(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-14
(45)【発行日】2022-09-26
(54)【発明の名称】液体を吐出する装置
(51)【国際特許分類】
B41J 2/01 20060101AFI20220915BHJP
B41J 2/135 20060101ALI20220915BHJP
B41J 3/28 20060101ALI20220915BHJP
【FI】
B41J2/01 301
B41J2/01 451
B41J2/135
B41J3/28
(21)【出願番号】P 2018180971
(22)【出願日】2018-09-26
【審査請求日】2021-07-12
(73)【特許権者】
【識別番号】000006747
【氏名又は名称】株式会社リコー
(74)【代理人】
【識別番号】100098626
【氏名又は名称】黒田 壽
(72)【発明者】
【氏名】西岡 国彦
(72)【発明者】
【氏名】小山内 洋平
(72)【発明者】
【氏名】奈良井 聡
(72)【発明者】
【氏名】平田 宗和
(72)【発明者】
【氏名】石田 雅俊
(72)【発明者】
【氏名】安藤 貴之
(72)【発明者】
【氏名】藤井 智也
(72)【発明者】
【氏名】大田 真志
【審査官】大浜 登世子
(56)【参考文献】
【文献】特開平02-253957(JP,A)
【文献】特開平08-142318(JP,A)
【文献】特開2013-151094(JP,A)
【文献】特開平08-207271(JP,A)
【文献】特開2016-157045(JP,A)
【文献】特開2013-184469(JP,A)
【文献】米国特許第06260942(US,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41J 2/01 - 2/215
B41J 3/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
装置本体に対して液体吐出ヘッドが着脱自在な液体を吐出する装置であって、
前記装置本体に設けられる温度検知部材と前記液体吐出ヘッドとを線接触させて温度検知を行う温度検知手段を有
し、
前記温度検知手段は、前記液体吐出ヘッド上の稜線部に前記温度検知部材の検知面を接触させて温度検知を行うことを特徴とする液体を吐出する装置
。
【請求項2】
請求
項1に記載の液体を吐出する装置において、
前記稜線部は、前記液体吐出ヘッドの吐出面側の稜線部であることを特徴とする液体を吐出する装置。
【請求項3】
請求項
1又は2に記載の液体を吐出する装置において、
前記温度検知部材の検知面上に、該検知面よりも大きい面積の熱伝導性シートを有することを特徴とする液体を吐出する装置。
【請求項4】
請求
項3に記載の液体を吐出する装置において、
前記熱伝導性シートは、前記検知面と、前記液体吐出ヘッドを保持するヘッド保持部とに支持されていることを特徴とする液体を吐出する装置。
【請求項5】
請求
項4に記載の液体を吐出する装置において、
前記熱伝導性シートにおける前記ヘッド保持部に支持されるシート端部は、前記液体吐出ヘッドの装着方向上流側の内壁面部分よりも前記熱伝導性シートの厚み分以上下がった内壁面部分に取り付けられていることを特徴とする液体を吐出する装置。
【請求項6】
請求
項4又
は5に記載の液体を吐出する装置において、
前記熱伝導性シートは伸縮性を有することを特徴とする液体を吐出する装置。
【請求項7】
請求項1乃
至6のいずれか1項に記載の液体を吐出する装置において、
前記装置本体に設けられ、かつ、前記温度検知手段とは異なる他の検知手段を構成する検知センサの回路基板上に、前記温度検知手段を構成する温度センサが実装されていることを特徴とする液体を吐出する装置。
【請求項8】
請求
項7に記載の液体を吐出する装置において、
前記検知センサは、吐出対象物に対する前記液体吐出ヘッドの位置を検知するための位置検知センサを含むことを特徴とする液体を吐出する装置。
【請求項9】
請求項1乃
至8のいずれか1項に記載の液体を吐出する装置において、
前記線接触の線方向に対して直交する方向への接触位置ずれが生じても、該線接触の接触長さが変化しないように構成されていることを特徴とする液体を吐出する装置。
【請求項10】
請求項1乃
至9のいずれか1項に記載の液体を吐出する装置において、
前記温度検知部材を前記液体吐出ヘッドへ押圧する押圧部材を有することを特徴とする液体を吐出する装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体を吐出する装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、装置本体に対して液体吐出ヘッドが着脱自在な液体を吐出する装置が知られている。
【0003】
例えば、特許文献1には、装置本体のコネクタに対して印字ヘッド(液体吐出ヘッド)が着脱可能なプリンタ(液体を吐出する装置)において、印字ヘッドの温度検知を行う温度検知手段を前記コネクタに備えたものが開示されている。このプリンタは、印字ヘッド装着時に印字ヘッドのヘッド側グランド端子に当接する基板側グランド端子を前記コネクタに備え、この基板側グランド端子にサーミスタ(温度検知部材)が当接する構成になっている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
装置本体に対して着脱される液体吐出ヘッドの温度検知を行う場合、温度の検知誤差精度の観点から、前記特許文献1に開示の構成のように基板側グランド端子を介して間接的に温度検知するのではなく、温度検知手段の温度検知部材を液体吐出ヘッドに直接接触させて温度検知する構成が望まれる。しかしながら、この構成では、液体吐出ヘッドの装着位置や装着姿勢の誤差によって、温度検知部材と液体吐出ヘッドとの接触状態がばらつき、検知温度のばらつきが大きいという課題がある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上述した課題を解決するために、本発明は、装置本体に対して液体吐出ヘッドが着脱自在な液体を吐出する装置であって、前記装置本体に設けられる温度検知部材と前記液体吐出ヘッドとを線接触させて温度検知を行う温度検知手段を有し、前記温度検知手段は、前記液体吐出ヘッド上の稜線部に前記温度検知部材の検知面を接触させて温度検知を行うことを特徴とする。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、装置本体に対して着脱される液体吐出ヘッドに温度検知部材を接触させて温度検知を行う場合の検知温度のばらつきを抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】実施形態に係るHMPを斜め上方から見た外観斜視図。
【
図2】HMP本体から、カバー部材を取り外した状態を示す外観斜視図。
【
図3】スペーサー部材を離脱させた状態のHMP本体を斜め下方から見た外観斜視図。
【
図4】HMP本体で記録材上に画像形成する様子を示す説明図。
【
図5】HMP本体の電気回路の一部を示すブロック図。
【
図6】スペーサー部材を装着した状態のHMP本体を斜め下方から見た外観斜視図。
【
図7】ローラ非接触形態のHMP本体が湾曲軌道に沿って移動操作されている様子を示す説明図。
【
図8】上部ユニットを開いた状態としたHMP本体の外観斜視図。
【
図9】インクジェットヘッドをリフトアップさせた状態のHMP本体の斜視説明図。
【
図10】(a)は、HMP本体の左側面の側の内壁面の位置における断面図。(b)は、同図(a)中の破線で示す領域αの拡大断面図。
【
図11】(a)は、上部ユニットを開いた状態とし、インクジェットヘッドを取り出した状態のHMP本体を正面側の斜め上方から見た斜視説明図。(b)は、同図(a)中の破線で示す領域βの拡大斜視図。
【
図12】(a)は、インクジェットヘッドを左背面側上方から見た斜視説明図。(b)は、インクジェットヘッドを右背面側下方から見た斜視説明図。
【
図14】(a)は、インクジェットヘッドのセンサ対向部にサーミスタが適切に面接触した比較例の底面図。(b)は、同比較例の側面図。
【
図15】(a)は、インクジェットヘッドのセンサ対向部にサーミスタが不適切に(傾斜状態で)接触した比較例の底面図。(b)は、同比較例の側面図。
【
