(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-03
(45)【発行日】2022-10-12
(54)【発明の名称】表示装置、表示方法、ヘッドアップディスプレイ及びウェアラブルデバイス
(51)【国際特許分類】
G02B 27/01 20060101AFI20221004BHJP
B60K 35/00 20060101ALI20221004BHJP
G01C 21/36 20060101ALI20221004BHJP
G08G 1/16 20060101ALI20221004BHJP
G02B 27/02 20060101ALI20221004BHJP
【FI】
G02B27/01
B60K35/00 A
G01C21/36
G08G1/16 F
G02B27/02 Z
(21)【出願番号】P 2018212037
(22)【出願日】2018-11-12
【審査請求日】2021-08-06
(73)【特許権者】
【識別番号】000006747
【氏名又は名称】株式会社リコー
(74)【代理人】
【識別番号】100121083
【氏名又は名称】青木 宏義
(72)【発明者】
【氏名】市川 陽一
(72)【発明者】
【氏名】岸 由美子
【審査官】井亀 諭
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/134876(WO,A1)
【文献】特開2006-331040(JP,A)
【文献】特開平07-195961(JP,A)
【文献】特開2017-156869(JP,A)
【文献】特開2017-013736(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2015-0139229(KR,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 27/01-27/02
B60K 35/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ユーザに情報を提供する第1の像を表示エリアに表示する表示装置であって、
前記ユーザに提供する情報を含まない第2の像を前記表示エリアに表示する制御部を有し、
前記制御部は、前記表示エリアに前記第2の像を複数表示させ、
前記複数の第2の像の表示タイミングは時間的に重複して
おり、
前記ユーザの視線移動を検出する視線移動検出部をさらに有し、
前記複数の第2の像は、前記ユーザの視線移動を誘起するダミー刺激像と、前記ユーザの注意回復を促すメイン刺激像とを有し、
前記ダミー刺激像を表示した後に、前記視線移動検出部により前記ユーザの視線移動が検出された場合に、前記メイン刺激像が前記表示エリアに表示される、
ことを特徴とする表示装置。
【請求項2】
前記複数の第2の像は、前記表示エリアの中心又は前記表示エリアを観察する前記ユーザの視野中心の少なくとも一方を挟んで前記表示エリアに表示される、
ことを特徴とする請求項1に記載の表示装置。
【請求項3】
前記複数の第2の像は、前記表示エリアの中心又は前記表示エリアを観察する前記ユーザの視野中心の少なくとも一方に対して対称となるように、前記表示エリアに表示される、
ことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の表示装置。
【請求項4】
前記複数の第2の像は、輝度、色、及び大きさの少なくとも1つが変化を伴いながら、前記表示エリアに表示される、
ことを特徴とする請求項1から請求項3のいずれかに記載の表示装置。
【請求項5】
前記複数の第2の像の輝度を所定時間内において積分した積算強度は、ユーザの弁別閾値に基づいて設定される、
ことを特徴とする請求項1から請求項4のいずれかに記載の表示装置。
【請求項6】
前記複数の第2の像の輝度を所定時間内において積分した積算強度は、前記第1の像の輝度に基づいて設定される、
ことを特徴とする請求項1から請求項5のいずれかに記載の表示装置。
【請求項7】
前記複数の第2の像の表示タイミングは、ランダムである、
ことを特徴とする請求項1から請求項6のいずれかに記載の表示装置。
【請求項8】
前記複数の第2の像は、前記第1の像における特定像の表示と同時に又は所定の時間差を持って、前記表示エリアに表示される、
ことを特徴とする請求項1から請求項6のいずれかに記載の表示装置。
【請求項9】
前記複数の第2の像は、前記ユーザの前記表示エリアの連続観察時間が所定時間を超えた場合に、前記表示エリアに表示される、
ことを特徴とする請求項1から請求項8のいずれかに記載の表示装置。
【請求項10】
前記複数の第2の像は、前記ユーザの注意力の低下が検出されたタイミングで、前記表示エリアに表示される、
ことを特徴とする請求項1から請求項8のいずれかに記載の表示装置。
【請求項11】
前記複数の第2の像を前記表示エリアに表示するか否かを切り替える切替部をさらに有する、
ことを特徴とする請求項1から請求項10のいずれかに記載の表示装置。
【請求項12】
前記複数の第2の像は、前記表示エリアにおける前記第1の像の表示範囲の外側に表示される、
ことを特徴とする請求項1から請求項11のいずれかに記載の表示装置。
【請求項13】
前記表示エリアを観察する前記ユーザの視野を検出する視野検出部をさらに有し、
前記複数の第2の像は、前記視野検出部の検出結果に基づいて、前記表示エリアにおける前記ユーザの周辺視野に表示される、
ことを特徴とする請求項1から請求項12のいずれかに記載の表示装置。
【請求項14】
前記表示エリアにおける前記ユーザの視野を検出する視野検出部をさらに有し、
前記複数の第2の像は、前記視野検出部の検出結果に基づいて、前記表示エリアにおける前記ユーザの視野中心を挟んで前記表示エリアに表示される、
ことを特徴とする請求項1から請求項12のいずれかに記載の表示装置。
【請求項15】
前記第2の像とは別の視覚刺激を呈示する視覚刺激呈示部をさらに有し、
前記第2の像の表示タイミングと前記別の視覚刺激の呈示タイミングとが時間的に重複する、
ことを特徴とする請求項1から請求項14のいずれかに記載の表示装置。
【請求項16】
前記第2の像とは別の複数の視覚刺激を呈示する視覚刺激呈示部をさらに有し、
前記別の複数の視覚刺激のそれぞれは重複したタイミングで呈示される、
ことを特徴とする請求項1から請求項14のいずれかに記載の表示装置。
【請求項17】
周辺環境の明るさを検出する明るさ検出部をさらに有し、
前記明るさ検出部の検出結果に基づいて、前記複数の第2の像の輝度が変更される、
ことを特徴とする請求項1から請求項16のいずれかに記載の表示装置。
【請求項18】
前記ダミー刺激像は、前記表示エリアにおける前記ユーザの周辺視野に表示され、前記メイン刺激像は、前記表示エリアにおける前記ユーザの視野中心に表示される、
ことを特徴とする
請求項1から請求項17のいずれかに記載の表示装置。
【請求項19】
請求項1から請求項
18のいずれかに記載の表示装置を有し、車両のフロントガラス又はコンバイナを前記表示エリアとする、
ことを特徴とするヘッドアップディスプレイ。
【請求項20】
車両内又は車両外のシステムから任意の交通情報を受け取った場合に、前記第2の像を表示する、
ことを特徴とする請求項
19に記載のヘッドアップディスプレイ。
【請求項21】
請求項1から請求項
18のいずれかに記載の表示装置を有し、ユーザの身体に装着して使用される、
ことを特徴とするウェアラブルデバイス。
【請求項22】
ユーザに情報を提供する第1の像を表示エリアに表示する表示方法であって、
前記ユーザに提供する情報を含まない第2の像を前記表示エリアに表示する制御ステップを有し、
前記制御ステップは、前記表示エリアに前記第2の像を複数表示させ、
前記複数の第2の像の表示タイミングは時間的に重複して
おり、
前記ユーザの視線移動を検出する視線移動検出ステップをさらに有し、
前記複数の第2の像は、前記ユーザの視線移動を誘起するダミー刺激像と、前記ユーザの注意回復を促すメイン刺激像とを有し、
前記ダミー刺激像を表示した後に、前記視線移動検出ステップにより前記ユーザの視線移動が検出された場合に、前記メイン刺激像が前記表示エリアに表示される、
ことを特徴とする表示方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表示装置、表示方法、ヘッドアップディスプレイ及びウェアラブルデバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1、2には、例えば、車両のドライバ等のユーザに対して視覚刺激を与えることにより、当該ユーザの覚醒状態を維持するための覚醒維持装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2017-156869号公報
