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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-27
(45)【発行日】2022-10-05
(54)【発明の名称】アダプタ、及び射出液の移送方法
(51)【国際特許分類】
   A61J 1/20 20060101AFI20220928BHJP
【FI】
A61J1/20 314C
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2020551087
(86)(22)【出願日】2019-10-03
(86)【国際出願番号】 JP2019039195
(87)【国際公開番号】W WO2020071506
(87)【国際公開日】2020-04-09
【審査請求日】2021-03-26
(31)【優先権主張番号】P 2018189392
(32)【優先日】2018-10-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000002901
【氏名又は名称】株式会社ダイセル
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】特許業務法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山本 裕三
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 崇将
【審査官】小野田 達志
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2008/103997(WO,A2)
【文献】国際公開第01/052920(WO,A2)
【文献】特開2000-245839(JP,A)
【文献】特表平10-510740(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61J 1/20
A61M 5/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の射出液を射出ノズルから射出する射出装置に対して、該射出ノズルの射出口を介して該所定の射出液を移送するためのアダプタであって、
移送される前記所定の射出液を収容する収容部を画定するハウジングであって、前記射出装置に対して着脱可能に構成されたハウジングと、
前記ハウジングにおいて前記収容部に連通して設けられ、前記ハウジングが前記射出装置に取り付けられたときに前記射出ノズルの前記射出口が形成された該射出装置の端面に接触して該収容部に収容されている前記所定の射出液が該射出ノズル側に流出可能に形成された充填ノズルであって、該充填ノズルの開口端は、該収容部の内径より小さく該射出ノズルの射出口より大きく設定された充填ノズルと、
を備え、
前記射出装置は、前記射出ノズルを内部に有する柱状のノズル部であって、該射出ノズルの射出口がその端面に露出して形成されたノズル部を有し、
前記ハウジングは、該ハウジングにおいて前記充填ノズルを囲むように設けられ、且つ、該ハウジングが前記射出装置に取り付けられたときに前記ノズル部の外周壁面に対して嵌合した状態となる第1筒状部を有し、
前記収容部の一部領域から該充填ノズルの開口端に至るまでの前記ハウジングの内部空間のうち該収容部の一部領域から該充填ノズルの開口端に至るまでの連続した所定空間は、前記一部領域から前記充填ノズルの開口端まで該充填ノズルの開口端側に進むに従い該所定空間の内径が連続して縮径するように形成され、
前記充填ノズルは、該充填ノズルから前記アダプタの先端側に突出した環状の突起部であって、該ハウジングが前記射出装置に取り付けられたときに該突起部の先端が該射出装置の端面に当接するように形成された突起部を有する、
アダプタ。
【請求項2】
前記所定空間は、前記一部領域と前記充填ノズルの内部空間の全てを含む空間である
請求項1に記載のアダプタ。
【請求項3】
前記突起部は、可撓性部材から形成される、
請求項1又は2に記載のアダプタ。
【請求項4】
前記ノズル部の前記外周壁面は、該ノズル部の軸方向に沿って傾斜するテーパ面を形成し、
前記ハウジングが前記射出装置に取り付けられたときに、前記第1筒状部の内壁面は前記ノズル部の前記外周壁面を押圧しながら前記嵌合した状態となる、
請求項1から請求項3の何れか1項に記載のアダプタ。
【請求項5】
前記ハウジングが前記射出装置に取り付けられたときに前記第1筒状部と前記ノズル部の前記外周壁面との嵌合した状態を保持する保持部を、更に備える、
請求項4に記載のアダプタ。
【請求項6】
前記ハウジングは、該ハウジングにおいて前記第1筒状部を囲むように設けられ、且つ、該ハウジングが前記射出装置に取り付けられたときに該射出装置の外周壁面に対して嵌合した状態となる第2筒状部を有する、
請求項4又は5に記載のアダプタ。
【請求項7】
請求項1から請求項の何れか1項に記載のアダプタを準備し、
前記射出装置に対して前記ハウジングを取り付けて、前記射出ノズルの前記射出口が形成された該射出装置の端面に前記充填ノズルの先端を接触させ、
前記収容部に、前記所定の射出液を注入し、
前記アダプタが前記射出装置の鉛直方向において上方に位置した状態で、前記収容部から前記所定の射出液を移し、該射出装置に対して移送する、
射出液の移送方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、外部から射出液を注射器側に移送するためのアダプタ、及び当該アダプタを用いた射出液の移送方法に関する。
【背景技術】
【0002】
生体等の対象領域に薬液等を射出する装置として無針注射器が例示できるが、近年、取り扱いの容易さや衛生面等から、注射針を有しない無針注射器の開発が行われている。一般に、無針注射器では、圧縮ガスやバネ等の駆動源により加圧された薬液を対象領域に向かって射出し、その薬液が有する運動エネルギーを利用して対象領域の内部に薬液が射出される構成が実用化されている。このような無針注射器には射出液の流路を形成する機械的な構成(例えば、注射針)が存在しないため、装置使用の準備段階において、射出液を衛生的に無針注射器に移送するには相応の注意を要する。
【0003】
