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特許7139720造形物の製造方法、及び造形物の製造装置
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-12
(45)【発行日】2022-09-21
(54)【発明の名称】造形物の製造方法、及び造形物の製造装置
(51)【国際特許分類】
   B29C 64/165 20170101AFI20220913BHJP
   B33Y 10/00 20150101ALI20220913BHJP
   B33Y 30/00 20150101ALI20220913BHJP
   B29C 64/291 20170101ALI20220913BHJP
   B22F 10/16 20210101ALI20220913BHJP
   B22F 10/85 20210101ALI20220913BHJP
   B28B 1/30 20060101ALI20220913BHJP
   B22F 12/40 20210101ALI20220913BHJP
【FI】
B29C64/165
B33Y10/00
B33Y30/00
B29C64/291
B22F10/16
B22F10/85
B28B1/30
B22F12/40
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2018121479
(22)【出願日】2018-06-27
(65)【公開番号】P2020001231
(43)【公開日】2020-01-09
【審査請求日】2021-02-08
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000006747
【氏名又は名称】株式会社リコー
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100107515
【弁理士】
【氏名又は名称】廣田 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】朴 素暎
【審査官】▲高▼橋 理絵
(56)【参考文献】
【文献】特表2014-527481(JP,A)
【文献】特表2018-502750(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 64/00-64/40
B22F 10/00-12/90
B33Y 10/00-99/00
B28B 1/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(i)粉体層を形成する工程と、
(ii)放射線吸収剤を含んだ液滴を前記粉体層に塗布する工程と、
(iii)前記粉体層に放射エネルギーを付与する工程と、
(iv)前記(i)から(iii)の工程を繰り返す工程と、を含み、
前記(ii)の工程において、前記粉体層の表面に前記液滴を塗布することにより形成される造形領域を複数の区画に分画し、その分画した分画領域のうち一部の特定分画領域に対し、前記液滴を複数回塗布し、
前記(iii)の工程において、前記特定分画領域が含まれる範囲に付与される放射強度が、前記特定分画領域以外の他の分画領域に付与される放射強度より高くなるように、放射エネルギーを付与し、
前記特定分画領域が、前記粉体層の表面における非造形領域に隣接した前記造形領域の縁部領域であることを特徴とする造形物の製造方法。
【請求項2】
前記(ii)の工程において、前記特定分画領域に塗布する前記液滴の塗布回数が、前記他の分画領域に塗布する前記液滴の塗布回数より多い、請求項1に記載の造形物の製造方法。
【請求項3】
前記(ii)の工程において、前記液滴を前記粉体層に滴下することにより前記液滴を前記粉体層に塗布する場合、前記粉体層の厚みをhとし、前記液滴を滴下する際の隣接する液滴間の距離をLとしたとき、h<Lとなるように前記液滴を前記粉体層に滴下する、請求項1から2のいずれかに記載の造形物の製造方法。
【請求項4】
前記(ii)の工程において、前記特定分画領域に塗布する前記液滴の液量が、前記他の分画領域に塗布する前記液滴の液量より多い、請求項1から3のいずれかに記載の造形物の製造方法。
【請求項5】
前記(ii)の工程において、前記特定分画領域に塗布する前記液滴中の放射線吸収剤の濃度が、前記他の分画領域に塗布する前記液滴中の放射線吸収剤の濃度より高い、請求項1から4のいずれかに記載の造形物の製造方法。
【請求項6】
前記(ii)の工程において、前記特定分画領域に塗布する前記液滴中の放射線吸収剤と、前記他の分画領域に塗布する前記液滴中の放射線吸収剤の種類が異なる場合、前記特定分画領域に塗布する前記液滴中の放射線吸収剤の放射線吸収効率が、前記他の分画領域に塗布する前記液滴中の放射線吸収剤の放射線吸収効率より高い、請求項1から5のいずれかに記載の造形物の製造方法。
【請求項7】
前記特定分画領域が、前記粉体層の表面における非造形領域に隣接した前記造形領域の縁部領域である場合に、
前記(ii)の工程において、前記縁部領域のうち、分画された区画の中で2側面以上隣接する区画のない区画に対応する最縁部領域において、前記最縁部領域に前記液滴を塗布する条件が、前記最縁部領域以外の他の前記縁部領域に前記液滴を塗布する条件より、さらに放射線吸収効率が高くなるように、前記液滴が塗布される、請求項4から6のいずれかに記載の造形物の製造方法。
【請求項8】
(i)粉体層を形成する手段と、
(ii)放射線吸収剤を含んだ液滴を前記粉体層に塗布する手段と、
(iii)前記粉体層に放射エネルギーを付与する手段と、
(iv)前記(i)から(iii)の手段を繰り返す手段と、を有し、
前記(ii)の手段において、前記粉体層の表面に前記液滴を塗布することにより形成される造形領域を複数の区画に分画し、その分画した分画領域のうち一部の特定分画領域に対し、前記液滴を複数回塗布し、
前記(iii)の手段において、前記特定分画領域が含まれる範囲に付与される放射強度が、前記特定分画領域以外の他の分画領域に付与される放射強度より高くなるように、放射エネルギーを付与し、
前記特定分画領域が、前記粉体層の表面における非造形領域に隣接した前記造形領域の縁部領域であることを特徴とする造形物の製造装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、造形物の製造方法、及び造形物の製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
粉体積層による三次元造形方式(粉体積層造形方式ともいう)において、粉体層の面上の造形領域に放射線吸収剤を含んだインクを塗布し、放射エネルギーを加えて粉体を凝固させることで、造形を行う方式(HSS方式)が知られている。
【0003】
非造形領域に隣接する造形領域の縁部では、放射エネルギーを加えた際、熱が非造形領域に逃げるため、粉体の結合が十分に行われず、層状造形物である造形層の精度や強度の低下に繋がるという問題があった。
かかる問題を解決するため、造形領域の縁部のインク量を増やすという提案がなされている(例えば、特許文献1参照)。
特許文献1には、造形領域の縁部の精度や強度を向上する目的で、ヘッドから放射線吸収材料を含んだ液滴の塗布量を変更することで、放射線吸収量を変えることが記載されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、造形領域の縁部における造形層の精度及び強度を向上することができる造形物の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するための手段としての本発明の造形物の製造方法は、
(i)粉体層を形成する工程と、
(ii)放射線吸収剤を含んだ液滴を前記粉体層に塗布する工程と、
(iii)前記粉体層に放射エネルギーを付与する工程と、
(iv)前記(i)から(iii)の工程を繰り返す工程と、を含み、
前記(ii)の工程において、前記粉体層の表面に前記液滴を塗布することにより形成される造形領域を複数の区画に分画し、その分画した分画領域のうち一部の特定分画領域に対し、前記液滴を複数回塗布し、
前記(iii)の工程において、少なくとも前記特定分画領域が含まれる範囲に付与される放射強度が、変更可能である
ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0006】
本発明によると、造形領域の縁部における造形層の精度及び強度を向上することができる造形物の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1図1は、本発明の造形物の製造装置の一例を説明するための平面図である。
図2図2は、本発明の造形物の製造装置の一例を説明するための側面図である。
図3図3は、本発明の造形物の製造装置の一例を説明するための断面図である。
図4図4は、本発明の造形物の製造装置の一例における制御部の概要を説明するためのブロック図である。
図5A図5Aは、本発明の造形物の製造方法の一例を説明するための模式図である。
図5B図5Bは、本発明の造形物の製造方法の一例を説明するための模式図である。
図5C図5Cは、本発明の造形物の製造方法の一例を説明するための模式図である。
図5D図5Dは、本発明の造形物の製造方法の一例を説明するための模式図である。
