(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-03
(45)【発行日】2022-10-12
(54)【発明の名称】液体吐出装置
(51)【国際特許分類】
B41J 2/01 20060101AFI20221004BHJP
B41J 2/015 20060101ALI20221004BHJP
B41J 2/045 20060101ALI20221004BHJP
【FI】
B41J2/01 207
B41J2/01 209
B41J2/015 101
B41J2/045
(21)【出願番号】P 2018218564
(22)【出願日】2018-11-21
【審査請求日】2021-08-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000006747
【氏名又は名称】株式会社リコー
(74)【代理人】
【識別番号】100186853
【氏名又は名称】宗像 孝志
(72)【発明者】
【氏名】井上 孔佑
(72)【発明者】
【氏名】水谷 友大
(72)【発明者】
【氏名】飛田 克広
(72)【発明者】
【氏名】塚越 敏弘
【審査官】大浜 登世子
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-250472(JP,A)
【文献】特開2011-140118(JP,A)
【文献】特開2016-013685(JP,A)
【文献】特開平11-058735(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41J 2/01 - 2/215
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆動電圧波形の印加に応じてノズル口から液体を液滴として吐出させる
複数の圧電素子を備える記録ヘッドと、
各圧電素子に印加する前記駆動電圧波形を
同一の駆動波形データに基づいて同時に生成する複数の駆動電圧波形生成部と、
異なる前記駆動電圧波形生成部に
おいて生成された同一の駆動電圧波形同士を比較する駆動電圧波形比較部と、
前記駆動電圧波形比較部における比較結果に基づいて前記駆動電圧波形の異常の有無を判断する制御部と、
を有することを特徴とする液体吐出装置。
【請求項2】
複数の前記駆動電圧波形生成部と
複数の前記圧電素子との接続状態を切り替える切替部を有し、
前記切替部が、複数の前記圧電素子
のそれぞれに
対し、複数の前記駆動電圧波形生成部
において生成された各駆動電圧波形を印加するように切り替えて、前記駆動電圧波形比較部に各圧電素子に印加された各駆動電圧波形が入力され、
前記駆動電圧波形比較部は、異なる駆動電圧波形生成部において生成された同一の駆動電圧波形を比較する、
請求項1記載の液体吐出装置。
【請求項3】
前記制御部は、同一の前記駆動電圧波形の差異に基づいて前記駆動電圧波形生成部か又は前記記録ヘッドの異常の有無を判断する、請求項
2に記載の液体吐出装置。
【請求項4】
前記駆動電圧波形比較部は、比較対象となる駆動電圧波形の差異が一定以上である場合に、比較結果として、出力がアサートするコンパレータからなる、請求項
3に記載の液体吐出装置。
【請求項5】
前記駆動電圧波形比較部は、前記駆動電圧波形をデジタル信号に変換するアナログ-デジタル変換部を有し、
デジタル変換された各駆動電圧波形を用いて比較をする、請求項1乃至
4のいずれか一項に記載の液体吐出装置。
【請求項6】
前記制御部は、前記比較結果に基づいて、前記駆動電圧波形の異常は、電圧値レベルの異常であるか、波形の位相異常であるかを切り分けて判断する、請求項1乃至
5のいずれか一項に記載の液体吐出装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体吐出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
