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特許7136358発光装置のリッド材およびリッド材の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-05
(45)【発行日】2022-09-13
(54)【発明の名称】発光装置のリッド材およびリッド材の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 33/48 20100101AFI20220906BHJP
   H01L 23/02 20060101ALI20220906BHJP
【FI】
H01L33/48
H01L23/02 J
H01L23/02 F
H01L23/02 C
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2021533904
(86)(22)【出願日】2020-07-02
(86)【国際出願番号】 JP2020026073
(87)【国際公開番号】W WO2021014925
(87)【国際公開日】2021-01-28
【審査請求日】2021-09-24
(31)【優先権主張番号】P 2019136739
(32)【優先日】2019-07-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2019214000
(32)【優先日】2019-11-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000149734
【氏名又は名称】株式会社大真空
(74)【代理人】
【識別番号】110000947
【氏名又は名称】特許業務法人あーく特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】村上 達也
(72)【発明者】
【氏名】辻原 利治
【審査官】村井 友和
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-093137(JP,A)
【文献】特開2011-040577(JP,A)
【文献】特開2015-018873(JP,A)
【文献】特開2002-353352(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 33/48
H01L 23/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
LEDをパッケージ内に封止してなる発光装置に用いられるリッド材であって、
前記LEDの照射光に対して透過性を有するリッド本体と、
前記リッド本体の封止面に形成される下地膜とを含み、
前記下地膜は、前記リッド本体の上に直接形成される第1層と、前記第1層の上に形成される第2層とを含んでおり、
前記第1層は、膜厚20~700nmのTi膜を含む構造を有し、
前記第2層は、前記第1層に近い側から順に積層されたNi合金膜およびAu膜を含む積層構造を有していることを特徴とするリッド材。
【請求項2】
請求項1に記載のリッド材であって、
前記第1層に含まれる前記Ti膜は、膜厚200~300nmのTi膜であることを特徴とするリッド材。
【請求項3】
請求項1または2に記載のリッド材であって、
前記第1層は、表面に酸化チタンからなる酸化皮膜を有していることを特徴とするリッド材。
【請求項4】
請求項1から3の何れか1項に記載のリッド材であって、
前記第1層は、前記Ti膜の上に、前記Ti膜に近い側から順に積層されたAu膜および他のTi膜からなる緩衝膜を有していることを特徴とするリッド材。
【請求項5】
請求項1から4の何れか1項に記載のリッド材であって、
前記下地膜は、最下層の膜を除く任意の膜において、前記任意の膜を含む上層部分で引き下がり構造を有しており、
前記引き下がり構造では、前記引き下がり構造に含まれる膜の内周縁がその他の膜の内周縁よりも外側に引き下げられ、前記引き下がり構造に含まれる膜の外周縁がその他の膜の外周縁よりも内側に引き下げられていることを特徴とするリッド材。
【請求項6】
請求項5に記載のリッド材であって、
前記引き下がり構造における内周縁側の引き下がり幅が外周縁側の引き下がり幅よりも小さくされていることを特徴とするリッド材。
【請求項7】
請求項5または6に記載のリッド材であって、
前記引き下がり構造における内周縁側の引き下がり幅が25μm以上であることを特徴とするリッド材。
【請求項8】
請求項1から7の何れか1項に記載のリッド材であって、
前記リッド本体が水晶であることを特徴とするリッド材。
【請求項9】
LEDをパッケージ内に封止してなる発光装置に用いられるリッド材の製造方法であって、
前記LEDの照射光に対して透過性を有するリッド本体の封止面に下地膜を形成する工程として、
前記リッド本体の封止面に膜厚20~700nmのTi膜を含む第1層を形成する第1工程と、
前記第1工程で形成された前記第1層の最上層にあるTi膜を酸化させて、表面に酸化チタンからなる酸化皮膜を形成する第2工程と、
前記第2工程後の前記第1層の上に、前記第1層に近い側から順に積層されるNi合金膜およびAu膜を含む第2層を形成する第3工程とを有することを特徴とするリッド材の製造方法。
【請求項10】
請求項9に記載のリッド材の製造方法であって、
前記第1工程で形成される前記Ti膜は、200~300nmの膜厚を有することを特徴とするリッド材の製造方法。
【請求項11】
請求項9または10に記載のリッド材の製造方法であって、
前記第1工程では、前記Ti膜の上に、前記Ti膜に近い側から順に積層されるAu膜および他のTi膜からなる緩衝膜を形成することを特徴とするリッド材の製造方法。
