(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-11
(45)【発行日】2022-10-19
(54)【発明の名称】ハイドロゲル構造体、その製造方法、及び臓器モデル
(51)【国際特許分類】
B32B 27/00 20060101AFI20221012BHJP
B32B 27/24 20060101ALI20221012BHJP
G09B 23/30 20060101ALI20221012BHJP
C08L 101/00 20060101ALI20221012BHJP
C08K 3/00 20180101ALI20221012BHJP
C08J 7/04 20200101ALI20221012BHJP
C08J 7/12 20060101ALI20221012BHJP
【FI】
B32B27/00 C
B32B27/24
G09B23/30
C08L101/00
C08K3/00
C08J7/04 U CEY
C08J7/12 C
(21)【出願番号】P 2018066758
(22)【出願日】2018-03-30
【審査請求日】2021-01-18
(73)【特許権者】
【識別番号】000006747
【氏名又は名称】株式会社リコー
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(74)【代理人】
【識別番号】100107515
【氏名又は名称】廣田 浩一
(72)【発明者】
【氏名】斉藤 拓也
(72)【発明者】
【氏名】松村 貴志
(72)【発明者】
【氏名】新美 達也
【審査官】磯部 洋一郎
(56)【参考文献】
【文献】特表2013-510175(JP,A)
【文献】特開2011-246714(JP,A)
【文献】特開2010-095586(JP,A)
【文献】特開2017-105154(JP,A)
【文献】特開昭62-183760(JP,A)
【文献】国際公開第2017/165389(WO,A1)
【文献】特許第6055069(JP,B2)
【文献】国際公開第93/003841(WO,A1)
【文献】特表2009-531083(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00-43/00
G09B 23/30
C08L 101/00
C08K 3/00
C08J 7/04
C08J 7/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも、水、ポリマー、及び鉱物から構成されるハイドロゲル構造体であって、
前記ハイドロゲル構造体の表面に、皮膜を有し、
前記皮膜は、前記ハイドロゲル構造体側のアンダーコート部分と、前記ハイドロゲル構造体とは反対側のオーバーコート部分とを有し、
前記アンダーコート部分の組成は、前記オーバーコート部分の組成とは異なり、
前記オーバーコート部分が、塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体を含み、
前記皮膜の剥離強度が、剥離強度の測定で1.0N/mm以上を示すことを特徴とするハイドロゲル構造体。
【請求項2】
少なくとも、水、ポリマー、及び鉱物から構成されるハイドロゲル構造体であって、
前記ハイドロゲル構造体の表面に、皮膜を有し、
前記皮膜は、前記ハイドロゲル構造体側のアンダーコート部分と、前記ハイドロゲル構造体とは反対側のオーバーコート部分とを有し、
前記アンダーコート部分の組成は、前記オーバーコート部分の組成とは異なり、
前記オーバーコート部分が、塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体を含み、
前記アンダーコート部分が、Si-O-CO-NH-の構造を有することを特徴とするハイドロゲル構造体。
【請求項3】
少なくとも、水、ポリマー、及び鉱物から構成されるハイドロゲル構造体であって、
前記ハイドロゲル構造体の表面に、皮膜を有し、
前記皮膜は、前記ハイドロゲル構造体側のアンダーコート部分と、前記ハイドロゲル構造体とは反対側のオーバーコート部分とを有し、
前記アンダーコート部分の組成は、前記オーバーコート部分の組成とは異なり、
前記オーバーコート部分が、塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体を含み、
前記アンダーコート部分が、イソシアネート基を含む組成物からなることを特徴とするハイドロゲル構造体。
【請求項4】
前記皮膜の水蒸気透過度が、400g/(m
2
・day)以下である、請求項1から3のいずれかに記載のハイドロゲル構造体。
【請求項5】
少なくとも、水、ポリマー、及び鉱物から構成されるハイドロゲル構造体の製造方法であって、
前記ハイドロゲル構造体の表面に、イソシアネート基を含む組成物を接触させてアンダーコート部分を形成した後、前記アンダーコート部分上に、塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体を含む組成物を接触させてオーバーコート部分を形成する皮膜形成工程、
を含むことを特徴とするハイドロゲル構造体の製造方法。
【請求項6】
少なくとも、水、ポリマー、及び鉱物から構成されるハイドロゲル構造体と、
前記ハイドロゲル構造体の表面に配される皮膜と、を有する臓器モデルであって、
前記皮膜は、前記ハイドロゲル構造体側のアンダーコート部分と、前記ハイドロゲル構造体とは反対側のオーバーコート部分とを有し、
前記アンダーコート部分の組成は、前記オーバーコート部分の組成とは異なり、
前記オーバーコート部分が、塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体を含み、
前記皮膜の剥離強度が、剥離強度の測定で1.0N/mm以上を示すことを特徴とする臓器モデル。
【請求項7】
少なくとも、水、ポリマー、及び鉱物から構成されるハイドロゲル構造体と、
前記ハイドロゲル構造体の表面に配される皮膜と、を有する臓器モデルであって、
前記皮膜は、前記ハイドロゲル構造体側のアンダーコート部分と、前記ハイドロゲル構造体とは反対側のオーバーコート部分とを有し、
前記アンダーコート部分の組成は、前記オーバーコート部分の組成とは異なり、
前記オーバーコート部分が、塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体を含み、
前記アンダーコート部分が、Si-O-CO-NH-の構造を有することを特徴とする臓器モデル。
【請求項8】
少なくとも、水、ポリマー、及び鉱物から構成されるハイドロゲル構造体と、
前記ハイドロゲル構造体の表面に配される皮膜と、を有する臓器モデルであって、
前記皮膜は、前記ハイドロゲル構造体側のアンダーコート部分と、前記ハイドロゲル構造体とは反対側のオーバーコート部分とを有し、
前記アンダーコート部分の組成は、前記オーバーコート部分の組成とは異なり、
前記オーバーコート部分が、塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体を含み、
前記アンダーコート部分が、イソシアネート基を含む組成物からなることを特徴とする臓器モデル。
【請求項9】
前記皮膜が、前記ハイドロゲル構造体と異なる色を有する、請求項6から8のいずれかに記載の臓器モデル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハイドロゲル構造体、その製造方法、及び臓器モデルに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ソフトマテリアルの1つとしてハイドロゲルが注目されている。
ハイドロゲルは、ゲル内に形成された高分子ネットワークに水が取り込まれることで全体重量の7~8割以上の水を保持することができる。これにより「低摩擦」「高含水率」「柔らかさ」などといった、金属や樹脂では見ることができない特別な性質を持つ。
トポロジカルゲル、テトラペグゲル、ダブルネットワークゲル、ナノコンポジッド(NC)ゲル等に代表される、高強度のゲルが開発されており、今までのハイドロゲルが抱えていた、変形に弱く脆いという課題は解決されつつある。特に内部構造に鉱物を含むNCゲルは、得られるゲルの透明性が高く、高弾性でありながら柔軟性があることから、産業用途にとどまらず、医療用途や美容用途など、幅広い応用が期待できる。
一方、ハイドロゲルは多くの水を取り込んでいることから、大気中に放置すると経時で乾燥し、形状や弾性などが変化してしまう。
【0003】
この解決策として、高分子ゲルに、アクリル樹脂組成物とヘキサンジオールアクリレートと開始剤の混合物をコーティングし、熱硬化させて皮膜を形成する方法が提案されている(特許文献1参照)。また、ハイドロゲルに、高保湿多糖体、オイル、あるいは沸点の高い水溶性有機媒体を含浸させて保湿性皮膜を形成する方法が提案されている(特許文献2参照)。また、ハイドロゲル構造体に、ポリエステル、ポリオレフィン、あるいはポリ塩化ビニル等の樹脂皮膜を設ける方法が提案されている(特許文献3参照)。
更にハイドロゲル構造体を用いた応用例として、臓器モデルが挙げられるが、上記特許文献2及び3では、ハイドロゲル表面に皮膜を有する臓器モデルについても提案されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、保存時の乾燥を抑制し形状保持機能に優れた、表面に皮膜を有するハイドロゲル構造体であって、表面のベタつきがなく操作性に優れ、皮膜がハイドロゲル構造体から剥離しない皮膜の密着性に優れた、ハイドロゲル構造体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するための手段としての本発明のハイドロゲル構造体は、
少なくとも、水、ポリマー、及び鉱物から構成されるハイドロゲル構造体であって、
前記ハイドロゲル構造体の表面に、皮膜を有し、
前記皮膜の剥離強度が、剥離強度の測定で1.0N/mm以上を示すことを特徴とする。
【発明の効果】
【0006】
本発明によると、保存時の乾燥を抑制し形状保持機能に優れた、表面に皮膜を有するハイドロゲル構造体であって、表面のベタつきがなく操作性に優れ、皮膜がハイドロゲル構造体から剥離しない皮膜の密着性に優れた、ハイドロゲル構造体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】
図1は、鉱物としての水膨潤性層状粘土鉱物、及び水膨潤性層状粘土鉱物を水中で分散させた状態の一例を示す模式図である。
【
図2】
図2は、本発明のハイドロゲル構造体を成型するために使用する型の一例を示す概略図である。
【
図3】
図3は、本発明のハイドロゲル構造体を成型するために使用する型の他の一例を示す概略図である。
【
図4】
図4は、型から取り出した本発明のハイドロゲル構造体の一例を示す概略図である。
【
図5】
図5は、本発明のハイドロゲル構造体の他の一例を示す概略図である。
【
図6】
図6は、ハイドロゲル構造体を作製するための三次元プリンターの一例を示す概略図である。
【
図7】
図7は、三次元プリンターで作製したハイドロゲル構造体をサポート材から剥離した一例を示す概略図である。
【
図8】
図8は、ハイドロゲル構造体を作製するための別方式の三次元プリンターの一例を示す概略図である。
【
図9】
図9は、表面に皮膜を有する臓器モデルの一例を示す概略図である。
【
図10】
図10は、皮膜を有するハイドロゲル構造体の構成の一例を示す概略図である。
【
図11】
図11は、皮膜を有するハイドロゲル構造体の構成の他の一例を示す概略図である。
【
図12】
図12は、圧子を押し込む試験方法について説明するための概略図である。
【
図13】
図13は、剥離試験方法について説明するための概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
上述したように、ハイドロゲルは多くの水を取り込んでいるため、大気中に放置すると経時で乾燥し、形状や弾性などが変化してしまう。そこで、保存時の乾燥を抑制し形状保持機能に優れたハイドロゲル構造体の提供が求められている。
上記特許文献1から3に記載のハイドロゲル構造体は、皮膜を有しているため、保存時の乾燥を抑制でき、ある程度の効果は期待できるものの、以下の問題があり、充分とはいえなかった。
上記特許文献1に記載のハイドロゲル構造体は、皮膜とハイドロゲルとの密着性が高くなく、強い外力が加わった場合、皮膜は剥離してしまう。
上記特許文献2に記載のハイドロゲル構造体は、表面が粘稠性を有しベタつき、不快な触感を与える。また、例えば、器具を使ってハイドロゲル構造体に何らかの操作をしようとすると、器具が皮膜に触れた際、皮膜の粘稠性により、皮膜の構成物質が器具に付着し、器具はベタつき、操作性を害する。
上記特許文献3に記載のハイドロゲル構造体は、上記特許文献1の場合と同様に、皮膜とハイドロゲルとの密着性が高くなく、強い外力が加わった場合、皮膜は剥離してしまう。
