(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-05
(45)【発行日】2022-09-13
(54)【発明の名称】導電性組成物、導電膜及び積層体
(51)【国際特許分類】
H01B 1/20 20060101AFI20220906BHJP
C08K 5/3465 20060101ALI20220906BHJP
C08K 5/3415 20060101ALI20220906BHJP
C08L 79/00 20060101ALI20220906BHJP
C08L 39/06 20060101ALI20220906BHJP
【FI】
H01B1/20 A
C08K5/3465
C08K5/3415
C08L79/00 A
C08L39/06
(21)【出願番号】P 2020513424
(86)(22)【出願日】2019-04-10
(86)【国際出願番号】 JP2019015602
(87)【国際公開番号】W WO2019198749
(87)【国際公開日】2019-10-17
【審査請求日】2020-08-07
(31)【優先権主張番号】P 2018075578
(32)【優先日】2018-04-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100152146
【氏名又は名称】伏見 俊介
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【氏名又は名称】大浪 一徳
(72)【発明者】
【氏名】鵜澤 正志
(72)【発明者】
【氏名】佐伯 慎二
(72)【発明者】
【氏名】山嵜 明
【審査官】神田 太郎
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2015/174453(WO,A1)
【文献】特開2018-012815(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01B 1/20
C08K 5/3465
C08K 5/3415
C08L 79/00
C08L 39/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸性基を有する導電性ポリマー(A)と、分子内に環状アミド及びアミノ基を有する塩基性化合物(B)とを含む
導電性組成物であって、
前記導電性組成物は、分子内に2つ以上の窒素原子を含む含窒素複素環式化合物(C)及び水溶性ポリマー(D)(ただし、前記導電性ポリマー(A)を除く。)をさらに含んでいてもよく、
前記塩基性化合物(B)が下記一般式(1)で表される化合物を含み、
前記塩基性化合物(B)の含有量が、前記導電性ポリマー(A)と前記塩基性化合物(B)と前記含窒素複素環式化合物(C)と前記水溶性ポリマー(D)の合計を100質量部としたときに、1~70質量部である、導電性組成物。
【化1】
(式(1)中、R
1
は、炭素数1~10の直鎖若しくは分岐鎖のアルキレン基を表し、R
2
、R
3
は、各々独立に、水素原子又は炭素数1~4の直鎖若しくは分岐鎖のアルキル基を表し、pは1~4の整数を表す。)
【請求項2】
前記環状アミドがラクタムである、請求項1に記載の導電性組成物。
【請求項3】
前記導電性組成物は、前記含窒素複素環式化合物(C)
を含む、請求項1
又は2に記載の導電性組成物。
【請求項4】
前記塩基性化合物(B)と前記含窒素複素環式化合物(C)との質量比が、前記塩基性化合物(B):前記含窒素複素環式化合物(C)=0.5:99.5~99.5:0.5である、請求項
3に記載の導電性組成物。
【請求項5】
前記導電性組成物は、前記水溶性ポリマー(D
)を含む、請求項1~
4のいずれか一項に記載の導電性組成物。
【請求項6】
請求項1~
5のいずれか一項に記載の導電性組成物より形成された、導電膜。
【請求項7】
基材と、前記基材の少なくとも1つの面上に形成された電子線用レジスト層と、前記電子線用レジスト層上に形成された請求項
6に記載の導電膜とを含む、積層体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導電性組成物、導電膜及び積層体に関する。
本願は、2018年4月10日に、日本に出願された特願2018-075578号、に基づき優先権を主張し、その内容をここに援用する。
【背景技術】
【0002】
電子線やイオン線等の荷電粒子線を用いたパターン形成技術は、光リソグラフィーの次世代技術として期待されている。荷電粒子線を用いる場合、生産性向上には、レジストの感度向上が重要である。
従って、露光部分又は荷電粒子線が照射された部分に酸を発生させ、続いてポストエクスポージャーベーク(PEB)と呼ばれる加熱処理により架橋反応又は分解反応を促進させる、高感度な化学増幅型レジストの使用が主流となっている。
【0003】
ところで、荷電粒子線を用いるパターン形成方法においては、特に基材が絶縁性の場合、基材の帯電(チャージアップ)によって発生する電界が原因で、荷電粒子線の軌道が曲げられ、所望のパターンが得られにくいという課題がある。
この課題を解決する手段として、導電性ポリマーを含む導電性組成物をレジスト層の表面に塗布して導電性塗膜(以下、「導電膜」という。)を形成し、前記導電膜でレジスト層の表面を被覆する技術が有効であることが既に知られている。
【0004】
導電性ポリマーとして、酸性基を有するポリアニリンが知られている。酸性基を有するポリアニリンは、ドープ剤を添加することなく導電性を発現できる。
酸性基を有するポリアニリンは、例えば、酸性基を有するアニリンを塩基性反応助剤の存在下で酸化剤により重合することで得られる。
【0005】
しかし、このようにして得られる酸性基を有するポリアニリンには、残存モノマーに加え、副反応の併発に伴って生成したオリゴマー、酸性物質(モノマーや酸化剤の分解物である硫酸イオン等)、塩基性物質(塩基性反応助剤や酸化剤の分解物であるアンモニウムイオン等)等の副生成物が混合した反応混合物として得られるため、必ずしも純度は高くない。
【0006】
また、酸性基を有するポリアニリンを化学増幅型レジストに適用すると、レジスト層上に導電膜を形成したまま露光、PEB処理及び現像を行う際に、酸性物質や塩基性物質がレジスト層へ移行しやすかった。その結果、パターン形状が変化したり、感度が変動したりしやすく、レジスト層への影響がある。
具体的には、レジスト層がポジ型の場合、酸性物質が導電膜からレジスト層へ移行すると、現像時に未露光部のレジスト層が溶解してしまうため、レジスト層の膜減り、パターンの細り、高感度側への感度変動などが起こる。
一方、塩基性物質が導電膜からレジスト層へ移行すると、露光部の酸が失活してしまい、パターン形状の変化や低感度側への感度変動などが起こる。
また、レジスト層がネガ型の場合、上記副生成物の導電膜からレジスト層への移行は、各々逆の現象を引き起こすことになる。
【0007】
そこで、導電性に優れ、レジスト層の膜減りが少ない導電性組成物が提案されている。
例えば、特許文献1には、酸性基を有する導電性ポリマーと、水酸化テトラブチルアンモニウム等の塩基性化合物とを含む導電性組成物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
近年、半導体デバイスの微細化の流れに伴い、数nmオーダーでのレジスト形状の管理も要求されるようになってきている。
そのため、半導体デバイスの次世代プロセスにも適用可能な帯電防止剤として、より複雑で、微細なパターン形状にも対応できる表面平滑性、すなわち、表面荒れの少ない導電膜を形成できる導電性組成物が求められている。
しかしながら、特許文献1に記載の導電性組成物より形成される導電膜は、必ずしも表面平滑性を満足するものではなかった。
【0010】
