(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-14
(45)【発行日】2022-09-26
(54)【発明の名称】超音波トランスデューサ、その製造方法および超音波撮像装置
(51)【国際特許分類】
H04R 19/00 20060101AFI20220915BHJP
H04R 31/00 20060101ALI20220915BHJP
A61B 8/14 20060101ALI20220915BHJP
【FI】
H04R19/00 330
H04R31/00 330
A61B8/14
(21)【出願番号】P 2018226644
(22)【出願日】2018-12-03
【審査請求日】2021-03-18
(73)【特許権者】
【識別番号】000005108
【氏名又は名称】株式会社日立製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110000888
【氏名又は名称】特許業務法人 山王坂特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】竹崎 泰一
(72)【発明者】
【氏名】河野 正和
(72)【発明者】
【氏名】町田 俊太郎
【審査官】渡邊 正宏
(56)【参考文献】
【文献】特表2003-500955(JP,A)
【文献】国際公開第2015/159427(WO,A1)
【文献】特開2013-165753(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 8/14
B06B 1/02
B81B 7/02
B82Y 30/00
G06F 115/04
H04R 1/00- 1/02
H04R 1/06
H04R 1/20- 1/34
H04R 1/40
H04R 1/44
H04R 3/00
H04R 9/00
H04R 13/00
H04R 15/00
H04R 17/00
H04R 17/10
H04R 19/00
H04R 23/00
H04R 29/00-31/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
空洞層と、前記空洞層の上下に位置する一対の電極とを備える超音波トランスデューサであって、
前記一対の電極の各上下に配置されている絶縁層と、
前記空洞層の上部に位置する絶縁層の少なくとも一部を上下方向に貫通している埋め込み孔とを備え、
前記超音波トランスデューサを上面から見たときに前記一対の電極は、前記埋め込み孔と重なる位置に、電極を構成しない非電極領域を有して
おり、
前記一対の電極のうち下側に位置する電極の前記非電極領域には、電極を構成する材料と同一材料からなる非電極部が設けられ、前記非電極部と前記下側に位置する電極との間には、絶縁領域が形成されていることを特徴とする超音波トランスデューサ。
【請求項2】
前記埋め込み孔には、絶縁体が埋め込まれていることを特徴とする請求項1に記載の超音波トランスデューサ。
【請求項3】
前記一対の電極のうち下側に位置する電極の前記非電極領域は、上側に位置する電極の前記非電極領域よりも前記上面からみた大きさが小さいことを特徴とする請求項1に記載の超音波トランスデューサ。
【請求項4】
前記非電極部が複数設けられていることを特徴とする請求項
1に記載の超音波トランスデューサ。
【請求項5】
超音波トランスデューサの製造方法であって、
基板の上に、第1の電極、第1の絶縁層、犠牲層、第2の絶縁層、第2の電極および第3の絶縁層をこの順に積層する工程と、
前記第3の絶縁層から前記犠牲層までを貫通する貫通孔を形成する工程と、
前記貫通孔を介して前記犠牲層を構成する材料をエッチング除去して空洞層を形成する工程と、
前記貫通孔に絶縁材料を埋め込む工程とを含み、
前記第1の電極および前記第2の電極をそれぞれ積層する際に、前記超音波トランスデューサを上から見たときに前記貫通孔に相当する領域を含む領域を非電極領域とし、当該非電極領域を除いて前記第1の電極および前記第2の電極を成膜
し、
前記第1の電極の成膜時に、前記第1の電極と接する前記非電極領域の外縁部を除く部分を、前記第1の電極と同一の電極材料を用いて成膜することを特徴とする超音波トランスデューサの製造方法。
