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特許7135773表面にアルミニウム含有被膜が形成された金属酸化物とアルミニウム含有針状物質とを含有する正極材料、及び、その製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-05
(45)【発行日】2022-09-13
(54)【発明の名称】表面にアルミニウム含有被膜が形成された金属酸化物とアルミニウム含有針状物質とを含有する正極材料、及び、その製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/525 20100101AFI20220906BHJP
   H01M 4/36 20060101ALI20220906BHJP
   H01M 4/131 20100101ALI20220906BHJP
   H01M 4/1391 20100101ALI20220906BHJP
   H01M 10/052 20100101ALI20220906BHJP
【FI】
H01M4/525
H01M4/36 C
H01M4/131
H01M4/1391
H01M10/052
H01M4/36 B
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2018217682
(22)【出願日】2018-11-20
(65)【公開番号】P2020087612
(43)【公開日】2020-06-04
【審査請求日】2021-03-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000003218
【氏名又は名称】株式会社豊田自動織機
(74)【代理人】
【識別番号】110000604
【氏名又は名称】弁理士法人 共立特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 雄飛
(72)【発明者】
【氏名】河合 智之
(72)【発明者】
【氏名】中垣 佳浩
(72)【発明者】
【氏名】近藤 悠史
(72)【発明者】
【氏名】三好 学
【審査官】森 透
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/098212(WO,A1)
【文献】特開平06-302315(JP,A)
【文献】特開2016-072072(JP,A)
【文献】国際公開第2015/025844(WO,A1)
【文献】特開2008-204806(JP,A)
【文献】特開2015-069958(JP,A)
【文献】特開2006-172901(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第105932323(CN,A)
【文献】特開2009-152214(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/00-4/62
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面にアルミニウム含有被膜が形成されたリチウムニッケル含有金属酸化物と、アルミニウム含有針状物質とを含有し、
前記アルミニウム含有針状物質が、炭素、酸素及びアルミニウムを含有し、
前記アルミニウム含有針状物質における炭素、酸素及びアルミニウムの組成式が下記組成式(1)で表され、
前記アルミニウム含有針状物質の形状は、長軸方向の長さをa、短軸方向の長さをbとしたときに、1.5≦a/b≦20の関係を満足し、
前記金属酸化物1モルに対してアルミニウムが0.05~2モル%存在することを特徴とする正極材料。
組成式(1) C Al
x、y及びzは、x+y+z=100、10≦x≦40、30≦y≦80、10≦z≦30を満足する。
【請求項2】
集電箔と、前記集電箔の表面に形成された正極活物質層とを備える正極であって、
前記正極活物質層が、請求項1に記載の正極材料を具備している正極。
【請求項3】
前記集電箔の一面に形成された前記正極活物質層の量が12mg/cm以上である請求項に記載の正極。
【請求項4】
請求項又はに記載の正極を備えるリチウムイオン二次電池。
【請求項5】
表面にアルミニウム含有被膜が形成されたリチウムニッケル含有金属酸化物と、アルミ ニウム含有針状物質とを含有する正極材料の製造方法であって、
a)リチウムイオン二次電池の正極活物質として使用可能なリチウムニッケル含有金属酸化物、並びに、アルミニウムトリアルコキシドのアルコール溶液を準備する工程、
b)前記金属酸化物及び前記アルコール溶液を混合して、前記金属酸化物及び前記アルコール溶液の関係が以下の不等式を満足する混合液を調製する工程、
0<[(前記アルコール溶液の体積)-{(前記金属酸化物の質量/前記金属酸化物のタップ密度)-(前記金属酸化物の質量/前記金属酸化物の真密度)}]/(前記金属酸化物の質量)<2
c)前記混合液を加熱して、前記アルコール溶液のアルコールを除去しつつ、前記金属酸化物の表面に前記アルミニウムトリアルコキシドを付着させる工程、
d)前記c)工程を経た金属酸化物を500~700℃の範囲内の温度で加熱する工程、
を有し、
前記混合液において、前記金属酸化物1モルに対して、前記アルミニウムトリアルコキシドが0.05~2モル%で存在することを特徴とする正極材料の製造方法。
【請求項6】
前記d)工程が、前記c)工程を経た金属酸化物を550~650℃の範囲内の温度で加熱する工程である請求項に記載の正極材料の製造方法。
【請求項7】
前記b)工程の不等式が、以下のとおりである請求項又はに記載の正極材料の製造方法。
0<[(前記アルコール溶液の体積)-{(前記金属酸化物の質量/前記金属酸化物のタップ密度)-(前記金属酸化物の質量/前記金属酸化物の真密度)}]/(前記金属酸化物の質量)≦1
【請求項8】
e)請求項5~7のいずれか1項に記載の製造方法で正極材料を製造する工程、
f)集電箔と前記正極材料を用いて、前記集電箔の表面に前記正極材料を含有する正極活物質層を形成する工程であって、前記集電箔の一面に形成される前記正極活物質層の量を12mg/cm以上とする工程、
を有する正極の製造方法。
【請求項9】
g)請求項に記載の製造方法で正極を製造する工程、
h)前記正極を用いてリチウムイオン二次電池を製造する工程、
を有するリチウムイオン二次電池の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオン二次電池の正極に使用される、表面にアルミニウム含有被膜が形成された金属酸化物とアルミニウム含有針状物質とを含有する正極材料、及び、その製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池の正極活物質には種々の材料が用いられることが知られており、一般に、リチウム及び遷移金属を含有する金属酸化物が汎用されている。
そして、近年、より優れた正極活物質を提供すべく、リチウム及び遷移金属を含有する金属酸化物をベースとした研究が盛んに行われている。
【0003】
例えば、特許文献1には、Al(OCのイソプロピルアルコール溶液に、LiNi0.4Co0.2Mn0.4の粒子を投入し、撹拌後に吸引濾過して、LiNi0.4Co0.2Mn0.4の粒子を回収し、酸素中、600℃で加熱することで、粒子表面にAlを含有する膜を形成させることが具体的に記載されている。
【0004】
特許文献2には、Al(OCのヘプタン溶液にジプロピレングリコールとイソプロピルアルコールを加えた上で、LiNi0.33Co0.33Mn0.33の粉体を投入し、さらにアンモニア水を加えて、Al(OCを加水分解及び重縮合させることでゲル化したAl被膜をLiNi0.33Co0.33Mn0.33の表面に形成させたこと、さらに、吸引濾過にてLiNi0.33Co0.33Mn0.33を回収し、大気中、500℃で加熱することで、Alを含有するシェル部をLiNi0.33Co0.33Mn0.33の表面に形成させたことが具体的に記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2005-310744号公報
