(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-11
(45)【発行日】2022-10-19
(54)【発明の名称】車両用操舵装置
(51)【国際特許分類】
B62D 5/04 20060101AFI20221012BHJP
【FI】
B62D5/04
(21)【出願番号】P 2018203736
(22)【出願日】2018-10-30
【審査請求日】2021-09-10
(73)【特許権者】
【識別番号】000001247
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクト
(74)【代理人】
【識別番号】100109210
【氏名又は名称】新居 広守
(72)【発明者】
【氏名】石村 匠史
(72)【発明者】
【氏名】橋本 昌明
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 和宏
(72)【発明者】
【氏名】大園 直広
【審査官】田邉 学
(56)【参考文献】
【文献】特許第6393858(JP,B1)
【文献】中国特許出願公開第103325285(CN,A)
【文献】特開2007-153057(JP,A)
【文献】特開2016-199185(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62D 5/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
転舵機構と機械的に分離された操舵機構に備えられる車両用操舵装置であって、
操舵部材に対する操作に応じて回転する軸部材と、
前記軸部材の回転に伴って前記軸部材の周方向に移動する移動部であって、移動が停止された場合に、前記軸部材の回転を規制する移動部と、
前記軸部材を回転自在に支持する軸支部を有する支持部材と、
前記支持部材に配置され、前記移動部と当接することで前記移動部の移動を停止させる停止部と、を備え、
前記移動部は、前記周方向において前記停止部と対向する第一当接面であって、前記移動部を前記軸部材の径方向から見た場合において、前記軸支部の側を向くように、前記軸部材の軸方向に対して傾いた第一当接面を有し、
前記停止部は、前記第一当接面と当接する第一被当接面を有する
車両用操舵装置。
【請求項2】
転舵機構と機械的に分離された操舵機構に備えられる車両用操舵装置であって、
操舵部材に対する操作に応じて回転する軸部材と、
前記軸部材の回転に伴って前記軸部材の周方向に移動する移動部であって、移動が停止された場合に、前記軸部材の回転を規制する移動部と、
前記軸部材を回転自在に支持する軸支部を有する支持部材と、
前記支持部材に配置され、前記移動部と当接することで前記移動部の移動を停止させる停止部と、を備え、
前記移動部は、前記周方向において前記停止部と対向する第一当接面を有し、
前記停止部は、前記第一当接面と当接する第一被当接面であって、前記停止部を前記軸部材の径方向から見た場合において、前記軸支部とは反対側を向くように、前記軸部材の軸方向に対して傾いた第一被当接面を有する
車両用操舵装置。
【請求項3】
前記移動部は、前記軸部材に取り付けられた回転部材であって、前記軸部材の回転に伴って、前記軸部材を中心に回転する回転部材に固定されている
請求項1または2記載の車両用操舵装置。
【請求項4】
前記回転部材は、
前記軸部材に、前記周方向で係合する状態で取り付けられた第一回転部材と、
前記軸部材に相対回転可能に支持された第二回転部材であって、前記第一回転部材と前記周方向で当接した場合に前記第一回転部材の回転に伴って回転する第二回転部材とを含み、
前記移動部は、前記第二回転部材に固定されており、
前記第一回転部材は、前記軸方向に対して傾いた第二当接面であって、前記第一当接面と同じ向きに傾いた第二当接面を有し、
前記第二回転部材は、前記軸方向に対して傾き、かつ、前記第二当接面と当接する第二被当接面であって、前記第一被当接面と同じ向きに傾いた第二被当接面を有する、
請求項3記載の車両用操舵装置。
【請求項5】
さらに、前記軸部材に取り付けられた付勢部材であって、前記回転部材を、前記軸方向に沿って、かつ、前記軸支部に近づく向きに付勢する付勢部材を備える、
請求項3または4記載の車両用操舵装置。
【請求項6】
前記第一被当接面は、前記第一当接面と面で当接するように、前記第一当接面に沿う向きに傾いている、
請求項1~5のいずれか一項に記載の車両用操舵装置。
【請求項7】
前記第一被当接面及び前記第一当接面の少なくとも一方は、弾性部材で被膜されている、
請求項1~6のいずれか一項に記載の車両用操舵装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、転舵機構と機械的に分離された操舵機構に備えられる車両用操舵装置に関する。
【背景技術】
【0002】
操舵機構と転舵機構とを有する車両用操舵装置において、操舵機構と転舵機構とが機械的に連結されている場合、ステアリングシャフトの回転範囲は、タイヤに連結されたラックのストロークエンドで機械的に制限される。一方、操舵機構と転舵機構とが機械的に分離されているリンクレス・ステア・バイ・ワイヤシステム(以下、単に「ステアバイワイヤシステム」という。)では、ステアリングシャフトの回転範囲には、ラックのストロークエンドによる機械的な制限は及ばない。仮に、ステアリングシャフトが過剰に回転された場合、操舵機構内の配線(例えば、シャフトに巻き回される操舵角センサのスパイラルケーブル等)の切断を引き起こす場合がある。そこで、ステアバイワイヤシステムにおいて、ステアリングシャフトの回転範囲を機械的に制限するための機械構造が提案されている。
【0003】
例えば特許文献1では、ギアを介してコラム軸と接続された回転体に回転ストッパを設け、ハウジングの内壁面に固定ストッパを設け、回転ストッパと固定ストッパとの当接により、コラム軸の回転量(回転範囲)を規制する構造が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記従来技術では、回転ストッパと固定ストッパとは、回転体の径方向及び軸方向と平行な面で当接する。つまり、回転ストッパは、自身の移動方向(回転体の周方向)に垂直な当接面で、当該当接面に平行な被当接面(固定ストッパ)と当接する。これにより、回転ストッパは、固定ストッパによって確実に停止される。しかしその一方で、回転ストッパと固定ストッパとの当接時において、回転ストッパ及び固定ストッパのそれぞれの根元部分に、応力が集中しやすくなるという問題が生じる。この問題を解決するためには、回転ストッパ及び固定ストッパそれぞれの周方向の幅を大きくすることが考えられるが、これらストッパの周方向の幅の拡大は、軸部材(特許文献1におけるコラム軸)の回転範囲の減少という別の問題を生じさせる。
【0006】
