(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-03
(45)【発行日】2022-10-12
(54)【発明の名称】液滴吐出システム、画像形成装置、液滴吐出方法
(51)【国際特許分類】
B41J 2/01 20060101AFI20221004BHJP
B41M 5/00 20060101ALI20221004BHJP
B05C 5/00 20060101ALN20221004BHJP
【FI】
B41J2/01 123
B41J2/01 401
B41J2/01 451
B41M5/00 132
B05C5/00 101
(21)【出願番号】P 2018140418
(22)【出願日】2018-07-26
【審査請求日】2021-05-20
(31)【優先権主張番号】P 2017205617
(32)【優先日】2017-10-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006747
【氏名又は名称】株式会社リコー
(74)【代理人】
【識別番号】100090527
【氏名又は名称】舘野 千惠子
(72)【発明者】
【氏名】原田 祥宏
(72)【発明者】
【氏名】玉井 崇詞
(72)【発明者】
【氏名】花澤 宏文
(72)【発明者】
【氏名】小島 さゆり
【審査官】大浜 登世子
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-218860(JP,A)
【文献】特開2016-068306(JP,A)
【文献】特開2011-121315(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2006/0158494(US,A1)
【文献】特開2011-121335(JP,A)
【文献】特開2009-166387(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2014/0232783(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41J 2/01 - 2/215
B41M 5/00
B05C 5/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
媒体に前処理を行う前処理実行部と、
画像形成出力対象の画像情報に基づいて、前記前処理の実行態様を制御する前処理実行制御部と、
前記画像情報に基づいて前記媒体に液滴を吐出する液滴吐出部と、
前記液滴吐出部を制御する印刷制御部と、
前記印刷制御部と前記前処理実行制御部を制御する制御部と、
を含み、
前記前処理実行部は、複数の種類の前処理剤を前処理剤吐出ヘッドにより吐出可能であり、
前記前処理剤を前記媒体に付着させ、
前記液滴吐出部は、複数の種類の前記液滴を吐出可能であり、
前記制御部は、前記液滴の種類と前記前処理剤の種類の組み合わせを記憶したテーブルを参照して前記組み合わせを選択することにより、前記液滴が前記媒体に付着することで形成されるドットを制御
し、
前記前処理剤は、多価金属塩と、グリセリンと、分子量が100以上200以下であるベタイン化合物と、を含み、
前記グリセリンおよび前記ベタイン化合物の合計含有量は、前記多価金属塩の含有量に対して、質量基準で1.05倍以上2.50倍以下であることを特徴とする液滴吐出システム。
【請求項2】
前記前処理実行部は、
前処理剤を前記媒体に付着させ、
前記前処理実行制御部は、
前記媒体に付着させる前記前処理剤に含まれる反応剤の濃度を制御することを特徴とする請求項1に記載の液滴吐出システム。
【請求項3】
前記前処理実行部は、
前処理剤を前記媒体に付着させ、
前記前処理実行制御部は、
前記媒体に付着させる前記前処理剤の量を制御することを特徴とする請求項1に記載の液滴吐出システム。
【請求項4】
前記画像情報は、前記画像形成出力対象の画像が、文字、写真、表のいずれかであることを示す画像種類情報を少なくとも含み、
前記前処理実行制御部は、
前記画像種類情報に基づいて、前記前処理の実行態様を制御することを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の液滴吐出システム。
【請求項5】
前記画像情報に基づいて前記画像形成出力対象の画像が、文字、写真、表のいずれかであることを判定する画像種類判定部を含み、
前記前処理実行制御部は、
文字、写真、表のいずれかであると判定された前記画像情報に基づいて、前記前処理の実行態様を制御することを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の液滴吐出システム。
【請求項6】
前記前処理剤は、凝集剤を含み、
前記液滴は、着色剤を含み、
前記前処理実行部は、凝集剤の濃度が異なる前記前処理剤を前記前処理剤吐出ヘッドにより吐出可能であり、
前記制御部は、前記テーブルを参照して前記組み合わせを選択することにより、前記ドットにおける着色剤の分布具合及び前記ドットの大きさを制御することを特徴とする請求項1から請求項5のいずれか一項に記載の液滴吐出システム。
【請求項7】
前記画像情報に基づいて前記画像形成出力対象の画像が、文字、写真のいずれかであることを判定する画像種類判定部を含み、
前記制御部は、
前記画像形成出力対象の画像が写真である場合、前記ドットの大きさが基準となるドットの大きさよりも大きくなる前記組み合わせを選択し、かつ、前記ドットの着色剤の濃度がドットの中心に向かって濃くなる前記組み合わせを選択し、
前記画像形成出力対象の画像が文字の場合、前記ドットの大きさが基準となるドットの大きさよりも小さくなる前記組み合わせを選択し、かつ、前記ドットの着色剤の濃度がドットの中心に向かって均一になる前記組み合わせを選択することを特徴とする請求項6に記載の液滴吐出システム。
【請求項8】
前記前処理実行部は、
前記前処理として、前記媒体に対して、当該媒体に吐出される前記液滴に含まれる着色剤の分散状態を変化させて当該液滴の挙動を制御するための処理を実行することを特徴とする請求項1から請求項7のいずれか一項に記載の液滴吐出システム。
【請求項9】
前記前処理実行部は、
前処理剤を前記媒体に付着させ、
前記前処理剤は、15ms動的表面張力が35mN/m以上65mN/m以下であることを特徴とする請求項1から請求項8のいずれか一項に記載の液滴吐出システム。
【請求項10】
前記前処理実行部は、
前処理剤を前記媒体に付着させ、
前記前処理剤は、静的表面張力が20mN/m以上35mN/m以下であることを特徴とする請求項1から請求項9のいずれか一項に記載の液滴吐出システム。
【請求項11】
前記グリセリンおよび前記ベタイン化合物の合計含有量は、前記多価金属塩の含有量に対して質量基準で1.05倍以上1.40倍以下であることを特徴とする
請求項1から請求項10のいずれか一項に記載の液滴吐出システム。
【請求項12】
前記ベタイン化合物の含有量は、前記グリセリンおよび前記ベタイン化合物の合計含有量に対して、質量基準で0.1倍以上0.5倍以下であることを特徴とする
請求項1から請求項11のいずれか一項に記載の液滴吐出システム。
【請求項13】
媒体に前処理を行う前処理実行部と、
画像形成出力対象の画像情報に基づいて、前記前処理の実行態様を制御する前処理実行制御部と、
前記画像情報に基づいて前記媒体に液滴を吐出する液滴吐出部と、
前記液滴吐出部を制御する印刷制御部と、
前記印刷制御部と前記前処理実行制御部を制御する制御部と、
を含み、
前記前処理実行部は、複数の種類の前処理剤を前処理剤吐出ヘッドにより吐出可能であり、
前記前処理剤を前記媒体に付着させ、
前記液滴吐出部は、複数の種類の前記液滴を吐出可能であり、
前記制御部は、前記液滴の種類と前記前処理剤の種類の組み合わせを記憶したテーブルを参照して前記組み合わせを選択することにより、前記液滴が前記媒体に付着することで形成されるドットを制御
し、
前記前処理剤は、多価金属塩と、グリセリンと、分子量が100以上200以下であるベタイン化合物と、を含み、
前記グリセリンおよび前記ベタイン化合物の合計含有量は、前記多価金属塩の含有量に対して、質量基準で1.05倍以上2.50倍以下であることを特徴とする画像形成装置。
【請求項14】
画像形成出力対象の画像情報に基づいて、媒体に前処理を行う際に、前記前処理の実行態様を制御し、
前記画像情報に基づいて前記媒体に液滴を吐出する液滴吐出方法であって、
複数の種類の前処理剤を吐出可能な前処理剤吐出ヘッドにより前記前処理を行い、
複数の種類の前記液滴を吐出可能であり、
前記液滴の種類と前記前処理剤の種類の組み合わせを記憶したテーブルを参照して前記組み合わせを選択することにより、前記液滴が前記媒体に付着することで形成されるドットを制御
し、
前記前処理剤は、多価金属塩と、グリセリンと、分子量が100以上200以下であるベタイン化合物と、を含み、
前記グリセリンおよび前記ベタイン化合物の合計含有量は、前記多価金属塩の含有量に対して、質量基準で1.05倍以上2.50倍以下である
ことを特徴とする液滴吐出方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液滴吐出システム、画像形成装置、液滴吐出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電子化された情報の出力に用いられる装置の一態様として、インクジェット方式を採用したプリンタ(以降、「インクジェット装置」という)が知られている。インクジェット装置における情報出力の一態様である画像形成出力では、画像の形成に用いられるインクなどの液滴を記録ヘッドから吐出し、画像を形成する対象物である媒体(例えば紙)に付着させる。
【0003】
媒体に付着させるインクの量を制御することにより画像を形成するインクのドットの大きさを所定の大きさにし、インクのドットを2次元方向に並べるように媒体に付着させることによって、画像を形成することができる。インクジェット方式を用いた画像形成出力では、インクのドットの大きさを調整し、また配置に粗密をつけるなどの調整をすることによって画像の階調やグラデーションを繊細に表現することができる。
【0004】
しかしながら、インクジェット方式には、媒体上に形成した画像の質を低下させる原因となる課題がある。すなわち、インクの濡れが広がる速さによっては、媒体に付着させたインクが媒体上を流動するとインクが媒体上で広がってインクのドット同士がつながるビーディング現象が生じる。また、インクの流動によってインクのドットがにじむブリード現象などが生ずる。このような現象が発生すると媒体に形成した画像の質が低下する。
【0005】
これに対して、液滴を吐出する前に媒体に前処理剤を塗布し、媒体に吐出されたインクの粘性を変化させ、媒体に対するインクの濡れが広がる速さ、すなわち媒体に対するインクの挙動を制御する技術が開示されている(例えば、特許文献1参照)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1は、前処理が記録媒体上の位置によらず記録媒体の一面に対して一様に行われる。そのため、画質を高めるために液滴の大きさを調整したとしても、インクの濡れが広がる速さによっては、媒体上でインクが流動し、画質が低下してしまう場合がある。
【0007】
そのため、特許文献1に開示されている技術を適用したとしても、媒体上におけるインクの濡れが広がる速さ、すなわちインクなどの液滴の挙動を、媒体に形成される画像に適したように制御できず、媒体に形成される画像の品質を低下させる要因になる。
【0008】
本発明は、上記実情を考慮してなされたものであり、インクジェット装置から吐出される液滴の挙動を制御して、媒体に形成される画像の品質を向上させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明の一態様は、媒体に前処理を行う前処理実行部と、画像形成出力対象の画像情報に基づいて、前記前処理の実行態様を制御する前処理実行制御部と、前記画像情報に基づいて前記媒体に液滴を吐出する液滴吐出部と、前記液滴吐出部を制御する印刷制御部と、前記印刷制御部と前記前処理実行制御部を制御する制御部と、を含み、前記前処理実行部は、複数の種類の前処理剤を前処理剤吐出ヘッドにより吐出可能であり、前記前処理剤を前記媒体に付着させ、前記液滴吐出部は、複数の種類の前記液滴を吐出可能であり、前記制御部は、前記液滴の種類と前記前処理剤の種類の組み合わせを記憶したテーブルを参照して前記組み合わせを選択することにより、前記液滴が前記媒体に付着することで形成されるドットを制御し、前記前処理剤は、多価金属塩と、グリセリンと、分子量が100以上200以下であるベタイン化合物と、を含み、前記グリセリンおよび前記ベタイン化合物の合計含有量は、前記多価金属塩の含有量に対して、質量基準で1.05倍以上2.50倍以下であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、インクジェット装置から吐出される液滴の挙動を制御して、媒体に形成される像の品質を向上させることとすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図3】記録媒体に付着した液滴によって形成されるドットを示す図。
【
図4】本発明の第1の実施形態に係るインクジェットシステムの概略を示す図。
【
図5】本発明の第1の実施形態に係る液滴を吐出する吐出ヘッドの構成図。
【
図6】本発明の第1の実施形態に係る着色剤吐出ヘッドの概略構成を示す断面図。
【
図7】本発明の第1の実施形態に係る本実施形態に係るインクジェットシステムの運用形態を示す図。
【
図8】本発明の第1の実施形態に係るDFEのハードウェア構成を示す図。
【
図9】本発明の第1の実施形態に係るインクジェット装置および前処理装置の機能構成を示すブロック図。
【
図10】本発明の第1の実施形態に係るDFEの機能構成を示すブロック図。
【
図11】本発明の第1の実施形態に係る主制御部の機能構成を示すブロック図。
【
図12】本発明の第1の実施形態に係る特性情報データテーブルの構成を示す図。
【
図13】本発明の第1の実施形態に係る前処理剤塗付領域の形成態様を示す図。
【
図14】本発明の第1の実施形態に係る液滴の吐出態様を示す図。
【
図15】本発明の第1の実施形態に係る位置情報を例示した図。
【
図16】本発明の第1の実施形態に係る前処理剤の量を算出する処理の流れを示すフローチャート。
【
図17】本発明の第2の実施形態に係るインクジェットシステムの概略を示す図。
【
図18】本発明の第2の実施形態に係る画像形成装置の透視図。
【
図19】本発明の第2の実施形態に係る画像形成装置の透視図。
【
図20】本発明の第2の実施形態に係る画像形成装置の機能構成を示す図。
【
図21】本発明の第2の実施形態に係る画像形成出力を行う処理の流れを示すシーケンス図。