ここで、特許文献1には、カップリング装置を用いて無針注射器とベッセルを接続して射出液を移送する構成が開示されている。このカップリング装置の一方側に無針注射器が取り付けられ、他方側にベッセルが取り付けられる。ベッセルには、無針注射器によって射出される射出液が貯蔵されている。そして、カップリング装置の当接面は、無針注射器の先端面に倣う形状をしており、且つカップリング装置のオリフィスは、無針注射器側のオリフィスと向かい合った状態となっている。その上で、カップリング装置の当接面は、雑菌等の発生を抑制するために、ベッセルから無針注射器への射出液の移送時に、射出液が無針注射器の先端面に付着しないように形成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】米国特許出願公開第2002/0161334号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来の技術では、射出液の移送中に無針注射器の先端面が射出液に接触しないように(雑菌等が無針注射器の先端面で繁殖するのを防ぐべく)、カップリング装置の先端部のオリフィスの径が、無針注射器のノズル部のオリフィスの径よりも小さく形成されている。一般的に無針注射器は、射出液に高い圧力を作用させて、そのエネルギーで射出液を対象領域に向かって射出させるものであるから、当該射出のためにそのオリフィス径は極めて小さい。したがって、従来技術では、カップリング装置側のオリフィス径は、そのような無針注射器側のオリフィス径よりも小さくなるため、当該カップリング装置を用いて射出液を移送しようとすると、その移送に比較的長い時間を要することになる。また、極めて少量の射出液を移送する場合には、射出液がカップリング装置のオリフィスの先端まで移動しにくい構成となっているため、その周囲に存在する空気も一緒に取り込んで無針注射器に移送されることになる。
【0006】
そこで、本発明は、上記した問題に鑑み、外部から無針注射器へ射出液を好適に移送することを可能とする技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明は、アダプタの開口端が収容部の内径より小さく、射出装置の射出ノズルの射出口より大きく構成されるとともに、移送の際に射出液が分散してしまう空間が存在しないように、アダプタ内部に連続して縮径された所定空間を配置する構成を採用した。このような構成により、アダプタを介して外部から射出装置に射出液を、衛生的に且つ速やかに移送でき、また、その移送の際に射出液と空気が不用意に混在してしまうことを抑制できる。
【0008】
具体的には、本発明は、所定の射出液を射出ノズルから射出する射出装置に対して、該射出ノズルの射出口を介して該所定の射出液を移送するためのアダプタであって、移送される前記所定の射出液を収容する収容部を画定するハウジングであって、前記射出装置に対して着脱可能に構成されたハウジングと、前記ハウジングにおいて前記収容部に連通して設けられ、前記ハウジングが前記射出装置に取り付けられたときに前記射出ノズルの前記射出口が形成された該射出装置の端面に接触して該収容部に収容されている前記所定の射出液が該射出ノズル側に流出可能に形成された充填ノズルであって、該充填ノズルの開口端は、該収容部の内径より小さく該射出ノズルの射出口より大きく設定された充填ノズルと、を備える。そして、前記収容部の一部領域から該充填ノズルの開口端に至るまでの前記ハウジングの内部空間のうち少なくとも該一部領域を含む連続した所定空間は、該充填ノズルの開口端側に進むに従い該所定空間の内径が縮径するように形成される。
【0009】
上記射出装置は、射出液を射出ノズルから外部に射出するものであるが、その射出に当たっては準備段階として、外部から射出液をその射出ノズルの射出口を介して移送してくる必要があり、本発明のアダプタは、そのような射出液の射出装置への移送の際に使用される。このとき、アダプタは、射出装置そのものに取り付けられてもよく、別法として射出装置を構成する部品に取り付けられてもよい。本発明においては、当該部品へ取り付けられる構成のアダプタも、当該部品が射出装置の一部を構成する限り、当該射出装置へ取り付けられるアダプタと解される。なお、本願においては、射出装置は、その射出液の射出に関して特定の形態のものには限定されない。例えば、アダプタを介して移送された射出液に対して、射出のための加圧を行うエネルギーとしては、化学的に生成されるエネルギー、例えば、火薬・爆薬等の酸化反応によって生じる燃焼エネルギーであってもよい。また別法として、当該加圧のためのエネルギーは、電気的に生成されてもよく、その一例としては、投入された電力により駆動される圧電素子や電磁アクチュエータに起因するエネルギーであってもよい。更に別法としては、当該加圧のためのエネルギーは、物理的に生成されてもよく、その一例としては、弾性体による弾性エネルギーや圧縮ガス等の圧縮物体が有する内部エネルギーであってもよい。また、当該加圧のためのエネルギーは、これらの燃焼エネルギー、電力によるエネルギー、弾性エネルギー等の内部エネルギーを適宜組み合わせた複合型のエネルギーであっても構わない。
【0010】
また、本発明にアダプタを介して射出装置に移送される射出液としては、射出の対象領域内で効能が期待される成分や対象領域内で所定の機能の発揮が期待される成分を含む物質が例示できる。そのため、少なくとも射出が可能であれば、射出液の物理的形態は、液体内に溶解した状態で存在してもよく、又は液体に溶解せずに単に混合された状態であってもよい。一例を挙げれば、送りこむべき所定物質として、抗体増強のためのワクチン、美容のためのタンパク質、毛髪再生用の培養細胞等があり、これらが射出可能となるように、液体の媒体に含まれることで射出液が形成される。なお、上記媒体としては、対象領域内部に注射された状態において所定物質の上記効能や機能を阻害するものでない媒体が好ましい。別法として、上記媒体は、対象領域内部に注射された状態において、所定物質とともに作用することで上記効能や機能が発揮される媒体であってもよい。
【0011】
このように射出液は対象領域内に送達されるものであることから、アダプタのハウジングに画定された収容部から射出装置に移送されるに際して衛生面で留意する必要がある。特に、移送に長い時間を要してしまうと、射出液が外部環境に晒されてしまう時間が長くなってしまい、衛生的に好ましくない。上記アダプタは、そのハウジングが射出液の移送のために射出装置に取り付けられたときに、充填ノズルが射出装置の射出ノズルの端面に接触した状態で射出液の移送が可能な状態が形成される。そして、充填ノズルの開口端は、収容部の内径より小さいが射出ノズルの射出口より大きく設定されている。そのため、射出液が流れ出る充填ノズル径がいたずらに小さくならず、射出液の移送速度が大きく低下し移送時間が長期化することを回避できる。また、その移送の際には、充填ノズルが射出装置の端面に接しており、アダプタを射出装置に安定して位置決めでき、以て好適な射出液の移送が実現できる。
