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特許7155956液体吐出ヘッド、液体吐出ユニットおよび液体を吐出する装置
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-11
(45)【発行日】2022-10-19
(54)【発明の名称】液体吐出ヘッド、液体吐出ユニットおよび液体を吐出する装置
(51)【国際特許分類】
   B41J 2/14 20060101AFI20221012BHJP
   B41J 2/16 20060101ALI20221012BHJP
【FI】
B41J2/14 501
B41J2/14 305
B41J2/16 517
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2018224925
(22)【出願日】2018-11-30
(65)【公開番号】P2020082671
(43)【公開日】2020-06-04
【審査請求日】2021-08-26
(73)【特許権者】
【識別番号】000006747
【氏名又は名称】株式会社リコー
(74)【代理人】
【識別番号】100090527
【弁理士】
【氏名又は名称】舘野 千惠子
(72)【発明者】
【氏名】平野 裕理
(72)【発明者】
【氏名】米田 良太
(72)【発明者】
【氏名】水上 智
【審査官】長田 守夫
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-033848(JP,A)
【文献】国際公開第2008/155986(WO,A1)
【文献】特開2005-161679(JP,A)
【文献】国際公開第2016/158917(WO,A1)
【文献】特開2017-149120(JP,A)
【文献】特開平5-345419(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2007/0040870(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41J 2/01-2/215
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体を吐出するノズルを備え、
前記ノズルは、
前記液体が供給される第1開口部を有する第1ノズル部と、
前記第1開口部より小さく、前記液体を吐出する第2開口部を有する第2ノズル部と、を有し、
前記第2ノズル部は、内壁の内周方向に延在する環状の凹部を一つ以上有し、前記凹部と前記第2開口部との間に凹部が存在しない領域を有し、
前記第2ノズル部は、
前記第1ノズル部に近い第1内壁部と、
前記第1内壁部と前記第2開口部との間の第2内壁部と、を有し、
前記第1内壁部は、前記凹部を有し、
前記第2内壁部は、前記第1内壁部が有する前記凹部よりも溝が浅い凹部を有する内壁と、凹部が存在しない内壁とのいずれかを有し、
前記第1内壁部が有する前記凹部の内部において、前記第2開口部側よりも前記第1ノズル部側の表面に撥水成分を多く有することを特徴とする液体吐出ヘッド。
【請求項2】
液体を吐出するノズルを備え、
前記ノズルは、
前記液体が供給される第1開口部を有する第1ノズル部と、
前記第1開口部より小さく、前記液体を吐出する第2開口部を有する第2ノズル部と、を有し、
前記第2ノズル部は、内壁の内周方向に延在する環状の凹部を一つ以上有し、前記凹部と前記第2開口部との間に凹部が存在しない領域を有し、
前記第2ノズル部は、
前記第1ノズル部に近い第1内壁部と、
前記第1内壁部と前記第2開口部との間の第2内壁部と、を有し、
前記第1内壁部は、前記凹部を有し、
前記第2内壁部は、前記第1内壁部が有する前記凹部よりも溝が浅い凹部を有する内壁と、凹部が存在しない内壁とのいずれかを有し、
前記第1内壁部には前記凹部が前記ノズルの軸方向に沿って複数形成されており、
前記第2開口部に近い側の前記凹部は、前記第1開口部に近い側の前記凹部よりも、撥水成分を多く有することを特徴とする液体吐出ヘッド。
【請求項3】
液体を吐出するノズルを備え、
前記ノズルは、
前記液体が供給される第1開口部を有する第1ノズル部と、
前記第1開口部より小さく、前記液体を吐出する第2開口部を有する第2ノズル部と、を有し、
前記第2ノズル部は、内壁の内周方向に延在する環状の凹部を二つ以上有し、
前記第1ノズル部に近い凹部が、前記第2開口部に近い凹部より深く、
前記第2ノズル部は、
前記第1ノズル部に近い第1内壁部と、
前記第1内壁部と前記第2開口部との間の第2内壁部と、を有し、
前記第1内壁部は、前記凹部を有し、
前記第2内壁部は、前記第1内壁部が有する前記凹部よりも溝が浅い凹部を有する内壁と、凹部が存在しない内壁とのいずれかを有し、
前記第1内壁部には前記凹部が前記ノズルの軸方向に沿って複数形成されており、
前記第2開口部に近い側の前記凹部は、前記第1開口部に近い側の前記凹部よりも、撥水成分を多く有することを特徴とする液体吐出ヘッド。
【請求項4】
液体を吐出するノズルを備え、
前記ノズルは、
前記液体が供給される第1開口部を有する第1ノズル部と、
前記第1開口部より小さく、前記液体を吐出する第2開口部を有する第2ノズル部と、を有し、
前記第2ノズル部は、内壁の内周方向に延在する環状の凹部を二つ以上有し、
前記第1ノズル部に近い凹部が、前記第2開口部に近い凹部より深く、
