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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-07
(45)【発行日】2022-10-18
(54)【発明の名称】運転制御方法及び運転制御装置
(51)【国際特許分類】
   B60W 30/09 20120101AFI20221011BHJP
   G08G 1/16 20060101ALI20221011BHJP
   B60W 40/04 20060101ALI20221011BHJP
   B60W 30/095 20120101ALI20221011BHJP
【FI】
B60W30/09
G08G1/16 C
B60W40/04
B60W30/095
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2018180779
(22)【出願日】2018-09-26
(65)【公開番号】P2020050105
(43)【公開日】2020-04-02
【審査請求日】2021-03-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000003997
【氏名又は名称】日産自動車株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】507308902
【氏名又は名称】ルノー エス.ア.エス.
【氏名又は名称原語表記】RENAULT S.A.S.
【住所又は居所原語表記】122-122 bis, avenue du General Leclerc, 92100 Boulogne-Billancourt, France
(74)【代理人】
【識別番号】110000486
【氏名又は名称】とこしえ特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】根本 英明
(72)【発明者】
【氏名】山村 智弘
(72)【発明者】
【氏名】横澤 晃平
【審査官】竹村 秀康
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/024318(WO,A1)
【文献】特開2015-232866(JP,A)
【文献】特開2000-062554(JP,A)
【文献】特開2014-054960(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60W 30/09
G08G 1/16
B60W 40/04
B60W 30/095
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の走行経路に沿って自車両を走行させる運転制御装置のプロセッサに実行させる運転制御方法であって、
前記自車両の周囲の状況を検知するセンサの検出情報を取得し、
前記検出情報に基づいて算出された第1走行経路において、前記自車両の右側領域に第1対象物が存在し、前記自車両の左側領域に第2対象物が存在する場面を対象場面として検出し、
前記対象場面における前記自車両に対する前記第1対象物のリスクポテンシャルと前記第2対象物のリスクポテンシャルを前記検出情報に基づいて算出し、
前記第1対象物のリスクポテンシャルと前記第2対象物のリスクポテンシャルを比較し、
前記自車両に対する前記リスクポテンシャルが相対的に高く、移動物体である前記第1対象物又は前記第2対象物の何れか一方を基準対象物として選択し、
前記リスクポテンシャルが相対的に低く、静止物体である前記第1対象物又は前記第2対象物の何れか一方を回避対象物として選択し、
前記対象場面における前記第1走行経路を前記基準対象物が存在する右側又は左側の方向にオフセットさせた第2走行経路を算出し、
前記第2走行経路を前記自車両に走行させる運転制御方法。
【請求項2】
前記リスクポテンシャルは、前記走行経路の路幅方向に沿う横変位リスクポテンシャルを含む請求項1に記載の運転制御方法。
【請求項3】
前記リスクポテンシャルは、前記走行経路の進行方向に沿う縦変位リスクポテンシャルを含む請求項1又は2に記載の運転制御方法。
【請求項4】
前記プロセッサは、
前記リスクポテンシャルが相対的に低い前記第1対象物又は前記第2対象物の何れか一方を回避対象物として選択し、
前記回避対象物と前記自車両との間に前記走行経路の路幅方向に沿う所定距離を有するバッファ領域が形成されるように、前記第2走行経路を算出する請求項1~3の何れか一項に記載の運転制御方法。
【請求項5】
前記プロセッサは、
前記自車両に対する前記回避対象物の前記リスクポテンシャルが所定値未満となるように、前記オフセットの量を設定する請求項4に記載の運転制御方法。
【請求項6】
前記プロセッサは、
前記第2走行経路が非直線部分を含む場合には、前記オフセットの量を、前記自車両の操舵操作に対する応答特性を含む車両特性に基づいて予め設定されたマージン量を含んで設定する請求項1~5の何れか一項に記載の運転制御方法。
【請求項7】
前記プロセッサは、
前記検出情報に基づいて、前記第1対象物又は前記第2対象物の前記走行経路の路幅方向に沿う移動量が所定量以上である場面を、前記対象場面として検出する請求項1~6の何れか一項に記載の運転制御方法。
【請求項8】
前記プロセッサは、
前記検出情報に基づいて、前記走行経路の進行方向に沿う前記第1対象物又は前記第2対象物と前記自車両との距離が所定距離未満である場面を、前記対象場面として検出する請求項1~7の何れか一項に記載の運転制御方法。
【請求項9】
前記プロセッサは、
前記基準対象物の存在領域の前記走行経路に沿う長さが所定値以上である場合には、前記リスクポテンシャルが相対的に低い前記第1対象物又は前記第2対象物である前記回避対象物との距離に基づいて前記第2走行経路を算出する請求項1~8の何れか一項に記載の運転制御方法。
【請求項10】
前記プロセッサは、
前記検出情報に基づいて、前記第1対象物と前記第2対象物との間を前記自車両が通過する予測時刻を基準として前記対象場面を検出する請求項1~9の何れか一項に記載の運転制御方法。
【請求項11】
自車両の周囲の状況を検知するセンサと、所定の走行経路に沿って前記自車両を走行させる運転制御を前記自車両に実行させるプロセッサとを備える運転制御装置であって、
前記プロセッサは、
前記センサの検出情報を取得し、
前記検出情報に基づいて算出された第1走行経路において、前記自車両の右側領域に第1対象物が存在し、前記自車両の左側領域に第2対象物が存在する場面を対象場面として検出し、
前記対象場面における前記自車両に対する前記第1対象物のリスクポテンシャルと前記第2対象物のリスクポテンシャルを前記検出情報に基づいて算出し、
前記第1対象物のリスクポテンシャルと前記第2対象物のリスクポテンシャルを比較し、
前記自車両に対する前記リスクポテンシャルが相対的に高く、移動物体である記第1対象物又は前記第2対象物の何れか一方を基準対象物として選択し、
前記リスクポテンシャルが相対的に低く、静止物体である前記第1対象物又は前記第2対象物の何れか一方を回避対象物として選択し、
前記対象場面における前記第1走行経路を前記基準対象物が存在する右側又は左側の方向にオフセットさせた第2走行経路を算出し、
前記第2走行経路を前記自車両に走行させる運転制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、運転制御方法及び運転制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の装置に関し、自車両周囲の対象物のリスクポテンシャルに基づいて、リスクポテンシャルが低い地点を連結した走行経路を設定する技術が知られている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2017-182563号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来の技術によれば、リスクポテンシャルが低い対象物に近寄った走行経路が算出される。リスクポテンシャルが相対的に高い対象物が自車両に接近することが検知されると、リスクポテンシャルの低い対象物側に自車両は移動させられるため、移動により接近した対象物に対するリスクが急激に高くなる。その結果、走行経路が変更され、車両の円滑な走行が妨げられるという不都合がある。
【0005】
本発明が解決しようとする課題は、走行経路が変更されることを抑制し、自車両に円滑な走行を実行させる運転制御方法及び運転制御装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、検出情報に基づいて算出された第1走行経路において、自車両の右側領域に第1対象物が存在し、自車両の左側領域に第2対象物が存在する対象場面における第1対象物のリスクポテンシャルと第2対象物のリスクポテンシャルを検出情報に基づいて算出し、リスクポテンシャルが相対的に高い第1対象物又は第2対象物の何れか一方を基準対象物として選択し、対象場面における第1走行経路を基準対象物が存在する右側又は左側の方向にオフセットさせた第2走行経路を算出し、第2走行経路を自車両に走行させることにより、上記課題を解決する。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、対象場面において、リスクポテンシャルの高い対象物の動きに変化があった場合であっても、走行経路が変更されることを抑制し、自車両に円滑な走行を実行させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本実施形態に係る運転制御システムのブロック構成図である。
