデンサーが設置されており、塔底部にはリボイラーが設置されている。
【0130】
回収塔の塔頂部から、純度96.8モル%のHFC-32を30.6mol/hrで留出するようにリボイラー負荷とコンデンサー負荷とを調整し、蒸留分離を行った。この時のコンデンサー熱量を算出したところ、686kcal/hrであり、リボイラー熱量を算出したところ、1188kcal/hrであった。
【0131】
なお、回収塔の塔底より抜き出したアセトニトリルを含む缶出液(アセトニトリルの流量:600.0mol/hr)は、抽出蒸留工程に再循環して使用した。
【0132】
(精留工程)
抽出蒸留工程において塔頂より抜き出した留出液を、40段の理論段数を持つ精留塔の塔頂から20段目より、29.9mol/hrの流量で精留塔に供給した。なお、精留塔の塔内圧力は0.5MPaGであり、その塔頂部にはコンデンサーが設置されており、塔底部にはリボイラーが設置されている。
【0133】
精留塔の塔頂部から純度89.7モル%のHFO-1123を11.0mol/hrで留出するようにリボイラー負荷とコンデンサー負荷とを調整し、精留を行った。この時のコンデンサー熱量を算出したところ、925kcal/hrであり、リボイラー熱量を算出したところ、933kcal/hrであった。
【0134】
得られた缶出液をガスクロマトグラフィーで組成分析した結果、純度99.5モル%のHFO-1132(E)が含まれていることがわかった。
【0135】
【0136】
(実施例3)
図7に示すフロー図に従って、HFO-1123とHFO-1132(E)とHFC-32とを含む組成物を原料として、抽出蒸留工程と抽出溶媒回収工程と精留工程とからなるプロセスを用いて、精製されたHFO-1132(E)及びHFO-1123を製造した。以下の表3に実施例3の物質収支を示す。
【0137】
(抽出蒸留工程)
抽出蒸留用組成物としてHFC-32とHFO-1132(E)とHFO-1123とを含む組成物を準備した。該組成物を、40段の理論段数を持つ抽出蒸留塔の塔頂から20段目より、2030mol/hrの流量で抽出蒸留塔に供給し、更に抽出溶媒としてシクロヘキサンを、抽出蒸留塔の塔頂から5段目より、20299.9mol/hrの流量(抽出蒸留塔に供給された抽出蒸留用組成物の流量の約10倍当量)で抽出蒸留塔に供給した。なお、蒸留塔の塔内圧力は0.5MPaGであり、その塔頂部にはコンデンサーが設置されており、塔底部にはリボイラーが設置されている。
【0138】
抽出蒸留塔の塔頂部から純度99.9モル%のHFC-32を2030mol/hrで留出するようにリボイラー負荷とコンデンサー負荷とを調整し、蒸留分離を行った。この時のコンデンサー熱量を算出したところ、51161kcal/hrであり、リボイラー熱量を算出したところ、176527kcal/hrであった。
【0139】
(抽出溶媒回収工程)
抽出蒸留工程において塔底より抜き出した缶出液を、10段の理論段数を持つ抽出溶媒回収塔(以下、単に「回収塔」と称する)の塔頂から5段目より、20328.2mol/hrの流量で抽出溶媒回収塔に供給した。なお、回収塔の塔内圧力は0.5MPaGであり、その塔頂部にはコンデンサーが設置されており、塔底部にはリボイラーが設置されている。
【0140】
抽出溶媒回収塔の塔頂部から純度29.8モル%のHFO-1123と純度70.1モル%のHFO-1132(E)を含む組成物を28.2mol/hrで留出するようにリボイラー負荷とコンデンサー負荷とを調整した。この時のコンデンサー熱量を算出したところ、24136kcal/hrであり、リボイラー熱量を算出したところ、25943kcal/hrであった。
【0141】
塔底より抜き出したシクロヘキサンを含む缶出液は、抽出蒸留工程に再循環して使用した。
【0142】
(精留工程)
抽出溶媒回収工程において塔頂より抜き出した留出液を、40段の理論段数を持つ精留塔の塔頂から20段目より、28.2mol/hrの流量で精留塔に供給した。なお、精留塔の塔内圧力は0.5MPaGであり、その塔頂部にはコンデンサーが設置されており、塔底部にはリボイラーが設置されている。
【0143】
精留塔の塔頂部から純度89.1モル%のHFO-1123を9.3mol/hrで留出するようにリボイラー負荷とコンデンサー負荷とを調整し、精留を行った。この時のコンデンサー熱量を算出したところ、667kcal/hrであり、リボイラー熱量を算出したところ、674kcal/hrであった。
【0144】
得られた缶出液をガスクロマトグラフィーで組成分析した結果、純度99.5モル%のHFO-1132(E)が含まれていることがわかった。
【0145】
【0146】
実施例1、実施例2及び実施例3に記載の各工程で生じた熱量の合計(kcal/hr)を下記表4に示す。
【0147】
【0148】
表4の結果から明らかなように、実施例1及び2によれば、実施例3よりもエネルギーコストを削減し、且つ、HFO-1132(E)及びHFO-1123を高純度に精製することが分かる。
【符号の説明】
【0149】
1:蒸留塔
2:抽出蒸留塔
3:抽出溶媒回収塔
4:精留塔