(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-04
(45)【発行日】2022-10-13
(54)【発明の名称】軸受用潤滑油基油
(51)【国際特許分類】
C10M 105/34 20060101AFI20221005BHJP
C10N 30/00 20060101ALN20221005BHJP
C10N 30/02 20060101ALN20221005BHJP
C10N 30/08 20060101ALN20221005BHJP
C10N 40/02 20060101ALN20221005BHJP
【FI】
C10M105/34
C10N30:00 Z
C10N30:02
C10N30:08
C10N40:02
(21)【出願番号】P 2018204563
(22)【出願日】2018-10-31
【審査請求日】2021-10-07
(31)【優先権主張番号】P 2017216163
(32)【優先日】2017-11-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000191250
【氏名又は名称】新日本理化株式会社
(72)【発明者】
【氏名】持田博紹
(72)【発明者】
【氏名】萬代有未
(72)【発明者】
【氏名】竹上明伸
【審査官】林 建二
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-146374(JP,A)
【文献】国際公開第00/68345(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2004/0072703(US,A1)
【文献】特開2009-203385(JP,A)
【文献】特開2000-48346(JP,A)
【文献】特開2000-105918(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C10M 101/00-177/00
C07B 31/00-61/00
C07B 63/00-63/04
C07C 1/00-409/44
C10N
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
2-ヘキシルデカン酸と直鎖脂肪族アルコールとのエステル化合物である、一般式(1)
【化1】
[式中、Rは、炭素数14~16の直鎖アルキル基を表す。]
で表される2-ヘキシルデカン酸エステルを含有する軸受用潤滑油基油。
【請求項2】
2-ヘキシルデカン酸エステルの含有量が、軸受用潤滑油基油中に90質量%以上である、請求項1に記載の軸受用潤滑油基油。
【請求項3】
前記軸受用潤滑油基油が、流体軸受用潤滑油基油である、請求項1又は請求項2に記載の軸受用潤滑油基油。
【請求項4】
請求項1~3のいずれかに記載の軸受用潤滑油基油を含有することを特徴とする、軸受用潤滑油組成物。
【請求項5】
請求項1~3のいずれかに記載の軸受用潤滑油基油及び酸化防止剤を含有することを特徴とする、軸受用潤滑油組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、軸受用潤滑油基油に関する。
【背景技術】
【0002】
HDD(ハードディスクドライブ)などに搭載されるモータでは、軸受として球軸受及びころ軸受が用いられていたが、モータの小型化、低振動化、低騒音化などの要請から、近年、流体軸受が開発され、その流体軸受として、動圧流体軸受及び焼結含油軸受が実用化されている。
【0003】
動圧流体軸受は、軸外周面とスリーブ内周面との隙間に介在する潤滑油の油膜圧力によって、回転軸を支持し、軸外周面又はスリーブ内周面の少なくともいずれか一方に動圧溝を設け、その動圧効果によって形成された潤滑油膜によって回転軸の摺動面を浮上支持するものであり、また、焼結含油軸受は、焼結金属などから構成される多孔質体に、潤滑油又は潤滑グリースを含浸させて自己潤滑機能を持たせたものである。
【0004】
AV機器又はOA機器の高性能化、携帯ユースの普及などに伴い、流体軸受を備えたスピンドルモータが使用されている。近年、スピンドルモータへの高速化及び小型化の要求が強く、そのため、流体軸受にはさらなる低トルク化の要求がある。この低トルク化の要求に対応するため、比較的低粘度の潤滑油基油が選択されてきた。低粘度の潤滑油基油としては、ポリ-α-オレフィンなどの合成炭化水素系潤滑油基油;脂肪族二塩基酸ジエステル、ネオペンチル型ポリオールエステル、脂肪酸モノエステルなどのエステル系潤滑油基油などが挙げられ、これらを用いた流体軸受用潤滑油基油が提案されている(特許文献1~8)。
【0005】
それらの中でも、流体軸受用潤滑油基油として、粘度特性、低温流動性等に優れているエステル系潤滑油基油が多く使用されている。
【0006】
しかしながら、エステル系潤滑油基油はその分子構造内にエステル基を含むため、水分により加水分解が起こり、スピンドルモータを長期に使用する場合、問題となることがあった。
【0007】
また、HDDにおいてはヘッドやディスクが高度化してきたため、アウトガス等による汚染防止が強く求められている(特許文献9)。潤滑油基油の蒸発が生じにくい機械構造の開発や、発生したアウトガスがディスクやヘッド部へ入り込まないような装置上の工夫もされているが、使用する流体軸受用潤滑油基油にも耐蒸発性の向上が求められていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特表平11-514778号公報
【文献】特表平11-514779号公報
【文献】特開2000-500898号公報
【文献】特開2003-119482号公報
【文献】国際公開第2004/018595号