【
図22】本発明の第3の実施形態に係るインクジェットシステムの概略を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しながら説明する。以下において説明する実施形態は、本発明に係る像形成剤の一例であるインクを媒体の一例である印刷用紙に吐出することで、像形成物の一例である画像を形成するものである。まず、印刷用紙などの記録媒体に吐出されたインク滴の挙動の一例として、インク滴の流動性について説明する。
【0013】
図1(a)から(c)は、着色剤として顔料粒子Pを含んだインク滴である液滴LDの記録媒体Mに対する流動性を説明する説明図である。
図1(a)は、液滴LDが吐出されて印刷用紙である記録媒体Mに接触する直前の様子を示す図である。
図1(a)に示すように、液滴LDは、顔料粒子Pと溶媒Lからなる。
【0014】
また、記録媒体Mの表面には、顔料粒子Pの分散状態を変化させて顔料粒子Pを凝集させる反応剤である凝集剤AGが塗布されているものとする。凝集剤AGを記録媒体Mの表面に塗布する処理を「前処理」と呼ぶ。前処理は、記録媒体Mに対して液滴LDを吐出する前に予め施されている。この前処理によって、液滴LDの吐出先である記録媒体Mの表面には、前処理剤塗付領域PCが形成される。
【0015】
図1(a)は、液滴LDが記録媒体Mに接触する直前の溶媒Lに対する顔料粒子Pの分散状態を示す図である。
図1(a)に示すように、液滴LDは、溶媒Lに顔料粒子Pが分散した状態で形成される。着色剤として顔料を含む顔料インクの場合、溶剤や樹脂などの溶媒Lに顔料粒子Pが均一に分散して存在している。
【0016】
図1(b)は、液滴LDが記録媒体Mに付着した瞬間の溶媒Lに対する顔料粒子Pの分散状態を示す図である。液滴LDが記録媒体Mに付着すると、前処理剤塗付領域PCに含まれる凝集剤AGによって、顔料粒子Pが凝集し、溶媒Lに対する顔料粒子Pの分散状態が均一ではなくなる。
【0017】
図2は、液滴LDにおける顔料粒子Pの溶媒Lに対する分散状態を例示している。以下の説明においては、記録媒体Mに付着する前の液滴LDが、
図2(a)に示すような状態、すなわち、顔料粒子Pが溶媒Lに対して均一に分散して存在しているものと仮定する。
図2(b)は、記録媒体Mに形成されている前処理剤塗付領域PCの効果により溶媒Lに対して顔料粒子Pの分布が不均一になった状態を例示している。
【0018】
図2(a)に示すように、溶媒Lに対して均一に分散している顔料粒子Pの大きさは、粒子径rとした場合、溶媒Lに対して一様に分布していた顔料粒子Pが、
図2(b)に示すように互いに凝集すると、顔料粒子Pの見かけ上の粒子の大きさが粒子径rから粒子径r´へと大きくなる。また、顔料粒子Pが凝集することによって、溶媒Lに対する顔料粒子Pの分散状態が均一ではなくなる。
【0019】
このとき、溶媒Lに分散している顔料粒子Pが移動するときの係数である拡散係数Dは、式1に示すストークス‐アインシュタインの式に従って、絶対温度Tに比例し、移動する顔料粒子Pの大きさに逆比例する。ストークス‐アインシュタインの式は、溶媒Lの粘度ηと拡散係数Dとの関係に基づいて溶媒Lに分散している顔料粒子Pの拡散状態を表す式である。
【0020】
【0021】
式1において、Dは拡散係数、ηは溶媒Lの粘度、Tは絶対温度、kBはボルツマン定数、aは粒子半径である。式1に示すように、顔料粒子Pの大きさが大きくなるほど、拡散係数Dは小さくなり、溶媒Lに対する顔料粒子Pの移動の自由度が小さくなる。したがって、顔料粒子Pが凝集すると、液滴LDは流動しにくくなる。
【0022】
一般的に記録媒体Mに付着した液滴LDは、付着箇所の周囲に向かって流動して広がるため、液滴LDが記録媒体M上で固着するときには、液滴LDが記録媒体Mに接触した瞬間よりも液滴LDの大きさが大きくなる。しかし、上記のように顔料粒子Pの凝集により液滴LDが流動しにくくなると、記録媒体Mに付着している液滴LDの大きさも変化しにくくなり、記録媒体M上で固着するときの液滴LDの大きさは、液滴LDが流動しやすいときの大きさよりも小さくなる。すなわち、液滴LDが付着箇所から周囲へ広がりにくくなる。
【0023】
図1(c)は、液滴LDが記録媒体Mに浸透する様子を示す図である。
図1(c)に示すように、記録媒体Mが普通紙などの浸透性の媒体である場合、液滴LDは、前処理剤塗付領域PCおよび記録媒体Mへと浸透し、記録媒体Mに固着する。そして、固着した液滴LDが乾燥して、記録媒体Mに顔料粒子PのドットDtが形成される。
【0024】
図3(a)、(b)は、記録媒体Mに付着した液滴LDによって形成されるドットDtを示す図である。なお、
図3(a)の前処理剤塗付領域PCに含まれる凝集剤AGの濃度を凝集剤濃度AGC1、
図3(b)の前処理剤塗付領域PCに含まれる凝集剤AGの濃度を凝集剤濃度AGC2とする。
【0025】
液滴LDが記録媒体Mに浸透するとき、液滴LDの濡れ広がりやすさと、液滴LDに含まれる顔料粒子Pの移動の自由度とのバランスによって、液滴LDが記録媒体Mに付着することで形成されるドットDtと、ドットDtにおける顔料粒子Pの分散状態に差異が生じる。具体的には、
図3(a)、(b)に示すように、ドットDtにおける顔料粒子Pの分布濃度の均一性に差異が生じる。
【0026】
図3(a)は、凝集剤濃度AGC1の前処理剤PCAによって前処理剤塗付領域PCが形成された記録媒体Mに対して形成された顔料粒子PのドットDt-1を示す図である。ドットDt-1は、ドットの中心部から外周部に向かうほど、顔料粒子Pの分布濃度が低下している。
【0027】
図3(b)は、凝集剤濃度AG2の前処理剤PCAによって前処理剤塗付領域PCが形成された記録媒体Mに対して形成された顔料粒子PのドットDt-2を示す図である。ドットDt-2は、ドット内の位置によらず、顔料粒子Pの分布濃度が一定である。なお、
図3(a)及び
図3(b)に示すように、ドットDt-1は、ドットDt-2よりも大きい。言い換えると、ドットDt-2の大きさは、ドットDt-1よりも小さい。
【0028】
前処理剤塗付領域PCにおける凝集剤濃度AGCは、記録媒体Mに対して液滴LDが濡れ広がる速さを変化させる要因である、例えば、記録媒体Mに対する液滴LDの接触角、凝集剤AGが液滴LDの溶媒Lに拡散する速度などに影響を与える。したがって、顔料粒子Pの分布濃度の均一性における差異は、前処理剤塗付領域PCにおける凝集剤濃度AGCの違いによるものである。
【0029】
そして、凝集剤濃度AGCによって、液滴LDが記録媒体Mに接触したときの接触角が変化するため、液滴LDと記録媒体Mとの接触面積も変化する。このとき、記録媒体Mに対する液滴LDが濡れ広がる速さ、すなわち記録媒体Mに対する液滴LDの挙動の違いを示す例として、記録媒体Mの表面に対する液滴LDの接触角の大小によって、記録媒体Mに対する液滴LDの付着具合を示す指標である濡れ性を評価することができる。
【0030】
このとき、記録媒体Mに対する液滴LDの接触角が小さいほど濡れ性が良いと評価される。したがって、濡れ性が良いほど、液滴LDと記録媒体Mとの接触面積が大きくなり、記録媒体Mに対する液滴LDの濡れ広がりが早くなるため、記録媒体Mに形成されるドットDtの大きさも大きくなる。
【0031】
一方で、濡れ性が悪いほど、液滴LDと記録媒体Mとの接触面積が小さくなり、記録媒体Mに対する液滴LDの濡れ広がりが遅くなり、記録媒体Mに形成されるドットDtの大きさが小さくなる。
【0032】
このように、前処理剤塗付領域PCにおける凝集剤濃度AGCが異なる場合には、液滴LDにおける顔料粒子Pの凝集具合にも差異が生じるため、記録媒体Mに対する液滴LDの挙動が変化する。したがって、前処理剤塗付領域PCにおける凝集剤濃度AGCによって、液滴LDが形成するドットDtの顔料粒子Pの分布濃度の均一性に差異が生じる。このような現象は、液滴LDに含まれる材料の性質と、前処理剤塗付領域PCに含まれる材料の性質との組み合わせによって変化する。
【0033】
なお、付着する液滴LDの大きさが変化した場合であっても、前処理剤塗付領域PCにおける凝集剤濃度AGCによって、ドットDtにおける顔料粒子Pの分布濃度の均一性に差異が生じるという関係性は維持される。
【0034】
このような液滴LDの挙動が変化にともなって生じるドットDtにおける顔料粒子Pの分布濃度の差異によって、液滴LDを吐出して記録媒体Mに形成される画像の質(画質)が低下することがある。例えば、文字や細い線を含む画像を記録媒体Mに形成するときに、ドットDtの大きさが大きく、ドットDtにおける顔料粒子Pの分布濃度が一定ではない場合には、記録媒体Mに形成された文字や線がぼやけてしまう可能性がある。
【0035】
一方、写真などを含む画像を記録媒体Mに形成するときに、ドットDtの大きさが小さく、ドットDtにおける顔料粒子Pの分布濃度が一定である場合には、記録媒体Mに形成された画像の粒状感が目立ってしまう可能性がある。例えば、文字や細い線がぼやけたり、写真などを含む画像において粒状感が目立ってしまうと、形成された画像の質が低くなる。
【0036】
そこで、本発明においては、記録媒体Mに付着した液滴LDの挙動を制御するようにする。このとき、液滴LDの挙動を制御するための記録媒体Mへの前処理を、画像形成出力される画像の種類に基づいて実行する。言い換えると、画像形成出力される画像の種類に基づいて、前処理の実行態様を制御することによって記録媒体Mに対する液滴LDの挙動を制御する。これによって、より品質のよい画像形成出力を実行可能とすることが本発明の要旨である。
【0037】
画像の種類とは、例えば文字または写真などである。画像の種類として、表などの種類を含んでもよい。また、本発明においては、例えば、記録媒体Mに吐出する前処理剤の量を変更すること、記録媒体Mに吐出する前処理剤を凝集剤濃度ACGが異なる前処理剤へ変更することを、前処理の実行態様を制御することとする。具体的な制御の方法については後述する。
【0038】
実施の形態1.
本実施形態では、記録媒体を搬送して、固定された吐出ヘッドから吐出される液滴によって画像形成出力を実行するラインヘッド方式のインクジェット装置を例として説明を行う。
【0039】
図4は、本実施形態に係るインクジェットシステム4の概略を示す図である。
図4に示すように、本実施形態に係るインクジェットシステム4は、DFE(Digital Front End)1、インクジェット装置2、前処理装置3、記録媒体Mであるロール紙Mdの搬送方向Xmに沿って配置された搬入部17、乾燥部30および搬出部60を備えている。
【0040】
DFE1は、インクジェットシステム4を構成する各部に対して命令情報を送信して、その動作を制御して画像形成出力を実行させる。したがって、DFE1は、画像形成出力制御装置として機能する。また、DFE1は、画像形成出力の対象となる画像の情報に基づいてRIP(Raster Image Processor)処理を実行して、ラスターデータを生成する。
【0041】
DFE1は、ラスターデータやDFE1に入力されたビットマップデータなどを用いてインクジェット装置2および前処理装置3に画像形成出力を実行させる。したがって、DFE1に入力されたビットマップデータやDFE1で生成されたラスターデータは、画像形成出力を実行する際に、インクジェット装置2および前処理装置3が参照する描画情報に相当する。この描画情報は、後述するように、前処理装置3の動作を制御し、インクジェット装置2の動作を制御する像形成情報の一部である。
【0042】
インクジェット装置2は、ブラック(K)、シアン(C)、マゼンタ(M)、イエロー(Y)の4色の着色剤吐出ヘッド21K、21C、21M、21Y(以後、「着色剤吐出ヘッド21」という)を含む液滴吐出装置である。なお、以下の説明においては、かっこ内に示した記号を用いて着色剤吐出ヘッド21から吐出される液滴LDの色を示すこととする。
【0043】
また、本実施形態においては、着色剤として顔料粒子Pが含まれたインクなどの着色液滴がインクジェット装置2から吐出されると仮定して説明を行う。したがって、着色剤吐出ヘッド21は、液滴吐出部として機能する。
【0044】
前処理装置3は、顔料粒子Pの分散状態を変化させる特性を有する凝集剤AGを吐出する前処理剤吐出ヘッド31H、31Lを含む液滴吐出装置である。前処理剤吐出ヘッド31Hは、凝集剤AGの濃度が高い液滴LD(第1処理液滴)として前処理剤AGHを吐出する吐出ヘッドであり、第1液滴吐出部として機能する。また、前処理剤吐出ヘッド31H、31Lを含む前処理剤吐出ヘッド31は前処理実行部として機能する。
【0045】
前処理剤吐出ヘッド31Lは、凝集剤AGの濃度が低い液滴LD(第2処理液滴)として前処理剤AGLを吐出する吐出ヘッドであり、第2液滴吐出部として機能する。前処理剤吐出ヘッド31H、31Lは、処理液滴として前処理剤AGLを吐出する処理液滴吐出部として機能する。
【0046】
本実施形態において、記録媒体Mはロール状に巻かれた連続紙(以下、「ロール紙Md」という)である。連続紙として、ロール状に巻かれたものでなく、例えば、所定の間隔ごとにミシン目が形成された連帳紙あるいは連続帳票などの連続紙を用いてもよい。また、記録媒体Mは所定のサイズにカットされたカット紙であってもよい。さらに、紙でなくフィルムであってもよい。
【0047】
搬入部17は、給紙部18および複数の搬入側搬送ローラ19を有し、搬入側搬送ローラ19を用いて、給紙部18にあるロール紙Mdを前処理装置3に搬入する。前処理装置3は、搬入部17から搬送されてきたロール紙Mdに凝集剤AGを含む液滴LDを吐出してロール紙Mdの表面に前処理剤塗付領域PCを形成する。
【0048】
インクジェット装置2は、前処理剤塗付領域PCが形成されたロール紙Mdに、着色剤として顔料もしくは染料を含んだ液滴を吐出してロール紙Mdの表面に画像を形成する。乾燥部30は、画像が形成されたロール紙Mdを、例えば加熱することにより乾燥させる。搬出部60は、画像が形成されたロール紙Mdを搬出し、搬出側搬送ローラ62を用いて保管部61に画像が形成されたロール紙Mdを巻き付ける。
【0049】
なお、ロール紙Mdを保管部61の保管ロールに巻き付けるときに、ロール紙Mdに作用する圧力が大きくなる場合には、ロール紙Mdの裏面に他の画像が転写しないようにするために、保管部61で巻き取る直前にロール紙Mdを乾燥させるための乾燥機構を設けてもよい。
【0050】
このように、本実施形態に係るインクジェットシステム4は、搬入部17によってロール紙Mdを前処理装置3およびインクジェット装置2に搬送してロール紙Mdの表面に画像を形成する。そして、画像が形成されたロール紙Mdを乾燥部30によって乾燥させて搬出部60によって巻き取ることで、インクジェットシステム4の外部に搬出可能な状態にする。
【0051】
次に、
図5を参照して、本実施形態に係る液滴LDを吐出する吐出ヘッドの構成について説明する。