【請求項6】
前記第1の電極と同一の電極材料を用いて成膜する前記非電極領域の部分を、複数の部分に分割して成膜することを特徴とする請求項
5記載の超音波トランスデューサの製造方法。
【請求項7】
請求項1に記載の超音波トランスデューサを備えた超音波撮像装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は超音波トランスデューサの製造技術に関し、特にMEMS(Micro Electro Mechanical System)技術により製造した超音波トランスデューサの構造に適用して有効な技術に関する。
【背景技術】
【0002】
超音波トランスデューサは、超音波を送信および受信することにより、人体を検査したり物の内部構造などを検査したりする超音波撮像装置など、様々な用途に用いられている。
【0003】
従来、圧電体の振動を利用した超音波トランスデューサが用いられてきたが、近年のMEMS技術の進歩により、振動部をシリコン基板上に作製した容量検出型超音波トランスデューサ(CMUT:Capacitive Micromachined Ultrasonic Transducer)が開発されている。
【0004】
CMUTは、空洞層を挟んで上下電極を配置して空洞層の周囲を絶縁層で覆った構造を有し、上部電極と下部電極との間に電圧を印加し、電位差を発生させることで、空洞上部のメンブレンに静電力が発生することを利用した振動素子である。超音波の送信は、上下電極に印加する印加電圧を時間的に変化させることで、メンブレンを振動させることにより行われ、超音波の受信は、上下電極の間に一定の電圧を印加した状態で、メンブレンの変位を電圧変化または電流変化として検出することにより行われる。
【0005】
上下電極間に空洞層を形成する方法は、まず、上下に積層する電極の間に金属膜(犠牲層)を配置する。電極や犠牲層の周囲には、絶縁層を堆積させる。その後、絶縁層を貫通する貫通孔を開け、貫通孔からエッチャントを導入することにより、犠牲層がエッチング除去されて空洞層が形成される。
【0006】
例えば特許文献1に開示されているCMUTは、下部電極と上部電極の間に形成された空洞層と、空洞層をエッチングにより形成するための貫通孔と、空洞層に上部から突き出た第1絶縁層の突起とを備えており、貫通孔には、絶縁材料が充填されている。このCMUTに設けられている突起は、支柱の役割をして、電圧印加時に第1絶縁層の下面全面が下部電極を覆う絶縁層に接触することを防ぎ、絶縁層に注入される電荷量を軽減している。
【0007】
また特許文献2には、メンブレンに機械特性のよいシリコン単結晶膜を用いるCMUTが開示されている。このCMUTは、貫通孔と下部電極が上面から見て重ならない位置に配置されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特許第4724501号公報
【文献】特開2009-165931号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献1、2のCMUTなど超音波トランスデューサの感度は、上下電極間の距離が小さいほど高くなることが知られているが、上下電極間の距離を縮めると、製造時にエッチャント導入用の貫通孔が上部電極または下部電極に到達してしまう可能性があった。電極に貫通孔が到達した状態で、貫通孔からエッチャントを導入すると、エッチャントが電極に到達して電極を溶かしてしまうおそれがあった。
【0010】
本発明は、高感度な超音波トランスデューサを歩留まりよく提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するために、本発明の超音波トランスデューサは、空洞層と、空洞層の上下に位置する一対の電極と、一対の電極の各上下に配置されている絶縁層と、空洞層の上部に位置する絶縁層の少なくとも一部を上下方向に貫通している埋め込み孔とを備え、超音波トランスデューサを上面から見たときに、一対の電極は、埋め込み孔と重なる位置に、電極を構成しない非電極領域を有していることを特徴とする。