図5E図5Eは、本発明の造形物の製造方法の一例を説明するための模式図である。
図5F図5Fは、本発明の造形物の製造方法の一例を説明するための模式図である。
図6図6は、造形用液体の浸透挙動の一例を説明するための模式図である。
図7A図7Aは、造形層の1層のうち造形領域を含む一部を切り出したイメージ図の一例を示す模式図である。
図7B図7Bは、造形層の1層のうち造形領域を含む一部を切り出したイメージ図の一例を示す模式図である。
図8図8は、造形層の1層のうち造形領域を含む一部を切り出したイメージ図の一例を示す模式図である。
図9図9は、造形用液体の浸透挙動の一例を説明するための模式図である。
図10図10は、粉体層の表面の造形領域を分割するパターンの一例を説明するための概略図である。
図11A図11Aは、液滴を複数回塗布する様子を説明するための模式図である。
図11B図11Bは、液滴を塗布する際の液滴の間隔について説明するための模式図である。
図12図12は、粉体層の表面の造形領域を分割し、縁部領域を分割するパターンの一例を説明するための概略図である。
図13図13は、本発明における、造形の様子を説明するための模式図である。
図14図14は、本発明における、放射エネルギーの付与効果を説明するための模式図である。
図15A図15Aは、本発明の造形物の製造方法の流れを説明するための模式図である。
図15B図15Bは、本発明の造形物の製造方法の流れを説明するための模式図である。
図15C図15Cは、本発明の造形物の製造方法の流れを説明するための模式図である。
図15D図15Dは、本発明の造形物の製造方法の流れを説明するための模式図である。
図15E図15Eは、本発明の造形物の製造方法の流れを説明するための模式図である。
図15F図15Fは、本発明の造形物の製造方法の流れを説明するための模式図である。
図15G図15Gは、本発明の造形物の製造方法の流れを説明するための模式図である。
図16図16は、粉体層の表面の造形領域を分割し、最縁部領域を分割するパターンの一例を説明するための概略図である。
図17A図17Aは、本実施形態における放射エネルギーの照射工程を説明するための概略図である。
図17B図17Bは、本実施形態における放射エネルギーの照射工程を説明するための概略図である。
図17C図17Cは、本実施形態における放射エネルギーの照射工程を説明するための概略図である。
図17D図17Dは、本実施形態における放射エネルギーの照射工程を説明するための概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明者は、造形物の製造方法において、造形領域の縁部における造形層の精度及び強度を向上させる方法について検討した。
その結果、上記特許文献1に記載の方法では、造形物の強度は確保できるが、インクが造形層を積層する際の積層面に平行な方向(XY方向)に広がるため、造形物の精度を向上させることはできないことがわかった。特許文献1に記載の方法は、造形領域の縁部における造形層の精度及び強度の両方を満足させるには十分とはいえなかった。
そこで、本発明者は、研究を重ねた結果、造形領域の縁部における造形層の精度及び強度の両方を向上させることができる方法として、以下の構成の造形物の製造方法が有効であることを見出した。
【0009】
(造形物の製造方法及び造形物の製造装置)
本発明は、粉体層の面上の造形領域に放射線吸収剤を含んだインクを塗布し、放射エネルギーを加えて粉体を凝固させることで、造形を行う方式(HSS方式)において、以下の特徴を有する。
本発明の造形物の製造方法は、
(i)粉体層を形成する工程と、
(ii)放射線吸収剤を含んだ液滴を前記粉体層に塗布する工程と、
(iii)前記粉体層に放射エネルギーを付与する工程と、
(iv)前記(i)から(iii)の工程を繰り返す工程と、を含み、
前記(ii)の工程において、前記粉体層の表面に前記液滴を塗布することにより形成される造形領域を複数の区画に分画し、その分画した分画領域のうち一部の特定分画領域に対し、前記液滴を複数回塗布し、
前記(iii)の工程において、少なくとも前記特定分画領域が含まれる範囲に付与される放射強度が、変更可能である
ことを特徴とする。
【0010】
また、本発明の造形物の製造装置は、
(i)粉体層を形成する手段と、
(ii)放射線吸収剤を含んだ液滴を前記粉体層に塗布する手段と、
(iii)前記粉体層に放射エネルギーを付与する手段と、
(iv)前記(i)から(iii)の手段を繰り返す手段と、を有し、
前記(ii)の手段において、前記粉体層の表面に前記液滴を塗布することにより形成される造形領域を複数の区画に分画し、その分画した分画領域のうち一部の特定分画領域に対し、前記液滴を複数回塗布し、
前記(iii)の手段において、少なくとも前記特定分画領域が含まれる範囲に付与される放射強度が、変更可能である
ことを特徴とする。
本発明の造形物の製造方法は、本発明の造形物の製造装置を用い実施することと、一方、本発明の造形物の製造装置は、本発明の造形物の製造方法を実施することと、同義である。したがって、本発明の造形物の製造方法の説明を通じて本発明の造形物の製造装置の詳細についても明らかにする。
【0011】
本発明の造形物の製造方法及び造形物の製造装置の一実施形態を図1図3を参照して説明する。図1は本実施形態の造形物の製造装置を模式的に説明するための平面図であり、図2は同装置を模式的に説明するための側面図である。また、図3は同装置を模式的に説明するための断面図であり、本実施形態の造形物の製造方法を模式的に説明するための図である。なお、図3は造形時の一時点を示している。
【0012】
本実施形態の造形物の製造装置は粉体積層造形装置であり、粉体(粉末)が結合された層状造形物である造形層30が形成される造形部1と、造形部1の層状に敷き詰められた粉体層31に対して造形用液体(造形液などとも称する)の液滴10を吐出して、液滴10を粉体層に塗布することにより、立体造形物を造形する造形ユニット5とを備えている。
【0013】
造形部1は、粉体槽11と、平坦化部材(リコータ)である回転体としての平坦化ローラ12などを備えている。なお、平坦化部材は、回転体に代えて、例えば板状部材(ブレード)とすることもできる。
【0014】
粉体槽11は、粉体20を供給する供給槽21と、造形層30が積層されて立体造形物が造形される造形槽22とを有している。造形前に供給槽21に粉体を供給する。
供給槽21の底部は供給ステージ23として鉛直方向(高さ方向)に昇降自在となっている。同様に、造形槽22の底部は造形ステージ24として鉛直方向(高さ方向)に昇降自在となっている。造形ステージ24上に造形層30が積層された立体造形物が造形される。
供給ステージ23と造形ステージ24は、モータによって矢印Z方向(高さ方向)に昇降される。
【0015】
平坦化ローラ12は、供給槽21の供給ステージ23上に供給された粉体20を造形槽22に供給し、平坦化手段である平坦化ローラ12によって供給した粉体の層の表面を均して平坦化して、粉体層31を形成する。この平坦化ローラ12は、造形ステージ24のステージ面(粉体20が積載される面)に沿って矢印Y方向に、ステージ面に対して相対的に往復移動可能に配置され、往復移動機構によって移動される。また、平坦化ローラ12は、モータ26(図4参照)によって回転駆動される。
【0016】
一方、造形ユニット5は、造形ステージ24上の粉体層31に液滴10を吐出する液体吐出ユニット50を備えている。液体吐出ユニット50は、キャリッジ51と、キャリッジ51に搭載された吐出手段である2つ(1又は3つ以上でもよい。)の液体吐出ヘッド(以下、単に「ヘッド」という。)52a、52bを備えている。
【0017】
キャリッジ51は、ガイド部材54及び55に移動可能に保持されている。ガイド部材54及び55は、両側の側板70に昇降可能に保持されている。このキャリッジ51は、X方向走査機構550を構成するX方向走査モータによってプーリ及びベルトを介して主走査方向である矢印X方向(以下、単に「X方向」という。他のY、Zについても同様とする。)に往復移動される。
【0018】
2つのヘッド52a、52b(以下、区別しないときは「ヘッド52」という。)は、液体を吐出する複数のノズルを配列したノズル列がそれぞれ複数列配置されている。ヘッド52ノズル列は、放射線吸収剤を含んだ造形液(インク)を吐出する。ヘッド52aやヘッド52bのノズル列は、シアン、マゼンタ、イエロー、ブラックなど色がついた造形液(放射線吸収剤含む造形液)をそれぞれ吐出することもできる。なお、ヘッド構成はこれに限るものではない。
これらの造形液の各々を収容した複数のタンク60がタンク装着部56に装着され、供給チューブなどを介してヘッド52a、52bに供給される。
【0019】
また、X方向の一方側には、液体吐出ユニット50のヘッド52の維持回復を行うメンテナンス機構61が配置されている。
【0020】
ヘッドの左右には放射エネルギー源80が備わる。なお、どちらか片方のみの設置でも可能である。ヘッド52から造形液(放射線吸収剤を含むインク)が吐出された領域上を放射エネルギー源80が駆動する。放射エネルギー源80はキャリッジ51内に備えることで、ヘッド52と駆動を共有することも可能だが、個別に駆動源を用意することで単体でのX方向間の駆動を可能とすることができる。
【0021】
