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特許7148057エネルギー管理システム及びエネルギー管理方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-27
(45)【発行日】2022-10-05
(54)【発明の名称】エネルギー管理システム及びエネルギー管理方法
(51)【国際特許分類】
   H02J 3/14 20060101AFI20220928BHJP
   F24F 11/47 20180101ALI20220928BHJP
   F24F 11/64 20180101ALI20220928BHJP
   G06Q 50/06 20120101ALI20220928BHJP
   H02J 3/00 20060101ALI20220928BHJP
   H02J 13/00 20060101ALI20220928BHJP
【FI】
H02J3/14 130
F24F11/47
F24F11/64
G06Q50/06
H02J3/00 130
H02J3/14 160
H02J13/00 311T
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2018111775
(22)【出願日】2018-06-12
(65)【公開番号】P2019216522
(43)【公開日】2019-12-19
【審査請求日】2021-03-30
(73)【特許権者】
【識別番号】000005108
【氏名又は名称】株式会社日立製作所
(73)【特許権者】
【識別番号】504137912
【氏名又は名称】国立大学法人 東京大学
(74)【代理人】
【識別番号】110001678
【氏名又は名称】藤央弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】吉本 尚起
(72)【発明者】
【氏名】赤司 泰義
(72)【発明者】
【氏名】宮田 翔平
(72)【発明者】
【氏名】桑原 康浩
【審査官】高野 誠治
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-120982(JP,A)
【文献】特開2018-050290(JP,A)
【文献】特開2018-033273(JP,A)
【文献】国際公開第2016/098483(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02J 3/00 - 5/00
H02J 13/00
G06Q 50/06
F24F 11/00 -11/89
F24F 130/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
空調設備の稼働を制御するエネルギー管理システムであって、
所定の手順で処理を実行することによって以下の各機能部を実現する演算装置と、前記演算装置に接続された記憶装置とを備え、
前記空調設備は、冷却水を冷却する冷却塔と、冷水を冷却する冷凍機と、前記冷水を循環させるポンプと、前記冷水の流路に設けられるバルブとを含み、
前記エネルギー管理システムは、
前記空調設備の現在の状態が前記空調設備の過去の運用データと類似する運用パターンを決定し、天気予報及び前記空調設備の過去の運用データに基づいてDR要求量を予測する予測部と、
前記予測されたDR要求量を用いて前記空調設備の制御計画を作成し、当該制御計画における電力消費量からDR応答量を決定する受付部とを有し、
前記受付部は、(1)前記冷却塔のファンと前記冷凍機の消費電力の合計が最小となるように、前記冷却塔から出力される冷却水の温度を制御することで前記冷凍機が生産する熱を変えずに前記冷却塔と前記冷凍機の消費電力の合計を最小とする、(2)前記冷凍機の冷水出口温度を上昇させることで前記冷凍機の効率を向上する、(3)前記冷凍機の少なくとも一つを停止して冷水の温度を高くする、(4)ヘッダ間差圧又は冷水の送水量が低くなるようにバルブやポンプを制御してポンプの動力を低減する、(5)代替施設を稼働させて前記冷凍機の少なくとも一つを停止する、の少なくとも一つの個別制御計画を作成し、前記作成された個別制御計画の一つを用いて制御計画を作成し、前記作成された制御計画における電力消費量からDR応答量を決定することを特徴とするエネルギー管理システム。
【請求項2】
空調設備の稼働を制御するエネルギー管理システムであって、
所定の手順で処理を実行することによって以下の各機能部を実現する演算装置と、前記演算装置に接続された記憶装置とを備え、
前記空調設備は、冷却水を冷却する冷却塔と、冷水を冷却する冷凍機と、前記冷水を循環させるポンプと、前記冷水の流路に設けられるバルブとを含み、
前記エネルギー管理システムは、
前記空調設備の現在の状態が前記空調設備の過去の運用データと類似する運用パターンを決定し、天気予報及び前記空調設備の過去の運用データに基づいてDR要求量を予測する予測部と、
前記予測されたDR要求量を用いて前記空調設備の制御計画を作成し、当該制御計画における電力消費量からDR応答量を決定する受付部とを有し、
前記受付部は、(1)前記冷却塔のファンと前記冷凍機の消費電力の合計が最小となるように、前記冷却塔から出力される冷却水の温度を制御することで前記冷凍機が生産する熱を変えずに前記冷却塔と前記冷凍機の消費電力の合計を最小とする、(2)前記冷凍機の冷水出口温度を上昇させることで前記冷凍機の効率を向上する、(3)前記冷凍機の少なくとも一つを停止して冷水の温度を高くする、(4)ヘッダ間差圧又は冷水の送水量が低くなるようにバルブやポンプを制御してポンプの動力を低減する、(5)代替施設を稼働させて前記冷凍機の少なくとも一つを停止する、のうち2以上の個別制御計画を作成し、前記作成された個別制御計画を(1)から(5)の順に組み合わせて、制御計画を作成し、前記作成された制御計画における電力消費量からDR応答量を決定することを特徴とするエネルギー管理システム。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のエネルギー管理システムであって、