液体吐出ヘッドを備える液体吐出ユニットの動作を制御して吐出対象物に対して適切なタイミングと量で液体を吐出する液体吐出装置が知られている。当該液体吐出装置の一例として、液体インクを記録媒体に吐出して文字や画像を形成するインクジェットプリンタが知られている。
【0003】
液体吐出ユニットは、例えば、圧電素子(ピエゾアクチュエータ)を用いた液体吐出ヘッドと、当該圧電素子を動作させるために印加する駆動電圧波形を生成して出力する駆動波形生成回路と、を少なくとも備える。圧電素子は印加された駆動電圧波形に応じて伸縮する素子である。液体吐出ユニットは、所定の駆動電圧波形を圧電素子に印加することで、液体吐出ヘッドに設けられているノズル口に連通している液室の容積を変化させる。この容積変化により液室内の圧力に変動が生ずるので、この変動エネルギーによって液体を液滴としてノズル口から吐出する。
【0004】
圧電素子に印加される駆動電圧波形の大きさやタイミングによって吐出される液滴の特性に影響が生ずるので、駆動電圧波形において、様々な要因により「ばらつき」が生じると画像形成において正常な液滴の吐出にはならず、形成される画像が異常画像になる。そこで、液体吐出ヘッドにおいて圧電素子に印加される駆動電圧波形を観測し、駆動電圧波形の異常を検出することで液滴の吐出状態の質を維持し、高めることが求められる。
【0005】
駆動電圧波形の異常を検出する技術として、駆動電圧波形の電圧パルス信号を所定の基準電圧と比較することで、比較結果に基づいて、当該駆動電圧波形の異常検出をする技術が知られている(特許文献1を参照)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来技術は、基準電圧との比較によって電圧パルスをカウントし、このカウントの結果によって観測対象の電圧の異常を検出するものである。駆動電圧波形を生成する駆動波形生成回路は、温度特性や経年劣化の影響により、駆動電圧波形に「なまり」や、波形の「オーバーシュート」または「アンダーシュート」などが生ずることがあるが、従来技術ではこのような異常を伴う駆動電圧波形と、正常な駆動電圧波形との区別が困難である。したがって、従来技術では、駆動電圧波形の異常の検出精度を高めるには課題がある。
【0007】
本発明は、駆動電圧波形のなまりや波形歪などの波形の変形を含む異常を検出できる液体吐出装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明の一態様は、駆動電圧波形の印加に応じてノズル口から液体を液滴として吐出させる複数の圧電素子を備える記録ヘッドと、各圧電素子に印加する前記駆動電圧波形を同一の駆動波形データに基づいて同時に生成する複数の駆動電圧波形生成部と、異なる前記駆動電圧波形生成部において生成された同一の駆動電圧波形同士を比較する駆動電圧波形比較部と、前記駆動電圧波形比較部における比較結果に基づいて前記駆動電圧波形の異常の有無を判断する制御部と、を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、駆動電圧波形のなまりや波形歪などの波形の変形を含む異常を検出できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明に係る液体吐出装置の一実施形態であるプリンタの構成を示す概略図。
【
図2】上記プリンタが備える液体吐出ヘッドの一実施形態の構成を示す側面図。
【
図3】上記液体吐出ヘッドの構造の例を示す底面図。
【
図4】上記記録ヘッドがノズル口の例を示す平面図。
【
図5】上記プリンタが備える液体吐出ヘッドの一実施形態の構成を示す分解斜視図。
【
図7】上記記録ヘッドが備える圧電素子に印加される駆動信号の波形の例を示す図。
【
図8】上記圧電素子に印加される駆動信号の波形の比較例を示す図。
【
図9】上記液体吐出装置において実行される駆動電圧波形比較処理の例を示すフローチャート。
【
図10】上記駆動電圧波形比較処理の別の例を示すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0011】
