(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-20
(45)【発行日】2022-09-29
(54)【発明の名称】発泡シート、製造物及び発泡シートの製造方法
(51)【国際特許分類】
C08J 9/12 20060101AFI20220921BHJP
B29C 44/00 20060101ALI20220921BHJP
B29C 48/07 20190101ALI20220921BHJP
B29C 48/29 20190101ALI20220921BHJP
B29K 67/00 20060101ALN20220921BHJP
B29L 7/00 20060101ALN20220921BHJP
B29K 105/04 20060101ALN20220921BHJP
【FI】
C08J9/12 CFD
B29C44/00 E
B29C48/07
B29C48/29
B29K67:00
B29L7:00
B29K105:04
(21)【出願番号】P 2021189692
(22)【出願日】2021-11-22
【審査請求日】2022-03-17
(31)【優先権主張番号】P 2020194084
(32)【優先日】2020-11-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2021087826
(32)【優先日】2021-05-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2021158455
(32)【優先日】2021-09-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000006747
【氏名又は名称】株式会社リコー
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】根本 太一
(72)【発明者】
【氏名】橋田 静
(72)【発明者】
【氏名】熊井 秀充
(72)【発明者】
【氏名】宮越 亮
(72)【発明者】
【氏名】三木 智晴
【審査官】千葉 直紀
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-180254(JP,A)
【文献】特開2005-264166(JP,A)
【文献】特開2012-196874(JP,A)
【文献】特開2000-7816(JP,A)
【文献】特開2007-254522(JP,A)
【文献】特開2011-16941(JP,A)
【文献】特開2009-235316(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J9/00-9/42
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリ乳酸及びフィラーを含み、
緩衝係数が10以下となる時の圧縮応力が、0.2Mpa以下であり、
シート厚みを2mmとした時の突刺強度が、2N以上である発泡シート。
【請求項2】
前記圧縮応力が、0.05Mpa以下である請求項1に記載の発泡シート。
【請求項3】
前記突刺強度が、5N以下である請求項1又は2に記載の発泡シート。
【請求項4】
前記突刺強度が、3N以上である請求項1~3の何れか一項に記載の発泡シート。
【請求項5】
シート厚みが、1mm~10mmである請求項1~4の何れか一項に記載の発泡シート。
【請求項6】
かさ密度が、0.025g/cm
3~0.250g/cm
3である請求項1~5の何れか一項に記載の発泡シート。
【請求項7】
沸点が-20℃以上150℃未満の有機化合物を実質的に含まない請求項1~6の何れか一項に記載の発泡シート。
【請求項8】
前記ポリ乳酸の含有量が、前記発泡シート中の有機物の全量に対して、98質量%以上である請求項1~7の何れか一項に記載の発泡シート。
【請求項9】
前記フィラーの含有量が、0.1質量%~5.0質量%である請求項1~8の何れか一項に記載の発泡シート。
【請求項10】
請求項1~9の何れか一項に記載の発泡シートを含む製造物。
【請求項11】
袋、包装容器、食器、カトラリー、文房具及び緩衝材から選択される少なくとも1種である請求項10に記載の製造物。
【請求項12】
圧縮性流体の存在下において、ポリ乳酸とフィラーとを、前記ポリ乳酸の融点より低い温度で混練してポリ乳酸系組成物を得る混練工程と、
前記ポリ乳酸系組成物から圧縮性流体を除去するときに前記ポリ乳酸系組成物を発泡させて発泡シートを得る発泡工程と、
を含
み、
前記発泡シートが、請求項1~9の何れか一項に記載の発泡シートである発泡シートの製造方法。
【請求項13】
前記圧縮性流体が、二酸化炭素である請求項
12に記載の発泡シートの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発泡シート、製造物及び発泡シートの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
発泡シートは、軽量で緩衝性に優れ、多様な形状に成形加工することが容易であるため、袋、容器等の製造物(樹脂成形品)の原材料として広く利用されている。発泡シートの材料には、ポリスチレン系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、ポリエステル系樹脂等の熱可塑性樹脂が使用されている。
【0003】
近年、環境配慮に対する要望の高まりから、発泡シートの材料として、ポリエステル系樹脂等の中でも、自然界で分解される生分解性ポリマーの使用が検討されている。中でも、ポリ乳酸は、植物由来の生分解性を有するポリマーであり、発泡シートに従来より使用されているポリスチレン系樹脂等に似た性質を有し、他の生分解性ポリマーよりも比較的高い融点、強靭性、透明性、耐薬品性等を有する点から、発泡シートの材料としての利用が検討されている。
【0004】
ポリ乳酸を用いた発泡シートとして、例えば、ポリスチレン系樹脂発泡シートからなる発泡基材シートの一方又は両方の面に、ポリ乳酸系樹脂からなる生分解性樹脂フィルムを積層し、突刺強度が7.0N以上である生分解性樹脂積層発泡シートが開示されている(例えば、特許文献1参照)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の一態様は、高い緩衝性及びシート強度を有することができる発泡シートを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る発泡シートの一態様は、ポリ乳酸及びフィラーを含み、緩衝係数が10以下となる時の圧縮応力が、0.2Mpa以下であり、シート厚みを2mmとした時の突刺強度が、2N以上である。
【発明の効果】
【0007】
本発明の一態様は、高い緩衝性及びシート強度を有することができる発泡シートを提供
することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】温度と圧力に対する物質の状態を示す相図である。
【
図2】圧縮性流体の範囲を定義するための相図である。
【
図3】ポリ乳酸系組成物の製造に用いる連続式混練装置の一例を示す概略図である。
【
図4】一実施形態に係る発泡シートの製造に用いる連続式発泡シート化装置の一例を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施の形態について、詳細に説明する。なお、実施形態は以下の記述によって限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において適宜変更可能である。また、本明細書において数値範囲を示す「~」は、別段の断わりがない限り、その前後に記載された数値を下限値及び上限値として含むことを意味する。
【0010】
<発泡シート>
一実施形態に係る発泡シートは、ポリ乳酸を含む組成物(ポリ乳酸系組成物)を発泡させて生成したポリ乳酸発泡体であり、緩衝係数が10以下となる時の圧縮応力が0.2Mpa以下であり、シート厚みを2mmとした時の突刺強度が2N以上である。
