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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-27
(45)【発行日】2022-10-05
(54)【発明の名称】定着装置及び画像形成装置
(51)【国際特許分類】
   G03G 15/20 20060101AFI20220928BHJP
【FI】
G03G15/20 510
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2018142625
(22)【出願日】2018-07-30
(65)【公開番号】P2020020881
(43)【公開日】2020-02-06
【審査請求日】2021-05-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000006747
【氏名又は名称】株式会社リコー
(74)【代理人】
【識別番号】100134832
【弁理士】
【氏名又は名称】瀧野 文雄
(72)【発明者】
【氏名】下川 俊彦
(72)【発明者】
【氏名】民部 隆一
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 一哉
【審査官】藤井 達也
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-081399(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第107991848(CN,A)
【文献】特開2018-116104(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G03G 13/20
G03G 15/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
加圧部材と、該加圧部材に対向して設けられる無端筒状の定着部材と、該定着部材を加熱する加熱源と、前記定着部材を挟んで前記加圧部材の反対側に配置されることによりニップ部を形成するニップ形成手段と、備えた定着装置であって、
前記ニップ形成手段は、経糸と緯糸とが織られることで形成され、前記定着部材のうち前記ニップ形成手段側の内面に接触するとともに前記内面に潤滑剤を供給する織物部材を有し、
前記織物部材は、幅方向の中央部を含む中央領域と、該中央領域に対して幅方向両側に配置された潤滑剤保持領域と、を有し、
前記中央領域において、前記経糸は、回転方向の上流側から下流側に向かうにしたがって前記中央部に向かうように延びており、前記緯糸は、回転方向の上流側に向かって凸に湾曲しており、
前記潤滑剤保持領域において、前記経糸は、回転方向の上流側から下流側に向かうにしたがって当該潤滑剤保持領域における前記幅方向の中央部に向かうように延びており、前記緯糸は、回転方向の上流側に向かって凸に湾曲し、当該凸形状の頂点は当該潤滑剤保持領域における前記幅方向の中央部に位置しており、
前記緯糸は、前記潤滑剤保持領域において前記幅方向の端部側ほど曲率が大きくなっており、当該緯糸は、前記中央領域よりも前記潤滑剤保持領域において曲率が大きくなっていることを特徴とする定着装置。
【請求項2】
前記定着部材を前記幅方向の両端において保持しつつ回転を案内する一対の保持部材をさらに備え、
前記保持部材は、前記定着部材の内側に配置される保持突部を有し、
前記織物部材における前記幅方向の両端部に前記潤滑剤保持領域が形成され、当該潤滑剤保持領域の幅方向寸法が、前記内面と前記保持突部との接触領域の幅方向寸法以上であることを特徴とする請求項1に記載の定着装置。
【請求項3】
前記織物部材は、連続した一つのシート状部材であることを特徴とする請求項1又は2に記載の定着装置。
【請求項4】
請求項1~のいずれか1項に記載の定着装置を備えたことを特徴とする画像形成装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、定着装置及び該定着装置を備えた画像形成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、画像形成装置に用いられる定着装置として、無端筒状の定着部材(定着ベルト)と、加圧部材と、を備えたものが知られている。このような定着装置では、定着部材と加圧部材とによってニップ部が形成され、ニップ部においてトナーを加圧及び加熱することにより、記録紙に定着させるようになっている。
