(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-31
(45)【発行日】2022-09-08
(54)【発明の名称】複合材料成形物製造用成形型および複合材料成形物の製造方法
(51)【国際特許分類】
B29C 33/64 20060101AFI20220901BHJP
B29C 70/06 20060101ALI20220901BHJP
B29C 70/46 20060101ALI20220901BHJP
B29K 105/08 20060101ALN20220901BHJP
【FI】
B29C33/64
B29C70/06
B29C70/46
B29K105:08
(21)【出願番号】P 2020566501
(86)(22)【出願日】2020-01-17
(86)【国際出願番号】 JP2020001515
(87)【国際公開番号】W WO2020149402
(87)【国際公開日】2020-07-23
【審査請求日】2021-06-30
(32)【優先日】2019-01-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】000000974
【氏名又は名称】川崎重工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000556
【氏名又は名称】特許業務法人 有古特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】佐名 俊一
(72)【発明者】
【氏名】小笠原 承道
【審査官】関口 貴夫
(56)【参考文献】
【文献】特表2006-502025(JP,A)
【文献】特開平09-076361(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2014/0210121(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 33/00-33/76
B29C 70/00-70/88
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂組成物および繊維材料により少なくとも構成される、複合材料成形物を製造する際に、前記繊維材料に前記樹脂組成物を含浸させたプリプレグの積層体を成形するために用いられる成形型であって、
前記積層体の外面形状を規定する成形面を有する型部材を備え、
前記成形面は、当該成形面を被覆する離型コーティングと、当該離型コーティング上に離型剤を塗布することにより形成される離型剤層と、を有
し、
前記離形コーティングは、無機系材料を基材とし、当該基材中に離型性を発揮する非炭素系樹脂材料の粒子を含有する、
複合材料成形物製造用成形型。
【請求項2】
前記離型剤は、前記離型コーティングと親和性を有する材料から少なくとも構成される、
請求項1に記載の複合材料成形物製造用成形型。
【請求項3】
前記
非炭素系樹脂材料が、シリコーン樹脂
であり、
前記離型剤が、シリコーン系離型剤である、
請求項
2に記載の複合材料成形物製造用成形型。
【請求項4】
前記
基材がガラスコーティングであり、前記非炭素系樹脂材料の粒子がシリコーン樹脂粒子
である、
請求項
3に記載の複合材料成形物製造用成形型。
【請求項5】
前記
非炭素系樹脂材料が、フッ素樹脂
であり、
前記離型剤が、フッ素系離型剤である、
請求項
2に記載の複合材料成形物製造用成形型。
【請求項6】
前記
基材がガラスコーティングであり、前記非炭素系樹脂材料の粒子がフッ素樹脂粒子
である、
請求項
5に記載の複合材料成形物製造用成形型。
【請求項7】
前記離型コーティングが着色されている、
請求項1から
6のいずれか1項に記載の複合材料成形物製造用成形型。
【請求項8】
前記離型コーティングは複数積層され、それぞれの層は異なる色で着色されている、
請求項
7に記載の複合材料成形物製造用成形型。
【請求項9】
前記樹脂組成物が、熱硬化性樹脂組成物または熱可塑性樹脂組成物である、
請求項1から
7のいずれか1項に記載の複合材料成形物製造用成形型。
【請求項10】
前記複合材料成形物が航空機用部品である、
請求項1から
8のいずれか1項に記載の複合材料成形物製造用成形型。
【請求項11】
樹脂組成物および繊維材料により少なくとも構成される、複合材料成形物を製造する方法であって、
前記繊維材料に前記樹脂組成物を含浸させたプリプレグの積層体の外面形状を規定する成形面には、離型コーティングが被覆され、
前記離形コーティングは、無機系材料を基材とし、当該基材中に離型性を発揮する非炭素系樹脂材料の粒子を含有し、
前記離型コーティング上には、さらに、離型剤を塗布することにより離型剤層が形成されており、
前記積層体の外面が、前記離型剤層に密接した状態で、当該積層体を成形する、
複合材料成形物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複合材料成形物を製造するために用いられる成形型、および複合材料成形物を製造する方法に関し、特に、良好な離型性を実現できるとともに、得られる複合材料成形物において良好な表面品質を実現できる、複合材料成形物製造用成形型、および、複合材料成形物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、これまで金属材料が用いられてきた分野において、繊維強化樹脂複合材料(以下、適宜「複合材料」と略す。)が広く用いられるようになっている。例えば、強化繊維として炭素繊維を用い、これにエポキシ樹脂等のマトリクス樹脂を含浸させて成形した炭素繊維強化型の材料(炭素繊維強化プラスチック;CFRP)は、金属材料よりも軽量であることに加え、より高強度である。それゆえ、航空宇宙分野、スポーツ用品分野、産業機械分野、自動車分野、自転車分野等の幅広い分野において、CFRP等の複合材料製の成形物(複合材料成形物)が採用されるようになっている。