【文献】特開2015-69958号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、リチウムイオン二次電池の正極活物質に対する要求は増加しており、優れた正極活物質となり得る新たな正極材料の提供が熱望されている。
【0007】
本発明は、かかる事情に鑑みて為されたものであり、正極活物質となり得る新たな正極材料、及び、その製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、遷移金属としてニッケルを含有する金属酸化物を正極活物質として採用しようとしたところ、正極活物質としてニッケルを含有する金属酸化物を備えるリチウムイオン二次電池の抵抗が比較的高いことを知見した。
【0009】
抵抗が高い理由として、リチウムイオン二次電池の充放電時に、正極活物質と電解液が直接接触して、正極活物質の表面に何らかの高抵抗物質が生じ、そして、かかる高抵抗物質が電子の移動に悪影響を与えていると本発明者は考察した。
【0010】
そこで、本発明者は正極活物質の表面に保護層を設けることを想起した。そして、保護層を設ける方法を詳細に検討したところ、種々の知見を得た。
かかる知見に基づき、本発明は完成された。
【0011】
本発明の正極材料は、表面にアルミニウム含有被膜が形成されたリチウムニッケル含有金属酸化物と、アルミニウム含有針状物質とを含有することを特徴とする。
【0012】
本発明の正極材料の製造方法は、
a)リチウムイオン二次電池の正極活物質として使用可能なリチウムニッケル含有金属酸化物、並びに、アルミニウムトリアルコキシドのアルコール溶液を準備する工程、
b)前記金属酸化物及び前記アルコール溶液を混合して、前記金属酸化物及び前記アルコール溶液の関係が以下の不等式を満足する混合液を調製する工程、
0<[(前記アルコール溶液の体積)-{(前記金属酸化物の質量/前記金属酸化物のタップ密度)-(前記金属酸化物の質量/前記金属酸化物の真密度)}]/(前記金属酸化物の質量)<2
c)前記混合液を加熱して、前記アルコール溶液のアルコールを除去しつつ、前記金属酸化物の表面に前記アルミニウムトリアルコキシドを付着させる工程、
d)前記c)工程を経た金属酸化物を500~700℃の範囲内の温度で加熱する工程、を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明により、正極活物質となり得る新たな正極材料、及び、その製造方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】実施例1の正極材料におけるアルミニウム含有針状物質の長軸方向の長さa及び短軸方向の長さbを計測した結果である。
図2】実施例3の正極材料におけるアルミニウム含有針状物質の長軸方向の長さa及び短軸方向の長さbを計測した結果である。
図3】評価例6のDSCチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に、本発明を実施するための形態を説明する。なお、特に断らない限り、本明細書に記載された数値範囲「a~b」は、下限a及び上限bをその範囲に含む。そして、これらの上限値及び下限値、ならびに実施例中に列記した数値も含めてそれらを任意に組み合わせることで数値範囲を構成し得る。さらに、これらの数値範囲内から任意に選択した数値を、新たな上限や下限の数値とすることができる。
【0016】
本発明の正極材料は、表面にアルミニウム含有被膜が形成されたリチウムニッケル含有金属酸化物と、アルミニウム含有針状物質とを含有することを特徴とする。
【0017】
本発明の正極材料の製造方法(以下、単に「本発明の製造方法」という。)は、
a)リチウムイオン二次電池の正極活物質として使用可能なリチウムニッケル含有金属酸化物、並びに、アルミニウムトリアルコキシドのアルコール溶液を準備する工程、
b)前記金属酸化物及び前記アルコール溶液を混合して、前記金属酸化物及び前記アルコール溶液の関係が以下の不等式を満足する混合液を調製する工程、
0<[(前記アルコール溶液の体積)-{(前記金属酸化物の質量/前記金属酸化物のタップ密度)-(前記金属酸化物の質量/前記金属酸化物の真密度)}]/(前記金属酸化物の質量)<2
c)前記混合液を加熱して、前記アルコール溶液のアルコールを除去しつつ、前記金属酸化物の表面に前記アルミニウムトリアルコキシドを付着させる工程、
d)前記c)工程を経た金属酸化物を500~700℃の範囲内の温度で加熱する工程、を有することを特徴とする。
【0018】
以下、本発明の正極材料を備える正極を、本発明の正極という。本発明の正極を備えるリチウムイオン二次電池を、本発明のリチウムイオン二次電池という。
【0019】
まず、a)工程について説明する。a)工程は、リチウムイオン二次電池の正極活物質として使用可能なリチウムニッケル含有金属酸化物、並びに、アルミニウムトリアルコキシドのアルコール溶液を準備する工程である。
【0020】
リチウムイオン二次電池の正極活物質として使用可能なリチウムニッケル含有金属酸化物としては、一般式:LiNiCo(MはMn及びAlから選択される。DはW、Mo、Re、Pd、Ba、Cr、B、Sb、Sr、Pb、Ga、Nb、Mg、Ta、Ti、La、Zr、Cu、Ca、Ir、Hf、Rh、Fe、Ge、Zn、Ru、Sc、Sn、In、Y、Bi、S、Si、Na、K、P、Vから選ばれる少なくとも1の元素である。a、b、c、d、e、fは0.2≦a≦2、b+c+d+e=1、b>0、0≦e<1、1.7≦f≦3を満足する。)で表される層状岩塩構造のリチウムニッケル複合金属酸化物、一般式:LiNiMn2―y―z(Aは、Ca、Mg、S、Si、Na、K、Al、P、Ga、Geから選ばれる少なくとも1の元素、並びに、Ni及びMn以外の遷移金属元素から選ばれる少なくとも1種の金属元素から選択される。xは0<x≦2.2を満足する。y及びzは0<y≦1、zは0≦z<1、0<y+z≦1を満足する。)で表されるスピネル構造のリチウムニッケルマンガン複合金属酸化物を例示できる。
また、上記金属酸化物としては、LiMPO、LiMVO又はLiMSiO(MはNiを必須の成分とし、さらにCo、Mn、Feが存在しても良い。)で表されるポリアニオン系化合物、LiMPOF(MはNiを必須の成分とし、さらに他の遷移金属が存在しても良い。)で表されるタボライト系化合物、LiMBO(MはNiを必須の成分とし、さらに他の遷移金属が存在しても良い。)で表されるボレート系化合物を挙げることができる。
【0021】
高容量及び耐久性などに優れる点から、一般式:LiNiCo(MはMn及びAlから選択される。DはW、Mo、Re、Pd、Ba、Cr、B、Sb、Sr、Pb、Ga、Nb、Mg、Ta、Ti、La、Zr、Cu、Ca、Ir、Hf、Rh、Fe、Ge、Zn、Ru、Sc、Sn、In、Y、Bi、S、Si、Na、K、P、Vから選ばれる少なくとも1の元素である。a、b、c、d、e、fは0.2≦a≦2、b+c+d+e=1、0≦e<1、1.7≦f≦3を満足する。) で表される層状岩塩構造のリチウムニッケル複合金属酸化物を採用することが好ましい。
【0022】
上記一般式において、b、c、dの値は、上記条件を満足するものであれば特に制限はないが、また、b、c、dの少なくともいずれか一つが0.5≦b≦0.95、0.01≦c≦0.4、0.01≦d≦0.4の範囲であることが好ましく、0.6≦b≦0.92、0.02≦c≦0.3、0.02≦d≦0.3の範囲であることがより好ましく、0.7≦b≦0.9、0.03≦c≦0.2、0.03≦d≦0.15の範囲であることがさらに好ましく、0.75≦b≦0.89、0.04≦c≦0.15、0.03≦d≦0.1の範囲であることがさらに好ましい。
【0023】
a、e、fについては、上記一般式で規定する範囲内の数値であればよく、好ましくは0.5≦a≦1.5、0≦e<0.2、1.8≦f≦2.5、より好ましくは0.8≦a≦1.3、0≦e<0.1、1.9≦f≦2.1をそれぞれ例示することができる。
