(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-27
(45)【発行日】2022-10-05
(54)【発明の名称】熱可塑性樹脂組成物および成形体
(51)【国際特許分類】
C08L 69/00 20060101AFI20220928BHJP
C08L 67/03 20060101ALI20220928BHJP
C08L 25/04 20060101ALI20220928BHJP
C08K 7/02 20060101ALI20220928BHJP
C08K 5/00 20060101ALI20220928BHJP
【FI】
C08L69/00
C08L67/03
C08L25/04
C08K7/02
C08K5/00
(21)【出願番号】P 2017240708
(22)【出願日】2017-12-15
【審査請求日】2020-11-20
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000001270
【氏名又は名称】コニカミノルタ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002952
【氏名又は名称】弁理士法人鷲田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】間簔 雅
(72)【発明者】
【氏名】中村 公亮
(72)【発明者】
【氏名】中島 陽
(72)【発明者】
【氏名】塚本 宗夫
【審査官】西山 義之
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-167270(JP,A)
【文献】特開平07-070446(JP,A)
【文献】特開2010-202714(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 69/00
C08L 67/03
C08L 25/04
C08K 7/02
C08K 5/00
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリカーボネート樹脂と、
スチレン系樹脂およびポリエチレンテレフタレート樹脂の一方または両方と、
繊維状フィラーと、
下記一般式(1)で表される化合物との溶融混練物であ
り、
前記ポリカーボネート樹脂と、前記スチレン系樹脂および前記ポリエチレンテレフタレート樹脂の一方または両方との合計100質量部に対する前記一般式(1)で表される化合物の含有量は、0.9~5質量部である、
熱可塑性樹脂組成物。
【化1】
(上記一般式(1)において、R1は、ヒドロキシ基、メトキシ基、エトキシ基またはアミノ基であり、R2は、炭素数が11~27のアルキル基またはアルケニル基である。)
【請求項2】
前記繊維状フィラーは、ガラス繊維および炭素繊維の一方または両方を含む、請求項
1に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項3】
前記一般式(1)において、前記R1は、アミノ基である、請求項1
または請求項2に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項4】
前記一般式(1)において、前記R2は、炭素数が17のアルキル基である、請求項1~
3のいずれか一項に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項5】
熱可塑性樹脂組成物を用いた成形体であって、
前記熱可塑性樹脂組成物は、請求項1~
4のいずれか一項に記載の熱可塑性樹脂組成物である、
成形体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱可塑性樹脂組成物および成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、自動車やOA機器などに使用されている樹脂製品は、射出成形などにより成形されている。近年、環境負担の軽減や、材料コストの低減の観点から、樹脂製品の樹脂材料の使用量を削減することが望まれている。そして、樹脂材料の使用量を削減する方法として、薄肉形成する方法が知られている。