【文献】特開2004-084839号公報
【文献】特開2005-290256号公報
【文献】特開2008-007741号公報
【文献】特開2012-181888号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、粘度指数が高く、且つ、耐蒸発性、加水分解安定性及び低温流動性に優れた軸受用潤滑油基油を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは上記課題を達成すべく鋭意検討の結果、特定の2-分岐鎖脂肪族モノカルボン酸エステルを含有する潤滑油基油が、粘度指数が高く、且つ、耐蒸発性、加水分解安定性及び低温流動性に優れた軸受用潤滑油基油であることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
即ち、本発明は、以下の項目を要旨とする軸受用潤滑油基油を提供するものである。
【0012】
[項1]
2-ヘキシルデカン酸と直鎖脂肪族アルコールとのエステル化合物である、一般式(1)
【化1】
[式中、Rは、炭素数14~16の直鎖アルキル基を表す。]
で表される2-ヘキシルデカン酸エステルを含有する軸受用潤滑油基油。
【0013】
[項2]
2-ヘキシルデカン酸エステルの含有量が、軸受用潤滑油基油中に90質量%以上である、[項1]に記載の軸受用潤滑油基油。
【0014】
[項3]
前記軸受用潤滑油基油が、流体軸受用潤滑油基油である、[項1]又は[項2]に記載の軸受用潤滑油基油。
【0015】
[項4]
[項1]~[項3]のいずれかに記載の軸受用潤滑油基油を含有することを特徴とする、軸受用潤滑油組成物。
【0016】
[項5]
[項1]~[項3]のいずれかに記載の軸受用潤滑油基油及び酸化防止剤を含有することを特徴とする、軸受用潤滑油組成物。
【発明の効果】
【0017】
本発明の軸受用潤滑油基油は、粘度指数が高く、且つ、耐蒸発性、加水分解安定性及び低温流動性に優れた軸受用潤滑油基油である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
<軸受用潤滑油基油>
本発明の軸受用潤滑油基油は、下記一般式(1)で表される2-ヘキシルデカン酸エステルを含有することを特徴とする軸受用潤滑油基油である。
【0019】
(2-ヘキシルデカン酸エステル)
本発明に係る2-ヘキシルデカン酸エステルは、下記一般式(1)
【化2】
[式中、Rは、炭素数14~16の直鎖アルキル基を表す。]
で表される2-ヘキシルデカン酸エステルである。
【0020】
2-ヘキシルデカン酸エステルは、特定の直鎖脂肪族アルコールと2-ヘキシルデカン酸とを、エステル化反応するなどして得られる2-ヘキシルデカン酸エステルである。
【0021】
(直鎖脂肪族アルコール)
直鎖脂肪族アルコールは、炭素数14~16の直鎖脂肪族アルコールであり、特に炭素数16の直鎖脂肪族アルコールが好ましい。該炭素数が14よりも小さいと、軸受用潤滑油基油の粘度指数が低くなり、蒸発量が非常に大きくなる。また、該炭素数が16を超えると、軸受用潤滑油基油の流動点が非常に高なるため好ましくない。前記炭素数14~16の直鎖脂肪族アルコールの具体例としては、n-テトラデカノール、n-ペンタデカノール及びn-ヘキサデカノール挙げられる。これらの中でも、n-ヘキサデカノールが好ましい。
【0022】
本発明に係る2-ヘキシルデカン酸エステルの具体例としては、2-ヘキシルデカン酸(n-テトラデシル)、2-ヘキシルデカン酸(n-ペンタデシル)、2-ヘキシルデカン酸(n-ヘキサデシル))が挙げられる。その中でも、2-ヘキシルデカン酸(n-ヘキサデシル)が好ましい。
【0023】
軸受用潤滑油基油中において、2-ヘキシルデカン酸エステルが90質量%以上含有していることが好ましく、より好ましくは95質量%以上、特に98質量%以上が好ましい。
【0024】
本発明の軸受用潤滑油基油の40℃での動粘度は、8mm2/s以上20mm2/s未満が好ましく、11mm2/s以上16.5mm2/s未満が特に好ましい。40℃での動粘度が8mm2/s以上であると潤滑性能が良好であり、20mm2/s以下であるとエネルギー損失が小さい。なお、上記動粘度は、後記実施例に記載した方法にて得られる値である。
【0025】
本発明の軸受用潤滑油基油の粘度指数は、140以上の粘度指数が好ましく、155以上の粘度指数が特に好ましい。粘度指数が高いものほど粘度-温度特性に優れる。なお、上記粘度指数は、後記実施例に記載した方法にて得られる値である。
【0026】
本発明の軸受用潤滑油基油の低温特性は、例えば、低温流動性試験による流動点によって評価することができる。潤滑油基油の流動点は、-5℃以下が好ましく、-10℃以下が特に好ましい。流動点が低いものほど低温流動性に優れる。なお、上記流動点は、後記実施例に記載した低温流動性試験にて得られる値である。
【0027】
本発明の軸受用潤滑油基油の耐蒸発性は、例えば、TG-DTA装置を用いた5%重量減少した時の温度を指標として評価することができる。軸受用潤滑油基油の5%重量減の温度は、270℃以上が好ましく、275℃以上が特に好ましい。5%重量減の温度が高いものほど耐蒸発性に優れる。なお、上記5%重量減の温度は、後記実施例に記載した耐蒸発性試験にて得られる値である。
【0028】
本発明の軸受用潤滑油基油の加水分解安定性(耐加水分解性)は、例えば、加水分解試験後の酸価の上昇量によって評価することができる。潤滑油基油の加水分解試験後の酸価の上昇量は、0.5mgKOH/g以下が好ましく、特に0.1mgKOH/g以下が好ましい。加水分解試験後の酸価の上昇量が小さいほど加水分解安定性に優れていると評価される。なお、上記加水分解試験後の酸価の上昇量は、後記実施例に記載した加水分解安定性試験にて得られる値である。
