IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 東芝テック株式会社の特許一覧

(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-26
(45)【発行日】2022-10-04
(54)【発明の名称】制御装置及びインクジェット記録装置
(51)【国際特許分類】
   B41J 2/14 20060101AFI20220927BHJP
   B41J 2/015 20060101ALI20220927BHJP
   B41J 2/045 20060101ALI20220927BHJP
   B41J 2/01 20060101ALI20220927BHJP
   H01L 41/09 20060101ALI20220927BHJP
   H01L 41/187 20060101ALI20220927BHJP
【FI】
B41J2/14 611
B41J2/015 101
B41J2/14 303
B41J2/045
B41J2/01 301
H01L41/09
H01L41/187
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2019019351
(22)【出願日】2019-02-06
(65)【公開番号】P2020124872
(43)【公開日】2020-08-20
【審査請求日】2021-10-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000003562
【氏名又は名称】東芝テック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100108855
【弁理士】
【氏名又は名称】蔵田 昌俊
(74)【代理人】
【識別番号】100103034
【弁理士】
【氏名又は名称】野河 信久
(74)【代理人】
【識別番号】100075672
【弁理士】
【氏名又は名称】峰 隆司
(74)【代理人】
【識別番号】100153051
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 直樹
(74)【代理人】
【識別番号】100179062
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 正
(74)【代理人】
【識別番号】100162570
【弁理士】
【氏名又は名称】金子 早苗
(72)【発明者】
【氏名】小野 俊一
【審査官】牧島 元
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-112426(JP,A)
【文献】特開2005-041076(JP,A)
【文献】特開2003-285441(JP,A)
【文献】特開2004-306395(JP,A)
【文献】特開2019-010748(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41J 2/01-2/215
H01L 41/09
H01L 41/187
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
充電可能な電圧源と、
第1の電極、第2の電極、及び前記第1の電極と前記第2の電極とに挟まれた圧電体によって構成され、電荷の充放電とともに前記圧電体が変形する等価キャパシタと、
前記圧電体の変形によって容積が変化する、液体を収容する圧力室と、
複数の前記等価キャパシタを前記電圧源に並列接続して充電し、
複数の前記等価キャパシタを前記電圧源に直列接続することで、前記等価キャパシタに蓄えられた電荷を前記電圧源に放電して前記電圧源を充電するとともに、前記圧電体の変形によって前記液体を前記圧力室から吐出させる、
制御部と、を備える制御装置。
【請求項2】
前記第1の電極を前記電圧源に接続する第1のスイッチと、
前記第1の電極を他の等価キャパシタの前記第2の電極と接続する第2のスイッチと、をさらに備え、
前記制御部は、
前記第1のスイッチを閉じることで前記等価キャパシタを充電し、
前記第2のスイッチを閉じることで前記等価キャパシタを直列接続する、請求項1に記載の制御装置。
【請求項3】
前記制御部は、前記第1の電極とグラウンドとを接続することで、前記等価キャパシタに蓄えられている電荷をグラウンドに放電する、請求項1又は請求項2に記載の制御装置。
【請求項4】
前記第1の電極とグラウンドとを接続する第3のスイッチをさらに備え、
前記制御部は、前記第3のスイッチを閉じることで、前記等価キャパシタに蓄えられている電荷をグラウンドに放電する、請求項3に記載の制御装置。
【請求項5】
充電可能な電圧源と、