【0003】
しかしながら、薄肉の樹脂製品を射出成形によって成形しようとすると、金型内で溶融した樹脂材料の流動性が低下することがある。また、薄肉化した樹脂製品は、強度が下がることがある。樹脂製品の強度を高めるためには、繊維状のフィラーを添加することが有効である。
【0004】
一方、樹脂組成物の流動性を高くするため、滑剤、分子量の低い樹脂、可塑剤などを添加することが知られている(例えば、特許文献1参照)。特許文献1には、所定の滑剤を含有させることで熱可塑性樹脂組成物の流動性を向上させている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、フィラーを添加すると、流動性が低下するため成形性が悪くなることがある。また、滑剤、分子量の低い樹脂、可塑剤などを添加すると、剛性が低下することがある。このように、従来の技術では、剛性と流動性とを両立することは困難である。
【0007】
そこで、本発明の課題は、流動性および剛性を両立した熱可塑性樹脂組成物および当該熱可塑性樹脂組成物を使用した成形体を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、ポリカーボネート樹脂と、スチレン系樹脂およびポリエチレンテレフタレート樹脂の一方または両方と、繊維状フィラーと、下記一般式(1)で表される化合物とを含む、熱可塑性樹脂組成物を提供する。
【0009】
【0010】
(上記一般式(1)において、R1は、ヒドロキシ基、メトキシ基、エトキシ基またはアミノ基であり、R2は、炭素数が11~27のアルキル基またはアルケニル基である。)
【0011】
本発明は、熱可塑性樹脂組成物を用いた成形体であって、前記熱可塑性樹脂組成物は、前述した熱可塑性樹脂組成物である、成形体を提供する。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、当該熱可塑性樹脂組成物を用いた成形体の剛性および流動性を両立した技術を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の一実施の形態に係る熱可塑性樹脂組成物について説明する。
【0014】
(熱可塑性樹脂組成物)
熱可塑性樹脂組成物は、ポリカーボネート樹脂と、スチレン系樹脂およびポリエチレンテレフタレート樹脂の一方または両方と、繊維状フィラーと、後述する一般式(1)で表される化合物とを含む。
【0015】
ポリカーボネート樹脂は、芳香族二価フェノール系化合物と、ホスゲンまたは炭酸ジエステルとを反応させることで製造できる、芳香族ホモまたはコポリカーボネート樹脂である。ポリカーボネート樹脂の製造方法は、特に限定されず、公知の製造方法を採用できる。ポリカーボネート樹脂の製造方法の例には、芳香族二価フェノール系化合物にホスゲンなどを直接反応させる方法(界面重合法)や、芳香族二価フェノール系化合物とジフェニルカーボネートなどの炭酸ジエステルとを溶融状態でエステル交換反応させる方法(溶液法)が含まれる。
【0016】
ポリカーボネート樹脂の粘度平均分子量は、1×104~1×106が好ましい。ポリカーボネート樹脂の粘度平均分子量は、「CBM-20Aliteシステム」および「GPCソフトウェア」(いずれも、島津製作所社製)で測定できる。
【0017】
芳香族二価フェノール系化合物の例には、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3,5-ジメチルフェニル)プロパン、ビス(4-ヒドロキシフェニル)メタン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)エタン、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)ブタン、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