図2A】第1走行経路の算出手法を説明するための第1図である。
図2B】第1走行経路の算出手法を説明するための第2図である。
図3A】第2走行経路の算出手法を説明するための第1図である。
図3B】第2走行経路の算出手法を説明するための第2図である。
図3C】第2走行経路の算出手法を説明するための第3図である。
図4A】回避対象に対する自車両の走行位置を説明するための第1図である。
図4B】回避対象に対する自車両の走行位置を説明するための第2図である。
図5A】基準対象に対する自車両の走行位置を説明するための第1図である。
図5B】基準対象に対する自車両の走行位置を説明するための第2図である。
図6A】対象場面における自車両の走行位置を説明するための第1図である。
図6B】対象場面における自車両の走行位置を説明するための第2図である。
図6C】対象場面における自車両の走行位置を説明するための第3図である。
図7】本実施形態の運転制御システムの制御手順を示すフローチャート図である。
図8図7に示す制御手順のステップS7のサブルーチンを示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。本実施形態では、本発明に係る運転制御方法及び運転制御装置を、車両に搭載された車載装置200と協動する運転制御システムに適用した場合を例にして説明する。
【0010】
図1は、運転制御システム1のブロック構成を示す図である。本実施形態の運転制御システム1は、運転制御装置100と車載装置200を備える。本発明の運転制御装置100の実施の形態は限定されず、車両に搭載してもよいし、車載装置200と情報の授受が可能な可搬の端末装置に適用してもよい。端末装置は、スマートフォン、PDAなどの機器を含む。運転制御システム1、運転制御装置100、車載装置200、及びこれらが備える各装置は、CPUなどの演算処理装置を備え、演算処理を実行するコンピュータである。
【0011】
まず、車載装置200について説明する。
本実施形態の車載装置200は、車両コントローラ210、ナビゲーション装置220、検出装置230、レーンキープ装置240、及び出力装置250を備える。車載装置200を構成する各装置は、相互に情報の授受を行うためにCAN(Controller Area Network)その他の車載LANによって接続されている。車載装置200は、車載LANを介して運転制御装置100と情報の授受を行うことができる。
【0012】
本実施形態の車両コントローラ210は、プロセッサ11が立案する運転計画に従って車両の運転を制御する。車両コントローラ210は、センサ260、駆動装置270、及び操舵装置280を動作させる。車両コントローラ210は、センサ260から車両情報を取得する。センサ260は、舵角センサ261、車速センサ262、姿勢センサ263を有する。舵角センサ261は、操舵量、操舵速度、操舵加速度などの情報を検出し、車両コントローラ210へ出力する。車速センサ262は、車両の速度及び/又は加速度を検出し、車両コントローラ210へ出力する。センサ260は、車両の移動距離を検知するオドメータなどの距離センサを備えてもよい。姿勢センサ263は、車両の位置、車両のピッチ角、車両のヨー角車両のロール角を検出し、車両コントローラ210へ出力する。姿勢センサ263は、ジャイロセンサを含む。
【0013】
本実施形態の車両コントローラ210は、エンジンコントロールユニット(Electric Control Unit, ECU)などの車載コンピュータであり、車両の運転/動作を電子的に制御する。車両としては、電動モータを走行駆動源として備える電気自動車、内燃機関を走行駆動源として備えるエンジン自動車、電動モータ及び内燃機関の両方を走行駆動源として備えるハイブリッド自動車を例示できる。なお、電動モータを走行駆動源とする電気自動車やハイブリッド自動車には、二次電池を電動モータの電源とするタイプや燃料電池を電動モータの電源とするタイプのものも含まれる。
【0014】
本実施形態の駆動装置270は、車両の駆動機構を備える。駆動機構には、上述した走行駆動源である電動モータ及び/又は内燃機関、これら走行駆動源からの出力を駆動輪に伝達するドライブシャフトや自動変速機を含む動力伝達装置、及び車輪を制動する制動装置271などが含まれる。駆動装置270は、アクセル操作及びブレーキ操作による入力信号、車両コントローラ210又は運転制御装置100から取得した制御信号に基づいてこれら駆動機構の各制御信号を生成し、車両の加減速を含む運転制御を実行する。駆動装置270に制御情報を送出することにより、車両の加減速を含む運転制御を自動的に行うことができる。なお、ハイブリッド自動車の場合には、車両の走行状態に応じた電動モータと内燃機関とのそれぞれに出力するトルク配分も駆動装置270に送出される。
【0015】
本実施形態の操舵装置280は、ステアリングアクチュエータを備える。ステアリングアクチュエータは、ステアリングのコラムシャフトに取り付けられるモータ等を含む。操舵装置280は、車両コントローラ210から取得した制御信号、又はステアリング操作により入力信号に基づいて車両の進行方向の変更制御を実行する。車両コントローラ210は、操舵量を含む制御情報を操舵装置280に送出することにより、進行方向の変更制御(横位置の変更制御)を実行する。駆動装置270の制御、操舵装置280の制御は、完全に自動で行われてもよいし、ドライバの駆動操作(進行操作)を支援する態様で行われてもよい。駆動装置270の制御及び操舵装置280の制御は、ドライバの介入操作により中断/中止させることができる。
【0016】
本実施形態の車載装置200は、ナビゲーション装置220を備える。ナビゲーション装置220は、車両の現在位置から目的地までの経路を出願時に知られた手法を用いて算出する。算出した経路は、車両の運転制御に用いるために、車両コントローラ210へ送出される。算出した経路は、経路案内情報として後述する出力装置250を介して出力される。ナビゲーション装置220は、位置検出装置221を備える。位置検出装置221は、グローバル・ポジショニング・システム(Global Positioning System, GPS)の受信機を備え、走行中の車両の走行位置(緯度・経度)を検出する。
【0017】
ナビゲーション装置220は、アクセス可能な地図情報222と、道路情報223と、交通規則情報224を備える。地図情報222、道路情報223、交通規則情報224は、ナビゲーション装置220が読み込むことができればよく、ナビゲーション装置220とは物理的に別体として構成してもよいし、通信装置30(又は車載装置200に設けられた通信装置)を介して読み込みが可能なサーバに格納してもよい。地図情報222は、いわゆる電子地図であり、緯度経度と地図情報が対応づけられた情報である。地図情報222は、各地点に対応づけられた道路情報223を有する。
【0018】
道路情報223は、ノードと、ノード間を接続するリンクにより定義される。道路情報223は、道路の位置/領域により道路を特定する情報と、道路ごとの道路種別、道路ごとの道路幅、道路の形状情報とを含む。道路情報223は、各道路リンクの識別情報ごとに、交差点の位置、交差点の進入方向、交差点の種別その他の交差点に関する情報を対応づけて記憶する。交差点は、合流点、分岐点を含む。また、道路情報223は、各道路リンクの識別情報ごとに、道路種別、道路幅、道路形状、直進の可否、進行の優先関係、追い越しの可否(隣接レーンへの進入の可否)その他の道路に関する情報を対応づけて記憶する。
【0019】
走行経路は、道路識別子、車線識別子、レーン識別子、リンク識別子により特定される。これらの車線識別子、レーン識別子、リンク識別子は、地図情報222、道路情報223において定義される。走行経路は、リンクの識別子を含むリンク情報を含む。リンク情報はリンク識別子に対応づけられた接続されるリンク情報(リンク識別子)を含む。これにより、リンクが接続される順番が特定される。走行する順序に従い特定されたリンクを繋げることにより、走行経路が形成される。
【0020】
ナビゲーション装置220は、位置検出装置221により検出された車両の現在位置に基づいて、車両が走行する第1走行経路を特定する。第1走行経路はユーザが指定した目的地に至る経路であってもよいし、車両/ユーザの走行履歴に基づいて推測された目的地に至る経路であってもよい。
【0021】
交通規則情報224は、経路上における一時停止、駐車/停車禁止、徐行、制限速度などの車両が走行時に遵守すべき交通上の規則である。各規則は、地点(緯度、経度)ごと、リンクごとに定義される。交通規則情報224には、道路側に設けられた装置から取得する交通信号の情報を含めてもよい。
【0022】
車載装置200は、検出装置230を備える。検出装置230は、経路を走行する車両の周囲の検出情報を取得する。車両の検出装置230は、車両の周囲に存在する障害物を含む対象物の存在及びその存在位置を検出する。特に限定されないが、検出装置230はカメラ231を含む。カメラ231は、例えばCCD等の撮像素子を備える撮像装置である。カメラ231は、赤外線カメラ、ステレオカメラでもよい。カメラ231は車両の所定の位置に設置され、車両の周囲の対象物を撮像する。車両の周囲は、車両の前方、後方、前方側方、後方側方を含む。対象物は、路面に表記された停止線、進入禁止領域などの二次元の標識を含む。対象物は三次元の物体を含む。対象物は、標識などの静止物を含む。対象物は、歩行者、二輪車、四輪車(他車両)などの移動体を含む。対象物は、ガードレール、中央分離帯、縁石などの道路構造物を含む。
【0023】