【文献】特開2017-174091号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1、2に開示された視覚刺激の呈示はユーザの視線移動を伴うが、視覚刺激自体はユーザへの情報を提供するものではないためユーザが注視する必要はなく、表示装置の用途や表示装置が表示する内容によっては視覚刺激の呈示による覚醒状態の維持や注意力の回復を、視線移動を伴わず実施できることが望ましい。例えば、表示装置を車両の運転支援に用いる場合において、表示装置のユーザである運転手の覚醒状態の維持や注意力の回復を実施する際に、運転手の視線移動は極力避けることが望まれている。すなわち、特許文献1、2に開示された覚醒維持装置は、視覚を刺激する際に、ユーザの視線移動を極力行なわない、という観点において改善の余地がある。
【0005】
本発明は、以上に基づいてなされたものであり、ユーザの視線移動を誘起せずに、覚醒状態の維持や注意力を回復する表示装置、表示方法、ヘッドアップディスプレイ及びウェアラブルデバイスを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本実施形態の表示装置は、ユーザに情報を提供する第1の像を表示エリアに表示する表示装置であって、前記ユーザに提供する情報を含まない第2の像を前記表示エリアに表示する制御部を有し、前記制御部は、前記表示エリアに前記第2の像を複数表示させ、前記複数の第2の像の表示タイミングは時間的に重複しており、前記ユーザの視線移動を検出する視線移動検出部をさらに有し、前記複数の第2の像は、前記ユーザの視線移動を誘起するダミー刺激像と、前記ユーザの注意回復を促すメイン刺激像とを有し、前記ダミー刺激像を表示した後に、前記視線移動検出部により前記ユーザの視線移動が検出された場合に、前記メイン刺激像が前記表示エリアに表示される、ことを特徴としている。
【0007】
本実施形態の表示方法は、ユーザに情報を提供する第1の像を表示エリアに表示する表示方法であって、前記ユーザに提供する情報を含まない第2の像を前記表示エリアに表示する制御ステップを有し、前記制御ステップは、前記表示エリアに前記第2の像を複数表示させ、前記複数の第2の像の表示タイミングは時間的に重複しており、前記ユーザの視線移動を検出する視線移動検出ステップをさらに有し、前記複数の第2の像は、前記ユーザの視線移動を誘起するダミー刺激像と、前記ユーザの注意回復を促すメイン刺激像とを有し、前記ダミー刺激像を表示した後に、前記視線移動検出ステップにより前記ユーザの視線移動が検出された場合に、前記メイン刺激像が前記表示エリアに表示される、ことを特徴としている。
【0008】
本実施形態のヘッドアップディスプレイは、上述した表示装置を有し、車両のフロントガラス又はコンバイナを前記表示エリアとする、ことを特徴としている。
【0009】
本実施形態のウェアラブルデバイスは、上述した表示装置を有し、ユーザの身体に装着して使用される、ことを特徴としている。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、ユーザの視線移動を誘起せずに、覚醒状態の維持や注意力を回復する表示装置、表示方法、ヘッドアップディスプレイ及びウェアラブルデバイスを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】車両用HUD装置において、フロントガラス越しにユーザから見る自車両の前方風景に重ねて表示エリアに表示される虚像の一例を示す正面図である。
【
図2】車両用HUD装置を搭載した自動車の構成を模式的に示す一部破断の模式側面図である。
【
図3】車両用HUD装置の光学系の内部構成を模式的に示すブロック図である。
【
図4】車両用HUD装置の制御系の内部構成を示すブロック図である。
【
図5】車両用HUD装置及びその周辺装置の概略構成を示すブロック図である。
【
図6】表示エリアに表示された表示像と複数の視覚刺激像の一例を示す図である。
【
図7】複数の視覚刺激像を表示エリアにおけるユーザの視野中心を挟むように表示した場合の一例を示す第1の図である。
【
図8】複数の視覚刺激像を表示エリアにおけるユーザの視野中心を挟むように表示した場合の一例を示す第2の図である。
【
図9】複数の視覚刺激像を表示エリアにおけるユーザの視野中心を挟むように表示した場合の一例を示す第3の図である。
【
図10】複数の視覚刺激像を表示エリアの表示像の表示範囲の外側となるように表示した場合の一例を示す図である。
【
図11】複数の視覚刺激像を輝度と色と大きさの少なくとも1つを変化させながら表示した場合の一例を示す図である。
【
図12】複数の視覚刺激像の所定時間内における積算強度を決定するための光学系と制御系の構成の一例を示すブロック図である。
【
図13】複数の視覚刺激像の表示タイミングの一例を示すタイミングチャートである。
【
図14】複数の視覚刺激像を表示するトリガ(タイミング)の条件(基準)の一例を示す第1のフローチャートである。
【
図15】複数の視覚刺激像を表示するトリガ(タイミング)の条件(基準)の一例を示す第2のフローチャートである。
【
図16】複数の視覚刺激像を表示するトリガ(タイミング)の条件(基準)の一例を示す第3のフローチャートである。
【
図17】複数の視覚刺激像を表示するトリガ(タイミング)の条件(基準)の一例を示す第4のフローチャートである。
【
図18】切替スイッチを有する車両用HUD装置を示す
図2に対応する一部破断の模式側面図である。
【
図19】視野検出センサを有する車両用HUD装置を示す
図2に対応する一部破断の模式側面図である。
【
図20】運転者の視野に基づいて複数の視覚刺激像を表示する場合の一例を示す第1の図である。
【
図21】運転者の視野基づいて複数の視覚刺激像を表示する場合の一例を示す第2の図である。
【
図22】運転者の視野に基づいて複数の視覚刺激像を表示する場合の一例を示す第3の図である。
【
図23】視覚刺激呈示部を有する車両用HUD装置を示す
図2に対応する一部破断の模式側面図である。
【
図24】表示エリアを介した複数の視覚刺激像をHUD表示範囲と運転者周辺視野の重畳領域に表示した場合の一例を示す図である。
【
図25】表示エリアを介した視覚刺激像と視覚刺激呈示部を介した視覚刺激を運転者周辺視野に呈示した場合の一例を示す図である。
【
図26】視覚刺激呈示部を介した複数の視覚刺激を運転者周辺視野に呈示した場合の一例を示す図である。
【
図27】表示制御部と視覚刺激呈示部の連係部の一例を示すブロック図である。
【
図28】メイン刺激像とダミー刺激像の表示位置の一例を示す図である。
【
図29】ダミー刺激像の表示からメイン刺激像の表示への流れの一例を示す図である。
【
図30】メイン刺激像とダミー刺激像を用いた動作の一例を示すフローチャートである。
【
図31】周辺環境の明るさに基づいて複数の視覚刺激像の輝度を変更するための光学系と制御系の構成の一例を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
図1~
図5を参照して、表示装置を適用した車両用HUD装置の全体構成の一例について説明する。ここでは、表示装置1は、車両のフロントガラス又はコンバイナに各種の像(後述する表示像と視覚刺激像)を表示する車両用のヘッドアップディスプレイ(HUD:Head Up Display)装置に適用されている。
【0013】
図1は、車両用HUD装置1において、フロントガラス302越しに運転者(ユーザ)300から見る自車両301の前方風景に重ねて表示エリアに表示される虚像の一例を示す正面図である。
図2は、車両用HUD装置1を搭載した自動車の構成を模式的に示す一部破断の模式側面図である。
図3は、車両用HUD装置1の光学系の内部構成を模式的に示すブロック図である。
【0014】