【0012】
また本発明の超音波トランスデューサの製造方法は、基板の上に、第1の電極、第1の絶縁層、犠牲層、第2の絶縁層、第2の電極および第3の絶縁層をこの順に積層する工程と、第3の絶縁層から犠牲層までを貫通する貫通孔を形成する工程と、貫通孔を介して犠牲層を構成する材料をエッチング除去して空洞層を形成する工程と、貫通孔に絶縁材料を埋め込む工程とを含み、第1の電極および第2の電極をそれぞれ積層する際に、超音波トランスデューサを上から見たときに貫通孔に相当する領域を含む領域を非電極領域とし、当該非電極領域を除いて第1の電極および第2の電極を成膜することを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、上下電極間の距離を従来よりも小さくすることができる。また本発明の超音波トランスデューサは、下部電極が、駆動時に振動する空洞層の下部にのみ配置され、埋め込み孔下部に配置されていないため、下部電極振動に寄与しない静電容量成分、すなわち寄生容量を低減することができる。よって、超音波トランスデューサの感度を高めることができる。
【0014】
また本発明の超音波トランスデューサの製造方法では、信頼性の高い超音波トランスデューサを歩留まりよく提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の実施形態1、2に共通する超音波トランスデューサ10の上面図。
【
図2】
図1のA-A線で切断した実施形態1の超音波トランスデューサの断面図。
【
図3】(a)~(f)は実施形態1の超音波トランスデューサの製造方法を示す断面図。
【
図4】(a)
図1のA-A線で切断した実施形態2の超音波トランスデューサの断面図、(b)比較例の超音波トランスデューサの断面図。
【
図5】(a)~(c)は非電極領域103aと非電極領域103aの上部領域の埋め込み平坦化方法を示す断面図。
【
図6】(a)実施形態3の超音波トランスデューサの上面図、(b)実施形態3の超音波トランスデューサのB-B断面図。
【
図7】(a)実施形態4の超音波トランスデューサの断面図、(b)実施形態4の超音波トランスデューサにエッチャントEを導入した際の断面図。
【
図8】本発明の超音波撮像装置の構成例を示すブロック図。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の一実施形態について図面を用いて説明する。
【0017】
まず、
図1、2を参照して本発明の超音波トランスデューサ10の構成の概要を説明する。超音波トランスデューサ10は、基板101上にMEMS技術によって形成された所謂CMUTであり、単独の素子であってもよいし、CMUT素子を多数配置したCMUTアレイ或いはCMUTチップであってもよい。以下、CMUT素子が超音波トランスデューサ10に複数配置されているものとして説明する。
図1は、本発明の超音波トランスデューサ10に備えられている複数のCMUT素子のうち、2素子を例示しており、
図2は、
図1のA-A断面図を示している。なお、
図1では、CMUT素子を説明のために円形で示したが、この例は素子の形状を限定するものではない。
【0018】
超音波トランスデューサ10は、空洞層105と、空洞層105の上下に位置する一対の電極(上部電極107と下部電極103)と、一対の電極107、103の各上下に配置されている絶縁層102、104、106、108と、空洞層105の上部に位置する絶縁層106、108の少なくとも一部を上下方向に貫通している埋め込み孔109とを備える。
図1に示すように超音波トランスデューサ10を上面から見たときに埋め込み孔109と重なる位置に、上部電極107は電極を構成しない非電極領域107aを有し、下部電極103は電極を構成しない非電極領域103aを有している。
【0019】
なお埋め込み孔109は、空洞層105を形成するために使用される貫通孔に絶縁体が埋め込まれたものであって、各CMUT素子の間に形成されている。つまり埋め込み孔109が空洞層105の上部以外の領域に配置されている。そのため埋め込み孔109は、駆動時に振動しない。
【0020】
