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特許7136186熱可塑性樹脂含有粒子の製造方法、立体造形用樹脂組成物、およびこれを用いた立体造形物の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-05
(45)【発行日】2022-09-13
(54)【発明の名称】熱可塑性樹脂含有粒子の製造方法、立体造形用樹脂組成物、およびこれを用いた立体造形物の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08J 3/12 20060101AFI20220906BHJP
   C08J 3/11 20060101ALI20220906BHJP
   C08J 3/20 20060101ALI20220906BHJP
   B29C 64/314 20170101ALI20220906BHJP
   B29C 64/153 20170101ALI20220906BHJP
   B29C 64/165 20170101ALI20220906BHJP
【FI】
C08J3/12 Z CES
C08J3/11 CFG
C08J3/20 Z
B29C64/314
B29C64/153
B29C64/165
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2020504933
(86)(22)【出願日】2019-02-25
(86)【国際出願番号】 JP2019007110
(87)【国際公開番号】W WO2019172003
(87)【国際公開日】2019-09-12
【審査請求日】2021-06-28
(31)【優先権主張番号】P 2018043183
(32)【優先日】2018-03-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001270
【氏名又は名称】コニカミノルタ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002952
【氏名又は名称】弁理士法人鷲田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】吉良 なつめ
【審査官】石塚 寛和
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-246567(JP,A)
【文献】特開2006-045295(JP,A)
【文献】特開2005-060464(JP,A)
【文献】特開2006-016414(JP,A)
【文献】特開2012-197461(JP,A)
【文献】特開2018-001606(JP,A)
【文献】特開2017-193090(JP,A)
【文献】国際公開第2017/180166(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J 3/00-3/28、99/00
B29C 64/00-64/40
B33Y 10/00-99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性樹脂および耐熱温度130℃以上200℃以下の水溶性樹脂を混合し、混合物を得る混合工程と、
前記混合物を、前記混合物の軟化点以上に加熱して混練し、混練物を得る混練工程と、
前記混練物を前記軟化点未満に冷却する冷却工程と、
前記冷却工程後、前記混練物を水または有機溶媒を含む第1の溶媒と混合し、前記水溶性樹脂を前記第1の溶媒に溶解させる溶解工程と、
前記溶解工程後、固形分を分離し、熱可塑性樹脂含有粒子を得る分離工程と、
を含み、
前記水溶性樹脂が、重量平均分子量が50000以上150000以下であるエチレンオキサイド/プロピレンオキサイド共重合体を含む、
熱可塑性樹脂含有粒子の製造方法。
【請求項2】
前記熱可塑性樹脂が、ポリプロピレンを含む、
請求項1に記載の熱可塑性樹脂含有粒子の製造方法。
【請求項3】
前記ポリプロピレンの27℃における弾性率が、1500MPa以上2500MPa以下である、
請求項に記載の熱可塑性樹脂含有粒子の製造方法。
【請求項4】
前記混合工程が、前記熱可塑性樹脂および前記水溶性樹脂を、質量比1:9~5:5で混合し、前記混合物を得る工程である、
請求項1~のいずれか一項に記載の熱可塑性樹脂含有粒子の製造方法。
【請求項5】
前記分離工程後に、前記熱可塑性樹脂含有粒子を水または有機溶媒を含む第2の溶媒で洗浄する洗浄工程をさらに含む、
請求項1~のいずれか一項に記載の熱可塑性樹脂含有粒子の製造方法。
【請求項6】
前記洗浄工程は、前記熱可塑性樹脂含有粒子の質量に対する前記水溶性樹脂の含有量が5質量%以下になるまで、前記熱可塑性樹脂含有粒子を洗浄する工程である、請求項に記載の熱可塑性樹脂含有粒子の製造方法。
【請求項7】
前記洗浄工程が、有機溶媒で前記熱可塑性樹脂含有粒子を洗浄する工程であり、
前記洗浄工程後に、前記有機溶媒と前記水溶性樹脂とを分離し、前記有機溶媒を回収する第2溶媒回収工程をさらに含む、
請求項またはに記載の熱可塑性樹脂含有粒子の製造方法。
【請求項8】
前記溶解工程が、前記水溶性樹脂を有機溶媒に溶解させる工程であり、
前記溶解工程後に、前記有機溶媒と前記水溶性樹脂とを分離し、前記有機溶媒を回収する第1溶媒回収工程をさらに含む、
請求項1~のいずれか一項に記載の熱可塑性樹脂含有粒子の製造方法。
【請求項9】
前記第1の溶媒が含む有機溶媒および/または前記第2の溶媒が含む有機溶媒は、アセトニトリル、ジクロロメタン、メタノール、エタノール、トルエン、テトラヒドロフラン、アセトン、および酢酸エチルからなる群から選ばれる、
請求項またはに記載の熱可塑性樹脂含有粒子の製造方法。
【請求項10】
熱可塑性樹脂と、
耐熱温度130℃以上200℃以下の水溶性樹脂と、
を含み、前記水溶性樹脂の量が0.001質量%以上5質量%以下である、熱可塑性樹脂含有粒子を含
前記水溶性樹脂が、重量平均分子量が50000以上150000以下であるエチレンオキサイド/プロピレンオキサイド共重合体を含む、
立体造形用樹脂組成物。
【請求項11】
前記熱可塑性樹脂が、ポリプロピレンを含む、
請求項10に記載の立体造形用樹脂組成物。
【請求項12】
前記ポリプロピレンの27℃における弾性率が、1500MPa以上2500MPa以下である、
請求項11に記載の立体造形用樹脂組成物。
【請求項13】
請求項1012のいずれか一項に記載の立体造形用樹脂組成物を含む薄層を形成する薄層形成工程と、
前記薄層にレーザ光を選択的に照射して、複数の前記熱可塑性樹脂含有粒子が溶融結合した造形物層を形成するレーザ光照射工程と、
を含み、
前記薄層形成工程、および前記レーザ光照射工程を複数回繰り返し、前記造形物層を積層することで立体造形物を形成する、
立体造形物の製造方法。
【請求項14】
請求項1012のいずれか一項に記載の立体造形用樹脂組成物を含む薄層を形成する薄層形成工程と、
エネルギー吸収剤を含む結合用流体を、前記薄層の特定の領域に塗布する流体塗布工程と、
前記流体塗布工程後の前記薄層にエネルギーを照射し、前記結合用流体を塗布した領域の前記熱可塑性樹脂含有粒子が溶融した造形物層を形成するエネルギー照射工程と、
を含み、
前記薄層形成工程、前記流体塗布工程、および前記エネルギー照射工程を複数回繰り返し、前記造形物層を積層することで立体造形物を形成する、
立体造形物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱可塑性樹脂含有粒子の製造方法、立体造形用樹脂組成物、およびこれを用いた立体造形物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、複雑な形状の立体造形物を比較的容易に製造できる様々な方法が開発されており、このような手法を利用したラピッドプロトタイピングやラピッドマニュファクチュアリングが注目されている。
【0003】
従来、これらの造形物作製方法は、モデリングの分野で広く使用されてきたが、近年、これらの手法を直接製造に展開する動きが活発になっている。例えば、機能的な義肢装具等を作製すること等も検討されている。ただし、義肢装具等は、機械的強度が高く、さらには薄肉で高い弾性率を有することが要求される。
【0004】
ここで、立体造形物の製造方法の一つに、熱可塑性樹脂を含む樹脂粒子からなる薄層を形成し、所望の領域の樹脂粒子どうしを焼結もしくは溶融結合(以下、単に「溶融結合」とも称する)させて、立体造形物を得る方法がある。各種立体造形物の製造方法の中でも、樹脂粒子を用いる立体造形物の製造方法は、他の方式に比べて比較的高い造形精度で立体造形物を作製できる。
【0005】