前記受付部は、
天気予報及び前記DR応答量の過去の実績データに基づいてデマンドレスポンスにおける電力単価を推定し、
前記推定された電力単価と所定の閾値との比較結果に基づいて、前記DR応答量による前記空調設備の制御によって得られる利益の大小を判定し、
前記得られる利益が大きい場合に、複数の前記空調設備を制御する前記制御計画を作成することを特徴とするエネルギー管理システム。
【請求項4】
請求項1又は2に記載のエネルギー管理システムであって、
前記記憶装置は、前記空調設備の複数の運用パターンを格納しており、
前記予測部は、現在の気象状況及び前記空調設備の運用状態が類似する運用パターンを前記記憶装置から選択して、運用パターンを決定することを特徴とするエネルギー管理システム。
【請求項5】
請求項1又は2に記載のエネルギー管理システムであって、
現在の気象状況と前記空調設備の稼働状態と当該空調設備によって実現される温熱状態とに基づいて復帰モデルを決定し、前記決定された復帰モデルに従ってデマンドレスポンスからの復帰制御を実施し、前記復帰制御中の前記空調設備の稼働状態と当該空調設備によって実現される温熱状態とに基づいて前記空調設備の稼働状態を検証する復帰部を有することを特徴とするエネルギー管理システム。
【請求項6】
請求項1又は2に記載のエネルギー管理システムであって、
前記空調設備の稼働状態と当該空調設備によって実現される温熱状態とに基づいて、デマンドレスポンス実施中の前記空調設備の稼働状態を検証し、前記空調設備の消費電力が前記作成された制御計画を逸脱する場合、制御計画を再作成する算出部を有することを特徴とするエネルギー管理システム。
【請求項7】
空調設備の稼働を制御するエネルギー管理システムが実行するエネルギー管理方法であって、
前記エネルギー管理システムは、所定の手順で処理を実行する演算装置と、前記演算装置に接続された記憶装置とを有し、
前記空調設備は、冷却水を冷却する冷却塔と、冷水を冷却する冷凍機と、前記冷水を循環させるポンプと、前記冷水の流路に設けられるバルブとを含み、
前記エネルギー管理方法は、
前記演算装置が、前記空調設備の現在の状態が前記空調設備の過去の運用データと類似する運用パターンを決定し、
前記演算装置が、天気予報及び前記空調設備の過去の運用データに基づいてDR要求量を予測し、
前記演算装置が、前記予測されたDR要求量に従って、(1)前記冷却塔のファンと前記冷凍機の消費電力の合計が最小となるように、前記冷却塔から出力される冷却水の温度を制御することで前記冷凍機が生産する熱を変えずに前記冷却塔と前記冷凍機の消費電力の合計を最小とする、(2)前記冷凍機の冷水出口温度を上昇させることで前記冷凍機の効率を向上する、(3)前記冷凍機の少なくとも一つを停止して冷水の温度を高くする、(4)ヘッダ間差圧又は冷水の送水量が低くなるようにバルブやポンプを制御してポンプの動力を低減する、(5)代替施設を稼働させて前記冷凍機の少なくとも一つを停止する、の少なくとも一つの個別制御計画を作成し、前記作成された個別制御計画の一つを用いて制御計画を作成し、
前記演算装置が、前記作成された制御計画における電力消費量からDR応答量を決定することを特徴とするエネルギー管理方法。
【請求項8】
空調設備の稼働を制御するエネルギー管理システムが実行するエネルギー管理方法であって、
前記エネルギー管理システムは、所定の手順で処理を実行する演算装置と、前記演算装置に接続された記憶装置とを有し、
前記空調設備は、冷却水を冷却する冷却塔と、冷水を冷却する冷凍機と、前記冷水を循環させるポンプと、前記冷水の流路に設けられるバルブとを含み、
前記エネルギー管理方法は、
前記演算装置が、前記空調設備の現在の状態が前記空調設備の過去の運用データと類似する運用パターンを決定し、
前記演算装置が、天気予報及び前記空調設備の過去の運用データに基づいてDR要求量を予測し、
前記演算装置が、前記予測されたDR要求量に従って、(1)前記冷却塔のファンと前記冷凍機の消費電力の合計が最小となるように、前記冷却塔から出力される冷却水の温度を制御することで前記冷凍機が生産する熱を変えずに前記冷却塔と前記冷凍機の消費電力の合計を最小とする、(2)前記冷凍機の冷水出口温度を上昇させることで前記冷凍機の効率を向上する、(3)前記冷凍機の少なくとも一つを停止して冷水の温度を高くする、(4)ヘッダ間差圧又は冷水の送水量が低くなるようにバルブやポンプを制御してポンプの動力を低減する、(5)代替施設を稼働させて前記冷凍機の少なくとも一つを停止する、のうち2以上の個別制御計画を作成し、前記作成された個別制御計画を(1)から(5)の順に組み合わせて制御計画を作成し、
前記演算装置が、前記作成された制御計画における電力消費量からDR応答量を決定することを特徴とするエネルギー管理方法。
【請求項9】
請求項7又は8に記載のエネルギー管理方法であって、
前記演算装置は、天気予報及び前記DR応答量の過去の実績データに基づいてデマンドレスポンスにおける電力単価を推定し、
前記演算装置は、前記推定された電力単価と所定の閾値との比較結果に基づいて、前記DR応答量による前記空調設備の制御によって得られる利益の大小を判定し、
前記演算装置は、前記得られる利益が大きい場合に、複数の前記空調設備を制御する前記制御計画を作成することを特徴とするエネルギー管理方法。
【請求項10】
請求項7又は8に記載のエネルギー管理方法であって、
前記記憶装置は、前記空調設備の複数の運用パターンを格納しており、
前記エネルギー管理方法は、前記演算装置が、現在の気象状況及び前記空調設備の運用状態が類似する運用パターンを前記記憶装置から選択して、運用パターンを決定することを特徴とするエネルギー管理方法。
【請求項11】
請求項7又は8に記載のエネルギー管理方法であって、
前記演算装置は、現在の気象状況と前記空調設備の稼働状態と当該空調設備によって実現される温熱状態とに基づいて復帰モデルを決定し、
前記演算装置は、前記決定された復帰モデルに従ってデマンドレスポンスからの復帰制御を実施し、
前記演算装置は、前記復帰制御中の前記空調設備の稼働状態と当該空調設備によって実現される温熱状態とに基づいて前記空調設備の稼働状態を検証することを特徴とするエネルギー管理方法。