【0029】
本発明の軸受用潤滑油基油は、加水分解安定性に優れ、低温流動性に優れ、粘度指数が高く、且つ、耐蒸発性が良好なことから、流体軸受用潤滑油基油として好適に用いられ、特に動圧流体軸受用又は焼結含油軸受用潤滑油基油として好適に用いられる。
【0030】
本発明の軸受用潤滑油基油は、鉱物油(石油の精製によって得られる炭化水素油)、ポリ-α-オレフィン、ポリブテン、アルキルベンゼン、アルキルナフタレン、脂環式炭化水素油、フィッシャートロプシュ法によって得られる合成炭化水素の異性化油などの合成炭化水素油、動植物油、本エステル(2-ヘキシルデカン酸エステル)以外の有機酸エステル、ポリアルキレングリコール、ポリビニルエーテル、ポリフェニルエーテル、アルキルフェニルエーテルなどの併用基油の少なくとも1種を適宜併用することができる。
【0031】
鉱物油としては、溶剤精製鉱油、水素化精製鉱油、ワックス異性化油が挙げられるが、通常、100℃における動粘度が1.0~25mm2/s、好ましくは2.0~20.0mm2/sの範囲にあるものが用いられる。
【0032】
ポリ-α-オレフィンとしては、炭素数2~16のα-オレフィン(例えばエチレン、プロピレン、1-ブテン、1-ヘキセン、1-オクテン、1-デセン、1-ドデセン、1-テトラデセン、1ーヘキサデセン等)の重合体又は共重合体であって、100℃における動粘度が1.0~25mm2/s、粘度指数が100以上のものが例示され、特に100℃における動粘度が1.5~20.0mm2/sで、粘度指数が120以上のものが好ましい。
【0033】
ポリブテンとしては、イソブチレンを重合したもの、イソブチレンをノルマルブチレンと共重合したものがあり、一般に100℃の動粘度が2.0~40mm2/sの広範囲のものが挙げられる。
【0034】
アルキルベンゼンとしては、炭素数1~40の直鎖又は分岐のアルキル基で置換された、分子量が200~450であるモノアルキルベンゼン、ジアルキルベンゼン、トリアルキルベンゼン、テトラアルキルベンゼン等が例示される。
【0035】
アルキルナフタレンとしては、炭素数1~30の直鎖又は分岐のアルキル基で置換されたモノアルキルナフタレン、ジアルキルナフタレン等が例示される。
【0036】
動植物油としては、牛脂、豚脂、パーム油、ヤシ油、ナタネ油、ヒマシ油、ヒマワリ油等が例示される。
【0037】
有機酸エステルとしては、脂肪酸モノエステル(本発明に係る2-ヘキシルデカン酸エステルを除く)、脂肪族二塩基酸ジエステル、ポリオールエステルその他のエステルが例示される。
【0038】
脂肪酸モノエステル(本発明に係る2-ヘキシルデカン酸エステルを除く)としては、炭素数5~22の脂肪族直鎖状又は分岐鎖状モノカルボン酸と炭素数3~22の直鎖状又は分岐鎖状の飽和若しくは不飽和の脂肪族アルコールとのエステル化合物が挙げられる。
【0039】
脂肪族二塩基酸ジエステルとしては、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、1,9-ノナメチレンジカルボン酸、1,10-デカメチレンジカルボン酸等脂肪族二塩基酸若しくはその無水物と炭素数3~22の直鎖状又は分岐鎖状の飽和若しくは不飽和の脂肪族アルコールとのジエステルが挙げられる。
【0040】
ポリオールエステルとしては、ネオペンチルグリコール、2,2-ジエチルプロパンジオール、2-ブチル2-エチルプロパンンジオール、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ジトリメチロールプロパン、ジペンタエリスリトール等のネオペンチル型構造のポリオール、1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、1,7-ヘプタンジオール、1,8-オクタンジオール、1,9-ノナンジオール、1,10-デカンジオール、1,2-プロパンジオール、2-メチル-1,3-プロパンジオール、1,3-ブタンジオール、2-メチル-1,4-ブタンジオール、1,4-ペンタンジオール、2-メチル-1,5-ペンタンジオール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、1,5-ヘキサンジオール、2-メチル-1,6-ヘキサンジオール、3-メチル-1,6-ヘキサンジオール、1,6-ヘプタンジオール、2-メチル-1,7-ヘプタンジオール、3-メチル-1,7-ヘプタンジオール、4-メチル-1,7-ヘプタンジオール、1,7-オクタンジオール、2-メチル-1,8-オクタンジオール、3-メチル-1,8-オクタンジオール、4-メチル-1,8-オクタンジオール、1,8-ノナンジオール、2-メチル-1,9-ノナンジオール、3-メチル-1,9-ノナンジオール、4-メチル-1,9-ノナンジオール、5-メチル-1,9-ノナンジオール、2-エチル-1,3-ヘキサンジオール、グリセリン、ポリグリセリン、ソルビトール等の非ネオペンチル型構造のポリオールと炭素数3~22の直鎖状及び/又は分岐鎖状の飽和又は不飽和の脂肪族モノカルボン酸とのフルエステルを使用することが可能である。
【0041】
その他のエステルとしては、ダイマー酸、水添ダイマー酸などの重合脂肪酸、或いは、縮合ヒマシ油脂肪酸、水添縮合ヒマシ油脂肪酸などのヒドロキシ脂肪酸と炭素数3~22の直鎖状若しくは分岐鎖状の飽和又は不飽和の脂肪族アルコールとのエステル化合物が挙げられる。
【0042】