【0024】
高容量及び耐久性などに優れる点から、一般式:LiNiMn2―y―z(Aは、Ca、Mg、S、Si、Na、K、Al、P、Ga、Geから選ばれる少なくとも1の元素、並びに、Ni及びMn以外の遷移金属元素から選ばれる少なくとも1種の金属元素から選択される。xは0<x≦2.2を満足する。y及びzは0<y≦1、zは0≦z<1、0<y+z≦1を満足する。)で表されるスピネル構造のリチウムニッケルマンガン複合金属酸化物を採用することが好ましい。
【0025】
上記一般式において、xの値の範囲としては、0.5≦x≦1.8、0.7≦x≦1.5、0.9≦x≦1.2を例示できる。yの値の範囲としては、0.1≦y≦0.8、0.3≦y≦0.6を例示できる。zの値の範囲としては、0≦y≦0.2、0≦y≦0.1を例示できる。
【0026】
リチウムニッケル含有金属酸化物は市販のものを購入してもよい。また、リチウムニッケル含有金属酸化物は、原料となる金属酸化物、金属水酸化物や、金属炭酸塩などの金属塩などを用いて、従来の周知の製造方法に従い製造してもよい。
【0027】
リチウムニッケル含有金属酸化物は、適宜、粉砕処理を行い粉末状として、さらに、所望の粒径に分級して使用するのが好ましい。リチウムニッケル含有金属酸化物の平均粒子径としては、1~20μmの範囲内が好ましく、2~15μmの範囲内がより好ましく、3~10μmの範囲内がさらに好ましく、4~8μmの範囲内が特に好ましい。
なお、本明細書における平均粒子径とは、一般的なレーザー散乱回折式粒度分布計での測定におけるD50を意味する。
【0028】
アルミニウムトリアルコキシドの3つのアルコキシドとしては、すべて同一のものでもよいが、異なるものでもよい。アルコキシドの具体例として、OCH、OC、O-n-C、O-iso-C、O-n-C、O-iso-C、O-sec-C、O-tert-Cを挙げることができる。
【0029】
アルミニウムトリアルコキシドのアルコール溶液において溶媒となるアルコールとしては、アルミニウムトリアルコキシドにおけるアルコキシドの化学構造に対応するアルコールを採用するのが好ましい。例えば、Al(O-iso-Cを使用するのであれば、イソプロピルアルコールを使用するのが好ましい。
【0030】
アルミニウムトリアルコキシドのアルコール溶液におけるアルミニウムトリアルコキシドの濃度としては、以下のb)工程での規定と、製造対象物における目標のアルミニウム含量とを勘案して、適宜適切に決定すればよい。
アルミニウムトリアルコキシドの濃度としては、1~3質量%、1.5~2.5質量%を例示できる。
【0031】
次に、b)工程について説明する。b)工程は、リチウムイオン二次電池の正極活物質として使用可能なリチウムニッケル含有金属酸化物(以下、単に「金属酸化物」ということがある。)、及び、アルミニウムトリアルコキシドのアルコール溶液(以下、単に「アルコール溶液」ということがある。)を混合して、金属酸化物及びアルコール溶液の関係が、以下の不等式(以下、本発明の不等式ということがある。)を満足する混合液を調製する工程である。
0<[(アルコール溶液の体積)-{(金属酸化物の質量/金属酸化物のタップ密度)-(金属酸化物の質量/金属酸化物の真密度)}]/(金属酸化物の質量)<2
【0032】
本発明の不等式におけるタップ密度とは、JIS R 1628 ファインセラミックス粉末のかさ密度測定方法で定義される「タップかさ密度」を意味し、その測定方法は、定質量測定法とする。
【0033】
本発明の不等式の意義について説明する。
まず、(金属酸化物の質量/金属酸化物のタップ密度)は、金属酸化物の粒子間の隙間や金属酸化物と収容容器との隙間などを加味した、収容容器において金属酸化物が見かけ上、占める体積である。次に、(金属酸化物の質量/金属酸化物の真密度)は、金属酸化物そのもののみが占める体積である。
【0034】
そうすると、(金属酸化物の質量/金属酸化物のタップ密度)-(金属酸化物の質量/金属酸化物の真密度)の値は、収容容器において金属酸化物が見かけ上、占める体積のうち、気体が存在する体積を意味する。
【0035】
ここで、収容容器において金属酸化物が見かけ上、占める体積のうち、気体が存在する体積を、すべてアルコール溶液で置換した場合には、金属酸化物のすべてがアルコール溶液に浸漬された状態となる。この状態は、(アルコール溶液の体積)-{(金属酸化物の質量/金属酸化物のタップ密度)-(金属酸化物の質量/金属酸化物の真密度)}の値が0の場合に相当する。そして、この場合のアルコール溶液の体積が、金属酸化物のすべてがアルコール溶液に浸漬された状態となるために必要とされるアルコール溶液の量(以下、必須量ということがある。)である。
【0036】
(アルコール溶液の体積)-{(金属酸化物の質量/金属酸化物のタップ密度)-(金属酸化物の質量/金属酸化物の真密度)}の値が正となる場合には、その値は、必須量を超過するアルコール溶液の体積の量(以下、余剰液量ということがある。)に該当する。
そして、余剰液量(cm)を金属酸化物の質量(g)で除した、[(アルコール溶液の体積)-{(金属酸化物の質量/金属酸化物のタップ密度)-(金属酸化物の質量/金属酸化物の真密度)}]/(金属酸化物の質量)とは、金属酸化物1gあたりの余剰液量(cm)を意味する。
【0037】
余剰液量が0以上の状態を経ることで、金属酸化物の表面にアルミニウムトリアルコキシドが均一に付着することが可能になる。
【0038】
余剰液量の値が大きすぎる場合、すなわち、使用するアルコール溶液の量が過多である場合には、c)工程において、アルミニウムトリアルコキシドの析出物の析出場所が、金属酸化物の表面に限定されないといえる。
アルミニウムトリアルコキシドの析出物は、d)工程で別の物質に変換される。金属酸化物の表面で析出したアルミニウムトリアルコキシドの析出物は、d)工程で別の物質に変換されて、金属酸化物の好適な保護層として作用する。また、金属酸化物の表面以外の場所で析出したアルミニウムトリアルコキシドの析出物は、d)工程で別の物質に変換されて、導電助剤として作用すると推定される。しかしながら、金属酸化物の表面以外の場所で析出したアルミニウムトリアルコキシドの析出物の量が多すぎる場合には、正極材料全体の質量に対する容量が低下する点、及び、アルミニウムトリアルコキシドの析出物がd)工程で別の物質に変換されて導電助剤として作用すると推定されるとしても、かかる物質は一般的な導電助剤と比較すると導電性に劣ると考えられる点からみて、不利である。
【0039】
すなわち、本発明の不等式は、アルコール溶液と金属酸化物との量の関係を、製造される正極材料の物性の点から好適な範囲に規定したものである。
【0040】
本発明の不等式として、好適なものを以下に例示する。
0<[(アルコール溶液の体積)-{(金属酸化物の質量/金属酸化物のタップ密度)-(金属酸化物の質量/金属酸化物の真密度)}]/(金属酸化物の質量)≦1
0.1≦[(アルコール溶液の体積)-{(金属酸化物の質量/金属酸化物のタップ密度)-(金属酸化物の質量/金属酸化物の真密度)}]/(金属酸化物の質量)≦0.7
0.15≦[(アルコール溶液の体積)-{(金属酸化物の質量/金属酸化物のタップ密度)-(金属酸化物の質量/金属酸化物の真密度)}]/(金属酸化物の質量)≦0.5
【0041】
混合液における金属酸化物とアルミニウムトリアルコキシドとの量の関係としては、金属酸化物1モルに対して、アルミニウムトリアルコキシドが0.05~2モル%で存在するのが好ましく、0.1~1モル%で存在するのがより好ましく、0.2~0.7モル%で存在するのがさらに好ましく、0.25~0.5モル%で存在するのが特に好ましい。
【0042】
次に、c)工程について説明する。c)工程は、b)工程で調製した混合液を加熱して、アルコール溶液のアルコールを除去しつつ、金属酸化物の表面にアルミニウムトリアルコキシドを付着させる工程である。
