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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-29
(45)【発行日】2022-10-07
(54)【発明の名称】薬液吐出装置
(51)【国際特許分類】
   B01J 4/00 20060101AFI20220930BHJP
   B05C 5/00 20060101ALI20220930BHJP
   B05C 11/10 20060101ALI20220930BHJP
   G01N 35/10 20060101ALI20220930BHJP
   G01N 1/00 20060101ALI20220930BHJP
【FI】
B01J4/00 103
B05C5/00 101
B05C11/10
G01N35/10 B
G01N1/00 101K
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2018151330
(22)【出願日】2018-08-10
(65)【公開番号】P2020025916
(43)【公開日】2020-02-20
【審査請求日】2021-06-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000003562
【氏名又は名称】東芝テック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100108855
【弁理士】
【氏名又は名称】蔵田 昌俊
(74)【代理人】
【識別番号】100103034
【弁理士】
【氏名又は名称】野河 信久
(74)【代理人】
【識別番号】100075672
【弁理士】
【氏名又は名称】峰 隆司
(74)【代理人】
【識別番号】100153051
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 直樹
(74)【代理人】
【識別番号】100179062
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 正
(74)【代理人】
【識別番号】100189913
【氏名又は名称】鵜飼 健
(72)【発明者】
【氏名】横山 周平
(72)【発明者】
【氏名】楠 竜太郎
(72)【発明者】
【氏名】ウォン メンフェイ
【審査官】長谷部 智寿
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-099653(JP,A)
【文献】国際公開第2014/054655(WO,A1)
【文献】特開2018-069206(JP,A)
【文献】特開2018-048928(JP,A)
【文献】国際公開第2015/025524(WO,A1)
【文献】国際公開第2015/137497(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 4/00
B05C 5/00
B05C 11/10
G01N 35/10
G01N 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
薬液を吐出する薬液吐出装置であって、
薬液を吐出するノズルに連通し、内部に薬液が充填される複数の第1の圧力室と前記複数の第1の圧力室にそれぞれ隣接する複数の第2の圧力室が形成され、前記複数の第1の圧力室と第2の圧力室へ薬液を供給する薬液供給口を有する基板と、
前記薬液供給口を介して、前記複数の第1の圧力室と第2の圧力室に連通し、薬液を保持する保持容器と、
前記複数の第1の圧力室内の薬液の圧力を変化させ、連通するそれぞれの前記ノズルから薬液を吐出させる複数の第1のアクチュエータと、
前記複数の第2の圧力室内の薬液の圧力を変化させ、連通するそれぞれの前記ノズルから薬液を吐出させる複数の第2のアクチュエータと、
前記複数の第1のアクチュエータに第1の駆動信号を供給する第1の導電線と、
前記複数の第2のアクチュエータに第2の駆動信号を供給する第2の導電線と、
を備え
前記第1の導電線は、前記第1の駆動信号として、前記複数の第1の圧力室の容積を拡大する減圧パルスと前記第1の圧力室の容積を低減する加圧パルスとから構成される前記第1の圧力室に連通する前記ノズルから薬液を吐出する第1の駆動パルスを供給し、
前記第2の導電線は、前記第2の駆動信号として、前記複数の第2の圧力室の容積を拡大する減圧パルスと前記第2の圧力室の容積を低減する加圧パルスとから構成される前記複数の第2の圧力室に連通する前記ノズルから薬液を吐出する第2の駆動パルスを供給し、
前記第1の導電線から前記第1の駆動パルスの前記加圧パルスが供給されている期間に、前記第2の導電線から前記第2の駆動信号の減圧パルスが供給される、
薬液吐出装置。
【請求項2】
前記複数の第2の圧力室は、第1の方向及び前記第1の方向に直交する第2の方向において、前記複数の第1の圧力室にそれぞれ隣接する、
前記請求項1に記載の薬液吐出装置。
【請求項3】
前記第1の駆動信号を出力する第1の駆動回路と、
前記第2の駆動信号を出力する第2の駆動回路と、
を備える、
前記請求項1乃至の何れか1項に記載の薬液吐出装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、薬液吐出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
生物学、薬学などの分野の研究開発や医療診断や検査、農業試験において、ピコリットル(pL)からマイクロリットル(μL)の液体を分注する操作を行うことがある。
【0003】
これらは一般に用量応答実験と呼ばれ、化合物の有効濃度を決定するため、多くの異なった濃度の化合物をマイクロプレートのウエルなどの容器内に作成する。このような用途で使用される薬液滴下装置がある。この薬液滴下装置は、着脱可能な薬液吐出装置を有している。用量応答実験においては、多種類の薬液を使用する。また医療、バイオ用途においては、コンタミネーションを防止するため、薬液吐出装置は使い捨てとなる。
【0004】
薬液吐出装置には、1つの薬液保持容器に連通する複数の圧力室から薬液を同時に吐出するものがある。そのような薬液吐出装置は、アクチュエータを駆動し圧力室内の圧力を制御することで、圧力室内の薬液をノズルから吐出する。
【0005】
薬液吐出装置で、揮発性の高い薬液を滴下する場合、滴下作業中に、薬液保持容器中の薬液が揮発して薬液の溶質濃度が変化すると、各ウエルに滴下された薬液の濃度が正確に把握できなくなる。そのため、ウエル数の多い1536ウエル以上のマイクロプレートへ薬液を滴下する時間を低減する方法として、マイクロプレートのウエル開口内に配置するノズル数を増やすことは有効である。
【0006】
