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特許7148109積層したチップ状または板状プラスチック複合材料の処理方法
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  • 特許-積層したチップ状または板状プラスチック複合材料の処理方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-27
(45)【発行日】2022-10-05
(54)【発明の名称】積層したチップ状または板状プラスチック複合材料の処理方法
(51)【国際特許分類】
   C08J 11/16 20060101AFI20220928BHJP
   C08J 11/12 20060101ALI20220928BHJP
【FI】
C08J11/16 ZAB
C08J11/12
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2018079989
(22)【出願日】2018-04-18
(65)【公開番号】P2019189674
(43)【公開日】2019-10-31
【審査請求日】2021-01-09
(73)【特許権者】
【識別番号】513281965
【氏名又は名称】株式会社ジンテク
(74)【代理人】
【識別番号】100193046
【弁理士】
【氏名又は名称】金子 正彦
(72)【発明者】
【氏名】水口 仁
(72)【発明者】
【氏名】金子 正彦
(72)【発明者】
【氏名】高橋 宏雄
【審査官】岡田 三恵
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-146649(JP,A)
【文献】特開2005-139440(JP,A)
【文献】国際公開第2015/147021(WO,A1)
【文献】特開2014-177523(JP,A)
【文献】特開2016-172246(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J 11/16
C08J 11/12
B09B 3/40
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
切削機によりチップ状または板状に加工されたプラスチック複合材料を積層し、積層した最上層の上面に重りを載せることにより、前記プラスチック複合材料同士の固体間距離を、複合材料内で絡みあうポリマー鎖同士間の距離と同程度に、かつ、その接触界面でラジカル・ジャンプが可能な程度に強く近接させ、前記積層したプラスチック複合材料の少なくとも一つの面に酸化物半導体を担持した通気性のある触媒担持ハニカムを接触させ、前記酸化物半導体のバンド間遷移により大量の正孔と電子とが生成する温度で、前記正孔の酸化力を利用して、前記プラスチック複合材料のポリマー母体内にラジカルを発生させ、前記ラジカルは前記プラスチック複合材料内及び積層した前記プラスチック複合材料間を伝播し、前記ラジカルにより不安定化したポリマーには小分子化が誘起され、酸素の存在下、すべての層の前記プラスチック複合材料に含まれる有機物が水と二酸化炭素に分解されることを特徴とするプラスチック複合材料の処理方法。
【請求項2】
前記プラスチック複合材料は繊維強化プラスチックであることを特徴とする請求項1に記載のプラスチック複合材料の処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、繊維強化プラスチック(FRP)等のプラスチック複合品(以下、プラスチック複合材料という)からポリマー母体のみを選択的に分解除去し、強化繊維等の内包物を効率良く、かつ極めてクリーンな形で回収・リサイクルすること、ならびに廃ポリマー等の一般のプラスチック製品を効率的にかつ確実に分解処理することを可能とする、プラスチックまたはプラスチック複合材料の処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