図16】(a)は、インクジェットヘッドの稜線部にサーミスタが接触した実施例の底面図。(b)は、同実施例の側面図。
【
図17】(a)はサーミスタの検知面の法線方向から見た図。(a)は同サーミスタの検知面に平行な方向から見た図。
【
図18】(a)は、インクジェットヘッドとヘッド温度センサとを示す斜視図。(b)は、その正面図。
【
図19】変形例1において、サーミスタをインクジェットヘッドの稜線部に押圧するための押圧部材の一例を示す説明図。
【
図20】変形例1において、サーミスタをインクジェットヘッドの稜線部に押圧するための押圧部材の他の例を示す説明図。
【
図21】(a)は、インクジェットヘッドの稜線部がサーミスタの検知面から外れた様子を示す説明図。(b)は、変形例2において、サーミスタの検知面上に熱伝導性シートを設けた例の説明図。
【
図22】変形例2において、同熱伝導性シートの支持構成の一例を示す説明図。
【
図23】変形例2において、同熱伝導性シートの支持構成の他の例を示す説明図。
【
図24】変形例3のヘッド温度センサの支持構成を示す説明図。
【
図25】ホルダ部に装着されたインクジェットヘッドを切断してヘッド温度センサを示した斜視図。
【
図26】ホルダ部に装着されたインクジェットヘッドの断面図。
【
図27】(a)は、変形例4におけるヘッド温度センサの構成を示す側面図。(b)は、その正面図。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明を、携帯型画像形成装置であるハンディモバイル型インクジェットプリンタ(以下「HMP」という。)に適用した一実施形態について説明する。
まず、実施形態に係るHMPの装置本体の基本的な構成について説明する。
【0009】
図1は、実施形態に係るHMP10を斜め上方から見た外観斜視図である。
図2は、HMP10の装置本体であるHMP本体1から、カバー部材8を取り外した状態を示す外観斜視図である。
【0010】
本実施形態に係るHMP10は、HMP本体1と、HMP本体1に対して着脱可能な着脱部材であるスペーサー部材4と、スペーサー部材4が装着されたHMP本体1に対してスペーサー部材4を挟んで装着可能な装着部材であるカバー部材8とから構成されている。カバー部材8は、ABS樹脂などの樹脂製であり、その内壁面上に凹部81が形成されている。HMP本体1にカバー部材8が取り付けられると、HMP本体1に設けられる2つの突起部16が、カバー部材8に設けられる2つの凹部81に、それぞれスナップフィットによって引っ掛かる。これにより、HMP本体1にカバー部材8が取り付けられた状態が保持される。HMP本体1からカバー部材8を取り外す場合、ユーザーはHMP本体1をカバー部材8から引き抜くことで、スナップフィットにより引っ掛かっていた突起部16が凹部81から外れ、HMP本体1からカバー部材8を取り外すことができる。
【0011】
図3は、スペーサー部材4をHMP本体1から離脱させた状態のHMP本体1とスペーサー部材4を斜め下方から見た外観斜視図である。
同図に示されるHMP本体1は、上部ユニット2と下部ユニット3とから主に構成されている。HMP本体1は、全体的におおよそ直方体形状をなしており、その走査方向(=印字方向:図中矢印X方向)の長さは、ユーザーが掌で掴める程度である。
【0012】
HMP本体1の筐体は、後述するインクジェットヘッドの記録部(画像形成部)を用紙などの記録材に対面させる対向面である吐出面としての記録面30、これの反対面である上面31、記録面30における走査方向(図中矢印X方向)に対して直交する方向(図中矢印Y方向、以下「走査直交方向」という。)に延在する左側面32などを有している。また、走査直交方向に延在する右側面33、走査方向(X方向)に延在する背面34、走査方向に延在する正面35なども有している。HMP本体1は、通常、記録面30を鉛直方向下方に向けつつ、上面31を鉛直方向上方に向ける姿勢で使用される。
【0013】
上面31には、画像形成操作部としてのプリントボタン14と、電源操作部としての電源ボタン15とが設けられている。また、上部ユニット2の左側面32側には、USB接続口6が設けられている。USB接続口6はUSBケーブルを接続するためのものである。HMP本体1の中に装着された充電式のバッテリーに対し、USB接続口6に接続したUSBケーブルを介して外部の電源から電力を供給することで、バッテリーを充電することができる。
【0014】
下部ユニット3の正面35側には、下部ユニット3の幅狭部37よりも幅の広い上部ユニット2の幅広部21が位置している。下部ユニット3の幅狭部37の左右側面32,33には、ユーザーがHMP本体1を把持して使用する際に手の指を当てる位置(通常は、親指と、中指、薬指又は小指とをそれぞれ当てる位置)に、指当て部としての把持形状部38A,38Bが形成されている。ユーザーは、使用時、すなわち、画像形成のためにHMP本体1を記録材の表面上で走査方向(図中矢印X方向)に移動させる時には、幅広部21が手首側にくるようにして、左右側面32,33の各把持形状部38A,38Bにそれぞれ当てた指で下部ユニット3を挟み込むようにHMP本体1を把持する。
【0015】
本実施形態の把持形状部38A,38Bは、指の腹が引っ掛かる程度の浅い凹部あるいは溝によって構成され、ユーザーが把持したときに指が僅かに引っ掛かるように構成されている。なお、指当て部の形態は、上述したような凹形状や溝形状のものに限らず、例えば突起のような凸形状のものであってもよい。また、ユーザーが指を当てる位置を認識できるものであれば、形状によるものに限らず、その形状に代えて又はその形状と併せて、側面32,33の本体とは異なる色に着色した枠線等の図柄によるものであってもよい。
【0016】
走査直交方向において幅広部21が幅狭部37に比べて幅広になっているのは、カバー部材8をHMP本体1に取り付けたときに幅広部21の外壁面とカバー部材8の外壁面とが、
図1に示すように略平面となるようにするためである。
【0017】
ユーザーは電源ボタン15を長押しすることによってHMP本体1の電源の入切(ON/OFF)を切り替えることができる。このように、電源ボタン15の長押しにより電源が切れるようにすることで、後述するように、画像形成動作期間中における電源ボタン15の誤操作の抑制に寄与することができる。電源を入れた状態では、スマートフォンなどとの無線通信により、HMP本体1の上部ユニット2内に設けられた制御基板に対して画像情報を取得させることができる。その後、記録面30を記録材の表面に対面させる姿勢でHMP本体1を記録材の表面上に置いた後、プリントボタン14を一度押してから、
図4に示すようにHMP本体1を走査方向(X方向)に沿って移動させることで、記録材Pの表面に画像を形成することができる。なお、HMP本体1は、ユーザーの移動操作(手動走査)によって走査方向に沿って往復移動させる場合、往路と復路のそれぞれで、記録材の表面に画像を形成することができる。
【0018】
記録材Pは、用紙などの紙類に限定されるものではなく、OHP、布、段ボール、包装容器、ガラス、基板などのあらゆる画像形成対象が含まれる。
【0019】
上部ユニット2は下部ユニット3に対して開閉するように下部ユニット3に支持されている。下部ユニット3の内部には、インクタンクを一体で備えるインクタンク一体型のインクジェットヘッド40(液体吐出ヘッド)が装着されている。このとき、インクの液滴を吐出する記録部が鉛直方向下方に向けられる。このインクジェットヘッド40は、記録部からインクの液滴を吐出して画像を記録することで画像形成を行うものである。
【0020】
図3に示すように、HMP本体1の記録面30には、下部ユニット3内に装着されたインクジェットヘッド40の記録部を外部に露出させるための開口30aが設けられている。インクジェットヘッド40の記録部は、複数の吐出孔41を有しており、圧電素子の駆動によってそれぞれの吐出孔41からインクの液滴を個別に吐出することが可能である。
【0021】
インクジェットヘッド40においては、インクを吐出するための駆動源として、積層型圧電素子や薄膜型圧電素子等を用いた電気機械変換素子(圧電アクチュエータ等)、発熱抵抗体などの電気熱変換素子、振動板と対向電極とからなる静電アクチュエータなどを用いることができる。
【0022】