【0003】
複合材料成形物の製造方法(あるいは成形方法)としては、代表的には、プリプレグ(繊維材料にマトリクス材料である熱硬化性樹脂組成物または熱可塑性樹脂組成物を含浸させて半硬化状態としたもの)を所望の形状に合わせて積層して積層体を形成し、この積層体を成形型内のキャビティに配置し、一般的には加熱および加圧することにより当該積層体を成形し、成形型から複合材料成形物を脱型する方法が挙げられる。
【0004】
ここで、成形型に対しては、通常、複合材料成形物を良好に脱型するために、成形面に離型剤が塗布される。複合材料成形物の種類によっては、成形面に一度離型剤を塗布すれば数回~数十回の成形および脱型が可能である。しかしながら、特に航空機分野では、高い安全性および信頼性が要求されるため、複合材料成形物が航空機部品であれば、複合材料成形物(航空機部品)を成形して脱型するごとに、成形型の成形面を清掃(洗浄)して離型剤を塗布する必要性がある。
【0005】
例えば、特許文献1には、複合材料成形物として、航空機の胴体部分のスキンパネルが挙げられ、成形型として円筒状のマンドレルが挙げられている。マンドレルから複合材料成形物(スキンパネル)を脱型した後には、成形型の表面(成形面)に付着した異物を除去するとともに、次回の作業に備えて表面に離型剤を塗布している。成形面の清掃(洗浄)および離型剤の塗布をまとめて離型処理とすれば、成形型に対する離型処理が不十分であると、複合材料成形物としての航空機部品を適切に脱型することができなくなる。適切に脱型できなかった航空機部品は要求される品質を実現できず廃棄することになる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従来のように、複合材料成形物が航空機部品である場合に、航空機部品を脱型する毎に成形型に離型処理を実施することは、当該航空機部品の製造工程を非常に煩雑化させる。前記のように、航空機分野以外の複合材料成形物の製造では、数回から数十回の脱型に対して離型処理は1回で済むが、航空機分野では、製造する部品が高価で生産タクトを維持する必要性から、毎回の脱型に対して離型剤を塗布する必要があるので、塗布作業の分だけ工数が増加する。また、脱型毎に離型剤を塗布するということは、その使用頻度に合わせた量の離型剤を購入する必要がある。そのため、製造コストの増加にもつながる。
【0008】
さらに、本発明者らの鋭意検討によれば、脱型毎に離型剤を繰り返し塗布することで、成形面に離型剤が堆積することも明らかとなった。
【0009】
複合材料成形物にかかわらず何らかの成形物を成形型で成形する際には、一般的には、離型剤を成形面に過剰に塗布すると、当該離型剤が堆積して成形面の汚れ等の原因になることが知られている。離型剤の堆積は、成形物の寸法精度、成形物の表面品質、成形物の外観等に影響を及ぼすおそれがあるため、定期的な清掃作業が必要になる。
【0010】
複合材料成形物が航空機部品である場合、一般的な複合材料成形物に比較して品質に要求される水準が高いため、わずかな離型剤の堆積でも航空機部品に影響が生じるおそれがある。例えば、離型剤の堆積により成形面の平滑度が低下すると、得られる航空機部品の面粗度が低下する。
【0011】
また、成形面に堆積した離型剤が航空機部品の表面に転写されることが本発明者らの検討によって明らかとなった。航空機部品の表面に離型剤が転写されると、当該離型剤により航空機部品の超音波検査が妨げられる。さらに、航空機部品の表面に離型剤が転写されると当該航空機部品の塗装にも影響を及ぼす。そのため、超音波検査または塗装の前には、航空機部品の表面を洗浄または清掃して離型剤を除去することが必要になる。
【0012】
ここで、離型剤の堆積量を減少させるために離型剤の塗布量を少なくすると、航空機部品の脱型性に影響が生じるおそれがある。前記の通り、航空機部品が適切に脱型されなければ廃棄処分になるため、離型剤の塗布量を少なくすることは難しい。そのため、使用毎に十分な離型剤を成形面に塗布する必要があり、また、航空機部品の品質に悪影響を及ぼす前に成形面を研磨清掃する必要が生じる。これにより、離型剤の塗布作業だけでなく清掃作業の分も工数が増加する。
【0013】
本発明はこのような課題を解決するためになされたものであって、離型剤による良好な脱型を実現するとともに、脱型毎の離型処理の実施を回避し、さらには離型剤の堆積も抑制可能とする複合材料成形物製造用成形型を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明に係る複合材料成形物製造用成形型は、前記の課題を解決するために、樹脂組成物および繊維材料により少なくとも構成される、複合材料成形物を製造する際に、前記繊維材料に前記樹脂組成物を含浸させたプリプレグの積層体を成形するために用いられる成形型であって、前記積層体の外面形状を規定する成形面を有する型部材を備え、前記成形面は、当該成形面を被覆する離型コーティングと、当該離型コーティング上に離型剤を塗布することにより形成される離型剤層と、を有する構成である。
【0015】
また、本発明に係る複合材料成形物の製造方法は、前記の課題を解決するために、樹脂組成物および繊維材料により少なくとも構成される、複合材料成形物を製造する方法であって、前記繊維材料に前記樹脂組成物を含浸させたプリプレグの積層体の外面形状を規定する成形面には、離型コーティングが被覆され、当該離型コーティング上には、さらに、離型剤を塗布することにより離型剤層が形成されており、前記積層体の外面が、前記離型剤層に密接した状態で、当該積層体を成形する構成である。
【0016】
前記構成によれば、成形面に予め離型コーティングを形成し、さらに当該離型コーティングの上に離型剤層が形成されている。つまり、成形型の成形面に対して、離型コーティングと離型剤層とのダブルコーティングを施す。このダブルコーティングにより、良好な脱型性を維持しつつ、脱型毎に離型剤を塗布する必要がなくなるため離型剤を塗布する頻度を低減することができ、さらには離型剤の堆積も十分に抑制することができる。離型コーティングの形成は基本的に1回のみでよいので、脱型毎の離型処理の実施を回避することができる。これにより、離型剤による良好な脱型を実現するとともに、脱型毎の離型処理の実施を回避し、さらには離型剤の堆積も抑制可能とする複合材料成形物製造用成形型を得ることができる。