【請求項12】
請求項9から11の何れか1項に記載のリッド材の製造方法であって、
前記下地膜は、最下層の膜を除く任意の膜において、前記任意の膜を含む上層部分で引き下がり構造を有しており、
前記引き下がり構造では、前記引き下がり構造に含まれる膜の内周縁がその他の膜の内周縁よりも外側に引き下げられ、前記引き下がり構造に含まれる膜の外周縁がその他の膜の外周縁よりも内側に引き下げられて形成されることを特徴とするリッド材の製造方法。
【請求項13】
請求項9から12の何れか1項に記載のリッド材の製造方法であって、
前記リッド本体が水晶であることを特徴とするリッド材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、LED(Light Emitting Diode)を備えた発光装置に使用されるリッド材およびリッド材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
LEDを用いる発光装置においては、LEDをパッケージの内部に封止して信頼性を高めた構造が一般的に知られている。具体的な構造例としては、LEDをパッケージ基台(例えばセラミックパッケージ)のキャビティ内に格納し、パッケージ基台のキャビティ開口をリッドによって封止する構造が挙げられる。
【0003】
このような構造では、リッドはLEDの照射光に対して透過性を有する必要がある。LEDが深紫外線を照射する深紫外用LEDである場合、従来、リッドには石英ガラスの使用が好適とされていた(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第6294417号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、リッドに石英ガラスを用いた場合、発光装置における素子製造工程で工数が多くなる場合がある。このような場合、リッドに水晶を使用することで工数削減できるメリットがある。
【0006】
セラミックパッケージを水晶リッドで封止するには、Au-Sn合金がろう材として用いられる。水晶はAu-Sn合金との密着性が低いため、密着性を高めるための下地膜が必要となる。尚、このような下地膜は、リッドに石英ガラスを用いる場合にも必要である。このため、セラミックパッケージをリッドで封止するときには、リッドにおけるパッケージとの接合面に予め下地膜を形成したリッド材(リッドおよび下地膜)が用いられることが一般的である。
【0007】
しかしながら、水晶リッドを用いたリッド材では、下地膜の形成条件によってはリッド剥離や気密不良などの問題が生じることが本願発明者により発見された。すなわち、リッドに石英ガラスを用いる場合と同様の条件で下地膜を形成すると、著しく密着性が低く、大幅な条件変更が必要であった。
【0008】
また、リッドに石英ガラスを用いる場合においても、Au-Sn合金との密着性をより高めることができれば、発光装置の信頼性が向上することは言うまでもない。リッドに石英ガラスを用いる従来技術では、Au-Sn合金との密着性を得るための下地膜としてCr(クロム)膜を用いることが一般的であったが、この場合は下地膜へのAu-Sn合金の拡散が生じ易く、膜剥がれや密着性の観点からも改善の余地は十分にあった。
【0009】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、LEDをパッケージの内部に配置し、リッド材で封止する発光装置において、リッド剥離や気密不良を生じさせない好適な下地膜を有するリッド材およびリッド材の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の課題を解決するために、本発明の第1の態様であるリッド材は、LEDをパッケージ内に封止してなる発光装置に用いられるリッド材であって、前記LEDの照射光に対して透過性を有するリッド本体と、前記リッド本体の封止面に形成される下地膜とを含み、前記下地膜は、前記リッド本体の上に直接形成される第1層と、前記第1層の上に形成される第2層とを含んでおり、前記第1層は、膜厚20~700nmのTi膜を含む構造を有し、前記第2層は、前記第1層に近い側から順に積層されたNi合金膜およびAu膜を含む積層構造を有していることを特徴としている。
【0011】
上記の構成によれば、LEDをパッケージの内部に配置し、リッド材で封止する発光装置において、リッド剥離や気密不良を生じさせない好適な下地膜を有するリッド材を得ることができる。
【0012】
また、上記リッド材では、前記第1層に含まれる前記Ti膜は、膜厚200~300nmのTi膜である構成とすることができる。
【0013】
また、上記リッド材では、前記第1層は、表面に酸化チタンからなる酸化皮膜を有している構成とすることができる。
【0014】
また、上記リッド材では、前記第1層は、前記Ti膜の上に、前記Ti膜に近い側から順に積層されたAu膜および他のTi膜からなる緩衝膜を有している構成とすることができる。
【0015】
また、上記リッド材では、前記下地膜は、最下層の膜を除く任意の膜において、前記任意の膜を含む上層部分で引き下がり構造を有しており、前記引き下がり構造では、前記引き下がり構造に含まれる膜の内周縁がその他の膜の内周縁よりも外側に引き下げられ、前記引き下がり構造に含まれる膜の外周縁がその他の膜の外周縁よりも内側に引き下げられている構成とすることができる。
【0016】
また、上記リッド材では、前記引き下がり構造における内周縁側の引き下がり幅が外周縁側の引き下がり幅よりも小さくされている構成とすることができる。
