IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ コニカミノルタ株式会社の特許一覧

特許7143794画像処理装置、画像処理システム及びプログラム
<>
  • 特許-画像処理装置、画像処理システム及びプログラム 図1
  • 特許-画像処理装置、画像処理システム及びプログラム 図2
  • 特許-画像処理装置、画像処理システム及びプログラム 図3
  • 特許-画像処理装置、画像処理システム及びプログラム 図4
  • 特許-画像処理装置、画像処理システム及びプログラム 図5
  • 特許-画像処理装置、画像処理システム及びプログラム 図6
  • 特許-画像処理装置、画像処理システム及びプログラム 図7
  • 特許-画像処理装置、画像処理システム及びプログラム 図8
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-20
(45)【発行日】2022-09-29
(54)【発明の名称】画像処理装置、画像処理システム及びプログラム
(51)【国際特許分類】
   A61B 6/00 20060101AFI20220921BHJP
【FI】
A61B6/00 350M
A61B6/00 350D
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2019048600
(22)【出願日】2019-03-15
(65)【公開番号】P2020146381
(43)【公開日】2020-09-17
【審査請求日】2021-06-28
(73)【特許権者】
【識別番号】000001270
【氏名又は名称】コニカミノルタ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001254
【氏名又は名称】特許業務法人光陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】畑野 亜麻衣
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼木 達也
【審査官】蔵田 真彦
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-236842(JP,A)
【文献】特開2000-079110(JP,A)
【文献】特開昭55-116340(JP,A)
【文献】特開2014-064608(JP,A)
【文献】特開2002-374417(JP,A)
【文献】特開2007-300966(JP,A)
【文献】特開2012-130518(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 6/00-6/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
医用画像における被写体領域内の、診断に使用する領域である関心領域外における2箇所以上の異なる信号値を基準信号値に設定し、設定した基準信号値に基づいて、前記医用画像に適用するコントラスト変換関数を算出する算出手段と、
前記コントラスト変換関数を用いて、前記医用画像に階調変換を行う階調処理手段と、
を備える画像処理装置。
【請求項2】
前記医用画像は胸部画像であり、前記関心領域は、肺野領域である請求項に記載の画像処理装置。
【請求項3】
前記算出手段は、低濃度側の基準信号値と高濃度側の基準信号値を含む2箇所以上の異なる信号値を前記基準信号値に設定する請求項1又は2に記載の画像処理装置。
【請求項4】
前記算出手段は、前記低濃度側の基準信号値と当該低濃度側の基準信号値に対応する予め定められた低濃度側の出力濃度値、及び前記高濃度側の基準信号値と当該高濃度側の基準信号値に対応する予め定められた高濃度側の出力濃度値により決定される直線の式を前記コントラスト変換関数として算出する請求項に記載の画像処理装置。
【請求項5】
前記低濃度側の基準信号値は、椎体の信号値である請求項3又は4に記載の画像処理装置。
【請求項6】
前記高濃度側の基準信号値は、鎖骨周辺部の信号値である請求項3~5のいずれか一項に記載の画像処理装置。
【請求項7】
前記算出手段により算出された前記コントラスト変換関数の傾きが予め定められた範囲外であるか否かを判定する判定手段を備える請求項1~のいずれか一項に記載の画像処理装置。
【請求項8】
前記算出手段により算出された前記コントラスト変換関数の傾きを調整する調整手段を備える請求項に記載の画像処理装置。
【請求項9】
前記調整手段は、前記判定手段により前記コントラスト変換関数の傾きが予め定められた範囲外であると判定した場合に、前記コントラスト変換関数の傾きが予め定められた範囲内となるように調整する請求項に記載の画像処理装置。