前記第1ノズル部に近い凹部の内部において、前記第2開口部側よりも前記第1ノズル部側の表面に撥水成分を多く有し、
前記第2開口部に近い側の前記凹部は、前記第1開口部に近い側の前記凹部よりも、撥水成分を多く有することを特徴とする液体吐出ヘッド。
【請求項5】
液体を吐出するノズルを備え、
前記ノズルは、
前記液体が供給される第1開口部を有する第1ノズル部と、
前記第1開口部より小さく、前記液体を吐出する第2開口部を有する第2ノズル部と
を有し、
前記第2ノズル部の内壁部には
凹部が前記ノズルの軸方向に沿って複数形成された領域を有し、
前記凹部の内部において、
前記第2開口部側よりも前記第1ノズル部側の表面に撥水成分を多く有する
ことを特徴とする液体吐出ヘッド。
【請求項6】
前記ノズルを形成している基板は、シリコンで形成されていることを特徴とする請求項1から5のいずれか一項に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項7】
請求項1から6のいずれか一項に記載の液体吐出ヘッドを備えていることを特徴とする液体吐出ユニット。
【請求項8】
請求項1から6のいずれか一項に記載の液体吐出ヘッド、または、請求項7に記載の液体吐出ユニットを備えていることを特徴とする液体を吐出する装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体吐出ヘッド、液体吐出ユニットおよび液体を吐出する装置に関する。
【背景技術】
【0002】
液体を吐出させることで媒体上に画像を形成する液体吐出ヘッドにおいて、エッチングによる微細加工を施したシリコン基板をノズル板に採用し、従来のヘッドよりもドット密度を向上させることで、高精細な画質を実現させる技術が既に知られている。
【0003】
例えば、特許文献1には、ノズル内壁面の凹凸に液体内の固形成分が付着することによる液体の吐出不良を抑える技術が開示されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来のノズルは、ノズル板を両側からエッチングする際に生じたノズルの出口部と入口部との軸ズレにより、吐出された液体のノズル面に垂直な方向に対する曲がり量が大きくなっていた。
【0005】
本発明は、以上の従来技術における問題に鑑みてなされたものであり、液体吐出方向の曲がりを防止することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述した課題を解決するために、本発明の液体吐出ヘッドは、
液体を吐出するノズルを備え、
前記ノズルは、
前記液体が供給される第1開口部を有する第1ノズル部と、
前記第1開口部より小さく、前記液体を吐出する第2開口部を有する第2ノズル部と、を有し、
前記第2ノズル部は、内壁の内周方向に延在する環状の凹部を一つ以上有し、前記凹部と前記第2開口部との間に凹部が存在しない領域を有し、
前記第2ノズル部は、
前記第1ノズル部に近い第1内壁部と、
前記第1内壁部と前記第2開口部との間の第2内壁部と、を有し、
前記第1内壁部は、前記凹部を有し、
前記第2内壁部は、前記第1内壁部が有する前記凹部よりも溝が浅い凹部を有する内壁と、凹部が存在しない内壁とのいずれかを有し、
前記第1内壁部が有する前記凹部の内部において、前記第2開口部側よりも前記第1ノズル部側の表面に撥水成分を多く有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、液体吐出方向の曲がりを防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本発明の一実施形態に係る液体吐出ヘッドの外観斜視説明図である。
図2】同じく分解斜視説明図である。
図3】同じく断面斜視説明図である。
図4】同じくフレーム部材を除く分解斜視説明図である。
図5】同じく流路部分の断面斜視説明図である。
図6】同じく流路部分の平面説明図である。
図7】一実施形態の液体吐出ヘッドのノズル板の概観を説明する図である。
図8図7の一つのノズルの周辺を切り出した図である。
図9】従来の液体吐出ヘッドのノズル断面を説明する図である。
図10】任意の軸ズレGでの入口径と吐出曲がり量との関係を示したグラフである。
図11】入口径と吐出曲がり量との関係を説明するグラフである。
図12】ストレート長または入口径の増加による、中心軸に対するメニスカスの対称性の変化を説明する図である。
図13】ノズル内壁に残留した撥水膜の一例を説明する図である。
図14】ノズル内壁に固着した異物の一例を説明する図である。
図15】一実施形態のノズル断面を説明する図である。
図16】ノズル壁面に付着した撥水膜を除去する工程の前のノズルの断面例を説明する図である。
図17】ノズル壁面に付着した撥水膜の除去工程後のノズルの断面例を説明する図ある。
図18】一実施形態のノズル断面の他の形状を説明する図である。
図19】溝の他の形状を説明する図である。
図20】本発明に係る液体を吐出する装置の一例の要部平面説明図である。
図21】同装置の要部側面説明図である。
図22】本発明に係る液体吐出ユニットの一例の要部平面説明図である。
図23】本発明に係る液体吐出ユニットの他の例の正面説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、実施形態について、図面を参照しながら説明する。説明の明確化のため、以下の記載および図面は、適宜、省略または簡略化がなされている。各図面において同一の構成または機能を有する構成要素および相当部分には、同一の符号を付し、その説明を省略する。