本発明は、上記課題に鑑みなされたものであり、操舵部材の操作に応じて回転する軸部材の回転範囲を機械的に制限することができる車両用操舵装置であって、簡易な構成で信頼性の高い車両用操舵装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様に係る車両用操舵装置は、転舵機構と機械的に分離された操舵機構に備えられる車両用操舵装置であって、操舵部材に対する操作に応じて回転する軸部材と、前記軸部材の回転に伴って前記軸部材の周方向に移動する移動部であって、移動が停止された場合に、前記軸部材の回転を規制する移動部と、前記軸部材を回転自在に支持する軸支部を有する支持部材と、前記支持部材に配置され、前記移動部と当接することで前記移動部の移動を停止させる停止部と、を備え、前記移動部は、前記周方向において前記停止部と対向する第一当接面であって、前記移動部を前記軸部材の径方向から見た場合において、前記軸支部の側を向くように、前記軸部材の軸方向に対して傾いた第一当接面を有し、前記停止部は、前記第一当接面と当接する第一被当接面を有する。
【0008】
本発明の一態様に係る車両用操舵装置は、転舵機構と機械的に分離された操舵機構に備えられる車両用操舵装置であって、操舵部材に対する操作に応じて回転する軸部材と、前記軸部材の回転に伴って前記軸部材の周方向に移動する移動部であって、移動が停止された場合に、前記軸部材の回転を規制する移動部と、前記軸部材を回転自在に支持する軸支部を有する支持部材と、前記支持部材に配置され、前記移動部と当接することで前記移動部の移動を停止させる停止部と、を備え、前記移動部は、前記周方向において前記停止部と対向する第一当接面を有し、前記停止部は、前記第一当接面と当接する第一被当接面であって、前記停止部を前記軸部材の径方向から見た場合において、前記軸支部とは反対側を向くように、前記軸部材の軸方向に対して傾いた第一被当接面を有する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、操舵部材の操作に応じて回転する軸部材の回転範囲を機械的に制限することができる車両用操舵装置であって、簡易な構成で信頼性の高い車両用操舵装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】実施の形態1に係る操舵システムの構成を示す模式図である。
【
図2】実施の形態1に係るストッパユニット及び減速機の外観を示す斜視図である。
【
図3】実施の形態1に係るストッパユニットの分解斜視図である。
【
図4】実施の形態1に係る回転部材と停止部との構造上の関係を示す側面図である。
【
図5】実施の形態1に係るストッパユニットの動作例を示す第1の図である。
【
図6】実施の形態1に係るストッパユニットの動作例を示す第2の図である。
【
図7】実施の形態1に係るストッパユニットの動作例を示す第3の図である。
【
図8】実施の形態1に係るストッパユニットの動作例を示す第4の図である。
【
図9】実施の形態1に係る付勢部材の外観を示す斜視図である。
【
図10】実施の形態1に係る付勢部材が弓型形状であることを示す平面図である。
【
図11】実施の形態2に係るストッパユニット及び減速機の外観を示す斜視図である。
【
図12】実施の形態2に係るストッパユニットの分解斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、実施の形態について、図面を参照しながら具体的に説明する。なお、以下で説明する実施の形態は、いずれも包括的または具体的な例を示すものである。以下の実施の形態で示される数値、形状、材料、構成要素、構成要素の配置位置及び接続形態などは、一例であり、請求の範囲を限定する主旨ではない。また、以下の実施の形態における構成要素のうち、最上位概念を示す独立請求項に記載されていない構成要素については、任意の構成要素として説明される。
【0012】
また、図面は、本発明を示すために、適宜強調、省略、または比率の調整を行った模式的な図を含んでおり、実際の形状、位置関係、及び比率とは異なる場合がある。さらに、以下の実施の形態及び特許請求の範囲において、平行及び直交などの、相対的な方向または姿勢を示す表現が用いられる場合があるが、これらの表現は、厳密には、その方向または姿勢ではない場合も含む。例えば、2つの方向が平行である、とは、当該2つの方向が完全に平行であることを意味するだけでなく、実質的に平行であること、すなわち、例えば数%程度の差異を含むことも意味する。また、各図において、実質的に同一の構成については同一の符号を付し、重複する説明は省略又は簡略化する場合がある。
【0013】
(実施の形態1)
[操舵システムの構成]
まず、実施の形態1に係る操舵システム10について説明する。
図1は、実施の形態1に係る操舵システム10の構成を示す模式図である。操舵システム10は、操舵機構20と、転舵機構100と、ECU(電子制御ユニット:Electronic Control Unit)91と、を備える。
【0014】
操舵機構20は、運転者から転舵のための操作を受ける装置であり、操舵装置30と、ステアリングホイール21と、を備える。ステアリングホイール21は、運転者が転舵のために操作する操舵部材の一例であり、ステアリングシャフト32に連結される。ステアリングシャフト32は、操舵部材の操作に応じて回転する軸部材の一例である。
【0015】
操舵装置30は、車両用操舵装置の一例であり、ステアリングシャフト32と、操舵角センサ46と、反力モータ48と、減速機40とを備える。ステアリングシャフト32の減速機40側の端部には回転部材50が接続されており、回転部材50と、減速機40のハウジング40aとにより、ステアリングシャフト32の回転範囲を制限するストッパユニット41が構成されている。ストッパユニット41の構成及び動作については、
図2~
図10を用いて後述する。
【0016】
転舵機構100は、転舵輪180に接続されるラックシャフト170と、転舵モータ130と、転舵モータ130の回転駆動力をラックシャフト170に伝達する減速機175とを備える。
【0017】
減速機175は、転舵モータ130及びラックシャフト170と接続され、転舵モータ130を駆動源として、転舵輪180を転舵させるための力をラックシャフト170に付与する。減速機175は、転舵モータ130の回転駆動力を減速させ且つ増強してラックシャフト170に伝達し、さらに、転舵モータ130の回転駆動力をラックシャフト170の軸方向の力に変換してラックシャフト170に伝達する。減速機175は、例えば
図1に示すように、転舵モータ130の駆動回転軸に接続された第一歯車176、及び、第一歯車176と係合する円筒状の第二歯車177を備える。ラックシャフト170は、第二歯車177を貫通する。第二歯車177は、外周面のギヤ歯で第一歯車176と噛み合い、かつ、内周面の雌ネジでラックシャフト170の外周面の雄ネジ178と螺合する。つまり、転舵モータ130の回転駆動力は、第一歯車176を介して第二歯車177を回転させ、第二歯車177が回転することによって、ラックシャフト170は、第二歯車177に対して往復移動する。その結果、タイロッド(図示せず)を介してラックシャフト170と接続された左右の転舵輪180のそれぞれは、ラックシャフト170の移動量に応じて転舵する。
【0018】