検出装置230は、画像データを解析し、その解析結果に基づいて対象物の種別を識別してもよい。検出装置230は、パターンマッチング技術などを用いて、画像データに含まれる対象物が、車両であるか、歩行者であるか、標識であるか否かを識別する。検出装置230は、取得した画像データを処理し、車両の周囲に存在する対象物の位置に基づいて、車両から対象物までの距離を取得する。検出装置230は、車両の周囲に存在する対象物の位置及び時間に基づいて、車両が対象物に到達する時間を取得する。
【0024】
なお、検出装置230は、レーダー装置232を用いてもよい。レーダー装置232としては、ミリ波レーダー、レーザーレーダー、超音波レーダー、レーザーレンジファインダーなどの出願時に知られた方式のものを用いることができる。検出装置230は、レーダー装置232の受信信号に基づいて対象物の存否、対象物の位置、対象物までの距離を検出する。検出装置230は、レーザーレーダーで取得した点群情報のクラスタリング結果に基づいて、対象物の存否、対象物の位置、対象物までの距離を検出する。
【0025】
検出装置230は、通信装置233を介して外部の装置から検出情報を取得してもよい。通信装置233が他車両と車両とが車車間通信をすることが可能であれば、検出装置230は、他車両の車速センサが検出した他車両の車速、加速度を、他車両が存在する旨を対象物情報として取得してもよい。もちろん、検出装置230は、高度道路交通システム(Intelligent Transport Systems:ITS)の外部装置から通信装置233を介して、他車両の位置、速度、加速度を含む対象物情報を取得することもできる。検出装置230は、車両近傍の情報は車載装置200により取得し、車両から所定距離以上の遠い領域の情報は路側に設けられた外部装置から通信装置233を介して取得してもよい。検出装置230は、検出結果をプロセッサ11へ逐次出力する。
【0026】
本実施形態の車載装置200は、レーンキープ装置240を備える。レーンキープ装置240は、カメラ241、道路情報242を備える。カメラ241は、検出装置のカメラ231を共用してもよい。道路情報242は、ナビゲーション装置の道路情報223を共用してもよい。レーンキープ装置240は、カメラ241の撮像画像から車両が走行する第1走行経路の車線(レーン)を検出する。レーンキープ装置240は、車線のレーンマーカの位置と車両の位置とが所定の関係を維持するように車両の動きを制御する車線逸脱防止機能(レーンキープサポート機能)を備える。運転制御装置100は車線の中央を車両が走行するように、車両の動きを制御する。なお、レーンマーカは、レーンを規定する機能を有するものであれば限定されず、路面に描かれた線図であってもよいし、レーンの間に存在する植栽であってもよいし、レーンの路肩側に存在するガードレール、縁石、歩道、二輪車専用道路などの道路構造物であってもよい。また、レーンマーカは、レーンの路肩側に存在する看板、標識、店舗、街路樹などの不動の物体であってもよい。
【0027】
後述するプロセッサ11は、検出装置230により検出された対象物を、事象及び/又は経路に対応づけて少なくとも一時的に記憶する。事象とは、予め定義された場面である。例えば、対象物を回避する、対象物を追い抜く、対象物とすれ違う、一時停止する、交差点を通過するなどの場面を事象として定義することができる。プロセッサ11は、センサ260の検知情報に基づいて、自車両が遭遇する事象を予測する。プロセッサ11は、事象の所定距離以内に存在し、事象において接近する可能性のある対象物を、その事象に対応づけて記憶する。プロセッサ11は、事象において遭遇する対象物を経路に対応づけて記憶する。プロセッサ11は、どの経路のどの位置に対象物が存在するかを把握する。これにより、事象において車両に接近する対象物を迅速に判断できる。プロセッサ11は、走行経路において、自車両の右側領域に第1対象物が存在し、自車両の左側領域に第2対象物が存在する場面を対象場面として特定する。
【0028】
車載装置200は、出力装置250を備える。出力装置250は、ディスプレイ251、スピーカ252を備える。出力装置250は、運転制御に関する各種の情報をユーザ又は周囲の車両の乗員に向けて出力する。出力装置250は、立案された運転行動計画、その運転行動計画に基づく運転制御に関する情報を出力する。出力装置250は、通信装置を介して、高度道路交通システムなどの外部装置に運転制御に関する各種の情報を出力してもよい。
【0029】
次に、運転制御装置100について説明する。
運転制御装置100は、制御装置10と、出力装置20と、通信装置30を備える。出力装置20は、先述した車載装置200の出力装置250と同様の機能を有する。ディスプレイ251、スピーカ252を、出力装置20の構成として用いてもよい。制御装置10と、出力装置20とは、有線又は無線の通信回線を介して互いに情報の授受が可能である。通信装置30は、車載装置200との情報授受、運転制御装置100内部の情報授受、外部装置と運転制御システム1との情報授受を行う。
【0030】
まず、制御装置10について説明する。
制御装置10は、プロセッサ11を備える。プロセッサ11は、車両の運転計画の立案を含む運転制御処理を行う演算装置である。具体的に、プロセッサ11は、運転計画の立案を含む運転制御処理を実行させるプログラムが格納されたROM(Read Only Memory)と、このROMに格納されたプログラムを実行することで、制御装置10として機能する動作回路としてのCPU(Central Processing Unit)と、アクセス可能な記憶装置として機能するRAM(Random Access Memory)と、を備えるコンピュータである。
【0031】
本実施形態に係るプロセッサ11は、以下の方法に係る処理を実行する。
(1)自車両の周囲の検出情報を取得する、
(2)第1走行経路における対象場面を検出する、
(3)第1対象物及び第2対象物のリスクポテンシャルを算出する、
(4)リスクポテンシャルが相対的に高い第1対象物を基準対象物として選択する、
(5)基準対象物が存在する右側又は左側の方向に、第1走行経路をオフセットさせた、第2走行経路を算出する、
(6)第2走行経路を移動させる運転計画に従う運転制御命令を車両に実行させる。
【0032】
プロセッサ11は、検出情報を取得する機能を実現する第1ブロックと、対象場面を構成する対象物のリスクポテンシャルをそれぞれ算出する機能を実現する第2ブロックと、第1走行経路を補正して第2走行経路を算出する経路補正機能を実現する第3ブロックとを有する。プロセッサ11は、上記各機能を実現するため、又は各処理を実行するためのソフトウェアと、上述したハードウェアとの協働により各機能を実行する。
【0033】
本実施形態に係るプロセッサ11が実行する検出情報の取得処理について説明する。
プロセッサ11は、先述した車載された検出装置230、センサ260、ナビゲーション装置220を含む車載装置200から検出情報を遂次取得する。検知情報は、走行制御の対象である自車両の周囲の状況を示す情報である。先述したとおり、プロセッサ11は、位置、経路(リンク)、又は事象と対応づけられた検出情報を取得する。プロセッサ11は、検出情報に基づいて、自車両の走行環境に関する走行環境情報を取得してもよい。検出情報は、事象に対応づけられた対象物の位置、対象物の種別(属性)、対象物の大きさ、対象物の速度、対象物の速度変化、対象物の縦変位量、対象物の縦変位速度、対象物の横変位量、対象物の横変位速度を含む。検出情報は、現在の自車両に対する対象物の状態を示す情報であってもよいし、自車両の前方の検出情報に基づいて予測された将来の自車両に対する対象物の状態を示す情報であってもよい。
【0034】
プロセッサ11が実行する対象場面の検出処理について説明する。
プロセッサ11は、基準となる第1走行経路を算出する。第1走行経路は、ナビゲーション装置220が算出した現在位置から目的地に至る経路であってもよい。第1走行経路は、検出された障害物を回避する経路であってもよい。本実施形態の第1走行経路は、検出情報に基づいて算出されたリスクポテンシャルの低い点を繋ぐ経路である。
【0035】
ここで、リスクポテンシャルとは、対象物ごとに設定された、自車両に接近乃至接触の可能性に応じたリスクの高さである。リスクポテンシャルは、走行経路の路幅方向(車幅方向)に沿う横変位リスクポテンシャルを含む。リスクポテンシャルは、走行経路の進行方向(経路の延在方向)に沿う縦変位リスクポテンシャルを含む。
リスクポテンシャルは、対象物の位置、対象物の種別(属性)、対象物の大きさ、対象物の速度、対象物の速度変化、対象物の縦変位量、対象物の縦変位速度、対象物の横変位量、対象物の横変位速度に応じて、対象物ごとに定義される。自車両を基準にリスクポテンシャルを算出してもよいし、各対象物を基準にリスクポテンシャルを算出してもよい。対象物との接触位置(対象物の物理的な外延)のリスクポテンシャルが最も高くなる。つまり、対象物に近くなるにつれてリスクポテンシャルが高くなり、対象物から離隔するにつれてリスクポテンシャルは低くなる。自車両についても同様にリスクポテンシャルを定義してもよい。本実施形態の第1走行経路は、自車両のリスクポテンシャルと対象物のリスクポテンシャルとが低い値となる点を辿った経路として算出される。なお、対象物のリスクポテンシャルの算出手法は特に限定されない。対象物のリスクポテンシャルは、相対的な距離に基づいて定義できる。対象物のリスクポテンシャルは、TTC(Time-To-Collision)を指標として定義してもよいし、THW(Time-Head Way)を指標として定義してもよい。TTC(Time-To-Collision)が短いほど、リスクポテンシャルの値(評価される値)を大きく定義し、TTC(Time-To-Collision)が長いほど、リスクポテンシャルの値を小さく定義する。THW(Time-Head Way)が短いほど、リスクポテンシャルの値(評価される値)を大きく定義し、THW(Time-Head Way)が長いほど、リスクポテンシャルの値を小さく定義する。