しかし、薬液吐出装置のウエル開口内に配置された複数のノズルから同時に薬液を吐出すると、圧力室の内の薬液に対する圧力振動が、薬液保持容器中の薬液を介して連通する、他の周辺の圧力室内の薬液の圧力を変動させるクロストークが発生する。そのため、外周部に位置するノズルと比べて、隣接するノズル数が多い内側に位置するノズルは、クロストークの影響を受けやすく、薬液の吐出速度が遅くなる。更に、ウエル開口内にノズルを多数配置し、ノズル間の距離が低減する程、クロストークの影響が大きくなり、薬液が吐出できない問題も発生する。そのため、ウエル開口内にノズルを多数すると、正確な量の薬液を滴下することができない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2017-015466号公報
【文献】特開2017-013042号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本実施形態の課題は、簡易な電極配線で、クロストークの影響を低減することが可能な薬液吐出装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
実施形態によれば、薬液を吐出する薬液吐出装置は、基板と、保持容器と、複数の第1のアクチュエータと、複数の第2のアクチュエータと、第1の導電線と、第2の導電線と、を備える。基板は、薬液を吐出するノズルに連通し、内部に薬液が充填される複数の第1の圧力室と前記複数の第1の圧力室にそれぞれ隣接する複数の第2の圧力室が形成され、前記複数の第1の圧力室と第2の圧力室へ薬液を供給する薬液供給口を有する。保持容器は、前記薬液供給口を介して、前記複数の第1の圧力室と第2の圧力室に連通し、薬液を保持する。複数の第1のアクチュエータは、前記複数の第1の圧力室内の薬液の圧力を変化させ、連通するそれぞれの前記ノズルから薬液を吐出させる。複数の第2のアクチュエータは、前記複数の第2の圧力室内の薬液の圧力を変化させ、連通するそれぞれの前記ノズルから薬液を吐出させる。第1の導電線は、前記複数の第1のアクチュエータに第1の駆動信号を供給する。第2の導電線は、前記複数の第2のアクチュエータに第2の駆動信号を供給する。第1の導電線は、前記第1の駆動信号として、前記複数の第1の圧力室の容積を拡大する減圧パルスと前記第1の圧力室の容積を低減する加圧パルスとから構成される前記第1の圧力室に連通する前記ノズルから薬液を吐出する第1の駆動パルスを供給する。第2の導電線は、前記第2の駆動信号として、前記複数の第2の圧力室の容積を拡大する減圧パルスと前記第2の圧力室の容積を低減する加圧パルスとから構成される前記複数の第2の圧力室に連通する前記ノズルから薬液を吐出する第2の駆動パルスを供給する。第1の導電線から前記第1の駆動パルスの前記加圧パルスが供給されている期間に、前記第2の導電線から前記第2の駆動信号の減圧パルスが供給される。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、第1の実施形態に係る吐出システムの概略構成を示す斜視図である。
図2図2は、第1の実施形態に係る薬液吐出装置を示す上面(薬液保持容器側)の平面図である。
図3図3は、第1の実施形態に係る薬液吐出装置を示す下面(薬液吐出側)の平面図である。
図4図4は、第1の実施形態に係る図2のF4-F4線断面図である。
図5図5は、第1の実施形態に係る図4のF5-F5線の薬液吐出アレイの平面図(薬液吐出側)である。
図6図6は、第1の実施形態に係る図5のF6-F6線断面図である。
図7図7は、第1の実施形態に係る図5のF7-F7線断面図である。
図8図8は、第1の実施形態に係る駆動信号の例を示す。
図9図9は、第2の実施形態に係る駆動信号の例を示す。
図10図10は、第3の実施形態に係る吐出システムの概略構成を示す斜視図である。
図11図11は、第3の実施形態に係る薬液吐出装置を示す下面(薬液吐出側)の平面図である。
図12図12は、第3の実施形態に係る図11のF12-F12線断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照しながら実施形態について説明する。なお、各図は実施形態とその理解を促すための模式図であり、その形状や寸法、比などは実際のものと異なる個所があるが、これらは適宜、設計変更することができる。
【0012】
(第1の実施形態)
まず、第1の実施形態について説明する。
実施形態に係る吐出システムは、ピエゾジェット方式で所定の薬液を吐出する。
【0013】
実施形態の吐出システムの物理的な構成例について図1乃至図7を参照して説明する。図1は、吐出システム500の概略構成を示す斜視図である。図2は、薬液吐出装置2の上面図である。図3は、薬液吐出装置2の液滴を吐出する面である下面図を示す。図4は、図2のF4-F4線の薬液吐出アレイ27の液滴を吐出する側の平面図を示す。図5は、図4のF5-F5線断面図である。図6は、図5のF6-F6線断面図である。図7は、図5のF7-F7線断面図である。
【0014】
図1に示すように、吐出システム500は、薬液滴下装置1及び薬液吐出装置2などから構成される。なお、吐出システム500は、図1に示すような構成の他に必要に応じた構成を具備したり、特定の構成を除外したりしてもよい。
【0015】
薬液滴下装置1は、薬液吐出装置2を制御して薬液吐出装置2に充填された薬液を滴下する。
薬液滴下装置1は、矩形平板状の基台3と、薬液吐出装置2を装着する装着モジュール5と、を有する。実施形態では、薬液滴下装置1が1536穴のマイクロプレート4へ薬液を滴下するものとする。ここでは、基台3の前後方向をX方向(第1の方向)、基台3の左右方向をY方向(第2の方向)と称する。X方向とY方向とは直交する。
【0016】
マイクロプレート4は、基台3に固定される。マイクロプレート4は、複数個のウエル開口300を備える。マイクロプレート4の各ウエル開口300は、所定の薬液を保持する。たとえば、薬液は、細胞、血球、細菌、血漿、抗体、DNA、核酸又はタンパク質を含有した溶液などである。なお、ウエル開口300に保持される薬液の構成は、特定の構成に限定されるものではない。
【0017】
薬液滴下装置1は、基台3の上に、マイクロプレート4の両側に、X方向に延設された左右一対のX方向ガイドレール6a及び6bを有する。各X方向ガイドレール6a及び6bの両端部は、基台3上に突設された固定台7a及び7bに固定される。
【0018】
X方向ガイドレール6a及び6b間には、Y方向に延設されたY方向ガイドレール8が架設される。Y方向ガイドレール8の両端は、X方向ガイドレール6a及び6bに沿ってX方向に摺動可能なX方向移動台9にそれぞれ固定される。
【0019】
Y方向ガイドレール8には、装着モジュール5がY方向ガイドレール8に沿ってY方向に移動可能なY方向移動台10が設けられる。Y方向移動台10には、装着モジュール5が装着される。装着モジュール5には、薬液吐出装置2が固定される。
【0020】
Y方向移動台10がY方向ガイドレール8に沿ってY方向に移動する動作と、X方向移動台9がX方向ガイドレール6a及び6bに沿ってX方向に移動する動作との組み合わせにより、薬液吐出装置2は、直交するXY方向の任意の位置に移動可能に支持される。