メンテナンス機構61は、主にキャップ62とワイパ63で構成される。キャップ62をヘッド52のノズル面(ノズルが形成された面)に密着させ、ノズルから造形液を吸引する。ノズルに詰まった粉体の排出や高粘度化した造形液を排出するためである。その後、ノズルのメニスカス形成(ノズル内は負圧状態である)のため、ノズル面をワイパ63でワイピング(払拭)する。また、メンテナンス機構61は、造形液の吐出が行われない場合に、ヘッドのノズル面をキャップ62で覆い、粉体20がノズルに混入することや液滴10が乾燥することを防止する。
【0022】
造形ユニット5は、ベース部材7上に配置されたガイド部材71に移動可能に保持されたスライダ部72を有し、造形ユニット5全体がX方向と直交するY方向(副走査方向)に往復移動可能である。この造形ユニット5は、Y方向走査機構552を構成するY方向走査モータによって全体がY方向に往復移動される。
また、液体吐出ユニット50は、ガイド部材54、55とともに矢印Z方向に昇降可能に配置され、Z方向昇降機構551(図4参照)を構成するZ方向走査モータによってZ方向に昇降される。
【0023】
次に、造形部1の詳細について説明する。
造形部1は粉体槽11を有しており、粉体槽11は箱型形状をなし、供給槽21と造形槽22と、余剰粉体受け槽25の3つの上面が開放された槽とを備えている。供給槽21内部には供給ステージ23が、造形槽22内部には造形ステージ24がそれぞれ昇降可能に配置される。
【0024】
供給ステージ23の側面は供給槽21の内側面に接するように配置されている。造形ステージ24の側面は造形槽22の内側面に接するように配置されている。これらの供給ステージ23及び造形ステージ24の上面は水平に保たれている。
【0025】
平坦化ローラ12は、供給槽21から粉体20を造形槽22へと移送供給して、表面を均すことで平坦化して所定の厚みの層状の粉体である粉体層31を形成する。
この平坦化ローラ12は、造形槽22及び供給槽21の内寸(即ち、粉体が供される部分又は仕込まれている部分の幅)よりも長い棒状部材であり、往復移動機構によってステージ面に沿ってY方向(副走査方向)に往復移動される。
【0026】
また、平坦化ローラ12は、モータ26によって回転されながら、供給槽21の外側から供給槽21及び造形槽22の上方を通過するようにして水平移動する。これにより、粉体20が造形槽22上へと移送供給され、平坦化ローラ12が造形槽22上を通過しながら粉体20を平坦化することで粉体層31が形成される。
【0027】
また、図3にも示すように、平坦化ローラ12の周面に接触して、平坦化ローラ12に付着した粉体20を除去するための粉体除去部材である粉体除去板13が配置されている。粉体除去板13は、平坦化ローラ12の周面に接触した状態で、平坦化ローラ12とともに移動する。また、粉体除去板13は、平坦化ローラ12が平坦化を行うときの回転方向に回転するときのカウンタ方向でも、順方向でも配置可能である。
【0028】
なお、本実施形態では、造形部1の粉体槽11が供給槽21と造形槽22の二つの槽を有する構成としているが、造形槽22のみとして、造形槽22に粉体供給装置から粉体を供給して、平坦化手段で平坦化する構成とすることもできる。
【0029】
<制御部の概要及び造形の流れ>
次に、本実施形態の造形物の製造装置における制御部の概要について図4を参照して説明する。図4は同制御部のブロック図である。
【0030】
制御部500は、この装置全体の制御を司るCPU501と、CPU501に本実施形態の製造方法に係わる制御を含む立体造形動作の制御を実行させるためのプログラム、その他の固定データを格納するROM502と、造形データ等を一時格納するRAM503とを含む主制御部500Aを備えている。
【0031】
制御部500は、装置の電源が遮断されている間もデータを保持するための不揮発性メモリ(NVRAM)504を備えている。また、制御部500は、画像データに対する各種信号処理等を行う画像処理やその他装置全体を制御するための入出力信号を処理するASIC505を備えている。
【0032】
制御部500は、外部の造形データ作成装置600から造形データを受信するときに使用するデータ及び信号の送受を行うためのI/F506を備えている。
【0033】
なお、造形データ作成装置600は、最終形態の造形物(立体造形物)を各造形層ごとにスライスしたスライスデータ等の造形データを作成する装置であり、パーソナルコンピュータ等の情報処理装置で構成されている。
【0034】
制御部500は、各種センサの検知信号を取り込むためのI/O507を備えている。
制御部500は、液体吐出ユニット50のヘッド52を駆動制御するヘッド駆動制御部508を備えている。
【0035】
制御部500は、液体吐出ユニット50のキャリッジ51をX方向(主走査方向)に移動させるX方向走査機構550を構成するモータを駆動するモータ駆動部510と、液体吐出ユニット50のキャリッジ51をY方向(副走査方向)に移動させるY方向走査機構552を構成するモータを駆動するモータ駆動部512を備えている。
【0036】
制御部500は、液体吐出ユニット50のキャリッジ51をZ方向に移動(昇降)させるZ方向昇降機構551を構成するモータを駆動するモータ駆動部511を備えている。
なお、矢印Z方向への昇降は造形ユニット5全体を昇降させる構成とすることもできる。
【0037】
制御部500は、供給ステージ23を昇降させるモータ27を駆動するモータ駆動部513と、造形ステージ24を昇降させるモータ28を駆動するモータ駆動部514を備えている。
【0038】
制御部500は、平坦化ローラ12を移動させる往復移動機構25のモータ553を駆動するモータ駆動部515と、平坦化ローラ12を回転駆動するモータ26を駆動するモータ駆動部516を備えている。
【0039】
制御部500は、供給槽21に粉体20を供給する粉体供給装置を駆動する供給系駆動部と、液体吐出ユニット50のメンテナンス機構61を駆動するメンテナンス駆動部518を備えている。
【0040】
制御部500のI/O507には、装置の環境条件としての温度及び湿度を検出する温湿度センサ560などの検知信号やその他のセンサ類の検知信号が入力される。
【0041】
制御部500には、この装置に必要な情報の入力及び表示を行うための操作パネル522が接続されている。
【0042】
制御部500は、造形データ作成装置600から造形データを受領する。造形データは、目的とする立体造形物の形状をスライスしたスライスデータとしての各造形層30の形状データ(造形データ)を含む。
【0043】
そして、主制御部500Aは、造形層30の造形データに基づいてヘッド52からの造形液の吐出を行わせる制御をする。
【0044】
なお、造形データ作成装置600と立体造形装置(粉体積層造形装置)601によって造形装置が構成される。
【0045】
次に、本実施形態の造形物の製造方法について、より詳細に説明する。
【0046】
本実施形態の造形物の製造方法における造形の流れについて図5を参照して説明する。
図5は造形の流れの説明に供する模式的説明図である。ここでは、造形槽22の造形ステージ24上に、1層目の造形層30が形成されている状態から説明する。
1層目の造形層30上に次の造形層30を形成するときには、図5Aに示すように、供給槽21の供給ステージ23をZ1方向に上昇させ、造形槽22の造形ステージ24をZ方向に下降させる。
【0047】
このとき、造形槽22の上面(粉体層表面)と平坦化ローラ12の下部(下方接線部)との間隔がΔtとなるように造形ステージ24の下降距離を設定する。この間隔Δtが次に形成する粉体層31の厚さに相当する。間隔Δtは、数十μm~100μm程度であることが好ましい。
【0048】
次いで、図5Bに示すように、供給槽21の上面レベルよりも上方に位置する粉体20を、平坦化ローラ12を順方向(矢印方向)に回転しながらY2方向(造形槽22側)に移動することで、粉体20を造形槽22へと移送供給する(粉体供給)。
【0049】
さらに、図5Cに示すように、平坦化ローラ12を造形槽22の造形ステージ24のステージ面と平行に移動させ、図5Dに示すように、造形ステージ24の造形層30上で所定の厚さΔtになる粉体層31を形成する(平坦化)。粉体層31を形成後、平坦化ローラ12は、図5Dに示すように、Y1方向に移動されて初期位置に戻される。
【0050】
ここで、平坦化ローラ12は、造形槽22及び供給槽21の上面レベルとの距離を一定に保って移動できるようになっている。一定に保って移動できることで、平坦化ローラ12で粉体20を造形槽22の上へと搬送させつつ、造形槽22上又は既に形成された造形層30の上に均一厚さh(積層ピッチΔtに相当)の粉体層31を形成できる。
【0051】
なお、以下、粉体層31の厚みhと積層ピッチΔt1とを区別せずに説明することがあるが、特に断りのない限り、同じ厚みを意味する。また、粉体層31の厚みhを実際に測定して求めてもよく、この場合、複数箇所の平均値とすることが好ましい。
【0052】
その後、図5Eに示すように、液体吐出ユニット50のヘッド52から造形用液体(造形液)の液滴を吐出する。
【0053】
図5Fに示すように、放射エネルギー源を造形槽上で駆動させることで、粉体内の放射線吸収剤によって熱が上がり、粉体が溶解・結合し、1層分の造形物(造形層30)を得る。
【0054】