第1の電極、第2の電極、及び前記第1の電極と前記第2の電極とに挟まれた圧電体によって構成され、電荷の充放電とともに前記圧電体が変形する等価キャパシタと、
前記圧電体の変形によって容積が変化する、液体を収容する圧力室と、
前記圧力室に液体を供給する液体供給装置と、
複数の前記等価キャパシタを前記電圧源に並列接続して充電し、
複数の前記等価キャパシタを前記電圧源に直列接続することで、前記等価キャパシタに蓄えられた電荷を前記電圧源に放電して前記電圧源を充電するとともに、前記圧電体の変形によって前記液体を前記圧力室から吐出させる、
制御部と、を備えるインクジェット記録装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、制御装置及びインクジェット記録装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ピエゾ方式のインクジェットヘッドは、ピエゾアクチュエータを駆動させることでインク室の容積を増加及び減少させる。これにより、インクジェットヘッドは、インク室内の液体を吐出する。インクジェットヘッドは、ピエゾアクチュエータを駆動させるために、FET(field effect transistor)などのスイッチを用いるなどして、ピエゾアクチュエータが備える2つの電極間にかける電圧を切り替える。例えば、インクジェットヘッドは、当該電極間に電圧をかけることで、ピエゾアクチュエータを駆動させ、インク室の容積を膨張させる。そして、インクジェットヘッドは、当該電極間の電位差を等電位にすることで、インク室の容積を減少させる。このようにインク室の容積が減少することによって液体の圧力が上昇し、インク室内から液体が吐出される。
【0003】
ピエゾアクチュエータは、電極と電極との間に圧電体が挟まれた構造をしている。したがって、ピエゾアクチュエータは、電気的にキャパシタと等価である。すなわち、ピエゾアクチュエータは、電極間に電圧がかかることで電荷を充電する。そして、ピエゾアクチュエータは、充電した電荷を放電することで、電極間の電位差が等電位となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2003-285441号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来、ピエゾ方式のインクジェットヘッドは、インク室の容積を膨張及び収縮させる度に、ピエゾアクチュエータに充電した電荷をグラウンドに放電する。放電される電荷は再利用されないため、消費電力が大きい。放電する電荷を再利用することができれば、消費電力を抑えることができると考えられる。
【0006】
本発明の実施形態が解決しようとする課題は、消費電力を抑えた制御装置及びインクジェット記録装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
実施形態の制御装置は、電圧源、等価キャパシタ、圧力室及び制御部を備える。電圧源は、充電可能である。等価キャパシタは、第1の電極、第2の電極、及び前記第1の電極と前記第2の電極とに挟まれた圧電体によって構成され、電荷の充放電とともに前記圧電体が変形する。圧力室は、前記圧電体の変形によって容積が変化する。圧力室は、液体を収容する。制御部は、複数の前記等価キャパシタを前記電圧源に並列接続して充電する。制御部は、複数の前記等価キャパシタを前記電圧源に直列接続することで、前記等価キャパシタに蓄えられた電荷を前記電圧源に放電して前記電圧源を充電するとともに、前記圧電体の変形によって前記液体を前記圧力室から吐出させる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】実施形態に係るインクジェット記録装置の構成の一例を示す模式図。
図2図1中に示すインクジェットヘッドの一例を示す斜視図。
図3図1中に示すインク供給装置の概略図。
図4図1中に示すインクジェットヘッドに適用可能なヘッド基板の平面図。
図5図4に示すヘッド基板のA-A線断面図。
図6図4に示すヘッド基板の斜視図。
図7】圧力室の状態を示す図。
図8】圧力室の状態を示す図。
図9】電荷の回生について説明するための回路図。
図10】圧力室及びアクチュエータの状態を示す図。
図11】電荷の回生について説明するための回路図。
図12】圧力室及びアクチュエータの状態を示す図。
図13】電荷の回生について説明するための回路図。
図14】電荷の回生について説明するための回路図。
図15】電荷の回生について説明するための回路図。
図16】電荷の回生について説明するための回路図。
図17】圧力室及びアクチュエータの状態を示す図。
図18】電荷の回生について説明するための回路図。
図19】実施形態に係るインクジェットヘッドが備える回路及び制御回路の回路図。
図20】実施形態に係るインクジェットヘッドが備える回路の回路図。