以上のように超音波トランスデューサ10は、下部電極103が、駆動時に振動する空洞層105の下部にのみ配置され、埋め込み孔109の下部に配置されていないため、下部電極103の振動に寄与しない静電容量成分、すなわち寄生容量を低減し、超音波トランスデューサの感度を高めることができる。
【0021】
また超音波トランスデューサ10は、上面からみたときに埋め込み孔109が上下一対の電極107、103と重ならない位置に配置されているため、上下電極間の距離を従来よりも小さく(数十nm程度)縮めても、埋め込み孔109を埋め込む前の貫通孔を形成する際、貫通孔の深さ精度の如何によらず、貫通孔を上部電極107にも下部電極103にも到達しないようにすることができる。これにより、高感度な超音波トランスデューサを提供することができる。
【0022】
<実施形態1>
以下、
図1、2を参照して、実施形態1の超音波トランスデューサの構成を詳しく説明する。
【0023】
上述の各構成は、単結晶シリコンなどの半導体基板からなる基板101の上に配置されている。具体的には、基板101の上面に、絶縁層102、第1の電極(下部電極)103、第1の絶縁層104、空洞層105、第2の絶縁層106、第2の電極(上部電極)107および第3の絶縁層108がこの順に積層されている。また非電極領域107a、103aには絶縁材料が埋め込まれており、非電極領域107a、103aは、絶縁体から構成されている。
【0024】
上部電極107の非電極領域107aには、埋め込み孔109が上下方向に貫通している。実施形態1では、下部電極103の非電極領域103aは、上部電極107の非電極領域107aよりも、上面から見た大きさが小さくなっている。ただし、非電極領域103aと非電極領域107aの上面から見た大きさは、埋め込み孔109よりも大きければよく、上述の例に限られない。また非電極領域103a、107aを上から見た形状は、埋め込み孔109の周囲を囲む形状であれば、
図1に示すような円形に限られない。
【0025】
また非電極領域107a、103aには絶縁材料が埋め込まれており、非電極領域107a、103aは、絶縁体から構成されている。後述する絶縁層102、104、106、108と同じ材料から形成されていてもよいし、異なる材料から形成されていてもよい。
【0026】
基板101の材料には、単結晶シリコンの他にも、ガラス、石英、サファイアなどを使用することができる。
【0027】
上部電極107や下部電極103には、膜厚10nm~1000nm程度のAlを用いることできる。Al以外には例えばAl合金、W、Ti、TiN、Ni、Co、Cr、Pt、Auなどの金属材料や、不純物を高濃度にドープした多結晶シリコンやアモルファスシリコンや酸化インジウムスズ(ITO)などを用いることができる。上部電極107や下部電極103は、上述の材料からなる単層または積層膜とすることができる。
【0028】
絶縁層102、104、106、108は、同じ材料から形成されていてもよいし、異なる材料から形成されていてもよい。これらの絶縁層は、酸化シリコン(SiO2)、窒化シリコン(Si3N4)、酸化アルミニウム(Al2O3)、酸化チタン(TiO2)、酸化ジルコニウム(ZrO2)、酸化ハフニウム(HfO2)、シリコン-ドープド酸化ハフニウム等から選ばれる1種または2種以上の絶縁材料からなる単層または積層膜とすることができる。各絶縁層は、同じ材料でも異なっていてもよい。なお埋め込み孔109には、上述の絶縁材料と同様の材料を埋め込むことができる。
【0029】
絶縁層102は、基板材料及び上に形成される下部電極103の材料と接着性のよい材料が選択され、絶縁層104は高電界が発生する部分であるため耐電圧性の高い材料、例えばSiO2が好ましい。絶縁層106を構成する材料は、絶縁層104と同様に耐電圧性が高い材料が好ましい。さらに絶縁層106、108は、上部電極107とともにメンブレンを構成し、超音波送受信時に変位するため、変位前のメンブレン形状は平坦で、絶縁層106、108には、引っ張り応力を有する材料、例えばSiNと、圧縮応力を有する材料、例えばSiO2などを用いて、複数層積層し、平坦性を確保することが好ましい。
【0030】