本発明は、前記事情に鑑みて成されたものであり、レジスト層の膜減りが少なく、かつ表面平滑性及び導電性に優れた導電膜を形成できる導電性組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は以下の態様を有する。
[1] 酸性基を有する導電性ポリマー(A)と、分子内に環状アミド及びアミノ基を有する塩基性化合物(B)とを含む、導電性組成物。
[2] 前記環状アミドがラクタムである、[1]の導電性組成物。
[3] 前記塩基性化合物(B)が下記一般式(1)で表される化合物である、[1]又は[2]の導電性組成物。
【0012】
【0013】
式(1)中、R1は、炭素数1~10の直鎖若しくは分岐鎖のアルキレン基を表し、R2、R3は、各々独立に、水素原子又は炭素数1~4の直鎖若しくは分岐鎖のアルキル基を表し、pは1~4の整数を表す。
【0014】
[4] 分子内に2つ以上の窒素原子を含む含窒素複素環式化合物(C)をさらに含む、[1]~[3]のいずれか1つの導電性組成物。
[5] 前記塩基性化合物(B)と前記含窒素複素環式化合物(C)との質量比が、前記塩基性化合物(B):前記含窒素複素環式化合物(C)=0.5:99.5~99.5:0.5である、[4]の導電性組成物。
[6] 水溶性ポリマー(D)(ただし、前記導電性ポリマー(A)を除く。)をさらに含む、[1]~[5]のいずれか1つの導電性組成物。
[7] [1]~[6]のいずれか1つの導電性組成物より形成された、導電膜。
[8] 基材と、前記基材の少なくとも1つの面上に形成された電子線用レジスト層と、前記電子線用レジスト層上に形成された[7]の導電膜とを含む、積層体。
【発明の効果】
【0015】
本発明の導電性組成物によれば、レジスト層の膜減りが少なく、かつ表面平滑性及び導電性に優れた導電膜を形成できる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明を詳細に説明する。
なお、本発明において「導電性」とは、1×1011Ω/□以下の表面抵抗値を有することである。表面抵抗値は、一定の電流を流した場合の電極間の電位差より求められる。
また、本明細書において「溶解性」とは、単なる水、塩基及び塩基性塩の少なくとも一方を含む水、酸を含む水、水と水溶性有機溶媒との混合物のうち、10g(液温25℃)に、0.1g以上均一に溶解することを意味する。また、「水溶性」とは、上記溶解性に関して、水に対する溶解性のことを意味する。
また、本明細書において、「末端疎水性基」の「末端」とは、ポリマーを構成する繰り返し単位以外の部位を意味する。
また、本明細書において「質量平均分子量」とは、ゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)によって測定される質量平均分子量(ポリスチレンスルホン酸ナトリウム換算又はポリエチレングリコール換算)である。
【0017】
[導電性組成物]
本発明の第一の態様の導電性組成物は、以下に示す導電性ポリマー(A)と、塩基性化合物(B)とを含む。導電性組成物は、以下に示す化合物(C)、水溶性ポリマー(D)(ただし、前記導電性ポリマー(A)を除く。)及び溶剤(E)の少なくとも1つをさらに含むことが好ましい。また、導電性組成物は、必要に応じて、以下に示す高分子化合物(F)及び任意成分の少なくとも1つを含んでいてもよい。
【0018】
<導電性ポリマー(A)>
導電性ポリマー(A)は、酸性基を有する。導電性ポリマー(A)が酸性基を有していれば、水溶性が高まる。
酸性基を有する導電性ポリマーとしては、分子内にスルホン酸基、及びカルボキシ基からなる群より選択される少なくとも1つの基を有していれば、本発明の効果を有する限り特に限定されないが、例えば、特開昭61-197633号公報、特開昭63-39916号公報、特開平1-301714号公報、特開平5-504153号公報、特開平5-503953号公報、特開平4-32848号公報、特開平4-328181号公報、特開平6-145386号公報、特開平6-56987号公報、特開平5-226238号公報、特開平5-178989号公報、特開平6-293828号公報、特開平7-118524号公報、特開平6-32845号公報、特開平6-87949号公報、特開平6-256516号公報、特開平7-41756号公報、特開平7-48436号公報、特開平4-268331号公報、特開2014-65898号公報等に示された導電性ポリマーなどが、溶解性の観点から好ましい。
【0019】
酸性基を有する導電性ポリマーとしては、具体的には、α位若しくはβ位が、スルホン酸基、及びカルボキシ基からなる群より選択される少なくとも1つの基で置換されたフェニレンビニレン、ビニレン、チエニレン、ピロリレン、フェニレン、イミノフェニレン、イソチアナフテン、フリレン、及びカルバゾリレンからなる群から選ばれた少なくとも1種を繰り返し単位として含む、π共役系導電性ポリマーが挙げられる。
また、前記π共役系導電性ポリマーがイミノフェニレン、及びガルバゾリレンからなる群から選ばれた少なくとも1種の繰り返し単位を含む場合は、前記繰り返し単位の窒素原子上に、スルホン酸基、及びカルボキシ基からなる群より選択される少なくとも1つの基を有する、又はスルホン酸基、及びカルボキシ基からなる群より選択される少なくとも1つの基で置換されたアルキル基、若しくはエーテル結合を含むアルキル基を前記窒素原子上に有する導電性ポリマーが挙げられる。
この中でも、導電性や溶解性の観点から、β位がスルホン酸基、及びカルボキシ基からなる群より選択される少なくとも1つの基で置換されたチエニレン、ピロリレン、イミノフェニレン、フェニレンビニレン、カルバゾリレン、及びイソチアナフテンからなる群から選ばれた少なくとも1種をモノマーユニット(単位)として有する導電性ポリマーが好ましく用いられる。
【0020】
導電性ポリマー(A)は、導電性や溶解性の観点から下記一般式(2)~(5)で表される単位からなる群より選択される少なくとも1種のモノマーユニットを有することが好ましい。
【0021】
【0022】
【0023】
【0024】
【0025】
式(2)~(5)中、Xは硫黄原子、又は窒素原子を表し、R4~R18は各々独立に、水素原子、炭素数1~24の直鎖若しくは分岐鎖のアルキル基、炭素数1~24の直鎖若しくは分岐鎖のアルコキシ基、酸性基、ヒドロキシ基、ニトロ基、ハロゲン原子(-F、-Cl、-Br又はI)、-N(R19)2、-NHCOR19、-SR19、-OCOR19、-COOR19、-COR19、-CHO、又は-CNを表す。R19は炭素数1~24のアルキル基、炭素数1~24のアリール基、又は炭素数1~24のアラルキル基を表す。
ただし、一般式(2)のR4、R5のうちの少なくとも一つ、一般式(3)のR6~R9のうちの少なくとも一つ、一般式(4)のR10~R13のうちの少なくとも一つ、一般式(5)のR14~R18のうちの少なくとも一つは、それぞれ酸性基又はその塩である。
【0026】
ここで、「酸性基」とは、スルホン酸基(スルホ基)又はカルボン酸基(カルボキシ基)を意味する。
スルホン酸基は、酸の状態(-SO3H)で含まれていてもよく、イオンの状態(-SO3
-)で含まれていてもよい。さらに、スルホン酸基には、スルホン酸基を有する置換基(-R20SO3H)も含まれる。
一方、カルボン酸基は、酸の状態(-COOH)で含まれていてもよく、イオンの状態(-COO-)で含まれていてもよい。さらに、カルボン酸基には、カルボン酸基を有する置換基(-R20COOH)も含まれる。
前記R20は炭素数1~24の直鎖若しくは分岐鎖のアルキレン基、炭素数1~24の直鎖若しくは分岐鎖のアリーレン基、又は炭素数1~24の直鎖若しくは分岐鎖のアラルキレン基を表す。
【0027】
