(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-13
(45)【発行日】2022-09-22
(54)【発明の名称】コイル部品
(51)【国際特許分類】
H01F 27/00 20060101AFI20220914BHJP
H01F 27/02 20060101ALI20220914BHJP
H01F 41/10 20060101ALI20220914BHJP
H01F 17/04 20060101ALI20220914BHJP
【FI】
H01F27/00 Q
H01F27/02 120
H01F41/10 C
H01F17/04 Z
(21)【出願番号】P 2017231263
(22)【出願日】2017-11-30
【審査請求日】2020-11-10
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000204284
【氏名又は名称】太陽誘電株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100119378
【氏名又は名称】栗原 弘幸
(72)【発明者】
【氏名】北浦 恵美
(72)【発明者】
【氏名】小川 秀樹
【審査官】森岡 俊行
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-076559(JP,A)
【文献】特開2013-225718(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01F 27/00
H01F 27/02
H01F 41/10
H01F 17/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁性体とコイル部と端子電極とを有し、磁性体は硬化した樹脂と金属粒子と
空間とを少なくとも含み、磁性体の85vol%以上を前記金属粒子が占め、JIS Z 8730に規定されるL*a*b*表色系における磁性体の表面の明度Lが30~50であり、磁性体表面に
前記金属粒子の表面を覆う2μm以上の厚みを有する金属リン酸塩が点在し、コイル部は磁性体の内部及び/又は表面に形成されていて、端子電極は磁性体の表面に形成されコイル部と電気的に接続されている、コイル部品。
【請求項2】
磁性体が少なくとも1つの端子電極形成面を有する直方体状であり、前記端子電極形成面には端子電極の表面と磁性体の表面とが露出していて、端子電極形成面に露出する磁性体の表面の前記明度L及び端子電極形成面に露出する端子電極の表面の明度Mについて、前記Mに対する前記Lの比は0.7以下である、請求項1記載のコイル部品。
【請求項3】
磁性体の表面の一部にマーカー部を持ち、前記マーカー部の明度Nについて、前記Nに対する前記Lの比は0.75以下である、請求項2記載のコイル部品。
【請求項4】
磁性体表面に位置する金属粒子には標準電極電位が-0.7以下の金属を含む絶縁物が被覆されている請求項1又は2記載のコイル部品。
【請求項5】
請求項
2又は3のコイル部品を製造する方法であって、
コイル部を内部に包含し、硬化した樹脂と金属粒子とを少なくとも含む
表面の明度が58以上である硬化物を調製し、前記硬化物をリン酸処理に供し、次いで洗浄し、さらにリン酸塩処理に供することで、前記硬化物の表面に
前記金属粒子の表面を覆う2μm以上の厚みを有する金属リン酸塩を
点在するように生成せしめて、前記磁性体を得るステップを有する、
上記製造する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はコイル部品に関する。
【背景技術】
【0002】
インダクタ、チョークコイル、トランス等といったコイル部品(所謂、インダクタンス部品)は、磁性体と、前記磁性体の内部または表面に形成された被覆導線からなるコイル部とを有している。コイル部の両端には端子電極が設けられ、端子電極は通常は磁性体の表面に形成されている。近時の携帯機器の多機能化等に伴って、機器内部の電子部品の小型化及び高性能化の要請が高まっている。
【0003】