【0011】
なお、圧縮応力は、JIS K 6400-2:2012及びISO3386-1に記載の圧縮応力-ひずみ特性の測定方法に準拠して求める。緩衝係数は、上述の通り、JIS Z 0235:2002及びISO4651に準拠して求めることができる。緩衝係数は、一実施形態に係る発泡シートが衝撃エネルギーを吸収する性能を表すものであり、圧縮試験により求めた圧縮応力を単位体積当たりの圧縮エネルギーで除した値(緩衝係数=圧縮応力/単位体積当たりの圧縮エネルギー)である。
【0012】
圧縮応力は、一実施形態に係る発泡シートの複数箇所(例えば、3箇所)を測定し、それぞれの圧縮応力を圧縮エネルギーで除することで求めた緩衝係数の平均値を、一実施形態に係る発泡シートの緩衝係数としてもよい。
【0013】
圧縮応力が0.02MPa超えて0.05MPa以下である場合(圧縮応力A)と、0.05MPa超えて0.2MPa以下である場合(圧縮応力B)と、0.2MPa超えて0.3MPa以下である場合(圧縮応力C)とを測定して、圧縮応力A、圧縮応力B又は圧縮応力Cの場合での緩衝係数を測定してもよい。圧縮応力A、圧縮応力B及び圧縮応力Cの何れにおいても、緩衝係数が低いほど、優れた緩衝性を発現する。
【0014】
前記圧縮応力は、具体的には以下のように測定する。
即ち、圧縮応力の測定装置としては、島津製作所製の万能試験機AG-50X、AGS-5kNX、及び5kNの校正されたロードセルを使用する。
ロール、又はシートから均等に直径50mmの円を、打ち抜き又は切り取りを実施する。シートが薄い場合は、シートを複数枚重ねた場合に25mm~35mm(万能試験機に加圧板と固定した支持板の間に試料を挟み、2.9N~3.0Nの力を加えた場合)となるように必要な枚数を打ち抜き又は切り取りを実施する。シートを加圧板と支持板の間に挟み、速度(100±20)mm/分で試験片の厚さの(40±1)%まで加圧する。応力が0.3Mpaまで到達しない場合は、圧縮量を厚さの70%まで変更してもよい。
また、その時の1回目の圧縮の測定値を元に緩衝係数をJIS Z 0235:2002及びISO4651に準拠して求める。上記を3回繰り返し、3回の平均値を元に緩衝係数を求める。
【0015】
圧縮永久ひずみは、JIS K 6767:1999又はISO1856に準拠して求める。発泡シートのかさ密度が0.025g/cm3~0.250g/cm3の場合、15%以下が好ましく、より好ましくは12.5%以下である。圧縮永久ひずみが15%以下であれば、発泡シートを繰り返し使用しても緩衝性能を維持できる。
【0016】
前記圧縮永久ひずみは、具体的には以下のように測定する。
即ち、試験片は上下面が平行で、50mm四方かつ厚み約25mmの直方体とし、試料が薄い場合には、積み重ねて約25mmの厚さとする。ノギスを用いて、初期厚みを測定する。試験片は3個とする。表面が平滑かつ力を受けても曲がることのない十分な厚さを持つ2枚の平行な平面板と4個以上のボルトとナットからなり、試験片の初期厚みから25%だけ圧縮できる構造の圧縮装置に試験片を挟む。そして、初期厚みから25%圧縮された状態で(23±2)℃、相対湿度(50±5)%下に連続で22時間放置する。その後、圧縮装置から試料を取り外し、(23±2)℃、相対湿度(50±5)%に24時間放置した後、初期厚みを測った箇所と同じ箇所の厚みを測定する。圧縮永久ひずみは、下記式(I)より算出する。
圧縮永久ひずみ=(初期厚み-試験後厚み)/初期厚み×100 ・・・(I)
【0017】
一実施形態に係る発泡シートの強度を表す物性値として、発泡シートの、引張強度(引張強さ)、曲げ強さ、突刺強度等が挙げられる。緩衝材として発泡シートを使用する場合は内容物が破れて出てこないことが重要であり、これらの中でも、突刺強度が高いことが特に求められる。
【0018】
発泡シートの引張強さは、JIS K 6767:1999に準拠して求める。JIS K 6767:1999に準拠して求められる引張強さは、発泡シートのかさ密度が0.025g/cm3~0.250g/cm3の場合、0.3MPa~5.0MPaであることが好ましい。発泡シートの引張強さが0.3MPa~5.0MPaであれば、緩衝材として使用した際に、破れる等の不具合を低減できる。
【0019】
発泡シートの曲げ強度(剛性)は、JIS K 7171に準拠して求める。JIS K 7171に準拠して求められる曲げ強度は、50MPa~140MPaであることが好ましく、より好ましくは60MPa~120MPaである。発泡シートの曲げ強度が50MPa~140MPaであれば、発泡シートのかさ密度が0.025g/cm3~0.250g/cm3である場合、発泡シートは十分な強度を有することができるため、発泡シートに外圧が加わっても発泡シートは撓み難くなり、破壊されることを抑制できる。また、発泡シートのかさ密度が0.5g/cm3~0.8g/cm3である場合、発泡シートが微細な発泡を含んでいる場合がある。この場合でも、発泡シートの曲げ強度が50MPa~140MPaであれば、発泡シートは十分な強度を有することができる。
【0020】
突刺強度は、一実施形態に係る発泡シートのシート厚みを2mmとしたサンプルを用いて、JIS Z 1707に準拠して求める。なお、一実施形態に係る発泡シートのシート厚みが薄い場合は、一実施形態に係る発泡シートを複数重ねて、全体のシート厚みを2mmとして、突刺強度を測定してよい。発泡シートのシート厚みが厚い場合は、発泡シートのシート厚みが2mmになるようにカッティングして、突刺強度を測定してよい。
【0021】
前記突き刺し強度は、具体的には以下のように測定する。
即ち、試験片を治具で固定し、直径1.0mm、先端形状半径0.5mmの半円形の針を例えば島津製作所製の万能試験機AG-50X、AGS-5kNX及び50Nのロードセルを用いて試験速度(50±5)mm/minで突き刺し、針が貫通するまでの最大力(単位:N)を測定する。試験片の数は5個以上とし、製品の全幅にわたって平均するように採取する。
【0022】
従来の特許文献1では、生分解性樹脂積層発泡シートの緩衝性については検討されていなかった。ポリ乳酸を含む発泡シートを緩衝材として使用するためには、発泡シートは、高い緩衝性を有することが必要である。また、突起物等が当たっても発泡シートが破ける等の破損が生じないように、発泡シートは高いシート強度を有することも重要である。
【0023】
本願発明者は、ポリ乳酸を含む発泡シートについて鋭意検討した結果、発泡シートの圧縮応力と突刺強度に着目した。ポリ乳酸を含む発泡シートの、緩衝係数が10以下となる時の圧縮応力が0.2Mpa以下であり、シート厚みを2mmとした時に突刺強度が2N以上であれば、ポリ乳酸の発泡が細かく均一な状態にできる。その結果、ポリ乳酸を含む発泡シートは、内部に、微細かつ均一な発泡を含むことができるため、緩衝性及びシート強度を向上できることを見出した。
【0024】
一般に、発泡シートの厚みがあるほど緩衝性は向上するが、一実施形態に係る発泡シートは発泡シートの厚みが薄くても、優れた緩衝性及び突刺強度を発揮できる。よって、一実施形態に係る発泡シートは、同一厚みで、緩衝性及びシート強度の両立を図ることができる。
【0025】
なお、一実施形態に係る発泡シートの緩衝性は、一実施形態に係る発泡シートの緩衝係数より評価できる。一実施形態に係る発泡シートのシート強度は、突刺強度より評価できる。
【0026】
JIS K 6953-2に準拠して求めた生分解性プラスチックの生分解性試験において、90%生分解するの要する日数は、180日以内が好ましく、より好ましくは120日以下であり、さらに好ましくは60日以下である。
【0027】
一実施形態に係る発泡シートは、ポリ乳酸及びフィラーを含有し、更に必要に応じてその他の成分を含有する。なお、一実施形態に係る発泡シートは、ポリ乳酸系組成物から生成されるため、ポリ乳酸系組成物発泡シートともいう。一実施形態に係る発泡シートに含まれる各成分について説明する。
【0028】