記録部の吐出孔41から吐出されるインク(液体)は、吐出孔41から吐出可能な粘度や表面張力を有する液体であればよく、特に限定されないが、常温常圧下において、又は加熱、冷却により粘度が30mPa・s以下になるものであることが好ましい。具体的には、インク(液体)は、水や有機溶媒等の溶媒、染料や顔料等の着色剤、重合性化合物、樹脂、界面活性剤等の機能性付与材料、DNA、アミノ酸やたんぱく質、カルシウム等の生体適合材料、天然色素等の可食材料、等を含む溶液、懸濁液、乳濁液等である。これらは、例えば、インクジェット用インク、表面処理液、電子素子や発光素子の構成要素や電子回路レジストパターンの形成用液、3次元造形用材料液等の用途で用いることができる。
【0023】
記録面30には、記録材上におけるHMP本体1の位置を検知する検知手段としての位置検知センサ59、回転可能な左側第一ローラ17a、左側第二ローラ17b、右側第一ローラ18a、右側第二ローラ18bなどが設けられている。
【0024】
HMP本体1はユーザーによって走査方向に移動操作されるときに、記録材の表面上に接触している前述した4つのローラを転動させる。このようなローラが設けられていることで、ユーザーはHMP本体1を走査方向に沿って直進させることができ、走査方向に往復移動させることができる。このとき、記録材の表面や記録材を載せた台の表面に接触するのは、HMP本体1に設けられる4つのローラだけであり、記録面30と記録材の表面との間を所定の距離だけ離間させている。このため、インクジェットヘッド40の記録部と記録材の表面との距離が一定に保たれ、所望の高画質の画像を形成することができる。
【0025】
位置検知センサ59は、記録材の表面までの距離や表面状態(例えば凹凸)を検知したり、HMP本体1の移動距離を検知したりするセンサであり、例えばパソコンの光学式マウス(ポインティングデバイス)などで使用されているものと同様のものを利用できる。位置検知センサ59は、HMP本体1が置かれている場所(記録材)に光を照射し、その部分の状態を「模様」として読み取る。そして、位置検知センサ59の動きに対してその「模様」がどのように移動するのかを連続して捉えることで、移動量を算出する。
【0026】
図5は、HMP本体1の電気回路の一部を示すブロック図である。
制御基板57は、各種の演算処理やプログラム実行を行うCPU55、近距離無線通信用のBt(Bluetooth(登録商標))基板52、データを一時記憶するRAM53、ROM54、記録制御部56などを有している。この制御基板57は、上部ユニット2の中空内において、USB接続口6の裏側の位置に固定されている。
【0027】
Bt基板52は、スマートフォンやタブレット端末などの外部機器との近距離無線通信(Bluetooth通信)によってデータ通信を行うものである。また、ROM54は、HMP本体1のハードウェア制御を行うファームウェアや、インクジェットヘッド40の駆動波形データ等を格納するものである。また、記録制御部56は、インクジェットヘッド40を駆動させるためのデータ処理を実行したり、駆動波形を生成したりするものである。
【0028】
制御基板57には、ジャイロセンサ58、位置検知センサ59、LEDランプ14a,15a、インクジェットヘッド40、プリントボタン14、電源ボタン15、バッテリー51、ヘッド温度センサ50などが電気的に接続されている。
【0029】
ヘッド温度センサ50は、HMP本体1に対して着脱自在なインクジェットヘッド40の温度を、インクジェットヘッド40にサーミスタ(温度検知部材)を接触させることにより検知する温度検知手段である。本実施形態では、吐出されるインクの粘度を一定に保つために、インクジェットヘッド40に設けられるヘッドヒータをヘッド温度センサ50の検知結果に基づいてフォードバック制御し、インクジェットヘッド40内のインクの温度を目標温度にコントロールする。ヘッド温度センサ50の詳細については後述する。
【0030】
ジャイロセンサ58は、周知の技術により、HMP本体1の傾きや回転角度を検知して、その結果を制御基板57に送信するものである。LEDランプ14aは、プリントボタン14における光透過性の材料からなる外装カバーの内部に設けられ、プリントボタン14を発光させるものである。同様に、LEDランプ15aは、電源ボタン15における光透過性の材料からなる外装カバーの内部に設けられ、電源ボタン15を発光させるものである。
【0031】
電源ボタン15を押してHMP本体1の電源を入れると、各モジュールに電力が供給され、CPU55はROM54に格納されているプログラムに基づいて起動動作を開始し、プログラムや各データをRAM53に展開する。画像データを外部機器から近距離無線通信によって受信すると、記録制御部56は、受信した画像データに応じた駆動波形を生成する。そして、位置検知センサ59によって検知された記録材の表面上の位置に応じた画像を形成するようにインクジェットヘッド40からのインクの吐出を制御する。
【0032】
また、制御基板57は、外部機器との近距離無線通信によって画像データを取得すると、LEDランプ14aを点滅させることで、光透過性のあるプリントボタン14を発光点滅させる。これを見たユーザーは、HMP本体1が画像データの取得中であることを知ることができる。制御基板57は、画像データの取得が完了して画像形成動作が可能な状態になると、LEDランプ14aの点滅を連続点灯に変更する。これを見たユーザーは、画像形成動作が可能な状態になったことを知り、HMP本体1を記録材上に置いてプリントボタン14を押す。
【0033】
一方、制御基板57は、LEDランプ14aを連続点灯にしたら、プリントボタン14が押されるのを待機する。そして、プリントボタン14が押されると、LEDランプ14aを点滅させることで、プリントボタン14を発光点滅させる。これを見たユーザーは、画像形成動作中になったことを知り、HMP本体1の走査方向への移動操作(手動走査)を開始する。
【0034】
HMP本体1の移動操作(手動走査)を終えたユーザーは、プリントボタン14をもう一度押す。これにより、制御基板57は、LEDランプ14aを消灯させて、プリントボタン14の発光を停止させる。また、プリントボタン14を押さずにHMP本体1を記録材から取り上げて、卓上などにそのまま置いたり、カバー部材8に取り付けて置いたりする場合もある。この場合、位置検知センサ59は、HMP本体1が記録材上から取り上げられたときに、位置の検知ができなくなるので、制御基板57は、位置検知センサ59が位置を検知しなくなったタイミングで、LEDランプ14aを消灯させて、プリントボタン14の発光を停止させる。
【0035】
なお、移動操作(手動走査)中にプリントボタン14を押し続ける必要はない。移動操作に先立ってプリントボタン14を押して離せば、位置検知センサ59による検知結果に基づく画像形成処理が、画像形成の終了まで、プリントボタン14がもう一度押されるまで、あるいは、位置検知センサ59による位置検知不能まで、継続される。
【0036】
HMP本体1は、左側ローラユニット17と、右側ローラユニット18とを有している。左側ローラユニット17は、HMP本体1の走査方向(X方向)における左側面32側の端部に取り付けられる。また、右側ローラユニット18は、HMP本体1の走査方向における右側面33側の端部に取り付けられる。
【0037】
左側ローラユニット17は、金属製の軸部材17cと、これの長手方向における一端側に固定された左側第一ローラ17aと、他端側に固定された左側第二ローラ17bとを具備している。左側第一ローラ17a及び左側第二ローラ17bは、それぞれ、ゴムなどの摩擦抵抗の大きな材料からなる。
【0038】
右側ローラユニット18は、金属製の軸部材18cと、これの長手方向における一端側に固定された右側第一ローラ18aと、他端側に固定された右側第二ローラ18bとを具備している。右側第一ローラ18a及び右側第二ローラ18bも、それぞれ、ゴムなどの摩擦抵抗の大きな材料からなる。
【0039】
左側ローラユニット17は、軸部材17cの長手方向における両端付近のそれぞれがHMP本体1に固定された滑り軸受けに係合することで、滑り軸受けに回転可能に保持される。右側ローラユニット18も左側ローラユニット17と同様にして、HMP本体1に固定された滑り軸受け72に回転可能に保持される。
【0040】
左側ローラユニット17や右側ローラユニット18は、HMP本体1の走査方向(X方向)への直進走行性を高めるためのものである。互いに軸部材17cに固定された左側第一ローラ17aと左側第二ローラ17bとが一体的に回転しつつ、互いに軸部材18cに固定された右側第一ローラ18aと右側第二ローラ18bとが一体的に回転することで、直進走行性を高める。