リスクポテンシャルは、相対的位置関係、TTC、及びTHWのうちの二つ以上の要素に基づいて算出してもよい。各要素に対して重みづけをして、総合的なリスクポテンシャルを算出してもよい。リスクポテンシャルの算出手法は、先行技術文献をはじめとする本願出願時に知られた方法を適宜に用いることができる。
【0036】
プロセッサ11は、第1走行経路上において対象場面を検出する。本実施形態における対象場面は、自車両の右側領域に第1対象物が存在し、自車両の左側領域に第2対象物が存在する場面である。自車両の右側領域とは、自車両の右側面よりも右側の領域であり、自車両の左側領域とは、自車両の左側面よりも左側の領域である。自車両の右側領域及び左側領域は、自車両の進行方向に沿って自車両の後方所定距離から前方所定距離までの範囲として定義できる。
【0037】
図2Aに、対象場面と第1走行経路RTの一例を示す。自車両OV1は進行方向前方の検出結果に基づいて、将来の自車両OV1´の状況を予測する。将来の自車両OV1が存在する位置/時刻における自車両OV1´の周囲に存在する第1対象物CV及び第2対象物PVの検出情報を取得する。図2Aに示す例では、第1対象物CVは、自車両OV1が走行する車線の対向車線を走行する対向車両である。第2対象物PVは、自車両OV1が走行する車線の路肩に停止している駐車車両である。自車両OV1´の位置において、自車両OV1´の右側には第1対象物CVが存在し、左側には第2対象物PVが存在する。自車両OV1´、第1対象物CV及び第2対象物PVのX方向の位置が少なくとも一部が共通する。対象場面は、左右の対象物の間を自車両が通過する場面である。この事象において、自車両OV1´は、第1対象物CV及び第2対象物PVの間を通過する。
【0038】
プロセッサ11は、自車両OV1´に対する各対象物のリスクポテンシャルを算出する。同図に示すように、自車両OV1´に対してはリスクポテンシャルROV1,ROV2が設定され、第1対象物CVに対しては5段階のリスクポテンシャルRCV1,RCV2,RCV3,RCV4,RCV5が設定される。第2対象物CVに最も近いリスクポテンシャルRCV1のリスクが最も高く、RCV2,RCV3,RCV4,RCV5の順にリスクは順次低くなる。第2対象物CVのリスクポテンシャルRCV1~5の形状は、その移動方向側に延びる楕円形として規定される。第2対象物CVのリスクポテンシャルRCV1~5の長さ(第2対象物CVの進行方向に沿う長さ)は、速度が高いほど長く設定する。本例の第2対象物PVは停止しているので、一段階のリスクポテンシャルRPVが定義されている。
【0039】
対向走行車両である第1対象物CVのリスクポテンシャルよりも駐車車両である第2対象物PVのリスクポテンシャルは低い。リスクポテンシャルを基準に第1走行経路を算出する場合には、自車両OV1´と第1対象物CVの距離DC1よりも、自車両OV1´と第2対象物PVの距離DP1のほうが短い。つまり、リスクポテンシャルの低いところを通る第1走行経路は、第1対象物CVよりも第2対象物PVに近い位置を通過する。
【0040】
自車両OV1の左右両側に対象物が存在する対象場面において、リスクポテンシャルの低い位置を繋げる手法により得られた走行経路は、リスクポテンシャルの低い対象物の側に寄る(近づく)。対象場面においてリスクポテンシャルの高い対象物の横変位が検知された場合には、リスクポテンシャルの低い対象物にさらに接近することになる。
【0041】
具体的に、図2Bに示す、対向走行する第1対象物CVの走行経路のY座標[Y1(CV)]が自車両OV1´に接近する横方向(路幅方向・図中+Y方向)に変位した場合[Y2(CV)]には、リスクポテンシャルの低い位置が第2対象物PVの方向に移動する。これに伴い、リスクポテンシャルに基づいて算出される第1走行経路のY座標[Y(OV1)]も+Y側にシフトする。第1走行経路に沿って移動する自車両OV1´が遭遇すると予測される対象場面において、自車両OV1´は第2対象物PVに接近する。
【0042】
第1対象物CVが直進する(横変位をしない)場合には、第1走行経路は、図2Aに示すように第2対象物PVと自車両OV1´の距離DP1が相対的に短くなるように設定される。第1対象物CVが横変位をした場合には、図2Bに示すように第2対象物PVと自車両OV1´の距離DP1はさらに短くなる第1走行経路が算出される。この第1走行経路において、自車両OV1´に対する第2対象物PVのリスクが急激に高くなる。第2対象物PVと自車両OV1´の距離DP1が、許容される値よりも小さくなった場合には、第2対象物PVと自車両OV1´との距離を確保するため、第2対象物PVから自車両OV1´を離隔させる第1走行経路が算出される。
このように、対象場面において、リスクポテンシャルの低い位置を通る第1走行経路を用いると、対象物の横変位の発生の度に走行経路の変更がされる可能性がある。リスクポテンシャルの低い第2対象物(本例では駐車車両)に接近することは、本来であれば乗員に安心感を与える運転となるはずであるが、対象場面においては、過度な接近、走行経路の変更など、乗員の心的な負担となることがある。また、自律的な運転制御においては、変化の少ない安定した走行、滑らかな走行が求められるところ、走行経路が変更されたことを契機に乗員が介入操作をする、運転制御を中断するといったことが発生する。このように、走行経路の変更は運転制御への信頼を低下させる可能性がある。
【0043】
自車両の右側にも左側にも対象物が存在する対象場面においては、右側の対象物との距離と左側の対象物との距離とを適切に設定することが求められる。リスクポテンシャルが低い位置を結んだ第1走行経路では、上述したように、走行経路の再計算・変更処理が発生するため、本実施形態の運転制御装置100は、対象場面における走行経路を補正する。
【0044】
対象場面における走行経路の補正の手法を説明する。
対象場面において、プロセッサ11は、リスクポテンシャルが相対的に高い第1対象物を基準対象物として選択する。プロセッサ11は、第1対象物のリスクポテンシャルと第2対象物のリスクポテンシャルを比較し、自車両に対するリスクポテンシャルが相対的に高い第1対象物又は第2対象物の何れか一方を基準対象物として選択する。プロセッサ11は、基準対象物の選択に加えて、リスクポテンシャルが相対的に低い第1対象物又は第2対象物の何れか一方を回避対象物として選択してもよい。
【0045】
基準対象物の選択のために、プロセッサ11は、第1対象物及び第2対象物のリスクポテンシャルを算出する。プロセッサ11は、対象場面における自車両に対する第1対象物のリスクポテンシャルと第2対象物のリスクポテンシャルを検出情報に基づいて算出する。先述したように、プロセッサ11は、各対象物が検出される毎に、各対象物の検知情報から得た検出情報に基づいてリスクポテンシャルが算出されている。プロセッサ11は、対象場面における第1対象物及び第2対象物のリスクポテンシャルを、算出されたリスクポテンシャルから取得してもよい。対象場面を特定してから、第1対象物及び第2対象物のリスクポテンシャルを算出してもよい。
【0046】
プロセッサ11は、第1走行経路とは異なる第2走行経路を算出する。
プロセッサ11は、対象場面における第1走行経路を、リスクポテンシャルが相対的に高い基準対象物が存在する右側又は左側の方向にオフセットさせた第2走行経路を算出する。
本実施形態では、自車両に対して左右両側に存在する二つの対象物の間を走行するときに、リスクポテンシャルの高い方の対象物側に横位置(Y軸方向の位置)をシフトさせた第2走行経路が算出される。プロセッサ11は、横変位の可能性が高く、算出されるリスクポテンシャルの高い対象物側に自車両近寄った走行経路を算出する。
【0047】
ところで、リスクポテンシャル法に基づきリスクポテンシャルの値に従って走行経路を算出する従来の手法では、自車両OVに最も近い対象物から遭遇する順序に従い各対象物のリスクポテンシャルが検討され、リスクポテンシャルの低い地点を辿る経路が算出される。
これに対し、発明者らは、人間のリスク管理/リスク判断は、必ずしもリスクポテンシャルを低く抑えるだけの手法に留まるものではないという知見を得た。
発明者らの検証によると、人間はリスクポテンシャルの高い対象物に対して強い意識を向け、自己(自車両)に対するその対象物のリスクポテンシャルを一定に保とうとする傾向があることが分かった。例えば、自車両の左側に駐車車両が存在し、自車両の右側のレーンを対向走行する対向車両が存在する場面を人間が運転するときには、リスクポテンシャルの低い左側の駐車車両に接近するのではなく、リスクポテンシャルの高い対向車両に可能な範囲で接近し(許容距離を保って接近し)、対向車両との距離を保って駐車車両と対向車両との間を通過するというリスク管理をする傾向があることが分かった。
言い換えると、上記場面を人間が運転する場合には、駐車車両側に接近して対向車両との間隔を相対的に大きく空けるのではなく、対向車両をかすめるように、接近した状態で通過する傾向があることが分かった。
また、リスクポテンシャルが高い対象物は、動きの自由度が高く、急に自車両に接近するといった挙動をとることがある物体である。リスクポテンシャルの低い対象物に近寄った状態でリスクポテンシャルの高い対象物が自車両に接近する挙動を示した場合、自車両は退避場所を失ってしまう。人間は、このような次に起こる事態の発生を織り込んで、将来において顕在化するかもしれない潜在的なリスクポテンシャルまでをも考慮してリスクの予測・管理を行う傾向がある。