【請求項12】
請求項7又は8に記載のエネルギー管理方法であって、
前記演算装置は、前記空調設備の稼働状態と当該空調設備によって実現される温熱状態とに基づいて、デマンドレスポンス実施中の前記空調設備の稼働状態を検証し、
前記演算装置は、前記空調設備の消費電力が前記作成された制御計画を逸脱する場合、制御計画を再作成することを特徴とするエネルギー管理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、デマンドレスポンスにより電力需要を管理するエネルギー管理システムに関する。
【背景技術】
【0002】
太陽光発電や風力発電など変動再生可能エネルギーの導入拡大に伴い、送電周波数の安定性や需給バランスの制御に関する課題が顕在化している。太陽光発電のダックカーブ対策や周波数安定化技術の一つとして、需要家が電力需給安定化に応じるデマンドレスポンスが挙げられる。デマンドレスポンス(以下、DRとも称する)は急速な電力需要の増大を抑制するネガワット、余剰の再生可能エネルギーを積極的に使用するポジワットがある。現状ではデマンドレスポンスは、翌日の需要逼迫など予め想定される時間帯に電力需要が予測可能な工場などの特定事業の大口需要家に対して協力を依頼するに留まっていた。
【0003】
本技術分野の背景技術として、以下の先行技術がある。特許文献1(特開2013-141331号公報)には、各需要家に設けられる需要家端末と、前記需要家端末の各々に接続される電力管理装置とを有する電力管理システムであって、前記需要家端末の各々は、前記需要家周辺での局地的な気象予測を取得する気象予測取得手段と、前記気象予測に基づき当該気象予測で予測された期間での消費電力と削減可能な電力量とを予測する電力予測手段と、を備え、前記電力管理装置は、前記需要家端末の各々で算出された前記消費電力及び前記電力量の夫々を積算し、前記需要家全体での総消費電力と総削減可能電力量とを算出する積算手段と、を備える電力管理システムが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2013-141331号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
このようなデマンドレスポンスには、特定事業の大口需要家だけではなく、大型ビルやショッピングモールなどの業務部門も積極的な参加が望まれるが、業務部門は電力の使用用途が多岐にわたり、デマンドレスポンスへの参加には制約が多かった。また、電力の使用用途が多岐にわたるため、デマンドレスポンスへ参加した際の影響を評価する必要があるが、評価方法がなかった。
【0006】
本発明は、建物の空調システムの電力需要を低減してネガワットを創出し、既存の設備の運用によってデマンドレスポンスに参加できるエネルギー管理システムを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本願において開示される発明の代表的な一例を示せば以下の通りである。すなわち、空調設備の稼働を制御するエネルギー管理システムであって、所定の手順で処理を実行することによって以下の各機能部を実現する演算装置と、前記演算装置に接続された記憶装置とを備え、前記空調設備は、冷却水を冷却する冷却塔と、冷水を冷却する冷凍機と、前記冷水を循環させるポンプと、前記冷水の流路に設けられるバルブとを含み、前記エネルギー管理システムは、前記空調設備の現在の状態が前記空調設備の過去の運用データと類似する運用パターンを決定し、天気予報及び前記空調設備の過去の運用データに基づいてDR要求量を予測する予測部と、前記予測されたDR要求量を用いて前記空調設備の制御計画を作成し、当該制御計画における電力消費量からDR応答量を決定する受付部とを有し、前記受付部は、(1)前記冷却塔から出力される冷却水の温度を、前記冷却塔のファンと前記冷凍機の消費電力の合計が最小となるように制御することで前記冷凍機が生産する熱を変えずに前記冷却塔と前記冷凍機の消費電力の合計を最小とする、(2)前記冷凍機の冷水出口温度を上昇させることで前記冷凍機の効率を向上する、(3)前記冷凍機の少なくとも一つを停止して冷水の温度を高くする、(4)ヘッダ間差圧又は冷水の送水量が低くなるようにバルブやポンプを制御してポンプの動力を低減する、(5)代替施設を稼働させて前記冷凍機の少なくとも一つを停止する、の少なくとも一つの個別制御計画を作成し、前記作成された個別制御計画の一つを用いて制御計画を作成し、前記作成された制御計画における電力消費量からDR応答量を決定する。
【発明の効果】
【0008】
本発明の一態様によれば、建物の空調システムを活用してネガワットを創出し電力需要を低減できる。前述した以外の課題、構成及び効果は、以下の実施例の説明によって明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】デマンドレスポンスにおける電力需要の低減を示す図である。
図2】本発明の実施例のエネルギー管理システムの論理的な構成を示すブロック図である。
図3】本実施例のエネルギー管理システムの物理的な構成を示すブロック図である。
図4A】冷水の制御を示す図である。
図4B】冷却水の制御を示す図である。
図5A】負荷率と効率と冷却水入口温度の関係を示す図である。
図5B】負荷率と効率と冷水出口温度の関係を示す図である。
図6】予測部が実行する処理のフローチャートである。
図7】建物のエネルギー需要の予測方法を示す図である。
図8】受付部が実行する処理のフローチャートである。
図9】算出部が実行する処理のフローチャートである。
図10】復帰部が実行する処理のフローチャートである。
図11】制御対象機器の稼働と消費電力との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
図1は、デマンドレスポンスにおける電力需要の低減を示す図である。なお、図1において、実線は電力(ネガワット)の移動を、破線は情報(制御指令、応答など)の転送を、一点鎖線は金銭的価値の移動を示す。また、情報は、各人が保有しているシステム間で送受信される。