本発明の製造方法におけるc)工程は、特許文献1に開示された、Al(OCのイソプロピルアルコール溶液にLiNi0.4Co0.2Mn0.4の粒子を投入し、撹拌後に吸引濾過してLiNi0.4Co0.2Mn0.4の粒子を回収する技術とは異なり、基本的にアルコール溶液に存在するアルミニウムトリアルコキシドすべてを利用するものであるから、正極材料におけるアルミニウム量の制御に優れるといえる。
【0043】
c)工程は、基本的には、混合液に対するアルミニウムトリアルコキシドの溶解度を利用した工程である。c)工程においては、b)工程で調製した混合液から溶媒のアルコールを徐々に除去することで、溶解できなくなったアルミニウムトリアルコキシドが金属酸化物の表面に析出する。また、一部のアルミニウムトリアルコキシドは、アルミニウムトリアルコキシドの結晶を核として成長し、金属酸化物の表面以外の場所で析出する。
【0044】
加熱温度としては、除去するアルコールの沸点以上~沸点+200℃の範囲内が好ましく、除去するアルコールの沸点+30℃~沸点+150℃の範囲内がより好ましく、除去するアルコールの沸点+50℃~沸点+100℃の範囲内がさらに好ましい。
【0045】
c)工程は、撹拌条件下で行うのが好ましい。また、c)工程は、減圧条件下で行ってもよい。撹拌条件下及び/又は減圧条件下とすることで、アルミニウムトリアルコキシドの析出が促される場合がある。
c)工程は、加熱式の撹拌機や、加熱式のロータリーエバポレーターを用いて行うのが好ましい。
【0046】
次に、d)工程について説明する。d)工程は、c)工程を経た金属酸化物を500~700℃の範囲内の温度で加熱する工程である。
加熱温度としては550~650℃の範囲内の温度が好ましい。550~650℃の範囲内の温度で加熱することにより、得られる正極材料の熱安定性が向上する。好適な加熱温度として、560~640℃、570~630℃、580~620℃、590~610℃を例示できる。
【0047】
加熱時間は、0.5~5時間が好ましく、0.8~3時間がより好ましい。
【0048】
また、d)工程は、常温乃至100℃程度の低温から、所望の加熱温度にまで、徐々に昇温する昇温速度コントロール下で、行ってもよい。
【0049】
d)工程は、酸素存在下で行ってもよいし、ヘリウム、アルゴンなどの不活性ガス存在下で行ってもよく、また、窒素ガス雰囲気下で行ってもよい。費用の点から、d)工程は大気下で行うのが好ましい。
【0050】
d)工程を経ることで、表面にアルミニウム含有被膜が形成された金属酸化物を含有する正極材料が製造される。当該正極材料には、c)工程にて金属酸化物の表面以外の場所で析出したアルミニウムトリアルコキシドが針状に結晶成長したものに由来すると考えられる、アルミニウム含有針状物質が含有される。かかるアルミニウム含有針状物質は、導電助剤として機能すると考えられ、その針状形状が導電パスを形成するのに役立つといえる。
【0051】
アルミニウム含有針状物質の形状としては、長軸方向の長さをa、短軸方向の長さをbとしたときに、1.5≦a/b≦20の関係を満足するものが好ましく、2≦a/b≦15の関係を満足するものがより好ましく、3≦a/b≦10の関係を満足するものがさらに好ましい。
aの範囲としては、1~20μmの範囲内が好ましく、2~15μmの範囲内がより好ましく、3~10μmの範囲内がさらに好ましく、4~8μmの範囲内が特に好ましい。
bの範囲としては、0.1~5μmの範囲内が好ましく、0.15~3μmの範囲内がより好ましく、0.2~2μmの範囲内がさらに好ましく、0.25~1μmの範囲内が特に好ましい。
【0052】
リチウムイオン二次電池の正極における一般的な導電助剤としては、径が0.1μm程度のアセチレンブラックが汎用されている。本発明の正極材料における好適なアルミニウム含有針状物質の長軸方向の長さaは、汎用されているアセチレンブラックの径よりも大きい。そのため、本発明の正極材料においては、比較的、長距離の導電パスが形成されるといえる。
【0053】
本発明の製造方法からみて、アルミニウム含有針状物質は、炭素、酸素及びアルミニウムを含有するといえる。アルミニウム含有針状物質における炭素、酸素及びアルミニウムの組成式としては、下記組成式(1)を例示できる。
【0054】
組成式(1) CAl
x、y及びzは、x+y+z=100、10≦x≦40、30≦y≦80、10≦z≦30を満足する。
【0055】
本発明の正極材料の電子顕微鏡像において、表面にアルミニウム含有被膜が形成された金属酸化物の二次粒子の個数に対する、アルミニウム含有針状物質の個数の比rとしては、0.1≦r≦10の範囲内が好ましく、0.5≦r≦8の範囲内がより好ましく、1≦r≦6の範囲内がさらに好ましく、1.5≦r≦4の範囲内が特に好ましく、2≦r≦3の範囲内が最も好ましい。
【0056】
なお、表面にアルミニウム含有被膜が形成された金属酸化物の大きさは、a)工程で採用したリチウムニッケル含有金属酸化物の大きさと概ね同等である。アルミニウム含有被膜の厚みが薄いためである。
【0057】
d)工程を経て得られた本発明の正極材料は、粉砕して粉末にするのが好ましく、さらに、篩などを用い適切な範囲の粒径に分級するのがより好ましい。
【0058】
本発明の正極材料は、リチウムイオン二次電池の正極活物質として使用可能なリチウムニッケル含有金属酸化物を内包するため、リチウムイオン二次電池の正極活物質として使用し得る。
【0059】
本発明の正極材料を具備する本発明の正極は、具体的には、集電箔と、集電箔の表面に形成された正極活物質層とを備え、かつ、正極活物質層が本発明の正極材料を具備している。
【0060】
集電箔は箔状のものであって、リチウムイオン二次電池の放電又は充電の間、電極に電流を流し続けるための化学的に不活性な電子伝導体をいう。集電箔の材料としては、銀、銅、金、アルミニウム、タングステン、コバルト、亜鉛、ニッケル、鉄、白金、錫、インジウム、チタン、ルテニウム、タンタル、クロム、モリブデンから選ばれる少なくとも一種、並びにステンレス鋼などの金属材料を例示することができる。集電箔は公知の保護層で被覆されていても良い。集電箔の表面を公知の方法で処理したものを集電箔として用いても良い。
【0061】
集電箔としては、アルミニウム製のものを採用するのが好ましい。
アルミニウム製の集電箔は、アルミニウム又はアルミニウム合金を材料とする。ここでアルミニウムは、純アルミニウムを意味する。純度99.0%以上のアルミニウムを純アルミニウムと称する。純アルミニウムに種々の元素を添加して合金としたものをアルミニウム合金と称する。アルミニウム合金としては、Al-Cu系、Al-Mn系、Al-Fe系、Al-Si系、Al-Mg系、Al-Mg-Si系、Al-Zn-Mg系が挙げられる。
【0062】
また、アルミニウム又はアルミニウム合金として、具体的には、例えばJIS A1085、A1N30等のA1000系合金(純アルミニウム系)、JIS A3003、A3004等のA3000系合金(Al-Mn系)、JIS A8079、A8021等のA8000系合金(Al-Fe系)が挙げられる。
【0063】
集電箔の厚みとしては、1~100μm、5~50μm、10~30μmの範囲内を例示できる。
【0064】
集電箔の一面に形成された正極活物質層の量(以下、「正極の目付量」ということがある。)としては、多い方が好ましい。その理由は以下のとおりである。
【0065】
まず、表面にアルミニウム含有被膜が形成されたリチウムニッケル含有金属酸化物(以下、本発明の金属酸化物という。)は、アルミニウム含有被膜の存在に因り、電解液との直接接触が抑制される。そのため、本発明の金属酸化物においては、電解液との不都合な反応により生じる高抵抗物質の生成が抑制されるため、電子の移動に関する抵抗の増大が抑制される。
【0066】
次に、正極の抵抗には、電子の移動に関する抵抗(以下、電子抵抗という。)、電荷担体の移動に関する抵抗(以下、イオン抵抗という。)、電荷担体と金属酸化物との反応に関する抵抗(以下、反応抵抗という。)が存在するといえる。
【0067】
