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特許7139670メタクリル系樹脂組成物及びその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-12
(45)【発行日】2022-09-21
(54)【発明の名称】メタクリル系樹脂組成物及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08F 20/18 20060101AFI20220913BHJP
   C08F 4/34 20060101ALI20220913BHJP
【FI】
C08F20/18
C08F4/34
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2018083314
(22)【出願日】2018-04-24
(65)【公開番号】P2019189733
(43)【公開日】2019-10-31
【審査請求日】2020-10-29
(73)【特許権者】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100123788
【弁理士】
【氏名又は名称】宮崎 昭夫
(74)【代理人】
【識別番号】100127454
【弁理士】
【氏名又は名称】緒方 雅昭
(72)【発明者】
【氏名】磯村 学
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 正法
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 博之
【審査官】常見 優
(56)【参考文献】
【文献】特開平08-151403(JP,A)
【文献】特開2009-256513(JP,A)
【文献】特開平11-106410(JP,A)
【文献】特開2001-011274(JP,A)
【文献】CHAUMONT, Philippe et al.,Chain transfer by addition-substitution mechanism, 4 Alkyl permethacrylate - a new class of polymerization regulators,Macromolecular Chemistry and Physics,1995年,196,947-955,DOI:10.1002/macp.1995.021960322
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F 6/00-246/00
C08F301/00
C08L 1/00-101/16
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
メタクリル酸メチル重合体を含有するメタクリル系樹脂組成物であって、
微分熱重量分析法(DTG)で測定した前記メタクリル系樹脂組成物の温度220℃におけるDTG値が0.015%/℃以下であり、
ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で測定した、前記メタクリル酸メチル重合体の重量平均分子量(Mw)が300,000以上であり、且つ、
前記メタクリル酸メチル重合体が、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で測定した重量平均分子量(Mw)100,000以下の成分を、GPC分子量分布曲線におけるピーク面積において21%以上35%以下含む、メタクリル系樹脂組成物。
【請求項2】
微分熱重量分析法(DTG)で測定した前記メタクリル系樹脂組成物の温度240℃におけるDTG値が0.020%/℃以下である、請求項1に記載のメタクリル系樹脂組成物。
【請求項3】
前記メタクリル系樹脂組成物中のメタクリル酸メチル重合体の含有割合が、メタクリル系樹脂組成物の総質量に対して、99.95質量%以上である、請求項1又は2に記載のメタクリル系樹脂組成物。
【請求項4】
メタクリル酸メチルを70質量%以上含有する単量体組成物と、下記式(1)で示されるパーオキシエステル系化合物(P-1)から実質的に構成される重合性原料を加熱して重合する、メタクリル系樹脂組成物の製造方法であって、
ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で測定した、前記メタクリル酸メチル重合体の重量平均分子量(Mw)が300,000以上であり、
前記重合性原料に含まれる、前記パーオキシエステル系化合物(P-1)の含有量が、該重合性原料の総質量100質量%に対して、0.01質量%以上0.6質量%以下である、メタクリル系樹脂組成物の製造方法であって、
前記パーオキシエステル系化合物(P-1)として、下記式(2)で示されるパーオキシエステル系化合物(P-2)又は下記式(3)で示されるパーオキシエステル系化合物(P-3)を使用する、メタクリル系樹脂組成物の製造方法
【化1】
[式(1)中、R1は、炭素数1~20の炭化水素基又は炭素数1~20のアルコキシ基である。]
【化2】
【化3】
【請求項5】
前記重合性原料に含まれる、前記パーオキシエステル系化合物(P-2)の含有量が、該重合性原料の総質量100質量%に対して、0.23量%以上0.45質量%以下である、請求項に記載のメタクリル系樹脂組成物の製造方法。
【請求項6】
前記重合性原料に含まれる、前記パーオキシエステル系化合物(P-3)の含有量が、該重合性原料の総質量100質量%に対して、0.01質量%以上0.6質量%以下である、請求項に記載のメタクリル系樹脂組成物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、透明性、加熱成形性、低温成形性及び耐溶剤性のバランスに優れたメタクリル系樹脂組成物及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