次いで、上述した粉体供給・平坦化よる粉体層31を形成する工程、ヘッド52による造形液吐出工程、放射エネルギー照射の工程を繰り返して新たな造形層30を形成する。このとき、新たな造形層30とその下層の造形層30とは一体化して三次元形状造形物の一部を構成する。
以後、粉体の供給・平坦化よる粉体層31を形成する工程、ヘッド52による造形液吐出工程、放射エネルギー照射の工程を必要な回数繰り返すことによって、三次元形状造形物(立体造形物)を完成させる。
【0055】
<造形用粉末及び造形用液体>
次に、本発明に用いる造形用粉末、造形用液体の一実施形態について説明する。
造形用粉末としては、特に制限されるものではなく、適宜変更することが可能である。
例えば、基材からなるものが挙げられる。
【0056】
<<基材>>
基材としては、粉末乃至粒子の形態を有する限り特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。基材の材質としては、例えば、金属、セラミックス、ガラス、カーボン、ポリマー、木材、生体親和材料、砂、磁性材料、樹脂などが挙げられる。
これらの基材としては、市販されているものを使用することができる。
【0057】
基材の平均粒子径としては、特に制限はなく目的に応じて適宜選択することができる。例えば、2μm~100μmのものが好ましく、8μm~50μmがより好ましい。
【0058】
基材の粒度分布としては、特に制限はなく目的に応じて適宜選択することができるが、粒度分布はよりシャープである方が好ましい。基材の平均粒子径は、公知の粒径測定装置を用いて測定することが可能であり、一例としては粒子径分布測定装置マイクロトラックMT3000IIシリーズ(マイクロトラックベル製)などが挙げられる。
【0059】
基材は、従来公知の方法を用いて製造することができる。粉末乃至粒子状の基材を製造する方法としては、例えば固体に圧縮、衝撃、摩擦等を加えて細分化する粉砕法、溶湯を噴霧させて急冷粉体を得るアトマイズ法、液体に溶解した成分を沈殿させる析出法、気化させて晶出させる気相反応法等が挙げられる。
【0060】
基材としては、製造方法に制限されないが、より好ましい方法としては球状の形状が得られ、粒径のバラツキが少ないアトマイズ法が挙げられる。アトマイズ法としては、水アトマイズ法、ガスアトマイズ法、遠心アトマイズ法、プラズマアトマイズ法などが挙げられるが、いずれも好適に用いられる。
【0061】
<<造形用粉末のその他の成分>>
造形用粉末は、その他の成分を加えることも可能である。その他の成分としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、例えば、フィラー、レベリング剤、焼結助剤などが挙げられる。
【0062】
<<<フィラー>>>
フィラーは、主に造形用粉末の表面に付着させたり、粉末材料間の空隙に充填させたりするのに有効な材料である。効果としては、例えば、造形用粉末の流動性の向上や、粉末材料同士の接点が増え、空隙を低減できることから、造形物の強度や寸法精度を高める効果が得られる場合があり有効である。
【0063】
<<<レベリング剤>>>
レベリング剤は、主に造形用粉末の表面の濡れ性を制御するのに有効な材料である。効果としては、例えば、粉体層への造形用液体の浸透性が高まり、造形物の強度アップやその速度を高めることができ、形状を安定に維持させる上で有効な場合がある。
【0064】
<<<焼結助剤>>>
焼結助剤は、得られた造形物を焼結させる際、焼結効率を高める上で有効な材料である。効果としては、例えば、造形物の強度を向上でき、焼結温度を低温化できたり、焼結時間を短縮できる場合がある。
【0065】
<<造形用液体の液体成分>>
本実施形態の造形用液体は、常温において液状であることから液体成分が含まれる。液体成分としては、適宜変更することが可能であり、水や水溶性溶剤が好適に用いられ、特に水が主成分として用いられる。
また、本実施形態の造形用液体には、放射線吸収剤が含有されている。
【0066】
造形用液体全体に占める水の割合は、40質量%以上85質量%以下が好ましく、50質量%以上80質量%以下がより好ましい。上記範囲であると、待機時にインクジェットノズルが乾燥することを防ぎ、液詰まりやノズル抜けを抑制できる。
【0067】
水溶性溶剤は、特にインクジェットノズルを用いて造形用液体を吐出させる際、水分保持力や吐出安定性を高める上で有効である。これらが低下すると、ノズルが乾燥して、吐出が不安定になったり、液詰まりが発生し、造形物の強度や寸法精度の低下を引き起こす場合がある。これらの水溶性溶剤は、水よりも粘度や沸点が高いものが多く、これらは特に造形用液体の湿潤剤や乾燥防止剤、粘度調整剤としても機能させることができ、有効である。
【0068】
水溶性溶剤としては、水溶性を示す液体材料であれば、特に制限されるものではなく、適宜変更することが可能である。例えば、エタノール、プロパノール、ブタノール等のアルコール、エーテル、ケトンなどが挙げられる。具体的には、1,2,6-ヘキサントリオール、1,2-ブタンジオール、1,2-ヘキサンジオール、2-ペンタンジオール、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン、1,3-ブタンジオール、1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、2,2-ジメチル-1,3-プロパンジオール、2,3-ブタンジオール、2,4-ペンタンジオール、2,5-ヘキサンジオール、2-エチル-1,3-ヘキサンジオール、2-ピロリドン、2-メチル-1,3-プロパンジオール、2-メチル-2,4-ペンタンジオール、3-メチル-1,3-ブタンジオール、3-メチル-1,3-ヘキサンジオール、N-メチル-2-ピロリドン、N-メチルピロリジノン、β-ブトキシ-N,N-ジメチルプロピオンアミド、β-メトキシ-N,N-ジメチルプロピオンアミド、γ-ブチロラクトン、ε-カプロラクタム、エチレングリコール、エチレングリコール-n-ブチルエーテル、エチレングリコール-n-プロピルエーテル、エチレングリコールフェニルエーテル、エチレングリコールモノ-2-エチルヘキシルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、グリセリン、ジエチレングリコール、ジエチレングリコール-n-ヘキシルエーテル、ジエチレングリコールメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジグリセリン、ジプロピレングリコール、ジプロピレングリコールn-プロピルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジメチルスルホキシド、スルホラン、チオジグリコール、テトラエチレングリコール、トリエチレングリコール、トリエチレングリコールエチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテル、トリエチレングリコールメチルエーテル、トリプロピレングリコール、トリプロピレングリコール-n-プロピルエーテル、トリプロピレングリコールメチルエーテル、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、プロピルプロピレンジグリコール、プロピレングリコール、プロピレングリコール-n-ブチルエーテル、プロピレングリコール-t-ブチルエーテル、プロピレングリコールフェニルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、ヘキシレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコールなどを用いることができる。ただし、これは一例であって、これらに限定されるものではない。
【0069】
造形用液体全体に占める水溶性溶剤の割合は、5質量%~60質量%が好ましく、10質量%~50質量%がより好ましく、15質量%~40質量%がさらに好ましい。
5質量%以上であると、造形用液体の水分保持力を良好にすることができ、待機時にインクジェットヘッドの乾燥が進んで吐出不良となることを抑制することができる。また、事前に行うチェック時と実際の吐出時の吐出量が異なることを防ぎ、所望の強度や形状を有する造形物が得られやすくなる。60質量%以下であると、造形用液体の粘度が高くなり過ぎることを防ぎ、吐出安定性を向上させることができる。また、造形用粉末中の樹脂の溶解性が低下することを防ぎ、造形物の強度が低下することを防ぐことができる。また、造形物の乾燥に時間がかかることを防ぐことができ、製造効率の低下や造形物の変形を防ぐことができる。
【0070】
<<放射線吸収剤>>
放射線吸収剤としては、例えば、Hewlett-Packard Companyから市販されているCM997Aとして知られるインク配合物のような、カーボンブラックを含むインク型配合物とすることができる。また、KHP、骨炭、黒鉛、炭素繊維、白亜または干渉顔料を有することもできる。
さらに、赤外線吸収体、近赤外線吸収体、可視光吸収体、UV光吸収体などを含むことができる。例えば、可視光促進剤を含むインクの例としては、Hewlett-Packard Companyから市販されているCM993A及びCE042Aとして知られるインクのような、染料ベースの有色インク及び顔料ベースの有色インクが挙げられる。