3,5-ジフェニル)ブタン、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3,5-ジエチルフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3,5-ジエチルフェニル)プロパン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、および1-フェニル-1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)エタンが含まれる。芳香族二価フェノール系化合物は、1種類を単独で使用してもよいし、2種類以上を併用してもよい。
【0018】
炭酸ジエステルの例には、ジフェニルカーボネート、ジトルイルカーボネート、ビス(クロロフェニル)カーボネートなどのジアリールカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネートなどのジアルキルカーボネート、ホスゲンなどのカルボニルハライド、2価フェノールのジハロホルメートなどのハロホルメートが含まれる。炭酸ジエステルは、ジフェニルカーボネートが好ましい。炭酸ジエステルは、1種類を単独で使用してもよいし、2種類以上を併用してもよい。
【0019】
ポリカーボネート樹脂の例には、1,1,1-トリス(4-ヒドロキシフェニル)エタンまたは1,1,1-トリス(3,5-ジメチル-4-ヒドロキシフェニル)エタンのような三官能以上の多官能性芳香族化合物を共重合した分岐ポリカーボネート樹脂、芳香族または脂肪族の二官能性カルボン酸を共重合したポリエステルカーボネート樹脂が含まれる。ポリカーボネート樹脂は、1種類を単独で使用してもよいし、2種類以上を併用した混合物であってもよい。また、ポリカーボネート樹脂は、使用済みとなって廃棄された成形加工品から得られたポリカーボネート樹脂(再生ポリカーボネート樹脂)であってもよい。
【0020】
スチレン系樹脂の例には、ポリスチレン(PS)、高衝撃性ポリスチレン(HIPS樹脂)、アクリロニトリル-スチレン共重合体(AS樹脂)、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体(ABS樹脂)、アクリロニトリル-スチレン-スチレン共重合体(ASA樹脂)、アクリロニトリル-エチレン-スチレン共重合体(AES樹脂)が含まれる。スチレン系樹脂は、射出成形時における流動性および成形性の観点から、ABS樹脂が好ましい。
【0021】
スチレン系樹脂は、調製してもよいし、市販品を購入してもよい。市販されているスチレン系樹脂の例には、ポリスチレン(PS)の例には、ディックスチレンXC515(DIC株式会社;「ディックスチレン」は、同社の登録商標)が含まれる。HIPS樹脂の例には、ディックスチレンGH-8300-5(DIC株式会社;「ディックスチレン」は、同社の登録商標)が含まれる。ABS樹脂の例には、スタイラック321(旭化成ケミカルズ株式会社;「スタイラック」は、同社の登録商標)が含まれる。
【0022】
ポリエチレンテレフタレートは、調製してもよいし、市販品を購入してもよい。市販されているポリエチレンテレフタレートの例には、ダイヤナイトMA521H-D25(三菱レイヨン株式会社;「ダイヤナイト」は、同社の登録商標)が含まれる。
【0023】
スチレン系樹脂およびポリエチレンテレフタレートを使用する場合の混合比率は、スチレン系樹脂:ポリエチレンテレフタレート=90:10~10:90が好ましい。
【0024】
ポリカーボネート樹脂と、スチレン系樹脂およびポリエチレンテレフタレート樹脂の一方または両方との混練比率は、99~40質量部のポリカーボネート樹脂に対して、1~60質量部のスチレン系樹脂およびポリエチレンテレフタレート樹脂の一方または両方を混合することが好ましい。
【0025】