【0021】
装着モジュール5には、薬液吐出装置2を固定するスリット32が形成される。スリット32の前面開口部側から薬液吐出装置2がスリット32の内部に挿入されると、薬液吐出装置2は、薬液滴下装置1に固定される。
【0022】
装着モジュール5は、第1の駆動回路11a及び第2の駆動回路11bなどを備える。
第1の駆動回路11a及び第2の駆動回路11bは、薬液吐出装置2を駆動させる。たとえば、第1の駆動回路11a及び第2の駆動回路11bは、薬液吐出装置2から薬液を吐出させるために駆動信号を薬液吐出装置2へ供給する。
【0023】
第1の駆動回路11a及び第2の駆動回路11bは、薬液滴下装置1を制御する制御部などからの信号に基づいて薬液吐出装置2に駆動信号を供給するものであってもよい。たとえば、第1の駆動回路11a及び第2の駆動回路11bは、制御部からの信号に基づいて、薬液吐出装置2に駆動信号を出力する。
第1の駆動回路11a及び第2の駆動回路11bが出力する駆動信号については後に詳述する。
【0024】
薬液吐出装置2は、薬液滴下装置1の制御に基づいて薬液を吐出する。
薬液吐出装置2は、矩形板状の板体である平板状のベース部材21を有する。図2に示すようにベース部材21の表面側には、複数の薬液保持容器22がY方向に一列に並設される。実施形態では8個の薬液保持容器22で説明しているが、個数は8個に限らない。薬液保持容器22は、図4に示すように上面が開口された有底円筒形状の容器である。ベース部材21の表面側には、各薬液保持容器22と対応する位置に円筒形状の薬液保持容器用凹陥部21aが形成される。
【0025】
薬液保持容器22の底部は、薬液保持容器用凹陥部21aに接着固定される。さらに、薬液保持容器22の底部には、中心位置に薬液出口となる下面開口部22aが形成される。薬液保持容器22の上面開口部22bの開口面積は、薬液出口の下面開口部22aの開口面積よりも大きくなっている。
【0026】
また、図2に示すように、ベース部材21の両端には、装着モジュール5へ装着固定させるための装着固定用切欠き28がそれぞれ形成される。装着固定用切欠き28は、装着モジュール5に係合する。ベース部材21の2つの切欠き28は、半長円形の切欠き形状に形成される。なお、装着固定用切欠き28は、半円形、半楕円形又は三角形の切欠き形状等であってもよい。実施形態では2つの切欠き28の形状は、互いに異なる。これにより、ベース部材21の左右の形状が異なり、ベース部材21の姿勢の確認が行いやすくなっている。
【0027】
図3に示すようにベース部材21の裏面側には、薬液保持容器22と同数の電装基板23がY方向に一列に並設される。電装基板23は、矩形状の平板部材である。ベース部材21の裏面側には、図4に示すように電装基板23の装着用の矩形状の電装基板用凹陥部21bと、電装基板用凹陥部21bと連通する薬液吐出アレイ部開口21dとが形成される。電装基板用凹陥部21bの基端部は、ベース部材21の図3中で上端部近傍位置(図4中で右端部近傍位置)まで延設される。電装基板用凹陥部21bの先端部は、図4に示すように薬液保持容器22の一部と重なる位置まで延設される。電装基板23は、電装基板用凹陥部21bに接着固定される。
【0028】
電装基板23には、電装基板用凹陥部21bとの接着固定面とは反対側の面に電装基板配線24がパターニング形成される。電装基板配線24は、配線パターン24a、24b及び24cなどから構成される。配線パターン24a、24b及び24cの一端には、配線ワイヤ12を通じて駆動素子130(第1の駆動素子130a及び第2の駆動素子130b)に接続する電極接続端子26が形成される。配線パターン24a、24b及び24cは、電極接続端子26を介して、図5に示される第1の上部電極133(第1の導電線)、下部電極131及び第2の上部電極134(第2の導電線)にそれぞれ接続される。
【0029】
電装基板配線24の一端部には、第1の駆動回路11a及び第2の駆動回路11bからの駆動信号を入力するための制御信号入力端子25が形成される。たとえば、制御信号入力端子25は、板バネコネクタなどと接続できる形状である。
【0030】
配線パターン24aと配線パターン24bとには、第1の駆動回路11aからの駆動信号が入力される。即ち、第1の駆動回路11aからの駆動信号は、第1の上部電極133及び下部電極131の間の電位差として入力される。配線パターン24bと配線パターン24cとには、第2の駆動回路11bからの駆動信号が入力される。即ち、第2の駆動回路11bからの駆動信号は、第2の上部電極134及び下部電極131の間の電位差として入力される。ここでは、下部電極131は、一定の電圧に維持されるものとする。
【0031】
第1の上部電極133は、電極部133a、配線部133b及び端子部133cから構成される。端子部133cは、配線部133bの一端と電気的に接続する。配線部133bの他端は、電極部133aに電気的に接続する。
【0032】
第1の上部電極133は、Pt薄膜で形成される。第1の上部電極133の他の電極材料として、Ni(ニッケル)、Cu(銅)、Al(アルミニウム)、Ti(チタン)、W(タングステン)、Mo(モリブデン)、Au(金)、SrRuO3(ストロンチウムルテニウム酸化物)などを利用することも可能である。他の成膜法として、蒸着、鍍金を用いることも可能である。第1の上部電極133は、各種金属を積層して使用することもできる。
【0033】
第2の上部電極134は、電極部134a、配線部134b及び端子部134cから構成される。端子部134cは、配線部134bの一端と電気的に接続する。配線部134bの他端は、電極部134aに電気的に接続する。
第2の上部電極134は、Pt薄膜で形成される。第2の上部電極134の他の電極材料として、Ni、Cu、Al、Ti、W、Mo、Au、SrRuO3などを利用することも可能である。他の成膜法として、蒸着、鍍金を用いることも可能である。第2の上部電極134は、各種金属を積層して使用することもできる。
【0034】
下部電極131は、電極部131a、配線部131b及び端子部131cから構成される。端子部131cは、配線部131bの一端と電気的に接続する。配線部131bの他端は、電極部131aに電気的に接続する。
下部電極131は、例えばスパッタリング法によりTi(チタン)とPt(白金)を積層して厚さ0.5μmに形成する。下部電極131の膜厚は、概ね0.01~1μmの範囲となる。下部電極131は、Ni、Cu、Al、Ti、W、Mo、Au、SrRuO3等の他の材料を使用できる。下部電極131は、各種金属を積層して使用することもできる。
【0035】
また、ベース部材21には、薬液吐出アレイ部開口21dが設けられる。図3に示すように、薬液吐出アレイ部開口21dは、矩形状の開口部で、ベース部材21の裏面側に薬液保持容器用凹陥部21aと重なる位置に形成される。
【0036】
薬液保持容器22の下面には、薬液保持容器22の下面開口部22aを覆う状態で薬液吐出アレイ27が接着固定される。薬液吐出アレイ27は、ベース部材21の薬液吐出アレイ部開口21dと対応する位置に配置される。