【0012】
また、射出液が収容部から射出装置に移送されていく過程において、収容部の一部領域から充填ノズルの内部空間を通りその開口端に向かって移動することになる。ここで、上記アダプタでは、少なくともその一部領域を含む連続した所定空間は、充填ノズルの開口端側に進むに従ってその所定空間の内径が縮径するように形成されている。このような構成により、移送に際して射出液が充填ノズル内で分散されずに集約されやすくなり、以て移送の際に周囲の空気を巻き込んで射出装置に移送されることを抑制することができる。このように本願のアダプタによれば、外部から無針注射器へ射出液を好適に移送することが可能となる。そして、より好ましくは、前記所定空間が、前記一部領域と前記充填ノズルの内部空間の全てを含む空間であって、その場合は、前記所定空間が、前記一部領域から前記充填ノズルの開口端まで該充填ノズルの開口端側に進むに従い、該所定空間の内径が連続して縮径するように形成されてもよい。この構成によれば、射出液の充填ノズルでの分散をより効果的に抑制でき、極めて少量の射出液を移送する場合であっても空気との混在を効果的に抑制することができる。
【0013】
また、上述までのアダプタにおいて、前記充填ノズルは、該充填ノズルからその外側に突出した環状の突起部であって、該ハウジングが前記射出装置に取り付けられたときに該突起部の先端が該射出装置の端面に当接するように形成された突起部を有してもよい。上記アダプタがこのような突起部を有することで、充填ノズルと射出ノズルが連通する部位を囲むように環状の当該突起部が射出装置の端面に接触することになる。その結果、射出液の移送の際に、より安定的にアダプタを射出装置に位置決めできるとともに、射出液が漏れ出すのを抑制し射出装置への移送がより良好に達成されることになる。
【0014】
また、上記突起部は、可撓性部材から形成されてもよい。このような構成により、アダプタを射出装置に位置決めした際に突起部が好適に変形し、アダプタと射出装置との間に好適な接触状態を形成する。そのため、アダプタと射出装置との間に好適なシール性が生まれ、以て射出液の移送の際に射出液が漏れ出すのを抑制し、より多くの射出液を射出装置へ移送させることが可能となる。なお、突起部を形成する可撓性部材は、特定の材料に限定される必要は無く、射出液の移送に有用なシール性の観点から好適な可撓性材料を選択することができる。
【0015】
ここで、上述までのアダプタにおいて、前記射出装置は、前記射出ノズルを内部に有する柱状のノズル部であって、該射出ノズルの射出口がその端面に露出して形成されたノズル部を有してもよい。その上で、前記ハウジングは、該ハウジングにおいて前記充填ノズルを囲むように設けられ、且つ、該ハウジングが前記射出装置に取り付けられたときに前記ノズル部の外周壁面に対して嵌合した状態となる第1筒状部を有してもよい。このような構成を採用することで、ハウジングを介してアダプタが射出装置に取り付けられたときに、第1筒状部がノズル部の外周壁面と接触支持する位置関係となり、以て、その取付状態の安定性を高めることができる。
【0016】
また、上記構成のアダプタにおいて、前記ノズル部の前記外周壁面は、該ノズル部の軸方向に沿って傾斜するテーパ面を形成し、その場合、前記ハウジングが前記装置本体に取り付けられたときに、前記第1筒状部の内壁面は前記ノズル部の前記外周壁面を押圧しながら前記嵌合した状態となってもよい。この結果、第1筒状部の内壁面とノズル部の外周壁面との接触支持が強まるため、更に安定したアダプタの取り付けが期待できる。
【0017】
また、上述までのアダプタにおいて、前記ハウジングが前記射出装置に取り付けられたときに前記第1筒状部と前記ノズル部の前記外周壁面との嵌合した状態を保持する保持部を、更に備えてもよい。当該保持部により第1筒状部とノズル部の外周壁面との嵌合状態が保持されることになり、射出液の移送をより良好に行い得る。
【0018】
アダプタと射出装置の位置決めの安定性向上の観点から、前記ハウジングは、該ハウジングにおいて前記第1筒状部を囲むように設けられ、且つ、該ハウジングが前記射出装置に取り付けられたときに該射出装置の外周壁面に対して嵌合した状態となる第2筒状部を有してもよい。このような構成を採用することで、第1筒状部とノズル部との接触、及び第2筒状部と射出装置との接触の両者を介して、射出装置に対してアダプタが位置決めされることになる。その結果、アダプタの取付状態の安定性が更に増し、射出液の移送がより良好に行い得る。
【0019】
また、本願発明を、射出液が収容部に収容されているアダプタから射出装置に移送する方法の側面から捉えることも可能である。すなわち、当該方法は、所定の射出液を射出ノズルから射出する射出装置に対して、該射出ノズルの射出口を介して該所定の射出液を移送するためのアダプタであって、移送される該所定の射出液を収容する収容部を画定するハウジングと、前記ハウジングにおいて前記収容部に接続して設けられ、その開口端は該収容部の内径より小さく該射出ノズルの射出口より大きく設定された充填ノズルとを備え、該充填ノズルが接続された該収容部の一部領域から該充填ノズルの開口端に至るまでの該ハウジングの内部空間のうち少なくとも該一部領域を含む連続した所定空間は、該充填ノズルの開口端側に進むに従い該所定空間の内径が縮径するように形成されたアダプタを準備し、前記射出装置に対して前記ハウジングを取り付けて、前記射出ノズルの前記射出口が形成された該射出装置の端面に前記充填ノズルの先端を接触させ、前記収容部に、前記所定の射出液を注入し、前記アダプタが前記射出装置の鉛直方向において上方に位置した状態で、前記収容部から前記所定の射出液を移し、該射出装置に対して移送する。また、上記アダプタに関連して開示した技術思想は、技術的な齟齬が生じない限りにおいて上記方法に係る発明にも適用可能である。
【発明の効果】
【0020】
外部から無針注射器へ射出液を好適に移送することを可能とする。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】火薬で駆動される無針注射器の概略構成を示す図である。
図2A図1に示す無針注射器に組み込まれる装置組立体を構成する第1のサブ組立体の概略構成を示す図である。
図2B図1に示す注射器に組み込まれる装置組立体を構成する第2のサブ組立体の概略構成を示す図である。
図3図2Aに示す第1のサブ組立体に対して、無針注射器によって射出される射出液を移送するために使用されるアダプタの斜視図である。