各絶縁層の膜厚は、絶縁層102が10nm~10000nm程度、絶縁層104が1nm~1000nm程度、絶縁層106が1nm~1000nm程度、絶縁層108が10nm~10000nm程度とすることができる。
【0031】
空洞層105は、絶縁層104の上面に上下が平坦面となるように、厚さ1nm~1000nm程度で形成されていて、空洞層105の内部は真空になっている。
【0032】
<<実施形態1の超音波トランスデューサの製造方法>>
つぎに、実施形態1の超音波トランスデューサの製造方法を
図3(a)~(f)を用いて説明する。
【0033】
まず
図3(a)に示すように、基板101上に絶縁層102、下部電極103を順次形成する。絶縁層102は、プラズマCVD法、蒸着法など公知の成膜技術により形成することができる。下部電極103は、絶縁層102の上面全面に絶縁層102と同様の手法により成膜した後、フォトリソグラフィ法やドライエッチング法を用いてパターニングする。下部電極103は、超音波トランスデューサを上から見たときに貫通孔119に相当する領域を含む領域(後に貫通孔119を形成する領域の下部)の非電極領域103aに形成されないようにする。
【0034】
次に
図3(b)に示すように、下部電極103の上面、非電極領域103a、および非電極領域103aの上部に絶縁材料を塗布して、上面が平坦な絶縁層104を形成する。絶縁層104を成膜する方法には、プラズマCVD法、蒸着法など公知の技術を採用することができる。
【0035】
絶縁層104の上面には、スパッタリング等により金属膜(犠牲層)118を形成する。犠牲層118は、空洞層105を形成するために一時的に設けられる層であり、後にエッチャントによってエッチング除去される。犠牲層118の材料としては、多結晶シリコンを用いる。犠牲層の厚みは空洞層105の高さを決定するものであり、均一性の高い膜厚となるように形成され、1nm~1000nm程度である。
【0036】
続いて、
図3(c)に示すように、犠牲層118の上面に絶縁層106をプラズマCVD法、蒸着法など公知の成膜技術により堆積させる。
【0037】
絶縁層106の上面には上部電極107を形成する。上部電極107は、絶縁層106の上面全面に形成した後、リソグラフィ法やドライエッチング法を用いてパターニングする。上部電極107は、超音波トランスデューサを上から見たときに貫通孔119に相当する領域を含む(後に貫通孔119を貫通させる)非電極領域107aを除いた領域に成膜する。このとき、上部電極107の非電極領域107aが下部電極103の非電極領域103aよりも広くなるように上部電極107をパターニングすることが好ましい。
【0038】
上部電極107を形成したら、上部電極107の上面、非電極領域107aおよび非電極領域107aの上部に絶縁材料を塗布して、上面が平坦な絶縁層108を形成する。絶縁層108を形成する方法には、プラズマCVD法、蒸着法など公知の成膜技術を採用することができる。
【0039】
次に
図3(d)に示すように、貫通孔119を、絶縁層108から非電極領域107a、絶縁層106を貫通し、犠牲層118に達するように形成する。貫通孔119は、犠牲層118を除去するエッチャントを導入するための孔である。なお貫通孔119は、犠牲層118を貫通して絶縁層104や非電極領域103aまで到達しても構わない。
【0040】
次に、
図3(e)に示すように、貫通孔119からエッチャントEを導入して犠牲層118を溶解させ、空洞層105を形成する。エッチャントには、空洞層105の周囲の絶縁層を溶解することなく、犠牲層118を選択的に溶解するものを使用することができ、例えば水酸化カリウムを用いることができる。
【0041】
犠牲層118のエッチングが十分に進んで空洞層105の形成が完了したら、貫通孔119を絶縁材料によって充填し、
図3(f)に示すように埋め込み孔109を形成する。以上のような製造方法により、超音波トランスデューサが製造される。
【0042】
このような超音波トランスデューサの製造方法では、上下電極間の距離が数十nm程度まで小さくて貫通孔119が犠牲層118を貫通した場合でも、上部電極107にも下部電極103にも到達しないため、エッチャントにより電極が溶けるおそれがない。これにより、超音波トランスデューサを歩留まりよく提供することができる。