【0010】
まず、本発明の一実施形態の液体吐出ヘッドについて、図1ないし図6を参照して説明する。図1は一実施形態に係る液体吐出ヘッドの外観斜視説明図、図2は同じく分解斜視説明図、図3は同じく断面斜視説明図である。図4は同じくフレーム部材を除く分解斜視説明図、図5は同じく流路部分の断面斜視説明図である。図6は同じく流路部分の平面説明図である。
【0011】
この液体吐出ヘッド1は、ノズル板10と、流路板(個別流路部材)20と、振動板部材30と、共通流路部材50と、ダンパ部材60と、フレーム部材80と、駆動回路102を実装した基板(フレキシブル配線基板)101などを備えている。
【0012】
ノズル板10には、液体を吐出する複数のノズル11を有している。複数のノズル11は、二次元状にマトリクス配置され、図6に示すように、第1方向F、第2方向S及び第3方向Tの三方向に並んで配置されている。
【0013】
個別流路部材20は、複数のノズル11に各々連通する複数の圧力室(個別液室)21と、複数の圧力室21に各々通じる複数の個別供給流路22と、複数の圧力室21に各々通じる複数の個別回収流路23とを形成している。1つの圧力室21及びこれに通じる個別供給流路22と個別回収流路23を併せて個別流路25と称する。
【0014】
振動板部材30は、圧力室21の変形な可能な壁面である振動板31を形成し、振動板31には圧電素子40が一体に設けられている。また、振動板部材30には、個別供給流路22に通じる供給側開口32と、個別回収流路23に通じる回収側開口33とが形成されている。圧電素子40は、振動板31を変形させて圧力室21内の液体を加圧する圧力発生手段である。
【0015】
なお、個別流路部材20と振動板部材30とは、部材として別部材であることに限定さるものではない。例えば、SOI(Silicon on Insulator)基板を使用して個別流路部材20及び振動板部材30を同一部材で一体に形成することができる。つまり、シリコン基板上に、シリコン酸化膜、シリコン層、シリコン酸化膜の順に成膜されたSOI基板を使用し、シリコン基板を個別流路部材20とし、シリコン酸化膜、シリコン層及びシリコン酸化膜とで振動板31を形成することができる。この構成では、SOI基板のシリコン酸化膜、シリコン層及びシリコン酸化膜の層構成が振動板部材30となる。このように、振動板部材30は個別流路部材20の表面に成膜された材料で構成されるものを含む。
【0016】
共通流路部材50は、2以上の個別供給流路22に通じる複数の共通供給流路支流52と、2以上の個別回収流路23に通じる複数の共通回収流路支流53とを、ノズル11の第2方向Sに交互に隣接して形成している。
【0017】
共通流路部材50には、個別供給流路22の供給側開口32と共通供給流路支流52を通じる供給口54となる貫通孔と、個別回収流路23の回収側開口33と共通回収流路支流53を通じる回収口55となる貫通孔が形成されている。
【0018】
また、共通流路部材50は、複数の共通供給流路支流52に通じる1又は複数の共通供給流路本流56と、複数の共通回収流路支流53に通じる1又は複数の共通回収流路本流57を形成している。
【0019】
ダンパ部材60は、共通供給流路支流52の供給口54と対面する(対向する)供給側ダンパ62と、共通回収流路支流53の回収口55と対面する(対向する)回収側ダンパ63を有している。
【0020】
ここで、共通供給流路支流52及び共通回収流路支流53は、同じ部材である共通流路部材50に交互に並べて配列された溝部を、ダンパ部材60の供給側ダンパ62又は回収側ダンパ63で封止することで構成している。なお、ダンパ部材60のダンパ材料としては、有機溶剤に強い金属薄膜又は無機薄膜を用いることが好ましい。ダンパ部材60の供給側ダンパ62、回収側ダンパ63の部分の厚みは10μm以下が好ましい。
【0021】
次に、液体吐出ヘッドの構成について詳細を説明する。
図7は、一実施形態の液体吐出ヘッドのノズル板の概観である。また、図8は、図7の一つのノズルの周辺を切り出した図である。ノズル板10は、複数のノズル11が配列される。図8は、例えば、図7の枠Pで囲まれたノズルの周辺を切り出した図である。
以下では、図8に示すA-A線に沿ったノズル断面(ノズル板長手方向に切った断面)に注目する。また、ノズル孔が形成されたノズル板10の対向する二つの面を、圧力室21に近い「液室側の面」と、ノズルから液体が吐出する側の「吐出面」(「ノズル面」とも称する)として説明する。
【0022】
[従来のノズルの構成]
図9は、従来の液体吐出ヘッドのノズル断面を説明する図である。
従来の液体吐出ヘッドは、1枚のシリコン基板13から形成される。シリコン基板13の吐出面には撥水膜15が形成される。
図9のノズルは入口部111pと出口部112pとからなる2段ストレート構造である。入口部111pと出口部112pとは、いずれもノズル板10をエッチングすることで形成される。入口部111pはノズルに液体が供給される側、つまりノズルに液体が入ってくる入口である。出口部112pはノズルから液体が吐出される側、つまりノズルから液体が出ていく出口である。エッチングの工程において、液体吐出方向に沿って、ノズル内壁面に環状の溝が少なくとも1つ形成される。溝17は、内壁の内周方向に延在する環状の凹部であり、「スキャロップ」とも称する。溝17は、ノズルの製造工程において、ノズル内壁面に生じる波型の凹凸形状の一例である。
