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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-06
(45)【発行日】2022-09-14
(54)【発明の名称】車両の走行制御装置
(51)【国際特許分類】
   B60W 30/188 20120101AFI20220907BHJP
   B60W 30/10 20060101ALI20220907BHJP
【FI】
B60W30/188
B60W30/10
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2018060105
(22)【出願日】2018-03-27
(65)【公開番号】P2019171965
(43)【公開日】2019-10-10
【審査請求日】2021-02-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000005348
【氏名又は名称】株式会社SUBARU
(74)【代理人】
【識別番号】110002907
【氏名又は名称】特許業務法人イトーシン国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100076233
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 進
(74)【代理人】
【識別番号】100101661
【氏名又は名称】長谷川 靖
(74)【代理人】
【識別番号】100135932
【弁理士】
【氏名又は名称】篠浦 治
(72)【発明者】
【氏名】溝口 雅人
【審査官】平井 功
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-157067(JP,A)
【文献】特開2015-020667(JP,A)
【文献】特開2009-113524(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60W 10/00-10/30
B60W 30/00-60/00
G08G 1/00-99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
カーブ曲率を含む道路状況に合致した適正なカーブ走行速度に減速してカーブ区間を通過するよう制御する車両の走行制御装置であって、
前記カーブ区間の出口付近の自車両の走行状態を検出する走行状態検出部と、
前記走行状態に基づいて前記カーブ区間の出口付近で前記カーブ走行速度から加速を開始する加速開始タイミングを調整する加速開始タイミング調整部とを備え
前記走行状態検出部は、自車両が追従走行する目標走行経路に対する自車両の横位置及びヨー角を、前記走行状態として検出することを特徴とする車両の走行制御装置。
【請求項2】
前記加速開始タイミング調整部は、前記横位置及び前記ヨー角を、それぞれの閾値と比較して前記加速開始タイミングを調整することを特徴とする請求項1に記載の車両の走行制御装置。
【請求項3】
前記加速開始タイミング調整部は、前記ヨー角の閾値を前記横位置に応じて異なる値に設定することを特徴とする請求項2に記載の車両の走行制御装置。
【請求項4】
前記加速開始タイミング調整部は、前記横位置或いは前記ヨー角が前記目標走行経路から乖離するほど、前記加速開始タイミングを遅らせる方向に調整することを特徴とする請求項1から請求項3の何れか一項に記載の車両の走行制御装置。
【請求項5】
前記目標走行経路は、自車両の車線の中央位置の経路であることを特徴とする請求項1から請求項4の何れか一項に記載の車両の走行制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、適正なカーブ走行速度でカーブ区間を通過するよう制御する車両の走行制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車等の車両においては、自動運転を含む運転支援の技術として、自車両が目標走行経路に追従して走行するように制御する技術が開発されている。この目標走行経路への追従走行では、前方に存在するカーブを検知した場合、適正なカーブ走行速度に制御してカーブを通過することで、ドライバに違和感を与えないようにしている。