本発明者の一人はポリマー、ガス体等の有機物からなる被処理物を分解する方法として、半導体を真性電気伝導領域となる温度に加熱して電子・正孔キャリアーを大量に発生させ、被処理物を加熱処理により発現した強力な酸化力を持つ正孔に接触させ、酸素の存在下において被処理物を完全分解する「半導体の熱活性」(Thermal Activation of Semi-Conductors: 以下TASCと略称)による処理方法について提案した(特許文献1、非特許文献1)。この現象は、半導体を350-500℃に加熱すると強い酸化作用(結合電子を引き抜く力が強い)を発現する効果で、ポリマーから結合電子を引き抜くと、不安定なラジカルがポリマー内に生成し、これがポリマー内を伝播してさらに増殖し、ポリマー全体を不安定化する。不安定化したポリマーは安定性を維持できずに、自滅するような形で裁断化が誘起され、プロパン等の小分子に裁断化される。続いて、裁断化された小分子は空気中の酸素と反応して、炭酸ガスと水に完全分解される。つまり、あらゆるポリマー(熱可塑性ポリマーならびに熱硬化性ポリマー)はTASC触媒により、酸素の存在下で、一瞬にして炭酸ガスと水に分解される。以上のように、TASC分解過程は、(1)酸化力によるラジカルの生成する過程、(2)ラジカルの伝播により、巨大分子が不安定化され小分子に分解される過程、(3)小分子化された分子が空気中の酸素と完全燃焼する過程の3つの素過程から構成されている。
TASC法で使用できる半導体は高温、酸素雰囲気で安定な半導体であれば良い。従って、酸化物半導体が好んで用いられる。酸化物半導体の例として、BeO、CaO、CuO、CuO、SrO、BaO、MgO、NiO、CeO、MnO、GeO、PbO、TiO、VO、ZnO、FeO、PdO、AgO、TiO、MoO、PbO、IrO、RuO、Ti、ZrO、Y、Cr、ZrO、WO、MoO、WO、SnO、Co、Sb、Mn、Ta、V、Nb、MnO、Fe、YS、MgFe、NiFe、ZnFe、ZnCo、MgCr、FeCrO、CoCrO、CoCrO、ZnCr、CoAl、NiAl等がある。この中で、酸化クロム(Cr)は高温安定性(融点:約2200℃)に優れ、さらに飲料用のガラス瓶の染色にも使われる安全な材料である。また、酸化鉄(α-Fe:ヘマタイト)は、安定性はCrには及ばないが、安全で廉価な材料であるので実用性が高い。
【0003】
また、繊維強化プラスチックに同じTASC法を用いて、プラスチックを完全分解し、カーボン・ファイバーやグラス・ファイバー等の強化繊維をほぼ無傷で完全回収する方法を提案した(特許文献2、非特許文献2)。この方法は特にコストの高いカーボン・ファイバー等の繊維を切断するなどのダメージを与えることなく強化繊維を回収して再使用することができるので、非常に有用であり、強化繊維に限らず、無機物とポリマーを混合した複合材料から無機物だけを回収できる普遍性のある方法である。
さらに、加熱処理室にVOC(Volatile Organic Compounds、揮発性有機化合物)浄化装置を連結し、合わせガラスなどのプラスチックまたはプラスチック複合材料をTASC法により分解し、無害のガスに浄化する処理装置についても提案した(特許文献3)。
TASC法で用いる酸化物半導体をTASC触媒と呼ぶが、この触媒は「何回でも使うことが出来る」と言う意味で「触媒」に分類される。しかし、通常の化学触媒とは全く異なる機能を有する。化学触媒は、触媒物質と反応物質が活性錯合体を形成し、活性化エネルギーの低い反応パスを経由して反応を低温で進行させるものである。これに対し、TASC触媒は、上述のメカニズムにより、ポリマー等の被分分解物を不安定化し、さらに小分子化して十分な酸素下で完全燃焼させるものである。
【0004】
このように、TASC効果を利用した有機物の気体(VOC、排煙、悪臭など)あるいはミスト状のタール、PM等の完全分解を実現してきた。さらに、固体では、ポリマー複合化合物のポリマーのみを分解し、中から有価物を回収することに利用してきた。その例として、FRP(Fiber Reinforced Plastics:繊維強化プラスチック)から炭素繊維、太陽電池パネルから、ガラス、シリコン・ウェーファー、電極、さらにボンド磁石からレアアース粉体、合わせガラスからガラスの回収に及んでいる。