このような立体造形物の製造方法の一つに、粉末床溶融結合法がある。粉末床溶融結合法では、樹脂粒子を平らに敷き詰めて薄層を形成し、当該薄層にパターン状(立体造形物を厚さ方向に微分割したパターン状)にレーザ光を照射する。これにより、レーザ光が照射された領域の樹脂粒子が選択的に溶融結合する。さらに、得られた造形物層上に樹脂粒子をさらに敷き詰め、同様にレーザ光照射を繰り返し行うことで、所望の形状の立体造形物が得られる。
【0006】
また、樹脂粒子を用いる立体造形物の製造方法の他の例に、Multi Jet Fusion法(以下、「MJF法」とも称する)がある(例えば特許文献1)。MJF法では、まず樹脂粒子を平らに敷き詰めて薄層を形成する。そして当該薄層のうち、樹脂粒子どうしを溶融結合させる領域(以下、「硬化領域」とも称する)にエネルギー吸収剤等を塗布し、エネルギーを照射する。さらに、得られた造形物層上に樹脂粒子をさらに敷き詰め、同様の工程を繰返し行うことで、所望の形状の立体造形物を得る。
【0007】
上述の粉末床溶融結合法や、MJF法で得られる立体造形物の物性は、用いる樹脂粒子の種類や物性に大きく依存する。そして、樹脂粒子は従来、高温に加熱した溶媒中に熱可塑性樹脂を溶解させた後、攪拌しながら析出させること等により調製されてきた。しかしながら、機械的強度が高く、かつ弾性率の高い樹脂は、一般的に溶融温度が高い。そのため、当該方法で樹脂粒子を調製する場合、溶媒や樹脂を高温まで加熱しなければならず、製造効率が低いという課題があった。
【0008】
一方、粉末床溶融結合法や、MJF法に用いる樹脂粒子の調製方法として、熱可塑性樹脂と、水溶性樹脂とを混練する方法等も提案されている(例えば、特許文献1および特許文献2)。当該方法では、水溶性樹脂中に熱可塑性樹脂を混練によって分散させた後、水溶性樹脂を除去することで、所望の熱可塑性樹脂含有粒子を得る。上記水溶性樹脂としては、ポリエチレングリコールや、ポリエチレンオキサイド等が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特開2006-321711号公報
【文献】特開2007-277546号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、粘度の高い樹脂や、弾性率の高い樹脂を、ポリエチレングリコール等に分散させることは難しく、特許文献1や特許文献2に記載の方法で、均一な樹脂粒子を調製することが困難であった。
【0011】
本発明は、上記課題を鑑みてなされたものである。すなわち本発明は、簡便な方法で効率よく熱可塑性樹脂含有粒子を製造する方法、およびこれにより得られる熱可塑性樹脂含有粒子を含む立体造形用樹脂組成物、ならびにこれを用いた立体造形物の製造方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、以下の熱可塑性樹脂含有粒子の製造方法を提供する。
[1]熱可塑性樹脂および耐熱温度130℃以上200℃以下の水溶性樹脂を混合し、混合物を得る混合工程と、前記混合物を、前記混合物の軟化点以上に加熱して混練し、混練物を得る混練工程と、前記混練物を前記軟化点未満に冷却する冷却工程と、前記冷却工程後、前記混練物を水または有機溶媒を含む第1の溶媒と混合し、前記水溶性樹脂を前記第1の溶媒に溶解させる溶解工程と、前記溶解工程後、固形分を分離し、熱可塑性樹脂含有粒子を得る分離工程と、を含む、熱可塑性樹脂含有粒子の製造方法。
【0013】
[2]前記水溶性樹脂が、エチレンオキサイド/プロピレンオキサイド共重合体を含む、[1]に記載の熱可塑性樹脂含有粒子の製造方法。
[3]前記エチレンオキサイド/プロピレンオキサイド共重合体の重量平均分子量が50000以上150000以下である、[2]に記載の熱可塑性樹脂含有粒子の製造方法。
[4]前記熱可塑性樹脂が、ポリプロピレンを含む、[1]~[3]のいずれかに記載の熱可塑性樹脂含有粒子の製造方法。
[5]前記ポリプロピレンの27℃における弾性率が、1500MPa以上2500MPa以下である、[4]に記載の熱可塑性樹脂含有粒子の製造方法。
[6]前記混合工程が、前記熱可塑性樹脂および前記水溶性樹脂を、質量比1:9~5:5で混合し、前記混合物を得る工程である、[1]~[5]のいずれかに記載の熱可塑性樹脂含有粒子の製造方法。
【0014】
[7]前記分離工程後に、前記熱可塑性樹脂含有粒子を水または有機溶媒を含む第2の溶媒で洗浄する洗浄工程をさらに含む、[1]~[6]のいずれかに記載の熱可塑性樹脂含有粒子の製造方法。
[8]前記洗浄工程は、前記熱可塑性樹脂含有粒子の質量に対する前記水溶性樹脂の含有量が5質量%以下になるまで、前記熱可塑性樹脂含有粒子を洗浄する工程である、[7]に記載の熱可塑性樹脂含有粒子の製造方法。
[9]前記洗浄工程が、有機溶媒で前記熱可塑性樹脂含有粒子を洗浄する工程であり、前記洗浄工程後に、前記有機溶媒と前記水溶性樹脂とを分離し、前記有機溶媒を回収する第2溶媒回収工程をさらに含む、[7]または[8]に記載の熱可塑性樹脂含有粒子の製造方法。
【0015】
[10]前記溶解工程が、前記水溶性樹脂を有機溶媒に溶解させる工程であり、前記溶解工程後に、前記有機溶媒と前記水溶性樹脂とを分離し、前記有機溶媒を回収する第1溶媒回収工程をさらに含む、[1]~[9]のいずれかに記載の熱可塑性樹脂含有粒子の製造方法。
[11]前記第1の溶媒および/または前記第2の溶媒が、アセトニトリル、ジクロロメタン、メタノール、エタノール、トルエン、テトラヒドロフラン、アセトン、および酢酸エチルからなる群から選ばれる、[9]または[10]に記載の熱可塑性樹脂含有粒子の製造方法。
【0016】
本発明は、以下の立体造形用樹脂組成物を提供する。
[12]熱可塑性樹脂と、耐熱温度130℃以上200℃以下の水溶性樹脂と、を含み、前記水溶性樹脂の量が0.001質量%以上5質量%以下である、熱可塑性樹脂含有粒子を含む、立体造形用樹脂組成物。
【0017】
[13]前記水溶性樹脂が、エチレンオキサイド/プロピレンオキサイド共重合体を含む、[12]に記載の立体造形用樹脂組成物。
[14]前記エチレンオキサイド/プロピレンオキサイド共重合体の重量平均分子量が50000以上150000以下である、[13]に記載の立体造形用樹脂組成物。
[15]前記熱可塑性樹脂が、ポリプロピレンを含む、[12]~[14]のいずれかに記載の立体造形用樹脂組成物。
[16]前記ポリプロピレンの27℃における弾性率が、1500MPa以上2500MPa以下である、[15]に記載の立体造形用樹脂組成物。
【0018】
本発明は、以下の立体造形物の製造方法を提供する。
[17]上記[12]~[16]のいずれかに記載の立体造形用樹脂組成物を含む薄層を形成する薄層形成工程と、前記薄層にレーザ光を選択的に照射して、複数の前記熱可塑性樹脂含有粒子が溶融結合した造形物層を形成するレーザ光照射工程と、を含み、前記薄層形成工程、および前記レーザ光照射工程を複数回繰り返し、前記造形物層を積層することで立体造形物を形成する、立体造形物の製造方法。
[18]上記[12]~[16]のいずれかに記載の立体造形用樹脂組成物を含む薄層を形成する薄層形成工程と、エネルギー吸収剤を含む結合用流体を、前記薄層の特定の領域に塗布する流体塗布工程と、前記流体塗布工程後の前記薄層にエネルギーを照射し、前記結合用流体を塗布した領域の前記熱可塑性樹脂含有粒子が溶融した造形物層を形成するエネルギー照射工程と、を含み、前記薄層形成工程、前記流体塗布工程、および前記エネルギー照射工程を複数回繰り返し、前記造形物層を積層することで立体造形物を形成する、立体造形物の製造方法。
【発明の効果】
【0019】
本発明の熱可塑性樹脂含有粒子の製造方法によれば、簡便な方法で効率よく熱可塑性樹脂含有粒子を製造することができる。また、当該方法により得られる熱可塑性樹脂含有粒子を含む立体造形用樹脂組成物、ならびにこれを用いた立体造形物の製造方法が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0020】
1.熱可塑性樹脂含有粒子の製造方法
本発明の熱可塑性樹脂含有粒子の製造方法には、熱可塑性樹脂および耐熱温度130℃以上200℃以下の水溶性樹脂の混合物を得る混合工程と、当該混合物の混練物を得る混練工程と、得られた混練物を冷却する冷却工程と、混練物中の水溶性樹脂を第1の溶媒に溶解させる溶解工程と、固形分を分離し、熱可塑性樹脂含有粒子を得る分離工程と、が含まれる。なお、当該熱可塑性樹脂含有粒子の製造方法には、必要に応じて、得られた熱可塑性樹脂含有粒子を第2の溶媒で洗浄する洗浄工程等が含まれていてもよい。また、溶解工程や洗浄工程後に、第1の溶媒や第2の溶媒を回収する溶媒回収工程が含まれていてもよい。
【0021】