【請求項10】
前記階調処理手段により階調変換された前記医用画像を表示する表示手段を備える請求項1~のいずれか一項に記載の画像処理装置。
【請求項11】
前記階調変換に使用された前記コントラスト変換関数の傾きユーザー操作に応じて再調整し、前記医用画像に適用する再調整手段を備える請求項10に記載の画像処理装置。
【請求項12】
請求項1~のいずれか一項に記載の画像処理装置と、
前記階調処理手段により階調変換された前記医用画像を表示する表示装置と、
を備える画像処理システム。
【請求項13】
コンピューターを、
医用画像における被写体領域内の、診断に使用する領域である関心領域外における2箇所以上の異なる信号値を基準信号値に設定し、設定した基準信号値に基づいて、前記医用画像に適用するコントラスト変換関数を算出する算出手段、
前記コントラスト変換関数を用いて、前記医用画像に階調変換を行う階調処理手段、
として機能させるためのプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、画像処理装置、画像処理システム及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、被写体に放射線を照射することにより得られた放射線画像をより見やすくする目的で、階調処理等の画像処理が行われている。
【0003】
例えば、特許文献1には、胸部放射線画像の心臓部と肺野部の信号値を基準として階調処理を行うことが記載されている。
また、特許文献2には、胸部放射線画像の胸椎部分又は肩部分の平均値を基準信号値として、基準信号値が所定の出力信号値となるように、また、コントラストが一定となるように、階調変換を行うことが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開昭55-088740号公報
【文献】特開2000-079110号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
胸部放射線画像を用いた診断では、主として肺野領域を関心領域として、その濃度に注目して病状の診断が行われている。
【0006】
しかしながら、特許文献1においては、関心領域の信号値を基準として階調変換を行うため、関心領域の濃度によって階調処理条件が変わってしまうという恐れがある。
また、特許文献2においては、コントラストを一定とするため、被検者の体型や撮影条件(例えば、被検者のポジショニングや体位等)が一定であれば、病状による濃度の違いを正しく描出することができる。しかし、被検者の体型や撮影条件が変化すると、関心領域の濃度に影響してしまい、病状に応じた濃度を正しく描出することができないという恐れがある。
また、胸部放射線画像に限らず、他の部位の放射線画像や、例えば、MRI(Magnetic Resonance Imaging)等の、放射線撮影装置とは異なる他のモダリティーにより撮影された医用画像においても同様である。
【0007】
本発明の課題は、医用画像において、被検者の体型の変化や個人差、撮影条件等の影響を受けずに、関心領域の病状を正しく描出できるようにすることである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため、請求項1に記載の発明の画像処理装置は、
医用画像における被写体領域内の、診断に使用する領域である関心領域外における2箇所以上の異なる信号値を基準信号値に設定し、設定した基準信号値に基づいて、前記医用画像に適用するコントラスト変換関数を算出する算出手段と、
前記コントラスト変換関数を用いて、前記医用画像に階調変換を行う階調処理手段と、
を備える。
【0010】
請求項に記載の発明は、請求項に記載の発明において、
前記医用画像は胸部画像であり、前記関心領域は、肺野領域である。
【0011】
請求項に記載の発明は、請求項1又は2に記載の発明において、
前記算出手段は、低濃度側の基準信号値と高濃度側の基準信号値を含む2箇所以上の異なる信号値を前記基準信号値に設定する。
【0012】
請求項に記載の発明は、請求項に記載の発明において、
前記算出手段は、前記低濃度側の基準信号値と当該低濃度側の基準信号値に対応する予め定められた低濃度側の出力濃度値、及び前記高濃度側の基準信号値と当該高濃度側の基準信号値に対応する予め定められた高濃度側の出力濃度値により決定される直線の式を前記コントラスト変換関数として算出する。
【0013】
請求項に記載の発明は、請求項3又は4に記載の発明において、
前記低濃度側の基準信号値は、椎体の信号値である。