コイル部品の磁性体の一つの類型として、軟磁性金属からなる金属粒子と硬化した樹脂とを含む形態が挙げられる。この形態では、硬化した樹脂によって磁性体の絶縁性が確保される。
【0004】
特許文献1に開示されているコイル部品においては、材料組成におけるFe以外の元素の割合を高くすることによって絶縁性の確保と錆の抑制とを図っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、従来技術によると、磁性体に占める金属粒子の割合が相対的に低くなることから飽和特性が低下しがちとなる。これでは、金属粒子を含む磁性体を用いる最大のメリットが減殺されてしまう。この点を考慮して、金属粒子を高充填率にて含有せしめるために、また、金属粒子を固める樹脂などの量を少なくし、成形時の圧力を高くすることも考えられる。また、上記のような金属粒子の高充填化だけでなく、高抵抗化やコアロス低減のための金属粒子の小粒径化に伴って得られる磁性体の表面は、表面粗さが小さくなってきている。また、電子機器の小型化に伴って、端子電極を磁性体表面に直接形成することが求められている。上記の如く、磁性体表面の表面粗さが小さくなることで、金属表面のように光沢を呈すると、磁性体表面と端子電極との識別が困難になる。
【0007】
これらのことを考慮し、本発明は、金属粒子を高い充填率で含むこと、ならびに、端子電極と磁性体表面との識別性を向上させること、が高い次元で両立するコイル部品を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者が鋭意検討した結果、以下のような本発明を完成した。
本発明のコイル部品は磁性体とコイル部と端子電極とを有する。磁性体は硬化した樹脂と金属粒子とを少なくとも含む。磁性体の85vol%以上を前記金属粒子が占める。磁性体の表面の、JIS Z 8730に規定されるL*a*b*表色系における明度Lは30~50である。コイル部は磁性体の内部及び/又は表面に形成されている。端子電極は磁性体の表面に形成される。端子電極はコイル部と電気的に接続されていて、通常は、コイル部の両端に一つずつ形成される。
【0009】
磁性体は好ましくは直方体状である。この直方体状の磁性体の少なくとも1つの面は好ましくは端子電極形成面である。端子電極形成面には端子電極の表面と磁性体の表面とが露出している。ここで、端子電極形成面に露出する磁性体の表面の前記にて定義される明度をLとする。端子電極形成面に露出する端子電極の表面の前記にて定義される明度をMとする。Mに対するLの比は、好ましくは0.7以下である。
【0010】
磁性体の表面には、好ましくはマーカー部が形成される。マーカー部の前記に定義される明度をNとする。Nに対するLの比は、好ましくは0.75以下である。
【0011】
磁性体表面に位置する金属粒子には、好ましくは標準電極電位が-0.7以下の金属を含む絶縁物が被覆されている。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、磁性体の表面の明度が低いため、磁性体表面の画像処理が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明のコイル部品を模式的に表す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
図面を適宜参照しながら本発明を詳述する。但し、本発明は図示された態様に限定されるわけでなく、また、図面においては発明の特徴的な部分を強調して表現することがあるので、図面各部において縮尺の正確性は必ずしも担保されていない。
【0015】
本発明のコイル部品は磁性体とコイル部と端子電極とを有する。コイル部は磁性体の内部及び/又は表面に形成されている。コイル部は導線を螺旋形状に成したものや、めっきで形成される平面コイルなどが挙げられ、本発明ではコイル部の材質や形状については特に限定は無く、コイル部品における従来技術を適宜参照することができる。端子電極は磁性体の表面に形成される。端子電極はコイル部と電気的に接続される。通常は、コイル部を構成する導線の両端に一つずつ端子電極が形成される。端子電極はスパッタリング、導電性ペースト、またはニッケルなどの金属メッキなどによって形成することができ、本発明では端子電極の材質や形状などについては特に限定は無く、コイル部品における従来技術を適宜参照することができる。これらのいずれかの方法、または組合せにより端子電極が、金属表面と同様の表面状態を得られれば良く、端子電極はほぼ同様の平滑性のものとなる。