そこで、保存時の乾燥を抑制し形状保持機能に優れた、表面に皮膜を有するハイドロゲル構造体であって、さらに、表面のベタつきがなく操作性に優れ、皮膜がハイドロゲル構造体から剥離しない皮膜の密着性に優れた、ハイドロゲル構造体の提供が望まれていた。
本発明者らは、検討を重ねた結果、以下に記載の構成を有するハイドロゲル構造体を提供する。
【0009】
(ハイドロゲル構造体)
本発明のハイドロゲル構造体は、少なくとも、水、ポリマー、及び鉱物から構成されるハイドロゲル構造体の表面上に、皮膜が形成されている。このように、本発明のハイドロゲル構造体は、水と、ポリマーと、鉱物とを含むハイドロゲル構造体の本体部分と、該ハイドロゲル構造体の本体部分の表面に配される皮膜とを有する。
ハイドロゲル構造体(本体部分)は、水と、ポリマーと、鉱物とを含むハイドロゲルを含み、更に、必要に応じて、有機溶媒やその他の成分を含んでもよい。
ハイドロゲルの好ましい態様としては、水に分散された鉱物と、重合性モノマーが重合したポリマーとが複合化して形成された三次元網目構造の中に、水が包含されているハイドロゲルが挙げられる。
【0010】
本発明では、皮膜が、下記(1)から(3)の少なくともいずれかで示す特徴を有する。
(1)皮膜の剥離強度が、剥離試験による剥離強度の測定で1.0N/mm以上を示す。尚、剥離試験の具体的な測定方法については、後述する。
(2)皮膜のハイドロゲル構造体側が、Si-O-CO-NH-の構造を有する。
(3)皮膜のハイドロゲル構造体側が、イソシアネート基を含む組成物からなる。
上記(1)から(3)の少なくともいずれかの特徴を有する皮膜付きハイドロゲル構造体は、保存時の乾燥を抑制し形状保持機能に優れたものとなる。さらに、表面のベタつきがなく操作性に優れ、皮膜がハイドロゲル構造体から剥離しない皮膜の密着性に優れたものとなる。
【0011】
本発明のハイドロゲル構造体は、ハイドロゲル構造体の本体部分の表面に配される皮膜が、皮膜の層が同一の組成で形成されている単一の皮膜層からなる皮膜であっても、あるいは、皮膜の層内において、組成の異なる部分を有する皮膜であってもよい。
皮膜が、組成の異なる部分を有する皮膜である場合、ハイドロゲル構造体側とハイドロゲル構造体側の反対側とで、皮膜の組成は異なっているとよい。より詳しくは、皮膜は、ハイドロゲル構造体側に位置するアンダーコートとして機能する部分と、ハイドロゲル構造体側とは反対側に位置し、アンダーコート部分とは組成の異なるオーバーコートとして機能する部分とを有しているとよい。以下、アンダーコートとして機能する部分をアンダーコート部分と、オーバーコートとして機能する部分をオーバーコート部分ともいう。
ここで、組成が異なるとは、組成が一致していないことをいい、例えば、皮膜を構成する物質の種類が異なる場合や、物質の種類が同じであってもその量比が異なる場合等をいう。
皮膜が、アンダーコート部分とオーバーコート部分とを含む場合、アンダーコート部分の皮膜は、上述した(2)や(3)の特徴を示す。一方、オーバーコート部分の皮膜は、アンダーコート部分の皮膜とは組成が異なっており、例えば、オーバーコート部分は、ハイドロゲル構造体(本体部分)に対し反応性を示さない非反応性のポリマーからなることがより好ましい。
組成が異なるアンダーコート部分とオーバーコート部分とを含む皮膜を形成するには、例えば、ハイドロゲル構造体の表面に、イソシアネート基を含む組成物を接触させる。次に、その組成物上に、ハイドロゲル構造体に対し非反応性を示すポリマーを、接触させるなどの方法が挙げられる。尚、皮膜の形成方法についての詳しい説明は、後述する。
本発明では、ハイドロゲル構造体側とその反対側とで、組成が異なる状態の皮膜が形成できればよく、その皮膜において、どの部分がアンダーコート部分であり、あるいはどの部分がオーバーコート部分であるかが特定される必要はない。例えば、アンダーコート部分とオーバーコート部分とが一体形成され、境界部分が不明である場合もある。したがって、皮膜の層全体として、ハイドロゲル構造体側とその反対側とで、組成が異なっていると認識できれば、アンダーコート部分とオーバーコート部分の明確な区別は必要ではない。
皮膜がアンダーコート部分とオーバーコート部分とを含むことにより、オーバーコート部分に様々な機能を付与することができる。例えば、表面性や物性を改質することができ、耐乾燥性、防汚性、防腐性、防カビ性、形状維持性、耐熱性/低温特性、タック性改善、滑り止め(滑性変更)、絶縁性などの各種性能を向上させる機能を付与することができる。
【0012】
本発明のハイドロゲル構造体の構成について説明する。
図10は、皮膜を有するハイドロゲル構造体の構成の一例を示す概略図である。
ハイドロゲル201の外周に、皮膜202が形成されている。
次に、アンダーコート部分とオーバーコート部分とを含む皮膜を有するハイドロゲル構造体を示す。
図11は、皮膜を有するハイドロゲル構造体の構成の他の一例を示す概略図である。
ハイドロゲル201の外周に、皮膜202(ハイドロゲルに接する側に配されるアンダーコート部分の皮膜)、及び皮膜202とは種類の異なるオーバーコート部分の皮膜203が配され、皮膜202と皮膜203とが一体となり皮膜が形成されている。
本発明のハイドロゲル構造体について、ハイドロゲル構造体の本体部分に関する説明と、皮膜部分に関する説明とに分けて、以下、詳しく説明する。
【0013】
<A.ハイドロゲル構造体(本体部分)>
ハイドロゲル構造体(本体部分)は、水と、ポリマーと、鉱物とを含むハイドロゲルを含み、更に必要に応じて、有機溶媒やその他の成分を含む。
ハイドロゲルの好ましい態様としては、水に分散された鉱物と、重合性モノマーが重合したポリマーとが複合化して形成された三次元網目構造の中に、水が包含されているハイドロゲルが挙げられる。
【0014】
<<ポリマー>>
ポリマーとしては、例えば、アミド基、アミノ基、水酸基、テトラメチルアンモニウム基、シラノール基、エポキシ基などを有するポリマーが挙げられ、水溶性を示すものであってもよい。
本発明において、ポリマーの水溶性とは、例えば、30℃の水100gに該ポリマーを1g混合して撹拌したとき、その90質量%以上が溶解するものを意味する。
ポリマーは、ホモポリマー(単独重合体)であってもよいし、ヘテロポリマー(共重合体)であってもよく、また、変性されていてもよいし、公知の官能基が導入されていてもよく、また塩の形態であってもよい。
ポリマーは、重合性モノマーを重合させることにより得られる。重合性モノマーを重合してハイドロゲル構造体(本体部分)を製造するハイドロゲル構造体の製造方法については、下記<<ハイドロゲル構造体(本体部分)の製造方法>>の欄で詳しく説明する。また、本発明で使用できる重合性モノマーについても、下記<<ハイドロゲル構造体(本体部分)の製造方法>>の欄で例示する。
【0015】
<<水>>
水としては、例えば、イオン交換水、限外濾過水、逆浸透水、蒸留水等の純水、又は超純水を用いることができる。
水には、保湿性付与、抗菌性付与、導電性付与、硬度調整などの目的に応じて有機溶媒等のその他の成分を溶解乃至分散させてもよい。
【0016】
<<鉱物>>
鉱物としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、水膨潤性層状粘土鉱物などが挙げられる。
例えば、
図1は、鉱物としての水膨潤性層状粘土鉱物、及び水膨潤性層状粘土鉱物を水中で分散させた状態の一例を示す模式図である。
図1の上図に示すように、水膨潤性層状粘土鉱物は、単一層の状態で存在しており、単位格子を結晶内に持つ二次元円盤状の結晶が積み重なった状態を呈している。更に、
図1の上図の水膨潤性層状粘土鉱物を水中で分散させると、
図1の下図に示すように、各単一層が分離して、複数の二次元円盤状の結晶となる。
水膨潤性層状粘土鉱物としては、例えば、水膨潤性スメクタイト、水膨潤性雲母などが挙げられる。より具体的には、ナトリウムを層間イオンとして含む水膨潤性ヘクトライト、水膨潤性モンモリナイト、水膨潤性サポナイト、水膨潤性合成雲母などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。これらの中でも、高弾性のハイドロゲル構造体、もしくは後述する臓器モデルが得られる点から、水膨潤性ヘクトライトが好ましい。
水膨潤性ヘクトライトは、適宜合成したものであってもよいし、市販品であってもよい。市販品としては、例えば、合成ヘクトライト(ラポナイトXLG、RockWood社製)、SWN(Coop Chemical Ltd.製)、フッ素化ヘクトライトSWF(Coop Chemical Ltd.製)などが挙げられる。これらの中でも、ハイドロゲル構造体、もしくは後述する臓器モデルの弾性率の点から、合成ヘクトライトが好ましい。
水膨潤性とは、
図1に示すように層状粘土鉱物の各単一層の間に水分子が挿入され、水中に分散されることを意味する。
鉱物の含有量は、ハイドロゲルの弾性率及び硬度の点から、ハイドロゲル構造体(本体部分)の全量に対して、1質量%以上40質量%以下が好ましく、1質量%以上25質量%以下がより好ましい。
【0017】
<<有機溶媒>>
有機溶媒は、ハイドロゲルの保湿性を高めるために含有されるとよい。
有機溶媒としては、例えば、メチルアルコール、エチルアルコール、n-プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、n-ブチルアルコール、sec-ブチルアルコール、tert-ブチルアルコール等の炭素数1~4のアルキルアルコール類;ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド等のアミド類;アセトン、メチルエチルケトン、ジアセトンアルコール等のケトン又はケトンアルコール類;テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル類;エチレングリコール、プロピレングリコール、1,2-プロパンジオール、1,2-ブタンジオール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、1,2,6-ヘキサントリオール、チオグリコール、ヘキシレングリコール、グリセリン等の多価アルコール類;ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等のポリアルキレングリコール類;エチレングリコールモノメチル(又はエチル)エーテル、ジエチレングリコールメチル(又はエチル)エーテル、トリエチレングリコールモノメチル(又はエチル)エーテル等の多価アルコールの低級アルコールエーテル類;モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン等のアルカノールアミン類;N-メチル-2-ピロリドン、2-ピロリドン、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノンなどが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。これらの中でも、保湿性の点から、多価アルコールが好ましく、グリセリン、プロピレングルコールがより好ましい。
有機溶媒の含有量は、ハイドロゲルの全量に対して、10質量%以上50質量%以下が好ましい。有機溶媒の含有量が10質量%以上であると、乾燥防止の効果が十分に得られる。また、有機溶媒の含有量が50質量%以下であると、層状粘土鉱物が均一に分散される。
【0018】
<<その他の成分>>
その他の成分としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。例えば、1-ヒドロキシエタン-1,1-ジホスホン酸等のホスホン酸化合物、安定化剤、表面処理剤、重合開始剤、着色剤、粘度調整剤、接着性付与剤、酸化防止剤、老化防止剤、架橋促進剤、紫外線吸収剤、可塑剤、防腐剤、分散剤などが挙げられる。
【0019】
<<ハイドロゲル構造体(本体部分)の製造方法>>
ハイドロゲル構造体(本体部分)の製造方法は、水、鉱物、及び重合性モノマーを含有するハイドロゲル形成用液体材料(ハイドロゲル前駆体)を用いてハイドロゲル構造体を製造するものである。
【0020】
<<<ハイドロゲル形成用液体材料>>>
ハイドロゲル形成用液体材料は、水、鉱物、及び重合性モノマーを含有し、有機溶媒を含有することが好ましく、更に必要に応じてその他の成分を含有する。
水、鉱物、有機溶媒、及びその他の成分については、上記<A.ハイドロゲル構造体(本体部分)>の欄で説明したとおりである。
【0021】
-重合性モノマー-
重合性モノマーは、不飽和炭素-炭素結合を1つ以上有する化合物であり、例えば、単官能モノマー、多官能モノマーなどが挙げられる。更に、多官能モノマーとして、2官能モノマー、3官能モノマー、4官能以上のモノマーなどが挙げられる。
単官能モノマーは、不飽和炭素-炭素結合を1つ有する化合物であり、例えば、アクリルアミド、N-置換アクリルアミド誘導体、N,N-ジ置換アクリルアミド誘導体、N-置換メタクリルアミド誘導体、N,N-ジ置換メタクリルアミド誘導体、その他の単官能モノマーなどが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