【0017】
本発明の上記目的、他の目的、特徴、及び利点は、添付図面参照の下、以下の好適な実施態様の詳細な説明から明らかにされる。
【発明の効果】
【0018】
本発明では、以上の構成により、離型剤による良好な脱型を実現するとともに、脱型毎の離型処理の実施を回避し、さらには離型剤の堆積も抑制可能とする複合材料成形物製造用成形型を提供することができる、という効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】
図1Aは本発明の実施の形態に係る成形型の一例を示す模式的斜視図であり、
図1Bは、
図1Aに示す成形型の製造方法の一例を示す模式的工程図である。
【
図2】
図2Aおよび
図2Bは、本発明が他の実施の形態に係る成形型の代表例を示す模式的斜視図である。
【
図3】
図3Aは、
図1Aに示す成形型の他の例を示す模式的部分断面図であり、
図3Bは、
図3Aに示す成形型において上層の離型コーティングが部分的に剥離した状態を示す模式的部分断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の代表的な実施の形態を、図面を参照しながら説明する。なお、以下では全ての図を通じて同一又は相当する要素には同一の参照符号を付して、その重複する説明を省略する。
【0021】
[複合材料成形物]
まず、本開示に係る複合材料成形物製造用成形型(以下、適宜「成形型」と略す。)で製造される複合材料成形物の一例について具体的に説明する。
【0022】
本開示に係る複合材料成形物は、樹脂組成物および繊維材料により少なくとも構成されるものであり、繊維材料に樹脂組成物を含浸させたプリプレグの積層体を成形型により成形することにより製造される。本開示では、複合材料成形物の代表的な一例として航空機部品を挙げる。航空機部品の代表的な一例としては、スキン、ビーム、フレーム、ストリンガ、クリップ等を挙げることができる。また、ビーム、フレーム、ストリンガ等の長尺部材の断面形状は、Z型、C型、L型、ハット型(Ω型)等を挙げることができる。
【0023】
本開示において、複合材料層を構成する樹脂組成物および繊維材料の具体的な種類は特に限定されず、航空機用部品に適用可能な材料を適宜選択して用いることができる。樹脂組成物は、繊維材料(複合材料成形物の基材)を支持するマトリクス材(母材)として使用可能な樹脂材料を含有していればよい。具体的な樹脂材料としては、熱硬化性樹脂と熱可塑性樹脂とが挙げられる。
【0024】
熱硬化性樹脂の具体的な種類は特に限定されないが、代表的には、例えば、エポキシ樹脂、ポリエステル樹脂、ビニルエステル樹脂、フェノール樹脂、シアネートエステル樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアミド樹脂等が挙げられる。これら熱硬化性樹脂は単独種で用いられてもよいし、複数種が組み合わせられて用いられもよい。また、これら熱硬化性樹脂のより具体的な化学構造も特に限定されず、公知の種々のモノマーが重合されたポリマーであってもよいし、複数のモノマーが重合されたコポリマーであってもよい。また、平均分子量、主鎖および側鎖の構造等についても特に限定されない。
【0025】
また、熱可塑性樹脂の具体的な種類も特に限定されないが、特に航空機用部品の分野では、ポリフェニレンスルフィド(PPS)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリエーテルイミド(PEI)等のエンジニアリングプラスチックが好適に用いられる。これら熱可塑性樹脂もより具体的な化学構造は特に限定されず、公知の種々のモノマーが重合されたポリマーであってもよいし、複数のモノマーが重合されたコポリマーであってもよい。また、平均分子量、主鎖および側鎖の構造等についても特に限定されない。
【0026】
複合材料のマトリクス材は、前述した熱硬化性樹脂または熱可塑性樹脂のみで構成されてもよい(すなわちマトリクス材は公知の樹脂材料のみであってもよい)が、公知の硬化剤、硬化促進剤、繊維材料以外の補強材または充填材、その他公知の添加剤を含んでいてもよい。硬化剤、硬化促進剤等の添加剤の具体的な種類、組成等についても特に限定されず、公知の種類または組成のものを好適に用いることができる。
【0027】
つまり、本開示においては、マトリクス材は、熱硬化性樹脂および他の成分を含有する熱硬化性樹脂組成物、あるいは、熱可塑性樹脂および他の成分を含有する熱可塑性樹脂組成物であってもよい。したがって、本開示においては、複合材料は、繊維材料と熱硬化性樹脂または熱硬化性樹脂組成物とで構成される「熱硬化型」であってもよいし、繊維材料と熱可塑性樹脂または熱可塑性樹脂組成物とで構成される「熱可塑型」であってもよい。
【0028】
繊維材料は、複合材料成形物の基材として良好な物性(強度等)を実現できるものであれば、その具体的な種類は特に限定されないが、例えば、炭素繊維、ポリエステル繊維、PBO(ポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾール)繊維、ボロン繊維、アラミド繊維、ガラス繊維、シリカ繊維(石英繊維)、炭化ケイ素(SiC)繊維、ナイロン繊維、等を挙げることができる。これら繊維材料は、1種類のみが用いられてもよいし2種類以上が適宜組み合わせて用いられてもよい。これらの中でも、特に航空機分野では炭素繊維が好適に用いられる。また、繊維材料の使用形態は特に限定されないが、代表的には、組物、織物、編物、不織布等で構成されればよい。
【0029】
