(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-04
(45)【発行日】2022-10-13
(54)【発明の名称】研削ホイールの製造方法
(51)【国際特許分類】
B24D 3/00 20060101AFI20221005BHJP
B24D 7/06 20060101ALI20221005BHJP
【FI】
B24D3/00 340
B24D7/06
(21)【出願番号】P 2018187351
(22)【出願日】2018-10-02
【審査請求日】2021-08-11
(73)【特許権者】
【識別番号】000134051
【氏名又は名称】株式会社ディスコ
(74)【代理人】
【識別番号】110001014
【氏名又は名称】弁理士法人東京アルパ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】寺本 政由志
(72)【発明者】
【氏名】不破 徳人
(72)【発明者】
【氏名】飼牛 秀和
(72)【発明者】
【氏名】広中 利成
【審査官】大光 太朗
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-091193(JP,A)
【文献】特開2007-216306(JP,A)
【文献】特開平08-090426(JP,A)
【文献】特開2015-199133(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B24D 3/00
B24D 7/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
環状のホイール基台と、該ホイール基台の底面から突出して配設される研削砥石とから構成される研削ホイールを製造する研削ホイールの製造方法であって、
該ホイール基台の底面に溝部を形成すること、および、該ホイール基台の底面と該溝部との境界の角部に該溝部に沿って凹部を形成することによって、該研削砥石が埋設される砥石埋設部を形成する砥石埋設部形成ステップと、
該砥石埋設部
の該溝部に接着剤を充填する接着剤充填ステップと、
該接着剤が充填された該砥石埋設部
の該溝部に、砥粒とボンド剤とを混練してなる研削砥石を、該研削砥石が該ホイール基台の底面から所定量突出するように埋設する研削砥石成形ステップと、を備え、
該接着剤が充填された該砥石埋設部
の該溝部に該研削砥石を埋設する際、
該溝部から押しのけられた該接着剤が該砥石埋設部に形成された該凹部に留まり、該接着剤が該砥石埋設部からはみ出ることを抑制する研削ホイールの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、研削ホイールの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体ウェーハ等の被加工物の研削に用いられる研削ホイールは、円環状に形成されたアルミニウム等からなるホイール基台を備えており、ホイール基台の底面には、溝形状の砥石埋設部が形成されている。砥石埋設部には、適宜の接着剤によって研削砥石が接着されて埋設されており、研削砥石の一部がホイール基台の底面から突出している(たとえば、特許文献1および2参照)。
【0003】
そして、研削ホイールは、研削装置のスピンドルに装着され、スピンドルの回転によって回転する。これにともない研削砥石が回転しながら被研削物に接触して押圧力が加えられることによって、当該被加工物の研削が行われる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2015-199133号公報
【文献】特開2007-301665号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ホイール基台の砥石埋設部に研削砥石を埋設する際、砥石埋設部に接着剤が充填される。この接着剤の量が少ないと、接着不良により、研削時の圧力によって研削砥石がホイール基台から脱落することがある。このため、砥石埋設部には、必要な量よりも多い量の接着剤が充填される。
【0006】
そのため、研削砥石を埋設する際、接着剤が、砥石埋設部からホイール基台の底面にはみ出ることとなり、はみ出た接着剤を除去する工程が実施される。また、接着剤を除去したとしても、研削砥石におけるホイール基台の底面から突出している部分の内部に、接着剤が染み込んでいる懸念がある。このため、被加工物の面異常などの加工不具合が発生する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明にかかる研削ホイールの製造方法は、環状のホイール基台と、該ホイール基台の
底面から突出して配設される研削砥石とから構成される研削ホイールを製造する研削ホイールの製造方法であって、該ホイール基台の底面に溝部を形成すること、および、該ホイール基台の底面と該溝部との境界の角部に該溝部に沿って凹部を形成することによって、該研削砥石が埋設される砥石埋設部を形成する砥石埋設部形成ステップと、該砥石埋設部の該溝部に接着剤を充填する接着剤充填ステップと、該接着剤が充填された該砥石埋設部の該溝部に、砥粒とボンド剤とを混練してなる研削砥石を、該研削砥石が該ホイール基台の底面から所定量突出するように埋設する研削砥石成形ステップと、を備え、該接着剤が充填された該砥石埋設部に該研削砥石を埋設する際、該溝部から押しのけられた該接着剤が該砥石埋設部に形成された該凹部に留まり、該接着剤が該砥石埋設部からはみ出ることを抑制する。