[本発明の概要]
本発明に係る液体吐出装置は、複数の異なる駆動波形生成部と、当該駆動電圧波形生成部が生成する駆動電圧波形を比較する駆動電圧比較部と、比較結果に基づいて駆動電圧波形の異常を判断する制御部と、を備え、各駆動電圧波形の比較結果に基づいて当該駆動電圧波形の異常を判断する、ことを要旨の一つとする。
【0012】
従来から知られている液体吐出装置は、液体を吐出する吐出口(ノズル口)を複数備え、各ノズルにおいて液体を吐出させるエネルギーを発生させる圧電素子が設けられている。駆動電圧波形発生部が、この圧電素子を駆動させるための駆動電圧波形を生成する。駆動電圧波形発生部は、生成する駆動電圧の大きさやパルス周期が異なる複数の駆動電圧波形を生成することができる。例えば、吐出する液滴の大きさ(大、中、小)を制御するために、専用の駆動電圧波形を生成したり、調整用の微振動からなる駆動電圧波形を生成したりすることもでき、これらをシーケンシャルに繋げて圧電素子に印加する。上記のように、複数の異なる駆動電圧波形を生成して、これをシーケンシャルに繋げて圧電素子に印加すると、駆動電圧波形の周期が長くなるので、吐出動作の高速化には不向きである。
【0013】
本発明に係る液体吐出装置は、圧電素子に対して駆動電圧波形生成部を複数備えていて、一方の駆動電圧波形生成部で液滴の大きさを制御するための駆動電圧波形を生成して、他方の駆動電圧波形生成部では微振動波形を生成することができる。また、駆動電圧波形と圧電素子途の接続を切替部によって切り替えて、適宜、圧電素子に印加することができる。これらの構成を備えることで、本発明に係る液体吐出装置では、駆動電圧波形生成部が生成した駆動電圧波形と基準電圧とを比較ではなく、駆動電圧波形生成部の異常を検出し、その異常の内容を判断することもできる。
【0014】
特に、本発明に係る液体吐出装置では、基準電圧との比較による異常検出では検出することができない、温度特性や経年劣化により生ずる各駆動電圧波形の「なまり」や「オーバーシュート」、「アンダーシュート」などの駆動電圧波形の異常も検出して判断することができる。
【0015】
また、本発明に係る液体吐出装置は、切替部において駆動波形生成部と圧電素子の接続を遮断した状態で、生成した駆動電圧波形を比較することにより、異常の発生箇所を絞ることもできる。以下、本発明に係る液体吐出装置の実施形態について、図面を参照しながら説明する。
【0016】
[インクジェットプリンタ1000の全体構成]
図1は、本発明に係る液体吐出装置の実施形態であるインクジェットプリンタ1000の全体構成図である。インクジェットプリンタ1000は、オンデマンド方式のライン走査型を例示している。
【0017】
図1に示すように、インクジェットプリンタ1000は、画像形成部210と、給紙部220と、レジスト調整部230と、乾燥部240と、記録媒体反転部250と、排紙部290と、を備えている。インクジェットプリンタ1000における画像形成出力動作(印刷動作)の流れの一例を説明する。
【0018】
まず給紙部220の給紙スタック221に積載された記録媒体W1が、エアー分離部222によって1枚ずつピックアップされ、画像形成部210の方向に搬送される。給紙部220から搬送された記録媒体W1は、レジスト調整部230に達すると、レジスト調整部230では内部に設けられたレジストローラ対231によって記録媒体W1の傾きの補正が行われる。
【0019】
レジスト調整された記録媒体W1は、画像形成部210に送られ、円筒形状のドラム10の表面に設けた記録媒体グリッパ11によって記録媒体先端を挟んで、ドラム10が回転することでヘッドアレイ28K~28Pに対向する位置へ搬送される。画像形成部210では、円筒形状のドラム10表面に沿って、インクジェット方式によりインクを吐出する記録ヘッドユニットであるヘッドアレイ28K~28Pが、所定のインク色を充填した状態で放射状に角度をもって配置されている。
【0020】