[ポリ乳酸]
ポリ乳酸は、脂肪族ポリエステル樹脂の1つであり、乳酸がエステル結合によって重合して形成した高分子である。ポリ乳酸は、微生物により生分解されるので、環境に優しく、環境負荷が低い高分子材料として自然界に残留するマイクロプラスチックとの関係で利用されている。
【0029】
ポリ乳酸を構成する乳酸は、D-体(D-乳酸)及びL-体(L-乳酸)の何れか一方又は両方でもよい。
【0030】
ポリ乳酸としては、例えば、D-乳酸の単独重合体、L-乳酸の単独重合体、D-乳酸とL-乳酸との共重合体(DL-乳酸);D-ラクチド、L-ラクチド及びDL-ラクチドからなる群から選択される一又は二以上のラクチドの開環重合体等が挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0031】
ポリ乳酸として、D-乳酸及びL-乳酸の共重合体を用いた場合、D-乳酸及びL-乳酸の割合としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択できる。D-乳酸及びL-乳酸の共重合体において、少ない方の光学異性体が減少するにしたがって、結晶性が高くなり融点やガラス転移点が高くなる傾向がある。また、少ない方の光学異性体が増加するにしたがって、結晶性が低くなり、やがて非結晶となる傾向がある。結晶性は、発泡シートの耐熱性及び発泡の成形温度に関連するため、用途に応じて使い分ければよく、特に限定されない。
【0032】
なお、結晶性とは、結晶化度や結晶化速度のことを意味する。結晶性が高いとは、結晶化度が高いこと、及び結晶化速度が速いことの少なくとも一方を意味する。
【0033】
ポリ乳酸は、適宜合成したものでもよいし、市販品でもよいが、緩衝材としての緩衝性能を向上させるために、ポリ乳酸のゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で求められる重量平均分子量は10万以上が好ましく、より好ましくは15万以上である。一方、ポリ乳酸の重量平均分子量の上限は、特に限定されないが、粘度が高くなり過ぎることを抑えかつ製造を容易にする点から、35万以下が好ましい。
【0034】
本実施形態に係る発泡シートの重量平均分子量(Mw)は、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、GPCを用いて測定することができる。例えば、本実施形態に係る発泡シートをテトラヒドロフラン(THF)溶液に入れて65℃に加熱することでポリ乳酸を溶解させる。次いで、0.45μmのメンブレンフィルターにてろ過して、THF溶液に含まれるフィラー等の未溶解物を除去する。得られた発泡シートの重量平均分子量(Mw)は、分子量既知のポリスチレン試料によって作成した検量線を標準としてGPCを用いて測定される。発泡シートの重量平均分子量(Mw)は、例えば、下記測定条件に基づいて測定してもよい。なお、カラムは、TSKgel SuperHM-N(東ソー社製)のものを直列に4本繋いだものを使用してよい。
(測定条件)
・装置:HLC-8320(東ソー製)
・カラム:TSKgel SuperHM-N(東ソー社製)×4本
・検出器:RI
・測定温度:40℃
・移動相:テトラヒドロフラン
・流量:0.6mL/min
【0035】
ポリ乳酸の含有量は、生分解性及びリサイクル性の観点から、一実施形態に係る発泡シート中の有機物の全量に対して、98質量%以上が好ましく、99質量%以上がより好ましい。ポリ乳酸の含有量が98質量%以上であると、ポリ乳酸が生分解しても、生分解しないその他の成分が残存するのを抑制できる。
【0036】
ポリ乳酸に含まれる乳酸の含有量は、ポリ乳酸を形成する材料の割合から算出できる。材料比率が不明な場合は、例えば、ガスクロマトグラフィー質量分析法(GC-MS)を用いた分析を行い、既知のポリ乳酸を標準試料とした比較により成分を特定できる。具体的には、既知のポリ乳酸を標準試料として、検量線を予め求めることで、一実施形態に係る発泡シート中のポリ乳酸の比率を求めることができる。また、必要に応じて、NMR測定によるスペクトルの面積比やその他分析方法も組み合わせて算出できる。GC-MSを用いる場合、ポリ乳酸の含有割合は、例えば、以下の条件で測定できる。
(GCMSによる測定)
・GCMS:QP2010 補器 フロンティア・ラボPy3030D、株式会社島津製作所製
・分離カラム:フロンティア・ラボUltra ALLOY UA5-30M-0.25F
・試料加熱温度:300℃
・カラムオーブン温度:50℃(1分保持)~昇温速度15℃/分~320℃(6分保持)
・イオン化法:Electron Ionization(E.I)法
・検出質量範囲:25~700(m/z)
【0037】
[フィラー]
フィラーは、一実施形態に係る発泡シートに含まれる泡の大きさ及び量等を調節する機能を有し、発泡核剤として用いることができる。一実施形態に係る発泡シートは、フィラーを含むことで、発泡シート中の発泡径を細かく均一な状態とすることができるため、突刺強度と緩衝性を両立できる。
【0038】
フィラーとしては、無機系フィラー、有機系フィラー等を用いることができる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0039】
フィラーとポリ乳酸の界面で発泡が起こるため、フィラーは微細かつ均一に分散させることが好ましい。
【0040】
フィラーの含有量としては、0.1質量%~5.0質量%が好ましい。フィラーの含有量が0.1質量%以上の場合、発泡の核として機能する量として十分であり、フィラーの含有量が5.0質量%以下の場合、十分な耐衝撃性を発揮する等、発泡シートの特性を維持できる。フィラーの含有量は、より好ましくは、0.2質量%~4.0質量%であり、さらに好ましくは0.3質量%~2.0質量%である。
【0041】
無機系フィラーとしては、例えば、タルク、カオリン、炭酸カルシウム、層状珪酸塩、炭酸亜鉛、ワラストナイト、シリカ、アルミナ、酸化マグネシウム、酸化チタン、ケイ酸カルシウム、アルミン酸ナトリウム、アルミン酸カルシウム、アルミノ珪酸ナトリウム、珪酸マグネシウム、ガラスバルーン、カーボンブラック、酸化亜鉛、三酸化アンチモン、ゼオライト、ハイドロタルサイト、金属繊維、金属ウイスカー、セラミックウイスカー、チタン酸カリウム、窒化ホウ素、グラファイト、ガラス繊維、炭素繊維等が挙げられる。
【0042】
有機系フィラーとしては、澱粉、セルロース微粒子、木粉、おから、モミ殻、フスマ等の天然に存在するポリマーやこれらの変性品、またソルビトール化合物、安息香酸及びその化合物の金属塩、燐酸エステル金属塩、ロジン化合物等が挙げられる。
【0043】
これらの中でも、環境への影響から、無機系フィラーが好ましい。無機系フィラーの中でも、ナノレベルに分散でき、気泡が均一化できる点から、シリカ、酸化チタン、層状珪酸塩がより好ましい。
【0044】
[その他の成分]
その他の成分としては、通常、発泡シートに含有され、かつ生分解性能に影響のない範囲の添加量であれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。例えば、ポリ乳酸以外の脂肪族ポリエステル樹脂、発泡状態を制御する目的で加えるポリメチルメタクリレート樹脂(PMMA)及びポリスチレン等の高分子量ポリマー、架橋剤、その他の目的で添加する添加剤等が挙げられるが、その限りではない。
【0045】
(ポリ乳酸以外の脂肪族ポリエステル樹脂)
ポリ乳酸以外の脂肪族ポリエステル樹脂としては、例えば、ポリグリコール酸、ポリ(3-ヒドロキシブチレート)、ポリ(3-ヒドロキシブチレート・3-ヒドロキシヘキサノエート)、ポリ(3-ヒドロキシブチレート・3-ヒドロキシバリレート)、ポリカプロラクトン、ポリブチレンサクシネート、ポリ(ブチレンサクシネート・アジペート)等が挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0046】
(架橋剤)