これらの応用例は、ポリマー(重合体)等の巨大分子をTASC法により裁断化し、裁断化されたて分子を空気中の酸素と反応させて水とを炭酸ガスに分解するものであった。
【0005】
FRPの片面または両面(あるいは極1部に半導体が接触)の表面に酸化物半導体を接触させて熱処理すれば、接触面で生じたラジカルがFRP板内を伝播するので、FRPの板厚が10mm以上であっても問題なくFRP全体を処理出来て有機物は完全に分解され、炭素繊維またはガラス繊維のみが残った。このようにラジカルが、ポリマー鎖、あるいは3次元的なポリマー・ネットワーク内ばかりでなく、ポリマー母体の全体に伝播する理由は、ポリマー母体の中で、隣接するポリマー鎖、あるいは3次元的なポリマー・ネットワーク同士が絡み合い、この接触点を通してもラジカルが伝播・増殖できることに起因している。
近年、FRPなどのプラスチック複合材料は大量に廃棄されるようになってきており、今後ともその量は増え続けることが見込まれる。特に、色々な形態をとるFRP等のプラスチック複合材料を大量に一度に処理する方法の確立が望まれている。例えば、板状のFRP等の複合材料は単に、TASC触媒担持ハニカム上に載せるだけで、容易に処理が行える。しかし、大量の処理を行うには、これに見合った触媒担持ハニカムの枚数が必要となる。また、モールド・モータ等の任意形状の複合材料の場合には、半導体をディップ・コーティングして処理することが可能である。しかし、FRP等の製作段階で発生する端材、あるいは回転カンナ等で切削されたチップや配電線等に対しては、既存のTASC法では小片1つ1つに触媒担持ハニカムを接触させるか、半導体をディップ法で被覆する以外に方法はなかった。デイップ法の処理においては、処理過程で被処理物質内の有価物と半導体の粉体が混ざりあうので、デイップ法は限定的であった。
【0006】
上述のように、複数枚のFRP板やチップ状の大量のFRP片、ならびに任意形状のポリマー複合材料を大量に処理するには、これらの端材に半導体を接触させると言う簡易で、安価な手法が望まれている。
前段落で述べたラジカルのジャンプは、ポリマー母体の中では起こるが、個別の複合化合物間で起こることは期待できない。その理由は、固体物間では(同一のポリマー母体内のように)ポリマー鎖同士が絡み合う程度まで近接していないと判断されるからである。しかし、逆に、固体間の距離を、ポリマー鎖同士が絡み合う程度まで接近させることが出来れば、ラジカルは、固体物間をも伝播できる可能性があると考えた。例えば、FRP板を積層させる、あるいは、積層上部に重量のある別の触媒担持ハニカムを載せるとか、必要に応じて重量物で荷重をかけて、常時、固体物を近接させることが肝要である。チップ状試料の場合にも、触媒担持ハニカム上に一面に敷き詰め、上記と同様の処理を行えば上部に別の触媒担持ハニカムを載せて、同様な処理で固体物間のラジカルの移動が可能となると考えた。考察の基、鋭意試行を重ね、本発明をなすに至った。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特許第4517146号
【文献】特許第5904487号
【文献】特開2016-172246号公報
【非特許文献】
【0008】
【文献】T. Shinbara, T. Makino, K. Matsumoto, and J. Mizuguchi: Complete decomposition of polymers by means of thermally generated holes at high temperatures in titanium dioxide and its decomposition mechanism, J. Appl. Phys. 98, 044909 1-5 (2005)