ポリアルキレングリコールとしては、アルコールと炭素数2~4の直鎖状若しくは分岐鎖状のアルキレンオキシドの開環重合体が例示される。アルキレンオキシドとしてはエチレンオキシド、プロピレンオキシド、ブチレンオキシドが挙げられ、これらの1種を用いた重合体、若しくは2種以上の混合物を用いた共重合体が使用可能である。又、片端又は両端の水酸基部分がエーテル化若しくはエステル化した化合物も使用可能である。重合体の動粘度としては、5.0~1,000mm2/s(40℃)、好ましくは5.0~500mm2/s(40℃)である。
【0043】
ポリビニルエーテルとしては、ビニルエーテルモノマーの重合によって得られる化合物であり、モノマーとしてはメチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、イソプロピルビニルエーテル、n-ブチルビニルエーテル、イソブチルビニルエーテル、sec-ブチルビニルエーテル、tert-ブチルビニルエーテル、n-ペンチルビニルエーテル、n-ヘキシルビニルエーテル、2-メトキシエチルビニルエーテル、2-エトキシエチルビニルエーテル等が挙げられる。重合体の動粘度としては、5.0~1,000mm2/s(40℃)、好ましくは5.0~500mm2/s(40℃)である。
【0044】
ポリフェニルエーテルとしては、2個以上の芳香環のメタ位をエーテル結合又はチオエーテル結合でつないだ構造を有する化合物が挙げられ、具体的には、ビス(m-フェノキシフェニル)エーテル、m-ビス(m-フェノキシフェノキシ)ベンゼン、及びそれらの酸素の1個若しくは2個以上を硫黄に置換したチオエーテル類(通称C-エーテル)等が例示される。
【0045】
アルキルフェニルエーテルとしては、ポリフェニルエーテルを炭素数6~18の直鎖状若しくは分岐鎖状のアルキル基で置換した化合物が挙げられ、特に1個以上のアルキル基で置換したアルキルジフェニルエーテルが好ましい。
【0046】
本発明の軸受用潤滑油基油中における併用基油の含有量としては、10質量%以下が推奨されるが、物性のバランスを良くする為には5質量%以下であることがより好ましい。
【0047】
<軸受用潤滑油組成物>
本発明の軸受用潤滑油組成物は、上記の軸受用潤滑油基油の性能を向上させるために、潤滑油基油(即ち、2-ヘキシルデカン酸エステルのみからなる潤滑油基油、又は2-ヘキシルデカン酸エステル及び併用基油からなる潤滑油基油)に加えて、酸化防止剤を配合した軸受用潤滑油組成物である。
【0048】
酸化防止剤としては、フェノール系酸化防止剤、アミン系酸化防止剤、硫黄系酸化防止剤等が挙げられる。その中でも、フェノール系酸化防止剤、アミン系酸化防止剤が推奨される。
【0049】
フェノール系酸化防止剤としては、この分野で使用されている公知のものが特に制限されることなく使用できる。これらフェノール系酸化防止剤のうちでも、好ましくは総炭素数6~100、より好ましくは20~80のものが推奨される。
【0050】
具体的には、2,6-ジ-tert-ブチルフェノール、2,6-ジ-tert-ブチル-p-クレゾール、4,4’-メチレンビス(2,6-ジ-tert-ブチルフェノール)、4,4’-ブチリデンビス(3-メチル-6-tert-ブチルフェノール)、2,2’-メチレンビス(4-エチル-6-tert-ブチルフェノール)、2,2’-メチレンビス(4-メチル-6-tert-ブチルフェノール)、4,4’-イソプロピリデンビスフェノール、2,4-ジメチル-6-tert-ブチルフェノール、テトラキス[メチレン-3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]メタン、1,1,3-トリス(2-メチル-4-ヒドロキシ-5-tert-ブチルフェニル)ブタン、1,3,5-トリメチル-2,4,6-トリス(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシベンジル)ベンゼン、2,2’-ジヒドロキシ-3,3’-ジ(α-メチルシクロヘキシル)-5,5’-ジメチル-ジフェニルメタン、2,2’-イソブチリデンビス(4,6-ジメチルフェノール)、2,6-ビス(2’-ヒドロキシ-3’-tert-ブチル-5’-メチルベンジル)-4-メチルフェノール、1,1’-ビス(4-ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、2,5-ジ-tert-アミルヒドロキノン、2,5-ジ-tert-ブチルヒドロキノン、1,4-ジヒドロキシアントラキノン、3-tert-ブチル-4-ヒドロキシアニソール、2-tert-ブチル-4-ヒドロキシアニソール、2,4-ジベンゾイルレゾルシノール、4-tert-ブチルカテコール、2,6-ジ-tert-ブチル-4-エチルフェノール、2-ヒドロキシ-4-メトキシベンゾフェノン、2,4-ジヒドロキシベンゾフェノン、2,2’-ジヒドロキシ-4-メトキシベンゾフェノン、2,4,5-トリヒドロキシベンゾフェノン、α-トコフェロール、ビス[2-(2-ヒドロキシ-5-メチル-3-tert-ブチルベンジル)-4-メチル-6-tert-ブチルフェニル]テレフタレート、トリエチレングリコール-ビス[3-(3-tert-ブチル-5-メチル-4-ヒドロキシフェニルプロピオネート]、1,6-ヘキサンジオール-ビス[3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]等が例示される。