【0037】
図5が示すように、薬液吐出アレイ27には、格子状に複数の第1の圧力室210a及び複数の第2の圧力室210bが形成される。ここでは、第1の圧力室210aと第2の圧力室210bとは、4×4列に配置される。
【0038】
複数の第1の圧力室210aは、所定の間隔で形成される。また、複数の第1の圧力室210aは、互いに斜向かいの位置に形成される。
【0039】
第2の圧力室210bは、第1の圧力室210aに隣接する。図5に示すように、第2の圧力室210bは、X軸方向及びY軸方向において第1の圧力室210aに隣接する。即ち、第1の圧力室210aと第2の圧力室210bとは、X軸方向及びY軸方向において交互に形成される。
【0040】
図6に示すように薬液吐出アレイ27は、ノズルプレート100と、圧力室構造体200とが積層されて形成される。ノズルプレート100は、薬液を吐出するノズル110(第1のノズル110a及び第2のノズル110b)と、振動板120と、駆動部である駆動素子130(第1の駆動素子130a及び第2の駆動素子130b)と、下部電極131と第1の上部電極133の配線部133b及び第2の上部電極134の配線部134bを絶縁する絶縁膜140と、保護層である保護膜150と、撥液膜160とを備える。振動板120と駆動素子130とによってアクチュエータ170が構成される。実施形態の複数のノズル110は、薬液保持容器22の薬液出口の下面開口部22aの内側に位置する。
【0041】
振動板120は、面状の駆動素子130の動作により厚み方向に変形する。薬液吐出装置2は、振動板120の変形により圧力室構造体200の圧力室210の容積の変化によって発生する圧力室210内の薬液の圧力変化により、ノズル110に供給された薬液を吐出する。
【0042】
第1の圧力室210aの容積は、第1の駆動素子130aが駆動することによって変化する。また、薬液吐出アレイ27には、第1の圧力室210aに連通する第1のノズル110aが形成される。第1の圧力室210a内の薬液は、第1のノズル110aを通じて吐出される。第1の駆動素子130aは、電極部133a及び電極部131aに電気的に接続する。
【0043】
第2の圧力室210bの容積は、第2の駆動素子130bが駆動することによって変化する。また、薬液吐出アレイ27には、第2の圧力室210bに連通する第2のノズル110bが形成される。第2の圧力室210b内の薬液は、第2のノズル110bを通じて吐出される。第2の駆動素子130bは、電極部134a及び電極部131aに電気的に接続する。
【0044】
即ち、第1の駆動素子130aは、第1の上部電極133及び下部電極131により、第1の駆動回路11aと電気的に接続する。また、第2の駆動素子130bは、第1の上部電極133及び下部電極131により、第2の駆動回路11bと電気的に接続する。
【0045】
複数のノズル110は、1つの1536Wellマイクロプレートのウエル開口300に対して、4×4列に配列されている。たとえば、1536Wellマイクロプレートのウエル開口300の開口サイズは、1辺が約1.7mmの正方形である。4×4列に配列された複数のノズル110の中の隣接するノズル110の中心間距離は0.25mmである。ウエル開口300内に配置された4×4列のノズル110の中心のサイズは、X方向が0.75mm、Y方向が0.75mmであり、1536Wellマイクロプレートのウエル開口300のサイズより小さい。
【0046】
振動板120は、例えば圧力室構造体200と一体に形成される。圧力室構造体200を製造するためのシリコンウエハ201を酸素雰囲気で加熱処理すると、シリコンウエハ201の表面にSiO(酸化シリコン)膜が形成される。振動板120は、酸素雰囲気で加熱処理して形成されるシリコンウエハ201の表面のSiO(酸化シリコン)膜を用いる。振動板120は、シリコンウエハ201の表面にCVD法(化学的気相成膜法)でSiO(酸化シリコン)膜を成膜して形成しても良い。
【0047】
振動板120の膜厚は、1~30μmの範囲が好ましい。振動板120は、SiO(酸化シリコン)膜に代えて、SiN(窒化シリコン)等の半導体材料、或いは、Al(酸化アルミニウム)等を用いることもできる。
【0048】
駆動素子130は、各ノズル110に形成される。駆動素子130は、ノズル110を囲む円環状の形状である。駆動素子130の形状は限定されず、例えば円環の一部を切り欠いたC字状でも良い。
【0049】
図7に示すように、駆動素子130は、圧電体である圧電体膜132を挟んで電極部131aと電極部133a又は電極部134aとを備える。
【0050】
図5において、第1の駆動素子130aは、圧電体膜132が電極部131aと電極部133aの間に形成される。また、第2の駆動素子130bは、圧電体膜132が電極部131aと電極部134aの間に形成される。
【0051】
電極部131aと、圧電体膜132と、電極部133a又は電極部134aとは、ノズル110と同軸であり、同じ大きさの円形パターンである。
【0052】
圧電体膜132は、例えば厚さ2μmの圧電材料である。圧電体膜132は、PZT(Pb(Zr,Ti)O3:チタン酸ジルコン酸鉛)からなる。圧電体膜132は、例えばノズル110と同軸であって、電極部131aと同一形状の外径が133μm、内径が42μmの円環状の形状である。圧電体膜132の膜厚は、概ね1~5μmの範囲となる。圧電体膜132は、例えばPTO(PbTiO3:チタン酸鉛)、PMNT(Pb(Mg1/3Nb2/3)O3-PbTiO3)、PZNT(Pb(Zn1/3Nb2/3)O3-PbTiO3)、ZnO、AlN等の圧電材料を用いることもできる。
【0053】
圧電体膜132は、厚み方向に分極を発生する。分極と同じ方向の電界を圧電体膜132に印加すると、圧電体膜132は、電界方向と直交する方向に伸縮する。言い換えると、圧電体膜132は、膜厚に対して直交する方向に収縮し又は伸長する。
【0054】
ノズルプレート100は、下部電極131と第1の上部電極133又は第2の上部電極134とを絶縁する絶縁膜140を備える。絶縁膜140は、第1の駆動素子130aの形成領域においては、電極部131a、圧電体膜132及び電極部133aの周縁を覆う。また、絶縁膜140は、第2の駆動素子130bの形成領域においては、電極部131a、圧電体膜132及び電極部134aの周縁を覆う。
【0055】
また、絶縁膜140は、下部電極131の配線部131bを覆う。絶縁膜140は、第1の上部電極133の配線部133bと第2の上部電極134の配線部134bとの一部の領域で振動板120を覆う。また、絶縁膜140は、第1の上部電極133の電極部133aと配線部133bと、又は、第2の上部電極134の電極部134aと配線部134bとを電気的に接続する開口部であるコンタクト部140aを備える。
【0056】
保護膜150は、振動板120のノズル110に連通する円筒状の薬液通過部141を備える。
【0057】