【0014】
請求項に記載の発明は、請求項3~5のいずれか一項に記載の発明において、
前記高濃度側の基準信号値は、鎖骨周辺部の信号値である。
【0015】
請求項に記載の発明は、請求項1~のいずれか一項に記載の発明において、
前記算出手段により算出された前記コントラスト変換関数の傾きが予め定められた範囲外であるか否かを判定する判定手段を備える。
【0016】
請求項に記載の発明は、請求項に記載の発明において、
前記算出手段により算出された前記コントラスト変換関数の傾きを調整する調整手段を備える。
【0017】
請求項に記載の発明は、請求項に記載の発明において、
前記調整手段は、前記判定手段により前記コントラスト変換関数の傾きが予め定められた範囲外であると判定した場合に、前記コントラスト変換関数の傾きが予め定められた範囲内となるように調整する。
【0018】
請求項10に記載の発明は、請求項1~のいずれか一項に記載の発明において、
前記階調処理手段により階調変換された前記医用画像を表示する表示手段を備える。
【0019】
請求項11に記載の発明は、請求項10に記載の発明において、
前記階調変換に使用された前記コントラスト変換関数の傾きユーザー操作に応じて再調整し、前記医用画像に適用する再調整手段を備える。
【0020】
請求項12に記載の発明は、
請求項1~のいずれか一項に記載の画像処理装置と、
前記階調処理手段により階調変換された前記医用画像を表示する表示装置と、
を備える。
【0021】
請求項13に記載の発明のプログラムは、
コンピューターを、
医用画像における被写体領域内の、診断に使用する領域である関心領域外における2箇所以上の異なる信号値を基準信号値に設定し、設定した基準信号値に基づいて、前記医用画像に適用するコントラスト変換関数を算出する算出手段、
前記コントラスト変換関数を用いて、前記医用画像に階調変換を行う階調処理手段、
として機能させる。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、医用画像において、被検者の体型の変化や個人差、撮影条件等の影響を受けずに、関心領域の病状を正しく描出することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】本発明の実施形態における画像処理システムの全体構成を示す図である。
図2図1のコンソールの機能的構成を示すブロック図である。
図3図2の制御部により実行される階調処理を示すフローチャートである。
図4】コントラスト変換関数の算出手法を説明するための図である。
図5】コントラスト変換関数の傾きの調整手法を説明するための図である。
図6】(a)は、体厚が標準体型より厚い被検者と標準体型の被検者の胸部画像及びそのヒストグラムを示す図、(b)は、(a)に示す胸部画像に従来技術のコントラスト変換関数により階調変換を施した画像及びコントラスト変換関数のグラフを示す図、(c)は、(a)に示す胸部画像に本実施形態のコントラスト変換関数により階調変換を施した画像及びコントラスト変換関数のグラフを示す図である。
図7】(a)は、同一被検者を異なる時期に撮影した胸部画像及びそのヒストグラムを示す図、(b)は、(a)に示す胸部画像に従来技術のコントラスト変換関数により階調変換を施した画像及びコントラスト変換関数のグラフを示す図、(c)は、(a)に示す胸部画像に本実施形態のコントラスト変換関数により階調変換を施した画像及びコントラスト変換関数のグラフを示す図である。
図8】腹部画像に階調処理を行う場合の関心領域及び基準点を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、図面を参照して本発明の実施形態について説明する。ただし、発明の範囲は、図示例に限定されない。
【0025】
〔画像処理システム100の構成〕
まず、本実施形態の構成を説明する。
図1は、本実施形態に係る画像処理システム100の全体構成例を示す図である。図1に示すように、画像処理システム100は、撮影装置1と、コンソール2とがデータ送受信可能に接続されて構成されている。
【0026】
撮影装置1は、放射線検出器11bと、放射線検出器11bを装填可能な撮影台11と、放射線発生装置12とを備えて構成されている。撮影台11は、そのホルダー11a内に放射線検出器11bを装填することができるようになっている。
【0027】