【0043】
この製造方法では、上面からみたときに空洞層105上部のメンブレンを構成する領域とは異なる領域に貫通孔119を形成するため、貫通孔119に埋め込まれる絶縁材料がメンブレンに付着するおそれがなく、信頼性の高い超音波トランスデューサを製造することができる。
【0044】
またこの製造方法では、基板101上の電極などが搭載された側から貫通孔119を形成するため、基板101を貫通させずに貫通孔119を形成することができる。そのため、基板の深堀を行うことなく貫通孔119を形成することができ、超音波トランスデューサを容易に製造することができる。
【0045】
さらにこの製造方法では、犠牲層118の周囲をエッチングされない絶縁層で覆ったうえでエッチャントを導入するため、犠牲層118のみが選択的にエッチングされて空洞層105が形成される。そのためこの製造方法では、エッチング時間の制御が不要である上に、超音波トランスデューサが有する複数のCMUT素子で、それぞれ均一な幅の空洞層105を形成することができる。
【0046】
<実施形態2>
【0047】
以下、
図4(a)、(b)を参照し、実施形態2の超音波トランスデューサが、実施形態1の超音波トランスデューサと異なる点について説明する。実施形態2の超音波トランスデューサでは、
図4(a)に示すように非電極領域103aと非電極領域103aの上部の領域には、下部電極103の上面に配置されている絶縁層104と同じ高さまで絶縁体が埋め込まれて平坦化されている。
【0048】
実施形態1の超音波トランスデューサの製造方法で説明した通り、下部電極103の上面、非電極領域103a、および非電極領域103aの上部に絶縁材料をプラズマCVD法、蒸着法でなどの公知の技術を利用して塗布し、上面が平坦な絶縁層104を形成する。しかし、実際には
図4(b)の比較例に示すように、犠牲層118に段差形状が生じる可能性がある。その場合、特に犠牲層118の膜厚が薄いときには、段差側壁部の犠牲層103bが途切れてしまい、貫通孔119から導入されるエッチャントが犠牲層118全体に行き渡らずに、空洞層105の形成が妨げられることになる。
【0049】
実施形態2では、非電極領域103aと非電極領域103aの上部領域(貫通孔119が設けられる領域の下部)には、下部電極103の上面に配置されている絶縁層104と同じ高さまで絶縁体が埋め込まれて平坦化されている。そのため、絶縁層104上に犠牲層118が平坦に形成され、犠牲層118の膜厚が薄い場合でも、前述したような段差側壁部の犠牲層103bの途切れが抑制できる。そのため、貫通孔119から導入されるエッチャントが犠牲層118全体に行き渡り、空洞層105の形成を歩留り良くおこなうことができる。
【0050】
非電極領域103aと非電極領域103aの上部領域に埋め込む絶縁体は、非電極領域103aや絶縁層104と同じ材料から構成されていてもよいし、異なる材料から構成されていてもよい。この絶縁体は、酸化シリコン(SiO2)、窒化シリコン(Si3N4)、酸化アルミニウム(Al2O3)、酸化チタン(TiO2)、酸化ジルコニウム(ZrO2)、酸化ハフニウム(HfO2)、シリコン-ドープド酸化ハフニウム等から選ばれる1種または2種以上の絶縁材料からなる単層または積層膜とすることができる。
【0051】
非電極領域103aと非電極領域103aの上部領域の埋め込み平坦化方法について、
図5(a)~(c)を用いて説明する。まず、
図5(a)に示すように、基板101上に絶縁層102と下部電極103を形成し、絶縁層104を成膜する。次に、
図5(b)に示すように、CMP(Chemical Mechanical Polishing:化学機械的研磨)技術などで、下部電極103が露出するまで絶縁
層104を除去する。
【0052】
次に、
図5(c)に示すように、下部電極103の上部と非電極領域103a上部に絶縁
層104を形成する。
【0053】