【0003】
例えば、特許文献1には、車両の旋回走行に基づいて減速制御を行う減速制御装置において、カーブ出口で減速制御の制御量を減少させることにより、カーブで行う減速制御がドライバに違和感を与えてしまうことを防止する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2005-263215号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に開示されるような従来の技術では、カーブ進入前の車速に復帰させるためにカーブ出口付近で加速を開始しようとする場合、横風や道路の横断勾配等によって車両挙動が乱れ、目標走行経路への追従性が悪化している状態であっても、加速を開始する虞がある。このため、車両挙動が安定していない状態での加速開始となり、ドライバに違和感を与えてしまう。
【0006】
本発明は上記事情に鑑みてなされたもので、カーブに対する減速後にカーブ出口付近で車両挙動が安定した状態で加速を開始させ、ドライバに違和感を与えることなく車速を回復させることのできる車両の走行制御装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様による車両の走行制御装置は、カーブ曲率を含む道路状況に合致した適正なカーブ走行速度に減速してカーブ区間を通過するよう制御する車両の走行制御装置であって、前記カーブ区間の出口付近の自車両の走行状態を検出する走行状態検出部と、前記走行状態に基づいて前記カーブ区間の出口付近で前記カーブ走行速度から加速を開始する加速開始タイミングを調整する加速開始タイミング調整部とを備え、前記走行状態検出部は、自車両が追従走行する目標走行経路に対する自車両の横位置及びヨー角を、前記走行状態として検出する。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、カーブに対する減速後にカーブ出口付近で車両挙動が安定した状態で加速を開始させ、ドライバに違和感を与えることなく車速を回復させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】走行制御システムの構成図
図2】目標走行経路に対する横位置の閾値を示す説明図
図3】目標走行経路に対するヨー角の閾値を示す説明図
図4】ヨー角の閾値と横位置との関係を示す説明図
図5】カーブに対する車速制御の開始判定処理を示すフローチャート
図6】カーブに対する車速制御の終了判定処理を示すフローチャート
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態を説明する。図1において、符号1は、自動車等の車両の走行制御システムであり、車両の自律的な自動運転を含む走行制御を実行する。この走行制御システム1は、走行制御装置100を中心として、外部環境認識装置10、測位装置20、地図情報処理装置30、エンジン制御装置40、変速機制御装置50、ブレーキ制御装置60、操舵制御装置70、警報制御装置80を備えて構成され、各装置が通信バス150を介してネットワーク接続されている。
【0011】
外部環境認識装置10は、車載のカメラユニット11、ミリ波レーダやレーザレーダ等のレーダ装置12等の環境認識用の各種デバイスや、自車両が走行する外界環境の気象条件の1つとして外気温を検出する外気温センサ13等の各種センサを備えている。外部環境認識装置10は、カメラユニット11やレーダ装置12等で検出した自車両周囲の物体の検出情報、外気温センサ13で検出した外気温等の環境情報に加え、路車間通信や車車間通信等のインフラ通信によって取得した交通情報、測位装置20で測位した自車両の位置情報、地図情報処理装置30からの地図情報等により、自車両周囲の外部環境を認識する。
【0012】
例えば、カメラユニット11として、同一対象物を異なる視点から撮像する2台のカメラで構成されるステレオカメラを搭載する場合、このステレオカメラで撮像した左右一対の画像をステレオ処理することにより、外部環境を3次元的に認識することができる。ステレオカメラとしてのカメラユニット11は、例えば、車室内上部のフロントウィンドウ内側のルームミラー近傍に、CCDやCMOS等の撮像素子を有するシャッタ同期の2台のカラーカメラが所定の基線長で車幅方向左右に配置されて構成されている。