放射線検出器11bは、FPD(Flat Panel Detector)等の半導体イメージセンサーにより構成され、被写体Hを挟んで放射線発生装置12と対向するように設けられている。放射線検出器11bは、例えば、ガラス基板等を有しており、基板上の所定位置に、放射線発生装置12から照射されて少なくとも被写体Hを透過した放射線(X線)をその強度に応じて検出し、検出した放射線を電気信号に変換して蓄積する複数の検出素子(画素)がマトリックス状に配列されている。各画素は、例えばTFT(Thin Film Transistor)等のスイッチング部を備えて構成されている。放射線検出器11bは、コンソール2から入力された画像読取条件に基づいて各画素のスイッチング部を制御して、当該各画素に蓄積された電気信号の読み取りをスイッチングしていき、各画素に蓄積された電気信号を読み取ることにより、画像データを取得する。そして、放射線検出器11bは、取得した画像データをコンソール2に出力する。
放射線検出器11bから出力される画像データは、各画素の濃度を表す信号値からなる。
【0028】
放射線発生装置12は、被写体Hを挟んで放射線検出器11bと対向する位置に配置され、コンソール2から入力された放射線照射条件に基づいて被写体Hである患者を介して、ホルダー11aに装填された放射線検出器11bに放射線を照射して撮影を行う。コンソール2から入力される放射線照射条件は、例えば、管電流の値、管電圧の値、放射線照射時間、mAs値、SID(放射線検出器11bと放射線発生装置12の管球との最短距離)、グリッドの有無、グリッドの種類等である。
【0029】
コンソール2は、放射線照射条件や画像読取条件を撮影装置1に出力して撮影装置1による放射線撮影及び放射線画像の読み取り動作を制御するとともに、撮影装置1により取得された放射線画像に画像処理を施す画像処理装置として機能する。
コンソール2は、図2に示すように、制御部21、記憶部22、操作部23、表示部24、通信部25を備えて構成され、各部はバス26により接続されている。
【0030】
制御部21は、CPU(Central Processing Unit)、RAM(Random Access Memory
)等により構成される。制御部21のCPUは、操作部23の操作に応じて、記憶部22に記憶されているシステムプログラムや各種処理プログラムを読み出してRAM内に展開し、展開されたプログラムに従って、コンソール2各部の動作や、撮影装置1の放射線照射動作及び読み取り動作を集中制御する。また、撮影装置1の放射線検出器11bから送信された放射線画像に対し、後述する階調処理等を始めとする各種処理を実行する。
制御部21は、図3に示す階調処理を実行することにより、算出手段、階調処理手段、判定手段、調整手段、再調整手段として機能する。
【0031】
記憶部22は、不揮発性の半導体メモリーやハードディスク等により構成される。記憶部22は、制御部21で実行される各種プログラムやプログラムにより処理の実行に必要なパラメーター、或いは処理結果等のデータを記憶する。各種プログラムは、読取可能なプログラムコードの形態で格納され、制御部21は、当該プログラムコードに従った動作を逐次実行する。
【0032】
例えば、記憶部22は、撮影部位に対応する放射線照射条件及び画像読取条件を記憶している。更に、記憶部22は、図示しないRIS(Radiology Information System)等から送信される撮影オーダー情報が記憶されている。撮影オーダー情報には、患者情報、検査情報(検査ID、撮影部位(正面、側面、A→P、P→A等の撮影方向も含む)、体位、検査日等)が含まれる。
【0033】
また、記憶部22は、撮影により取得された放射線画像や、画像処理により生成された画像を患者情報や検査情報に対応付けて記憶する。
【0034】
操作部23は、カーソルキー、数字入力キー、及び各種機能キー等を備えたキーボードと、マウス等のポインティングデバイスを備えて構成され、キーボードに対するキー操作やマウス操作により入力された指示信号を制御部21に出力する。また、操作部23は、表示部24の表示画面にタッチパネルを備えても良く、この場合、タッチパネルを介して入力された指示信号を制御部21に出力する。更に、操作部23には、放射線発生装置12に動態撮影を指示するための曝射スイッチが備えられている。
【0035】
表示部24は、LCD(Liquid Crystal Display)やCRT(Cathode Ray Tube)等のモニターにより構成され、制御部21から入力される表示信号の指示に従って、操作部23からの入力指示やデータ等を表示する。
【0036】
通信部25は、放射線発生装置12及び放射線検出器11bとデータ送受信を行うためのインターフェースを有する。なお、コンソール2と放射線発生装置12及び放射線検出器11bとの通信は、有線通信であっても無線通信であってもよい。