酸性基の塩としては、スルホン酸基又はカルボン酸基のアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、アンモニウム塩、又は置換アンモニウム塩などが挙げられる。
アルカリ金属塩としては、例えば、硫酸リチウム、炭酸リチウム、水酸化リチウム、硫酸ナトリウム、炭酸ナトリウム、水酸化ナトリウム、硫酸カリウム、炭酸カリウム、水酸化カリウム及びこれらの骨格を有する誘導体などが挙げられる。
アルカリ土類金属塩としては、例えばマグネシウム塩、カルシウム塩などが挙げられる。
置換アンモニウム塩としては、例えば脂肪族アンモニウム塩、飽和脂環式アンモニウム塩、不飽和脂環式アンモニウム塩などが挙げられる。
脂肪族アンモニウム塩としては、例えば、メチルアンモニウム、ジメチルアンモニウム、トリメチルアンモニウム、エチルアンモニウム、ジエチルアンモニウム、トリエチルアンモニウム、メチルエチルアンモニウム、ジエチルメチルアンモニウム、ジメチルエチルアンモニウム、プロピルアンモニウム、ジプロピルアンモニウム、イソプロピルアンモニウム、ジイソプロピルアンモニウム、ブチルアンモニウム、ジブチルアンモニウム、メチルプロピルアンモニウム、エチルプロピルアンモニウム、メチルイソプロピルアンモニウム、エチルイソプロピルアンモニウム、メチルブチルアンモニウム、エチルブチルアンモニウム、テトラメチルアンモニウム、テトラメチロールアンモニウム、テトラエチルアンモニウム、テトラn-ブチルアンモニウム、テトラsec-ブチルアンモニウム、テトラt-ブチルアンモニウムなどが挙げられる。
飽和脂環式アンモニウム塩としては、例えば、ピペリジニウム、ピロリジニウム、モルホリニウム、ピペラジニウム及びこれらの骨格を有する誘導体などが挙げられる。
不飽和脂環式アンモニウム塩としては、例えば、ピリジニウム、α-ピコリニウム、β-ピコリニウム、γ-ピコリニウム、キノリニウム、イソキノリニウム、ピロリニウム、及びこれらの骨格を有する誘導体などが挙げられる。
【0028】
導電性ポリマー(A)としては、高い導電性を発現できる観点から、上記一般式(5)で表される単位を有することが好ましく、その中でも特に、溶解性にも優れる観点から、下記一般式(6)で表されるモノマーユニットを有することがより好ましい。
【0029】
【0030】
式(6)中、R21~R24は、各々独立に、水素原子、炭素数1~24の直鎖若しくは分岐鎖のアルキル基、炭素数1~24の直鎖若しくは分岐鎖のアルコキシ基、酸性基、ヒドロキシ基、ニトロ基、又はハロゲン原子(-F、-Cl、-Br又はI)を表す。また、R21~R24のうちの少なくとも一つは酸性基又はその塩である。
【0031】
前記一般式(6)で表される単位としては、製造が容易な点で、R21~R24のうち、いずれか1つが炭素数1~4の直鎖又は分岐鎖のアルコキシ基であり、他のいずれか一つがスルホン酸基であり、残りが水素であるものが好ましい。
【0032】
導電性ポリマー(A)において、溶解性が非常に良好となる観点から、ポリマー中の芳香環の総数に対する、酸性基が結合した芳香環の数は、50%以上であることが好ましく、70%以上がより好ましく、90%以上がさらに好ましく、100%が最も好ましい。
ポリマー中の芳香環の総数に対する、酸性基が結合した芳香環の数は、導電性ポリマー(A)製造時の、モノマーの仕込み比から算出した値のことを指す。
【0033】
また、導電性ポリマー(A)において、モノマーユニットの芳香環上の酸性基以外の置換基は、モノマーへの反応性付与の観点から電子供与性基が好ましく、具体的には、炭素数1~24のアルキル基、炭素数1~24のアルコキシ基、ハロゲン基(-F、-Cl、-Br又はI)等が好ましく、このうち、電子供与性の観点から、炭素数1~24のアルコキシ基であることが最も好ましい。
【0034】
導電性ポリマー(A)としては、高い導電性と溶解性を発現できる観点から、下記一般式(7)で表される構造を有する化合物であることが好ましく、下記一般式(7)で表される構造を有する化合物の中でも、ポリ(2-スルホ-5-メトキシ-1,4-イミノフェニレン)が特に好ましい。
【0035】
【0036】
式(7)中、R25~R40は、各々独立に、水素原子、炭素数1~4の直鎖若しくは分岐鎖のアルキル基、炭素数1~4の直鎖若しくは分岐鎖のアルコキシ基、酸性基、ヒドロキシ基、ニトロ基、又はハロゲン原子(-F、-Cl、-Br又はI)を表す。また、R25~R40のうち少なくとも一つは酸性基又はその塩である。また、nは重合度を示す。本発明においては、nは5~2500の整数であることが好ましい。
【0037】
導電性ポリマー(A)に含有される酸性基は、導電性向上の観点から少なくともその一部が遊離酸型であることが望ましい。
【0038】
導電性ポリマー(A)の質量平均分子量は、GPCのポリスチレンスルホン酸ナトリウム換算で、導電性、溶解性及び成膜性の観点から、1000~100万が好ましく、1500~80万がより好ましく、2000~50万がさらに好ましく、2000~10万が特に好ましい。導電性ポリマー(A)の質量平均分子量が1000未満の場合、溶解性には優れるものの、導電性、及び成膜性が不足する場合がある。一方、質量平均分子量が100万を超える場合、導電性には優れるものの、溶解性が不充分な場合がある。
ここで、「成膜性」とは、ハジキ等が無い均一な膜となる性質のことを指し、ガラス上へのスピンコート等の方法で評価することができる。
【0039】
導電性ポリマー(A)の製造方法としては、公知の方法を用いることができ、本発明の効果を有する限り特に限定はされない。
具体的には、前述のいずれかのモノマーユニットを有する重合性単量体(原料モノマー)を化学酸化法、電解酸化法などの各種合成法により重合する方法等が挙げられる。このような方法としては、例えば特開平7-196791号公報、特開平7-324132号公報に記載の合成法などを適用することができる。
以下に、導電性ポリマー(A)の製造方法の一例について説明する。
【0040】
導電性ポリマー(A)は、例えば原料モノマーを塩基性反応助剤の存在下、酸化剤を用いて重合することで得られる。
塩基性反応助剤としては、例えば無機塩基(水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム等)、アンモニア、脂式アミン類、環式飽和アミン類、環式不飽和アミン類(水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム等)などが挙げられる。
酸化剤としては、例えばペルオキソ二硫酸類(ペルオキソ二硫酸、ペルオキソ二硫酸アンモニウム、ペルオキソ二硫酸ナトリウム、ペルオキソ二硫酸カリウム等)、過酸化水素などが挙げられる。
【0041】
重合の方法としては、例えば、酸化剤溶液中に原料モノマーと塩基性反応助剤の混合溶液を滴下する方法、原料モノマーと塩基性反応助剤の混合溶液に酸化剤溶液を滴下する方法、反応容器等に原料モノマーと塩基性反応助剤の混合溶液と、酸化剤溶液を同時に滴下する方法などが挙げられる。
【0042】
重合後は、通常、遠心分離器等の濾過器により溶媒を濾別する。さらに、必要に応じて濾過物を洗浄液により洗浄した後、乾燥させて、導電性ポリマー(A)を得る。
【0043】
このようにして得られる導電性ポリマー(A)には、原料モノマー(未反応のモノマー)、副反応の併発に伴うオリゴマー、酸化剤、塩基性反応助剤等の低分子量体が含まれている場合がある。これら低分子量体は導電性を阻害する要因となる。
【0044】
よって、導電性ポリマー(A)を精製して低分子量体を除去することが好ましい。
導電性ポリマー(A)の精製方法としては特に限定されず、イオン交換法、プロトン酸溶液中での酸洗浄、加熱処理による除去、中和析出などあらゆる方法を用いることができるが、純度の高い導電性ポリマー(A)を容易に得ることができる観点から、イオン交換法が特に有効である。