N-置換アクリルアミド誘導体、N,N-ジ置換アクリルアミド誘導体、N-置換メタクリルアミド誘導体、又はN,N-ジ置換メタクリルアミド誘導体としては、例えば、N,N-ジメチルアクリルアミド(DMAA)、N-イソプロピルアクリルアミドなどが挙げられる。
その他の単官能モノマーとしては、例えば、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート(EHA)、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート(HEA)、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート(HPA)、アクリロイルモルホリン(ACMO)、カプロラクトン変性テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、イソボニル(メタ)アクリレート、3-メトキシブチル(メタ)アクリレート、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、2-フェノキシエチル(メタ)アクリレート、イソデシル(メタ)アクリレート、イソオクチル(メタ)アクリレート、トリデシル(メタ)アクリレート、カプロラクトン(メタ)アクリレート、エトキシ化ノニルフェノール(メタ)アクリレート、ウレタン(メタ)アクリレートなどが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
単官能モノマーを重合させることにより、アミド基、アミノ基、水酸基、テトラメチルアンモニウム基、シラノール基、エポキシ基などを有する水溶性有機ポリマーが得られる。
アミド基、アミノ基、水酸基、テトラメチルアンモニウム基、シラノール基、エポキシ基などを有する水溶性有機ポリマーは、ハイドロゲル構造体、もしくは後述する臓器モデルの強度を保つために有利な構成成分である。
単官能モノマーの含有量は、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、ハイドロゲル形成用液体材料の全量に対して、1質量%以上10質量%以下が好ましく、1質量%以上5質量%以下がより好ましい。単官能モノマーの含有量が、1質量%以上10質量%以下の範囲であると、ハイドロゲル形成用液体材料中の層状粘土鉱物の分散安定性が保たれ、かつハイドロゲル構造体の延伸性を向上させるという利点がある。延伸性とは、ハイドロゲル構造体を引っ張った際に伸び、破断しない特性のことを言う。
【0022】
2官能モノマーとしては、例えば、トリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、テトラエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールヒドロキシピバリン酸エステルジ(メタ)アクリレート(MANDA)、ヒドロキシピバリン酸ネオペンチルグリコールエステルジ(メタ)アクリレート(HPNDA)、1,3-ブタンジオールジ(メタ)アクリレート(BGDA)、1,4-ブタンジオールジ(メタ)アクリレート(BUDA)、1,6-ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート(HDDA)、1,9-ノナンジオールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート(DEGDA)、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート(NPGDA)、トリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート(TPGDA)、カプロラクトン変性ヒドロキシピバリン酸ネオペンチルグリコールエステルジ(メタ)アクリレート、プロポキシ化ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、エトキシ変性ビスフェノールAジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコール200ジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコール400ジ(メタ)アクリレート、メチレンビスアクリルアミドなどが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0023】
3官能モノマーとしては、例えば、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート(TMPTA)、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート(PETA)、トリアリルイソシアネート、トリス(2-ヒドロキシエチル)イソシアヌレートトリ(メタ)アクリレート、エトキシ化トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート,プロポキシ化トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、プロポキシ化グリセリルトリ(メタ)アクリレートなどが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0024】
4官能以上のモノマーとしては、例えば、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヒドロキシペンタ(メタ)アクリレート、エトキシ化ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ペンタ(メタ)アクリレートエステル、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート(DPHA)などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0025】
多官能モノマーの含有量は、ハイドロゲル形成用液体材料の全量に対して、0.001質量%以上1質量%以下が好ましく、0.01質量%以上0.5質量%以下がより好ましい。多官能モノマーの含有量が、0.001質量%以上1質量%以下の範囲であると、得られるハイドロゲル構造体の弾性率や硬度を適正な範囲に調整することができる。
【0026】
ハイドロゲル形成用液体材料は、重合開始剤を用いて硬化させることが好ましい。重合開始剤は、ハイドロゲル形成用液体材料中に添加して使用される。
【0027】
-重合開始剤-
重合開始剤としては、例えば、熱重合開始剤、光重合開始剤などが挙げられる。
熱重合開始剤としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、アゾ系開始剤、過酸化物開始剤、過硫酸塩開始剤、レドックス(酸化還元)開始剤などが挙げられる。
アゾ系開始剤としては、例えば、VA-044、VA-46B、V-50、VA-057、VA-061、VA-067、VA-086、2,2’-アゾビス(4-メトキシ-2,4-ジメチルバレロニトリル)(VAZO 33)、2,2’-アゾビス(2-アミジノプロパン)二塩酸塩(VAZO 50)、2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)(VAZO 52)、2,2’-アゾビス(イソブチロニトリル)(VAZO 64)、2,2’-アゾビス-2-メチルブチロニトリル(VAZO 67)、1,1-アゾビス(1-シクロヘキサンカルボニトリル)(VAZO 88)(いずれもDuPont Chemical社から入手可能)、2,2’-アゾビス(2-シクロプロピルプロピオニトリル)、2,2’-アゾビス(メチルイソブチレ-ト)(V-601)(和光純薬工業株式会社より入手可能)などが挙げられる。
【0028】
過酸化物開始剤としては、例えば、過酸化ベンゾイル、過酸化アセチル、過酸化ラウロイル、過酸化デカノイル、ジセチルパーオキシジカーボネート、ジ(4-t-ブチルシクロヘキシル)パーオキシジカーボネート(Perkadox 16S)(Akzo Nobel社から入手可能)、ジ(2-エチルヘキシル)パーオキシジカーボネート、t-ブチルパーオキシピバレート(Lupersol 11)(Elf Atochem社から入手可能)、t-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート(Trigonox 21-C50)(Akzo Nobel社から入手可能)、過酸化ジクミルなどが挙げられる。
【0029】
過硫酸塩開始剤としては、例えば、過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウム、過硫酸アンモニウム、ペルオキソ二硫酸ナトリウムなどが挙げられる。
レドックス(酸化還元)開始剤としては、例えば、過硫酸塩開始剤とメタ亜硫酸水素ナトリウム及び亜硫酸水素ナトリウムのような還元剤との組み合わせ、有機過酸化物と第3級アミンに基づく系(例えば、過酸化ベンゾイルとジメチルアニリンに基づく系)、有機ヒドロパーオキシドと遷移金属に基づく系(例えば、クメンヒドロパーオキシドとコバルトナフテートに基づく系)などが挙げられる。
【0030】
光重合開始剤としては、光(特に波長220nm~400nmの紫外線)の照射によりラジカルを生成する任意の物質を用いることができる。
光重合開始剤としては、例えば、アセトフェノン、2,2-ジエトキシアセトフェノン、p-ジメチルアミノアセトフェノン、ベンゾフェノン、2-クロロベンゾフェノン、p,p’-ジクロロベンゾフェノン、p,p-ビスジエチルアミノベンゾフェノン、ミヒラーケトン、ベンジル、ベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、ベンゾイン-n-プロピルエーテル、ベンゾインイソブチルエーテル、ベンゾイン-n-ブチルエーテル、ベンジルメチルケタール、チオキサントン、2-クロロチオキサントン、2-ヒドロキシ-2-メチル-1-フェニル-1-オン、1-(4-イソプロピルフェニル)2-ヒドロキシ-2-メチルプロパン-1-オン、メチルベンゾイルフォーメート、1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、アゾビスイソブチロニトリル、ベンゾイルペルオキシド、ジ-tert-ブチルペルオキシドなどが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
なお、テトラメチルエチレンジアミンは、アクリルアミドをポリアクリルアミドゲルとする重合・ゲル化反応の開始剤として用いられる。
【0031】
ハイドロゲル構造体(本体部分)の製造方法としては、大きく分けて、例えば、型を用いて形成する方法と、三次元プリンターを用いて直接形成する方法との2つの方法がある。
以下、これら2つの方法について説明する。
【0032】
<<<型を用いてハイドロゲル構造体(本体部分)を形成する方法>>>
型を用いて形成する方法は、ハイドロゲル形成用液体材料を型に流し込み、硬化させることにより、ハイドロゲル構造体(本体部分)を形成する方法である。
所望の形状のハイドロゲル構造体を作製するために、狙いの形状の型を準備する。
例えば、
図2に示すような直方体101、又は
図3に示すような円柱102の場合には、それに応じた型を準備して、ハイドロゲル形成用液体材料を注入する。熱重合開始剤を用いて硬化する場合には、開始剤の種類に応じて反応温度を制御する。
ハイドロゲル形成用液体材料を注入し、密閉して空気(酸素)を遮断した後、室温もしくは所定温度に加温して重合反応を進行させる。重合が完了した後、型から取り出すことにより、ハイドロゲル構造体101が形成される(
図4参照)。
また、内部に組成の異なる部位を形成する場合には、別途、作製した部位104を
図3に示すような型にセットする。そして、ハイドロゲル形成用液体材料を注入し、硬化させることにより、
図5に示すような内部に組成の異なる部位を有するハイドロゲル構造体103を形成する。
光重合開始剤を用いて硬化する場合には、硬化手段として、紫外線等のエネルギー線をハイドロゲル形成用液体材料に照射する必要がある。このため、使用する型はエネルギー線に対して透明な材質で構成される。このような型に注入し、密閉して空気(酸素)を遮断した後、型の外側からエネルギー線を照射する。このようにして重合が完了した後、型から取り出すことにより、ハイドロゲル構造体を得る。
【0033】
図4及び
図5で示すような比較的単純な形状のハイドロゲル構造体でなく、例えば、臓器の形状を模したような外観のハイドロゲル構造体を形成する場合には、使用する型は、三次元プリンターを用いて作製することが好ましい。