本開示に係る複合材料成形物は、繊維材料に樹脂組成物を含浸させたプリプレグの積層体を成形型により成形する。プリプレグは、繊維材料で構成される基材に熱硬化性樹脂組成物または熱可塑性樹脂組成物を含浸させて半硬化状態としたシート体である。プリプレグの具体的な構成は特に限定されない。また、プリプレグを積層して形成される積層体の具体的な構成も特に限定されない。例えば、プリプレグの形状、プリプレグの積層枚数、プリプレグの積層方向等については、製造対象の複合材料成形物(航空機部品等)の形状、用途、種類等に応じて適宜設定することができる。
【0030】
また、積層体には、プリプレグ(複合材料層)以外の他の材料層が含まれてもよい。つまり、本開示に係る複合材料成形物は、複合材料以外の他の材料を含んでもよい。例えば、積層体の表面には、伸展性を有する樹脂(または樹脂組成物)により形成された樹脂層が積層されてもよい。このような樹脂層を含む積層体を加熱加圧成形することで、表面に樹脂層が形成された複合材料成形物を製造することができる。表面の樹脂層としては、機械加工性を付与する(例えば穴開け時にバリまたはささくれ等の発生を防止する)目的、あるいは、複合材料成形物の外観を向上する目的のものが挙げられるが、特に限定されない。
【0031】
また、積層体には、他の材料層として金属メッシュ層あるいは金属箔が含まれてもよい。例えば、積層体の表面には、銅メッシュ層が積層されてもよい。銅メッシュ層を含む積層体を加熱加圧成形することで、表面に銅メッシュを備える複合材料成形物を製造することができる。複合材料成形物が航空機部品である場合、銅メッシュ層は、航空機部品の耐雷保護対策に用いることができる。なお、金属メッシュ層または金属箔の具体的な種類または用途については特に限定されない。
【0032】
[複合材料成形物製造用成形型]
本開示に係る複合材料成形物製造用成形型は、前述した複合材料成形物を製造する際に、プリプレグの積層体を成形するために用いられる。成形型の具体的な形状は特に限定されず、製造対象である複合材料成形物、例えば航空機部品の種類によって適宜設定されるが、本開示においては、成形型の成形面は、成形面を被覆する離型コーティングと、当該離型コーティング上に離型剤を塗布することにより形成される離型剤層と、を有する。すなわち、成形型の成形面には離型コーティングおよび離型剤層がダブルコーティングされている。
【0033】
本開示に係る成形型の一例について、
図1Aおよび
図1Bを参照して具体的に説明する。
図1Aには、本開示に係る成形型の一例であるビーム用成形型10Aを例示している。このビーム用成形型10Aで製造されるビームは航空機の骨格部材を構成する航空機部品である。
図1Aに示すビーム用成形型10Aは、図中直方体状(四角柱状)で概略図示する成形型本体11Aと、この成形型本体11Aの表面(成形面)に形成される離型コーティング12と、この離型コーティング12の上に積層される離型剤層13とを備えている。
【0034】
なお、
図1Aでは、図示の便宜上、最表面の離型剤層13の一部(成形型本体11Aの一方の端部側の辺縁部)が剥離して離型コーティング12の一部が露出しているように模式的に図示している。また、図示の便宜上、
図1Aおよび
図1Bでは、離型剤層13との区別を明確化するために離型コーティング12は黒く塗りつぶして図示し、離型剤層13は白い層として図示しているが、離型コーティング12および離型剤層13の色彩はこれに限定されないことは言うまでもない。
【0035】
図1Bは、
図1Aに示すビーム用成形型10Aの製造方法(あるいは成形に際しての準備方法)を模式的に示す工程図である。
図1Bでは、ビーム用成形型10Aの製造方法(準備方法)を3段階に模式化している。各段階のいずれにおいても、図中左側には成形型本体11Aの斜視図を示しており、図中右側には成形型本体11Aの表面の一部を模式化した部分断面図として図示している。
【0036】
図1B上段は、離型コーティング12が形成されない時点の成形型本体11Aを図示しており、図中左側の斜視図においても図中右側の部分断面図においても、成形型本体11Aの成形面(表面)には何も被覆されていない。
図1B中段は、成形型本体11Aの成形面に離型コーティング12が形成された状態を図示しており、前記の通り、図中左側の成形型本体11Aの斜視図では離型コーティング12を便宜上黒く図示している。図中右側の部分断面図では、離型コーティング12は1層のみであるが、後述するように2層以上が積層されてもよい。離型コーティング12の形成方法は特に限定されず、当該離型コーティング12の材質等の諸条件に応じた公知の様々な形成方法を好適に用いることができる。
【0037】
図1B下段は、成形型本体11Aの成形面の離型コーティング12上にさらに離型剤層13を塗布した状態を図示している。図中左側の成形型本体11Aの斜視図では離型剤を塗布(塗工)している状態を、刷毛を用いて模式的に示している。また、前記の通り、離型コーティング12との区別を明確化するために、離型剤層13を白く図示している。なお、離型剤の塗布方法(塗工方法)は
図1Bに示すような刷毛による方法に限定されず、離型剤の材質等の諸条件に応じた公知の様々な塗布方法を好適に用いることができる。これにより、
図1B下段右側の部分断面図に示すように、成形型本体11Aの成形面には、下側に離型コーティング12が積層され、その上に離型剤層13が積層されるという、ダブルコーティングが行われる。
【0038】
本開示のダブルコーティングが適用可能な成形型の具体的な種類は、
図1Aに示すようなビーム用成形型10Aに限定されず、公知の種々の成形型に適用することが可能である。具体的には、本開示に係る成形型の他の例としては、
図2Aに示すフレーム用成形型10B、または、
図2Bに示す胴体スキンまたは翼スキンを成形するためのスキン用成形型10C等を挙げることができる。
【0039】
図2Aに示すフレーム用成形型10Bでは、フレームの形状に応じて成形型本体11Bが湾曲するとともにその成形面(表面)は段差が含まれている。