図4図3に示すアダプタの断面図である。
図5】第1のサブ組立体に対してアダプタを取り付けた状態を示す、第1の図である。
図6】アダプタを用いた射出液の移送方法の流れを示すフローチャートである。
図7】第1のサブ組立体に対してアダプタを取り付けた状態を示す、第2の図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下に、図面を参照して本願発明の実施形態に係る無針注射器(以下、単に「注射器」と称する)1への射出液の移送に使用するアダプタ90について説明する。当該注射器1は、火薬の燃焼エネルギーを利用して、本願の注射目的物質に相当する射出液を対象領域に射出する無針注射器、すなわち、注射針を介することなく、射出液を対象領域に射出して注射を行う装置である。アダプタ90の詳細を説明する前に、注射器1について説明する。
【0023】
なお、以下の実施形態の構成は例示であり、本願発明はこの実施の形態の構成に限定されるものではない。本実施形態では、注射器1においてその長手方向における相対的な位置関係を表す用語として、「先端側」及び「基端側」を用いる。当該「先端側」は、後述する注射器1の先端寄り、すなわち射出口31a寄りの位置を表し、当該「基端側」は、注射器1の長手方向において「先端側」とは反対側の方向、すなわち駆動部7側の方向を表している。また、アダプタ90においては、射出液の移送の際の流れの下流側、すなわち図4に示す下方が「先端側」とされ、その反対側である図4に示す上方が「基端側」とされる。
【0024】
<注射器1の構成>
ここで、図1は、注射器1の概略構成を示す図であり、注射器1のその長手方向に沿った断面図でもある。注射器1は、後述するシリンジ部3とプランジャ4とで構成されるサブ組立体(後述の図2Aを参照)10Aと、注射器本体6とピストン5と駆動部7とで構成されるサブ組立体(後述の図2Bを参照)10Bとが一体に組み立てられた装置組立体10が、注射器ハウジング2に取り付けられることで構成される。なお、本願の以降の記載においては、注射器1により対象領域に投与される射出液は、当該対象領域で期待される効能や機能を発揮する所定物質が液体の媒体に含有されることで形成されている。その射出液において、所定物質は媒体である液体に溶解した状態となっていてもよく、また、溶解されずに単に混合された状態となっていてもよい。
【0025】
射出液に含まれる所定物質としては、例えば生体である対象領域に対して射出可能な生体由来物質や所望の生理活性を発する物質が例示でき、例えば、生体由来物質としては、DNA、RNA、核酸、抗体、細胞等が挙げられ、生理活性を発する物質としては、低分子医薬、温熱療法や放射線療法のための金属粒子等の無機物質、キャリアとなる担体を含む各種の薬理・治療効果を有する物質等が挙げられる。また、射出液の媒体である液体としては、これらの所定物質を対象領域内に投与するために好適な物質であればよく、水性、油性の如何は問われない。また、所定物質を注射器1にて射出可能であれば、媒体である液体の粘性についても特段に限定されるものではない。
【0026】
装置組立体10は、注射器ハウジング2に対して脱着自在となるように構成されている。装置組立体10に含まれるシリンジ部3とプランジャ4との間に形成される収容部32(図2Aを参照)には、注射器1の作動前である準備段階において射出液が充填され、そして、当該装置組立体10は、射出液の射出を行う度に交換されるユニットである。一方で、注射器ハウジング2側には、装置組立体10の駆動部7に含まれる点火器71に電力供給するバッテリ9が含まれている。バッテリ9からの電力供給は、ユーザが注射器ハウジング2に設けられたボタン8を押下する操作を行うことで、配線を介して注射器ハウジング2側の電極と、装置組立体10の駆動部7側の電極との間で行われることになる。なお、注射器ハウジング2側の電極と装置組立体10の駆動部7側の電極とは、装置組立体10が注射器ハウジング2に取り付けられると、自動的に接触するように両電極の形状および位置が設計されている。また注射器ハウジング2は、バッテリ9に駆動部7に供給し得る電力が残っている限りにおいて、繰り返し使用することができるユニットである。そして、注射器ハウジング2においては、バッテリ9の電力が無くなった場合には、バッテリ9のみを交換し注射器ハウジング2は引き続き使用してもよい。
【0027】
ここで、図2A及び図2Bに基づいて、サブ組立体10A及び10Bの構成、及び両サブ組立体に含まれるシリンジ部3、プランジャ4、ピストン5、注射器本体6、駆動部7の詳細な構成について説明する。シリンジ部3は、射出液を収容可能な空間である収容部32を含むノズル部31を有しているとともに、サブ組立体10Aにおいて収容部32内を摺動可能となるようにプランジャ4が配置される。ノズル部3の先端側の外周は柱状に形成されている。
【0028】
シリンジ部3のボディ30は、例えば、公知のナイロン6-12、ポリアリレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリフェニレンサルファイド又は液晶ポリマー等が使用できる。また、これら樹脂にガラス繊維やガラスフィラー等の充填物を含ませてもよく、ポリブチレンテレフタレートにおいては20~80質量%のガラス繊維を、ポリフェニレンサルファイドにおいては20~80質量%のガラス繊維を、また液晶ポリマーにおいては20~80質量%のミネラルを含ませることができる。
【0029】
そして、そのボディ30の内部に形成された収容部32においてプランジャ4がノズル部31方向(先端側方向)に摺動可能となるように配置され、プランジャ4とシリンジ部3のボディとの間に形成される空間が、射出液320が封入される空間となる。なお、この射出液320は、図3等に記載のアダプタ90を用いて収容部32内に移送されるが、その詳細については後述する。ここで、収容部32内をプランジャ4が摺動することで、収容部32に収容されている射出液320が押圧されて、ノズル部31の先端側に設けられた射出ノズル31bを通って、射出口31aより射出されることになる。射出口31aは、ノズル部31の先端側の端面(先端面)31cにおいて開口している。なお、先端面31cは、射出口31aを除けば略平面である。
【0030】