三次元プリンターとしては、特に方式を限定するものではないが、ハイドロゲル形成用液体材料を注入して硬化させるものであるから、ハイドロゲル形成用液体材料の漏れの無いような材質や方式で形成することが好ましい。インクジェット(マテリアルジェット)方式、光造形方式、レーザー焼結方式などの三次元プリンターが好適に用いられる。
例えば、内蔵形状に合わせた型を作製する場合、内蔵のCTデータを取得し、これを元にオスメスの型を作製できるように三次元(3D)データに変換する。この3Dデータを基に、三次元プリンターにて、ハイドロゲル構造体を作製するための型を作製する。
このようにして、所望の形状データに基づき三次元プリンターにて作製した型に、ハイドロゲル形成用液体材料を流し込み、ハイドロゲル形成用液体材料を硬化させると、所望の形状のハイドロゲル構造体を得ることができる。
【0034】
<<<三次元プリンターを用いてハイドロゲル構造体(本体部分)を直接形成する方法>>>
三次元プリンターを用いた造形は、ハイドロゲル形成用液体材料を用い、三次元プリンターにて直接造形するものである。
三次元プリンターが、インクジェット方式の三次元プリンター、又は光造形方式の三次元プリンターであることが好ましい。これらの方法を用いると、組成分布や形状制御を行うことができ、所望の形状や物性を有するハイドロゲルを形成することができる。
三次元プリンターは、ハイドロゲル形成用液体材料を印字できる方式が好ましい。インクジェット(マテリアルジェット)方式、あるいはディスペンサー方式にてハイドロゲル形成用液体材料からなるインクを吐出し、UV光により硬化する方式が有効に用いられる。こちらの方法の場合、例えば、ハイドロゲル構造体、もしくは臓器モデルを形成する材料を複数用いることができるため、ハイドロゲル全体を同一組成ではなく、組成に分布を設けることが可能になる。特に、超音波の伝搬速度をコントロールできるような組成分布を設けることができる。これは、正常細胞でない部分を再現する場合に、有効な手法である。
【0035】
例えば、
図6は、インクジェット(IJ)方式の三次元プリンター10を示す。インクジェットヘッドを配列したヘッドユニットを用いて、造形体用液体材料噴射ヘッドユニット11からハイドロゲル形成用液体材料を、支持体用液体材料噴射ヘッドユニット12、12から支持体形成用液体材料を噴射する。隣接した紫外線照射機13、13でハイドロゲル形成用液体材料及び支持体形成用液体材料を硬化しながら積層する。更に、三次元プリンター10は、造形体支持基板14と、平滑化部材16が含まれる。
液体材料噴射ヘッドユニット11、12及び紫外線照射機13と、造形体(ハイドロゲル構造体)17及び支持体18とのギャップを一定に保つため、積層回数に合わせて、ステージ15を下げながら積層する。
三次元プリンター10では、紫外線照射機13、13は矢印A、Bいずれの方向に移動する際も使用し、その紫外線照射に伴って発生する熱により、積層された支持体形成用液体材料表面が平滑化され、結果としてハイドロゲル構造体の寸法安定性が向上できる。
造形終了後、
図7に示すようにハイドロゲル構造体17と支持体18を水平方向に引っ張り剥離したところ、支持体18は一体として剥離され、ハイドロゲル構造体17を容易に取り出すことができる。
【0036】
また、
図8に示すような光造形方式の三次元プリンターでは、ハイドロゲル形成液体材料を液槽24に溜め、液槽の表面27にレーザー光源21により出射された紫外線レーザー光23をレーザースキャナー22から照射する。そして、造形ステージ26上に硬化物を作製する。造形ステージ26はピストン25の作動により降下し、これを順次繰り返すことにより、造形物(ハイドロゲル構造体)28を得る。
【0037】
<B.皮膜>
次に、ハイドロゲル構造体の本体部分の表面に配される皮膜について、説明する。
上述したとおり、本発明のハイドロゲル構造体は、ハイドロゲル構造体の本体部分の表面に皮膜を有する。
皮膜は、皮膜の層が同一の組成で形成されている単一の皮膜層からなる皮膜であっても、あるいは、皮膜の層内において、組成の異なる部分を有する皮膜であってもよい。
皮膜が、組成の異なる部分を有する皮膜である場合、ハイドロゲル構造体側とハイドロゲル構造体側の反対側とで、皮膜の組成は異なっているとよい。より詳しくは、皮膜は、ハイドロゲル構造体側に位置するアンダーコート部分と、ハイドロゲル構造体側とは反対側に位置し、アンダーコート部分とは組成の異なるオーバーコート部分とを有しているとよい。
皮膜が、単一の皮膜層からなる皮膜である場合、該皮膜は、上述した(2)や(3)の特徴を示す(
図10参照)。
また、皮膜が、ハイドロゲル構造体側とハイドロゲル構造体側の反対側とで、組成が異なる皮膜である場合、ハイドロゲル構造体側に位置するアンダーコート部分の皮膜が、上述した(2)や(3)の特徴を示す。そして、ハイドロゲル構造体側とは反対側の表面側に位置するオーバーコート部分には、アンダーコート部分とは異なる組成の皮膜が配される(
図11参照)。
以下、皮膜について、第1の実施形態(単一の皮膜層からなる皮膜である場合)と、第2の実施形態(アンダーコート部分とオーバーコート部分とを含む皮膜である場合)に分けて、それぞれ説明する。
【0038】
<皮膜の第1の実施形態>
本発明のハイドロゲル構造体は、上述したように、ハイドロゲル構造体の表面に、皮膜が形成されている。この皮膜は、例えば、ハイドロゲル構造体の表面にイソシアネート基を含む組成物を接触させることにより形成される。皮膜を形成する方法については、下記<<第1の実施形態の皮膜の形成方法>>の欄で詳しく説明する。
イソシアネート基を含む組成物を接触させて、ハイドロゲル構造体を処理することで、ハイドロゲル表面に存在する官能基とイソシアネート基とが反応し、疎水性など所望の機能をハイドロゲル構造体の表面に付与することができる。
つまり、イソシアネート基を含む組成物をハイドロゲル構造体の表面に接触させることで、シラノール基とイソシアネート基とが反応し、Si-O-CO-NH-の結合基を有する皮膜を形成する。これにより、ハイドロゲル構造体の本体部分と強固に接着する皮膜を、ハイドロゲル構造体の表面に形成することができる。
【0039】
<<イソシアネート基を含む組成物>>
皮膜を形成するために使用する、イソシアネート基を含む組成物について、以下例示する。しかし、組成物の構造中にイソシアネート基を含んでいれば、下記例示に限られるものではない。
具体的には、イソシアン酸メチル、イソシアン酸エチル、イソシアン酸プロピル、イソシアン酸イソプロピル、イソシアン酸ブチル、イソシアン酸tert-ブチル、イソシアン酸ヘキシル、イソシアン酸ヘプチル、イソシアン酸オクチル、イソシアン酸ペンチル、イソシアン酸デシル、イソシアン酸ドデシル、イソシアン酸オクタデシル、イソシアン酸フェニル、イソシアン酸4-(トリフルオロメチル)フェニル、メタクリロイルオキシエチルイソシアネート、イソシアン酸クロロスルホニル、イソシアン酸p-トルエンスルホニル、イソシアン酸(R)-(+)-α-メチルベンジル、2-アクリロイルオキシエチルイソシアネート、などの、モノイソシアネート;TDI(2,4-トリレンジイソシアネート)、2,6-TDI(2,6-トリレンジイソシアネート)、MDI(4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート)、HDI(ヘキサメチレンジイソシアネート)、IPDI(イソホロンジイソシアネート)、H12-MDI(メチレンビス(シクロヘキサン-4,1-ジイル)ジイソシアネート)、TM-mXDI(m-フェニレンビス(1-メチルエタン-1,1-ジイル)ジイソシアネート)、TM-pXDI(ヘキサメチレンジイソシアネート)、mXDI(m-キシリレンジイルジイソシアネート)、1,5-NDI(ナフタレン-1,5-ジイルジイソシアネート)、TM-HDI(1,6-ジイソシアナト-2,2,4-トリメチルヘキサン)、TODI(3,3’-ジメチルビフェニル-4,4-ジイソシアネート)、mPDI(1,3-フェニレンジインシアネート)、pPDI(1,4-フェニレンジインシアネート)、1,3-CHDI(シクロヘキサン-1,3-ジイルジインシアネート)、1,4-CHDI(シクロヘキサン-1,4-ジイルジインシアネート)、DDI(ダイマ酸ジイソシアネート)、H6XDI(シクロヘキサン-1,3-ジイルビス(メチルインシアネート))、2,5-TDI(2-メチル-1,4-フェニレンジインシアネート)、2,4’-ODI(4-[(2-イソシアナトフェニル)オキシ]フェニルイソシアネート)、4,4’-ODI(4-[(4-イソシアナトフェニル)オキシ]フェニルイソシアネート)、1,4-NDI(ナフタレン-1,4-ジイルジイソシアネート)、2,6-NDI(ナフタレン-2,6-ジイルジイソシアネート)、2,7-NDI(ナフタレン-2,7-ジイルジイソシアネート)、M-CHDI(1-メチルシクロヘキサン-2,4-ジイルジイソシアネート)、DMO-BDI(2,2-ジメトキキシビフェニル-4,4’-ジイルジイソシアネート)、MC-HDI(2,6-ジイソシアナトヘキサン酸メチル)、3,5-TDI(5-メチル-1,3-フェニレンジイソシアネート)、2,2’-MDI(メチレンビス(2,1-フェニレン)ジイソシアネート)、2,4’-MDI(4-[(2-インシアナトフェニル)メチル]フェニルインシアネート)、DM-Si-Di(ジメチルジイソシアナトシラン)、TiP-mPDI(2,4,6-トリイソプロピルベンゼン-1,3-ジイルジイソシアネート)、DM-C5-DI(2,2-ジメチルペンタン-1,5-ジイルジイソシアネート)、2,4’-SDI(4-[(2-イソシアナトフェニル)チオ]フェニルイソシアネート)、C11-DI(ウンデカメチレンジイソシアネート)、DM-MDI(メチレンビス(2-メチル-4,1-フェニレン)ジイソシアネート)、Adi-DAI(アジポイルイソシアネート)、4,4’-EDI(4,4-エチレンビス(1-インシアナトベンゼン))、F6-BisDI(1-(トリフルオロメチル)-2,2,2-トリフルオロエチリデンビス(4,1-フェニレン)ジイソシアネート)、C4-DI(テトラメチレンジイソシアネート)、BDI(1,4-フェニレンビス(エチレン)ジイソシアネート)、PhEDI(1,4-フェニレンビス(エチレン)ジイソシアネート)、M-C2DI(1-メチルエチレンジイソシアネート)、C1-DI(メチレンジイソシアネート)、3,3‘-SODI(スルホニルビス(3,1-フェニレン)ジイソシアネート)、C2-DI(エチレンジイソシアネート)、C3-DI(トリメチレンジイソシアネート)、C5-DI(ペンタメチレンジイソシアネート)、C7-DI(へプタン-1,7-ジイルジイソシアネート)、C9-DI(ノナメチレンジイソシアネート)、C10-DI(デカメチレンジイソシアネート)、C13-DI(トリデカメチレンジイソシアネート)、C14-DI(テトラデカメチレンジイソシアネート)、C15-DI(ペンタデカメチレンジイソシアネート)、C16-DI(ヘキサデカメチレンジイソシアネート)、C4en-DI(2-ブテンジイソシアネート)、C4dien-DI(1,3-ブタジエン-1,4-ジイルジイソシアネート)、C4yn-DI(2-ブチニレンジインシアネート)、F6C3-DI(ヘキサフルオロプロパン-1,3-ジイルジイソシアネート)、F8C4-DI(オクタフルオロブタン-1,4-ジイルジイソシアネート)、ジメチルジイソシアネートシラン、ジエチルジイソシアネートシラン、などのジイソシアネート;1,3,6-ヘキサメチレントリイソシアネート、1,8-ジイソシアネート-4-イソシアナートメチルオクタン、2-イソシアナートエチル(2,6-ジイソシアネート)ヘキサノエート、1-メチルベンゼン-2,4,6-トリイソシアネート、ジフェニルメタン-2,4,4’-トリイソシアネート、トリフェニルメタン-4,4’,4’’-トリイソシアネート、1,6,11-ウンデカントリイソシアネート、1,3,5-トリイソシアネートベンゼン、メチルトリイソシアネートシラン、エチルトリイソシアネートシラン、イソプロピルトリイソシアネートシラン、ブチルトリイソシアネートシラン、フェニルトリイソシアネートシラン、テトライソシアネートシランなどの3官能以上のイソシアネートがある。
イソシアネート基を含む組成物は、単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。さらに、上記イソシアネート基を含む組成物の2量体、3量体を用いることができ、3量体はビウレット体、イソシアヌレート体の形態が好ましい。
また、上記イソシアネート基を含む組成物を、イソシアネート基と反応する化合物と混合して用いることも可能である。例えば、ポリオールと混合してウレタン結合を含む混合物としたり、ポリアミンと混合してポリウレアを含む混合物、ポリカルボン酸と混合してポリアミドを含む混合物にすることができる。得られた混合物は、NCO/OH等量比、NCO/NH2等量比、NCO/COOH等量比が1より大きくなるような量に調整し、意図的にイソシアネート基を残して用いることもできる。