ECU91は、反力モータ48及び転舵モータ130と電気的に接続され、反力モータ48及び転舵モータ130の動作を制御する。ECU91は、さらに車両の速度センサ92、バッテリ93及び操舵角センサ46とも電気的に接続され、速度センサ92から車速の信号を取得し、操舵角センサ46から操舵角の信号を取得する。ECU91は、バッテリ93の電力を反力モータ48及び転舵モータ130に供給し、これらを稼動させる。ECU91は、操舵角センサ46によって検出されるステアリングホイール21の操舵角(つまり、ステアリングシャフト32の回転角)及び操舵角の変化速度、並びに、速度センサ92によって検出される車速等に応じて、反力モータ48に発生させるトルク、及び、転舵モータ130の回転量及びトルクを制御する。ECU91は、例えば、操舵角及び変化速度に応じた転舵角及び転舵速度で転舵輪180が転舵するように、転舵モータ130の回転量、回転速度及びトルクを制御する。また、ECU91は、例えば、車速が高くなる程、及び、操舵角の変化速度が高くなる程、反力を大きくするように、反力モータ48のトルクを制御する。これにより、運転者は、ステアリングホイール21を操作することで、左右の転舵輪180を転舵させることができるとともに、ステアリングホイール21から重みを感じ、操舵感を得ることができる。
【0019】
[ストッパユニットの構成]
上述のように、操舵システム10では、操舵機構20と転舵機構100とが機械的に分離されており、そのため、ステアリングシャフト32の回転範囲は、転舵機構100によっては機械的に制限されない。そこで、本実施の形態に係る操舵システム10では、操舵機構20に、ステアリングシャフト32の回転範囲を機械的に制限するストッパユニット41が設けられている。このストッパユニット41の構成について
図2~
図4を用いて説明する。
【0020】
図2は、実施の形態1に係るストッパユニット41及び減速機40の外観を示す斜視図である。
図3は、実施の形態1に係るストッパユニット41の分解斜視図である。なお、
図2及び
図3では、ステアリングシャフト32を構成するアッパシャフト及びロアシャフトのうち、減速機40側に配置されるロアシャフトのみが図示されており、アッパシャフトの図示は省略されている。このことは、後述する
図11及び
図12についても同じである。
【0021】
図4は、実施の形態1に係る回転部材50と停止部44との構造上の関係を示す側面図である。なお、
図4では、回転部材50並びにハウジング40aの停止部44及びその周辺のみを図示し、ステアリングシャフト32等の図示は省略されている。また、
図4では、回転部材50を移動部60の突出方向から見た場合の側面図が示されている。
【0022】
図2~
図4に示すように、本実施の形態に係るストッパユニット41は、ステアリングシャフト32に取り付けられた回転部材50と、減速機40のハウジング40aとにより構成されている。回転部材50が移動部60を有し、ハウジング40aは停止部44を有している。
【0023】
減速機40のハウジング40aは、支持部材の一例であり、ステアリングシャフト32を貫通させた状態で回転自在に支持する軸支部42を有している。これにより、ステアリングシャフト32はステアリングホイール21(
図1参照)の操作に応じて回転する。軸支部42は、例えば、ハウジング40aの内部に配置されたベアリング等でステアリングシャフト32の外周面を支持する構造を有しており、ステアリングシャフト32を滑らかにステアリング軸S周りに回転させることができる。なお、ステアリング軸Sは、ステアリングシャフト32の回転中心となる仮想軸であり、
図2以降の図では一点鎖線で表されている。また、ハウジング40aは、反力モータ48(
図1参照)の駆動軸が挿入される開口を有する。反力モータ48は、ハウジング40aの内部に配置された複数のギアを介して、ステアリングシャフト32に、ステアリングシャフト32の回転方向とは逆方向のトルク(つまり反力)を与える。反力モータ48による反力の大きさ及び反力を発生するタイミング等は、上述のようにECU91に制御される。なお、
図2では、反力モータ48の駆動軸の中心軸Mが二点鎖線で表されている。
【0024】
上記構成を有する減速機40に配置されたストッパユニット41は、簡単に説明すると、以下のように動作する。すなわち、ステアリングシャフト32の回転に伴って、移動部60がステアリングシャフト32の周方向に移動する。その後、移動部60がハウジング40aの停止部44に当接することで、移動部60の移動が停止する。移動部60が停止すると、ステアリングシャフト32の当該回転が規制される。つまり、ステアリングシャフト32の回転範囲が機械的に制限される。
【0025】
また、移動部60及び停止部44それぞれの当接面は、
図2~
図4に示すように、ステアリング軸Sの方向(本実施の形態ではY軸方向、以下、単に「軸方向」という)に対して傾いている。具体的には、移動部60は、周方向において停止部44と対向する第一当接面61を有する。第一当接面61は、移動部60をステアリングシャフト32の径方向(以下、単に「径方向」という)から見た場合において、軸支部42の側を向くように、軸方向に対して傾いている。また、停止部44は、第一当接面61と当接する第一被当接面45を有する。第一被当接面45は、停止部44を径方向から見た場合において、軸支部42とは反対側を向くように、軸方向に対して傾いている。
【0026】
つまり、第一当接面61の法線ベクトルは、軸支部42の側に向く成分(Y軸プラス方向の成分)を有している。言い換えると、第一当接面61は、軸支部42に近づくほど、停止部44から離れる向きに傾いている。また、第一被当接面45の法線ベクトルは、軸支部42とは反対側の成分(Y軸マイナス方向の成分)を有している。言い換えると、第一被当接面45は、当接相手である第一当接面61に沿う向きに傾いている。
【0027】
なお、
図4以降の図では、移動部60が有する2つの第一当接面61を区別するために、一方を第一当接面61aと表記し、他方を第一当接面61bと表記する。同様に、
図4以降の図では、停止部44が有する2つの第一被当接面45を区別するために、第一当接面61aと当接する方を第一被当接面45aと表記し、第一当接面61bと当接する方を第一被当接面45bと表記する。つまり、第一被当接面45aは、第一当接面61aに沿う向きに傾き、第一被当接面45bは、第一当接面61bに沿う向きに傾いている。
【0028】
本実施の形態では、移動部60は、ステアリングシャフト32に取り付けられた回転部材50に配置されているため、移動部60は、回転部材50が回転した場合に、その回転に伴って周方向に移動すること(ステアリング軸Sを中心として回転すること)ができる。
【0029】
より詳細には、本実施の形態において、回転部材50は、
図3及び
図4に示すように、ステアリングシャフト32に対して相対回転不可能な状態で支持された第一回転部材51と、ステアリングシャフト32に対して相対回転可能に支持された第二回転部材55とを含む。移動部60は、
図3及び
図4に示すように、第二回転部材55に固定されている。具体的には、第二回転部材55の外周面から径方向に突出した部分が移動部60として機能する。また、第一回転部材51は、
図2~