メタクリル系樹脂は、透明性、耐熱性及び耐侯性に優れ、且つ、機械的強度、熱的性質、成形加工性等の樹脂物性においてバランスのとれた性能を有している。特に、メタクリル系樹脂を板状にしたメタクリル系樹脂板は、照明材料、光学材料、看板、ディスプレイ、装飾部材、建築部材等の多くの用途に使用されている。
メタクリル系樹脂板を製造する方法としては、対向して配置された一対の無機ガラス板と該ガラス板の縁部に設けられた軟質樹脂製のガスケットから形成される鋳型に、メタクリル酸メチルを含む単量体組成物又は前記単量体組成物の部分重合物(以下、「シラップ」という)を注入し、加熱・重合して、メタクリル系樹脂板を得るセルキャスト法や、上下に対向して配置され、同一方向に同一速度で走行する一対の金属製エンドレスベルトと前記金属製エンドレスベルトの両側辺部に設けられた軟質樹脂製のガスケットから形成される鋳型に、メタクリル酸メチルを含む単量体組成物又はシラップを連続的に注入し重合させてメタクリル系樹脂板を得る連続キャスト法が挙げられる(例えば、特公昭46-41602号公報、同47-33495号公報、同47-33497号公報、同47-34815号公報など)。
【0003】
近年、生産性向上の観点から、メタクリル系樹脂板の生産速度を向上するため、重合硬化時間を短縮する検討が行われている。しかし、重合硬化時間を単に短縮すると、得られたメタクリル系樹脂板を高温に加熱した時に発泡が生じやすくなるという課題があった。すなわち、加熱発泡抑性に優れたメタクリル系樹脂組成物が要求されていた。
【0004】
一方で、加熱発泡抑性を高めるために、重合硬化時間を延長した場合、得られたメタクリル系樹脂板を加熱しても十分に軟化し難く、特に低温での熱成形により目的の形状に賦形することが困難であるという課題があった。すなわち、加熱成形性に加え、低温成形性に優れたメタクリル系樹脂組成物が要求されていた。
【0005】
また、メタクリル系樹脂板が使用される、照明材料、光学材料、看板、ディスプレイ、装飾部材、建築部材等の用途では、イソプロピルアルコールやエタノール等のアルコール類で樹脂板の表面を拭いて洗浄するが、樹脂板の表面にクラックが発生したり、樹脂板の表面が濁ってしまうことがあった。すなわち、耐溶剤性に優れたメタクリル系樹脂組成物が要求されていた。
【0006】
加熱発泡抑性と低温成形性に優れた板状のメタクリル系樹脂組成物を製造する技術として、例えば、特許文献1には、アクリル酸アルキルエステル類を含むシラップを用いて連続キャスト法により重合し、加熱発泡しにくいことを特徴とする板状のメタクリル系樹脂組成物の製造方法が提案されている。
特許文献2には、架橋剤を含むメタクリル酸メチル系シラップを用いてセルキャスト法により重合し、加熱発泡しにくいことを特徴とする板状のメタクリル系樹脂組成物が提案されている。
特許文献3には、アルキルメルカプタンおよびテルペノイド化合物を含むメタクリル酸メチル系シラップを用いてセルキャスト法により重合し、吸湿しても加熱発泡しにくいことを特徴とする板状のメタクリル系樹脂組成物の製造方法が提案されている。
特許文献4には、メタクリル酸メチルを含有する単量体原料を、オレフィン-(メタ)アクリル酸アルキル共重合体(B)の存在下で、特定の重合開始剤を用いてセルキャスト法により重合し、耐衝撃性に優れた板状のメタクリル系樹脂組成物を製造する方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開昭58-134104号公報
【文献】特開昭60-144312号公報
【文献】特開2006-219578号公報
【文献】WO2014/73385号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1に記載の製造方法で得られた板状のメタクリル系樹脂組成物は、イソプロピルアルコールやエタノール等のアルコール系溶剤に晒されるとクレーズを生じやすくなり、耐溶剤性が不十分であった。
【0009】
特許文献2に記載の板状のメタクリル系樹脂組成物は、加熱しても十分に軟化し難く、熱成形により目的の形状に賦形することが困難であった。即ちメタクリル系樹脂板の低温成形性が不十分であった。
【0010】
特許文献3に記載の製造方法で得られた板状のメタクリル系樹脂組成物は、樹脂板の分子量が顕著に低下し、溶剤に晒されるとクレーズを生じやすくなり、耐溶剤性が不十分であった。
特許文献4に記載の製造方法で得られた板状のメタクリル系樹脂組成物は、オレフィン-(メタ)アクリル酸アルキル共重合体(B)を含むため、透明性が不十分であった。
【0011】
本発明はこれらの問題点を解決することを目的とする。すなわち、本発明の第一の目的は、透明性、加熱発泡抑性、低温成形性及び耐溶剤性に優れたメタクリル系樹脂組成物を提供することにある。
【0012】
本発明の第二の目的は、上記のメタクリル系樹脂組成物を安定に製造する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
発明の要旨は、以下の構成を有する。
本発明の第1の要旨は、メタクリル酸メチル重合体を含有するメタクリル系樹脂組成物であって、微分熱重量分析法(DTG)で測定した前記メタクリル系樹脂組成物の温度220℃におけるDTG値が0.015%/℃以下であり、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で測定した、前記メタクリル酸メチル重合体の重量平均分子量(Mw)が300,000以上であり、前記メタクリル酸メチル重合体が、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で測定した重量平均分子量(Mw)100,000以下の成分を、GPC分子量分布曲線におけるピーク面積において21%以上35%以下含む、メタクリル系樹脂組成物にある。
