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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-30
(45)【発行日】2022-10-11
(54)【発明の名称】印刷システムおよびプリンタの調整方法
(51)【国際特許分類】
   B41J 2/205 20060101AFI20221003BHJP
   B41J 2/21 20060101ALI20221003BHJP
   B41J 2/01 20060101ALI20221003BHJP
【FI】
B41J2/205
B41J2/21
B41J2/01 401
B41J2/01 451
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2018217330
(22)【出願日】2018-11-20
(65)【公開番号】P2020082434
(43)【公開日】2020-06-04
【審査請求日】2021-10-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000116057
【氏名又は名称】ローランドディー.ジー.株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100121500
【弁理士】
【氏名又は名称】後藤 高志
(74)【代理人】
【識別番号】100121186
【弁理士】
【氏名又は名称】山根 広昭
(74)【代理人】
【識別番号】100189887
【弁理士】
【氏名又は名称】古市 昭博
(72)【発明者】
【氏名】吉田 世新
(72)【発明者】
【氏名】小倉 慶成
(72)【発明者】
【氏名】藤田 泰仁
【審査官】亀田 宏之
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-022881(JP,A)
【文献】特開2011-121314(JP,A)
【文献】特開2017-056707(JP,A)
【文献】特開2008-126424(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41J 2/01-2/215
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
記録媒体に所定のインクを吐出するノズルを有し、複数の第1テストパッチを含む第1テストチャートを印刷するインクヘッドと、
複数の前記第1テストパッチの濃度値である第1対象濃度値を測定する測色器と、
前記インクヘッドを制御する制御装置と、を備え、
前記ノズルから吐出可能な前記所定のインクの単位面積当たりの理論上の最大重量を最大理論インク量とし、前記ノズルから印刷時に実際に吐出可能な前記所定のインクの単位面積当たりの最大重量を制限インク量としたとき、前記制限インク量は、前記最大理論インク量より小さく設定され、
前記制御装置は、
前記所定のインクの基準となる濃度値である基準濃度値を記憶する記憶部と、
前記第1対象濃度値の最大値が前記基準濃度値の最大値よりも低いか否かを判定する判定部と、
前記判定部によって前記第1対象濃度値の最大値が前記基準濃度値の最大値よりも低いと判定されたとき、前記最大理論インク量を超えない範囲内において前記制限インク量を第1制限インク量まで増加させるインク量増加部と、
前記ノズルから前記第1制限インク量の前記所定のインクを吐出可能に制御し、前記記録媒体に前記ノズルから前記所定のインクを吐出して、複数の第2テストパッチを含む第2テストチャートを印刷する吐出制御部と、
前記測色器によって測定された複数の前記第2テストパッチの濃度値である第2対象濃度値に基づいてキャリブレーションを実行する実行部と、を備えている、印刷システム。
【請求項2】
前記所定のインクは、シアンインクと、マゼンタインクと、イエローインクと、ブラックインクとを含み、
前記吐出制御部は、前記インクヘッドを制御して、前記シアンインク、前記マゼンタインク、前記イエローインクおよび前記ブラックインクごとに複数の前記第1テストパッチを含む前記第1テストチャートを印刷するように構成されている、請求項1に記載の印刷システム。
【請求項3】
前記吐出制御部は、前記インクヘッドを制御して、前記シアンインク、前記マゼンタインク、前記イエローインクおよび前記ブラックインクのうち前記第1制限インク量まで増加された少なくとも1以上のインクに関して、インクごとに複数の前記第2テストパッチを含む前記第2テストチャートを印刷するように構成されている、請求項2に記載の印刷システム。
【請求項4】
前記ノズルは、小ドットのインクの液滴と、中ドットのインクの液滴と、大ドットのインクの液滴とを吐出可能に構成され、
前記インク量増加部は、前記ノズルから吐出される前記小ドットのインクの液滴と、前記中ドットのインクの液滴と、前記大ドットのインクの液滴との割合を変更することによって、前記制限インク量を増加させる、請求項1から3のいずれか一項に記載の印刷システム。
【請求項5】
前記インク量増加部は、前記ノズルから吐出される前記中ドットのインクの液滴の割合を減らしかつ前記大ドットのインクの液滴の割合を増やして、前記制限インク量を増加させる、請求項4に記載の印刷システム。
【請求項6】
前記判定部は、前記第2対象濃度値の最大値が前記基準濃度値の最大値よりも低いか否かをさらに判定し、
前記インク量増加部は、前記判定部によって前記第2対象濃度値の最大値が前記基準濃度値の最大値よりも低いと判定されたとき、前記最大理論インク量を超えない範囲内において前記第1制限インク量を第2制限インク量までさらに増加させ、
前記吐出制御部は、前記ノズルから前記第2制限インク量の前記所定のインクを吐出可能に制御し、前記記録媒体に前記ノズルから前記所定のインクを吐出して、複数の第3テストパッチを含む第3テストチャートを印刷し、