【0011】
電力システムにおいて需要家の電力需要量を変動させて電力の需要と供給とをバランスさせるデマンドレスポンスの一態様として、電力会社(発電事業者、送電事業者)と需要家との間を中継するアグリゲータが、複数の需要家を統合してエネルギー取引市場における電力需給を調整する形式がある。
【0012】
予め、需要家が、電力需要の低減に協力するデマンドレスポンス応答量を申告し(301)、アグリゲータは、需要家からの申告を登録しておく。
【0013】
電力需要の低減が必要な場合、電力会社は電力需要を低減する電力調整をアグリゲータに依頼する(302)。アグリゲータは、申告が登録されている需要家にデマンドレスポンスによる需要量の低減を募集する(303)。需要家は、デマンドレスポンスに応募する(304)。このとき、実際に可能なデマンドレスポンス応答量が予めの申告と異なれば、デマンドレスポンス応答量をアグリゲータに申告してもよい。
【0014】
アグリゲータは、需要家から申告されたデマンドレスポンス応答量を集計し、電力会社からの電力調整依頼に対応するデマンドレスポンスプランを作成して、需要家にデマンドレスポンスへの採否(採用された需要家には実施)を通知する(305)。また、電力会社にデマンドレスポンスが可能であることを伝える実施通知を送信する(306)。なお、電力会社は、複数のアグリゲータによる入札の結果で、電力需要低減の協力者(アグリゲータ、需要家)を決めてもよい。
【0015】
需要家は、調整を依頼されたタイミングで電力需要を低減し、DR応答(ネガワット)をアグリゲータに提供する(307)。アグリゲータは、需要家から提供されたDR応答(ネガワット)を電力会社に提供する(308)。そして、電力会社は、電力需要の低減に応じた需要家に、アグリゲータを通じて、報酬を支払う(309)。
【0016】
以上に説明したデマンドレスポンスによる電力量の制御において、本実施例のエネルギー管理システム1は、需要家が設置し、運営する。エネルギー管理システム1は、一つの建物の空調、給湯、電力供給等を監視し制御するものでも、近隣の建物の空調、給湯、電力供給等を総合的に監視し制御するものでもよい。アグリゲータは、電力管理システム2を運営している。発電事業者及び送電事業者は、電力供給システム3を有している。
【0017】
図2は、本発明の実施例のエネルギー管理システム1の論理的な構成を示すブロック図である。
【0018】
本実施例のエネルギー管理システム1は、予測部10、受付部20、算出部30、出力部40及び復帰部50を有し、管理対象の建物の空調などのエネルギーを消費する設備の稼働を管理する。エネルギー管理システム1は、給湯、照明などを管理してもよい。
【0019】
予測部10は、デマンドレスポンスが実施される際の電力需要を予測し、デマンドレスポンスで創出されるネガワットの最大値であるDR応答最大量を計算する。予測部10が実行する処理の詳細は図6を用いて後述する。受付部20は、デマンドレスポンスを実施するための制御計画を作成する。受付部20が実行する処理の詳細は図8を用いて後述する。算出部30は、デマンドレスポンス実施中の電力需要を予測する。算出部30が実行する処理の詳細は図9を用いて後述する。出力部40は、アグリゲータ(電力管理システム2)へコマンドを送信し、デマンドレスポンスによる効果を表示する画面を生成する。復帰部50は、デマンドレスポンスからの復帰制御を実施し、復帰制御中の前記空調設備の稼働状態を検証する。復帰部50が実行する処理の詳細は図10を用いて後述する。
【0020】
また、エネルギー管理システム1は、各機能部が処理に使用するデータとして、気象状況101、天気予報102、建物運用カレンダー103、建物過去運用データ104、設備稼働データ105、DR価格予想データ106及び室内温熱データ107を有する。これらのデータは、後述する補助記憶装置203やメモリ202に格納されるが、外部の記憶装置に格納されてもよい。
【0021】
気象状況101は、天候(晴れ、曇り、雨、雪など)、気温、湿度などの気象データを含み、当該建物において計測したり、気象予報会社(予報業務許可事業者)から取得する。天気予報102は、所定時間後の気象(天候、気温、湿度など)の予報であり、気象庁や気象予報会社から取得する。
【0022】
建物運用カレンダー103は、建物におけるイベントの内容や日時のデータを含む。建物過去運用データ104は、建物における空調設備、当該設備の電力消費量、デマンドレスポンス応答の実績、当該建物の所在地の気象データである。気象データは、気象庁や気象予報会社から取得する。建物過去運用データ104は、過去の運用データがログ形式で蓄積されるが、過去の運用データを分類して作成される運用パターンや復帰パターンを含む。なお、運用パターンや復帰パターンを予め作成せず、その都度、類似するログデータを検索して運用パターンや復帰パターンを作成してもよい。
【0023】
設備稼働データ105は、建物における空調設備の稼働状況を示し、送水温度、冷却水温度、弁やポンプの動作状態、冷凍機の稼働台数などのデータを含む。DR価格予想データ106は、過去に行われたデマンドレスポンスの実績データであり、どのような条件(気象条件、イベントなど)において、どの程度の価格でデマンドレスポンスが行われたかが分かるデータである。DR価格予想データ106は、過去のデマンドレスポンスにおける価格の実績をログ形式で蓄積したデータであるが、過去のデマンドレスポンスにおける価格をパターン化したデータを保有してもよい。室内温熱データ107は、建物における室内温度や湿度のデータを含み、人の感覚や行動に関するデータ(例えば、温熱指標(有効温度、不快指数、温冷感指数など)、体感温度、温冷感、快適性、季節感、着衣量など)を含んでもよい。
【0024】
図3は、本実施例のエネルギー管理システム1の物理的な構成を示すブロック図である。
【0025】
本実施例のエネルギー管理システム1は、プロセッサ(CPU)201、メモリ202、補助記憶装置203、通信インターフェース204、入力インターフェース205及び出力インターフェース208を有する計算機によって構成される。
【0026】