複数のヘッドアレイ28K~28Pが、円周の外側からドラム10の表面に保持された記録媒体W1の外周面へ、インク(液体)を吐出することで、記録媒体W1に画像を形成する。ドラム10の外周面には、空吐出受け12が設けられており、ヘッドモジュール28が記録媒体W1にインクを吐出していないときに、空吐出されたインクを受け取る。画像が形成されると記録媒体W1は、乾燥部240に送られる。
【0021】
乾燥部240には乾燥ユニット241が取り付けられ、その下を記録媒体W1が通過することによって、記録媒体W1の水分を蒸発させる。また、乾燥部240には、記録媒体反転機構251を含む記録媒体反転部250が設けられている。両面印刷時には、記録媒体反転部250で記録媒体W1を反転し反転搬送部252により再度画像形成部210の方向へ搬送する。なお、ドラム10に達する前に画像形成部210内部に設けられたレジストローラ253によって記録媒体W1の傾きが補正される。乾燥部240による乾燥を終えた記録媒体W1は排紙部290に搬送されて、記録媒体W1の端部が整合された状態で積載される。
【0022】
[液体吐出ヘッドユニットの実施形態]
次に、本発明に係る液体吐出装置に適用可能な液体吐出ヘッドユニットの実施形態について、説明する。液体吐出ヘッドユニットの実施形態は、すでに説明をしたヘッドモジュール28である。
図2は、ヘッドモジュール28の側面図である。
【0023】
図2に示すように、ヘッドモジュール28は、主に、記録ヘッド15と、ケーブル16と、駆動制御基板17と、から構成される。
【0024】
駆動制御基板17には、駆動制御部26と、駆動電圧波形生成部271と、記憶部18が搭載されている。
【0025】
ケーブル16は、駆動制御基板コネクタ19と、ヘッド側コネクタ20が両端に取り付けられており、記録ヘッド15に搭載されているヘッド基板22と駆動制御基板17との間のアナログ信号通信及びデジタル信号通信を担う。
【0026】
記録ヘッド15は、主に、残留振動検知モジュール21と、ヘッド基板22と、駆動電圧波形をどの圧電素子42に印加するかを切り替える切替部を備えるヘッド駆動IC基板24と、ヘッド内インクタンク23と、剛性プレート25と、から構成される。なお、インクジェットプリンタ1000が備える液体吐出ヘッドの構成がライン走査型であれば、記録媒体W1の搬送方向の垂直方向である、記録媒体W1の幅方向に、記録ヘッド15を並べたラインヘッド構成である。ただし、本発明は、1つ若しくは複数の記録ヘッド15を、記録媒体W1の幅方向に移動させながら、更に記録媒体W1を搬送方向に搬送し、画像を形成するシリアル走査型や、その他の液体吐出装置にも適用可能なものである。
【0027】
[記録ヘッド15の構成]
図3は、記録ヘッド15をラインヘッド構成で配置した一例を示す概略図である。本実施形態に係るヘッドモジュール28は、ブラックのインク滴を吐出するブラック用のヘッドアレイ28Kと、シアンのインク滴を吐出するシアン用のヘッドアレイ28C、マゼンダのインク滴を吐出するマゼンダ用のヘッドアレイ28Mと、イエローのインク滴を吐出するイエロー用のヘッドアレイ28Y、など吐出する液体インクの色ごとに区別された構成物の集合体である。各ヘッドアレイは、記録媒体の搬送方向(矢印方向)と直交する方向に配置している。このようにヘッドをアレイ化することにより広域な印刷領域を確保している。
【0028】
図4は、記録ヘッド15の各体底面図である。記録ヘッド15の底面は、複数のノズル口である印字ノズル30が千鳥状に配置されているノズル面29を形成している.印字ノズル30に配列されている各印字ノズル30からは、圧電素子42の伸縮に基づいて液滴が吐出される。印字ノズル30を千鳥配列にすることで、吐出した液体によって形成する画像の解像度を高くすることができる。
【0029】
[記録ヘッド15の詳細構成]
次に記録ヘッド15の詳細な構成について
図5を用いて説明する。記録ヘッド15は、主に、ノズルプレート31と、圧力室プレート33と、リストリクタプレート35と、ダイアフラムプレート38と、剛性プレート25と、圧電素子であるピエゾ素子群46と、から構成されている。