図4に示すように、第二回転部材55側に突出した突出部52を有する。突出部52は、第一回転部材51が回転した場合、第二回転部材55の移動部60に当接する。具体的には、第一回転部材51の突出部52は、軸方向に対して傾いた第二当接面53を有し、第二当接面53は、第一当接面61と同じ向きに傾いている。また、第二回転部材55の移動部60は、軸方向に対して傾き、かつ、第二当接面53と当接する第二被当接面62を有する。第二被当接面62は、第一被当接面45と同じ向きに傾いている。
【0030】
より詳細には、第一回転部材51の突出部52は2つの第二当接面53を有し、
図4以降の図では、これら2つの第二当接面53を区別するために、第二当接面53a及び53bと表記する。また、第二回転部材55の移動部60は2つの第二被当接面62を有し、
図4以降の図では、これら2つの第二被当接面62を区別するために、第二被当接面62a及び62bと表記する。この場合、
図4からわかるように、突出部52の第二当接面53aと移動部60の第二被当接面62aとは互いに当接する。第二当接面53aは第一当接面61aと同じ向きに傾き、第二被当接面62aは、第一被当接面45aと同じ向きに傾いている。また、突出部52の第二当接面53bと移動部60の第二被当接面62bとは互いに当接する。第二当接面53bは第一当接面61bと同じ向きに傾き、第二被当接面62bは、第一被当接面45bと同じ向きに傾いている。
【0031】
上記構成を有する第一回転部材51は、ステアリングシャフト32に対して周方向で係合する状態で取り付けられている。具体的には、ステアリングシャフト32の、ハウジング40aから突出する端部の外周面に、軸方向に延設された複数の凸部を有する雄スプライン32aが形成されている。また、筒状の第一回転部材51の内周面には、雄スプライン32aと嵌め合わされる雌スプライン51aが形成されている。つまり、ステアリングシャフト32の雄スプライン32aが第一回転部材51に挿入された場合、第一回転部材51は、ステアリングシャフト32に対し、軸方向に移動可能でありかつ周方向で係合する状態となる。すなわち、第一回転部材51は、ステアリングシャフト32に対して相対回転不可能な状態で支持される。
【0032】
また、第一回転部材51の軸支部42側には、ステアリングシャフト32が挿通された第二回転部材55が配置されている。具体的には、ステアリングシャフト32は、第二回転部材55の開口部55aを貫通した状態で第二回転部材55を支持し、第二回転部材55は、ステアリングシャフト32に対して相対回転可能である。ステアリングシャフト32には、開口部55aの内径よりも大きな外径を形成する段差部32bが設けられており、これにより、第二回転部材55とハウジング40aとの干渉が防止される。ステアリングシャフト32の先端部には、回転部材50の抜け止めとして機能し、かつ、回転部材50を軸支部42に近づく向きに付勢する付勢部材70が配置される。付勢部材70については、
図9及び
図10を用いて後述する。
【0033】
また、ストッパユニット41にはさらに、例えば樹脂で形成された摺動板75及び76が備えられている。摺動板75は、第一回転部材51と第二回転部材55との間に配置され、摺動板76は、第二回転部材55と、ステアリングシャフト32のaの段差部32bとの間に配置される。これにより、第一回転部材51及び第二回転部材55のそれぞれの滑らかな回転が促される。
【0034】
[ストッパユニットの動作例]
上記のように構成されたストッパユニット41の動作例について、
図5~
図8を用いて説明する。
図5~
図8は、実施の形態1に係るストッパユニット41の動作例を示す第1~第4の図である。
【0035】
例えば、ストッパユニット41の初期状態が
図2に示す状態であり、そこから、ステアリングシャフト32が、正面視(ストッパユニット41をY軸マイナス側から見た場合、以下同じ)において、反時計回りに回された場合を想定する。この場合、ステアリングシャフト32に固定されている第一回転部材51は、
図5に示すように、ステアリングシャフト32と共に反時計回りの回転を開始する。これにより、第一回転部材51の突出部52は、一旦、移動部60から遠ざかる。
【0036】
その後、ステアリングシャフト32の当該回転が継続し、突出部52は、
図6に示すように、移動部60に近づくように移動してくる。このとき、突出部52は、ハウジング40aに固定された停止部44とは干渉しないサイズ及び形状に形成されているため、突出部52の移動は、停止部44からは直接的に規制されない。つまり、突出部52は、停止部44の手前側(Y軸マイナス側)を通過し、これにより、突出部52の第二当接面53bは、移動部60の第二被当接面62bに当接する。さらに、突出部52が移動部60を周方向に押すことで、
図7に示すように、第二当接面53bが第二被当接面62bに当接した状態を維持しながら、第二回転部材55は、第一回転部材51と共に回転する。これにより、移動部60は、一旦、停止部44から遠ざかる。
【0037】
さらにその後、ステアリングシャフト32の当該回転が継続し、移動部60は、
図8に示すように、停止部44に近づき、最終的には停止部44に当接して停止する。具体的には、移動部60の第一当接面61bが停止部44の第一被当接面45bに当接することで、移動部60の移動は停止する。つまり、回転部材50の反時計回りの回転は規制され、回転部材50に対して相対回転不可能な状態であるステアリングシャフト32の反時計回りの回転も規制される。また、
図8に示す状態から、ステアリングシャフト32が時計回りに回転した場合、第一回転部材51の突出部52は、時計回りに約1回転して停止部44の手前を通過する。さらに、突出部52の第二当接面53aが移動部60の第二被当接面62aに当接し、その状態で、第一回転部材51と第二回転部材55とがともに時計回りに回転する。これにより、移動部60は、一旦、停止部44から遠ざかる。その後、移動部60は停止部44に近づき、最終的には、移動部60の第一当接面61aが停止部44の第一被当接面45aに当接することで、移動部60の移動は停止する。つまり、ストッパユニット41は、
図2に示す状態に戻り、ステアリングシャフト32の時計回りの回転が規制される。このように、本実施の形態では、ストッパユニット41は、ステアリングシャフト32の回転範囲を機械的に制限することができる。本実施の形態では、回転範囲の上限は、1.5回転以上であり、かつ2回転未満である。また、このようにステアリングシャフト32の回転範囲を機械的に制限できる構造において、第一当接面61及び第一被当接面45は、互いの当接時の衝撃を逃すように傾いているため、移動部60及び停止部44の損傷の発生が抑制される。損傷発生の抑制効果については後述する。
【0038】
[付勢部材の構成]
以上のように、本実施の形態に係る操舵装置30では、複数の部材がステアリングシャフト32に挿通された状態で軸方向に並べられた状態であり、これら部材には、ステアリングシャフト32の軸方向の位置を固定するための部位は設けられていない。そこで、本実施の形態では、ステアリングシャフト32の先端部に、これら複数の部材のステアリングシャフト32からの抜け止めとして機能する付勢部材70が設けられている。この付勢部材70について、
図9及び
図10を用いて説明する。
【0039】
図9は、実施の形態1に係る付勢部材70の外観を示す斜視図であり、