【0017】
また、上記リッド材では、前記引き下がり構造における内周縁側の引き下がり幅が25μm以上である構成とすることができる。
【0018】
また、上記リッド材は、前記リッド本体が水晶である構成とすることができる。
【0019】
また、上記の課題を解決するために、本発明の第2の態様であるリッド材の製造方法は、LEDをパッケージ内に封止してなる発光装置に用いられるリッド材の製造方法であって、前記LEDの照射光に対して透過性を有するリッド本体の封止面に下地膜を形成する工程として、前記リッド本体の封止面に膜厚20~700nmのTi膜を含む第1層を形成する第1工程と、前記第1工程で形成された前記第1層の最上層にあるTi膜を酸化させて、表面に酸化チタンからなる酸化皮膜を形成する第2工程と、前記第2工程後の前記第1層の上に、前記第1層に近い側から順に積層されるNi合金膜およびAu膜を含む第2層を形成する第3工程とを有することを特徴としている。
【0020】
また、上記リッド材の製造方法では、前記第1工程で形成される前記Ti膜は、200~300nmの膜厚を有する構成とすることができる。
【0021】
また、上記リッド材の製造方法は、前記第1工程では、前記Ti膜の上に、前記Ti膜に近い側から順に積層されるAu膜および他のTi膜からなる緩衝膜を形成する構成とすることができる。
【0022】
また、上記リッド材の製造方法では、前記下地膜は、最下層の膜を除く任意の膜において、前記任意の膜を含む上層部分で引き下がり構造を有しており、前記引き下がり構造では、前記引き下がり構造に含まれる膜の内周縁がその他の膜の内周縁よりも外側に引き下げられ、前記引き下がり構造に含まれる膜の外周縁がその他の膜の外周縁よりも内側に引き下げられて形成される構成とすることができる。
【0023】
また、上記リッド材の製造方法は、前記リッド本体が水晶である構成とすることができる。
【発明の効果】
【0024】
本発明は、LEDをパッケージの内部に配置し、リッド材で封止する発光装置において、リッド剥離や気密不良を生じさせない好適な下地膜を有するリッド材が得られるといった効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】本発明が適用される発光装置の基本構造の一例を示す断面図である。
図2図1の発光装置の製造方法を概略的に示す断面図である。
図3】リッド材の下面図である。
図4】実施の形態1のリッド材における下地膜の構成を示す部分断面図である。
図5】実施の形態2のリッド材における下地膜の構成を示す部分断面図である。
図6】実施の形態3のリッド材における下地膜の構成を示す部分断面図である。
図7】実施の形態3のリッド材における下地膜の他の構成を示す部分断面図である。
図8】本発明が適用される発光装置の基本構造の他の例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
[実施の形態1]
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照して詳細に説明する。
【0027】
〔発光装置の基本構造〕
先ずは、本発明が適用される発光装置10の基本構造を、図1を参照して説明する。図1に示すように、発光装置10は、大略的には、セラミックパッケージ11、水晶リッド(リッド本体)12およびLEDチップ13により構成されている。すなわち、発光装置10は、セラミックパッケージ11のキャビティ111内にLEDチップ13を格納し、キャビティ111の開口を水晶リッド12によって封止した構造とされている。
【0028】
セラミックパッケージ11は、略直方体形状のパッケージ基台であり、上面にキャビティ111の開口を有し、この開口の周りが水晶リッド12との封止面11Aとなっている。また、キャビティ111の底面にはLEDチップ13を実装するための実装パッド112が形成されており、セラミックパッケージ11の下面には外部接続端子113が形成されている。実装パッド112と外部接続端子113とは、図示しないスルーホールを介して電気的に接続されている。尚、セラミックパッケージ11は、LEDチップ13から発生する熱を逃がすことができるように、熱伝導性の高い材料で形成されることが好ましく、好適には窒化アルミニウムが使用できる。
【0029】
水晶リッド12は、平面視でセラミックパッケージ11とほぼ同サイズの矩形形状の水晶板である。水晶リッド12は、セラミックパッケージ11の封止面11Aとの間に接合層14を介して接合される。
【0030】
図1に示す発光装置10では、LEDチップ13は、セラミックパッケージ11に対してFCB(Flip Chip Bonding)によって実装されている。しかしながら、本発明はこれに限定されるものではなく、LEDチップ13は、セラミックパッケージ11に対してワイヤボンディングによって実装されていてもよい。
【0031】
LEDチップ13は、好適には、深紫外線を照射する深紫外用LEDである。深紫外線は、紫外線の中でも比較的波長が短いものを指し、主に殺菌・消毒などの用途に使用される。水晶リッド12は、深紫外線に対して透過性を有するため、LEDチップ13が深紫外用LEDである場合に使用可能である。但し、LEDチップ13は、水晶の透過波長域の光を照射するものであれば、深紫外用LEDに限定されるものではない。
【0032】
また、深紫外線に対して透過性を有する材料としては、従来使用されていた石英ガラスもあるが、石英ガラスを発光装置10のリッドとして使用すると、気密試験における試験工程数が増加する場合がある。発光装置10における水晶リッド12の使用は、気密試験を行う場合に試験工程数が少なくなり、気密試験をより簡単に行えるといった利点がある。