ここで、同一の条件下で同量の電流を発生させる場合を前提として考察すると、正極の目付量が多い場合には、酸化還元反応が生じる地点が増加するため、反応抵抗が低下すると考えられる。他方、正極の目付量が多い場合には、電荷担体の移動距離が増加するため、イオン抵抗が増加すると考えられる。これらの現象は、本発明の金属酸化物であっても、他の正極活物質であっても同様に生じることである。
【0068】
一般的には、正極の目付量が多い場合には、導電パスの距離が増加するため電子抵抗が著しく増加すると考えられる。
しかしながら、本発明の金属酸化物は電子抵抗の増大が抑制されているため、正極の目付量が多い場合であっても、電子抵抗の増加を比較的抑制することができる。しかも、本発明の金属酸化物は、アルミニウム含有針状物質により、長距離の導電パスを提供されている。よって、正極の目付量が多い場合には、本発明の正極材料の奏する効果が効果的に発揮されるといえる。
【0069】
正極の目付量としては、12mg/cm以上が好ましく、15mg/cm以上がより好ましく、17mg/cm以上がさらに好ましく、19mg/cm以上が特に好ましい。
敢えて、正極の目付量の上限を例示すると、30mg/cm、40mg/cm、50mg/cmを挙げることができる。
【0070】
正極活物質層には、正極活物質として本発明の正極材料に内包されるもののみを採用してもよいし、公知の正極活物質を併用してもよい。
【0071】
正極活物質層における本発明の正極材料の割合としては、80~98質量%が好ましく、85~97質量%がより好ましく、90~96質量%がさらに好ましい。
【0072】
正極活物質層は、本発明の正極材料、並びに必要に応じて導電助剤及び/又は結着剤を含む。
なお、以下の説明において、単に「活物質」と表記する場合があるが、これは正極活物質及び負極活物質の両者の説明を兼ねるためである。
【0073】
導電助剤は、電極の導電性を高めるために添加される。導電助剤としては化学的に不活性な電子伝導体であれば良く、炭素粒子であるカーボンブラック、黒鉛、気相法炭素繊維(Vapor Grown Carbon Fiber)、および各種金属粒子などが例示される。カーボンブラックとしては、アセチレンブラック、ケッチェンブラック(登録商標)、ファーネスブラック、チャンネルブラックなどが例示される。これらの導電助剤を単独または二種以上組み合わせて用いることができる。
【0074】
活物質層中の導電助剤の配合割合は、質量比で、活物質:導電助剤=1:0.005~1:0.5であるのが好ましく、1:0.01~1:0.2であるのがより好ましく、1:0.03~1:0.1であるのがさらに好ましい。導電助剤が少なすぎると効率のよい導電パスを形成できず、また、導電助剤が多すぎると活物質層の成形性が悪くなるとともに電極のエネルギー密度が低くなるためである。
【0075】
結着剤は、活物質や導電助剤を集電箔の表面に繋ぎ止め、電極中の導電ネットワークを維持する役割を果たすものである。結着剤としては、ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン、フッ素ゴム等の含フッ素樹脂、ポリプロピレン、ポリエチレン等の熱可塑性樹脂、ポリイミド、ポリアミドイミド等のイミド系樹脂、アルコキシシリル基含有樹脂、ポリ(メタ)アクリル酸等のアクリル系樹脂、スチレンブタジエンゴム(SBR)、カルボキシメチルセルロースを例示することができる。これらの結着剤を単独で又は複数で採用すれば良い。
【0076】
活物質層中の結着剤の配合割合は、質量比で、活物質:結着剤=1:0.001~1:0.3であるのが好ましく、1:0.005~1:0.2であるのがより好ましく、1:0.01~1:0.15であるのがさらに好ましい。結着剤が少なすぎると電極の成形性が低下し、また、結着剤が多すぎると電極のエネルギー密度が低くなるためである。
【0077】
本発明のリチウムイオン二次電池は、本発明の正極、負極、電解液及びセパレータを備える。
【0078】
負極は、集電箔と、集電箔の表面に結着させた負極活物質層を有する。集電箔については、正極で説明したものを適宜適切に採用すれば良い。負極活物質層は負極活物質、並びに必要に応じて導電助剤及び/又は結着剤を含む。
【0079】
負極活物質としては、リチウムを吸蔵及び放出可能な炭素系材料、リチウムと合金化可能な元素、リチウムと合金化可能な元素を有する化合物を例示することができる。
【0080】
炭素系材料としては、難黒鉛化性炭素、黒鉛、コークス類、グラファイト類、ガラス状炭素類、有機高分子化合物焼成体、炭素繊維、活性炭あるいはカーボンブラック類が例示できる。ここで、有機高分子化合物焼成体とは、フェノール類やフラン類などの高分子材料を適当な温度で焼成して炭素化したものをいう。
【0081】
リチウムと合金化可能な元素としては、具体的にNa、K、Rb、Cs、Fr、Be、Mg、Ca、Sr、Ba、Ra、Ti、Ag、Zn、Cd、Al、Ga、In、Si、Ge、Sn、Pb、Sb、Biが例示でき、特に、Si又はSnが好ましい。
【0082】
リチウムと合金化可能な元素を有する化合物としては、具体的にZnLiAl、AlSb、SiB、SiB、MgSi、MgSn、NiSi、TiSi、MoSi、CoSi、NiSi、CaSi、CrSi、CuSi、FeSi、MnSi、NbSi、TaSi、VSi、WSi、ZnSi、SiC、Si、SiO、SiO(0<v≦2)、SnO(0<w≦2)、SnSiO、LiSiO あるいはLiSnOを例示でき、特に、SiO(0.3≦x≦1.6、又は0.5≦x≦1.5)が好ましい。
【0083】
負極活物質として、CaSiを塩酸やフッ化水素酸などの酸で処理して得られる層状ポリシランを、300~1000℃で加熱して得られるシリコン材料を採用しても良い。さらに、シリコン材料を炭素源とともに加熱して、カーボンコートしたものを負極活物質として採用してもよい。
【0084】
負極活物質としては、以上のものの一種以上を使用することができる。
【0085】
負極に用いる導電助剤及び結着剤については、正極で説明したものを同様の配合割合で適宜適切に採用すれば良い。
【0086】
集電箔の表面に活物質層を形成させるには、ロールコート法、ダイコート法、ディップコート法、ドクターブレード法、スプレーコート法、カーテンコート法などの従来から公知の方法を用いて、集電箔の表面に活物質を塗布すればよい。具体的には、活物質、溶剤、並びに必要に応じて結着剤及び/又は導電助剤を混合し、スラリー状の活物質層形成用組成物を調製する。上記溶剤としては、N-メチル-2-ピロリドン、メタノール、メチルイソブチルケトン、水を例示できる。活物質層形成用組成物を集電箔の表面に塗布後、乾燥する。電極密度を高めるべく、乾燥後のものを圧縮しても良い。
【0087】
電解液は、非水溶媒と非水溶媒に溶解した電解質とを含んでいる。
【0088】
非水溶媒としては、環状カーボネート、環状エステル、鎖状カーボネート、鎖状エステル、エーテル類等が使用できる。環状カーボネートとしては、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート、ビニレンカーボネートを例示でき、環状エステルとしては、ガンマブチロラクトン、2-メチル-ガンマブチロラクトン、アセチル-ガンマブチロラクトン、ガンマバレロラクトンを例示できる。鎖状カーボネートとしては、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、ジブチルカーボネート、ジプロピルカーボネート、エチルメチルカーボネートを例示でき、鎖状エステルとしては、プロピオン酸アルキルエステル、マロン酸ジアルキルエステル、酢酸アルキルエステル等を例示できる。エーテル類としては、テトラヒドロフラン、2-メチルテトラヒドロフラン、1,4-ジオキサン、1,2-ジメトキシエタン、1,2-ジエトキシエタン、1,2-ジブトキシエタンを例示できる。非水溶媒としては、上記具体的な溶媒の化学構造のうち一部又は全部の水素がフッ素に置換した化合物を採用しても良い。
【0089】
電解質としては、LiClO、LiAsF、LiPF、LiBF、LiCFSO、LiN(FSO、LiN(CFSO等のリチウム塩を例示できる。
【0090】