プロセッサ201は、メモリ202に格納されたプログラムを実行する演算装置である。プロセッサ201が、各種プログラムを実行することによって、エネルギー管理システム1の各種機能が実現される。なお、プロセッサ201がプログラムを実行して行う処理の一部を、他の演算装置(例えば、FPGA)で実行してもよい。
【0027】
メモリ202は、不揮発性の記憶素子であるROM及び揮発性の記憶素子であるRAMを含む。ROMは、不変のプログラム(例えば、BIOS)などを格納する。RAMは、DRAM(Dynamic Random Access Memory)のような高速かつ揮発性の記憶素子であり、プロセッサ201が実行するプログラム及びプログラムの実行時に使用されるデータを一時的に格納する。
【0028】
補助記憶装置203は、例えば、磁気記憶装置(HDD)、フラッシュメモリ(SSD)等の大容量かつ不揮発性の記憶装置である。また、補助記憶装置203は、プロセッサ201がプログラムの実行時に使用するデータ(例えば、現在の気象状況101、天気予報102、建物運用カレンダー103、建物過去運用データ104、設備稼働データ105、DR価格予想データ106、室内温熱データ107など)、及びプロセッサ201が実行するプログラム(例えば、予測プログラム、受付プログラム、算出プログラム、出力プログラム、復帰プログラムなど)を格納する。すなわち、プログラムは、補助記憶装置203から読み出されて、メモリ202にロードされて、プロセッサ201によって実行されることによって、エネルギー管理システム1の各機能を実現する。
【0029】
通信インターフェース204は、所定のプロトコルに従って、他の装置との通信を制御するネットワークインターフェース装置である。
【0030】
入力インターフェース205は、キーボード206やマウス207などの入力装置が接続され、オペレータからの入力を受けるインターフェースである。出力インターフェース208は、ディスプレイ装置209やプリンタ(図示省略)などの出力装置が接続され、プログラムの実行結果をオペレータが視認可能な形式で出力するインターフェースである。なお、エネルギー管理システム1にネットワークを介して接続された端末が入力装置及び出力装置を提供してもよい。
【0031】
プロセッサ201が実行するプログラムは、リムーバブルメディア(CD-ROM、フラッシュメモリなど)又はネットワークを介してエネルギー管理システム1に提供され、非一時的記憶媒体である不揮発性の補助記憶装置203に格納される。このため、エネルギー管理システム1は、リムーバブルメディアからデータを読み込むインターフェースを有するとよい。
【0032】
エネルギー管理システム1は、物理的に一つの計算機上で、又は、論理的又は物理的に構成された複数の計算機上で構成される計算機システムであり、複数の物理的計算機資源上に構築された仮想計算機上で動作してもよい。
【0033】
図4Aは、冷水の制御を示す図である。
【0034】
冷凍機(例えば、ターボ冷凍機)401で冷却された冷水は、ポンプ402によって熱交換機405に送水される。ポンプ402は、インバータ403によってヘッダ404、408の間の差圧であるヘッダ間差圧409が設定値となるよう制御される。熱交換機405は、冷凍機401から供給された冷水によって空調用の空気を冷却する。冷水の流路(図では熱交換機の下流側)にはバルブ406及び流量計407が設けられており、流量計407の計測値が設定値となるようにバルブ406の開度が制御される。例えば、ヘッダ間差圧409を小さくすると、ポンプ402に必要な揚程が小さくなり、消費電力を低減できる。このとき、バルブ406が適切に制御されることによって必要量の冷水を供給するが、バルブを全開にしても揚程が不足する場合は送水量が低下することになる。
【0035】
また、冷水の流路には、温度計410が設けられている。冷凍機401は、インバータ411によって冷却能力が制御されており、温度計410の計測値によって冷凍機401から出力される冷水の温度を制御している。この温度が熱交換器に対する図4Aのシステムの送水温度である。
【0036】
図4Bは、冷却水の制御を示す図である。
【0037】
冷却塔412は、例えば24℃に冷却された冷却水を出力する。冷却塔412から出力された冷却水は、冷凍機419に導入され、冷凍機における冷水の生産による廃熱を得てより高温(例えば、30℃)となって出力される。冷却水の流量は、流量計418の計測値が設定値となるようにインバータ417によって制御される。
【0038】
さらに、冷却水の流路には冷却塔412を経由せずに冷却水を循環させるバイパス流路が設けられており、バイパス流路に流す冷却水の量を制御するためのバルブ414が設けられている。冷却塔のファンインバータ413とバルブ414の開度を制御することによって、冷凍機419へと流れる冷却水の温度415を制御することができる。
【0039】
図5Aは、冷凍機に流入する冷却水の温度別の負荷率と効率の関係を示す図である。冷凍機の負荷率を変えない場合、冷凍機に流入する冷却水の温度(冷却水入口温度)を下げると、冷凍機の効率(COP)が向上し、消費電力を低減できる。具体的には、冷却塔412のファンを通常時よりも稼働させて冷却水温度を低下することによって、冷凍機419のCOPを向上できる。このとき、冷却塔412のファンの動力が増加するため、最適点となるように制御する。
【0040】
図5Bは、冷凍機から排出される冷水の温度別の負荷率と効率の関係を示す図である。冷凍機の負荷率を変えない場合、冷凍機から排出される冷水の温度(冷水出口温度)を上げると、冷凍機の効率(COP)が向上し、消費電力を低減できる。
【0041】
図6は、予測部10が実行する処理のフローチャートである。
【0042】
プロセッサ201は、予測プログラムによって予測部10を起動し、予測処理を実行する。この予測処理は、所定のタイミングで繰り返し実行され、所定時間後(例えば、30分後)から行われるデマンドレスポンスに備えている。
【0043】