【0033】
〔発光装置の製造方法〕
続いて、図1に示す発光装置10の製造方法を示す。図2は、発光装置10の製造方法を概略的に示す断面図である。
【0034】
図2に示すように、発光装置10は、リッド材20とパッケージ材30とを接合材40を介して接合することで製造される。ここで、リッド材20は、水晶リッド12の下面(接合面)に、第1メタライズ膜41を成膜して構成されている。第1メタライズ膜41は、図3に示すように、水晶リッド12の下面において、水晶リッド12の外形形状に沿った環状に形成されている。第1メタライズ膜41は、水晶リッド12と接合材40との密着性を高めるための下地膜である。尚、第1メタライズ膜41の具体的構成については後述する。
【0035】
また、パッケージ材30は、LEDチップ13が実装されたセラミックパッケージ11の封止面11A上に、第2メタライズ膜42を成膜して構成されている。第2メタライズ膜42は、リッド材20とパッケージ材30とを対向させたときに第1メタライズ膜41と重なり合うように、封止面11Aの形状に沿って環状に形成されている。第2メタライズ膜42は、セラミックパッケージ11と接合材40との密着性を高めるための下地膜である。第2メタライズ膜42としてはNi合金/Au膜が好適に使用でき、また、第2メタライズ膜42の膜厚は150~700nmの範囲とすることが好ましい。
【0036】
接合材40は、リッド材20とパッケージ材30とを接合させるろう材を、第1メタライズ膜41および第2メタライズ膜42とほぼ同形状の環状にプリフォームして形成したものである。具体的には、接合材40は、金錫(Au-Sn)をプリフォームして形成されている。接合材40の厚みは、10~20μmの範囲とすることが好ましい。
【0037】
発光装置10の製造は、図2に示すように、リッド材20、接合材40およびパッケージ材30を重ねて配置し、リッド材20とパッケージ材30との間に荷重をかけながら加熱することで、これらの接合を行う。すなわち、第1メタライズ膜41、接合材40および第2メタライズ膜42を加熱によって溶融させ、その後、荷重をかけながら冷却する。溶融した第1メタライズ膜41、接合材40および第2メタライズ膜42は、冷却によって固化し、図1に示す接合層14を形成する。
【0038】
〔リッド材の構成および製造方法〕
続いて、リッド材20の構成および製造方法について説明する。
【0039】
上述したように、リッド材20は、水晶リッド12の下面に第1メタライズ膜41を成膜して構成されている。ここで、第1メタライズ膜41は、図4に示すように、第1金属層(第1層)411および第2金属層(第2層)412を含んで構成されている。
【0040】
水晶リッド12の上に直接形成される第1金属層411は、Ti(チタン)膜からなる単層構造を有している。第2金属層412は、第1金属層411の上に形成されており、第1金属層411に近い側から順にNi-Ti(ニッケル-チタン)膜4121およびAu(金)膜4122を含む積層構造を有している。尚、第2金属層412におけるNi-Ti膜4121は、その膜厚を50~1000nmの範囲とすることが好ましい。また、Ni-Ti膜4121は、他のNi合金膜に置き換えることも可能である。
【0041】
リッド材20の製造方法としては、最初に、水晶リッド12の片面(パッケージ材30との対向面)に物理的気相成長によって第1金属層411となるTi膜を形成する。Ti膜が形成されると、これを成膜装置から一旦取り出し、Ti膜の表面を空気に曝す。これにより、Ti膜の表面には酸化チタン(TiO2)からなる酸化皮膜が形成される。その後、第1金属層411であるTi膜の上に物理的気相成長によってNi-Ti膜4121を形成し、このNi-Ti膜の上に物理的気相成長によってAu膜4122を形成する。すなわち、第2金属層412は、Ni-Ti膜4121とAu膜4122との積層構造を有している。
【0042】
尚、Ti膜を酸化させてその表面に酸化皮膜を形成する方法は、上述したTi膜の表面を空気に曝す方法に限定されるものではない。例えば、スパッタリングによってTi膜を形成するときに酸素を導入して酸化Ti膜として成膜する方法や、成膜されたTi膜の表面を酸素プラズマによって酸化促進させる方法も可能である。
【0043】
リッド材20の第1メタライズ膜41では、Ti膜表面の酸化皮膜が第1金属層411と第2金属層412との境界となる。尚、リッド材20とパッケージ材30との接合時において、第1メタライズ膜41では、第2金属層412のみが溶融して接合材40との共晶接合を形成し、第1金属層411は共晶接合を形成しない。
【0044】
〔第1メタライズ膜の形成条件〕
上述したリッド材20では、発光装置10における水晶リッド12の好適な密着性を得るために、下地膜において膜厚の制御が必要であることが確認された。特に、第1金属層411であるTi膜の膜厚を適切な範囲に制御することが必要である。以下、実験に基づいた考察を行う。
【0045】
ここでは、第1金属層411の膜厚をパラメータとして変化させ、上述した製造方法にて発光装置10を製造し、その外観評価と気密試験(ヘリウムリークテスト)による気密評価とを行った。外観評価では、水晶リッド12側から見たメタライズ膜の変色と、水晶リッド12における割れの有無とを目視確認した。尚、製造した各発光装置10において、第2金属層412のNi-Ti膜4121およびAu膜4122は、その膜厚を300nmおよび50nmにそれぞれ固定した。また、接合材40であるAu-Snプリフォームの厚みは15μmに固定し、第2メタライズ膜42はNi合金/Au膜を使用し、その膜厚は合計5μmに固定した。実験結果を以下の表1に示す。