【0040】
<<ウレタンプレポリマー>>
上記イソシアネート基を含む組成物の中でも、組成物がイソシアネート基を有するポリマーであることが、ハイドロゲルの質感を損なうことのない皮膜を形成することができ、より好ましい。
具体的には、ポリオール成分とジイソシアネート成分とを反応させて得られる末端イソシアネート基を含有するウレタン結合含有混合物(以下、ウレタンプレポリマーともいう)がより好ましい。
ポリオール化合物とジイソシアネート化合物との組み合わせは、特に限定されるものではなく、ポリオール化合物のそれぞれと、ジイソシアネート化合物のそれぞれとを任意の組み合わせにすることができる。例えば、次に記載の組み合わせから得られるウレタンプレポリマーが、物性調整、コスト、入手の容易さの点から好ましい。具体的には、ポリオキシエチレングリコール、ポリオキシプロピレングリコール、及びポリオキシプロピレントリオールから選ばれる少なくとも1種と、TDI、MDI、HDI、XDI、及びH6-XDIから選ばれる少なくとも1種とから得られるウレタンプレポリマーが好ましい。
ポリオール化合物としては、特に限定されず、例えば、ポリエーテルポリオール、ポリエステルポリオール、アクリルポリオール、ポリカーボネートポリオール、その他のポリオールのいずれであってもよい。また、これらのポリオールは単独で使用しても複数を混合して使用してもよい。具体的には、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリオキシエチレングリコール、ポリオキシプロピレングリコール、ポリオキシプロピレントリオール、ポリテトラメチレンエーテルグリコール、ポリマーポリオール、ポリ(エチレンアジペート)、ポリ(ジエチレンアジペート)、ポリ(プロピレンアジペート)、ポリ(テトラメチレンアジペート)、ポリ(ヘキサメチレンアジペート)、ポリ(ネオペンチレンアジペート)、ポリ-ε-カプロラクトン、ポリ(ヘキサメチレンカーボネート)、シリコーンポリオール等が好ましい。また、ヒマシ油などの天然系のポリオール化合物を使用してもよい。
また、ポリオール化合物は、硬化後の物性が優れることから、数平均分子量400~20,000のポリエーテルポリオールが好ましく、1,000~4,000のポリエーテルポリオールがより好ましい。
ウレタンプレポリマーのNCO%は、1%~25%の範囲にあることが好ましく、さらには5%~15%にあることが好ましい。NCO%の範囲に収まるウレタンプレポリマーは、形成される皮膜内に気泡を抱えることなく、塗工による均一な皮膜を形成できる。
ポリオール化合物とジイソシアネート化合物との反応は、特に制限されるものではなく、例えば、上述の量比のポリオール化合物とジイソシアネート化合物とを、50℃~100℃で加熱し撹拌して製造する方法が挙げられる。必要に応じて、有機錫化合物、有機ビスマス、三級アミンのようなウレタン化触媒を用いることができる。
【0041】
<<皮膜の剥離強度>>
上述したように、皮膜は、ハイドロゲルへの接着力が極めて高い。
したがって、剥離試験により剥離強度を測定した場合、本発明のハイドロゲル構造体における皮膜の剥離強度は1.0N/mm以上を示す。
剥離試験は、例えば、JIS Z 0237:2009の10.4.1に記載の方法において、試験板に対する180°引き剥がし粘着力を90°に置き換えた以外は、係る方法に準じて行うことができる。
より具体的には、下記に示す剥離試験により剥離強度を測定することができる。
(剥離試験による剥離強度)
ハイドロゲル構造体の一方の表面に皮膜を有する試験片(300±5mm×24±0.5mm×10±0.1mm)の両面を、シアノアクリレート系接着剤(高圧ガス工業株式会社;シアノン)0.1g/cm2をPETフィルムを介して接着し、
前記試験片における前記ハイドロゲル側の前記PETフィルムを、電動計測スタンド(株式会社イマダ製)と90度剥離試験治具(株式会社イマダ製;P90-200N)とを組み合わせた装置の平らな基台に固定し、
前記試験片における前記皮膜側の前記PETフィルムを、前記90度剥離試験治具を用い、前記PETフィルムの表面の一端側を上方にデジタルフォースゲージ5Nの力で50mm/minの条件で引っ張り、
前記一端側PETフィルムを10.0cm上昇させるまで、前記試験片における引張強度を測定し、2.5cm~7.5cmの測定結果の最大値を剥離強度(N/mm)とする。
【0042】
上記剥離試験について、
図13を用いて、より詳しく説明する。
図13で示すように、ハイドロゲル構造体(本体部分)401の表面に皮膜402が形成された試験片(縦300±5mm×横24±0.5mm×高さ10±0.1mm)を用意する。
下記測定は、25℃、65%RHの環境下で行う。
ハイドロゲル構造体(本体部分)401とPETフィルム405の間に、0.1g/cm
2のシアノアクリレート系接着剤403を液滴上に置く。そして、ハイドロゲル構造体(本体部分)401とPETフィルム405とに1N/cm
2の力を加えシアノアクリレート系接着剤403を圧着する。そして、ハイドロゲル構造体(本体部分)401とPETフィルム405とシアノアクリレート系接着剤403とを接着させる。
同様に、皮膜402とPETフィルム406の間に、シアノアクリレート系接着剤404を0.1g/cm
2置き、接着させる。
尚、PETフィルムとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、例えば、25μmのポリエチレンテレフタレートフィルム、より具体的には、テトロンG2、25μm、帝人フィルムソリューション株式会社製のPETフィルムを用いることができる。
シアノアクリレート系接着剤としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、例えば、シアノン、高圧ガス工業株式会社製の接着剤を用いることができる。
次に、試験片におけるハイドロゲル側のPETフィルムを、電動計測スタンドと90度剥離試験治具とを組み合わせた装置の平らな基台に固定する。
電動計測スタンドと90度剥離試験治具は、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、例えば、株式会社イマダ製の電動計測スタンドや同社のP90-200Nの90度剥離試験治具を用いることができる。
次に、試験片における皮膜側のPETフィルムを、90度剥離試験治具を用い、PETフィルムの表面の一端側を上方にデジタルフォースゲージ5Nの力で50mm/minの条件で引っ張る。
デジタルフォースゲージ5Nは、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、例えば、株式会社イマダ製のデジタルフォースゲージを用いることができる。
そして、一端側PETフィルムを10.0cm上昇させるまで、試験片における引張強度を測定する。2.5cm~7.5cmの測定結果の最大値を剥離強度(N/mm)とする。
【0043】
<<第1の実施形態の皮膜の形成方法>>
本発明のハイドロゲル構造体の製造方法は、ハイドロゲル構造体の表面に、イソシアネート基を含む組成物を接触させて、皮膜を形成する工程を有する。
ハイドロゲル構造体(本体部分)に皮膜を形成する方法としては、以下の方法が挙げられる。
例えば、イソシアネート基を含む組成物をハイドロゲル構造体の表面に塗布する方法が挙げられる。塗布方法としては、浸漬塗工、刷毛で塗布する、スプレーやインクジェットヘッドから液滴を吐出して塗布する、などの方法が挙げられる。
上記組成物には、塗工時のハンドリングを良くする目的で、任意の溶剤で希釈することができる。
例えば、水、メタノール、エタノール、イソプロパノール、プロピルアルコール、イソブチルアルコール、1-ブタノール、2-ブタノール、アセトン、メチルエチルケトン(MEK)、メチルイソブチルケトン(MIBK)、ジイソブチルケトン(DIBK)、ダイアセトンアルコール、アノン、イソホロン、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸プロピル、酢酸イソプロピル、酢酸ブチル、酢酸アミル、酢酸ペンチル、トルエン、キシレン、n-ヘキサン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、n-ヘプタン、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、テトラヒドロフラン、ジエチルエーテル、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド(DMSO)、乳酸エチル、γ-ブチロラクトン、トリアセチン、ベンゼン、エチルベンゼン、キシレン、スチレンモノマー、コールタールナフサ、セルソルブ、ソルベッソ、ソルフィット、イプゾール、ミネラルスピリット、石油ベンゼン、リモネン、シェルゾール、などで希釈することができる。
イソシアネート基を含む組成物に含まれる溶剤量は、溶剤を含む組成物全量に対し、20質量%~80質量%であると好ましく、30質量%~50質量%であるとより好ましい。この範囲であると、塗工時の膜厚が制御しやすい。
【0044】
<皮膜の第2の実施形態>
上述したとおり、ハイドロゲル構造体の表面に形成される皮膜は、ハイドロゲル構造体側とハイドロゲル構造体側の反対側とで、組成が異なっていてもよい。この場合、皮膜は、ハイドロゲル構造体側に位置するアンダーコート部分と、ハイドロゲル構造体側とは反対側に位置し、アンダーコート部分とは組成の異なるオーバーコート部分とを有する。
ハイドロゲル構造体側の皮膜、つまりアンダーコート部分の皮膜は、上記<皮膜の第1の実施形態>で記載したとおりである。
一方、ハイドロゲル構造体側とは反対側の皮膜、つまりオーバーコート部分の皮膜は、ハイドロゲル構造体(本体部分)に対し反応性を示さない非反応性のポリマーからなることがより好ましい。
ハイドロゲル構造体に対して非反応性のポリマー材料としては、例えば、以下のものが挙げられる。塩化ビニル、酢酸ビニル、ポリオレフィン、ポリウレタン、ポリエーテル、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリエステル、ポリエチレンテレフタレート、ポリフェニレンスルファイド(PPS)、ポリプロピレン、ポリエチレン、セロハン、アセテート、ポリスチレン、ポリカーボネート、ナイロン、ポリイミド、フッ素樹脂、酢酸セルロール、パラフィンワックス等、またはこれら複数の共重合体、を挙げることができる。これらは末端が変性されたものでもよい。中でも、塗工性ならびに成膜性が良いこと、汎用溶剤に可溶であることから、塩化ビニル、酢酸ビニル、ポリオレフィン、ポリウレタン、ポリエーテル、PVA、単独の重合体または複数の共重合体が望ましく、具体的には、塩ビ-酢ビ共重合体、エチレン-酢ビ共重合体、酸変性ポリオレフィン、ポリエーテルポリウレタンが挙げられる。
【0045】
オーバーコート部分の皮膜を形成する方法としては、上記<<第1の実施形態の皮膜の形成方法>>と同様に行うことができる。例えば、イソシアネート基を含む組成物の表面上に、ハイドロゲル構造体に対し非反応性のポリマーを含む材料を塗布し接触させる方法が挙げられる。
皮膜にオーバーコート部分を設けることにより、上述したように、ハイドロゲル構造体に様々な機能を付与することができる。表面性や物性を改質させることができ、耐乾燥性、防汚性、防腐性、防カビ性、形状維持性、耐熱性/低温特性、タック性改善、滑り止め(滑性変更)、絶縁性などの新たな機能を付与することができる。
【0046】
<皮膜におけるその他の特徴>
<<皮膜の水蒸気透過度>>
皮膜の水蒸気透過度が、400[g/(m2・day)]以下であることが好ましく、10[g/(m2・day)]~200[g/(m2・day)]の範囲であるとより好ましい。皮膜の水蒸気透過度がこの範囲であると、ハイドロゲル構造体の質感を維持しつつ、耐乾燥性を付与することができる。
【0047】
<<皮膜の厚み>>
皮膜の平均厚みは、1μm~1,000μmが好ましく、5μm~200μmがより好ましい。これらの範囲であると、ハイドロゲルの質感を保ちつつ、皮膜を施した効果が得られやすくなる。
ここで、平均厚みは、10点の厚みの平均値をいう。
【0048】
<<皮膜に添加するその他の成分>>
皮膜には、その他の成分を含有させてもよい。
その他の成分としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、以下のものが挙げられる。
着色剤として、顔料や染料など、着色剤や表面処理剤として、無機微粒子や樹脂微粒子などを含有させることができる。また、安定化剤、重合開始剤、粘度調整剤、接着性付与剤、酸化防止剤、老化防止剤、架橋促進剤、紫外線吸収剤、可塑剤、防腐剤、分散剤、界面活性剤などを含有させることができる。
【0049】
(臓器モデル)
本発明のハイドロゲル構造体の好ましい応用例として、外科手術等の手技練習に用いる臓器モデルが挙げられる。以下、臓器モデルについて説明する。