架橋剤としては、ポリ乳酸の水酸基及び/又はカルボン酸基と反応性を有する化合物であれば特に限定されない。例えば、エポキシ系架橋剤(エポキシ基を有する架橋剤)又はイソシアネート系架橋剤(イソシアネート基を有する架橋剤)が好ましく用いられる。これらの架橋剤としては、例えば、分子内に2つ以上のエポキシ基を有するエポキシ官能性(メタ)アクリル-スチレン系架橋剤、又は分子内に2つ以上のイソシアネート基を有するポリイソシアネートが好ましい。ポリ乳酸に分岐構造を導入し、溶融強度を効率的に向上でき、未反応物の残留を少なくできる点から、分子内に3つ以上のエポキシ基を有するエポキシ官能性(メタ)アクリル-スチレン系架橋剤、分子内に3つ以上のイソシアネート基を有するポリイソシアネートがより好ましい。このような架橋剤を用いると、気泡の合一、破泡を抑制でき、発泡倍率を向上させることができる。
【0047】
ここで、分子内に2つ以上のエポキシ基を有するエポキシ官能性(メタ)アクリル-スチレン系架橋剤とは、エポキシ基を有する(メタ)アクリルモノマーとスチレンモノマーとを共重合させて得られた重合体である。
【0048】
エポキシ基を有する(メタ)アクリルモノマーとしては、例えば、グリシジルアクリレート、グリシジルメタクリレート等の1,2-エポキシ基を含有するモノマーが挙げられる。また、スチレンモノマーとしては、例えば、スチレン、α-メチルスチレン等が挙げられる。
【0049】
分子内に2つ以上のエポキシ基を有するエポキシ官能性(メタ)アクリル-スチレン系架橋剤は、その共重合成分にエポキシ基を有しない(メタ)アクリルモノマーを含有していてもよい。このような(メタ)アクリルモノマーとしては、例えば、メチルアクリレート、エチルアクリレート、プロピルアクリレート、ブチルアクリレート、シクロヘキシルアクリレート、メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、プロピルメタクリレート、ブチルメタクリレート、シクロヘキシルメタクリレート等が挙げられる。
【0050】
分子内に2つ以上のイソシアネート基を有するポリイソシアネートとしては、例えば、1,6-ヘキサメチレンジイソシアネート、3-イソシアネートメチル-3,5,5-トリメチルシクロヘキシルイソシアネート(イソホロンジイソシアネート)、1,4-テトラメチレンジイソシアネート、2,4,4-トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、2,2,4-トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタン-4,4'-ジイソシアネート、メチルシクロヘキシル-2,4-ジイソシアネート、メチルシクロヘキシル-2,6-ジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、1,3-ビス(イソシアネート)メチルシクロヘキサン、テトラメチルキシリレンジイソシアネート、トランスシクロヘキサン-1,4-ジイソシアネート、リジンジイソシアネート等の脂肪族ジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、水添ジフェニルメタンジイソシアネート、水添トリレンジイソシアネート、水添キシリレンジイソシアネート、水添テトラメチルキシリレンジイソシアネート、シクロヘキサンジイソシアネート等の脂環族ポリイソシアネート、2,4-トルイレンジイソシアネート、2,6-トルイレンジイソシアネート、ジフェニルメタン-4,4'-イソシアネート、1,5'-ナフテンジイソシアネート、トリジンジイソシアネート、ジフェニルメチルメタンジイソシアネート、テトラアルキルジフェニルメタンジイソシアネート、4,4'-ジベンジルジイソシアネート、1,3-フェニレンジイソシアネート等の芳香族ジイソシアネート、リジンエステルトリイソシアネート、トリフェニルメタントリイソシアネート、1,6,11-ウンデカントリイソシアネート、1,8-イソシアネート-4,4-イソシアネートメチルオクタン、1,3,6-ヘキサメチレントリイソシアネート、ビシクロヘプタントリイソシアネート、トリメチロールプロパンと2,4-トルイレンジイソシアネートとのアダクト体、トリメチロールプロパンと1,6-ヘキサメチレンジイソシアネート等ジイソシアネートとのアダクト体等のトリイソシアネート化合物、及びグリセリン、ペンタエリストール等の多価アルコールとを前記の脂肪族及び芳香族ジイソシアネート化合物及び前記のトリイソシアネート化合物等と反応させて得られる変性ポリイソシアネート化合物等がある。これらは1種を単独で用いても、2種以上を混合して用いても良い。
【0051】
架橋剤を含有することで、溶融張力を付与でき、発泡シートの発泡倍率を調整できる。溶融張力を付与手段として、層状珪酸塩等のフィラーをナノレベルで分散する方法、架橋剤又は架橋助剤等を用いて樹脂組成物を架橋する方法、電子線等により樹脂組成物を架橋する方法、高い溶融張力を有する別の樹脂組成物を添加する方法等がある。
【0052】
(添加剤)
添加剤としては、熱安定剤、酸化防止剤、可塑剤等が挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0053】
その他の成分の含有割合としては、発泡シート中の有機物の全量に対して、リサイクル性の点から、2質量%以下が好ましく、1質量%以下がより好ましい。
【0054】
一実施形態に係る発泡シートは、沸点が-20℃以上150℃未満の有機化合物を実質的に含まないことが好ましい。実質的に含まないとは、分析しても検出値が分析装置の下限値以下であること、又は原材料のポリ乳酸で同様の操作を行った時の検出値以下であることを示す。実質的に含まないは、有機化合物の含有量が実質0質量%であることを意味し、0質量%であることを意味するものでない。すなわち、有機化合物は不可避的不純物として、例えば、0.1質量%以下含まれてもよい。沸点が-20℃以上150℃未満の有機化合物として、揮発成分がある。揮発成分が例えば有機溶剤やブタン等の発泡剤である場合、揮発成分が発泡シートに含まれると、発泡シートの寸法安定性に影響を与えると共に、環境にも影響を与える。一実施形態に係る発泡シートは、発泡剤にCO2等の有機化合物以外を使用でき、揮発成分の含有量を実質0質量%にできるため、臭気等を発生することなく安全に扱うことができる。
【0055】
<発泡シートの物性>
一実施形態に係る発泡シートの物性として、かさ密度、発泡倍率、平均発泡径、シート厚み及び残存揮発成分量について説明する。
【0056】
(かさ密度)
一実施形態に係る発泡シートのかさ密度は、0.025g/cm3~0.250g/cm3が好ましく、0.031g/cm3~0.125g/cm3がより好ましく、0.036g/cm3~0.083g/cm3が更に好ましい。かさ密度が上記の好ましい範囲内であれば、一実施形態に係る発泡シートは、シート強度と緩衝性とを優れたバランスで有することができる。
【0057】
かさ密度とは、容器に発泡シートを充てんした時の内容積の密度をいう。かさ密度の測定方法は、特に限定されるものではなく適宜任意のかさ密度の測定方法を用いることができ、例えば、次のような方法で測定できる。温度23℃、相対湿度50%の環境下で24時間以上放置した発泡シートの外形寸法を測定し、かさ体積を求める。次いで、この発泡シートの重量を測定する。発泡シートの重量をかさ体積で除することにより、発泡シートのかさ密度を求める。
【0058】
(発泡倍率)
一実施形態に係る発泡シートの発泡倍率は、5倍~50倍が好ましく、10倍~40倍がより好ましく、15倍~35倍がさらに好ましい。発泡倍率が上記の好ましい範囲内であれば、一実施形態に係る発泡シートは、緩衝性能と強度を維持できる。
【0059】
なお、一実施形態に係る発泡シートの発泡倍率は、下記式(1)の通り、発泡シートを構成しているポリ乳酸系組成物の密度(真密度ρ0)をかさ密度(ρ1)で除することで、求めることができる。なお、ここでの真密度は、原材料のポリ乳酸の密度であり、文献値や原材料のペレットを実測しても構わない。真密度は、約1.25g/cm3である。