【0016】
図1は本発明のコイル部品を模式的に表す斜視図である。
図1のコイル部品1では、コイル部は磁性体10の内部に存在しているため、外観から視認できない。2つの端子電極21、22が磁性体10の同一の面に形成されている。
【0017】
本発明では、樹脂と金属粒子を含む複合磁性材料により構成され、樹脂を硬化して得られた磁性体が用いられる。なお、本発明において「金属粒子」は、Fe元素を含むもので、合金粒子であってもよい。典型的には、未硬化の熱硬化樹脂と金属粒子と混練した複合磁性材料を高圧下で成形し、得られた成形体を加熱して熱硬化樹脂を硬化させることによって磁性体が得られる。また、複合時勢材料をシート状にし、コイルを挟み込むことでコイルが埋め込まれた磁性体や、複合磁性材料をディスペンスを用いてコイルの外側をシールドするものなどもある。本発明の磁性体は、熱硬化樹脂が熱分解するような、いわゆる焼成を経るものではなく、あくまでも、樹脂としての分子構造が維持される程度の成形処理を経て得られるものである。本発明では、磁性体における絶縁性は主として硬化した樹脂によって確保される。
【0018】
磁性体に含まれる樹脂と金属粒子の材質については、特に限定は無く、コイル部品の従来技術を適宜参照することができる。金属粒子については、例えば、質量の過半をFeが占め、さらに、Si、Cr、Bなどの元素群から選ばれる1つ以上の元素が少量含まれる合金粒子などが挙げられる。樹脂としては例えば180℃程度で硬化し得る熱硬化樹脂が挙げられ、より具体的にはエポキシ樹脂などが例示される。
【0019】
本発明では、磁性体の85vol%以上を金属粒子が占める。このように金属粒子の存在割合を非常に高くすることにより飽和磁化特性が向上して、部品の小型化、高機能化に寄与する。好適には、磁性体の85~93vol%を金属粒子が占める。しかし、金属粒子の存在割合がこのように高いことにより、磁性体全体の平滑性が良くなると共に、絶縁低下を生じ易くなる。また、磁性体全体が金属光沢を呈するようになり、製造工程中の画像認識等による選別が困難になる。この懸念を本発明では以下の手段によって解決している。
【0020】
本発明では、磁性体の表面の、JIS Z 8730に規定されるL*a*b*表色系における明度Lが30~50である。磁性体の表面の少なくとも一部が前記範囲の明度を呈していればよく、好ましくは、磁性体の露出する表面の半分以上(面積基準)が前記範囲の明度を呈する。
【0021】
磁性体の表面の明度は以下のようにして測定する。
明度の測定に用いる測定器は380nm~780nmまでの波長の測定が可能な分光色差計・反射率計を用いた。これは、コイル部品の製造工程において画像認識に用いられるカメラの波長を考慮したものである。特に、磁性体の表面については、700nm前後の赤の波長領域では、磁性体の表面の状態を比較的認識しやすいことがわかった。このため、380nm~780nmの波長範囲で5nmずつ測定した。同様に、端子電極の表面、マーカー部分の表面、それぞれ磁性体の表面の測定した設定のまま行うことで比較を行った。特に、測定する試料面と測定器の位置(角度)は一定にする必要があると考え、磁性体の表面を測定後、試料を平行移動するテーブルを用いて角度が変化しないようにして、端子電極の表面、マーカー部分の表面、それぞれの測定を行っている。
【0022】
上述のように、金属粒子を極めて高い割合で含む磁性体の表面は金属光沢を呈して明度が高くなる。本発明では、明度を上述の範囲内にまで下げるために、例えば、磁性体をリン酸及び/又はリン酸塩で処理したり、マイクロバブル処理を施したりすることが挙げられる。
【0023】