プランジャ4は、収容部32内での摺動が円滑であり、且つ、射出液320がプランジャ4側から漏出しないような材質で形成される。具体的なプランジャ4の材質としては、例えば、ブチルゴムやシリコンゴムが採用できる。更には、スチレン系エラストマー、水添スチレン系エラストマーや、これにポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン、α-オレフィン共重合体等のポリオレフィンや流パラ、プロセスオイル等のオイルやタルク、キャスト、マイカ等の粉体無機物を混合したものがあげられる。さらにポリ塩化ビニル系エラストマー、オレフィン系エラストマー、ポリエステル系エラストマー、ポリアミド系エラストマー、ポリウレタン系エラストマーや天然ゴム、イソプレンゴム、クロロプレンゴム、ニトリル-ブタジエンゴム、スチレン-ブタジエンゴムのような各種ゴム材料(特に加硫処理したもの)や、それらの混合物等を、プランジャ4の材質として採用することもできる。また、プランジャ4とシリンジ部3との間の摺動性を確保・調整する目的で、プランジャ4の表面やシリンジ部3の収容部32の表面を各種物質によりコーティング・表面加工してもよい。そのコーティング剤としては、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)、シリコンオイル、ダイヤモンドライクカーボン、ナノダイヤモンド等が利用できる。
【0031】
ここで、プランジャ4は、図2Aに示すように、頭部41と胴部42を有し、両者の間は頭部41及び胴部42の直径よりも小さく径を有する首部43で繋がれているものとすることができる。このように首部43の直径を小さくするのは、シール部材となるOリングの収容空間を形成するためである。なお、頭部41の先端側の輪郭は、ノズル部31の内壁面の輪郭に概ね一致する形状となっている。これにより、射出液の射出時にプランジャ4がノズル部31側に摺動し、収容部32において最も奥に位置する最奥位置に到達したときに、プランジャ4とノズル部31の内壁面との間に形成される隙間を可及的に小さくでき、射出液320が収容部32内に残り無駄となることを抑制することができる。ただし、プランジャ4の形状は、本実施形態の注射器において所望の効果が得られる限りにおいて、特定の形状に限定されるものではない。
【0032】
更に、プランジャ4には、胴部42の基端側の端面から、更に基端側の方向に延在するロッド部44が設けられている。このロッド部44は胴部42と比べて十分にその直径は小さいが、ユーザが当該ロッド部44を把持して収容部32内を移動させることが可能な程度の直径を有している。ユーザは、射出液を収容部32に移送する際に、このロッド部44を把持してプランジャ4を動かすことで、外部から射出液を収容部32内に吸い込む。また、プランジャ4がシリンジ部3の収容部32の最奥位置にある場合でも、ロッド部44がシリンジ部3の基端側の端面から突出し、ユーザが当該ロッド部44を把持できるように、ロッド部44の長さが決定されている。
【0033】
ここで、シリンジ部3の説明に戻る。シリンジ部3側のノズル部31に設けられた射出ノズル31bの内径は、収容部32の内径よりも細く形成されている。このような構成により、高圧に加圧された射出液320が、射出ノズル31bの射出口31aから外部に射出されることになる。また、シリンジ部3の基端側に位置する首部33には、後述するサブ組立体10B側の注射器本体6とシリンジ部3とを結合するためのネジ部33aが形成されている。この首部33の直径は、ボディ30の直径よりも小さく設定されている。
【0034】
次に、ピストン5、注射器本体6、駆動部7を含むサブ組立体10Bについて図2Bに基づいて説明する。ピストン5は、駆動部7の点火器71で生成される燃焼生成物により加圧されて、注射器本体6のボディ60の内部に形成されている貫通孔64内を摺動するように構成されている。ここで、注射器本体6には、貫通孔64を基準として、先端側に結合凹部61が形成されている。この結合凹部61は、上記のシリンジ部3の首部33と結合する部位であり、首部33に設けられたネジ部33aと螺合するネジ部62aが、結合凹部61の側壁面62上に形成されている。また、貫通孔64と結合凹部61とは、連通部63によって繋がれているが、連通部63の直径は、貫通孔64の直径よりも小さく設定されている。また、注射器本体6には、貫通孔64を基準として、基端側に駆動部用凹部65が形成されている。この駆動部用凹部65に駆動部7が配置されることになる。
【0035】
また、ピストン5は、金属製であり、第1胴部51及び第2胴部52を有している。第1胴部51が結合凹部61側に、且つ第2胴部52が駆動部用凹部65側に向くように、ピストン5は貫通孔64内に配置される。この第1胴部51及び第2胴部52が、注射器本体6の貫通孔64の内壁面と対向しながら、ピストン5は貫通孔64内を摺動する。なお、第1胴部51と第2胴部52との間は、各胴部の直径より細い連結部で繋がれており、その結果形成される両胴部間の空間には、貫通孔64の内壁面との密着性を高めるために、Oリング等が配置される。また、ピストン5は樹脂製でもよく、その場合、耐熱性や耐圧性が要求される部分は金属を併用してもよい。
【0036】
ここで、第1胴部51の先端側の端面には、第1胴部51より直径が小さく、且つ、注射器本体6の連通部63の直径よりも小さい直径を有する押圧柱部53が設けられている。この押圧柱部53には、その先端側の端面に開口し、その直径がロッド部44の直径以上であり、且つ、その深さがロッド部44の長さより深い収容孔54が設けられている。そのため、押圧柱部53は、その先端側の端面を介して、ピストン5が点火器71の燃焼生成物により加圧されたときにその燃焼エネルギーをプランジャ4の胴部42の基端側の端面に伝えることが可能となる。なお、ピストン5の形状も図2Bに記載の形状に限定されるものではない。
【0037】
次に、駆動部7について説明する。駆動部7は、そのボディ72が筒状に形成され、その内部に、点火薬を燃焼させて射出のためのエネルギーを発生させる電気式点火器である点火器71を有し、点火器71による燃焼エネルギーをピストン5の第2胴部52に伝えられるように、上記の通り駆動部用凹部65に配置される。詳細には、駆動部7のボディ72は、射出成形した樹脂を金属のカラーに固定したものであってもよい。当該射出成形については、公知の方法を使用することができる。駆動部7のボディ72の樹脂材料としては、シリンジ部3のボディ30と同じ樹脂材料で形成されている。
【0038】