図21】実施形態に係るインクジェットヘッドが備える回路の回路図。
図22】実施形態に係るインクジェットヘッドが備える回路の回路図。
図23】実施形態に係るインクジェットヘッドが備える回路の回路図。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、実施形態に係るインクジェット記録装置について図面を用いて説明する。なお、実施形態の説明に用いる各図面は、説明のため、各部の縮尺を適宜変更して示している場合がある。また、実施形態の説明に用いる各図面は、説明のため、構成を省略して示している場合がある。また、図中、同一の符号を付している部分は、同一又は同等の部分であることを示す。
図1は、実施形態に係るインクジェット記録装置1の構成の一例を示す模式図である。
インクジェット記録装置1は、インクなどの液体状の記録材を用いて画像形成媒体Sなどに画像を形成する。インクジェット記録装置1は、一例として、複数の液体吐出部2と、液体吐出部2を移動可能に支持するヘッド支持機構3と、画像形成媒体Sを移動可能に支持する媒体支持機構4と、を備える。画像形成媒体Sは、例えば、シート状の紙などである。
【0010】
図1に示すように、複数の液体吐出部2が、所定の方向に並列して配置された状態でヘッド支持機構3に支持される。ヘッド支持機構3は、ローラ3aに掛けられたベルト3bに取り付けられている。インクジェット記録装置1は、ローラ3aを回転させることで、ヘッド支持機構3を、画像形成媒体Sの搬送方向に対して直交する主走査方向Aに移動させることが可能である。液体吐出部2は、インクジェットヘッド10及び液体供給装置20を一体に備える。液体吐出部2は、インクなどの液体Iをインクジェットヘッド10から吐出させる吐出動作を行う。インクジェット記録装置1は、一例として、ヘッド支持機構3を主走査方向Aに往復移動させながら液体吐出動作を行うことで、対向して配置される画像形成媒体Sに所望の画像を形成するスキャン方式である。あるいは、インクジェット記録装置1は、ヘッド支持機構3を移動させずに液体吐出動作を行うシングルパス方式であっても良い。この場合、ローラ3a及びベルト3bを設けるには及ばない。またこの場合、ヘッド支持機構3は、例えばインクジェット記録装置1の筐体などに固定される。
【0011】
複数の液体吐出部2のそれぞれは、例えば、CMYK(cyan, magenta, yellow, and key(black))の4色のインクのいずれかに対応する。すなわち、複数の液体吐出部2は、それぞれがシアンインク、マゼンタインク、イエローインク又はブラックインクのいずれかに対応する。そして、複数の液体吐出部2のそれぞれは、対応する色のインクを吐出する。
【0012】
図2は、インクジェットヘッド10の一例を示す斜視図である。インクジェットヘッド10は、ノズル101、ヘッド基板102、駆動回路103、及びマニホールド104を備える。インクジェットヘッド10は、制御装置の一例である。
【0013】
ノズル101は、ヘッド基板102上に設けられる。ノズル101は、ヘッド基板102の長手方向に沿って一列に並んでいる。ノズル101は、駆動回路103から与えられる駆動信号に応じて液体Iの液滴を吐出する。
【0014】
駆動回路103は、ノズル101から液体Iの液滴を吐出させるための駆動信号を出力する。駆動回路103は例えばドライバIC(integrated circuit)である。駆動回路103は、例えば、波形データに基づいて駆動信号を生成する。
【0015】
マニホールド104は、液体供給口105及び液体排出口106を備える。液体供給口105は、インクジェットヘッド10内に液体Iを供給するための供給口である。また、液体排出口106は、インクジェットヘッド10内から液体Iが排出される排出口である。液体供給口105から供給された液体Iのうち、ノズル101から吐出されなかった液体Iが、液体排出口106から排出される。
【0016】
図3は、インクジェット記録装置1に用いられる液体供給装置20の概略図である。液体供給装置20は、インクジェットヘッド10に液体Iを供給する装置である。液体供給装置20は、例えば、供給側液体タンク21、排出側液体タンク22、供給側圧力調整ポンプ23、輸送ポンプ24、及び排出側圧力調整ポンプ25を備える。これらは、液体Iを流すことができるチューブなどによって接続される。
【0017】
供給側液体タンク21は、チューブなどを介して液体供給口105に接続されている。供給側液体タンク21は、液体供給口105にインクを供給する。
排出側液体タンク22は、チューブなどを介して液体排出口106に接続されている。排出側液体タンク22は、液体排出口106から排出された液体Iを一時的に貯留する。
【0018】
供給側圧力調整ポンプ23は、供給側液体タンク21の圧力を調整する。