電解液としては、エチレンカーボネート、ジメチルカーボネート、プロピレンカーボネート、ジエチルカーボネートなどの非水溶媒にリチウム塩を0.5mol/Lから3mol/L程度の濃度で溶解させた溶液を例示できる。
【0091】
セパレータは、正極と負極とを隔離し、両極の接触による短絡を防止しつつ、リチウムイオンを通過させるものである。セパレータとしては、ポリテトラフルオロエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリイミド、ポリアミド、ポリアラミド(Aromatic polyamide)、ポリエステル、ポリアクリロニトリル等の合成樹脂、セルロース、アミロース等の多糖類、フィブロイン、ケラチン、リグニン、スベリン等の天然高分子、セラミックスなどの電気絶縁性材料を1種若しくは複数用いた多孔体、不織布、織布などを挙げることができる。また、セパレータは多層構造としてもよい。
【0092】
次に、リチウムイオン二次電池の製造方法について説明する。
【0093】
正極および負極に必要に応じてセパレータを挟装させ電極体とする。電極体は、正極、セパレータ及び負極を重ねた積層型、又は、正極、セパレータ及び負極を捲いた捲回型のいずれの型にしても良い。ただし、正極の目付量が多い方が好ましい本発明のリチウムイオン二次電池を捲回型とした場合、電極に曲げ部分が存在し、この曲げ部分で電極破断が起こり得る。そのため、本発明のリチウムイオン二次電池の内部形状は、電極に曲げ部分を有さない積層型とすることが好ましい。
【0094】
正極の集電箔および負極の集電箔から、外部に通ずる正極端子および負極端子までの間を、集電用リード等を用いて接続した後に、電極体に電解液を加えてリチウムイオン二次電池とするとよい。また、本発明のリチウムイオン二次電池は、電極に含まれる活物質の種類に適した電圧範囲で充放電を実行されればよい。
【0095】
本発明のリチウムイオン二次電池の外部形状は特に限定されるものでなく、円筒型、角型、コイン型、ラミネート型等、種々の形状を採用することができる。
【0096】
本発明のリチウムイオン二次電池は、車両に搭載してもよい。車両は、その動力源の全部あるいは一部にリチウムイオン二次電池による電気エネルギーを使用している車両であればよく、たとえば、電気車両、ハイブリッド車両などであるとよい。車両にリチウムイオン二次電池を搭載する場合には、リチウムイオン二次電池を複数直列に接続して組電池とするとよい。リチウムイオン二次電池を搭載する機器としては、車両以外にも、パーソナルコンピュータ、携帯通信機器など、電池で駆動される各種の家電製品、オフィス機器、産業機器などが挙げられる。さらに、本発明のリチウムイオン二次電池は、風力発電、太陽光発電、水力発電その他電力系統の蓄電装置及び電力平滑化装置、船舶等の動力及び/又は補機類の電力供給源、航空機、宇宙船等の動力及び/又は補機類の電力供給源、電気を動力源に用いない車両の補助用電源、移動式の家庭用ロボットの電源、システムバックアップ用電源、無停電電源装置の電源、電動車両用充電ステーションなどにおいて充電に必要な電力を一時蓄える蓄電装置に用いてもよい。
【0097】
以上、本発明の実施形態を説明したが、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。本発明の要旨を逸脱しない範囲において、当業者が行い得る変更、改良等を施した種々の形態にて実施することができる。
【実施例
【0098】
以下に、具体例を示し、本発明をより具体的に説明する。なお、本発明は、これらの具体例によって限定されるものではない。
【0099】
(実施例1)
以下のとおり、実施例1の正極材料を製造した。
【0100】
a)工程
リチウムイオン二次電池の正極活物質として使用可能なリチウムニッケル含有金属酸化物として、粉末状態であって層状岩塩構造のLiNi0.87Co0.1Al0.03を準備した。準備したLiNi0.87Co0.1Al0.03のタップ密度は2.44g/cmであり、真密度は4.69g/cmである。
0.75質量部のアルミニウムイソプロポキシド(Al(O-iso-C:富士フィルム和光純薬株式会社)及び36.75質量部のイソプロピルアルコールを混合し、加熱して、アルミニウムイソプロポキシドの濃度が2質量%であるアルコール溶液を製造した。
【0101】
b)工程
120質量部のLiNi0.87Co0.1Al0.03及び126.7質量部のアルコール溶液を混合して混合液とした。混合液において、LiNi0.87Co0.1Al0.03の1モルに対して、Al(O-iso-Cは1モル%の割合で存在する。
[(アルコール溶液の体積)-{(金属酸化物の質量/金属酸化物のタップ密度)-(金属酸化物の質量/金属酸化物の真密度)}]/(金属酸化物の質量)の値は、1.15(cm/g)であった。
【0102】
c)工程
200rpmで撹拌条件下の上記混合液を、150℃で加熱して、溶媒のイソプロピルアルコールを除去した。残渣を、減圧条件下、70℃で10時間加熱することで、表面にAl(O-iso-Cを付着させたLiNi0.87Co0.1Al0.03を製造した。
【0103】
d)工程
表面にAl(O-iso-Cを付着させたLiNi0.87Co0.1Al0.03を、大気下で120℃/時の速度で昇温加熱し、加熱温度が500℃に達してから500℃での加熱状態を1時間維持した。加熱後の材料を冷却し、目開き75μmの篩を通過させて、実施例1の正極材料を製造した。
【0104】
以下のとおり、実施例1の正極及びリチウムイオン二次電池を製造した。
【0105】
実施例1の正極材料を90質量部、導電助剤であるアセチレンブラック5質量部、結着剤であるポリフッ化ビニリデン5質量部、若干量の分散剤、及び、N-メチル-2-ピロリドンを混合して、スラリー状の活物質層形成用組成物を製造した。集電箔として厚み15μmのJIS A3000番系に該当するアルミニウム箔を準備した。このアルミニウム箔の表面に、ドクターブレードを用いて活物質層形成用組成物を膜状になるように塗布した。活物質層形成用組成物が塗布されたアルミニウム箔を加熱乾燥することで、N-メチル-2-ピロリドンを除去した。その後、このアルミニウム箔をプレスし接合物を得た。得られた接合物を真空乾燥機で加熱乾燥して、正極活物質層が形成されたアルミニウム箔を得た。これを実施例1の正極とした。
【0106】
なお、正極活物質層の密度は2.7g/cmであった。正極の目付量は6mg/cmであった。
【0107】
負極活物質として黒鉛98質量部、結着剤であるスチレンブタジエンゴム1質量部及びカルボキシメチルセルロース1質量部、並びに、イオン交換水を混合して、スラリー状の活物質層形成用組成物を製造した。集電箔として厚み10μmの銅箔を準備した。この銅箔の表面に、ドクターブレードを用いて、活物質層形成用組成物を膜状に塗布した。活物質層形成用組成物が塗布された銅箔を乾燥して水を除去し、その後、銅箔をプレスし、接合物を得た。得られた接合物を真空乾燥機で加熱乾燥して、負極活物質層が形成された銅箔を得た。これを負極とした。
【0108】
なお、負極活物質層の密度は1.06g/cmであった。負極の目付量は4.2mg/cmであった。
【0109】
セパレータとして、厚さ20μm、空隙率47%のポリエチレン製多孔質膜を準備した。
エチレンカーボネート、エチルメチルカーボネート及びジメチルカーボネートを体積比3:3:4で混合し、さらに、ビニレンカーボネートを全体の体積に対して0.1体積%となる量で添加して、混合溶媒を製造した。LiPFを混合溶媒に溶解して、LiPFの濃度が1mol/Lの電解液を製造した。
【0110】
実施例1の正極と負極とでセパレータを挟持し、極板群とした。この極板群を電解液とともに、袋状のラミネートフィルムに収容して、実施例1のリチウムイオン二次電池を製造した。
【0111】
(比較例1)
実施例1の正極材料に替えて、粉末状態であって層状岩塩構造のLiNi0.87Co0.1Al0.03を使用した以外は、実施例1と同様の方法で、比較例1のリチウムイオン二次電池を製造した。
【0112】
(実施例2)