この中でも、特に、2,6-ジ-tert-ブチルフェノール、2,6-ジ-tert-ブチル-p-クレゾール、4,4’-メチレンビス(2,6-ジ-tert-ブチルフェノール)、4,4’-ブチリデンビス(3-メチル-6-tert-ブチルフェノール)、2,2’-メチレンビス(4-エチル-6-tert-ブチルフェノール)、2,2’-メチレンビス(4-メチル-6-tert-ブチルフェノール)、4,4’-イソプロピリデンビスフェノール、2,4-ジメチル-6-tert-ブチルフェノール、テトラキス[メチレン-3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]メタン、1,1,3-トリス(2-メチル-4-ヒドロキシ-5-tert-ブチルフェニル)ブタン、1,3,5-トリメチル-2,4,6-トリス(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシベンジル)ベンゼン、2,6-ジ-tert-ブチル-4-エチルフェノール、ビス[2-(2-ヒドロキシ-5-メチル-3-tert-ブチルベンジル)-4-メチル-6-tert-ブチルフェニル]テレフタレート、トリエチレングリコール-ビス[3-(3-tert-ブチル-5-メチル-4-ヒドロキシフェニルプロピオネート]、1,6-ヘキサンジオール-ビス[3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]が好ましく、更には、2,6-ジ-tert-ブチル-p-クレゾール、4,4’-メチレンビス(2,6-ジ-tert-ブチルフェノール)、2,6-ジ-tert-ブチル-4-エチルフェノールが最も好ましい。
【0051】
フェノール系酸化防止剤は1種単独で若しくは2種以上を適宜組み合わせて用いてもよく、その添加量は、通常、軸受用潤滑油基油に対して、0.01~5質量%であり、好ましくは0.1~2質量%である。
【0052】
アミン系酸化防止剤としては、この分野で使用されている公知のものが特に制限されることなく使用できる。これらアミン系酸化防止剤のうちでも、好ましくは総炭素数6~60、より好ましくは20~40のものが推奨される。
【0053】
具体的には、ジフェニルアミン、モノブチル(直鎖及び分岐鎖を含む)ジフェニルアミン、モノペンチル(直鎖及び分岐鎖を含む)ジフェニルアミン、モノヘキシル(直鎖及び分岐鎖を含む)ジフェニルアミン、モノヘプチル(直鎖及び分岐鎖を含む)ジフェニルアミン、モノオクチル(直鎖及び分岐鎖を含む)ジフェニルアミン等のモノアルキルジフェニルアミン、特にモノ(C4-C9アルキル)ジフェニルアミン(即ち、ジフェニルアミンの二つのベンゼン環の一方が、アルキル基、特にC4-C9アルキル基でモノ置換されているもの、即ち、モノアルキル置換されたジフェニルアミン)、p,p’-ジブチル(直鎖及び分岐鎖を含む)ジフェニルアミン、p,p’-ジペンチル(直鎖及び分岐鎖を含む)ジフェニルアミン、p,p’-ジヘキシル(直鎖及び分岐鎖を含む)ジフェニルアミン、p,p’-ジヘプチル(直鎖及び分岐鎖を含む)ジフェニルアミン、p,p’-ジオクチル(直鎖及び分岐鎖を含む)ジフェニルアミン、p,p’-ジノニル(直鎖及び分岐鎖を含む)ジフェニルアミン等のジ(アルキルフェニル)アミン、特にp,p’-ジ(C4-C9アルキルフェニル)アミン(即ち、ジフェニルアミンの二つのベンゼン環の各々が、アルキル基、特にC4-C9アルキル基でモノ置換されているジアルキル置換のジフェニルアミンであって、二つのアルキル基が同一であるもの)、ジ(モノC4-C9アルキルフェニル)アミンであって、一方のベンゼン環上のアルキル基が他方のベンゼン環上のアルキル基と異なるもの、ジ(ジ-C4-C9アルキルフェニル)アミンであって、二つのベンゼン環上の4つのアルキル基のうちの少なくとも1つが残りのアルキル基と異なるもの等のジフェニルアミン類;N-フェニル-1-ナフチルアミン、N-フェニル-2-ナフチルアミン、4-オクチルフェニル-1-ナフチルアミン、4-オクチルフェニル-2-ナフチルアミン等のナフチルアミン類;p-フェニレンジアミン、N-フェニル-N’-イソプロピル-p-フェニレンジアミン、N-フェニル-N’-(1,3-ジメチルブチル)-p-フェニレンジアミン等のフェニレンジアミン類等が例示される。この中でも、特に、p,p’-ジオクチル(直鎖及び分岐鎖を含む)ジフェニルアミン、p,p’-ジノニル(直鎖及び分岐鎖を含む)ジフェニルアミン、N-フェニル-1-ナフチルアミンが好ましい。なお、本明細書及び特許請求の範囲において「(直鎖及び分岐鎖を含む」とは、直鎖アルキル及び分岐鎖アルキルの一方又は双方を含むという意味である。
【0054】
アミン系酸化防止剤は1種で若しくは2種以上を適宜組み合わせて用い、その添加量は、通常、軸受用潤滑油基油に対して、0.01~5質量%であり、好ましくは0.1~2質量%である。
【0055】
フェノール系酸化防止剤とアミン系酸化防止剤を併用する場合、それらの添加量の合計は、通常、軸受用潤滑油基油に対して、0.01~5質量%であり、好ましくは0.1~2質量%である。また、当該フェノール系酸化防止剤とアミン系酸化防止剤の比率(質量比)としては、特に制限されず広い範囲から適宜選択できるが、好ましくはフェノール系酸化防止剤:アミン系酸化防止剤=1:0.05~20、より好ましくは1:0.2~5となる範囲が推奨される。
【0056】
好ましいフェノール系酸化防止剤とアミン系酸化防止剤の組み合わせとしては、2,6-ジ-tert-ブチル-p-クレゾール、4,4’-メチレンビス(2,6-ジ-tert-ブチルフェノール)及び2,6-ジ-tert-ブチル-4-エチルフェノールからなる群から選ばれる1種若しくは2種以上と、p,p’-ジオクチル(直鎖及び分岐鎖を含む)ジフェニルアミン、p,p’-ジノニル(直鎖及び分岐鎖を含む)ジフェニルアミン、及びN-フェニル-1-ナフチルアミンからなる群から選ばれる1種若しくは2種以上とからなる組み合わせが例示される。
【0057】