【0045】
イオン交換法としては、陽イオン交換樹脂や陰イオン交換樹脂等のイオン交換樹脂を用いたカラム式、バッチ式の処理;電気透析法などが挙げられる。
なお、イオン交換法で導電性ポリマー(A)を精製する場合は、重合で得られた反応混合物を所望の固形分濃度になるように水性媒体に溶解させ、ポリマー溶液としてからイオン交換樹脂に接触させることが好ましい。
水性媒体としては、水、有機溶剤、水と有機溶剤との混合溶剤が挙げられる。有機溶剤としては、後述する溶剤(E)と同様のものが挙げられる。
ポリマー溶液中の導電性ポリマー(A)の濃度としては、工業性や精製効率の観点から、0.1~20質量%が好ましく、0.1~10質量%がより好ましい。
【0046】
導電性ポリマー(A)の含有量は、導電性ポリマー(A)と塩基性化合物(B)と化合物(C)と水溶性ポリマー(D)の合計を100質量部としたときに、5~90質量部が好ましく、10~80質量部がより好ましく、20~75質量部がさらに好ましい。導電性ポリマー(A)の含有量が上記範囲内であれば、導電性により優れる導電性塗膜(以下、「導電膜」という。)を形成できる。
【0047】
<塩基性化合物(B)>
塩基性化合物(B)は、分子内に環状アミド及びアミノ基を有する。
環状アミドとしては、ラクタムが好ましい。
このような塩基性化合物(B)としては、下記一般式(1)で表される化合物が好ましい。
【0048】
【0049】
式(1)中、R1は、炭素数1~10の直鎖若しくは分岐鎖のアルキレン基を表し、R2、R3は、各々独立に、水素原子又は炭素数1~4の直鎖若しくは分岐鎖のアルキル基を表し、pは1~4の整数を表す。
【0050】
R1の炭素数は、1~7が好ましく、2~5がより好ましい。
R2、R3のうち、少なくとも一方が水素原子であることが好ましく、R2及びR3の両方が水素原子であることがより好ましい。
【0051】
前記一般式(1)で表される化合物としては、例えば1-(3-アミノプロピル)-2-ピロリドン、N-(3-アミノプロピル)-ε-カプロラクタムなどが挙げられる。
これらの化合物は、いずれか1種を単独で用いてもよいし、2種以上を任意の割合で混合して用いてもよい。
【0052】
塩基性化合物(B)の含有量は、導電性ポリマー(A)と塩基性化合物(B)と化合物(C)と水溶性ポリマー(D)の合計を100質量部としたときに、1~70質量部が好ましく、5~60質量部がより好ましく、10~50質量部がさらに好ましい。塩基性化合物(B)の含有量が上記下限値以上であれば、本発明の第一の態様の導電性組成物を用いてレジスト層上に導電膜を形成した際に、加熱によって導電膜から酸性物質がレジスト層に拡散するのを充分に抑制できる。加えて、導電膜の表面平滑性がより向上する。一方、塩基性化合物(B)の含有量が上記上限値以下であれば、導電膜としての性能、すなわち、導電性や、塗布性の性能を保持できる。
【0053】
<化合物(C)>
化合物(C)は、分子内に2つ以上の窒素原子を含む含窒素複素環式化合物である。
化合物(C)としては、分子内に2つ以上の窒素原子を含み、かつ素複素環式の構造であれば、本発明の効果を有する限り特に限定されないが、120℃以上の沸点を有するものが好ましい。
【0054】
化合物(C)としては、例えば4-ジメチルアミノピリジン、4-ジメチルアミノメチルピリジン、3,4-ビス(ジメチルアミノ)ピリジン等の第3級アミノ基を置換基として有するピリジン誘導体;1,5-ジアザビシクロ[4.3.0]-5-ノネン(DBN)、1,8-ジアザビシクロ[5.4.0]-7-ウンデセン(DBU)、及びこれらの誘導体などが挙げられる。これらの中でも、水溶性に優れる観点から、4-ジメチルアミノピリジン、4-ジメチルアミノメチルピリジン、1,5-ジアザビシクロ[4.3.0]-5-ノネン(DBN)、1,8-ジアザビシクロ[5.4.0]-7-ウンデセン(DBU)が好ましい。
これらの化合物(C)は、いずれか1種を単独で用いてもよいし、2種以上を任意の割合で混合して用いてもよい。
【0055】
化合物(C)の含有量は、導電性ポリマー(A)と塩基性化合物(B)と化合物(C)と水溶性ポリマー(D)の合計を100質量部としたときに、1~65質量部が好ましく、1~60質量部がより好ましく、2~50質量部がさらに好ましい。化合物(C)の含有量が上記下限値以上であれば、導電膜から酸性物質がレジスト層に拡散するのをより効果的に抑制できる。一方、化合物(C)の含有量が上記上限値以下であれば、導電膜の導電性がより向上する。
【0056】
塩基性化合物(B)と化合物(C)の質量比は、塩基性化合物(B):化合物(C)=0.5:99.5~100:0が好ましく、2:98~100:0がより好ましく、5:95~100:0がさらに好ましく、60:40~100:0が特に好ましい。また、一つの側面では、塩基性化合物(B)と化合物(C)の質量比は、塩基性化合物(B):化合物(C)=0.5:99.5~99.5:0.5が好ましい。塩基性化合物(B)と化合物(C)の質量比が上記範囲内であれば、レジスト層の膜減りの抑制と、導電膜の表面平滑性の向上とのバランスに優れる。
【0057】
<水溶性ポリマー(D)>
水溶性ポリマー(D)は、前記導電性ポリマー(A)を除くポリマーである。
水溶性ポリマー(D)としては、界面活性能を発現しやすく、しかもレジスト層への影響を抑制したり、導電膜の表面平滑性を向上させたりしやすい観点から、分子内に含窒素官能基及び末端疎水性基を有することが好ましい。
含窒素官能基としては、溶解性の観点から、アミド基が好ましい。
【0058】
末端疎水性基の炭素数は、4以上が好ましく、8以上がより好ましい。
末端疎水性基としては、疎水性基内にアルキル鎖、アラルキル鎖、又はアリール鎖を含むものが好ましく、溶解性や界面活性能の観点から、炭素数4~100のアルキル鎖、炭素数4~100のアラルキル鎖、及び炭素数4~100のアリール鎖からなる群より選択される少なくとも1種を含むことが好ましい。これらアルキル鎖、アラルキル鎖及びアリール鎖の炭素数は、それぞれ4~70が好ましく、8~30がより好ましい。
このような末端疎水性基としては、具体的に、アルキル基、アラルキル基、アリール基、アルコキシ基、アラルキルオキシ基、アリールオキシ基、アルキルチオ基、アラルキルチオ基、アリールチオ基、一級又は二級のアルキルアミノ基、アラルキルアミノ基、アリールアミノ基等が挙げられる。これらの中でも、溶解性や界面活性能の観点から、アルキルチオ基、アラルキルチオ基、アリールチオ基が好ましく、アルキルチオ基が特に好ましい。
【0059】
水溶性ポリマー(D)としては、アミド結合を有するビニルモノマーのホモポリマー、又はアミド結合を有するビニルモノマーと、アミド結合を有さないビニルモノマー(その他のビニルモノマー)とのコポリマーを主鎖構造とし、かつ、ポリマーを構成する繰り返し単位以外の部位に疎水性基を有する化合物が好ましい。
【0060】
アミド結合を有するビニルモノマーとしては、アクリルアミド及びその誘導体、N-ビニルラクタム等が挙げられる。具体的には、アクリルアミド、N,N-ジメチルアクリルアミド、N-イソプロピルアクリルアミド、N,N-ジエチルアクリルアミド、N,N-ジメチルアミノプロピルアクリルアミド、t-ブチルアクリルアミド、ジアセトンアクリルアミド、N,N’-メチレンビスアクリルアミド、N-ビニル-N-メチルアクリルアミド、N-ビニルピロリドン、N-ビニルカプロラクタム等が挙げられる。これらの中でも、溶解性の観点から、アクリルアミド、N-ビニルピロリドン、N-ビニルカプロラクタム等が特に好ましい。
【0061】
水溶性ポリマー(D)の末端疎水性基の導入方法は、本発明の効果を有する限り特に限定されないが、ビニル重合時の連鎖移動剤を選択することにより導入する方法が、簡便で好ましい。