図10は、実施の形態1に係る付勢部材70が弓型形状であることを示す平面図である。なお、
図9及び
図10では、付勢部材70を、ステアリングシャフト32から外した状態で示している。
【0040】
図9及び
図10に示すように、付勢部材70は、例えばばね鋼を素材とする、一部が切り欠かれた環状の部材であり、例えばC形止め輪と呼ばれる部材である。付勢部材70は、ステアリングシャフト32に、摺動板76、第二回転部材55、摺動板75、及び第一回転部材51を配置した後に、ステアリングシャフト32の第一回転部材51から突出した先端部に取り付けられる。具体的には、ステアリングシャフト32の先端部の外周面には、付勢部材70を取り付けるための溝である取付溝33が形成されている。付勢部材70は、内径を広げた状態で取付溝33に取り付けられた後に、復元力により元の形状に戻る。また、付勢部材70は、
図10に示すように弓型であるため、取付溝33に取り付けられた状態では、第一回転部材51を軸支部42(
図3参照)に近づく方向に付勢することができる。また、摺動板76は、ステアリングシャフト32の段差部32b(
図3参照)により、軸支部42に近づく方向の移動が規制される。その結果、第一回転部材51、摺動板75、第二回転部材55、及び摺動板76は、付勢部材70の弾性力によって、軸方向に沿って、かつ、軸支部42に近づく向きに付勢された状態となる。従って、これら4部材は、付勢部材70によってステアリングシャフト32からの抜け出しが防止されるとともに、隣接する部材間の隙間の発生が抑制される。
【0041】
[効果等]
以上説明したように、本実施の形態に係る操舵装置30は、転舵機構100と機械的に分離された操舵機構20に備えられる車両用操舵装置である。操舵装置30は、ステアリングホイール21に対する操作に応じて回転するステアリングシャフト32と、ステアリングシャフト32の回転に伴ってステアリングシャフト32の周方向に移動する移動部60であって、移動が停止された場合に、ステアリングシャフト32の当該回転を規制する移動部60と、ステアリングシャフト32を相対回転可能に支持する軸支部42を有するハウジング40aと、ハウジング40aに配置され、移動部60と当接することで移動部60の移動を停止させる停止部44と、を備える。移動部60は、周方向において停止部44と対向する第一当接面61であって、移動部60を径方向から見た場合において、軸支部42の側を向くように、軸方向に対して傾いた第一当接面61を有する。停止部44は、第一当接面61と当接する第一被当接面45を有する。
【0042】
より具体的には、第一被当接面45は、停止部44を径方向から見た場合において、軸支部42とは反対側を向くように、軸方向に対して傾いている。つまり、本実施の形態では、第一被当接面45は、第一当接面61と面で当接するように、第一当接面61に沿う向きに傾いている。
【0043】
このように、本実施の形態に係る操舵装置30では、ステアリングシャフト32の回転に伴って回転する移動部60と、ハウジング40aに固定された停止部44とを当接させることで、ステアリングシャフト32の回転範囲を機械的に制限することができる。具体的には、移動部60の第一当接面61と停止部44の第一被当接面45とが当接する。また、第一当接面61及び第一被当接面45は、互いに当接する際にいわゆる正面衝突の状態とならないように、ステアリングシャフト32の軸方向に対して傾けられている。より詳細には、周方向において停止部44と対向する第一当接面61は、軸支部42に近づくほど停止部44から離れる向きに傾けられている。従って、第一当接面61及と第一被当接面45とが周方向で当接した際において、第一当接面61が停止部44から受ける力の一部は、移動部60を軸方向前側(Y軸マイナス側)に押す力として作用する。その結果、例えば、停止部44との当接時における移動部60の根元部分の応力集中が緩和され、これにより、当該応力集中に起因する損傷の発生が抑制される。また、第一被当接面45についても同様に、第一被当接面45が移動部60から受ける力の一部は、停止部44を軸方向後側(Y軸プラス側)に押す力として作用する。その結果、例えば、移動部60との当接時における停止部44の根元部分の応力集中が緩和され、これにより、当該応力集中に起因する損傷の発生が抑制される。
【0044】
また、例えば、移動部60と停止部44とが当接した際の衝撃エネルギーが、停止部44が配置されたハウジング40a等の他の部材に吸収されやすいため、移動部60と停止部44との当接(衝突)により生じる金属同士の打音の大きさが低減される。
【0045】
また、移動部60は、例えば、ステアリングシャフト32に直接的に、または、ステアリングシャフト32に取り付けられた部材を介して、ステアリングシャフト32に取り付けることができる。停止部44は、ステアリングシャフト32を支持する部材であるハウジング40aに固定される。つまり、ステアリングシャフト32の回転範囲を制限するための機構であるストッパユニット41を、ステアリングシャフト32の近くの領域にコンパクトに配置することができる。従って、操舵装置30の小型化または軽量化が容易となる。また、ストッパユニット41の構成が簡易であることで、ストッパユニット41の故障などの不具合が生じ難い。
【0046】
このように、本実施の形態に係る操舵装置30は、簡易な構成で信頼性の高い車両用操舵装置である。
【0047】
ここで、互いに当接する第一当接面61及び第一被当接面45は、一方のみが軸方向に対して傾いていてもよい。つまり、第一当接面61及び第一被当接面45の一方のみが、当接時に当接相手から受ける力の一部を、軸方向かつ当接相手とは反対側に向けるように傾けられていてもよい。例えば、
図4において、第一当接面61aが、軸支部42の側を向くように軸方向に対して傾いているのに対し、停止部44の第一被当接面45aが、軸方向に平行に形成されていてもよい。この場合であっても、第一当接面61aが第一被当接面45aと当接する場合に、いわゆる正面衝突の状態はならず、第一当接面61aが停止部44から受ける力の一部は、移動部60を軸方向前側(Y軸マイナス側)に押す力として作用する。その結果、例えば、移動部60及び停止部44それぞれの根元部分への応力集中は緩和され、当該応力集中に起因する損傷の発生が抑制される。
【0048】
なお、本実施の形態のように、第一被当接面45が、第一当接面61と面で当接するように第一当接面61に沿う向きに傾いている場合、当接面積が大きいことによる衝撃分散効果の向上、または、停止部44による移動部60の停止の確実化等の観点からは有利である。
【0049】
また、本実施の形態において、移動部60は、ステアリングシャフト32に取り付けられた回転部材50であって、ステアリングシャフト32の回転に伴って、ステアリングシャフト32を中心に回転する回転部材50に固定されている。
【0050】
つまり、本実施の形態では、ステアリングシャフト32に、移動部60が配置された回転部材50を取り付けることで、ステアリングシャフト32に、ステアリングシャフト32の回転に伴って周方向に移動する移動部60を配置することができる。そのため、例えば、回転部材50の、ステアリングシャフト32における軸方向の位置を変更することで、移動部60の軸方向の位置を変更することができる。また、例えば、異なる形状の回転部材50に変更することで、移動部60の形状または径方向の位置を変更することができる。つまり、ステアリングシャフト32に対して配置される移動部60の位置及び形状の変更が容易である。