輸送ポンプ24は、チューブを介して、排出側液体タンク22に貯留されたインクを供給側液体タンク21に還流させる。
排出側圧力調整ポンプ25は、排出側液体タンク22の圧力を調整する。
【0019】
次に、インクジェットヘッド10についてさらに詳細に説明する。
図4は、インクジェットヘッド10に適用可能なヘッド基板102の平面図である。図4ではノズルプレート109の図中左下を部分的に不図示としヘッド基板102の内部構造を図示している。図5図4に示すヘッド基板102のA-A線断面図である。図6は、図4に示すヘッド基板102の斜視図である。
【0020】
ヘッド基板102は、図4及び図5に示すように、圧電部材107、流路部材108、ノズルプレート109、枠部材110、及び板壁111を備える。また、流路部材108には、液体供給穴112と液体排出穴113とが形成されている。流路部材108とノズルプレート109と枠部材110と板壁111とで囲まれ、液体供給穴112が形成されている空間は、液体供給路114である。また、流路部材108とノズルプレート109と枠部材110と板壁111とで囲まれ、液体排出穴113が形成されている空間は、液体排出路117である。液体供給穴112は、液体供給路114に連通している。液体排出穴113は、液体排出路117に連通している。液体供給穴112は、マニホールド104の液体供給口105と流体的に接続している。液体排出穴113は、マニホールド104の液体排出口106と流体的に接続している。
【0021】
圧電部材107は、液体供給路114から液体排出路117までに渡る複数の長溝を有する。これらの長溝は、圧力室115或いは空気室116の一部となる。圧力室115と空気室116は、それぞれ一つおきに形成される。すなわち、圧電部材107は、圧力室115と空気室116とが交互に形成される。空気室116は、長溝の両端を板壁111で塞ぐことにより形成される。板壁111で長溝の両端を塞ぐことにより、液体供給路114および液体排出路117の液体Iが空気室116に流入しないようにする。板壁111の圧力室115に接する箇所は溝が形成される。これにより、液体Iは、液体供給路114から、液体供給路114側の板壁111に形成された溝を通り、圧力室115に流入する。そして、液体Iは、圧力室115から、液体排出路117側の板壁111に形成された溝を通り、液体排出路117に排出される。
【0022】
圧電部材107には、図6図8に示すように、配線電極119(119a、119b、…、119g、…)が形成されている。なお、図7及び図8は、圧力室115の状態を示す図である。圧力室115と空気室116の圧電部材内面には、後述する電極120が形成されている。配線電極119は、電極120と駆動回路103とを電気的に接続する。流路部材108、枠部材110及び板壁111は、例えば、誘電率が小さく、かつ圧電部材との熱膨張率の差が小さい材料で構成されることが好ましい。これらの材料としては、例えば、アルミナ(Al)、窒化珪素(Si)、炭化珪素(SiC)、窒化アルミニウム(AlN)、チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)などを用いることが可能である。
【0023】
圧電部材107は、図7及び図8に示すように、圧電部材107aと圧電部材107bを積層することにより形成される。圧電部材107aと圧電部材107bの分極方向は、板厚方向に沿って互いに反対向きとなっている。圧電部材107には、液体供給路114から液体排出路117へ繋がる複数の長溝が並列に形成されている。
【0024】
各長溝の内面には、電極120(120a、120b、…、120g、…)が形成されている。長溝と長溝を覆うノズルプレート109の一面とで囲まれた空間が、圧力室115及び空気室116となる。図7の例であれば、115b、115d、115f、…の符号で示した空間それぞれが圧力室115であり、116a、116c、116e、116g、…の符号で示した空間それぞれが空気室116である。
【0025】
上述したように、圧力室115と空気室116は交互に並んでいる。電極120は、配線電極119を通して駆動回路103に接続される。圧力室115の隔壁を構成する圧電部材107は、各長溝の内面に設けた電極120によって挟まれている。圧電部材107及び電極120はアクチュエータ118を構成する。
【0026】
駆動回路103は、駆動信号によりアクチュエータ118に電界を印加する。アクチュエータ118は、印加される電界によって、図8に示すアクチュエータ118d及びアクチュエータ118eのように、圧電部材107aと圧電部材107bとの接合部を頂部としてせん断変形する。アクチュエータ118が変形することにより、圧力室115の容積は変化する。圧力室115の容積の変化により、圧力室115の内部にある液体が加圧あるいは減圧される。この加圧あるいは減圧により、液体がノズル101から吐出される。圧電部材107としては、例えば、チタン酸ジルコン酸鉛(PZT:Pb(Zr,Ti)O)、ニオブ酸リチウム(LiNbO)、タンタル酸リチウム(LiTaO)などが使用可能である。