また、通信部25は、LANアダプターやモデムやTA(Terminal Adapter)等を備え、通信ネットワークに接続された図示しないRIS等との間のデータ送受信を制御する。
【0037】
〔画像処理システム100の動作〕
撮影装置1においてホルダー11aに放射線検出器11bがセットされた状態で、コンソール2において操作部23により撮影対象の撮影オーダー情報が選択されると、選択された撮影オーダー情報に応じた放射線照射条件及び放射線画像読取条件が記憶部22から読み出されて撮影装置1に送信される。被写体Hのポジショニングが行われて曝射スイッチが押下されると、撮影装置1において、放射線発生装置12により放射線が照射され、放射線検出器11bにより放射線画像の画像データが読み取られ、読み取られた画像データ(放射線画像Gとする)がコンソール2に送信される。
【0038】
コンソール2において、通信部25により放射線検出器11bから放射線画像Gを受信すると、制御部21は、階調処理(濃度変換処理)を実行する。なお、本実施形態では、放射線画像Gが胸部放射線画像であり、肺野領域を診断に使用する関心領域とした場合を例にとり説明する。
【0039】
図3は、階調処理の流れを示すフローチャートである。階調処理は、制御部21と記憶部22に記憶されているプログラムとの協働により実行される。
【0040】
まず、制御部21は、受信した放射線画像Gから被写体領域を認識する(ステップS1)。
ステップS1においては、例えば、放射線画像Gの信号値のヒストグラムを作成し、ヒストグラムから被写体領域と背景領域を分ける閾値を決定し、決定した閾値よりも信号値の低い領域を被写体領域として認識する。閾値の決定は、例えば、判別分析法、pタイル法、固定しきい値法、mode法等を用いて行うことができる。あるいは、ニューラルネットワーク、特徴量抽出とクラスタリング等を用いた機械学習により閾値を決定することとしてもよい。
【0041】
次いで、制御部21は、放射線画像Gの被写体領域内の関心領域外における2箇所の異なる信号値を、コントラスト変換関数を算出するための基準信号値に設定する(ステップS2)。
基準信号値は、コントラスト変換関数を用いた階調処理により予め定められた出力濃度値で出力される信号値である。
ステップS2においては、被写体領域の高濃度側の信号値と低濃度側の信号値の2つの信号値を基準信号値として決定する。高濃度側の信号値とは、例えば、被写体領域内の信号値の平均より高い信号値、低濃度側の信号値とは、例えば、被写体領域内の信号値の平均より低い信号値である。あるいは、高濃度側の信号値は、放射線画像Gの信号値のヒストグラムあるいは累積ヒストグラムの上位mパーセント以上の信号値、低濃度側の信号値は、放射線画像Gの信号値のヒストグラムあるいは累積ヒストグラムの下位nパーセント以下の信号値である(m、nは正の数)。あるいは、高濃度側の信号値は、被写体領域内の信号値の中央値より高い信号値、低濃度側の信号値は、被写体領域内の信号値の中央値より低い信号値としてもよい。
【0042】
例えば、予め設定された座標、領域認識処理により自動抽出された領域上の座標、過去画像で基準点として設定された座標、又はユーザー操作により画像から選択された座標を基準点として、2箇所の基準点の信号値を基準信号値として設定する。領域認識処理は、例えば、テンプレートマッチング、グラフカット等の領域分割アルゴリズムや、ニューラルネットワーク、特徴量抽出とクラスタリング等の機械学習を用いて行うことができる。
2箇所の基準点は、被写体領域内であって関心領域外の、関心領域と比べて被写体の体型や撮影条件の影響を受けにくく、また病状の如何によって濃度が変化しない、低濃度側の領域と高濃度側の領域に設けることが好ましい。例えば、低濃度側の基準点としては椎体上の点、高濃度側の基準点としては、鎖骨周辺部(鎖骨の上又は下の濃度の高い部分)上の点を用いることができる。このようにすれば、病状の如何による濃度変化のない低濃度側の椎体及び高濃度側の鎖骨周辺部が被検者の体型や撮影条件等に影響されずに予め定められた出力濃度値として出力され、関心領域の病状による濃度変化を精度よく描出することが可能となる。
なお、高濃度側の基準点は、右肩の鎖骨周辺部に設定してもよいし、左肩の鎖骨周辺部に設定してもよいし、両肩の鎖骨周辺部に設定してもよい。また、基準点を含む所定の領域(例えば、椎体領域や鎖骨周辺領域)の信号値の代表値(例えば、平均信号値や最大値、最小値等)を基準信号値としてもよい。
【0043】
次いで、制御部21は、設定された基準信号値に基づいて、コントラスト変換関数の式を算出する(ステップS3)。