上述のように従来、熱可塑性樹脂と、ポリエチレングリコールや、ポリエチレンオキサイド等の水溶性樹脂とを混練し、熱可塑性樹脂を水溶性樹脂中に粒子状に分散させる方法が提案されている。しかしながら、粘度が高い熱可塑性樹脂や弾性率の高い熱可塑性樹脂は、ポリエチレングリコール等に均一に分散させることが難しく、従来の方法では、所望の熱可塑性樹脂含有粒子が得られない、との課題があった。
【0022】
一般的に、粘度が高い熱可塑性樹脂や弾性率の高い熱可塑性樹脂は、長時間混練したり、高い温度まで加熱したりすることで、ポリエチレングリコール等の水溶性樹脂中に分散させられると考えられる。しかしながら、本発明者が鋭意検討したところ、ポリエチレングリコール等と共に熱可塑性樹脂を混練すると、混練時にポリエチレングリコール等の粘度が過度に低下して、熱可塑性樹脂と混ざりにくかったり、ポリエチレングリコール等が分解したりすることが明らかとなった。そして、このような状態で混練を続けると、熱可塑性樹脂が均一な粒子状になり難く、さらには粒子状となっても、再度これらが結合してしまいやすかった。これに対し、耐熱温度130℃以上200℃以下の水溶性樹脂は、混練時に粘度が過度に低下し難く、さらには熱によっても分解し難い。したがって、熱可塑性樹脂が均一に分散されやすく、所望の熱可塑性樹脂含有粒子が得られることが見出された。
【0023】
以下、本発明の熱可塑性樹脂含有粒子の製造方法の各工程について、詳しく説明する。
【0024】
1-1.混合工程
混合工程では、熱可塑性樹脂と耐熱温度が130℃以上200℃以下の水溶性樹脂とを混合し、混合物を得る。熱可塑性樹脂および水溶性樹脂の混合方法は特に制限されず、公知の混合・攪拌装置で行うことができる。また、熱可塑性樹脂および水溶性樹脂の混合は、室温で行ってもよく、加熱しながら行ってもよい。
【0025】
ここで、熱可塑性樹脂および水溶性樹脂の混合比(質量比)は、1:9~5:5であることが好ましく、4:6~5:5であることがより好ましく、4:5~5:5であることがさらに好ましい。熱可塑性樹脂の量が過度に多くなると、後述の混練工程にて水溶性樹脂中に熱可塑性樹脂を十分に分散させにくくなるが、混合比が5:5以下であれば、熱可塑性樹脂を水溶性樹脂中に分散させやすくなる。一方、熱可塑性樹脂含有粒子の生産性の観点から、上記混合比を1:9以上とすることが好ましい。
【0026】
上記熱可塑性樹脂は特に制限されないが、本発明の効果を十分に得るとの観点、さらには得られる立体造形物の弾性率を高めるとの観点から、比較的高弾性の熱可塑性樹脂であることが好ましい。具体的には、熱可塑性樹脂の27℃における弾性率は1400MPa以上であることが好ましく、1700MPa以上であることがより好ましい。一方、弾性率が過度に高い場合には、水溶性樹脂中に分散させ難くなりやすい。そこで、熱可塑性樹脂の27℃における弾性率は、2500MPa以下であることが好ましく、2300MPa以下であることがより好ましい。熱可塑性樹脂の弾性率は、ISO527-1:2017に準拠して、引張試験器により測定される。
【0027】
上記熱可塑性樹脂の例には、ポリアミド12、ポリプロピレン、ポリ乳酸、ポリエチレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリスチレン、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン共重合チア、エチレン・酢酸ビニル共重合体、スチレン・アクリロニトリル共重合体、およびポリカプロラクトン等が含まれる。これらの中でも、弾性率が高く、かつ機械的強度が高いとの観点から、ポリアミド12およびポリプロピレンが好ましく、ポリプロピレンが特に好ましい。なお、熱可塑性樹脂は、一種のみを用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0028】
ここで、熱可塑性樹脂がポリプロピレンである場合、ポリプロピレンの27℃における弾性率は、1500MPa以上2500MPa以下であることが好ましく、2000MPa以上2500MPa以下であることがより好ましく、2300MPa以上2500MPa以下であることがさらに好ましい。ポリプロピレンの弾性率が当該範囲であると、汎用性の高い立体造形物が得られやすくなる。
【0029】
なお、本工程で混合する熱可塑性樹脂の形状は特に制限されず、例えば塊状であってもよく、粒子状であってもよく、ペレット状であってもよい。
【0030】
一方、本工程で混合する水溶性樹脂は、耐熱温度が130℃以上200℃以下であり、水溶性を有し、かつ上述の熱可塑性樹脂と相溶性の低い樹脂であれば特に制限されない。ここで、本明細書において、水溶性樹脂の「耐熱温度」とは、水溶性樹脂の分解温度の上限を意味し、レオメーターにより、貯蔵弾性率の変化が起きるまで昇温させることによって測定される値をいう。また、「水溶性を有する」とは、100gの水に10g以上溶解する場合のことをいう。
【0031】
後述の混練工程において、水溶性樹脂中に熱可塑性樹脂を均一に分散させるとの観点から、水溶性樹脂として、熱可塑性樹脂と流動性の挙動が近いものを選択することが好ましい。例えば、150℃における熱可塑性樹脂の粘度を1としたとき、150℃における水溶性樹脂の粘度は、0.8~1.2であることが好ましく、0.9~1であることがより好ましい。なお粘度は、レオメーターにより100℃~200℃に昇温した際に測定される値とする。
【0032】
水溶性樹脂の具体例には、エチレンオキサイド/プロピレンオキサイド共重合体、ポリアクリルアミド等が含まれる。水溶性樹脂は、一種のみ用いてもよく、二種以上を混合して用いてもよい。これらの中でも特に、後述の溶解工程において、有機溶媒に溶解させることが可能であり、かつ耐熱性が高いという観点で、エチレンオキサイド/プロピレンオキサイド共重合体が好ましい。
【0033】
ここで、エチレンオキサイド/プロピレンオキサイド共重合体は、重量平均分子量が50000以上150000以下であることが好ましく、50000以上120000以下であることがより好ましく、50000以上100000以下であることがさらに好ましい。重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により測定される分子量(スチレン換算)である。エチレンオキサイド/プロピレンオキサイド共重合体の重量平均分子量が過度に大きいと、水や有機溶媒に溶解し難くなることがあるが、150000以下であれば、これらに十分に溶解させることが可能である。また、エチレンオキサイド/プロピレンオキサイド共重合体の重量平均分子量が50000以上であると、混練時における、エチレンオキサイド/プロピレンオキサイドの粘度と、熱可塑性樹脂の粘度とが近くなりやすい。
【0034】
エチレンオキサイド/プロピレンオキサイド共重合体は、エチレンオキサイドモノマーとプロピレンオキサイドモノマーとを共重合したものであればよいが、エチレオキサイドモノマーとプロピレンオキサイドモノマーとの重合比は、12:1~10:1であることが好ましく、8:1~7:1であることがより好ましく、6:1~5:1であることがさらに好ましい。エチレンオキサイドモノマー由来の構造が、一定以上含まれると、後述する溶解工程において、エチレンオキサイド/プロピレンオキサイド共重合体の水や有機溶媒に対する溶解性が良好になる。
【0035】
なお、本工程で混合する際の水溶性樹脂の形状も特に制限されず、例えば塊状であってもよく、粒子状であってもよく、ペレット状であってもよい。
【0036】
1-2.混練工程
上述の混合工程で調製した混合物を、当該混合物の軟化点以上に加熱して混練する。混合物の軟化点は、示差走査熱量計(DSC)により、10℃/minの条件で0℃から200℃まで昇温させ、10分間アニーリングをし、200℃から0℃まで降温させ、更に0℃から200℃まで昇温させることにより特定される。
【0037】
混練時の温度は、上述の混合物の軟化点以上であればよいが、当該軟化点より10~200℃高い温度であることが好ましく、20~150℃高い温度であることがより好ましい。混練時の温度が軟化点より10℃以上高いと、水溶性樹脂中に熱可塑性樹脂が均一に分散されやすくなる。一方で、混練時の温度を、軟化点より200℃以下高い温度とすることで、水溶性樹脂や熱可塑性樹脂が混練時に分解し難くなる。
【0038】
また、混練時間は、水溶性樹脂中で熱可塑性樹脂が所望の平均粒子径となるまで分散可能な時間であれば特に制限されない。通常10~40分とすることができ、10~30分とすることがより好ましく、15~20分とすることがさらに好ましい。混練時間が過度に長いと、製造効率が低下したり、水溶性樹脂が分解しやすくなったりする。一方、混練時間が過度に短いと、十分に熱可塑性樹脂を分散させることが難しい。
【0039】