ノズルプレート100は、保護膜150を覆う撥液膜160を備える。撥液膜160は、薬液をはじく特性のある例えばシリコン系樹脂をスピンコーティングして形成される。撥液膜160は、フッ素含有樹脂等の薬液をはじく特性を有する材料で形成することもできる。
【0058】
圧力室構造体200は、振動板120と反対側の面に、反り低減層である反り低減膜220を備える。圧力室構造体200は、反り低減膜220を貫通して振動板120の位置に達し、ノズル110と連通する圧力室210を備える。圧力室210は、例えばノズル110と同軸上に位置する円形に形成される。
【0059】
圧力室210は、薬液保持容器22の下面開口部22aに連通する開口部(薬液供給口)を備える。圧力室210の開口部の幅方向のサイズDより、深さ方向のサイズLを大きくすることが好ましい。深さ方向のサイズL>幅方向のサイズDとすることにより、ノズルプレート100の振動板120の振動により、圧力室210内の薬液にかかる圧力が、薬液保持容器22へ逃げるのを遅らせる。
【0060】
圧力室210の振動板120が配置される側を第1の面200aとし、反り低減膜220が配置される側を第2の面200bとする。圧力室構造体200の反り低減膜220側には例えばエポキシ系接着剤により薬液保持容器22が接着される。圧力室構造体200の圧力室210は、反り低減膜220側の開口部で、薬液保持容器22の下面開口部22aに連通する。
【0061】
次に、吐出システム500が薬液を吐出する動作例について説明する。
吐出システム500の薬液吐出装置2は、薬液滴下装置1の装着モジュール5に固定して使用される。たとえば、オペレータは、薬液吐出装置2を装着モジュール5に取り付けるため、モジュール本体15のスリット32の前面開口部側から薬液吐出装置2がモジュール本体15のスリット32に挿入する。
【0062】
オペレータは、薬液吐出装置2をスリット32に挿入すると、薬液保持容器22の上面開口部22bから図示しないピペッターなどにより、薬液を所定量、薬液保持容器22に供給する。薬液は、薬液保持容器22の内面で保持される。薬液保持容器22の底部の下面開口部22aは、薬液吐出アレイ27と連通している。そのため、薬液保持容器22に保持された薬液は、薬液保持容器22の底面の下面開口部22aを介して薬液吐出アレイ27の各圧力室210へ充填される。
【0063】
薬液吐出装置2に保持される薬液は、例えば低分子化合物、蛍光試薬、タンパク質、抗体、核酸、血漿、細菌、血球、細胞のいずれかを含有している。薬液の主溶媒(もっとも重量比、又は体積比が高い物質)は、一般的に、水、グリセリン、ジメチルスルホキシドである。なお、薬液吐出装置2に保持される薬液の構成は、特定の構成に限定されるものではない。
【0064】
オペレータは、薬液を薬液保持容器22に供給すると、薬液の吐出を開始する操作を薬液滴下装置1に入力する。なお、オペレータは、薬液滴下装置1を制御するためのホストコンピュータなどに薬液の吐出を開始する操作を薬液滴下装置1に入力してもよい。
【0065】
薬液滴下装置1は、当該操作の入力を受け付けると、薬液吐出装置2に薬液を吐出させるための駆動信号を供給する。即ち、第1の駆動回路11a及び第2の駆動回路11bは、駆動信号を薬液吐出装置2の第1の駆動素子130a及び第2の駆動素子130bにそれぞれ供給する。
【0066】
駆動信号は、電装基板配線24の電極接続端子26から下部電極131、第1の上部電極133及び第2の上部電極134へそれぞれ供給される。駆動素子130への駆動信号の印加に対応して、アクチュエータ170の振動板120は、変形し圧力室210の容積を変化させる。圧力室210内の薬液の圧力の変化によって、薬液吐出アレイ27のノズル110から薬液が薬液滴として吐出される。その結果、薬液吐出装置2は、ノズル110から、マイクロプレート4の各ウエル開口300に所定量の液体を滴下する。
【0067】
たとえば、薬液吐出装置2のノズル110から吐出される1滴の液量は、2から5pLである。そのため、薬液滴下装置1は、滴下回数を制御することにより、マイクロプレート4の各ウエル開口300にpLからμLのオーダーの液体を滴下制御することが可能となる。
【0068】
図8は、第1の駆動回路11a及び第2の駆動回路11bが出力する駆動信号を示す。図8が示す例では、第1の駆動信号は、第1の駆動回路11aが第1の駆動素子130aに供給する駆動信号である。第2の駆動信号は、第2の駆動回路11bが第2の駆動素子130bに供給する駆動信号である。
【0069】
ここでは、第1の駆動信号は、第1の駆動回路11aが第1の上部電極133に印加する電圧を示す。また、第2の駆動信号は、第2の駆動回路11bが第2の上部電極134に印加する電圧を示す。また、第1の駆動回路11a及び第2の駆動回路11bは、下部電極131にV2を印加するものとする。
【0070】
まず、第1の駆動信号について説明する。
第1の駆動回路11aは、V1、V2又はV3の電圧を第1の上部電極133に印加する。ここでは、V1<V3<V2である。また、V1は、0Vである。
【0071】
初期状態(t1までの期間、又は、t3からt7までの期間など)において、第1の駆動回路11aは、V1を第1の上部電極133に印加する。この場合、下部電極131と第1の上部電極133との間にV2が印加され、第1の駆動素子130aの厚み方向に電界が生じる。その結果、第1の駆動素子130aは、厚みの方向に直交する方向に収縮する。第1の駆動素子130aの収縮により、振動板120と保護膜150とに収縮する方向に応力が生じる。
【0072】
ここでは、振動板120のヤング率が保護膜150のヤング率より大きい。そのため、保護膜150は、厚み方向に直交する方向において、振動板120よりも収縮する。その結果、アクチュエータ170は、第1の圧力室210a内に張り出す方向に湾曲する。従って、第1の圧力室210aの容積は、第1の駆動素子130aの厚み方向に電界が生じていないときよりも小さくなる。
【0073】
第1の駆動回路11aは、第1の圧力室210aの第1の駆動素子130aに駆動パルスP(第1の駆動パルス)を印加する。駆動パルスPは、減圧パルスと加圧パルスとから構成される。図8が示す例では、減圧パルスは、t1からt2までの期間において印加され、加圧パルスは、t2からt3までの期間において印加される。
【0074】
第1の駆動回路11aは、減圧パルスを第1の上部電極133に印加する。即ち、第1の駆動回路11は、t1からt2までの期間において、V2を第1の上部電極133に印加する。第1の上部電極133にV2が印加されると、下部電極131と第1の上部電極133との間に電位差がなくなる。その結果、第1の駆動素子130aの厚み方向に電界が消滅し、第1の駆動素子130aは、元の長さに伸張する。従って、アクチュエータ170の湾曲が解消され、第1の圧力室210aの容積は、初期状態よりも拡大する。第1の圧力室210aの容積が拡大すると、第1の圧力室210a内の薬液の圧力が低下する。そのため、第1のノズル110a内の薬液のメニスカスの位置は、第1の圧力室210aの内部方向に後退する。その後、薬液保持容器22から第1の圧力室210aに薬液が供給される。その結果、第1の圧力室210a内の薬液の圧力は、一旦低下するが、その後上昇する。