前記実行部は、前記第2対象濃度値に代えて、前記測色器によって測定された複数の前記第3テストパッチの濃度値である第3対象濃度値に基づいてキャリブレーションを実行する、請求項1から5のいずれか一項に記載の印刷システム。
【請求項7】
前記第1制限インク量と前記制限インク量との差は、前記第2制限インク量と前記第1制限インク量との差と同じである、請求項6に記載の印刷システム。
【請求項8】
前記第1制限インク量と前記制限インク量との差は、前記第2制限インク量と前記第1制限インク量との差より大きい、請求項6に記載の印刷システム。
【請求項9】
インクヘッドのノズルから記録媒体に所定のインクを吐出して、複数の第1テストパッチを含む第1テストチャートを印刷すること、ここで、前記ノズルから吐出可能な前記所定のインクの単位面積当たりの理論上の最大重量を最大理論インク量とし、前記ノズルから印刷時に実際に吐出可能な前記所定のインクの単位面積当たりの最大重量を制限インク量としたとき、前記制限インク量は、前記最大理論インク量より小さく設定され、
複数の前記第1テストパッチの濃度値である第1対象濃度値を測定すること、
前記所定のインクの基準となる濃度値である基準濃度値を準備すること、
前記第1対象濃度値の最大値が前記基準濃度値の最大値よりも低いか否かを判定すること、
前記第1対象濃度値の最大値が前記基準濃度値の最大値よりも低いと判定されたとき、前記最大理論インク量を超えない範囲内において前記制限インク量を第1制限インク量まで増加させること、
前記ノズルから前記第1制限インク量の前記所定のインクを吐出可能に制御し、前記記録媒体に前記ノズルから前記所定のインクを吐出して、複数の第2テストパッチを含む第2テストチャートを印刷すること、
複数の前記第2テストパッチの濃度値である第2対象濃度値に基づいてキャリブレーションを実行すること、を包含する、プリンタの調整方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、印刷システムおよびプリンタの調整方法に関する。
【背景技術】
【0002】
インクヘッドから所定のカラーインクを吐出して記録媒体にカラー印刷を行うプリンタでは、時間の経過と共に記録媒体に印刷される画像の色に変化が生じ得る。即ち、インクヘッドから吐出されるインクドットの重量に変化が生じて、画像に色差が生じ得る。このため、画像の色の変化(即ち色差)をユーザが許容できる範囲に抑えるため、定期的にキャリブレーション(カラーキャリブレーションともいう)が行われている。
【0003】
キャリブレーションの方法としては、例えば、所定のカラーインクとしてのシアンインク、マゼンタインク、イエローインクおよびブラックインクの各色について、テストパッチを複数配列したテストチャートを記録媒体に印刷し、各テストパッチの濃度値を測色器で測定し、測定された濃度値が基準濃度値(各パッチに対して予め設定された基準となる濃度値)となるように、インクヘッドから吐出される単位面積当たりのインクの重量等を調整することが挙げられる。
【0004】
ここで、インクヘッドのノズルから吐出可能なインクの単位面積当たりの理論上の最大重量(即ち、単位面積当たりで吐出可能な理論上のインクドットの数の最大値。)を最大理論インク量とし、インクヘッドのノズルから印刷時に実際に吐出可能なインクの単位面積当たりの最大重量(即ち、印刷時に実際に単位面積当たりで吐出可能なインクドットの数の最大値)を制限インク量としたとき、制限インク量は、最大理論インク量より小さく設定されることがある。即ち、実際の印刷時にはノズルから最大量のインクが吐出されないことがある。これは、例えば、ノズルから吐出される単位面積当たりのインクの重量が大きすぎる場合には、記録媒体に着弾したインクに滲みが生じる虞があるためである。制限インク量は、例えば、最大理論インク量の70%~80%程度に設定されることがある。
【0005】
例えば、特許文献1には、所定の条件下でキャリブレーションを行う画像処理装置が開示されている。特許文献1に示す技術では、色差を用いることによってキャリブレーションを行うか否かを判断している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2014-123836号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、インクヘッドの経時劣化等により、ノズルから吐出されるインクドットの重量が、設定されたインクドットの重量よりも小さくなることがある。このため、制限インク量(即ち単位面積当たりで実際に吐出可能なインクドットの数の最大値)が初期値のままでは、単位面積当たりで実際に吐出されるインクの重量が減少する。この結果、記録媒体に印刷された最大の濃度値が比較的低くなり、基準濃度値の最大値を下回る。このため、精度よくキャリブレーションを行うことが困難な場合があった。
【0008】
本発明はかかる点に鑑みてなされたものであり、その目的は、より精度よくキャリブレーションを行うことができる印刷システムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本願発明者らは、ノズルから吐出されるインクドットの重量が減少していることに対し、単位面積当たりのインクドットの数を増やして、印刷される単位面積あたりのインクの重量を維持することに着目した。即ち、ノズルから吐出されるインクドットの重量が減少する場合、滲みを考慮しつつ最初に決められた制限インク量を増加させて、単位面積当たりの吐出可能なインクドットの数の最大値を増やしても、滲みの発生を抑制しつつ印刷される最大の濃度値を上げることができ、これにより精度がよいキャリブレーションを行うことができることを発見した。
【0010】