繊維状フィラーは、成形体の剛性を高める。繊維状フィラーは、ガラス繊維および炭素繊維の一方または両方を含むことが好ましい。繊維状フィラーの直径は、2~40μmが好ましい。繊維状フィラーの長さは、0.1~10mmが好ましい。繊維状フィラーは、シランカップリング剤、チタネートカップリング剤、アルミネートカップリング剤などで表面処理や表面酸化処理などが施されたものが好ましい。また、繊維状フィラーは、オレフィン系樹脂、スチレン系樹脂、アクリル系樹脂、ポリエステル系樹脂、エポキシ系樹脂、ウレタン系樹脂などで集束処理されたものが好ましい。
【0026】
繊維状フィラーは、調製してもよいし、市販品を購入してもよい。市販されている繊維状フィラーの例には、ガラス繊維として、CS 3PE-937S(日東紡績株式会社)が含まれ、炭素繊維として、TR06UL(三菱ケミカル株式会社)が含まれる。
【0027】
熱可塑性樹脂組成物中における繊維状フィラーの含有量は、ポリカーボネート樹脂と、スチレン系樹脂およびポリエチレンテレフタレート樹脂の一方または両方に対し、1~50質量部が好ましい。
【0028】
熱可塑性樹脂組成物は、下記一般式(1)で表される化合物を含む。下記一般式(1)で表される化合物は、滑剤の一部として使用される。
【0029】
【0030】
上記一般式(1)において、R1は、ヒドロキシ基、メトキシ基、エトキシ基またはアミノ基であり、R2は、炭素数が11~27のアルキル基またはアルケニル基である。R1は、アミノ基が好ましい。また、R2は、炭素数が17のアルキル基が好ましい。
【0031】
炭素数が10以下の場合、炭素鎖が短いため、樹脂同士および繊維状フィラー同士の相互作用を軽減できない。一方、炭素数が28以上の場合、炭素鎖が長いため、立体障害が大きくなり、滑剤が樹脂や繊維状フィラーに近づくことができず、それらの相互作用を軽減できない。
【0032】
アルキル基は、非環式のアルキル基であってもよいし、環式のアルキル基であってもよい。炭素数が11~27の非環式のアルキル基の例には、n-ウンデシル基、1-メチルデシル基、n-ドデシル基、n-トリデシル基、n-テトラデシル基、n-ペンタデシル基、n-ヘキサデシル基、n-ヘプタデシル基、n-オクタデシル基、n-ノナデシル基、n-エイコシル基、n-ヘンエイコシル基、n-ドコシル基、n-トリコシル基、n-テトラコシル基、n-ペンタコシル基、n-ヘキサコシル基、n-ヘプタコシル基が含まれる。
【0033】
炭素数が11~27の環式のアルキル基の例には、シクロドデシル基が含まれる。
【0034】
アルケニル基の例には、n-ウンデシリデン基、n-ドデシリデン基、n-エイコシリデン基、n-ヘプタコシリデン基が含まれる。
【0035】
一般式(1)で示される化合物以外の滑剤の例には、高級脂肪酸の金属塩類、高級脂肪酸アミド類が含まれる。
【0036】
熱可塑性樹脂組成物に用いられる滑剤のうち、上記一般式(1)で示される化合物の含有量は、0.1~3.0質量%がさらに好ましい。
【0037】
ポリカーボネート樹脂と、スチレン系樹脂およびポリエチレンテレフタレート樹脂の一方または両方と、の合計100質量部に対する一般式(1)で表される化合物の含有量は、0.01~5質量部であることが好ましい。一般式(1)で表される化合物の当該含有量が0.01質量部未満の場合、流動性を高める効果が認められないおそれがある。一方、一般式(1)で表される化合物の当該含有量が5質量部超の場合、十分な衝撃強度が得られないおそれがある。
【0038】
熱可塑性樹脂組成物は、本発明の目的が達成される範囲で、前述のポリカーボネート樹脂と、スチレン系樹脂およびポリエチレンテレフタレート樹脂の一方または両方と、繊維状フィラーと、上記一般式(1)で表される化合物との他に、他の樹脂成分や必要に応じて任意の添加成分を含有してもよい。他の樹脂成分の例には、ポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィン、ナイロン6、ナイロン66などのポリアミド、および各種エラストマー類が含まれる。これらの成分は、成形用樹脂としての性能を改良できる。
【0039】