リン酸やリン酸塩での処理としては、例えば、処理前の磁性体をまずリン酸水溶液に浸漬して、その後、磁性体を水で洗浄してからリン酸塩水溶液中で撹拌して、水で洗浄したから乾燥する方法が挙げられる。リン酸水溶液の濃度は好ましくは0.1~1.5mol/lである。リン酸塩としては例えば鉄塩、亜鉛塩、マンガン塩などが非限定的に挙げられる。特に、標準電極電位が-0.7以下の金属である、亜鉛、マンガンなどを含むリン酸塩の場合には、リン酸塩水溶液の濃度は好ましくは0.1~0.5mol/lである。これは、標準電極電位の低い金属材料を用いることで、リン酸塩水溶液の濃度を低くでき、これにより酸化物の形成を安定させることができ、酸化物の厚みを均一な状態にできる。2μmのような酸化物の厚みとすることができる。また、磁性体の表面の状態、または金属粒子の状態によって、それぞれの状態に合った処理が行う。異物などの付着による磁性体表面の汚れの場合は、アッシングを行ってからリン酸塩の処理を行う。また、磁性体の内部の空間に浸透してしまう汚れの場合は、マイクロバブルを行い、リン酸塩の処理を行う。金属粒子が露出し酸化しているような場合は、上記に示したようなリン酸液に浸漬してから、リン酸塩の処理を行う。いずれの方法でも、金属粒子の表面に金属塩が形成できれば良い。
【0024】
リン酸やリン酸塩で処理することにより、磁性体表面近傍で磁性体表面の露出している金属粒子のFe元素の代わりにリン酸亜鉛などの金属塩を形成することで、金属粒子表面を酸化物で覆われ、金属粒子のFe元素の露出する部分が減少、好ましくは無くなることが起こって、結果として、明度が低下するものと推察される。このような方法により、塗料などを使わないことで端子電極の表面を汚すようなこともなく、また磁性体の寸法などに影響することなく、磁性体の表面処理ができる。酸化物は、金属粒子表面に粒状の集合体を形成されるため連続した膜のようなものではなく、酸化物が点在するような状態であった。この酸化物は磁性体表面にわずかな凹凸を生み、またこの部分は黒色化するため、磁性体表面としては光沢が無くなる。この酸化物が形成される厚みとして2μm以上あれば良く、10μm以上とすることでほぼ安定した状態となった。これは、例えば、磁性体の表面に露出するFe元素の割合が少なくなり、反応が鈍化したことによる。この範囲であれば、Fe元素の露出が解消され、例えばこの後にめっき処理を行う場合でも、めっき液の影響を受けなく、錆などの発生を抑制できる。また、過剰な厚みとする必要はなく、おおよそ50μmを上限とする範囲に留めることでコイル部品の外形寸法に影響しない範囲の厚みとすることができる。また、これらの酸化物は絶縁性の高い酸化物であり、絶縁物でもある。
【0025】
リン酸塩での処理を施すと、磁性体表面に位置する金属粒子にリンの酸化物が被覆されることになり、錆の抑制を強くできるという点でも好ましい。
【0026】
図1に示すように、磁性体10は好ましくは直方体状である。磁性体10が形づくる直方体の少なくとも一面は端子電極形成面であることが好ましい。
図1の形態では、符号11、21、22で指し示される面が端子電極形成面である。好ましくは、端子電極形成面には磁性体の表面部分が露出するとともに、少なくとも一つの端子電極の表面も露出する。
図1の形態では、端子電極形成面には2つの端子電極21、22の表面と、磁性体10の表面11とが露出している。
【0027】
端子電極形成面における磁性体10の表面11の明度をLとし、端子電極形成面における端子電極21、22の表面の明度をMとする。好ましくは、Mに対するLの比は0.7以下であり、より好ましくは0.42~0.7である。端子電極形成面における磁性体10の表面11と端子電極21、22の表面との明度の差が大きくなることによって、画像解析等において磁性体10と端子電極21、22との区別がより明瞭になる。端子電極の表面は通常は金属光沢があり一定程度の高明度であるから、LとMとの比を上記範囲にするためには、磁性体10の表面11の明度を下げる処理が好ましく、上述したリン酸及び/又はリン酸塩による処理やマイクロバブル処理が好ましい。
【0028】