本発明に係る印刷システムは、記録媒体に所定のインクを吐出するノズルを有し、複数の第1テストパッチを含む第1テストチャートを印刷するインクヘッドと、複数の前記第1テストパッチの濃度値である第1対象濃度値を測定する測色器と、前記インクヘッドを制御する制御装置と、を備えている。前記ノズルから吐出可能な前記所定のインクの単位面積当たりの理論上の最大重量を最大理論インク量とし、前記ノズルから印刷時に実際に吐出可能な前記所定のインクの単位面積当たりの最大重量を制限インク量としたとき、前記制限インク量は、前記最大理論インク量より小さく設定されている。前記制御装置は、前記所定のインクの基準となる濃度値である基準濃度値を記憶する記憶部と、前記第1対象濃度値の最大値が前記基準濃度値の最大値よりも低いか否かを判定する判定部と、前記判定部によって前記第1対象濃度値の最大値が前記基準濃度値の最大値よりも低いと判定されたとき、前記最大理論インク量を超えない範囲内において前記制限インク量を第1制限インク量まで増加させるインク量増加部と、前記ノズルから前記第1制限インク量の前記所定のインクを吐出可能に制御し、前記記録媒体に前記ノズルから前記所定のインクを吐出して、複数の第2テストパッチを含む第2テストチャートを印刷する吐出制御部と、
前記測色器によって測定された複数の前記第2テストパッチの濃度値である第2対象濃度値に基づいてキャリブレーションを実行する実行部と、を備えている。
【0011】
本発明の印刷システムによると、インク量増加部は、判定部によって第1対象濃度値の最大値が基準濃度値の最大値よりも低いと判定されたとき、最大理論インク量を超えない範囲内において制限インク量を第1制限インク量まで増加させる。そして、吐出制御部は、インクヘッドのノズルから第1制限インク量の所定のインクを吐出可能に制御する。即ち、ノズルから吐出されるインクの濃度が上昇する。さらに、吐出制御部は、記録媒体にノズルから所定のインクを吐出して、複数の第2テストパッチを含む第2テストチャートを印刷する。ここで、第1制限インク量は制限インク量より多いため、第2テストチャートの第2テストパッチの濃度値である第2対象濃度値は、第1テストチャートの第1テストパッチの濃度値よりも大きくなる。実行部は、第2対象濃度値に基づいてキャリブレーションを実行するため、第1対象濃度値に基づいてキャリブレーションを実行する場合と比較して、キャリブレーション後にはより基準濃度値に近い濃度値のインクをインクヘッドから吐出することができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、より精度よくキャリブレーションを行うことができる印刷システムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】一実施形態に係る印刷システムの正面図である。
図2】一実施形態に係る印刷システムのブロック図である。
図3】一実施形態に係るキャリッジの記録媒体と対向する側の面の構成を示す模式図である。
図4】一実施形態に係るテストチャートの模式図である。
図5】一実施形態に係る入力値とドット発生率との関係を示したテーブルである。
図6】一実施形態に係るインク値と基準濃度値との関係を示したテーブルである。
図7】一実施形態に係るキャリブレーションの手順を示すフローチャートである。
図8】一実施形態に係るインク値と第1対象濃度値との関係を示したテーブルである。
図9】一実施形態に係る補正テーブルを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施形態に係る印刷システムについて説明する。なお、ここで説明される実施形態は、当然ながら本発明を特に限定することを意図したものではない。また、同じ作用を奏する部材・部位には同じ符号を付し、重複する説明は適宜省略または簡略化する。
【0015】
図1は、本実施形態に係る印刷システム100の正面図である。図1に示すように、印刷システム100は、プリンタ10と、測色器70とを備えている。なお、本実施形態では、測色器70はプリンタ10に搭載されているが、測色器70は、プリンタ10とは別個独立して設けられていてもよい。この場合には、例えば、ユーザが測色器70を操作する。
【0016】
以下の説明では、プリンタ10を正面から見たときに、プリンタ10から遠ざかる方を前方、プリンタ10に近づく方を後方とする。左、右、上、下とは、プリンタ10を正面から見たときの左、右、上、下をそれぞれ意味するものとする。また、図面中の符号F、Rr、L、R、U、Dは、それぞれ前、後、左、右、上、下を意味するものとする。また、図面中の符号Yは主走査方向を示している。ここでは、主走査方向Yは左右方向である。符号Xは副走査方向を示している。ここでは、副走査方向Xは前後方向であり、平面視において主走査方向Yと直交している。ただし、上記方向は説明の便宜上定めた方向に過ぎず、プリンタ10の設置態様を何ら限定するものではなく、本発明を何ら限定するものでもない。
【0017】
プリンタ10は、インクジェット式のプリンタである。プリンタ10は、家庭用のプリンタと比較すると主走査方向Yに長い、いわゆる大型のプリンタである。例えば、プリンタ10は業務用のプリンタである。本実施形態では、プリンタ10は、ロール状の記録媒体5を順次前方に移動させると共に、主走査方向Yに移動するキャリッジ40に搭載された第1インクヘッド40A、第2インクヘッド40B、第3インクヘッド40Cおよび第4インクヘッド40Dから所定のインクを吐出することによって、記録媒体5上に画像を印刷する。
【0018】
記録媒体5は、例えば、記録紙である。ただし、記録媒体5は、記録紙に限定されない。例えば、記録媒体5には、PVC、ポリエステルなどの樹脂材料から形成されたシート、アルミや鉄等から形成された金属板、ガラス板、木材板等の比較的厚みを有するものが含まれる。
【0019】