【0048】
つまり、自車両が遭遇する対象物のリスクポテンシャルが低くなる場所を繋げるだけの走行経路に基づく運転制御は、乗員のリスク感覚(リスク管理/リスク判断)には合致しない可能性があり、乗員に違和感を覚えさせることがあるといえる。乗員の違和感が大きい場合には、運転制御に介入操作が行われるなど、運転制御が中断される場合もある。このため、本実施形態では、自車両OV1の右側に第1対象物が存在し、左側に第2対象物が存在し、車幅方向に沿う動きが制限される対象場面においては、第1走行経路を補正する。
【0049】
また、プロセッサ11は、第1対象物又は第2対象物の走行経路の路幅方向に沿う移動量が所定量以上である場面を、対象場面として検出する。第1対象物又は第2対象物の横変位(路幅方向に沿う移動)は、自車両OV1の横方向への移動のトリガとなり、また横方向への移動を制限する原因となる。このような対象場面においては、第2走行経路を算出し、自車両OV1の回避方向に回避できる領域を確保することが好ましい。本実施形態では、自車両OV1の右側に第1対象物が存在し、左側に第2対象物が存在し、かつ、リスクポテンシャルが高く、横変位の可能性が高い第1対象物に車幅方向に沿う動きが検出された場面を対象場面として定義する。これにより、自車両OV1の走行環境に影響を与えるリスクポテンシャルの高い第1対象物の挙動に呼応して対象場面を特定し、第2走行経路を算出できる。また、自車両OV1の右側に第1対象物が存在し、左側に第2対象物が存在し、かつ、リスクポテンシャルの低い第2対象物に車幅方向に沿う動きが検出された場面を対象場面として定義する。リスクポテンシャルが低いとはいえ、第2対象物の横方向挙動は自車両OV1の走行環境に影響を与えるため、第2対象物の挙動に呼応して対象場面を定義し、適時に第2走行経路を算出できる。
【0050】
本実施形態では、自車両OV1の右側領域に第1対象物PVが存在し、左側領域に第2対象物CVが存在する対象場面において、第1走行経路をリスクポテンシャルが相対的に高い基準対象物が存在する右側又は左側の方向にオフセットさせた第2走行経路を算出する。第2走行経路は、基準対象物側にオフセットされるので、基準対象物とは反対側の対象物の存在方向には空間(後述するバッファ領域)が形成される。基準対象物に変位が生じた場合でも、乗員は自車両OV1を退避させることが予測できるので、運転制御装置100が行う運転制御内容を評価し、安心することができる。横変位/縦変位の可能性の高い基準対象物側に横位置をオフセットさせた第2走行経路を用いることにより、現在のリスクだけではなく、将来に顕在化する可能性のある潜在的なリスクまでをも考慮した運転制御をすることができる。結果として、乗員のリスク感覚に合致した走行経路に基づく運転制御を実行することができる。
【0051】
以下、第2走行経路の具体例を図3A図3Cに基づいて説明する。
図3Aには、自車両OV1の右側に対向車両である第1対象物CVが存在し、自車両OV1の左側に駐車車両である第2対象物PVが存在する対象場面を示す。同図に示す対象場面において、自車両OV1の前方の検出情報に基づいて、第1対象物CVが自車両OV1に接近することが予測されている。このような対象場面において、プロセッサ11は、第1走行経路RT1を補正する。本実施形態のプロセッサ11は、第1走行経路RT1の横位置(路幅方向・図中Y軸方向)を、リスクポテンシャルが相対的に高い基準対象物(第1対象物CV)側にオフセットさせた第2走行経路RT2を算出する。第1走行経路RT1の横位置Y1(OV1)は、第2走行経路R2の横位置Y2(OV1)に、-Y方向にオフセットされる。
【0052】
図3Bは、対象場面の他の例を示す。同図に示す対象場面において、自車両OV1の前方の検出情報に基づいて、第1対象物CVが自車両OV1に接近することが予測されている。このような対象場面において、プロセッサ11は、第1走行経路RT1を補正する。本実施形態のプロセッサ11は、第1走行経路RT1の横位置(路幅方向・図中Y軸方向)を、リスクポテンシャルが相対的に高い基準対象物(第1対象物CV)側にオフセットさせた第2走行経路RT2を算出する。自車両OV1が第1対象物CV及び第2対象物Pの間を通り抜ける部分X1~X2の第1走行経路RT1の横位置Y1(OV1)は、第2走行経路R2の横位置Y2(OV1)に、-Y方向にオフセットされる。
【0053】
図3Cは、対象場面のさらに他の例を示す。同図に示す場面は、自車両OV1の右側に対向車両である第1対象物CVが存在し、自車両OV1の左側に駐車車両である第2対象物PVが存在する対象場面を示す。同図に示す対象場面において、自車両OV1の前方の検出情報に基づいて、第1対象物CVが自車両OV1に接近することが予測されている。図3Cの示す対象場面は、図3A及び図3Bに示す対象場面とは異なり、第1対象物CVと、自車両OV1と、第2対象物PVとの走行経路に沿う縦位置(図中X位置)が異なる。本実施形態では、走行経路の進行方向(X軸方向)に沿う第1対象物CV又は第2対象物PVと自車両OV1との距離が所定距離未満である場面を、対象場面として検出する。第1対象物CVと、第2対象物PVと、自車両OV1の縦位置がずれていても、所定の時間幅で検出した検出情報に基づいて対象場面を検出できる。これにより、第2走行経路を算出すべき対象場面を適切に検出できる。本実施形態における運転制御は対象場面における乗員のリスク感覚に合致したものである。このため、第1対象物CVと、第2対象物PVと、自車両OV1の縦位置が所定値以下の範囲でずれている場合に、第2走行経路を算出する処理を行わないと、乗員は走行制御装置が「対象場面」を認識できていないのではないかという不信感を抱く可能性がある。左右に存在する対象物の間を通り過ぎるというシーンの定義を乗員の感覚と一致させることにより、期待された運転制御を期待された場面で実行できる。
【0054】
自車両OV1が遭遇する第1対象物CVと、第2対象物PVとのリスクポテンシャルを所定の時間幅で観察し、高いリスクポテンシャルの対象物を基準に走行経路を補正しつつ、移動する自車両OV1の前方の対象物に対するリスクポテンシャルも逐次計算されるため、乗員の感覚に合致した第2走行経路を算出できる。
【0055】
本実施形態において、走行経路の進行方向に沿う第1対象物CV又は第2対象物PVと自車両OV1との距離が所定距離未満である場面を対象場面として定義する。図3Cに示す例では、自車両OV1の位置[X(OV1)]を基準に、自車両OV1が位置[X(OV1)]に存在するタイミングにおいて、X軸方向に沿って進行方向前方の所定領域DFと、進行方向後方の所定領域DRに属する複数の対象物の一つが、自車両OV1の右側に存在し、対象物の他の一つが自車両OV1の左側に存在する場合には、その場面は対象場面であると判断する。
【0056】
プロセッサ11は、第1走行経路を走行する自車両OV1と、自車両OV1が遭遇する対象物の検出情報に基づいて、第1対象物CVと第2対象物PVとの間を自車両OVが通過する予測時刻を算出する。予測時刻において自車両OV1の存在する位置を予測する。この予測された位置を、基準の自車両OV1の位置[X(OV1)]とする。これにより、対象場面を正確に検出できる。
【0057】
同図に示すように、リスクポテンシャルの高い第1対象物CV(基準対象物)の自車両OV1に対する接近度が、リスクポテンシャルの低い第2対象物PV(回避対象物)の自車両OV1に対する接近度よりも高い。つまり、自車両OV1は先に第1対象物CVとすれ違い、同時乃至所定時間以内に、自車両OV1は後に第2対象物PVとすれ違う。同図に示す対象場面において、自車両OV1の前方の検出情報に基づいて、第1対象物CVが自車両OV1に接近することが予測されている。このような対象場面において、プロセッサ11は、第1走行経路RT1を補正する。本実施形態のプロセッサ11は、第1走行経路RT1の横位置(路幅方向・図中Y軸方向)を、リスクポテンシャルが相対的に高い基準対象物(第1対象物CV)側にオフセットさせた第2走行経路RT2を算出する。自車両OV1が第1対象物CVとすれ違いつつ、第2対象物PKを回避する部分X1~X2の第1走行経路RT1の横位置Y1(OV1)は、第2走行経路R2の横位置Y2(OV1)に、-Y方向にオフセットされる。
【0058】
図3A乃至図3Cに示す例において、リスクポテンシャルは縦方向(走行方向[X軸方向]及び/又は横方向(路幅方向[Y軸方向])に沿う変位に対して設定される。リスクポテンシャルは、縦方向及び横方向の両成分を有する平面領域において設定される。リスクポテンシャルが、走行経路の路幅方向に沿う横変位リスクポテンシャルを含むことにより、路幅方向のリスクを考慮することができる。路幅は有限であり、車両の性能に応じて回避可能な範囲も上限がある。自車両の操舵応答性、走行経路の路幅などを考慮したリスクポテンシャルを算出できる。リスクポテンシャルが、走行経路の進行方向に沿う縦変位リスクポテンシャルを含むことにより、進行方向のリスクを考慮することができる。自車両の速度、対向走行をする他車両の速度などを考慮したリスクポテンシャルを算出できる。
【0059】
プロセッサ11は、リスクポテンシャルが相対的に低い第1対象物又は第2対象物の何れか一方を回避対象物として選択する。本例において、第2対象物PVが回避対象物となる。プロセッサ11は、回避対象物(第2対象物PV)と自車両OV1との間に走行経路の路幅方向(Y軸方向)に沿う所定距離DP2を有するバッファ領域Rbが形成されるように、第2走行経路RT2を算出する。具体的には第2走行経路RT2の横位置(Y座標値:Y2(OV1))を算出する。