【0030】
多数の印字ノズル30が千鳥状に配列されるように形成されたノズルプレート31と、各印字ノズル30に対応する個別圧力室32を形成した圧力室プレート33と、共通インク流路39と、個別圧力室32を連通して個別圧力室32へのインク流量を制御するリストリクタ34を形成したリストリクタプレート35と、振動板36と、フィルタ37を設けたダイアフラムプレート38と、を順次重ねて位置決めして接合することにより、流路版が構成される。この流路版を剛性プレート25に接合して、フィルタ37を共通インク流路39の開口部と対向させる。
【0031】
インク導入パイプ41の上側開口端は、剛性プレート25の共通インク流路39に接続され、インク導入パイプ41の下側開口端は、インクを充填したヘッド内インクタンクに接続される。
【0032】
ピエゾ素子支持基板43上には、ピエゾ素子駆動IC44が搭載され、圧電素子42を多数個配列して構成したピエゾ素子群46を、剛性プレート25に設けられている開口部40から挿入し、各圧電素子42の自由端を振動板36に接着固定することで、記録ヘッド15が構成される。なお、
図5では、簡略化のために印字ノズル30、個別圧力室32、リストリクタ34などの因数を減らして図示している。
【0033】
[ヘッドモジュール28の機能構成]
次に、ヘッドモジュール28の機能構成について、
図6を用いて説明する。ヘッドモジュール28は、記録ヘッド制御部53と、記録ヘッド15と、から構成される。
【0034】
記録ヘッド制御部53は、ヘッド制御部50と、ヘッド駆動部27と、駆動電圧波形比較部51と、を備える。
【0035】
記録ヘッド15は、駆動電圧波形切替部52と、複数の圧電素子42を備える。
【0036】
ヘッド制御部50は、駆動波形データを格納する記憶部18と、記憶部18の情報を基にヘッド駆動部27を制御し、また駆動電圧波形比較部51の結果に基づいて異常の有無を判断する制御部48を有する。駆動電圧波形比較部51は、2つ以上の駆動電圧波形を比較できればよく、例えば、オペアンプ等を用いたコンパレータや、電圧波形をデジタルデータに変換するADC(アナログ-デジタル変換部)と、デジタルデータを比較する比較器によって構成される。なお、駆動電圧波形比較部51は、複数の駆動電圧波形を同時に入力し、これらを同時に比較するものでもよいし、特定の二つだけを比較し、二つ以上の駆動電圧波形を比較するときには、順次入力を切り替える構成を備えてもよい。駆動電圧波形比較部51にコンパレータを用いる場合は、比較対象となる駆動波形電圧の差異が一定以上であるときに、出力をアサートする構成であればよい。この場合、制御部48は、コンパレータの出力が有った場合に異常があると判断する。
【0037】
記録ヘッド制御部53は、駆動周波数向上等の目的で、ヘッド駆動部27において、複数の駆動波形生成部(第一駆動電圧波形生成部271A、第二駆動電圧波形生成部271B)を備える。第一駆動電圧波形生成部271Aと第二駆動電圧波形生成部271Bは、同一の構成および機能を有する。したがって、第一駆動電圧波形生成部271Aと第二駆動電圧波形生成部271Bは同一の駆動電圧波形を生成することができる。第一駆動電圧波形生成部271A及び第二駆動電圧波形生成部271Bは、制御部48により、動作が制御される。
【0038】
記録ヘッド15が備える駆動電圧波形切替部52は、ヘッド駆動部27において生成された駆動電圧波形を印加する圧電素子42を切り替えるスイッチとして動作をする。駆動電圧波形切替部52は、第一駆動電圧波形生成部271Aおよび第二駆動電圧波形生成部271Bが生成した駆動電圧波形を、それぞれ、どの圧電素子42に印加させるか、その接続状態を制御する。また、駆動電圧波形切替部52は、ヘッド駆動部27と圧電素子42の接続を遮断するようにも動作する。その場合、第一駆動電圧波形生成部271Aおよび第二駆動電圧波形生成部271Bから出力された駆動電圧波形は、駆動電圧波形比較部51にそのまま入力される。