なお、本工程では、水溶性樹脂中に分散される熱可塑性樹脂の平均粒子径が、20~100μm程度となるように混練することが好ましく、30~70μm程度となるように混練することがより好ましい。熱可塑性樹脂を含む粒子(本願では「熱可塑性樹脂含有粒子」とも表す)の平均粒子径が100μm以下であると、当該熱可塑性樹脂含有粒子を用いて、微細な構造の立体造形物を作製することが可能となる。一方、立体造形物の作製時に、熱可塑性樹脂含有粒子に十分な流動性を付与し、かつ取り扱い性を良好にする等の観点から20μm以上であることが好ましい。また、各熱可塑性樹脂含有粒子の粒子径の粒度分布は狭いことが好ましい。なお、熱可塑性樹脂含有粒子の多分散度(Mw/Mn)は、2.0以下であることが好ましく、1.8以下であることがより好ましく、1.5以下であることがさらに好ましい。熱可塑性樹脂含有粒子の重量平均分子量(Mw)および数平均分子量(Mn)は、GPCにより測定できる。当該多分散度(Mw/Mn)が低くなると、粒子径の粒度分布も低くなりやすい。
【0040】
上記平均粒子径は、混練物の一部を抜きとり、水溶性樹脂を後述の第1の溶媒等に溶解させた後、残留する粒子状の成分の平均粒子径を測定することで特定できる。具体的には、動的光散乱法によって測定した体積平均粒子径とする。体積平均粒子径は、湿式分散機を備えたレーザ回折式粒度分布測定装置(マイクロトラックベル社製、MT3300EXII)により測定することができる。
【0041】
ここで、本工程における混練方法は特に制限されず、例えばロール、バンバリーミキサー、ニーダー、単軸押出機、二軸押出機等が含まれる。これらの中でも、得られる熱可塑性樹脂含有粒子の平均粒子径を均一にするとの観点から、二軸押出機が好ましい。なお、混練後の混練物を、塊状のままとしてもよいが、シート状やストランド状、ペレット状等、各種形状に加工してもよい。
【0042】
1-3.冷却工程
上記混練工程後、混練物をその軟化点未満まで冷却する。本工程では、混練物を軟化点より110℃以上低い温度まで冷却することが好ましく、120℃以上低い温度まで冷却することがより好ましい。冷却工程で十分に冷却することで、熱可塑性樹脂が固化し、後述の溶解工程や分離工程等において熱可塑性樹脂含有粒子(熱可塑性樹脂)どうしが融着し難くなる。なお、冷却工程では、混練物の内部まで均一な温度となるように冷却することが好ましい。
【0043】
混練物は、徐冷してもよく、急冷してもよい。混練物の冷却方法は特に制限されず、例えば混練物を室温に放置することで、冷却してもよく、公知の冷却装置等を用いて冷却してもよい。混練物は徐冷したほうが、粒子がゆっくり成長するため好ましく、室温に放置する方法が特に好ましい。
【0044】
1-4.溶解工程
上記冷却工程後、上述の混練物を、水または有機溶媒を含む第1の溶媒と混合し、水溶性樹脂を第1の溶媒に溶解させる。
【0045】
第1の溶媒は、水溶性樹脂を溶解可能であり、かつ熱可塑性樹脂を溶解しない溶媒であればよく、水、もしくは、アセトニトリルや、ジクロロメタン、メタノール、エタノール、トルエン、テトラヒドロフラン、アセトン、酢酸エチル等の有機溶媒とすることができる。第1の溶媒には、これらが一種の含まれていてもよく、二種以上含まれていてもよい。これらの中でも、水溶性樹脂を溶解させやすいとの観点で、アセトニトリル、ジクロロメタン、メタノール、エタノール、トルエン、テトラヒドロフラン、およびアセトンが好ましい。
【0046】
第1の溶媒に水溶性樹脂を溶解させる方法としては、上述の混練物を第1の溶媒に浸漬させる方法等とすることができる。このとき、水溶性樹脂が溶解しやすいように、混練物をクラッシャー等で破砕してから、第1の溶媒に浸漬させてもよい。さらに、混練物を浸漬後、必要に応じて第1の溶媒を攪拌してもよい。
【0047】
第1の溶媒と混練物とを混合する際の第1の溶媒の温度は、第1の溶媒の沸点以下の温度であればよく、必要に応じて加熱してもよい。例えば、第1の溶媒として、酢酸エチルまたはエタノールを用いる場合には、水溶性樹脂の第1の溶媒への溶解性を高める観点から、第1の溶媒を50℃以上に加熱して、混練物と混合することが好ましい。一方、その他の溶媒を用いる場合には、室温で第1の溶媒と上述の混練物とを混合してもよい。
【0048】
第1の溶媒と混練物とを接触させる時間は、水溶性樹脂の溶解性等に応じて適宜選択されるが、通常1~5時間とすることができ、3~7時間とすることがより好ましい。なお、溶解工程では、熱可塑性樹脂含有粒子中の水溶性樹脂の量が、当該熱可塑性樹脂含有粒子の質量に対して0.001%~5質量%以下となるように、水溶性樹脂を溶解させることが好ましい。水溶性樹脂の量が0.001%~5質量%以下となると、熱可塑性樹脂含有粒子を用いて立体造形物を作製した際に、立体造形物の強度等が十分に高くなりやすい。熱可塑性樹脂含有粒子中の水溶性樹脂の量は、NMR測定により熱可塑性樹脂由来のピークと水溶性樹脂由来のピークを比較することで特定することができる。
【0049】
1-5.分離工程
溶解工程後、溶液中に含まれる固形分を分離し、熱可塑性樹脂含有粒子を得る。固形分の分離方法は特に制限されず、例えば遠心分離や、濾過、もしくはこれらの組み合わせ等とすることができる。熱可塑性樹脂含有粒子を必要に応じて、公知の乾燥方法で乾燥させてもよい。
【0050】
1-6.洗浄工程
上述の分離工程後、必要に応じて、得られた熱可塑性樹脂含有粒子を洗浄する洗浄工程を行ってもよい。洗浄工程は、例えば水または有機溶媒を含む第2の溶媒で、熱可塑性樹脂含有粒子を洗浄する工程とすることができる。
【0051】
洗浄工程を行うことにより、熱可塑性樹脂含有粒子中の水溶性樹脂をさらに除去し、熱可塑性樹脂含有粒子中の熱可塑性樹脂量を高めることができる。その結果、当該熱可塑性樹脂含有粒子を用いて作製される立体造形物の強度を高めること等が可能となる。
【0052】
洗浄工程は、分離工程で分離された熱可塑性樹脂含有粒子を、第2の溶媒に浸漬する工程等とすることができる。第2の溶媒としては、上述の第1の溶媒と同様のものを用いることができる。なお、第1の溶媒および第2の溶媒は、同一であってもよく、異なってもよい。
【0053】
また、洗浄工程を行う際の第2の溶媒の温度は、第2の溶媒の沸点以下の温度であればよく、必要に応じて適宜加熱してもよい。例えば、第2の溶媒として、酢酸エチルまたはエタノールを用いる場合には、第2の溶媒に対する水溶性樹脂の溶解性を高める観点から、第2の溶媒を50℃以上に加熱することが好ましい。一方、その他の溶媒を用いる場合には、室温で第2の溶媒と熱可塑性樹脂含有粒子とを混合してもよい。
【0054】
溶解工程では、熱可塑性樹脂含有粒子中の水溶性樹脂の量が、当該熱可塑性樹脂含有粒子の質量に対して5質量%以下となるように、熱可塑性樹脂含有粒子を洗浄することが好ましい。水溶性樹脂の量が5質量%以下となると、熱可塑性樹脂含有粒子を用いて立体造形物を作製した際に、立体造形物の強度等が十分に特に高くなりやすい。熱可塑性樹脂含有粒子中の水溶性樹脂の量は、上述と同様の方法で特定することができる。
【0055】
1-7.溶媒回収工程(第1溶媒回収工程および第2溶媒回収工程)
また、上述の溶解工程および洗浄工程後、必要に応じて、第1の溶媒および/または第2の溶媒(これらをまとめて単に「溶媒」とも称する)を回収する溶媒回収工程を行ってもよい。本工程では、水溶性樹脂が溶解した第1の溶媒や第2の溶媒から水溶性樹脂を除去し、各溶媒を再利用する。
【0056】
溶媒の回収方法は特に制限されず、例えば蒸留法等により、溶媒と水溶性樹脂とを分離し、溶媒を分取する方法等とすることができる。なお、第1の溶媒および第2の溶媒が同じである場合には、これらをまとめて回収してもよい。
【0057】
2.立体造形用樹脂組成物
上述の方法で製造される熱可塑性樹脂含有粒子は、立体造形用樹脂組成物に適用することが可能である。以下、熱可塑性樹脂含有粒子を含む立体造形用樹脂組成物について説明する。本発明の立体造形用樹脂組成物は、粉末床溶融結合法やMJF法等、熱可塑性樹脂含有粒子を溶融結合させて立体造形物を製造する方法に用いられる。当該立体造形用樹脂組成物は、熱可塑性樹脂含有粒子と、必要に応じて各種添加剤やフローエージェント等を含む組成物とすることができる。
【0058】
上記熱可塑性樹脂含有粒子には、熱可塑性樹脂と、耐熱温度130℃以上200℃以下の水溶性樹脂とが含まれ、熱可塑性樹脂含有粒子全量に対する水溶性樹脂の量は0.001質量%以上5質量%以下である。熱可塑性樹脂含有粒子に、水溶性樹脂が0.001質量%以上含まれると、造形時に熱可塑性樹脂含有粒子中の水溶性樹脂が軟化することで、界面の融着性が向上し、破断伸びが向上するという効果がある。さらに、水溶性樹脂によって造形物表面の結晶化が抑制されるという効果もある。一方で、水溶性樹脂の量が5質量%以下であるため、作製される立体造形物の耐熱性や機械的強度が良好になる。上記水溶性樹脂の量は、0.001~3質量%であることがより好ましく、0.001~1質量%であることがさらに好ましい。当該熱可塑性樹脂含有粒子は、上述の熱可塑性樹脂含有粒子の製造方法で製造されるため、ここでの詳細な説明は省略する。