発泡倍率=真密度(ρ0)/かさ密度(ρ1) ・・・(1)
【0060】
(平均発泡径)
一実施形態に係る発泡シートの平均発泡径は、かさ密度にもよるが、10μm~200μmが好ましく、より好ましくは20μm~100μmであり、さらに好ましくは30μm~80μmである。
【0061】
平均発泡径の大きさは、フィラーの含有量、発泡の分散状態、発泡シートの溶融張力等により適宜調整できるが、これらに限定されない。例えば、かさ密度が0.025g/cm3~0.250g/cm3である時、平均発泡径は100μm以下が好ましい。
【0062】
平均発泡径の測定方法は、特に制限されるものではなく、目的に応じて適宜選択することができる。例えば、発泡シートをイオンミリング装置を用いて断面加工し、その断面をSEMで撮影し、画像SEM写真を取得する。得られた断面SEM写真(倍率は、例えば3000倍とする)は、Image-Pro Premier(mediacy社製)のソフトを使用して、発泡(空隙)に該当する灰色成分と樹脂成分に該当する白色成分とに二値化する。次いで、所定の範囲内(例えば、35μm×20μm)における発泡に該当する灰色成分の平均粒子径(フェレ径)を求める。フェレ径が0.5μm以上の灰色成分(発泡)のみの平均値を算出することで、平均発泡径を算出できる。
【0063】
(シート厚み)
一実施形態に係る発泡シートのシート厚みは、1.0mm~10.0mmが好ましく、1.5mm~7.0mmがより好ましく、2.0mm~5.0mmがさらに好ましい。シート厚みが上記の好ましい範囲内であれば、一実施形態に係る発泡シートは、発泡を微細かつ均一にできるため、一実施形態に係る発泡シートは容易に成形できると共に、十分な緩衝性を有することができる。
【0064】
シート厚みは、平均厚みとしてよい。平均厚みは、発泡シートの断面において発泡シートの厚みを複数箇所で測定し、これらの測定した厚みの平均値としてもよい。
【0065】
一実施形態に係る発泡シートは、緩衝係数が10以下となる時の圧縮応力が0.2Mpa以下であり、好ましくは0.02Mpa~0.1Mpaであり、より好ましくは0.02Mpa~0.05Mpaである。圧縮応力が0.2Mpa以下であれば、緩衝性に優れる。
【0066】
一実施形態に係る発泡シートは、シート厚みを2mmとした時の突刺強度が、2N以上であり、好ましくは2.5N~5Nであり、より好ましくは3N~5Nである。突刺強度が2N以上であれば、緩衝材として使用した時に、突起物等を発端とする裂け等を抑制することが可能となる。
【0067】
<発泡シートの製造方法>
一実施形態に係る発泡シートの製造方法は、混練工程と、発泡工程とを含み、更に必要に応じてその他の工程を含む。一実施形態に係る発泡シートの製造方法は、混練工程と発泡工程とを同時に行ってもよいし、別々に行ってもよい。
【0068】
[混練工程]
混練工程では、圧縮性流体の存在下において、ポリ乳酸とフィラーとを、ポリ乳酸の融点より低い温度で混練する。混練工程においては、発泡をより効率的に進めるため、ポリ乳酸及びフィラーに加えて、発泡剤を入れることが好ましい。なお、ポリ乳酸、フィラー及び発泡剤を含み、発泡させる前の混合物をポリ乳酸系組成物(マスターバッチ)ともいう。
【0069】
(発泡剤)
発泡剤としては、高い発泡倍率の発泡シートが得られ易い点において、プロパン、ノルマルブタン、イソブタン、ノルマルペンタン、イソペンタン、ヘキサン等の低級アルカン等の炭化水素類、ジメチルエーテル等のエーテル類、メチルクロライド、エチルクロライド等のハロゲン化炭化水素類、二酸化炭素、窒素等の圧縮性流体(圧縮性ガスともいう)等の物理発泡剤等が挙げられる。これらの中でも、臭気がなく、安全に取り扱え、環境負荷が低い発泡剤とする点から、二酸化炭素や窒素等の圧縮性流体を用いることが好ましい。これにより、一実施形態に係る発泡シートには、沸点が-20℃以上150℃未満の有機化合物が実質的に含まれない。すなわち、沸点が-20℃以上150℃未満の有機化合物の含有量は、実質0質量%となる。
【0070】
ポリ乳酸等の脂肪族ポリエステル樹脂は、融点以降で急激に溶融粘度が低下する性質があるため、ポリ乳酸と共にフィラーを混練する際には、フィラーが凝集し易い。フィラーが小さい場合には、フィラーの凝集は、特に顕著に生じる。そのため、本実施形態においては、ポリ乳酸とフィラーとを、圧縮性流体を用いて混練することが好ましい。これにより、ポリ乳酸中にフィラーを均一に分散させることができる。
【0071】
圧縮性流体が発泡剤と同じであることが好ましい。圧縮性流体が発泡剤と同じである場合、フィラーの混練と発泡を一連のプロセスで実施できるため、環境負荷の低減を図れる。
【0072】
フィラーとポリ乳酸を混練するため、圧縮性流体を用いることが好ましい理由を説明する。一般的に、圧縮性流体によって脂肪族ポリエステル樹脂等の樹脂は可塑化され、樹脂の溶融粘度が下がる傾向にある(「超臨界流体の最新応用技術」、NTS社参照)。一見、溶融粘度の低下と、混練性の向上とは矛盾しているように見える。実際、一般的なフィラーの混練で圧縮性流体を用いないで圧力をかけることで、樹脂の自由体積を減少させ、樹脂同士の相互作用の増加(粘度増加)を図れる。しかし、樹脂は可塑化し難くなる(「k.Yang.R.Ozisik R.Polymer,47.2849(2006)」
参照)。
【0073】
これまでに、圧縮性液体は、樹脂を可塑化(柔らかく)する性質があり、圧縮性液体の温度を上げると樹脂が液体のようになることが知られている。このような状態で樹脂にフィラーを分散させると、液体にフィラーを分散させるようなことになり、フィラーが液体中で凝集する。そのため、フィラーが高度に分散された樹脂組成物は得られない。即ち、圧縮性流体の存在下では樹脂が混練するために適した粘度を有しないため、樹脂とフィラーとの混練に圧縮性液体を用いることは難しいと考えられていた。
【0074】
本願発明者らは、ポリ乳酸とフィラーとの混練に圧縮性流体が活用できないか検討した。その結果、圧縮性流体の存在下において、ポリ乳酸の融点より低い温度であれば、ポリ乳酸が混練に適した粘度を有し、フィラーをポリ乳酸と混練できることを見出した。特に、融点以上で急激に溶融粘度が低下するポリ乳酸は、これまで低い溶融粘度の状態でしか混練できなかった。しかし、本実施形態では、ポリ乳酸が高粘度状態でもフィラーを混練できると共に、圧縮性流体を発泡剤としてそのまま用いることができる。
【0075】
(圧縮性流体)
圧縮性流体の状態で用いることができる物質としては、例えば、一酸化炭素、二酸化炭素、一酸化二窒素、窒素、メタン、エタン、プロパン、2,3-ジメチルブタン、エチレン、ジメチルエーテル等が挙げられる。これらの中でも、二酸化炭素は、臨界圧力が約7.4MPa、臨界温度が約31℃であって、容易に超臨界状態を作り出せること、不燃性で取扱いが容易であること等の点から好ましい。これらの圧縮性流体は、1種単独で使用してもよいし2種以上を併用してもよい。
【0076】
ここで、
図1及び
図2を用いて、ポリ乳酸樹脂組成物の製造に用いられる圧縮性流体について説明する。
図1は、温度と圧力に対する物質の状態を示す相図(状態図)である。
図2は、圧縮性流体の範囲を定義するための相図(状態図)である。本実施形態における圧縮性流体とは、物質が、
図1で表される相図の中で、
図2に示す領域(1)、(2)及び(3)の何れかに存在するときの状態を意味する。
【0077】
このような領域においては、物質はその密度が非常に高い状態となり、常温常圧時とは異なる挙動を示すことが知られている。なお、物質が領域(1)に存在する場合には超臨界流体となる。超臨界流体とは、気体と液体とが共存できる限界(臨界点)を超えた温度及び圧力領域において非凝縮性高密度流体として存在し、圧縮しても凝縮しない流体である。物質が領域(2)に存在する場合には液体となるが、常温(25℃)、常圧(1気圧)において気体状態である物質を圧縮して得られた液化ガスを表す。物質が領域(3)に存在する場合には気体状態であるが、圧力が臨界圧力(Pc)の1/2(1/2Pc)以上の高圧ガスを表す。