本発明の臓器モデルは、水、ポリマー、及び鉱物から構成されるハイドロゲル構造体(本体部分)と、ハイドロゲル構造体の表面に配される皮膜と、を有する。
また、本発明の臓器モデルは、ハイドロゲル構造体の本体部分の表面に配される皮膜が、上述したように、皮膜の層が同一の組成で形成されている単一の皮膜層からなる皮膜であってもよい。あるいは、皮膜が、皮膜の層内において、組成の異なる部分を有する皮膜であってもよい。より詳しくは、皮膜が、ハイドロゲル構造体側とハイドロゲル構造体側の反対側とで、皮膜の組成が異なっているとよい。さらに詳しくは、皮膜は、ハイドロゲル構造体側に位置するアンダーコート部分と、ハイドロゲル構造体側とは反対側に位置し、アンダーコート部分とは組成の異なるオーバーコート部分とを有しているとよい。
ハイドロゲル構造体(本体部分)と皮膜については、上記(ハイドロゲル構造体)の欄で説明したとおりである。
上述したように、本発明のハイドロゲル構造体における皮膜は、ハイドロゲルへの接着力が極めて高く、皮膜がハイドロゲル構造体から剥離しない。また、本発明のハイドロゲル構造体における皮膜は、表面のベタつきがなく操作性に優れている。
したがって、本発明のハイドロゲル構造体を用いた臓器モデルは、以下の特徴を有する。
本発明の臓器モデルは、弾力が実際の臓器と同等かそれに極めて近い状態にすることができる。また本発明の臓器モデルは、伸張性を有し、臓器と同等の触感が得られるため、手術用メス、ハサミなどによる切れ味が所望の臓器と極めて近くなる。
本発明の臓器モデルにより、外科手術等の手技練習用臓器モデルとして、リアルな触感、切れ味、縫合具合の質感を備え、かつ取り扱い性にも優れた臓器モデルを提供することができる。
【0050】
例えば、上記特許文献2に記載の臓器モデルでは、表面が粘稠性を有しベタつき、不快な触感を与える。また、例えば、器具を使ってハイドロゲル構造体に何らかの操作をしようとすると、器具が皮膜に触れた際、皮膜の粘稠性により、皮膜の構成物質が器具に付着し、器具はベタつき、操作性を害する。
また、上記特許文献3に記載の臓器モデルでは、皮膜とハイドロゲルとの密着性が高くなく、強い外力が加わった場合、皮膜は剥離してしまう。このため、上記特許文献3に記載の臓器モデルでは、メスやハサミで切った場合、皮膜が剥離してしまう。
【0051】
さらに、本発明では、上述したように、皮膜が、ハイドロゲル構造体側とハイドロゲル構造体側の反対側とで、組成を異ならせることができる。ハイドロゲルとの接着性・密着性に優れた皮膜をアンダーコート部分に形成し、アンダーコート部分とは種類の異なる皮膜を、オーバーコート部分に形成することができる。これにより、臓器モデルに様々な機能を付与することができる。例えば、乾燥防止や防腐性の機能を付与することができ、また、表面の粘調性を防止し、縫合トレーニングの際の不具合を解消し、操作性に優れた臓器モデルとすることができる。
【0052】
本発明の臓器モデルが適用できる部位には、特に制限はなく、人体内のあらゆる内臓部位を再現することが可能であるが、例えば、脳、心臓、食道、胃、膀胱、小腸、大腸、肝臓、腎臓、膵臓、脾臓、子宮などが挙げられる。
また、本発明の臓器モデルは、血管や疾患部等の内部構造を忠実に再現でき、かつ臓器の触感及び切れ味が所望の臓器に極めて近く、更に手術用メスでの切開が可能である。このため、例えば、医師、大学の医学部、病院などにおいて、医師、研修医、医学生などの手技練習用の臓器モデルとして好ましく適用できる。また、製造された手術用メスを出荷する前に、その切れ味を検査するための手術用メスの切れ味検査用の臓器モデル、手術を行う前に手術用メスの切れ味を確認するための臓器モデルなどとしても好ましく適用できる。
【0053】
ここで、臓器モデルの代表例として、
図9に記載の肝臓モデルを例に説明する。
肝臓は、上腹部の右側で肋骨の下にある人体最大の臓器であり、成人では重さが1.2kg~1.5kgである。肝臓は食べ物から摂取した栄養素を体が利用できる形にしたり、貯蔵・供給する「代謝」、有害物質を無毒化する「解毒」や、脂肪等の分解・吸収を助ける胆汁の分泌等の重要な働きをしている。
図9に示すように、肝臓30は、肝鎌状間膜33により前腹壁に固定されており、胆嚢31と下大静脈32を結ぶ主分割面(カントリー線)によって右葉34と左葉35に分割される。
図9中、36は外皮(皮膜)を、37は腫瘍を示す。
この肝臓の一部を切り取る手術が肝切除術である。肝切除術の適応となる病気としては、肝臓がん(原発性肝がん)が大部分であり、その他に転移性肝がん、肝良性腫瘍、肝外傷などが対象となる。
肝切除術は、切り方によって部分切除、亜区域切除、区域切除、葉切除、拡大葉切除、3区域切除などの種類がある。これらの部分は肝臓に印が付いているわけではなく、手術に際しては、その部分を栄養する門脈や肝動脈を縛ったり、血管に色素を注入したりして色の変化によって境目を見極めている。そして、電気メス、ハーモニックスカルペル(超音波振動手術器具)、CUSA(超音波外科用吸引装置)、マイクロターゼ(マイクロ波手術器)など、様々な機械を使って肝臓を切除している。
その際の手術シミュレーション用として、血管や疾患部等の内包物を忠実に再現でき、かつ臓器の触感及び切れ味が所望の臓器に極めて近く、更に手術用メスでの切開が可能である本発明の臓器モデルを好適に用いることができる。
【0054】
<臓器モデルの製造方法>
臓器モデルは、上述したハイドロゲル構造体の製造方法に準拠して製造することができる。
臓器モデルは複雑な形状を再現する必要がある場合があり、適切な加工方法で臓器モデル用型を製作し、型にハイドロゲル前駆体液を注入し硬化させる方法、あるいは3Dプリンターで直接造形する方法などが挙げられる。
【0055】
<<皮膜の形成>>
本発明の臓器モデルにおいて、皮膜は、上述した皮膜の形成方法に準拠して形成することができる。この際、使用する材料の種類、膜厚などは、実際の臓器に近い触感、物性を示す様、適切な選択となるよう充分留意する必要がある。
【0056】
<臓器モデルにおけるその他の特徴>
<<皮膜の色>>
臓器モデルにおけるハイドロゲル構造体(本体部分)及び皮膜の色は、使用者や作業者等の要望に応じ適宜選択されることができる。例えば、皮膜を、ハイドロゲル構造体の本体部分と異なる色で形成することができる。
【実施例】
【0057】
以下、実施例を示して本発明を更に具体的に説明するが、本発明は、これらの実施例により限定されるものではない。
【0058】
(実施例1)
<ハイドロゲル形成用液体材料の調製>
特開2017-026791号公報に掲載されているハイドロゲル前駆体液の調整方法に倣い、液体材料を得る。以下で記載の「純水」とは、減圧脱気を10分間実施したイオン交換水をいう。
まず、開始剤液として、純水98質量部に対してペルオキソ二硫酸ナトリウム(和光純薬工業株式会社製)2質量部を溶解させた水溶液を準備した。
次に、純水195質量部を攪拌させながら、層状粘土鉱物として[Mg5.34Li0.66Si8O20(OH)4]Na-
0.66の組成を有する合成ヘクトライト(ラポナイトXLG、RockWood社製)8質量部を少しずつ添加し、攪拌して分散液を作製した。
次に、前記分散液に重合性モノマーとして、活性アルミナのカラムを通過させて重合禁止剤を除去したN,N-ジメチルアクリルアミド(和光純薬工業株式会社製)を20質量部添加した。
次に、界面活性剤としてドデシル硫酸ナトリウム(和光純薬工業株式会社製)を0.2質量部添加し、混合した。
次に、得られた混合液を氷浴で冷却しながらテトラメチルエチレンジアミン(和光純薬工業株式会社製)を0.1質量部添加した。
次に、前記開始剤液を5質量部添加して攪拌混合した後、減圧脱気を10分間実施し、均質なハイドロゲル形成用液体材料を得た。
【0059】
<ハイドロゲル構造体1の作製>
得られたハイドロゲル形成用液体材料を、スチロール角型ケース1型(アズワン株式会社製)に流し込み、空気が入らないように密閉した状態で25℃環境下で20時間静置し、型から取り出すことでハイドロゲル構造体1を得た。
【0060】
<ハイドロゲル構造体2の作製>
丸線コイルばねLR25×60の形状を製造できるモールドを作製し、ハイドロゲル形成用液体材料を流し込む。空気が入らないように密閉した状態で25℃環境下で20時間静置し、型から取り出すことで球状のハイドロゲル構造体2を得た。
【0061】
<イソシアネート基を含む組成物1>
ウレタンプレポリマーとして、水溶性ポリイソシアネート(アクアゲル、三菱ケミカルインフラテック株式会社製)90質量部と、γ-ブチロラクトン30質量部を攪拌し、イソシアネート基を含む組成物1を作製した。イソシアネート基を含む組成物1は、NCO%は9.6%、溶剤量は全質量の40%であった。
【0062】
<皮膜付ハイドロゲル構造体1-1の作製>
イソシアネート基を含む組成物1を、ハイドロゲル構造体1の表面にディップ法で塗布した。30μmの皮膜を有する皮膜付ハイドロゲル構造体1-1を得た。
【0063】
<皮膜付ハイドロゲル構造体1-2の作製>
イソシアネート基を含む組成物1を、ハイドロゲル構造体2の表面にディップ法で塗布した。30μmの皮膜を有する皮膜付ハイドロゲル構造体1-2を得た。
【0064】
<評価>
<<押込み後の表面変化>>
得られた皮膜付ハイドロゲル構造体1-1に、圧縮用の球状圧子CT-B φ10(日本計測システム株式会社製)を、深さ1.0mm毎秒押し込み操作を5分間(押し込み回数300回)実施した後、表面に剥離が生じているかを観察した。
ここで、押込み後の表面変化を評価する方法について説明する。
図12により、圧子を押し込む試験方法について説明する。評価対象のハイドロゲル構造体211に圧縮用の球状圧子212を中央部214に押し込む。押し込むは垂直方向から繰り返し行うため、圧子は上下に稼動する(213参照)。
図12中、213は、圧子の稼働方向を示す。
○:皮膜の剥離は見られない
×:皮膜が剥離している
【0065】
<<形状保持性>>
得られた皮膜付ハイドロゲル構造体1-2の形状保持性を評価した。皮膜付ハイドロゲル構造体1-2を25℃50%RH環境下で30日間放置して、外径/太さ/自由長の変化を観察した。
○:寸法変化はすべて5%未満に収まった
×:いずれかの項目で、5%以上の寸法変化が生じた
【0066】
<<剥離強度>>
得られた皮膜付きハイドロゲル構造体1-1に対し、下記に示す剥離試験を行い剥離強度を測定した。
図13で示すように、ハイドロゲル構造体の一方の表面に皮膜を有する試験片(300±5mm×24±0.5mm×10±0.1mm)を用い、該試験片の両面を、シアノアクリレート系接着剤(高圧ガス工業株式会社;シアノン)0.1g/cm
2をPETフィルムを介して接着した。
試験片におけるハイドロゲル側の前記PETフィルムを、電動計測スタンド(株式会社イマダ製)と90度剥離試験治具(株式会社イマダ製;P90-200N)とを組み合わせた装置の平らな基台に固定した。
試験片における皮膜側のPETフィルムを、90度剥離試験治具を用い、PETフィルムの表面の一端側を上方にデジタルフォースゲージ5Nの力で50mm/minの条件で引っ張った。
一端側PETフィルムを10.0cm上昇させるまで、試験片における引張強度を測定した。2.5cm~7.5cmの測定結果の最大値を剥離強度(N/mm)とした。
【0067】
(比較例1)
<皮膜なしハイドロゲル構造体101の作製>
ハイドロゲル構造体1に皮膜処理を行うことなく、皮膜なしハイドロゲル構造体101を作製した。
この皮膜なしハイドロゲル構造体101について、実施例1に記載する形状保持性の評価を行なった。なお、皮膜はないので、押し込み後の表面変化は行わない。
また、剥離試験による剥離強度の測定も、皮膜がないため、行わない。
【0068】
(比較例2)
<皮膜付ハイドロゲル構造体102-1の作製>
特開2017-026791号公報の[0055]に記載されている皮膜の形成と同じ方法を用いて、皮膜付ハイドロゲル構造体102-1を作製した。すなわち、ハイドロゲル構造体1の表面に、塩化ビニル-酢酸ビニル(塩ビ-酢ビ)共重合体のトルエン/MEK混合溶液(プラスティコート#100、株式会社大京化学製、固形分30%)をディップ法で塗布した。そして、厚さ30μmのフィルム(皮膜)を形成して、皮膜付ハイドロゲル構造体102-1を作製した。
【0069】
<皮膜付ハイドロゲル構造体102-2の作製>
皮膜付ハイドロゲル構造体102-1の作製方法における、ハイドロゲル構造体1をハイドロゲル2に置き換える以外は、同じ方法で処理をおこない、皮膜付ハイドロゲル構造体102-2を作製した。
この皮膜付ハイドロゲル構造体102-1及び皮膜付ハイドロゲル構造体102-2について、実施例1に記載する、押込み後の表面変化、形状保持性、剥離強度の評価を行なった。
【0070】
(比較例3)
<皮膜付ハイドロゲル構造体103-1の作製>