【0046】
【表1】
【0047】
変色に関しては、条件1,2(膜厚7nm,10nm)において比較的広範囲な変色が生じており、評価“×”となっている。また、条件3~6,10~15(膜厚20nm,50nm,100nm,150nm,400nm,500nm,600nm,700nm,800nm,900nm)においては、僅かに変色が生じており、評価“○”となっている。そして、条件7~9(膜厚200nm,250nm,300nm)においては変色が殆ど生じておらず、評価“◎”となっている。
【0048】
この変色は、水晶リッド12と接合層14であるメタライズ膜との間で剥離が生じていることを示している。すなわち、第1金属層411の膜厚が十分でない場合、接合材40からAuおよびSnが第1金属層411であるTi膜において水晶リッド12との接触面にまで拡散し、第1金属層411と水晶リッド12との密着性を低下させることによって剥離(すなわち変色)が生じたものと考えられる。このことは、第1金属層411の膜厚が薄い条件1,2において広範囲な変色が生じていることから明らかである。実際、第1金属層411の膜厚が最も薄い条件1では、気密評価において“×”となっている(気密不良が生じている)。また、条件2では、気密評価の段階で気密不良は検出されず、評価は“○”となっているが、変色範囲が広いことから長期にわたって気密性が維持できるとは考えにくい。このため、条件1,2は、総合評価を“×”としている。
【0049】
第1金属層411の膜厚が厚くなれば、第1金属層411であるTi膜においてAuおよびSnの拡散が抑制され、水晶リッド12と接合層14であるメタライズ膜との密着性が向上する。条件3~6では変色に関して“○”の評価となっており、条件7~9では変色に関して“◎”の評価となっている。条件3~9では気密評価に関しても“○”の評価となっているため、総合評価は、条件3~6を“○”、条件7~9を“◎”としている。
【0050】
条件10~15では、第1金属層411の膜厚がさらに厚くなっているが、変色に関しての評価は“○”となっており、条件7~9に比べて評価は下がっている。但し、このことは、条件10~15における水晶リッド12の密着性が、条件7~9における水晶リッド12の密着性よりも低いことを意味しているのではない。条件10~15において、変色に関しての評価が“○”となっているのは、以下の理由によるものと考えられる。
【0051】
発光装置10において、セラミックパッケージ11と水晶リッド12とでは、材質が異なるため、熱膨張率も異なる。そして、条件10~15では、第1金属層411の膜厚が厚く密着性が高いことから、セラミックパッケージ11と水晶リッド12との熱膨張差から反りが発生し、この反りによって剥離が生じたと考えられる。すなわち、条件7~9は、条件10~15に比べると密着性が低いため、セラミックパッケージ11と水晶リッド12との間に熱膨張差が生じても、第1金属層411と水晶リッド12との間にずれが生じて熱膨張差を吸収することができ、反りによる剥離を抑制する作用が働いたと考えられる。実際、条件14,15では、水晶リッド12の割れも発生しており、この水晶割れは熱膨張差による反りによって生じたものと考えられる。
【0052】
尚、セラミックパッケージ11の材質を窒化アルミニウムとする場合、水晶と窒化アルミニウムとの熱膨張率の差は、石英ガラスと窒化アルミニウムとの熱膨張率の差よりも大きい。したがって、水晶リッド12を用いる場合は、石英ガラスのリッドを用いる従来構成に比べて熱膨張差による反りが生じ易く、このような反りに対する考慮も必要となる。
【0053】
条件10~15の気密評価に関しては、条件10~13は“○”、条件14,15は“×”となっている。これは、条件14,15では、水晶リッド12の割れによって気密が破れたためである。このため、条件10~13は総合評価を“○”、条件14,15は総合評価を“×”としている。
【0054】
以上のように、本実施の形態に係るリッド材20では、第1金属層411の膜厚は、薄すぎても厚すぎても、発光装置10において確実な気密が得られなくなる。上記表1の結果から明らかなように、第1金属層411の膜厚は、20~700nmの範囲とすることが好ましく、200~300nmの範囲とすることがさらに好ましい。
【0055】
[実施の形態2]
〔リッド材の構成および製造方法〕
上記実施の形態1では、リッド材20は下地膜となる第1メタライズ膜41を有しており、この第1メタライズ膜41は水晶に対する密着度が高く、水晶リッド12を用いる場合にリッド剥離や気密不良を生じさせない好適な下地膜であることを説明した。しかしながら、実施の形態1における第1メタライズ膜41は、密着度が高いゆえに発光装置10にリッド割れの問題が生じる場合があった。特に、封止荷重が大きい場合(例えば100gf以上)や冷熱衝撃試験などにおいてリッド割れ(水晶割れ)が発生しやすい傾向があった。本実施の形態2では、封止荷重が大きい場合や冷熱衝撃試験においてもリッド割れを防止できる下地膜について説明する。
【0056】
図5は、本実施の形態2に係るリッド材21における下地膜の構成を示す部分断面図である。リッド材21は、水晶リッド12の下面(接合面)に下地膜として第1メタライズ膜51を成膜して構成されている。ここで、第1メタライズ膜51は、図5に示すように、第1金属層(第1層)511および第2金属層(第2層)412を含んで構成されている。すなわち、リッド材21における第1メタライズ膜51は、実施の形態1に係るリッド材20の第1メタライズ膜41において、第1金属層411を第1金属層511に変更した構成である。
【0057】