【0023】
[軸ズレによる吐出曲がり量の増加]
ノズル11は、例えば、ノズル板10を液室側の面と吐出面との両側からエッチングすることにより形成される。従って、ノズル板10の入口部111pと出口部112p(出口部112pのうち撥水膜15を除いたシリコン基板13の部分)とを別々に形成してノズル孔を作製している。ノズル孔形成後、ノズル11の入口部111pの中心軸ax1と出口部112pの中心軸ax2にズレ(軸ズレG)が生じる場合がある。この軸ズレGにより、入口部111pと出口部112pとの境界付近で流体の流れが出口部112pの中心軸ax2に対して非対称(同心軸非対称)になり、その影響を受けたメニスカスの形状も同心軸非対称となる。ここで、同心軸は、出口部の中心軸ax2とする。図10は、ノズルの流体の流れを説明する図である。図10の入口部111p内の矢印は流体の流れの一例を表す。図10は、流体の流れが中心軸ax2に対して非対称になること、および、メニスカスの形状が、中心軸ax2に対して対称とならず、中心軸ax1寄りに偏った形状となる一例を表している。
【0024】
これが原因で、従来の液体吐出ヘッドでは、吐出曲がり量が増加してしまい、その結果液体が意図した場所に着弾しないという問題があった。ここで、吐出曲がり量は、ノズルから吐出された液体がノズル面に垂直な方向に対して曲がる量(大きさ)とする。
【0025】
そこで、発明者らは、図9に示す入口径、出口径およびストレート長(「ST長」とも称する)の長さを操作し、吐出曲がり量を抑制できるか確かめた。ここで、入口径は入口部の内径、出口径は出口部の内径、ストレート長は出口部の長さ(中心軸ax2に沿った軸方向の出口部の長さ)とする。
その結果、軸ズレが原因で発生する吐出曲がりは、入口径またはストレート長を増加させると抑えられることを発見した。
【0026】
図11は、任意の軸ズレGでの入口径と吐出曲がり量との関係を示したグラフである。また、図12は、ストレート長または入口径の増加による、中心軸ax2に対するメニスカスの対称性の変化を説明する図である。図12の左側のノズル断面は、従来のノズルの一例である。図12の右側のノズル断面は、左側より入口径が大きく、ストレート長が長いノズルの一例である。図12の入口部111p、111s内の矢印は流体の流れの一例を表す。
入口径を大きくすることで吐出曲がり量が抑制される理由は、入口径を大きくしたことにより、流体の流れの同心軸対称性が向上し、メニスカスの同心軸非対称性が低下したからだと考えられている。また、ストレート長を長くすることで吐出曲がり量が抑制される理由は、ストレート部分を長くしたことで、入口部111sと出口部112sの境界付近(流体の流れの同心軸非対称性が高い領域)からメニスカスが遠ざけられたからであると考えられている。
【0027】
[溝の存在による吐出曲がり量の増加およびノズル間のばらつき]
前述の通り、入口径やストレート長を増加させることで軸ズレ量由来の吐出曲がり量は抑えられることができた。しかし、ノズル面側のノズル内壁(ノズル孔の壁面)に溝17が存在することで、吐出曲がり量のノズル間ばらつきや吐出曲がり量自体が大きくなってしまうことが判明した。
【0028】
吐出曲がり量のノズル間ばらつきの原因は、吐出面近傍のノズル内壁のスキャロップ形状に起因して発生した残留撥水膜18(図13)や、粘度の増加によってスキャロップに固着してしまった流体の塊等の異物19(図14)であると考えられている。
図13は、ノズル内壁に残留した撥水膜の一例を説明する図であり、図14は、ノズル内壁に固着した異物の一例を説明する図である。
【0029】
ノズル内壁に溝17を有する構造では、凹部に液体が残りやすく、メニスカスがノズル内側に引き込まれた際に凹部に残った液体が外気に晒されて、ノズル内壁面に堆積物が残る。この堆積物によって、インク吐出方向が予定していた方向から曲がる。
例えば、特許文献1では、吐出のタイミングを工夫することで、ノズル内壁に残った液体が外気に晒される期間を短縮して、ノズル開口部周辺に増粘した液体が発生することを防止する技術が開示されている。しかし、駆動方法によって、堆積物が発生しないようにすることは、駆動回路が複雑化してしまうことが懸念される。
【0030】
また、ノズル内壁面全体にスキャロップが形成されないような製造プロセスを採用すれば、確かに堆積物の課題は解消されるかもしれない。しかし、図9等を参照して説明した2段以上のノズル(直径が広いノズル部と直径が狭いノズル部とで構成されたノズル)の場合、ノズルの出口部112の内壁の全域がスキャロップの無い平坦な形状であれば、メニスカスが入口部111と出口部112の境界付近まで引き込まれやすくなる。軸ズレGが存在する場合、入口部111と出口部112の境界付近では、液体の流れが非対称になっているので、その影響を受けてメニスカスが非対称形状となり、液体吐出方向が曲がる要因となる。
【0031】
そこで、ノズル内壁面の吐出面付近に堆積物の発生や、撥水膜の残留を抑制するとともに、二つのノズル部の境界付近の液体流れの非対称性に起因するメニスカス非対称をなくして、液体吐出方向の曲がりを防止することが望まれる。
以下、本発明に係る一実施形態について説明する。
【0032】
[一実施形態のノズルの構成]
図15は、本発明の一実施形態のノズル断面を説明する図である。
一実施形態のノズル板10は1枚のシリコン基板13から形成される。シリコン基板13の吐出面には撥水膜15が形成される。