【0013】
ステレオカメラとしてのカメラユニット11で撮像された左右一対の画像は、マッチング処理によって左右画像間の対応位置の画素ずれ量(視差)が求められ、画素ずれ量を輝度データ等に変換した距離画像が生成される。この距離画像上の点は、三角測量の原理から、自車両の車幅方向すなわち左右方向をX軸、車高方向をY軸、車長方向すなわち距離方向をZ軸とする実空間上の点に座標変換され、自車両が走行する道路の白線(車線)、障害物、自車両の前方を走行する車両等が3次元的に認識される。
【0014】
車線としての道路白線は、画像から白線の候補となる点群を抽出し、その候補点を結ぶ直線や曲線を算出することにより、認識することができる。例えば、画像上に設定された白線検出領域内において、水平方向(車幅方向)に設定した複数の探索ライン上で輝度が所定以上変化するエッジの検出を行って探索ライン毎に1組の白線開始点及び白線終了点を検出し、白線開始点と白線終了点との間の中間の領域を白線候補点として抽出する。
【0015】
そして、単位時間当たりの車両移動量に基づく白線候補点の空間座標位置の時系列データを処理して左右の白線を近似するモデルを算出し、このモデルにより、白線を認識する。白線の近似モデルとしては、ハフ変換によって求めた直線成分を連結した近似モデルや、2次式等の曲線で近似したモデルを用いることができる。
【0016】
測位装置20は、GPS衛星等の複数の航法衛星からの信号に基づく測位を主として、自車両の車両位置を検出する。また、衛星からの信号(電波)の捕捉状態化や電波の反射によるマルチパスの影響等で測位精度が悪化した場合には、ジャイロセンサ22や車速センサ23等の車載センサを用いた自律航法による測位を併用して自車両の車両位置を検出する。
【0017】
複数の航法衛星による測位では、航法衛星から送信される軌道及び時刻等に関する情報を含む信号を受信機21を介して受信し、受信した信号に基づいて自車両の自己位置を、経度、緯度、高度、及び時間情報を含む絶対位置として測位する。また、自律航法による測位では、ジャイロセンサ22によって検出した自車両の進行方位と車速センサ23から出力される車速パルス等から算出した自車両の移動距離とに基づいて、相対的な位置変化分としての自車位置を測位する。
【0018】
尚、測位装置20は、路車間通信や車車間通信等のインフラ通信によって交通情報を取得する通信ユニットを一体的に備えるようにしても良い。
【0019】
地図情報処理装置30は、地図データベースDBを備え、測位装置20で測位した自車両の位置データから地図データベースDBの地図データ上での位置を特定して出力する。地図データベースDBには、例えば、主として車両走行の経路案内や車両の現在位置を表示する際に参照されるナビゲーション用の地図データと、この地図データよりも詳細な、自動運転を含む運転支援制御を行う際に参照される走行制御用の地図データとが保持されている。
【0020】
ナビゲーション用の地図データは、現在のノードに対して前のノードと次のノードとがそれぞれリンクを介して結びつけられており、各リンクには、道路に設置された信号機、道路標識、建築物等に関する情報が保存されている。一方、走行制御用の高精細の地図データは、ノードと次のノードとの間に、複数のデータ点を有している。このデータ点には、自車両が走行する道路の車線毎の曲率、車線幅、路肩幅等の道路形状データや、道路方位角、道路白線種別、レーン数等の走行制御用データが、データの信頼度やデータ更新の日付け等の属性データと共に保持されている。
【0021】
地図情報処理装置30は、自車両位置の測位結果と地図データとの照合を行い、その照合結果に基づく走行経路案内や交通情報を図示しない表示装置を介してドライバに提示する。また、地図情報処理装置30は、自車両が走行する道路の曲率、車線幅、路肩幅等の道路形状データや、道路方位角、道路白線種別、レーン数等の走行制御用の地図情報を通信バス150を介して送信する。尚、走行制御用の地図情報は、主として走行制御装置100に送信されるが、必要に応じて他の制御装置にも送信される。