【0059】
立体造形用樹脂組成物に必要に応じて含まれるフィラーは、本発明の目的および効果を損なわない限り特に制限されない。立体造形用樹脂組成物にフィラーが含まれると、立体造形物作製時に照射するエネルギーが伝わりやすくなったり、得られる立体造形物の強度が高まったりする。
【0060】
フィラーの例には、タルク、炭酸カルシウム、炭酸亜鉛、ワラストナイト、シリカ、アルミナ、酸化マグネシウム、ケイ酸カルシウム、アルミン酸ナトリウム、アルミン酸カルシウム、アルミノ珪酸ナトリウム、珪酸マグネシウム、ガラスバルーン、ガラスカットファイバー、ガラスミルドファイバー、ガラスフレーク、ガラス粉末、炭化ケイ素、窒化ケイ素、石膏、石膏ウィスカー、焼成カオリン、カーボンブラック、酸化亜鉛、三酸化アンチモン、ゼオライト、ハイドロタルサイト、金属繊維、金属ウィスカー、金属粉、セラミックウィスカー、チタン酸カリウム、窒化ホウ素、グラファイト、層状粘土鉱物、炭素繊維等の無機フィラー;多糖類のナノファイバー等の有機フィラー;各種ポリマー等が含まれる。立体造形用樹脂組成物には、フィラーが一種のみ含まれていてもよく、二種以上含まれていてもよい。
【0061】
フィラーの平均粒子径は、立体造形物作製時に、熱可塑性樹脂含有粒子どうしの結合を阻害しないとの観点から0.01~50μm程度であることが好ましい。フィラーの平均粒子径は、体積平均粒子径であり、立体造形用樹脂組成物から、熱可塑性樹脂含有粒子を溶媒等によって除去した後、レーザ回折式粒度分布測定装置等にて測定することで特定できる。
【0062】
フィラーは、上記の中でも、立体造形物作製時に照射するエネルギーの伝導性が良好であり、かつ立体造形物の機械的強度および延性を高めやすいとの観点から、直径が1~1000nmである球状粒子、厚みが1~1000nmである平板状粒子、もしくは繊維径が1~1000nmである繊維状粒子であることが好ましい。
【0063】
球状粒子は、無機材料からなる粒子、有機材料からなる粒子のいずれであってもよく、その例には、シリカ微粒子、アルミナ微粒子、酸化チタン微粒子、ジルコニア微粒子等が含まれる。
【0064】
フィラーが平板状粒子である場合、平板状粒子の厚みは、50~500nmであることがより好ましく、100~400nmであることがさらに好ましく、150~300nmであることが特に好ましい。本明細書において、平板状粒子とは、対向する2つの主平面を有し、これら2つの主平面の間の距離(厚み)が、主平面の最大径および最小径に対して十分に小さい粒子をいう。
【0065】
また、当該平板状粒子の主平面の形状は、円形状であってもよく、楕円状であってもよく、多角形状であってもよい。平板状粒子の主平面の幅は、1~10μmであることが好ましく、2~8μmであることがより好ましい。また、主平面の最大径と平板状粒子の厚みとの比(主平面の最大径/厚み)は、5~15であることが好ましく、10~12であることがより好ましい。主平面の最大径と、平板状粒子の厚みとの比が上記範囲であると、熱可塑性樹脂含有粒子に対するエネルギー伝導性が良好になりやすく、熱可塑性樹脂含有粒子どうしを溶融結合させやすくなる。
【0066】
平板状粒子の例には、上述の層状粘土鉱物(例えば、カオリン;タルク;マイカ;モンモリロナイト、バイデライト、ヘクトライト、サポナイト、ノントロナイト、スチーブンサイト等のスメクタイト系鉱物;バーミキュライト;ベントナイト;カネマイト、ケニアナイト、マカナイト等の層状ケイ酸ナトリウム;Na型テトラシリシックフッ素雲母、Li型テトラシリシックフッ素雲母、Na型フッ素テニオライト、Li型フッ素テニオライト等の雲母族粘土鉱物等)が含まれる。このような平板状粒子は、天然の鉱物から得られたものであってもよく、化学的に合成されたものであってもよい。さらに、平板状粒子は、表面がアンモニウム塩等で修飾(表面処理)されたものであってもよい。
【0067】
一方、フィラーが繊維状である場合、その繊維径は、分散性等の観点から3~30nmであることが好ましく、5~20nmであることがより好ましい。また、繊維状フィラーの繊維長は、200~10000nmであることが好ましく、250~10000nmであることがより好ましい。繊維長10000nm以下であると、立体造形物の外観性が良好になりやすい。また、繊維長が200nm以上であると、得られる立体造形物の強度が高まりやすくなる。ここで、繊維状フィラーの例には、炭素繊維、多糖類のナノファイバー等が含まれる。
【0068】
立体造形用樹脂組成物中のフィラーの量は、熱可塑性樹脂含有粒子の含有量を100質量部としたとき、5~30質量部であることが好ましく、10~25質量部であることがより好ましく、15~20質量部であることがさらに好ましい。フィラーの量が5質量部以上であると、立体造形用樹脂組成物から得られる立体造形物の機械的強度が高まりやすい。一方、フィラーの量が30質量部以上であると、得られる立体造形物の延性が低下しやすい。
【0069】
一方、立体造形用樹脂組成物に必要に応じて含まれる各種添加剤の例には、酸化防止剤、酸性化合物及びその誘導体、滑剤、紫外線吸収剤、光安定剤、核剤、難燃剤、衝撃改良剤、発泡剤、着色剤、有機過酸化物、展着剤、粘着剤等が含まれる。立体造形用樹脂組成物には、これらが一種のみ含まれていてもよく、二種以上含まれていてもよい。また、これらは、本発明の目的を損なわない範囲で、熱可塑性樹脂含有粒子の表面に塗布されていてもよい。
【0070】
また、フローエージェントは、摩擦係数が小さく、自己潤滑性を有する材料であればよい。このようなフローエージェントの例には、二酸化ケイ素および窒化ホウ素が含まれる。立体造形用樹脂組成物には、フローエージェントを一種のみ含まれていてもよく、二種とも含まれていてもよい。フローエージェントの量は、熱可塑性樹脂含有粒子等の流動性を向上させ、かつ熱可塑性樹脂含有粒子の溶融結合が十分に生じる範囲で適宜設定することができる。たとえば、熱可塑性樹脂含有粒子の質量に対して、0質量%より多く2質量%未満とすることができる。
【0071】
また、後述の粉末床溶融結合法に用いる立体造形用樹脂組成物には、レーザ吸収剤等が含まれていてもよい。レーザ吸収剤の例には、カーボン粉末、ナイロン樹脂粉末、顔料、および染料等が含まれる。立体造形用樹脂組成物には、レーザ吸収剤が一種類のみ含まれていてもよく、二種類以上含まれていてもよい。
【0072】
3.立体造形物の製造方法
上述の立体造形用樹脂組成物は、前述のように、粉末床結合溶融方式、またはMJF方式による立体造形物の製造方法に用いることができる。以下、上記樹脂組成物を用いた立体造形方法について、それぞれ説明するが、本発明は、これらの方法に制限されない。
【0073】
3-1.粉末床結合溶融方式による立体造形物の製造方法
粉末床結合溶融方式による立体造形物の製造方法では、前記立体造形用樹脂組成物を用いる以外は、通常の粉末床結合溶融方式と同様に行うことができる。具体的には、(1)前述の立体造形用樹脂組成物を含む薄層を形成する薄層形成工程と、(2)当該薄層にレーザ光を選択的に照射して、熱可塑性樹脂含有粒子どうしが溶融結合した造形物層を形成するレーザ光照射工程と、を含む方法とすることができる。そして工程(1)および工程(2)を複数回繰り返し、造形物層を積層することで、立体造形物を製造することができる。なお、当該立体造形物の製造方法は、必要に応じて、他の工程を含んでいてもよく、例えば立体造形用樹脂組成物を予備加熱する工程等を含んでいてもよい。
【0074】
・薄層形成工程(工程(1))
本工程では、立体造形用樹脂組成物を含む薄層を形成する。たとえば、立体造形装置の粉末供給部から供給された立体造形用樹脂組成物を、リコータによって造形ステージ上に平らに敷き詰める。薄層は、造形ステージ上に直接形成してもよいし、すでに敷き詰められている立体造形用樹脂組成物、またはすでに形成されている造形物層の上に形成してもよい。なお、上記立体造形用樹脂組成物に、必要に応じて別途、フローエージェントやレーザ吸収剤を混合して薄層を形成してもよい。
【0075】
薄層の厚さは、所望の造形物層の厚さと同じとする。薄層の厚さは、製造しようとする立体造形物の精度に応じて任意に設定することができるが、通常、0.01mm以上0.30mm以下である。薄層の厚さを0.01mm以上とすることで、次の造形物層を形成するためのレーザ光照射によって下の層の立体造形用樹脂組成物が溶融結合することを防ぐことができ、さらには均一な敷き詰めが可能となる。また、薄層の厚さを0.30mm以下とすることで、レーザ光のエネルギーを薄層の下部まで伝導させて、薄層を構成する立体造形用樹脂組成物を、厚み方向の全体にわたって十分に溶融結合させることができる。前記観点からは、薄層の厚さは0.01mm以上0.10mm以下であることがより好ましい。また、十分に立体造形用樹脂組成物を溶融結合させ、造形物層の割れをより生じ難くする観点からは、薄層の厚さと、後述するレーザ光のビームスポット径との差が0.10mm以内になるよう、薄層の厚さを設定することが好ましい。