【0078】
樹脂の種類と圧縮性流体の組み合わせ、温度及び圧力によって、圧縮性流体の溶解度が変わるため、圧縮性流体の供給量は適宜調整する必要がある。例えば、圧縮性流体が二酸化炭素である時、ポリ乳酸と二酸化炭素の組み合わせの場合には、二酸化炭素の供給量は2質量%~30質量%が好ましい。二酸化炭素の供給量が2質量%以上であれば、可塑化の効果は限定的になるという不具合を抑制できる。二酸化炭素の供給量が30質量%以下であれば、二酸化炭素とポリ乳酸が相分離し、発泡シートは均一な厚みを有することができる。
【0079】
(混練装置)
ポリ乳酸系組成物の製造に用いられる混練装置としては、連続プロセスを採用することもできるし、回分式プロセスを採用することもできるが、装置効率、及び製品の特性、品質等を勘案し、適宜、反応プロセスを選択することが好ましい。
【0080】
混練装置としては、混練に好適な粘度に対応できる点から、一軸の押し出し機、二軸の押し出し機、ニーダー、無軸籠型撹拌槽、住友重機株式会社製バイボラック、三菱重工業株式会社製N-SCR、株式会社日立製作所製めがね翼、格子翼又はケニックス式、ズルツァー式SMLXタイプスタチックミキサー具備管型重合槽等を使用できる。色調の点から、セルフクリーニング式の重合装置である、フィニッシャー、N-SCR、二軸軸押し出しルーダー等が挙げられる。これらの中でも、生産効率、樹脂の色調、安定性及び耐熱性の点から、フィニッシャー、N-SCRが好ましい。
【0081】
混練装置は、
図3に示すような連続式混練装置を用いることができる。
図3は、ポリ乳酸系組成物の製造に用いる連続式混練装置の一例を示す概略図である。
図3に示すように、連続式混練装置10は、押出機11と、定量フィーダー12A及び12Bと、ガス導入部13とを備える。
【0082】
押出機11は、押出機11の内部に、原材料混合・溶融エリアa、圧縮性流体供給エリアb、混練エリアc、圧縮性流体除去エリアd及び成形加工エリアeを有する。押出機11としては、例えば、2軸押出機を用いることができる。押出機11の、スクリュ口径、スクリュ軸長Dに対する軸径Lの比L/D等は適宜任意の大きさに設定可能である。
【0083】
定量フィーダー12Aは、発泡シートの原料となるポリ乳酸を原材料混合・溶融エリアaに投入する。定量フィーダー12Bは、発泡シートの原料となるフィラーを原材料混合・溶融エリアaに供給する。
【0084】
ガス導入部13は、圧縮性流体をガスタンク131より計量ポンプ132で圧縮性流体供給エリアbに供給する。
【0085】
連続式混練装置10は、押出機11内の、原材料混合及び溶融エリアa、圧縮性流体供給エリアb、混練エリアc並びに圧縮性流体除去エリアdにおいて、ポリ乳酸及びフィラーを圧縮性流体と共に混練することで、ポリ乳酸系組成物を生成する。次いで、成形加工エリアeで、ポリ乳酸系組成物をペレット等に成形加工する。
【0086】
(原材料混合及び溶融エリア)
原材料混合及び溶融エリアaでは、ポリ乳酸、フィラーの混合と昇温を行う。加熱温度はポリ乳酸の溶融温度以上に設定して、ポリ乳酸を溶融させ、溶融したポリ乳酸内にフィラーを含むポリ乳酸系組成物とする。これにより、続く圧縮性流体供給エリアbで押出機11内に供給される圧縮性流体とポリ乳酸系組成物を均一に混合できる状態にする。
【0087】
(圧縮性流体供給エリア)
圧縮性流体供給エリアbでは、押出機11内に圧縮性流体を供給して、ポリ乳酸系組成物に含まれる溶融状態のポリ乳酸を可塑化させる。
【0088】
(混練エリア)
混練エリアcでは、フィラーの混練に好適な粘度となるように、混練エリアcの温度を設定する。設定温度は、連続式混練装置10の仕様、ポリ乳酸の種類、構造、分子量等で変動するため、適宜調整される。例えば、ポリ乳酸の重量平均分子量Mwが200000程度である場合、混練は一般にポリ乳酸の融点よりも+10℃~+20℃で行われていた。これに対して、本実施形態は、ポリ乳酸の融点より低い温度でも、ポリ乳酸系組成物は比較的高い粘度を有するため、ポリ乳酸系組成物をポリ乳酸の融点より低い温度で混練できる。
【0089】
ポリ乳酸の融点より低い温度とは、ポリ乳酸の融点よりも-20℃~-80℃であることが好ましく、より好ましくは-30℃~-60℃である。
【0090】
混練エリアcの温度は、ポリ乳酸の融点より低い温度よりも低くできるため、例えば、原材料混合・溶融エリアa、圧縮性流体供給エリアb及び圧縮性流体除去エリアdの温度が190℃である場合、混練エリアcの設定温度は150℃にできる。
【0091】
設定温度は、連続式混練装置10の撹拌動力の電流値等を目安に設定すればよい。
【0092】
(圧縮性流体除去エリア)
圧縮性流体除去エリアdでは、押出機11に設けた圧力弁14を開放して、押出機11内の圧縮性流体を外部に排出する。
【0093】
(成形加工エリア)
成形加工エリアeでは、ポリ乳酸系組成物を、ペレット等の適宜任意の形状を有するポリ乳酸系組成物に成形加工する。
【0094】
押出機11内の各エリアの圧力は、適宜設定可能であり、例えば、圧縮性流体供給エリアbから圧縮性流体除去エリアdの圧力は、7Mpaにできる。
【0095】
なお、本実施形態では、適宜任意の形状に成形加工したポリ乳酸系組成物をポリ乳酸と再度混合して混練し、ポリ乳酸系組成物に成形加工してもよい。このとき、押出機11と同様の押出機を用いて、原材料混合・溶融エリアa、圧縮性流体供給エリアb、混練エリアc、圧縮性流体除去エリアd及び成形加工エリアeと同様に行ってもよい。
【0096】
[発泡工程]
発泡工程は、ポリ乳酸系組成物に含まれる圧縮性流体を除去して、ポリ乳酸系組成物を発泡させる。
【0097】
圧縮性流体は、連続式混練装置10の押出機11内の圧力を減圧することで、除去できる。
【0098】
発泡工程の際の温度としては、ポリ乳酸の融点以上に加温することが好ましい。
【0099】
発泡工程においては、ポリ乳酸系組成物に溶解していた圧縮性流体が、減圧や加温等圧縮性流体の溶解度を変える操作に対してフィラーとの界面で気化し、析出することで発泡が起きる。フィラーを起点に発泡するため、フィラーがポリ乳酸中に均一に分散されて初めて、均一かつ微細な発泡を有するポリ乳酸発泡体を生成できる。
【0100】
[その他の工程]
その他の工程としては、通常の発泡シートの製造において行われる工程であれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ポリ乳酸発泡体を発泡シートに加工する成形工程、発泡シートの表面に印字等を施す印字工程等が挙げられる。
【0101】
成形方法は、特に制限されず、一般的に用いられる熱可塑性樹脂の成形方法を用いることができる。成形方法として、例えば、真空成形、圧空成形、真空圧空成形、プレス成形等の型を用いて、ポリ乳酸発泡体をシート状に成形加工し、発泡シートとする方法が挙げられる。
【0102】
成形工程により、ポリ乳酸発泡体をシート状に成形することで、一実施形態に係る発泡シートが得られる。
【0103】
印字工程は、一実施形態に係る発泡シートの表面に印字等を施すことができる方法であれば、特に限定されず用いることができる。
【0104】
一実施形態に係る発泡シートは、ポリ乳酸及びフィラーを含み、緩衝係数が10以下となる時の圧縮応力を0.2Mpa以下とし、シート厚みを2mmとした時の突刺強度を2N以上とする。これにより、発泡シート内には発泡は細かく均一に形成できる。ポリ乳酸は、融点近傍の温度にすると、急激に粘度が低下するため、破泡、発泡の合一等が生じやすく、発泡の微細化及び均一化は困難であった。一実施形態に係る発泡シートは、ポリ乳酸を含んでも、緩衝係数が10以下となる圧縮応力を0.2Mpa以下としかつシート厚みを2mmとしたときの突刺強度を2N以上とすることで、微細かつ均一な発泡を含むことができる。よって、一実施形態に係る発泡シートは、緩衝性及びシート強度を高めることができる。
【0105】