【0041】
本実施形態のHMP本体1は、走査直交方向(Y方向)において、記録部の位置から外れた位置を、ローラユニット17,18における各ローラ17a,17b,18a,18bの配設位置にしている。このような配設位置では、HMP本体1を移動操作しているときに、形成直後画像部分に対してローラ17a,17b,18a,18bが接触することがない。よって、ローラ17a,17b,18a,18bの接触によって画像が乱れるのを回避することができる。
【0042】
ローラユニット17,18の回転軸としての軸部材17c,18cとしては、上述したように金属製のものを用いている。非金属製のものを用いる構成に比べて、HMP本体1の移動操作中における軸部材の撓みを抑えることで、軸部材の撓みでHMP本体1の走行を不安定化させることによる画像の乱れを抑えることができる。更には、軸部材として小径のものを用いてHMP本体1の小型化を図ることもできる。
【0043】
ここで、本実施形態のHMP本体1のようにローラ17a,17b,18a,18bを備えた構成においては、上述したとおり、ユーザーがHMP本体1を走査方向へ移動操作(手動走査)するときの直進走行性を確保できる。しかしながら、HMP本体1を湾曲軌道に沿って移動操作するときには、ローラ17a,17b,18a,18bが湾曲軌道に沿った移動操作を妨げ、良好な手動走査の邪魔になる。
【0044】
また、一行目の記録を行った後に続けて二行目の記録を行う場合、位置検知センサ59による位置検知が不能にならないように、記録面30を記録材の表面に対向させた姿勢のまま、走査直交方向へHMP本体1を移動させる改行操作が必要となる。この改行操作においても、HMP本体1のローラ17a,17b,18a,18bが走査直交方向への移動を妨げ、良好な改行操作の邪魔になる。
【0045】
そこで、本実施形態のHMP10は、HMP本体1の記録面30に対して着脱可能なスペーサー部材4を設け、スペーサー部材4の着脱によってHMP10の使用形態を切り替えられるようになっている。具体的には、記録材Pを載置された台の表面又は記録材Pの表面にローラ17a,17b,18a,18bを接触させて転動させながら走査するローラ接触形態と、当該表面にローラ17a,17b,18a,18bを接触させないローラ非接触形態とにすることができる構成になっている。
【0046】
図6は、スペーサー部材4をHMP本体1に装着した状態のHMP本体1を斜め下方から見た外観斜視図である。
HMP本体1からスペーサー部材4を離脱させた場合、HMP10は、
図3に示すように、記録材P等の表面にHMP本体1のローラ17a,17b,18a,18bを接触させて転動させながら走査するローラ接触形態で使用できる。これにより、ローラ17a,17b,18a,18bによる直進走行性によって、ユーザーはHMP本体1を容易に走査方向に沿って真っ直ぐに移動操作することができ、適切な画像を形成することができる。一方、HMP本体1の記録面30にスペーサー部材4を装着すると、HMP10は、
図6に示すように、記録材P等の表面にHMP本体1のローラ17a,17b,18a,18bを接触させないで走査するローラ非接触形態で使用できる。
【0047】
スペーサー部材4は、下部ユニット3の記録面30に対して磁石で着脱されるようになっている。具体的には、スペーサー部材4には、HMP本体1の記録面30にスペーサー部材4を装着したとき、記録面30に露出している2つの磁性体である締結部材としての金属ネジのネジ頭39aに対向する位置に、それぞれ磁石42が位置するように設けられている。なお、本実施形態1では、スペーサー部材4に設けられる磁性体が金属ネジ等の締結部材である例で説明するが、スペーサー部材4の金属フレーム等のフレーム部材であってもよい。このようなフレーム部材は、通常、剛性を確保するために金属製であり、磁性体として利用できる。
【0048】
また、
図3に示すように、下部ユニット3の記録面30とスペーサー部材4との位置合わせのため、記録面30上には、位置合わせ突起39bと位置合わせ孔39cとが形成されている。そして、スペーサー部材4には、これらに対応する位置に、位置合わせ突起39bが入り込む位置合わせ孔43と、位置合わせ孔39cに入り込む位置合わせ突起が形成されている。これらの位置合わせ突起及び位置合わせ孔が相手側の位置合わせ孔及び位置合わせ突起と嵌り合うように、記録面30に対してスペーサー部材4が適切に位置合わせされると、スペーサー部材4上の磁石42が記録面30のネジ頭39aに対向し、
図6に示すように、磁石42の磁力によってスペーサー部材4が記録面30に装着、保持される。
【0049】
スペーサー部材4は、その本体がABS樹脂などの樹脂製であり、その記録材対向面(装着時に記録面30と対面する側とは反対側の面)には、HMP本体1を三点支持するための3つの突起44が設けられている。HMP本体1の記録面30に装着されたスペーサー部材4の突起44の先端は、ローラ17a,17b,18a,18bよりも記録面30に対して記録材Pと対向する方向に遠い位置にある。このため、スペーサー部材4を装着した状態のHMP本体1が記録材P上に置かれると、突起44の先端が記録面30の表面に接触し、ローラ17a,17b,18a,18bを記録材Pの表面から浮かせる。これにより、HMP10はローラ非接触形態となる。
【0050】
ローラ非接触形態でHMP10を使用する場合、ユーザーは、HMP本体1を把持して、スペーサー部材4が装着された状態の記録面30が記録材Pの表面に対面するように置く。このとき、HMP本体1は、スペーサー部材4の3つの突起44によって、ローラ17a,17b,18a,18bが記録材Pの表面から浮いた状態で、記録材P上に三点支持される。そして、ユーザーは、記録材Pの表面に3つの突起44を摺動させるようにしてHMP本体1を移動操作(手動走査)し、記録材P上に画像を形成することができる。
【0051】
図7は、湾曲軌道に沿って移動操作されているローラ非接触形態のHMP本体1を示す斜視図である。
ローラ非接触形態では、ローラ17a,17b,18a,18bが記録材Pの表面から浮いた状態であるため、HMP本体1を走査方向(X方向)とは異なる方向への移動操作(手動走査)が、ローラ17a,17b,18a,18bによって邪魔されることがない。そのため、ローラ接触形態に比べて、HMP本体1の湾曲走行性が向上する。よって、湾曲軌道に沿ったHMP本体1の移動操作を容易に行うことができる。
【0052】
また、走査方向に沿って一行目の記録を行った後、走査直交方向の異なる位置に走査方向に沿って二行目の記録を行う場合、記録面30を記録材の表面に対向させた姿勢のまま、走査直交方向へHMP本体1を移動させる改行操作を行う場合にも、ローラ17a,17b,18a,18bによって邪魔されることがない。よって、ローラ接触形態に比べて、改行操作時の操作性が向上する。なお、ローラ非接触形態では、ローラ17a,17b,18a,18bによる直進走行性が得られないため、ユーザーは、ローラ17a,17b,18a,18bの補助がない状態で、走査方向へ直進させる必要がある。
【0053】
本実施形態のスペーサー部材4に設けられる3つの突起44は、いずれも、走査直交方向(Y方向)において、インクジェットヘッド40の記録部(複数の吐出孔41)の位置から外れた位置に配設されている。これにより、ローラ非接触形態での画像形成時に、形成直後画像部分を突起44で擦って画像を乱してしまうことを防止することができる。
【0054】
次に、本実施形態のHMP10のインクジェットヘッド40の取り出し動作について説明する。
図8は、下部ユニット3に対して上部ユニット2を図中矢印Bの方向へ回転させて開いた状態を示すHMP本体1の斜視図である。
HMP本体1の下部ユニット3の正面側端面の下部には、ロック爪11が配置されている。ロック爪11を
図8中矢印Cの方向に移動させるように操作することで、上部ユニット2の下部ユニット3に対する固定が解除される。固定を解除した状態で、下部ユニット3に対して上部ユニット2を、上部ユニット回転軸3aを中心に
図8中矢印Bの方向へ回転させることで、
図8に示すように上部ユニット2が開いた状態となる。
【0055】
