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  • 特許-水素トーチ 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-05
(45)【発行日】2022-10-14
(54)【発明の名称】水素トーチ
(51)【国際特許分類】
   F17C 11/00 20060101AFI20221006BHJP
   F23K 5/00 20060101ALI20221006BHJP
   F21L 17/00 20060101ALI20221006BHJP
【FI】
F17C11/00 C
F23K5/00 301Z
F21L17/00
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2019097467
(22)【出願日】2019-05-24
(65)【公開番号】P2020190329
(43)【公開日】2020-11-26
【審査請求日】2022-04-04
(73)【特許権者】
【識別番号】000158312
【氏名又は名称】岩谷産業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100121603
【弁理士】
【氏名又は名称】永田 元昭
(74)【代理人】
【識別番号】100141656
【弁理士】
【氏名又は名称】大田 英司
(74)【代理人】
【識別番号】100067747
【弁理士】
【氏名又は名称】永田 良昭
(72)【発明者】
【氏名】松本 和人
(72)【発明者】
【氏名】加藤 勇人
(72)【発明者】
【氏名】小池 国彦
【審査官】蓮井 雅之
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-016541(JP,A)
【文献】特開2017-017029(JP,A)
【文献】特開2018-014202(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2013/0288186(US,A1)
【文献】特開2015-121346(JP,A)
【文献】特開2000-106003(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F17C 11/00
F23K 5/00
F21L 17/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水素吸蔵合金を収容する水素タンクと、前記水素タンクから供給される水素を燃焼させるバーナを備えた水素トーチであって、
前記水素タンクの内部に、加熱媒体を流す流路を有した熱交換器が備えられるとともに、
前記熱交換器に、前記熱交換器に対して前記加熱媒体を循環させる循環路が接続され、
前記循環路の一部に、前記バーナの熱を回収する熱回収部が形成された
水素トーチ。
【請求項2】
前記熱交換器が、前記流路をらせん状に曲げるらせん状部を有する
請求項1に記載の水素トーチ。
【請求項3】
前記熱交換器が、外周面にフィンを有する
請求項1または請求項2に記載の水素トーチ。
【請求項4】
前記熱交換器が、前記水素タンクの下端部に相当する位置に、前記循環路からの入口と前記循環路への出口を有し、
前記熱交換器が、前記水素タンクの下端部から上へ直線状に延びる直線状部と、前記直線状部の上端から折り返して前記直線状部の周りで下へ向けてらせん状に曲がって前記水素タンクの下端部に延びるらせん状部を有する
請求項1に記載の水素トーチ。
【請求項5】
前記熱交換器が、前記水素タンクの下端部に相当する位置に、前記循環路からの入口と前記循環路への出口を有し、
前記熱交換器が、前記入口から延びる内管と、前記出口に延びる外管を備え、径方向の内外に二重の前記流路を有する二重管構造であるとともに、
前記外管の外周面にフィンが形成された
請求項1に記載の水素トーチ。
【請求項6】
前記熱回収部が金属管で構成されるとともに、前記バーナを取り巻くコイル状に形成された
請求項1から請求項5のうちいずれか一項に記載の水素トーチ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、水素ガスを燃焼する水素トーチに関し、より詳しくは水素吸蔵合金に貯蔵した水素を用いる水素トーチに関する。
【背景技術】
【0002】
水素吸蔵合金の水素放出時には吸熱反応が生じる。吸熱反応によって水素吸蔵合金の温度が低下すると、水素放出のための反応が停滞してしまい、連続して水素を取り出そうとしても、水素を放出させることができない。このため、必要な流量の水素を連続して放出させるためには、水素吸蔵合金に対して外部から熱を供給する必要がある。
【0003】
下記の特許文献1の図15には、水素吸蔵合金を収容する水素タンクをヒートパネルによって加熱することが開示されている。つまり、火炎の近傍に設けられた伝熱部材と、伝熱部材の端部に連結されて水素タンクの周囲に設けられるカバー部材を備えている。火炎の熱は伝熱部材からカバー部材に伝わり、カバー部材はその熱を水素タンクに伝えて、水素タンクを加熱する。
【0004】