【0039】
上記の構成を備えるヘッドモジュール28によれば、異なる駆動波形生成部(第一駆動電圧波形生成部271Aまたは第二駆動電圧波形生成部271B)において、制御部48の制御によって、同一の駆動電圧波形を生成させて、それぞれを圧電素子42のいずれかに印加させることができる。このとき、圧電素子42に印加された駆動電圧波形を、駆動電圧波形比較部51において比較する。この比較は、駆動電圧波形が圧電素子に印加されると同時に行うことができる。たとえば、印字ノズル30の詰まりを防止するために吐出動作をさせる「フラッシング」を実行するときなど、画像形成とは関係ないタイミングで、第一駆動電圧波形生成部271A及び第二駆動電圧波形生成部271Bに同一の駆動電圧波形を生成させて圧電素子42に印加させる。このときの駆動電圧波形を駆動電圧波形比較部51において比較することで、駆動電圧波形の異常発生および、異常の種類を判断することができる。
【0040】
なお、駆動電圧波形切替部52は、1つのモジュールとして構成される必要はなく、複数のモジュールによって圧電素子42への駆動電圧波形の印加を切り換えるように構成してもよい。
【0041】
[ヘッドモジュール28の動作]
次に、本実施形態に係るヘッドモジュール28における、異常検出動作について
図7を用いて説明する。
図7は、駆動電圧波形の比較によって記録ヘッド15及び駆動電圧波形生成部271の異常を検知する方法を例示している。
【0042】
なお、本発明に係る液体吐出装置は、駆動電圧波形の比較をリアルタイムで行い、駆動電圧波形の異常検出を行うことができる。
図7のように同時刻(時刻X)における同一の駆動電圧波形を比較する場合を想定する。
【0043】
図7における波形Aは、第一駆動電圧波形生成部271Aにおいて生成され、圧電素子42aに印加された駆動電圧波形の例とする。波形Bは、第二駆動電圧波形生成部271Bにおいて生成され、圧電素子42bに印加された駆動電圧波形の例とする。制御部48は、波形Aと波形Bを同一の駆動電圧波形となるように制御したとする。この例において、
図7の時刻Xに着目して比較すると、波形Aに対して波形Bが遅延していることが判断できる。このように、同一になるはずのものに差異が生じていることを、異なる複数の駆動波形生成部(第一駆動電圧波形生成部271A及び第二駆動電圧波形生成部271B)が生成した駆動波形を比較することで検出できる。また、
図7の波形Aと波形Bの比較では、位相異常であると判断することもできる。このように、何らかの原因により、比較対象とした駆動電圧波形に異常が生じていることを判断できる。異常の差異については、所定の閾値を設けることで、その際が一定以上である場合に、異常が生じていると判断すればよい。
【0044】
仮に、第二駆動電圧波形生成部271Bが生成して圧電素子42bに印加した駆動電圧波形が、波形Cであったならば、波形Aとの比較において、波形Cは「なまっている」ことになる。この場合、位相はずれていないが電圧値レベルが異常になっている、と判断することができる。
【0045】
従来技術では、基準電圧を閾値として、駆動電圧波形と閾値との比較により駆動電圧波形の状態を検出していたので、閾値に対応する波形の変動は検出できるが、波形そのものの「遅延」や「なまり」が生じているかなどの、時間的要素に関連する異常の検知は困難である。仮に、従来技術において、時間要素に関連する異常の検出を行うならば、時間要素に対応する閾値を複数設け、かつ時間要素の閾値に対応する基準電圧を設定する必要がある。
【0046】
駆動電圧波形の異常は、第一駆動電圧波形生成部271Aや第二駆動電圧波形生成部271Bの温度特性の個体差などによって生ずることが考えられる。この点、本実施形態に係るヘッドモジュール28によれば、時間要素に関連する閾値(比較判定の基準となる時刻)を少なくとも一つ設定すれば、駆動電圧波形の異常を検出することができる。
【0047】
また、本実施形態に係るヘッドモジュール28の動作において、異常の種類を切り分ける方法について説明する。