【0003】
このような定着装置として、定着ベルトの内面に潤滑剤を塗布することにより、定着ベルトを、その内側に配置される部材に対して摺動させやすくしたものが提案されている(例えば、特許文献1参照)。特許文献1に記載された定着装置では、定着ベルトの内側に配置された吸収部材支持部材の外周面に溝を形成するとともに、この溝に潤滑剤吸収部材を配置することにより、潤滑剤が定着ベルトの端部から漏れることを抑制している。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載された定着装置では、潤滑剤が定着ベルトの幅方向端部に向かって流れた際、漏れを抑制することができたとしても、潤滑剤が潤滑剤吸収部材に吸収されるため、定着ベルトに付着した潤滑剤の総量が低下してしまうことがあった。そこで、潤滑剤が幅方向端部に向かって流れないように、定着ベルトの回転時に潤滑剤を幅方向中央部に向けて案内する方法が考えられる。しかしながら、このような構成では、幅方向の端部において潤滑剤が不足してしまい、定着ベルトが幅方向の端部において他の部材と摺動する際に摺動抵抗が高くなってしまう可能性がある。
【0005】
本発明は、定着部材が回転する際の摺動抵抗を低く保つことができる定着装置及び画像形成装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1に係る発明は、上記課題を解決するために、加圧部材と、該加圧部材に対向して設けられる無端筒状の定着部材と、該定着部材を加熱する加熱源と、前記定着部材を挟んで前記加圧部材の反対側に配置されることによりニップ部を形成するニップ形成手段と、備えた定着装置であって、前記ニップ形成手段は、経糸と緯糸とが織られることで形成され、前記定着部材のうち前記ニップ形成手段側の内面に接触するとともに前記内面に潤滑剤を供給する織物部材を有し、前記織物部材は、幅方向の中央部を含む中央領域と、該中央領域に対して幅方向両側に配置された潤滑剤保持領域と、を有し、前記中央領域において、前記経糸は、回転方向の上流側から下流側に向かうにしたがって前記中央部に向かうように延びており、前記緯糸は、回転方向の上流側に向かって凸に湾曲しており、前記潤滑剤保持領域において、前記経糸は、回転方向の上流側から下流側に向かうにしたがって当該潤滑剤保持領域における前記幅方向の中央部に向かうように延びており、前記緯糸は、回転方向の上流側に向かって凸に湾曲し、当該凸形状の頂点は当該潤滑剤保持領域における前記幅方向の中央部に位置しており、前記緯糸は、前記潤滑剤保持領域において前記幅方向の端部側ほど曲率が大きくなっており、当該緯糸は、前記中央領域よりも前記潤滑剤保持領域において曲率が大きくなっていることを特徴とする定着装置である。
【発明の効果】
【0007】
本発明の定着装置によれば、潤滑剤保持領域において、経糸が回転方向の上流側から下流側に向かうにしたがって幅方向の中央部に向かうように延びていることで、経糸に案内された潤滑剤は、潤滑剤保持領域の幅方向中央部に向かって移動する。従って、潤滑剤保持領域内に潤滑剤が保持される。織物部材が、このような潤滑剤保持領域を幅方向の両側に有することで、定着部材の内面のうち幅方向の両側において潤滑剤の不足が生じにくく、定着部材が回転する際の摺動抵抗を低く保つことができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本発明の実施形態に係る定着装置を示す断面図である。
図2】前記定着装置において定着部材が保持部材によって保持される様子を示す部分断面部である。
図3】前記定着装置が設けられる画像形成装置の概略を示す断面図である。
図4】前記定着装置の要部を拡大して示す断面図である。
図5】前記定着装置の織物部材を模式的に示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