実施の形態1の第1金属層411はTi膜のみからなる単層構造を有していたが、第1金属層511は、Ti膜5111、Au膜5112およびTi膜5113からなる積層構造を有している。ここでは、Ti膜5111が、実施の形態1の第1金属層411を構成するTi膜に相当する。すなわち、Ti膜5111は、第1金属層411のTi膜と同様に、膜厚20~700nmであることが好ましく、膜厚200~300nmであることがより好ましい。
【0058】
第1金属層511におけるAu膜5112およびTi膜5113は、封止荷重が大きい場合や冷熱衝撃試験においてのリッド割れを防止するための緩衝膜として形成されている。上記実施の形態1でも説明したように、発光装置10におけるセラミックパッケージ11と水晶リッド12とでは、材質が異なるため、熱膨張率も異なる。このため、セラミックパッケージ11と水晶リッド12との熱膨張差から反りが発生し、この反りが水晶割れの要因となる場合がある。これに対し、リッド材21を用いた発光装置10では、セラミックパッケージ11と水晶リッド12との間の熱膨張差を緩衝膜(すなわちAu膜5112およびTi膜5113)の変形によって吸収することができ、その結果、反りを低減して水晶割れを抑制できると考えられる。
【0059】
リッド材21の製造方法としては、水晶リッド12の片面(パッケージ材30との対向面)に物理的気相成長によって第1金属層511となるTi膜5111、Au膜5112およびTi膜5113を順次形成する。第1金属層511が形成されると、これを成膜装置から一旦取り出し、最上層にあるTi膜5113の表面を空気に曝す。これにより、Ti膜5113の表面には酸化チタンからなる酸化皮膜が形成される。
【0060】
尚、実施の形態1では、第1金属層411の表面に酸化チタンからなる酸化皮膜が形成され、本実施の形態2では、Ti膜5111が実施の形態1の第1金属層411のTi膜に相当するものとされている。しかしながら、酸化チタンからなる酸化皮膜は、第1金属層と第2金属層との境界となるものであるため、本実施の形態2に係るリッド材21では、酸化チタンからなる酸化皮膜は、Ti膜5111ではなく、第1金属層511の最上層にあるTi膜5113の表面において形成される。また、Ti膜5113の表面に酸化皮膜を形成する方法は、実施の形態1と同様に、スパッタリングによってTi膜を形成するときに酸素を導入して酸化Ti膜として成膜する方法や、成膜されたTi膜の表面を酸素プラズマによって酸化促進させる方法も可能である。第1金属層511の形成後、第2金属層412の形成方法は、実施の形態1で説明した方法と同様である。
【0061】
〔第1メタライズ膜の形成条件〕
上述したリッド材21では、発光装置10における水晶リッド12の好適な密着性と水晶割れの防止効果とを得るために、下地膜において膜厚の制御が有効であることが確認された。特に、第1金属層511におけるAu膜5112の膜厚を適切な範囲に制御することが有効である。以下、実験に基づいた考察を行う。
【0062】
ここでは、第1金属層511におけるTi膜5111、Au膜5112およびTi膜5113の各膜厚をパラメータとして変化させ、上述した製造方法にて発光装置10を製造し、その外観評価と気密試験(ヘリウムリークテスト)による気密評価とを行った。外観評価では、水晶リッド12側から見たメタライズ膜の変色と、水晶リッド12における割れの有無とを目視確認した。各評価項目はそれぞれ複数のサンプルに対する総合判断の結果である。また、水晶割れに関しては、封止荷重が大きく(100gf以上)、かつ冷熱衝撃試験も実施したあとのサンプルに対しての評価を示している。
【0063】
尚、製造した各発光装置10において、第2金属層412のNi-Ti膜4121およびAu膜4122は、その膜厚を300nmおよび50nmにそれぞれ固定した。また、接合材40であるAu-Snプリフォームの厚みは15μmに固定し、第2メタライズ膜42はNi合金/Au膜を使用し、その膜厚は合計5μmに固定した。実験結果を以下の表2に示す。表2の第1金属層の膜厚においては、左側欄のTi膜厚がTi膜5111の膜厚を示しており、右側欄のTi膜厚がTi膜5113の膜厚を示している。
【0064】
【表2】
【0065】
表2の条件16~18は、緩衝膜としてのAu膜5112およびTi膜5113を有していないが、Ti膜5111の膜厚が大きくなるほど結果が良好となっている。そして、実施の形態1で好適範囲とされているTi膜5111の膜厚250nm(条件3)で、総合評価も“○”となっている。
【0066】
一方、緩衝膜としてのAu膜5112およびTi膜5113を有している条件18~25では何れも総合評価も“○”以上となっており、特に条件21~24では総合評価が“◎”となっている。条件21~24では、変色評価が“◎”であることから、発光装置10における水晶リッド12の密着性がより向上していることが分かる。これは、発光装置10において、セラミックパッケージ11と水晶リッド12との間の熱膨張差を緩衝膜(すなわちAu膜5112およびTi膜5113)が吸収することで反りが低減され、その結果、リッド剥離も低減されたものと考えられる。また、この効果は、Au膜5112の膜厚を適切に制御することで向上し、Au膜5112の膜厚は100~700nmの範囲とすることが好ましく、300~600nmの範囲とすることがより好ましい。
【0067】
尚、表2の条件26~27は、緩衝膜を有してはいるが、気密評価が“×”(総合評価も“×”)となっている。また、条件27では水晶割れでも評価が“×”となっている。これらの結果は、緩衝膜を厚くし過ぎた結果、下地膜のトータル膜厚が大きくなり、応力による影響で不具合が生じたためと考えられる。すなわち、下地膜のトータル膜厚が大きくなると、下地膜全体での膜厚に不均一が生じ、膜厚が不均一であることで水晶リッド12にかかる応力が増加して水晶割れを引き起こしたと考えられる。これより、緩衝膜の膜厚には上限が存在することも示唆される。