【0071】
<<造形用液体のその他の成分>>
造形用液体は、その他の成分として、例えば、湿潤剤、乾燥防止剤、粘度調整剤、界面活性剤、浸透剤、架橋剤、消泡剤、pH調整剤、防腐剤、防黴剤、着色剤、保存剤、安定化剤など、従来公知の材料を制限なく添加することができる。
【0072】
<<<界面活性剤>>>
界面活性剤は、主に造形用液体の造形用粉末への濡れ性や浸透性、表面張力を制御する目的で使用される。界面活性剤は、従来公知の材料を使用することが可能であるが、アニオン系界面活性剤、ノニオン系界面活性剤、両性界面活性剤が好適に用いられる。
【0073】
アニオン性界面活性剤としては、例えばポリオキシエチレンアルキルエーテル酢酸塩、ドデシルベンゼンスルホン酸塩、琥珀酸エステルスルホン酸塩、ラウリル酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテルサルフェートの塩などが挙げられる。
ノニオン性界面活性剤としては、例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルエステル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンアルキルエステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルアミン、ポリオキシエチレンアルキルアミドなどが挙げられる。
両性界面活性剤としては、例えばラウリルアミノプロピオン酸塩、ラウリルジメチルベタイン、ステアリルジメチルベタイン、ラウリルジヒドロキシエチルベタインなどが挙げられる。
【0074】
具体例としては、以下に挙げるものが好適に使用されるが、これらに限定されるわけではない。例えば、ラウリルジメチルアミンオキシド、ミリスチルジメチルアミンオキシド、ステアリルジメチルアミンオキシド、ジヒドロキシエチルラウリルアミンオキシド、ポリオキシエチレンヤシ油アルキルジメチルアミンオキシド、ジメチルアルキル(ヤシ)ベタイン、ジメチルラウリルベタイン等が挙げられる。
【0075】
これらの界面活性剤は、日光ケミカルズ社、日本エマルジョン社、日本触媒社、東邦化学社、花王社、アデカ社、ライオン社、青木油脂社、三洋化成社などの界面活性剤メーカーより入手することができる。また、アセチレングリコール系界面活性剤は、2,4,7,9-テトラメチル-5-デシン-4,7-ジオール、3,6-ジメチル-4-オクチン-3,6-ジオール、3,5-ジメチル-1-ヘキシン-3-オールなどのアセチレングリコール系(例えばエアープロダクツ社(米国)のサーフィノール104、82、465、485あるいはTGなど)を用いることができるが、特にサーフィノール465、104やTGが好ましい。
【0076】
フッ素系界面活性剤としては、パーフルオロアルキルスルホン酸塩、パーフルオロアルキルカルボン酸塩、パーフルオロアルキルリン酸エステル、パーフルオロアルキルエチレンオキサイド付加物、パーフルオロアルキルベタイン、パーフルオロアルキルアミンオキサイド化合物、パーフルオロアルキルエーテル基を側鎖に有するポリオキシアルキレンエーテルポリマー及びこの硫酸エステル塩、フッ素系脂肪族系ポリマーエステルが挙げられる。
このようなフッ素系界面活性剤として市販されているものを挙げると、サーフロンS-111、S-112、S-113、S121、S131、S132、S-141、S-145(旭硝子社製)、フルラードFC-93、FC-95、FC-98、FC-129、FC-135、FC-170C、FC-430、FC-431、FC-4430(住友スリーエム社製)、FT-110、250、251、400S(ネオス社製)、ゾニールFS-62、FSA、FSE、FSJ、FSP、TBS、UR、FSO、FSO-100、FSN N、FSN-100、FS-300、FSK(Dupont社製)、ポリフォックスPF-136A、PF-156A、PF-151N(OMNOVA社製)などがあり、メーカーより入手することができる。
【0077】
界面活性剤は、これらに限定されるものではなく、単独で用いても、複数のものを混合して用いてもよい。単独では造形用液体の中で容易に溶解しない場合であっても、混合することで可溶化され、安定した液体材料が得られる場合がある。
【0078】
造形用液体に対する界面活性剤の含有量は、界面活性剤総量として、0.01質量%~10質量%が好ましく、0.1質量%~5質量%がより好ましく、0.5質量%~3質量%がさらに好ましい。0.01質量%以上であると、造形用液体の造形用粉末への浸透性が低下することを防ぐことができ、造形物の強度が低下することを防ぐことができる。10質量%以下であると、造形用液体の浸透性を適切に制御することができ、得られる造形物の寸法精度を向上させることができる。
【0079】
<<<消泡剤>>>
消泡剤は、造形用液体の泡立ちを防止することを主目的として使用される。消泡剤としては、一般的に利用されている消泡剤を使用することが可能である。例えば、シリコーン消泡剤、ポリエーテル消泡剤、脂肪酸エステル消泡剤などが挙げられ、1種と併用しても、2種以上と併用してもよい。
【0080】
消泡剤としては、市販品を使用してもよく、例えば信越化学工業社製のシリコーン消泡剤(KS508、KS531、KM72、KM85等)、東レ・ダウ・コーニング社製のシリコーン消泡剤(Q2-3183A、SH5510等)、日本ユニカー社製のシリコーン消泡剤(SAG30等)、旭電化工業社製の消泡剤(アデカネートシリーズ等)、などが挙げられる。
消泡剤の造形用液体に対する好ましい含有量としては、3質量%以下、より好ましくは0.5質量%以下である。消泡剤の添加量がこれより多いと、溶解性が低下し、分離析出する場合がある。
【0081】
<<<pH調整剤>>>
pH調整剤は、造形用液体を所望のpHに調整することを主目的として使用される。pH調整剤としては、造形用液体のpHを制御できるものであれば、如何なる材料をも使用することができる。
【0082】
造形物の製造装置の吐出手段にインクジェット方式を用いる場合、ノズルヘッド部分の腐食や目詰り防止の観点から、5(弱酸性)~12(塩基性)が好ましく、8~10(弱塩基性)がより好ましい。pH調整剤の添加により、造形用液体のpHを任意に調整することができる。なお、架橋剤の中には、pH調整剤としても機能し得るものもある。
【0083】
pH調整剤の一例としては、塩基性に調整するときにはアミン類、アルカリ金属水酸化物、第四級化合物水酸化物、アルカリ金属炭酸塩、酸性に調整するときは無機酸、有機酸が挙げられる。具体的には、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン等のアミン、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属元素の水酸化物、水酸化アンモニウム、第4級アンモニウム水酸化物、第4級ホスホニウム水酸化物、炭酸リチウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム等のアルカリ金属の炭酸塩等が挙げられる。
【0084】
また、塩酸、硫酸、硝酸、リン酸、ホウ酸などの無機酸及び硫酸アンモニウム、リン酸アンモニウなどの一価の弱カチオンと形成する塩、酢酸、蓚酸、乳酸、サリチル酸、安息香酸、グルクロン酸、アスコルビン酸、アルギニン酸、システイン、シュウ酸、フマル酸、マレイン酸、マロン酸、リシン、リンゴ酸、クエン酸、グリシン、グルタミン酸、コハク酸、酒石酸、フタル酸、ピロリドンカルボン酸、ピロンカルボン酸、ピロールカルボン酸、フランカルボン酸、ビリジンカルボン酸、クマリン酸、チオフェンカルボン酸、ニコチン酸、カルボラン酸、若しくはこれらの化合物の誘導体などの有機酸が挙げられる。これらのpH調整剤は、上記の化合物に限定されるものではない。
【0085】
これらは造形用液体のpH変動に応じた特性に合わせて、最適の一時解離定数pKaのものを適時利用し、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用しても、Buffer剤を併用しても構わない。
【0086】
<<<防腐防黴剤>>>
防腐防黴剤は、造形用液体の防腐防黴を主目的として使用される。造形用液体を保存しておくと、微生物が増殖し、pHの低下や成分の沈降などが発生する場合があり、防腐防黴剤はそれを防止することが可能である。
防腐防黴剤としては、例えば、安息香酸ナトリウム、デヒドロ酢酸ナトリウム、ソルビタン酸カリウム、ソルビン酸ナトリウム、チアベンダゾール、ベンズイミダゾール、2-ピリジンチオール1-オキサイドナトリウム、ペンタクロロフェノールナトリウム等が挙げられる。
【0087】
<<造形用液体の調整方法>>
造形用液体の調製方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。例えば、水や水溶性溶剤などの液体成分に、放射線吸収剤、及び必要に応じてその他の成分を添加し、混合撹拌する方法が挙げられる。
【0088】
<<造形用粉末と造形用液体の作用の一例>>
例えば、上記のような造形用粉末及び造形用液体を用いることにより、造形用粉末を用いて薄層(粉体層)を形成し、放射線吸収剤を含有している造形用液体を粉体層に付与した後、放射エネルギーを粉体層に付与すると、粉体が溶融・結合し、造形層が形成される。
【0089】