図1に示すように、プリンタ10は、本体部10aと、脚11と、操作パネル12と、プラテン16と、制御装置50とを備えている。本体部10aは、主走査方向Yに延びたケーシングを有する。脚11は、本体部10aを支持するものであり、本体部10aの下面に設けられている。操作パネル12は、本体部10aの右側の前面に設けられている。ただし、操作パネル12の位置は特に限定されない。操作パネル12は、例えば、ユーザが印刷に関する操作を行うものである。図示は省略するが、操作パネル12には、例えば、解像度、インクの吐出量(例えば後述する制限インク量)などの印刷に関する情報や、印刷中のプリンタ10のステータスなどが表示される表示部、および、印刷に関する情報を入力するための入力部などが備えられている。
【0020】
プラテン16は、記録媒体5への印刷の際、記録媒体5を支持するものである。プラテン16には、記録媒体5が載置される。記録媒体5への印刷は、プラテン16上で行われる。プラテン16は主走査方向Yに延びている。プラテン16は、本体部10aに設けられている。
【0021】
図1に示すように、プリンタ10は、キャリッジ40と、ヘッド移動機構31とを備えている。ヘッド移動機構31は、プラテン16に載置された記録媒体5に対してキャリッジ40を相対的に主走査方向Yに移動させる機構である。ヘッド移動機構31は、キャリッジ40を主走査方向Yに移動させる。なお、ヘッド移動機構31の構成は特に限定されない。ヘッド移動機構31は、ガイドレール20と、プーリ21と、プーリ22と、無端状のベルト23と、キャリッジモータ24(図2も参照)とを備えている。ガイドレール20は、キャリッジ40の主走査方向Yへの移動をガイドするものである。ガイドレール20は、プラテン16の上方に配置されている。ガイドレール20は、本体部10aに設けられている。ガイドレール20は主走査方向Yに延びている。プーリ21は、ガイドレール20の左端より左方に設けられている。プーリ22は、ガイドレール20の右端より右方に設けられている。ベルト23は、プーリ21とプーリ22とに巻き掛けられている。右側のプーリ22には、キャリッジモータ24が接続されている。ただし、キャリッジモータ24は、左側のプーリ21に接続されていてもよい。ここでは、キャリッジモータ24が駆動して、プーリ22が回転することで、プーリ21とプーリ22との間においてベルト23が走行する。
【0022】
キャリッジ40は、ベルト23に取り付けられている。キャリッジ40は、ガイドレール20に係合しており、ガイドレール20に摺動自在に設けられている。キャリッジ40には、第1インクヘッド40A~第4インクヘッド40Dが搭載されている。キャリッジモータ24の駆動によってベルト23が走行して、キャリッジ40が主走査方向Yに移動することに伴い、キャリッジ40に搭載された第1インクヘッド40A~第4インクヘッド40Dは主走査方向Yに移動する。
【0023】
プリンタ10は、媒体搬送機構32を備えている。媒体搬送機構32は、プラテン16に載置された記録媒体5をキャリッジ40に対して相対的に副走査方向X(図3参照)に移動させるものである。ここでは、媒体搬送機構32は、プラテン16に載置された記録媒体5を副走査方向Xに移動させる。なお、媒体搬送機構32の構成は特に限定されない。媒体搬送機構32は、グリットローラ25と、ピンチローラ26と、フィードモータ27(図2参照)とを備えている。グリットローラ25は、プラテン16に設けられている。ここでは、グリットローラ25の一部はプラテン16に埋設されている。ピンチローラ26は、記録媒体5を上から押え付けるものである。ピンチローラ26は、グリットローラ25と上下方向で対向するように、グリットローラ25の上方に配置されている。ピンチローラ26は、記録媒体5の厚みに応じて、上下方向に移動可能に構成されていてもよい。なお、グリットローラ25およびピンチローラ26のそれぞれの配置位置および数は特に限定されない。本実施形態では、グリットローラ25およびピンチローラ26は、プラテン16の左端部および右端部にそれぞれ配置されている。フィードモータ27は、グリットローラ25に接続されている。グリットローラ25とピンチローラ26との間に記録媒体5が挟まれた状態で、フィードモータ27が駆動してグリットローラ25が回転すると、記録媒体5は副走査方向Xに搬送される。
【0024】
図3に示すように、第1インクヘッド40A、第2インクヘッド40B、第3インクヘッド40Cおよび第4インクヘッド40Dは、主走査方向Yに並ぶ。第1インクヘッド40A~第4インクヘッド40Dは、同じ形状かつ同じ大きさに形成されている。第1インクヘッド40A~第4インクヘッド40Dは、副走査方向Xに並ぶ複数の第1ノズル41と、副走査方向Xに並ぶ複数の第2ノズル42と、第1ノズル41および第2ノズル42が形成されたノズル面43とを備えている。なお、第1ノズル41および第2ノズル42は微小であるため、図3では、複数の第1ノズル41および複数の第2ノズル42を直線で表している。第1インクヘッド40Aの第1ノズル41および第2ノズル42は、例えば、シアンインクCを記録媒体5に吐出する。第2インクヘッド40Bの第1ノズル41および第2ノズル42は、例えば、マゼンタインクMを記録媒体5に吐出する。第3インクヘッド40Cの第1ノズル41および第2ノズル42は、例えば、イエローインクYを記録媒体5に吐出する。第4インクヘッド40Dの第1ノズル41および第2ノズル42は、例えば、ブラックインクKを記録媒体5に吐出する。なお、第1インクヘッド40A~第4インクヘッド40Dから吐出されるインクは、上述のものに限定されない。第1インクヘッド40A~第4インクヘッド40Dから記録媒体5にそれぞれインクが吐出されることによって、記録媒体5に画像や後述するテストチャートPC(図4参照)が形成される。
【0025】