端子電極形成面を有するコイル部品1は、通常は、基板等に直接に取り付けられることが意図されている。その場合、直方体状を呈する磁性体10において、基板に実装される側の面に対抗する面にマーカー部が形成されていることが好ましい。マーカー部の存在によって、当該マーカー部が存在する面の対向面が基板に実装される側の面であることが明確になるからである。また、マーカー部を平面の中心以外に配置することにより、画像認識等によってコイル部品の方向性を把握することも可能になる。マーカー部形成面における磁性体10の表面12の明度をLとし、マーカー部の明度をNとする。好ましくは、Nに対するLの比は0.75以下である。よりは好ましくは0.55~0.75である。マーカー部には硬化した樹脂及び/又はガラスが含まれる。樹脂やガラスの存在により、磁性体表面の明度の変化を少なくできる。例えば、硬化後の状態が光を透過するような樹脂を選択すれば、磁性体表面の明度に近づけることができる。マーカー部の面積は好ましくはマーカー部の形成される磁性体10の面積の30%である。この範囲にすることで、マーカー部の明度に影響されることなく、磁性体10の画像認識ができる。つまり、マーカー部の明度が高い場合でも、この部分の反射の影響を周りに影響しないことになる。
【0029】
上記以外については、コイル部品の具体的な製法は特に限定は無く、また、コイル部品の具体的な構成についても特に限定は無く、従来技術を適宜参照することができる。また、以下の実施例における構成を適宜採り入れることもできる。
【実施例】
【0030】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明する。ただし、本発明はこれらの実施例に記載された態様に限定されるわけではない。
【0031】
以下の各製造例では、2.0mm×1.2mm×0.8mmのサイズの直方体状のコイル部品を製造した。金属粒子としてFeSiCrBとFeを用いた。熱硬化樹脂としてエポキシ樹脂(硬化温度150℃)を用いた。コイル部を構成する導線として絶縁被覆された平角線を用いた(UEW0.25×0.06mm)。
【0032】
(製造例1)
まず、上記導線からなる空芯コイルを形成した。空芯コイルから端子電極に接続するための引出し部を形成した。引出し部を空芯コイルの外側に向けくように配置した。これとは別に、97.5重量部の上記金属粒子と2.5重量部の上記熱硬化樹脂とを混合して磁性体原料の混合物を得た。この混合物を金型内部に適量入れて上記の引出し部を形成した後の空芯コイルをこの金型内部に入れ、この空芯コイルが埋設されるように更に磁性体原料の混合物を金型内部に入れた。金型内部に上下方向から8ton/cm2の圧力をかけることによって熱硬化前の直方体状の成形体を得た。この成形体を180℃に加熱することによって熱硬化樹脂を硬化せしめた。得られた硬化物の一面を研磨して上述の引出し部を露出させた。さらに研磨を続け、上述したサイズの直方体状の硬化物を得た。ここで得られた硬化物は、金属粒子が85vol%であって、硬化物の表面の明度が58となっている。
【0033】
この硬化物をリン酸及びリン酸塩処理に供した。具体的には、この硬化物をリン酸水溶液(1.0mol/l)に浸漬し、次いで水で洗浄し、さらにリン酸マンガン水溶液(10wt%溶液)に入れて約10分間撹拌し、取り出してから水で洗浄して乾燥した。
【0034】
次いで、以下のように端子電極を形成した。
まず、上述の引出し部が露出している面にスパッタリングによってTi次いでAgの膜を形成した。次いで、Ni/Snめっきを施すことにより、端子電極を得た。端子電極の中央部の厚みが0.02mmとなるようにめっきを調整した。以上のようにしてコイル部品を得た。端子電極の明度は71である。なお、端子電極は他の製造例でも同様に形成しており、端子電極の表面の明度は、他の製造例でも同じ明度である。
【0035】
(製造例2、3)
製造例1と同様に行い、撹拌時間を10分から15分、20分に変更したこと以外は製造例1と同様にしてコイル部品を得た。
【0036】
(製造例4)
製造例1と同様に行い、リン酸マンガン水溶液からリン酸亜鉛水溶液に変更し、撹拌時間を30分に変更したこと以外は製造例1と同様にしてコイル部品を得た。