図7を用いて説明したときと同様に、
図8に示す波形Cは、第一駆動電圧波形生成部271Aにおいて生成され、圧電素子42aに印加された駆動電圧波形の例とする。波形Dは、第二駆動電圧波形生成部271Bにおいて生成され、圧電素子42bに印加された駆動電圧波形の例とする。制御部48は、波形Cと波形Dを同一の駆動電圧波形となるように制御したとする。
【0048】
この例において、波形Cと波形Dは同じ波形になるべきである。しかし、波形Dは波形Cに比べて同時刻における電圧値レベルが同じになっていない。すなわち、第二駆動電圧波形生成部271Bは、第一駆動電圧波形生成部271Aに対して、駆動電圧波形を十分なレベルで生成できていない。
【0049】
これを駆動電圧波形比較部51において、所定の時間内に電圧値レベルが閾値を超えた回数で比較するならば、判定Cと判定Dの比較から明らかなように、波形Cに比べて波形Dの閾値越えの回数は少なくなる。この結果に基づけば、波形Dを生成した第二駆動電圧波形生成部271Bでは、電圧レベルに異常が発生していると判断できる。
【0050】
また、
図8において、波形Eも、第二駆動電圧波形生成部271Bにおいて生成され、圧電素子42bに印加された駆動電圧波形の例とする。もちろん、制御部48は、波形Cと波形Eを同一の駆動電圧波形となるように制御したとする。
【0051】
この場合も、波形Cと波形Eは同じ波形になるべきである。しかし、波形Eは波形Cに比べて同時刻において電圧レベルが同じになっておらず、遅延している。この場合、駆動電圧波形比較部51において、所定の時間内に電圧レベルが閾値を超えた回数で比較すると、判定Cと判定Eの比較から明らかなように、閾値越えの回数は同じになるが、閾値越えが検出されるタイミングが異なることになる。この結果に基づけば、波形Eを生成した第二駆動電圧波形生成部271Bでは、電圧レベルには異常が発生していないが、駆動電圧波形の生成において遅延という異常が生じていると判断できる。
【0052】
以上のとおり、ヘッドモジュール28によれば、複数の駆動電圧波形生成部に基づいて、駆動電圧波形の異常の検出、異常の種類の判断を行うことができる。
【0053】
[ヘッドモジュール28における動作フローの第一例]
次に、本実施形態に係るヘッドモジュール28における動作フローの例を、
図9のフローチャートを用いて説明する。
【0054】
まず、制御部48が、第一駆動電圧波形生成部271Aと第二駆動電圧波形生成部271Bに対して、同一の駆動電圧波形を生成して出力するように指示をする。これによって、第一駆動電圧波形生成部271Aと第二駆動電圧波形生成部271Bが生成した同一の駆動電圧波形が圧電素子42に印加される(S901)。このとき、駆動電圧波形切替部52は、第一駆動電圧波形生成部271Aが生成した駆動電圧波形が圧電素子42aに印加される接続状態にしているものとする。また、第二駆動電圧波形生成部271Bが生成した駆動電圧波形が圧電素子42bに印加される接続状態にしているものとする。
【0055】
第一駆動電圧波形生成部271Aが生成した第一駆動電圧波形が圧電素子42aに印加されるとともに、駆動電圧波形比較部51に入力される。同時に、第二駆動電圧波形生成部271Bが生成した第二駆動電圧波形が圧電素子42bに印加されるとともに、駆動電圧波形比較部51に入力される。駆動電圧波形比較部51は、各駆動電圧波形を比較して、その比較結果を制御部48に出力する(S902)。
【0056】
続いて、制御部48において比較結果を判断する。
図7及び
図8に例示したように、異なる駆動電圧波形生成部において生成された同一の駆動電圧波形の比較によって、電圧値レベルの差異が所定の基準レベルを超えているか、また、位相異常(遅延など)が所定の基準レベルを超えているかを判定する。基準レベルを超えている場合は、「異常有り」と判定し(S903/Yes)、インクジェットプリンタ1000が備える異常報知手段に通知する(S904)。基準レベルを超えていない場合は、「異常無し」と判定し(S903/No)、処理を終了する。