本発明の第2の要旨は、メタクリル酸メチルを70質量%以上含有する単量体組成物と、下記式(1)で示されるパーオキシエステル系化合物(P-1)から実質的に構成される重合性原料を加熱して、重合する、メタクリル系樹脂組成物の製造方法であって、前記重合性原料に含まれる、前記パーオキシエステル系化合物(P-1)の含有量が、該重合性原料の総質量100質量%に対して、0.01質量%以上0.6質量%以下である、メタクリル系樹脂組成物の製造方法にある。
【化1】
[式(1)中、Rは、炭素数1~20の炭化水素基又は炭素数1~20のアルコキシ基である。]
【発明の効果】
【0014】
本発明により、透明性、加熱発泡抑性、低温成形性及び耐溶剤性に優れたメタクリル系樹脂組成物を安定に提供することができる。
このようなメタクリル系樹脂組成物は、照明材料、光学材料、看板、ディスプレイ、装飾部材、建築部材等の用途に好適である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明において、「(メタ)アクリレート」は、「アクリレート」及び「メタクリレート」から選ばれる少なくとも1種を意味し、「(メタ)アクリル酸」は、「アクリル酸」及び「メタクリル酸」から選ばれる少なくとも1種を意味する。
本発明において、「単量体」は未重合の化合物を意味し、「繰り返し単位」は単量体が重合することによって形成された前記単量体に由来する単位を意味する。繰り返し単位は、重合反応によって直接形成された単位であってもよく、ポリマーを処理することによって前記単位の一部が別の構造に変換された単位であってもよい。
本発明において、「質量%」は全体量100質量%中に含まれる特定の成分の含有量を示す。
特に断らない限り、本明細書において「~」を用いて表される数値範囲は、「~」の前後に記載された数値を下限値及び上限値として含む範囲を意味し、「A~B」は、A以上B以下であることを意味する。
【0016】
<メタクリル系樹脂組成物>
本発明のメタクリル系樹脂組成物は、後述するメタクリル酸メチル重合体を含有するメタクリル系樹脂組成物である。
本発明のメタクリル系樹脂組成物は、微分熱重量分析法(DTG)で測定した温度220℃におけるDTG値が0.015%/℃以下である。
ここで「温度220℃のDTG値」とは、示差熱熱重量同時測定装置で測定した熱重量減少曲線を時間で微分した微分熱重量減少曲線の、220℃における値(微分熱重量変化率)のことをいう。DTG値の具体的な測定方法は後述する。
【0017】
温度220℃におけるDTG値が0.015%/℃以下であれば、メタクリル系樹脂組成物の全く発泡の見られない最大加熱温度(以下、「加熱発泡限界温度」という)が十分に高くなり、加熱発泡を抑制できるので、好ましい。
さらに、微分熱重量分析法(DTG)で測定した温度240℃におけるDTG値を0.020%/℃以下とすることで、加熱発泡抑性をより良好にできる。
温度220℃におけるDTG値を0.015%/℃以下、さらに温度240℃におけるDTG値を0.020%/℃以下とするには、後述するメタクリル系樹脂組成物の製造方法に記載するように、後述する単量体組成物と、重合開始剤として後述するパーオキシエステル系化合物(P-1)を用いて、製造条件を調整することにより制御できる。
【0018】
さらに、本発明のメタクリル系樹脂組成物は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で測定した、前記メタクリル酸メチル重合体の重量平均分子量(Mw)の下限は300,000以上である。
重量平均分子量(Mw)が300,000以上であれば、メタクリル系樹脂組成物の加熱発泡限界温度が十分に高くなり、加熱発泡を抑制できる。また、メタクリル系樹脂組成物の耐溶剤性が良好となる。一方、重量平均分子量(Mw)の上限は、特に制限されるものではないが、低温成形性を良好に維持できる観点から、1,000,000以下とすることができる。
なお、重量平均分子量は、標準試料として標準ポリスチレンを用い、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーを用いて測定した値とする。
重量平均分子量(Mw)を300,000以上とするには、後述するメタクリル系樹脂組成物の製造方法に記載するように、重合温度、重合時間、重合開始剤として使用するパーオキシエステル系化合物(P-1)の添加量、連載移動剤の種類や添加量等を調整することにより制御できる。
【0019】
さらに、本発明のメタクリル系樹脂組成物においては、前記メタクリル酸メチル重合体が、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で測定した重量平均分子量(Mw)100,000以下の成分を、GPC分子量分布曲線におけるピーク面積において21%以上35%以下含む。
Mw100,000以下の成分のGPC分子量分布曲線における面積割合の下限が21%以上であれば、メタクリル系樹脂組成物の低温成形性が良好となる。一方、前記面積割合の上限が35%以下であれば、メタクリル系樹脂組成物の耐溶剤性に優れる。
Mw100,000以の成分のGPC分子量分布曲線における面積割合を21%以上35%以下とするには、後述するメタクリル系樹脂組成物の製造方法に記載するように、重合温度、重合時間、重合開始剤として使用するパーオキシエステル系化合物(P-1)の添加量を調整することにより制御できる。
【0020】
本発明のメタクリル系樹脂組成物は、実質的にメタクリル酸メチル重合体からなる。ここで「実質的にメタクリル酸メチル重合体からなる」とは、メタクリル系樹脂組成物中のメタクリル酸メチル重合体の含有割合が、メタクリル系樹脂組成物の総質量に対して、99.95質量%以上であることを意味する。