例えば、制御部21は、図4に示すように、設定された低濃度側の基準信号値D1と当該低濃度側の基準信号値D1に対応する予め定められた低濃度側の出力濃度値O1、及び設定された高濃度側の基準信号値D2と当該高濃度側の基準信号値D2に対応する予め定められた出力濃度値O2により決定される直線Lの式をコントラスト変換関数として算出し、その傾きを求める。
【0044】
次いで、制御部21は、コントラスト変換関数の傾きが所定の範囲外であるか否かを判断する(ステップS4)。
コントラスト変換関数の傾きが所定の範囲外であると判定した場合(ステップS4;;YES)、制御部21は、コントラスト変換関数の傾きが所定の範囲内となるように調整し(ステップS5)、ステップS6に移行する。
ステップS5においては、例えば、図5(a)に示すように、コントラスト変換関数(直線L)の傾きが予め定められた傾きの上限L1と下限L2の範囲外である場合、図5(b)に示すように、グラフ上において、コントラスト変換関数(直線L)が、いずれか一つの基準信号値(図5(b)では基準信号値D2)と対応する出力濃度値(図5(b)ではO2)の交点を通り、傾きが予め定められた上限L1又は下限L2となるように調整する。あるいは、被写体領域の信号値のヒストグラムに応じて、コントラスト変換関数の傾きが予め定められた範囲内に収まるように基準信号値(基準点の位置)を調整してもよい。
コントラスト変換関数の傾きの調整は、制御部21が自動的に行ってもよいし、ユーザー操作により行ってもよい。ユーザー操作により調整を行う場合、例えば、図5(a)、(b)に示すように、現在のコントラスト変換関数(直線L)、予め定められた傾きの範囲の上限L1と下限L2をグラフ上に表示し、ユーザーが操作部23により直線Lを操作することで調整してもよい。または、上記グラフと信号値ヒストグラムを重ねて表示し、ユーザーが操作部23により基準信号値を調整することとしてもよい。
コントラスト変換関数の傾きが所定の範囲内となるように調整することで、肺野濃度が極端に明るくなりすぎたり暗くなりすぎたりすることを抑えることができる。
【0045】
コントラスト変換関数の傾きが所定の範囲内である場合(ステップS4;NO)、制御部21は、ステップS6に移行する。
なお、コントラスト変換関数の傾きが所定の範囲内であっても、コントラスト変換関数の傾きを調整できるようにしてもよい。
【0046】
ステップS6において、制御部21は、算出した(調整した)コントラスト変換関数を適用して放射線画像Gに階調変換を行い(ステップS6)、階調変換された放射線画像Gを表示部24に表示させる(ステップS7)。
【0047】
次いで、制御部21は、操作部23によりコントラストの再調整が指示されたか否かを判断する(ステップS8)。
コントラストの再調整が指示されたと判断した場合(ステップS8;YES)、制御部21は、表示部24にコントラスト再調整画面(図示せず)を表示し、ユーザーによる操作部23の操作に従って放射線画像Gのコントラスト変換関数の傾きを再調整し(ステップS9)、再調整されたコントラスト変換関数を適用して放射線画像Gに階調変換を行って表示部24に表示させる(ステップS10)。
【0048】
次いで、制御部21は、操作部23により再調整の終了が指示されたか否かを判断する(ステップS11)。再調整の終了が指示されていないと判断した場合(ステップS11;NO)、制御部21は、ステップS8に戻る。
ステップS8において、コントラスト再調整が指示されなかった場合(ステップS8;NO)、又はステップS11において、再調整の終了が指示されたと判断した場合(ステップS11;YES)、制御部21は、階調処理を終了する。
【0049】
以下、基準点を被写体領域内の関心領域外に1点設けた場合の階調処理結果(従来技術。図6(b)、図7(b)参照)と2点設けた場合(本実施形態。図6(c)、図7(c))の階調処理結果について説明する。
【0050】
図6(a)の左側は、被検者Aの胸部の放射線画像(胸部画像)A1とその信号値のヒストグラム、右側は、被検者Bの胸部画像B1とその信号値のヒストグラムを模式的に示している。被検者Aは、標準体型より体厚の厚い患者であり、被検者Bは、標準体型の患者である。
【0051】
図6(b)の左側は、胸部画像A1に対し、胸部画像A1の椎体上の点P11を基準点とし、基準点P11の信号値D11と予め定められた出力濃度値O1の交点を通る傾きαの直線L11をコントラスト変換関数として階調変換を行うことにより得られた画像A11と、胸部画像A1の信号値のヒストグラム上に直線L11のグラフを重ねて示したグラフである。右側は、胸部画像B1に対し、胸部画像B1の椎体上の点P21を基準点とし、基準点P21の信号値D21と予め定められた出力濃度値の交点O1を通る傾きαの直線L21をコントラスト変換関数として階調変換を行うことにより得られた画像B11と、胸部画像B1の信号値のヒストグラム上に直線L21のグラフを重ねて示したグラフである。