【0051】
なお、上述のように、第一当接面61は、軸支部42に近づくほど停止部44から離れる向きに傾けられており、これにより、停止部44の第一被当接面45と当接した場合、移動部60には、軸方向前側に押す力が作用する。これにより、回転部材50の軸方向の位置が、軸支部42から離れる方向にずれることも考えられる。しかしながら、第一当接面61と第一被当接面45とは、いずれも金属体の表面であり、互いに当接した場合、面接触による静止摩擦力が働く。この静止摩擦力は、第一当接面61を軸方向後側に引っ張る成分を有するため、移動部60に作用する軸方向前側に押す力の少なくとも一部を相殺することができる。従って、第一当接面61及び第一被当接面45が上述のように傾いている場合であっても、実質的には、回転部材50の位置が軸方向前側にずれるような事態は生じない。
【0052】
また、本実施の形態において、回転部材50は、第一回転部材51と第二回転部材55とを含む。第一回転部材51は、ステアリングシャフト32に、ステアリングシャフト32の周方向で係合する状態で取り付けられている。第二回転部材55は、ステアリングシャフト32に相対回転可能に支持されており、第一回転部材51と周方向で当接した場合に第一回転部材51の回転に伴って回転する。移動部60は、第二回転部材55に固定されている。第一回転部材51は、ステアリングシャフト32の軸方向に対して傾いた第二当接面53であって、第一当接面61と同じ向きに傾いた第二当接面53を有する。第二回転部材55は、軸方向に対して傾き、かつ、第二当接面53と当接する第二被当接面62であって、第一被当接面45と同じ向きに傾いた第二被当接面62を有する。
【0053】
例えば
図4に示すように、第一回転部材51は、第一当接面61aと同じ向きに傾いた第二当接面53aを有し、第二回転部材55は、第一被当接面45aと同じ向きに傾いた第二被当接面62aを有し、第二当接面53aは第二被当接面62aと当接する。
【0054】
この構成によれば、回転部材50において、ステアリングシャフト32と共に回転する第一回転部材51と、移動部60を有する第二回転部材55とは互いに独立して回転可能であり、かつ、第一回転部材51は第二回転部材55を伴って回転することもできる。そのため、例えば
図5~
図8に示すように、第一回転部材51のみを停止部44と干渉しない位置で回転させることができ、かつ、第一回転部材51と共に回転する第二回転部材55の移動部60を停止部44と当接させることができる。従って、仮に、回転部材50の全体が一括してステアリングシャフト32と共に回転して、回転部材50に固定された移動部60を停止部44に当接させる場合と比較すると、ステアリングシャフト32の回転可能な範囲が広がる。そのため、例えば、操舵装置30において制限されるステアリングシャフト32の回転範囲の自由度が大きくなる。
【0055】
また、突出部52の第二当接面53及び移動部60の第二被当接面62は、移動部60の第一当接面61及び停止部44の第一被当接面45と同じく、当接時に当接相手から受ける力の一部を、軸方向かつ当接相手とは反対側に向けるように傾けられている。そのため、突出部52と移動部60とが当接することによる、突出部52及び移動部60の損傷の発生が抑制される。なお、互いに当接する第二当接面53及び第二被当接面62についても、第一当接面61及び第一被当接面45と同じく、一方のみが軸方向に対して傾けられていてもよい。この場合であっても、第二当接面53及び第二被当接面62の両方が軸方向に平行である場合よりも、突出部52及び移動部60の損傷の可能性が低減される。
【0056】
なお、本実施の形態では、例えば第二回転部材55が有する第二被当接面62aは、
図4に示すように、移動部60に形成されている。また、第二被当接面62aのステアリング軸Sからの距離(径方向の位置)は、同じく移動部60に形成された第一当接面61aと同じである。つまり、正面視において、第一回転部材51の第二当接面53aと、移動部60の第二被当接面62a及び第一当接面61aと、停止部44の第一被当接面45aとが、ステアリングシャフト32の周方向に並ぶ。従って、第一回転部材51の第二当接面53aが、移動部60の第二被当接面62aに当接し、かつ、移動部60の第一当接面61aが、停止部44の第一被当接面45aに当接した状態において、第二当接面53aの押圧力に対する停止部44による抗力が、効率よく第二当接面53aに作用する。その結果、停止部44は第一回転部材51の回転を安定的に止めることができ、これにより、ステアリングシャフト32の回転止めが安定的に実行される。
【0057】
また、本実施の形態に係る操舵装置30はさらに、ステアリングシャフト32に取り付けられた付勢部材70であって、回転部材50を、軸方向に沿って、かつ、軸支部42に近づく向きに付勢する付勢部材70を備える。
【0058】
この構成によれば、例えば、操舵装置30に振動が与えられた場合であっても、回転部材50と、回転部材50に隣接する他の部材間に隙間が生じ難いため、例えば、回転部材50と他の部材とが軸方向で接触することによる打音が生じ難い。また、回転部材50が、軸方向で分離された複数の部材(本実施の形態では第一回転部材51及び第二回転部材55など)を含む場合であっても、これら複数の部材間にも隙間が生じ難い。そのため、回転部材50において打音が生じる可能性が低減される。
【0059】
さらに、例えば、部材間の隙間が生じ難いことで、隙間に異物が混入することによる不具合(異音の発生、回転部材50の回転に必要なトルクの上昇など)の発生が抑制される。
【0060】
より詳細には、本実施の形態では、上述のように、第一回転部材51、摺動板75、第二回転部材55、及び摺動板76の4部材がステアリングシャフト32に配置され、これら4部材は付勢部材70によって軸支部42に近づく向きに付勢される。従って、仮に、摺動板75の欠品など、組み立てに必要な部材の欠品がある場合に、ステアリングシャフト32の先端面から回転部材50までの距離D(
図10参照)を計測することで、当該欠品を検出することができる。つまり、付勢部材70から軸支部42(ハウジング40a)までの間に必要な複数の部材のうちの少なくとも1つが存在しない場合、距離Dは、正規な値よりも小さくなっており、これにより、欠品が検出される。また、距離Dは、例えば、ステアリングシャフト32の先端部の画像データを解析すること、または、レーザー距離計等で計測可能であるため、欠品検出の自動化も可能である。
【0061】
また、本実施の形態では、付勢部材70として、C形かつ弓型の止め輪が採用されているため、ステアリングシャフト32に対する回転部材50等の組み込み、すなわち、ストッパユニット41の組み立てが容易である。
【0062】
また、上述のように第一当接面61及び第一被当接面45が軸方向に対して傾いていることで、これらの当接時に、回転部材50が軸方向前側に移動しようとする場合であっても、付勢部材70が逆向き(軸方向後側)に付勢しているため、この移動は抑制される。