また、任意成分の例には、架橋剤(例えばフェノール樹脂など)、酸化防止剤(ヒンダードフェノール系、含硫黄有機化合物系、含リン有機化合物系など)、熱安定剤(フェノール系、アクリレート系など)、エステル交換抑制剤(モノステアリルアシッドホスフェ-トとジステアリルアシッドホスフェ-トの混合物など)、紫外線吸収剤(ベンゾトリアゾール系、ベンゾフェノン系、サリシレート系など)、光安定剤(有機ニッケル系、ヒンダードアミン系など)、可塑剤(フタル酸エステル類、リン酸エステル類など)、顔料(カーボンブラック、酸化チタン)や染料、難燃剤、帯電防止剤、発泡剤、ドリップ防止剤(例えばポリテトラフルオロエチレン(PTFE))が含まれる。
【0040】
任意成分のさらに他の例には、金属繊維、アラミド繊維、アスベスト、チタン酸カリウムウィスカ、ワラステナイト、ガラスフレーク、ガラスビーズ、タルク、マイカ、クレー、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、酸化チタンおよび酸化アルミニウムなどの充填材が含まれる。
【0041】
他の樹脂成分の含有量は、ポリカーボネート樹脂と、スチレン系樹脂およびポリエチレンテレフタレート樹脂の一方または両方との合計100質量%に対して、0.1~20質量%が好ましく、1~10質量%がより好ましい。また、他の任意の添加成分の含有量は、ポリカーボネート樹脂と、スチレン系樹脂およびポリエチレンテレフタレート樹脂の一方または両方との合計100質量%に対して、0.01~10質量%が好ましく、0.1~5質量%がより好ましい。
【0042】
(熱可塑性樹脂組成物の製造方法)
本実施の形態の熱可塑性樹脂組成物の製造方法としては特に限定されない。例えば、熱可塑性樹脂組成物は、ポリカーボネート樹脂と、スチレン系樹脂およびポリエチレンテレフタレート樹脂の一方または両方と、繊維状フィラーと、一般式(1)で示される化合物を含む滑剤とからなる混合物を溶融混練することにより得られる。この際、溶融混練の前に、あらかじめ各成分を混合する予備混合を行ってもよい。また、あらかじめポリカーボネート樹脂と、スチレン系樹脂およびポリエチレンテレフタレート樹脂の一方または両方とをドライブレンドなどによって予備混合して真空乾燥しておき、乾燥させた混合物に繊維状フィラーおよび一般式(1)で示される化合物を添加して混合し、その混合物を溶融混練してもよい。
【0043】
溶融混練する機械の例には、バンバリーミキサー、ロール、単軸押出機、多軸押出機が含まれる。溶融混練する機械は、二軸押出機が好ましい。溶融混練条件は、適切に溶融混練できれば、特に制限されない。溶融混練温の温度は、使用する樹脂により適宜選択できる。溶融混練温の温度、例えば、240~300℃が好ましく、250~280℃がより好ましい。混練圧力は、例えば、1~20MPaが好ましい。
【0044】
このように溶融混練されて得られた溶融状態の高分子混練物は、射出された後、冷却処理されることが好ましい。冷却処理の方法および冷却温度は、特に限定されない。冷却処理の方法の例および冷却温度の例には、高分子混練物を0~60℃の水に浸漬して水冷する方法、-40~60℃の気体で冷却する方法、-40~60℃の金属に接触させる方法が含まれる。
【0045】
このようにして得られた熱可塑性樹脂組成物は、射出成形法による射出成形時の処理を容易にするために、例えばペレタイザーによって裁断し、ペレットとすることが好ましい。
【0046】
(成形体の製造方法)
本実施の形態に係る熱可塑性樹脂組成物は、任意の手法で形体に成形できる。成形の手法の例には、射出成形、押出成形、ブロー成形、真空成形、異形押出成形、圧縮成形、ガスアシスト成形が含まれる。
【0047】
以上のような熱可塑性樹脂組成物が高い流動性を発揮し、かつ成形体が高い剛性を発揮する理由は、以下のように考えられる。一般に、滑剤は、樹脂の流動性のみを向上させることが知られている。しかし、本実施の形態では、一般式(1)で表される化合物は、ポリカーボネート樹脂とのアロイ樹脂と、繊維状フィラーとの両方に作用し、剛性および流動性を上げることができる。本実施の形態で使用される一般式(1)で表される化合物は、極性基と、長い炭素鎖とから構成されている。
【0048】