まず、予測部10は、現在の気象状況101及び建物運用カレンダー103と建物過去運用データ104とを照合し(S501)、現在の気象状況及び設備運用と類似する運用パターン104’を決定する(S502)。建物過去運用データ104がパターン化されている場合は類似するパターンを選択すればよく、建物過去運用データ104がログ形式である場合は類似する運用データを選択して、運用パターンとして決定する。
【0044】
次に、予測部10は、天気予報102と建物過去運用データ104から、デマンドレスポンスの発生を予測し(S503)、DR要求量を予測する(S504)。具体的には、所定時間後の天気予報と類似する状況を建物過去運用データ104から選択し、選択されたデータの中でデマンドレスポンスが要請されている割合(発生率)を計算する。この際、カレンダー(曜日、祝祭日、お盆、正月、ライブやスポーツなどのイベント)による電力需要の特徴的な変化を考慮してデマンドレスポンスの発生率を計算してもよい。そして、選択されたデータの中でデマンドレスポンスの要求量の統計値(例えば、平均値)を計算し、DR要求量の予測値とする。
【0045】
その後、予測部10は、当該建物の電力需要を予測し、デマンドレスポンス応答最大値を計算する(S505)。例えば、選択された運用パターン104’、現在の気象状況101、天気予報102、建物運用カレンダー103、設備稼働データ105及び室内温熱データ107を用いて、デマンドレスポンス開始時の電力需要を線形予測する。図7に建物のエネルギー需要の予測方法を示す。
【0046】
電力量を計算する関数f(Efac,E,w,T)を定めておき、関数fの時間変化(df/dt)を傾きとして、デマンドレスポンス開始まで(図では30分後)に消費される電力量E1を計算する。関数fの説明変数であるEfacは空調設備の稼働パラメータであり、Eは他の設備の電力消費量であり、wは気象パラメータであり、Tは室内環境パラメータである。室内環境パラメータは、温度や湿度等の測定可能な物理量の他、温熱指標(例えば、有効温度、不快指数、温冷感指数)を用いてもよい。各説明変数は、1種類に複数のパラメータを用いてもよい。例えば、空調設備の稼働パラメータEfacとして電力消費量を用いれば、Efacを構成するパラメータは一つでよいが、送水温度、冷却水温度、弁やポンプの動作状態、冷凍機の稼働台数などを用いると複数のパラメータがEfacを構成する。
【0047】
その後、デマンドレスポンス中の電力需要を予測する。デマンドレスポンス実施中は、通常は電力需要が逼迫し、様々な環境が変化する。このため、デマンドレスポンス開始前とパラメータが異なり、単位時間あたりの電力量が変化する。このため、デマンドレスポンス開始前と違って、ステップS502で決定された運用パターンによるパラメータEfac’、E’、w’、T’を用いた関数fの時間変化(df/dt)を傾きとして、デマンドレスポンス終了までに消費される電力量E2を計算する。なお、図示した電力量の予測値のグラフは、デマンドレスポンス実施中は、単位時間あたりの電力量が増加しているが、単位時間当たりの電力量が減少する場合もある。
【0048】
その後、DR応答量の最大値を予測する。DR応答量の最大値は、最大稼働時の電力量とデマンドレスポンス実施中の電力需要との差で表される。
【0049】
図8は、受付部20が実行する処理のフローチャートである。
【0050】
プロセッサ201は、予測部10がDR要求量を予測すると(S504)、受付プログラムによって受付部20を起動し、受付処理を実行する。
【0051】
まず、受付部20は、DR要求量の予測値と建物過去運用データ104とを用いてDR単価を推定する(S511)。例えば、ステップS504でDR要求量の予測において選択されたデータの中でデマンドレスポンスが実施されたものを選択して、デマンドレスポンスの単価の統計値(例えば、平均値)を計算し、DR単価の推定し、DR価格予想データ106から条件が類似するものを選択する。
【0052】
次に、受付部20は、推定されたDR単価と予め定められた基準価格とを比較する(S512)。基準価格は、需要家において、空調設備の投資金額や運用コストから予め定められる、デマンドレスポンスに対する損益の基準価格であり、基準値と下限値を含む。そして、推定されたDR単価が下限値以下であれば、デマンドレスポンスを実施しても需要家にメリットがなく、デマンドレスポンスの募集があっても応募しないので、受付処理を終了する。
【0053】
一方、推定されたDR単価が基準値以上であれば、デマンドレスポンスの実施によって得られる利益が大きく、電力需要の低減量(ネガワットの創出量)を大きくすべきなので、設備稼働データ105と室内温熱データ107を参照して、複数の設備の稼働を制御する複合制御計画を作成する(S513)。また、推定されたDR単価が基準値より小さければ、デマンドレスポンスの実施によって得られる利益が小さく、電力需要の低減量は小さくてよいので、設備稼働データ105と室内温熱データ107を参照して、一種類の設備を制御する単一制御計画を作成する(S514)。なお、後述するが、複合制御計画の方がデマンドレスポンス実施中の制御が複雑で、デマンドレスポンス中の電力需要がデマンドレスポンスに応募した電力値を超える可能性も高く、さらに、デマンドレスポンス実施後の定常状態への復帰の制御も複雑になり、設備の故障リスクも大きい。このため、デマンドレスポンスの実施によって生じる金銭的利益が小さい場合には、単一制御計画を適用して、少量のネガワットでデマンドレスポンスへ応募する方がよい。
【0054】
受付部20は、制御計画を作成した後、DR応答量を決定する(S515)。例えば、DR応答量は、ステップS513、S514で作成される制御計画によって創出できるネガワットの量を超えない範囲でDR応答量を決定する。そして、決定されたDR応答量でデマンドレスポンスに応募する(S516)。
【0055】
ここで、ステップS513で作成される複合制御計画を説明する。デマンドレスポンスによって多くのネガワットを創出するためには、空調設備の複数の機器の稼働を制御する方がよい。このため、複合制御計画では、以下の個別制御計画を組み合わせて電力需要を低減する。個別制御計画は、制御の容易度や、低減される電力の大きさや、復帰制御の容易度を考慮し(1)から(4)の順に優先して採用するとよい。