一実施形態に係る発泡シートは、圧縮応力を0.05Mpa以下にできる。これにより、一実施形態に係る発泡シートは、圧縮応力が0.05Mpa以下でも、緩衝性を高めることができる。
【0106】
一実施形態に係る発泡シートは、突刺強度を5N以下にできる。これにより、一実施形態に係る発泡シートは、緩衝性を確実に維持できる。
【0107】
一実施形態に係る発泡シートは、突刺強度を3N以上にできる。これにより、一実施形態に係る発泡シートは、シート強度をより確実に高めることが維持できる。
【0108】
一実施形態に係る発泡シートは、シート厚みを1mm~10mmにできる。これにより、一実施形態に係る発泡シートは、より緩衝性及びシート強度を高めることができる。
【0109】
一実施形態に係る発泡シートは、発泡倍率を5倍~50倍にできる。これにより、一実施形態に係る発泡シートは、さらに緩衝性を高めることができる。
【0110】
一実施形態に係る発泡シートは、かさ密度を0.025g/cm3~0.250g/cm3にできる。これにより、一実施形態に係る発泡シートは、シート強度及び緩衝性をバランスよく優れたに有することができる。
【0111】
一実施形態に係る発泡シートは、沸点が-20℃以上150℃未満の有機化合物を実質的に含まないことができる。一実施形態に係る発泡シートは、発泡剤にCO2、N2等の圧縮性流体を用いて発泡できるため、沸点が-20℃以上150℃未満の有機化合物として、発泡剤に用いられる有機溶剤やブタン等の揮発成分の含有量を実質0質量%にできる。よって、一実施形態に係る発泡シートは、優れた寸法安定性を有すると共に、環境への不可を激減できる。
【0112】
一実施形態に係る発泡シートは、ポリ乳酸の含有量を、発泡シート中の有機物の全量に対して、98質量%以上にできる。これにより、一実施形態に係る発泡シートは、使用後、再利用する際、高効率で生分解でき、リサイクルを容易に行うことができる。
【0113】
一実施形態に係る発泡シートは、フィラーの含有量を、0.1質量%~5.0質量%にできる。これにより、一実施形態に係る発泡シートは、緩衝性をさらに確実に高めることができる。
【0114】
一実施形態に係る発泡シートは、上記の通り、高い緩衝性及びシート強度を有するため、包装材、緩衝材等として好適に用いることができる。
【0115】
<製造物>
一実施形態に係る製造物は、一実施形態に係る発泡シートを含み、更に必要に応じてその他の成分を含む。その他の成分としては、通常の樹脂製品に用いられるものであれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
【0116】
一実施形態に係る製造物(「消費材」とも称される)としては、例えば、生活用品として、袋、包装容器、トレー、食器、カトラリー、文房具、他に緩衝材等が挙げられる。この製造物の概念には、製造物を加工するための中間体として、シートをロール状にした原反や、単体としての製造物のみでなく、トレーの取っ手のような製造物からなる部品や、取っ手が取り付けられたトレーのような製造物を備えた製品等も含まれる。
【0117】
袋としては、レジ袋、ショッピングバッグ、ごみ袋等が挙げられる。
【0118】
文房具としては、例えば、クリアファイル、ワッペン等が挙げられる。
【0119】
従来の発泡シートは、発泡径が大きく、ばらつきが大きかったため、シートの強度、柔軟性等のシート物性に課題があった。一実施形態に係る製造物は、物性に優れているため、上記の生活用品以外の用途としても適用できる。例えば、工業用資材、日用品、農業用品、食品用、医薬品用、化粧品等のシート、包装材等の用途として幅広く適用することができる。
【実施例】
【0120】
以下、実施例及び比較例を示して実施形態を更に具体的に説明するが、実施形態はこれらの実施例及び比較例により限定されるものではない。
【0121】
<実施例1>
[発泡シートの作製]
発泡シートは、
図3に示す連続式混練装置10及び
図4に示す連続式発泡シート化装置を用いて行ったため、
図3及び
図4を参照して説明する。
【0122】
(マスターバッチの作製)
ポリ乳酸系組成物は、
図3に示す連続式混練装置10を用いて行った。まず、ポリ乳酸(Revode110、HISUN社製、融点160℃)と、フィラー(発泡核剤)である酸化チタン(TTO-55(C)、石原産業株式会社製、平均粒子径0.004μm)とを、フィラーの流量が合計で10kg/hとなるように、原材料混合・溶融エリアaに供給した。ポリ乳酸の流量は9.7kg/hとし、フィラーの流量は0.3kg/hとした。次に、圧縮性流体である二酸化炭素を流量0.99kg/h(対ポリ乳酸で10質量%相当)で圧縮性流体供給エリアbに供給した。次に、ポリ乳酸及びフィラーと圧縮性流体とを混練エリアcにおいて混練を行い、3質量%のフィラーを含有するポリ乳酸系組成物を得た。次いで、圧縮性流体除去エリアdで押出機11内の圧縮性流体を排気し、成形加工エリアeで3質量%のフィラーを含有するポリ乳酸系組成物をストランド状に押出して冷却した後、カッターでペレタイズした。これにより、3質量%のフィラーを含有するポリ乳酸発泡体(3質量%フィラー含有マスターバッチ)を得た。
【0123】
各エリアの温度は、原材料混合・溶融エリアa及び圧縮性流体供給エリアbを190℃とし、混練エリアcを150℃、圧縮性流体除去エリアdを190℃とし、成形加工エリアeを190℃とした。
【0124】
各エリアの圧力は、圧縮性流体供給エリアb及び混練エリアcを7.0MPa、圧縮性流体除去エリアdを0.5MPaとした。
【0125】
得られたマスターバッチは、以下の測定方法で求めた10μm以上の粗大粒子は、20個/gであった。
-フィラー粗大粒子数-
マスターバッチ50mgを再溶融して10μmの薄膜状とした。得られた薄膜を光学顕微鏡(ニコン社製、FX-21、倍率100倍)で、粒子径10μm以上の大きさのフィラーに起因する粗大粒子の個数を数えた。この操作を5回分行い、平均値をフィラー粗大粒子数とした。
【0126】
(発泡シートの作製)
次に、
図4に示す連続式発泡シート化装置20を用いた。連続式発泡シート化装置20は、第1押出機21Aと、第2押出機21Bとを直列に接続して備える。(マスターバッチの作製)で、
図3に示す連続式混練装置10で得られた3質量%フィラー含有マスターバッチを定量フィーダー22Aに供給し、ポリ乳酸(Revode110、HISUN社製、融点160℃)を定量フィーダー22Bに供給した。そして、3質量%フィラー含有マスターバッチとポリ乳酸を、これらの流量が合計で10kg/hrとなるように、第1押出機21Aの原材料混合・溶融エリアaに供給した。フィラーの流量が0.5質量%になるように、得られた3質量%フィラー含有マスターバッチの流量は1.67kg/hとし、ポリ乳酸の流量は8.33kg/hとした。
【0127】
次に、圧縮性流体である二酸化炭素をガス導入部23Aから、流量0.99kg/h(対ポリ乳酸で10質量%相当)で圧縮性流体供給エリアbに供給した。また、架橋剤であるイソシアヌレート(デュラネート TPA-100、旭化成株式会社)を、ガス導入部23Bから、その流量が0.05kg/h(樹脂に対して0.5%)となるように供給した。
【0128】
そして、3質量%フィラー含有マスターバッチ、ポリ乳酸及び架橋剤と、圧縮性流体とを、混練エリアcにおいて混練し、第2押出機21Bに供給した。
【0129】
第2押出機21Bの先端に取り付けたサーキュラー金型(スリット口径70mm)から、混練エリアcで混練した混合物を吐出量10kg/hで、第2押出機21B内に供給し、樹脂温度140℃まで冷却させながら、第2加熱エリアdにおいて混練した。そして、混合物から圧縮性流体を除去して押出発泡させ、サーキュラーダイ24のスリット241から押出発泡された筒状のポリ乳酸系発泡シートを冷却されているマンドレル25上に沿わせると共に、その外面をエアリングからエアーを吹き付けて冷却成形した。その後、冷却成形したポリ乳酸系樹脂発泡シートをカッターにより切開して、平坦シートにし、ローラ26を通過させた後、巻き取りローラ27で巻き取り、発泡シートを得た。