上部ユニット2を開いた状態にすることで、HMP本体1の内部に配置されているインクジェットヘッド40とカートリッジ着脱機構12とが露出する。また、上部ユニット2の内面には、下部ユニット3内に装着されたインクジェットヘッド40を押さえて係止するためのヘッド押さえ付勢部材22が設けられている。
【0056】
図9は、
図8に示す状態のHMP本体1のカートリッジ着脱機構12の着脱操作部12aを操作して、インクジェットヘッド40をリフトアップさせた状態のHMP本体1の斜視図である。
カートリッジ着脱機構12の着脱操作部12aを
図9中矢印Dで示すように正面側に引くことで、
図8に示す状態からインクジェットヘッド40がリフトアップして、
図9に示す状態となり、インクジェットヘッド40を取り出すことが可能な状態となる。
【0057】
図10(a)は、
図8に示すHMP本体1を左側面32側から見た断面図である。
図10(a)に示す断面は、HMP本体1の左側面32の側の内壁面の位置における断面図である。また、
図10(b)は、
図10(a)中の破線で示す領域αの拡大断面図である。
【0058】
図10(a)に示すように、インクジェットヘッド40の正面側(
図10(a)の右側)の面を、カートリッジ着脱機構12の加圧部12cが加圧することで、
図10(a)中矢印Eで示すように、インクジェットヘッド40を背面側(
図10(a)の左側)へ加圧する。これにより、HMP本体1に設置されているFPC接点部13にインクジェットヘッド40の接点が加圧される構成となっている。
【0059】
図11(a)は、上部ユニット2を開いた状態とし、インクジェットヘッド40を取り出した状態のHMP本体1を正面側の斜め上方から見た斜視説明図である。
図11(b)は、
図11(a)中の破線で示す領域βの拡大斜視図である。
図11(a)に示すように、下部ユニット3におけるインクジェットヘッド40を配置する空間の背面側の内壁面には、FPC接点部13が配置されている。
【0060】
図12(a)及び(b)は、インクジェットヘッド40の単体の斜視説明図である。
図12(a)は、インクジェットヘッド40を左背面側上方から見た斜視説明図であり、
図12(b)は、インクジェットヘッド40を右背面側下方から見た斜視説明図である。
図12(a)及び(b)に示すように、インクジェットヘッド40の背面側の外壁面には、カートリッジ接点部40bが配置されている。
【0061】
インクジェットヘッド40を下部ユニット3に装着し、FPC接点部13とカートリッジ接点部40bとが電気的に接続されることで、バッテリー51からインクジェットヘッド40へ電力が供給される。また、インクジェットヘッド40を制御する電気信号がインクジェットヘッド40に伝達される。
【0062】
図8に示すように、上部ユニット回転軸3aの背面34の側には、フレキシブルフラットケーブル25が配置されており、上部ユニット2内の制御基板57と、下部ユニット3内のFPC接点部13とを接続している。フレキシブルフラットケーブル25は、上部ユニット2の開閉動作に合わせて変形可能であり、上部ユニット2の開閉動作を繰り返しても制御基板57とFPC接点部13との接続状態を維持することができる。
【0063】
図13は、HMP本体1を左側面32側から見た断面図である。
図13に示す断面は、
図10と同様に、HMP本体1の左側面32の側の壁の内壁面の位置における断面図である。
カートリッジ着脱機構12の着脱操作部12aを
図13中矢印Dで示すように、正面35の側に引くことで、カートリッジ着脱機構12が着脱機構回転軸12eを中心に正面35の側に回転する。このとき、カートリッジ着脱機構12は、カートリッジ着脱機構12に設けられたストッパー凸部12dが、HMP本体1の内壁面に設けられたストッパー溝に嵌る位置まで回転する。この回転により、カートリッジ着脱機構12の押上レバー12bがインクジェットヘッド40の鍔部40aを押し上げ、
図8に示した状態からインクジェットヘッド40がリフトアップして、
図9に示した状態(
図13に示す状態)とする。これにより、インクジェットヘッド40を取り出すことが可能な状態となる。
【0064】
本実施形態のHMP本体1は、ロック爪11を操作することで、下部ユニット3に対する上部ユニット2の固定を解除して、上部ユニット2を開いた状態する。これにより露出したカートリッジ着脱機構12を操作することで、インクジェットヘッド40がリフトアップする。カートリッジ着脱機構12としては、上部ユニット2を開いた状態とする動作に連動して、インクジェットヘッド40をリフトアップする機構としてもよい。
【0065】
インクジェットヘッド40をHMP本体1に装着する場合、上部ユニット2が開いた状態のHMP本体1に対して、下部ユニット3の空洞部にインクジェットヘッド40をセットする。このとき、
図9に示す状態にセットしたインクジェットヘッド40の上面を押圧するように操作して、
図8に示す状態までインクジェットヘッド40を挿入し、上部ユニット2を閉める。これにより、装着したインクジェットヘッド40を用いて画像形成を行うことができるようになる。
【0066】
また、本実施形態のHMP1では、
図9に示す状態にセットしたインクジェットヘッド40の上面を押圧操作しなくても、
図9に示す状態で上部ユニット2を閉めることが可能である。この場合、リフトアップしたときと同じ位置にあるインクジェットヘッド40の上面を上部ユニット2のヘッド押さえ付勢部材22が押圧し、インクジェットヘッド40は
図8に示す状態まで挿入される。
【0067】
本実施形態のHMP本体1は、インクジェットヘッド40を着脱する際に開閉される部材が上部ユニット2のみである。このため、このような開閉部材を複数備える構成に比べて、構成の簡素化、装置の小型化を図ることができ、さらに、ユーザーが開閉する部材数が少なくなることで、インクジェットヘッド40を着脱する際の操作工数を削減でき、操作性の向上を図ることができる。
【0068】
次に、本実施形態におけるインクジェットヘッド40の温度検知について説明する。
本実施形態において、インクジェットヘッド40の温度検知を行うヘッド温度センサ50は、インクジェットヘッド40にサーミスタ(温度検知部材)を接触させることにより温度検知を行う。通常、インクジェットヘッド40にサーミスタを接触させて温度検知を行う場合、接触面積をなるべく大きく確保するために、サーミスタの検知面をインクジェットヘッド40の面に面接触させ、温度の検知誤差精度(本来の温度と検知温度との誤差を小さくすること)を確保しようとする。
【0069】
図14(a)及び(b)は、インクジェットヘッド40の底面(HMP本体1の記録面30側の面)のうち、吐出孔41が設けられた記録部から外れたセンサ対向部45(HMP本体1の位置検知センサ59に対向する部分)に、サーミスタを面接触させる比較例を示す説明図である。
図14(a)は、サーミスタを省略して接触面積E’を説明するための底面図であり、(b)は、サーミスタの接触状態を説明するための側面図である。
【0070】
図14(a)及び(b)に示すように、サーミスタ50aがインクジェットヘッド40のセンサ対向部45の面に隙間をあけずに適切に面接触している場合、その接触面積E’は、サーミスタ50aの検知面と同じ面積を確保できる。しかしながら、HMP本体1に対して着脱自在なインクジェットヘッド40は、通常、装着位置や装着姿勢の誤差が生じ、装着のたびに装着位置や装着姿勢がばらつく。したがって、インクジェットヘッド40のセンサ対向部45の面が、
図14(a)及び(b)に示すようにサーミスタ50aの検知面に対して適切に面接触する場合もあれば、
図15(a)及び(b)に示すようにサーミスタ50aの検知面に対して傾いて接触するなど、不適切に接触する場合がある。また、インクジェットヘッド40のセンサ対向部45の面から、サーミスタ50aの検知面が部分的に外れて接触するなどの不適切な接触も起こり得る。
【0071】
また、仮に装着位置や装着姿勢のばらつきが少ない場合でも、サーミスタ50aの位置や姿勢が製造誤差や組付誤差によってばらついたり、組付後に何かが引っ掛かる等してサーミスタ50aの位置や姿勢が正規の位置や姿勢からずれてしまったりする場合には、定常的に不適切な接触が発生し得る。
【0072】
以上のように、
図15(a)および(b)に示すような不適切な接触状態では、その接触面積E’’が、