例えば、分子内に含窒素官能基及び炭素数4以上の末端疎水性基を有する水溶性ポリマー(D)は、アミド結合を有するビニルモノマーと必要に応じて他のビニルモノマーとを、重合開始剤及び炭素数4以上の連鎖移動剤の存在下で重合して製造することができる。
この場合、連鎖移動剤としては、上述の末端疎水性基を導入することのできるものであれば、本発明の効果を有する限り特に限定はされないが、好ましい末端疎水性基であるアルキルチオ基、アラルキルチオ基、アリールチオ基等を容易に得ることができる、チオール、ジスルフィド、チオエーテルなどを好ましく用いることができる。
【0062】
水溶性ポリマー(D)の主鎖構造部分の繰り返し単位、すなわち、上述のアミド結合を有するビニルモノマーの重合度は、前記水溶性ポリマー(D)の溶解性の観点から、2~100000が好ましく、2~1000がより好ましく、3~200が特に好ましい。
また、界面活性能の観点から、前記水溶性ポリマー(D)の、主鎖構造部分の分子量(以下、「水溶性部分の分子量」と言うこともある)と末端疎水性部分の分子量(以下、「疎水性部分の分子量」と言うこともある)の比、すなわち、(水溶性部分の分子量)/(疎水性部分の分子量)は、1~1500であることが好ましく、5~1000であることがより好ましい。ここで、「水溶性部分の分子量」、及び「疎水性部分の分子量」は、得られた水溶性ポリマー(D)の質量平均分子量と、主鎖構造部分を構成するモノマーと、末端疎水性部分を構成する連鎖移動剤の仕込み比から算出することができる。
【0063】
水溶性ポリマー(D)の質量平均分子量は、GPCのポリエチレングリコール換算で、100~100万が好ましく、100~10万がより好ましく、600以上2000未満がさらに好ましく、600~1800が特に好ましい。水溶性ポリマー(D)の質量平均分子量が上記下限値以上であれば、導電性組成物の塗布性の向上効果が発現しやくなる。一方、水溶性ポリマー(D)の質量平均分子量が上記上限値以下であれば、導電性組成物の水溶性が高まる。特に、水溶性ポリマー(D)の質量平均分子量が600以上2000未満であれば、実用的な水への溶解性と塗布性のバランスに優れる。
【0064】
水溶性ポリマー(D)としては、溶解性等の観点から、下記一般式(8)で表される化合物であることが好ましい。
【0065】
【0066】
式(8)中、R41、R42は、各々独立に、アルキルチオ基、アラルキルチオ基、アリールチオ基、又は炭化水素基を表す。また、R41、R42のうちの少なくとも一つは、アルキルチオ基、アラルキルチオ基、又はアリールチオ基である。mは2~100000の整数を表す。
炭化水素基としては、炭素数1~20の直鎖若しくは分岐鎖のアルキル基、炭素数1~20の直鎖若しくは分岐鎖のアルケニル基、炭素数1~20の直鎖若しくは分岐鎖のアルキニル基が挙げられる。
【0067】
水溶性ポリマー(D)の含有量は、導電性ポリマー(A)と塩基性化合物(B)と化合物(C)と水溶性ポリマー(D)の合計を100質量部としたときに、5~80質量部が好ましく、10~70質量部がより好ましく、10~65質量部がさらに好ましい。水溶性ポリマー(D)の含有量が上記範囲内であれば、導電性組成物のレジスト層への塗布性がより向上する。加えて、レジスト層の膜減りをより抑制しつつ、導電膜の表面平滑性をより向上できる。
【0068】
<溶剤(E)>
溶剤(E)としては、導電性ポリマー(A)、塩基性化合物(B)、化合物(C)及び水溶性ポリマー(D)を溶解することができる溶剤であれば、本発明の効果を有する限り特に限定はされないが、水、又は水と有機溶剤との混合溶剤が挙げられる。
有機溶剤としては、例えば、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、プロピルアルコール、ブタノール等のアルコール類、アセトン、エチルイソブチルケトン等のケトン類、エチレングリコール、エチレングリコールメチルエーテル等のエチレングリコール類、プロピレングリコール、プロピレングリコールメチルエーテル、プロピレングリコールエチルエーテル、プロピレングリコールブチルエーテル、プロピレングリコールプロピルエーテル等のプロピレングリコール類、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド等のアミド類、N-メチルピロリドン、N-エチルピロリドン等のピロリドン類などが挙げられる。
溶剤(E)として、水と有機溶剤との混合溶剤を用いる場合、これらの質量比(水/有機溶剤)は1/100~100/1であることが好ましく、2/100~100/2であることがより好ましい。
【0069】
<高分子化合物(F)>
本発明の第一の態様の導電性組成物は、塗膜強度や表面平滑性をより向上させる目的で、必要に応じて、高分子化合物(F)を含んでもよい。
高分子化合物(F)としては、具体的には、ポリビニールホルマール、ポリビニールブチラール等のポリビニルアルコール誘導体類、ポリアクリルアミド、ポリ(N-t-ブチルアクリルアミド)、ポリアクリルアミドメチルプロパンスルホン酸等のポリアクリルアミド類、ポリビニルピロリドン、ポリアクリル酸類、水溶性アルキド樹脂、水溶性メラミン樹脂、水溶性尿素樹脂、水溶性フェノール樹脂、水溶性エポキシ樹脂、水溶性ポリブタジエン樹脂、水溶性アクリル樹脂、水溶性ウレタン樹脂、水溶性アクリルスチレン共重合体樹脂、水溶性酢酸ビニルアクリル共重合体樹脂、水溶性ポリエステル樹脂、水溶性スチレンマレイン酸共重合樹脂、水溶性フッ素樹脂及びこれらの共重合体が挙げられる。
【0070】
<任意成分>
さらに、本発明の第一の態様の導電性組成物は、必要に応じて、顔料、消泡剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、耐熱性向上剤、レベリング剤、たれ防止剤、艶消し剤、防腐剤等の各種添加剤を含んでもよい。
【0071】
<製造方法>
本発明の第一の態様の導電性組成物は、例えば、導電性ポリマー(A)の溶液に、塩基性化合物(B)と、必要に応じて、化合物(C)、水溶性ポリマー(D)、高分子化合物(F)及び任意成分のいずれか1つ以上とを混合することで得られる。通常は導電性ポリマー(A)の溶液を室温に保持し、攪拌しながら塩基性化合物(B)等を加えるのが好ましい。また、必要に応じて、溶剤(E)でさらに希釈してもよい。
なお、本発明において「室温」とは25℃のことである。
【0072】
<作用効果>
上述したように、レジスト層の上に導電膜を形成した際に、モノマーや酸化剤の分解物である硫酸塩等の酸性物質が導電膜からレジスト層側へ移行すると、レジストがポジ型の場合にはパターンの細り、膜減りや高感度側への感度変動が起こりやすかった。また、レジストがネガ型の場合には逆にパターン形状の変化や低感度側への感度変動が起こりやすかった。
また、導電膜形成時の加熱によって前記導電性ポリマー(A)から脱離した酸性基が、レジスト側へ移行する恐れもある。
【0073】
しかし、本発明の第一の態様の導電性組成物によれば、上述した導電性ポリマー(A)と、塩基性化合物(B)とを含むので、塩基性化合物(B)がモノマーや硫酸塩と作用し、安定な塩を形成しやすくなる。その結果、導電膜からレジスト層への酸性物質の移行が抑制される。
加えて、塩基性化合物(B)が導電性ポリマー(A)中の酸性基へ効率良く作用し、導電性ポリマー(A)の安定性を高めることが可能になると考えられる。ここで、導電性ポリマー(A)中の酸性基に効率よく作用するとは、高沸点、強塩基性により安定した中和が可能となることを意味する。その結果、導電膜中で導電性ポリマー(A)に含まれる酸性基が不安定化することによる酸性物質の発生が抑制され、導電膜からレジスト層への酸性物質の移行が抑制される。
よって、特に化学増幅型レジストを用いた荷電粒子線によるパターン形成法においては、酸性物質の導電膜からレジスト層側への移行が抑制され、レジスト層の膜減り等の影響を抑制できる。