【0022】
更に、地図情報処理装置30は、地図データベースDBの保守管理を行い、地図データベースDBのノード、リンク、データ点を検定して常に最新の状態に維持すると共に、データベース上にデータが存在しない領域についても新規データを作成・追加し、より詳細なデータベースを構築する。地図データベースDBのデータ更新及び新規データの追加は、測位装置20によって測位された位置データと、地図データベースDBに記憶されているデータとの照合によって行われる。
【0023】
エンジン制御装置40は、エンジン運転状態を検出する各種センサ類からの信号及び通信バス150を介して送信される各種制御情報に基づいて、エンジン(図示せず)の運転状態を制御する。エンジン制御装置40は、例えば、吸入空気量、スロットル開度、エンジン水温、吸気温度、空燃比、クランク角、アクセル開度、その他の車両情報に基づき、燃料噴射制御、点火時期制御、電子制御スロットル弁の開度制御等を主要とするエンジン制御を実行する。
【0024】
変速機制御装置50は、変速位置や車速等を検出するセンサ類からの信号や通信バス150を介して送信される各種制御情報に基づいて、自動変速機(図示せず)に供給する油圧を制御し、予め設定された変速特性に従って自動変速機を制御する。
【0025】
ブレーキ制御装置60は、例えば、ブレーキスイッチ、4輪の車輪速、ハンドル角、ヨーレート、その他の車両情報に基づき、4輪のブレーキ装置(図示せず)をドライバのブレーキ操作とは独立して制御する。また、ブレーキ制御装置60は、各輪のブレーキ力に基づいて各輪のブレーキ液圧を算出して、アンチロック・ブレーキ・システムや横すべり防止制御等を行う。
【0026】
操舵制御装置70は、例えば、車速、ドライバの操舵トルク、ハンドル角、ヨーレート、その他の車両情報に基づいて、操舵系に設けた電動パワーステアリングモータ(図示せず)による操舵トルクを制御する。この操舵トルクの制御は、実操舵角を目標操舵角に一致させるための目標操舵トルクを実現する電動パワーステアリングモータの電流制御として実行され、ドライバのハンドル操作によるオーバーライドがない場合、例えばPID制御によって電動パワーステアリングモータの駆動電流が制御される。
【0027】
警報制御装置80は、車両の各種装置に異常が生じた場合やドライバに注意を喚起するための警報、及びドライバに提示する各種情報の出力を制御する装置である。例えば、モニタ、ディスプレイ、アラームランプ等の視覚的な出力と、スピーカ・ブザー等の聴覚的な出力との少なくとも一方を用いて、警告・情報提示を行う。警報制御装置80は、自動運転を含む運転支援制御を実行中、その制御状態をドライバに提示し、また、ドライバの操作によって自動運転含む運転支援制御が休止された場合には、そのときの運転状態をドライバに報知する。
【0028】
次に、走行制御システム1の中心となる走行制御装置100について説明する。走行制御装置100は、ドライバが図示しないスイッチやパネル等を操作して自動運転や運転支援の走行モードにセットしたとき、外部環境認識装置10による外部環境の認識情報や測位装置20及び地図情報処理装置30からの情報に基づいて、自車両が追従走行する目標走行経路を設定する。そして、走行制御装置100は、ドライバがセットした車速で目標走行経路に追従して自動走行するよう、エンジン制御装置40、変速機制御装置50、ブレーキ制御装置60、及び操舵制御装置70を介して走行制御を実行する。
【0029】
この目標走行経路への走行制御においては、ドライバがセットしたセット車速で目標走行経路に沿って走行中、走行制御装置100は、前方にカーブが存在することを認識して、セット車速が適正なカーブ走行速度よりも高いと判断した場合、カーブ入口で自車両の車速を減速させて適正なカーブ走行速度となるように制御する。そして、カーブ区間内を走行してカーブ出口付近に達したとき、走行制御装置100は、セット車速に復帰するために加速を開始するタイミングを、自車両の走行状態に応じて調整する。
【0030】