実施形態2の超音波トランスデューサの製造方法では、犠牲層118を段差なく平坦に形成することができるため、犠牲層118のエッチング除去時に、犠牲層118の全体に容易にエッチャントを行き渡らせることができる。そのため、超音波トランスデューサが有する複数のCMUT素子で、より均一な幅の空洞層105を形成することができる。よってこの製造方法では、駆動信頼性の高い超音波トランスデューサを、より歩留まりよく製造することができる。
【0054】
<実施形態3>
以下、実施形態3の超音波トランスデューサについて
図6(a)、(b)を参照して説明する。実施形態3の超音波トランスデューサは、実施形態2の超音波トランスデューサと同様に、貫通孔119が設けられる領域の下部の構成を工夫することにより、犠牲層118の段差を防いでいる。
【0055】
実施形態3では、
図6(a)、(b)に示すように、非電極領域103aに、下部電極103から離れて配置された非電極部103dが設けられている。非電極部103dは、埋め込み孔109の形成された領域の下部の領域に設けられており、下部電極103と接する非電極領域103aの外縁部(非電極部103dと下部電極103との間)には、絶縁領域R1が形成されている。
【0056】
非電極部103dは、
図6(a)に示すように上面から見て円形をしていても、その他の形状であってもよいが、埋め込み孔109の直下の領域を中心とした形状であることが好ましい。非電極部103dの上面から見た大きさは埋め込み孔109よりも大きいことが好ましく、絶縁領域R1の上面から見た大きさはできるだけ小さいことが好ましい。
【0057】
さらに非電極部103dは、下部電極103を構成する材料と同一材料から構成されていてもよいし、他の材料から構成されていてもよい。非電極部103dは例えばAlを用いることできる。Al以外には例えばAl合金、W、Ti、TiN、Ni、Co、Cr、Pt、Auなどの金属材料や、不純物を高濃度にドープした多結晶シリコンやアモルファスシリコンや酸化インジウムスズ(ITO)などを用いることができる。
【0058】
非電極部103dを下部電極103と別材料でまたは別の層に形成する場合、下部電極103形成用のマスクとは別マスクを用い、下部電極103とは別の工程で形成する。一方、非電極部103dを下部電極103と同じ層でかつ同じ電極材料により形成する場合、非電極部103dは、下部電極103の成膜時、非電極領域103aの絶縁領域R1を除く領域に、マスクを用いて電極材料を成膜することで形成される。このように非電極部103dと下部電極103とを同材料で同じ層に形成する場合は、別材料または別の層に形成する場合よりも、使用するマスク数と工程数を減らすことができるため、非電極部103dと下部電極103とを同材料で同じ層に形成することが好ましい。
【0059】
以上のように実施形態3の超音波トランスデューサでは、非電極部103dが非電極領域103aの埋め込み孔109の下部の領域に設けられているため、犠牲層118の段差が生じない。これにより超音波トランスデューサの精度をより向上させることができる。
【0060】
またこの超音波トランスデューサの製造方法では、貫通孔119が非電極部103dに到達し、犠牲層118のエッチング除去時にエッチャントにより非電極部103dがエッチング除去された場合であっても、非電極部103dと下部電極103との間に絶縁領域R1が形成されているため、エッチャントが下部電極103に到達することを防ぐことができる。さらにこの製造方法では、電極部103cを配置したため、実施形態2で説明したような埋め込み平坦化工程は不要である。
【0061】
<実施形態4>
実施形態4では、
図7(a)に示すように、実施形態3で説明した非電極部103dが複数に分割されている。最も外側の非電極部103dと下部電極103との間には、絶縁領域R1が形成されており、複数の非電極部103dの間にも、絶縁領域R1が形成されている。
【0062】
非電極部103dの分割の仕方は、同心円状であってもよいし、扇形状に分割されていても、ランダムに分割されていてもよい。また非電極部103dの分割数には特に制限はない。
【0063】
非電極部103dは、実施形態4のように複数に分割されている場合でも、実施形態3で説明した単一の非電極部103dと同様の方法で製造することができる。分割されている非電極部103dは、それぞれ同一の電極材料により、同一の層に形成されていることが好ましい。