メタクリル系樹脂組成物中のメタクリル酸メチル重合体の含有割合が99.95質量%以上であれば、メタクリル系樹脂組成物の透明性、耐溶剤性及び加熱発泡抑性が良好となる。
【0021】
本発明におけるメタクリル系樹脂組成物には、本発明のメタクリル系樹脂組成物の透明性、加熱発泡抑性、低温成形性及び耐溶剤性を損なわない範囲内で、例えば、紫外線吸収剤、酸化防止剤等の安定剤、帯電防止剤、鋳型との剥離を容易にする離型剤等の公知の添加剤を配合することができる。
【0022】
<メタクリル酸メチル重合体>
メタクリル酸メチル重合体は、メタクリル酸メチル(MMA)由来の繰り返し単位(以下、「MMA単位」という。)を含む重合体であり、本発明のメタクリル系樹脂組成物の構成成分である。
メタクリル酸メチル重合体中の、MMA単位の含有割合の下限は、メタクリル系樹脂組成物の透明性、耐溶剤性及び加熱発泡抑性が良好となる観点から、該メタクリル酸メチル重合体の総質量100質量%に対して、70質量%以上が好ましい。90質量%以上が好ましく、95質量%以上がさらに好ましく、98.5質量%以上がより好ましい。MMA単位の含有割合の上限は、特に制限されるものではなく、100質量%であっても良い。
メタクリル酸メチル重合体は、本発明のメタクリル系樹脂組成物の透明性、加熱発泡抑性、低温成形性及び耐溶剤性を損なわない範囲内で、MMAと共重合可能な単量体(以下、「その他単量体」という。)由来の繰り返し単位を含むことができる。
【0023】
<その他単量体>
上述した「その他単量体」は、メタクリル酸メチル重合体の構成成分として用いることができる。
その他単量体としては、MMAと共重合性を有する単量体であれば、特に制限されるものではなく、メタクリル酸エチル、メタクリル酸ブチル、メタクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸フェニル、メタクリル酸2-エチルヘキシル等のMMA以外のメタクリル酸アルキル類;アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、アクリル酸2-エチルヘキシル等のアクリル酸アルキル類;メタクリル酸、アクリル酸等の不飽和酸類;スチレン、α-メチルスチレン等の芳香族ビニル化合物;アクリロニトリル、メタクリロニトリル等のシアン化ビニル化合物;無水マレイン酸;及びフェニルマレイミド、シクロヘキシルマレイミド等のマレイミド系ビニル化合物が挙げられる。これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0024】
<メタクリル系樹脂組成物の製造方法>
本発明のメタクリル系樹脂組成物は、後述する単量体組成物と、重合開始剤として下記式(1)で示されるパーオキシエステル系化合物(P-1)とから実質的に構成される重合性原料を加熱して、重合することにより製造できる。
【化2】
[式(1)中、Rは炭素数1~20の炭化水素基又は炭素数1~20のアルコキシ基である。]
【0025】
重合性原料を、重合する方法する方法は特に限定されるものではなく、例えば、板状の形態を有するメタクリル系樹脂組成物を得る場合、対向する2枚のガラス板または金属板(SUS板)と、その外縁に配置された軟質樹脂チューブ等のガスケットとから形成された空間を鋳型として、重合性原料又は重合性原料の一部を重合したアクリルシラップを前記鋳型に注入し、加熱・重合処理することによって重合を完結させ、鋳型から板状のメタクリル系樹脂組成物を取り出すセルキャスト法が挙げられる。或いは又、同一方向に同一速度で所定の間隔をもって対向して走行する2枚のステンレス製エンドレスベルトと軟質樹脂チューブ等のガスケットとで形成された空間を鋳型として、前記エンドレスベルトの一端から連続的に重合性原料又は重合性原料の一部を重合したアクリルシラップを前記鋳型の注入し、加熱・重合処理することによって重合を完結させ、エンドレスベルトの他端から連続的に板状のメタクリル系樹脂組成物を取り出す連続キャスト法が挙げられる。なお、アクリルシラップの製造方法は後述する。
鋳型の空隙の間隔を、ガスケットの太さ(直径)で適宜調して、所望の厚さの板状のメタクリル系樹脂組成物を得ることができる。板状のメタクリル系樹脂組成物の厚さは、通常は1~30mmの範囲に設定される。
【0026】
<アクリルシラップの製造方法>
前記アクリルシラップは、重合性原料の一部を重合したものであり、アクリルシラップ中の重合体含有率は15~60質量%の範囲である。
重合性原料をアクリルシラップの形態にして鋳型に供給することで、重合時間を短縮でき、生産性向上を図ることができるので好ましい。また、粘性を有するため作業性や操作性が良好となる。
アクリルシラップを得る方法としては、生産性の点で、ラジカル重合法を用いた塊状重合法が好適である。例えば、重合性原料に、ラジカル重合開始剤として前記化合物(P-1)を添加して、その一部を重合する方法を挙げることができる。
化合物(P-1)の添加量は、本発明のメタクリル系樹脂組成物の性能を損なわない範囲内で、目的に応じて適宜決めることができる。
アクリルシラップを製造するときの重合温度は、通常、使用するラジカル重合開始剤の種類に応じて選択できるが、通常は10~150℃の範囲で適宜設定される。
【0027】
<重合性原料>
重合性原料は、本発明のメタクリル系樹脂組成物の原料である。
本発明において、重合性原料は、後述する単量体組成物と前記化合物(P-1)とから実質的に構成される。
ここで「単量体組成物と化合物(P-1)とから実質的に構成される」とは、重合性原料中の単量体と重合開始剤である化合物(P-1)の合計含有割合が、重合性原料の総質量に対して、99.95質量%以上であることを意味する。重合性原料中の単量体組成物と化合物(P-1)の合計含有割合が99.95質量%以上であれば、得られたメタクリル系樹脂組成物の透明性、耐溶剤性及び加熱発泡抑性が良好となる。