以下のとおり、実施例2の正極及びリチウムイオン二次電池を製造した。
【0113】
実施例1の正極材料を95質量部、導電助剤であるアセチレンブラック2質量部、結着剤であるポリフッ化ビニリデン3質量部、若干量の分散剤、及び、N-メチル-2-ピロリドンを混合して、スラリー状の活物質層形成用組成物を製造した。集電箔として厚み15μmのJIS A3000番系に該当するアルミニウム箔を準備した。このアルミニウム箔の表面に、ドクターブレードを用いて活物質層形成用組成物を膜状になるように塗布した。活物質層形成用組成物が塗布されたアルミニウム箔を加熱乾燥することで、N-メチル-2-ピロリドンを除去した。その後、このアルミニウム箔をプレスし接合物を得た。得られた接合物を真空乾燥機で加熱乾燥して、正極活物質層が形成されたアルミニウム箔を得た。これを実施例2の正極とした。
【0114】
なお、正極活物質層の密度は3.2g/cmであった。正極の目付量は19mg/cmであった。
【0115】
負極活物質として黒鉛98質量部、結着剤であるスチレンブタジエンゴム1質量部及びカルボキシメチルセルロース1質量部、並びに、イオン交換水を混合して、スラリー状の活物質層形成用組成物を製造した。集電箔として厚み10μmの銅箔を準備した。この銅箔の表面に、ドクターブレードを用いて、活物質層形成用組成物を膜状に塗布した。活物質層形成用組成物が塗布された銅箔を乾燥して水を除去し、その後、銅箔をプレスし、接合物を得た。得られた接合物を真空乾燥機で加熱乾燥して、負極活物質層が形成された銅箔を得た。これを負極とした。
【0116】
なお、負極活物質層の密度は1.28g/cmであった。負極の目付量は14mg/cmであった。
【0117】
セパレータとして、厚さ20μm、空隙率47%のポリエチレン製多孔質膜を準備した。
エチレンカーボネート、エチルメチルカーボネート及びジメチルカーボネートを体積比3:3:4で混合し、さらに、ビニレンカーボネートを全体の質量に対して0.5質量%となる量で添加して、混合溶媒を製造した。LiPFを混合溶媒に溶解して、LiPFの濃度が1mol/Lの電解液を製造した。
【0118】
実施例2の正極と負極とでセパレータを挟持し、極板群とした。この極板群を電解液とともに、袋状のラミネートフィルムに収容して、実施例2のリチウムイオン二次電池を製造した。
【0119】
(比較例2)
実施例1の正極材料に替えて、粉末状態であって層状岩塩構造のLiNi0.87Co0.1Al0.03を使用した以外は、実施例2と同様の方法で、比較例2のリチウムイオン二次電池を製造した。
【0120】
(評価例1)
実施例1の正極材料における針状物質に対して、走査透過型電子顕微鏡とエネルギー分散型X線分光分析装置を組み合わせたSTEM-EDXを用い、C、O及びAlを測定対象として元素分析を行った。
その結果、Cが20原子数%、Oが65原子数%、Alが15原子数%と分析された。
【0121】
(評価例2)
実施例1のリチウムイオン二次電池を0.1Cの定電流で電圧4.12Vまで充電し、当該電圧を保持した後に、0.1Cの定電流で電圧3.9Vまで放電し、当該電圧を保持した。その後、60℃の恒温槽に実施例1のリチウムイオン二次電池を20時間保管して、実施例1のリチウムイオン二次電池の活性化を行った。
活性化後の実施例1のリチウムイオン二次電池を、60℃の恒温層中で、1Cの定電流で電圧4.12Vまで充電し、当該電圧を保持した後に、1Cの定電流で電圧3.0Vまで放電し、当該電圧を保持するとの充放電サイクルを70回繰り返した。その後、実施例1のリチウムイオン二次電池の電圧を3.77Vに調整して、1Cで10秒間放電させた。放電時の電圧変化と電流値から抵抗を算出し、これを耐久後抵抗とした。
比較例1、実施例2、比較例2のリチウムイオン二次電池についても同様の試験を行った。結果を表1に示す。
【0122】
【表1】
【0123】
正極活物質にとって、表面のアルミニウム含有被膜は反応抵抗に関する抵抗体であると考えられるため、表面にアルミニウム含有被膜が形成されたLiNi0.87Co0.1Al0.03を使用した実施例1のリチウムイオン二次電池の抵抗が、表面にアルミニウム含有被膜が形成されていないLiNi0.87Co0.1Al0.03を使用した比較例1のリチウムイオン二次電池の抵抗よりも高いこと自体は、当然の結果といえる。
【0124】
しかしながら、表面にアルミニウム含有被膜が形成されたLiNi0.87Co0.1Al0.03を使用した実施例2のリチウムイオン二次電池の抵抗は、表面にアルミニウム含有被膜が形成されていないLiNi0.87Co0.1Al0.03を使用した比較例2のリチウムイオン二次電池の抵抗よりも低かった。かかる現象は、表面にアルミニウム含有被膜が形成されたLiNi0.87Co0.1Al0.03の電子抵抗抑制効果が、正極の目付量が多い実施例2のリチウムイオン二次電池の構成により、効果的に発揮された結果と考えられる。
【0125】
(比較例3)
a)工程において、アルミニウムイソプロポキシド及びシクロヘキサンを混合し、加熱して、アルミニウムイソプロポキシドの濃度が5質量%であるシクロヘキサン溶液を製造した点、及び、b)工程において、120質量部のLiNi0.87Co0.1Al0.03及び50.7質量部のシクロヘキサン溶液を混合して混合液とした点以外は、実施例1と同様の方法で、比較例3の正極材料を製造した。
なお、b)工程の混合液において、LiNi0.87Co0.1Al0.03の1モルに対して、Al(O-iso-Cは1モル%の割合で存在する。
比較例3の正極材料を使用した以外は、実施例2と同様の方法で、比較例3のリチウムイオン二次電池を製造した。
【0126】
(比較例4)
a)工程において、ニオブエトキシド(Nb(O-C:富士フィルム和光純薬株式会社)及びエタノールを混合し、加熱して、ニオブエトキシドの濃度が5質量%であるエタノール溶液を製造した点、及び、b)工程において、120質量部のLiNi0.87Co0.1Al0.03及び50.7質量部のエタノール溶液を混合して混合液とした点以外は、実施例1と同様の方法で、比較例4の正極材料を製造した。
なお、b)工程の混合液において、LiNi0.87Co0.1Al0.03の1モルに対して、Nb(O-Cは1モル%で存在する。
比較例4の正極材料を使用した以外は、実施例2と同様の方法で、比較例4のリチウムイオン二次電池を製造した。
【0127】
(評価例3)
実施例2のリチウムイオン二次電池を0.1Cの定電流で電圧4.12Vまで充電し、当該電圧を保持した後に、0.1Cの定電流で電圧3.9Vまで放電し、当該電圧を保持した。その後、60℃の恒温槽に実施例2のリチウムイオン二次電池を20時間保管して、実施例2のリチウムイオン二次電池の活性化を行った。
活性化後の実施例2のリチウムイオン二次電池を、電圧3.77Vに調整して、1Cで10秒間放電させた。放電時の電圧変化と電流値から抵抗を算出し、これを初期抵抗とした。
【0128】
活性化後の実施例2のリチウムイオン二次電池を、60℃の恒温層中で、1Cの定電流で電圧4.12Vまで充電し、当該電圧を保持した後に、1Cの定電流で電圧3.0Vまで放電し、当該電圧を保持するとの充放電サイクルを70回繰り返した。その後、実施例2のリチウムイオン二次電池の電圧を3.77Vに調整して、1Cで10秒間放電させた。放電時の電圧変化と電流値から抵抗を算出し、これを耐久後抵抗とした。以下の式で抵抗増加率を算出した。
抵抗増加率(%)=100×(耐久後抵抗-初期抵抗)/(初期抵抗)
また、以下の式で容量維持率を算出した。
容量維持率(%)=100×(充放電サイクル70回目の充電容量)/(充放電サイクル1回目の充電容量)
比較例2~比較例4のリチウムイオン二次電池についても同様の試験を行った。結果を表2-1及び表2-2に示す。
【0129】
【表2-1】
【0130】
【表2-2】
【0131】
実施例2のリチウムイオン二次電池は、抵抗及び容量維持率の両者にて、優れた特性を示した。実施例2と比較例3の結果から、アルミニウムトリアルコキシドの溶媒としてはアルコールが好ましいことがわかる。また、実施例2と比較例4の結果から、金属酸化物(正極活物質)を被覆する金属としては、アルミニウムが好ましいといえる。