【0064】
本実施形態では、
図7(b)に示すように貫通孔119が非電極部103dに到達した場合、空洞層105を形成するために貫通孔119からエッチャントEを導入すると、複数の非電極部103dのうち貫通孔119の到達した非電極部103dにだけエッチャントEが到達し、エッチャントEが到達した非電極部103dが選択的に除去されて空洞部103eが形成される。
【0065】
電極部103dが選択的に除去されて空洞部103eが形成される場合、全ての非電極部103dが除去される場合よりも、貫通孔119の周囲で空洞層105と空洞部103eとに挟まれる領域(ひさし部)119bが貫通孔119側に突出する大きさが小さくなる。そのためこの実施形態では、エッチャント導入時の、ひさし部119bの剥がれを防ぎ、より歩留まりよく超音波トランスデューサを製造することができる。
【0066】
<超音波撮像装置>
以下、本発明の超音波撮像装置100について
図8を用いて説明する。
超音波撮像装置100は、超音波トランスデューサ10と、超音波トランスデューサ10の駆動を制御しながら超音波画像を生成する装置本体1とを備えている。
【0067】
超音波トランスデューサ10は、検査対象に接触、もしくは接触媒質を介して接触させて検査対象との間で超音波を送受信する超音波探触子に設けられていてもよいし、検査対象内に挿入されて検査対象との間で超音波を送受信するカテーテルに設けられていてもよい。超音波撮像装置100が備えている超音波トランスデューサ10には、上述した実施形態1~4の少なくともいずれかが用いられる。
【0068】
装置本体1は、超音波トランスデューサ10に送信用電気信号を送出する送信部12と、検査対象からの反射波である超音波を受信する受信部13と、各部の動作を制御する制御部11と、制御部11内に設けられていて受信部13が受信した信号を処理し画像を作成したり各種演算をしたりする信号処理部15と、記憶部16とを備える。
【0069】
また装置本体1は、超音波撮像装置の操作者が、制御部11に対し超音波撮像装置の動作条件を入力する入力部17と、信号処理部15の処理結果等を表示する表示部14を備える。入力部17と表示部14は、操作者が装置本体1と対話的に操作を行うユーザーインタフェイスとして機能してもよい。
【0070】
装置本体1を構成する各部の構成は、公知の超音波撮像装置と同様であるので、ここでは説明を省略する。
【0071】
ここで超音波撮像装置100の動作を簡単に説明する。まず送信部12のビームフォーマーから送信用電気信号が、不図示のデジタルアナログ(D/A)変換器を経て超音波トランスデューサ10の電極103、107に送られ、超音波トランスデューサ10から検査対象に向かって超音波が発信される。検査対象の内部を伝搬する過程で反射した音響信号が、超音波トランスデューサ10に受信され、電気信号に変換され、不図示のA/D変換器を経て、受信データとして受信部13の受信ビームフォーマーに送られる。受信ビームフォーマーは、複数の素子で受信した信号に対して、送信が送信時に掛けた時間遅延を考慮した加算処理を行う。加算処理後の受信信号は、その後、不図示の補正部で減衰補正等の処理がなされた後、RFデータとして信号処理部15に送られる。信号処理部15は、RFデータを用いて画像の作成を行う。
【0072】
本発明の超音波撮像装置100は、実施形態1~4のいずれかの超音波トランスデューサを備えているため、高感度な超音波撮像が可能な超音波撮像装置を歩留まりよく提供することができる。そのためこの超音波撮像装置100は、高感度な撮像が求められる血管内超音波(IVUS)や血管内光音響(IVPA)撮像などを行う撮像装置としても使用可能である。
【符号の説明】
【0073】
10…超音波トランスデューサ、100…超音波撮像装置、101…基板、102…絶縁層、103…下部電極(第1の電極)、103a、107a…非電極領域、103b…段差側壁部の犠牲層103d…非電極部、104…第1の絶縁層、105…空洞層、106…第2の絶縁層、107…上部電極(第2の電極)、108…第3の絶縁層、109…埋め込み孔、118…犠牲層、119…貫通孔