図5に示すように、インクジェットシステム4は、前処理剤吐出ヘッド31H、31L、着色剤吐出ヘッド21K、21C、21M、21Yを備える。ロール紙Mdの搬送方向Xmの上流側に前処理剤吐出ヘッド31H、31Lが配置され、前処理剤吐出ヘッド31H、31Lよりも下流側に着色剤吐出ヘッド21K、21C、21M、21Yが配置されている。
【0052】
すなわち、インクジェットシステム4は、像を形成する対象物である媒体の一種としてロール紙Mdを搬送しながら、その搬送方向Xmの上流側において像の形成位置に対する前処理を行うために処理剤を付着させる。ロール紙Mdに処理剤が付着した領域を処理領域として、当該処理領域に対して着色剤を付着させて、像(画像)を形成する。
【0053】
なお、本実施形態では、吐出ヘッドの構成としてK、C、M、Yの配置の順序のものを例示しているが、これに限定されず、例えば、色の配置順をY、M、C、Kとしてもよい。また、色の組み合わせは、K、C、M、Yに限らず、グリーン(G)、レッド(R)、およびライトシアン(LC)などの3色でもよい。また、色の組み合わせは、組み合わせとしてではなく、ブラック(K)1色でもよい。
【0054】
着色剤吐出ヘッド21Kは、第1ヘッド21K-1、第2ヘッド21K-2、第3ヘッド21K-3、第4ヘッド21K-4は、ブラック(K)の着色剤吐出ヘッド21Kにおいて、ロール紙Mdの搬送方向Xmと直交する方向に千鳥状に配置されている。
【0055】
インクジェット装置2では、第1ヘッド21K-1、第2ヘッド21K-2、第3ヘッド21K-3、第4ヘッド21K-4を千鳥状に配置することによって、記録媒体Mに対して画像が形成される領域の幅方向、すなわちロール紙Mdの搬送方向Xmと直交する方向の領域に画像形成を行うことができる。
【0056】
なお、K、C、M、Yの各色の着色剤吐出ヘッド21、および、前処理剤吐出ヘッド31H、31Lの各吐出ヘッドもブラック(K)の着色剤吐出ヘッド21Kと同様の構成であるため、重複する説明は省略する。
【0057】
図6は、着色剤吐出ヘッド21Kの概略構成を示す断面図である。着色剤吐出ヘッド21Kは、流路板41、振動板42、ノズル板43、フレーム部材44および圧力発生部45を有する。流路板41は、吐出する液滴LDの通路を形成する。流路板41は、例えば結晶面方位(110)の単結晶シリコン基板からなる。
【0058】
流路板41は、水酸化カリウム(KOH)水溶液などのアルカリ性エッチング液によって異方性エッチングすることで、ノズル連通路40Rおよび液室40Fを形成する。なお、流路板41に用いることができる材料は、単結晶シリコン基板に限られない。例えば、流路板41の材料として、ステンレス、感光性樹脂、およびその他材料などを用いてもよい。
【0059】
振動板42は、例えば、ニッケル電鋳(例えば、エレクトロフォーミング法、電鋳法など)で加工された金属プレートからなる。なお、振動板42は、ニッケル以外の金属板、または、金属と樹脂板との接合部材などでもよい。振動板42は流路板41の下面に、すなわち着色剤吐出ヘッド21Kの内部方向に接合されている。振動板42は、圧力発生部45によって力が加えられることによって変形する。
【0060】
ノズル板43は、例えば、単結晶シリコン基板からなる。ノズル板43は、流路板41と同様に異方性エッチングによって加工される。なお、ノズル板43は、金属部材によって構成された外形表面に所要の層を介して撥水層が形成された構成であってもよい。ノズル板43は、流路板41の上面、すなわち着色剤吐出ヘッド21Kの外部方向に接合されている。
【0061】
また、ノズル板43は、液滴LDを吐出する複数のノズル40Nを有する。具体的には、各液室40Fに対応して直径10~30μmのノズル40Nがノズル板43に形成されている。
【0062】
フレーム部材44は、エポキシ系樹脂などの熱硬化性樹脂またはポリフェニレンサルファイト(PPS)からなる。その他、同様の特性を有する樹脂をフレーム部材44の素材として使用してもよい。フレーム部材44は、圧力発生部45を収納する収容部44I、共通液室40CRとなる凹部、共通液室40CRに吐出ヘッド外部からインクを供給するためのインク供給口40INを備え、射出成形で加工されている。フレーム部材44は、振動板42の周縁部を保持する。
【0063】
圧力発生部45は、圧電素子45P、圧電素子45Pを接合固定するベース基板45B、および隣り合う圧電素子45Pの間隙に配置された支柱部を有する。また、圧力発生部45には、圧電素子45Pを駆動回路に繋ぐFPC(Flexible Printed Circuits)ケーブル45Cが接続されている。
【0064】
圧電素子45Pとして、例えば、圧電材料と内部電極とを交互に積層した積層型圧電素子(PZT)が使用される。内部電極は、複数の個別電極と複数の共通電極とを有し、圧電素子45Pの端面に交互に個別電極または共通電極が接続されている。
【0065】
圧電素子45Pの圧電方向は、例えば、圧電素子45Pの結晶体に対して、分極方向に平行に電場を加えた場合、結晶体が長くなる方向(以後、「d33モード」という)である。圧力発生部45は、圧電素子45Pのd33モードに、圧電効果を用いて液室40F内のインクを加圧し、または減圧する。
【0066】
なお、圧電素子45Pの圧電方向は、圧電素子45Pの結晶体に対して、分極方向に平行に電場を加えた場合、結晶体が短くなる方向であるd31モードに液室40F内のインクを加圧し、または減圧してもよい。また、圧力発生部45は、インクの吐出口である1つのノズル40Nに対して1列の圧電素子を配置してもよい。
【0067】
なお、支柱部は、圧電素子部材である圧電素子45Pを分割して圧電素子45Pと同時に形成してもよい。すなわち、吐出ヘッド40Kは、電圧を印加しない圧電素子45Pを部材とした支柱部として用いてもよい。なお、K、C、M、Yの各色の着色剤吐出ヘッド21、および、前処理剤吐出ヘッド31H、31Lの各吐出ヘッドもブラック(K)の着色剤吐出ヘッド21Kと同様の構成であるため、重複する説明は省略する。
【0068】
次に、着色剤吐出ヘッド21Kがノズル40Nから液滴LDを吐出する動作である引き打ちまたは押し打ち動作について具体的に説明する。
図7は、本実施形態に係るインクジェットシステム4の運用形態を示す図である。
【0069】
図7に示すように、本実施形態に係るDFE1は、インクジェットシステム4を構成する各部に動作を指示し、その動作を制御する。そして、前処理装置3は、ロール紙Mdに対して前処理剤PCAを吐出する前処理を実行する。また、インクジェット装置2は、前処理が施されたロール紙Mdに着色剤を含む液滴LDを吐出して画像を形成する。DFE1およびインクジェット装置2、DFE1および前処理装置3は、それぞれ信号線70LC、71LCによって通信可能に接続されている。
【0070】
図7に示す印刷制御部20Ccは、圧電素子45Pに印加している電圧を基準電位から下げ、圧電素子45Pをその積層方向に縮小させることによって振動板42を撓み変形させる。そして、振動板42の撓み変形によって、液室40Fの容積を大きくさせる。これにより、液滴LDが、共通液室40CRから液室40Fに流入する。
【0071】
次に、印刷制御部20Ccは、圧電素子45Pに印加している電圧を上げ、圧電素子45Pを積層方向に伸長させることによって振動板42をノズル40N方向に変形させる。そして、振動板42の変形によって、液室40Fの容積を小さくさせる。これにより、液室40F内の液滴LDに圧力が付加されてノズル40Nから液滴LDが吐出される。
【0072】
その後、印刷制御部20Ccは、圧電素子45Pに印加している電圧を基準電位に戻し、振動板42を、基準電圧を下げる前の位置、すなわち初期位置に復元する動作を実行する。着色剤吐出ヘッド21Kでは、液室40Fの膨張によって液室40F内が減圧され、共通液室40CRから液室40Fに液滴LDが充填される。次いで、ノズル40Nのメニスカスの振動が減衰し、その後、次の液滴LDの吐出動作に移行する。このようにして、液滴LDを吐出する動作が繰り返される。
【0073】
なお、着色剤吐出ヘッド21Kの駆動方法は、引き打ちまたは押し打ちに限定されず、圧電素子45Pに印加する電圧(以下、「駆動波形」と記載する)を制御することによって、引き打ちまたは押し打ちなどを行うことができる。なお、K、C、M、Yの各色の着色剤吐出ヘッド21の各吐出ヘッドもブラック(K)の着色剤吐出ヘッド21Kと同様の構成であるため、重複する説明は省略する。
【0074】
また、前処理剤吐出ヘッド31H、31Lについては、
図7に示す前処理制御部30Ccが、印刷制御部20Ccと同様の動作を行い、ロール紙Mdに対して液滴LDを吐出することによって前処理を実行する。
【0075】
なお、本実施形態における圧力発生部45は、圧電素子45Pに限定されず、例えば、サーマル型、静電型などの公知の技術を採用することもできる。なお、サーマル型とは、発熱抵抗体を用いて液室40F内の液滴LDを加熱して気泡を発生させる方法である。静電型とは、液室40Fの壁面に振動板と電極とを対向させて配置し、振動板と電極との間に静電力を発生させることによって振動板を変形させる方法である。
【0076】
本実施形態に係るインクジェットシステム4は、このような着色剤吐出ヘッド21K、21C、21M、21Y、前処理剤吐出ヘッド31H、31Lを用いて、ロール紙Mdにおいて画像が形成される領域の幅方向全域に対してフルカラーの画像あるいはモノクロの画像を形成することができる。
【0077】
次に、本実施形態に係るDFE1のハードウェア構成について説明する。
図8に示すように、DFE1は、CPU(Central ProcessingUnit)11、ROM(Read Only Memory)12、RAM(Random Access Memory)13を有する。DFE1は、さらに、HDD(ハードディスクドライブ)14、I/F15を有する。DFE1を構成するCPU11などのデバイスはバス16によって相互に接続されている。
【0078】
CPU11は、DFE1全体の動作を制御する。CPU11は、ROM12またはHDD14に格納されているプログラムをRAM13にロードし、実行することによりDFE1の動作を制御する。ROM12およびHDD14には、CPU11を制御するための制御プログラムが格納される。RAM13は、CPU11が動作させるプログラムまたは中間のデータを展開するための作業領域として用いられる。
【0079】
I/F15は、DFE1とホスト装置などの外部装置との通信に用いられ、例えばTCP/IP(Transmission Control Protocol/Internet Protocol)などのプロトコルに対応した通信を行う。
【0080】
また、I/F15は、例えば、PCI Express(Peripheral Component Interconnect Bus Express)、ISA(Industry Standard Architecture)などによって通信を行う構成であってもよい。また、I/F15は、印刷画像データの各色に対応した複数のチャネルを有するように構成されてもよい。
【0081】
DFE1は、CPU11の制御によってホスト装置などの外部装置から送信された印刷ジョブデータをI/F15を介して受信し、HDD14に格納する。DFE1は、PC(Personal Computer)などのホスト装置から受信したジョブデータに基づいて、CMYK各色に対応するビットマップデータなどの画像の情報であるラスターデータを生成し、ラスターデータを含む情報(以後、「印刷出力データ」という)をインクジェット装置2に送信する。インクジェット装置2は、印刷出力データに基づいて、ロール紙Mdに対して液滴LDを吐出する。
【0082】
また、DFE1は、印刷ジョブデータおよびホスト装置から入力された情報などに基づいて、印刷動作を制御するためのデータ(以下、「制御情報データ」という。)を生成する。制御情報データは、印刷形態、印刷種別、給排紙情報、印刷面順、印刷用紙サイズ、印刷画像データのデータサイズ、解像度、紙種情報、階調、色情報および印刷を行うページ数の情報などの印刷条件に関するデータを含む。
【0083】
さらに、この制御情報データとして、後処理装置が吐出する後処理液の吐出に関するデータを含んでいても良い。印刷出力データは、DFE1からインクジェット装置2および前処理装置3にそれぞれ送信される。
【0084】
また、本実施形態では、一例としてDFE1は、ラスターデータを解析して、その解析結果に基づいて前処理装置3が吐出する液滴LDの吐出に関するデータ(以下、「前処理出力データ」という。)を前処理装置3に送信する。
【0085】
図9は本実施形態に係るインクジェット装置2および前処理装置3の機能構成を示すブロック図である。インクジェット装置2は、DFE1から入力された印刷出力データおよび制御情報データに基づいてロール紙Mdに画像を形成する動作を制御する。インクジェット装置2は、プリンタコントローラ20Cおよびプリンタエンジン20Eを含む。
【0086】
プリンタコントローラ20Cは、CPU20Cpおよび印刷制御部20Ccを含み、CPU20Cpおよび印刷制御部20Ccは送受信可能にバス20Cbによって接続されている。バス20Cbは、通信I/Fを介して、信号線70LCに接続されている。CPU20Cpは、ROMに格納されている制御プログラムを用いて、インクジェット装置2全体の動作を制御する。
【0087】
印刷制御部20Ccは、DFE1から送信された制御情報データに基づいて、プリンタエンジン20Eと、コマンド、パラメータ、またはデータなどの情報の送受信を行う。印刷制御部20Ccは、プリンタエンジン20Eと情報を送受信することによって、プリンタエンジン20Eを制御する。
【0088】
プリンタコントローラ20Cはプリンタエンジン20Eを制御する。プリンタコントローラ20Cは、信号線20LCを介して、DFE1と制御情報データなどの送受信を行う。プリンタコントローラ20Cは、信号線20LCを介して、後述するプリンタエンジン20Eと制御情報データなどの送受信を行う。
【0089】
プリンタコントローラ20Cは、送受信される制御情報データに含まれる印刷条件などを印刷制御部20Ccのレジスタに書き込み、印刷条件をレジスタに格納する。プリンタコントローラ20Cは、制御情報データに基づいてプリンタエンジン20Eを制御し、印刷ジョブデータおよび制御情報データに従った印刷を実行させる。
【0090】
プリンタエンジン20Eは、吐出制御部20EiC、20EiM、20EiY、20EiKを有する。吐出制御部20EiC、20EiM、20EiY、20EiKは、それぞれ、着色剤吐出ヘッド21C、21M、21Y、21Kに印刷制御部20Ccから送信された印刷出力データに基づいてロール紙Mdに液滴LDを吐出させ、画像を形成する画像形成出力を実行する。
【0091】