【0074】
さらに、塩基性化合物(B)を用いれば、表面平滑性及び導電性に優れた導電膜を形成できる。
特に、導電性組成物が上述した化合物(C)をさらに含んでいれば、導電膜の導電性がより向上する。
また、上述した水溶性ポリマー(D)は、酸、塩基を含まず、加水分解により生じる副生成物も生じにくいことから、レジスト層へ悪影響を与えることなく、導電性組成物の塗布性を向上させることができる。よって、導電性組成物が水溶性ポリマー(D)をさらに含んでいれば、レジスト層の膜減り等の影響をより抑制できる。加えて、導電膜の表面平滑性がより向上する。
【0075】
本発明の第一の態様の導電性組成物は、導電体形成後、加熱することで、不溶性、又は剥離可能な可溶性の塗膜(導電膜)を有する導電体を形成することが可能である。
これにより、永久帯電防止膜、及びプロセス上の一時的帯電防止膜の両面での適用が可能となるという利点を有する。
【0076】
[導電膜]
本発明の第二の態様の導電膜は、上述した本発明の第一の態様の導電性組成物より形成される。
以下、導電膜の製造方法の一例について説明する。
本実施形態の導電膜の製造方法は、基材上に本発明の第一の態様の導電性組成物を塗布し、乾燥して塗膜を形成する工程(塗膜形成工程)と、乾燥後の塗膜を加熱処理する工程(加熱工程)とを有する。
【0077】
(塗膜形成工程)
塗膜形成工程は、基材上に本発明の第一の態様の導電性組成物を塗布し、乾燥して塗膜を形成する工程である。
基材としては、本発明の効果を有する限り特に限定されないが、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)等のポリエステル樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレンに代表されるポリオレフィン樹脂、塩化ビニル、ナイロン、ポリスチレン、ポリカーボネート、エポキシ樹脂、フッ素樹脂、ポリスルホン、ポリイミド、ポリウレタン、フェノール樹脂、シリコン樹脂、合成紙等の各種高分子化合物の成型品、及びフィルム、紙、鉄、ガラス、石英ガラス、各種ウエハ、アルミニウム、銅、亜鉛、ニッケル、ステンレス鋼等、及びこれらの基材表面に各種塗料や感光性樹脂、レジスト等がコーティングされているものなどを例示することができる。
基材の形状は特に限定されず、板状であってもよいし、板状以外の形状であってもよい。
【0078】
導電性組成物は、乾燥後の塗膜の膜厚が5~30nmとなるように基材上へ塗布することが好ましい。
導電性組成物の基材への塗布方法としては、本発明の効果を有する限り特に限定はされないが、スピンコート法、スプレーコート法、ディップコート法、ロールコート法、グラビアコート法、リバースコート法、ロールブラッシュ法、エアーナイフコート法、カーテンコート法等の手法が挙げられる。
【0079】
前記基材に導電性組成物を塗布する工程は、これら基材の製造工程、例えば一軸延伸法、二軸延伸法、成形加工、又はエンボス加工等の工程前、又は工程中に行ってもよく、これら処理工程が完了した基材に対して行うこともできる。
また、上記基材上に各種塗料や、感光性材料をコーティングした物に、導電性組成物を重ね塗りして塗膜を形成することも可能である。
【0080】
(加熱工程)
加熱工程は、乾燥後の塗膜を加熱処理する工程である。
加熱温度としては、導電性の観点から、40℃~250℃の温度範囲であることが好ましく、60℃~200℃の温度範囲であることがより好ましい。また、処理時間は、安定性の観点から、1時間以内であることが好ましく、30分以内であることがより好ましい。
【0081】
なお、加熱工程の代わりに、塗膜を常温(25℃)で1分間~60分間放置する処理(放置工程)を行ってもよい。
【0082】
[導電体]
本発明の第三の態様の導電体は、基材と、前記基材の少なくとも一部に、本発明の第一の態様の導電性組成物を塗布することにより形成された導電膜とを含むものである。すなわち、導電体に含まれる導電膜は、本発明の第二の態様の導電膜である。
基材としては、本発明の第二の態様の導電膜の説明において先に例示した基材が挙げられる。
【0083】
基材が板状の場合、導電膜は基材の一方の面上の全面に設けられていてもよいし、基材の一方の面上の一部に設けられていてもよい。また、導電膜は基材の他方の面上の少なくとも一部にも設けられていてもよい。さらに、基材の側面の少なくとも一部に導電膜が設けられていてもよい。
基材が板状以外の形状の場合、導電膜は基材の表面の全面に設けられていてもよいし、基材の表面の一部に設けられていてもよい。
【0084】
導電体は、基材上に導電膜を形成することで得られる。具体的な製造方法は、本発明の第二の態様の導電膜を製造する方法と同様である。すなわち、導電体は、前記塗膜形成工程と加熱工程とを経て製造される。加熱工程の代わりに、前記放置工程を行ってもよい。
【0085】
[積層体]
本発明の第四の態様の積層体は、基材と、前記基材の少なくとも1つの面上に形成された電子線用レジスト層(以下、単に「レジスト層」ともいう。)と、前記電子線用レジスト層上に形成された導電膜とを含む。
基材としては、本発明の第二の態様の導電膜の説明において先に例示した基材が挙げられる。
導電膜は、本発明の第二の態様の導電膜である。
【0086】
レジスト層としては、ポジ型又はネガ型の化学増幅型レジストからなる層が挙げられる。
ポジ型の化学増幅型レジストとしては、電子線に感度を有するものであれば特に限定されず、公知のものを使用できる。典型的には、電子線の照射により酸を発生する酸発生剤と、酸分解性基を有する構成単位を含む重合体とを含有するものが用いられる。
【0087】
ネガ型の化学増幅型レジストとしては、電子線に感度を有するものであれば特に限定されず、公知のものを使用できる。典型的には、電子線の照射により酸を発生する酸発生剤と、現像液に可溶性の重合体と、架橋剤とを含有するものが用いられる。
【0088】
積層体は、基材上にレジスト層及び導電膜をこの順で形成することで得られる。
レジスト層は、公知の方法により形成できる。例えば基材の片面上にポジ型又はネガ型の化学増幅型レジストの有機溶剤溶液を塗布し、必要に応じて加熱(プリベーク)を行うことにより、ポジ型又はネガ型のレジスト層を形成する。
導電膜は、レジスト層の表面に本発明の第一の態様の導電性組成物を塗布し、乾燥して塗膜を形成した後、乾燥後の塗膜を加熱処理することで形成される。具体的な製造方法は、本発明の第二の態様の導電膜を製造する方法と同様である。加熱処理の工程の代わりに、前記放置工程を行ってもよい。
【0089】
本発明のその他の態様としては、以下の通りである。
<1> 酸性基を有する導電性ポリマー(A)と、分子内に環状アミド及びアミノ基を有する塩基性化合物(B)とを含み、分子内に2つ以上の窒素原子を含む含窒素複素環式化合物(C)を任意に含む、導電性組成物。
<2> 前記環状アミドがラクタムである、<1>の導電性組成物。
<3> 前記塩基性化合物(B)が前記一般式(1)で表される化合物である、<1>又は<2>の導電性組成物。
<4> 前記一般式(1)で表される化合物が、1-(3-アミノプロピル)-2-ピロリドン又はN-(3-アミノプロピル)-ε-カプロラクタムである、<3>の導電性組成物。
<5> 前記塩基性化合物(B)と前記含窒素複素環式化合物(C)との質量比が、前記塩基性化合物(B):前記含窒素複素環式化合物(C)=0.5:99.5~100:0である、<1>~<4>のいずれかの導電性組成物。
<6> 前記塩基性化合物(B)と前記含窒素複素環式化合物(C)との質量比が、前記塩基性化合物(B):前記含窒素複素環式化合物(C)=5:95~100:0である、<5>の導電性組成物。