【0037】
(製造例5~7)
製造例1と同様に行い、成形体を形成する圧力を10ton/cm2、13ton/cm2に変更したこと以外は製造例1と同様にしてコイル部品を得た。ここで得られた硬化物は、金属粒子は、それぞれ85vol%、88vol%、90vol%であって、硬化物の表面の明度は、それぞれ58、63、68であった。
【0038】
(製造例8)
磁性体原料の混合物について、97重量部の上記金属粒子と3重量部の上記熱硬化樹脂とを混合して得たこと以外は製造例1と同様にしてコイル部品を得た。
【0039】
端子電極形成面における明度を日本電色工業製VSS-400(測定エリア、φ0.7mm)で測定した。具体的には、コイル部品の端子電極形成面の、磁性体の露出部分(
図1における符号11)における明度L及び、端子電極(
図1における符号21)における明度Mをそれぞれ測定し、Mに対するLの比を求めた。測定結果は以下のとおりである。
また、抵抗の測定は、直流抵抗の測定を行い、低抵抗計として機器は356G(鶴賀電気製)を用いた。測定は、1mmの間を空けて磁性体表面にプローブを直接接触させる方法で行った。
磁性体の金属粒子の割合は、磁性体の研磨面における金属粒子の占める割合としている。測定については、試料を断面研磨し、走査型電子顕微鏡(SEM:Scanning Electron Microscope)により1000倍の倍率により、金属粒子の露出している部分が見えるようにコトラストを調整し、この画像の画像解析から金属粒子の露出している合計を金属粒子
の面積とし、画像全体に対する割合を求めている。
【0040】
【0041】
結果は表1のようになり、製造例1~7については、いずれも製造例8より磁性体の明度を低くできている。これにより、磁性体表面の光沢が抑えられ、コントラストの違いが見えるようになり、磁性体表面の状態を画像で識別できるようになった。また、端子電極形成面における磁性体10の表面11と端子電極21とを明瞭に識別できるようになった。
【0042】
(製造例9~11)
次に、製造例2、6、7と同様に行い、リン酸マンガン水溶液中で撹拌を行う前に磁性体表面の一部に樹脂を浸透させ、樹脂膜を形成すること以外は製造例2と同様にしてコイル部品を得た。
それぞれ磁性体表面の明度Lとマーカー部の表面の明度Nについて、同様に明度の測定を
行い、Nに対するLの比を求めた。
【0043】
【0044】
表2のように、マーカー部の明度は、硬化物の表面の明度をほぼ維持する結果となっており、これにより磁性体の表面とマーカー部との明度の差から、マーカー部の識別が可能となっている。
【0045】
また、別の実施例は、磁性体10の表面を樹脂層で覆われている。また、樹脂層は、樹脂と金属とを含んでおり、樹脂と金属はイオン結合している。樹脂は、熱硬化性のアクリル樹脂である。樹脂は、分子量の大きなものが良く、金属は、標準電極電位が-0.4以下のものが良い。
【0046】
以下、この樹脂層の形成方法になる。
この方法には、樹脂とイオン化された状態の添加金属イオンが含む樹脂の処理液を用いられる。添加金属イオンとしては、Fe、Cr、Zn、Mn、Al、Mg、Ca、K、Liが挙げられる。これら金属の元素は、標準電極電位が-0.4以下であり、イオン化しやすい性質を持つことで、イオン化した状態で樹脂中に存在させている。また、この処理液は、フッ化水素を含んでいる。
【0047】
処理としては、処理液に磁性体を浸漬する。処理液は磁性体の表面及び内部の金属粒子と反応させる。具体的には、フッ化水素が金属粒子から溶解金属イオンを発生させる。この溶解金属イオンの増加した部分では、添加金属イオンに溶解金属イオンが加わることで金属イオンが過剰となる。このため、この部分の処理液の樹脂がエマルジョンの状態を維持できなくなり、樹脂成分と共に金属イオンが磁性体表面に堆積が始まる。このためには、磁性体の表面に溶解金属イオンを作り出すためのものが露出している必要がある。例えば、磁性体表面としては、磁性体の金属粒子が露出していれば良い。金属粒子は、粒子が直接露出していても、溶解金属イオンを生じるもの、例えばリン酸亜鉛の酸化物や、Feの酸化物であっても良い。また、この樹脂層の厚みは、添加金属イオンの標準電極電位と濃度によって変えることができる。例えば、添加金属イオンは、標準電極電位を低いものほど反応し易く、堆積量を増やしたり、堆積時間を短くすることができる。または濃度を高くすることでも同様なことができる。ここで目的とする堆積量を確保したところで、洗浄を行う。余分な樹脂成分を取り除き、金属イオンを含む樹脂が磁性体の表面に残る。この後、金属イオンを含む樹脂を硬化される温度を磁性体に掛けることで、金属イオンを含む樹脂は架橋反応して、磁性体表面に樹脂層は形成される。