プリンタエンジン20Eは、プリンタコントローラ20Cからの指示に基づいて、DFE1からインクジェット装置2に入力されたビットマップデータを、画像形成出力に対応するデータに変換し、着色剤吐出ヘッド21C、着色剤吐出ヘッド21M、着色剤吐出ヘッド21Y、着色剤吐出ヘッド21Kごとのデータに分割する。
【0092】
例えば、プリンタエンジン20Eは、入力された256ビットのビットマップデータを大滴、中滴、小滴、吐出なしの4値に変換し、対応する着色剤吐出ヘッド21C、着色剤吐出ヘッド21M、着色剤吐出ヘッド21Y、着色剤吐出ヘッド21Kごとのデータに分割する。
【0093】
前処理装置3は、DFE1から入力された前処理出力データおよび制御情報データに基づいてロール紙Mdに液滴LDを吐出して前処理が施された領域である前処理領域を形成する動作を制御する。前処理装置3は、プレコートコントローラ30Cおよびプレコートエンジン30Eを含む。
【0094】
本実施形態に係るプレコートコントローラ30Cは、CPU30Cpおよび前処理制御部30Ccを含み、CPU30Cpおよび前処理制御部30Ccは送受信可能にバス30Cbによって接続されている。バス30Cbは、通信I/Fを介して、信号線71LCに接続されている。CPU30Cpは、ROMに格納されている制御プログラムを用いて、前処理装置3全体の動作を制御する。
【0095】
前処理制御部30Ccは、DFE1から送信された制御情報データに基づいて、プレコートエンジン30Eと、コマンド、パラメータ、またはデータなどの情報の送受信を行う。前処理制御部30Ccは、プレコートエンジン30Eと情報を送受信することによって、プレコートエンジン30Eを制御する。
【0096】
プレコートコントローラ30Cはプレコートエンジン30Eを制御する。プレコートコントローラ30Cは、信号線30LCを介して、DFE1と、前処理実行データなどの送受信を行う。プレコートコントローラ30Cは、信号線30LCを介して、後述するプレコートエンジン30Eと前処理実行データなどの送受信を行う。
【0097】
プレコートコントローラ30Cは、送受信される制御情報データに含まれる印刷条件などを前処理制御部30Ccのレジスタに書き込み、印刷条件をレジスタに格納する。プレコートコントローラ30Cは、制御情報データに基づいてプレコートエンジン30Eを制御し、前処理実行部に、前処理実行データに従った前処理を実行させる。前処理実行データについては後述する。
【0098】
プレコートエンジン30Eは、前処理剤吐出制御部30Eph、30Eplを有する。プレコートエンジン30Eは、プレコートコントローラ30Cからの指示に基づいて、DFE1から前処理装置3に入力されたビットマップデータを、画像形成出力に対応する小値のデータに変換し、前処理剤吐出制御部30Eph、30Eplごとのデータに分割する。
【0099】
例えば、プレコートエンジン30Eは、入力された256ビットのビットマップデータを大滴、中滴、小滴、吐出なしの4値に変換し、対応する前処理剤吐出制御部30Eph、30Eplごとのデータに分割する。前処理剤吐出制御部30Eph、30Eplは、それぞれ、前処理制御部30Ccから送信された前処理出力データに基づいて、前処理剤吐出ヘッド31H、31Lにロール紙Mdに液滴LDを吐出させ、ロール紙Mdに前処理剤塗付領域PCを形成する。なお、前処理剤吐出ヘッド31H、31Lが大滴、中滴、小滴等の複数種類の液滴を吐出しない場合には、4値に変換しない構成であってもよい。
【0100】
このように、本実施形態に係るインクジェットシステム4は、前処理装置3によって前処理が施されたロール紙Mdに対して、DFE1から入力された描画情報に基づいてインクジェット装置2が液滴を吐出することによって画像形成出力を実行する。次に、本実施形態に係るDFE1の機能構成について
図10を参照して説明する。
【0101】
図10に示すように、DFE1は、コントローラ100、入出力装置104、ネットワークI/F108を含む。入出力装置104は、DFE1の状態を視覚的に表示する出力インタフェースであると共に、タッチパネルとしてユーザがDFE1を直接操作し、もしくはDFE1に対して情報を入力する際の入力インタフェースでもある。
【0102】
すなわち、入出力装置104は、ユーザによる操作を受けるための画像を表示する機能を含む。入出力装置104は、I/F15に接続されたディスプレイ装置および操作装置によって実現される。
【0103】
ネットワークI/F108は、DFE1がネットワークを介してホスト端末など他の機器と通信するためのインタフェースであり、Ethernet(登録商標)やUSB(Universal Serial Bus)インタフェースが用いられる。ネットワークI/F108は、TCP/IPプロトコルによる通信が可能である。ネットワークI/F108は、I/F15によって実現される。
【0104】
コントローラ100は、主制御部110、エンジン制御部120、画像処理部130、操作表示制御部140および入出力制御部150を含み、
図8に示すハードウェアとソフトウェアとの組み合わせによって構成される。具体的には、ROM12や不揮発性メモリならびにHDD14や光学ディスクなどの不揮発性の記憶媒体に格納されたプログラムが、RAM13などの揮発性メモリ(以下、メモリ)にロードされる。
【0105】
CPU11がRAM13などにロードされたプログラムに従って演算を行う。これら一連の協働により構成されるソフトウェア制御部と集積回路などのハードウェアとによってコントローラ100が構成される。コントローラ100は、DFE1全体を制御する制御部として機能する。
【0106】
また、プリンタコントローラ20Cは、CPU20CpがRAMなどの揮発性メモリにロードされたプログラムに従って演算を行って構成されるソフトウェア制御部と集積回路などのハードウェアとによって構成される。同様に、プレコートコントローラ30Cも、CPU30CpがRAMなどの揮発性メモリにロードされたプログラムに従って演算を行って構成されるソフトウェア制御部と集積回路などのハードウェアとによって構成される。
【0107】
主制御部110は、コントローラ100に含まれる各部を制御する役割を担い、コントローラ100の各部に命令を与える。エンジン制御部120は、インクジェット装置2や前処理装置3、搬入部17、搬出部60に信号を出力する送信制御部、もしくは、駆動させる駆動部としての役割を担う。画像処理部130は、主制御部110の制御に従い、印刷出力すべき画像の情報に基づいてビットマップデータなどの描画情報を生成する。この描画情報とは、インクジェット装置2や前処理装置3が画像形成動作において形成すべき画像、すなわち、画像形成出力の対象の画像を描画するための情報である。
【0108】
操作表示制御部140は、入出力装置104に情報表示を行い、もしくは、入出力装置104を介して入力された情報を主制御部110に通知する。入出力制御部150は、ネットワークI/F108を介して入力される情報を主制御部110に入力する。また、主制御部110は、入出力制御部150を制御し、ネットワークI/F108およびネットワークを介してネットワークに接続された他の機器にアクセスする。
【0109】
DFE1が実行する処理として、まず、入出力制御部150がネットワークI/F108を介してホスト装置などから画像形成出力を実行する命令情報である印刷ジョブを受信する。入出力制御部150は、受信した印刷ジョブを主制御部110に転送する。主制御部110は、印刷ジョブを受信すると、画像処理部130を制御して印刷ジョブに含まれる文書情報、もしくは、画像情報に基づいて描画情報を生成させる。
【0110】
本実施形態に係る印刷ジョブには、出力対象の画像情報がDFE1の画像処理部130によって解析可能な情報形式で記述された画像の情報の他、画像形成出力に際して設定されるべきパラメータの情報が含まれる。このパラメータの情報とは、例えば、両面印刷の設定、集約印刷の設定、カラー/モノクロの設定等の情報である。
【0111】
画像処理部130によって描画情報が生成されると、エンジン制御部120は、インクジェット装置2や前処理装置3にそれぞれ印刷出力データおよび前処理出力データを送信し、生成された描画情報に基づいて、給紙テーブル105から搬送される用紙に対して画像形成を実行させる。
【0112】
前述したように、本実施形態においては、主制御部110がコントローラ100に含まれる各部を制御する。次に、
図11を参照して、本実施形態に係る主制御部110の機能構成について説明する。
【0113】
本実施形態に係る主制御部110は、特性情報記憶部111、描画情報解析部112、前処理剤吐出情報生成部113を含み、前処理実行制御部として機能する。特性情報記憶部111には、媒体特性情報記憶部114、前処理剤特性情報記憶部115、着色剤特性情報記憶部116を含む。なお、特性情報データテーブルSDが特性情報記憶部111に記憶されている構成であってもよい。
【0114】
なお、本実施形態において、前処理剤吐出情報生成部113は、後述する前処理剤吐出ヘッド31Lと前処理剤吐出ヘッド31Hのそれぞれに対して、それぞれのヘッドが吐出可能な画素ごとに一定量の吐出を行うか行わないかを0、1で配置したデータを生成してもよい。
【0115】
また、吐出を行うか行わないかではなく、それぞれの画素ごとに吐出量を設定したデータを生成してもよい。このとき、凝集剤濃度ACGが高い前処理剤の吐出量と凝集剤濃度ACGが低い前処理剤の吐出量との組み合わせることにより、吐出される液滴LDの挙動をそれぞれの画素ごとに制御する前処理を行うことができる。また、吐出量の設定は画素よりも大きな領域を単位としてもよい。以後の説明において、吐出情報の生成として、前処理剤の吐出を行うか行わないかを示す情報の場合、および、前処理剤の吐出量を設定した情報の場合、の両方が存在することとする。
【0116】
特性情報データテーブルSDは、
図12に示すように、液滴LDが記録媒体Mに付着することで形成されるドットDtにおける顔料粒子Pの分布具合(例えば、ドットDtの中心から外周部にかけての顔料粒子Pの濃度均一性など)と、ドットDtの大きさとの関係を、インクIKの種類および前処理剤PCAの種類の組み合わせごとに特性情報として示したものである。なお、特性情報データテーブルSDは、記録媒体Mの種類ごとに構成される。
【0117】
図12に示すように、例えば、記録媒体M1において、着色剤Aを含む液滴LDと前処理剤aを含む液滴LDとを用いた場合、ドットDtにおける顔料粒子Pの分布濃度と、ドットDtの大きさとの関係は、前処理剤aに含まれる凝集剤AGの濃度が高くなるほどドットDtの大きさが大きくなり、また、ドットDtの中心部から外周部にかけて顔料粒子Pの分布の濃度均一性が低くなる。
【0118】
また、例えば、記録媒体M1において、着色剤Bを含む液滴LDと前処理剤dを含む液滴LDとを用いた場合、ドットDtにおける顔料粒子Pの分布濃度と、ドットDtの大きさとの関係は、前処理剤dに含まれる凝集剤AGの濃度が高くなるほどドットDtの大きさが小さくなるものの、ドットDtの中心部から外周部にかけて顔料粒子Pの分布の濃度均一性は高くなる。
【0119】
すなわち、特性情報データテーブルSDを参照することで、ドットDtにおける顔料粒子Pの分布具合と、ドットDtの大きさを制御することができる。言い換えると、特性情報データテーブルSDを用いることで、像形成剤である着色剤を含む液滴LDの挙動を制御することができる。
【0120】
このように、特性情報データテーブルSDは、インクIKの種類および前処理剤PCAの種類の組み合わせごとに、ドットDtにおける顔料粒子Pの分布濃度と、ドットDtの大きさとの関係を特性情報として含む。
【0121】
また、特性情報データテーブルSDは、インクIKの種類および前処理剤PCAの種類の組み合わせごとに、ドットDtにおける顔料粒子Pの分布具合とドットDtの大きさとの関係を示す情報が画像形成出力の結果として入力されて構成されていてもよいし、実験もしくはシミュレーションの結果として得られた特性情報によって構成されていてもよい。特性情報データテーブルSDについての詳細は、後述する。
【0122】
なお、特性情報記憶部111は、記録媒体Mの種類(例えば、普通紙、コート紙、フィルムなど)と、インクIKの種類による影響が限られている場合には、特性情報データテーブルを含まない構成であってもよい。本実施形態では、後述するように、画像形成出力される画像の種類を示す情報、および、インクIKの液滴LDに含まれる凝集剤濃度ACGを示す情報があればよい。
【0123】
媒体特性情報記憶部114には、記録媒体Mの物理的な特性の情報である媒体特性情報が記憶されている。ここで、媒体特性情報とは、記録媒体Mが非浸透性媒体であるのか、もしくは、浸透性媒体であるのかを示す情報であって、記録媒体Mに対する液滴LDの浸透度合いを示す情報である。なお、非浸透性媒体としては、フィルム、浸透性媒体としては普通紙やコート紙などが知られている。
【0124】
記録媒体Mに対する液滴LDの浸透度合いの違いについて、
図13を用いて説明する。まず、非浸透性媒体である記録媒体Mに対して前処理剤PCAを吐出すると、前処理剤塗付領域PCは、
図13(a)に示すように記録媒体Mの表面上に形成される。一方で、浸透性媒体である記録媒体Mに対して前処理剤PCAを吐出すると、前処理剤塗付領域PCは、
図13(b)に示すように記録媒体Mの表面および記録媒体Mの組織の内部に渡って形成される。
【0125】
前処理剤特性情報記憶部115には、前処理剤吐出ヘッド31Hから吐出される前処理剤PCA1、前処理剤吐出ヘッド31Lから吐出される前処理剤PCA2の特性の情報である前処理剤特性情報が記憶されている。前処理剤特性情報とは、例えば、前処理剤PCAの材料や物理的な特性を示す情報のことである。
【0126】
着色剤特性情報記憶部116には、着色剤吐出ヘッド21から吐出されるYMCKの各インクの特性の情報である着色剤特性情報が記憶されている。着色剤特性情報とは、例えば、YMCK各色を着色する着色剤の材料や物理的な特性を示す情報のことである。
【0127】
なお、主制御部110は、画像形成出力の実行結果に基づいて、前処理剤特性情報や着色剤特性情報を参照して、特性情報データテーブルSDに特性情報を追加する構成であってもよい。このとき、例えば、着色剤Bと前処理剤cとの組み合わせによって画像形成出力を行い、前処理剤cの濃度が高くなるほどドットDtの大きさは小さくなるものの、着色剤の分布具合は変化しない場合、主制御部110は、
図12の(c)に示すような特性情報を特性情報データテーブルSDに追加する。
【0128】
描画情報解析部112は、画像処理部130から主制御部110に入力された描画情報を解析する。描画情報解析部112は、解析結果に基づいて画像の種類の判定を行う画像種類判定部として機能してもよい。また、解析結果は、画像形成出力される画像の種類によって変わるため、描画情報解析部112は、描画情報に基づいた画像の種類の判定を行わずに前処理剤吐出情報生成部113へ解析結果を出力する構成であってもよい。