【0027】
電極120は、例えば、ニッケル(Ni)と金(Au)との2層構造である。電極120は、例えばメッキ法によって、長溝内に均一に成膜される。なお、電極120の形成方法としては、メッキ法以外に、スパッタ法、蒸着法を用いることも可能である。長溝は、例えば、長手方向1.5~2.5mm、深さ150.0~300.0μm、幅30.0~110.0μmの形状で、70~180μmのピッチで平行に配列されている。前述したように、長溝は、圧力室115又は空気室116の一部となる。圧力室115と空気室116とは、交互に並んでいる。
【0028】
ノズルプレート109は、圧電部材107の上に接着されている。ノズルプレート109の圧力室115の長手方向の中央部にはノズル101が形成されている。ノズルプレート109の材質は、例えば、ステンレスなどの金属材料、単結晶シリコンなどの無機材料、或いは、ポリイミドフィルムなどの樹脂材料である。なお、本実施形態では、一例として、ノズルプレート109の材料はポリイミドフィルムであるものとする。
【0029】
上述したインクジェットヘッド10は、圧力室115の一端に液体供給路114があり、他端に液体排出路117があり、圧力室115の中央部にノズル101がある。なお、インクジェットヘッド10は、この構成例に限定されるものではない。例えば、インクジェットヘッドは、圧力室115の一端にノズルがあり、他端に液体供給路があってもよい。
【0030】
次に、本実施形態に係るインクジェットヘッド10の動作原理について説明する。
図7は、配線電極119a~配線電極119gを介して、電極120a~電極120gにグラウンド電圧を印加した状態のヘッド基板102を示している。図7は、電極120a~電極120gが同電位であるため、アクチュエータ118a~アクチュエータ118hには電界がかからない。このため、アクチュエータ118a~アクチュエータ118hは変形していない。
【0031】
図8は、電極120dのみに電圧V1を印加し、その他の電極120にグラウンド電圧を印可した状態のヘッド基板102を示している。図8に示す状態では、電極120dと両隣の電極120c及び電極120eとの間に電位差が生じる。アクチュエータ118d及びアクチュエータ118eは、印加される電位差により、圧力室115dの容積を膨張させるようにせん断変形する。なお、アクチュエータ118の変形量は、圧電部材107を挟み込む電極間の電位差が大きいほど大きくなる。そのため、電極120dの電圧がV1から下がると、アクチュエータ118d及びアクチュエータ118eの変形量が減少し、膨張した圧力室115dの容積が減少する。圧力室115dの容積が減少すると、圧力室115d内の液体の圧力が増加して、ノズル101dから液滴が吐出される。例えば、電極120dの電圧がV1からグラウンド電圧に戻ると、アクチュエータ118d及びアクチュエータ118eは、図8の状態から図7の状態に戻る。
【0032】
アクチュエータ118dは、圧電体である圧電部材107を電極120cと電極120dが挟み込んだ構造をしている。他のアクチュエータも同様の構造である。このような構造をしていることから、アクチュエータ118は、電気的にキャパシタと等価である。すなわち、アクチュエータ118は、電極120間に電圧がかかることで、変形すると同時に電荷を蓄える(充電する)。このとき、圧力室115の容積は、増加する。そして、アクチュエータ118は、蓄えた電荷を放電することにより、電極120間の電位差が低下して変形量が小さくなる。このとき、圧力室115の容積は減少し、ノズル101から液滴が吐出される。
【0033】
以上のように、ノズル101から液滴を吐出させるためには、その度にアクチュエータ118を充放電させる必要がある。従来のインクジェット記録装置は、アクチュエータから充電された電荷をグラウンドへ放電しているため電力効率が悪い。アクチュエータ118が放電する電荷を再利用することができれば、従来よりもインクジェット記録装置1の消費電力を抑えることができる。そこで、アクチュエータ118が放電する電荷を回生する方法について、以下に示す(A1)~(A7)の7ステップに分けて説明する。当該説明には、図9図18を用いる。図9図11図13図16及び図18は、電荷の回生について説明するための回路図である。図10図12及び図17は、圧力室115及びアクチュエータ118の状態を示す図である。なお、図9図11図13図16及び図18に示すキャパシタC1は、それぞれが1つの圧力室115に対応するアクチュエータ118を示す。1つの圧力室115につき、容積を増加又は減少させるためのアクチュエータ118は2つである。したがって、各キャパシタC1は、並列に接続された2つのアクチュエータ118(等価キャパシタ)の静電容量を合成したものを示す。なお、キャパシタC1の数は、n個であるとする(nは、自然数。)。また、図9図11図13図16及び図18に示す電圧源E1は、直流電圧V2を出力する。なお、図9図11図13図16及び図18に示す各素子は、説明のために理想的な特性を示すものであるとする。