一般式(1)で表される化合物の極性基は、ポリカーボネート樹脂とのアロイ樹脂や繊維状フィラーと高い親和性を有するため、一般式(1)で表される化合物がポリカーボネート樹脂や繊維状フィラーに近づくことにより凝集しにくくできる。また、滑剤の長い炭素鎖は、ポリカーボネート樹脂とのアロイ樹脂同士の相互作用と繊維状フィラー同士の相互作用とを軽減させることができる。このように、樹脂の分子鎖が複雑に絡みあった状態では流動性が低下するが、一般式(1)で表される化合物が樹脂の表面に近づくことで、その分子鎖の絡みを和らげるため、流動性が向上すると考えられる。
【0049】
さらに、一般式(1)で表される化合物によって繊維状フィラー同士の相互作用が軽減されるため、繊維状フィラーの配向性が高まることで剛性が向上する。なお、成形体の剛性は、繊維状フィラーが溶融混練物の流動方向に揃っていれば(配向性が高ければ)高い。逆に、繊維状フィラーが溶融混練物の流動方向に対して垂直方向に配向していた場合や、ランダムの場合には、繊維状フィラーが溶融混練物の流動方向に揃っている場合と比較して剛性は低い。
【0050】
以上のように、本実施の形態に係る成形体は、一般式(1)で表される化合物がポリカーボネート樹脂とのアロイ樹脂と、繊維状フィラーとの両方に作用するため、高い剛性と、高い流動性とを両立できる。
【実施例】
【0051】
本実施の形態の熱可塑性樹脂組成物および成形体について、以下の実施例および比較例を用いてさらに具体的に説明する。なお、本実施の形態は、以下の実施例などに限定されない。
【0052】
[成形体1(実施例1)の作製]
ポリカーボネート樹脂100質量部と、ABS樹脂10質量部と、ガラス繊維10質量部と、滑剤としてドデカン酸1質量部を添加して、二軸混練機KTX-30(株式会社神戸製鋼所製)にて、温度250℃、回転数250rpmで混練して熱可塑性樹脂組成物1を作製した。熱可塑性樹脂組成物1を80℃、4時間以上乾燥させた後、JSW-110射出成形機を用いて、JIS 7171に準じた曲げ試験片(成形体1)を得た。成形条件は、シリンダー温度250℃、金型温度50℃、射出速度30mm/sec、保圧50MPaとした。ポリカーボネート樹脂としてタフロンA-1900(出光興産株式会社)を使用した。ABS樹脂としてスタイラック321(旭化成ケミカルズ株式会社)を使用した。ガラス繊維としてCS 3PE-937S(日東紡績株式会社)を使用した。
【0053】
[成形体2~9(実施例2~9)の作製]
成形体1の作製において、ドデカン酸をステアリン酸、オレイン酸、ベヘン酸、モンタン酸、ステアリン酸メチル、パルミチン酸エチル、ステアリン酸アミド、オレイン酸アミドにそれぞれ変更した以外は、成形体1と同様にして、成形体2~9(実施例2~9)を作製した。なお、ドデカン酸、ステアリン酸、オレイン酸、ベヘン酸、モンタン酸ステアリン酸メチル、パルミチン酸エチル、ステアリン酸は、東京化成工業の製品を使用した。
【0054】
[成形体10(実施例10)の作製]
成形体9の作製において、ガラス繊維を炭素繊維に変えたこと以外は、成形体9と同様にして、成形体10(実施例10)を作製した。炭素繊維としてTR06UL(三菱ケミカル株式会社)を使用した。
【0055】
[成形体11(実施例11)の作製]
成形体9の作製において、ABS樹脂をポリエチレンテレフタレート樹脂に変えたこと以外は、成形体9と同様にして、成形体11(実施例11)を作製した。ポリエチレンテレフタレート樹脂としてダイヤナイトMA521H-D25(三菱レイヨン株式会社)を使用した。
【0056】
[成形体12(実施例12)の作製]
成形体8の作製において、ABS樹脂10質量部をABS樹脂5質量部およびPET樹脂5質量部に変えたこと以外は、成形体8と同様にして、成形体12(実施例12)を作製した。
【0057】
[成形体13(実施例13)の作製]
成形体2の作製において、ステアリン酸1質量部を0.05質量部に変えたこと以外は、成形体2と同様にして成形体13(実施例13)を作製した。
【0058】
[成形体14(実施例14)の作製]