図2に示すように、車両用HUD装置1は、例えば、移動体(走行体)である自動車(自車両301)のダッシュボード内に設置される。ダッシュボード内の車両用HUD装置1から発せられる画像光である投射光Lが光透過部材としてのフロントガラス302で反射され、視認者である運転者300に向かう。これにより、運転者300は、後述するナビゲーション画像等のHUD表示画像(表示像と視覚刺激像)を虚像Gとして視認することができる。なお、フロントガラス302の内壁面に光透過部材としてのコンバイナを設置し、このコンバイナによって反射する投射光Lによって運転者に虚像を視認させるように構成してもよい。なお、本明細書における「表示像」は、虚像に限定されず、視認対象である像が直接的に結像したものであってもよい。すなわち、本明細書における「表示像」は、運転者が視覚を通じて認識できるものであればよい。
【0015】
フロントガラス302の車両内側上部に、車両用HUD装置1の表示情報及びその背景(フロントガラス302越しの風景)を撮影する前方撮影用カメラ110、虚像G(HUD表示画像)の周囲の環境光の明るさ及び色度を検出する環境光センサ(明るさ検出部)150が設けられる。ここでいう明るさには、輝度、照度、光度、全光束ならびにそれらの測定結果をもとに算出される値を含む。
【0016】
車両用HUD装置1では、運転者300から虚像Gまでの距離が4m以上となるように、車両用HUD装置1の光学系等が構成されている。従来の一般的な車両用HUD装置は、運転者300から虚像Gまでの距離が2m程度であった。運転者300は、通常、車両前方の無限遠点から数十m先の先行車までを注視して運転している。このような遠方に焦点を合わせている運転者300が2m先の虚像Gを視認しようとする場合、焦点距離が大きく異なるので、眼球の水晶体を大きく動かす必要がある。そのため、虚像Gに焦点を合わせるまでの焦点調整時間が長くなり、虚像Gの内容を認識するまでに時間がかかるうえ、運転者300の眼球が疲労しやすいという不具合が生じる。また、虚像Gの内容を運転者が把握し辛く、虚像Gによって情報を運転者へ適切に提供する、という観点で改善の余地がある。
【0017】
運転者300から虚像Gまでの距離が4m以上であれば、従来よりも、眼球の水晶体を動かす量が減り、虚像Gへの焦点調整時間を短縮して虚像Gの内容を早期に認識できるようになり、また運転者300の眼球の疲労を軽減することができる。さらには、虚像Gの内容を運転者300が把握しやすくなり、虚像Gによって情報を運転者300へ適切に提供することが容易になる。運転者300から虚像Gまでの距離が4m以上であれば、眼球をほとんど輻輳運動させることなく虚像Gに焦点を合わせることができる。したがって、運動視差を利用して距離感(知覚距離の変化)や奥行き感(知覚距離の違い)を知覚させる効果が眼球の輻輳運動によって薄まってしまうことが抑制される。よって、画像の距離感や奥行き感を利用した運転者の情報知覚効果を有効に発揮させることができる。
【0018】
図3に示すように、車両用HUD装置1は、光学系230内に、赤色、緑色、青色のレーザ光源201R、201G、201Bと、各レーザ光源に対して設けられるコリメータレンズ202、203、204と、2つのダイクロイックミラー205、206とを備える。車両用HUD装置1はさらに、光量調整部207と、光走査手段としての光走査装置208と、自由曲面ミラー209と、光発散部材としてのマイクロレンズアレイ210と、光反射部材としての投射ミラー211とから構成されている。光源ユニット220は、レーザ光源201R、201G、201B、コリメータレンズ202、203、204、ダイクロイックミラー205、206が、光学ハウジングによってユニット化されて構成されている。
【0019】
レーザ光源201R、201G、201BとしてはLD(半導体レーザ素子)を用いる。赤色レーザ光源201Rから射出される光束の波長は例えば640nmであり、緑色レーザ光源201Gから射出される光束の波長は例えば530nmであり、青色レーザ光源201Bから射出される光束の波長は例えば445nmである。
【0020】
車両用HUD装置1は、マイクロレンズアレイ210上に結像される中間像を自由曲面ミラー209を用いて自車両301のフロントガラス302に投射することで、その中間像の拡大画像を運転者300に虚像Gとして視認させる。レーザ光源201R、201G、201Bから発せられる各色レーザ光は、それぞれ、コリメータレンズ202、203、204で略平行光とされ、2つのダイクロイックミラー205、206により合成される。合成されたレーザ光は、光量調整部207で光量が調整された後、光走査装置208のミラーによって二次元走査される。光走査装置208で二次元走査された走査光L’は、自由曲面ミラー209で反射されて歪みを補正された後、マイクロレンズアレイ210に集光され、中間像を描画する。
【0021】
ここでは、中間像の画素(中間像の一点)ごとの光束を個別に発散させて出射する光発散部材として、マイクロレンズアレイ210を用いているが、他の光発散部材を用いてもよい。また、中間像G’の形成方法としては、液晶ディスプレイ(LCD)や蛍光表示管(VFD)を利用した方式でもよい。ただし、大きな虚像Gを高い輝度で表示させるには、レーザ走査方式が好ましい。
【0022】
また、液晶ディスプレイ(LCD)や蛍光表示管(VFD)などを利用した方式では、虚像Gが表示される表示領域内の非画像部分にも僅かながら光が照射され、これを完全に遮断することが難しい。そのため、当該非画像部分における自車両301の前方風景の視認性が低下するというデメリットがある。これに対して、レーザ走査方式によれば、虚像Gの表示領域内の非画像部分については、レーザ光源201R、201G、201Bを消灯させることにより当該非画像部分に光が照射されるのを完全に遮断することができる。よって、当該非画像部分における自車両301の前方風景の視認性が車両用HUD装置1から照射される光によって低下する事態を回避でき、前方風景の視認性を良好に保てるというメリットがある。
【0023】
更に、運転者に警告等を行うための警告画像の輝度を段階的に高めることで警告の度合いを強めるような場合、表示エリア700(
図1)内に表示されている各種画像のうちの警告画像の輝度だけを段階的に高めるという表示制御が必要になる。このように表示エリア700内の一部画像について部分的に輝度を高めるような表示制御を行う場合も、レーザ走査方式が好適である。液晶ディスプレイ(LCD)や蛍光表示管(VFD)などを利用した方式では、表示エリア700における特定部分のみの輝度を変更することが困難であり、表示エリア700内に表示されている警告画像以外の画像についても輝度が高まってしまう。そのため、警告画像とそれ以外の画像との間の輝度差を広げることができず、警告画像の輝度を段階的に高めることで警告の度合いを強めるという制御は難しい。
【0024】
光走査装置208は、MEMS(Micro Electro Mechanical Systems)等の公知のアクチュエータ駆動システムでミラーを主走査方向及び副走査方向に傾斜動作させ、ミラーに入射するレーザ光を二次元走査(ラスタスキャン)する。ミラーの駆動制御は、レーザ光源201R、201G、201Bの発光タイミングに同期して行われる。光走査装置208は、例えば、互いに直交する2つの軸回りをそれぞれ揺動あるいは回動する2つのミラーからなるミラー系で構成してもよい。
【0025】
図4は、車両用HUD装置1の制御系250の内部構成を示すブロック図である。車両用HUD装置1の制御系250は、FPGA251、CPU252、ROM253、RAM254、インターフェイス(以下、I/Fという)255、バスライン256、LDドライバ257、MEMSコントローラ258を備えている。FPGA251は、LDドライバ257により、光源ユニット220のレーザ光源201R、201G、201Bを動作制御し、MEMSコントローラ258により、光走査装置208のMEMS208aを動作制御する。CPU252は、車両用HUD装置1の各機能を制御する。ROM253は、CPU252が車両用HUD装置1の各機能を制御するために実行する画像処理用プログラム等の各種プログラムを記憶している。RAM254はCPU252のワークエリアとして使用される。I/F255は、外部コントローラ等と通信するためのインターフェイスであり、例えば、自車両301のCAN(Controller Area Network)を介して、車両ナビゲーション装置400や各種センサ装置500(後述の
図5を参照)に接続される。また、I/F255には、車両用HUD装置1の表示情報及びその背景(フロントガラス302越しの風景)を撮影する前方撮影用カメラ110が接続される。また、I/F255には、環境光の明るさ及び色度を検出する環境光センサ150が接続される。
【0026】