また、重合性原料には、メタクリル酸メチル重合体の重量平均分子量(Mw)を調整するため、公知のメルカプタン化合物を連載移動剤として配合することができる。
【0028】
重合性原料には、本発明のメタクリル系樹脂組成物の透明性、加熱発泡抑性、低温成形性及び耐溶剤性を損なわない範囲内で、例えば、紫外線吸収剤、酸化防止剤等の安定剤、帯電防止剤、鋳型との剥離を容易にする離型剤等の公知の添加剤を配合することができる。
【0029】
<単量体組成物>
単量体組成物は、本発明の重合性原料の原料成分である。
本発明の単量体組成物は、MMAを含有する単量体組成物である。単量体組成物中の、MMAの含有割合の下限は、得られるメタクリル系樹脂組成物の透明性、耐溶剤性及び加熱発泡抑性が良好となる観点から、該単量体組成物の総質量100質量%に対して、70質量%以上である。90質量%以上がより好ましく、95質量%以上がさらに好ましく、98.5質量%以上がより好ましい。MMAの含有割合の上限は、特に制限されるものではなく、100質量%であっても良い。
単量体組成物は、本発明のメタクリル系樹脂組成物の透明性、加熱発泡抑性、低温成形性及び耐溶剤性を損なわない範囲内で、MMAと共重合可能な単量体を含むことができる。MMAと共重合可能な単量体としては、上述した「その他単量体」と同様の単量体を用いることができる。
【0030】
<パーオキシエステル系化合物(P-1)>
パーオキシエステル系化合物(P-1)(以下、「化合物(P-1)」という。)は、本発明の重合性原料の原料成分である。
本発明において、化合物(P-1)は、下記式(1)で示されるパーオキシエステル系化合物である。
【化3】
[式(1)中、Rは炭素数1~20の炭化水素基又は炭素数1~20のアルコキシ基である。]
は炭素数1~20の炭化水素基又は炭素数1~20のアルコキシ基であるが、直鎖状、分岐状又は環状であってもよい。また、Rは飽和又は不飽和であってもよい。炭化水素基としては、例えば、脂肪族基及びアリール基が挙げられる。また、Rはハロゲン基、水酸基、アリール基、カルボキシル基、カルボニル基及びエステル基から選ばれる少なくとも1種を置換基として有していてもよい。
【0031】
化合物(P-1)は、発生するラジカル種がβ開裂反応しにくいので、高い水素引き抜き能を示す傾向にある。化合物(P-1)を重合開始剤として用いることにより、化合物(P-1)は単量体又は重合途中の共重合体から水素を引き抜き、そこを起点とするラジカル重合反応を誘起すると考えられる。即ち、化合物(P-1)は、少ない添加量で高い重合開始効率が得られるので、重合開始剤由来の分解物の生成量を低減することができ、加熱発泡抑性のより優れたメタクリル系樹脂組成物を、高い生産性で安定に製造できる。この効果は、セルキャスト法又は連続キャスト法による塊状重合を用いる場合、特に顕著に得られる。
【0032】
尚、水素引き抜き能とは、有機過酸化物から生成するラジカル種が関与する反応の一つである水素引き抜き反応の生じ易さを示す指標である。尚、有機過酸化物の水素引き抜き能は、各種文献(例えば、Polymer Journal,29,366(1997),Polymer Journal,29,940(1997)及びPolymer Journal,29,733(1997)等)に記載の方法により測定できる。
一般的に、水素引き抜き能の高い有機過酸化物を用いたビニル単量体の重合においては、生成するラジカル種がビニル単量体への付加反応を経るビニル単量体の重合反応の他に、溶剤、添加剤等の水素を与え易い物質からの水素引き抜き反応が起き易い。従って、メタクリル系樹脂組成物を製造する際の重合方法は、得られるメタクリル系樹脂組成物の透明性及び加熱発泡抑制が良くなる傾向にある観点から、水素が引き抜かれ易いトルエン等の溶剤を含まない塊状重合法が好ましい。
【0033】
化合物(P-1)の具体例としては、例えば、t-ブチルパーオキシピバレート(BPP)(10時間半減期温度:55℃)、t-ブチルパーオキシネオヘプタノエート(PBNHP)(10時間半減期温度:51℃)、t-ブチルパーオキシネオデカノエート(PBND)(10時間半減期温度:46℃)、t-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート(10時間半減期温度:72℃)、t-ブチルパーオキシラウレート(10時間半減期温度:98℃)、t-ブチルパーオキシアセテート(10時間半減期温度:102℃)、t-ブチルパーオキシイソブチレート(10時間半減期温度:82℃)、t-ブチルパーオキシイソノナノエート(10時間半減期温度:102℃)、t-ブチルパーオキシベンゾエート(10時間半減期温度:104℃)、t-ブチルパーオキシ-3,5,5-トリメチルヘキサノエート(10時間半減期温度:97℃)、t-ブチルパーオキシマレイン酸(10時間半減期温度:96℃)、t-ブチルパーオキシイソプロピルモノカーボネート(10時間半減期温度:99℃)、t-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキシルモノカーボネート(10時間半減期温度:99℃)、ジ-t-ブチルパーオキシヘキサヒドロテレフタレート(10時間半減期温度:83℃)、1,6-ジ-(t-ブチルパーオキシカルボニルオキシ)ヘキサン(10時間半減期温度:97℃)、t-ブチルパーオキシイソナノエート(10時間半減期温度:102℃)、t-ブチルパーオキシイソプロピルカーボネート(10時間半減期温度:99℃)、t-ブチルパーオキシ2-エチルヘキシルカーボネート(10時間半減期温度:100℃)等が挙げられる。これらの化合物(P-1)は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