【0075】
第1の駆動回路11aは、減圧パルスを印加した後に、加圧パルスを第1の上部電極133に印加する。即ち、第1の駆動回路11aは、t2からt3までの期間において、V3を第1の上部電極133に印加する。第1の上部電極133にV3が印加されると、下部電極131と第1の上部電極133との間に電圧(V2-V3)が印加され、第1の駆動素子130aの厚み方向に電界が生じる。その結果、第1の駆動素子130aは、厚みの方向に直交する方向に収縮し、アクチュエータ170は、第1の圧力室210a内に張り出す方向に湾曲する。従って、第1の圧力室210aの容積は、減少する。なお、この時点での第1の圧力室210aの容積は、初期状態のそれよりも大きい。
【0076】
時刻t2において、第1の圧力室210aの容積が減少するため、第1の圧力室210a内の薬液の圧力は、さらに上昇する。その結果、第1のノズル110a内の薬液のメニスカスの位置は、外部方向に前進を始め、第1のノズル110aから薬液が吐出する。加圧パルスが印加されている期間において、薬液は、第1のノズル110aから吐出し続ける。
【0077】
また、加圧パルスが印加されている期間において、第1の圧力室210a内の薬液の圧力は、t2から低下し続ける。t3において、第1の圧力室210a内の薬液の圧力は、最低(負圧の状態)となる。その結果、第1のノズル110a内の薬液のメニスカスは吐出を停止する。しかし、すでにノズル110から出た薬液は液滴を形成して飛翔を続ける。
【0078】
このタイミングt3において、第1の駆動回路11aは、V1を第1の上部電極133に印加する。その結果、第1の圧力室210aの容積は、初期状態の容積と同一となる。その結果、第1の圧力室210aの圧力は、負圧の状態から加圧されて実質的にほぼ0になり、薬液の圧力振動が停止する。即ち、第1の圧力室210a内の薬液の圧力振動は、t3でアクチュエータ170の変位によって打ち消され、停止する。そのため、t3において、第1の圧力室210a内の圧力は、ほぼ0(ほぼ大気圧)になる。
【0079】
t3を経過した後も、第1のノズル110aから出た薬液滴は、マイクロプレート4のウエル開口300に向かって飛翔する。薬液滴の飛翔に伴い、薬液滴の尾と第1のノズル110a内の薬液が自然に切断し、第1のノズル110a内の薬液のメニスカスは、薬液を充填した際のノズル内の位置付近で再形成される。以上のように、駆動パルスPによって、第1の圧力室210aの第1のノズル110aから薬液滴は、マイクロプレート4のウエル開口300内に向って滴下される。
【0080】
第1の駆動回路11aは、t3からt7までの期間においてV1を第1の駆動素子130aに印加する。
【0081】
第1の駆動回路11aは、t7からt9までの期間において再度、駆動パルスPを第1の駆動素子130aに印加する。第1の駆動回路11aは、駆動パルスPを印加することで、再度、第1の圧力室210aの第1のノズル110aから薬液滴を吐出させる。第1の駆動回路11aは、複数回、駆動パルスPを印加することで、薬液滴を複数回吐出させる。
【0082】
次に、第2の駆動信号について説明する。
【0083】
第2の駆動回路11bは、第1の駆動回路11aが駆動パルスPを印加する期間と異なる期間において、駆動パルスPを第2の圧力室210bの第2の駆動素子130bに印加する。
【0084】
ここでも、初期状態(t3までの期間、又は、t6からt10までの期間など)において、第2の駆動回路11bは、V1を第1の上部電極133に印加する。その結果、第2の圧力室210bの容積は、第2の駆動素子130bに電界が生じていないときよりも小さくなる。
【0085】
第2の駆動回路11bは、t4からt6までの期間において、駆動パルスP(第2の駆動パルス)を第2の駆動素子130bに印加する。第2の駆動回路11bが第2のノズル110bから薬液滴が吐出させる動作は、第1の駆動回路11aが薬液を吐出させる動作と同様であるため説明を省略する。
【0086】
第2の駆動回路11bは、t6からt10までの期間においてV1を第2の駆動素子130bに印加する。
【0087】
第2の駆動回路11bは、t10からt12までの期間において再度、駆動パルスPを第2の駆動素子130bに印加する。第2の駆動回路11bは、駆動パルスPを印加することで、再度、第2の圧力室210bの第2のノズル110bから薬液滴を吐出させる。第2の駆動回路11bは、複数回、駆動パルスPを印加することで、薬液滴を複数回吐出させる。
【0088】
以上のように、薬液吐出装置2は、第1の駆動回路11aからの第1の駆動信号及び第2の駆動回路11bからの第2の駆動信号によって、各ノズル110から薬液滴をウエル開口300内に滴下する。
【0089】
また、薬液滴下装置1は、薬液吐出装置2をX方向又はY方向に移動させる。薬液滴下装置1は、薬液吐出装置2を移動させた後に、再度、ウエル開口300内に薬液を吐出させる。薬液滴下装置1は、上記の動作を繰り返して、ウエル開口300内に薬液を吐出させる。
【0090】
なお、薬液吐出装置2は、第1の上部電極133に接続する第1の駆動素子130aの第1の圧力室210aと、第2の上部電極134に接続する第2の駆動素子130bの第2の圧力室210bと、を一列に備えてもよい。この場合、薬液吐出装置2は、第1の圧力室210aの列と第2の圧力室210bの列とを交互に備える。
【0091】
また、第1の駆動回路11aと第2の駆動回路11bとは、1つの駆動回路として形成されてもよい。
【0092】
以上のように構成された吐出システムは、第2の駆動素子に駆動パルスを印加していない期間に、第1の駆動素子に駆動パルスを印加する。また、吐出システムは、第1の駆動素子に駆動パルスを印加していない期間に、第2の駆動素子に駆動パルスを印加する。
【0093】
そのため、第1の駆動素子が駆動する間には、第1の駆動素子に隣接する第2の駆動素子は、駆動しない。その結果、第1の圧力室には、隣接する第2の圧力室からのクロストークの影響がない。同様に、第2の圧力室には、隣接する第1の圧力室からのクロストークの影響がない。従って、薬液吐出装置は、クロストークの影響を軽減することによって、吐出不良を防止することができるため、正確な量の薬液を滴下することが可能となる。
【0094】
また、薬液吐出装置は、複数の第1の駆動素子に接続する第1の上部電極と、複数の第2の駆動素子に接続する第2の上部電極とを備える。そのため、薬液吐出装置は、簡易な接続配線でクロストークの影響を軽減することができる。
(第2の実施形態)
次に、第2の実施形態について説明する。
第2の実施形態に係る吐出システム500は、第1の駆動回路11aが加圧パルスを印加する期間において第2の駆動回路11bが減圧パルスを印加する点で第1の実施形態に係るそれと異なる。従って、他の要素については、同一の符号を付して詳細な説明を省略する。