第1インクヘッド40A~第4インクヘッド40Dでは、サイズの異なる3種類のドットを形成することができる。以下の説明ではこれら3種類のドットのことを、サイズの小さい方から順に、小ドット、中ドット、大ドットと称することとする。例えば、小ドットはインクの重量が凡そ4ng~8ngであり、中ドットはインクの重量が凡そ12ng~凡そ16ngであり、大ドットはインクの重量が凡そ20ng~凡そ24ngである。
【0026】
図4に示すように、第1インクヘッド40A~第4インクヘッド40Dが印刷するテストチャートPCは、主走査方向Yに21個のテストパッチP1~P21が並ぶように構成されている。なおテストパッチの数は21個に限定されない。21個のテストパッチP1~P21は、それぞれインクの吐出量(インクの重量)を変えて形成されたテストパッチである。21個のテストパッチP1~P21は、それぞれ記録媒体5上の異なる領域に形成され、互いに重ならないように配置されている。テストパッチP1~P21は、左方からP1、P2、・・・P21の順に配置されている。また、1つのテストチャートPCは、異なる4色のインクによって着色された4つの領域から構成されている。上記4つの領域は、前後方向に並んでいる。本実施形態では、4色のインクは、後方から順に、シアンインクC、マゼンタインクM、イエローインクYおよびブラックインクKである。なお、4色のインクの並びは特に限定されない。
【0027】
図4に示すように、21個のテストパッチP1~P21の後方には、それぞれ識別符号S1~S21が印刷されている。識別符号S1~S21は、それぞれ、その前方に形成されたテストパッチP1~P21におけるインクの吐出量(インクの重量)に対応している。21個の識別符号S1~S21は、S1から順に、0、5、10、15、20、25、30、35、40、45、50、55、60、65、70、75、80、85、90、95、100と印刷されている。識別符号S1~S21の単位は%である。識別符号S1~S21は、インク値に相当する。識別符号S1~S21の数値[%]は、第1インクヘッド40A~第4インクヘッド40Dの第1ノズル41および第2ノズル42から吐出されるインクの吐出量(インクの重量)の最大値に対する割合である。例えば、テストパッチP1の印刷においては、シアンインクC、マゼンタインクM、イエローインクY、ブラックインクKはインクの重量の最大値に対して0%で吐出される。テストパッチP2の印刷においては、シアンインクC、マゼンタインクM、イエローインクY、ブラックインクKはインクの重量の最大値に対して5%で吐出される。以下同様に、右方のテストパッチに行くほどインクの重量の最大値に対する割合は5%ずつ上がっていき、テストパッチP21では、インクの重量の最大値(即ち100%)で吐出される。ここでは、後述する制限インク値の条件下でテストチャートPCが印刷される。例えば、制限インク値が80%の場合、制限インク値が80%の条件下で21個のテストパッチP1~P21が印刷される。このため、制限インク値が80%の条件下で印刷されたテストパッチP21の濃度値は、制限インク値が100%の条件下で印刷されたテストパッチP21の濃度値より小さくなる。即ち、制限インク値が80%の条件下で印刷されたテストパッチP21のインクの重量は、制限インク値が100%の条件下で印刷されたテストパッチP21のインクの重量より小さくなる。
【0028】
図1に示すように、測色器70はキャリッジ40に搭載されている。即ち、測色器70は、キャリッジ40が主走査方向Yに移動することに伴って、主走査方向Yに移動可能に構成されている。測色器70は、記録媒体5に印刷されたテストチャートPC(図4参照)の複数のテストパッチP1~P21の濃度値をそれぞれ測定する。測定された濃度値は、制御装置50に送信される。濃度値は、例えば、ステータスTにおける濃度値である。測色器70としては、光の波長ごとに計測可能なスペクトル方式の分光光度計等が挙げられる。
【0029】
図2に示すように、制御装置50は、記録媒体5への印刷を制御する装置である。制御装置50の構成は特に限定されない。制御装置50は、例えばマイクロコンピュータである。マイクロコンピュータのハードウェアの構成は特に限定されないが、例えば、ホストコンピュータなどの外部機器から印刷データなどを受信するインターフェイス(I/F)と、制御プログラムの命令を実行する中央演算処理装置(CPU:central processing unit)と、CPUが実行するプログラムを格納したROM(read only memory)と、プログラムを展開するワーキングエリアとして使用されるRAM(random access memory)と、プログラムや各種データを格納するメモリなどの記憶装置と、を備えている。図1に示すように、制御装置50は、本体部10aの内部に設けられている。ただし、制御装置50は本体部10aの内部に設けられていなくてもよい。例えば、制御装置50は、本体部10aの外部に設置されたコンピュータなどであってもよい。この場合、制御装置50は、有線または無線を介してプリンタ10と通信可能に接続されている。
【0030】
図2に示すように、制御装置50は、操作パネル12と、ヘッド移動機構31のキャリッジモータ24と、第1インクヘッド40A~第4インクヘッド40Dと、媒体搬送機構32のフィードモータ27と、測色器70と通信可能に接続しており、これらを制御する。
【0031】
図2に示すように、制御装置50は、記憶部52と、判定部54と、判断部55と、インク量増加部56と、吐出制御部58と、実行部60とを備えている。これら各部は、プログラムによって実現されている。このプログラムは、例えばCDやDVDなどの記録媒体から読み込まれる。なお、このプログラムは、インターネットを通じてダウンロードされるものであってもよい。また、これら各部は、プロセッサおよび/または回路などによって実現可能なものであってもよい。
【0032】