図5は、車両用HUD装置1及びその周辺装置の概略構成を示すブロック図である。虚像Gによって運転者へ提供する運転者提供情報を取得する情報取得手段として、車両ナビゲーション装置400、センサ装置500などが設けられている。車両用HUD装置1は、主に、画像表示手段としての画像光投射手段を構成する光学系230と、表示制御手段としての制御系250とから構成される。
【0027】
車両ナビゲーション装置400は、自動車等に搭載される公知の車両ナビゲーション装置を広く利用することができる。車両ナビゲーション装置400からは、虚像Gに表示させるルートナビゲーション画像を生成するために必要な情報が出力され、この情報は制御系250に入力される。例えば、
図1に示すように、自車両301が走行している道路の車線(走行レーン)の数、次に進路変更(右折、左折、分岐等)すべき地点までの距離、次に進路変更する方向などの情報を示す画像が含まれている。これらの情報が車両ナビゲーション装置400から制御系250に入力される。これにより、制御系250の制御の下、車両用HUD装置1によって以下のように表示される。すなわち、走行レーン指示画像711、車間距離提示画像712、進路指定画像721、残り距離画像722、交差点等名称画像723などのナビゲーション画像が表示エリア700の上段表示領域Aに表示される。
【0028】
また、
図1に示した表示例では、表示エリア700の下段表示領域Bに、道路の固有情報(道路名、制限速度等)を示す画像が表示される。この道路の固有情報も、車両ナビゲーション装置400から制御系250に入力される。制御系250は、当該道路固有情報に対応する道路名表示画像701、制限速度表示画像702、追い越し禁止表示画像703等を、車両用HUD装置1によって表示エリア700の下段表示領域Bに表示させる。
【0029】
センサ装置500は、自車両301の挙動、自車両301の状態、自車両301の周囲の状況などを示す各種情報を検出するための1又は2以上のセンサで構成されている。センサ装置500からは、虚像Gとして表示させる画像を生成するために必要なセンシング情報が出力され、このセンシング情報は制御系250に入力される。例えば、
図1に示した画像例には、自車両301の車速を示す車速表示画像704(
図1では「83km/h」という文字の画像)を、表示エリア700の下段表示領域Bに表示させる。そのため、自車両301のCAN情報に含まれる車速情報がセンサ装置500から制御系250に入力され、制御系250の制御の下、車両用HUD装置1によって当該車速を示す文字画像が表示エリア700の下段表示領域Bに表示される。
【0030】
センサ装置500は、自車両301の車速を検出するセンサ以外にも、例えば、(1)自車両301の周囲(前方、側方、後方)に存在する他車両、歩行者、建造物(ガードレールや電柱等)との距離を検出するレーザレーダ装置や撮像装置、自車両の外部環境情報(外気温、明るさ、天候等)を検出するためのセンサ、(2)運転者300の運転動作(ブレーキ走査、アクセル開閉度等)を検出するためのセンサ、(3)自車両301の燃料タンク内の燃料残量を検出するためのセンサ、(4)エンジンやバッテリー等の各種車載機器の状態を検出するセンサなどが挙げられる。このような情報をセンサ装置500で検出して制御系250へ送ることで、それらの情報を虚像Gとして車両用HUD装置1により表示して運転者300へ提供する。
【0031】
次に、車両用HUD装置1によって表示される虚像Gについて説明する。車両用HUD装置1において、虚像Gによって運転者300へ提供する運転者提供情報は、運転者300にとって有用な情報であればどのような情報であってもよい。以下では、一例として、運転者提供情報を受動情報と能動情報とに大別している。
【0032】
受動情報とは、所定の情報提供条件が満たされたタイミングで運転者300によって受動的に認知される情報である。したがって、車両用HUD装置1の設定タイミングで運転者300へ提供される情報は受動情報に含まれ、また、情報が提供されるタイミングと情報の内容との間に一定の関係性をもつ情報が受動情報に含まれる。受動情報としては、例えば、運転時の安全性に関わる情報、ルートナビゲーション情報などが挙げられる。運転時の安全性に関わる情報として、自車両301と先行車両との車間距離情報(車間距離提示画像712)、運転に関わる緊急性のある情報(運転者に緊急操作を指示する緊急操作指示情報などの警告情報あるいは注意喚起情報等)などがある。また、ルートナビゲーション情報は、予め設定された目的地までの走行ルートを案内するための情報であり、公知の車両ナビゲーション装置によって運転者へ提供されるものである。ルートナビゲーション情報としては、直近の交差点で走行すべき走行レーンを指示する走行レーン指示情報(走行レーン指示画像711)や、次に直進方向から進路変更すべき交差点や分岐点での進路変更操作を指示する進路変更操作指示情報などが挙げられる。進路変更操作指示情報として、交差点等においていずれの進路をとるべきかの進路指定を行う進路指定情報(進路指定画像721)、進路変更操作を行う交差点等までの残り距離情報(残り距離画像722)、交差点等の名称情報(交差点等名称画像723)がある。
【0033】
能動情報とは、運転者自らが決めるタイミングで運転者300によって能動的に認知される情報である。能動情報は、運転者300の希望するタイミングで運転者300へ提供されれば十分な情報であり、例えば、情報が提供されるタイミングと情報の内容との間の関係性が低い又は関係性が無い情報は、能動情報に含まれる。能動情報は、運転者300の希望するタイミングで運転者300が取得する情報であることから、ある程度の長い期間あるいは常時、表示され続ける。例えば、自車両301が走行している道路の固有情報、自車両301の車速情報(車速表示画像704)、現在時刻情報などが挙げられる。道路の固有情報としては、例えば、その道路名情報(道路名表示画像701)、その道路の制限速度等の規制内容情報(制限速度表示画像702、追い越し禁止表示画像703)、その他当該道路に関わる情報として運転者300にとって有用なものが挙げられる。
【0034】
このようにして大別される受動情報と能動情報を、虚像Gを表示可能な表示エリア700内のそれぞれ対応する表示領域に表示させる。具体的には、表示エリア700を上下方向に2つの表示領域に区分し、そのうちの上段表示領域Aには主に受動情報に対応する受動情報画像を表示し、下段表示領域Bには主に能動情報に対応する能動情報画像を表示する。なお、能動情報画像の一部を上段表示領域Aに表示させる場合には、上段表示領域Aに表示される受動情報画像の視認性を優先するように能動情報画像を表示する。
【0035】
また、表示エリア700に表示される虚像Gとして、立体視を用いて表現された立体視画像を用いている。具体的には、表示エリア700の上段表示領域Aに表示される車間距離提示画像712及び走行レーン指示画像711として、遠近法により表現される遠近法画像を用いている。
【0036】
詳しくは、車間距離提示画像712を構成する5本の横線の長さを上側に向かうほど短くなるようにして、車間距離提示画像712を1つの消失点に向かうように透視図法により作図された遠近法画像としている。特に、その消失点が運転者300の注視点近傍に定まるように車間距離提示画像712が表示されることから、運転中の運転者300に車間距離提示画像712の奥行き感を知覚させやすい。更に、横線の太さを上側に向かうほど細く、また横線の輝度を上側に向かうほど低くした遠近法画像としている。これによって、運転中の運転者300には、車間距離提示画像712の奥行き感を更に知覚させやすくなる。
【0037】
表示エリア700の上段表示領域Aと下段表示領域Bに表示される受動情報と能動情報は、運転者(ユーザ)300に情報を提供する「表示像(第1の像)」として表示される。本実施形態では、表示エリア700を介して、上記の「表示像(第1の像)」とは別に、例えば、運転中における運転者の覚醒状態を維持するとともに、当該覚醒状態の維持が危うくなった場合に運転者に注意喚起を促して当該覚醒状態に復帰させる(注意力を回復させる)ための視覚刺激を「視覚刺激像(第2の像)」として運転者(ユーザ)300に表示する。
【0038】
この視覚刺激像は、例えば、運転者に対する覚醒維持又は注意喚起を目的とした所定の視覚情報であり、運転者に対する運転に関連する情報(運転者に提供する情報)を含まない所謂ダミー画像である。視覚刺激像は、例えば、所定の形状(例えば丸、三角、四角等)、所定の色味(例えば、赤、青、黄色)を有する。視覚刺激像は、表示像と同様に、車両用HUD装置1の光学系230を介した虚像Gとして運転者に提供される。視覚刺激像の表示態様は、車両用HUD装置1の制御系(制御部)250により制御される。