[定着装置]
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。本実施形態の定着装置1は、画像形成装置(図3参照)100に設けられるものであって、定着部材2と、加熱源3と、加圧部材4と、ニップ形成手段5と、を備える。
【0010】
定着部材2は、例えばニッケルやSUSなどの金属ベルトやポリイミドなどの樹脂材料によって、無端筒状に形成されたベルトであり、フィルムであってもよい。ベルトの表層はPFAまたはPTFE層などの離型層を有し、トナーが付着しないように離型性を有している。ベルトの基材とPFAまたはPTFE層の間にはシリコーンゴムの層などで形成する弾性層が設けられていてもよい。シリコーンゴム層がない場合は、熱容量が小さくなり定着性が向上する一方、未定着画像を押し潰して定着させるときにベルト表面の微小な凹凸が画像に転写されて画像のベタ部にユズ肌状の光沢ムラ(ユズ肌画像)が残りやすくなる。これを改善するために、シリコーンゴム層を100μm以上設けることが好ましい。シリコーンゴム層の変形により、微小な凹凸が吸収されユズ肌画像が改善する。
【0011】
定着部材2の内部にはニップ形成手段5を支持するための支持部材(ステー)6が設けられ、加圧部材4により圧力を受けるニップ形成手段5の撓みを防止し、軸方向で均一なニップ幅を得られるようになっている。
【0012】
また、定着装置1は、加熱源3と支持部材6との間に反射部材7を備え、加熱源3からの輻射熱などにより支持部材6が加熱されてしまうことによる無駄なエネルギー消費が抑制されている。ここで、反射部材7を設ける代わりに支持部材6表面に断熱もしくは鏡面処理を行っても同様の効果を得ることが可能となる。
【0013】
加熱源3は、図示したハロゲンヒータでも良いが、IHであっても良いし、抵抗発熱体、カーボンヒータ等であっても良い。加熱源3により、定着部材2が内周側から直接加熱される。加熱源3がハロゲンヒータである場合、定着装置1は遮光板を有していてもよい。遮光板は、記録紙サイズに応じた範囲で定着部材2が加熱されるように、ハロゲンヒータが照射した光を遮るものである。遮光板は、各種の記録紙サイズに応じた光通過部を有し、例えば回動することにより、適宜な光通過部が加熱源3と定着部材2との間に位置付けられるようになっている。
【0014】
加圧部材4は、芯金4Aの外側に弾性ゴム層4Bが設けられており、離型性を得るために弾性ゴム層4Bの表面に図示しない離型層(PFAまたはPTFE層)が設けられている。加圧部材4は、図3に示す画像形成装置100に設けられたモータなどの駆動源からギヤを介して駆動力が伝達され回転する。また、加圧部材4は、スプリングなどにより定着部材2側に押し付けられており、弾性ゴム層4Bが押し潰されて変形することにより、所定のニップ幅を有している。
【0015】
加圧ローラは、中空のローラであっても良く、ハロゲンヒータなどの加熱源を有していても良い。弾性ゴム層は、ソリッドゴムでも良いが、加圧ローラ内部にヒータが無い場合には、スポンジゴムが用いられていても良い。スポンジゴムを用いた方が、断熱性が高まり定着スリーブの熱が奪われにくくなるので、より望ましい。
【0016】
ニップ形成手段5は、定着部材2の内側に配置されており、即ち、定着部材2を挟んで加圧部材4の反対側に配置されている。これにより、対向配置された定着部材2と加圧部材4とによってニップ部Nが形成される。トナー像が転写された記録紙がこのニップ部Nを通過し、加熱及び加圧されることにより、トナー像が記録紙に定着するようになっている。
【0017】
図1ではニップ部Nの形状が平坦状であるが、凹形状やその他の形状であっても良い。(ニップ部の形状は凹形状の方が、記録紙先端の排出方向が加圧ローラ寄りになり、分離性が向上するのでジャムの発生が抑制される。)
【0018】
ニップ形成手段5の表面には、潤滑剤が含浸された織物部材8が設けられている。織物部材8は、定着部材2の内面(ニップ形成手段5側の面)21に接触するように設けられており、接触部8Aを構成する。また、織物部材8は、定着部材2の内面21に潤滑剤を供給し、供給手段としても機能する。尚、潤滑剤としては、シリコーンオイルやグリスが例示される。織物部材8の詳細については後述する。