(1)冷却塔の稼働を制御して、冷却水温度を低下する。
(2)冷凍機の冷水の出口温度を上昇して、送水温度を上昇する。
(3)複数台数ある冷凍機の一部を停止して、送水温度を上昇する。
(4)バルブやポンプを制御してヘッダ間差圧や送水量を低下する。
【0056】
また、氷蓄熱機や給湯器、燃料式冷凍機などの代替施設を活用して、電力需要のピークをシフトして、デマンドレスポンス中の電力需要を低減してもよい。更に、このような代替施設を起動させることで、消費電力を低下可能な冷凍機を停止する個別制御計画を作成してもよい。この場合、この代替施設を稼働させる個別制御計画は、採用される優先順位が低い(5)の個別制御計画となる。
【0057】
次に、ステップS514で作成される単一制御計画を説明する。デマンドレスポンスによって創出するネガワットが少量でよい場合、1種類の空調設備の稼働を制御する方が、制御の容易度や復帰制御の容易度から好ましい。このため、複合制御計画で前述した(1)から(4)又は(1)から(5)の個別制御計画のうち必要なネガワットを創出可能なものを制御計画とする。
【0058】
いずれの制御計画でも、室内温熱データを用いて、室内環境が不快にならない程度、すなわち温熱感の満足感を維持できる程度で、稼働を低下したり、機器を停止する。
【0059】
図9は、算出部30が実行する処理のフローチャートである。
【0060】
プロセッサ201は、受付部20がDR応答量を決定し(S515)、デマンドレスポンスを開始すると、算出プログラムによって算出部30を起動し、算出処理を実行する。
【0061】
そして、算出部30は、受付処理で作成された制御計画が複合制御計画であるか、単一制御計画であるかによって処理を振り分ける。
【0062】
算出部30は、受付処理で作成された制御計画が複合制御計画であれば、デマンドレスポンスの開始後、設備稼働データ105及び室内温熱データ107の直近の測定値を用いて、当該複合制御計画に従って機器を制御する場合のデマンドレスポンス実施中の電力需要を予測する(S522)。例えば、デマンドレスポンスが30分間実施される場合、5分後の電力需要を予測するとよい。予測は、図7に示すような線形予測を用いるとよい。
【0063】
一方、算出部30は、受付処理で作成された制御計画が単一制御計画であれば、デマンドレスポンスの開始後、設備稼働データ105及び室内温熱データ107の直近の測定値を用いて、当該単一制御計画に従って機器を制御する場合のデマンドレスポンス実施中の電力需要を予測する(S523)。例えば、デマンドレスポンスが30分間実施される場合、5分後の電力需要を予測するとよい。
【0064】
その後、算出部30は、予測された電力需要とDR応答量とを比較し、当該建物において想定外の事態が発生し電力需要の急激に増加するかを監視している。そして、予測された電力需要だとDR応答量を満たさない場合は、電力需要が予測された時刻の電力需要を低減する必要があると判定し、制御計画を再作成する(S524)。例えば、各機器の制御量を大きくしたり、単一制御計画を複合制御計画に変更して制御される機器を増やすとよい。なお、制御計画の再作成に代えて又は制御計画の再作成と共に、空調設備以外の設備の消費電力を低減してもよい。例えば、共用区域を減光したり、給水設備の消費電力を低減する。
【0065】
このように、算出部30は、デマンドレスポンス実施中の電力需要を予測し、DR応答量を遵守するように制御している。
【0066】
図10は、復帰部50が実行する処理のフローチャートである。
【0067】
プロセッサ201は、デマンドレスポンスの終了時に、復帰プログラムによって復帰部50を起動し、復帰処理を実行する。
【0068】
まず、復帰部50は、設備稼働データ105、室内温熱データ107、現在の気象状況101及び建物過去運用データ104を参照して、類似する状況における復帰モデルを選択する(S531)。復帰モデルは、前述したように、建物過去運用データ104は復帰パターンを含んでおり、復帰部50は、状況が類似する復帰パターンが建物過去運用データ104から選択する。なお、デマンドレスポンス中に複合制御計画が実施されている場合、復帰パターンも複合的な復帰制御になり、単一制御計画が実施されている場合、復帰パターンも単一の復帰制御になる。
【0069】
その後、復帰部50は、復帰モデルが複合的な復帰制御である場合、選択された復帰パターンに従って、冷凍機の通常運転への復帰により送水温度を復帰し(S532)、冷却塔ファンの復帰による冷却水温度を復帰する(S533)。なお、選択された復帰パターンに冷凍機の稼働再開やバルブ及びポンプの復帰が含まれている場合、停止した冷凍機の稼働を再開し、バルブ及びポンプを定常稼働状態へ復帰する。なお、復帰の順序によって電力量が異なるので、電力量が小さい復帰順序を選んでもよい。
【0070】
一方、復帰モデルが単一の復帰制御である場合、復帰部50は、稼働を低下又は停止した機器を通常運転に復帰する(S534)。
【0071】
その後、復帰部50は、復帰モデルに従った制御を開始した後、所定のタイミングで(例えば、30分の復帰モデルにおいて5分毎に)、設備稼働データ105及び室内温熱データ107を参照して、復帰モデルを検証する(S535)。復帰モデルに従って機器の稼働を制御しても、測定値が変化しない場合、空調設備に異常が生じていると判定し、復帰モデルに従った制御を中止する。例えば、冷凍機の通常運転への復帰を指令しても送水温度が低下しない場合、異常(冷凍機の故障)であると判定する。また、バルブの閉鎖を指令しても流量が変化しない場合、異常(バルブの故障や周辺の管路の詰まり)であると判定する。なお、異常と判定された設備の復帰を中止してもよく、復帰モデルの全ての制御を中止してもよい。
【0072】
復帰モデルの検証において異常が検出されない場合、定常運転に復帰して、空調設備を稼働させる(S536)。
【0073】
このように、より適切で省エネルギーな運転を行うコミッショニングプロセスを実現できる。
【0074】