【0063】
なお、回転部材50(より詳細には第一回転部材51)を、ステアリングシャフト32に対し、軸方向で移動できないように固定する手段としては、付勢部材70には限定されない。例えば、C形に形成された回転部材における、周方向で互いに対向する端部を、ステアリング軸Sに直交する方向に挿入されたボルトを用いて締結することで、回転部材をステアリングシャフト32に対して固定することも可能である。
【0064】
しかしながらこの場合、ボルト及びナットによる締結工程が必要になり、ストッパユニット41の組み立てが煩雑化する。また、ボルト及びナットを用いることによる操舵装置30の重量の増加も考えられる。さらに、ボルト及びナットを用いた場合、回転部材のステアリングシャフト32の軸方向の位置はほぼ完全に固定される。そのため、例えば、組み立て時において、回転部材と回転部材に隣接する他の部材との間に隙間がない状態で回転部材を固定した場合であっても、操舵装置30の使用時に、回転部材または他の部材の熱収縮等の影響により、回転部材と他の部材との隙間が生じる可能性がある。
【0065】
この点に関し、本実施の形態では、付勢部材70を用いて回転部材50を軸支部42に近づく向きに付勢している。そのため、回転部材50等の部材のそれぞれが、隣の部材との間に隙間を形成するように移動または変形した場合であっても、付勢部材70による付勢力が当該隙間を閉じるように各部材に作用する。また、仮に、回転部材50等の部材のそれぞれが、隣の部材を押圧するように移動または変形した場合であっても、付勢部材70が弾性変形することで、当該移動または変形による過大な押圧力の発生が抑制される。このように、付勢部材70を用いることは、ストッパユニット41の軽量化、組み立ての簡易化、または部材間に隙間が生じ難い等の観点から有利である。
【0066】
(実施の形態2)
実施の形態2として、全体が一括して動作する回転部材150を備えるストッパユニット41aの構成を、実施の形態1との差分を中心に説明する。
【0067】
図11は、実施の形態2に係るストッパユニット41a及び減速機140の外観を示す斜視図である。
図12は、実施の形態2に係るストッパユニット41aの分解斜視図である。本実施の形態に係るストッパユニット41aは、実施の形態1に係るストッパユニット41に換えて操舵装置30に備え得る装置である。
【0068】
具体的には、ストッパユニット41aは、
図11及び
図12に示すように、ステアリングシャフト32の回転に伴ってステアリングシャフト32の周方向に移動する移動部160であって、移動が停止された場合に、ステアリングシャフト32の当該回転を規制する移動部160と、軸支部42を有するハウジング40aと、ハウジング40aに配置され、移動部160と当接することで移動部160の移動を停止させる停止部144と、を備える。移動部160は、周方向において停止部144と対向する第一当接面161であって、移動部160を径方向から見た場合において、軸支部42の側を向くように、軸方向に対して傾いた第一当接面161を有する。停止部144は、第一当接面161と当接する第一被当接面145であって、停止部144を径方向から見た場合において、軸支部42とは反対側を向くように、軸方向に対して傾いた第一被当接面145を有する。
【0069】
このように、本実施の形態に係るストッパユニット41aは、実施の形態1に係るストッパユニット41と共通する基本構成を有している。そのため、実施の形態1に係るストッパユニット41と同じく、移動部160と停止部144との当接により、ステアリングシャフト32の回転範囲を機械的に制限することができ、かつ、移動部160及び停止部144の損傷の発生を抑制することができる。また、操舵装置30の小型化または軽量化等の効果も得ることができる。
【0070】
なお、本実施の形態に係るストッパユニット41aにおける第一当接面161及び第一被当接面145は、実施の形態1に係るストッパユニット41と同様に、一方のみが軸方向に対して傾いていてもよい。この場合であっても、第一当接面161が第一被当接面145aと当接する場合に、いわゆる正面衝突の状態はならず、その結果、例えば、移動部160及び停止部144それぞれの根元部分への応力集中は緩和され、当該応力集中に起因する損傷の発生が抑制される。
【0071】
また、移動部160が、ステアリングシャフト32に取り付けられた回転部材150に固定されている点、及び、付勢部材70によって回転部材150が軸支部42に近づく向きに付勢されている点においても、ストッパユニット41aは、ストッパユニット41と共通している。従って、実施の形態1で説明したこれらの構成による効果も、本実施の形態においても得ることができる。
【0072】
本実施の形態に係るストッパユニット41aは、回転部材150が、ステアリングシャフト32の回転と共に全体が一括して回転する点で、上記実施の形態1に係るストッパユニット41と異なる。
【0073】
つまり、ステアリングシャフト32が1回転すると、この回転と共に回転部材150の全体が1回転し、その結果、移動部160も1回転する。従って、ステアリングシャフト32の回転範囲は機械的に制限され、その回転範囲の上限は1回転未満である。従って、本実施の形態に係るストッパユニット41aは、実施の形態1に係るストッパユニット41と比較すると、ステアリングシャフト32の回転範囲は狭くなる。しかし、ストッパユニット41aの構成の簡易化、小型化、及び軽量化等の観点からは、実施の形態1に係るストッパユニット41よりも有利である。
【0074】
(他の実施の形態)
以上、本発明に係る操舵装置について、実施の形態1及び2に基づいて説明したが、本発明は、これら実施の形態に限定されるものではない。本発明の趣旨を逸脱しない限り、当業者が思いつく各種変形実施の形態1または2に施したもの、及び、実施の形態1及び2における構成要素を組み合わせて構築される形態も、本発明の範囲内に含まれてもよい。
【0075】
例えば、実施の形態1では、例えば
図4に示すように、移動部60の第一当接面61aと、停止部44の第一被当接面45aとはともに平面であり、かつ、面で当接するとした。しかし、第一当接面61a及び第一被当接面45aの形状は平面には限定されない。例えば、第一当接面61aが外側に凸の湾曲形状である場合に、第一被当接面45aが内側に凹の湾曲形状であってもよい。この場合であっても、第一当接面61aと第一被当接面45aとは、面で当接することができる。同様に、第一当接面61a及び第一被当接面45aのそれぞれが、互いに向きが異なる複数の平面で形成されていてもよく、この場合であっても、第一当接面61aと第一被当接面45aとを面で当接させることは可能である。これら当接面及び被当接面の形状に関する補足事項は、実施の形態1に係る第二当接面53a及び第二被当接面62a、並びに、実施の形態2に係る第一当接面161及び第一被当接面145など、互いに当接する2つの面について適用可能である。
【0076】
また、例えば、互いに当接する第一当接面61及び第一被当接面45の少なくとも一方は、弾性部材で被膜されている、としてもよい。
【0077】