【0060】
バッファ領域Rbが無い第1走行経路RT1を走行する場合に、基準対象物の挙動変化が検知されると、そもそも近くに寄った回避対象物(図2A、2Bでは第2対象物PV)にさらに近づくことになる。回避対象物と自車両との距離が接近許容距離以下となれば、走行経路の変更や減速乃至停止といった運転の変更がなされる。このような変化量の大きい運転制御は、自律走行等を実行させる走行制御においては好ましくない。
これに対し、本実施形態では、リスクポテンシャルが低い回避対象物の方に自車両OVが退避できるバッファ領域Rbが形成される第2走行経路RT2を算出するので、リスクポテンシャルが高く、横変位の可能性が相対的に高い基準対象物の挙動が変化しても、自車両OV1をバッファ領域Rbに退避させることができる。これにより、第2走行経路RT2が基準対象物の挙動に応じて変更されることを回避できる。
【0061】
バッファ領域Rbの設定手法を具体的に説明する。
プロセッサ11は、自車両OV1に対する回避対象物PVのリスクポテンシャルが所定値未満となるように、オフセットの量を設定する。これにより、自車両OV1が回避対象物PV側に退避できるバッファ領域を確保しつつ、回避対象物PVに接触するリスクを回避できる。自車両OV1を退避させる余裕が確保され、基準対象物CVの挙動変化のリスクに対応できる走行経路に基づく運転制御は、乗員のリスク感覚に合致したものとして評価される。自車両OV1に対する回避対象物PVのリスクポテンシャルは少なくとも横変位に関するリスクポテンシャルを含む。もちろん、縦変位に関するリスクポテンシャルを含んでもよい。オフセット量は路幅方向に沿う距離である。
【0062】
プロセッサ11は、自車両OV1に対する回避対象物PVのリスクポテンシャルが所定値未満となるオフセットの量を、実験的に求めてもよいし、シミュレーションによって求めてもよい。
自車両OV1が回避対象物PVを通り越すときの自車両OV1と回避対象物PVとの距離(オフセットの量)は車両の性能(操舵性能、回転半径、諸元情報)や個人の癖(大きく回りこむ又は接近して通過する)によって異なる場合がある。
【0063】
プロセッサ11は、オフセットの量を決定する際に、自車両の操舵操作に対する応答特性を含む車両特性を考慮することができる。プロセッサ11は、第2走行経路が非直線部分を含む場合には、自車両OV1の操舵操作に対する応答特性を含む車両特性に基づいて予め設定されたマージン量を含むオフセットの量を算出する。これにより、自車両OV1の性能を考慮した第2走行経路を算出できる。マージン量は、車両コントローラ210に予め記憶させておくことができる。車種情報とマージン量とを予め対応づけて記憶し、車種情報を取得してマージン量を算出してもよい。
【0064】
プロセッサ11は、乗員が運転するときの回避対象物PVと自車両OV1との距離、基準対象物CVと自車両OV1との距離を用いてオフセットの量を決定してもよい。乗員が運転するときの回避対象物PVと自車両OV1との距離、基準対象物CVと自車両OV1との距離は、予め実測した実験値を用いてもよいし、シミュレーターを用いて計算出された値を用いてもよい。この値を乗員の識別情報に対応づけてROMに記憶する。回避対象物PVや基準対象物CVと自車両OV1との好適な距離は、乗員によって異なる場合がある。識別情報に基づいて乗員を特定し、その乗員に応じたオフセットの量を設定することにより、その乗員にとって違和感の無い第2走行経路で対象場面を通過することができる。
【0065】
図4A図6Cにおいて、対象場面を実際に乗員が運転したときにおける、自車両OV1と回避対象物PV及び/又は基準対象物CVとの距離を検証し、リスクポテンシャルに基づく最低限確保すべき限界距離と比較した。
【0066】
図4Aに示すように、自車両OV1が回避対象物PVAを追い越す場面における自車両OV1と回避対象物PVAとの横方向(路幅方向)の距離について検討した。回避対象物PVAは駐車車両である(Va=0)と設定する。このとき、ある速度で走行する自車両OV1Rと回避対象物PVAとの検出情報から得たリスクポテンシャルに基づく接近が許容される最小距離はDa1である。これに対して、実際に乗員が自車両OV1を運転して回避対象物PVAを追い越すときの自車両OV1の横位置を実測したところ、回避対象物PVAと自車両OV1との距離はDaであった。実際に乗員が運転をしたときの回避対象物PVAと自車両OV1の距離Daの方が、リスクポテンシャルに基づく限界距離Da1よりも長いことが分かった。この実測された、乗員のリスク感覚に応じた、回避対象物PVAと自車両OV1の距離Daが、本実施形態の第2走行経路の基準位置となる。その結果を図4Bに示す。図4Bでは、自車両OV1の速度を多段階に設定した実測結果を示す。いずれの速度においても、実際に乗員が自車両OV1を運転したときの回避対象物PVAと自車両OV1の距離Daの方が、リスクポテンシャルに基づいて算出された限界距離Da1よりも長い傾向が見られた。つまり、駐車車両である回避対象物PVAを追い越す場面において、人間が運転する走行経路のほうが、リスクポテンシャルに基づいて算出された走行経路よりも、回避対象物PVAから離隔して走行することが分かった。人間が運転する場合には、リスクポテンシャルの低い対象物に接近して走行するとは限らないことが分かった。なお、この人間が運転する場合の回避対象物PVAと自車両OV1の距離Daに基づいてオフセットの量ΔDを設定してもよい。
【0067】
図5Aに示すように、自車両OV1基準対象物CVBとすれ違う場面における自車両OV1と基準対象物CVBとの横方向(路幅方向)の距離について検討した。基準対象物CVBは対向車線を走行する対向車両である(Vb=Vb1)と設定する。このとき、ある速度で走行する自車両OV1Rと基準対象物CVBとの検出情報から得たリスクポテンシャルに基づく接近が許容される最小距離はDb1である。これに対して、実際に乗員が自車両OV1を運転して基準対象物CVBとすれ違うときの自車両OV1の横位置を実測したところ、基準対象物CVBと自車両OV1との距離はDbであった。実際に乗員が運転をしたときの基準対象物CVBと自車両OV1の距離Dbの方が、リスクポテンシャルに基づく限界距離Db1よりも短いことが分かった。この実測された、乗員のリスク感覚に応じた、基準対象物CVBと自車両OV1の距離Dbが、本実施形態の第2走行経路の基準位置となる。その結果を図5Bに示す。図5Bでは、自車両OV1の速度を多段階に設定した実測結果を示す。いずれの速度においても、実際に乗員が自車両OV1を運転したときの基準対象物CVBと自車両OV1の距離Dbの方が、リスクポテンシャルに基づいて算出された限界距離Db1よりも短い傾向が見られた。つまり、対向車両である基準対象物CVBとすれ違う場面において、人間が運転する走行経路のほうが、リスクポテンシャルに基づいて算出された走行経路よりも、基準対象物CVBに接近して走行することが分かった。人間が運転する場合には、リスクポテンシャルの高い対象物から離隔して走行するとは限らないことが分かった。なお、この人間が運転する場合の基準対象物CVBと自車両OV1の距離Dbに基づいてオフセットの量ΔDを設定してもよい。
【0068】
図6Aは、自車両OV1の進行方向左側に回避対象物PV1が存在し、進行方向右側の対向車線に基準対象物CVBが存在する対象場面を示す。条件は、図4A及び図5Aにおいて説明した場面と共通する。
図6Aに示す対象場面において、ある速度で走行する自車両OV1Rと回避対象物PVAとの検出情報から得たリスクポテンシャルに基づく接近が許容される最小距離はDa1である。これに対して、実際に乗員が自車両OV1を運転して回避対象物PVAを追い越すときの自車両OV1の横位置を実測したところ、回避対象物PVAと自車両OV1との距離はDaであった。対象場面(対向車である基準対象物CVBが存在する場合であっても、実際に乗員が運転をしたときの回避対象物PVAと自車両OV1の距離Daの方が、リスクポテンシャルに基づく限界距離Da1よりも長いことが分かった。この実測された、乗員のリスク感覚に応じた、回避対象物PVAと自車両OV1の距離Daが、本実施形態の第2走行経路の基準位置となる。
【0069】
図6Aに示す対象場面において、ある速度で走行する自車両OV1Rと基準対象物CVBとの検出情報から得たリスクポテンシャルに基づく接近が許容される最小距離はDb1である。これに対して、実際に乗員が自車両OV1を運転して基準対象物CVBとすれ違うときの自車両OV1の横位置を実測したところ、基準対象物CVBと自車両OV1との距離はDbであった。実際に乗員が運転をしたときの基準対象物CVBと自車両OV1の距離Dbの方が、リスクポテンシャルに基づく限界距離Db1よりも短いことが分かった。この実測された、乗員のリスク感覚に応じた、基準対象物CVBと自車両OV1の距離Daが、本実施形態の第2走行経路の基準位置となる。
【0070】
図6Bに示すとおり、対象場面において、実際に乗員が自車両OV1を運転したときの回避対象物PVAと自車両OV1の距離Daの方が、リスクポテンシャルに基づいて算出された限界距離Da1よりも長い傾向が見られた。上述の図4Bと同じ傾向である。つまり、対象場面において、駐車車両である回避対象物PVAを追い越すときには、人間が運転する走行経路のほうが、リスクポテンシャルに基づいて算出された走行経路よりも、回避対象物PVAから離隔して走行することが分かった。人間が運転する場合には、リスクポテンシャルの低い対象物に接近して走行するとは限らないことが分かった。
【0071】