【0130】
各エリアの温度は、第1押出機21Aの、原材料混合及び溶融エリアa及び圧縮性流体供給エリアbを190℃とし、混練エリアcを150℃とし、第2押出機21Bの第2加熱エリアdを140℃とした。
【0131】
各エリアの圧力は、圧縮性流体供給エリアbから第二押出機加熱エリアdまでを7.0MPaとした。
【0132】
<実施例2及び3>
実施例1において、フィラー量を表1に示す値に変更したこと以外は、実施例1と同様にして行い、実施例2及び3の発泡シートを作製した。
【0133】
<実施例4>
実施例1において、フィラーの種類をシリカ(QSG-30、信越化学工業株式会社製、平均粒子径0.004μm)に変更した以外は、実施例1と同様にして行い、発泡シートを作製した。
【0134】
<実施例5、6>
実施例1において、架橋剤の種類をグリシジルエステル含有架橋剤(Joncryl 4368C、BASF社)に変更したこと以外は、実施例1と同様にして行い、発泡シートを作製した。
【0135】
<実施例7>
実施例1において、フィードを8kg/Hrに変更したこと以外は実施例1と同様にして行い、厚みが0.8mmの発泡シートを作製した。
【0136】
<比較例1>
実施例1において、フィラー及び架橋剤を含めなかったこと以外は、実施例1と同様にして行い、発泡シートを作製した。
【0137】
<比較例2>
実施例1において、フィラーを重質炭酸カルシウム(ソフトン2200、白石カルシウム株式会社製、個数平均粒子径1.000μm)に変更した以外は、実施例1と同様にして行い、発泡シートを作製した。なお、混練後のフィラーの個数平均粒子径は、0.420μmであった。
【0138】
<比較例3>
実施例5において、架橋剤の含有量を変更したこと以外は、実施例5と同様にして行い、発泡シートを作製した。
【0139】
各実施例及び比較例の発泡シートの各成分を表1に示す。
【0140】
<物性>
得られた発泡シートの物性として、かさ密度、平均発泡径、シート厚み、緩衝係数及び突刺強度を測定した。測定結果を表1に示す。
【0141】
[かさ密度]
温度23℃、相対湿度50%の環境下で24時間以上放置した発泡シートの外形寸法からかさ体積を求めた。次いで、この発泡シートの重量(g)を精秤した。下記式(2)の通り、発泡シートの重量をかさ体積で除することにより、かさ密度を求めた。
かさ密度=発泡シートの重量/発泡シートのかさ体積 ・・・(2)
【0142】
[平均発泡径]
得られた発泡シートをイオンミリング装置にて断面加工を行い、断面のSEM観察を行った。得られた断面SEM写真(倍率3000倍)は、Image-Pro Premier(mediacy社製)のソフトを使用し、発泡(空隙)に該当する灰色成分と樹脂成分(白色)を二値化し、35μm×20μmの範囲で平均粒子径(フェレ径)を求め、フェレ径0.5μm以上の灰色成分(発泡)について、平均発泡径を算出した。平均発泡径は、3箇所の発泡の平均値とした。
【0143】
[シート厚み]
得られた発泡シートをイオンミリング装置にて断面加工を行い、断面のSEM観察を行った。得られた断面SEM写真(倍率100倍)にて、Image-Pro Premier(mediacy社製)のソフトを使用した。そして、1視野として1mmの範囲を10回測定して、1視野の平均値を算出した。これを3視野で行い、3視野の平均値を、シート厚みとした。
【0144】
[残存する揮発成分の含有量]
得られた発泡シート1質量部に2-プロパノール2質量部を加え、超音波で30分間分散させた後、冷蔵庫(5℃)にて1日以上保存し、組成物中の揮発成分を抽出した。保存した分散物の上澄み液をガスクロマトグラフィー(GC-14A、株式会社島津製作所製)で分析し、組成物中の揮発成分を定量して測定した。リファレンスとして、ポリ乳酸樹脂(Revode110)を同様の手順にて測定し、リファレンス以下であれば検出下限とみなす。揮発成分が検出下限値以下の場合には〇と評価し、揮発成分が検出下限値を超えた場合には×と評価した。
(測定条件)
・装置:GC-14A(島津製作所製)
・カラム:CBP20-M 50-0.25
・検出器:FID
・注入量:1μL~5μL
・キャリアガス:He 2.5kg/cm2
・水素流量:0.6kg/cm2
・空気流量:0.5kg/cm2
・チャートスピード:5mm/min
・感度:Range101×Atten20
・カラム温度:40℃
・Injection Temp:150℃
【0145】
[緩衝性]
得られた発泡シートの緩衝性を緩衝係数により評価した。
緩衝係数を求めるに当たり、まず、圧縮応力を測定した。圧縮応力の測定装置としては、万能試験機(AG-50X、島津製作所製)と5kNの校正されたロードセルを使用した。シートから均等に直径50mmの円を打ち抜いた。このとき、万能試験機に加圧板と固定した支持板の間に試料を挟んで2.9N~3.0Nの力を加えた場合にシートの厚みが25mm~35mmとなるように、必要な枚数を打ち抜いた。シートを加圧板と支持板の間に挟み、速度(100±20)mm/分で試験片の厚さの(40±1)%まで加圧した。なお、応力が0.3Mpaまで到達しない場合は、圧縮量を厚さの70%まで変更した。そして、その時の1回目の圧縮応力の測定値を元に、緩衝係数を、JIS Z 0235:2002及びISO4651に準拠して求めた。上記操作を3回繰り返し、緩衝係数の3回の平均値を求めた。求めた3回の緩衝係数の平均値を発泡シートの緩衝係数として、下記評価基準により評価した。緩衝係数は、圧縮応力が0.02MPa超えて0.05MPa以下である場合(圧縮応力A)と、0.05MPa超えて0.2MPa以下である場合(圧縮応力B)と、圧縮応力が0.2MPa超えて0.3MPa以下である場合(圧縮応力C)とで測定した。
緩衝係数=圧縮応力/単位体積当たりの圧縮エネルギー ・・・(3)
(評価基準)
◎:圧縮応力A、B及びCで緩衝係数が何れも10以下
〇:圧縮応力A、Bで緩衝係数が10以下であるが、圧縮応力Cで緩衝係数が10以下でない
△:圧縮応力Aで緩衝係数が10以下であるが、圧縮応力B及びCで緩衝係数が10以下でない
×:圧縮応力A、B及びCで緩衝係数が何れも10以下でない
【0146】
[突刺強度]
発泡シートのシート厚みを2mmとしたサンプルを用いて、JIS Z 1707に準拠して突刺強度を求めた。突刺強度より発泡シートのシート強度を評価した。
【0147】
【0148】
表1より、実施例1~6で得られた発泡シートは、突刺強度及び緩衝性を何れも前述の条件(突刺強度が2N以上であり、緩衝性が◎または〇である)を満たしていたことが確認された。これに対して、比較例1~3で得られた発泡シートは、突刺強度及び緩衝性の少なくとも何れかが前述の条件を満たしておらず、許容できない品質の悪化が生じていた。そのため、比較例1~3で得られた発泡シートは、求められる特性の全てを両立できず、実用上問題を有することが確認された。
【0149】
よって、実施例1~6の発泡シートは、比較例1~3の発泡シートと異なり、緩衝係数が10以下となる圧縮応力を0.2Mpa以下とし、シート厚みを2mmとしたときのJIS Z 1707で求める突刺強度を2.4N以上にできる。これにより、実施例1~6の発泡シートは、優れた緩衝性及びシート強度を有することができる。
【0150】
以上の通り、実施形態を説明したが、上記実施形態は、例として提示したものであり、上記実施形態により本発明が限定されるものではない。上記実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の組み合わせ、省略、置き換え、変更等を行うことが可能である。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると共に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0151】
10 連続式混練装置
20 連続式発泡シート化装置
【先行技術文献】
【特許文献】
【0152】