これらの中でも、化合物(P-1)としては、得られたメタクリル系樹脂組成物の加熱発泡抑性に優れる観点から、t-ブチルパーオキシピバレート(BPP)、t-ブチルパーオキシネオヘプタノエート(PBNHP)、t-ブチルパーオキシネオデカノエート(PBND)、t-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート、t-ブチルパーオキシラウレート、t-ブチルパーオキシアセテート、t-ブチルパーオキシイソブチレート及びt-ブチルパーオキシイソノナノエートが好ましく、t-ブチルパーオキシピバレート(PBPV)、t-ブチルパーオキシネオヘプタノエート(PBNHP)及びt-ブチルパーオキシネオデカノエート(PBND)がより好ましい。
【0034】
また、化合物(P-1)の10時間半減期温度は、特に限定されるものではないが、本単量体組成物の重合(特にセルキャスト法や連続キャスト法による塊状重合)を考慮すると、40~80℃が好ましい。化合物(P-1)の10時間半減期温度が40℃以上の場合に、(メタ)アクリル樹脂成形体の生産性の低下や残存モノマーによるメタクリル系樹脂組成物の透明性及び加熱発泡抑性等の品質低下が抑えられる傾向にあり、本開始剤の10時間半減期温度が80℃以下の場合に、(メタ)アクリル樹脂成形体を得る際の重合発泡が抑えられる傾向にある。
前記重合性原料に含まれる、化合物(P-1)の含有量は、該重合性原料の総質量100質量%に対して、0.01質量%以上0.6質量%以下であることが好ましい。化合物(P-1)の含有量の下限は、得られるメタクリル系樹脂組成物の低温成形性と加熱発泡抑性が良好となる観点から、0.01質量%以上が好ましい。0.23質量%以上がより好ましく、0.31質量%以上がさらに好ましい。一方、化合物(P-1)の含有量の上限は、重合開始剤由来の分解物の生成を抑制し、さらに、得られるメタクリル系樹脂組成物の重量平均分子量の低下を抑制して、メタクリル系樹脂組成物の加熱発泡抑性を良好に維持できる観点から、0.6質量%以下が好ましい。0.45質量%以下がより好ましい
【0035】
化合物(P-1)として例示した上記化合物の中でも、下記式(2)で示されるパーオキシエステル系化合物(P-2)(以下、「化合物(P-2)」という。)は、少ない添加量で高い重合開始効率が得られるので、重合開始剤由来の分解物の生成量を低減することができ、加熱発泡抑性のより優れたメタクリル系樹脂組成物を、高い生産性で安定に製造できるので、さらに好ましい。
【化4】
化合物(P-2)は、t-ブチルパーオキシピバレート(BPP)の化合物名で知られている。
【0036】
前記重合性原料に含まれる、化合物(P-2)の含有量は、該重合性原料の総質量100質量%に対して、0.23質量%以上0.45質量%以下であることが好ましい。化合物(P-2)の含有量の下限は、得られるメタクリル系樹脂組成物の低温成形性と加熱発泡抑性が良好となる観点から、0.23質量%以上が好ましい。0.31質量%以上がより好ましい。一方、化合物(P-2)の含有量の上限は、重合開始剤由来の分解物の生成を抑制し、さらに、得られるメタクリル系樹脂組成物の重量平均分子量の低下を抑制して、メタクリル系樹脂組成物の加熱発泡抑性を良好に維持できる観点から、0.45質量%以下が好ましい。
【0037】
或いは又、化合物(P-1)として例示した上記化合物の中でも、下記式(3)で示されるパーオキシエステル系化合物(P-3)(以下、「化合物(P-3)」という。)は、少ない添加量で高い重合開始効率が得られるので、重合開始剤由来の分解物の生成量を低減することができ、加熱発泡抑性のより優れたメタクリル系樹脂組成物を、高い生産性で安定に製造できるので、さらに好ましい。
【化5】
化合物(P-3)は、t-ブチルパーオキシネオデカノエート(BPND)の化合物名で知られている。
【0038】
前記重合性原料に含まれる、化合物(P-3)の含有量は、該重合性原料の総質量100質量%に対して、0.01質量%以上0.6質量%以下であることが好ましい。化合物(P-3)の含有量の下限は、得られるメタクリル系樹脂組成物の低温成形性と加熱発泡抑性が良好となる観点から、0.01質量%以上が好ましい。0.31質量%以上がより好ましい。一方、化合物(P-3)の含有量の上限は、重合開始剤由来の分解物の生成を抑制し、さらに、得られるメタクリル系樹脂組成物の重量平均分子量の低下を抑制して、メタクリル系樹脂組成物の加熱発泡抑性を良好に維持できる観点から、0.6質量%以下が好ましい。0.45質量%以下がより好ましい。
【実施例
【0039】
以下に本発明を、実施例を用いて説明する。以下において、「%」はそれぞれ「質量%」を示す。
【0040】
また、実施例及び比較例で使用した化合物の略号は以下の通りである。
MMA:メタクリル酸メチル(三菱ケミカル(株)製)
nBA:アクリル酸n-ブチル(三菱ケミカル(株)製)
nDM:n-ドデシルメルカプタン(花王(株)製)
BPP:t-ブチルパーオキシピバレート(製品名:パーブチルPV、日油(株)製)
BPND:t-ブチルパーオキシネオデカノエート(製品名:パーブチルND、日油(株)製)
HPP:t-ヘキシルパーオキシピバレート(製品名:パーヘキシルPV、日油(株)製)
AIBN:2,2´-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)(製品名:V-65、和光純薬工業(株)製)
EMA:エチレン-アクリル酸メチル共重合体(製品名:レクスパールEMA EB050S、日本ポリエチレン(株)製)
シラップ(1):製造例1で作製した単量体組成物
シラップ(2):製造例2で作製した単量体組成物
シラップ(3):製造例3で作製した単量体組成物
シラップ(4):製造例4で作製した単量体組成物
シラップ(5):製造例5で作製した単量体組成物
【0041】
<評価方法>
実施例及び比較例における評価は以下の方法により実施した。
(1)重合ピーク時間