図2Aに示すフレーム用成形型10Bでは、成形型本体11Bの成形面は、Z型のフレームを製造するために複数の段差を有しており、この成形面に前述したダブルコーティングが施されている。フレーム用成形型10Bで製造されるフレームは、ビーム用成形型10Aで製造されるビームと同様に航空機の骨格部材を構成する航空機部品である。
【0040】
図2Bに示すスキン用成形型10Cは、スキンの形状に応じて成形型本体11Cの成形面(表面)は凹状の湾曲面となっている。この湾曲面は、スキンの形状に応じたものであればよく、例えば、部分円筒面等のような一次曲面であってもよいし、部分球面等のような二次曲面であってもよい。
図2Bに示すフレーム用成形型10Cでは、この湾曲面(成形面)に前述したダブルコーティングが施されている。スキン用成形型10Cで製造されるスキンは航空機の胴体または翼を構成する航空機部品である。
【0041】
なお、
図2Aに示すフレーム用成形型10Bおよび
図2Bに示すスキン用成形型10Cのいずれにおいても、図示の便宜上、成形面には離型剤層13のみを示しているが、実際には、フレーム用成形型10Bおよびスキン用成形型10Cの成形面のいずれにも前述したダブルコーティングが施される。それゆえ、図示しないが、
図2Aおよび
図2Bのいずれにおいても、離型剤層13の下側に少なくとも1層の離型コーティング12が形成されている。
【0042】
なお、本開示のダブルコーティングが適用可能な成形型は、航空機部品を製造するための成形型に限定されず、他の部品を製造する成形型にも適用可能であることはいうまでもない。ただし、本開示のダブルコーティングは、航空機部品のように、一般的な複合材料成形物よりも高い品質が要求されるような成形物を製造する成形型に特に好適に適用することができる。
【0043】
本開示においては、成形型は、積層体の外面形状を規定する成形面を有していればよいが、成形型が複数の部材で構成されている場合には、成形型には、少なくとも成形面を有する型部材が含まれていればよい。例えば、成形型が雄型および雌型のみで構成されている場合には、雄型の外表面が成形面であり雌型の内表面が成形面であるので、これら雄型および雌型のいずれも「型部材」に該当する。これに対して、成形型が、雄型および雌型に加えて蓋部材を有しており、この蓋部材が、これら型部材で構成されるキャビティを単に封止するための部材であれば必ずしも成形面を有さない。このような場合は、蓋部材は型部材に該当しない。
【0044】
成形面に直接形成される離型コーティング12は、離型性を有する固形材料で構成される、成形面の被覆層であればよい。離型性を有する固形材料としては、シリコーン樹脂またはフッ素樹脂等の非炭素系樹脂材料を挙げることができるが、特に限定されない。なお、ここでいう非炭素系樹脂材料とは、炭素原子を含まない樹脂材料に限定されるという意味ではなく、離型性を発揮する元素が非炭素系元素であるという意味である。
【0045】
シリコーン樹脂としては、具体的には、例えば、メチルシリコーン樹脂、メチルフェニルシリコーン樹脂、フェニルシリコーン樹脂、アルキッド変性シリコーン樹脂、ポリエステル変性シリコーン樹脂、ウレタン変性シリコーン樹脂、エポキシ変性シリコーン樹脂、アクリル変性シリコーン樹脂等を挙げることができるが、特に限定されない。これらシリコーン樹脂は通常1種類のみを用いるが、複数種類を混合してポリマーアロイを形成することが可能であれば、2種類以上を適宜組み合わせて用いてもよい。
【0046】
フッ素樹脂としては、例えば、テトラフルオロエチレン(PTEF)、テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルコキシエチレン共重合体(PFA)、ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)、ポリビニリデンフルオライド(PVDF)、テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、テトラフルオロエチレン・エチレン共重合体(ETFE)、エチレンクロロトリフルオロエチレン・エチレン共重合体(ECTFE)等を挙げることができるが、特に限定されない。これらフッ素樹脂は通常1種類のみを用いるが、複数種類を混合してポリマーアロイを形成することが可能であれば、2種類以上を適宜組み合わせて用いてもよい。
【0047】
離型コーティング12は、離型性を発揮する成分としてシリコーン樹脂またはフッ素樹脂等の非炭素系樹脂材料を含有していればよいが、これら非炭素系樹脂材料を主成分とする(少なくとも非炭素系樹脂材料で構成される)ものであってもよい。ただし、樹脂材料単独で離型コーティング12を形成すると、被覆層としての耐久性が低下する場合があるので、樹脂材料以外に耐久性を有する基材を用いてもよい。
【0048】
離型コーティング12に用いられる耐久性を有する基材の代表例としては、ガラス系材料またはセラミック材料等の無機系材料を挙げることができる。特に、ガラス系材料は、一般的な表面保護用途のコーティング材(ガラスコーティング)として用いられているため、本開示においても好適に用いることができる。
【0049】
代表的なガラスコーティングは、ポリシラザン、オルガノポリシロキサン、低分子シラン等のシラン化合物を塗工して水分と反応させることにより硬化させ、シリカを主成分とする強固な被覆層として形成される。本開示においては、原料となるシラン化合物に対して、シリコーン樹脂またはフッ素樹脂等の非炭素系樹脂材料の粒子を予め混合しておき、これを塗工して硬化させることにより、ガラスコーティングを基材として、当該基材中にシリコーン樹脂粒子またはフッ素樹脂粒子を含有する離型コーティング12を形成することができる。
【0050】
したがって、本開示においては、離型コーティング12としては、少なくとも非炭素系樹脂材料から構成され、耐久性を有する基材を有さないもの(樹脂主成分コーティング)と、耐久性を有する基材に非炭素系樹脂材料の粒子が分散したもの(基材主成分コーティング)との少なくとも2種類を挙げることができる。