【0129】
以下、描画情報解析部112によって、画像形成出力される画像の種類の判定を行わずに、画像の種類に応じて変わる解析結果を前処理剤吐出情報生成部113へ出力する構成を例として説明する。なお、描画情報解析部112によって、画像形成出力される画像の種類を判定する構成の例については後述する。
【0130】
また、描画情報解析部112は、画素ごとに消費されるインクの種類および量を解析結果として出力してもよい。また、描画情報解析部112は、描画情報を解析し、画像形成出力される画像の出力形態を解析結果として出力してもよい。
【0131】
前処理剤吐出情報生成部113は、描画情報解析部112による描画情報の解析結果および特性情報記憶部111に記憶されている各種の特性情報に基づいて、前処理剤吐出ヘッド31H、31Lからそれぞれ吐出する前処理剤の吐出情報を生成する処理液滴吐出情報生成部、第1液滴吐出情報生成部、第2液滴吐出情報生成部として機能する。
【0132】
描画情報解析部112は、解析方法として描画情報に基づいて、空間周波数の算出を行う。例えば、描画情報を所定の大きさの領域に分割し、分割した領域ごとに描画情報を二次元フーリエ変換して空間周波数の算出を行う。そして、算出した空間周波数を前処理剤吐出情報生成部113に送信する。描画情報の解析方法は、二次元フーリエ変換には限られない。また、画像の種類によって変わる情報を得られるのであれば、描画情報の解析方法は空間周波数の算出には限られない。
【0133】
このとき、前処理剤吐出情報生成部113は、例えば、空間周波数が所定の値よりも大きい画像の領域について、ドットDtの大きさを小さく、かつ、ドットDtにおける顔料粒子Pの分布濃度を均一にして画像を出力すると判定し、前処理剤PCA1および前処理剤PCA2の吐出情報を生成する。
【0134】
前処理剤吐出情報生成部113は、例えば、空間周波数が中程度である画像の領域について、ドットDtの大きさを中程度にして画像を出力すると判定し、前処理剤PCA1および前処理剤PCA2の吐出情報を生成する。
【0135】
前処理剤吐出情報生成部113は、例えば、空間周波数が所定の値よりも小さい画像の領域について、ドットDtの大きさを大きく、かつ、ドットDtにおける顔料粒子Pの分布濃度がドットDtの中央ほど濃くなるようにして画像を出力すると判定し、前処理剤PCA1および前処理剤PCA2の吐出情報を生成する。
【0136】
なお、本実施形態に係るインクジェットシステム4においては、ユーザによって、ドットDtの大きさを小さくして画像形成出力を実行する領域を指定する領域情報やドットDtの大きさを大きくして画像形成出力を実行する領域を指定する領域情報が主制御部110に入力されることがある。
【0137】
このような場合、描画情報解析部112は、領域情報を解析結果として出力し、前処理剤吐出情報生成部113は、領域情報に基づいて前処理剤PCA1および前処理剤PCA2の吐出情報を生成する構成であってもよい。
【0138】
具体的に、前処理剤吐出情報生成部113は、領域情報に基づいて、ドットDtの大きさを小さくして画像形成出力を実行する領域については、ドットDtの大きさを小さく、かつ、ドットDtにおける顔料粒子Pの分布濃度を均一にして画像を出力すると判定し、前処理剤PCA1および前処理剤PCA2の吐出情報を生成する。
【0139】
一方で、ドットDtの大きさを大きくして画像形成出力を実行する領域については、ドットDtの大きさを大きく、かつ、ドットDtにおける顔料粒子Pの分布濃度がドットDtの中央ほど濃くなるようにして画像を出力すると判定し、前処理剤PCA1および前処理剤PCA2の吐出情報を生成する。
【0140】
さらには、DFE100から入力されるジョブデータに、
図15に示すように、写真などの絵が描画される描画情報上の領域を示す位置情報や、文字が描画される描画情報上の領域を示す位置情報が含まれることがある。
図15(a)は、本実施形態に係る画像形成出力対象の画像の情報を例示した図、(b)は、本実施形態に係る描画情報を例示した図である。
【0141】
図15(a)に示すように、画像の情報8Aには、文字や線が表示された線領域81A1、81A2、写真が表現された写真領域82Aが含まれる。なお、
図15(a)において、線領域81Aおよび写真領域82A以外の領域を領域83Aとして示す。
【0142】
図15(b)は、画像の情報8AにRIP処理を行って得られた描画情報8Bである。描画情報8Bには、文字や線が表示された線領域81B1、81B2、写真が表現された写真領域82Bが含まれる。なお、
図15(b)において、線領域81Bおよび写真領域82B以外の領域を領域83Bとして示す。
【0143】
このような場合、描画情報解析部112は、線領域81B、写真領域82B、領域83Bなどの画像の種類の情報と、線領域81B、写真領域82B、領域83Bのそれぞれの領域を示す座標などの位置情報を解析結果として出力する。そして、前処理剤吐出情報生成部113は、位置情報に基づいて前処理剤PCA1および前処理剤PCA2の吐出情報を生成する構成であってもよい。
【0144】
具体的に、前処理剤吐出情報生成部113は、位置情報に基づいて、文字が描画される描画情報上の領域については、ドットDtの大きさを小さく、かつ、ドットDtにおける顔料粒子Pの分布濃度を均一にして画像を出力すると判定し、前処理剤PCA1および前処理剤PCA2の吐出情報を生成する。
【0145】
一方で、写真などの絵が描画される描画情報上の領域については、ドットDtの大きさを大きく、かつ、ドットDtにおける顔料粒子Pの分布濃度がドットDtの中央ほど濃くなるようにして画像を出力すると判定し、前処理剤PCA1および前処理剤PCA2の吐出情報を生成する。
【0146】
描画情報解析部112が描画情報に基づいて画像形成出力される画像の種類を判定する場合、描画情報解析部112は、例えば空間周波数から、画像の種類を判定する。画像の種類とは、文字、写真、表などである。この場合、描画情報解析部112は、判定した画像の種類とその位置情報とを解析結果として出力する。
【0147】
例えば、ユーザによって入出力装置400などのユーザインタフェースから、文字や写真の情報が領域ごとに入力されることがある。このような場合、描画情報解析部112は、入力された文字や写真の情報に基づいて画像の種類を判定し、判定結果を前処理剤吐出情報生成部113に送信してもよい。
【0148】
なお、ユーザによって文字や写真の情報が領域ごとに入力された場合、前処理剤吐出情報生成部113は、入力された文字や写真の情報に基づいて、前処理剤PCA1および前処理剤PCA2の吐出情報を生成してもよい。
【0149】
このようにして、前処理剤吐出情報生成部113によって算出された前処理剤PCA1および前処理剤PCA2の吐出情報は、主制御部110によってエンジン制御部120を介して前処理装置3に送信される。
【0150】
本実施形態において、前処理装置3は、凝集剤AGの濃度が高い前処理剤PCA1を吐出する前処理剤吐出ヘッド31Hおよび凝集剤AGの濃度が低い前処理剤PCA2を吐出する前処理剤吐出ヘッド31Lを含む。そして、前処理装置3は、前処理剤吐出ヘッド31Hおよび前処理剤吐出ヘッド31Lのそれぞれから、
図14に示すように、記録媒体Mに対して凝集剤AGの濃度が高い前処理剤PCA1と凝集剤AGの濃度が低い前処理剤PCA2とを吐出する。
【0151】
図13に示すように、前処理剤PCA1が吐出された領域には前処理剤塗付領域PC1が、前処理剤PCA2が吐出された領域には前処理剤塗付領域PC2がそれぞれ形成される。ここで、
図13に示す前処理剤塗付領域PCに対して、
図12の(a)の組み合わせの液滴LDが吐出されたと仮定する。
【0152】
前処理剤塗付領域PC1では、凝集剤AGが高濃度であるため、ドットDtにおける着色剤Aの分布具合が均一ではなく、かつ、ドットDtの大きさが大きいドットDtが形成される。一方、前処理剤塗付領域PC2では、凝集剤AGが低濃度であるため、ドットDtにおける着色剤Aの分布具合が均一であって、かつ、ドットDtの大きさが小さいドットDtが形成される。
【0153】
このように、本実施形態に係るインクジェットシステム4においては、記録媒体Mに形成される前処理剤塗付領域PCにおける凝集剤AGの濃度によって、着色剤を含む液滴LDが記録媒体Mに付着して形成される着色領域であるドットDtの大きさやドットDtにおける着色剤の分布具合を制御する。
【0154】
なお、前処理剤吐出情報生成部113は、記録媒体M上の同じ領域に対して前処理剤吐出ヘッド31Hおよび前処理剤吐出ヘッド31Lから、それぞれ前処理剤PCA1、PCA2の吐出を実行させるように前処理剤PCA1、PCA2の吐出量である第1処理液滴吐出量、第2処理液滴吐出量を算出する構成であってもよい。このとき、前処理装置3は、前処理剤PCA1と前処理剤PCA2とを同じ領域に吐出して前処理剤塗付領域PCを形成する。
【0155】
次に、本実施形態に係るインクジェットシステム4において吐出する前処理剤PCAの量(吐出量)を算出する処理の流れについて、
図16のフローチャートを参照して説明する。主制御部110は、ジョブデータを受信すると(S1601)、受信したジョブデータを画像処理部130に転送する。
【0156】
画像処理部130は、ジョブデータに基づいて、画像情報に対してジョブデータにおいて指定された印刷条件を設定してRIP(Raster Image Processing)処理を実行し、画像形成出力を実行するためのビットマップデータなどの描画情報を生成する(S1602)。
【0157】
このとき、ジョブデータには、印刷条件を設定して描画情報を生成するための設定情報として、例えば、記録媒体Mを設定するための媒体設定情報、画像形成出力される画像の濃度を設定する濃度設定情報、カラーもしくはモノクロのどちらかで画像形成出力を実行するかを設定するカラー設定情報、画像形成出力を精密に行う場合に設定するモード設定情報などが含まれる。
【0158】
画像処理部130は、RIP処理によって生成した描画情報および設定情報を主制御部110に送信する(S1603)。受信した描画情報と設定情報とに基づいて、前処理剤吐出情報生成部113は、特性情報記憶部111を参照し、記録媒体Mの特性情報を取得する(S1604)。
【0159】
次に、前処理剤吐出情報生成部113は、特性情報記憶部111を参照し、前処理剤特性情報および着色剤特性情報を取得する(S1605)。このとき、前処理剤吐出情報生成部113は、特性情報データテーブルSDから特性情報を取得してもよい。
【0160】
また、描画情報解析部112は、受信した描画情報と設定情報とに基づいて、描画情報の解析を実行し、解析結果を前処理剤吐出情報生成部113に送信する(S1606)。前処理剤吐出情報生成部113は、S1604およびS1605で取得した特性情報と、描画情報の解析結果とに基づいて、解析結果から得られる画素ごとに前処理剤PCA1、PCA2の吐出量を算出する(S1607)。
【0161】
なお、S1607の処理においては、前処理剤PCA1もしくは前処理剤PCA2のいずれかの吐出量を「0」として前処理剤PCA1、PCA2の吐出量を算出してもよい。算出された前処理剤PCA1、PCA2の吐出量の情報である前処理剤量情報は、主制御部110によってエンジン制御部120を介して前処理装置3に送信される(S1608)。
【0162】
次に、本実施形態に係るインクジェットシステム4において、画像形成出力を行う処理の流れについて説明する。
図16のフローチャートに示す処理を終了すると、主制御部110は、前処理装置3に前処理を実行させる前処理実行情報を送信する。
【0163】
前処理装置3は、DFE1から前処理実行情報を受信すると、S1608でDFE1から受信した前処理剤量情報に基づいて、記録媒体Mに対して前処理剤PCA1および前処理剤PCA2を吐出して前処理を実行する。
【0164】
主制御部110は、インクジェット装置2に画像形成実行情報を送信する。インクジェット装置2は、前処理装置3によって前処理が実行された記録媒体Mがインクジェット装置2に到達し、着色剤吐出ヘッド21K、21C、21M、21Yのそれぞれの吐出位置に到達するタイミングで、着色剤を含む着色液滴を記録媒体Mへ吐出する。
【0165】
測定装置5Aが測定した位置、前処理装置3が前処理を行った位置、着色剤吐出ヘッド21が吐出を行う位置は、それぞれ記録媒体Mの搬送位置を示す情報として管理され、主制御部110からの指示で測定装置5A、前処理装置3、着色剤吐出ヘッド21が同期して動作を行うことで記録媒体M上に画像が形成される。
【0166】
したがって、主制御部110は、インクジェット装置2および前処理装置3に液滴を吐出させる液滴吐出制御部として機能する。また、主制御部110は、前処理剤PCAなどの処理液滴を前処理装置3に吐出させる処理液滴吐出実行制御部、および、着色剤を含む着色液滴をインクジェット装置2に吐出させる着色液滴吐出実行制御部としても機能する。画像が形成された記録媒体Mは、搬送部60から排出される。
【0167】
以上説明したように、本実施形態では、記録媒体Mに記録される画像の種類に基づいて前処理の処理量を制御することによって、吐出される液滴LDの状態を制御し、液滴LDに含まれる顔料粒子Pによって形成されるドットの形状を制御する。このようにすることによって、記録媒体Mに形成された画像の質が低下するのを防ぎ、品質のよい像形成を実行することができる。
【0168】
なお、本実施形態では、前処理剤PCA1が吐出された領域には前処理剤塗付領域PC1が、前処理剤PCA2が吐出された領域には前処理剤塗付領域PC2がそれぞれ形成されるものとして説明を行ったが、前処理剤PCA1と前処理剤PCA2とを同一の領域に吐出して前処理剤塗付領域PCを形成してもよい。このようにすると、前処理剤塗付領域PCにおける凝集剤濃度AGCをより細かく制御することができる。
【0169】
さらに、本実施形態では、濃度の異なる2種類の前処理剤の吐出を制御する例について記載しているが、1つの種類の前処理剤PCAの吐出量を変更することによって前処理の実行態様を制御してもよい。この場合、前処理剤吐出ヘッド31は1組でもよい。
【0170】
また、インクジェット装置2および前処理装置3から記録媒体Mに吐出する液滴LDに含まれるものとして、顔料粒子Pのほかに、染料、たんぱく質・脂質・核酸・ホルモン・糖・アミノ酸などの生体分子、樹脂、高分子などを用いてもよい。また、前処理剤PCAに含まれる反応剤として、凝集剤AGのほかに、キレート剤、フィブリン系接着剤、ハイドロキシアパタイト、重合剤などを用いてもよい。
【0171】
さらに、本実施形態に係るインクジェットシステム4は、3Dプリンタなどの立体造形装置についても適用することができる。
【0172】
実施の形態2.