【0095】
第2の実施形態に係る吐出システム500の構成は、第1の実施形態に係るそれと同様であるため説明を省略する。
【0096】
次に、第1の駆動回路11a及び第2の駆動回路11bが出力する駆動信号について説明する。図9は、第1の駆動回路11a及び第2の駆動回路11bが出力する駆動信号を示す。図9が示す例では、第1の駆動信号は、第1の駆動回路11aが第1の駆動素子130aに供給する駆動信号である。第2の駆動信号は、第2の駆動回路11bが第2の駆動素子130bに供給する駆動信号である。
【0097】
まず、第1の駆動信号について説明する。
【0098】
第1の駆動回路11aは、t1からt3までの期間において、駆動パルスPを第1の駆動素子130aに印加する。第1の駆動回路11aは、t1からt2までの期間において、駆動パルスPの減圧パルスを印加する。また、第1の駆動回路11aは、t2からt3までの期間において、駆動パルスPの加圧パルスを印加する。
【0099】
第1の駆動回路11aは、t3からt5までの期間においてV1を第1の駆動素子130aに印加する。
【0100】
第1の駆動回路11aは、t5からt7までの期間において、駆動パルスPを第1の駆動素子130aに印加する。第1の駆動回路11aは、t5からt6までの期間において、駆動パルスPの減圧パルスを印加する。また、第1の駆動回路11aは、t6からt7までの期間において、駆動パルスPの加圧パルスを印加する。
【0101】
次に、第2の駆動信号について説明する。
【0102】
第2の駆動回路11bは、t2からt4までの期間において、駆動パルスPを第2の駆動素子130bに印加する。第2の駆動回路11bは、t2からt3までの期間において、駆動パルスPの減圧パルスを印加する。また、第2の駆動回路11bは、t3からt4までの期間において、駆動パルスPの加圧パルスを印加する。
【0103】
第2の駆動回路11bは、t4からt6までの期間においてV1を第2の駆動素子130bに印加する。
【0104】
第2の駆動回路11bは、t6からt8までの期間において、駆動パルスPを第2の駆動素子130bに印加する。第2の駆動回路11bは、t6からt7までの期間において、駆動パルスPの減圧パルスを印加する。また、第2の駆動回路11bは、t7からt8までの期間において、駆動パルスPの加圧パルスを印加する。
【0105】
上記のように、t2からt3までの期間において、第1の駆動回路11aは、加圧パルスを第1の駆動素子130aに印加し、第2の駆動回路11bは、減圧パルスを第2の駆動素子130bに印加する。また、t6からt7までの期間において、第1の駆動回路11aは、加圧パルスを第1の駆動素子130aに印加し、第2の駆動回路11bは、減圧パルスを第2の駆動素子130bに印加する。即ち、第2の駆動回路11bは、第1の駆動回路11aが加圧パルスを印加する期間において、減圧パルスが印加されるように駆動パルスPを印加する。
【0106】
以上のように構成された吐出システムは、第1の駆動素子に加圧パルスを印加している間に、第2の駆動素子に減圧パルスを印加する。そのため、第1の圧力室内の薬液の圧力が上昇する間に、第2の圧力室内の薬液の圧力は、低下する。その結果、第1の圧力室内の薬液から生じる圧力振動と第2の圧力室内の薬液から生じる圧力振動とは、互いに打ち消しあう。従って、薬液吐出装置は、互いに隣接する圧力室からのクロストークの影響を軽減することによって、吐出不良を防止することができるため、正確な量の薬液を滴下することが可能となる。
(第3の実施形態)
次に、第3の実施形態について説明する。
第3の実施形態に係る吐出システムは、薬液吐出装置が第1の駆動素子130a及び第2の駆動素子130bに印加する駆動信号を出力する点で第1の実施形態のそれと異なる。従って、その他の点については、同一の符号を付して詳細な説明を省略する。
【0107】
図10は、第3の実施形態に係る吐出システム500’の概略構成を示す斜視図である。図11は、薬液吐出装置2’の液滴を吐出する面である下面図を示す。図12は、図11のF12-F12線断面図である
図10が示すように、吐出システム500’は、薬液吐出装置2’を備える。
図11が示すように、ベース部材21の裏面側には、薬液保持容器22と同数の駆動回路基板51がY方向に一列に並設される。
【0108】
駆動回路基板51は、矩形状の平板部材である。ベース部材21の裏面側には、図12に示すように駆動回路基板51を装着するための矩形状の電装基板用凹陥部21bが形成される。また、ベース部材21の裏面側には、電装基板用凹陥部21bと連通する薬液吐出アレイ部開口21dとが形成される。
【0109】
駆動回路基板51には、電装基板用凹陥部21bとの接着固定面とは反対側の面に、駆動回路入力端子52と駆動回路出力端子53a、53b及び53cとが形成される。
【0110】
駆動回路入力端子52は、外部から駆動回路の制御信号や駆動回路の電源電圧を入力するための接続部である。
【0111】
駆動回路出力端子53a、53b及び53cは、薬液吐出アレイ27に形成された端子部133c、端子部131c、端子部134cと接続するための接続部である。駆動回路出力端子53aは、駆動回路基板51で生成された第1の駆動信号を第1の上部電極133の端子部133cに信号を供給する。駆動回路出力端子53bは、駆動回路基板51で生成された定電圧(V2)を下部電極131の端子部131cに供給する。駆動回路出力端子53cは、駆動回路基板51で生成された第2の駆動信号を第2の上部電極134の端子部134cに供給する。
【0112】
次に、吐出システム500’が薬液を吐出する動作例について説明する。
【0113】
吐出システム500’の薬液吐出装置2’は、薬液滴下装置1の装着モジュール5に固定して使用される。たとえば、オペレータは、薬液吐出装置2’を装着モジュール5に取り付けるため、モジュール本体15のスリット32の前面開口部側から薬液吐出装置2がモジュール本体15のスリット32に挿入する。
【0114】
オペレータは、薬液吐出装置2’をスリット32に挿入すると、薬液保持容器22の上面開口部22bから図示しないピペッターなどにより、薬液を所定量、薬液保持容器22に供給する。薬液は、薬液保持容器22の内面で保持される。薬液保持容器22の底部の下面開口部22aは、薬液吐出アレイ27と連通している。そのため、薬液保持容器22に保持された薬液は、薬液保持容器22の底面の下面開口部22aを介して薬液吐出アレイ27の各圧力室210へ充填される。
【0115】
オペレータは、薬液を薬液保持容器22に供給すると、薬液の吐出を開始する操作を薬液滴下装置1に入力する。なお、オペレータは、薬液滴下装置1を制御するためのホストコンピュータなどに薬液の吐出を開始する操作を薬液滴下装置1に入力してもよい。
【0116】
薬液滴下装置1は、当該操作の入力を受け付けると、薬液吐出装置2’の駆動回路基板51に薬液の吐出を開始させる開始信号を供給する。
【0117】