記憶部52は、入力値とドット発生率との関係を示したテーブル(図5参照)を予め記憶している。図5に示す例では、横軸に入力値[%]が表され、縦軸にドット発生率[%]が表されている。実線は小ドットのインクの液滴SDを示し、破線は中ドットのインクの液滴MDを示し、一点鎖線は大ドットのインクの液滴LDを示し、二点鎖線は各ドットのインク液滴の合計重量TWを示している。記憶部52は、所定のインク(例えばシアンインクC、マゼンタインクM、イエローインクYおよびブラックインクK)の最大理論インク量を記憶する。最大理論インク量とは、第1インクヘッド40A~第4インクヘッド40Dの第1ノズル41および第2ノズル42から吐出可能なインクの単位面積当たりの理論上の最大重量(即ち、単位面積当たりで吐出可能な理論上のインクドットの数の最大値。)である。図5に示す例では、最大理論インク量は、入力値が100%のときの合計重量に相当し、大ドットのインク液滴が100%発生しているときの重量である。
【0033】
記憶部52は、所定のインク(例えばシアンインクC、マゼンタインクM、イエローインクYおよびブラックインクK)の制限インク値を記憶する。制限インク値とは、最大理論インク量に対する制限インク量の割合である。ここで、制限インク量とは、第1インクヘッド40A~第4インクヘッド40Dの第1ノズル41および第2ノズル42から印刷時に実際に吐出可能なインクの単位面積当たりの最大重量(即ち、印刷時に実際に単位面積当たりで吐出可能なインクドットの数の最大値)である。制限インク値の単位は%である。制限インク量は、最大理論インク量より小さく設定される。制限インク値は、例えば、ユーザによって任意(例えば70%~90%)に設定される。図5に示す例では、制限インク値は80%に設定されている。制限インク値は、色毎に同じであってもよいし、異なっていてもよい。制限インク値は、記録媒体5にインクが吐出されたときに、インクに滲みが生じないような値に設定されるとよい。
【0034】
記憶部52は、所定のインク(例えばシアンインクC、マゼンタインクM、イエローインクYおよびブラックインクK)の基準となる濃度値である基準濃度値を記憶する。例えば、記憶部52は、シアンインクC、マゼンタインクM、イエローインクYおよびブラックインクKごとにインク値に対する基準濃度値を記憶する。基準濃度値は、キャリブレーションを実行するときに基準となる濃度値である。基準濃度値は、予め記憶部52に記憶されている。図6は、基準濃度値[T]とインク値[%]との関係を示したテーブルである。図6に示す例では、横軸にインク値[%]が表され、縦軸に基準濃度値[T]が表されている。実線はシアンインクCのインク値と基準濃度値との関係を示し、破線はマゼンタインクMのインク値と基準濃度値との関係を示し、一点鎖線はイエローインクYのインク値と基準濃度値との関係を示し、二点鎖線はブラックインクKのインク値と基準濃度値との関係を示す。
【0035】
図7は、キャリブレーションの手順を示すフローチャートである。ここでは、同一のプリンタ10においてキャリブレーションを行う場合を例に説明する。また、シアンインクC、マゼンタインクM、イエローインクYおよびブラックインクKの色毎に、基準濃度値と比較する場合を説明する。
【0036】
ステップS10において、シアンインクC、マゼンタインクM、イエローインクYおよびブラックインクK毎の基準濃度値[T]を準備する。ここでは、予め測定された基準濃度値が記憶部52に記憶されている。記憶部52には、例えば、図6に示すテーブルが記憶されている。図6に示す例では、シアンインクCの基準濃度値の最大値は、2.4であり、マゼンタインクMの基準濃度値の最大値は、1.6であり、イエローインクYの基準濃度値の最大値は、1.0であり、ブラックインクKの基準濃度値の最大値は、2.0である。ステップS10において、テストチャートPCが印刷される回数n(nは1以上の整数)が1に設定される。
【0037】
ステップS20において、吐出制御部58は、第1インクヘッド40A~第4インクヘッド40Dの第1ノズル41および第2ノズル42から所定の制限インク量の所定のインクを吐出可能に制御し、シアンインクC、マゼンタインクM、イエローインクY、ブラックインクKの各インクによって、複数の第n(nは1以上の整数)テストパッチP1~P21を含む第nテストチャートPCを所定の記録媒体5に印刷する。なお、ステップS20において、1回目に印刷された複数のテストパッチP1~P21は、第1テストパッチの一例である。即ち、n回目に印刷された第nテストチャートPCの複数のテストパッチP1~P21は、第nテストパッチの一例である。ここでは、例えば、シアンインクC、マゼンタインクM、イエローインクYおよびブラックインクKの最初の制限インク値はそれぞれ80%に設定されている。
【0038】
ステップS30において、各第n(nは1以上の整数)テストパッチP1~P21の濃度値である第n対象濃度値をそれぞれ測定する。ここでは、測色器70によって、例えば、ステータスTにおける第n対象濃度値を取得する。取得された第n対象濃度値は記憶部52に記憶される。なお、ステップS30において、第1テストパッチに基づいて取得された第n対象濃度値は、第1対象濃度値の一例である。図8は、第1対象濃度値の一例である。図8に示す例では、横軸にインク値[%]が表され、縦軸に基準濃度値[T]が表されている。実線はシアンインクCのインク値と基準濃度値との関係を示し、破線はマゼンタインクMのインク値と基準濃度値との関係を示し、一点鎖線はイエローインクYのインク値と基準濃度値との関係を示し、二点鎖線はブラックインクKのインク値と基準濃度値との関係を示す。図8に示す例では、シアンインクCの第1対象濃度値の最大値は、2.2であり、マゼンタインクMの基準濃度値の最大値は、1.5であり、イエローインクYの基準濃度値の最大値は、1.1であり、ブラックインクKの基準濃度値の最大値は、2.3である。