【0048】
このようにして形成された樹脂層は金属イオンを含むことで、透明度の低いものとなる。このため、磁性体表面の明度Lとしては、30~50とすることができる。また、樹脂層の厚みを10μm以上とすることで、磁性体表面の絶縁性を高くできる。また、樹脂層に含まれる金属を標準電極電位が-0.7以下とすることで、磁性体への影響を抑えつつ樹脂層を形成することがきできる。磁性体への影響とは、磁性体に含まれる金属粒子のFe成分の減少がある。これは、標準電極電位の高い金属イオンが存在する場合、Fe成分からFeイオンを発生することになり、金属粒子そのものが減少することになる。また、金属粒子に他の成分が含まれる場合も同様のことが起こる。このため、金属イオンの標準電極電位がFeの標準電極電位以下とすれば、少なくとも金属粒子からFe成分の金属イオンの発生を抑制することになる。これは、磁性体としての組成変化を抑えることにもなり、磁性体としての電気的特性の変化を小さくできることになる。更に、組成の異なる金属粒子を複数混合して磁性体を作る場合には、標準電極電位の低い金属の組成比の高い金属粒子の割合を高くする混合を行ない、磁性体とする方が良い。例えば、実施例に挙げたようなFeSiCrBとFeの金属粒子を混合する場合には、Feの金属粒子の占める割合を高くすることになる。これは、FeとCrでは、標準電極電位はFeの方が低く、Feの方が金属イオンとなるため、Feの金属粒子の方からのFeの金属イオンの発生を増やすことで、FeSiCrBの金属粒子の組成変化を小さくできることになる。
【0049】
本発明によれば、充填率の高い磁性体であっても、磁性体の表面の明度が低いため、磁性体表面の画像処理が可能となる。具体的には、例えば、磁性体の欠けやクラックなどの不良を検出できる。欠けた部分などには吸湿により経時的な欠陥拡大が懸念されるところであるが、本発明によって、そのような不良品は画像処理によって発見し除去することができるので、結果的に、信頼性が向上する。磁性体の表面の明度が低く、端子電極と磁性体との境界が容易に判別できるようになる。このため、端子電極の寸法不良などをより高精度に検出できる。具体的には、印刷のにじみやめっき伸びなどを検出できるようになり、結果として、不良品が確実に除去されるようになる。
【0050】
また、端子電極形成面と対向する磁性体の表面の明度を抑えることで、実装される面を識別できるようになり、部品の方向整列を確実にできるようになる。この結果、検査、テーピングでの不具合を解消できる。別の好適態様によれば、磁性体の表面の一部に周囲よりも高明度であるマーカー部を形成することにより、画像認識がより容易になる。さらに別の好適態様によれば、磁性体表面に酸化物または樹脂層が被覆された金属粒子が存在することによって、錆の発生が抑制と、絶縁性の確保が可能となる。
【0051】
実施例に挙げた方法であれば、いずれの方法でも絶縁性の膜を選択的に磁性体表面に形成できることから、端子電極の形成前であっても可能である。いずれの方法でも、端子電極の形成前でも、形成後でも、端子電極を汚してしまうようなことはない。このため、小型の部品に用いることができる。また、磁性体の金属粒子の露出度合いによっても磁性体表面の明度を変えることができ、異なる成分や異なる充填率の磁性体を組み合わせたりすることもできる。コイル部品としては、例えば、インダクタやコモンモードチョークコイルなどが挙げられる。
【符号の説明】
【0052】
1:コイル部品 10:磁性体
11、12:磁性体の表面
21、22:端子電極