【0076】
・レーザ光照射工程(工程(2))
本工程では、立体造形用樹脂組成物を含む薄層のうち、造形物層を形成すべき位置にレーザ光を選択的に照射し、照射された位置の熱可塑性樹脂含有粒子を溶融結合させて造形物層を形成する。このとき、レーザ光のエネルギーを受け取った立体造形用樹脂組成物(熱可塑性樹脂含有粒子)は、すでに形成された造形物層とも溶融結合するため、隣り合う層間の接着も生じる。
【0077】
レーザ光の波長は、立体造形用樹脂組成物(熱可塑性樹脂含有粒子)が吸収する波長の範囲内で設定すればよい。このとき、レーザ光の波長と、立体造形用樹脂組成物の吸収率が最も高くなる波長との差が小さくなるように設定することが好ましいが、一般的に熱可塑性樹脂は様々な波長域の光を吸収するため、COレーザ等の波長帯域の広いレーザ光を用いることが好ましい。たとえば、レーザ光の波長は、例えば0.8μm以上12μm以下とすることができる。
【0078】
レーザ光の出力時のパワーは、後述するレーザ光の走査速度において、前記立体造形用樹脂組成物(熱可塑性樹脂含有粒子)が十分に溶融結合する範囲内で設定すればよい。具体的には、5.0W以上60W以下とすることができる。レーザ光のエネルギーを低くして、製造コストを低くし、かつ、製造装置の構成を簡易なものにする観点からは、レーザ光の出力時のパワーは30W以下であることが好ましく、20W以下であることがより好ましい。
【0079】
レーザ光の走査速度は、製造コストを高めず、かつ、装置構成を過剰に複雑にしない範囲内で設定すればよい。具体的には、1m/秒以上10m/秒以下とすることが好ましく、2m/秒以上8m/秒以下とすることがより好ましく、3m/秒以上7m/秒以下とすることがさらに好ましい。
レーザ光のビーム径は、製造しようとする立体造形物の精度に応じて適宜設定することができる。
【0080】
・工程(1)および工程(2)の繰返しについて
立体造形物の製造の際には、上述の工程(1)および工程(2)を、任意の回数繰り返す。これにより、造形物層が積層されて、所望の立体造形物が得られることとなる。
【0081】
・予備加熱工程
前述のように、粉末床結合溶融方式による立体造形物の製造方法では、立体造形用樹脂組成物を予備加熱する工程を行ってもよい。立体造形用樹脂組成物の予備加熱は、上記薄層形成(工程(1))後に行ってもよく、薄層形成(工程(1))前に行ってもよい。また、これらの両方で行ってもよい。
【0082】
予備加熱温度は、立体造形用樹脂組成物(熱可塑性樹脂含有粒子)どうしが溶融結合しないように、熱可塑性樹脂含有粒子に含まれる熱可塑性樹脂の溶融温度より低い温度とする。予備加熱温度は、熱可塑性樹脂の溶融温度に応じて適宜選択され、例えば、50℃以上300℃以下とすることができ、100℃以上230℃以下であることがより好ましく、150℃以上190℃以下であることがさらに好ましい。
【0083】
またこのとき、加熱時間は1~30秒とすることが好ましく、5~20秒とすることがより好ましい。上記温度で上記時間、予備加熱を行うことで、レーザエネルギー照射時に立体造形用樹脂組成物(熱可塑性樹脂含有粒子)が溶融するまでの時間を短くすることができ、少ないレーザエネルギー量で立体造形物を製造することが可能となる。
【0084】
・その他
なお、溶融結合中の立体造形用樹脂組成物の酸化等によって、立体造形物の強度が低下することを防ぐ観点からは、少なくとも工程(2)は減圧下または不活性ガス雰囲気中で行うことが好ましい。減圧するときの圧力は10-2Pa以下であることが好ましく、10-3Pa以下であることがより好ましい。このとき、使用することができる不活性ガスの例には、窒素ガスおよび希ガスが含まれる。これらの不活性ガスのうち、入手の容易さの観点からは、窒素(N)ガス、ヘリウム(He)ガスまたはアルゴン(Ar)ガスが好ましい。製造工程を簡略化する観点からは、工程(1)および工程(2)の両方を減圧下または不活性ガス雰囲気中で行うことが好ましい。
【0085】
3-2.MJF方式による立体造形物の製造方法
本実施形態の立体造形物の製造方法は、(1)上述の立体造形用樹脂組成物を含む薄層を形成する薄層形成工程と、(2)エネルギー吸収剤を含む結合用流体を、薄層の特定の領域に塗布する流体塗布工程と、(3)流体塗布工程後の薄層にエネルギーを照射し、結合用流体を塗布した領域の熱可塑性樹脂含有粒子を溶融結合させて造形物層を形成するエネルギー照射工程と、を含む。なお、当該立体造形物の製造方法は、必要に応じて、他の工程を含んでいてもよく、例えば立体造形用樹脂組成物を予備加熱する工程等を含んでいてもよい。
【0086】
(1)薄層形成工程
本工程では、上述の立体造形用樹脂組成物を主に含む薄層を形成する。薄層の形成方法は、所望の厚みの層を形成可能であれば特に制限されない。例えば、本工程は、立体造形装置の樹脂組成物供給部から供給された立体造形用樹脂組成物を、リコータによって造形ステージ上に平らに敷き詰める工程とすることができる。薄層は、造形ステージ上に直接形成してもよいし、すでに敷き詰められている立体造形用樹脂組成物またはすでに形成されている造形物層の上に接するように形成してもよい。
【0087】
薄層の厚さは、所望の造形物層の厚さと同じとする。薄層の厚さは、製造しようとする立体造形物の精度に応じて任意に設定することができるが、通常、0.01mm以上0.30mm以下である。薄層の厚さを0.01mm以上とすることで、新たな造形物層を形成するためのエネルギー照射(後述のエネルギー照射工程におけるエネルギー照射)によって、既に作製した造形物層が溶融することを防ぐことができる。また、薄層の厚さが0.01mm以上であると、立体造形用樹脂組成物を均一に敷き詰めやすくなる。また、薄層の厚さを0.30mm以下とすることで、後述のエネルギー照射工程において、エネルギー(例えば赤外光)を薄層の下部まで伝導させることが可能となる。これにより、所望の領域(結合用流体を塗布する領域)の熱可塑性樹脂含有粒子を、厚み方向の全体にわたって溶融させることが可能となる。前記観点からは、薄層の厚さは0.01mm以上0.20mm以下であることがより好ましい。
【0088】
(2)流体塗布工程
本工程では、上記薄層形成工程で形成した薄層の特定の領域に、エネルギー吸収剤を含む結合用流体を塗布する。このとき、必要に応じて、結合用流体よりエネルギー吸収の少ない剥離用流体を、結合用流体を塗布しない領域に塗布してもよい。具体的には、造形物層を形成すべき位置に選択的に結合用流体を塗布し、造形物層を形成しない領域に、剥離用流体を塗布してもよい。結合用流体を塗布する領域の周囲に隣接して剥離用流体を塗布することで、剥離用流体を塗布した領域では、熱可塑性樹脂含有粒子が溶融結合し難くなる。結合用流体および剥離用流体のうち、どちらを先に塗布してもよいが、得られる立体造形物の寸法精度の観点から、結合用流体を先に塗布することが好ましい。
【0089】
結合用流体および剥離用流体の塗布方法は特に制限されず、例えばディスペンサーによる塗布や、インクジェット法による塗布、スプレー塗布等とすることができるが、高速で所望の領域に結合用流体および剥離用流体を塗布可能であるとの観点から少なくとも一方を、インクジェット法で塗布することが好ましく、両方をインクジェット法で塗布することがより好ましい。
【0090】
結合用流体および剥離用流体の塗布量は、それぞれ薄層1mm当たり、0.1~50μLであることが好ましく、0.2~40μLであることがより好ましい。結合用流体および剥離用流体の塗布量が当該範囲であると、造形物層を形成する領域、および造形物層を形成しない領域の立体造形用樹脂組成物に、それぞれ結合用流体および剥離用流体を十分に含浸させることができ、寸法精度の良好な立体造形物を形成することができる。
【0091】
本工程で塗布する結合用流体は、従来のMJF方式に用いられる結合用流体と同様とすることができ、例えばエネルギー吸収剤と、溶媒と、を少なくとも含む組成物とすることができる。結合用流体は、必要に応じて公知の分散剤等を含んでいてもよい。
【0092】