図14(a)および(b)に示す適切な接触状態の接触面積E’と比べて大きく異なる結果を招く。そのため、不適切な接触状態での検知温度と適切な接触状態での検知温度との差が大きいものとなる。その結果、サーミスタ50aとインクジェットヘッド40とを面接触させて温度検知する構成では、装着のたびにサーミスタ50aとインクジェットヘッド40との接触状態がばらつき、これにより検知温度が大きくばらついてしまう。また、サーミスタ50aとインクジェットヘッド40との不適切な接触状態が定常的に生じる状況では、検知温度の誤差が大きくなってしまい、適切な温度検知ができなくなる。
【0073】
そこで、本実施形態におけるヘッド温度センサ50は、サーミスタ50aとインクジェットヘッド40とを線接触させて温度検知を行う構成を採用している。具体的には、
図16(a)及び(b)に示すように、インクジェットヘッド40上の稜線部、より詳しくは、インクジェットヘッド40の記録部側(吐出孔41が形成された吐出面側)の稜線部、更に詳しくは、インクジェットヘッド40のセンサ対向部45の稜線部45aに、サーミスタ50aの検知面を接触させる構成を採用している。
【0074】
このように線接触する構成であれば、その接触面積Eが面接触の場合の接触面積E’よりも少ないので、多少の装着位置あるいは装着姿勢のずれがあっても、不適切な接触状態と適切な接触状態とでの接触面積の変化が少なく抑えられる。そのため、不適切な接触状態での検知温度と適切な接触状態での検知温度との差が小さく、検知温度のばらつきを少なく抑えることができる。
【0075】
特に、本実施形態によれば、
図16(b)の矢印Fに示すように線接触の線回りで回転するようにインクジェットヘッド40が傾いて装着された場合にも、傾きの無い状態で装着された場合と同様の接触状態(接触面積一定)が維持されるので、検知温度のばらつきを少なく抑えることができる。また、同様に、線接触の線回りにおけるサーミスタ50aの設置誤差については、その設置誤差の無い状態と同様の接触状態(接触面積一定)を維持できるので、温度の検知誤差が小さく、適切な温度検知が可能となる。
【0076】
また、線接触の線方向に対して直交する方向への装着位置ずれ(接触位置ずれ)が生じても線接触の接触長さが変化しないように、サーミスタ50aの形状は線接触の線方向長さが一定である形状(正方形状、長方形状など)であるのが好ましい。これにより、線接触の線方向に対して直交する方向への装着位置ずれ(接触位置ずれ)が生じても、接触状態(接触面積一定)が維持されるので、検知温度のばらつきを少なく抑えることができる。また、同様に、温度の検知誤差が小さく、適切な温度検知が可能となる。
【0077】
なお、本実施形態のようにサーミスタ50aとインクジェットヘッド40とが線接触する構成の場合、接触面積Eが面接触の場合よりも少ないため、温度の検知誤差精度は面接触の場合よりも落ちる。ただし、より正確な温度を知ることよりも、検知温度のばらつきを抑えた方が、インクの温度を安定して制御でき、インクの粘度を安定して適正範囲に維持することが可能である。
【0078】
ここでいう「線接触」とは、厳格な意味での線接触を意味するものではなく、一定の幅をもって接触するものであり、接触形状が細長い長尺形状であるものを意味する。
【0079】
図17(a)及び(b)は、ヘッド温度センサ50の構成を示す説明図であり、
図17(a)はサーミスタ50aの検知面の法線方向から見た図であり、
図17(a)はサーミスタ50aの検知面に平行な方向から見た図である。
本実施形態のヘッド温度センサ50は、サーミスタ50aから延びるリード線50cとサーミスタ50aとをシリコーン樹脂等の樹脂50bでコーティングした構成となっている。インクジェットヘッド40からサーミスタ50aへの伝熱によって変化するサーミスタ50aの抵抗値は、制御基板57上のCPU等によって実現される測定部で測定することにより、インクジェットヘッド40の温度検知を行う。
【0080】
図18(a)は、インクジェットヘッド40とヘッド温度センサ50とを示す斜視図であり、
図18(b)は、正面図である。
本実施形態において、サーミスタ50aのリード線50cは、位置検知センサ59の回路基板59cに半田付けされており、ヘッド温度センサ50の測定部は制御基板57によって構成される。位置検知センサ59は、回路基板59cの上面側(インクジェットヘッド40のセンサ対向部45側)に、画像センサが実装されたセンサ基板59bが取り付けられており、回路基板59cの下面側に、撮像用レンズ59aが取り付けられた構成となっている。
【0081】
このように、本実施形態のヘッド温度センサ50は、位置検知センサ59の回路基板59cに実装されているため、ヘッド温度センサ50用の回路基板を別途設ける必要がなく、省スペース化に有利である。
【0082】
このとき、サーミスタ50aは、インクジェットヘッド40の稜線部45aと線接触する際に稜線部45aによって押圧されるので、その押圧力がリード線50cを介して回路基板59c上の半田部分に伝達され、半田剥がれが生じるおそれがある。そのため、サーミスタ50aのリード線50cの半田部分を樹脂で覆って固定するのがよい。これにより、押圧力が樹脂で受け止められる結果、半田部分に伝達されず、半田剥がれを抑制できる。
【0083】
また、本実施形態では、インクジェットヘッド40から吐出されるインクの粘度を管理するために、インクジェットヘッド40内のインクの温度を検知することから、できるだけ吐出孔41に近い場所のインクの温度を検知するのが好ましい。そのため、
図18(a)に示すように、サーミスタ50aのリード線50cは、位置検知センサ59の回路基板59cのうち吐出孔41に近い箇所に取り付けられており、サーミスタ50aが吐出孔41に近い場所でインクジェットヘッド40に線接触するようにしている。
【0084】
また、本実施形態のインクジェットヘッド40は、サーミスタ50aが接触する稜線部45aが鋭利な角部ではなく、R形状になっている。このようなR形状の稜線部45aに対し、サーミスタ50aの略平面あるいは凸形状の検知面が当接することで、線接触が実現されている。
【0085】
本実施形態においては、インクジェットヘッド40が装着されるとき、具体的には、
図9に示す状態にセットしたインクジェットヘッド40の上面を押圧操作して、
図8に示す状態までインクジェットヘッド40を挿入するとき、インクジェットヘッド40の稜線部45aがHMP本体1側のサーミスタ50aに押し付けられる。このとき、リード線50cや樹脂50bの弾性変形による復元力により、サーミスタ50aはインクジェットヘッド40の稜線部45aに押し付けられて当接する。
【0086】
以上のように、本実施形態によれば、サーミスタ50aとインクジェットヘッド40とを線接触させることができるので、その接触面積が面接触の場合よりも少なく、不適切な接触状態と適切な接触状態との間における接触面積の変化を少なく抑えられる。そのため、不適切な接触状態での検知温度と適切な接触状態での検知温度との差が小さく、検知温度のばらつきを少なく抑えることができる。また、サーミスタ50aとインクジェットヘッド40との不適切な接触状態が定常的に生じる状況になっても、温度の検知誤差が小さく、適切な温度検知が可能である。
【0087】
〔変形例1〕
次に、本実施形態におけるヘッド温度センサ50の一変形例(以下、本変形例を「変形例1」という。)について説明する。
リード線50cや樹脂50bの弾性変形可能な範囲が狭い場合や、リード線50cや樹脂50bが塑性変形してしまうおそれがある場合には、インクジェットヘッド40の着脱の繰り返しによって、装着時のインクジェットヘッド40の稜線部45aとサーミスタ50aとの十分な当接圧が得られず、あるいは、当接できない状態になるおそれがある。また、サーミスタ50aとインクジェットヘッド40の稜線部45aとの間の接離方向における位置精度が悪い場合も、装着時のインクジェットヘッド40の稜線部45aとサーミスタ50aとの十分な当接圧が得られず、あるいは、当接できない状態になるおそれがある。
【0088】
本変形例1は、サーミスタ50aをインクジェットヘッド40の稜線部45aに押圧するための押圧部材を設けた例である。
図19は、サーミスタ50aをインクジェットヘッド40の稜線部45aに押圧するための押圧部材の一例を示す説明図である。
本変形例1では、押圧部材として、