しかし、熱は伝熱部材からカバー部材を経て水素タンクに伝わり、水素タンクから水素タンク内の水素吸蔵合金に伝わる。このため、熱伝達のロスが生じる。また、水素吸蔵合金は前述のような迂遠な熱伝達によって加熱されるので、加熱の開始には時間がかかる。このため、早期に目的の水素流量を得るのが難しく、十分な熱伝達がなされる前に放出反応が停滞して、水素流量が著しく低下してしまうおそれがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許第6105131号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで、この発明は、水素タンク内の水素吸蔵合金への熱伝達のロスを低減し、速やかな加熱を可能にすることを主たる課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
そのための手段は、水素吸蔵合金を収容する水素タンクと、前記水素タンクから供給される水素を燃焼させるバーナを備えた水素トーチであって、前記水素タンクの内部に、加熱媒体を流す流路を有した熱交換器が備えられるとともに、前記熱交換器に、前記熱交換器に対して前記加熱媒体を循環させる循環路が接続され、前記循環路の一部に、前記バーナの熱を回収する熱回収部が形成された水素トーチである。
【0008】
この構成では、熱交換器の流路に流れる加熱媒体が、循環路の熱回収部においてバーナから回収した熱を水素タンク内の水素吸蔵合金に対して直接的に伝達して、水素吸蔵合金を加熱する。
【発明の効果】
【0009】
この発明によれば、水素タンクの中に備えられて水素吸蔵合金に接している熱交換器で水素吸蔵合金を直接的に加熱するので、熱伝達のロスを極力低減できる。また、加熱開始までの時間を短縮できる。このため水素吸蔵合金の加熱は、水素ガスの着火後に速やかに効率よく行われ、この結果、目的の水素流量を得られる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】水素トーチの燃焼状態の概略構成図。
図2】水素トーチの内部構造を示す断面図。
図3】他の例に係る水素トーチの内部構造を示す断面図。
図4】他の例に係る熱交換器の断面図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
この発明を実施するための一形態を、以下図面を用いて説明する。
【0012】
図1に水素トーチ11の燃焼状態の概略を示す。この発明の水素トーチ11は、燃焼させる水素ガスを水素吸蔵合金12(図2参照)から取り出す構成であり、水素吸蔵合金12を収容する水素タンク13と、水素タンク13から供給される水素(水素ガス)を燃焼させるバーナ14を備えている。バーナ14は水素トーチ11の上方部に設けられており、水素トーチ11は火炎Fを上方へあげる構造である。
【0013】
水素を放出させるために、この水素トーチ11は、水素タンク13内の水素吸蔵合金12に対して直接的に熱を供給する構成を採用している。また、熱は火炎Fを出すバーナ14から取る構造である。
【0014】
具体的に説明すると、水素トーチ11は本体ケース15の内部に、図2に示したように前述の水素タンク13とバーナ14のほかに、調圧弁16と、循環路17と、ポンプ18と、バッテリ19を備えている。
【0015】
本体ケース15は、筒状をなす適宜の形状であり、火炎Fを出す開口部15aを上端に有している。開口部15aには、開口部15aを通気可能に塞ぐカバー部材21と、カバー部材21の下方で火炎Fに着色を行う着色部材22が備えられている。カバー部材21は、開口部15aを通気可能な形状であり、多数の貫通穴21aを有している。着色部材22は金属線からなる網体22aと、網体22aの金属線の表面に付着されて炎色反応を呈する適宜の着色物質22bで構成されている。
【0016】
着色部材22の下方には前述したバーナ14が備えられ、バーナ14の下方には、調圧弁16を介して前述した水素タンク13が備えられる。
【0017】
調圧弁16は、開弁時に水素タンク13から放出される水素ガスの圧力を所定値に安定させるものであり、減圧弁機能を有するとともに、水素ガスの圧力が一定以上に上がった場合にガスを放出する安全弁機能、ガスを止める遮断弁と流量を調節するオリフィスを備えている。
【0018】
水素タンク13はアルミ等の金属材料で円筒状に形成され、水素ガス放出口13aを上端に有している。水素ガス放出口13aは調圧弁16を経てバーナ14に接続される。
【0019】
水素タンク13の内部には、熱交換器31と、水素を貯蔵させる前述の水素吸蔵合金12が備えられる。熱交換器31は、加熱媒体を流す流路を有しており、例えば銅管で構成される。熱交換器31には、熱交換器31に対して加熱媒体を循環させる循環路17が接続され、その接続部分は水素タンク13の下端部に相当する位置に設けられる。つまり、熱交換器31は水素タンク13の内部における下方寄りに固定され、水素タンク13の下端部において循環路17と接続される。
【0020】
図2に示した熱交換器31は、1本の銅管で構成されており、熱交換器31の端部が、循環路17との接続部分である入口32と出口33である。つまり、熱交換器31の一端が循環路17からの入口32であり、他端が循環路17への出口33である。
【0021】
熱交換器31は、入口32から上へ直線状に延びる直線状部35と、直線状部35の上端から折り返して直線状部35の周りで下へらせん状に曲がって出口33に延びるらせん状部36を有している。直線状部35は流路を真っすぐにしており、らせん状部36は流路をらせん状に曲げて道程を長くする。直線状部35は、水素タンク13の中心に位置しており、直線状部35の長さは、水素タンク13内に収まる適宜長さに設定される。らせん状部36は、直線状部35を中心にして、直線状部35との間に適宜の間隔あけて形成されている。らせん状部36と直線状部35の間隔と、らせん状部36のらせん間隔は、水素吸蔵合金12の膨張収縮を考慮して適宜設定される。なお、本実施例では直線状部35を入口側に、らせん状部36を出口側としているが、これに限らず入口側をらせん状部に、出口側を直線状部に入れ替えてもよい。