【発明の効果】
【0008】
本発明の研削ホイールの製造方法では、ホイール基台の底面と溝部の境界の角部に形成された凹部が、接着剤を留める領域となるので、接着剤が砥石埋設部からはみ出ることを抑制することが可能となる。
そのため、はみ出た接着剤を除去する工程を実施する必要がないので、研削ホイールの製造にかかる工程数を削減することが可能となる。さらに、研削砥石におけるホイール基台の底面から突出している部分の内部に、接着剤が染み込むことを抑制することができる。このため、被加工物の面異常などの加工不具合の発生を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図2】溝部が形成される前のホイール基台を示す斜視図である。
【
図3】溝部が形成されたホイール基台を示す斜視図である。
【
図5】溝部および凹部を有する砥石埋設部が形成されたホイール基台を示す斜視図である。
【
図7】砥石埋設部に接着剤が充填されているホイール基台を示す断面図である。
【
図8】砥石埋設部に研削砥石が埋設されているホイール基台を示す断面図である。
【
図9】砥石埋設部の凹部の変形例を示すホイール基台の断面図である。
【
図10】砥石埋設部の凹部の他の変形例を示すホイール基台の断面図である。
【
図11】砥石埋設部の凹部の他の変形例を示すホイール基台の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本実施形態にかかる研削ホイールの製造方法(本製造方法)は、
図1に示すような研削ホイール1を製造する方法である。
【0011】
図1に示す研削ホイール1は、SUSあるいはアルミニウム等の金属からなる円環状のホイール基台10を備えている。ホイール基台10は、平坦な装着面100を有している。なお、
図1では、研削ホイール1を、研削に使用される際の姿勢とは逆向きに示している。研削に使用される際には、研削ホイール1は、ホイール基台10の装着面100が上側となる。研削ホイール1は、装着面100を介して、研削装置のスピンドルの先端側に、マウントを介して装着される(全て図示せず)。
【0012】
ホイール基台10における装着面100と反対側の面は、研削砥石11が固定される底面101である。装着面100と底面101とは、互いに略平行となるように形成されている。
図1に示すように、ホイール基台10の中央には、ホイール基台10を装着面100から底面101まで貫通する、円形状の開口110が形成されている。
【0013】
ホイール基台10の底面101には、所定幅の隙間104を空けて、周方向に沿うように、複数の研削砥石11が、適宜の接着剤によって固着されている。各研削砥石11は、たとえば、砥粒と適宜のボンド剤とを混練することによって、略直方体状を有するように形成されている。研削砥石11は、底面101から所定量突出するように、底面101に配設されている。すなわち、研削ホイール1では、研削砥石11の先端部における所定長さの部分が、ホイール基台10の底面101から突出している。
【0014】
なお、ボンド剤としては、たとえば、金属、セラミックスおよび樹脂が挙げられる。また砥粒の材料としては、たとえば、ダイヤモンドおよびCBN(Cubic Boron Nitride)が挙げられる。
このように、研削ホイール1は、環状のホイール基台10と、ホイール基台10の底面101から突出して配設される研削砥石11とを含んでいる。
【0015】
ホイール基台10の内側面は、たとえば、所定の角度で傾斜する傾斜面102となっている。この傾斜面102に、複数の研削水供給口103が、周方向に沿って間隔を空けて形成されている。これらの研削水供給口103は、純水等の研削水を噴出させるために用いられる。
【0016】
次に、このような研削ホイール1を製造するための本製造方法のステップについて説明する。
(1)砥石埋設部形成ステップ
まず、円環状の金属を加工することによって、
図2に示すように、装着面100、底面101、傾斜面102、研削水供給口103および開口110を有するホイール基台10を形成する。
【0017】
次に、
図3および
図4に示すように、ホイール基台10の底面101に、溝部21を形成する。溝部21は、底面101の略中央に、底面101に沿う円環状に形成されている。溝部21の深さは、たとえば、研削砥石11の長さ、および、研削砥石11におけるホイール基台10の底面101から突出する部分の長さに応じて設定される。
【0018】
溝部21は、たとえば、旋削加工によって形成される。旋削加工では、ホイール基台10を旋盤に取り付け、ホイール基台10を回転させながら、その底面101に鋭い切削バイト(たとえば溝切りバイト)を押し付ける。これによって、底面101を切削して溝部21を形成することができる。切削加工によって溝部21を形成することにより、溝部21の精密な寸法形状を得ることが可能である。