このため、走行制御装置100は、カーブ走行に係る機能部として、カーブ車速制御部101、加速開始位置判定部102、走行状態検出部103、加速開始タイミング調整部104、加速制御部105を備えている。概略的には、走行制御装置100は、これらの機能部により、適正なカーブ走行速度でカーブ区間を走行してカーブ出口付近に達したとき、自車両の走行状態を検出し、検出した走行状態に応じて加速を開始するタイミングを調整する。
【0031】
詳細には、カーブ車速制御部101は、測位装置20や地図情報処理装置30からの情報に基づいて、前方にカーブ区間が存在すると判断した場合、カーブ区間を安全に通過するためのカーブ走行速度Vcvを算出する。例えば、カーブの曲率半径、車線幅、道路勾配等に基づいて、走行安定性を確保すると共にドライバに対して不安感を与えることのない横加速度となる目標車速を、カーブ曲率を含む道路状況に合致した適正なカーブ走行速度Vcvとして算出する。
【0032】
さらに、カーブ車速制御部101は、現在の車速すなわちセット車速Vsetをカーブ走行速度Vcvと比較し、カーブ進入前に減速が必要か否かを判断する。Vcv≧Vsetの場合には、セット車速Vsetのままカーブを安全に通過することができると判断して、セット車速Vsetのままカーブ走行を行う。一方、Vcv<Vsetの場合には、カーブ進入前に減速が必要と判断し、自車両の車速をカーブ走行速度Vcvまで減速させる。
【0033】
加速開始位置判定部102は、自車両がカーブ区間の出口付近でカーブに対する車速制御(減速制御)を終了し、カーブ進入前の車速に復帰するための加速を開始可能な位置に達したか否かを判定する。加速を開始可能な位置すなわちカーブに対する車速制御の制御終了位置は、例えば、セット車速Vsetとカーブ走行速度Vcvとの差分に基づいて、地図データ等から把握されるカーブ出口(カーブ終了位置)からの距離として設定される。
【0034】
このカーブに対する車速制御の制御終了位置は、セット車速Vsetとカーブ走行速度Vcvとの差が大きくなるほど、カーブ出口に近くなる。以下に説明するように、自車両がカーブに対する車速制御の制御終了位置に達したとき、自車両の目標走行経路に対する車両挙動が安定した状態で加速が開始される。
【0035】
走行状態検出部103は、カーブ区間の出口付近における自車両の走行状態を、目標走行経路に対する自車両の姿勢で検出する。本実施の形態においては、目標走行経路に対する姿勢として、目標走行経路に対する自車両の横位置及びヨー角を検出する。
【0036】
例えば、図2に示すように、車線Pの中央位置を目標走行経路Pctとする場合、目標走行経路Pctと自車両Cの中心位置との車線幅方向の距離を、自車両Cの目標走行経路Pctに対する横位置Xcとして検出する。また、図3に示すように、自車両Cの前後方向軸と目標走行経路Pct(接線)との間の角度を、自車両Cの目標走行経路Pctに対するヨー角θyとして検出する。
【0037】
尚、横位置Xc及びヨー角θyは、具体的には、地図データや自車両位置の測位データ、道路白線の認識結果に基づく目標走行経路の近似曲線、ヨーレート計測値、車速及び舵角に基づく推定値等から検出することができる。
【0038】
加速開始タイミング調整部104は、カーブ区間の出口付近において、セット車速に向けて加速を開始するタイミングを自車両の走行状態に基づいて調整し、目標走行経路に対して自車両の挙動が安定した状態で加速を開始させる。本実施の形態においては、自車両の目標走行経路に対する横位置及びヨー角を、それぞれに対する閾値と比較し、横位置或いはヨー角が目標走行経路から乖離するほど、加速開始のタイミングが遅くなる方向に調整する。
【0039】
走行経路に対する横位置の閾値は、図2に示すように、目標走行経路Pctを中心として左右方向の設定範囲を、横位置に対する閾値Hcとして設定する。加速開始タイミング調整部104は、自車両Cの目標走行経路Pctに対する横位置Xcが閾値Hcの範囲内にあるか否かを調べる。
【0040】
その結果、自車両の横位置Xcが閾値Hcによって定まる領域外の場合には加速開始は不可として、加速開始のタイミングを、横位置Xcが閾値Hcの領域内に入るまで遅らせる。そして、横位置Xcが閾値Hcによって定まる領域内に入った場合には、さらに、自車両Cの目標走行経路Pctに対するヨー角θyを、自車両の横位置に応じた閾値θh1,θh2,θh3と比較し、その比較結果に応じて加速開始のタイミングを調整する。