<7> 前記塩基性化合物(B)と前記含窒素複素環式化合物(C)との質量比が、前記塩基性化合物(B):前記含窒素複素環式化合物(C)=60:40~100:0である、<6>の導電性組成物。
<8> 前記塩基性化合物(B)と前記含窒素複素環式化合物(C)との質量比が、前記塩基性化合物(B):前記含窒素複素環式化合物(C)=0.5:99.5~99.5:0.5である、<1>~<4>のいずれかの導電性組成物。
<9> 前記塩基性化合物(B)と前記含窒素複素環式化合物(C)との質量比が、前記塩基性化合物(B):前記含窒素複素環式化合物(C)=5:95~99.5:0.5である、<8>の導電性組成物。
<10> 前記塩基性化合物(B)と前記含窒素複素環式化合物(C)との質量比が、前記塩基性化合物(B):前記含窒素複素環式化合物(C)=60:40~99.5:0.5である、<9>の導電性組成物。
<11> 水溶性ポリマー(D)(ただし、前記導電性ポリマー(A)を除く。)をさらに含む、<1>~<10>のいずれかの導電性組成物。
<12> 前記水溶性ポリマー(D)が前記一般式(8)で表される化合物である、<11>の導電性組成物。
<13> 前記水溶性ポリマー(D)の含有量が、前記導電性ポリマー(A)と前記塩基性化合物(B)と前記含窒素複素環式化合物(C)と前記水溶性ポリマー(D)の合計を100質量部としたときに、5~80質量部である、<11>又は<12>の導電性組成物。
<14> 前記水溶性ポリマー(D)の含有量が、前記導電性ポリマー(A)と前記塩基性化合物(B)と前記含窒素複素環式化合物(C)と前記水溶性ポリマー(D)の合計を100質量部としたときに、10~65質量部である、<13>の導電性組成物。
<15> 前記導電性ポリマー(A)が前記一般式(6)で表されるモノマーユニットを有する、<1>~<14>のいずれかの導電性組成物。
<16> 前記導電性ポリマー(A)の含有量が、前記導電性ポリマー(A)と前記塩基性化合物(B)と前記含窒素複素環式化合物(C)と前記水溶性ポリマー(D)の合計を100質量部としたときに、5~90質量部である、<1>~<15>のいずれかの導電性組成物。
<17> 前記導電性ポリマー(A)の含有量が、前記導電性ポリマー(A)と前記塩基性化合物(B)と前記含窒素複素環式化合物(C)と前記水溶性ポリマー(D)の合計を100質量部としたときに、20~75質量部である、<16>の導電性組成物。
<18> 前記塩基性化合物(B)の含有量が、前記導電性ポリマー(A)と前記塩基性化合物(B)と前記含窒素複素環式化合物(C)と前記水溶性ポリマー(D)の合計を100質量部としたときに、1~70質量部である、<1>~<17>のいずれかの導電性組成物。
<19> 前記塩基性化合物(B)の含有量が、前記導電性ポリマー(A)と前記塩基性化合物(B)と前記含窒素複素環式化合物(C)と前記水溶性ポリマー(D)の合計を100質量部としたときに、5~35質量部である、<18>の導電性組成物。
<20> 前記含窒素複素環式化合物(C)が、4-ジメチルアミノピリジン、4-ジメチルアミノメチルピリジン、1,5-ジアザビシクロ[4.3.0]-5-ノネン、1,8-ジアザビシクロ[5.4.0]-7-ウンデセンからなる群より選ばれる1種以上である、<1>~<19>のいずれかの導電性組成物。
<21> 前記含窒素複素環式化合物(C)の含有量が、前記導電性ポリマー(A)と前記塩基性化合物(B)と前記含窒素複素環式化合物(C)と前記水溶性ポリマー(D)の合計を100質量部としたときに、1~65質量部である、<1>~<20>のいずれかの導電性組成物。
<22> 前記含窒素複素環式化合物(C)の含有量が、前記導電性ポリマー(A)と前記塩基性化合物(B)と前記含窒素複素環式化合物(C)と前記水溶性ポリマー(D)の合計を100質量部としたときに、1~10質量部である、<21>の導電性組成物。
<23> 溶剤(E)をさらに含む、<1>~<22>のいずれかの導電性組成物。
<24> 前記溶剤(E)が、水、又は水と有機溶剤との混合溶剤である、<23>の導電性組成物。
<25> 前記有機溶剤が、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、プロピルアルコール、ブタノールからなる群より選ばれる1種以上である、<24>の導電性組成物。
<26> 荷電粒子線描画時の帯電防止用である、<1>~<25>のいずれかの導電性組成物。
<27> <1>~<26>のいずれかの導電性組成物より形成された、導電膜。
<28> 基材と、前記基材の少なくとも一部に形成された<27>の導電膜とを含む、導電体。
<29> 基材と、前記基材の少なくとも1つの面上に形成された電子線用レジスト層と、前記電子線用レジスト層上に形成された<27>の導電膜とを含む、積層体。
【実施例】
【0090】
以下、本発明を実施例により更に詳しく説明するが、以下の実施例は本発明の範囲を限定するものではない。
なお、実施例及び比較例における各種測定・評価方法は以下の通りである。
【0091】
[測定・評価方法]
<導電性の評価>
基材として4インチシリコンウエハー上に導電性組成物を1.3mL滴下し、基材表面全体を覆うように、スピンコーターにて2000rpm×60秒間の条件で回転塗布した後、ホットプレートにて80℃で2分間加熱処理を行い、基材上に膜厚約20nmの導電膜を形成して導電体を得た。
ハイレスタUX-MCP-HT800(株式会社三菱ケミカルアナリテック製)を用い2端子法(電極間距離20mm)にて、導電膜の表面抵抗値[Ω/□]を測定した。
【0092】
<表面平滑性の評価>
導電性の評価と同様にして導電体を作製した。
触針式段差計(Stylus profiler P-16+,KLA-Tencor社製)を用い、下記の測定条件にて、導電膜の算術平均粗さ(Ra)[nm]を測定した。
(測定条件)
・Stylus:2μm R60°
・針圧:0.03mg
・走査範囲:500um
・走査速度:2um/s
【0093】
<膜減り試験による評価>
(膜減り量の測定)
化学増幅型電子線レジスト(例えば、市販されている富士フイルムエレクトロニクスマテリアルズ株式会社製のポジ型レジスト「FEP-171」等が挙げられる。以下、「レジスト」と略す。)を使用し、レジスト層の膜減り量を以下の手順(1A)~(8A)で測定した。
(1A)レジスト層の形成:基材として4インチシリコンウエハー上に化学増幅型レジスト0.2μmをスピンコーターにて2000rpm×60秒間の条件で回転塗布した後、ホットプレートにて130℃で90秒間プリベークを行い、溶剤を除去し、基材上にレジスト層を形成した。
(2A)レジスト層の膜厚測定1:基材上に形成されたレジスト層の一部を剥離し、基材面を基準位置として、触針式段差計(Stylus profiler P-16+, KLA-Tencor Corporation製)を用い、初期のレジスト層の膜厚a[nm]を測定した。
(3A)導電膜の形成:レジスト層上に導電性組成物2mLを滴下し、レジスト層の表面全体を覆うように、スピンコーターにて2000rpm×60秒間の条件で回転塗布した後、ホットプレートにて80℃で2分間加熱処理を行い、基材上に膜厚約30nmの導電膜を形成した。
(4A)ベーク処理:導電膜とレジスト層が積層した基材を空気雰囲気下、ホットプレ-トにて120℃×20分加熱し、この状態の基材を空気中、常温(25℃)で90秒静置した。
(5A)水洗:導電膜を20mLの水で洗い流した後、スピンコーターにて2000rpm×60秒間で回転させ、レジスト層の表面の水を除去した。
(6A)現像:2.38質量%テトラメチルアンモニウムハドロオキサイド(TMAH)水溶液からなる現像液20mLをレジスト層の表面に滴下した。60秒静置した後、スピンコーターにて2000rpm×60秒間で回転させ、レジスト層の表面の現像液を除去し、引き続き60秒間回転を維持して乾燥した。