【0019】
次に、
図5および
図6に示すように、ホイール基台10の底面101と溝部21との境界の角部に、溝部21に沿って、円環状の凹部23を形成する。
凹部23は、溝部21の上部に形成された、凹み形状を有する部分である。凹部23の下端は溝部21の上端に接続されており、凹部23の上端は底面101に接続されている。凹部23の幅(径方向の長さ)は、下端では溝部21の幅と略同一であり、上方に向かうに連れて広がっている。したがって、凹部23は、台形状の断面を有している。
【0020】
このような凹部23は、たとえば、底面101と溝部21との境界の角部を旋削加工によって切削することにより、溝部21の上部に形成される。
【0021】
溝部21の上部に凹部23を形成することにより、ホイール基台10の底面101に、溝部21および凹部23を含む砥石埋設部25が形成される。砥石埋設部25には、
図1に示した研削砥石11が、その一部が底面101から突出するように、埋設される。
【0022】
(2)接着剤充填ステップ
このステップでは、
図7に示すように、ホイール基台10の底面101に形成された砥石埋設部25に、接着剤Jを充填する。砥石埋設部25に充填される接着剤Jの量は、たとえば、接着剤Jが溝部21を満たす程度、あるいは、溝部21から凹部23に僅かにあふれる程度である。
【0023】
(3)研削砥石成形ステップ
このステップでは、
図8に示すように、接着剤Jが充填された砥石埋設部25に、複数の研削砥石11を、所定幅の隙間104(
図1参照)を空けて、各研削砥石11の一部がホイール基台10の底面101から突出するように、埋設する。
この際、溝部21内の接着剤Jが、研削砥石11に押しのけられるので、接着剤Jの液面が上昇する。本実施形態では、研削砥石11に押しのけられた接着剤Jは、砥石埋設部25の凹部23に溜まる。
その後、接着剤Jを硬化させることで、研削ホイール1が完成する。
【0024】
以上のように、本製造方法では、ホイール基台10の底面101と溝部21との境界の角部に、凹部23を形成することにより、溝部21および凹部23を含む砥石埋設部25を形成する。そして、接着剤Jが充填された砥石埋設部25に研削砥石11を埋設する際、接着剤Jが凹部23に留まる。このため、接着剤Jが砥石埋設部25から底面101上にはみ出ることを抑制することができる。
【0025】
したがって、本製造方法では、はみ出た接着剤Jを除去する工程を実施する必要がないので、研削ホイール1の製造にかかる工程数を削減することが可能となる。さらに、研削砥石11におけるホイール基台10の底面101から突出している部分の内部に、接着剤Jが染み込むことを抑制することができる。このため、被加工物の面異常などの加工不具合の発生を抑制することができる。
【0026】
なお、溝部21の幅は、研削砥石11の厚さ(径方向の長さ)に比して広すぎないことが好ましい。たとえば、研削砥石11の厚さおよび接着剤Jの接着力を考慮して、溝部21の幅をできるだけ狭くしてもよい。これにより、研削砥石11の位置ずれが発生しにくくなる。
【0027】
また、本実施形態では、研削砥石11が、略直方体形状のいわゆるセグメントタイプの砥石であり、複数の研削砥石11が、底面101の砥石埋設部25に、その周方向に沿うように埋設されている。しかしながら、これに限らず、研削ホイール1に用いられる研削砥石は、リング状の砥石埋設部25に埋設される一体型のリング状の砥石であってもよい。
【0028】
また、本実施形態の砥石埋設部25では、溝部21の上部に形成される凹部23が、台形状の断面を有している。しかし、砥石埋設部25に形成される凹部の形状は、これに限られず、研削砥石11に押しのけられた接着剤Jを溜められる形状であればよい。たとえば、
図9に示すように、砥石埋設部25は、略長方形状の断面を有する凹部23aを有してもよい。この構成では、凹部23aは、溝部21よりも広い略均一の幅を有する。
【0029】
あるいは、砥石埋設部25は、
図10に示すような凹部23bを備えてもよい。凹部23bの断面は、底面101に近い側では、溝部21の断面の幅よりも広い幅を有する長方形状であり、溝部21に近い側では、溝部21に向かって幅の狭くなる台形状である。すなわち、凹部23bの側壁は、溝部21の側壁と略平行な幅広の底面101側の部分と、この部分と溝部21の側壁とをつなぐテーパ部分とを含んでいる。
【0030】
あるいは、砥石埋設部25は、
図11に示すような凹部23cを備えてもよい。凹部23cの断面は、底面101に近い側では、溝部21の断面の幅よりも広い幅を有する長方形状であり、溝部21に近い側では、溝部21に向かって幅の狭くなる湾曲した台形状である。すなわち、凹部23cの側壁は、溝部21の側壁と略平行な幅広の底面101側の部分と、この部分と溝部21の側壁とをつなぐ湾曲部分とを含んでいる。
【符号の説明】
【0031】
1:研削ホイール、
10:ホイール基台、11:研削砥石、110:開口、
100:装着面、101:底面、102:傾斜面、103:研削水供給口、
21:溝部、23:凹部、25:砥石埋設部、
J:接着剤