【0041】
ヨー角の閾値θh1,θh2,θh3に対する横位置の範囲は、図3に示すように、車線Pの中央付近の目標走行経路Pctから比較的狭い範囲の設定値Hc1と、設定値Hc1の範囲外で車線Pの進行方向左側の範囲の設定値Hc2と、設定値Hc1の範囲外で車線Pの進行方向右側の範囲の設定値Hc3とに区分されている。ヨー角の閾値θh1,θh2,θh3は、横位置の設定値Hc1,Hc2,Hc3による区分毎に、それぞれ対応する値に設定されている。
【0042】
加速開始タイミング調整部104は、目標走行経路に対する自車両のヨー角θyを、閾値θh1,θh2,θh3と比較し、加速開始のタイミングを調整する。ヨー角の閾値θh1,θh2,θh3は、本実施の形態においては、例えば、車線中央の目標進行経路に対して進行方向左向きのヨー角を正の符号で表し、目標走行経路から左側の横位置を負の符号で表す場合、例えば、図4に示すような特性に設定されている。
【0043】
具体的には、自車両が車線中央寄りにいる場合のヨー角の閾値θh1は、目標進行経路に対して比較的狭い正負の範囲の領域として設定されている。従って、自車両の横位置が車線中央付近であっても、ヨー角θyが閾値θh1の領域から乖離するほど、加速開始のタイミングが遅くなり、ヨー角θyが閾値θh1の領域に近づくほど、加速開始のタイミングが早くなって早期の加速開始が可能となる。
【0044】
一方、自車両が車線左側寄りの場合のヨー角の閾値θh2は、閾値θh1の負の領域の値から車線左側方向で相対的に小さくなるように設定されている。すなわち、自車両の横位置が車線左側の場合には、ヨー角が車線中央方向を向くまで加速開始のタイミングが遅くなるように調整され、加速開始が抑制される。
【0045】
また、自車両が車線右側寄りの場合のヨー角の閾値θh3は、閾値θh1の正の領域の値から車線右側方向で相対的に大きくなるように設定されている。従って、自車両の横位置が車線右側の場合には、ヨー角が車線中央方向を向くまで加速開始のタイミングが遅くなるように調整され、加速開始が抑制される。
【0046】
尚、各閾値Hc,θh1,θh2,θh3は、カーブ走行速度、カーブ走行速度とセット車速との差等に基づいて可変するようにしても良い。カーブ走行速度が高いほど、各閾値を相対的に小さくして加速開始タイミングを遅らせることにより、ドライバへの違和感を低減することができる。また、カーブ走行速度とセット車速との差が大きいほど、各閾値を相対的に小さくして加速開始タイミングを遅らせることにより、ドライバへの違和感を低減することができる。
【0047】
そして、加速開始タイミングに達したとき、加速開始タイミング調整部104は、加速制御部105による加速を開始させるため、カーブ車速制御部101によるカーブに対する車速制御の制御終了を示すカーブ車速制御終了フラグFLGをONする。このカーブ車速制御終了フラグFLGは、加速制御部105によって参照される。
【0048】
加速制御部105は、カーブ車速制御終了フラグFLGがONされたことを検知したとき、セット車速に向けて自車両の加速を開始する。これにより、ドライバに違和感を与えることなくセット車速に迅速に復帰させることが可能となる。
【0049】
次に、ドライバがセットしたセット車速で目標走行経路に沿って自動走行する際のカーブ走行に係るプログラム処理について、図5及び図6に示すフローチャートを用いて説明する。図5のフローチャートは、走行制御装置100におけるカーブに対する車速制御の開始判定処理を示し、図6のフローチャートは、走行制御装置100におけるカーブに対する車速制御の終了判定処理を示している。
【0050】
先ず、図5の車速制御の開始判定処理について説明する。この処理では、最初のステップS1において、地図データ等から自車両前方にカーブが存在することを検知したとき、自車両がカーブに対する制御開始位置に達したか否かを調べる。カーブに対する制御開始位置は、例えば、カーブの曲率半径や自車両の車速等に基づくカーブ開始位置からの距離として設定される。
【0051】
そして、自車両がカーブに対する制御開始位置に達したとき、ステップS1からステップS2へ進み、カーブ曲率を含む道路状況に合致した適正なカーブ走行速度Vcvを、カーブ走行の目標車速として算出し、ステップS3でカーブ走行の目標車速Vcvがセット車速Vset以上か否かを調べる。