ノズルは2段ストレート構造とり、第1ノズル部としての入口部111と、第2ノズル部としての出口部112とから構成される。入口部111と出口部112とは、いずれもノズル板10をエッチングすることで形成される。入口部111と出口部112とは連通し、流体が流通できるように連なっている形状を有する。
【0033】
入口部111は、液室(例えば、複数の圧力室21)から液体が供給される第1開口部113を有する。第1開口部113は、ノズル板10の液室側の面に形成された開口部であり、ノズル孔の液室側の端部となる。第1開口部113の大きさは入口部111の液室側の入口径の大きさと一致する。
出口部112は、入口部111に供給された液体を吐出する第2開口部114を有する。第2開口部114は、ノズル板10の吐出面(撥水膜15が塗布された吐出面)に形成された開口部であり、ノズル孔の吐出面側の端部となる。第2開口部114の大きさは出口部112の吐出面側の出口径の大きさと一致する。
第1開口部113の径は第2開口部114の径より大きい。従って、ノズル11は、入口部111と、それよりも相対的に径が小さい出口部112から構成される多段構造を有する。
【0034】
ノズル孔は、エッチングと内壁保護膜の形成を交互に繰り返す異方性エッチングの方法により形成される。このとき、ノズル孔の内壁には、内壁の内周方向に延在する環状の凹部(溝17)がノズルの軸方向に複数形成される。
入口部111は、従来の入口部111pと同様に、内壁に複数の凹部を有する。
出口部112は、少なくとも一つの凹部を有するように形成される。出口部112では、例えば、前述した異方性エッチングにより形成された凹部が処理され、形状を変更している。出口部112の凹部について以下に詳述する。
【0035】
出口部112は、ノズル内壁に、異なる形状を有する二つの部位(領域)として、第1内壁部115と第2内壁部116を有する。
第1内壁部115は、出口部112のノズル入口側(出口部112の入口部111に近い側)であり、溝17が形成された「スキャロップ構造」を有する。
第2内壁部116は、出口部112のノズル面側であり、溝17が形成されていない「非スキャロップ構造」、あるいは、溝の深さが第1内壁部115の溝より深さが小さい溝が形成された「小スキャロップ構造」を有する。
図15では、第2内壁部116が非スキャロップ構造である例を示している。
【0036】
非スキャロップ構造の出口部112は、例えば、内壁に、一つ以上の凹部を有する領域と、一つ以上の凹部と吐出面(第2開口部114)との間に凹部(溝17)が存在しない領域を有する。凹部が存在しない領域は、吐出面に最も近い凹部から吐出面までの間の領域とするとよい。具体的には、出口部112の内壁は、図15に示すように、溝17を有する第1内壁部115と、溝17が存在しない第2内壁部116とから構成されることが好ましい。
小スキャロップ構造の出口部112は、例えば、二つ以上状の凹部を有し、入口部111に近い凹部の溝が、吐出面に近い凹部より深さが深くなる。出口部112の内壁は、入口部111側に近い領域に深い凹部を配置し、深い凹部を有する領域の吐出面側の境界から吐出面までの領域に、相対的に浅い凹部を配置するとよい。具体的には、出口部112の内壁は、図15に示す第1内壁部115に深い溝17を形成し、第2内壁部116に深い溝17より浅い溝を形成することが好ましい。
【0037】
ここで、第1内壁部115と第2内壁部116の並び順は、液室側から入口部111、出口部112の第1内壁部115、出口部112の第2内壁部116の順であり、さらに撥水膜15を有する。
【0038】
出口部112の第1内壁部115の形状をスキャロップ構造にすることで、非スキャロップ構造あるいは小スキャロップ構造をとる第2内壁部116は、第1内壁部115よりも相対的に濡れやすくなる。その結果、圧電素子40等の液滴を吐出するエネルギーを発生させる素子に、メニスカスをノズル内側に引き込む電圧を印加した際、メニスカスが張られる位置が入口部111と出口部112との境界から離れた領域にとどまり、メニスカスがこの境界付近にまで到達することを防ぐことができる。入口部111と出口部112との境界付近は、軸に対する非対称性が高い領域(中心軸ax2に対して流体の流れの非対称性が高い領域)である。このように、メニスカスがノズル内部に移動する際には、入口部111と出口部112との境界付近に至るまでのスキャロップによって移動が制限され、メニスカスが境界付近に到達することを防ぐ。
その結果、入口部111と出口部112との中心軸にズレがあったとしても、メニスカスが境界付近の液体の流れの影響を受けにくくなる。吐出前後でメニスカスの形状が中心軸ax2に対して対称であり続け、吐出曲がり量が抑制される。
【0039】
さらに、出口部112の第2内壁部116の形状を非スキャロップ構造もしくは小スキャロップ構造にすることで、撥水膜の残留を防ぐことができる。また、粘度増加によってノズル面側のノズル壁面に固着してしまう液体の塊等の異物の発生を防ぐことができる。
これにより、吐出曲がり量が抑制される。また、ノズル間の吐出曲がり量のばらつきが低減される。
【0040】
[実施例]
実施例では、ノズル内壁に付着する撥水成分(撥水材料、撥水基とも称する)について撥水膜の除去工程前後に分けて説明する。
図16は、ノズル壁面に付着した撥水膜を除去する工程の前のノズルの断面例を説明する図である。
【0041】