本実施形態では、記録媒体を搬送して、主走査方向に移動する吐出ヘッドから吐出される液滴によって画像形成出力を実行するシリアルヘッド方式のインクジェット装置を例として説明を行う。なお、実施の形態1と同様の構成については、同じ符号を付し、重複する説明を省略する。
【0173】
図17は、本実施形態に係るインクジェットシステム4の概略を示す図である。インクジェットシステム4は、DFE1と画像形成装置5とが、通信線によって接続されて構成される。なお、本実施形態に係る画像形成装置5は、実施の形態1のインクジェット装置2および前処理装置3がひとつの筐体に一体化されて構成されたものである。
【0174】
次に、
図18および
図19の画像形成装置5の透視図を参照して、本実施形態に係る画像形成装置5の構成について説明する。画像形成装置5は、インクジェット装置2、前処理装置3、装置本体の内部においてインクジェット装置2および前処理装置3を主走査方向に移動させるキャリッジ101を含む。
【0175】
キャリッジ101は、左右の側板に横架したガイド部材である主ガイドロッド107と従ガイドロッド107bとで主走査方向(搬送方向に対して垂直の方向)に摺動自在に配設されている。キャリッジ101には、インクジェット装置2および前処理装置3が搭載されている。
【0176】
そして、インクジェット装置2に搭載されている着色剤吐出ヘッド21によって、YMCKの各色の着色剤を吐出し、前処理装置3に搭載されている前処理剤吐出ヘッド31によって前処理剤PCAを記録媒体Mに対して吐出する。着色剤吐出ヘッド21および前処理剤吐出ヘッド31は主走査方向と交差する方向に配列されており、かつ、ノズル40Nは下向きに開口して構成される。前処理剤吐出ヘッド31は前処理実行部として機能する。
【0177】
着色剤吐出ヘッド21に各色の着色剤を含む液滴LDを、また、前処理剤吐出ヘッド31に前処理剤PCAを含む液滴LDを供給するカートリッジ103は、交換可能なようにキャリッジ101に装着されている。また、カートリッジ103は、上方に大気と連通する大気口、下方には着色剤吐出ヘッド21または前処理剤吐出ヘッド31に液滴LDを供給する供給口を有する。そして、カートリッジ103は、液滴LDが充填された多孔質体を有して構成される。
【0178】
カートリッジ103の内圧は、多孔質体の毛管力により供給される液滴LDがわずかな負圧になるように維持されている。なお、本実施形態においては、着色剤吐出ヘッド21が色ごとに設けられている場合を例としているが、YMCK各色の液滴LDを吐出するノズル40Nを有する1個のヘッドでもよい。さらに、前処理剤吐出ヘッド31も、凝集剤AGの濃度別に設けられている場合を例としているが、濃度の異なる凝集剤AGの液滴LDを吐出するノズル40Nを有する1個のヘッドでもよい。また、1個の前処理剤吐出ヘッド31から吐出される1種類の前処理剤PCAの吐出量を制御することで前処理の実行態様を制御してもよい。
【0179】
キャリッジ101は、後方側(用紙搬送方向下流側)が主ガイドロッド107に摺動自在に装着され、前方側(用紙搬送方向上流側)が従ガイドロッド107bに摺動自在に装着されている。そして、キャリッジ101を主走査方向に移動走査するために、主走査モータ109で回転駆動される駆動プーリ210と従動プーリ211との間にタイミングベルト212が架け渡されている。タイミングベルト212とキャリッジ101とは固定されており、主走査モータ109の正逆回転によりキャリッジ101が往復して駆動される。
【0180】
一方、給紙カセットに積層された記録媒体Mをインクジェットヘッド102の下方側に搬送するために、給紙カセット204から記録媒体Mを分離給装する給紙ローラ213およびフリクションパッド214と、記録媒体Mを案内するガイド部材215と、搬送された記録媒体Mを反転させて搬送する搬送ローラ216と、この搬送ローラ216の周面に押し付けられる搬送コロ117および搬送ローラ216から記録媒体Mの送り出し角度を規定する先端コロ118とが設けられている。搬送ローラ216は副走査モータによってギヤ列を介して回転駆動される。
【0181】
キャリッジ101が移動する主走査方向の範囲に対応して搬送ローラ216から送り出された記録媒体Mを、着色剤吐出ヘッド21および前処理剤吐出ヘッド31の下方側で案内するガイド部材である印写受け部材119が設けられている。
【0182】
この印写受け部材119に対して記録媒体Mが搬送される方向の下流側には、記録媒体Mが画像形成装置5の筐体の外部に排紙される方向へ送り出すために回転駆動される搬送コロ220、拍車121が設けられている。さらに記録媒体Mを排紙トレイ106に送り出す排紙ローラ122および拍車123と、画像形成装置5の筐体の外部に記録媒体Mを排紙する経路を形成するガイド部材124、125とが配置されている。
【0183】
次に、
図20を参照して、本実施形態に係る画像形成装置5の機能構成について説明する。なお、本実施形態に係る画像形成装置5は、
図9に示すインクジェット装置2および前処理装置3の機能に、記録媒体Mの搬送を制御する搬送制御部50Cを加えて構成される。
【0184】
搬送制御部50Cは、印刷制御部20Ccおよび前処理制御部30Ccから受信した命令情報に基づいて副走査モータを駆動させて記録媒体Mを搬送する。また、印刷制御部20Ccおよび前処理制御部30Ccは、主走査モータ109の駆動を制御する駆動制御部としても機能する。その他の構成は、
図9と同様であるため、重複する説明を省略する。
【0185】
なお、本実施形態では、インクジェット装置2および前処理装置3がひとつの筐体に一体化されて画像形成装置5が構成されている。したがって、画像形成装置5の動作を制御する制御部である画像形成コントローラによって主制御部110から受信した情報に基づいて画像形成装置5の各部を制御する構成であってもよい。
【0186】
このような場合、画像形成コントローラは、主制御部110から受信した情報に基づいて、プリンタエンジン20Eに着色剤吐出ヘッド21の動作を、プレコートエンジン30Eに前処理剤吐出ヘッド31の動作を制御させる。また、このとき、主制御部110は、画像形成装置5に液滴を吐出させる液滴吐出制御部として機能する。
【0187】
このように構成される画像形成装置5を用いて、本実施形態に係るインクジェットシステム4は、画像の情報に基づいて画像形成出力を実行する。次に、本実施形態に係るインクジェットシステム4において、
図21を参照して画像形成出力を行う処理の流れについて説明する。
【0188】
DFE1が
図16のフローチャートに示す処理を終了すると、主制御部110は、前処理装置3に前処理を実行させる前処理実行情報を送信する(S2101)。前処理装置3は、DFE1から受信した前処理実行情報に基づいて記録媒体Mに対して前処理剤PCA1および前処理剤PCA2を吐出して前処理を実行する。
【0189】
前処理剤吐出ヘッド31H、31Lが記録媒体Mへ液滴LDを吐出するときには、前処理制御部30Ccがキャリッジ101を移動させながら描画情報に基づいて前処理剤吐出ヘッド31H、31Lを駆動させて、停止している記録媒体Mに対して前処理剤PCAを含む液滴LDを、主走査方向に1ライン分吐出する(S2102)。1ライン分の吐出が終了すると、前処理装置3は、1ライン分の前処理を実行した前処理完了通知をDFE1に送信する(S2103)。
【0190】
DFE1は、前処理装置3から前処理完了通知を受信すると、記録媒体Mを副走査方向に1ライン分搬送させる搬送実行情報を画像形成装置5に送信する(S2104)。画像形成装置5は、搬送実行情報に従って、搬送制御部50Cに副走査モータを駆動させ、記録媒体Mを副走査方向に1ライン分搬送し(S2105)、搬送完了通知をDFE1に送信する(S2106)。
【0191】
DFE1は、搬送実行通知を受信すると、インクジェット装置2に1ライン分の画像形成出力を実行させるための画像形成実行情報を送信する(S2107)。着色剤吐出ヘッド21が記録媒体Mへ液滴LDを吐出するときには、印刷制御部20Ccがキャリッジ101を移動させながら描画情報に基づいて各色の着色剤吐出ヘッド21を駆動させて、停止している記録媒体Mに対して各色の着色剤を含む液滴LDを主走査方向に1ライン分吐出する(S2108)。
【0192】
1ライン分の吐出が終了すると、インクジェット装置2は、印刷制御部20Ccに副走査モータを駆動させて記録媒体Mを搬送し、画像形成完了通知をDFE1に送信する(S2109)。
【0193】
DFE1は、ジョブデータに含まれる描画情報の画像形成出力が全て終了した場合に、画像形成装置5に記録媒体Mを排出させる排出実行情報を送信し(S2110)、搬送制御部50Cは副走査モータを駆動させて画像が形成された記録媒体Mを排出させる(S2111)。なお、ジョブデータに含まれる描画情報の画像形成出力が全て終了していない場合、DFE1は、S2101の処理から再度実行する。
【0194】
実施の形態3.
本実施形態では、コータを用いてロール紙Mdに対して一様に前処理剤PCAを付着させたあとで、描画情報に基づいて凝集剤AGを含んだ前処理剤PCAを吐出して前処置を実行する前処理装置3を含むインクジェットシステム4を例に説明を行う。また、実施の形態1と同じ構成には同じ符号を付し、重複する説明を省略する。
【0195】
図22は、本実施形態に係るインクジェットシステム4の概略を示す図である。本実施形態に係るインクジェットシステム4は、
図4に示したインクジェットシステム4において前処理剤吐出ヘッド31Lのかわりに、前処理剤PCAを記録媒体Mに付着させるコータ31CTを含んで構成される。コータ31CTは前処理実行部として機能する。
【0196】
また、コータ31CTとして、前処理剤吐出ヘッド31と同程度の幅を持ち、ロール紙Mdの主走査方向に対して一様に前処理剤PCAを付着させることのできる、例えば、ローラや液滴吐出口が設けられたパイプなどを用いてもよい。コータ31CTは、前処理制御部30Ccによってその動作を制御される。
【0197】
なお、本実施形態では、コータ31CTから前処理剤PCA2を記録媒体Mに付着させた後で前処理剤吐出ヘッド31Hから前処理剤PCA1を記録媒体Mに吐出して前処理剤塗付領域PCを形成する。このとき、前処理剤吐出情報生成部113が算出した画素ごとの前処理剤PCA1、PCA2の吐出量に基づいて、前処理装置3は、S1702の処理において、1ライン分の前処理剤PCA2の吐出量のうち、最も少ない吐出量の前処理剤PCA2をコータ31CTから記録媒体Mに付着させる構成であってもよい。
【0198】
また、前処理剤吐出情報生成部113が算出した画素ごとの前処理剤PCA1、PCA2の吐出量に基づいて、前処理装置3は、S1702の処理において、描画情報に基づいて画像形成される領域の前処理剤PCA2の吐出量のうち、最も少ない吐出量の前処理剤PCA2をコータ31CTから記録媒体Mに付着させる構成であってもよい。
【0199】
なお、上述したDFE1は、専用の装置であってもよいし、サーバ装置やパーソナルコンピュータに所定のソフトウェアをインストールして実現されるものであってもよい。また、DFE1はインクジェット装置2と別体である必要はなく、インクジェット装置2の内部にあるコントローラで実現されてもよい。
【0200】
さらに、DFE1と、インクジェット装置2内のプリンタコントローラ20Cと、前処理装置3内のプレコートコントローラ30Cとで協業して、DFE1の機能を実現してもよい。さらに、前処理装置3は直接DFE1と通信せず、プリンタコントローラ20Cを介して動作してもよい。
【0201】
また、上述した実施形態においては、記録媒体Mが搬送されているが、記録媒体Mは搬送されない構成であってもよい。例えば、テーブル上に記録媒体Mを配置し、着色剤吐出ヘッド21と前処理剤吐出ヘッド31を搭載したキャリッジが、二次元方向に移動することで記録媒体Mに画像を形成するフラットベッド方式のインクジェット装置にも適用可能である。
【0202】
また、上述した前処理装置3は、前処理剤を吐出する装置の例で説明したが、その他の前処理を行う装置であってもよい。例えば、画像形成出力される画像の種類に基づいてプラズマ装置のプラズマ放電の量を制御して、前処理の実行態様を制御してもよい。このとき、プラズマ放電を行う電極が、前処理を実施する前処理実行部として機能する。
【0203】
記録に用いる記録媒体としては、特に限定されないが、普通紙、光沢紙、特殊紙、布、フィルム、OHPシート、汎用印刷紙等が挙げられる。
【0204】
(インク)
以下、インクに用いる有機溶剤、水、色材、樹脂、添加剤等について説明する。
【0205】
<樹脂>
インク中に含有する樹脂の種類としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、アクリル系樹脂、酢酸ビニル系樹脂、スチレン系樹脂、ブタジエン系樹脂、スチレン-ブタジエン系樹脂、塩化ビニル系樹脂、アクリルスチレン系樹脂、アクリルシリコーン系樹脂などが挙げられる。
これらの樹脂からなる樹脂粒子を用いても良い。樹脂粒子を、水を分散媒として分散した樹脂エマルションの状態で、色材や有機溶剤などの材料と混合してインクを得ることが可能である。樹脂粒子としては、適宜合成したものを使用してもよいし、市販品を使用してもよい。また、これらは、1種を単独で用いても、2種類以上の樹脂粒子を組み合わせて用いてもよい。
【0206】
樹脂粒子の体積平均粒径としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、良好な定着性、高い画像硬度を得る点から、10nm以上1,000nm以下が好ましく、10nm以上200nm以下がより好ましく、10nm以上100nm以下が特に好ましい。
体積平均粒径は、例えば、粒度分析装置(ナノトラック Wave-UT151、マイクロトラック・ベル株式会社製)を用いて測定することができる。
【0207】
樹脂の含有量としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、定着性、インクの保存安定性の点から、インク全量に対して、1質量%以上30質量%以下が好ましく、5質量%以上20質量%以下がより好ましい。
【0208】
<色材>
色材としては特に限定されず、顔料、染料を使用可能である。
顔料としては、無機顔料又は有機顔料を使用することができる。これらは、1種単独で用いても良く、2種以上を併用しても良い。また、顔料として、混晶を使用しても良い。
顔料としては、例えば、ブラック顔料、イエロー顔料、マゼンダ顔料、シアン顔料、白色顔料、緑色顔料、橙色顔料、金色や銀色などの光沢色顔料やメタリック顔料などを用いることができる。
無機顔料として、酸化チタン、酸化鉄、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、水酸化アルミニウム、バリウムイエロー、カドミウムレッド、クロムイエローに加え、コンタクト法、ファーネス法、サーマル法などの公知の方法によって製造されたカーボンブラックを使用することができる。
また、有機顔料としては、アゾ顔料、多環式顔料(例えば、フタロシアニン顔料、ペリレン顔料、ペリノン顔料、アントラキノン顔料、キナクリドン顔料、ジオキサジン顔料、インジゴ顔料、チオインジゴ顔料、イソインドリノン顔料、キノフタロン顔料など)、染料キレート(例えば、塩基性染料型キレート、酸性染料型キレートなど)、ニトロ顔料、ニトロソ顔料、アニリンブラックなどを使用できる。これらの顔料のうち、溶媒と親和性の良いものが好ましく用いられる。その他、樹脂中空粒子、無機中空粒子の使用も可能である。
顔料の具体例として、黒色用としては、ファーネスブラック、ランプブラック、アセチレンブラック、チャンネルブラック等のカーボンブラック(C.I.ピグメントブラック7)類、または銅、鉄(C.I.ピグメントブラック11)、酸化チタン等の金属類、アニリンブラック(C.I.ピグメントブラック1)等の有機顔料があげられる。
さらに、カラー用としては、C.I.ピグメントイエロー1、3、12、13、14、17、24、34、35、37、42(黄色酸化鉄)、53、55、74、81、83、95、97、98、100、101、104、108、109、110、117、120、138、150、153、155、180、185、213、C.I.ピグメントオレンジ5、13、16、17、36、43、51、C.I.ピグメントレッド1、2、3、5、17、22、23、31、38、48:2、48:2(パーマネントレッド2B(Ca))、48:3、48:4、49:1、52:2、53:1、57:1(ブリリアントカーミン6B)、60:1、63:1、63:2、64:1、81、83、88、101(べんがら)、104、105、106、108(カドミウムレッド)、112、114、122(キナクリドンマゼンタ)、123、146、149、166、168、170、172、177、178、179、184、185、190、193、202、207、208、209、213、219、224、254、264、C.I.ピグメントバイオレット1(ローダミンレーキ)、3、5:1、16、19、23、38、C.I.ピグメントブルー1、2、15(フタロシアニンブルー)、15:1、15:2、15:3、15:4(フタロシアニンブルー)、16、17:1、56、60、63、C.I.ピグメントグリーン1、4、7、8、10、17、18、36、等がある。
染料としては、特に限定されることなく、酸性染料、直接染料、反応性染料、及び塩基性染料が使用可能であり、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