具体的には、以下の組み合わせが好ましい。2,6-ジ-tert-ブチル-p-クレゾールとp,p’-ジオクチル(直鎖及び分岐鎖を含む)ジフェニルアミンの組み合わせ、2,6-ジ-tert-ブチル-p-クレゾールとp,p’-ジノニル(直鎖及び分岐鎖を含む)ジフェニルアミンの組み合わせ、2,6-ジ-tert-ブチル-p-クレゾールとN-フェニル-1-ナフチルアミンの組み合わせ、4,4’-メチレンビス(2,6-ジ-tert-ブチルフェノール)とp,p’-ジオクチル(直鎖及び分岐鎖を含む)ジフェニルアミンの組み合わせ、4,4’-メチレンビス(2,6-ジ-tert-ブチルフェノール)とp,p’-ジノニル(直鎖及び分岐鎖を含む)ジフェニルアミンの組み合わせ、4,4’-メチレンビス(2,6-ジ-tert-ブチルフェノール)とN-フェニル-1-ナフチルアミンの組み合わせ、2,6-ジ-tert-ブチル-4-エチルフェノールとp,p’-ジオクチル(直鎖及び分岐鎖を含む)ジフェニルアミンの組み合わせ、2,6-ジ-tert-ブチル-4-エチルフェノールとp,p’-ジノニル(直鎖及び分岐鎖を含む)ジフェニルアミンの組み合わせ、2,6-ジ-tert-ブチル-4-エチルフェノールとN-フェニル-1-ナフチルアミンの組み合わせ等が例示される。この中でも耐熱性に優れる点で、より効果的な組み合わせとして、4,4’-メチレンビス(2,6-ジ-tert-ブチルフェノール)とp,p’-ジオクチル(直鎖及び分岐鎖を含む)ジフェニルアミンの組み合わせ、4,4’-メチレンビス(2,6-ジ-tert-ブチルフェノール)とp,p’-ジノニル(直鎖及び分岐鎖を含む)ジフェニルアミンの組み合わせ、4,4’-メチレンビス(2,6-ジ-tert-ブチルフェノール)とN-フェニル-1-ナフチルアミンの組み合わせ等が推奨される。
【0058】
上記記載の酸化防止剤を本発明の軸受用潤滑油基油に配合することにより、空気存在下での当該潤滑油基油の分解等が抑えられることにより、軸受用潤滑油組成物の耐熱性が向上する。
【0059】
上記の軸受用潤滑油組成物の性能をさらに向上させるために、金属清浄剤、無灰分散剤、油性剤、摩耗防止剤、極圧剤、金属不活性剤、防錆剤、粘度指数向上剤、流動点降下剤、加水分解抑制剤等の添加剤の少なくとも1種を適宜配合することも可能である。これらの配合量は、本発明の効果を奏する限り特に限定されるものではないが、その具体的な例を以下に示す。
【0060】
金属清浄剤としては、Ca-石油スルフォネート、過塩基性Ca-石油スルフォネート、Ca-アルキルベンゼンスルフォネート、過塩基性Ca-アルキルベンゼンスルフォネート、Ba-アルキルベンゼンスルフォネート、過塩基性Ba-アルキルベンゼンスルフォネート、Mg-アルキルベンゼンスルフォネート、過塩基性Mg-アルキルベンゼンスルフォネート、Na-アルキルベンゼンスルフォネート、過塩基性Na-アルキルベンゼンスルフォネート、Ca-アルキルナフタレンスルフォネート、過塩基性Ca-アルキルナフタレンスルフォネート等の金属スルフォネート、Ca-フェネート、過塩基性Ca-フェネート、Ba-フェネート、過塩基性Ba-フェネート等の金属フェネート、Ca-サリシレート、過塩基性Ca-サリシレート等の金属サリシレート、Ca-フォスフォネート、過塩基性Ca-フォスフォネート、Ba-フォスフォネート、過塩基性Ba-フォスフォネート等の金属フォスフォネート、過塩基性Ca-カルボキシレート等が使用可能である。これらの金属清浄剤は、使用する場合、軸受用潤滑油基油に対して、通常、1~10質量%程度、好ましくは2~7質量%程度添加するのがよい。
【0061】
無灰分散剤としては、ポリアルケニルコハク酸イミド、ポリアルケニルコハク酸アミド、ポリアルケニルベンジルアミン、ポリアルケニルコハク酸エステル等が例示される。これらの無灰分散剤は、単独で又は組み合わせて用いてもよく、これを使用する場合、通常、軸受用潤滑油基油に対して、1~10質量%、好ましくは2~7質量%添加することが望ましい。
【0062】
油性剤としては、ステアリン酸、オレイン酸などの脂肪族飽和及び不飽和モノカルボン酸、ダイマー酸、水添ダイマー酸などの重合脂肪酸、リシノレイン酸、12-ヒドロキシステアリン酸などのヒドロキシ脂肪酸、ラウリルアルコール、オレイルアルコールなどの脂肪族飽和及び不飽和モノアルコール、ステアリルアミン、オレイルアミンなどの脂肪族飽和及び不飽和モノアミン、ラウリン酸アミド、オレイン酸アミドなどの脂肪族飽和及び不飽和モノカルボン酸アミド、バチルアルコール、キミルアルコール、セラキルアルコールなどのグリセリンエーテル、ラウリルポリグリセリンエーテル、オレイルポリグリセリルエーテルなどのアルキル若しくはアルケニルポリグリセリルエーテル、ジ(2-エチルヘキシル)モノエタノールアミン、ジイソトリデシルモノエタノールアミンなどのアルキル若しくはアルケニルアミンのポリ(アルキレンオキサイド)付加物等が例示される。これらの油性剤は、単独で又は組み合わせて用いてもよく、これを使用する場合、通常、軸受用潤滑油基油に対して、0.01~5質量%、好ましくは0.1~3質量%添加することが望ましい。
【0063】
摩耗防止剤・極圧剤としては、トリクレジルホスフェート、クレジルジフェニルホスフェート、アルキルフェニルホスフェート類、トリブチルホスフェート、ジブチルホスフェート等のリン酸エステル類、トリブチルホスファイト、ジブチルホスファイト、トリイソプロピルホスファイト等の亜リン酸エステル類及びこれらのアミン塩等のリン系、硫化油脂、硫化オレイン酸などの硫化脂肪酸、ジベンジルジスルフィド、硫化オレフィン、ジアルキルジスルフィドなどの硫黄系、Zn-ジアルキルジチオフォスフェート、Zn-ジアルキルジチオフォスフェート、Mo-ジアルキルジチオフォスフェート、Mo-ジアルキルジチオカルバメートなどの有機金属系化合物等が例示される。これらの摩耗防止剤は、単独で又は組み合わせて用いてもよく、これを使用する場合、通常、軸受用潤滑油基油に対して、0.01~10質量%、好ましくは0.1~5質量%添加することが望ましい。