図11は、制御対象機器の稼働と消費電力との関係を示す図である。本実施例のエネルギー管理システム1は、空調設備を構成する冷凍機(送水温度の制御)、ポンプやバルブ(ヘッダ間差圧や送水量の制御)、冷却塔(冷却水温度の制御)の稼働のバランスによってシステム全体の消費電力を制御する。例えば、図示するように、送水温度を高めることによって、機器の消費電力を削減できる。同時に、ポンプ出力を高めて送水量を増加することによって室内環境を維持しながら、全体の消費電力を低下できる。また、冷凍機の効率を向上させるために冷却水温度を低下させると、冷却塔のファンの動力が増加する。これらを踏まえてシステム全体の消費電力の制御を行うとよい。
【0075】
以上に説明したように、本実施例のエネルギー管理システム1によると、現在の状態が建物過去運用データ104と類似する運用パターン104’を決定し(S502)、天気予報102及び建物過去運用データ104に基づいてDR要求量を予測する(S504)予測部10と、決定された運用パターン104’を用いて空調設備の制御計画を作成し(S513、S514)、当該制御計画における電力消費量からDR応答量を決定する(S515)受付部20とを有し、受付部20は、(1)冷却塔を制御することで冷凍機が生産する熱を変えずに冷却塔と冷凍機の消費電力の合計を最小とする、(2)冷凍機の冷水出口温度を上昇させることで冷凍機の効率を向上する、(3)冷凍機の少なくとも一つを停止する、(4)バルブやポンプを制御してポンプの動力を低減する、(5)代替施設を稼働させて冷凍機の少なくとも一つを停止する、の少なくとも一つの個別制御計画を作成し、作成された個別制御計画を(1)から(5)の順に組み合わせて、予測されたDR要求量を満たす制御計画を作成するので、消費電力が大きい空調設備を活用してネガワットを創出し電力需要を低減できる。また、電力需要の低減による影響を低減し、デマンドレスポンスを実施できる。このため、広範な業務部門がデマンドレスポンスに参加でき、デマンドレスポンスにより電力需要を低減できる。また、(1)~(4)の個別制御計画で十分であれば、大型蓄電池のような新たな設備を導入することなく電力需要を低減できる。
【0076】
また、受付部20は、(1)冷却塔から出力される冷却水の温度を、冷却塔のファンと冷凍機の消費電力の合計が最小となるように制御する、(2)冷凍機から出力される冷水の温度を高くする、(3)冷凍機の少なくとも一つを停止して冷水の温度を高くする、(4)バルブやポンプを制御してヘッダ間差圧や冷水の送水量を低くする、(5)代替施設を稼働させ冷凍機の少なくとも一つを停止する、の少なくとも一つの個別制御計画を作成し、作成された個別制御計画を(1)から(5)の順に組み合わせて、予測されたDR要求量を満たす制御計画を作成するので、室内環境を維持しながら、全体の消費電力を低下できる。
【0077】
また、受付部20は、天気予報102及びデマンドレスポンスの過去の実績データ(建物過去運用データ104)に基づいてデマンドレスポンスにおける電力単価を推定し(S511)、推定された電力単価と所定の閾値(基準価格)との比較結果に基づいて、デマンドレスポンスの実施によって得られる利益の大小を判定し(S512)、得られる利益が大きい場合に、複数の機器を制御する複合制御計画を作成する(S513)ので、電力需要をより多く低減し、デマンドレスポンスの実施によって多くの金銭的利益を得ることができる。
【0078】
また、予測部10は、気象状況101及び建物運用カレンダー103に基づいて、運用状態が類似する運用パターンを建物過去運用データ104から選択して、運用パターン104’を決定するので、複雑な計算をすることなく、適する運用パターンを決定できる。
【0079】
また、復帰部50が、決定された復帰モデルに従ってデマンドレスポンスからの復帰制御を実施し、復帰制御中の空調設備の稼働状態(設備稼働データ105)と当該空調設備によって実現される温熱状態(室内温熱データ107)とに基づいて空調設備の稼働状態を検証するので、より適切で省エネルギーな運転を行うコミッショニングプロセスを実現できる。また、復帰制御中の異常を判定し、設備を適切に運転できる。
【0080】
また、算出部30が、空調設備の稼働状態(設備稼働データ105)と当該空調設備によって実現される温熱状態(室内温熱データ107)とに基づいて、デマンドレスポンス実施中の前記空調設備の稼働状態を検証し、前記空調設備の消費電力が前記作成された制御計画を逸脱する場合、制御計画を再作成するので、デマンドレスポンス実施中に想定外の事態が発生し電力需要が増加しても、新しい制御計画によってDR応答量を満たすことができる。
【0081】
なお、本発明は前述した実施例に限定されるものではなく、添付した特許請求の範囲の趣旨内における様々な変形例及び同等の構成が含まれる。例えば、前述した実施例は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに本発明は限定されない。また、ある実施例の構成の一部を他の実施例の構成に置き換えてもよい。また、ある実施例の構成に他の実施例の構成を加えてもよい。また、各実施例の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をしてもよい。
【0082】
また、前述した各構成、機能、処理部、処理手段等は、それらの一部又は全部を、例えば集積回路で設計する等により、ハードウェアで実現してもよく、プロセッサがそれぞれの機能を実現するプログラムを解釈し実行することにより、ソフトウェアで実現してもよい。
【0083】
各機能を実現するプログラム、テーブル、ファイル等の情報は、メモリ、ハードディスク、SSD(Solid State Drive)等の記憶装置、又は、ICカード、SDカード、DVD等の記録媒体に格納することができる。
【0084】
また、制御線や情報線は説明上必要と考えられるものを示しており、実装上必要な全ての制御線や情報線を示しているとは限らない。実際には、ほとんど全ての構成が相互に接続されていると考えてよい。
【符号の説明】
【0085】
1 エネルギー管理システム
10 予測部
20 受付部
30 算出部
40 出力部
50 復帰部
図1
図2
図3
図4A
図4B
図5A
図5B
図6
図7
図8
図9
図10
図11