【文献】水口 仁:半導体の熱活性によるFRPの完全分解とリサイクル技術、加工技術 47巻, 37-47 (2012)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、半導体の熱活性法を基礎に、個々のプラスチック複合材料のチップ状、あるいは複数枚の板状のプラスチック複合材料を簡便かつクリーンな手法で一度に大量に処理する方法を提供することを課題とする。具体的には、大小の様々な形状を持つ複合材料固体物の距離を(ポリマー内でポリマー鎖が絡み合う程度まで)近接させ、固体間でラジカル伝播を可能とさせ、複合材料の端材集団や複数枚の板状複合材を簡便かつクリーンな手法で回収・リサイクルする方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係るプラスチック複合材料の処理方法は、切削機によりチップ状または板状に加工されたプラスチック複合材料を積層し、積層した最上層の上面に重りを載せることにより、前記プラスチック複合材料同士の固体間距離を、複合材料内で絡みあうポリマー鎖同士間の距離と同程度に、かつ、その接触界面でラジカル・ジャンプが可能な程度に強く近接させ、前記積層したプラスチック複合材料の少なくとも一つの面に酸化物半導体を担持した通気性のある触媒担持ハニカムを接触させ、前記酸化物半導体のバンド間遷移により大量の正孔と電子とが生成する温度で、前記正孔の酸化力を利用して、前記プラスチック複合材料のポリマー母体内にラジカルを発生させ、前記ラジカルは前記プラスチック複合材料内及び積層した前記プラスチック複合材料間を伝播し、前記ラジカルにより不安定化したポリマーには小分子化が誘起され、酸素の存在下、すべての層の前記プラスチック複合材料に含まれる有機物が水と二酸化炭素に分解されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、繊維強化プラスチックなどのチップ状または板状のプラスチック複合材料を積層して一度に処理できて、かつポリマー母体を選択的に酸化分解し、繊維強化物などの有価物を容易にかつクリーンに回収すること、また廃ポリマー等のプラスチック製品を分解処理することを効率的にかつクリーンで確実に行うことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】積層したプラスチック複合材料チップの各層同士を強く接触させ、積層したプラスチック複合材料の少なくとも一つの面に酸化物半導体を接触させる手段の一例を示す図である。
図2】積層したチップ状または板状のプラスチック複合材料の処理装置を示す図である。
図3】積層したプラスチック複合材料チップの各層同士を強く接触させ、積層したプラスチック複合材料の少なくとも一つの面に酸化物半導体を接触させる手段の他の例を示す図である。
図4】積層した板状プラスチック複合材料の各層同士を強く接触させ、積層したプラスチック複合材料の少なくとも一つの面に酸化物半導体を接触させる手法の、さらなる実施例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の処理対象であるFRP等の製作段階で発生する端材には様々な形状、大きさのものが存在するが、小片状のものはチップ状、大きなものは板状のプラスチック複合材料である。
本発明において板状FRPあるいはFRPチップなどのプラスチック複合材料を積層するに際し、各層同士が強く接触することが必須である。強く接触するとは、各層の境界に存在するポリマー鎖同士が近接していて、ポリマー鎖間でTASC効果に必要なラジカル・ジャンプが起こることを意味する。各層間が全面で強く接触している必要はなく、部分的に強く接触すればここを介して層間のラジカル・ジャンプが起こり、以後は層内のラジカル伝播により反応が進む。
チップの大きさ、形状、平板性などが同じような場合には、均一な積層が期待できるので、単に積層するだけでプラスチック複合材料の自重により各層間でラジカル・ジャンプが起こるに十分な強さで接触しうる。チップの形状が不定形である場合や歪みがある場合などは強く接触させるための工夫が必要となる。強く接触させる方法、手段としては積層した最上層の上面に重りを配置するのが最も簡便である。最上層の上面と最下層の下面に耐熱性の板を配置し、板同士をネジの締め付け強度を調整しながら連結する方法もある。上記のラジカル・ジャンプが起こる程度に積層同士を強く接触することができれば他の方法、手段でも良い。
【0014】