鋳込み重合時の重合硬化に要する時間を評価するために、SUS板表面に熱電対をアルミテープで貼り付け、重合発熱がピークに達した時間を測定した。
【0042】
(2)重量平均分子量および分子量分布
得られたメタクリル系樹脂組成物の粉砕物10mgを、10mlのテトラヒドロフランに溶解し、0.5μmメンブレンフィルターで濾過して、試料溶液を得た。得られた試料溶液について、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(機種名「HLC-8320 GPC Eco SEC」、東ソー(株)製)を用い、重量平均分子量および分子量分布を測定した。分離カラムとして「TSKgel SuperHZM-H」(商品名、東ソー(株)製、内径4.6mm×長さ15cm)を2本直列にしたもの、溶媒としてテトラヒドロフラン、検出器として示差屈折計、標準試料として標準ポリスチレンを用い、流量0.6ml/分、測定温度40℃、注入量0.1mlの条件とした。
【0043】
(3)微分熱重量分析測定(DTG値)
得られたメタクリル系樹脂組成物の粉砕物10mgを示差熱熱重量同時測定装置(セイコーインスツル(株)製、型式:TG/DTA6200)を用いて、次の手順で行った。窒素を200mL/minの流量で流しながら、10℃/minの昇温速度で60~550℃の温度域における熱重量減少曲線を測定した。得られた熱重量減少曲線を、時間で微分して、微分熱重量減少曲線を得た。微分熱重量減少曲線の220℃及び240℃における微分熱重量変化率(以下、「DTG値」という)を求めた。
【0044】
(4)加熱発泡抑性
得られたメタクリル系樹脂組成物から100mm×100mmの樹脂板を切り出して、これを評価用の試験片とした。得られた試験片を、100℃に設定した熱風乾燥機((株)サタケセーフベンドライヤ製、型式:N50-S7)内に2日間放置して乾燥した。乾燥後の試験片を、熱風乾燥機内にクリップで吊るし、試験片中の発泡の有無を確認した。熱風乾燥機の設定温度は150℃から5℃刻みで215℃までとした。最初の試験片を150℃で20分加熱して、発泡が観察されなければ、新たな試験片を用いて、5℃高い設定温度(155℃)で20分間加熱して、発泡の有無を観察した。このように発泡が観察されなければ加熱温度を5℃ずつ上げながら評価を行い、全く発泡の見られない最大加熱温度(以下、「炉加熱発泡限界温度」という)を求めた。
さらに、以下の基準を用いて判定した。
○:炉加熱発泡限界温度が185℃以上である。
×:炉加熱発泡限界温度が185℃未満である。
【0045】
(5)低温成形性
低温成形性の評価は、研究開発用圧空真空成型機((株)浅野研究所製、型式:EP-3361-A)を使用して次のように行った。得られた板状のメタクリル系樹脂組成物から180mm×180mmの樹脂板を切り出して、これを評価用の試験片とした。80℃に調温した円柱状の金型(角部の角度:90度)に対し、赤外線ヒーターで160℃に加熱したメタクリル系樹脂板を押し当てながら真空成型を行い、ハット状の成形体を得た。得られたハット状成形体について、前記金型の角部(90度)に対応する部分の曲率半径R(単位:mm)を測定した。
さらに、以下の基準を用いて判定した。
○:角部の曲率半径Rが12.0mm以下。
△:角部の曲率半径Rが12.0mmを超えて15.0mm以下。
×:角部の曲率半径Rが15mm.0を超えた。
【0046】
(6)耐溶剤性
耐溶剤性の評価は、幅25mm、長さ180mmの短冊状試験片を用いてカンチレバー法による試験を行った。すなわち、前記短冊状試験片をフラット状態に置き、その一端から25mmと60mm離れた点を支点とし、長さ方向に直交する線状の支点で支え置き、他端から20mm離れた点に230kgf/cmの曲げ応力をかけながら、一端から60mm離れた曲げ伸び応力が集中している試験片部位に、イソプロピルアルコール(以下、「IPA」という)を注射器で滴下して、幅10mm、長さ20mmのPETフィルムで蓋をした。
IPA滴下直後からクラックが初めて発生するまでの時間を測定した。試験片5点を用いて、各試験片につき1回測定を行い、その平均値を輝度とした。さらに、以下の基準を用いて判定した。
○:クラック発生時間が20秒以上である。
×:クラック発生時間が20秒未満である。
(7)ヘーズ値
透明性の指標として、ヘーズメーター(機種名:NDH4000、日本電色工業(株)製)を用い、JIS K 7136に準拠して、D65光源を使用して、試験片(厚さ:3mm)のヘーズ値(%)を測定した。試験片3点を用いて、各試験片につき1回測定を行い、その平均値をヘーズ値(H)とした。さらに、以下の基準を用いて判定した。
(判定基準)
○ :ヘーズ値が0.5%以下。
× :ヘーズ値が0.5%を超えた。
【0047】
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0048】
[製造例1]
アクリルシラップの製造:メタクリル酸メチル100質量部とAIBN0.05質量部からなる単量体組成物を重合槽に供給し、均一になるように十分撹拌しながら、窒素ガスでバブリングした後、加熱を開始した。次いで、重合槽の単量体組成物の温度を100℃に維持して10分間重合を行い、重合体含有率20質量%、粘度1.5Pa・sのシラップ(1)を得た。
[製造例2]
アクリルシラップの製造:MMA96.0質量部、nBA4.0質量部及びAIBN0.05質量部からなる単量体組成物を重合槽に供給し、均一になるように十分撹拌しながら、窒素ガスでバブリングした後、加熱を開始した。次いで、重合槽の単量体組成物の温度を100℃に維持して10分間重合を行い、重合体含有率20質量%、粘度1.2Pa・sのシラップ(2)を得た。
[製造例3]