図19に示すように、HMP本体1の内壁面に弾性部材である加圧スポンジ50eを、サーミスタ50aの検知面の裏面に当接するように設置している。これにより、加圧スポンジ50eの弾性変形による復元力によってサーミスタ50aをインクジェットヘッド40の稜線部45aに押圧することができる。その結果、リード線50cや樹脂50bの弾性変形可能な範囲が狭い場合や、リード線50cや樹脂50bが塑性変形してしまうおそれがある場合でも、あるいは、サーミスタ50aとインクジェットヘッド40の稜線部45aとの間の接離方向における位置精度が悪い場合でも、安定した当接圧が得られ、サーミスタ50aとインクジェットヘッド40の稜線部45aとの適切な線接触の状態を安定して得ることができる。
【0089】
図20は、サーミスタ50aをインクジェットヘッド40の稜線部45aに押圧するための押圧部材の他の例を示す説明図である。
本変形例1における押圧部材としては、
図19に示した加圧スポンジ50eにおいて、サーミスタ50aの検知面の裏面に対向する箇所を凹部50g又は溝形状にした構成としてもよい。これにより、サーミスタ50aとインクジェットヘッド40の稜線部45aとの間の接離方向におけるサーミスタ50aの変位について、稜線部45aの延び方向(線接触の線方向)における自由度が高まる。その結果、インクジェットヘッド40の稜線部45aとサーミスタ50aの検知面とが非平行になってしまっても、サーミスタ50aの検知面の接離方向位置が稜線部45aの延び方向(線接触の線方向)において異なる量だけ移動でき、インクジェットヘッド40の稜線部45aとサーミスタ50aの検知面とを適切に線接触させることができる。
【0090】
〔変形例2〕
次に、本実施形態におけるヘッド温度センサ50の他の変形例(以下、本変形例を「変形例2」という。)について説明する。
図21(a)に示すように、インクジェットヘッド40の装着方向(
図9に示す状態にセットしたインクジェットヘッド40の上面を押圧操作して
図8に示す状態までインクジェットヘッド40を挿入するときの挿入方向。
図21(a)中上下方向。)と、線接触の線方向(
図21(a)中前後方向)のいずれにも直交する方向(装置左右方向。
図21(a)中左右方向)において、サーミスタ50aとインクジェットヘッド40の稜線部45aとの間の位置精度が悪い場合、装着時のインクジェットヘッド40の稜線部45aがサーミスタ50aから外れて、非接触となるおそれがある。
【0091】
そこで、本変形例2では、
図21(b)に示すように、サーミスタ50aの検知面上に、その検知面よりも大きい面積をもつシリコーンシート等からなる熱伝導性シート50fを設けている。したがって、装置左右方向(
図21(b)中左右方向)において、装着時のインクジェットヘッド40の稜線部45aがサーミスタ50aから外れるような事態が生じても、インクジェットヘッド40の稜線部45aが熱伝導性シート50fに当接することが可能となる。これにより、インクジェットヘッド40の稜線部45aからの熱は、熱伝導性シート50fを介してサーミスタ50aへ高い熱伝導率で伝搬される結果、サーミスタ50aによりインクジェットヘッド40の稜線部45aの温度検知が可能となる。
【0092】
本変形例2では、インクジェットヘッド40の装着方向Gに対して熱伝導性シート50fの面が傾斜して配置されているため、インクジェットヘッド40の稜線部45aの装着位置が装置左右方向(
図21(b)中左右方向)にずれて、稜線部45aが熱伝導性シート50fに当接する位置が変化することで、稜線部45aが熱伝導性シート50fを押し込む押し込み量が異なる。すなわち、インクジェットヘッド40の装着位置が熱伝導性シート50fのシート端部が取り付けられるヘッド保持部としてのホルダ部80の内壁面に近いほど、稜線部45aが熱伝導性シート50fを押し込む押し込み量となり、熱伝導性シート50fに生じる張力が大きいものとなる。
【0093】
そのため、本変形例2において、熱伝導性シート50fは伸縮性を有する部材であるのが好ましい。これにより、インクジェットヘッド40の稜線部45aの装着位置が装置左右方向(
図21(b)中左右方向)にずれて、稜線部45aが熱伝導性シート50fを押し込む押し込み量が多くなっても、熱伝導性シート50fが伸長して張力が軽減される。よって、熱伝導性シート50fの破損を抑制することができる。
【0094】
なお、熱伝導性シート50fは、リード線50cとサーミスタ50aとをコーティングしている樹脂50bと一体的なものであってもよい。
【0095】
図22は、熱伝導性シート50fの支持構成の一例を示す説明図である。
本変形例2では、熱伝導性シート50fは、その一端がサーミスタ50aの検知面上に貼付され、その他端がインクジェットヘッド40を保持するヘッド保持部としてのホルダ部80に貼付されて、支持されている。これにより、インクジェットヘッド40の稜線部45aからの押圧力を熱伝導性シート50fの両端で受け止めることができ、インクジェットヘッド40の稜線部45aと熱伝導性シート50fとの高い当接圧を得ることができる。
【0096】
図23は、熱伝導性シート50fの支持構成の他の例を示す説明図である。
図23に示すように、熱伝導性シート50fにおけるホルダ部80に支持されるシート端部を、インクジェットヘッド40の装着方向(図中符号Gの方向)の上流側の内壁面部分80aよりも熱伝導性シート50fの厚み分以上下がった内壁面部分80bに取り付けてもよい。この場合、インクジェットヘッド40の装着の際(あるいは取り外しの際)に、当該シート端部がインクジェットヘッド40に引っ掛かって、熱伝導性シート50fがホルダ部80から剥がれてしまうのを抑制することができる。
【0097】
〔変形例3〕
次に、本実施形態におけるヘッド温度センサ50の更に他の変形例(以下、本変形例を「変形例3」という。)について説明する。
図24は、本変形例3のヘッド温度センサ50の支持構成を示す説明図である。
図25は、ホルダ部に装着されたインクジェットヘッド40を切断してヘッド温度センサ50を示した斜視図である。
図26は、ホルダ部に装着されたインクジェットヘッド40の断面図である。
本変形例3では、サーミスタ50a及びリード線50cをコーティングしている樹脂50bの先端部が、
図24に示すように、ホルダ部80に形成された切り欠き部80cに挿入された状態で配置されている。これにより、インクジェットヘッド40の稜線部45aからの押圧力をサーミスタ50aが受けたとき、樹脂50bの先端部がホルダ部80の切り欠き部80cの内部で変位でき、当該押圧力を受けがなすことができる。これにより、
インクジェットヘッド40の稜線部45aとサーミスタ50aとの間で過剰な当接圧が生じるのを回避でき、適正な当接圧を得ることができる。
【0098】
〔変形例4〕
次に、本実施形態におけるヘッド温度センサ50の更に他の変形例(以下、本変形例を「変形例4」という。)について説明する。
図27(a)は、本変形例4におけるヘッド温度センサ50の構成を示す側面図であり、
図27(b)は、正面図である。
本変形例4において、サーミスタ50a及びリード線50cをコーティングしている樹脂50bは、
図27(b)に示すように湾曲した形状をなし、サーミスタ50aも一緒に湾曲した形状となっている。そして、本変形例4においては、湾曲状態のサーミスタ50aの凸側湾曲部が、インクジェットヘッド40のセンサ対向部45の面に当接するように配置されている。すなわち、本変形例4では、インクジェットヘッド40のセンサ対向部45の面に対して、湾曲状態のサーミスタ50aの凸側湾曲部を当接させることで、サーミスタ50aとインクジェットヘッド40との線接触を実現している。
【0099】
本変形例4においても、サーミスタ50aとインクジェットヘッド40とを線接触させることができるので、その接触面積が面接触の場合よりも少なく、不適切な接触状態と適切な接触状態との間における接触面積の変化を少なく抑えられる。そのため、不適切な接触状態での検知温度と適切な接触状態での検知温度との差が小さく、検知温度のばらつきを少なく抑えることができる。また、サーミスタ50aとインクジェットヘッド40との不適切な接触状態が定常的に生じる状況になっても、温度の検知誤差が小さく、適切な温度検知が可能である。
【0100】
なお、上述した実施形態では、携帯型画像形成装置であるハンディモバイル型のHMP10に本発明を適用した例について説明したが、本発明の構成は、液体を吐出する装置であれば適用可能であり、据え置き型のインクジェットプリンタ等にも適用可能である。
【0101】
以上に説明したものは一例であり、次の態様毎に特有の効果を奏する。
[第1態様]