【0019】
定着部材2は、加圧部材4が回転することにより、連れ回り回転する。図1に示す形態では、加圧部材4が駆動源により回転し、ニップ部Nでベルトに駆動力が伝達されることにより定着部材2が回転する。定着部材2は、ニップ部Nで挟み込まれて回転し、ニップ部N以外では両端部に保持部材が挿入されてガイドされ、走行する。
【0020】
定着装置1は、図2に示すような一対の保持部材9A、9Bをさらに備える。保持部材9A、9Bは、板状のベース部91と、ベース部91から突出した保持突部92と、を有する。保持突部92は、例えば円筒状に形成され、定着部材2の内側に配置され、内面21と摺接する。一対の保持部材9A、9Bは、保持突部92が定着部材2の幅方向(軸方向)の両端に挿通されることにより、定着部材2を幅方向の両端において保持しつつ回転を案内する。
【0021】
上記のような構成により安価で、ウォームアップが速い定着装置を実現することが可能となる。
【0022】
[画像形成装置]
次に、上述した構成を用いる画像形成装置100の構成を図3により説明すると次の通りである。
【0023】
図3に示した画像形成装置100は、複数の色画像を形成する作像部がベルトの展張方向に沿って並置されたタンデム方式を用いるカラープリンタである。本発明はこの方式に限ることはなく、またプリンタだけではなく複写機やファクシミリ装置などを対象とすることも可能である。
【0024】
図3において画像形成装置100は、イエロー、シアン、マゼンタ、ブラックの各色に色分解された色にそれぞれ対応する像としての画像を形成可能な像担持体としての感光体ドラム20Y、20C、20M、20Bkを並設したタンデム構造が採用されている。
【0025】
図3に示す構成の画像形成装置100では、各感光体ドラム20Y、20C、20M、20Bkに形成された可視像が、各感光体ドラム20Y、20C、20M、20Bkに対峙しながら矢印A1方向に移動可能な無端ベルトが用いられる中間転写体(以下、転写ベルトという)11に対して1次転写行程を実行してそれぞれの画像が重畳転写される。その後、記録シートなどが用いられる記録紙Sに対して2次転写行程を実行することで一括転写されるようになっている。
【0026】
各感光体ドラム20Y、20C、20M、20Bkの周囲には、感光体ドラム20Y、20C、20M、20Bkの回転に従い画像形成処理するための画像形成手段が配置されている。ここで、ブラック画像形成を行う感光体ドラム20Bkを対象として説明すると、感光体ドラム20Bkの回転方向に沿って画像形成処理を行う帯電装置30Bkと、現像装置40Bkと、1次転写ローラ12Bkと、クリーニング装置50Bkと、が配置されている。帯電後に行われる書き込みは、光書込装置60が用いられる。
【0027】
転写ベルト11に対する重畳転写は、転写ベルト11がA1方向に移動する過程において、各感光体ドラム20Y、20C、20M、20Bkに形成された可視像が、転写ベルト11の同じ位置に重ねて転写される。即ち、転写ベルト11を挟んで各感光体ドラム20Y、20C、20M、20Bkに対向して配設された1次転写ローラ12Y、12C、12M、12Bkによる電圧印加によって、A1方向上流側から下流側に向けてタイミングをずらして行われる。
【0028】
各感光体ドラム20Y、20C、20M、20Bkは、A1方向の上流側からこの順で並んでいる。各感光体ドラム20Y、20C、20M、20Bkは、イエロー、シアン、マゼンタ、ブラックの画像をそれぞれ形成するための画像ステーションに備えられている。
【0029】
画像形成装置100は、色毎の画像形成処理を行う4つの画像ステーションと、各感光体ドラム20Y、20C、20M、20Bkの上方に対向して配設され、転写ベルト11及び1次転写ローラ12Y、12C、12M、12Bkを備えた転写ベルトユニット10と、転写ベルト11に対向して配設され転写ベルト11に従動し、連れ回りする転写部材としての転写ローラである2次転写ローラ14と、転写ベルト11に対向して配設され転写ベルト11上をクリーニングする中間転写ベルト用のクリーニング装置13と、これら4つの画像ステーションの下方に対向して配設された光書き込み装置としての光書込装置60と、を有している。