<造形用液体の浸透挙動>
次に、造形用液体の浸透挙動について、図6を用いて説明する。図6は、造形用液体の液滴10と造形用粉末の粉体20を拡大して模式的に示したものである。
供給槽21から平坦化ローラ12によって造形槽22へと移送供給された粉体20は、その材質や粒度分布にもよるが、かさ密度に近い密度で造形槽22に堆積される。造形槽22に堆積された粉体20は、ヘッド52から吐出された液滴10がXY方向及びZ方向に浸透していく際に、液架橋力が粒子間に働き、粉体間に存在していた空気を押し出すようにして粉体間距離が縮まり、造形液塗布部の粉体密度を大きくする。
【0090】
上記のことが図6に模式的に示されている。図6(i)は造形用液体の液滴10が粉体層における粉体20に対して吐出されたときの図であり、図6(ii)は液滴10が粉体層に着弾したときの図である。図示されるように、液体が持つ表面張力により、造形用液体は理想的に半球ないし楕円半球に近くなるように浸透する。例えば、インクジェットによる造形用液体の吐出を考えた際に、造形用液体の表面張力は例えば20mN/m~40mN/mとなる場合、表面張力が低いほど濡れ広がりやすく、したがって半球や横長の楕円半球になりやすい。
そして、図6(iii)に示されるように、液滴10が浸透していく際に、液架橋により粉体20間距離が縮まり、粉体20が凝集する。
なお、XY方向は粉体層の面方向を示し、Z方向は面方向と垂直の方向を示す。
【0091】
<第1の実施形態>
以下、本発明の造形物の製造方法の第1実施形態について説明する。
本発明の造形物の製造方法の具体的な実施形態を説明する前に、本発明の造形物の製造方法による効果を明確にするため、まず従来技術における課題について説明する。
【0092】
<<従来の課題>>
図7A図7B図8、及び図9は、従来の課題を説明するための模式図である。図7A図7B、及び図8は、造形層の1層のうち造形領域を含む一部を切り出したイメージ図の一例を示す模式図である。図7A図7B、及び図8は、非造形領域と造形領域との違いが明確になるよう、造形された造形層の1層のうち、非造形領域と接する造形領域の一部だけをイメージ図として切りとり、作成したものである。
図9は、造形用液体の浸透挙動の一例を説明するための模式図である。
図7Aは、粉体層の上面からみた平面図を示す。図7A中、符号aは粉体層の上から見た面を示す。符号bは、粉体層に液滴を塗布することにより形成された造形領域において、符号cで表され造形領域の縁部領域を除いた、造形領域の中央部領域を示す。符号cは、粉体層における非造形領域に隣接した造形領域の縁部領域を示す。
図7Bは、(i)平坦化(リコート)工程後、(ii)放射エネルギー付与工程後、及び(iii)時間が経過したときの、造形領域と非造形領域の境界部における温度状態を示す概略図である。図7Bにおける符号a1は粉体層を示す。符号b及びcは、図7Aにおける符号と対応している。また、図7Bにおける符号dは、粉体層の各領域の温度を示す。符号eは非造形領域を示す。符号fは造形領域を示す。
【0093】
リコート工程後、放射吸収剤入り液滴を粉体層に吐出し、液滴が塗布された領域に放射エネルギーを付与し、造形領域を形成したとき、造形領域における温度は、非造形領域に比べ、(ii)で示すように、上昇する。しかし、放射エネルギーを付与した後、時間が経つと、非造形領域に接する造形領域の縁部領域においては、放射エネルギーを吸収し上昇した熱が非造形領域に伝わり、温度が低下する。これにより、本来粉体の結合に必要な熱温度までに達せず、結合が弱まるため、造形物としての強度や精度が低下してしまう。
図7で示すような場合、造形領域の縁部領域においては、精度や強度の低下が起こる。
【0094】
次に、上記特許文献1に記載の方法のように、造形領域の縁部領域で液滴量を増やし(液滴サイズを大きくし)、放射エネルギーを付与し、時間が経過したときの造形領域と非造形領域の境界部における温度状態を測定した結果を図8に示す。また、上記特許文献1に記載の方法における造形用液体の浸透挙動を図9に示す。
本発明者が確認した上記特許文献1に記載の方法による問題について、図8及び図9を用いて説明する。
図8において、符号dは粉体層の各領域の温度を、符号eは非造形領域を、符号fは造形領域を、符号gは放射エネルギー源を、符号hは放射エネルギーを照射しない領域を、符号jは放射エネルギーを照射する領域を、符号tは結合温度を示す。
【0095】
図8には、第k層目の粉体層において、造形の様子を断面図で模式的に示した図が示されている。粉体層の上部から、放射線エネルギー源は、造形領域(造形液滴下領域)のみエネルギー照射を行う。
放射線吸収剤を含んだ液滴が滴下された造形領域においては、放射エネルギーを吸収し、温度が上昇する。粉体の材料種類によって異なるが、各材料の結合温度に達すると、粉体の結合が行われ、造形物となる。
上記特許文献1に記載の方法のように、造形領域の縁部の液滴量を増加させると、放射線吸収剤を含んだ液滴量が増加するため、放射エネルギー照射の際に造形領域の縁部領域では、熱上昇が中央部より高くなる。そのため、非造形領域に多少熱が逃げたとしても、縁部領域の粉体結合には十分な熱を保つことができ、造形物の強度は確保される。
しかし、上記特許文献1に記載の方法では、造形物の強度は確保できるが、インクが造形層を積層する際の積層面に平行な方向(XY方向)に広がるため、造形物の精度を向上させることはできないことがわかった。
【0096】
上記特許文献1に記載の方法における造形用液体の浸透挙動は図9に示すようになる。
図9において、(i)は造形液の液滴の滴下する様子、(ii)は粉体層に液滴が浸透する様子、(iii)は粉体層に液滴が浸透した後の様子を示している。
図9の第k層で示すインク浸透挙動のように、上記特許文献1に記載の方法では、造形領域の縁部領域における液滴量を増加させるため、液滴が粉体層の積層方向(Z方向)に浸透する前に、液滴の隣接液同士で結合が行われ、積層方向への浸透距離が短くなる。また、液滴量が大きいため、XY方向に非造形領域へ液が濡れ広がる。その結果、XY方向への造形物の精度が低下する。
また、図8における結果を、図13に示す本発明の結果と比較すると明らかなように、図8では、造形領域の縁部領域が非造形領域にも及んでおり、その領域における層温度が結合温度以下となっている。つまり、図8の結果は、狙いの寸法より造形領域が大きくなっており、造形領域の縁部領域における造形層の精度が悪いことがわかる。
【0097】
<<本発明の具体的実施形態>>
本発明では、造形領域を複数の区画に分画するため、例えば、粉体層の1層分の造形画像において、画像を分割したパターンを用意することができる。分割の大きさとしては、例えば、最小解像度間隔とすることができる。但し、最小解像度間隔に限られるものではない。
図10は、粉体層の表面の造形領域を分割するパターンの一例を説明するための概略図である。なお、図10は、分割画像の一部を示す。
図10において、(i)は粉体層の上からみた面(平面図)を示す。また、(ii)は分割された造形画像の模式図を示す。
図10において、符号aは粉体層の上から見た面を示す。符号eは非造形領域を示す。符号fは造形領域を示す。符号uは最小解像度を示す。
【0098】
本発明では、造形領域を複数の区画に分画した際、その分画した分画領域のうち一部の特定分画領域に対し、液滴を複数回塗布する。
本発明では、非造形領域に隣接した造形領域の縁部領域において、液滴を複数回塗布することが好ましい。本発明において、造形領域の縁部領域とは、造形領域の中の非造形領域の境界部付近の領域をいう。
また、本発明では、特定分画領域に塗布する液滴の塗布回数が、他の分画領域に塗布する液滴の塗布回数より多いことが好ましい。
【0099】
液滴を粉体層の表面の同一箇所に複数回塗布することについて説明する。
本実施形態における造形用液体の浸透挙動について、図11Aを用いて説明する。図11Aは、第k層目に造形用液体の液滴を塗布(吐出)した際の造形用液体の浸透挙動の様子を断面で模式的に示した図である。
図11Aは粉体層31に液滴10を滴下して液滴10が浸透していく様子を示した図である。
【0100】
図11Aに示されるように、第k層目の粉体20に造形用液体の液滴10を所定の解像度で吐出する。すると、液滴10は粉体を液架橋力により凝集させながら、XY方向及びZ方向に浸透する。
【0101】
本実施形態では、図11Bで示すように、粉体層31の厚みをhとし、最隣接する液滴10における粉体層31に着弾する中心間距離(最隣接するドット間の距離)をLとしたとき、h<Lとなるように吐出するとよい。
【0102】
本実施形態では、吐出された液滴10が第k層目をXY方向及びZ方向に浸透していくが、h<Lとすることにより、液滴10は積層方向であるZ方向に十分浸透する。
造形物の積層間強度を確保するためには、粉体層厚みh間に液滴がしっかり浸透する必要がある。液滴をZ方向に厚みh分浸透させるためには、Z方向に浸透するまでに隣接する液滴と結合しないようにする必要があるので、h<Lであることが好ましい。
【0103】
なお、Lの上限としては、造形用粉末、造形用液体等によって異なるため、一概にはいえないが、例えば、8h以下であることが好ましく、4h以下であることがより好ましい。
【0104】