【0052】
図6(c)の左側は、胸部画像A1に対し、胸部画像A1の椎体上の点P11及び鎖骨上部の点P12を基準点とし、基準点P11の信号値D11と予め定められた低濃度側の出力濃度値O1の交点及び基準点P21の信号値D12と予め定められた高濃度側の出力濃度値O2の交点を通る直線L12をコントラスト変換関数をとして階調変換を行うことにより得られた画像A12と、胸部画像A1の信号値のヒストグラム上に直線L12のグラフを重ねて示したグラフである。右側は、胸部画像B1に対し、胸部画像B1の椎体上の点P21及び鎖骨上部の点P22を基準点とし、基準点P21の信号値D21と予め定められた低濃度側の出力濃度値O1の交点及び基準点P22の信号値D22と予め定められた高濃度側の出力濃度値O2の交点を通る直線L22をコントラスト変換関数をとして階調変換を行うことにより得られた画像B12と、胸部画像B1の信号値のヒストグラム上に直線L22のグラフを重ねて示したグラフである。
【0053】
なお、図6(a)~(c)に示すヒストグラムにおいて、ドットの帯で示す領域は、肺野領域の信号値(濃度)の範囲を示している。
【0054】
被検者Aは、被検者Bに比べて体厚が厚いため、図6(b)のヒストグラムに矢印で示すように、椎体の濃度から肺野の濃度までの間にある腹部濃度が、標準体型の被検者Bに比べて多くなり、椎体の濃度~肺野の濃度までの距離が伸びる。そのため、椎体上の点P11を基準点とする基準信号値D11と出力濃度値O1の交点を通る予め定められた傾きαのコントラスト変換関数を適用すると、図6(b)に一点鎖線で示すように、本来よりも肺野の出力濃度が高くなり、胸部画像11のように肺野が暗く描出されてしまう。そのため、肺野に病変があることが認識できない。
【0055】
一方、図6(c)に示すように、低濃度側の椎体だけでなく、高濃度側の鎖骨上部にも基準点を設け、椎体の基準点P11の信号値D11と予め定められた低濃度側の出力濃度値O1の交点及び鎖骨上部の基準点P12の信号値D12と予め定められた高濃度側の出力濃度値O2の交点を通る直線によりコントラスト変換関数を算出して適用すると、胸部画像A12のように、病変のある肺野が、病変を反映して白く適切な濃度で描出される。
【0056】
また、図7(a)の左側は、標準体型で肺野に病変のある被検者Cの胸部の胸部画像C1とその信号値のヒストグラム、右側は、胸部画像C1を撮影したときとは異なる時期に撮影した(胸部画像C2は病変発生前、胸部画像C1は病変発生後に撮影)被検者Cの胸部画像C2とその信号値のヒストグラムを模式的に示している。胸部画像C1と胸部画像C2とは、被検者は同一であるが、撮影条件が異なる。具体的には、ポジショニングが異なり(胸部画像C1のみ右腕が映り込んでいる)、また異物の有無が異なっている(胸部画像C1のみ体内に金属等の異物が埋め込まれている)。
【0057】
図7(b)の左側は、胸部画像C1に対し、胸部画像C1の椎体上の点P31を基準点とし、基準点P31の信号値と予め定められた出力濃度値O1の交点を通る傾きαの直線L31をコントラスト変換関数として階調変換を行うことにより得られた画像C11と、胸部画像C1の信号値のヒストグラム上に直線L31のグラフを重ねて示したグラフである。右側は、胸部画像C2に対し、胸部画像C2の椎体上の点P41を基準点とし、基準点P41の信号値D41と予め定められた出力濃度値O1の交点を通る傾きαの直線L41をコントラスト変換関数として階調変換を行うことにより得られた画像C21と、胸部画像C2の信号値のヒストグラム上に直線L41のグラフを重ねて示したグラフである。
【0058】
図7(c)の左側は、胸部画像C1に対し、胸部画像C1の椎体上の点P31及び鎖骨上部の点P32を基準点とし、基準点P31の信号値D31と予め定められた低濃度側の出力濃度値O1の交点及び基準点P32の信号値D32と予め定められた高濃度側の出力濃度値O2の交点を通る直線L32をコントラスト変換関数をとして階調変換を行うことにより得られた画像C12と、胸部画像C1の信号値のヒストグラム上に直線L32のグラフを重ねて示したグラフである。右側は、胸部画像C2に対し、胸部画像C2の椎体上の点P41及び鎖骨上部の点P42を基準点とし、基準点P41の信号値D41と予め定められた低濃度側の出力濃度値O1の交点及び基準点P42の信号値D42と予め定められた高濃度側の出力濃度値O2の交点を通る直線L42をコントラスト変換関数をとして階調変換を行うことにより得られた画像C22と、胸部画像C2の信号値のヒストグラム上に直線L42のグラフを重ねて示したグラフである。