【0030】
光書込装置60は、光源としての半導体レーザ、カップリングレンズ、fθレンズ、トロイダルレンズ、折り返しミラーおよび偏向手段としての回転多面鏡などを装備している。光書込装置60は、各感光体ドラム20Y、20C、20M、20Bkに対して色毎に対応した書き込み光Lb(図3では、便宜上、ブラック画像の画像ステーションのみを対象として符号が付けてあるが、その他の画像ステーションも略同様である)を出射して感光体ドラム20Y、20C、20M、20Bkに静電潜像を形成する構成とされている。
【0031】
画像形成装置100には、感光体ドラム20Y、20C、20M、20Bkと転写ベルト11との間に向けて搬送される記録紙Sを積載した給紙カセットとしてのシート給送装置70と、シート給送装置70から搬送されてきた記録紙Sを、画像ステーションによるトナー像の形成タイミングに合わせた所定のタイミングで、各感光体ドラム20Y、20C、20M、20Bkと転写ベルト11との間の転写部に向けて繰り出すレジストローラ対810と、記録紙Sの先端がレジストローラ対810に到達したことを検知する図示しないセンサと、が設けられている。
【0032】
画像形成装置100には、トナー像が転写された記録紙Sにトナー像を定着させるためのローラ定着方式の定着手段としての定着装置1と、定着済みの記録紙Sを画像形成装置100の本体外部に排出する排紙ローラ820と、画像形成装置100の本体上部に配設されて排紙ローラ820により画像形成装置100の本体外部に排出された記録紙Sを積載する排紙トレイ83と、排紙トレイ83の下側に位置し、イエロー、シアン、マゼンタ、ブラックの各色のトナーを充填されたトナーボトル9Y、9C、9M、9Bkと、が設けられている。
【0033】
転写ベルトユニット10は、転写ベルト11、1次転写ローラ12Y、12C、12M、12Bkの他に、転写ベルト11が掛け回されている駆動ローラ15及び従動ローラ16を有している。
【0034】
従動ローラ16は、転写ベルト11に対する張力付勢手段としての機能も備えており、このため、従動ローラ16には、バネなどを用いた付勢手段が設けられている。このような転写ベルトユニット10と、1次転写ローラ12Y、12C、12M、12Bkと、2次転写ローラ14と、クリーニング装置13と、で転写装置10Aが構成されている。
【0035】
シート給送装置70は、画像形成装置100の本体下部に配設されており、最上位の記録紙Sの上面に当接する給紙ローラとしての給送ローラ84を有している。給送ローラ84が反時計回り方向に回転駆動されることにより、最上位の記録紙Sをレジストローラ対810に向けて給送するようになっている。
【0036】
転写装置10Aに装備されているクリーニング装置13は、詳細な図示を省略するが、転写ベルト11に対向、当接するように配設されたクリーニングブラシとクリーニングブレードとを有している。転写ベルト11上の残留トナー等の異物をクリーニングブラシとクリーニングブレードとにより掻き取り、除去して、転写ベルト11をクリーニングするようになっている。
【0037】
クリーニング装置13は、転写ベルト11から除去した残留トナーを搬出し廃棄するための図示しない排出手段を有している。
【0038】
画像形成装置100は、装置全体を操作するための図示しない操作パネルと、装置全体を制御する図示しない制御手段と、をさらに備える。
【0039】
制御手段は、通紙枚数や運転時間、定着部材2の回転数等が所定の値以上となると、定着部材2のメンテナンスが必要であること(メンテナンス表示)を操作パネルに表示させ、操作パネルが表示手段として機能する。即ち、制御手段は、所定の運転間隔で操作パネルにメンテナンスの要否を表示させる。メンテナンスが行われると、制御手段は、メンテナンス表示を停止させ、通紙枚数や運転時間、定着部材2の回転数等のカウントを再開する。
【0040】
[織物部材]
次に、定着装置1における織物部材8の詳細について、図4、5に基づいて説明する。尚、図5は定着部材2の内面21を示しており、実際には織物部材8及び保持部材9の保持突部92は見えないが、説明の都合上、内面21に織物部材8及び保持突部9を重ねて図示している。織物部材8は、連続した一つのシート状部材であり、複数の経糸81と複数の緯糸82とを有する。