本実施形態では、造形領域の一部の特定分画領域に対し、液滴を複数回塗布するが、1滴吐出の場合に比べ、複数回に分けて同量の液滴を吐出する場合においては、XY方向よりZ方向に浸透しやすくなる。これは、XY方向に隣接する液滴と結合してXY方向に造形用液体が濡れ広がる前に、Z方向に浸透するためと考えられる。XY方向への液滴の濡れ広がりを抑制することができ、造形物の精度をより向上させる効果を有する。
【0105】
本実施形態では、液滴の複数回塗布(吐出)は、非造形領域に隣接した造形領域の縁部領域で実施することが好ましい。
縁部領域について図12を用いて説明する。
図12において、(i)は粉体層の上からみた面(平面図)を示す。また、(ii)は分割された造形画像の模式図を示す。
図12において、符号aは粉体層の上から見た面を示す。符号eは非造形領域を示す。符号fは造形領域を示す。符号uは最小解像度を示す。符号bは造形領域の中央部領域を示す。符号cは造形領域の縁部領域を示す。符号mは造形領域の縁部領域における縁部の太さを示す。
なお、造形領域の縁部の太さmは、粉体の材料によって非造形領域へ逃げる熱量が異なるため、造形モードや、造形用粉末や造形用液体等の各材料の種類に応じて設定するのが望ましい。
【0106】
次に、本実施形態における粉体層への放射エネルギー付与について説明する。
本実施形態では、少なくとも特定分画領域が含まれる範囲に付与される放射強度が、変更可能であるとよい。少なくとも特定分画領域が含まれる範囲に付与される放射強度が、特定分画領域以外の他の分画領域に付与される放射強度より高くなるように、造形領域に放射エネルギーを付与するとより好ましい。
特に、液滴を複数回吐出する造形領域の縁部領域に対して、放射エネルギーの強度を強めて照射することが望ましい。液滴を複数回吐出したことで、粉体層の厚み方向(Z方向)に液滴が浸透しているので、放射エネルギー強度を強め、厚みh分に存在する粉体の結合を行うためである。液滴を複数回吐出する造形領域の縁部領域に対して、放射エネルギーの強度を強めて照射することで、粉体層のk層とk-1層との結合も進み、造形物の強度をより確保することができる。
【0107】
液滴を複数回吐出した造形領域の縁部領域に対して、放射エネルギーの強度を強めて放射エネルギーを付与し、時間が経過したときの造形領域と非造形領域の境界部における温度状態を測定した。結果を図13に示す。
なお、図13(下記図15及び図17も同様)は、非造形領域と造形領域との違いが明確になるよう、造形された造形層の1層のうち、非造形領域と接する造形領域の一部だけをイメージ図として切りとり、作成したものである。
図13において、符号dは粉体層の各領域の温度を、符号eは非造形領域を、符号fは造形領域を示す。符号gは放射エネルギー源を示す。符号hは放射エネルギーを照射しない領域を示す。符号j1は放射エネルギーの強度を強くして、放射エネルギーを照射する領域を示す。符号j2は放射エネルギーの強度を中程度にして、放射エネルギーを照射する領域を示す。符号j3は放射エネルギーの強度を弱くして、放射エネルギーを照射する領域を示す。符号tは結合温度を示す。
【0108】
図13には、第k層目の粉体層において、造形の様子を断面図で模式的に示した図が示されている。粉体層の上部から、放射線エネルギー源は、造形領域(造形液滴下領域)のみエネルギー照射を行う。但し、造形領域、非造形領域に関わらず、粉体層の面上全体に対して放射エネルギーを照射する方式を採用してもよい。
【0109】
液滴を複数回吐出した造形領域の縁部領域に対して、放射エネルギーの強度を強めて放射エネルギーを付与する本実施形態が示す効果を、図14を用いて説明する。
図14中、符号oは縁部領域に対して液滴を1回吐出したときに液滴が粉体層の厚み方向(Z方向)に浸透する深さを示す。符号pは縁部領域に対して液滴を複数回吐出したときに液滴が粉体層の厚み方向(Z方向)に浸透する深さを示す。
粉体層に放射エネルギーを付与するとき、粉体層の深さxでの光量は、下記式(1)で示される。
【0110】
【数1】

例えば、縁部領域も縁部領域以外の造形領域も、放射エネルギーの強度を変えず、中程度の強さの放射エネルギーを付与した場合(光量一定の場合)には、図14(i)のq1で示すように、液滴が浸透した深さまで光は届かず、縁部領域の造形は不十分となる。
一方、縁部領域と縁部領域以外の造形領域とで、放射エネルギーの強度を変え、縁部領域を強い強度で放射エネルギーを付与した場合(縁部の光量を上げた場合)には、図14(ii)のq2で示すようになる。つまり、液滴が浸透した深さまで光が届き、縁部領域の粉体結合が十分行われ、強度の強い造形層が形成される。
このように、液滴を複数回吐出した造形領域の縁部領域に対して、放射エネルギーの強度を強めて放射エネルギーを付与すると、縁部領域における強度が向上した造形層を形成することができる。
【0111】
さらに、本実施形態のように、液滴を複数回吐出した造形領域の縁部領域に対して、放射エネルギーの強度を強めて放射エネルギーを付与すると、液滴の積層面に平行な方向(XY方向)への広がりを抑えた状態で縁部領域の粉体を結合させることができる。図8と比較する図13の縁部領域が示す温度dの結果から、本実施形態によれば、図13で示すように造形領域の縁部における造形層の精度及び強度を向上させることがわかる。
【0112】
本実施形態において、液滴を複数回吐出した造形領域の縁部領域に対して、放射エネルギーの強度を強めて放射エネルギーを付与する一連の工程を、図15Aから図15Gを用いて説明する。
図15Aから図15G中、符号52はヘッド、符号80aは放射エネルギー源(強)、符号80bは放射エネルギー源(弱)、符号eは非造形領域、符号fは造形領域を示す。
また、図15Aから図15G中、符号sの矢印は主走査方向を示す。
【0113】
まずは造形領域の縁部に複数回に分けて液滴を滴下する(図15Aから図15D参照)。次に、強い強度の放射エネルギーを付与する(図15E参照)。その後、造形領域の中央部に液滴を滴下する(図15F参照)。その後、弱い強度の放射エネルギーを付与する(図15G参照)。なお、放射エネルギーを付与する際は、液滴滴下領域のみの付与でも可能であるが、非造形領域を含む粉体層の表面全体に放射エネルギーを付与することも可能である。
また、図15Aから図15Gでは縁部領域への滴下を最初に実施しているが、その限りではない。例えば、粉体層の造形領域に必要な液滴量をすべて滴下(1滴滴下の領域、複数回に分けた滴下の両方を含む)後、放射エネルギーを付与する工程を実施することもできる。また、図15Aから図15Gでの放射エネルギー源は、主走査方向に駆動する構成としたが、粉体層の表面全領域と同等のサイズの放射エネルギー源を備えることもできる。
【0114】
<第2の実施形態>
本発明の第2の実施形態として、特定分画領域に塗布する液滴の液量を、他の分画領域に塗布する液滴の液量より多くすることができる。
例えば、液滴に含まれる放射線吸収剤の濃度が同一の場合において、縁部領域に滴下する液滴の量を造形領域の中央部と比較し、多く設定することができる。液滴量を多く設定することで、Z方向への液滴の浸透が進み、k層とk-1層との結合がより進むため、造形物のZ方向の強度の確保が容易となる。また、縁部領域における放射エネルギーの吸収度合いも高くなるため、非造形領域に熱が多少逃げても、縁部領域における粉体の結合温度を確保することができるので、造形物の精度と強度を確保することができる。
なお、k層液滴時において、k-1層の同領域が非造形領域の場合には、液滴量を増加しない方が好ましい。液滴のZ方向への浸透が進み、Z方向の精度低下が発生するおそれがあるからである。
【0115】
<第3の実施形態>
本発明の第3の実施形態として、特定分画領域に塗布する液滴中の放射線吸収剤の濃度を、他の分画領域に塗布する液滴中の放射線吸収剤の濃度より高くすることができる。
例えば、液滴に含まれる放射線吸収剤の濃度が異なる複数種類の造形用液体を使用して造形を行う場合において、造形領域の縁部領域に放射線吸収剤の濃度が高い造形用液体の液滴を滴下することができる。
放射線吸収剤の濃度が高い造形用液体の液滴を滴下することで、放射エネルギーの吸収度合いも高くなるため、非造形領域に熱が多少逃げても、縁部領域における粉体の結合温度を確保することができるので、造形物の精度と強度を確保することができる。
【0116】
<第4の実施形態>
本発明の第4の実施形態として、特定分画領域に塗布する液滴中の放射線吸収剤と、他の分画領域に塗布する液滴中の放射線吸収剤の種類が異なる場合、以下のようにすることができる。特定分画領域に塗布する液滴中の放射線吸収剤の放射線吸収効率が、他の分画領域に塗布する液滴中の放射線吸収剤の放射線吸収効率より高くすることができる。
例えば、放射線吸収剤を複数種類用意し、それぞれの放射線吸収剤を含んだ造形用液体を使用して造形を行う場合において、造形領域の縁部領域に放射線吸収性能の高い造形用液体の液滴を滴下することができる。
放射線吸収性能が高い造形用液体の液滴を滴下することで、放射エネルギーの吸収度合いも高くなるため、非造形領域に熱が多少逃げても、縁部領域における粉体の結合温度を確保することができるので、造形物の精度と強度を確保することができる。
【0117】
<第5の実施形態>
本発明の第5の実施形態として、縁部領域のうち、分画された区画の中で2側面以上隣接する区画のない区画に対応する最縁部領域において、以下のようにすることができる。最縁部領域に液滴を塗布する条件が、最縁部領域以外の他の縁部領域に液滴を塗布する条件より、さらに放射線吸収効率が高くなるように、最縁部領域に液滴を塗布することができる。