アクリルシラップの製造:MMA98.0質量部、nBA20質量部及びAIBN0.05質量部からなる単量体組成物を重合槽に供給し、均一になるように十分撹拌しながら、窒素ガスでバブリングした後、加熱を開始した。次いで、重合槽の単量体組成物の温度を100℃に維持して10分間重合を行い、重合体含有率20質量%、粘度1.3Pa・sのシラップ(3)を得た。
[製造例4]
アクリルシラップの製造:MMA100質量部、AIBN0.05質量部、及び、連鎖移動剤としてnDM0.06質量部からなる単量体組成物を重合槽に供給し、均一になるように十分撹拌しながら、窒素ガスでバブリングした後、加熱を開始した。次いで、重合槽の単量体組成物の温度を100℃に維持して10分間重合を行い、重合体含有率24質量%、粘度1.3Pa・sのシラップ(4)を得た。
[製造例5]
アクリルシラップの製造:MMA100質量部、EMA0.05質量部からなる単量体組成物を重合槽に供給し、均一になるように十分撹拌しながら、窒素ガスでバブリングした後、加熱を開始した。液温が85℃になった時点で、重合開始剤としてHPP0.03部を添加し、重合槽の単量体組成物の温度を100℃に維持して12分間重合を行い、重合体含有率21質量%、粘度1.5Pa・sのシラップ(5)を得た。
【0049】
[実施例1]
得られたアクリルシラップ100質量部に対して、BPPを0.43質量部添加し、次いで真空中で脱気した。対向して配置した2枚のSUS板の端部に、軟質樹脂製ガスケットを設置して、鋳型を作製した。次いで、上記の鋳型の中にアクリルシラップを流し込んだ後、軟質樹脂製ガスケットで封止した。続いて、前記鋳型を、1段階目の重合(1st重合)として80℃の温水シャワーで21.4分間加熱した後、次いで2段目の重合(2nd重合)として126℃の熱風で11分間加熱して、アクリルシラップを重合させた。その後、室温まで冷却し、SUS板を取り除いて厚さ3mmの板状のメタクリル系樹脂組成物を得た。得られた板状のメタクリル系樹脂組成物の評価結果を表1に示す。
【0050】
[実施例2、3]
1st重合の重合温度(温水シャワーの温度)を表1記載のとおりに変更した以外は、実施例1と同様の方法で板状のメタクリル系樹脂組成物を製造した。評価結果を表1に示す。
【0051】
[実施例4、5]
重合開始剤の種類と添加量を表1記載のとおりに変更した以外は、実施例1と同様の方法で板状のメタクリル系樹脂組成物を製造した。重合性原料中の単量体と重合開始剤の合計含有割合は100質量%であった。評価結果を表1に示す。
【0052】
[比較例1~8]
単量体組成物(シラップ)の種類、重合開始剤の種類又は添加量を表1記載のとおりに変更した以外は、実施例1と同様の方法で板状のメタクリル系樹脂組成物を製造した。評価結果を表1に示す。
[比較例9]
単量体組成物(シラップ)の種類、重合開始剤の添加量を表1記載のとおりに変更した以外は、実施例1と同様の方法で板状のメタクリル系樹脂組成物を製造した。重合性原料中の単量体と重合開始剤の合計含有割合は99.62質量%であった。評価結果を表1に示す。











【0053】
【表1】
【0054】
実施例1~5で得られた板状のメタクリル系樹脂組成物は、透明性、加熱発泡抑性、低温成形性及び耐溶剤性が良好であった。
【0055】
比較例1で得られたメタクリル系樹脂組成物は、パーオキシエステル系化合物(P-1)の添加量が少ないため、メタクリル酸メチル重合体のGPC分子量分布曲線における重量平均分子量(Mw)100,000以下の成分の含有割合が低く、低温成形性が不十分であった。
【0056】
比較例2で得られたメタクリル系樹脂組成物は、製造時にパーオキシエステル系化合物(P-1)の添加量が過多のため、メタクリル酸メチル重合体の重量平均分子量(Mw)が300,000より小さく、加熱発泡抑性が不十分であった。
【0057】
比較例3で得られたメタクリル系樹脂組成物は、製造時にパーオキシエステル系化合物(P-1)の添加量が過多のため、重量平均分子量(Mw)が300,000より小さく、220℃におけるDTG値が0.015%/℃より大きく、加熱発泡抑性が不十分であった。
【0058】
比較例4で得られたメタクリル系樹脂板は、重合開始剤がパーオキシエステル系化合物(P-1)とは異なる構造のため、メタクリル酸メチル重合体のGPC分子量分布曲線における重量平均分子量(Mw)100,000以下の成分の含有割合が低く、低温成形性が不十分であった。
【0059】
比較例5で得られたメタクリル系樹脂組成物は、重合開始剤がパーオキシエステル系化合物(P-1)とは異なる構造のため、220℃におけるDTG値が0.015%/℃より大きく、加熱発泡抑性が不十分であった。
【0060】
比較例6,7で得られたメタクリル系樹脂組成物は、重合開始剤がパーオキシエステル系化合物(P-1)とは異なる構造のため、加熱発泡抑性が不十分であった。さらに、単量体組成物中のメタクリル酸メチルの含有量が98.5質量%より少ないため、安定に熱重量減少曲線を得ることができなかったためDTG値を算出できず、また、得られたメタクリル系樹脂組成物の耐溶剤性が不十分であった。
【0061】
比較例8で得られたメタクリル系樹脂組成物は、重合開始剤がパーオキシエステル系化合物(P-1)とは異なる構造のため、加熱発泡抑性が不十分であった。さらに、連鎖移動剤(nDM)を使用したため、安定に熱重量減少曲線を得ることができなかったためDTG値を算出できず、メタクリル酸メチル重合体の重量平均分子量(Mw)が300,000より小さくなり、得られたメタクリル系樹脂組成物の耐溶剤性が不十分であった。
【0062】
比較例9で得られたメタクリル系樹脂組成物は、重合性原料中の単量体と重合開始剤の合計含有割合が低いため、透明性が不十分であった。
【産業上の利用可能性】
【0063】
本発明のメタクリル系樹脂組成物は、透明性、加熱発泡抑性、低温成形性及び耐溶剤性に優れているので、照明材料、光学材料、看板、ディスプレイ、装飾部材、建築部材等の用途に好適である。