【0064】
金属不活性剤としては、ベンゾトリアゾール系、チアジアゾール系、没食子酸エステル系の化合物等が例示される。これらの金属不活性剤は、単独で又は組み合わせて用いてもよく、これを使用する場合、通常、軸受用潤滑油基油に対して、0.01~0.4質量%、好ましくは0.01~0.2質量%添加することが望ましい。
【0065】
防錆剤としては、ドデセニルコハク酸ハーフエステル、オクタデセニルコハク酸無水物、ドデセニルコハク酸アミドなどのアルキル又はアルケニルコハク酸誘導体、ソルビタンモノオレエート、グリセリンモノオレエート、ペンタエリスリトールモノオレエートなどの多価アルコール部分エステル、Ca-石油スルフォネート、Ca-アルキルベンゼンスルフォネート、Ba-アルキルベンゼンスルフォネート、Mg-アルキルベンゼンスルフォネート、Na-アルキルベンゼンスルフォネート、Zn-アルキルベンゼンスルフォネート、Ca-アルキルナフタレンスルフォネートなどの金属スルフォネート、ロジンアミン、N-オレイルザルコシンなどのアミン類、ジアルキルホスファイトアミン塩等が例示される。これらの防錆剤は、単独で又は組み合わせて用いてもよく、これを使用する場合、通常、軸受用潤滑油基油に対して、0.01~5質量%、好ましくは0.05~2質量%添加することが望ましい。
【0066】
粘度指数向上剤としては、ポリアルキルメタクリレート、ポリアルキルスチレン、ポリブテン、エチレン-プロピレン共重合体、スチレン-ジエン共重合体、スチレン-無水マレイン酸エステル共重合体などのオレフィン共重合体が例示される。これらの粘度指数向上剤は、単独で又は組み合わせて用いてもよく、これを使用する場合、通常、軸受用潤滑油基油に対して、0.1~15質量%、好ましくは0.5~7質量%添加することが望ましい。
【0067】
流動点降下剤としては、塩素化パラフィンとアルキルナフタレンの縮合物、塩素化パラフィンとフェノールの縮合物、既述の粘度指数向上剤であるポリアルキルメタクリレート、ポリアルキルスチレン、ポリブテン等が例示される。これらの流動点降下剤は、単独で又は組み合わせて用いてもよく、これを使用する場合、通常、軸受用潤滑油基油に対して、0.01~5質量%、好ましくは0.1~3質量%添加することが望ましい。
【0068】
加水分解抑制剤としては、アルキルグリシジルエーテル類、アルキルグリシジルエステル類、アルキレングリコールグリシジルエーテル類、脂環式エポキシ類、フェニルグリシジルエーテルなどのエポキシ化合物、ジ-tert-ブチルカルボジイミド、1,3-ジ-p-トリルカルボジイミドなどのカルボジイミド化合物が使用可能であり、通常、軸受用潤滑油基油に対して、0.05~2質量%添加するのが望ましい。
【実施例】
【0069】
以下に実施例を掲げて本発明を詳しく説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。また、各例における潤滑油基油及び潤滑油組成物の物理特性及び化学特性は以下の方法により評価した。特に言及していない化合物は試薬を使用した。
【0070】
<化合物>
原料
・2-ヘキシルデカン酸(東京化成工業株式会社製)
・n-テトラデカノール:「コノール 1495」(新日本理化株式会社製)
・n-ヘキサデカノール:「コノール 1695」(新日本理化株式会社製)
酸化防止剤
・アミン系酸化防止剤
p,p’-ジオクチル(直鎖及び分岐鎖を含む)ジフェニルアミン:「ビス(4-オクチルフェニル)アミン」(Ark Pharm社製)以下「DODPA」と略す。
・フェノール系酸化防止剤
4,4’-メチレンビス(2,6-ジ-tert-ブチルフェノール)(東京化成工業株式会社製)以下「MBDBP」と略す。
【0071】
(a)酸価
JIS K 2501(1992)に準拠して測定した。なお検出限界は0.01mgKOH/gである。
【0072】
(b)動粘度
JIS K 2283(2000)に準拠して、40℃、100℃における動粘度を測定した。
<40℃での動粘度の評価>
A:11mm2/s以上16.5mm2/s未満
B:8mm2/s以上11mm2/s未満 又は 16.5mm2/s以上20mm2/s未満
C:6mm2/s以上8mm2/s未満 又は 20mm2/s以上25mm2/s未満
D:6mm2/s未満 又は 25mm2/s以上
【0073】
(c)粘度指数
JIS K 2283(2000)に準拠して算出した。粘度指数140以上のときは粘度-温度特性が優れていると評価される。
<粘度指数の評価>
A:155以上
B:140以上155未満
C:120以上140未満
D:120未満
【0074】
(d)低温流動性試験(流動点)
JIS-K-2269(1987)に準拠して流動点を測定した。
<低温流動性の評価>
A:-10℃以下
B:-10℃を越え-5℃以下
C:-5℃を越え-2.5℃以下
D:-2.5℃を越える
【0075】
(e)耐蒸発性
軸受用潤滑油基油又は軸受用潤滑油組成物約10mgを精秤し(小数点以下第3位まで)、TG-DTA装置(エスアイアイ・ナノテクノロジー社製 装置名;EXSTAR 6000シリーズ、TG/DTA6200)にセットし、下記の測定条件下で、初期の重量から5%の重量が減少した時の温度(5%重量減の温度)を耐蒸発性の指標とした。
[測定条件]
昇温速度:10℃/分
流通窒素量:200ml/分
測定開始温度:50℃
<耐蒸発性の評価(5%重量減の温度)>
A:275℃以上
B:270℃以上275℃未満
C:265℃以上270℃未満
D:265℃未満
【0076】
(f)加水分解安定性試験