【0034】
(A1)図9は、動作開始前の状態を示す。このとき、圧力室115は、図10に示すように、アクチュエータ118が変形していない状態である。図9の状態では、全てのキャパシタC1が並列に接続されている。また、電圧源E1と接続するスイッチSW1が開いているため、キャパシタC1は、充電も放電もしない。
【0035】
(A2)図11は、スイッチSW1が閉じた状態を示す。電圧源E1に並列に接続された各キャパシタC1への充電が開始される。そして、各キャパシタC1の電極間電圧は、電圧源E1の出力電圧と同じV2となる。キャパシタC1が充電されることで、図12に示すようにアクチュエータ118が変形して、圧力室115の容積は増加した状態となる。
【0036】
(A3)図13は、スイッチSW1及びスイッチSW2を開いた状態を示す。この状態では、各キャパシタC1は、充電された状態が保持される。このとき、圧力室115の状態は図12に示す状態のままである。
【0037】
(A4)図14は、並列接続されていたキャパシタC1を直列接続にした状態を示す。このように直列接続されたキャパシタC1の両端の電位差はV3となる。キャパシタC1の数はn個であるので、V3=nV2である。図14の状態のとき、圧力室115の状態は図12に示す状態のままである。
【0038】
(A5)図15は、スイッチSW3が閉じた状態を示す。スイッチSW3が閉じることで、直列接続されたキャパシタC1は、電圧源E1と直列接続される。これにより、直列接続されたキャパシタC1の両端の電位差V3が電圧源E1の電圧V2より高いので、キャパシタC1に充電された電荷が電圧源E1に流れ込む。電圧源E1は、流れ込む電荷を蓄える。すなわち、電圧源E1は、充電される。ここで電圧源E1に充電された電荷は、(A2)のステップにおいてキャパシタC1の充電に用いられる。また、キャパシタC1に充電された電荷が電圧源E1に流れ込むことで、アクチュエータ118が変形する。これにより、圧力室115の容積は減少して、ノズル101から液滴が吐出される。
【0039】
(A6)図16は、スイッチSW3を閉じてから十分な時間が経過した後、スイッチSW3を開いた状態を示す。これにより、直列接続されたn個のキャパシタC1の両端の電位差は、V2となり、各キャパシタC1の端子間電圧は、V4となる。なお、キャパシタC1の数はn個であるので、V4=V2/nである。したがって、このときの圧力室115の状態は、図17に示すように、図10に示す状態より少し容積が大きい状態である。なお、ここで、「十分な時間が経過した後」とは、キャパシタC1の両端の電位差が安定した後のことをいう。
【0040】
(A7)図18は、直列接続されていたキャパシタC1を並列接続に戻した状態を示す。また、図18は、スイッチSW4を閉じた状態を示す。各スイッチSW4が閉じられていることで、各キャパシタC1は、グラウンドと短絡する。これにより、各キャパシタC1に残っている電荷が放電される。これにより、圧力室115は、容積が減少し、図17に示す状態から図10に示す状態に変化する。
【0041】
以上のように(A1)~(A7)のステップが繰り返されることで、その度にノズル101から液滴が吐出される。また、以上のように(A1)~(A7)を繰り返すことで、各キャパシタC1から放電された電荷は、電圧源E1に充電される。そして、電圧源E1に充電された電荷は、各キャパシタC1を充電する際に再利用される。
【0042】
以上の(A1)~(A7)のステップを実現する実施形態の回路200の構成について図19を用いて説明する。図19は、実施形態に係るインクジェットヘッド10が備える回路200及び制御回路300の回路図である。
【0043】
回路200は、電圧源E2、スイッチSW5及び複数の回路201を備える。なお、回路200は、例えば、インクジェットヘッド10が備える圧力室115の数だけ回路201を備える。ただし、図19図23に示す回路200は、回路201を、回路201-1、回路201-2及び回路201-mの3つのみ図示し、残りを省略している。ここで、mは、圧力室115の数を示す自然数である。したがって、回路200は、m個の回路201を備える。
【0044】
電圧源E2は、直流電圧を出力する電圧源である。また、電圧源E2は、充電が可能である。電圧源E2の負極は、スイッチSW5の一端と接続している。そして、スイッチSW5の他端は、グラウンドと接続している。