【0051】
例えば、非炭素系樹脂材料がシリコーン樹脂である場合には、シリコーン樹脂を主成分として必要に応じて種々の添加剤を含有する、シリコーン樹脂主成分コーティングと、ガラスコーティングを基材とし、当該基材中にシリコーン樹脂粒子を含有する、基材主成分シリコーン樹脂コーティングとを挙げることができる。同様に、非炭素系樹脂材料がフッ素樹脂である場合には、フッ素樹脂を主成分として必要に応じて種々の添加剤を含有する、フッ素樹脂主成分コーティングと、ガラスコーティングを基材とし、当該基材中にフッ素樹脂粒子を含有する、基材主成分フッ素樹脂コーティングとを挙げることができる。
【0052】
なお、本開示では、例えば、ガラスコーティングそのものが離型性を付与するものであってもよい。例えば、ガラスコーティングを形成する際のシラン化合物に、フッ素で修飾したフッ化シラン化合物を含有させ、これを硬化させることにより、非炭素系樹脂材料を含有せずにガラスコーティングに離型性を付与することが可能である。
【0053】
また、離型コーティング12は、前述したシリコーン樹脂コーティング、フッ素樹脂コーティング、あるいは離型性を有するガラスコーティング等に限定されず、離型性を有する固形材料で構成され成形面を被覆できるものであれば、他の材料で構成されてもよい。例えば、積層体(プリプレグ)の材質によっては、離型性を発揮できるのであれば一般的な樹脂材料(炭素系樹脂材料)を離型コーティング12に用いてもよい。
【0054】
離型コーティング12に被覆される離型剤層13は、半固形または液状の離型剤を前述した離型コーティング12の表面に塗工したときに、当該離型コーティング12の表面で弾かれずに、全体的に当該離型コーティング12を被覆する塗膜であればよい。それゆえ、離型剤の種類、離型剤層13の厚さ等の諸条件については特に限定されない。一般的には、離型コーティング12が離型性を有することから、離型剤は、離型コーティング12の具体的な材料と親和性を有する材料から少なくとも構成されればよい。より具体的には、離型コーティング12の主成分あるいは離型性を発揮する材料と同種または同系の材料を用いた離型剤を選択すればよい。
【0055】
例えば、離型コーティング12がシリコーン樹脂コーティングであれば、離型剤としてはシリコーン系離型剤を用いればよい。あるいは、離型コーティング12がフッ素樹脂コーティングであれば、離型剤としてはフッ素系離型剤を用いればよい。また、離型コーティング12が離型性を有するガラスコーティングであれば、離型性の要因となる元素を分子構造中に有する離型剤を用いればよい。前述した例では、フッ化シラン化合物を用いたガラスコーティングを挙げたので、この場合には、離型剤はフッ素系離型剤を用いればよい。
【0056】
また、離型コーティング12は着色されてもよい。離型コーティング12を着色することで、成形面上を離型コーティング12が良好に被覆されていることを確認できるとともに、脱型の繰り返しで離型コーティング12が薄くなったり剥離したりする事態が発生しても容易に確認することができる。
【0057】
ここで、離型コーティング12がシリコーン樹脂またはフッ素樹脂を主成分とする(離型コーティング12が実質的にシリコーン樹脂またはフッ素樹脂で構成されている)場合、これら樹脂は他の材質との親和性が低い(そのため良好な離型作用を発揮できる)。そのため、着色剤が樹脂に十分に混合拡散できず、離型コーティング12を良好に着色できないおそれがある。一方、離型コーティング12がガラスコーティング等の基材を有し、当該基材中にシリコーン樹脂粒子またはフッ素樹脂粒子を含有する場合には、基材に対して着色剤を添加すればよい。ガラスコーティングの場合には、シラン化合物に着色剤を添加して硬化させればよい。これにより離型コーティング12を着色しやすくすることができる。
【0058】
離型コーティング12を着色する際の具体的な色は特に限定されず、型部材の成形面と異なる色であればよく、好ましくは、厚さの低下または剥離が把握しやすいような色を選択すればよい。例えば、型部材は一般的に金属製であるため、その表面状態にもよるが、成形面は金属光沢を有する。金属光沢は光を反射するため「白」に近似する色と見なすことができる。この場合、「黒」または「黒」に近い「濃い色」すなわち明度の低い色を選択すればよい。あるいは、「白」は無彩色であるため、より彩度の高い色を選択してもよい。
【0059】
離型コーティング12を着色する着色剤の種類によっては、成形時の加熱または加圧等により退色する可能性があり、また、高い彩度の着色剤にはより高価なものが存在する。これらの条件を考慮すると、離型コーティング12の色は、成形面の色に対して明度および彩度が相対的に異なり、退色しにくく、かつ、より低コストで基材等に分散しやすいものを適宜選択すればよい。
【0060】
ここで、本開示においては、離型コーティング12は、
図1Aまたは
図1Bに示すビーム用成形型10Aで例示するように単層であってもよいが、複数層で構成されてもよい。例えば、
図3Aには、
図1Aに示すビーム用成形型10Aの模式的な部分断面図の他の例を図示している。この
図3Aに示す構成では、成形型本体11Aの表面(成形面)に第一離型コーティング12aが積層され、この第一離型コーティング12aの上側にさらに第二離型コーティング12bが積層されている。
【0061】
したがって、
図3Aに示す例では、離型コーティング12は、第一離型コーティング12aおよび第二離型コーティング12bの2層構成となっている。離型剤層13は、2層構成の離型コーティング12の上側に積層されている。
図3Aに示す例では、上側の第二離型コーティング12bのさらに上側に離型剤層13が積層されている。なお、図示しないが、離型コーティング12は3層以上で構成されてもよい。
【0062】
このように離型コーティング12が複数層で構成されているときには、当該離型コーティング12を構成する各層は異なる色で着色されてもよい。例えば、離型コーティング12が