【0057】
[ヘッドモジュール28における動作フローの第二例]
次に、本実施形態に係るヘッドモジュール28における動作フローの別例を、
図10のフローチャートを用いて説明する。
【0058】
まず、制御部48が、第一駆動電圧波形生成部271Aと第二駆動電圧波形生成部271Bに対して、同一の駆動電圧波形を生成して出力するように指示をする。これによって、第一駆動電圧波形生成部271Aと第二駆動電圧波形生成部271Bが生成した同一の駆動電圧波形が圧電素子42に印加される(S1001)。このとき、駆動電圧波形切替部52は、第一駆動電圧波形生成部271Aが生成した駆動電圧波形が圧電素子42aに印加される接続状態にしているものとする。また、第二駆動電圧波形生成部271Bが生成した駆動電圧波形が圧電素子42bに印加される接続状態にしているものとする。
【0059】
次に、第一駆動電圧波形生成部271Aが生成した第一駆動電圧波形が圧電素子42aに印加されるとともに、駆動電圧波形比較部51に入力される。同時に、第二駆動電圧波形生成部271Bが生成した第二駆動電圧波形が圧電素子42bに印加されるとともに、駆動電圧波形比較部51に入力される。駆動電圧波形比較部51は、各駆動電圧波形を比較して、その比較結果を制御部48に出力する(S1002)。
【0060】
続いて、制御部48において比較結果を判断する。
図7及び
図8に例示したように、異なる駆動電圧波形生成部において生成された同一の駆動電圧波形の比較によって、電圧値レベルの差異が所定の基準レベルを超えているか、また、位相異常(遅延など)が所定の基準レベルを超えているかを判定する。基準レベルを超えている場合は、「異常有り」と判定する(S1003/Yes)。基準レベルを超えていない場合は、「異常無し」と判定し(S1003/No)、処理を終了する。
【0061】
S1003において「異常有り」と判定されたときは、駆動電圧波形切替部52において、駆動電圧波形生成部(第一駆動電圧波形生成部271Aと第二駆動電圧波形生成部271B)と、圧電素子(圧電素子42a、圧電素子42b)との接続を遮断する(S1004)。
【0062】
続いて、制御部48が、再度、第一駆動電圧波形生成部271Aと第二駆動電圧波形生成部271Bに対して、第一駆動電圧波形と第二駆動電圧波形を生成するように指示をする。これによって、第一駆動電圧波形生成部271Aと第二駆動電圧波形生成部271Bが生成した同一の駆動電圧波形が駆動電圧波形比較部51に入力される(S1005)。
【0063】
続いて、制御部48において比較結果を判断する。
図7及び
図8に例示したように、異なる駆動電圧波形生成部において生成された同一の駆動電圧波形を比較する(S1006)。比較結果を制御部48に通知する。
【0064】
続いて、電圧値レベルの差異が所定の基準レベルを超えているか、また、位相異常(遅延など)が所定の基準レベルを超えているかを判定する。基準レベルを超えている場合は、「異常有り」と判定する(S1007/Yes)。この場合、異常の原因は駆動電圧波形生成部側にあると考えられるので、その旨を、第一異常として報知して(S1008)、処理を終了する。
【0065】
S1007において「異常無し」と判定された場合(S1007/No)、異常の原因は圧電素子側にあると考えられるので、その旨を、第二異常として報知して(S1009)、処理を終了する。
【符号の説明】
【0066】
17 :駆動制御基板
18 :記憶部
19 :駆動制御基板コネクタ
20 :ヘッド側コネクタ
21 :残留振動検知モジュール
22 :ヘッド基板
23 :ヘッド内インクタンク
24 :ヘッド駆動IC基板
27 :ヘッド駆動部
28 :ヘッドモジュール
42 :圧電素子
48 :制御部
50 :ヘッド制御部
51 :駆動電圧波形比較部
52 :駆動電圧波形切替部
53 :記録ヘッド制御部
100 :記録ヘッド制御部
1000 :インクジェットプリンタ
【先行技術文献】
【特許文献】
【0067】