積層したプラスチック複合材料の各層同士を強く接触させた状態で、従来のTASC処理手順に従って処理すればよい。すなわち、積層した最上層の上面または再下層の下面の少なくとも一方に酸化物半導体を接触させる。接触させる方法として、酸化物半導体を担持した通気性のある触媒担持ハニカムの上に載せる、あるいは触媒担持ハニカムで挟む方法がある。また、酸化物半導体微粒子を含んだ懸濁液を用意し、最上層の上面または最下層の下面をディップ・コーティングやスプレー法により酸化物半導体を塗布する方法もある。図1は積層したプラスチック複合材料チップの各層同士を強く接触させ、積層したプラスチック複合材料の少なくとも一つの面に酸化物半導体を接触させる手段の一例を示しており、酸化物半導体担持ハニカム1の上にプラスチック複合材料であるFRPチップ2を積層して敷き詰め、その上に酸化物半導体担持ハニカム1を置いて構成されている。
【0015】
図2は積層したチップ状または板状のプラスチック複合材料の処理装置を示す図である。積層したプラスチック複合材料を燃焼させ、排気口6から排気する処理の流れは以下のようである。図1の酸化物半導体担持ハニカム1にサンドイッチされた積層FRPチップ2を炉3内に設置する。炉3は空気導入口4、排気口6及び図示しない加熱機構を備えている。空気導入口4から新鮮な空気を導入しながら500℃程度に炉内全体を昇温すれば、TASC効果によりすべての層の有機物が完全に分解されてガスが排気口6から炉外へ排出される。炉内の上下、左右、前後の六方の壁付近に酸化物半導体を担持した通気性を有する構造体5を積層されたプラスチック複合材料を包囲するように配置すれば、積層されたプラスチック複合材料から発生するガスが構造体を通過する際に、TASC効果によりガスが水と二酸化炭素に完全分解されるのでより完全なシステムとなる。通気性を有する構造体としては3次元セラミック体を用いるのが良く、酸化物半導体としては安定性に
優れたCrを多くの場合に用いる。炉の排出口に同じTASC効果に基づくVOC (Volatile Organic Compounds)浄化装置7を連結しておけばさらに完璧である。プラスチック複合材料がFRPの場合は有機物が分解除去された後にCRRPの場合は炭素繊維が、GFRPの場合はガラス繊維が純品のように綺麗な形で残るので、有価物として回収することができる。
【実施例1】
【0016】
図1に示すように、Crを担持した100mm四方のハニカム(厚み:30mm)上に、回転カンナでチップ化したCFRP試料(厚み:約2-3mm、長さ20-30mm)を約80mm四方、積層厚み約15mmでランダムに敷き詰めた。さらにこの上から、Crを担持した100mm四方のハニカム(厚み:50mm;重量 約200g)を載せた。これを電気炉に入れて、空気下、500℃で20分間TASC処理をおこなった。チップ化した試料は完全に分解され、炭素繊維がクリーンな形で回収された。上部に置いたハニカムの重量効果により、チップ化した試料間が相互に強く接触し、すべての層にTASC効果が及んだことを示している。チップ化したCFRPをかなり均一な厚みで配置できるので、回収された炭素繊維全体は元の形状を維持していた。これを“ミシンがけ”をすれば、炭素繊維のシートが容易に作製できる。
【実施例2】
【0017】
図1において、Crを担持した100mm四方のハニカム(厚み:50mm;重量 約200g)の代わりに同形、同重量の無垢のハニカムを載せて他は実施例1と同一条件にて処理を行った。チップ化した試料は完全に分解され、炭素繊維がクリーンな形で回収された。
【実施例3】
【0018】
図1において、チップ化したCFRPの代わりに、チップ化したGFRPを用いて、他は実施例1と同一条件にて実験を行った。綺麗なガラス繊維の織布が回収された。
(比較例1)
【0019】
図1において、Crを担持した100mm四方のハニカム(厚み:50mm;重量 約200g)を上部に載せない状態で他は実施例1と同一条件で実験を行った。チップ群の上部に近いほど分解は不十分であった。このようにチップ化した試料の場合は形状が不定形で歪みもあるため、上部に十分な重り効果のある物体を載せないと、チップ相互の強い接触が得られず、TASC効果が全層に及ばないことになる。
【実施例4】
【0020】