【0039】
ステップS40において、判定部54は、シアンインクC、マゼンタインクM、イエローインクYおよびブラックインクK毎に第n対象濃度値の最大値が基準濃度値の最大値よりも低いか(小さいか)否かを判定する。第n対象濃度値の最大値が基準濃度値の最大値よりも低い場合には、ステップS50に進む。一方、第n対象濃度値の最大値が基準濃度値の最大値以上の場合には、ステップS70に進む。ここでは、判定部54は、まず、第1対象濃度値の最大値と基準濃度値の最大値とを比較する。図6および図8に示す例を比較すると、シアンインクCおよびマゼンタインクMの第1対象濃度値の最大値は、シアンインクCおよびマゼンタインクMの基準濃度値の最大値よりも低いため、シアンインクCおよびマゼンタインクMについては、ステップS50に進む。一方、イエローインクYおよびブラックインクKの第1対象濃度値の最大値は、イエローインクYおよびブラックインクKの基準濃度値の最大値よりも低いため、イエローインクYおよびブラックインクKについては、ステップS70に進む。ステップS40では、後述するステップS60の処理がn回実施されると、第(n+1)対象濃度値の最大値と基準濃度値の最大値とが比較される。例えば、ステップS60に処理が2回実施されると、第3対象濃度値と基準濃度値の最大値とが比較されることになる。
【0040】
ステップS50において、判断部55は、制限インク量と最大理論インク量とが等しいかを判断する。即ち、判断部55は、制限インク値が100%であるかを判断する。制限インク量と最大理論インク量とが等しくない場合(即ち、制限インク量が最大理論インク量より小さい場合)には、制限インク量を増加させることができるためステップS60に進む。一方、制限インク量と最大理論インク量とが等しい場合には、制限インク量を増加させることができないためステップS70に進む。
【0041】
ステップS60において、インク量増加部56は、最大理論インク量を超えない範囲内において制限インク量を所定量だけ増加させる。インク量増加部56は、制限インク量を第nインク量まで増加させる。即ち、インク量増加部56は、制限インク値を数%(例えば1%~5%程度。ここでは5%。)上げる。インク量増加部56は、図5に示すテーブルに基づいて、第1ノズル41および第2ノズル42から吐出される小ドットのインクの液滴SDと、中ドットのインクの液滴MDと、大ドットのインクの液滴LDとの割合(ここではドット発生率)を変更することによって、制限インク量を増加させる。例えば、インク量増加部56は、図5に示すテーブルに基づいて、第1ノズル41および第2ノズル42から吐出される中ドットのインクの液滴MDの割合を減らしかつ大ドットのインクの液滴LDの割合を増やして、制限インク量を増加させる。例えば、シアンインクCおよびマゼンタインクMについては、第1制限インク量まで増加される。このとき、シアンインクCおよびマゼンタインクMの制限インク値は85%である。制限インク値が85%のときは、制限インク値が80%のときと比較して、大ドットのインクの液滴LDの割合が増えかつ中ドットのインクの液滴MDの割合が減りかつインク液滴の合計重量TWが増えている。なお、第(n+1)制限インク量と第n制限インク量との差は、nが増えるにつれて小さくなるように設定されていてもよいし、同じであってもよい。例えば、第1制限インク量と制限インク量との差は、第2制限インク量と第1制限インク量との差と同じであってもよいし、異なっていてもよい。インク量増加部56は、テストチャートPCが印刷される回数nの値に「1」を加算する。そして、ステップS20に戻る。ステップS20では、吐出制御部58は、第1インクヘッド40A~第4インクヘッド40Dの第1ノズル41および第2ノズル42のうち、ステップS60において制限インク量が増加されたインクを吐出する第1ノズル41および第2ノズル42について、第(n-1)制限インク量の所定のインクを吐出可能に制御し、記録媒体5に第1ノズル41および第2ノズル42から所定のインクを吐出して、複数の第nテストパッチを含む第nテストチャートを印刷する。2回目に印刷された複数のテストパッチP1~P21は、第2テストパッチの一例である。その後、ステップS30~ステップS60を適宜繰り返す。また、制限インク量を所定量だけ増加させて、(n+1)個目のテストチャートPCを印刷した後、印刷されたテストチャートPCに滲みが発生しているか否かを例えば目視で判断する。滲みが発生していないと判断される場合、このまま処理を続ける。一方、滲みが発生していると判断される場合、n個目のテストチャートPCの第n対象濃度値に基づいてキャリブレーションを実行する。
【0042】
ステップS70において、実行部60は、ステップS30において測色器70によって測定された第n対象濃度値に基づいてキャリブレーションを実行する。例えば、シアンインクCについては、第3テストパッチの濃度値である第3対象濃度値に基づいてキャリブレーションが実行され、マゼンタインクMについては、第2テストパッチの濃度値である第2対象濃度値に基づいてキャリブレーションが実行され、イエローインクYおよびブラックインクKについては、第1テストパッチの濃度値である第1対象濃度値に基づいてキャリブレーションが実行される。このように、実行部60は、各インクについて複数の対象濃度値が測定された場合、第n対象濃度値に代えて、第(n+1)対象濃度値に基づいてキャリブレーションを実行する。上述した例では、シアンインクCについては、第2対象濃度値に代えて第3対象濃度値に基づいてキャリブレーションを実行し、マゼンタインクMについては、第1対象濃度値に代えて第2対象濃度値に基づいてキャリブレーションを実行する。これにより、図9に示すような補正テーブルがインク毎に取得される。図9では、横軸に補正前のインク値[%]が表示され、縦軸に補正後のインク値[%]が表示されている。取得された補正テーブルは、記憶部52に記憶される。また、キャリブレーションが行われたプリンタ10では、印刷を行うときにステップS70で取得された補正テーブルが用いられる。