【0039】
本発明者は、ユーザに対する視覚刺激の呈示について鋭意研究を重ねた結果、視覚刺激自体はユーザへの情報を提供するものではないためユーザが注視する必要はなく、表示装置の用途や表示装置が表示する内容によってはユーザの視線移動を極力避けながら、ユーザに対して視覚刺激を呈示することが、極めて有用であることを見出した。ユーザの一例である運転者に対して視覚刺激を呈示する場合を考えると、運転中は環境の変化が著しく、運転者の視線は車両の進行方向に向けられるべきであり、運転者の視線移動を誘起することなく、運転者に対して視覚刺激を与えることが好ましい。人の視線移動の速度は、注意力が低下している低覚醒の状態において低下することが知られており、また、車両が高速移動している際の運転中においても注意力低下が起こりやすい環境が考えられる。例えば、高速道路の走行中など、景色の変化や運転動作が少ない状況で長時間運転するような場合は、運転者の注意力の低下が起こりやすい。そして、高速で移動している車両を運転している運転者の注意力が低下している場合において、該運転者の注意力回復のために視覚刺激を呈示することで該運転者の視線移動を誘起することは、注意力が低下している人の視線移動の速度が低下していることを鑑みると好ましくない。
【0040】
従来、ユーザの注意力の低下を防止するための手段として、音声や専用の表示器による警告等が用いられてきたが、音声の場合は周辺環境(例えば騒音)により十分な効果が得られないことが懸念され、表示器の場合は過度な注意となり却って悪影響を及ぼすことが懸念される。
【0041】
以下、ユーザの一例である運転者の視線移動を誘起することなく(運転方向に保持したままで)視覚刺激像を与えるための実施形態について、図面を参照して、詳細に説明する。
【0042】
≪第1実施形態≫
表示像(例えば上段表示領域Aと下段表示領域Bに表示される受動情報と能動情報)と視覚刺激像とは、表示エリア700に表示される。車両用HUD装置1の制御系250は、表示エリア700に視覚刺激像(第2の像)を複数表示させ、該複数の視覚刺激像の表示タイミングを時間的に重複させる「制御部」として機能する。複数の視覚刺激像の表示態様の調整は、例えば、車両用HUD装置1の光学系230において、レーザ光源201R、201G、201Bの点灯時間や点灯輝度を変動させることや光走査装置208のミラーの回転位置を変動させることによって実現される。
【0043】
図6は、表示エリア700に表示された表示像と複数の視覚刺激像の一例を示す図である。
図6では、共に同一サイズの四角形状を有する第1の視覚刺激像10と第2の視覚刺激像20が表示されている。第1の視覚刺激像10は、表示エリア700の上段表示領域Aの内部において、左右方向の左端部かつ上下方向の中間部よりやや下方に表示されている。第2の視覚刺激像20は、表示エリア700の上段表示領域Aの外部において、左右方向の右端部の上方(直上)に表示されている。
【0044】
第1の視覚刺激像10と第2の視覚刺激像20を時間的に重複して(同時に)表示することにより、第1の視覚刺激像10と第2の視覚刺激像20のいずれかに視線を引っ張られることなく、運転方向に視線を保持したままで、第1の視覚刺激像10と第2の視覚刺激像20を運転者に呈示することができる。その結果、運転者の視線移動を誘起せずに、該運転者の覚醒状態の維持や注意力を回復することが可能になる。
【0045】
ここで、「表示タイミングを時間的に重複させる」及び「時間的に重複して(同時に)表示する」とは、例えば、表示のフレーム間隔における同一フレームだけでなく、ヒトの眼の時間分解能で分離できないフレーム間隔、すなわち、ヒトの眼の時間分解能に対してフレームレートが十分に高速である場合であれば、別フレームで表示されたものであってもよい。別言すると、運転者の視覚を通じた認識において、第1の視覚刺激像10と第2の視覚刺激像20とを一瞬でも同時に把握することができる場合において、「表示タイミングを時間的に重複させる」及び「時間的に重複して(同時に)表示する」ことに該当する。第1の視覚刺激像10と第2の視覚刺激像20は、表示開始タイミングと表示終了タイミングが完全に一致していてもよいし、表示開始タイミングと表示終了タイミングの少なくとも一方がずれていてもよい。また、第1の視覚刺激像10と第2の視覚刺激像20の一方が常時点灯しており、他方が時間を空けて点灯(点滅)していてもよい。
【0046】
また、
図6に示すように、第1の視覚刺激像10と第2の視覚刺激像20は、制御系250により、表示エリア700の中心を挟んで、表示エリア700に表示される。あるいは、第1の視覚刺激像10と第2の視覚刺激像20は、制御系250により、表示エリア700の中心に対して対称となるように、表示エリア700に表示される。これにより、第1の視覚刺激像10と第2の視覚刺激像20のいずれかに視線を引っ張られることなく、運転方向に視線を保持したままで、第1の視覚刺激像10と第2の視覚刺激像20を運転者に呈示することができる。その結果、運転者の視線移動を誘起せずに、該運転者の覚醒状態の維持や注意力を回復することが可能になる。
【0047】
また、
図7~
図9に示すように、第1の視覚刺激像10と第2の視覚刺激像20は、制御系250により、表示エリア700を観察するユーザの視野中心を挟んで、表示エリア700に表示される。これにより、第1の視覚刺激像10と第2の視覚刺激像20のいずれかに視線を引っ張られることなく、運転方向に視線を保持したままで、第1の視覚刺激像10と第2の視覚刺激像20を運転者に呈示することができる。その結果、運転者の視線移動を誘起せずに、該運転者の覚醒状態の維持や注意力を回復することが可能になる。
【0048】
図7の例では、第1の視覚刺激像10と第2の視覚刺激像20が、表示エリア700における運転者視野の領域内部で、運転者視野中心に対して点対称となるように表示されている。これにより、上下方向と左右方向のいずれにおいても、運転者視野中心を挟むようにして、第1の視覚刺激像10と第2の視覚刺激像20が配置されることになる。
【0049】
図8の例では、第1の視覚刺激像10と第2の視覚刺激像20が、表示エリア700における運転者視野の領域内部で、運転者視野中心を通って上下方向に延びる対称軸に対して、線対称となるように表示されている。車両運転中における上下方向の視線移動は進行方向から視線を外すことにはならないので、第1の視覚刺激像10と第2の視覚刺激像20を上下方向の対称軸に対して線対称に配置することは有効である。
【0050】
図9の例では、第1の視覚刺激像10と第2の視覚刺激像20が、表示エリア700の表示像の表示範囲で、当該表示範囲の中心を通って上下方向に延びる対称軸に対して、線対称となるように表示されている(第1の視覚刺激像10と第2の視覚刺激像20とが左下端部と右下端部にそれぞれ配置されている)。一般的に、車両用HUDの表示範囲は、運転者の視野中心を通る上下方向の直線に対して線対称であるため、第1の視覚刺激像10と第2の視覚刺激像20は、車両用HUDの表示範囲の中心に対して対称性を持つことが好ましい。
【0051】
図10に示すように、第1の視覚刺激像10と第2の視覚刺激像20は、表示エリア700における表示像が表示される範囲の外側となるように、表示エリア700に表示してもよい。
図10の例では、第1の視覚刺激像10と第2の視覚刺激像20が、表示エリア700における表示像が表示される表示範囲の外側の左右に離間して、当該表示範囲を左右から挟むようにして配置されている。このように、表示像と視覚刺激像とを、両者の表示領域の重なりがないように区画して表示(配置)することにより、車両用HUDのユーザである運転者の視線移動を誘起せずに、該運転者の覚醒状態の維持や注意力を回復することが可能になる。また、表示像の表示範囲を、画角の制約(制限)や光学的な歪み等の影響による表示品質を考慮して、表示エリアとして描画可能な範囲よりも狭く設定している場合がある。このような場合に、表示像の表示範囲の外側となるように視覚刺激像の表示位置を設定すれば、表示エリアとして描画可能な範囲を有効に活用することが可能になる。
【0052】
第1の視覚刺激像10や第2の視覚刺激像20のような視覚刺激像の輝度(強度)を所定時間内において積分したものを積算強度と表現する。また、視覚刺激像がユーザに与える影響度合いについて、視覚刺激像の強度と表現する。
図11A~