図6Cに示すとおり、対象場面において、実際に乗員が自車両OV1を運転したときの基準対象物CVBと自車両OV1の距離Dbの方が、リスクポテンシャルに基づいて算出された限界距離Db1よりも短い傾向が見られた。上述の図5Bと同じ傾向である。つまり、対象場面において、対向車両である基準対象物CVBとすれ違うときには、人間が運転する走行経路のほうが、リスクポテンシャルに基づいて算出された走行経路よりも、基準対象物CVBに接近して走行することが分かった。人間が運転する場合には、リスクポテンシャルの高い対象物から離隔して走行するとは限らないことが分かった。
【0072】
一例ではあるが、プロセッサ11は、対象場面における走行経路を基準対象物CVB側にオフセットし、自車両OV1が基準対象物CVBと回避対象物PVAとの間を通り抜けるときに、(自車両OV1と基準対象物CVBとの距離Db)<(自車両OV1と回避対象物PVAとの距離Da)となるように第2走行経路を算出する。
第2走行経路を走行する「自車両OV1と回避対象物PVAとの限界距離Da」は、予め算出された検出情報に基づいて算出された確保されるべき距離である「自車両OV1と回避対象物PVAとの限界距離Da1」よりも長い。プロセッサ11は、自車両OV1と回避対象物PVAとの間を離隔させる第2走行経路を算出する。
第2走行経路を走行する「自車両OV1と基準対象物CVBとの限界距離Db」は、予め算出された検出情報に基づいて算出された確保されるべき距離である「自車両OV1と基準対象物CVBとの限界距離Db1」よりも短い。プロセッサ11は、自車両OV1と基準対象物CVBとの間を接近させる第2走行経路を算出する。自車両OV1と基準対象物CVBとの限界距離Dbには、接近が許容される最低限の下限を設定し、接近しすぎることを抑制することができる。
【0073】
上述したように、本実施形態では、対象場面における第1対象物と第2対象物のうちのリスクポテンシャルが高い基準対象物CVが特定されることを前提に、第2走行経路の算出処理が行われる。基準対象物CVの存在領域の走行経路に沿う長さが所定値以上である場合、例えば、基準対象物CVが連続する複数台数の車両である場合などにおいては、基準対象物CVの位置が特定できない場合がある。このような場合においては、リスクポテンシャルが相対的に低い第1対象物又は第2対象物である回避対象物PVとの距離に基づいて第2走行経路RT2を算出する。回避対象物PVを基準とした第2走行経路RTを算出する。これにより、基準対象物CVの横位置が正確に検出できない場合であっても、第2走行経路を算出できる。第2走行経路の位置は、回避対象物PVから限界距離だけ離隔させた位置を基準としてもよいし、限界距離よりもΔDだけ長い距離としてもよい。検出された検出情報の量や、精度に応じて基準対象物CVに接近した走行経路を算出する。
【0074】
続いて、本実施形態の運転制御システム1の処理手順を、図7のフローチャートに基づいて説明する。なお、各ステップでの処理の概要は、上述したとおりである。ここでは処理の流れを中心に説明する。
【0075】
まず、ステップS1において、プロセッサ11は、制御対象となる車両の車両情報を取得する。車両情報は、現在位置、進行方向、速度、加速度、制動量、操舵量、操舵速度、操舵加速度、などの車両の運転に関する情報と、車両の諸元情報、車両の性能情報を含む。車両情報は車載装置200から取得する。同ステップS1において、プロセッサ11は、検出情報を取得する。対象物の存否、対象物の位置、対象物の移動方向、対象物の速度、対象物の移動加速度、対象物の属性を含む。検出情報は、検出装置230、センサ260、ナビゲーション装置220を含む車載装置200から取得できる。
【0076】
ステップS2において、プロセッサ11は、検出情報に基づいて、自車両OV1が遭遇する対象物に関する、自車両OV1の走行環境情報を取得する。移動する自車両OV1と対象物との位置関係、遭遇時刻、遭遇する方向、TTC、THWなどを含む。自車両OVが対象物と、何時、何処で(位置座標)、どのように遭遇するか(交差する、すれ違う、追い越す、追い越される、回避する、回避されるなどを含む)を示す情報である。走行環境情報は一若しくは複数の検出情報、又はこれらの組み合わせの情報である。
【0077】
ステップS3において、プロセッサ11は、対象物を検出する。プロセッサ11は、検出情報に基づいて、対象物の位置、対象物の移動方向、対象物の速度、対象物の移動加速度、対象物の属性を検出する。
【0078】
ステップS4において、プロセッサ11は、検出された対象物ごとにその対象物のリスクポテンシャルを算出する。リスクポテンシャルは、自車両OV1に対する距離、距離の変化に基づくリスクの高さである。リスクポテンシャルは、自車両OV1に対する各対象物TTC/THWであってもよいし、自車両OV1に対する各対象物TTC/THWを用いた評価値であってもよい。
【0079】
ステップS5において、プロセッサ11は、第1走行経路を算出する。第1走行経路は、現在位置から目的地に至る経路/リンクであって、リスクポテンシャルが低い地点を結んだ経路である。運転制御装置100は、この経路に従い自車両OBを移動させる自律走行制御を行う。
【0080】
ステップS6において、プロセッサ11は、第1走行経路上において、対象場面を検出する。第1走行経路を移動する際に遭遇する各対象物の位置関係を予測し、対象場面が検出できるか否かを判断する。プロセッサ11は、第1走行経路において、自車両OV1の右側領域に第1対象物が存在し、自車両OV1の左側領域に第2対象物が存在する場面を対象場面として検出する。自車両OV1が、第1対象物と、第2対象物の間を通り抜ける状況である。対象場面は、自車両OV1と、第1対象物と、第2対象物との経路進行方向に沿う位置(図中X軸方向の位置)が同一である状況、自車両OV1を基準に進行方向前方の所定距離及び/又は進行方向後方の所定距離の範囲内に第1対象物と第2対象物が存在する状況を含む場面である。対象場面が検出できた場合には、ステップS7に進み、対象場面が検出できない場合にはステップS8に進む。
【0081】
ステップS7において、プロセッサ11は、第2走行経路を算出する。この処理のサブルーチンを、図8のフローチャートに基づいて説明する。
【0082】
図8のステップS101において、プロセッサ11は、対象場面における第1対象物と第2対象物を特定する。ステップS102において、プロセッサ11は、第1対象物と第2対象物の検出情報を取得する。ステップS103において、プロセッサ11は、第1対象物と第2対象物の横方向(路幅方向)の距離Wを算出する。ステップS102において、プロセッサ11は、距離Wが所定値以上であるか否かを判断する。自車両OVが第1対象物と第2対象物との間を通過できる対象場面であるか否かを判断する。距離Wが所定値以上である場合には、ステップS105に進み、そもそも通過ができない場合には、ステップS120へ進む。
【0083】
ステップS105において、プロセッサ11は、第1対象物と第2対象物のリスクポテンシャルを比較算出し、続くステップS106において、それらを比較する。プロセッサ11は、比較結果を参照し、ステップS107において、リスクポテンシャルが相対的に高い基準対象物を特定するとともに、ステップS108において、リスクポテンシャルが相対的に低い回避対象物を特定する。第1対象物又は第2対象物の何れか一方が基準対象物であり、基準対象物ではない第1対象物又は第2対象物の何れか一方が回避対象物である。
【0084】
ステップS109において、プロセッサ11は、回避対象物と車両との間に設けるべき限界距離と操舵特性などの操作に対する応答特性を含む車両特性とに基づいて、第1走行経路をオフセットさせるオフセット量を算出する。オフセット量は、バッファ領域を含む幅とする。バッファ領域は、好ましくは、自車両OV1に対する回避対象物のリスクポテンシャルが所定値未満となる広さの領域でることが好ましい。
【0085】
ステップS110において、プロセッサ11は、第1対象物と第2対象物の距離が、オフセットの量を含む第2走行経路の設定に要する必要距離よりも大きいか否かを判断する。この条件を満たさない場合には、ステップS120に進む。ステップS120において、プロセッサは、自車両OV1の目標速度を許容される範囲内で最も高くする。目標速度を高く変更することにより、リスクポテンシャルの高い基準対象物から自車両を離隔させて、リスクポテンシャルの低い回避対象物に接近する。目標速度と確保されるべき対象物との距離とは対応づけられており、目標速度が高いほど、リスクポテンシャルの高い対象物との距離が長くなるように設定されている。このため、目標速度を高くすることにより、リスクポテンシャルの高い対象物との距離が長くなる。対象場面は、自車両の片側にリスクポテンシャルの高い対象物が存在し、他方の片側にリスクポテンシャルの低い対象物が存在するので、リスクポテンシャルの高い対象物から離隔するということは、リスクポテンシャルの低い対象物へ接近することになる。
【0086】
一方、ステップS110の条件を満たす場合には、ステップS111に進み、車幅方向の余剰分を算出し、ステップS112において対象場面において可能なオフセット量を算出する。ステップS113において、プロセッサ11は、オフセット量に基づいて第2走行経路を算出する。
【0087】
図7のフローチャートに戻り、ステップS8において、プロセッサ11は、走行経路を決定する。第2走行経路が算出された場合には、第2走行経路を運転制御の基準となる走行経路として決定する。第2走行経路が算出されなかった場合には、第1走行経路を運転制御の基準となる走行経路として決定する。
【0088】
ステップS9において、プロセッサ11は、走行経路上の各地点の目標速度を設定する。経路に応じた操舵量と目標経路が設定される。さらに、ステップS11に進み、プロセッサ11は、目的地に至る走行経路を自車両に移動させるための運転計画を立案する。