【0059】
なお、図7(a)~(c)に示すヒストグラムにおいて、ドットの帯で示す領域は、肺野領域の信号値(濃度)の範囲を示している。
【0060】
被検者Cの胸部画像C1は、腕の骨や金属等の椎体の濃度から肺野の濃度の間の濃度で映る異物が映り込んでいるため、図7(b)に矢印で示すように、これらの映り込みのない胸部画像C2より椎体の濃度から肺野の濃度までの濃度範囲が広がり、グラフ上の入力側の椎体の信号値から肺野の信号値の距離が長くなる。そのため、椎体の信号値D31と予め定められた出力濃度値O1の交点と予め定められた傾きαにより定められるコントラスト変換関数を適用すると、図7(b)に一点鎖線で示すように、本来よりも肺野の出力濃度が高くなり、胸部画像C11に示すように肺野が暗く描出されてしまう。そのため、肺野の肺野に病変があることが認識できない。
【0061】
一方、図7(c)に示すように、低濃度側の椎体上の点P31だけでなく、高濃度側の鎖骨上部上の点P32にも基準点を設け、椎体の基準点の信号値D31と予め定められた低濃度側の出力濃度値O1の交点及び鎖骨上部の基準点の信号値D32と予め定められた高濃度側の出力濃度値O2の交点を通る直線L32によりコントラスト変換関数を算出して適用すると、胸部画像C12に示すように、腕の骨や金属等の低濃度で映る異物が映り込んでいても、病変のある肺野が病変を反映した適切な濃度で、すなわち病変のない胸部画像C22より低い濃度で描出される。
【0062】
以上説明したように、コンソール2の制御部21は、放射線画像における被写体領域内の、診断に使用する関心領域外における2箇所以上の異なる信号値を基準信号値に設定し、設定した基準信号値に基づいて、放射線画像に適用するコントラスト変換関数を算出する。そして、算出したコントラスト変換関数を用いて、放射線画像に階調変換を行う。
したがって、被検者の体型の変化や個人差、撮影条件等の影響を受けずに、関心領域の病状を正しく描出できるようにすることができる。
【0063】
なお、上記実施形態における記述内容は、本発明の好適な一例であり、これに限定されるものではない。
【0064】
例えば、上記実施形態においては、撮影装置1を制御するコンソール2が画像処理装置としての機能を備える場合について説明したが、画像処理装置はコンソールとは別体であってもよい。また、階調処理結果を表示する表示装置は画像処理装置と一体であってもよいし、別体であってもよい。
【0065】
また、上記実施形態においては、胸部の放射線画像に階調変換を行う際に本発明を適用した場合を例にとり説明したが、他の部位を撮影した放射線画像に対しても本発明を適用可能である。例えば、図3で説明した階調処理の処理対象を腹部の放射線画像とし、図8に示すように、低濃度側の基準点を脊椎等の骨領域上の点P5、高濃度側の基準点をスキンライン上の点P6に設定して図3で説明した手法によりコントラスト変換関数を算出して階調変換を行うことにより、被検者の体型の変化や個人差、撮影条件等の影響を受けずに、関心領域としての腹部領域の病状を正しく描出することができる。ここで、腹部領域とは、図8に点線で囲んで示すように、被写体領域のうち、脊椎を含まない、肺野下端から腸骨上端までの軟部組織の領域を指す。
【0066】
また、上記実施形態においては、コントラスト変換関数を算出するための基準信号値を2箇所の基準信号値としたが、2箇所以上としてもよい。
【0067】
また、上記実施形態においては、放射線画像に対して本発明を適用する場合について説明したが、本発明は、例えば、MRI等の、放射線撮影装置とは異なる他のモダリティーにより撮影された医用画像についても適用可能である。
【0068】
また、例えば、上記の説明では、本発明に係るプログラムのコンピューター読み取り可能な媒体としてハードディスクや半導体の不揮発性メモリー等を使用した例を開示したが、この例に限定されない。その他のコンピューター読み取り可能な媒体として、CD-ROM等の可搬型記録媒体を適用することが可能である。また、本発明に係るプログラムのデータを通信回線を介して提供する媒体として、キャリアウエーブ(搬送波)も適用される。
【0069】
その他、画像処理システムを構成する各装置の細部構成及び細部動作に関しても、本発明の趣旨を逸脱することのない範囲で適宜変更可能である。
【符号の説明】
【0070】
100 画像処理システム
1 撮影装置
11 撮影台
11a ホルダー
11b 放射線検出器
12 放射線発生装置
2 コンソール
21 制御部
22 記憶部
23 操作部
24 表示部
25 通信部
26 バス
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8