図17は、ノズル壁面に付着した撥水膜の除去工程後のノズルの断面例を説明する図である。
プラズマ照射方向にプラズマを照射することで、図16から図17のように撥水材料が分布しやすくなる。凹部(溝)がある壁面では、1つの凹部について、吐出面側の壁面よりも液室側(入口部111側)の壁面に撥水成分が残留しやすい。ノズル壁面に付着した撥水膜の除去工程後、出口部112の第1内壁部115(スキャロップ構造)では、第2内壁部116(非スキャロップ構造または小スキャロップ構造)よりも液室側の壁面の方に撥水材料が残留する。
【0042】
これにより、吐出面付近にあるメニスカスが入口部111側に引き込まれる際に、出口部112(特に第1内壁部115)のノズル内壁の撥水膜は、よりメニスカスの移動を制限するように働く。結果として、メニスカス引き込みの際にノズルの出口部112と入口部111との境界付近にメニスカスが至りづらくなることで吐出曲がり量が抑制される。また、インク充填(入口部111から吐出面側へのインク移動)に対しては、撥水膜が作用しにくくなり、インク充填性を阻害しない。
【0043】
また、入口部111側からプラズマを照射するため、出口部112の第1内壁部115に複数の凹部が存在する場合には、入口部111側に近い位置にある凹部は、入口部111側から遠い側のある凹部よりも内部の撥水膜が除去されやすい。従って、吐出面(第2開口部114側)に近い側の凹部は、入口部111側(第1開口部113側)に近い側の凹部よりも、撥水成分を多く有している。
【0044】
[その他の実施形態]
図15では、入口部111は、ストレートの壁面を有するストレート構造である例を示したが、これに限られることはない。例えば、図15の入口部111は、図18に示すように、吐出面に対して傾斜している壁面を有する入口部111aでもよい。図18に示す例では、出口部112が第2内壁部116に非スキャロップ構造を有することにより、図15等を参照して説明した実施形態と同様の効果を奏することができる。また、出口部の第2内壁部116は、小スキャロップ構造を用いることもできる。
【0045】
このように、入口部111の側壁の形状(例えば、傾斜)にかかわらず、入口部111と出口部112との境界面において、入口部111の内径が、出口部112の内径より大きいノズルでは、出口部112が有する第1内壁部115および第2内壁部116により、前述した効果を奏することができる。さらに、入口径およびストレート長を適切な大きさにすることにより、吐出曲がりを抑制することができる。
【0046】
また、上記実施形態では出口部112が、第1内壁部115と第2内壁部116との二つの部位(内壁の形状が異なる領域)から構成される例を説明したが、これに限られるわけではない。例えば、出口部は、内壁に3つ以上の部位を有するように構成してもよい。例えば、スキャロップ構造を有する内壁部Aと、小スキャロップ構造を有する内壁部Bと、非スキャロップ構造を有する内壁部Cを有するように構成してもよい。このとき、入口部111側からスキャロップ構造(内壁部A)、小スキャロップ構造(内壁部B)、非スキャロップ構造(内壁部C)の順にし、吐出面に近いほうに非スキャロップ構造を配置するとよい。これは、撥水膜の残留を防ぐこと、液体の塊等の異物の発生を防ぐこと等の効果が大きいからである。
【0047】
ノズル孔の内壁の内周方向に延在する環状の凹部は、環状の溝を形成するとよい。しかしながら、凹部は、必ずしも溝が環状につながった形状に限られることはなく、例えば、凹部の一部分がなくなり、溝が途切れて埋まった形状が一部分に存在してもよい。凹部は、環状に沿って形成されていればよい。
また、凹部は、断面形状が図9等に示す溝17のように、半円が連続してつながった形状にかぎられるものではない。例えば、図19に示す溝17aのような矩形であってもよい。凹部は、入口部111および出口部112の円周方向に沿った「溝」があればよい。
【0048】
以上説明した通り、本発明に係る一実施形態では、ノズル内壁の一部に溝構造(例えば、スキャロップ構造)を備え、他の少なくとも一部には当該溝構造を変更した形状(小スキャロップ構造または非スキャロップ構造)を備えたノズル構成とするにより、吐出前後でメニスカスの位置を制限することが可能となる。このように、吐出面近傍のノズル内壁の溝構造を工夫するにより、ノズルの軸ズレによる吐出曲がり量を低減することができる。また、ノズル内壁の溝の存在による吐出曲がり量の増加およびそのノズル間ばらつきの増大を抑制することができる。
【0049】
本願において、吐出される液体は、ヘッドから吐出可能な粘度や表面張力を有するものであればよく、特に限定されないが、常温、常圧下において、または加熱、冷却により粘度が30mPa・s以下となるものであることが好ましい。より具体的には、水や有機溶媒等の溶媒、染料や顔料等の着色剤、重合性化合物、樹脂、界面活性剤等の機能性付与材料、DNA、アミノ酸やたんぱく質、カルシウム等の生体適合材料、天然色素等の可食材料、などを含む溶液、懸濁液、エマルジョンなどであり、これらは例えば、インクジェット用インク、表面処理液、電子素子や発光素子の構成要素や電子回路レジストパターンの形成用液、3次元造形用材料液等の用途で用いることができる。
【0050】
液体を吐出するエネルギー発生源として、圧電アクチュエータ(積層型圧電素子及び薄膜型圧電素子)、発熱抵抗体などの電気熱変換素子を用いるサーマルアクチュエータ、振動板と対向電極からなる静電アクチュエータなどを使用するものが含まれる。
【0051】