【0132】
(実施例3)
b)工程において、70.3質量部のLiNi0.87Co0.1Al0.03及び22.2質量部のアルコール溶液を混合して混合液とした以外は、実施例1と同様の方法で、実施例3の正極材料を製造した。
なお、b)工程の混合液において、LiNi0.87Co0.1Al0.03の1モルに対して、Al(O-iso-Cは1/3モル%の割合で存在する。
[(アルコール溶液の体積)-{(金属酸化物の質量/金属酸化物のタップ密度)-(金属酸化物の質量/金属酸化物の真密度)}]/(金属酸化物の質量)の値は、0.21(cm/g)であった。
実施例3の正極材料を使用した以外は、実施例1と同様の方法で、実施例3のリチウムイオン二次電池を製造した。
【0133】
(評価例4)
実施例1の正極材料及び実施例3の正極材料を、走査型電子顕微鏡(以下、SEMと略す。)で観察した。両者のSEM像から、表面にアルミニウム含有被膜が形成された金属酸化物の二次粒子と、アルミニウム含有針状物質とが観察された。
実施例1の正極材料及び実施例3の正極材料の両者において、金属酸化物の二次粒子は、概ね球形であり、その長径は概ね10μm程度であった。
実施例1の正極材料におけるアルミニウム含有針状物質の長軸方向の長さa及び短軸方向の長さbを計測した結果を図1に示し、実施例3の正極材料におけるアルミニウム含有針状物質の長軸方向の長さa及び短軸方向の長さbを計測した結果を、図2に示す。図1及び図2のa及びbの数値の単位はμmである。
【0134】
表3に、[(アルコール溶液の体積)-{(金属酸化物の質量/金属酸化物のタップ密度)-(金属酸化物の質量/金属酸化物の真密度)}]/(金属酸化物の質量)の値を、pとして記載する。また、表3に、各SEM像で観察された、表面にアルミニウム含有被膜が形成された金属酸化物の二次粒子の個数に対する、アルミニウム含有針状物質の個数の比を、rとして記載する。
【0135】
【表3】
【0136】
表3から、pの値が高いほど、rが増加するといえる。
【0137】
(評価例5)
実施例1のリチウムイオン二次電池の正極と負極の間に、参照極を配置した。実施例3のリチウムイオン二次電池の正極と負極の間に、参照極を配置した。比較例1のリチウムイオン二次電池の正極と負極の間に、参照極を配置した。
以上のリチウムイオン二次電池につき、電圧3.77Vに調整して、1Cで10秒間放電させた。放電時における正極と参照極との間の電圧変化と電流値から正極抵抗を算出した。以上の結果を表4に示す。
【0138】
また、以上のリチウムイオン二次電池を充電した場合の容量を測定した。
比較例1のリチウムイオン二次電池における正極活物質の質量あたりの容量を100とした場合の、実施例1のリチウムイオン二次電池における実施例1の正極材料の質量あたりの容量、及び、実施例3のリチウムイオン二次電池における実施例3の正極材料の質量あたりの容量をそれぞれ算出して、表4に示す。
【0139】
【表4】
【0140】
表4から、アルミニウム含有被膜の存在により、正極抵抗が低減されることがわかる。
また、表3及び表4の結果から、活物質としては機能しないアルミニウム含有針状物質の量が増加すれば、正極材料の質量あたりの容量は減少するので、容量の点ではrは小さい方が好ましい。実施例3の正極材料は、抵抗及び容量の両者において好適な特性を示したといえる。
【0141】
(実施例4)
d)工程での加熱温度を600℃に変更した以外は、実施例1と同様の方法で、実施例4の正極材料を製造した。
実施例4の正極材料を使用した以外は、実施例1と同様の方法で、実施例4のリチウムイオン二次電池を製造した。
【0142】
(実施例5)
d)工程での加熱温度を700℃に変更した以外は、実施例1と同様の方法で、実施例5の正極材料を製造した。
実施例5の正極材料を使用した以外は、実施例1と同様の方法で、実施例5のリチウムイオン二次電池を製造した。
【0143】
(評価例6)
以下の方法で、示差走査熱量計(以下、DSCと略す。)にて、実施例1、実施例4及び実施例5の正極を分析した。
【0144】
実施例1のリチウムイオン二次電池をSOC100%まで充電した後に、アルゴン雰囲気下で実施例1のリチウムイオン二次電池を解体し、充電状態の正極を取り出した。充電状態の正極を切り取り、DSC測定用のパンに配置して、さらに、実施例1のリチウムイオン二次電池の製造に使用した電解液を加えて密閉し、DSC試験に供した。DSCの昇温速度は5℃/min.とし、DSCの昇温は400℃までとした。
実施例4及び実施例5の正極についても同様の方法で試験を行った。
以上の結果を、図3に示す。
【0145】
図3から、加熱温度が600℃である正極材料を使用した実施例4の正極は、発熱開始温度が高温側にシフトしたことがわかる。この結果から、加熱温度が600℃付近の正極材料は、充電時の発熱に対する安全性が高いといえる。
【0146】
(実施例6)
d)工程での加熱温度を550℃に変更した以外は、実施例3と同様の方法で、実施例6の正極材料を製造した。
【0147】
(実施例7)
d)工程での加熱温度を600℃に変更した以外は、実施例3と同様の方法で、実施例7の正極材料を製造した。
【0148】
(実施例8)
d)工程での加熱温度を700℃に変更した以外は、実施例3と同様の方法で、実施例8の正極材料を製造した。
【0149】
(評価例7)
実施例6、実施例7及び実施例8の正極材料について、SEMで観察を行った。その結果、実施例6、実施例7及び実施例8の正極材料には、アルミニウム含有針状物質が存在することが確認された。実施例1及び実施例3の正極材料についての評価例4での観察結果を併せて判断すると、d)工程の加熱温度が500~700℃の範囲内であれば、アルミニウム含有針状物質が生成することが裏付けられたといえる。
【0150】
実施例3、実施例6、実施例7及び実施例8の正極材料に含有される、表面にアルミニウム含有被膜が形成された金属酸化物について、SEMで観察を行い、さらに、オージェ電子分光装置を用いて分析を行った。
【0151】
加熱温度が600℃である実施例7の正極材料のSEM像からは、一次粒子の表面全体に凹凸が観察された。加熱温度が500℃である実施例3の正極材料のSEM像及び加熱温度が550℃である実施例6の正極材料のSEM像は概ね同等であり、一次粒子の表面全体には凹凸が観察されなかった。他方、加熱温度が700℃である実施例8の正極材料のSEM像からは、表面全体が平滑な一次粒子が観察された。
【0152】
オージェ電子分光装置での分析の結果、実施例3の正極材料と比較して、表5に示す知見が得られた。なお、オージェ電子分光装置では、物質の最表面から10nm程度の深さまでの元素を分析できる。
【0153】
【表5】
【0154】
加熱温度が500℃である実施例3の正極材料と比較して、加熱温度が550℃である実施例6の正極材料では、Ni量の増加とAl量の減少が観察された。この結果から、LiNi0.87Co0.1Al0.03のNiがアルミニウム含有被膜に拡散したこと、及び、アルミニウム含有被膜のAlがLiNi0.87Co0.1Al0.03に拡散したことが示唆される。
【0155】
加熱温度が600℃である実施例7の正極材料においてC量が減少したのは、Cが酸化して、CO又はCOとなり、気化したためと考えられる。また、Al量が増加したことから、Alは金属酸化物の表面付近に濃化したことが示唆される。
【0156】
加熱温度が700℃である実施例8の正極材料においてCが消失したのは、Cがすべて酸化して、CO又はCOとなり、気化したためと考えられる。Al量が減少したのは、AlがLiNi0.87Co0.1Al0.03の内部に拡散したことが原因と考えられる。そして、Cの消失及びAl量の減少により、相対的にNi量及びO量が増加して検出されたといえる。
【0157】
以上の分析結果から、本発明の正極材料の製造において、加熱温度は550℃を超えて、かつ、700℃未満であるのが好ましいことが示唆される。
図1
図2
図3