図3Aに示すような2層であるときに、下層(成形面上を直接被覆する層)である第一離型コーティング12aを高い彩度の色(例えば赤系の色)で着色し、上層(下層の上に被覆され、その上に離型剤層13が形成される層)である第二離型コーティング12bを低い明度の色(例えば黒または黒に近い色)で着色してもよい。
【0063】
例えばビーム用成形型10Aを用いて、航空機用部品であるビーム(複合材料成形物)を繰り返し製造する際には、成形面からビームの脱型を繰り返すことになる。このとき、離型剤層13は半固形または液状の離型剤で形成されるため、脱型時に離型剤層13が薄くなったり部分的に剥離したりしても再度塗布(塗工)を繰り返せばよい。一方、脱型の繰り返しにより離型コーティング12も薄くなったり部分的に剥離したりしたときには、離型コーティング12は、離型剤層13のように容易に再形成できない。そのため、離型コーティング12の薄層化または剥離を把握することにより、複合材料成形物の良好な脱型を管理することができる。
【0064】
そこで、例えば前記のように、上層の第二離型コーティング12bを黒系の色で着色し、下層の第一離型コーティング12aを赤系の色で着色する。
図3Bに模式的に示すように、脱型の繰り返しで離型コーティング12が部分的に剥離したとしても、当初は黒系の色(第二離型コーティング12bの色)であった成形面に、赤系の色(第一離型コーティング12aの色)の部分が生じることになる。これにより、使用者は、目視によって離型コーティング12の摩耗または剥離を確認することができる。なお、
図3Bでは、説明の便宜上、第二離型コーティング12b上の離型剤層13の図示を省略している。
【0065】
このように、本開示に係る複合材料成形物製造用成形型は、樹脂組成物および繊維材料により少なくとも構成される、複合材料成形物を製造する際に、前記繊維材料に前記樹脂組成物を含浸させたプリプレグの積層体を成形するために用いられる成形型であって、積層体の外面形状を規定する成形面を有する型部材を備え、成形面には、当該成形面を被覆する離型コーティングと、当該離型コーティング上に離型剤を塗布することにより形成される離型剤層と、を有する構成である。
【0066】
また、本開示に係る複合材料成形物の製造方法は、樹脂組成物および繊維材料により少なくとも構成される、複合材料成形物を製造する方法であって、前記繊維材料に前記樹脂組成物を含浸させたプリプレグの積層体の外面形状を規定する成形面には、離型コーティングが被覆され、当該離型コーティング上には、さらに、離型剤を塗布することにより離型剤層が形成されており、積層体の外面が、離型剤層に密接した状態で、当該積層体を成形する構成である。
【0067】
前記構成によれば、成形面に予め離型コーティングを形成し、さらに当該離型コーティングの上に離型剤層が形成されている。つまり、成形型の成形面に対して、離型コーティングと離型剤層とのダブルコーティングを施す。このダブルコーティングにより、良好な脱型性を維持しつつ、脱型毎に離型剤を塗布する必要がなくなるため離型剤を塗布する頻度を低減することができ、さらには離型剤の堆積も十分に抑制することができる。離型コーティングの形成は基本的に1回のみでよいので、脱型毎の離型処理の実施を回避することができる。これにより、離型剤による良好な脱型を実現するとともに、脱型毎の離型処理の実施を回避し、さらには離型剤の堆積も抑制可能とする複合材料成形物製造用成形型を得ることができる。
【実施例】
【0068】
本発明について、実施例および比較例に基づいてより具体的に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。当業者は本発明の範囲を逸脱することなく、種々の変更、修正、および改変を行うことができる。
【0069】
(実施例1)
ビーム用成形型(型部材)の成形面に、市販のシリコーン樹脂系の離型コーティングを形成するとともに、当該シリコーン樹脂コーティングの上に、市販のシリコーン系離型剤1を塗布して離型剤層を形成した。この成形型を用いて、複合材料成形物としてのビームを成形して10回以上脱型した。離型コーティングの形成および離型剤層の塗布は初回のみで、離型剤層の再塗布も必要なく全てのビームを良好に成形して脱型することができた。
【0070】
(実施例2)
離型剤層として、シリコーン系離型剤1に代えて、市販の他のシリコーン系離型剤2を用いた以外は実施例1と同様にして、複合材料成形物としてのビームを成形して10回以上脱型した。離型コーティングの形成および離型剤層の塗布は初回のみで、離型剤層の再塗布も必要なく全てのビームを良好に成形して脱型することができた。
【0071】
(比較例1)
ビーム用成形型の成形面に離型コーティングを形成せずに、シリコーン系離型剤1を塗布して離型剤層のみを形成した。この成形型を用いて、複合材料成形物としてのビームを成形して脱型したが、3~5回程度の成形で良好な脱型ができなくなった。また、毎回離型剤層を塗布して脱型を繰り返すと、成形面に堆積した離型剤層がビームの表面に転写されてしまい、ビームの表面祖度が低下するほか、非破壊検査時に超音波透過がうまくできずにサンディングによる離型剤の除去が必要であった。
【0072】
(比較例2)
ビーム用成形型の成形面に離型コーティングとしてシリコーン樹脂コーティングのみを形成し、離型剤層は形成しなかった。この成形型を用いて、複合材料成形物としてのビームを成形して脱型したが、脱型を30回繰り返すと、離型コーティングの一部に剥がれが発生し再コーティングが必要になった。また、離型コーティングの劣化時期が予測できないため、離型コーティングが剥離したときにはビームに混入してしまい、ビーム(複合材料成形物)の品質を低下させた。
【0073】
(実施例および比較例の対比)