特開2008-156405号の[0033]に記載されている皮膜の形成と同じ方法を用いて、皮膜付ハイドロゲル構造体103-1を作製した。すなわち、ハイドロゲル構造体1の表面に、アクリル樹脂組成物(ウレタンアクリレート:大日本インキ化学工業(株)製ユニディックV-4263(80質量部)とヘキサンジオールアクリレート:第一工業(株)製ニューフロンティアHDDA(20質量部)と開始剤:和光純薬(株)製V-601(2質量部))のコーティング(膜厚100ミクロン)を行った。次に、熱硬化(60℃×30分)により形状固定を行い、皮膜付ハイドロゲル構造体103-1を作製した。
【0071】
<皮膜付ハイドロゲル構造体103-2の作製>
皮膜付ハイドロゲル構造体103-1の作製方法における、ハイドロゲル構造体1をハイドロゲル2に置き換える以外は、同じ方法で処理をおこない、皮膜付ハイドロゲル構造体103-2を作製した。
この皮膜付ハイドロゲル構造体103-1及び皮膜付ハイドロゲル構造体103-2について、実施例1に記載する、押込み後の表面変化、形状保持性、剥離強度の評価を行なった。
【0072】
【0073】
実施例1では、ハイドロゲル表面に密着した皮膜を形成しているため、押し込み後、皮膜とハイドロゲル構造体の本体部分との間で剥離は生じず、押し込み後の形状変化は起きなかった。また、ハイドロゲル構造体の経時的乾燥もなく、形状を保持する機能も発現された。
比較例1では、ハイドロゲル表面に皮膜が形成されていないため、ハイドロゲルから水分が蒸発し、形状が保持されなかった。
比較例2及び比較例3では、押し込みによりハイドロゲルと皮膜の間に隙間が生じてしまった。したがって、押し込み後、表面形状の変化がみられた。
よって、実施例1の結果より、本発明のハイドロゲル構造体は、乾燥を抑制し形状保持機能に優れ、皮膜がハイドロゲル構造体から剥離せず、押し込み後の表面形状が変化しないハイドロゲル構造体であることが確認できた。
【0074】
(実施例2)
<皮膜付ハイドロゲル構造体2の作製>
実施例1<イソシアネート基を含む組成物1>を、ハイドロゲル構造体1の表面にディップ法で塗布し、30μmの皮膜を形成した。さらに、塩ビ-酢ビ共重合体のトルエン/MEK混合溶液(プラスティコート#100、固形分30%)をディップ法で塗布した。計60μmの皮膜を有する皮膜付ハイドロゲル構造体2を得た。
【0075】
<評価>
質量減少率と、押込み後の質量減少率(以下、まとめて質量減少率ともいう)、及び押込み後の表面変化を評価した。また、剥離強度も測定した。尚、剥離試験は、
図13において、皮膜402がアンダーコート部分とオーバーコート部分とを含む皮膜であるという以外は、上記実施例1で記載した剥離試験と同様の方法で行なった。評価結果を表2に示す。
【0076】
<<質量減少率>>
皮膜付ハイドロゲル構造体2を、以下の条件での質量変化を計測した。本評価は、実施例2から12、及び比較例1から3でも同様に実施した。
条件1) 皮膜形成後、温度25℃、湿度50%RH環境下に1週間保管する
条件2) 皮膜形成後のサンプルに、圧縮用の球状圧子CT-B φ10(日本計測システム株式会社製)を、深さ1.0mm毎秒押し込み操作(
図12)を5分間(押し込み回数300回)実施する。その後、温度25℃、湿度50%RH環境下に1週間保管する。
【0077】
<<押込み後の表面変化>>
実施例1に記載の「押込み後の表面変化」の評価と同様の評価を行なった。
【0078】
<<剥離強度>>
図13において、皮膜402がアンダーコート部分とオーバーコート部分とを含む皮膜であるという以外は、実施例1に記載の剥離強度の評価と同様の評価を行なった。
【0079】
実施例3から7は、実施例2における皮膜において、アンダーコート部分の皮膜の種類を変えた例、すなわち、イソシアネート基を含む組成物の種類を変更した例となっている。
【0080】
(実施例3)
<皮膜付ハイドロゲル構造体3の作製>
イソシアン酸オクダデシル25質量部、トルエン75質量部を混合し、ハイドロゲル構造体1の表面にディップ法で塗布し、5μmの皮膜を形成した。さらに塩ビ-酢ビ共重合体のトルエン/MEK混合溶液(プラスティコート#100、固形分30%)にディップ法で塗布した。計35μmの皮膜を有する皮膜付ハイドロゲル構造体3を得た。
【0081】
<評価>
皮膜付ハイドロゲル構造体3について、質量減少率と押込み後の表面変化を評価した。また、剥離強度も測定した。評価結果を表2に示す。
【0082】
(実施例4)
<皮膜付ハイドロゲル構造体4の作製>
イソシアン酸フェニル25質量部、トルエン75質量部を混合し、ハイドロゲル構造体1の表面にディップ法で塗布し、5μmの皮膜を形成した。さらに塩ビ-酢ビ共重合体のトルエン/MEK混合溶液(プラスティコート#100、固形分30%)にディップ法で塗布し、計35μmの皮膜を有する皮膜付ハイドロゲル構造体4を得た。
【0083】
<評価>
皮膜付ハイドロゲル構造体4について、質量減少率と押込み後の表面変化を評価した。また、剥離強度も測定した。評価結果を表2に示す。
【0084】
(実施例5)
<イソシアネート基を含む組成物2>
温度制御装置、撹拌翼、窒素導入、及び減圧口を備えたセパラブルフラスコを用意した。該セパラブルフラスコに、ポリプロピレングリコール2000(PPG2000、和光純薬工業株式会社製)と4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI、東京化成工業株式会社製)とを窒素雰囲気下90℃で4時間反応させてウレタンプレポリマーを作製した。該ウレタンプレポリマーと、希釈剤としてγ-ブチロラクトン(和光純薬工業株式会社製)と、整泡剤としてシリコーンオイルKF-96(信越シリコーン株式会社)とを加えて、イソシアネート基を含む組成物2を作製した。イソシアネート基を含む組成物2は、NCO%が8.9%、溶剤量は全質量の41%であった。
【0085】
<皮膜付ハイドロゲル構造体5の作製>
イソシアネート基を含む組成物2を、ハイドロゲル構造体1の表面にディップ法で塗布し、30μmの皮膜を形成した。さらに塩ビ-酢ビ共重合体のトルエン/MEK混合溶液(プラスティコート#100、固形分30%)をディップ法で塗布した。計60μmの皮膜を有する皮膜付ハイドロゲル構造体5を得た。
【0086】
<評価>
皮膜付ハイドロゲル構造体5について、質量減少率と押込み後の表面変化を評価した。また、剥離強度も測定した。評価結果を表2に示す。
【0087】
(実施例6)
<イソシアネート基を含む組成物3>
全体のNCO%が8.9%になるようにPPG2000とMDIの量を調整し、常温下で1時間攪拌し、さらに酢酸エチルで希釈をして、イソシアネート基を含む組成物3を作製した。NCO%は9.6%、溶剤量は全質量の40%であった。
【0088】
<皮膜付ハイドロゲル構造体6の作製>
イソシアネート基を含む組成物3を、ハイドロゲル構造体1の表面にディップ法で塗布し、含まれる溶剤を常温下で揮発させた。さらに、全体をラミジップAL(株式会社生産日本社製)を使い、塗工面が袋に触れないよう密閉し、60℃18時間加温して、30μmの皮膜を形成した。さらに塩ビ-酢ビ共重合体のトルエン/MEK混合溶液(プラスティコート#100、固形分30%)をディップ法で塗布した。計60μmの皮膜を有する皮膜付ハイドロゲル構造体6を得た。
【0089】
<評価>
皮膜付ハイドロゲル構造体6について、質量減少率と押込み後の表面変化を評価した。また、剥離強度も測定した。評価結果を表2に示す。
【0090】
(実施例7)
<イソシアネート基を含む組成物4>
ウレタンプレポリマーとして、塗装用ポリイソシアネート(コロネートHL、東ソー株式会社製)80質量部と酢酸エチル70質量部を攪拌し、イソシアネート基を含む組成物4を作製した。イソシアネート基を含む組成物4は、NCO%が12.7%、溶剤量は全質量の40%であった。
【0091】
<皮膜付ハイドロゲル構造体7の作製>
イソシアネート基を含む組成物4を、ハイドロゲル構造体1の表面にディップ法で塗布し、30μmの皮膜を形成した。さらに塩ビ-酢ビ共重合体のトルエン/MEK混合溶液(プラスティコート#100、固形分30%)をディップ法で塗布した。計60μmの皮膜を有する皮膜付ハイドロゲル構造体7を得た。
【0092】
<評価>
皮膜付ハイドロゲル構造体7について、質量減少率と押込み後の表面変化を評価した。また、剥離強度も測定した。評価結果を表2に示す。
【0093】
実施例8から10は、実施例2における皮膜において、オーバーコート部分の皮膜の種類を変えた例となっている。オーバーコート部分の皮膜を形成する非反応性のポリマー種の具体例を示す。
【0094】
(実施例8)
<皮膜付ハイドロゲル構造体8の作製>
実施例1<イソシアネート基を含む組成物1>を、ハイドロゲル構造体1の表面にディップ法で塗布し、30μmの皮膜を形成した。さらに、エチレン-酢ビ共重合体のトルエン溶液(ウルトラセン630、東ソー株式会社製、固形分20%)をディップ法で塗布した。計60μmの皮膜を有する皮膜付ハイドロゲル構造体8を得た。
【0095】
<評価>
皮膜付ハイドロゲル構造体8について、質量減少率と押込み後の表面変化を評価した。また、剥離強度も測定した。評価結果を表2に記す。
【0096】
(実施例9)
<皮膜付ハイドロゲル構造体9の作製>
実施例1<イソシアネート基を含む組成物1>を、ハイドロゲル構造体1の表面にディップ法で塗布し、30μmの皮膜を形成した。さらに、酸変性ポリオレフィンのMEK/メチルシクロヘキサン溶液(ユニストール H-200、三井化学株式会社製、固形分20%)をディップ法で塗布した。計60μmの皮膜を有する皮膜付ハイドロゲル構造体9を得た。
【0097】
<評価>
皮膜付ハイドロゲル構造体9について、質量減少率と押込み後の表面変化を評価した。また、剥離強度も測定した。評価結果を表2に示す。
【0098】
(実施例10)
<皮膜付ハイドロゲル構造体10の作製>
実施例1<イソシアネート基を含む組成物1>を、ハイドロゲル構造体1の表面にディップ法で塗布し、30μmの皮膜を形成した。さらに、ポリウレタン樹脂の酢酸エチル/イソプロピルアルコール(酢エチ/IPA)混合溶液(ユリアーノKL-593、荒川化学工業株式会社製、固形分35%)をディップ法で塗布した。計60μmの皮膜を有する皮膜付ハイドロゲル構造体10を得た。
【0099】
<評価>
皮膜付ハイドロゲル構造体10について、質量減少率と押込み後の表面変化を評価した。また、剥離強度も測定した。評価結果を表2に示す。
【0100】
【0101】
さらに、実施例11から15により、本発明の皮膜で得られる効果を示す。
【0102】
(実施例11)
<評価>
実施例2で得られた皮膜付ハイドロゲル構造体2の表面について、タック性を評価した。なお、比較例1で得られた皮膜なしハイドロゲル構造体101も同様の評価を行う。評価結果を表3に示す。
<<タック性>>
皮膜付ハイドロゲル構造体2及び皮膜なしハイドロゲル構造体101の表面を人差し指で触れ、タック性を評価した。
○:触れてもべたつきがなく、触れた箇所からの付着物がない
△:触れるとべたつきはあるが、触れた箇所からの付着物がない
×:触れるとべたつきはあるが、触れた箇所からの付着物がある
【0103】
(実施例12)
<評価>
実施例2で得られた皮膜付ハイドロゲル構造体2について、表面摩擦を評価した。なお、比較例1で得られたハイドロゲル構造体101も同様の評価を行う。評価結果を表3に示す。
<<表面摩擦>>
試験方法はJIS K7125 プラスチック-フィルムおよびシート摩擦係数試験方法に基づく。
○:静摩擦係数が0.5[-]未満
×:静摩擦係数が0.5[-]以上
【0104】
(実施例13)
<評価>
実施例2で得られた皮膜付ハイドロゲル構造体2について、耐熱性/耐低温性を評価した。なお、比較例1で得られたハイドロゲル構造体101も同様の評価を行なった。評価結果を表3に示す。
<<耐熱性/耐低温性>>
恒温槽を120℃に設定し、1分間入れて取り出したときの表面性を確認する。また、冷凍庫を-18℃に設定し、1分間入れて取り出したときの表面性を確認する。
○:変化なし
×:表面に収縮やクラックが確認される
【0105】
(実施例14)
<ハイドロゲル構造体3の作製>
ハイドロゲル形成用液体材料を、内寸φ100mm×2mmの円筒形の型に流し込み、空気が入らないように密閉した状態で25℃環境下で20時間静置し、型から取り出すことでφ100mm×2mmのハイドロゲル構造体3を得た。
【0106】
<皮膜付ハイドロゲル構造体14の作製>
実施例1<イソシアネート基を含む組成物1>を、ハイドロゲル構造体3の表面にディップ法で塗布し、30μmの皮膜を形成した。さらに、塩ビ-酢ビ共重合体のトルエン/MEK混合溶液(プラスティコート#100、固形分30%)をディップ法で塗布した。計60μmの皮膜を有する皮膜付ハイドロゲル構造体14を得た。
【0107】
<評価>
皮膜付ハイドロゲル構造体14について、電気特性(体積抵抗値)を評価した。
<<電気特性>>
JIS K6911に記載されている二重リング電極法に基づき、体積抵抗値を測定する。
○:体積抵抗率が1011[Ω・cm]以上
×:体積抵抗率が1011[Ω・cm]未満
【0108】
(比較例4)
<皮膜なしハイドロゲル構造体104の作製>