ここで、点火器71において用いられる点火薬の燃焼エネルギーは、注射器1が射出液を対象領域に射出するためのエネルギーとなる。なお、当該点火薬としては、好ましくは、ジルコニウムと過塩素酸カリウムを含む火薬(ZPP)、水素化チタンと過塩素酸カリウムを含む火薬(THPP)、チタンと過塩素酸カリウムを含む火薬(TiPP)、アルミニウムと過塩素酸カリウムを含む火薬(APP)、アルミニウムと酸化ビスマスを含む火薬(ABO)、アルミニウムと酸化モリブデンを含む火薬(AMO)、アルミニウムと酸化銅を含む火薬(ACO)、アルミニウムと酸化鉄を含む火薬(AFO)、もしくはこれらの火薬のうちの複数の組合せからなる火薬が挙げられる。これらの火薬は、点火直後の燃焼時には高温高圧のプラズマを発生させるが、常温となり燃焼生成物が凝縮すると気体成分を含まないために発生圧力が急激に低下する特性を示す。適切な射出液の射出が可能な限りにおいて、これら以外の火薬を点火薬として用いても構わない。
【0039】
また、注射器1では、ピストン5を介して射出液にかける圧力推移を調整するために、上記点火薬に加えて、点火器71での火薬燃焼によって生じる燃焼生成物によって燃焼しガスを発生させるガス発生剤80が配置されている。その配置場所は、例えば、図1図2Bに示されるように、点火器71からの燃焼生成物に晒され得る場所である。また、別法としてガス発生剤80を、国際公開公報01-031282号や特開2003-25950号公報等に開示されているように、点火器71内に配置してもよい。ガス発生剤の一例としては、ニトロセルロース98質量%、ジフェニルアミン0.8質量%、硫酸カリウム1.2質量%からなるシングルベース無煙火薬が挙げられる。また、エアバッグ用ガス発生器やシートベルトプリテンショナ用ガス発生器に使用されている各種ガス発生剤を用いることも可能である。貫通孔64内に配置されるときのガス発生剤の寸法や大きさ、形状、特に表面形状を調整することで、該ガス発生剤の燃焼完了時間を変化させることが可能であり、これにより、射出液に掛ける圧力推移を調整し、その射出圧を所望の推移とすることができる。
【0040】
なお、サブ組立体10Aへの射出液320の移送は、図3に示すアダプタ90を用いて行われる。そして、サブ組立体10Aにおいてその射出液320の移送が完了した状態では、例えば、図2Aに示すように、プランジャ4の胴部42の基端側の端面が、シリンジ部3の基端側の端面より若干飛び出した位置に至るまで、プランジャ4は引き出されている。
【0041】
またサブ組立体10Bでは、先ず、図2Bに示す注射器本体6の基端側からピストン5が挿入される。このとき、押圧柱部53が結合凹部61側を向くように、ピストン5が貫通孔64に挿入される。そして、ピストン5の先端側の端面、すなわち収容孔54が開口する押圧柱部53の先端側の端面が、結合凹部61の底面(側壁面62に直交する面)より所定量飛び出した状態となるように位置決めされる。ピストン5の位置決めについては、貫通孔64内に位置決めのためのマークを設定する、位置決め用の治具を使用するなど、公知の技術を適宜利用すればよい。そして、貫通孔64内にガス発生剤80が配置されるとともに駆動部用凹部65に駆動部7が取り付けられる。なお、ピストン5の貫通孔64における固定力は、駆動部7の点火器71による燃焼生成物から受ける圧力によっては、ピストン5が十分に円滑に貫通孔64内を摺動できる程度であり、且つ、サブ組立体10Aがサブ組立体10Bに取り付けられる際にピストン5がプランジャ4から受ける力に対しては十分に抗し、ピストン5の位置が変動しない程度とされる。
【0042】
このように構成されるサブ組立体10Aが、ネジ部33aと62aの螺合によりサブ組立体10Bに取り付けられることで、装置組立体10が形成されることになる。このとき、両者の結合が進んでいくと、ピストン5の押圧柱部53に設けられた収容孔54内に、プランジャ4のロッド部44が進入していき収容された状態となり、最終的には、押圧柱部53の先端側の端面が、プランジャ4の胴部42の基端側の端面に接触した状態となる。なお、収容孔54はロッド部44を収容するのに十分な大きさを有しているため、この接触状態において、収容孔54の奥の内壁面(特に、収容孔54の底面)はロッド部44の基端側の端部には接触しておらず、したがってロッド部44はピストン5側から荷重を受けてはいない。更に、最終の螺合位置まで進めていくと、上記の通りピストン5は貫通孔64に十分な摩擦力でその位置が固定されているため、押圧柱部53によりプランジャ4が射出口31a側に進むように押され、シリンジ部3内においてプランジャ4が位置決めされる。なお、このプランジャ4の押し出し量に応じた射出液320の一部が、射出口31aから吐出される。
【0043】
このようにプランジャ4が最終位置に位置決めされると、装置組立体10の形成が完了することになる。この装置組立体10においては、注射器本体6に対してピストン5は所定の位置に位置決めされた状態であり、そのピストン5を基準としてシリンジ部3の収容部32におけるプランジャ4の位置が機械的に最終的に決定される。このプランジャ4の最終的な位置は、装置組立体10において一義的に決定される位置であるから、最終的に収容部32内に収容される射出液320の量を、予め決められた所定量とすることが可能となる。
【0044】
そして、当該装置組立体10は注射器ハウジング2に取り付けられて、ユーザにより射出口31aを対象領域に接触させた状態でボタン8が押下されることで、ピストン5、プランジャ4を介して、射出液320が加圧され、その射出が実行され、対象領域内に射出液320が注射されることになる。
【0045】
<射出液の収容部32への移送>
上述のように、注射器1を作動する前に、ユーザは、サブ組立体10Aを及びサブ組立体10Bを組み立てる必要があり、特にサブ組立体10Aの組立においては、ユーザは当初空である収容部32に射出液を外部から移送する必要がある。本実施形態では、この射出液の移送に、図3に示すアダプタ90が使われる。以降、アダプタ90を用いた射出液の移送について、詳細に説明する。
【0046】
先ず、図3図5に基づいて、アダプタ90の構成について説明する。図3は、アダプタ90の斜視図であり、図4は、アダプタ90の断面図である。また、図5は、アダプタ90の使用状態を表す図であり、アダプタ90を用いて射出液を注射器1のサブ組立体10Aに移送する場合、サブ組立体10Aに対してアダプタ90が取り付けられた状態となる。
【0047】