例えば、造形領域の縁部領域において、該領域を最小解像度間隔で分割したとき、2側面以上隣接する造形領域がない個所(最縁部領域ともいう)においては、縁部領域よりさらに放射線吸収性を高めるようにすることができる。2側面以上隣接する造形領域がない最縁部領域では、非造形領域と接する面積が広くなるため、熱の逃げ量も多くなる。熱が逃げることで造形物の精度と強度低下を防止するために、最縁部領域においては、放射線吸収性を高める条件で造形を行うのがよい。例えば、液滴量を増やし液滴を複数回滴下させたり、放射線吸収剤の濃度が高い液滴を複数回滴下する、などが挙げられる。
最縁部領域について、図16を用いて説明する。
図16において、(i)は粉体層の上からみた面(平面図)を示す。また、(ii)は分割された造形画像の模式図を示す。
図16において、符号aは粉体層の上から見た面を示す。符号eは非造形領域を示す。符号fは造形領域を示す。符号uは最小解像度を示す。符号bは造形領域の中央部領域を示す。符号cは造形領域の縁部領域を示す。符号rは縁部領域のうち、2側面以上隣接する造形領域がない最縁部領域を示す。符号vは、縁部領域のうち、最縁部領域と最縁部領域でない縁部領域とを区別するために、最縁部領域に付した囲みを示す。
【0118】
<第6の実施形態>
本発明の第6の実施形態として、各種放射エネルギーの照射方法の具体的態様について説明する。
図17Aから図17Dは、放射エネルギーの照射工程を示す概略図である。
図17Aから図17D中、符号(i)は粉体層の断面図の概略図を、符号(ii)は粉体層の上方からみた平面図の概略図を示す。図17Aから図17D中、符号eは非造形領域、符号fは造形領域、符号sは主走査方向、符号gは放射エネルギー源、符号hは放射エネルギーを照射しない領域を示す。符号j1は放射エネルギーの強度を強くして、放射エネルギーを照射する領域を示す。符号j2は放射エネルギーの強度を中程度にして、放射エネルギーを照射する領域を示す。符号j3は放射エネルギーの強度を弱くして、放射エネルギーを照射する領域を示す。
図17Aから図17Dは、放射エネルギー源を主走査方向(X方向)に走査しながら、放射エネルギーを強度を制御しつつ粉体層に付与している様子を示している。造形領域の中央部においては放射エネルギーの強度を弱く、造形領域の縁部領域においては放射エネルギーの強度を強く調整して、放射エネルギーを粉体層に付与する。造形領域の縁部領域において放射エネルギーの強度を強めることで、結合に必要な温度を確保することができ、粉体が十分結合し、造形物の精度と強度の向上をはかることができる。
【0119】
図17Aから図17Dでは、放射エネルギー源は1つとしたが、本実施態様においては、個別の放射エネルギー源を複数アレイ化した構成でも構わない。使用する放射エネルギー源の種類にもよるが、個別放射エネルギー源のアレイの方が、副走査方向(Y方向)での個別制御や、主走査方向に走査しながらの放射エネルギーの強度を調整しやすい場合がある。
造形領域の縁部領域にて狙いの結合温度に達するまで、放射エネルギー付与を複数回繰り返し実施する態様も可能である。放射エネルギー付与の繰り返しは、放射エネルギー源を主走査方向に複数回操作させ、粉体層の面上を通過させることで実現する。
また、放射エネルギー源の主走査方向の移動速度を調整することにより、造形領域の縁部領域における放射エネルギーの付与量を増加させることも可能である。
さらに、図17Aから図17Dでは副走査方向に長さのある放射エネルギー源を用いているが、粉体層サイズと同じ大きさの放射エネルギー源を用いることもできる。この場合、主走査方向の駆動は不要となる。
【0120】
粉体層の温度を計測し、その結果をもとに、付与する放射エネルギーの強度を制御してもよい。例えば、造形領域の縁部領域の温度を計測し、結合温度に上昇するまで、放射エネルギーの強度を強め、縁部領域に放射エネルギーを付与するよう調整してもよい。これにより、精度と強度が向上した造形物を得ることができる。
また、本発明の造形物の製造装置では、使用する各種粉体材料の種類に応じて、液滴塗布条件やエネルギー照射条件を適宜好ましい条件に設定することができる。
例えば、複数種類の粉体材料で造形が行えるように、各材料に合わせて、以下の各項目に対し、好ましい条件を設定することができる。放射線吸収剤の種類や濃度を選定し、造形領域の縁部領域の太さを設定し、造形用液体の液滴吐出回数を設定し、放射エネルギーの強度を設定したりすることができる。
【0121】
本発明の態様は、例えば、以下のとおりである。
<1> (i)粉体層を形成する工程と、
(ii)放射線吸収剤を含んだ液滴を前記粉体層に塗布する工程と、
(iii)前記粉体層に放射エネルギーを付与する工程と、
(iv)前記(i)から(iii)の工程を繰り返す工程と、を含み、
前記(ii)の工程において、前記粉体層の表面に前記液滴を塗布することにより形成される造形領域を複数の区画に分画し、その分画した分画領域のうち一部の特定分画領域に対し、前記液滴を複数回塗布し、
前記(iii)の工程において、少なくとも前記特定分画領域が含まれる範囲に付与される放射強度が、変更可能である
ことを特徴とする造形物の製造方法である。
<2> 前記特定分画領域が、前記粉体層の表面における非造形領域に隣接した前記造形領域の縁部領域である、前記<1>に記載の造形物の製造方法である。
<3> 前記(ii)の工程において、前記特定分画領域に塗布する前記液滴の塗布回数が、前記他の分画領域に塗布する前記液滴の塗布回数より多い、前記<1>から<2>のいずれかに記載の造形物の製造方法である。
<4> 前記(ii)の工程において、前記液滴を前記粉体層に滴下することにより前記液滴を前記粉体層に塗布する場合、前記粉体層の厚みをhとし、前記液滴を滴下する際の隣接する液滴間の距離をLとしたとき、h<Lとなるように前記液滴を前記粉体層に滴下する、前記<1>から<3>のいずれかに記載の造形物の製造方法である。
<5> 前記(ii)の工程において、前記特定分画領域に塗布する前記液滴の液量が、前記他の分画領域に塗布する前記液滴の液量より多い、前記<1>から<4>のいずれかに記載の造形物の製造方法である。
<6> 前記(ii)の工程において、前記特定分画領域に塗布する前記液滴中の放射線吸収剤の濃度が、前記他の分画領域に塗布する前記液滴中の放射線吸収剤の濃度より高い、前記<1>から<5>のいずれかに記載の造形物の製造方法である。
<7> 前記(ii)の工程において、前記特定分画領域に塗布する前記液滴中の放射線吸収剤と、前記他の分画領域に塗布する前記液滴中の放射線吸収剤の種類が異なる場合、前記特定分画領域に塗布する前記液滴中の放射線吸収剤の放射線吸収効率が、前記他の分画領域に塗布する前記液滴中の放射線吸収剤の放射線吸収効率より高い、前記<1>から<6>のいずれかに記載の造形物の製造方法である。
<8> 前記特定分画領域が、前記粉体層の表面における非造形領域に隣接した前記造形領域の縁部領域である場合に、前記(ii)の工程において、前記縁部領域のうち、分画された区画の中で2側面以上隣接する区画のない区画に対応する最縁部領域において、前記最縁部領域に前記液滴を塗布する条件が、前記最縁部領域以外の他の前記縁部領域に前記液滴を塗布する条件より、さらに放射線吸収効率が高くなるように、前記液滴が塗布される、前記<5>から<7>のいずれかに記載の造形物の製造方法である。
<9> (i)粉体層を形成する手段と、
(ii)放射線吸収剤を含んだ液滴を前記粉体層に塗布する手段と、
(iii)前記粉体層に放射エネルギーを付与する手段と、
(iv)前記(i)から(iii)の手段を繰り返す手段と、を有し、
前記(ii)の手段において、前記粉体層の表面に前記液滴を塗布することにより形成される造形領域を複数の区画に分画し、その分画した分画領域のうち一部の特定分画領域に対し、前記液滴を複数回塗布し、
前記(iii)の手段において、少なくとも前記特定分画領域が含まれる範囲に付与される放射強度が、変更可能である
ことを特徴とする造形物の製造装置である。
【0122】
前記<1>から<8>のいずれかに記載の造形物の製造方法、及び前記<9>に記載の造形物の製造装置によると、従来における前記諸問題を解決し、前記本発明の目的を達成することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0123】
【文献】特許第4691680号公報
【符号の説明】
【0124】
1 造形部
5 造形ユニット
7 ベース部材
10 液滴
11 粉体槽
12 平坦化ローラ
13 粉体除去板
20 粉体
21 供給槽
22 造形槽
23 供給ステージ
24 造形ステージ
25 余剰粉体受け槽
26、28 モータ
30 造形層
31 粉体層
50 液体吐出ユニット
51 キャリッジ
52、52a、52b 液体吐出ヘッド
54、55 ガイド部材
56 タンク装着部
60 タンク
61 メンテナンス機構
62 キャップ
63 ワイパ
71 ガイド部材
72 スライダ部
80 放射エネルギー源

図1
図2
図3
図4
図5A
図5B
図5C
図5D
図5E
図5F
図6
図7A
図7B
図8
図9
図10
図11A
図11B
図12
図13
図14
図15A
図15B
図15C
図15D
図15E
図15F
図15G
図16
図17A
図17B
図17C
図17D