エネルギー吸収剤は、後述するエネルギー照射工程において照射されるエネルギーを吸収し、結合用流体が塗布された領域の温度を効率的に高めることが可能なものであれば特に制限されない。エネルギー吸収剤の具体例には、カーボンブラック、ITO(スズ酸化インジウム)、ATO(アンチモン酸化スズ)等の赤外線吸収剤、シアニン色素,アルミニウムや亜鉛を中心に持つフタロシアニン色素,各種ナフタロシアニン化合物,平面四配位構造を有するニッケルジチオレン錯体,スクアリウム色素,キノン系化合物,ジインモニウム化合物,アゾ化合物等の赤外線吸収色素が含まれる。これらの中でも、汎用性や結合用流体が塗布された領域の温度を効率的に高めることができるとの観点から、赤外線吸収剤が好ましく、カーボンブラックであることがさらに好ましい。
【0093】
エネルギー吸収剤の形状は特に制限されないが、粒子状であることが好ましい。また、その平均粒子径は0.1~1.0μmであることが好ましく、0.1~0.5μmであることがより好ましい。エネルギー吸収剤の平均粒子径が過度に大きいと、結合用流体を薄層上に塗布した際、エネルギー吸収剤が熱可塑性樹脂含有粒子の隙間に入り込み難くなる。一方、エネギー吸収剤の平均粒子径が0.1μm以上であると、後述するエネルギー照射工程で、効率良く熱可塑性樹脂含有粒子に熱を伝えることができ、周囲の熱可塑性樹脂含有粒子を溶融させることが可能となる。
【0094】
結合用流体は、エネルギー吸収剤を0.1~10.0質量%含むことが好ましく、1.0~5.0質量%含むことがより好ましい。エネルギー吸収剤の量が0.1質量%以上であると、後述のエネルギー照射工程で、結合用流体が塗布された領域の温度を十分に高めることが可能となる。一方、エネルギー吸収剤の量が10.0質量%以下であると、結合用流体内でエネルギー吸収剤が凝集すること等が少なく、結合用流体の塗布安定性が高まりやすくなる。
【0095】
一方、溶媒は、エネルギー吸収剤を分散可能であり、さらに立体造形用樹脂組成物中の熱可塑性樹脂含有粒子(特に熱可塑性樹脂)等を溶解し難い溶媒であれば特に制限されず、例えば水とすることができる。
【0096】
結合用流体は、上記溶媒を90.0~99.9質量%含むことが好ましく、95.0~99.0質量%含むことがより好ましい。結合用流体中の溶媒量が90.0質量%以上であると、結合用流体の流動性が高くなり、例えばインクジェット法等で塗布しやすくなる。
【0097】
結合用流体の粘度は、0.5~50.0mPa・sであることが好ましく、1.0~20.0mPa・sであることがより好ましい。結合用流体の粘度が0.5mPa・s以上であると、結合用流体を薄層に塗布した際の拡散が抑制されやすくなる。一方で、結合用流体の粘度が50.0mPa・s以下であると、結合用流体の塗布安定性が高まりやすくなる。
【0098】
一方、本工程で塗布する剥離用流体は、相対的に、結合用流体よりエネルギー吸収の少ない流体であればよく、例えば水を主成分とする流体等とすることができる。
【0099】
剥離用流体は、水を90質量%以上含むことが好ましく、95質量%以上含むことがより好ましい。剥離用流体中の水の量が90質量%以上であると、例えばインクジェット法等で塗布しやすくなる。
【0100】
(3)エネルギー照射工程
本工程では、上記流体塗布工程後の薄層、すなわち結合用流体および剥離用流体が塗布された薄層に、エネルギーを一括照射する。このとき、結合用流体が塗布された領域では、エネルギー吸収剤がエネルギーを吸収し、当該領域の温度が部分的に上昇する。そして、当該領域の熱可塑性樹脂含有粒子のみが溶融し、造形物層が形成される。
【0101】
本工程で照射するエネルギーの種類は、結合用流体が含むエネルギー吸収剤の種類に応じて適宜選択される。当該エネルギーの具体例には、赤外光、白色光等が含まれる。これらの中でも、結合用流体を塗布した領域では、効率よく熱可塑性樹脂含有粒子を溶融させることが可能である。一方で、剥離用流体を塗布した領域では、薄層の温度が上昇し難いとの観点から赤外光であることが好ましく、波長780~3000nmの光であることがより好ましく、波長800~2500nmの光であることがより好ましい。
【0102】
また、本工程でエネルギーを照射する時間は、立体造形用樹脂組成物が含む熱可塑性樹脂含有粒子(特に熱可塑性樹脂)の種類に応じて適宜選択されるが、通常、5~60秒であることが好ましく、10~30秒であることがより好ましい。エネルギー照射時間を5秒以上とすることで、十分に熱可塑性樹脂含有粒子を溶融させて、これらを結合させることが可能となる。一方で、60秒以下とすることで、効率よく立体造形物を製造することが可能となる。
【0103】
・予備加熱工程
MJF方式においても、立体造形用樹脂組成物を予備加熱する工程を行ってもよい。立体造形用樹脂組成物の予備加熱は、上記薄層形成(工程(1))後に行ってもよく、薄層形成(工程(1))前に行ってもよい。また、これらの両方で行ってもよい。予備加熱を行うことで、(3)エネルギー照射工程で照射するエネルギー量を少なくすることが可能となる。またさらに、短時間で効率良く造形物層を形成することが可能となる。予備加熱温度は、熱可塑性樹脂の溶融温度より低い温度であり、かつ(2)流体塗布工程で塗布する結合用流体や剥離用流体が含む溶媒の沸点より低い温度であることが好ましい。具体的には、熱可塑性樹脂含有粒子中の熱可塑性樹脂の融点や、結合用流体や剥離用流体が含む溶媒の沸点より、50℃~5℃低い温度であることが好ましく、30℃~5℃低い温度であることがより好ましい。またこのとき、加熱時間は1~60秒とすることが好ましく、3~20秒とすることがより好ましい。加熱温度および加熱時間を上記範囲とすることで、(3)エネルギー照射工程におけるエネルギー照射量を低減することができる。
【実施例
【0104】
以下において、本発明の具体的な実施例を説明する。なお、これらの実施例によって、本発明の範囲は限定して解釈されない。
【0105】
1.熱可塑性樹脂含有粒子(立体造形用樹脂組成物)の作製
熱可塑性樹脂の弾性率は、ISO527-1:2017に準拠して、引張試験器により27℃で測定した。
また、水溶性樹脂の重量平均分子量は、ゲルパーミエーション(GPC、スチレン換算)で特定した。
水溶性樹脂の耐熱温度は、レオメーターにより、貯蔵弾性率の変化が起きるまで昇温させることにより特定した。
混合物の軟化点は、示差走査熱量計(DSC)により、10℃/minの条件で0℃から200℃まで昇温させ、10分間アニーリングをし、200℃から0℃まで降温させ、更に0℃から200℃まで昇温させることにより特定した。
【0106】
[実施例1]
メタロセン系ポリプロピレン樹脂(日本ポリプロ社製、WMH02、弾性率2300MPa)45質量部と、エチレンオキサイド/プロピレンオキサイド(EO・PO)共重合体(明成化学工業社製、EP1010N、耐熱温度200℃、分子量約10万)55質量部と、を混合した。当該混合物の軟化点は、160℃であった。当該混合物を180℃に加熱し、小型混練機(Xplore社製、MC15)にて20分間混練した。
そして、混練物を30℃まで冷却した後、70℃に加熱した酢酸エチル(第1の溶媒)10Lと混合した。これにより、エチレンオキサイド/プロピレンオキサイド共重合体が酢酸エチルに溶解した。その後、当該溶液を遠心分離にかけ、ポリプロピレン樹脂を含む熱可塑性樹脂含有粒子を分取した。
さらに、当該熱可塑性樹脂含有粒子を酢酸エチル(第2の溶媒)で洗浄し、ポリプロピレン樹脂を含む熱可塑性樹脂含有粒子1を得た。当該熱可塑性樹脂含有粒子1の平均粒子径は、40μmであった。また、当該熱可塑性樹脂含有粒子1中のエチレンオキサイド/プロピレンオキサイド共重合体の量は、0.01質量%であった。
【0107】
[実施例2]
混練物と混合する際の第1の溶媒の温度を、27℃とした以外は、実施例1と同様に、熱可塑性樹脂含有粒子2を得た。当該熱可塑性樹脂含有粒子2の平均粒子径は、40μmであった。また、当該熱可塑性樹脂含有粒子2中のエチレンオキサイド/プロピレンオキサイド共重合体の量は、7質量%であった。
【0108】
[実施例3]
第1の溶媒および第2の溶媒を水とし、混練物と混合する際の第1の溶媒の温度を、27℃とした以外は、実施例1と同様に、熱可塑性樹脂含有粒子3を得た。当該熱可塑性樹脂含有粒子3の平均粒子径は、50μmであった。また、当該熱可塑性樹脂含有粒子3中のエチレンオキサイド/プロピレンオキサイド共重合体の量は、0.1質量%であった。
【0109】
[実施例4]
ポリアミド樹脂(ダイセル・エボニック社製、ダイアミドL1600、弾性率1430MPa)45質量部と、エチレンオキサイド/プロピレンオキサイド共重合体(明成化学工業社製、EP1010N、耐熱温度200℃、分子量約10万)55質量部と、を混合した。当該混合物の軟化点は、160℃であった。当該混合物を200℃に加熱し、小型混練機(Xplore社製、MC15)にて20分間混練した。
そして、混練物を30℃まで冷却した後、70℃に加熱した酢酸エチル(第1の溶媒)に浸漬した。これにより、エチレンオキサイド/プロピレンオキサイド共重合体が酢酸エチルに溶解した。その後、当該溶液を遠心分離にかけ、ポリアミド樹脂を含む熱可塑性樹脂含有粒子を分取した。