図3に示すように、図1にて最上部においたハニカムの代わりに、アルミナ板(縦115mm、横215mm、厚さ10mm;重量 約728g)をおいて他は実施例1と同一条件にて実験を行った。その結果、実施例1の処理結果と同様にチップ化した試料は完全に分解され、炭素繊維がクリーンな形で回収された。アルミナ板はアルミナのみの密な焼結板でずっしりと重く、空隙を多くとってあるハニカムより密度的には格段に高い。そのため、アルミナ板はプラスチック複合材料同士を強く接触させるための錘の効果としては極めて有効である。
【実施例5】
【0021】
図4に示すように、Crを担持した100mm四方のハニカム(厚み:30mm)上に、80mm四方(厚さ10mm)の板状のCFRP(重さ約125g)を2枚積層した。これを電気炉に入れて、空気下、500℃で20分間TASC処理をおこなった。その結果、ポリマー母体は完全に分解して除去されており、炭素繊維の織布だけが極めて綺麗な形で残っていた。上部に載せたCFRPは十分な自重(125g)があったので、
特に上部に重量物を載せなくても2枚のCFRP板同士は強い接触が得られ、矢印で示す方向に下層のCFRP板から上層のCFRP板にラジカルが伝播し、すべての層のポリマーが分解されたことを示している。
(比較例2)
【0022】
図4の2層のFRPの間に、ラジカルの層間の移動を遮断する目的でAlホイルを敷いて、他は実施例5と同一条件にて実験を行った。その結果、下層のCFRPのみがポリマー母体が完全に分解されていたが、上層のCFRPは完全には分解されなかった。つまり、上層は通常の半燃焼、炭化状態であった。
【実施例6】
【0023】
図4において、2層のFRPに替えて板状CFRPを3枚積層し、他は実施例5と同一条件で実験を行った。3枚とも完全に分解され、綺麗な炭素繊維の織布が回収された。
【実施例7】
【0024】
図4において、ハニカムに担持するCrの代わりに、α-Feを担持したハニカムを用いて、他は実施例5と同一条件にて実験を行った。実施例5と同様な結果を得た。
【実施例8】
【0025】
Crを担持した100mm四方のハニカム(厚み:30mm)の上に、フレキシブルでやや歪んだ断熱材としてのGFRP(80mm四方、3mm)5枚を積層し、さらに最上部にはCrを担持していない同形の無垢のハニカム(100mm四方で厚みが50mm;重量 約200g)をおいた。これを電気炉に入れて、空気下、500℃で20分間TASC処理をおこなった。その結果、GFRPの5層は総て完全に分解し、歪みのない純品同様のグラス・ファイバーの織布が回収された。これは、無垢のハニカムの重量効果により下部のGFRP層を押し続けるため、GFRP間には密接な接触が可能となり十分な分解効果が得られたことを示している。
【実施例9】
【0026】
実施例8での、最上部においたCrを担持していない100mm四方の無垢のハニカム(厚み:50mm;重量 約200g)の代わりに、Crを担持した同形のハニカム(100mm四方で厚みが50mm;重量 約200g)をおいて他は実施例8と同一条件にて実験を行った。その結果、実施例8の処理結果と同様にGFRPの5層は総て完全に分解し、歪みのない純品同様のグラス・ファイバーの織布が回収された。本実施例のように、触媒担持ハニカムを載せた場合には、分解処理が上下両方向から進行するので、処理時間は無垢のハニカムを載せる場合よりやや速いと考えられる。
(比較例3)
【0027】
実施例8で、最上部にハニカムを置かない状態で、他は同一条件にて分解実験を行った。その結果、下から3層目まではほぼ完全に分解されたが、4,5層は不十分であった。これはフレキシブルでやや歪んだ断熱材としてのGFRPの板厚が3mmと薄いため、自重のみでは重り効果が弱く、4層目、5層目のGFRP板については隣接する層と強く接触することができなかったと推察される。
【産業上の利用可能性】
【0028】
本発明によれば、複数枚のFRPやチップ化したFRPなどのプラスチック複合材料を大量に一度に処理して、有機物を分解除去し、有価物が残留する場合は回収することができるので、産業上の利用可能性は大きい。
【符号の説明】
【0029】
1 酸化物半導体担持ハニカム
2 FRPチップ
3 炉
4 空気導入口
5 酸化物半導体を担持した通気性を有する構造体
6 排気口
7 VOC浄化装置
8 アルミナ板
9 FRP板
図1
図2
図3
図4