【0045】
回路201は、回路201の外部と接続する導線W1~導線W3を備える。
導線W1は、電圧源E2の正極と接続している。
回路201-1の導線W2は、電圧源E2の正極と接続している。回路201-k1(2≦k1≦m)の導線W2は、回路201-k2(k2=k1-1)の導線W3と接続している。
回路201-mの導線W3は、電圧源E2の正極と接続している。
【0046】
また、回路201は、スイッチSW6~スイッチSW9及びキャパシタC2を備える。
スイッチSW6~スイッチSW9は、例えば、FETである。スイッチSW6の一端は、導線W1と接続している。スイッチSW6の他端は、スイッチSW7の一端と接続している。スイッチSW7の他端は、導線W3と接続している。また、スイッチSW6の他端は、スイッチSW8の一端とも接続している。スイッチSW8の他端は、グラウンドと接続している。また、スイッチSW6の他端は、キャパシタC2の一端とも接続している。キャパシタC2の他端は、スイッチSW9の一端と接続している。スイッチSW9の他端は、グラウンドと接続している。また、キャパシタC2の他端は、導線W2とも接続している。なお、上記キャパシタC2の一端は、第1の電極の一例である。また、上記キャパシタC2の他端は、第2の電極の一例である。
【0047】
以上より、スイッチSW6は、第1の電極を前記電圧源に接続する第1のスイッチの一例である。また、スイッチSW7は、第1の電極を他のキャパシタC2の第2の電極に接続する第2のスイッチの一例である。また、スイッチSW8は、第1の電極をグラウンドに接続する第3のスイッチの一例である。
【0048】
キャパシタC2のそれぞれは、図9などに示すキャパシタC1と同様に、1つの圧力室115に対応する。すなわち、キャパシタC2のそれぞれは、並列に接続された2つのアクチュエータ118(等価キャパシタ)の静電容量を合成したものを示す。
【0049】
また、回路200は、制御回路300と接続している。制御回路300は、スイッチSW5~スイッチSW9を制御するなどして、回路200を制御する。制御回路300は、制御部の一例である。
【0050】
回路200及び制御回路300の動作について、図19図23を用いて説明する。図20図23は、実施形態に係るインクジェットヘッド10が備える回路200の回路図である。なお、回路200及び制御回路300の動作について、以下に示す(B1)~(B5)の5ステップに分けて説明する。
【0051】
(B1)制御回路300は、回路200を制御して図19に示す状態にする。すなわち、制御回路300は、スイッチSW6及びスイッチSW7を開いた状態にし、スイッチSW5、スイッチSW8及びスイッチSW9を閉じた状態にする。なお、このとき、キャパシタC2は、充電されていない状態であるものとする。図19に示す状態では、各キャパシタC2の電極間には電圧がかかっていない。したがって、図19に示す状態ではキャパシタC2は、充放電しない。なお、(B1)のステップは、前述の(A1)のステップにあたる。
【0052】
(B2)制御回路300は、回路200を制御して図20に示す状態にする。すなわち、制御回路300は、スイッチSW7及びスイッチSW8を開いた状態にし、スイッチSW5、スイッチSW6及びスイッチSW9を閉じた状態にする。この状態では、各キャパシタC2が、並列に電圧源E2と接続する。これにより、各キャパシタC2に対して充電が行われる。ここで、電圧源E2が充電されている状態である場合には、電圧源E2に充電されている電荷が各キャパシタC2の充電に用いられる。なお、(B2)のステップは、前述の(A2)のステップにあたる。
【0053】
(B3)制御回路300は、回路200を制御して図21に示す状態にする。すなわち、制御回路300は、スイッチSW5、スイッチSW6、スイッチSW8及びスイッチSW9を開いた状態にし、スイッチSW7を閉じた状態にする。この状態では、各キャパシタC2が直列に接続される。なお、(B3)のステップは、前述の(A4)のステップにあたる。
【0054】
(B4)制御回路300は、回路200を制御して図22に示す状態にする。すなわち、制御回路300は、スイッチSW6、スイッチSW8及びスイッチSW9を開いた状態にし、スイッチSW5及びスイッチSW7を閉じた状態にする。この状態では、直接に接続されたキャパシタC2が、電圧源E2に接続する。これにより、直列に接続されたキャパシタC2に蓄えられた電荷が放電される。そして、放電された電荷は、電圧源E2に流入する。電圧源E2は、流入した電荷を蓄える。これにより、電圧源E2の充電が行われる。また、キャパシタC2に蓄えられた電荷が放電されると共に、圧力室115の容積が減少して、ノズル101から液滴が吐出される。なお、(B4)のステップは、前述の(A5)のステップにあたる。