図11Cに示すように、第1の視覚刺激像10と第2の視覚刺激像20とは、制御系250により、輝度、色、及び大きさの少なくとも1つが時間経過とともに変化しながら、表示エリア700に表示される。
図11A~
図11Cにおいて、横軸は時間を示しており、縦軸は視覚刺激像の輝度(強度)を示している。
図11Aの例では、時間経過に伴って、視覚刺激像の輝度(強度)が異なっている。
図11Bの例では、時間経過に伴って、視覚刺激像の色と輝度(強度)が異なっている。
図11Cの例では、時間経過に伴って、視覚刺激像の大きさと輝度(強度)が異なっている。
図11C中の“1”と“4”の数字は、視覚刺激像の面積(大きさ)を示す指標として使用している。このように、輝度と色と大きさの少なくとも1つを変化させながら視覚刺激像を表示させることで、運転者の慣れを回避した視覚刺激像の表示が可能になる。
【0053】
第1の視覚刺激像10と第2の視覚刺激像20の所定時間内における積算強度は、運転者(ユーザ)の弁別閾値に基づいて設定される。視覚刺激が弱すぎると運転者が該運転者の覚醒状態の維持や注意力を回復するという視覚刺激の効果を享受することが難しくなり、視覚刺激が強すぎると運転者が認識するべき情報(運転に関連する各種情報)に対する注意力が緩慢になるおそれがある。このため、運転者が認識するべき情報(運転に関連する各種情報)に対する注意力を好適に維持しつつ、運転者が、該運転者の覚醒状態の維持や注意力を回復するという視覚刺激の効果を享受できるような弁別閾値を設定し、当該弁別閾又はその近傍に、第1の視覚刺激像10と第2の視覚刺激像20の所定時間内における積算輝度を設定する。ここで、弁別閾値は、周囲環境(例えば明るさ)や運転者の特性等によって異なるので、ある程度の自由度を持って設定することが好ましい。
【0054】
例えば、視覚刺激像の表示期間における視覚刺激像の発光時間が人の眼の時間分解能に対して十分短い場合、ユーザに認知される視覚刺激の強度は、表示期間における積算強度で決まる。視覚刺激の呈示により過度に運転者の注意を引いてしまうと本来の目的を超えて本末転倒な結果となるので、この運転者に提示する視覚刺激の強度は運転者の注意を引き過ぎないように設定する必要がある。この注意を引きすぎない指標として、運転者の弁別閾値を視覚刺激の強度として設定する。運転者の弁別閾値は、車両用HUD表示の背景輝度(自車両301の前方風景の明るさ)、つまり運転者の向いている車両の前方方向においてHUD表示と重畳する領域の輝度とその周辺の輝度によって変化する。このため、背景輝度は、予めテスト走行などで取得した走行環境での背景輝度からの分布から、任意の固定値を定義してもよいし、テスト走行などで取得した走行環境での背景輝度からの分布とその背景輝度に対して官能評価などにより用意したルックアップテーブル(LUT)に基づいて決定してもよい。
【0055】
第1の視覚刺激像10と第2の視覚刺激像20の所定時間内における積算強度は、表示エリア700における表示像の強度(輝度)に基づいて設定することができる。表示エリア700における表示像の強度(輝度)は、例えば、環境光センサ(明るさ検出部)150が検出した周辺環境の明るさに基づいて設定することができる。表示エリア700における表示像の強度(輝度)に応じて、視覚刺激像の強度(輝度)をリアルタイムに変更することにより、運転者の視線移動を誘起せずに、該運転者の覚醒状態の維持や注意力を回復することが可能になる。また、表示像の種類によっては、注意・警告など特に運転者が確実に認知すべき表示が存在するため、表示像の認知を阻害しないために、視覚刺激像の強度(輝度)をHUD表示画像の輝度に対する相対値で決めることも考えられる。
【0056】
図12は、第1の視覚刺激像10と第2の視覚刺激像20の所定時間内における積算強度を決定するための光学系230と制御系250の構成の一例を示す図である。
図12に示すように、制御系250は、表示像の強度(輝度)と、第1の視覚刺激像10と第2の視覚刺激像20の所定時間内における積算強度(積算輝度)との対応関係を示すルックアップテーブル(LUT)250Aを記憶した記憶部250Bを有している。例えば、ルックアップテーブルには、表示像の強度(輝度)に対して、それよりも若干量だけ積算強度(積算輝度)が上回る第1の視覚刺激像10の強度(輝度)と第2の視覚刺激像20の強度(輝度)とが設定されている。
【0057】
第1の視覚刺激像10と第2の視覚刺激像20は、制御系250により、任意のタイミングで、表示エリア700に表示される。例えば、第1の視覚刺激像10と第2の視覚刺激像20は、時間的にランダムに、表示エリア700に表示される。例えば、
図13に示すように、視覚刺激像表示期間であるON期間と視覚刺激像非表示期間であるOFF期間を区画するとともに、ON期間において、所定時間間隔毎に視覚刺激像の表示と非表示を繰り返すように制御してもよい。このように、複数の視覚刺激像を時間的にランダムに表示することにより、運転者の慣れを回避した視覚刺激像の表示が可能になる。
【0058】
また、第1の視覚刺激像10と第2の視覚刺激像20は、制御系250により、運転者による表示エリア700の連続観察時間(表示像の連続観察時間)が所定時間を超えた場合に、表示エリア700に表示される。例えば、
図14に示すように、表示像の表示が開始された後に、連続観察時間が所定時間を超えたか否かを判定し(ステップST1A)、連続観察時間が所定時間を超えた場合(ステップST1A:Yes)に視覚刺激像の表示を開始し、連続観察時間が所定時間を超えない場合(ステップST1A:No)に連続観察時間が所定時間を超えるのを待つようにしてもよい。連続観察時間が所定時間を超えると、運転者の注意力が低下するおそれが高まるので、そのタイミングで視覚刺激像を表示することにより、運転者の慣れを回避した視覚刺激の呈示が可能になる。また、視覚刺激像の過剰な表示によるデバイスの負担(負荷)を軽減することが可能になる。
【0059】
また、第1の視覚刺激像10と第2の視覚刺激像20は、制御系250により、表示エリア700における特定像の表示と同時に又は所定の時間差を持って、表示エリア700に表示される。ここで、特定像は、例えば、運転者に対する注意喚起や警告を目的とした表示像(例えば車両ナビゲーション装置400による渋滞情報画像や交通規制情報画像)が挙げられる。例えば、
図15に示すように、表示像の表示が開始された後に、表示像に特定像(例えば警告像)が含まれるか否かを判定し(ステップST1B)、表示像に特定像(例えば警告像)が含まれる場合(ステップST1B:Yes)に視覚刺激像の表示を開始し、表示像に特定像(例えば警告像)が含まれない場合(ステップST1B:No)に表示像に特定像(例えば警告像)が含まれるのを待つようにしてもよい。運転者に対する注意喚起や警告を目的とした特定像が表示される場合には、運転者の注意が特定像に奪われるので、当該特定像の表示タイミング又はその前後のタイミングをトリガとして、視覚刺激像を表示することが有効である。
【0060】
また、第1の視覚刺激像10と第2の視覚刺激像20は、制御系250により、運転者の注意力の低下が検出されたタイミングで、表示エリア700に表示される。ここで、運転者の注意力の低下は、例えば、車体のぶれ情報、座席の座り直し情報、運転者の姿勢情報、極端又は不自然なアクセル操作やブレーキ操作に関する情報の少なくとも1つを含むことができる。例えば、
図16に示すように、表示像の表示が開始された後に、運転者の注意力の低下が検出されたか否かを判定し(ステップST1C)、運転者の注意力の低下が出された場合(ステップST1C:Yes)に視覚刺激像の表示を開始し、運転者の注意力の低下が検出されない場合(ステップST1C:No)に運転者の注意力の低下が検出されるのを待つようにしてもよい。このように、運転者の注意力の低下を直接的に検出して、その検出結果に応じて視覚刺激像の表示を制御することで、視覚刺激像の実効性(覚醒維持機能、注意喚起機能)をより高めることが可能になる。
【0061】
また、第1の視覚刺激像10と第2の視覚刺激像20は、制御系250により、車両内又は車両外のシステムから任意の交通情報を受け取った場合に、表示エリア700に表示される。例えば、市街地の運転中は運転者の視野中の車両の進行方向の景色の変化が大きいために注意力の低下は起きにくいが、高速道路の運転中は運転者の視野中の車両の進行方向の景色の変化が小さいために注意力の低下が起きやすい。そこで、