薬液吐出装置2’の駆動回路基板51は、開始信号を受信すると、駆動信号を第1の駆動素子130a及び第2の駆動素子130bに供給する。
【0118】
駆動信号は、駆動回路出力端子53a、53b及び53cから第1の上部電極133の端子部133c、下部電極131の端子部131c及び第2の上部電極134の端子部134cへそれぞれ供給される。
【0119】
駆動回路基板51は、第1の駆動素子130aに第1の駆動信号を供給する。即ち、駆動回路基板51は、第1の上部電極133に第1の駆動信号を印加する。また、駆動回路基板51は、第2の駆動素子130bに第2の駆動信号を供給する。即ち、駆動回路基板51は、第2の上部電極134に第2の駆動信号を印加する。また、駆動回路基板51は、下部電極131にV2を印加する。
【0120】
第1の駆動信号及び第2の駆動信号については、第1の実施形態のそれらと同様であるため説明を省略する。
【0121】
薬液吐出装置2’は、駆動回路基板51からの第1の駆動信号及び第2の駆動信号によって、各ノズル110から薬液滴をウエル開口300内に滴下する。
【0122】
また、薬液滴下装置1は、薬液吐出装置’2をX方向又はY方向に移動させる。薬液滴下装置1は、薬液吐出装置2’を移動させた後に、再度、ウエル開口300内に薬液を吐出させる。薬液滴下装置1は、上記の動作を繰り返して、ウエル開口300内に薬液を吐出させる。
【0123】
なお、駆動回路基板51は、第1の駆動信号を出力する第1の駆動回路と第2の駆動信号を出力する第2の駆動回路とから構成されてもよい。
【0124】
また、駆動回路基板51は、第2の実施形態に係る第1の駆動信号及び第2の駆動信号を出力してもよい。
【0125】
以上のように構成された第3の実施形態の薬液吐出装置は、第1の駆動信号及び第2の駆動信号を出力する駆動回路基板を備え、クロストークの影響を軽減することによって、吐出不良を防止することができるため、正確な量の薬液を滴下することが可能となる。
【0126】
以上説明した実施形態では、駆動部である駆動素子130を円形としたが、駆動部の形状は限定されない。駆動部の形状は、例えばひし形或いは楕円等であっても良い。また圧力室210の形状も円形に限らず、ひし形或いは楕円形、更には矩形等であっても良い。
【0127】
また、実施形態では、駆動素子130の中心にノズル110を配置したが、圧力室210の薬液を吐出可能であれば、ノズル110の位置は限定されない。例えばノズル110を、駆動素子130の領域内ではなく、駆動素子130の外側に形成しても良い。
【0128】
以上説明した少なくとも1つの実施形態によれば、簡易な電極配線で、クロストークの影響を低減することが可能な薬液吐出装置を提供することができる。
【0129】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
以下に、本願の出願当初の特許請求の範囲に記載された発明を付記する。
[C1]
薬液を吐出する薬液吐出装置であって、
薬液を吐出するノズルに連通し、内部に薬液が充填される複数の第1の圧力室と前記複数の第1の圧力室にそれぞれ隣接する複数の第2の圧力室が形成され、前記複数の第1の圧力室と第2の圧力室へ薬液を供給する薬液供給口を有する基板と、
前記薬液供給口を介して、前記複数の第1の圧力室と第2の圧力室に連通し、薬液を保持する保持容器と、
前記複数の第1の圧力室内の薬液の圧力を変化させ、連通するそれぞれの前記ノズルから薬液を吐出させる複数の第1のアクチュエータと、
前記複数の第2の圧力室内の薬液の圧力を変化させ、連通するそれぞれの前記ノズルから薬液を吐出させる複数の第2のアクチュエータと、
前記複数の第1のアクチュエータに第1の駆動信号を供給する第1の導電線と、
前記複数の第2のアクチュエータに第2の駆動信号を供給する第2の導電線と、
を備える、
薬液吐出装置。
[C2]
前記複数の第2の圧力室は、第1の方向及び前記第1の方向に直交する第2の方向において、前記複数の第1の圧力室にそれぞれ隣接する、
前記C1に記載の薬液吐出装置。
[C3]
前記第1の導電線は、前記第1の駆動信号として、前記複数の第1の圧力室に連通する前記ノズルから薬液を吐出する第1の駆動パルスを供給し、
前記第2の導電線は、前記第2の駆動信号として、前記第1の導電線から第1の駆動パルスが供給されている期間と異なる期間において前記複数の第2の圧力室に連通する前記ノズルから薬液を吐出する第2の駆動パルスを供給する、
前記C1又は2に記載の薬液吐出装置。
[C4]
前記第1の導電線は、前記第1の駆動信号として、前記複数の第1の圧力室の容積を拡大する減圧パルスと前記第1の圧力室の容積を低減する加圧パルスとから構成される前記第1の圧力室に連通する前記ノズルから薬液を吐出する第1の駆動パルスを供給し、
前記第2の導電線は、前記第2の駆動信号として、前記複数の第2の圧力室の容積を拡大する減圧パルスと前記第2の圧力室の容積を低減する加圧パルスとから構成される前記複数の第2の圧力室に連通する前記ノズルから薬液を吐出する第2の駆動パルスを供給し、
前記第1の導電線から前記第1の駆動パルスの前記加圧パルスが供給されている期間に、前記第2の導電線から前記第2の駆動信号の減圧パルスを供給する、
前記C1又は2に記載の薬液吐出装置。
[C5]
前記第1の駆動信号を出力する第1の駆動回路と、
前記第2の駆動信号を出力する第2の駆動回路と、
を備える、
前記C1乃至4の何れか1項に記載の薬液吐出装置。
【符号の説明】
【0130】
1…薬液滴下装置、2…薬液吐出装置、2’…薬液吐出装置、4…マイクロプレート、5…装着モジュール、11a…第1の駆動回路、11b…第2の駆動回路、21…ベース部材、21a…薬液保持容器用凹陥部、21b…電装基板用凹陥部、21d…薬液吐出アレイ部開口、22…薬液保持容器、22a…下面開口部、22b…上面開口部、23…電装基板、24…電装基板配線、24a…配線パターン、24b…配線パターン、24c…配線パターン、25…制御信号入力端子、26…電極接続端子、27…薬液吐出アレイ、51…駆動回路基板、52…駆動回路入力端子、53a…駆動回路出力端子、53b…駆動回路出力端子、53c…駆動回路出力端子、100…ノズルプレート、110…ノズル、110a…第1のノズル、110b…第2のノズル、120…振動板、130a…第1の駆動素子、130b…第2の駆動素子、131…下部電極、131a…電極部、131b…配線部、131c…端子部、133…第1の上部電極、133a…電極部、133b…配線部、133c…端子部、134…第2の上部電極、134a…電極部、134b…配線部、134c…端子部、140…絶縁膜、150…保護膜、160…撥液膜、170…アクチュエータ、200…圧力室構造体、200a…第1の面、200b…第2の面、201…シリコンウエハ、210…圧力室、210a…第1の圧力室、210b…第2の圧力室、220…反り低減膜、300…ウエル開口、500…吐出システム、500’…吐出システム。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12