【0052】
ステップS3においてカーブ走行の目標車速Vcvがセット車速Vset以上の場合、カーブ進入前の減速は不要でセット車速のままカーブを通過することができると判断し、本処理を抜ける。一方、カーブ走行の目標車速Vcvがセット車速Vsetより低い場合には、カーブ進入前の減速が必要と判断し、カーブに対する車速制御を実施するため、ステップS3からステップS4以降へ進む。
【0053】
ステップS4では、カーブ車速制御終了フラグFLGを参照してカーブに対する車速制御が終了と判定されているか否かを調べる。カーブ車速制御終了フラグFLGがONされており、カーブに対する車速制御が終了している場合、ステップS4から本処理を抜ける。カーブ車速制御終了フラグFLGがOFFでカーブに対する車速制御が終了していない場合には、ステップS4からステップS5へ進んでカーブに対する車速制御を実施する。このカーブに対する車速制御により、自車両の車速が目標車速まで減速されてカーブに進入し、カーブ内の走行速度が目標車速となるように制御される。
【0054】
次に、図6のカーブに対する車速制御の終了判定処理について説明する。この判定終了処理では、最初のステップS11において、カーブに対する車速制御(減速制御)を実施中か否かを調べる。カーブに対する車速制御(減速制御)を実施中でない場合は、本処理を抜け、カーブに対する車速制御を実施中の場合、ステップS11からステップS12へ進む。
【0055】
ステップS12では、自車両がカーブ出口付近まで進み、カーブに対する車速制御の制御終了位置に達したか否かを調べる。制御終了位置でない場合には、ステップS11へ戻り、制御終了位置に達するまで車速制御を継続する。制御終了位置に達した場合には、ステップS12からステップS13へ進み、カーブ走行における自車両の走行状態として、目標走行経路に対する自車両の横位置Xc及びヨー角θyを検出する。
【0056】
次に、ステップS13からステップS14へ進み、自車両の走行状態(目標走行経路に対する自車両の横位置Xc及びヨー角θy)に基づいて、カーブ走行時の車速をカーブ進入前のセット車速まで加速する際の加速開始タイミングを調整する。上述したように、セット車速への加速開始タイミングは、目標走行経路に対する自車両の横位置Xc及びヨー角θyと対応する閾値Hc,θh1,θh2,θh3とを比較し、横位置Xc或いはヨー角θyの目標走行経路との乖離の度合いが大きくなるほど、加速開始タイミングが遅くなる方向に調整される。
【0057】
ステップS14に続くステップS15では、調整された加速開始タイミングに対応する時間が経過して加速開始タイミングに達した否かを調べる。加速開始タイミングに達していない場合、ステップS11へ戻って走行状態を再度検出し、以上の処理を繰り返す。
【0058】
その後、加速開始タイミングに達した場合には、ステップS15からステップS16へ進み、カーブに対する車速制御の制御終了と判定してカーブ車速制御終了フラグFLGをONし、本処理を終了する。このカーブに対する車速制御の終了により、自車両の車速をセット車速に復帰させるべく自車両の加速が開始される。
【0059】
このように本実施の形態においては、ドライバがセットしたセット車速で目標走行経路に追従して走行中にカーブが出現した場合、自車両の車速を適正なカーブ走行速度に減速してカーブに進入する。そして、カーブ出口付近で加速を開始してセット車速に復帰する際に、目標走行経路に対する自車両の横位置及びヨー角に基づいて加速開始タイミングを調整することにより、自車両の車両挙動が安定した状態で加速を開始させることができ、ドライバに違和感を与えることなく迅速に車速を回復させることができる。
【符号の説明】
【0060】
1 走行制御システム
10 外部環境認識装置
20 測位装置
30 地図情報処理装置
40 エンジン制御装置
50 変速機制御装置
60 ブレーキ制御装置
70 操舵制御装置
80 警報制御装置
100 走行制御装置
101 カーブ車速制御部
102 加速開始位置判定部
103 走行状態検出部
104 加速開始タイミング調整部
105 加速制御部
図1
図2
図3
図4
図5
図6