成形体2の作製において、ステアリン酸1質量部を5質量部に変えたこと以外は、成形体2と同様にして成形体14(実施例14)を作製した。
【0059】
[成形体15~17(比較例1~3)の作製]
成形体1の作製において、ドデカン酸をデカン酸、ステアリン酸無水物、テトラステアリン酸ペンタエリストール(PETS)に変えたこと以外は、成形体1と同様にして、成形体15~17(比較例1~3)をそれぞれ作製した。PETSは、LOXIOL P861(Emery Oleochemicals)を使用した。
【0060】
[成形体18(比較例4)の作製]
成形体1の作製において、滑剤を添加しなかったこと以外は、成形体1と同様にして、成形体18(比較例4)を作製した。
【0061】
[成形体19(比較例5)の作製]
成形体1の作製において、ドデカン酸をダイヤカルナー30に変更したこと以外は、成形体1と同様にして、成形体19(比較例5)を作製した。ダイヤカルナー30は、三菱化学株式会社製を使用した。
【0062】
各成形体に使用した滑剤の構成を表1に示す。
【0063】
【0064】
3.評価
作製した成形体1~19の曲げ弾性率および曲げ強度と、熱可塑性樹脂組成物の流動性とを以下の方法により評価した。
【0065】
(1)曲げ弾性率の評価
成形体の曲げ弾性率は、JIS 7127の条件に従って、引っ張り試験器(テンシロンRTC-1225A)を用いて測定し、以下の基準で評価した。
○:3600MPa以上
△:3300MPa以上3600MPa未満
×:3300MPa未満
【0066】
(2)曲げ強度の評価
成形体の曲げ強度は、JIS 7127の条件に従って、引っ張り試験器(テンシロンRTC-1225A)を用いて測定し、以下の基準で評価した。
○:125MPa以上
△:117MPa以上125MPa未満
×:117MPa未満
【0067】
(3)流動性の評価
熱可塑性組成物の流動性の評価は、幅10mm、厚み2mmのらせん状の金型に、射出成形を行い、流動長さを測定した。金型温度50℃、成形温度250℃、射出速度30mm/sec、射出圧力90MPaとした。以下の基準で評価した。
○:200mm以上
△:150mm以上200mm未満
×:150mm未満
【0068】
成形体1~19における評価結果を表2に示す。
【0069】
【0070】
表2に示されるように、R2の炭素数が10以下の滑剤(デカン酸)を使用した成形体15(比較例1)は、曲げ強度および曲げ弾性率が十分でなかった。これは、R2の炭素鎖が短いため、樹脂間や繊維状フィラー間に入り込むことができず、樹脂同士および繊維状フィラー同士の相互作用を軽減できなかったためと考えられる。R1がヒドロキシ基、メトキシ基、エトキシ基およびアミノ基以外の滑剤(ステアリン酸無水物)を使用した成形体16(比較例2)は、曲げ強度および曲げ弾性率が十分でなかった。これは、R1の立体傷害が大きいため、樹脂同士および繊維状フィラー同士の相互作用を軽減できなかったためと考えられる。滑剤としてテトラステアリン酸ペンタエリストール(PETS)を使用した成形体17(比較例3)とダイヤカルナー30を使用した成形体19(比較例5)では、曲げ強度、曲げ弾性率が十分でなかった。また、成形体19に使用した熱可塑性樹脂組成物は、流動性が十分でなかった。これらの滑剤は、本実施の形態で使用した滑剤と構造が大きく異なるためと考えられる。一般式(1)で表される化合物を含有していない成形体18(比較例4)は、曲げ強度、曲げ弾性率が十分でなく、かつ熱可塑性樹脂組成物の流動性が十分でなかった。
【0071】
一方、一般式(1)で表される化合物を使用した成形体1~14(実施例1~14)では、曲げ強度、曲げ弾性率および流動性は十分であった。また、特に、R1がアミノ基であり、R2が炭素数17のアルキル基である成形体2、8(実施例2、8)では、曲げ強度、曲げ弾性率および流動性がさらに十分であった。
【産業上の利用可能性】
【0072】
本発明に係る成形体は高い剛性を有し、当該成形体に使用される熱可塑性樹脂組成物は、高い流動性を示すため、OA機器の外装材や内装材として有用である。したがって、OA機器のさらなる多様化とさらなる普及とが期待される。