【0055】
(B5)制御回路300は、回路200を制御して図23に示す状態にする。すなわち、制御回路300は、スイッチSW6及びスイッチSW7を開いた状態にし、スイッチSW5、スイッチSW8及びスイッチSW9を閉じた状態にする。この状態では、各キャパシタC2の両電極がグラウンドと接続する。これにより、各キャパシタC2に残っている電荷が放電される。なお、(B5)のステップは、前述の(A7)のステップにあたる。
【0056】
インクジェットヘッド10は、上記の(B1)~(B5)のステップを実行する度にノズル101から液滴を吐出させる。
【0057】
実施形態のインクジェットヘッド10は、複数のアクチュエータ118を電圧源E2に並列接続することで、アクチュエータ118を充電する。同時に、アクチュエータ118が変形して圧力室115の容積が増加する。その後、インクジェットヘッド10は、複数のアクチュエータ118を電圧源E2に直列接続する。これにより、直列接続された複数のアクチュエータ118に蓄えられた電荷が放電されて電圧源E2に流入する。同時に、アクチュエータ118が変形して圧力室115の容積が減少する。このとき、圧力室115内の液体の圧力が上昇して、ノズル101から液滴が吐出される。また、電圧源E2は、流入する電荷によって充電が行われる。ここで電圧源E2に充電された電荷は、アクチュエータ118の充電に用いられる。
以上のように、実施形態のインクジェットヘッド10は、アクチュエータ118から放電される電荷を再利用して、アクチュエータ118を充電する。これにより、実施形態のインクジェットヘッド10は、従来よりも少ない電力消費で圧力室115の容積を増減させることができる。
【0058】
実施形態のインクジェットヘッド10は、アクチュエータ118に充電された電荷を電圧源E2に放電させた後、アクチュエータ118に残った電荷をグラウンドに放電する。これにより、圧力室115の容積は、減少する。このため、アクチュエータ118に電荷が充電された際の圧力室115の容積の増加量が大きくなるので、吐出効率が向上する。
【0059】
実施形態のインクジェットヘッド10は、スイッチの制御によって、上記動作を実行する。このため、実施形態のインクジェットヘッド10は、大きな電力を使わずに上記動作の制御が可能である。
【0060】
上記の実施形態は以下のような変形も可能である。
実施形態のインクジェット記録装置1は、画像形成媒体Sに、インクによる二次元の画像を形成するインクジェットプリンタである。しかしながら、実施形態のインクジェット記録装置は、これに限られるものではない。実施形態のインクジェット記録装置は、例えば、3Dプリンタ、産業用の製造機械、又は医療用機械などであっても良い。実施形態のインクジェット記録装置が3Dプリンタ、産業用の製造機械、又は医療用機械などである場合には、実施形態のインクジェット記録装置は、例えば、素材となる物質、又は素材を固めるためのバインダなどをインクジェットヘッドから吐出させることで、立体物を形成する。
【0061】
実施形態のインクジェット記録装置1は、液体吐出部2を4つ備え、それぞれの液体吐出部2が使用する液体Iは、シアン、マゼンタ、イエロー又はブラックのインクである。しかしながら、インクジェット記録装置が備える液体吐出部2の数は4つに限定しないまた、インクジェット記録装置が備える液体吐出部2の数は複数ではなく1つでも良い。また、それぞれの液体吐出部2が使用するインクの色及び特性などは限定しない。
また、液体吐出部2は、透明光沢インク、赤外線又は紫外線等を照射したときに発色するインク、又はその他の特殊インクなども吐出可能である。さらに、液体吐出部2は、インク以外の液体を吐出することができるものであっても良い。なお、液体吐出部2が吐出する液体は、懸濁液などの分散液であっても良い。液体吐出部2が吐出するインク以外の液体としては例えば、プリント配線基板の配線パターンを形成するための導電性粒子を含む液体、人工的に組織又は臓器などを形成するための細胞などを含む液体、接着剤などのバインダ、ワックス、又は液体状の樹脂などが挙げられる。
【0062】
インクジェットヘッド10は、回路200に代えて、(A1)~(A7)に示すような動作が可能な他の回路を備えていても良い。
【0063】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0064】
1……インクジェット記録装置、10……インクジェットヘッド、107……圧電部材、115……圧力室、118……アクチュエータ、120……電極、200……回路、300……制御回路、C1,C2……キャパシタ、E1,E2……電圧源、SW1~SW9……スイッチ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22
図23