(7A)レジスト層の膜厚測定2:前記(2A)においてレジスト層を一部剥離した部分から5mm以内におけるレジスト層の一部を剥離した後、触針式段差計を用いて現像後のレジスト層の膜厚b[nm]を測定した。
(8A)膜減り量の算出:上記膜厚aの値から膜厚bの値を差し引いて、レジスト層の膜減り量c[nm](c=a-b)を算出した。
【0094】
(基準膜減り量の測定)
レジスト層は、レジスト層形成後の保管期間によって個々のレジストに特有の膜減り量(以下、「基準膜減り量」という。)d[nm]が存在する。導電膜に起因しないこの基準膜減り量dを以下の手順(1B)~(6B)で測定した。
(1B)レジスト層の形成:前記(1A)と同様にして、基材上にレジスト層を形成した。
(2B)レジスト層の膜厚測定1:前記(2A)と同様にして、初期のレジスト層の膜厚a[nm]を測定した。
(3B)ベーク処理:レジスト層が積層した基材を用いた以外は、前記(4A)と同様にしてベーク処理した。
(4B)現像:前記(6A)と同様にして、現像を行った。
(5B)レジスト層の膜厚測定2:前記(2B)においてレジスト層を剥離した部分から5mm以内におけるレジスト層の一部を剥離した後、触針式段差計を用いて現像後のレジスト層の膜厚e[nm]を測定した。
(6B)膜減り量の算出:上記膜厚aの値から膜厚eの値を差し引いて、レジスト層の基準膜減り量d(d=a-e)を算出した。
なお、レジスト層の基準膜減り量dは、3nmであった。
【0095】
(酸性物質が原因となるレジスト層の膜減り量の算出)
上記レジスト層の膜減り量cの値からレジスト層の基準膜減り量dの値を差し引いて、導電膜からレジスト層へ移行した酸性物質が原因となるレジスト層の膜減り量f[nm](f=c-d)を算出した。
【0096】
[導電性ポリマー(A)の製造]
(製造例1:導電性ポリマー(A-1)の製造)
3-アミノアニソール-4-スルホン酸1molを、4mol/L濃度のピリジン溶液(溶媒:水/アセトニトリル=3/7(質量比))300mLに0℃で溶解し、モノマー溶液を得た。
別途、ペルオキソ二硫酸アンモニウム1molを、水/アセトニトリル=3/7(質量比)の溶液1Lに溶解し、酸化剤溶液を得た。
ついで、酸化剤溶液を5℃に冷却しながら、モノマー溶液を滴下した。滴下終了後、25℃で12時間さらに攪拌して、導電性ポリマーを得た。その後、得られた導電性ポリマーを含む反応混合物を遠心濾過器にて濾別した。さらに、メタノールにて洗浄した後乾燥させ、粉末状の導電性ポリマー(A-1)を185g得た。
【0097】
(製造例2:導電性ポリマー溶液(A1-1)の製造)
製造例1で得られた導電性ポリマー(A-1)23gを、純水980gに溶解させ、固形分濃度2質量%の導電性ポリマー溶液(A-1-1)を1000g得た。
超純水により洗浄した陽イオン交換樹脂(オルガノ株式会社製、「アンバーライトIR-120B」)500mLをカラムに充填した。
このカラムに、導電性ポリマー溶液(A-1-1)1000gを、50mL/分(SV=6)の速度で通過させて、塩基性物質等が除去された導電性ポリマー溶液(A1-1-1)を900g得た。
次に、超純水により洗浄した陰イオン交換樹脂(オルガノ株式会社製、「アンバーライトIRA410」)500mLをカラムに充填した。
このカラムに、導電性ポリマー溶液(A1-1-1)900gを、50mL/分(SV=6)の速度で通過させて、塩基性物質等が除去された導電性ポリマー溶液(A1-1)を800g得た。
この導電性ポリマー溶液(A1-1)についてイオンクロマトグラフィにより組成分析を行なったところ、残存モノマーは80質量%、硫酸イオンは99質量%、塩基性物質(ピリジン)は99質量%以上除去されていた。また、加熱残分を測定した結果、2.0質量%であった。すなわち、導電性ポリマー溶液(A1-1)の固形分濃度は2.0質量%である。
なお、1スベルドラップ(SV)は1×10
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m3/s(1GL/s)と定義される。
【0098】
[水溶性ポリマー(D)の製造]
(製造例3:水溶性ポリマー(D-1)の製造)
含窒素官能基を含むビニルモノマーとして、N-ビニルピロリドン55g、重合開始剤として、アゾビスイソブチロニトリル3g、末端疎水性基導入のための連鎖移動剤として、n-ドデシルメルカプタン1gを、溶剤であるイソプロピルアルコール100mLに攪拌溶解して反応溶液を得た。その後、予め80℃に加熱しておいたイソプロピルアルコール100mL中に、前記反応溶液を1mL/minの滴下速度で滴下し、滴下重合を行った。滴下重合は、イソプロピルアルコールの温度を80℃に保ちながら行われた。滴下終了後、80℃で更に2時間熟成した後、放冷した。その後、減圧濃縮を行い、得られた反応物を乾固させた。乾固した重合物5.3質量部を95質量部の水に溶解し、5℃で24時間冷却した後に、30nmのポリエチレンフィルターにて濾過し、5.0質量%の水溶性ポリマー溶液(D-1)を得た。
【0099】
[実施例1]
導電性ポリマー溶液(A1-1)を25質量部(固形分換算で0.5質量部)と、塩基性化合物(B)として1-(3-アミノプロピル)-2-ピロリドン0.21質量部と、水70.79質量部と、イソプロピルアルコール(IPA)4質量部とを混合し、導電性組成物を調製した。
得られた導電性組成物について、導電性及び表面平滑性を評価し、膜減り試験を行った。これらの結果を表1に示す。
【0100】
[実施例2~8]
表1に示す配合組成となるように、各成分を混合し、導電性組成物を調製した。
得られた導電性組成物について、導電性及び表面平滑性を評価し、膜減り試験を行った。これらの結果を表1に示す。
【0101】
[比較例1、2]
塩基性化合物(B)の代わりに、他の塩基性化合物として表2に示す量の水酸化テトラブチルアンモニウム(TBAH)を用いた以外は、実施例1と同様にして導電性組成物を調製し、各種評価を行った。結果を表2に示す。
【0102】
【0103】
【0104】
表1中、「(A)/((A)+(B)+(C)+(D))」は、導電性ポリマー(A)と塩基性化合物(B)と化合物(C)と水溶性ポリマー(D)の合計を100質量部としたときの導電性ポリマー(A)の含有量(質量部)である。塩基性化合物(B)、化合物(C)及び水溶性ポリマー(D)の含有量についても同様である。「(B):(C)」は、塩基性化合物(B)と化合物(C)の質量比(塩基性化合物(B):化合物(C))である。
表2中、「(A)/((A)+(B)+(C)+(D)+TBAH)」は、導電性ポリマー(A)と塩基性化合物(B)と化合物(C)と水溶性ポリマー(D)とTBAHの合計を100質量部としたときの導電性ポリマー(A)の含有量(質量部)である。塩基性化合物(B)、化合物(C)、水溶性ポリマー(D)及びTBAHの含有量についても同様である。「(B):(C)」は、塩基性化合物(B)と化合物(C)の質量比(塩基性化合物(B):化合物(C))である。
【0105】
また、表1、2中の略号は以下の通りである。
・B-1:1-(3-アミノプロピル)-2-ピロリドン
・B-2:N-(3-アミノプロピル)-ε-カプロラクタム
・C-1:1,5-ジアザビシクロ[4.3.0]-5-ノネン(DBN)
・TBAH:水酸化テトラブチルアンモニウム
・IPA:イソプロピルアルコール
【0106】
表1から明らかなように、各実施例で得られた導電性組成物は、レジスト層の膜減りが少なく、かつ表面平滑性及び導電性に優れた導電膜を形成できた。
一方、表2から明らかなように、比較例1、2で得られた導電性組成物より形成された導電膜は、各実施例に比べて表面平滑性及び導電性に劣っていた。
【産業上の利用可能性】
【0107】
本発明の導電性組成物は、次世代プロセスの半導体デバイスにも適用可能な帯電防止剤として有用である。