次に、本発明に係る液体を吐出する装置の一例について図20及び図21を参照して説明する。図20は同装置の要部平面説明図、図21は同装置の要部側面説明図である。
【0052】
この装置は、シリアル型装置であり、主走査移動機構493によって、キャリッジ403は主走査方向に往復移動する。主走査移動機構493は、ガイド部材401、主走査モータ405、タイミングベルト408等を含む。ガイド部材401は、左右の側板491A、491Bに架け渡されてキャリッジ403を移動可能に保持している。そして、主走査モータ405によって、駆動プーリ406と従動プーリ407間に架け渡したタイミングベルト408を介して、キャリッジ403は主走査方向に往復移動される。
【0053】
このキャリッジ403には、本発明に係る液体吐出ヘッド404及びヘッドタンク441を一体にした液体吐出ユニット440を搭載している。液体吐出ユニット440の液体吐出ヘッド404は、例えば、イエロー(Y)、シアン(C)、マゼンタ(M)、ブラック(K)の各色の液体を吐出する。また、液体吐出ヘッド404は、複数のノズル11からなるノズル列を主走査方向と直交する副走査方向に配置し、吐出方向を下方に向けて装着している。
【0054】
液体吐出ヘッド404の外部に貯留されている液体を液体吐出ヘッド404に供給するための供給機構494により、ヘッドタンク441には、液体カートリッジ450に貯留されている液体が供給される。
【0055】
供給機構494は、液体カートリッジ450を装着する充填部であるカートリッジホルダ451、チューブ456、送液ポンプを含む送液ユニット452等で構成される。液体カートリッジ450はカートリッジホルダ451に着脱可能に装着される。ヘッドタンク441には、チューブ456を介して送液ユニット452によって、液体カートリッジ450から液体が送液される。
【0056】
この装置は、用紙410を搬送するための搬送機構495を備えている。搬送機構495は、搬送手段である搬送ベルト412、搬送ベルト412を駆動するための副走査モータ416を含む。
【0057】
搬送ベルト412は用紙410を吸着して液体吐出ヘッド404に対向する位置で搬送する。この搬送ベルト412は、無端状ベルトであり、搬送ローラ413と、テンションローラ414との間に掛け渡されている。吸着は静電吸着、あるいは、エアー吸引などで行うことができる。
【0058】
そして、搬送ベルト412は、副走査モータ416によってタイミングベルト417及びタイミングプーリ418を介して搬送ローラ413が回転駆動されることによって、副走査方向に周回移動する。
【0059】
さらに、キャリッジ403の主走査方向の一方側には搬送ベルト412の側方に液体吐出ヘッド404の維持回復を行う維持回復機構420が配置されている。
【0060】
維持回復機構420は、例えば液体吐出ヘッド404のノズル面(ノズル11が形成された面)をキャッピングするキャップ部材421、ノズル面を払拭するワイパ部材422などで構成されている。
【0061】
主走査移動機構493、供給機構494、維持回復機構420、搬送機構495は、側板491A,491B、背板491Cを含む筐体に取り付けられている。
【0062】
このように構成したこの装置においては、用紙410が搬送ベルト412上に給紙されて吸着され、搬送ベルト412の周回移動によって用紙410が副走査方向に搬送される。
【0063】
そこで、キャリッジ403を主走査方向に移動させながら画像信号に応じて液体吐出ヘッド404を駆動することにより、停止している用紙410に液体を吐出して画像を形成する。
【0064】
このように、この装置では、本発明に係る液体吐出ヘッドを備えているので、高画質画像を安定して形成することができる。
【0065】
次に、本発明に係る液体吐出ユニットの一例について図22を参照して説明する。図22は同ユニットの要部平面説明図である。
【0066】
この液体吐出ユニットは、前記液体を吐出する装置を構成している部材のうち、側板491A、491B及び背板491Cで構成される筐体部分と、主走査移動機構493と、キャリッジ403と、液体吐出ヘッド404で構成されている。
【0067】
なお、この液体吐出ユニットの例えば側板491Bに、前述した維持回復機構420、及び供給機構494の少なくともいずれかを更に取り付けた液体吐出ユニットを構成することもできる。
【0068】
次に、本発明に係る液体吐出ユニットの更に他の例について図23を参照して説明する。図23は同ユニットの正面説明図である。
【0069】
この液体吐出ユニットは、流路部品444が取付けられた液体吐出ヘッド404と、流路部品444に接続されたチューブ456で構成されている。
【0070】
なお、流路部品444はカバー442の内部に配置されている。流路部品444に代えてヘッドタンク441を含むこともできる。また、流路部品444の上部には液体吐出ヘッド404と電気的接続を行うコネクタ443が設けられている。
【0071】
本願において、「液体を吐出する装置」は、液体吐出ヘッド又は液体吐出ユニットを備え、液体吐出ヘッドを駆動させて、液体を吐出させる装置である。液体を吐出する装置には、液体が付着可能なものに対して液体を吐出することが可能な装置だけでなく、液体を気中や液中に向けて吐出する装置も含まれる。
【0072】
この「液体を吐出する装置」は、液体が付着可能なものの給送、搬送、排紙に係わる手段、その他、前処理装置、後処理装置なども含むことができる。