図17に示すように、表示像の表示が開始された後に、車両内又は車両外のシステムから受け取った交通情報に基づいて車両が高速道路走行中であるか否かを判定し(ステップST1D)、車両が高速道路走行中である場合(ステップST1D:Yes)に視覚刺激像の表示を開始し、車両が高速道路走行中でない場合(ステップST1D:No)に視覚刺激像の表示を開始しないようにしてもよい。なお、車両が高速道路走行中であるか否かの判定は、例えば、車両の走行速度が所定時間安定して所定速度を上回っていること等の基準に基づいて行ってもよい。
【0062】
図14~
図17のフローチャートを参照して説明したように、複数の視覚刺激像を表示するトリガを様々な条件(基準)に基づいて設定することにより、状況に応じた最適なタイミングで複数の視覚刺激像を表示して、ユーザに対して効率的な視覚刺激の呈示が可能になる。
【0063】
一方、運転者が疲労を感じた等の主観的な判断に基づいて、第1の視覚刺激像10と第2の視覚刺激像20の表示の実行を切り替える態様もある。例えば、
図18に示すように、車両のハンドルの一部に、第1の視覚刺激像10と第2の視覚刺激像20を表示エリア700に表示するか否かを切り替えるための切替スイッチ(切替部)30を設けてもよい。運転者が切替スイッチ30を操作すると、第1の視覚刺激像10と第2の視覚刺激像20の表示実行可否に関する制御信号が受信部31に伝送される。制御系250は、受信部31が受信した制御信号に基づいて、第1の視覚刺激像10と第2の視覚刺激像20の表示制御を行う。
【0064】
≪第2実施形態≫
図19に示すように、第2実施形態の車両用HUD装置1は、表示エリア700を観察する運転者の視野を検出する視野検出センサ(視野検出部)40を有している。視野検出センサ40は、例えば、運転者の眼の動きを少なくとも捉えることができるカメラにより構成することができる。視野検出センサ40の具体的態様には自由度があり、例えば、眼球運動、運転者の姿勢、運転者の体重移動などの各種情報を総合的に解析して、運転者の視野を推定するものであってもよい。視野検出センサ40が検出した運転者の視野は、制御系250に出力される。制御系250は、視野検出センサ40が検出した運転者の視野に基づいて、第1の視覚刺激像10と第2の視覚刺激像20の表示態様を制御する。
【0065】
図20に示すように、第1の視覚刺激像10と第2の視覚刺激像20は、視野検出センサ40が検出した運転者の視野に基づく制御系250により、表示エリア700における運転者の周辺視野に位置するように、表示エリア700に表示される。具体的に、第1の視覚刺激像10と第2の視覚刺激像20は、運転者の周辺視野に重畳されるとともに、HUD表示範囲の左下端部と右下端部にそれぞれ表示されている。HUD表示範囲に運転者の周辺視野と重畳可能な領域がある場合は、当該重畳可能領域に視覚刺激像を表示することが好ましい。2つの視覚刺激像をHUD表示範囲と運転者周辺視野の重畳領域に表示することにより、運転者の視線移動を誘起せずに、該運転者の覚醒状態の維持や注意力を回復することが可能になる。
【0066】
図21に示すように、第1の視覚刺激像10と第2の視覚刺激像20の一方が表示エリア700における運転者の中心視野(HUD表示範囲の右下端部)に表示される一方、第1の視覚刺激像10と第2の視覚刺激像20の他方が表示エリア700における運転者の周辺視野(HUD表示範囲の左下端部)に表示されてもよい。少なくとも1つの視覚刺激像をHUD表示範囲と運転者周辺視野の重畳領域に表示することにより、運転者の視線移動を誘起せずに、該運転者の覚醒状態の維持や注意力を回復することが可能になる。また、少なくとも1つの視覚刺激像を運転者の中心視野に表示せざるを得ない場合であっても、当該視覚刺激像をできる限り運転者視野中心から外れた位置(運転者周辺視野に少しでも近い位置)に表示することが好ましい。
【0067】
図22に示すように、第1の視覚刺激像10と第2の視覚刺激像20は、視野検出センサ40が検出した運転者の視野に基づく制御系250により、表示エリア700における運転者の視野中心に対して対称となるように、表示エリア700に表示される。具体的に、第1の視覚刺激像10と第2の視覚刺激像20は、表示エリア700における運転者視野の領域内部で、運転者視野中心を通って上下方向に延びる対称軸に対して、線対称となるように表示されている。このように、HUDの表示範囲の中心ではなく、運転者の視野中心に対して対称となるように、複数の視覚刺激像を表示することで、運転者の視線移動を誘起せずに、該運転者の覚醒状態の維持や注意力を回復することが可能になる。
【0068】
運転者に視覚刺激像を表示する際、運転者の中心視野内に視覚刺激像を表示すると運転者が過剰に認知してしまい、却って煩わしさを感じさせるおそれがある。このため、第2実施形態では、時々刻々と移り変わる運転者の視野をリアルタイムに検出して、当該視野に基づく運転者の周辺視野に視覚刺激像を表示することで、運転者の視線移動を誘起せずに、該運転者の覚醒状態の維持や注意力を回復させている。
【0069】
≪第3実施形態≫
図23に示すように、第3実施形態の車両用HUD装置1は、表示エリア700を介した視覚刺激像(例えば第1の視覚刺激像10と第2の視覚刺激像20)とは別の視覚刺激を呈示する視覚刺激呈示部50を有している。上述した通り、運転者の注意力が低下してくると、運転というメインのタスクにより車両の進行方向にトラップされた視線が他の刺激により移動しやすくなる。この場合、視線移動を起こさないように、注意回復を行うためには、運転者の視野中(好ましくは周辺視野中)の1点ではなく、複数の位置(好ましくは周辺視野中の互いに対称な複数の位置)に、視覚刺激を呈示することが望まれる。HUD装置のスペック(機能性)が高くHUD表示範囲が十分に広角で表示エリア700の表示範囲の制約が小さい(無い)場合は、
図24に示すように、表示エリア700を介した複数の視覚刺激像(ここでは2つの視覚刺激像)を、HUD表示範囲と運転者周辺視野の重畳領域に表示する。
【0070】
これに対して、HUD装置のスペック(機能性)が低く、HUD表示範囲の画角が狭いために表示エリア700の表示範囲の制約が大きい場合は、表示エリア700を介した視覚刺激像に代えて、若しくは表示エリア700を介した視覚刺激像に加えて、視覚刺激呈示部50による視覚刺激を用いることにより、HUD装置のスペック(機能性)やHUD表示範囲の影響を受けることなく、運転者の視線移動を誘起せずに、該運転者の覚醒状態の維持や注意力を回復することが可能になる。
【0071】
図25は、表示エリア700を介した視覚刺激像と視覚刺激呈示部50を介した視覚刺激を併用した場合の一例を示している。
図25では、表示エリア700を介した視覚刺激像がHUD表示範囲と運転者周辺視野の重畳領域に表示され、視覚刺激呈示部50を介した視覚刺激が運転者周辺視野に呈示されている。具体的に、上下に配置された表示エリア700を介した視覚刺激像と視覚刺激呈示部50を介した視覚刺激が、運転者中心視野を上下から挟み込んでいる。そして、表示エリア700を介した視覚刺激像の表示タイミングと、視覚刺激呈示部50を介した視覚刺激(別の視覚刺激)の呈示タイミングとが、時間的に重複する。
【0072】
図26は、表示エリア700を介した視覚刺激像を使用せずに、視覚刺激呈示部50を介した複数の視覚刺激を使用する場合の一例を示している。
図26では、視覚刺激呈示部50を介した複数の視覚刺激が運転者周辺視野に呈示されている。具体的に、上下に配置された視覚刺激呈示部50を介した2つの視覚刺激が、運転者中心視野を上下から挟み込んでいる。そして、視覚刺激呈示部50を介した2つの視覚刺激のそれぞれが、時間的に重複したタイミングで呈示される。
【0073】
図27は、表示制御部240と視覚刺激呈示部50の連係部の一例を示すブロック図である。
図27では、光学系230と制御系250を含んだブロックを表示制御部240として示している。視覚刺激呈示部50は、例えば、LED等の光源を含んだ光学系50Aと、この光学系50Aを制御する制御系50Bとを有している。例えば、表示制御部240の光学系230の光源と視覚刺激呈示部50の光学系50Aの光源の動作原理やフレームレートが異なる場合に、表示制御部240の制御系250と視覚刺激呈示部50の制御系50Bが連携することで、動作安定性を維持するとともに、制御デバイスの負担軽減や低コスト化を図ることができる。
【0074】
≪第4実施形態≫
第4実施形態の車両用HUD装置1は、第2実施形態の車両用HUD装置1と同様に、表示エリア700における運転者の視野を検出する視野検出センサ(視野検出部)40を有している(
図19を参照)。第4実施形態では、視野検出センサ40が、運転者の視線移動を検出する「視線移動検出部」として機能する。