【0022】
水素吸蔵合金12は、熱交換器31を備えた水素タンク13内に所定量収容され、収容された状態において、水素吸蔵合金12は、熱交換器31を構成する銅管の周面に接触する。換言すれば、熱交換器31は水素吸蔵合金12に接した状態で水素タンク13内に備えられる。
【0023】
循環路17は、熱交換器31に対して加熱媒体を循環させる流路であり、管体で構成されている。循環路17の一部には、バーナ14の熱を回収する熱回収部17aが形成される。図2に示した循環路17は、全体が銅管などの金属管で構成され、熱回収部17aはバーナ14を取り巻くコイル状である。熱回収部17aのみを金属管で形成してもよい。本実施例では、熱回収部17aを火炎Fを取り巻くコイル状のものとして示したが、循環水の加熱・循環が適切にできれば熱回収部17aをバーナ14の上方に配置してもよい。
【0024】
循環路17と熱交換器31の内部には加熱媒体として水が充填されており、この加熱媒体は循環路17の一部に備えたポンプ18によって循環される。ポンプ18は本体ケース15内の下端部に備えられるとよく、具体的には、熱交換器31の出口33の下方に備えられるとよい。本体ケース15内の下端部には、ポンプ18を駆動するための乾電池などのバッテリ19が備えられる。
【0025】
以上のように構成された水素トーチ11では、調圧弁16に設けられた図示しないバルブを開弁して水素ガスがバーナ14に送られると、着火により火炎Fが発生する。一方で、着火に先立って、または着火後すぐにポンプ18を駆動すると、加熱媒体が一方向に循環する。この循環において、循環路17の熱回収部17aでは、火炎Fを発するバーナ14の熱で加熱媒体が加温され、加温された加熱媒体が熱交換器31に入る。つまり、水素タンク13内に入り、水素タンク13内の水素吸蔵合金12に対して直接的に熱を供給する。熱の供給を受けた水素吸蔵合金12は、水素ガスを連続して放出する。
【0026】
熱交換器31の出口33から出た加熱媒体は、ポンプ18を通って、再び熱回収部17aに至って加温される。このような循環で、水素吸蔵合金12は連続して加熱され水素放出が継続される。しかも、加熱媒体としての水は比熱容量が高く、温まると冷めにくいうえに、熱伝導率が大きいので水素吸蔵合金12の加熱は効率よく行える。そのうえ、加熱媒体が万一漏れた場合でも、水であるので安全である。
【0027】
このため、図1に仮想線で示したように着火直後は水素流量が少なくて小さな火炎Fでも、その火炎Fが生じる熱は熱回収部17aで回収されてすぐに水素吸蔵合金12の加熱に使用される。この結果、所望の水素流量が得られ、図1に実線で示したような大きな火炎Fを発生させることができる。
【0028】
水素吸蔵合金12の加熱は、加熱媒体を用いて直接的に行うので、熱伝達のロスを低減できる。また、着火から加熱開始までの時間が短い。このため、水素吸蔵合金12は着火後すみやかに効率よく加熱され、必要な水素流量を連続して得ることができる。
【0029】
また、水素吸蔵合金12に接する熱交換器31は、1本の銅管で構成され、らせん状部36を有する構成である。特に、熱交換器31は、直線状部35とらせん状部36を備えて、入り口側に設けた直線状部35の周りに隙間をあけて、出口側に設けたらせん状部36を備えた構造であるので、熱交換がなされる範囲を広く得ることができる。
【0030】
しかも、水素タンク13内に熱交換器31を備えても、直線状部35とらせん状部36を有する熱交換器31は、水素吸蔵合金12の流動性を維持する。このため、水素吸蔵合金12の交換などの作業は容易である。
【0031】
また、水素吸蔵合金12を加熱するための熱源はバーナ14であるので、別途に熱源を設ける必要はなく、構成を簡素にできる。
【0032】
以下、他の例について説明する。この説明において、前述の構成と同一の部分には同一の符号を付してその詳しい説明を省略する。
【0033】
図3に示した水素トーチ11は、熱交換器31が、外周面にフィン37を有するものである。すなわち熱交換器31は、入口32から延びる内管38と、出口33に延びる外管39を備え、径方向の内外に二重の流路を有する二重管構造であり、水素吸蔵合金12に接する外管39の外周面にフィン37が形成されている。フィン37は外管39の略全体にらせん状に設けられている。
【0034】
熱交換器31以外の構成は、前述の水素トーチ11と同じである。
【0035】
このような構成の水素トーチ11においても、前述と同様の作用効果を有する。
【0036】
図4は、水素タンク13内に備えられる他の例に係る熱交換器31のフィン37を示している。このフィン37は、図3の熱交換器31と同様に二重管構造をなす外管39の外周面に設けられており、フィン37の形状は外管39の長手方向に沿って延びる板状である。複数のフィン37は、外管39の外周面に放射状に配設されている。
【0037】
この構成の熱交換器31を備えた水素タンク13では、前述と同様の作用効果を有する。特に、フィン37は水素タンク13を横断する方向に延びておらずに縦に延びているので、水素吸蔵合金12の流動性をより良好にすることができる。
【符号の説明】
【0038】
11…水素トーチ
12…水素吸蔵合金
13…水素タンク
14…バーナ
17…循環路
17a…熱回収部
31…熱交換器
32…入口
33…出口
35…直線状部
36…らせん状部
37…フィン
38…内管
39…外管
図1
図2
図3
図4