アダプタ90は、その本体を形成するハウジング99を有する。ハウジング99は、射出成形された所定の樹脂材料によって形成されている。当該射出成形については、公知の方法を使用することができる。例えば、アダプタ90の樹脂材料としては、シリンジ部3のボディ30と同じ樹脂材料であり、例えば、公知のナイロン6-12、ポリアリレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリフェニレンサルファイド又は液晶ポリマー等が使用できる。なお、後述するようにアダプタ90に含まれる突起部92bに好適な可撓性が付与されるように、シリンジ部3のボディ30と比較して、樹脂材料の硬度に関する所定のパラメータ(例えば、ビッカース硬さ)に基づいてより硬度の低い材料を採用できる。また、突起部92bの材料は、ハウジング99の材料と異なってもよく、例えばハウジング99の材料にポリプロピレンを採用し、突起部92bの材料にはシリコンゴムを採用できる。
【0048】
ハウジング99は、図4に示す状態において上方に位置する上側周壁部91、その上側周壁部91に対して繋がった鍔部94、その鍔部94の下方に位置するように鍔部94に対して繋がった下側周壁部95を有する。これらの上側周壁部91、鍔部94、下側周壁部95は、図3に示すようにアダプタ90の外部から視認が可能な部位である。そして、上側周壁部91は、鍔部94から上方に進むに従って上側周壁部91がアダプタ90の中心軸L1に近づくようにテーパした状態で鍔部94と繋がった略筒状形状を有している。そのため、上側周壁部91によって、ハウジング99の内部に所定の空間99aが画定される。この所定の空間99aは、射出液が収容される収容部99aとして機能する。収容部99aは、後述するようにその下方において充填ノズル92と接続しており、その接続部位を含む収容部99aの下方の一部領域R1の内径は、上側から下側(充填ノズル92側)に進むに従って小さくなるように、収容部99aは形成されている。
【0049】
更に、上側周壁部91の内部において、収容部99aの下方に位置し、収容部99aと連通している充填ノズル92が設けられている。充填ノズル92は、上側周壁部91の内壁面の一部が、その内部空間を狭めるようにアダプタ90の先端側に向かって環状に突出することで形成される突起部を有する。そのため、充填ノズル92の最上端(基端)は収容部99aと連通しており、その最上端における充填ノズル92の内径は、接続する収容部99aの最下端の内径と一致する。一方で、充填ノズル92の最下端(先端)、すなわち当該突起部の先端部には開口端92aが形成され、開口端92aの内径は、収容部99aの内径、特に、収容部99aにおいて最も内径が小さい、上記最下端での内径よりも小さく設定されている。そして、充填ノズル92においては、その内径は、その最上端から最下端である開口端92aに進むに従って小さくなるように、充填ノズル92が形成されている。このように充填ノズル92の内部空間においては、収容部99aに収容された射出液が流れ込む流路が形成されており、その射出液は、開口端92aを通ってハウジング99内を更に下方に移動することができる。
【0050】
また、充填ノズル92の外周において中腹から下方に向かって延在する、筒状の筒状部93が設けられている。筒状部93の内壁面93aは、アダプタ90の中心軸L1と概ね平行となっている。筒状部93は、第1筒状部に相当する。この内壁面93aによって画定される内部空間の内径は、シリンジ部3のボディ30における先端部(図2Aで示す状態において、最も左側に位置する部分)に位置する柱状のノズル部31の外径に対応し、好ましくは概ね一致する。そして、充填ノズル92において、筒状部93が設けられている場所から充填ノズル92の先端部までの部位を突起部92bとする。突起部92bは、筒状部93の内部空間に環状に突出した状態となっており、突起部92bの先端側の端縁によって充填ノズル92の開口端92aが画定されることになる。突起部92bの長さ(又は、中心軸L1に沿った方向の高さ)は、開口端92aが筒状部93の内部空間に十分に収まる程度であり、換言すれば、突起部92bの先端部から下方に筒状部93が十分に延在している状態が確保される程度である。
【0051】
次に、鍔部94は、上側周壁部91の最下端の端部で接続され、図4に示すように中心軸L1に直交する平面部材である。また、下側周壁部95は、鍔部94に対して直交するように設けられた筒状の部材であり、その内壁面95aはアダプタ90の中心軸L1と概ね平行となっている。当該下側周壁部95は、第2筒状部に相当する。この内壁面95aによって画定される内部空間の内径は、シリンジ部3のボディ30における中腹部(図2Aで示す状態において、ノズル部31が位置する先端部とネジ部33aが設けられている基端部との間の部分であり、ボディ30において最も太い部分)の外径に対応し、好ましくは概ね一致する。したがって、内壁面95aによる内部空間の内径は、上記の内壁面93aによる内部空間の内径よりも大きい。また、内壁面95aによる内部空間は、ハウジング99内において、上側周壁部91による内部空間と連通している。ただし、筒状部93は、内壁面95aによる内部空間には至ってはいない。
【0052】
このように構成されるアダプタ90は、射出液の移送の際には図5に示すように、アダプタ90がサブ組立体10Aの上方に位置するように、サブ組立体10Aに対して取り付けられる。この取付状態について図5に基づいて説明する。アダプタ90の取り付けに当たっては、好ましくはサブ組立体10Aの射出口31aが上方(鉛直方向)を向くように配置される。なお、射出口31aは必ずしも上方を向く必要はないが、後述するように射出液の移送時には収容部99aに射出液が収容された状態でロッド部44の操作が行われるため、射出液が零れないようにするために射出口31aが可及的に上方を向くのが好ましい。また、アダプタ90がサブ組立体10Aに取り付けられた直後においては、以降のロッド部44の操作を考慮して、プランジャ4の頭部41が、収容部32の最奥に位置する端面に接触した状態とされる。
【0053】
このようなサブ組立体10Aに対して、アダプタ90の下側周壁部95の内部空間に対してボディ30の先端部が挿入され、下側周壁部95の内壁面95aが、ボディ30の中腹部と嵌め合った状態となり、且つ、筒状部93の内壁面93aが、ボディ30の柱状の先端部と嵌め合った状態となる。そして、これらの嵌め合い状態を維持しながら、突起部92bの先端部がノズル部31の先端面31cに突き当たるまで、アダプタ90に対するサブ組立体10Aの挿入が行われる。なお、図5に示す取付状態は、突起部92bの先端部がノズル部31の先端面31cに突き当たった状態を示す。
【0054】