さらに、当該熱可塑性樹脂含有粒子を酢酸エチル(第2の溶媒)で洗浄し、ポリアミド樹脂を含む熱可塑性樹脂含有粒子4を得た。当該熱可塑性樹脂含有粒子4の平均粒子径は、40μmであった。また、当該熱可塑性樹脂含有粒子4中のエチレンオキサイド/プロピレンオキサイド共重合体の量は、0.01質量%であった。
【0110】
[実施例5]
混練物と混合する際の第1の溶媒の温度を、27℃とした以外は、実施例4と同様に、熱可塑性樹脂含有粒子5を得た。当該熱可塑性樹脂含有粒子5の平均粒子径は、40μmであった。また、当該熱可塑性樹脂含有粒子5中のエチレンオキサイド/プロピレンオキサイド共重合体の量は、7質量%であった。
【0111】
[実施例6]
第1の溶媒および第2の溶媒を水とし、混練物と混合する際の第1の溶媒の温度を、27℃とした以外は、実施例4と同様に、熱可塑性樹脂含有粒子6を得た。当該熱可塑性樹脂含有粒子6の平均粒子径は、50μmであった。また、当該熱可塑性樹脂含有粒子6中のエチレンオキサイド/プロピレンオキサイド共重合体の量は、0.1質量%であった。
【0112】
[比較例1]
ポリアミド樹脂(ダイセル・エボニック社製、ダイアミドL1600、弾性率1430MPa)45質量部と、エチレンオキサイド(明成化学工業社製、R1000、耐熱温度120℃、分子量25~40万)55質量部と、を混合した。当該混合物の軟化点は、160℃であった。当該混合物を180℃に加熱し、小型混練機(Xplore社製、MC15)にて20分間混練した。
そして、混練物を30℃まで冷却した後、70℃の酢酸エチル(第1の溶媒)10Lと混合した。これにより、エチレンオキサイドが酢酸エチルに溶解した。その後、当該溶液を遠心分離にかけ、ポリアミド樹脂を含む熱可塑性樹脂含有粒子を分取した。
さらに、当該熱可塑性樹脂含有粒子を酢酸エチル(第2の溶媒)で洗浄し、ポリアミド樹脂を含む熱可塑性樹脂含有粒子7を得た。当該熱可塑性樹脂含有粒子7の平均粒子径は、30μmであった。また、当該熱可塑性樹脂含有粒子7中のエチレンオキサイドの量は、10質量%であった。
【0113】
[比較例2]
ポリプロピレン樹脂(サンアロマー社製、PM600A、弾性率1320MPa)45質量部と、ポリエチレングリコール(明成化学工業社製、R150、耐熱温度120℃、分子量20000)55質量部と、を混合した。当該混合物の軟化点は、145℃であった。当該混合物を160℃に加熱し、小型混練機(Xplore社製、MC15)にて混練した。
そして、混練物を30℃まで冷却した後、70℃の酢酸エチル(第1の溶媒)10Lと混合した。これにより、ポリエチレングリコールが酢酸エチルに溶解した。その後、当該溶液を遠心分離にかけ、ポリプロピレン樹脂を含む熱可塑性樹脂含有粒子を分取した。
さらに、当該熱可塑性樹脂含有粒子を酢酸エチル(第2の溶媒)で洗浄し、ポリプロピレン樹脂を含む熱可塑性樹脂含有粒子8を得た。当該熱可塑性樹脂含有粒子8の平均粒子径は、20μmであった。また、当該熱可塑性樹脂含有粒子8中のポリエチレングリコールの量は、10質量%であった。
【0114】
[比較例3]
ポリプロピレン樹脂(サンアロマー社製、PM600A、弾性率1320MPa)の代わりに、ポリアミド樹脂(ダイセル・エボニック社製、ダイアミドL1600、弾性率1430MPa)を用いた以外は、比較例2と同様に、ポリアミド樹脂を含む熱可塑性樹脂含有粒子9を得た。当該熱可塑性樹脂含有粒子9の平均粒子径は、20μmであった。また、当該熱可塑性樹脂含有粒子9中のポリエチレングリコールの量は、10質量%であった。
【0115】
[比較例4]
メタロセン系ポリプロピレン樹脂(日本ポリプロ社製、WMH02、弾性率2300MPa)45質量部と、ポリエチレングリコール(明成化学工業社製、R150、耐熱温度120℃、分子量20000)55質量部と、を混合した。当該混合物の軟化点は、160℃であった。
当該混合物を200℃に加熱し、小型混練機(Xplore社製、MC15)にて混練したところ、ポリプロピレン樹脂が粒子状とならなかった。
【0116】
2.評価
各実施例および比較例で作製した熱可塑性樹脂含有粒子(立体造形用樹脂組成物)について、もしくはその製造段階での状態について、以下のように評価した。結果を表1に示す。
【0117】
[水溶性樹脂の溶解性評価]
熱可塑性樹脂含有粒子を作製する際の、第1の溶媒に対する、水溶性樹脂の溶解性を目視で評価した。そして、以下のように評価した。
◎:数分以内に、混練物(塊)が水中に残っていない状態になった。
○:数時間かけて、混練物(塊)が水中に残っていない状態になった。
△:数日かけて、混練物(塊)が水中に残っていない状態になった。
【0118】
[溶媒のリサイクル性]
第1の溶媒および第2の溶媒のリサイクル性を、溶媒の分取率で評価した。評価は以下のように行った。
◎:蒸留法により溶媒と水溶性樹脂とを分離し、溶媒を分取することが可能であり、その分取率が70%以上であった。
○:蒸留法により溶媒と水溶性樹脂とを分離し、溶媒を分取することが可能であり、その分取率が10%以上70%未満であった。
×:溶媒の分取が不可能、もしくは分取率が10%未満であった。
【0119】
[水溶性樹脂量]
得られた熱可塑性樹脂含有粒子中の水溶性樹脂を、NMR測定により熱可塑性樹脂由来のピークと水溶性樹脂由来のピークを比較することで定量した。
【0120】
[引張強度(破断伸び)の評価]
(立体造形物の作製)
上述の実施例および比較例で作製した熱可塑性樹脂含有粒子(立体造形用樹脂組成物)を、ホットプレート上に設置した造形ステージ上に敷き詰め、厚さ0.1mmの薄層を形成した。ホットプレートの温度を調整することで、予備加熱温度160℃にそれぞれ加熱した。この薄層に、以下の条件で、YAG波長用ガルバノメータスキャナを搭載したCOレーザから縦15mm×横20mmの範囲にレーザ光を照射して、造形物層を作製した。上記工程を高さ55mmになるまで繰り返し、積層された立体造形物をそれぞれ製造した。
<レーザ光の出射条件>
レーザ出力 :12W
レーザ光の波長 :10.6μm
ビーム径 :薄層表面で170μm
<レーザ光の走査条件>
走査速度 :2000mm/sec
ライン数 :1ライン
【0121】
(引張強度(破断伸び)の測定)
上記のようにして作製した立体造形物について、インスロン社製万能試験機model-5582を用い、引張速度1mm/min、掴み具距離60mm、試験温度23℃の条件にて引張強度を測定した。そして、当該引張強度を以下のように評価した。
◎:破断伸びが、10%以上である(装具に好適)
○:破断伸びが5%以上10%未満である(装具へ使用可能)
×:破断伸びが5%未満である(装具に使用不可)
【0122】
【表1】
【0123】
上記表1に示されるように、比較的高弾性率の熱可塑性樹脂と、耐熱温度が130℃以上200℃以下である水溶性樹脂とを混合して、熱可塑性樹脂含有粒子を作製した場合、いずれも所望の平均粒子径の熱可塑性樹脂含有粒子を得ることができた(実施例1~6)。また、当該熱可塑性樹脂含有粒子を含む立体造形用樹脂組成物から立体造形物を作製した場合、破断伸びが優れていた。水溶性樹脂を微量に含むことでも、立体造形時の界面の融着性が向上し、破断伸びが向上したと考えられる。また、立体造形物の表面を偏光顕微鏡で観察したところ、水溶性樹脂によって表面の結晶化も抑制されていた。なお、有機溶媒を第1の溶媒や第2の溶媒として用いた場合、回収後、リサイクルすることが可能であった(実施例1、2、4、および5)。
【0124】
これに対し、比較的高弾性率の熱可塑性樹脂と、耐熱温度が130℃未満の水溶性樹脂とを混合して、熱可塑性樹脂含有粒子を作製しようとした場合、熱可塑性樹脂が十分に分散せず、さらには水溶性樹脂が分解してしまった。つまり、これらを組み合わせた場合には、所望の熱可塑性樹脂含有粒子を得ることができなかった(比較例4)。
【0125】
また、比較的弾性率の低い熱可塑性樹脂と、耐熱温度が130℃未満の水溶性樹脂とを混合して、熱可塑性樹脂含有粒子を作製すると、所望の熱可塑性樹脂含有粒子は得られたものの、破断伸びの評価が低く、例えば装具等、耐久性が要求される用途への適用は難しかった(比較例1~3)。
【0126】
本出願は、2018年3月9日出願の特願2018-043183号に基づく優先権を主張する。当該出願明細書に記載された内容は、すべて本願明細書に援用される。
【産業上の利用可能性】
【0127】
本発明に係る方法で製造される熱可塑性樹脂含有粒子を含む立体造形用樹脂組成物によれば、粉末床溶融結合法やMJF法等のいずれの方法によっても、精度よく立体造形物を形成することが可能である。また、得られる立体造形物は、高い機械的強度および高い弾性率を兼ね備える。したがって、本発明は、立体造形法のさらなる普及に寄与するものと思われる。