【0041】
織物部材8は、幅方向の中央部を含む中央領域A1と、中央領域A1に対して幅方向両側に配置される潤滑剤保持領域A2、A3と、を有する。
【0042】
中央領域A1において、経糸81は、回転方向の上流側から下流側に向かうにしたがって、織物部材8全体の幅方向中央部に向かうように延びている。即ち、中央領域A1の経糸81は、幅方向中央に配置されたものを除き、回転方向に対して傾斜している。中央領域A1において、緯糸82は、回転方向の上流側に向かって凸に湾曲しており、凸形状の頂点は織物部材8全体の幅方向中央部に位置している。
【0043】
尚、中央領域A1において、経糸が回転方向に沿って延びるとともに、緯糸が幅方向に沿って延びる構成としてもよい。
【0044】
潤滑剤保持領域A2、A3において、経糸81は、回転方向の上流側から下流側に向かうにしたがって、各潤滑剤保持領域A2、A3における幅方向の中央部に向かうように延びている。図示の例では、各潤滑剤保持領域A2、A3に、3本の経糸81A~81Cが配置され、幅方向中央の経糸81Bが回転方向に沿って延びるとともに、両側の経糸81A、81Cが回転方向に対して傾斜している。
【0045】
潤滑剤保持領域A2、A3において、緯糸82は、回転方向の上流側に向かって凸に湾曲しており、凸形状の頂点は各潤滑剤保持領域A2、A3における幅方向の中央部に位置している。即ち、中央の経糸81Bが緯糸82の頂点を通るように配置されている。潤滑剤保持領域A2、A3において、緯糸82は、各潤滑剤保持領域A2、A3における幅方向の端部側ほど曲率が大きくなっている。また、緯糸82は、中央領域A1よりも潤滑剤保持領域A2、A3において曲率が大きくなっている。
【0046】
各潤滑剤保持領域A2、A3の幅方向寸法は互いに略等しく、これらの寸法をL1とする。定着部材2の内面21と保持突部92とが接触する領域(接触領域)の幅方向の寸法をL2とする。寸法L1と寸法L2とが略等しくなっている。
【0047】
上記のような織物部材8が定着部材2の内面21に接触することで、定着部材2が回転してニップ部Nを通過する際、定着部材2の内面21に付着した潤滑剤は、経糸81の延在方向に沿って移動する。即ち、経糸81によって潤滑剤が案内される。
【0048】
中央領域A1において、経糸81が、回転方向の上流側から下流側に向かうにしたがって、織物部材8全体の幅方向中央部に向かうように延びていることで、潤滑剤は、織物部材8全体の幅方向中央部に向かうように案内される。
【0049】
潤滑剤保持領域A2、A3において、経糸81が、回転方向の上流側から下流側に向かうにしたがって、各潤滑剤保持領域A2、A3における幅方向の中央部に向かうように延びていることで、潤滑剤は、各潤滑剤保持領域A2、A3における幅方向の中央部に向かうように案内される。即ち、上流側(織物部材8の通過前)において内面21のうち潤滑剤保持領域A2、A3に対応する領域に存在していた潤滑剤は、下流側(織物部材8の通過後)においてもこの領域に留まる。即ち、潤滑剤が定着部材2の端部から漏れ出したり、内面21のうち中央領域A1に対応する領域に移動したりすることが抑制されている。
【0050】
尚、織物部材8は、互いに色の異なる緯糸82を有していてもよい。例えば、図5に示された3本の緯糸82のうち、回転方向の中央の1本を赤色とし、他の2本を黒色としてもよい。また、3本の緯糸82を全て異なる色としてもよい。このように、織物部材8が互いに色の異なる複数の緯糸82を有する構成とすれば、緯糸82の形状を認識しやすく、緯糸82の湾曲量を測定しやすい。
【0051】
このような本実施形態によれば、以下のような効果がある。即ち、織物部材8の潤滑剤保持領域A2、A3において、経糸81が回転方向の上流側から下流側に向かうにしたがって幅方向の中央部に向かうように延びていることで、経糸81に案内された潤滑剤は、潤滑剤保持領域A2、A3の幅方向中央部に向かって移動する。従って、潤滑剤は潤滑剤保持領域A2、A3内に保持される。織物部材8が、このような潤滑剤保持領域A2、A3を幅方向の両側に有することで、定着部材2の内面21のうち幅方向の両側において潤滑剤の不足が生じにくく、定着部材2が回転する際の摺動抵抗を低く保つことができる。