【0089】
続くステップS12において、立案された運転計画に基づいて、運転制御命令を生成する。プロセッサ11は、自車両V1の実際のX座標値(X軸は車幅方向)と、現在位置に対応する目標X座標値と、フィードバックゲインとに基づいて、目標X座標値の上を車両V1に移動させるために必要な操舵角や操舵角速度等に関する目標制御値を算出する。
【0090】
ステップS13において、プロセッサ11は、運転制御命令を出力する。具体的に、プロセッサ11は、目標制御値を車載装置200に出力する。車両V1は、目標横位置により定義される目標経路上を走行する。プロセッサ11は、経路に沿う目標X座標値(X軸は車両の進行方向)を算出する。プロセッサ11は、車両V1の現在のX座標値、現在位置における車速及び加減速と、現在のX座標値に対応する目標X座標値、その目標X座標値における車速及び加減速との比較結果に基づいて、X座標値に関するフィードバックゲインを算出する。プロセッサ11は、目標X座標値に応じた車速および加減速度と、X座標値のフィードバックゲインとに基づいて、X座標値に関する目標制御値を算出する。目標制御値とは、目標X座標値に応じた加減速度および車速を実現するための駆動機構の動作(エンジン自動車にあっては内燃機関の動作、電気自動車系にあっては電動モータ動作を含み、ハイブリッド自動車にあっては内燃機関と電動モータとのトルク配分も含む)およびブレーキ動作についての制御値である。
【0091】
ステップS14において、プロセッサ11は、車両コントローラ210に運転制御命令を実行させる。車両コントローラ210は、操舵制御及び駆動制御を実行し、自車両に目標X座標値及び目標Y座標値によって定義される目標経路上を走行させる。目標X座標値を取得する度に処理を繰り返し、座標値が指定された制御値を車載装置200に実行させる。車両コントローラ210は、目的地に至るまで、プロセッサ11の指令に従い運転制御命令を実行する。
【0092】
本発明の実施形態の運転制御装置100は、以上のように構成され動作するので、以下の効果を奏する。
【0093】
[1]本実施形態の運転制御方法は、自車両OV1の右側領域に第1対象物PVが存在し、左側領域に第2対象物CVが存在する対象場面において、その間を通過する第1走行経路をリスクポテンシャルが相対的に高い基準対象物が存在する右側又は左側の方向にオフセットさせた第2走行経路を算出し、第2走行経路を自車両に走行させる。
第2走行経路は、基準対象物側にオフセットされるので、基準対象物とは反対側の対象物の存在方向には空間(後述するバッファ領域)が形成される。これにより、対象場面において、リスクポテンシャルの高い対象物の動きに変化があった場合であっても、走行経路が変更されることを抑制し、自車両に円滑な走行を実行させることができる。基準対象物に変位が生じた場合でも、乗員は、自車両OV1を退避させることが予測できるので、運転制御装置100が行う運転制御内容を評価し、安心することができる。
横変位/縦変位の可能性の高い基準対象物側に横位置をオフセットさせた第2走行経路を用いることにより、現在のリスクだけではなく、将来において顕在化する可能性のある潜在的なリスクまでをも考慮した運転制御をすることができる。
結果として、乗員のリスク感覚に合致した走行経路に基づく運転制御を実行することができる。
【0094】
[2]本実施形態の運転制御方法において、リスクポテンシャルは、走行経路の路幅方向に沿う横変位リスクポテンシャルを含む。路幅方向のリスクを考慮することができる。路幅は有限であり、車両の性能に応じて回避可能な範囲も上限がある。自車両の操舵応答性、走行経路の路幅などを考慮したリスクポテンシャルを算出できる。
【0095】
[3]本実施形態の運転制御方法において、リスクポテンシャルは、走行経路の進行方向に沿う縦変位リスクポテンシャルを含む。リスクポテンシャルが、走行経路の進行方向に沿う縦変位リスクポテンシャルを含むことにより、進行方向のリスクを考慮することができる。自車両の速度、対向走行をする他車両の速度などを考慮したリスクポテンシャルを算出できる。
【0096】
[4]本実施形態の運転制御方法では、リスクポテンシャルが相対的に低い第1対象物又は第2対象物の何れか一方を回避対象物として選択し、回避対象物と自車両との間に走行経路の路幅方向に沿う所定距離を有するバッファ領域が形成されるように、第2走行経路を算出する。
例えば、回避対象物(第2対象物PV)と自車両OV1との間に走行経路の路幅方向(Y軸方向)に沿う所定距離DP2を有するバッファ領域Rbが形成されるように、第2走行経路RT2を算出する。具体的には第2走行経路RT2の横位置(Y座標値:Y2(OV1))を算出する。バッファ領域Rbが無い第1走行経路RT1を走行する場合に、基準対象物の挙動変化が検知されると、そもそも近くに寄った回避対象物(図2A、2Bでは第2対象物PV)にさらに近づくことになる。回避対象物と自車両との距離が接近許容距離以下となれば、走行経路の変更や減速乃至停止といった運転の変更がなされる。このような変化量の大きい運転制御は、自律走行等を実行させる走行制御においては好ましくない。
これに対し、本実施形態では、リスクポテンシャルが低い回避対象物の方に自車両OVが退避できるバッファ領域Rbが形成される第2走行経路RT2を算出するので、リスクポテンシャルが高く、横変位の可能性が相対的に高い基準対象物の挙動が変化しても、自車両OV1をバッファ領域Rbに退避させることができる。これにより、第2走行経路RT2が基準対象物の挙動に応じて変更されることを回避できる。
【0097】
[5]本実施形態の運転制御方法では、自車両に対する回避対象物のリスクポテンシャルが所定値未満となるように、オフセットの量を設定する。これにより、自車両OV1が回避対象物PV側に退避できるバッファ領域を確保しつつ、回避対象物PVに接触するリスクを回避できる。自車両OV1を退避させる余裕が確保され、基準対象物CVの挙動変化のリスクに対応できる走行経路に基づく運転制御は、乗員のリスク感覚に合致したものとして高く評価される。
【0098】
[6]本実施形態の運転制御方法では、第2走行経路が非直線部分を含む場合には、自車両の操舵操作に対する応答特性を含む車両特性に基づいて予め設定されたマージン量をオフセットの量に含ませるので、自車両の操舵操作に対する応答特性を含む車両特性を考慮してオフセットの量を決定できる。これにより、自車両OV1の性能を考慮した第2走行経路を算出できる。
【0099】
[7]本実施形態の運転制御方法では、検出情報に基づいて、第1対象物又は第2対象物の走行経路の路幅方向に沿う移動量が所定量以上である場面を「対象場面」として検出する。第1対象物又は第2対象物の横変位(路幅方向に沿う移動)は、自車両OV1の横方向への移動のトリガとなり、また横方向への移動を制限する原因となる。このような場面を「対象場面」として検出するので、第2走行経路を適切な場面で算出できる。
【0100】
[8]本実施形態の運転制御方法では、走行経路の進行方向(X軸方向)に沿う第1対象物CV又は第2対象物PVと自車両OV1との距離が所定距離未満である場面を、対象場面として検出する。第1対象物CVと、第2対象物PVと、自車両OV1の縦位置がずれていても、走行経路を補正することが適切である対象場面として特定することができる。これにより、第2走行経路を算出すべき対象場面を適切に検出できる。
【0101】
[9]本実施形態の運転制御方法では、基準対象物の存在領域の走行経路に沿う長さが所定値以上である場合には、リスクポテンシャルが相対的に低い回避対象物との距離に基づいて第2走行経路を算出する。例えば、基準対象物CVが連続する複数台数の車両である場合などにおいては、基準対象物CVの位置が特定できない場合がある。このような場合においては、リスクポテンシャルが相対的に低い第1対象物又は第2対象物である回避対象物PVとの距離に基づいて第2走行経路RT2を算出する。回避対象物PVを基準とした第2走行経路RTを算出する。これにより、基準対象物CVの横位置が正確に検出できない場合であっても、第2走行経路を算出できる。
【0102】
[10]本実施形態の運転制御方法では、検出情報に基づいて、第1対象物と第2対象物との間を自車両が通過する予測時刻を基準として対象場面を検出する。予測された位置を、基準の自車両OV1の位置[X(OV1)]とする。これにより、対象場面を正確に検出できる。
【0103】
[11]本実施形態の運転制御装置100は、上述した運転制御方法と同様の作用及び効果を奏する。
【0104】
なお、以上説明した実施形態は、本発明の理解を容易にするために記載されたものであって、本発明を限定するために記載されたものではない。したがって、上記の実施形態に開示された各要素は、本発明の技術的範囲に属する全ての設計変更や均等物をも含む趣旨である。
【符号の説明】
【0105】
1…運転制御システム
100…運転制御装置
10…制御装置
11…プロセッサ
20…出力装置
30…通信装置
200…車載装置
210…車両コントローラ
220…ナビゲーション装置
221…位置検出装置
222…地図情報
223…道路情報
224…交通規則情報
230…検出装置
231…カメラ
232…レーダー装置
240…レーンキープ装置
241…カメラ
242…道路情報
250…出力装置
251…ディスプレイ
252…スピーカ
260…センサ
261…舵角センサ
262…車速センサ
263…姿勢センサ
270…駆動装置
271…制動装置
280…操舵装置
図1
図2A
図2B
図3A
図3B
図3C
図4A
図4B
図5A
図5B
図6A
図6B
図6C
図7
図8