加水分解試験として、軸受用潤滑油基油又は軸受用潤滑油組成物2g及びイオン交換水0.2gを試験管に秤量し、凍結脱気しながら試験管を封管した。封管した試験管を160℃のファインオーブン内で24時間静置した後、試験管から試験液を取り出した。試験液を静置し、分層により油層を取り出し、油層の酸価を測定した。加水分解安定性の指標として、加水分解試験前後の酸価の上昇量を算出した。
<加水分解安定性の評価(酸価の上昇量)>
A:0.1mgKOH/g以下
B:0.1mgKOH/gを越え0.5mgKOH/g以下
C:0.5mgKOH/gを越え0.8mgKOH/g以下
D:0.8mgKOH/gを越える
【0077】
(g)軸受用潤滑油基油の評価
軸受用潤滑油基油及び軸受用潤滑油組成物の評価としては、40℃での動粘度の評価、粘度指数の評価、低温流動性の評価、耐蒸発性の評価及び加水分解安定性の評価の結果において、C又はDが1以上あれば不適と、Bが2以下(他の評価はA)であれば良好と、Bが1以下(他の評価はA)であれば特に良好と評価される。
【0078】
[製造例1]
撹拌器、温度計、冷却管付き水分分留受器を備えた300ミリリットルの四ツ口フラスコに2-ヘキシルデカン酸0.225モル、n-テトラデカノール0.220mol、キシレン(原料の総量に対し20質量%)及び触媒として酸化スズ触媒(原料の総量に対し0.1質量%)を仕込み、窒素置換した後、徐々に220℃まで昇温した。理論生成水量(3.96g)を目処にして留出してくる生成水を水分分留受器で除去しつつ、還流が起こるように減圧度を調整しながら、エステル化反応を行い、理論量の水が留出するまで反応を行った。反応終了後、キシレン及び残存する原料の直鎖状脂肪族飽和モノカルボン酸を蒸留により除去してエステル化粗物を得た。次いで、得られたエステル化粗物の酸価に対して2当量の苛性ソーダ水溶液で中和した後、水洗水が中性になるまで繰り返し水洗した。更に、得られたエステル化粗物を活性炭で吸着処理した後、濾過により活性炭を除去して、2-ヘキシルデカン酸(n-テトラデシル)を得た。酸価は、0.01mgKOH/g以下であった。以下得られた2-ヘキシルデカン酸(n-テトラデシル)を「C6C10酸/nC14ア」と略記する。
【0079】
[製造例2]
n-テトラデカノールの代わりにn-ヘキサデカノールを使用した以外は製造例1と同様の方法により、酸価が0.01mgKOH/g以下の2-ヘキシルデカン酸(n-ヘキサデシル)を得た。以下得られた2-ヘキシルデカン酸(n-ヘキサデシル)を「C6C10酸/nC16ア」と略記する。
【0080】
[製造例3]
n-テトラデカノール0.220molの代わりにn-テトラデカノール0.110mol及びn-ヘキサデカノール0.110molを使用した以外は製造例1と同様の方法により、酸価が0.01mgKOH/g以下の2-ヘキシルデカン酸(n-テトラデシル)と2-ヘキシルデカン酸(n-ヘキサデシル)のモル比で1:1の比率の混合エステルを得た。以下得られた混合エステルを「C6C10酸/nC14ア/nC16ア」と略記する。
【0081】
[実施例1~3]
上記製造例1~3で得られたエステル化合物を軸受用潤滑油基油として評価した。それら基油の動粘度及び粘度指数の測定、低温流動性試験(流動点)、耐蒸発性試験及び加水分解安定性試験を行い、それらの結果を表1に示した。
【0082】
【0083】
[比較例1~14]
比較例として、セバシン酸ジ(2-エチルヘキシル)(DOS)、アジピン酸ジイソデシル(DIDA)、n-デカン酸と2-デシルテトラデシルアルコールとのエステル化合物(エステルA)、n-デカン酸とトリメチロールプロパンとのエステル化合物(エステルB)、n-ドデカン酸とネオペンチルグリコールとのエステル化合物(エステルC)、2-ヘキシルデカン酸(n-ドデシル)(C6C10酸/nC12ア)、2-ヘキシルデカン酸(n-オクタデシル)(C6C10酸/nC18ア)、2-オクチルドデカン酸(n-デシル)(C8C12酸/nC10ア)、2-オクチルドデカン酸(n-ドデシル)(C8C12酸/nC12ア)、2-オクチルドデカン酸(n-テトラデシル)(C8C12酸/nC14ア)、2-ブチルオクタン酸(n-ヘキサデシル)(C4C8酸/nC16ア)、2-ブチルオクタン酸(n-オクタデシル)(C4C8酸/nC18ア)、2-デシルテトラデカン酸(n-ヘプチル)(C10C14酸/nC7ア)及び2-デシルテトラデカン酸(n-ノニル)(C10C14酸/nC9ア)を単独で軸受用潤滑油基油として評価した。それら基油の動粘度及び粘度指数の測定、低温流動性試験(流動点)、耐蒸発性試験及び加水分解安定性試験を行い、それらの結果を表2に示した。
【0084】
【0085】
[実施例4~6]
実施例2で使用した軸受用潤滑油基油100質量部に対して、酸化防止剤を1質量部添加して本発明の軸受用潤滑油組成物を調製した。調製したそれぞれの軸受用潤滑油組成物の動粘度及び粘度指数の測定、低温流動性試験(流動点)、耐蒸発性試験及び加水分解安定性試験を行い、それらの結果を表3に示した。
【0086】
【0087】
表1から、本発明の軸受用潤滑油基油は、粘度指数が高く、且つ、耐蒸発性、加水分解安定性及び低温流動性に優れた軸受用潤滑油基油であることがわかる。また、表3から、本発明の軸受用潤滑油組成物も、粘度指数が高く、且つ、耐蒸発性、加水分解安定性及び低温流動性に優れた軸受用潤滑油組成物であることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0088】
本発明の軸受用潤滑油基油は、粘度指数が高く、且つ、耐蒸発性、加水分解安定性及び低温流動性に優れていることから、軸受用潤滑油基油として好適に使用することができる。特に、流体軸受用潤滑油基油として好適に用いられる。