【0068】
[実施の形態3]
〔リッド材の構成〕
上記実施の形態1,2では、第2金属層412に含まれるNi-Ti膜4121およびAu膜4122が、これらの膜のメタライズ幅(形成幅)が同じになるように(Ni-Ti膜4121の上にAu膜4122が完全に重畳するように)形成されている。しかしながら、この場合、発光装置10の製造条件などによっては、評価段階でリッド剥離や気密不良の課題が生じることがあった。本実施の形態3では、リッド剥離や気密不良をより確実に防止することのできる下地膜について説明する。
【0069】
図6は、本実施の形態3に係るリッド材22における下地膜の構成を示す部分断面図である。リッド材22は、水晶リッド12の下面(接合面)に下地膜として第1メタライズ膜61を成膜して構成されている。ここで、第1メタライズ膜61は、図6に示すように、第1金属層(第1層)511および第2金属層(第2層)612を含んで構成されている。但し、本実施の形態3に係るリッド材は、第2金属層の構成に特徴を有するものである。このため、図6のリッド材22では、第1金属層をリッド材21の第1金属層511と同じ構成としているが、第1金属層はリッド材20の第1金属層411と同じ構成としてもよい。
【0070】
第2金属層612は、第1金属層511の上に形成されるNi-Ti膜6121と、Ni-Ti膜6121の上に形成されるAu膜6122とを含む積層構造を有している。Ni-Ti膜6121は、リッド材20および21におけるNi-Ti膜4121と同様の膜とすることができる。また、Au膜6122は、リッド材20および21におけるAu膜4122とは膜のメタライズ幅が異なるのみである。
【0071】
すなわち、リッド材22においては、Au膜6122はNi-Ti膜6121に比べて狭い幅で形成されている。より具体的には、Au膜6122は、Au膜6122の内周縁がNi-Ti膜6121の内周縁よりも外側に引き下げられ、Au膜6122の外周縁がNi-Ti膜6121の外周縁よりも内側に引き下げられた引き下がり構造(Au膜6122の周縁部とNi-Ti膜6121の周縁部との間にギャップを有する構造)を有している。尚、ここでの“内側”,“外側”とは、リッド材22の中心から見た“内側”,“外側”を意味している。また、第1メタライズ膜61の内側および外側でのAu膜6122の引き下がり幅は同じである必要はなく、図6に示すように、内側の引き下がり幅[μm]をd1、外側の引き下がり幅をd2とする。
【0072】
実施の形態1において説明したように、リッド材20とパッケージ材30とを接合材40を介して接合して発光装置10を製造するとき、本来は第2金属層412のみが溶融して接合材40との共晶接合を形成する。しかしながら、製造条件によっては(例えば、接合時の封止荷重が大きければ)、共晶接合によって形成される合金(Ni、Ti、AuおよびSnを含む合金)が接合層14の側面から回り込んで第1金属層411に達する恐れがある。この場合、第1金属層411に達した合金のAuやSn成分が第1金属層411に浸潤して第1金属層411と水晶リッド12との密着性を低下させ、リッド剥離や気密不良の要因になると考えられる。同様の問題は、リッド材21とパッケージ材30とを接合して発光装置10を製造するときにも生じる。
【0073】
これに対し、リッド材22とパッケージ材30とを接合材40を介して接合して発光装置10を製造する場合には、共晶接合はAu膜6122の形成領域とほぼ重畳する領域においてのみ形成される。これは、共晶接合の形成にはAuが不可欠となるためである。リッド材22では、Au膜6122はNi-Ti膜6121に対して引き下がり構造を有しているため、共晶接合によって形成される合金が接合層14の側面から回り込んで第1金属層511(または411)に達することを防止でき、その結果、リッド剥離や気密不良を防止することができる。
【0074】
〔第1メタライズ膜の形成条件〕
上述したリッド材22では、発光装置10における水晶リッド12の好適な密着性を得るために、第2金属層612におけるAu膜6122のメタライズ幅の制御が有効であることが確認された。以下、実験に基づいた考察を行う。
【0075】
ここでは、第1金属層511におけるTi膜5111、Au膜5112およびTi膜5113の各膜厚を250nm、500nmおよび50nmにそれぞれ固定した。また、第2金属層612におけるNi-Ti膜6121およびAu膜6122の各膜厚は300nおよび50nmにそれぞれ固定した。そして、Au膜6122における引き下がり幅をパラメータとして変化させ、上述した製造方法にて発光装置10を製造し、その外観評価と気密試験(ヘリウムリークテスト)による気密評価とを行った。外観評価では、水晶リッド12側から見たメタライズ膜の変色と、水晶リッド12における割れの有無とを目視確認した。各評価項目はそれぞれ複数のサンプルに対する総合判断の結果である。また、水晶割れに関しては、封止荷重が大きく(100gf以上)、かつ冷熱衝撃試験も実施したあとのサンプルに対しての評価を示している。但し、ここでの冷熱衝撃試験は、先に行った気密試験の評価(気密評価)が“○”であったサンプルに対してのみ実施している。
【0076】
また、接合材40であるAu-Snプリフォームの厚みは15μmに固定し、第2メタライズ膜42はNi合金/Au膜を使用し、その膜厚は合計5μmに固定した。実験結果を以下の表3に示す。
【0077】
【表3】
【0078】