染料として、例えば、C.I.アシッドイエロー 17,23,42,44,79,142、C.I.アシッドレッド 52,80,82,249,254,289、C.I.アシッドブルー 9,45,249、C.I.アシッドブラック 1,2,24,94、C.I.フードブラック 1,2、C.I.ダイレクトイエロー 1,12,24,33,50,55,58,86,132,142,144,173、C.I.ダイレクトレッド 1,4,9,80,81,225,227、C.I.ダイレクトブルー 1,2,15,71,86,87,98,165,199,202、C.I.ダイレクドブラック 19,38,51,71,154,168,171,195、C.I.リアクティブレッド 14,32,55,79,249、C.I.リアクティブブラック 3,4,35が挙げられる。
【0209】
インク中の色材の含有量は、画像濃度の向上、良好な定着性や吐出安定性の点から、0.1質量%以上15質量%以下が好ましく、より好ましくは1質量%以上10質量%以下である。
【0210】
顔料を分散してインクを得る方法としては、顔料に親水性官能基を導入して自己分散性顔料とする方法、顔料の表面を樹脂で被覆して分散させる方法、分散剤を用いて分散させる方法、などが挙げられる。
顔料に親水性官能基を導入して自己分散性顔料とする方法としては、例えば、顔料(例えばカーボン)にスルホン基やカルボキシル基等の官能基を付加することで、水中に分散可能とする方法が挙げられる。
顔料の表面を樹脂で被覆して分散させる方法としては、顔料をマイクロカプセルに包含させ、水中に分散可能とする方法が挙げられる。これは、樹脂被覆顔料と言い換えることができる。この場合、インクに配合される顔料はすべて樹脂に被覆されている必要はなく、本発明の効果が損なわれない範囲において、被覆されない顔料や、部分的に被覆された顔料がインク中に分散していてもよい。
分散剤を用いて分散させる方法としては、界面活性剤に代表される、公知の低分子型の分散剤、高分子型の分散剤を用いて分散する方法が挙げられる。
分散剤としては、顔料に応じて例えば、アニオン界面活性剤、カチオン界面活性剤、両性界面活性剤、ノニオン界面活性剤等を使用することが可能である。
分散剤として、竹本油脂社製RT-100(ノニオン系界面活性剤)や、ナフタレンスルホン酸Naホルマリン縮合物も、分散剤として好適に使用できる。
分散剤は1種を単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
【0211】
<顔料分散体>
顔料に、水や有機溶剤などの材料を混合してインクを得ることが可能である。また、顔料と、その他水や分散剤などを混合して顔料分散体としたものに、水や有機溶剤などの材料を混合してインクを製造することも可能である。
顔料分散体は、水、顔料、顔料分散剤、必要に応じてその他の成分を混合、分散し、粒径を調整して得られる。分散は分散機を用いると良い。
顔料分散体における顔料の粒径については特に制限はないが、顔料の分散安定性が良好となり、吐出安定性、画像濃度などの画像品質も高くなる点から、最大個数換算で最大頻度が20nm以上500nm以下が好ましく、20nm以上150nm以下がより好ましい。顔料の粒径は、粒度分析装置(ナノトラック Wave-UT151、マイクロトラック・ベル株式会社製)を用いて測定することができる。
顔料分散体における顔料の含有量は、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、良好な吐出安定性が得られ、また、画像濃度を高める点から、0.1質量%以上50質量%以下が好ましく、0.1質量%以上30質量%以下がより好ましい。
顔料分散体に対し、必要に応じて、フィルター、遠心分離装置などで粗大粒子をろ過し、脱気することが好ましい。
【0212】
<有機溶剤>
本発明に使用する有機溶剤としては特に制限されず、水溶性有機溶剤を用いることができる。例えば、多価アルコール類、多価アルコールアルキルエーテル類や多価アルコールアリールエーテル類などのエーテル類、含窒素複素環化合物、アミド類、アミン類、含硫黄化合物類が挙げられる。
多価アルコール類の具体例としては、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、1,2-プロパンジオール、1,3-プロパンジオール、1,2-ブタンジオール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、2,3-ブタンジオール、3-メチル-1,3-ブタンジオール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、1,2-ペンタンジオール、1,3-ペンタンジオール、1,4-ペンタンジオール、2,4-ペンタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,2-ヘキサンジオール、1,6-ヘキサンジオール、1,3-ヘキサンジオール、2,5-ヘキサンジオール、1,5-ヘキサンジオール、グリセリン、1,2,6-ヘキサントリオール、2-エチル-1,3-ヘキサンジオール、エチル-1,2,4-ブタントリオール、1,2,3-ブタントリオール、2,2,4-トリメチル-1,3-ペンタンジオール、ペトリオール等が挙げられる。
多価アルコールアルキルエーテル類としては、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、テトラエチレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル等が挙げられる。
多価アルコールアリールエーテル類としては、エチレングリコールモノフェニルエーテル、エチレングリコールモノベンジルエーテル等が挙げられる。
含窒素複素環化合物としては、2-ピロリドン、N-メチル-2-ピロリドン、N-ヒドロキシエチル-2-ピロリドン、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン、ε-カプロラクタム、γ-ブチロラクトン等が挙げられる。
アミド類としては、ホルムアミド、N-メチルホルムアミド、N,N-ジメチルホルムアミド、3-メトキシ-N,N-ジメチルプロピオンアミド、3-ブトキシ-N,N-ジメチルプロピオンアミド等が挙げられる。
アミン類としては、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエチルアミン等が挙げられる。
含硫黄化合物類としては、ジメチルスルホキシド、スルホラン、チオジエタノール等が挙げられる。
その他の有機溶剤としては、プロピレンカーボネート、炭酸エチレン等が挙げられる。
湿潤剤として機能するだけでなく、良好な乾燥性を得られることから、沸点が250℃以下の有機溶剤を用いることが好ましい。
【0213】
有機溶剤として、炭素数8以上のポリオール化合物、及びグリコールエーテル化合物も好適に使用される。炭素数8以上のポリオール化合物の具体例としては、2-エチル-1,3-ヘキサンジオール、2,2,4-トリメチル-1,3-ペンタンジオールなどが挙げられる。
グリコールエーテル化合物の具体例としては、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、テトラエチレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル等の多価アルコールアルキルエーテル類;エチレングリコールモノフェニルエーテル、エチレングリコールモノベンジルエーテル等の多価アルコールアリールエーテル類などが挙げられる。
【0214】
炭素数8以上のポリオール化合物、及びグリコールエーテル化合物は、記録媒体として紙を用いた場合に、インクの浸透性を向上させることができる。
【0215】
有機溶剤のインク中における含有量は、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、インクの乾燥性及び吐出信頼性の点から、10質量%以上60質量%以下が好ましく、20質量%以上60質量%以下がより好ましい。
【0216】
<水>
インクにおける水の含有量は、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、インクの乾燥性及び吐出信頼性の点から、10質量%以上90質量%以下が好ましく、20質量%以上60質量%以下がより好ましい。
【0217】
<添加剤>
インクには、必要に応じて、界面活性剤、消泡剤、防腐防黴剤、防錆剤、pH調整剤等を加えても良い。
【0218】
<界面活性剤>
界面活性剤としては、シリコーン系界面活性剤、フッ素系界面活性剤、両性界面活性剤、ノニオン系界面活性剤、アニオン系界面活性剤のいずれも使用可能である。
シリコーン系界面活性剤には特に制限はなく目的に応じて適宜選択することができる。中でも高pHでも分解しないものが好ましい。シリコーン系界面活性剤としては、例えば、側鎖変性ポリジメチルシロキサン、両末端変性ポリジメチルシロキサン、片末端変性ポリジメチルシロキサン、側鎖両末端変性ポリジメチルシロキサン等が挙げられる。変性基としてポリオキシエチレン基、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレン基を有するものが、水系界面活性剤として良好な性質を示すので特に好ましい。また、シリコーン系界面活性剤として、ポリエーテル変性シリコーン系界面活性剤を用いることもでき、例えば、ポリアルキレンオキシド構造をジメチルシロキサンのSi部側鎖に導入した化合物等が挙げられる。
フッ素系界面活性剤としては、例えば、パーフルオロアルキルスルホン酸化合物、パーフルオロアルキルカルボン酸化合物、パーフルオロアルキルリン酸エステル化合物、パーフルオロアルキルエチレンオキサイド付加物及びパーフルオロアルキルエーテル基を側鎖に有するポリオキシアルキレンエーテルポリマー化合物が、起泡性が小さいので特に好ましい。パーフルオロアルキルスルホン酸化合物としては、例えば、パーフルオロアルキルスルホン酸、パーフルオロアルキルスルホン酸塩等が挙げられる。パーフルオロアルキルカルボン酸化合物としては、例えば、パーフルオロアルキルカルボン酸、パーフルオロアルキルカルボン酸塩等が挙げられる。パーフルオロアルキルエーテル基を側鎖に有するポリオキシアルキレンエーテルポリマー化合物としては、パーフルオロアルキルエーテル基を側鎖に有するポリオキシアルキレンエーテルポリマーの硫酸エステル塩、パーフルオロアルキルエーテル基を側鎖に有するポリオキシアルキレンエーテルポリマーの塩等が挙げられる。これらフッ素系界面活性剤における塩の対イオンとしては、Li、Na、K、NH4、NH3CH2CH2OH、NH2(CH2CH2OH)2、NH(CH2CH2OH)3等が挙げられる。
両性界面活性剤としては、例えばラウリルアミノプロピオン酸塩、ラウリルジメチルベタイン、ステアリルジメチルベタイン、ラウリルジヒドロキシエチルベタインなどが挙げられる。
ノニオン系界面活性剤としては、例えば、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルエステル、ポリオキシエチレンアルキルアミン、ポリオキシエチレンアルキルアミド、ポリオキシエチレンプロピレンブロックポリマー、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、アセチレンアルコールのエチレンオキサイド付加物などが挙げられる。
アニオン系界面活性剤としては、例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル酢酸塩、ドデシルベンゼンスルホン酸塩、ラウリル酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテルサルフェートの塩、などが挙げられる。
これらは、1種を単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
【0219】
シリコーン系界面活性剤としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、例えば、側鎖変性ポリジメチルシロキサン、両末端変性ポリジメチルシロキサン、片末端変性ポリジメチルシロキサン、側鎖両末端変性ポリジメチルシロキサンなどが挙げられ、変性基としてポリオキシエチレン基、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレン基を有するポリエーテル変性シリコーン系界面活性剤が水系界面活性剤として良好な性質を示すので特に好ましい。
このような界面活性剤としては、適宜合成したものを使用してもよいし、市販品を使用してもよい。市販品としては、例えば、ビックケミー株式会社、信越化学工業株式会社、東レ・ダウコーニング・シリコーン株式会社、日本エマルジョン株式会社、共栄社化学などから入手できる。
上記のポリエーテル変性シリコーン系界面活性剤としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、一般式(S-1)式で表わされる、ポリアルキレンオキシド構造をジメチルポリシロキサンのSi部側鎖に導入したものなどが挙げられる。
【0220】
【0221】
(但し、一般式(S-1)式中、m、n、a、及びbは、それぞれ独立に、整数を表わし、Rは、アルキレン基を表し、R’は、アルキル基を表す。)
上記のポリエーテル変性シリコーン系界面活性剤としては、市販品を用いることができ、例えば、KF-618、KF-642、KF-643(信越化学工業株式会社)、EMALEX-SS-5602、SS-1906EX(日本エマルジョン株式会社)、FZ-2105、FZ-2118、FZ-2154、FZ-2161、FZ-2162、FZ-2163、FZ-2164(東レ・ダウコーニング・シリコーン株式会社)、BYK-33、BYK-387(ビックケミー株式会社)、TSF4440、TSF4452、TSF4453(東芝シリコン株式会社)などが挙げられる。
【0222】
フッ素系界面活性剤としては、フッ素置換した炭素数が2~16の化合物が好ましく、フッ素置換した炭素数が4~16である化合物がより好ましい。
フッ素系界面活性剤としては、パーフルオロアルキルリン酸エステル化合物、パーフルオロアルキルエチレンオキサイド付加物、及びパーフルオロアルキルエーテル基を側鎖に有するポリオキシアルキレンエーテルポリマー化合物などが挙げられる。 これらの中でも、パーフルオロアルキルエーテル基を側鎖に有するポリオキシアルキレンエーテルポリマー化合物は起泡性が少ないため好ましく、特に一般式(F-1)及び一般式(F-2)で表わされるフッ素系界面活性剤が好ましい。
【0223】
【0224】
上記一般式(F-1)で表される化合物において、水溶性を付与するためにmは0~10の整数が好ましく、nは0~40の整数が好ましい。
【0225】
【0226】
上記一般式(F-2)で表される化合物において、YはH、又はCmF2m+1でmは1~6の整数、又はCH2CH(OH)CH2-CmF2m+1でmは4~6の整数、又はCpH2p+1でpは1~19の整数である。nは1~6の整数である。aは4~14の整数である。
上記のフッ素系界面活性剤としては市販品を使用してもよい。この市販品としては、例えば、サーフロンS-111、S-112、S-113、S-121、S-131、S-132、S-141、S-145(いずれも、旭硝子株式会社製);フルラードFC-93、FC-95、FC-98、FC-129、FC-135、FC-170C、FC-430、FC-431(いずれも、住友スリーエム株式会社製);メガファックF-470、F-1405、F-474(いずれも、大日本インキ化学工業株式会社製);ゾニール(Zonyl)TBS、FSP、FSA、FSN-100、FSN、FSO-100、FSO、FS-300、UR、キャプストーンFS-30、FS-31、FS-3100、FS-34、FS-35(いずれも、Chemours社製);FT-110、FT-250、FT-251、FT-400S、FT-150、FT-400SW(いずれも、株式会社ネオス社製)、ポリフォックスPF-136A,PF-156A、PF-151N、PF-154、PF-159(オムノバ社製)、ユニダインDSN-403N(ダイキン工業株式会社製)などが挙げられ、これらの中でも、良好な印字品質、特に発色性、紙に対する浸透性、濡れ性、均染性が著しく向上する点から、Chemours社製のFS-3100、FS-34、FS-300、株式会社ネオス製のFT-110、FT-250、FT-251、FT-400S、FT-150、FT-400SW、オムノバ社製のポリフォックスPF-151N及びダイキン工業株式会社製のユニダインDSN-403Nが特に好ましい。
【0227】
インク中における界面活性剤の含有量としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、濡れ性、吐出安定性に優れ、画像品質が向上する点から、0.001質量%以上5質量%以下が好ましく、0.05質量%以上5質量%以下がより好ましい。
【0228】
<消泡剤>
消泡剤としては、特に制限はなく、例えば、シリコーン系消泡剤、ポリエーテル系消泡剤、脂肪酸エステル系消泡剤などが挙げられる。これらは、1種を単独で用いても、2種以上を併用してもよい。これらの中でも、破泡効果に優れる点から、シリコーン系消泡剤が好ましい。