【0043】
以上のように、本実施形態の印刷システム100によると、インク量増加部56は、判定部54によって第1対象濃度値の最大値が基準濃度値の最大値よりも低いと判定されたとき、最大理論インク量を超えない範囲内において制限インク量を第1制限インク量まで増加させる。そして、吐出制御部58は、第1インクヘッド40A~第4インクヘッド40Dの第1ノズル41および第2ノズル42から第1制限インク量の所定のインクを吐出可能に制御する。即ち、第1ノズル41および第2ノズル42から吐出されるインクの濃度が上昇する。さらに、吐出制御部58は、記録媒体5に第1ノズル41および第2ノズル42から所定のインクを吐出して、複数の第2テストパッチを含む第2テストチャートを印刷する。ここで、第1制限インク量は制限インク量より多いため、第2テストチャートの第2テストパッチの濃度値である第2対象濃度値は、第1テストチャートの第1テストパッチの濃度値よりも大きくなる。実行部60は、第2対象濃度値に基づいてキャリブレーションを実行するため、第1対象濃度値に基づいてキャリブレーションを実行する場合と比較して、キャリブレーション後にはより基準濃度値に近い濃度値のインクをインクヘッドから吐出することができる。
【0044】
本実施形態の印刷システム100では、吐出制御部58は、第1インクヘッド40A~第4インクヘッド40Dを制御して、シアンインクC、マゼンタインクM、イエローインクYおよびブラックインクKごとに複数の第1テストパッチを含む第1テストチャートを印刷するように構成されている。これにより、複数種類のインクを吐出することができる第1インクヘッド40A~第4インクヘッド40Dにおいて、インクの色毎にキャリブレーションを実行することができる。
【0045】
本実施形態の印刷システム100では、吐出制御部58は、第1インクヘッド40A~第4インクヘッド40Dを制御して、シアンインクC、マゼンタインクM、イエローインクYおよびブラックインクKのうち第1制限インク量まで増加された少なくとも1以上のインクに関して、インクごとに複数の第2テストパッチを含む第2テストチャートを印刷するように構成されている。これにより、第1制限インク量まで増加されていないインクについては、第2テストチャートを印刷しなくてもよくなるため、制御が簡略化されるとともにインクの消費を低減することができる。
【0046】
本実施形態の印刷システム100では、インク量増加部56は、第1ノズル41および第2ノズル42から吐出される小ドットのインクの液滴SDと、中ドットのインクの液滴MDと、大ドットのインクの液滴LDとの割合を変更することによって、制限インク量を増加させる。このように、上記割合を変更することによって、容易に制限インク量を増加させることができる。
【0047】
本実施形態の印刷システム100では、インク量増加部56は、第1ノズル41および第2ノズル42から吐出される中ドットのインクの液滴MDの割合を減らしかつ大ドットのインクの液滴LDの割合を増やして、制限インク量を増加させる。このように、中ドットのインクの液滴MDおよび大ドットのインクの液滴LDのみを適宜変更することで、容易に制限インク量を増加させることができる。
【0048】
本実施形態の印刷システム100では、実行部60は、第2対象濃度値に代えて、測色器70によって測定された複数の第3テストパッチの濃度値である第3対象濃度値に基づいてキャリブレーションを実行する。ここで、第2制限インク量は第1制限インク量より多いため、第3テストチャートの第3テストパッチの濃度値である第3対象濃度値は、第2テストチャートの第2テストパッチの濃度値よりも大きくなる。実行部60は、第3対象濃度値に基づいてキャリブレーションを実行するため、第2対象濃度値に基づいてキャリブレーションを実行する場合と比較して、キャリブレーション後にはより基準濃度値に近い濃度値のインクを第1インクヘッド40A~第4インクヘッド40Dの第1ノズル41および第2ノズル42から吐出することができる。
【0049】
本実施形態の印刷システム100では、第1制限インク量と制限インク量との差は、第2制限インク量と第1制限インク量との差と同じである。なお、第1制限インク量と制限インク量との差は、第2制限インク量と第1制限インク量との差より大きくてもよい。これにより、より精度よくキャリブレーションを行うことができると共に、記録媒体5に着弾したインクの滲みの発生をより抑制することができる。
【0050】
以上、本発明の好適な実施形態について説明した。しかし、上述の各実施形態は例示に過ぎず、本発明は他の種々の形態で実施することができる。
【0051】
上述した実施形態では、同一のプリンタ10においてキャリブレーションを行う場合を例に説明したが、複数のプリンタ間において、1つの基準プリンタの色に合わせるように他のプリンタにおいてキャリブレーションを行ってもよい。この場合、上述したステップS10において、基準プリンタを用いてマゼンタインクM、イエローインクYおよびブラックインクK毎に複数のテストパッチP1~P21を含むテストチャートPCを所定の記録媒体5に印刷し、測色器70によってテストパッチP1~P21の濃度値を測定して、これを基準濃度値[T]としてもよい。
【符号の説明】
【0052】
10 プリンタ
40A~40D 第1インクヘッド~第4インクヘッド
41 第1ノズル
42 第2ノズル
50 制御装置
52 記憶部
54 判定部
55 判断部
56 インク量増加部
58 吐出制御部
60 実行部
70 測色器
100 印刷システム
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9