【0073】
例えば、「液体を吐出する装置」として、インクを吐出させて用紙に画像を形成する装置である画像形成装置、立体造形物(三次元造形物)を造形するために、粉体を層状に形成した粉体層に造形液を吐出させる立体造形装置(三次元造形装置)がある。
【0074】
また、「液体を吐出する装置」は、吐出された液体によって文字、図形等の有意な画像が可視化されるものに限定されるものではない。例えば、それ自体意味を持たないパターン等を形成するもの、三次元像を造形するものも含まれる。
【0075】
上記「液体が付着可能なもの」とは、液体が少なくとも一時的に付着可能なものであって、付着して固着するもの、付着して浸透するものなどを意味する。具体例としては、用紙、記録紙、記録用紙、フィルム、布などの被記録媒体、電子基板、圧電素子などの電子部品、粉体層(粉末層)、臓器モデル、検査用セルなどの媒体であり、特に限定しない限り、液体が付着するすべてのものが含まれる。
【0076】
上記「液体が付着可能なもの」の材質は、紙、糸、繊維、布帛、皮革、金属、プラスチック、ガラス、木材、セラミックス、壁紙や床材などの建材、衣料用のテキスタイルなど液体が一時的でも付着可能であればよい。
【0077】
また、「液体」は、インク、処理液、DNA試料、レジスト、パターン材料、結着剤、造形液、又は、アミノ酸、たんぱく質、カルシウムを含む溶液及び分散液なども含まれる。
【0078】
また、「液体を吐出する装置」は、液体吐出ヘッドと液体が付着可能なものとが相対的に移動する装置があるが、これに限定するものではない。具体例としては、液体吐出ヘッドを移動させるシリアル型装置、液体吐出ヘッドを移動させないライン型装置などが含まれる。
【0079】
また、「液体を吐出する装置」としては他にも、用紙の表面を改質するなどの目的で用紙の表面に処理液を塗布するために処理液を用紙に吐出する処理液塗布装置、原材料を溶液中に分散した組成液を、ノズルを介して噴射させて原材料の微粒子を造粒する噴射造粒装置などがある。
【0080】
「液体吐出ユニット」とは、液体吐出ヘッドに機能部品、機構が一体化したものであり、液体の吐出に関連する部品の集合体である。例えば、「液体吐出ユニット」は、ヘッドタンク、キャリッジ、供給機構、維持回復機構、主走査移動機構の構成の少なくとも一つを液体吐出ヘッドと組み合わせたものなどが含まれる。
【0081】
ここで、一体化とは、例えば、液体吐出ヘッドと機能部品、機構が、締結、接着、係合などで互いに固定されているもの、一方が他方に対して移動可能に保持されているものを含む。また、液体吐出ヘッドと、機能部品、機構が互いに着脱可能に構成されていても良い。
【0082】
例えば、液体吐出ユニットとして、図21で示した液体吐出ユニット440のように、液体吐出ヘッドとヘッドタンクが一体化されているものがある。また、チューブなどで互いに接続されて、液体吐出ヘッドとヘッドタンクが一体化されているものがある。ここで、これらの液体吐出ユニットのヘッドタンクと液体吐出ヘッドとの間にフィルタを含むユニットを追加することもできる。
【0083】
また、液体吐出ユニットとして、液体吐出ヘッドとキャリッジが一体化されているものがある。
【0084】
また、液体吐出ユニットとして、液体吐出ヘッドを走査移動機構の一部を構成するガイド部材に移動可能に保持させて、液体吐出ヘッドと走査移動機構が一体化されているものがある。また、図22で示したように、液体吐出ユニットとして、液体吐出ヘッドとキャリッジと主走査移動機構が一体化されているものがある。
【0085】
また、液体吐出ユニットとして、液体吐出ヘッドが取り付けられたキャリッジに、維持回復機構の一部であるキャップ部材を固定させて、液体吐出ヘッドとキャリッジと維持回復機構が一体化されているものがある。
【0086】
また、液体吐出ユニットとして、図23で示したように、ヘッドタンク若しくは流路部品が取付けられた液体吐出ヘッドにチューブが接続されて、液体吐出ヘッドと供給機構が一体化されているものがある。
【0087】
主走査移動機構は、ガイド部材単体も含むものとする。また、供給機構は、チューブ単体、装填部単体も含むものする。
【0088】
また、「液体吐出ヘッド」は、使用する圧力発生手段が限定されるものではない。例えば、上記実施形態で説明したような圧電アクチュエータ(積層型圧電素子を使用するものでもよい。)以外にも、発熱抵抗体などの電気熱変換素子を用いるサーマルアクチュエータ、振動板と対向電極からなる静電アクチュエータなどを使用するものでもよい。
【0089】
また、本願の用語における、画像形成、記録、印字、印写、印刷、造形等はいずれも同義語とする。
【0090】
以上、本発明者によってなされた発明を実施形態に基づき具体的に説明したが、本発明は前記実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能であることはいうまでもない。
【符号の説明】
【0091】
1 液体吐出ヘッド
10 ノズル板
11 ノズル
13 シリコン基板
15 撥水膜
17、17a 溝
111、111a、111p、111s 入口部
112,112p、112s 出口部
113 第1開口部
114 第2開口部
115 第1内壁部
116 第2内壁部
【先行技術文献】
【特許文献】
【0092】
【文献】特開2017-149120号公報
図1
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