【0052】
また、織物部材8は、製造誤差等によって、本来の位置に対して多少の傾斜を有して取り付けられることがある。例えば、潤滑剤保持領域A2、A3の幅方向中央部の経糸81Bが、回転方向に対して傾斜することがある。このような場合、潤滑剤が集まる位置が、潤滑剤保持領域A2、A3の幅方向中央部から多少ずれるものの、潤滑剤保持領域A2、A3から潤滑剤が漏れることは抑制される。
【0053】
また、潤滑剤保持領域A2、A3の幅方向における寸法L1が、定着部材2の内面21と保持突部92との接触領域の幅方向における寸法L2と略等しいことで、接触領域において潤滑剤の不足が生じにくく、内面21と保持突部92との間の摺動抵抗を低く保つことができる。
【0054】
また、織物部材8の緯糸82が、潤滑剤保持領域A2、A3において、回転方向の上流側に向かって凸に湾曲していることで、この湾曲の程度を測定し、経糸81の傾斜角度θを管理することができる。さらに、緯糸82が、潤滑剤保持領域A2、A3における幅方向の端部側ほど曲率が大きいことで、回転方向に対して経糸81を傾斜させやすい。
【0055】
また、織物部材8が連続した一つのシート状部材であることで、シート同士の隙間から潤滑剤が漏れてしまうことを抑制することができる。
【0056】
なお、本発明は、前記実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的が達成できる他の構成等を含み、以下に示すような変形等も本発明に含まれる。
【0057】
例えば、前記実施形態では、潤滑剤保持領域A2、A3の幅方向の寸法L1が、定着部材2の内面21と保持突部92との接触領域の幅方向の寸法L2と略等しいものとしたが、潤滑剤保持領域の幅方向の寸法は、接触領域の幅方向の寸法よりも大きくてもよい。このような構成においても、前記実施形態と同様に、接触領域において潤滑剤の不足が生じにくく、定着部材の内面と保持突部との間の摺動抵抗を低く保つことができる。
【0058】
また、例えば潤滑剤保持領域よりも幅方向中央側において潤滑剤の偏りが生じにくく、接触領域において潤滑剤の不足が生じにくい場合には、潤滑剤保持領域の幅方向の寸法は、接触領域の幅方向の寸法よりも小さくてもよい。
【0059】
また、前記実施形態では、緯糸82が、潤滑剤保持領域A2、A3における幅方向の端部側ほど曲率が大きいものとしたが、緯糸は、潤滑剤保持領域において、回転方向に対して経糸が適宜な傾斜角度を有するように湾曲していればよく、曲率は適宜に設定されればよい。
【0060】
また、前記実施形態では、織物部材8が連続した一つのシート状部材であるものとしたが、例えば複数のシート状部材を接続するとともに、潤滑剤が漏れにくいような接続部を形成することにより、織物部材を構成してもよい。
【0061】
また、前記実施形態では、織物部材8が定着部材2の内面21に潤滑剤を供給する供給手段として機能するものとしたが、供給手段は、織物部材とは別体に設けられていてもよい。
【0062】
その他、本発明を実施するための最良の構成、方法などは、以上の記載で開示されているが、本発明は、これに限定されるものではない。すなわち、本発明は、主に特定の実施形態に関して特に図示され、且つ、説明されているが、本発明の技術的思想および目的の範囲から逸脱することなく、以上述べた実施形態に対し、当業者が様々な変形を加えることができるものである。
【0063】
従って、上記に開示した形状、材質などを限定した記載は、本発明の理解を容易にするために例示的に記載したものであり、本発明を限定するものではない。それらの形状、材質などの限定の一部、もしくは全部の限定を外した部材の名称での記載は、本発明に含まれるものである。
【符号の説明】
【0064】
1 定着装置
2 定着部材
21 内面
3 加熱源
4 加圧部材
5 ニップ形成手段
8 織物部材
81、81A~81C 経糸
82 緯糸
9A、9B 保持部材
92 保持突部
A2、A3 潤滑剤保持領域
100 画像形成装置
【先行技術文献】
【特許文献】
【0065】
【文献】特開2008-26603号公報
図1
図2
図3
図4
図5