これにより、第一当接面61と第一被当接面45とが当接した場合における打音の減少、または、衝撃トルクの吸収等の効果が得られる。また、仮に、第一当接面61と第一被当接面45とが当接することで移動部60または停止部44が破損した場合に、被膜があることで、金属の破片が飛散することが防止される。
【0078】
なお、第一当接面61または第一被当接面45を弾性部材で被膜する手法に特に限定はない。例えば、第一当接面61または第一被当接面45に、樹脂材料を、塗布、噴射、漬け込み等によって付着させた後に乾燥させることで、第一当接面61または第一被当接面45に弾性部材の被膜を形成してもよい。また、例えば、弾性部材であるゴムを加硫接着によって第一当接面61または第一被当接面45に接着することでゴムの被膜を形成してもよい。また、例えば、熱収縮性のチューブを移動部60または停止部44にはめて加熱することで、移動部60または停止部44の全体をチューブで覆い、これにより、第一当接面61または第一被当接面45に、弾性部材の被膜が形成されてもよい。
【0079】
例えば、実施の形態1に係る回転部材50では、ステアリングシャフト32と共に回転する第一回転部材51と、ステアリングシャフト32に対して回転可能な第二回転部材55とは軸方向に並べられている。しかしながら、これら2種類の回転部材は、ステアリングシャフト32を中心とする同心円状に配置されてもよい。
【0080】
例えば、ステアリングシャフト32と共に回転する第一回転部材の外周を囲むように、第二回転部材を配置し、第一回転部材の外周面に設けられた外周凸部が、第二回転部材の内周面に設けられた内周凸部に当接するように配置してもよい。この場合、ステアリングシャフト32と共に第一回転部材が回転し、第一回転部材の外周凸部が第二回転部材の内周凸部に当接することで、第二回転部材は、第一回転部材と共に回転する。その後、第二回転部材の外周面に固定された移動部が、ハウジング40aに設けられた停止部に当接することで、第二回転部材の回転が停止され、その結果、第一回転部材及びステアリングシャフト32の回転も停止される。
【0081】
このように、停止部に当接する第二回転部材の内側に、ステアリングシャフト32に取り付けられた第一回転部材を配置することで、停止部による抗力を、第一回転部材に対して、径方向外側から作用させることができる。つまり、第一回転部材の回転を停止させる際に、当該回転とは逆向きの比較的大きなトルクで、第一回転部材の回転を停止させることができる。従って、例えば、比較的大きな力でステアリングホイール21が回された場合であっても、簡易な構成で、当該回転をより確実に停止することができる。また、ストッパユニットの軸方向のサイズを短くすることも可能である。
【0082】
また、移動部及び停止部の互いの当接面、並びに、外周凸部及び内周凸部の互いの当接面を、実施の形態1に係る第一当接面61及び第一被当接面45と同じく、当接時に受ける力の一部を、軸方向かつ当接相手とは反対側に向けるように傾ける。これにより、直接的に衝撃を受ける部位である、移動部、停止部、外周凸部及び内周凸部の損傷の発生が抑制される。
【0083】
なお、この場合、第二回転部材は、例えば、有底の筒状に形成し、底面部分にステアリングシャフト32を挿通させる開口部を設けてもよい。これにより、第二回転部材をステアリングシャフト32に軸支させることができ、かつ、第一回転部材の径方向外側に、内周凸部及び停止部を配置することができる。
【0084】
また、実施の形態1に係る回転部材50は、第一回転部材51及び第二回転部材55の2段構成であるが、回転部材50は、ステアリングシャフト32と共に回転する第一回転部材51に加えて複数の回転部材を有してもよい。つまり、回転部材50は2段構成である必要はなく、3段以上の構成であってもよい。これにより、例えば、ステアリングシャフト32の回転可能な範囲を、2段構成の回転部材50を用いるよりもさらに広げることができる。
【0085】
また、回転部材50は、ステアリングシャフト32の減速機40から突出した端部に配置されている必要はない。回転部材50は、例えば、ステアリングシャフト32における減速機40よりもステアリングホイール21側に配置されてもよい。つまり、ステアリングホイール21に連結された軸部材の軸方向のいずれかの位置に、回転部材50が配置されていれば、簡易な構成で、軸部材の回転範囲を機械的に制限することは可能である。また、操舵装置30の小型化等の効果も得ることができる。
【0086】
また、停止部44は、ハウジング40aそのものが備えていなくてもよい。例えば、ハウジング40aに固定された別部材を介して、停止部44がハウジング40aに固定されてもよい。また、停止部44が減速機40のハウジング40aに配置されることは必須ではない。つまり、ステアリングホイール21に連結された軸部材を支持する支持部材であれば、その支持部材に停止部を設けることで、軸部材の回転範囲を制限するためのストッパユニットを、簡易かつコンパクトに構成することができる。
【0087】
また、ステアリングシャフト32に回転部材50を取り付けることで、移動部60をステアリングシャフト32に配置することは必須ではない。例えば、ステアリングシャフト32に、径方向に突出する突起を設け、この突起が移動部として機能してもよい。つまり、突起に形成された第一当接面が、ハウジング40aに固定された停止部44の第一被当接面45と当接することで、ステアリングシャフト32の回転範囲が制限されてもよい。
【0088】
また、付勢部材70は、弓型かつC形の止め輪とは異なる部材によって実現されてもよい。例えば、ベベル形止め輪、または、プッシュナット等の、隣接する部品に付勢力を与えることができ、かつ、回転部材50等の抜け止めとして機能する部材であれば、付勢部材として採用することができる。また、例えば、回転部材50を付勢するつるまきばね、及び、つるまきばねをステアリングシャフト32に対して固定する止め具などの複数の部品の組み合わせによって、付勢部材が実現されてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0089】
本発明に係る車両用操舵装置は、操舵部材の操作に応じて回転する軸部材の回転範囲を機械的に制限することができる車両用操舵装置であり、例えば、リンクレス・ステア・バイ・ワイヤシステムにおける車両用操舵装置に適用することができる。
【符号の説明】
【0090】
10…操舵システム,20…操舵機構,21…ステアリングホイール,30…操舵装置,32…ステアリングシャフト,32a…雄スプライン,32b…段差部,33…取付溝,40、140、175…減速機,40a…ハウジング,41、41a…ストッパユニット,42…軸支部,44、144…停止部,45、45a、45b、145…第一被当接面,46…操舵角センサ,48…反力モータ,50、150…回転部材,51…第一回転部材,51a…雌スプライン,52…突出部,53、53a、53b…第二当接面,55…第二回転部材,55a…開口部,60、160…移動部,61、61a、61b、161…第一当接面,62、62a、62b…第二被当接面,70…付勢部材,75、76…摺動板,92…速度センサ,93…バッテリ,100…転舵機構,130…転舵モータ,170…ラックシャフト,176…第一歯車,177…第二歯車,178…雄ネジ,180…転舵輪