【0229】
<防腐防黴剤>
防腐防黴剤としては、特に制限はなく、例えば、1,2-ベンズイソチアゾリン-3-オンなどが挙げられる。
【0230】
<防錆剤>
防錆剤としては、特に制限はなく、例えば、酸性亜硫酸塩、チオ硫酸ナトリウムなどが挙げられる。
【0231】
<pH調整剤>
pH調整剤としては、pHを7以上に調整することが可能であれば、特に制限はなく、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン等のアミンなどが挙げられる。
【0232】
<インクの物性>
インクの物性としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、粘度、表面張力、pH等が以下の範囲であることが好ましい。
インクの25℃での粘度は、印字濃度や文字品位が向上し、また、良好な吐出性が得られる点から、5mPa・s以上30mPa・s以下が好ましく、5mPa・s以上25mPa・s以下がより好ましい。ここで、粘度は、例えば回転式粘度計(東機産業社製RE-80L)を使用することができる。測定条件としては、25℃で、標準コーンローター(1°34’×R24)、サンプル液量1.2mL、回転数50rpm、3分間で測定可能である。
インクの表面張力としては、記録媒体上で好適にインクがレベリングされ、インクの乾燥時間が短縮される点から、25℃で、35mN/m以下が好ましく、32mN/m以下がより好ましい。
インクのpHとしては、接液する金属部材の腐食防止の観点から、7~12が好ましく、8~11がより好ましい。
【0233】
(前処理剤)
前処理剤は、例えば多価金属塩、有機溶剤、カチオンポリマー、水等を含有し、凝集剤としての機能を有する。その他にも、界面活性剤、消泡剤、pH調整剤、防腐防黴剤、防錆剤等を含有しても良い。有機溶剤、界面活性剤、消泡剤、pH調整剤、防腐防黴剤、防錆剤はインクに用いる材料と同様の材料を使用でき、その他、公知の前処理剤に用いられる材料を使用できる。
【0234】
前処理剤が凝集剤としての機能を有する場合、インクジェットヘッドから前処理剤を吐出する場合のミスト付着やノズル詰まりによる吐出不良が問題になるが、本実施形態によれば、良好な吐出安定性を得ることができる。また、前処理剤の多価金属塩の析出による吐出異常を抑制しつつ、液体組成物が付与された領域に付与されるインクで形成されるドット形状の崩れによる生じる異常画像を抑制する優れた効果を奏する。
【0235】
<多価金属塩>
多価金属塩としては、2価以上の特定の多価金属イオンと、これら多価金属イオンに結合する陰イオンから構成されたものが挙げられる。
金属塩としては、例えば、カルシウム塩、マグネシウム塩、ニッケル塩、アルミニウム塩、ホウ素塩、亜鉛塩等が挙げられ、カルシウム塩、マグネシウム塩が好ましい。中でもマグネシウム塩が特に好ましいが、他の金属塩との組み合わせも可能であり、これらに限定されるものではない。
【0236】
無機金属塩の具体例として、カルシウム塩、マグネシウム塩としては、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、臭化カルシウム、臭化マグネシウム、硝酸カルシウム、硝酸マグネシウム、硫酸マグネシウムなどが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0237】
多価金属塩の他にも有機酸金属塩を用いてもよい。
有機酸金属塩の具体例としては、パントテン酸、プロピオン酸、アスコルビン酸、酢酸、乳酸のカルシウム塩、マグネシウム塩などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0238】
前処理剤中の多価金属塩の含有量としては、後述のベタイン化合物、グリセリンの含有量との関係を満たすことが好ましい。
【0239】
<前処理剤の物性>
前処理剤は、15ms動的表面張力が35mN/m以上65mN/m以下であることが好ましい。15ms動的表面張力が35mN/m以上であることで、吐出時の液滴の尾引き(リガメント長)を短くすることができるため、着弾する前処理剤を狙いの滴にすることが可能となり着弾時のドット崩れが抑えられる。また、尾引きが切れることによるミストを抑えることができるので、ミストによるノズル面の汚れを抑えることができ、ひいては不吐出になることが抑えられる。また、65mN/m以下であることで、サテライトの発生が抑えられるため、ミスト汚れが抑制でき、同様に不吐出の抑制になる。
【0240】
前処理剤は、静的表面張力が20mN/m以上35mN/m以下であることが好ましい。静的表面張力が20mN/m以上であることで、前処理剤がノズルのメニスカスを維持できるため、液あふれによる不吐出の発生を抑えることができる。また、35mN/m以下であることで、吐出力がメニスカス維持力の影響を受けることなく安定して前処理剤を吐出することができるようになる。これはインクのように固形分が入っている非ニュートン流体とは異なり、吐出による高剪断の粘度変化が起こらないため、この範囲が好ましい。
【0241】
<ベタイン化合物>
前処理剤は、多価金属塩と、グリセリンと、分子量が100以上200以下であるベタイン化合物と、を含むことが好ましく、グリセリンおよびベタイン化合物の合計含有量は、多価金属塩の含有量に対して、質量基準で1.05倍以上2.50倍以下であることが好ましい。
【0242】
多価金属塩を含む前処理剤は、前処理剤中の金属塩を溶解させている溶剤が蒸発していくと、溶解性が低下し、多価金属塩が析出する問題がある。前処理剤をデキャップ放置後に吐出させる場合、析出が原因で吐出異常が発生する問題がある。一方で、グリセリンを含有する前処理剤を記録媒体に付与し、その後インクを付与することでドットを形成する場合、グリセリンが多く残留している記録媒体上にインクを付与することになる。そのため、付与されたインク中の色材がグリセリンによって濡れ広がり、ドットの部分的な崩れに起因する粒状性の悪化の問題がある。
【0243】
ベタイン化合物を含有することにより、前処理剤の保湿性を向上させることができ、良好な吐出安定性が得られるとともに、粒状性を向上させて良好な画像を得ることができる。また、グリセリンおよびベタイン化合物の合計含有量は、多価金属塩の含有量に対して、質量基準で1.05倍以上2.50倍以下であることにより、良好な吐出安定性が得られるとともに、粒状性を向上させて良好な画像を得ることができる。
【0244】
グリセリンおよびベタイン化合物の合計含有量は、多価金属塩の含有量に対して質量基準で1.05倍以上1.40倍以下であることが好ましい。この場合、良好な吐出安定性が得られるとともに、粒状性を向上させて良好な画像を得ることができる。
【0245】
ベタイン化合物の含有量は、グリセリンおよびベタイン化合物の合計含有量に対して、質量基準で0.1倍以上0.5倍以下であることが好ましい。この場合、良好な吐出安定性が得られるとともに、粒状性を向上させて良好な画像を得ることができる。
【0246】
ベタイン化合物としては、適宜選択することが可能であり、例えば、トリメチルグリシン(グリシンベタイン、分子量117)、カルニチン(分子量161)、γ-ブチロベタイン(分子量145)、ホマリン(分子量137)、トリゴネリン(分子量137)、ホモセリンベタイン(分子量161)、バリンベタイン(分子量159)、リジンベタイン(分子量188)、オルニチンベタイン(分子量176)、アラニンベタイン(分子量117)、スタキドリン(プロリンベタイン、分子量185)、グルタミン酸ベタイン(分子量189)等が挙げられる。これらの中でも、分子量が100以上200以下であるベタイン化合物が好ましい。分子量が100以上200以下であることにより、紙面のインクの浸透性を高めることができ、粒状性を向上させることができる。
【実施例】
【0247】
以下、本発明を実施例により詳細に説明するが、本発明は下記実施例に限定されるものではない。また、実施例1~5とあるのは、本発明に含まれない参考例1~5とする。
【0248】
(実施例1~5)
<前処理剤の調製例>
下記表1に示される処方にて前処理剤1~5を調製した。
なお、表1のCapstone-FS34はケマーズ社製を用いた。
【0249】
<動的表面張力>
各前処理剤の動的表面張力は、ポータブル表面張力計(英弘精機社製、SITA DynoTester)を用いて、温度:25℃、bublelifetime:15msec、150msec、1500msecの条件で測定した。
【0250】
<静的表面張力>
各前処理剤の静的表面張力は、表面張力計(協和界面社製、DY300)を用いて、温度:25℃の条件で測定した。
【0251】
<吐出安定性>
各前処理剤を充填したGXe5500を用いて、インクジェット光沢紙上にベタ画像を連続250枚印字し、ベタ画像部にスジ・白抜け・噴射乱れの有無を目視で評価した。前処理剤は無色のため、FB0.005%水溶液(FB:ダイワ化成社製、青色1号)を0.1%添加して染色して確認を行う。下記評価基準のうちA、Bを合格とした。
[評価基準]
A:ベタ部にスジ・白抜け・噴射乱れが認められない。
B:若干、ベタ部にスジ・白抜け・噴射乱れが見られる。
C:ベタ印字の半数にスジ・白抜け・噴射乱れが見られる。
D:ベタ部全面にスジ・白抜け・噴射乱れが見られる。
【0252】
<ノズル面のあふれについて>
各前処理剤を充填したGXe5500を用いて、インクジェット光沢紙上にベタ画像を連続250枚印字し、ノズル面の状態を目視で確認し、液のあふれ、ノズル面の汚れを目視評価した。下記評価基準のうちA、Bを合格とした。
[評価基準]
A:ノズル面への液あふれなし(ノズルの位置が目視で分からない)
B:若干ノズル面に液が散っている(ノズルの位置は分からないが、液滴がついているのは確認できる)
C:ノズル面に液が散っている(液がノズル周りにあふれて、位置が目視で確認できる)
D:ノズル面に液が散っており、液だまりがはっきりと確認できる
【0253】
表1に前処理剤の組成、評価結果を示す。なお、「%」とあるのは「質量%」を意味する。
【0254】
【0255】
(実施例6~15)
<共重合体Aの合成例>
攪拌装置、滴下装置、温度センサー及び上部に窒素導入装置を有する還流装置を取り付けた反応容器を備えた自動重合反応装置(轟産業社製:重合試験機DSL-2AS型)の反応容器に、メチルエチルケトンを550g仕込み、攪拌しながら反応容器内を窒素置換した。反応容器内を窒素雰囲気に保ちながら80℃に加温した後、滴下装置によりメタクリル酸-2-ヒドロキシエチルを75.0g、メタクリル酸を77.0g、スチレンを8
0.0g、メタクリル酸ブチルを150.0g、アクリル酸ブチルを98.0g、メタクリル酸メチルを20.0g及び「パーブチルO」(日本油脂社製)40.0gの混合溶液を4時間かけて滴下した。滴下終了後、更に同温度で15時間反応を継続させて、酸価100、重量平均分子量21,000、Tg(計算値)31℃のアニオン性基含有スチレン-アクリル系共重合体Aのメチルエチルケトン溶液を得た。反応終了後、メチルエチルケトンの一部を減圧留去し、不揮発分を50%に調整した共重合体A溶液を得た。
【0256】
<顔料分散体の調製例>
-顔料分散体1の調製-
冷却用ジャケットを備えた混合槽に、カーボンブラック(商品名:Raven1080、コロンビヤンカーボン日本社製)を1,000g、共重合体A溶液を800g、10%水酸化ナトリウム水溶液を143g、メチルエチルケトンを100g、及び水を1,957g仕込み、撹拌混合した。混合液を、直径0.3mmのジルコニアビーズを充填した分散装置(三井鉱山社製:SCミルSC100)に通し、循環方式(分散装置より出た分散液を混合槽に戻す方式)により6時間分散した。分散装置の回転数は2,700回転/分間とし、冷却用ジャケットには冷水を通して分散液温度が40℃以下に保たれるようにした。
分散終了後、混合槽より分散原液を抜き取り、次いで、水10,000gで混合槽及び分散装置流路を洗浄し、分散原液と合わせて希釈分散液を得た。ガラス製蒸留装置に希釈分散液を入れ、メチルエチルケトンの全量と水の一部を留去した。室温まで冷却後、撹拌しながら10%塩酸を滴下してpH4.5に調整した後、固形分をヌッチェ式濾過装置(日本化学機械製造社製、加圧濾過機)で濾過、水洗した。ケーキを容器に取り、20%水酸化カリウム水溶液200gを加えた後、ディスパ(特殊機化工業社製、TKホモディスパー)にて分散し、更に水を加えて不揮発分を調整して、不揮発分20質量%のカーボンブラックが水酸化カリウム中で中和されたカルボキシル基含有スチレン-アクリル系共重合体で被覆された複合粒子として水性媒体中に分散した顔料分散体1を得た。
【0257】
<インクの調製例>
-インク1の調製-
グリセリン22.0質量%、1,3-ブタンジオール11.0質量%、1,3-オクタンジオール2.0質量%、界面活性剤(商品名:E1010、日信化学工業社製)2.0質量%、2,4,7,9-テトラメチルデカン-4,7-ジオール1.1質量%、プロキセルLV(アビシア社製)0.1質量%、及び2-アミノ-2-エチル-1、3-プロパンジオール0.5質量%、及びイオン交換水を1時間撹拌し均一に混合し、ロジン変性マレイン酸樹脂(ハリマ化成社製:ハリマックR-100)2.0質量%を加えて更に1時間撹拌し均一に混合した後、顔料分散体1を固形分量が8.0質量%になるように加えて更に1時間撹拌し均一に混合した。この混合物を平均孔径が0.8μmのポリビニリデンフロライドメンブランフィルターにより加圧濾過し、粗大粒子やゴミを除去してインク1を得た。
【0258】
表2にインク1の組成を示す。なお、表2における組成の各数字の単位は「質量%」である。
【0259】
【0260】
<前処理剤6の調製>
グリセリン22.2質量%、硫酸マグネシウム7水和物24.6質量%(昭和化学社製)、ベタイン化合物であるL-カルニチン7.4質量%、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル(商品名:エマルゲン103、花王社製)0.4質量%、プロキセルLV(アビシア社製)0.1質量%、ベンゾトリアゾール0.1質量%を添加し、1時間撹拌し均一に混合した。更に、N-オクチル-2-ピロリドン1.2質量%を加えた後で、イオン交換水を加えて合計を100質量%とし、1時間撹拌して均一に混合し、液体組成物である前処理剤1を得た。
【0261】
<前処理剤7~15の調整>
前処理剤6の調製において、下記表3の組成に変更した以外は、前処理剤6の調整と同様にして、実施例6~15を得た。
なお、表3における組成の各数字の単位は「質量%」である。また、表3における「多価金属塩」の質量には、多価金属塩に含まれる水和水の質量が含まれる。また、表3における「(グリセリン+ベタイン化合物)/多価金属塩」の算出で用いる「多価金属塩」の質量には、多価金属塩に含まれる水和水の質量が含まれる。
【0262】
なお、表3において、成分の商品名、及び製造会社名については下記の通りである。
・硝酸マグネシウム7水和物(昭和化学社製)
・硝酸マグネシウム6水和物(昭和化学社製)
【0263】
(評価)
次に、上記前処理剤6~15と上記インク1を用いて、粒状性と析出性を下記の方法及び評価基準に従って評価した。
【0264】
<粒状性>
前処理剤を吐出させた記録媒体を、加熱処理により乾燥させることなく、画像形成装置(装置名:IPSIO GXe5500、リコー社製)から記録媒体へインクを吐出させて印刷サンプルを得た。なお、印刷チャートは階調を振ったドットパターンで形成された3cm四方の階調画像を使用した。
次に、階調を振ったドットパターンで形成された3cm四方の階調画像を、目視により観察し、下記評価基準に基づいて、「粒状性」を評価した。下記評価基準のうちB以上である場合を実用可能であると評価した。
[評価基準]
A:粒状性の悪化は見られない(ドットが崩れていない)
B:やや粒状性の悪化が見られるが問題ない(ほとんどのドットが崩れていない)
C:粒状性の悪化が見られ、目視で明らかに分かる(ほとんどのドットが崩れている)
【0265】
<吐出安定性>
GXe5500のヘッドに前処理剤を充填して、デキャップ状態で、23℃、湿度50%の環境下で3日放置し、下記評価基準に基づいて、インクジェット光沢紙上にベタ画像を1枚印字し、ベタ画像部にスジ・白抜け・噴射乱れの有無を目視で評価した。前処理剤は無色のため、FB0.005%水溶液を0.1%添加して染色して確認を行う。下記評価基準のうちA、Bを合格とした。評価がCの場合では、吐出後のノズルを観察すると、析出物でつまっているノズルが多く見られた。
【0266】
[評価基準]
A:ベタ部にスジ・白抜け・噴射乱れが認められない。
B:若干、ベタ部にスジ・白抜け・噴射乱れが見られる。
C:ベタ印字の半数、あるいは前面にスジ・白抜け・噴射乱れが見られる。
【0267】
表3に前処理剤の組成、評価結果を示す。
【0268】
【符号の説明】
【0269】
1 DFE
2 インクジェット装置
3 前処理装置
4 インクジェットシステム
5A、5B 測定装置
6 画像形成装置
11 CPU
12 ROM
13 RAM
14 HDD
15 I/F
15F ネットワークI/F
16 バス
21 着色剤吐出ヘッド
31 前処理剤吐出ヘッド
31CT コータ
100 コントローラ
110 主制御部
111 特性情報記憶部
112 描画情報解析部
113 前処理剤吐出情報生成部
114 媒体特性情報記憶部
115 前処理剤特性情報記憶部
116 着色剤特性情報記憶部
SD 特性情報データテーブル
【先行技術文献】
【特許文献】
【0270】