ハイドロゲル構造体3に皮膜処理を行うことなく、皮膜なしハイドロゲル構造体104を作製した。
【0109】
<評価>
皮膜なしハイドロゲル構造体104について、電気特性(体積抵抗値)を評価した。評価結果を表3に示す。
【0110】
(実施例15)
<ハイドロゲル構造体4の作製>
ハイドロゲル形成用液体材料を、φ20mm球形が得られる製氷皿(家庭用かき氷器 アイスモールド まるまる氷 製氷皿、TOTO HOUSE販売)に流し込み、空気が入らないように密閉した状態で25℃環境下で20時間静置し、型から取り出すことで球状のハイドロゲル構造体4を得た。
【0111】
<皮膜付ハイドロゲル構造体15の作製>
実施例2で得られた皮膜付ハイドロゲル構造体2の作製方法において、ハイドロゲル構造体1をハイドロゲル構造体4に置き換える以外は、同じ方法で処理した。計60μmの皮膜を有する皮膜付ハイドロゲル構造体15を得た。
【0112】
<評価>
皮膜付ハイドロゲル構造体15について、衝撃緩衝性を評価した。評価結果を表3に示す。
<<衝撃緩衝性>>
皮膜付ハイドロゲル構造体15を内径φ200mmの半球形をした器に敷き詰め、25℃50%RH環境下で30日間放置した後に、器の中央部に向けて高さ30cmの地点から鶏卵(Mサイズ)を自由落下させたとき、鶏卵の破損状態を確認する。
○:落下させた鶏卵は割れなかった
×:落下させた鶏卵は割れた
【0113】
(比較例5)
<皮膜なしハイドロゲル構造体105の作製>
ハイドロゲル構造体4に皮膜処理を行うことなく、皮膜なしハイドロゲル構造体105を作製した。
【0114】
<評価>
皮膜なしハイドロゲル構造体105について、衝撃緩衝性を評価した。評価結果を表3に示す。
【0115】
【0116】
(実施例16)
<臓器モデルの作製>
まず、純水700質量部を攪拌させながら、層状粘土鉱物として[Mg5.34Li0.66Si8O20(OH)4]Na-
0.66の組成を有する合成ヘクトライト(ラポナイトXLG、RockWood社製)13質量部を少しずつ添加し、更に1-ヒドロキシエタン-1,1-ジホスホン酸0.6質量部を添加し、攪拌して分散液を調製した。
次に、得られた分散液に、重合性モノマーとして、活性アルミナのカラムを通過させ重合禁止剤を除去したN,N-ジメチルアクリルアミド(和光純薬工業株式会社製)7質量部、アクリロイルモルホリン(東京化成工業株式会社製)35質量部、及びメチレンビスアクリルアミド(東京化成工業株式会社製)0.5質量部、グリセリン(東京化成工業株式会社製)120質量部を添加した。
次に、氷浴で冷却しながら、テトラメチルエチレンジアミン(和光純薬工業株式会社製)を1質量部添加して、攪拌混合の後減圧脱気を10分間実施した。続いて、ろ過を行い、不純物等を除去し、均質なハイドロゲル前駆体液を得た。
【0117】
インクジェット光造形装置(キーエンス社製アジリスタ)を用い、
図9に示す腎臓形状をかたどった注型造形用の型を作製した。
300質量部のハイドロゲル前駆体に、ペルオキソ2硫酸ナトリウム(和光純薬工業株式会社製)の純水2質量%水溶液を25質量部添加し、十分に撹拌を行った後、前記型に注ぎ込み、蓋をして密閉状態として、室温(25℃)で2時間硬化反応を行った。
硬化後、型から取り出し水洗して、
図9に示す様な形状を有する肝臓モデル(皮膜は付いていない)を作製した。これを肝臓モデル1とする。
【0118】
<アンダーコート部分の皮膜の形成>
水溶性ポリイソシアネート(アクアゲル、三菱ケミカルインフラテック株式会社製)90質量部と、γ-ブチロラクトン30質量部を攪拌し、イソシアネート基を含む組成物を作製した。これを肝臓モデル1の表面に浸漬塗工方法にて塗布し、30μmのアンダーコート部分の皮膜を形成した。
【0119】
<オーバーコート部分の皮膜の形成>
アンダーコート部分の皮膜上に、塩ビ-酢ビ共重合体のトルエン/MEK混合溶液(プラスティコート#100、大京化学製、固形分30%)を浸漬塗工方法にて塗布し、厚さ30μmのオーバーコート部分の皮膜を形成して、肝臓モデル2を作製した。
【0120】
(実施例17)
<マゼンタ顔料分散液の調製>
機械式撹拌機、温度計、窒素ガス導入管、還流管、及び滴下ロートを備えた1Lのフラスコ内を充分に窒素ガスで置換した。その後、スチレン11.2g、アクリル酸2.8g、ラウリルメタクリレート12.0g、ポリエチレングリコールメタクリレート4.0g、スチレンマクロマー4.0g、及びメルカプトエタノール0.4gを混合した。そして、65℃まで昇温した。次に、スチレン100.8g、アクリル酸25.2g、ラウリルメタクリレート108.0g、ポリエチレングリコールメタクリレート36.0g、ヒドロキシルエチルメタクリレート60.0g、スチレンマクロマー36.0g、メルカプトエタノール3.6g、アゾビスメチルバレロニトリル2.4g、及びメチルエチルケトン18gの混合溶液を2.5時間かけて、フラスコ内に滴下した。その後、アゾビスメチルバレロニトリル0.8g、及びメチルエチルケトン18gの混合溶液を0.5時間かけて、フラスコ内に滴下し、65℃で1時間熟成した。さらに、アゾビスメチルバレロニトリル0.8gを添加し、1時間熟成した後、フラスコ内にメチルエチルケトン364gを添加し、50質量%のポリマー溶液を800g得た。
ポリマー溶液28g、マゼンタ顔料(C.I.ピグメントレッド122)42g、1mol/Lの水酸化カリウム水溶液13.6g、メチルエチルケトン20g、及びイオン交換水13.6gを十分に撹拌した後、ロールミルを用いて混練し、ペーストを得た。次に、ペーストを純水200gに投入し、充分に撹拌した後、エバポレータ用いて、メチルエチルケトン、及び水を留去した。さらに、平均孔径が5.0μmのポリビニリデンフロライドメンブランフィルターを用いて加圧濾過し、顔料の含有量が15質量%、固形分が20質量%のマゼンタ顔料分散液を得た。
【0121】
<アンダーコート部分の皮膜の形成>
実施例16と同じ方法にて、肝臓モデル1の表面に30μmのアンダーコート部分の皮膜を形成した。
【0122】
<オーバーコート部分の皮膜の形成>
アンダーコート部分の皮膜上に、0.5%のマゼンタ顔料分散液を混合した塩ビ-酢ビ共重合体のトルエン/MEK混合溶液(プラスティコート#100、大京化学製、固形分30%)を浸漬塗工方法にて塗布し、厚さ30μmのオーバーコート部分の皮膜を形成して、肝臓モデル3を作製した。
【0123】
(比較例6)
実施例16で作製した肝臓モデル1(皮膜無し)を評価に供した。
【0124】
(比較例7)
特開2015-138192号公報の実施例4に準じて、実施例16で作製した肝臓モデル1に保湿性皮膜を形成した。具体的には、肝臓モデルをグリセリン10質量%水溶液に1分間浸漬して、肝臓モデル表面に保湿性皮膜を形成し、肝臓モデル4を作製した。
【0125】
(比較例8)
特開2017-026791号公報の実施例1に準じて、実施例16で作製した肝臓モデル1に皮膜を形成した。具体的には、肝臓モデルの表面に、プラスティコート#100:大京化学社製をディップ法にて塗布し、厚さ30μmのフィルムを形成し、肝臓モデル5を作製した。
【0126】
(比較例9)
特開2017-026791号公報の実施例2に準じて、実施例16で作製した肝臓モデル1に皮膜を形成した。具体的には、肝臓モデルの表面に、熱収縮フィルム(シールドエアージャパン:D-955)を用いてヒートガンで加熱し30μmの皮膜を形成し、肝臓モデル6を作製した。
【0127】
(評価)
実施例16、実施例17、及び比較例6から9で作製した肝臓モデル1から6を以下の評価に供した。評価結果を下記表4から7に示す。
[1]外観
上記の様に作製した肝臓モデルの外観を目視にて確認する。皮膜無しの状態と比較して、内部の確認が可能な程度、透明性を有しているか、皮膜に皺などがないかなどを確認する。
[2]触感
肝臓モデルを手で触ってみて、その触感を確認する。皮膜無しの状態と比較して、ハイドロゲルの柔軟性を維持しているかなどを確認する。
[3]乾燥性
25℃、50%RHの大気環境下に1週間保存する。その前後にて、肝臓モデルの重量変化を確認する。
[4]内視鏡用鋏管子による切れ味
内視鏡トレーニングボックス内に肝臓モデルをセットして、外科医により腫瘍切除の操作を行った(
図9に示す腫瘍37)。その際に、内視鏡用鋏管子による臓器の切れ味を確認した。
[5]腫瘍切除の際の見え方
[4]の操作の際、どこまで切れたのか等の距離感(奥行きの見えやすさ)、実際の臓器との違いなど、確認を行った。
[6]縫合性
外科医により、腫瘍摘出後、空洞部分を縫合する。この際に、手術用針の通りやすさ、糸を引っ張った際の状態などの確認を行った。
【0128】
【0129】
【0130】
【0131】
【0132】
実施例16及び17の結果より、本発明の臓器モデルは、外科手術等の手技練習用臓器モデルとして、リアルな触感、切れ味、縫合具合の質感を備え、かつ取り扱い性にも優れた臓器モデルであることが確認できた。
比較例7では、表面が粘稠性を有しベタつき、内視鏡用鋏管子による切れ味確認試験では、内視鏡用鋏管子がベタつき、切り始めに違和感があるとの操作性を害する評価となった。
比較例8及び9では、皮膜とハイドロゲルとの密着性が高くなく、内視鏡用鋏管子を使った操作や縫合の操作において、皮膜が剥離してしまった。
【0133】
本発明の態様は、例えば、以下のとおりである。
<1> 少なくとも、水、ポリマー、及び鉱物から構成されるハイドロゲル構造体であって、
前記ハイドロゲル構造体の表面に、皮膜を有し、
前記皮膜の剥離強度が、剥離強度の測定で1.0N/mm以上を示すことを特徴とするハイドロゲル構造体である。
<2> 少なくとも、水、ポリマー、及び鉱物から構成されるハイドロゲル構造体であって、
前記ハイドロゲル構造体の表面に、皮膜を有し、
前記皮膜の前記ハイドロゲル構造体側が、Si-O-CO-NH-の構造を有することを特徴とするハイドロゲル構造体である。
<3> 少なくとも、水、ポリマー、及び鉱物から構成されるハイドロゲル構造体であって、
前記ハイドロゲル構造体の表面に、皮膜を有し、
前記皮膜の前記ハイドロゲル構造体側が、イソシアネート基を含む組成物からなることを特徴とするハイドロゲル構造体である。
<4> 前記皮膜が、前記ハイドロゲル構造体側と前記ハイドロゲル構造体側の反対側とで、組成が異なる、前記<1>から<3>のいずれかに記載のハイドロゲル構造体である。
<5> 前記皮膜の前記反対側が、前記ハイドロゲル構造体に対し非反応性のポリマーを含む、前記<4>に記載のハイドロゲル構造体である。
<6> 前記皮膜の水蒸気透過度が、400g/(m2・day)以下である、前記<1>から<5>のいずれかに記載のハイドロゲル構造体である。
<7> 少なくとも、水、ポリマー、及び鉱物から構成されるハイドロゲル構造体の製造方法であって、
前記ハイドロゲル構造体の表面に、イソシアネート基を含む組成物を接触させて皮膜を形成する皮膜形成工程、
を含むことを特徴とするハイドロゲル構造体の製造方法である。
<8> 前記皮膜形成工程が、前記組成物上に、前記ハイドロゲル構造体に対し非反応性のポリマーを、接触させることを含む、前記<7>に記載のハイドロゲル構造体の製造方法である。
<9> 少なくとも、水、ポリマー、及び鉱物から構成されるハイドロゲル構造体と、
前記ハイドロゲル構造体の表面に配される皮膜と、を有する臓器モデルであって、
前記皮膜の剥離強度が、剥離強度の測定で1.0N/mm以上を示すことを特徴とする臓器モデルである。
<10> 少なくとも、水、ポリマー、及び鉱物から構成されるハイドロゲル構造体と、
前記ハイドロゲル構造体の表面に配される皮膜と、を有する臓器モデルであって、
前記皮膜の前記ハイドロゲル構造体側が、Si-O-CO-NH-の構造を有することを特徴とする臓器モデルである。
<11> 少なくとも、水、ポリマー、及び鉱物から構成されるハイドロゲル構造体と、
前記ハイドロゲル構造体の表面に配される皮膜と、を有する臓器モデルであって、
前記皮膜の前記ハイドロゲル構造体側が、イソシアネート基を含む組成物からなることを特徴とする臓器モデルである。
<12> 前記皮膜が、前記ハイドロゲル構造体側と前記ハイドロゲル構造体側の反対側とで、組成が異なる、前記<9>から<11>のいずれかに記載の臓器モデルである。
<13> 前記皮膜の前記反対側が、前記ハイドロゲル構造体に対し非反応性のポリマーを含む、前記<12>に記載の臓器モデルである。
<14> 前記皮膜が、前記ハイドロゲル構造体と異なる色を有する、前記<9>から<13>のいずれかに記載の臓器モデルである。
【0134】
前記<1>から<6>のいずれかに記載のハイドロゲル構造体、前記<7>から<8>のいずれかに記載のハイドロゲル構造体の製造方法、及び前記<9>から<14>のいずれかに記載の臓器モデルによると、従来における前記諸問題を解決し、前記本発明の目的を達成することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0135】
【文献】特開2008-156405号公報
【文献】特開2015-138192号公報
【文献】特開2017-026791号公報