表3の条件28~30の比較より、引き下がり構造を有していない条件28では変色が生じて気密評価が“×”(総合評価も“×”)となっているのに対し、引き下がり構造を有している条件29,30では気密評価が“○”(総合評価も“○”)となっている。これより、リッド材22におけるAu膜6122の引き下がり構造は、共晶接合によって形成される合金の回り込みによるリッド剥離や気密不良を低減するのに有効であることが分かる。また、この引き下がり構造における引き下がり幅は、少なくとも25μm以上あれば、その効果を発揮できることが分かる。
【0079】
また、表3の条件30~35の比較より、Au膜6122のメタライズ幅によって変色の評価に違いが生じることが分かる。すなわち、条件31,32では、変色の外観評価が“◎”(総合評価も“◎”)となっているが、Au膜6122のメタライズ幅がこれよりも広い条件30では、変色の外観評価が“○”(総合評価も“○”)となっている。これは、Au膜6122のメタライズ幅が広くなることで、下地膜における密着力の大きい領域面積も広くなり、発光装置10のより外側の領域まで高い密着力で水晶リッド12とセラミックパッケージ11とが接合されたためと考えられる。すなわち、発光装置10において、高い密着力で接合される領域が広くなることで、水晶リッド12とセラミックパッケージ11との熱膨張差による影響を受けやすくなり、その結果、条件30は条件31,32に比べて変色が生じ易くなったと考えられる。
【0080】
また、Au膜6122のメタライズ幅が条件31,32よりも狭い条件33~35では、メタライズ幅が狭くなるほど変色の外観評価が低下し、総合評価も低下している。これは、Au膜6122のメタライズ幅が狭くなりすぎると、下地膜における密着力の大きい領域面積が小さくなり、水晶リッド12とセラミックパッケージ11との熱膨張差に十分に耐えることができなくなってリッド剥離が生じ易くなるためと考えられる。
【0081】
さらに、表3の条件31~34と条件36~39との比較より、Au膜6122の引き下がり幅を内側と外側とで異ならせる場合には、内側の引き下がり幅を外側よりも大きくする外寄せパターン(条件36~39)よりも、外側の引き下がり幅を内側よりも大きくする内寄せパターン(条件31~34)とする方が好ましいことが分かる。すなわち、外寄せパターンは、内寄せパターンに比べて、冷熱衝撃試験による水晶割れが発生しやすいことが明らかとなっている。これは、発光装置10のより外側の領域において高い密着力で水晶リッド12とセラミックパッケージ11とが接合されると、水晶リッド12とセラミックパッケージ11との熱膨張差による影響を受けやすくなり、その結果、冷熱衝撃試験による水晶割れが生じ易くなると考えられる。
【0082】
尚、本実施の形態3における上記説明では、第1メタライズ膜61の最上層であるAu膜6122のみが引き下がり構造を有する構成を例示している。しかしながら、本発明はこれに限定されるものではなく、第1メタライズ膜61の最下層の膜(すなわちTi膜5111)を除く任意の膜において、その膜を含む上層部分で引き下がり構造を適用してもよい。例えば、図7に示すように、Au膜5112から上層となる部分で引き下がり構造を適用してもよい。
【0083】
今回開示した実施形態は全ての点で例示であって、限定的な解釈の根拠となるものではない。したがって、本発明の技術的範囲は、上記した実施形態のみによって解釈されるものではなく、特許請求の範囲の記載に基づいて画定される。また、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内での全ての変更が含まれる。
【0084】
例えば、上記説明では、発光装置10のリッド材20~22において、リッド本体を水晶リッド12とする場合を例示した。しかしながら、本発明はこれに限定されるものではなく、リッド本体には、石英ガラスを用いるものであってもよい。すなわち、従来の石英ガラスを用いたリッド材では下地膜にCr膜が用いられていたが、石英ガラスをリッド本体とした場合に、下地膜として上述の第1メタライズ膜41,51または61を用いれば、膜剥がれや密着性の点でより優れた性能が得られることが確認された。これは、下地膜をCr膜から第1メタライズ膜41,51または61に変更したことで、ろう材であるAuおよびSnの拡散が抑制されたことに起因すると考えられる。
【0085】
また、上記説明の発光装置10では、LED13をパッケージ内に封止するために、セラミックパッケージ11を段面コ字形状とし、水晶リッド12を平板形状としている。しかしながら、本発明はこれに限定されるものではなく、図8に示す発光装置10’のように、平板形状のセラミックベース11’と段面コ字形状の水晶リッド12’とを組み合わせて、LED13を封止するパッケージを形成してもよい。この場合でも、セラミックベース11’と段面コ字形状の水晶リッド12’とを接合する接合層14は、上記説明の発光装置10と同様の構成とすることができる。
【符号の説明】
【0086】
10,10’ 発光装置
11 セラミックパッケージ
11’ セラミックベース
111 キャビティ
12,12’ 水晶リッド(リッド本体)
13 LEDチップ
14 接合層
20,21,22 リッド材
30 パッケージ材
40 接合材
41,51,61 第1メタライズ膜(リッド材の下地膜)
42 第2メタライズ膜
411,511 第1金属層(第1層)
5111 Ti膜
5112 Au膜(緩衝膜)
5113 Ti膜(緩衝膜)
412,612 第2金属層(第2層)
4121,6121 Ni-Ti膜
4122,6122 Au膜
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8