実施例および比較例の対比から、離型コーティングの上に同系材料の離型剤を塗布することにより、成形面に離型コーティングおよび離型剤層のダブルコートを実現することができる。離型コーティングと離型剤との具体的な親和性については特に限定されないものの、前記の通り、離型コーティングおよび離型剤が同系材料(いずれもシリコーン系)であることが好ましい。
【0074】
また、離型コーティングおよび離型剤層のダブルコートであれば、離型剤層が離型コーティングの保護膜として作用すると考えられ、離型コーティングの再形成を回避または抑制することができる。また、ダブルコートであれば、離型剤層を再塗布する頻度を大幅に低下することができる。前述した実施例では、少なくとも10回の脱型が可能であるため、離型剤層を塗布する頻度を少なくとも1/10に低減することが可能である。このように離型コーティングも離型剤層も再形成を回避または抑制できるので、離型処理のコストを良好に低減することができる。また、離型剤層を塗布する頻度を低減できることから、成形面における離型剤層の堆積量を少なくすることができる。
【0075】
さらに、ダブルコートであれば、離型コーティングが剥離しにくく、離型剤層が堆積しにくいので、剥離した離型コーティングが複合材料成形物に混入したり離型剤層が複合材料成形物に転写されたりするおそれを回避または抑制することができる。これにより、得られる複合材料成形物の製品品質を良好なものとすることができる。
【0076】
このように本開示に係る複合材料成形物製造用成形型は、樹脂組成物および繊維材料により少なくとも構成される、複合材料成形物を製造する際に、前記繊維材料に前記樹脂組成物を含浸させたプリプレグの積層体を成形するために用いられ、前記積層体の外面形状を規定する成形面を有する型部材を備え、前記成形面は、当該成形面を被覆する離型コーティングと、当該離型コーティング上に離型剤を塗布することにより形成される離型剤層と、を有す構成であればよい。
【0077】
前記構成によれば、成形面に予め離型コーティングを形成し、さらに当該離型コーティングの上に離型剤層が形成されている。つまり、成形型の成形面に対して、離型コーティングと離型剤層とのダブルコーティングを施す。このダブルコーティングにより、良好な脱型性を維持しつつ、脱型毎に離型剤を塗布する必要がなくなるため離型剤を塗布する頻度を低減することができ、さらには離型剤の堆積も十分に抑制することができる。離型コーティングの形成は基本的に1回のみでよいので、脱型毎の離型処理の実施を回避することができる。これにより、離型剤による良好な脱型を実現するとともに、脱型毎の離型処理の実施を回避し、さらには離型剤の堆積も抑制可能とする複合材料成形物製造用成形型を得ることができる。
【0078】
前記構成の複合材料成形物製造用成形型においては、前記離型剤は、前記離型コーティングと親和性を有する材料から少なくとも構成されてもよい。
【0079】
また、前記構成の複合材料成形物製造用成形型においては、前記離型コーティングが、非炭素系樹脂材料を含有する構成であってもよい。
【0080】
また、前記構成の複合材料成形物製造用成形型においては、前記離型コーティングが、非炭素系樹脂材料であるシリコーン樹脂コーティングであり、前記離型剤が、シリコーン系離型剤である構成であってもよい。
【0081】
また、前記構成の複合材料成形物製造用成形型においては、前記シリコーン樹脂コーティングが、ガラスコーティングを基材とし、当該基材中にシリコーン樹脂粒子を含有するものである構成であってもよい。
【0082】
また、前記構成の複合材料成形物製造用成形型においては、前記離型コーティングが、非炭素系樹脂材料であるフッ素樹脂コーティングであり、前記離型剤が、フッ素系離型剤である構成であってもよい。
【0083】
また、前記構成の複合材料成形物製造用成形型においては、前記フッ素樹脂コーティングが、ガラスコーティングを基材とし、当該基材中にフッ素樹脂粒子を含有するものである構成であってもよい。
【0084】
また、前記構成の複合材料成形物製造用成形型においては、前記離型コーティングが着色されている構成であってもよい。
【0085】
また、前記構成の複合材料成形物製造用成形型においては、前記離型コーティングは複数積層され、それぞれの層は異なる色で着色されている構成であってもよい。
【0086】
また、前記構成の複合材料成形物製造用成形型においては、前記樹脂組成物が、熱硬化性樹脂組成物または熱可塑性樹脂組成物である構成であってもよい。
【0087】
また、前記構成の複合材料成形物製造用成形型においては、前記複合材料成形物が航空機用部品である構成であってもよい。
【0088】
本開示に係る複合材料成形物の製造方法は、樹脂組成物および繊維材料により少なくとも構成される、複合材料成形物を製造する方法であって、前記繊維材料に前記樹脂組成物を含浸させたプリプレグの積層体の外面形状を規定する成形面には、離型コーティングが被覆され、当該離型コーティング上には、さらに、離型剤を塗布することにより離型剤層が形成されており、前記積層体の外面が、前記離型剤層に密接した状態で、当該積層体を成形する構成であればよい。
【0089】
上記説明から、当業者にとっては、本発明の多くの改良や他の実施形態が明らかである。従って、上記説明は、例示としてのみ解釈されるべきであり、本発明を実行する最良の態様を当業者に教示する目的で提供されたものである。本発明の精神を逸脱することなく、その構造及び/又は機能の詳細を実質的に変更できる。
【産業上の利用可能性】
【0090】
本発明は、複合材料成形物を製造する分野、特に、複合材料成形物が航空機部品等のように、一般的なものよりも高い品質が要求されるような場合に広く好適に用いることができる。
【符号の説明】
【0091】
10A:ビーム用成形型(複合材料成形物製造用成形型)
10B:フレーム用成形型(複合材料成形物製造用成形型)
10C:スキン用成形型(複合材料成形物製造用成形型)
11A:成形型本体(型部材)
11B:成形型本体(型部材)
11C:成形型本体(型部材)
12:離型コーティング
12a:第一離型コーティング
12b:第二離型コーティング
13:離型剤層