この取付状態において、ノズル部31の射出口31aと、充填ノズル92の開口端92aとは重なった状態となる。そのため、収容部99aに収容された射出液が、開口端92a及び射出口31aを介してサブ組立体10Aのノズル部31側に流出可能な状態が形成されていることになる。なお、この状態においては開口端92aは射出口31aより大きいため、環状の突起部92bは、射出口31aを塞ぐことなくそれを囲むように環状に先端面31cに接触している。更に、上記の通り突起部92bを含むハウジング99は、好適な可撓性を発揮し得る樹脂材料によって形成されていることから、アダプタ90を取り付けた際のユーザの操作により突起部92bが先端面31cに対して突き当てられたときに突起部92bが好適に撓み、突起部92bと先端面31cとの間に良好な接触状態が形成される。これにより、突起部92bと先端面31cとの間に良好なシール性が生まれ、収容部99aに射出液を注入した際に、射出液が無駄に漏れ出すのを抑制できる。
【0055】
このように図5に示す取付状態では、突起部92bが先端面31cに環状に接触した状態であり、且つ、筒状部93と下側周壁部95とによって、サブ組立体10Aに対してアダプタ90が安定的に支持された状態となっている。そのため、安全な射出液の移送を実現することができる。
【0056】
実際の射出液の移送は、図6に示す流れに従って行われる。先ず、上記のアダプタ90を準備する(S101の処理)。このとき、上述したように、サブ組立体10Aにおいて、プランジャ4の頭部41が、収容部32の最奥に位置する端面に接触した状態とされている。次いで上述したようにアダプタ90を、注射器1を構成するサブ組立体10Aに取り付けて図5に示す取付状態を形成する(S102の処理)。そして、収容部99aが上方に位置する状態(図5に示す状態)で、収容部99aの開放端から移送すべき射出液を収容部99a内に注入する。
【0057】
射出液の収容部99aの注入が終了すると、射出液が零れないように収容部99aが上方に位置する状態を維持しながら、ユーザによりロッド部44が下方に引き下ろされる。このロッド部44の動きによって、収容部99a内の射出液が射出口31aを介して射出ノズル31bに流れ込み、収容部32へと至ることで移送が行われる。ここで、アダプタ90において、収容部99aの一部領域R1と充填ノズル92の内部の全空間に着目する。これらの空間(領域)は、アダプタ90の内部において一部領域R1から開口端92aに至るまでの連続した空間となっており、当該空間は所定空間に相当する。そして、この連続した空間は、その内径が、アダプタ90の上側から開口端92aに進むに従い縮径するように構成されている。
【0058】
このような構成では、アダプタ90の内部空間において、その内壁面が中心軸L1に対して連続的に傾斜し内部空間が次第に狭くなっていく。ロッド部44が下方に引き下ろされることで生じる吸引力が射出液に作用したときに、このような連続した傾斜面が存在することで、射出液が充填ノズル92内において分散しにくく射出口31aに対して集約されやすくなる。特に、移送すべき射出液の量が少ない場合には、充填ノズル92の内壁面から受ける抵抗力の影響が大きくなり、上記吸引力を射出液に効果的に作用させるのが難しくなるが、このように連続した傾斜面による射出液の集約構造(たとえて言えば、漏斗状の構造)が形成されることで、効率的な射出液の移送とともに、その移送の際に周囲に存在する空気と射出液とが混ざる程度を抑えながら移送を行うことが可能となる。なお、より好ましくは上記の通り、充填ノズル92内の全空間に上記の連続した傾斜面が形成されるが、射出液と空気との混在を生じにくくさせる限りにおいて、充填ノズル92の内部空間の一部に上記の連続した傾斜面以外の内壁面(例えば、中心軸L1に平行な内壁面)で画定される空間が含まれてもよい。
【0059】
また、上述したように、開口端92aは射出口31aより大きいことから、ロッド部44が下方に引き下ろされたときに、充填ノズル92内において射出液は比較的円滑に流れやすくなっている。更に、環状の突起部92bは高いシール性で先端面31cに接触していることから、ロッド部44の移動に伴う吸引力を効果的に発生させることができ、この点からも射出液の移送が好適に行われ得る。
【0060】
ロッド部44の操作により射出液の移送が完了すると、アダプタ90がサブ組立体10Aから取り外され、図2Aに示すように射出液が収容部32に充填された状態となる。その後、そのサブ組立体10Aがサブ組立体10Bと組み合わされて注射器ハウジング2に装着されることで、使用可能な状態の注射器1が準備できる。
【0061】
<変形例1>
上記実施形態において、アダプタ90の取付状態では、筒状部93の内壁面93aが、柱状のノズル部31の外周面と嵌め合った状態となることで、サブ組立体10Aに対するアダプタの取付状態を安定したものとしている。本変形例では、更に、ノズル部31の外周面をその軸方向に沿って傾斜するテーパ面(例えば、図2Aに示す状態において図の右側(シリンジ部3の基端側)に進むに従いノズル部31の外径が大きくなるように形成されたテーパ面)としてもよい。このようにテーパ面を形成することで、アダプタ90に対してサブ組立体10Aを挿入しやすくなるとともに、内壁面93aとテーパ面とが互いに押圧しながら嵌め合わされるため取付状態での結合力を増大でき、より安定的な取付状態を形成することができる。
【0062】
<変形例2>
本変形例のアダプタ90について、図7に基づいて説明する。図7に示すアダプタ90では、アダプタ90とサブ組立体10Aとの取付状態を保持する保持装置96が設けられている。保持装置96は、アダプタ90側に設けられている第1部材96aと、サブ組立体10A側に設けられている第2部材96bとからなり、両部材が機械的に連結等することで、アダプタ90とサブ組立体10Aとの取付状態を保持するものである。保持装置96としては、例えば、係合、解除が可能なスナップフィット機構が挙げられる。このような保持装置96を採用することで、取付状態での結合力を増大でき、より安定的な取付状態を維持することができる。
【符号の説明】
【0063】
1 :注射器(無針注射器)
2 :注射器ハウジング
3 :シリンジ部
4 :プランジャ
5 :ピストン
10 :装置組立体
10A :サブ組立体
10B :サブ組立体
30 :ボディ
31 :ノズル部
31a :射出口
31b :射出ノズル
31c :先端面
32 :収容部
44 :ロッド部
90 :アダプタ
91 :上側周壁部
92 :充填ノズル
92a :開口端
92b :突起部
93 :筒状部
93a :内壁面
94 :鍔部
95 :下側周壁部
95a :内壁面
96 :保持装置
96a :第1部材
96b :第2部材
99 :ハウジング
99a :収容部
R1 :一部領域
図1
図2A
図2B
図3
図4
図5
図6
図7