第1態様は、装置本体(例えばHMP本体1)に対して液体吐出ヘッド(例えばインクジェットヘッド40)が着脱自在な液体を吐出する装置(例えばHMP10)であって、前記装置本体に設けられる温度検知部材(例えばサーミスタ50a)と前記液体吐出ヘッドとを線接触させて温度検知を行う温度検知手段(例えばヘッド温度センサ50)を有することを特徴とするものである。
液体吐出ヘッドに温度検知部材を接触させて温度検知を行う場合、通常、接触面積をなるべく大きく確保するために、温度検知部材の検知面を液体吐出ヘッドの面に面接触させ、温度の検知誤差精度(本来の温度と検知温度との誤差を小さくすること)を確保しようとする。しかしながら、装置本体に対して着脱自在な液体吐出ヘッドは、一般に、装着位置や装着姿勢の誤差が存在し、装着位置や装着姿勢がばらつく。したがって、液体吐出ヘッドの面が、温度検知部材の検知面に対して適切に面接触する場合もあれば、温度検知部材の検知面に対して傾いて接触したり、温度検知部材の検知面から部分的に外れて接触したりして、不適切に接触する場合がある。このような不適切な接触状態では、適切な接触状態と比べて接触面積が大きく異なるため、不適切な接触状態での検知温度と適切な接触状態での検知温度との差が大きいものとなる。このように、温度検知部材と液体吐出ヘッドとを面接触させて温度検知する構成では、装着位置や装着姿勢のばらつきによって温度検知部材と液体吐出ヘッドとの接触状態がばらつき、検知温度が大きくばらついてしまう。
また、温度検知部材と液体吐出ヘッドとを面接触させて温度検知する構成では、温度検知部材と液体吐出ヘッドとの不適切な接触状態が定常的に生じる状況(温度検知部材の設置誤差など)になった場合、温度の検知誤差が大きくなってしまい、適切な温度検知ができなくなる。
本態様においては、温度検知部材と液体吐出ヘッドとが線接触する構成であるため、その接触面積が面接触の場合よりも少なく、不適切な接触状態と適切な接触状態との間における接触面積の変化を少なく抑えられる。そのため、不適切な接触状態での検知温度と適切な接触状態での検知温度との差が小さく、検知温度のばらつきを少なく抑えることができる。また、温度検知部材と液体吐出ヘッドとの不適切な接触状態が定常的に生じる状況でも、温度の検知誤差が小さく、適切な温度検知が可能となる。
特に、例えば、線接触の線回りで回転するように液体吐出ヘッドが傾いて装着された場合にも、傾きの無い状態で装着された場合と同様の接触状態を維持できるので、検知温度のばらつきを少なく抑えることができる。また、同様に、線接触の線回りにおける温度検知部材の設置誤差については、その設置誤差の無い状態と同様の接触状態を維持できるので、温度の検知誤差が小さく、適切な温度検知が可能となる。
なお、温度検知部材と液体吐出ヘッドとが線接触する構成では、接触面積が面接触の場合よりも少ないため、温度の検知誤差精度は面接触の場合よりも落ちる。本態様は、温度の検知誤差精度が多少落ちても、検知温度のばらつきを少なく抑え、あるいは、不適切な接触状態が定常的に生じる状況でも温度検知を可能とすることを狙った技術思想に基づくものである。
【0102】
[第2態様]
第2態様は、第1態様において、前記温度検知手段は、前記液体吐出ヘッド上の稜線部45aに前記温度検知部材の検知面を接触させて温度検知を行うことを特徴とするものである。
これによれば、一般的な温度検知部材を利用することができる。
【0103】
[第3態様]
第3態様は、第2態様において、前記稜線部は、前記液体吐出ヘッドの吐出面側の稜線部であることを特徴とするものである。
これによれば、液体吐出ヘッドを吐出面側へ押し込んで装着する構成において、液体吐出ヘッド上の稜線部と温度検知部材の検知面との線接触を実現しやすい。
【0104】
[第4態様]
第4態様は、第2又は第3態様において、前記温度検知部材の検知面上に、該検知面よりも大きい面積の熱伝導性シート50fを有することを特徴とするものである。
これによれば、装着時の液体吐出ヘッドの稜線部が温度検知部材の検知面から外れるような事態が生じても、液体吐出ヘッドの稜線部が熱伝導性シートに当接することが可能となる。これにより、液体吐出ヘッドの稜線部からの熱は、熱伝導性シートを介して温度検知部材の検知面へと高い熱伝導率で伝搬され、温度検知部材により液体吐出ヘッドの稜線部の温度検知が可能となる。
【0105】
[第5態様]
第5態様は、第4態様において、前記熱伝導性シートは、前記検知面と、前記液体吐出ヘッドを保持するヘッド保持部(例えばホルダ部80)とに支持されていることを特徴とするものである。
これによれば、液体吐出ヘッドの稜線部からの押圧力を熱伝導性シートの両端で受け止めることができ、液体吐出ヘッドの稜線部と熱伝導性シートとの高い当接圧を得ることができる。
【0106】
[第6態様]
第6態様は、第5態様において、前記熱伝導性シートにおける前記ヘッド保持部に支持されるシート端部は、前記液体吐出ヘッドの装着方向上流側の内壁面部分80aよりも前記熱伝導性シートの厚み分以上下がった内壁面部分80bに取り付けられていることを特徴とするものである。
これによれば、液体吐出ヘッドの装着の際(あるいは取り外しの際)に、当該シート端部が液体吐出ヘッドに引っ掛かって、熱伝導性シートがホルダ部から剥がれてしまうのを抑制することができる。
【0107】
[第7態様]
第7態様は、第5又は第6態様のいずれかにおいて、前記熱伝導性シートは伸縮性を有することを特徴とするものである。
これによれば、液体吐出ヘッドの稜線部の装着位置がずれて、稜線部が熱伝導性シートを押し込む押し込み量が多くなっても、熱伝導性シートが伸長して張力を軽減でき、熱伝導性シートの破損を抑制することができる。
【0108】
[第8態様]
第8態様は、第1乃至第7態様のいずれかにおいて、前記装置本体に設けられ、かつ、前記温度検知手段とは異なる他の検知手段を構成する検知センサ(例えば位置検知センサ59)の回路基板59c上に、前記温度検知手段を構成する温度センサ(例えばヘッド温度センサ50)が実装されていることを特徴とするものである。
これによれば、温度検知手段を構成する温度センサのための回路基板を別途設ける必要がなくなり、省スペース化を図ることができる。
【0109】
[第9態様]
第9態様は、第8態様において、前記検知センサは、吐出対象物(例えば記録材P)に対する前記液体吐出ヘッドの位置を検知するための位置検知センサ59を含むことを特徴とする。
このような位置検知センサは、液体吐出ヘッドの吐出孔の近くに設置されることが多いので、吐出孔近くの液体の温度を知ることができる。そのため、例えば、吐出時の液体の温度をコントロールする場合などの制御に、温度検知手段の検知結果を適切に利用することができる。
【0110】
[第10態様]
第10態様は、第1乃至第9態様のいずれかにおいて、前記線接触の線方向に対して直交する方向への接触位置ずれが生じても、該線接触の接触長さが変化しないように構成されていることを特徴とするものである。
これによれば、線接触の線方向に対して直交する方向への接触位置ずれが生じても、接触状態(接触面積一定)が維持されるので、検知温度のばらつきを少なく抑えることができる。また、同様に、温度の検知誤差が小さく、適切な温度検知が可能となる。
【0111】
[第11態様]
第11態様は、第1乃至第10態様のいずれかにおいて、前記温度検知部材を前記液体吐出ヘッドへ押圧する押圧部材(例えば加圧スポンジ50e)を有することを特徴とするものである。
これによれば、押圧部材の押圧力によって温度検知部材と液体吐出ヘッドとの適切な線接触を安定して得ることができる。
【符号の説明】
【0112】
1 :HMP本体
2 :上部ユニット
3 :下部ユニット
4 :スペーサー部材
8 :カバー部材
11 :ロック爪
12 :カートリッジ着脱機構
13 :FPC接点部
14 :プリントボタン
15 :電源ボタン
22 :ヘッド押さえ付勢部材
30 :記録面
30a :開口
31 :上面
32 :左側面
33 :右側面
34 :背面
35 :正面
40 :インクジェットヘッド
40a :鍔部
41 :吐出孔
45 :センサ対向部
45a :稜線部
50 :ヘッド温度センサ
50a :サーミスタ
50b :樹脂
50c :リード線
50e :加圧スポンジ
50f :熱伝導性シート
51 :バッテリー
57 :制御基板
59 :位置検知センサ
59c :回路基板
80 :ホルダ部
80c :切り欠き部
P :記録材
【先行技術文献】
【特許文献】
【0113】