【0075】
第4実施形態の車両用HUD装置1は、制御系250により、例えば、上述した第1の視覚刺激像10と第2の視覚刺激像20をメイン刺激像(第2の像)として、当該メイン刺激像とは別のダミー刺激像(第2の像)を、表示エリア700に表示する。
【0076】
図28は、メイン刺激像としての第1の視覚刺激像10と第2の視覚刺激像20、及び2つのダミー刺激像60の表示位置の一例を示している。第1の視覚刺激像10と第2の視覚刺激像20(メイン刺激像)、及び2つのダミー刺激像60は、それぞれ、運転者視野の領域内部で、運転者視野中心を通って上下方向に延びる対称軸に対して、線対称となるように表示される。第1の視覚刺激像10と第2の視覚刺激像20(メイン刺激像)は、HUD表示範囲と運転者中心視野の重畳領域に表示される。2つのダミー刺激像60は、HUD表示範囲と運転者周辺視野の重畳領域に表示される。
【0077】
2つのダミー刺激像60は、運転者の視線移動を誘起するための機能を持つ。第1の視覚刺激像10と第2の視覚刺激像20(メイン刺激像)は、ユーザの覚醒状態の維持や注意力の回復を促すための機能を持つ。2つのダミー刺激像60は、例えば、運転者の運転中に、表示エリア700の運転者周辺視野に表示される。そして、2つのダミー刺激像60を表示した後に、視野検出センサ40により運転者の視線移動が検出された場合に、第1の視覚刺激像10と第2の視覚刺激像20(メイン刺激像)が表示エリア700に表示される。さらに、表示エリア700に表示される2つのダミー刺激像60に代えて、視覚刺激呈示部50により呈示される2つのダミー刺激を利用する態様も可能である。
【0078】
図29A~
図29Cは、ダミー刺激像の表示からメイン刺激像の表示への流れの一例を示す図である。
図29Aでは、2つのダミー刺激像が、HUD表示範囲と運転者周辺視野の重畳領域に表示される。
図29Bでは、
図29Aの2つのダミー刺激像の表示によって、運転者の視線移動が誘起される結果、2つのダミー刺激像が、HUD表示範囲と運転者中心視野の重畳領域に表示される。
図29Cでは、2つのダミー刺激像の表示が中止されて、2つのメイン刺激像が、HUD表示範囲と運転者周辺視野の重畳領域に表示される。
【0079】
運転者の注意力が低下してくると、運転というメインのタスクにより車両の進行方向にトラップされた視線が、他の刺激によって移動しやすくなる。つまり、ダミー刺激像を表示(又はダミー刺激を呈示)した場合において、車両の進行方向に向くべき視線がダミー刺激像(又はダミー刺激)側へ動いたときは、運転者の注意力が低下していると推測される。ダミー刺激像を表示(又はダミー刺激を呈示)した際の運転者の視線移動を取得し、ダミー刺激像の表示(又はダミー刺激の呈示)により運転者の視線移動が検出された場合にメイン刺激像の表示を行なうことで、車両内の他のシステム(例えばドライバモニタ)から情報を取得することなく、メイン刺激像とダミー刺激像(又はダミー刺激)を組み合わせた視覚刺激像の提供が可能になる。
【0080】
図30は、メイン刺激像とダミー刺激像を用いた動作の一例を示すフローチャートである。ダミー刺激像の表示が開始された後に、視野検出センサ40が検出した運転者の視野に基づいて、ダミー刺激像による運転者の視線移動が誘起されたことが検出されたか否かが判定される(ステップST1E)。ダミー刺激像による運転者の視線移動が誘起されたことが検出された場合(ステップST1E:Yes)、メイン刺激像の表示を開始する。ダミー刺激像による運転者の視線移動が誘起されたことが検出されない場合(ステップST1E:No)、メイン刺激像の表示を開始することなく、ダミー刺激像による運転者の視線移動が誘起されるのを待つ。
【0081】
この第4実施形態では、ダミー刺激像の表示する数(又はダミー刺激を呈示する数)を2つとして説明した。これは、運転者の注意力が低下していて運転者の視線がダミー刺激像(又はダミー刺激)へ動く場合においても、運転者の視野が車両の進行方向から大きく逸れないようにするためである。ただし、既述したようにダミー刺激像は運転者の注意力が低下しているかどうかを検出するためのものであり、運転者の注意力が低下していない場合は、運転者の視線がダミー刺激像(又はダミー刺激)へ動くことはないため、運転者の注意力が低下しているかどうかを検出するという観点では、ダミー刺激像の表示する数(又はダミー刺激を呈示する数)は2つに限定される必要はなく、ダミー刺激像の表示する位置((又はダミー刺激を呈示する位置)を運転者の視野が車両の進行方向から大きく逸れない位置とするよう工夫することで、ダミー刺激像の表示する数(又はダミー刺激を呈示する数)は1つであってもよい。
【0082】
≪第5実施形態≫
第5実施形態の車両用HUD装置1は、周辺環境の明るさを検出する環境光センサ(明るさ検出部)150(
図2、
図5、
図18、
図19、
図23)の検出結果に基づいて、第1の視覚刺激像10と第2の視覚刺激像20の輝度(例えば所定時間内における積算強度)を変更する。ここで、周辺環境の明るさは、例えば、輝度、照度、光度、全光束、並びにそれらの測定結果に基づいて算出される値を含む。
【0083】
走行中の車両の周辺環境の明るさは、例えば、時間や天候、トンネル通過などの種々の要因によって時々刻々と移り変わる。このため、仮に、第1の視覚刺激像10と第2の視覚刺激像20を常に同じ強度(輝度)で表示すると、ある状況では視覚刺激像の強度が強すぎて運転への集中が妨げられ、別の状況では視覚刺激像の強度が弱すぎて視覚刺激像の表示による効果(運転者の覚醒状態の維持や注意力の回復)が不十分となるおそれがある。
【0084】
そこで、環境光センサ(明るさ検出部)150によって周辺環境の明るさをリアルタイムで検出し、その検出結果に基づくフィードバック制御を実行することで、運転者の覚醒状態の維持や注意力の回復に適切な強度で視覚刺激を呈示することができる。
【0085】
その場合、視覚刺激像の強度(輝度)は、例えば、検出した周辺環境の明るさを若干量だけ上回る値、又は運転者の弁別閾値を若干量だけ上回る値の少なくとも一方を満足する値に設定する。上述したように、運転者の弁別閾値は、HUD表示の背景輝度(自車両301の前方風景の明るさ)、つまり運転者の向いている車両の前方方向においてHUD表示と重畳する領域の輝度とその周辺の輝度によって変化する。このため、背景輝度は、予めテスト走行などで取得した走行環境での背景輝度からの分布から、任意の固定値を定義してもよいし、テスト走行などで取得した走行環境での背景輝度からの分布とその背景輝度に対して官能評価などにより用意したルックアップテーブル(LUT)に基づいて決定してもよい。すなわち、
図12に示すように、制御系250の記憶部250Bが記憶したルックアップテーブル(LUT)250Aに基づいて、視覚刺激像の強度を決定してもよい。あるいは、
図31に示すように、環境光センサ150の検出結果に基づいて視覚刺激像の強度を計算する視覚刺激像強度計算部250Cを制御系250に設けてもよい。
【0086】
なお、周辺環境の明るさは、環境光センサ150により検出する場合の他、前方撮影用カメラ110の撮影画像に基づいて検出してもよい。前方撮影用カメラ110の設置位置は車内でも車外でも可能であるが、車内に設置する場合は、フロントガラスによる影響(例えば屈折や回折)を考慮することが好ましい。
【0087】
以上の実施形態では、表示装置1を車両用HUD装置に適用した場合を例示して説明したが、表示装置1の適用対象には自由度があり、種々の設計変更が可能である。例えば、表示装置1を運転者(ユーザ)の身体に装着して使用されるウェアラブルデバイス(例えばヘッドマウントディスプレイ(HMD:Head Mount Display))に適用することも可能である。
【0088】
以上の実施形態では、複数の視覚刺激として主に2つの視覚刺激像を適用する場合を例示して説明したが、複数の視覚刺激像の数は2つに限定されるものではなく、ユーザの視線移動を誘起しなければ、3つ以上の数の視覚刺激像を適用することも可能である。
【符号の説明】
【0089】
1 表示装置(車両用HUD装置)
10 第1の視覚刺激像(複数の視覚刺激像、メイン刺激像、第2の像)
20 第2の視覚刺激像(複数の視覚刺激像、メイン刺激像、第2の像)
30 切替スイッチ(切替部)
40 視野検出センサ(視野検出部、視線移動検出部)
50 視覚刺激呈示部
60 ダミー刺激像(第2の像)
150 環境光センサ(明るさ検出部)
250 制御系(制御部)
700 表示エリア