(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-11
(45)【発行日】2022-10-19
(54)【発明の名称】燃料電池システム、及び燃料電池システムの制御方法
(51)【国際特許分類】
H01M 8/04228 20160101AFI20221012BHJP
H01M 8/04303 20160101ALI20221012BHJP
H01M 8/04701 20160101ALI20221012BHJP
H01M 8/04746 20160101ALI20221012BHJP
H01M 8/04858 20160101ALI20221012BHJP
H01M 8/0432 20160101ALI20221012BHJP
H01M 8/0438 20160101ALI20221012BHJP
H01M 8/0606 20160101ALI20221012BHJP
H01M 8/12 20160101ALN20221012BHJP
【FI】
H01M8/04228
H01M8/04303
H01M8/04701
H01M8/04746
H01M8/04858
H01M8/0432
H01M8/0438
H01M8/0606
H01M8/12 101
(21)【出願番号】P 2021542283
(86)(22)【出願日】2019-08-30
(86)【国際出願番号】 IB2019000835
(87)【国際公開番号】W WO2021038257
(87)【国際公開日】2021-03-04
【審査請求日】2022-02-25
(73)【特許権者】
【識別番号】000003997
【氏名又は名称】日産自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002468
【氏名又は名称】特許業務法人後藤特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】川越 裕斗
【審査官】橋本 敏行
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-340075(JP,A)
【文献】特開2014-116099(JP,A)
【文献】特開2005-332834(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 8/00-8/2495
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
改質ガスと酸化剤ガスが供給されて発電可能な固体酸化物型の燃料電池と、
前記酸化剤ガスを前記燃料電池に供給する酸化剤ガス供給装置と、
前記改質ガスを前記燃料電池に供給する改質部と、
前記改質ガスの原料となる燃料を前記改質部に供給する燃料供給装置と、
前記燃料電池の排出ガスを燃焼する燃焼部と、を備え、
前記改質部は、前記燃焼部が生成する燃焼ガスと熱交換することで前記燃料を前記改質ガスに改質可能であり、
システム停止時に前記酸化剤ガスが前記燃料電池の燃料極下流から流入することを防止するために前記燃料電池の温度低下に応じて前記改質部を通じて前記燃料を前記燃料電池に断続的に追加供給する制御を前記燃料供給装置に対して行う第1制御部が設けられた燃料電池システムにおいて、
前記システム停止時に前記燃料電池に流入する前記改質ガスの温度が所定の温度を超えないように前記追加供給の前に前記改質部に前記燃料を供給する第2制御部を備え、
前記第2制御部は、前記第1制御部が行う最初の前記追加供給の前に前記燃料の供給を停止する
燃料電池システム。
【請求項4】
改質ガスと酸化剤ガスが供給されて発電可能な固体酸化物型の燃料電池と、
前記酸化剤ガスを前記燃料電池に供給する酸化剤ガス供給装置と、
前記改質ガスを前記燃料電池に供給する改質部と、
前記改質ガスの原料となる燃料を前記改質部に供給する燃料供給装置と、
前記燃料電池の排出ガスを燃焼する燃焼部と、を備え、
前記改質部は、前記燃焼部が生成する燃焼ガスと熱交換することで前記燃料を前記改質ガスに改質可能であり、
システム停止時に前記酸化剤ガスが前記燃料電池の燃料極下流から流入することを防止するために前記燃料電池の温度低下に応じて前記改質部を通じて前記燃料を前記燃料電池に断続的に追加供給する制御を前記燃料供給装置に対して行う第1制御部が設けられた燃料電池システムにおいて、
前記システム停止時に前記改質部の温度が前記燃料電池の耐熱上限温度を超えないように前記追加供給の前に前記改質部に前記燃料を供給する第2制御部を備え、
前記第2制御部は、前記第1制御部が行う最初の前記追加制御の前に前記燃料の供給を停止する
燃料電池システム。
【請求項5】
前記第2制御部は、
前記改質部の温度が前記燃料電池の耐熱上限温度を超えないようにするための前記燃料の流量の下限値を算出し前記下限値で前記燃料を供給する請求項1乃至4のいずれか1項に記載の燃料電池システム。
【請求項6】
前記システム停止時において前記燃料電池の取り出し電流量を制御する第3制御部と、を備え、
前記第3制御部は、
前記燃焼部の耐熱上限温度を超えないようにするための前記燃料の流量の上限値を算出し、
前記下限値と前記上限値との差分に基づいて前記取り出し電流量を制御する請求項5に記載の燃料電池システム。
【請求項7】
前記第3制御部は、
前記酸化剤ガスの流量と前記燃料電池の出口温度の少なくともいずれか一方に基づいて前記上限値を算出する請求項6に記載の燃料電池システム。
【請求項8】
前記第3制御部は、
前記下限値が前記上限値以下になると前記取り出し電流量をゼロにする請求項7に記載の燃料電池システム。
【請求項9】
前記第2制御部は、
前記酸化剤ガスの流量と前記燃料電池の出口温度に基づいて前記下限値を算出する請求項5乃至8のいずれか1項に記載の燃料電池システム。
【請求項10】
前記第2制御部は、
前記下限値がゼロになると前記燃料の供給を停止する請求項5乃至9のいずれか1項に記載の燃料電池システム。
【請求項11】
前記第2制御部は、
前記システム停止時に前記燃料の流量に対応して、前記酸化剤ガス供給装置を介して前記酸化剤ガスの流量を制御する請求項1乃至10のいずれか1項に記載の燃料電池システム。
【請求項12】
改質部が生成した改質ガスと、酸化剤ガスと、を固体酸化物型の燃料電池に供給して発電する場合において、前記改質部が前記燃料電池の排出ガスを燃焼して生成した燃焼ガスと熱交換することで前記改質ガスの原料となる燃料を前記改質ガスに改質するものとし、
システム停止時に前記酸化剤ガスが前記燃料電池の燃料極下流から流入することを防止するために前記燃料電池の温度低下に応じて前記改質部を通じて前記燃料を前記燃料電池に断続的に追加供給する燃料電池システムの制御方法において、
前記システム停止時に前記燃料電池に流入する前記改質ガスの温度が所定の温度を超えないように前記追加供給の前に前記改質部に前記燃料を供給し、
最初の前記追加供給の前に前記燃料の供給を停止する
燃料電池システムの制御方法。
【請求項13】
前記第2制御部は、前記燃料の供給量を徐々に減少させ前記第1制御部が行う最初の前記追加供給の前に前記燃料の供給を停止する請求項1または4に記載の燃料電池システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、燃料電池システム、及び燃料電池システムの制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
JP2016-122507Aは、改質ガスと酸化剤ガスが供給されて発電する燃料電池と、燃料電池から排出された排出ガスを燃焼して燃焼ガスを生成する燃焼器と、燃焼ガスと熱交換することで改質ガスの原料となる燃料を改質可能な改質器を備える燃料電池モジュールにおいて、燃料電池モジュールからの電力取り出し停止後、燃料電池モジュール温度が、酸化剤ガスが燃料電池モジュールの燃料極側に逆流を開始する温度となると燃料電池に間欠的に燃料を追加供給する技術を開示している。
【発明の概要】
【0003】
しかし、システムが発電停止命令を受けてただちに燃料供給を停止させると、改質器において改質ガスが滞留して当該改質ガスの熱交換が進行し、当該改質ガスが燃料電池スタックの耐熱上限温度を超える高温の改質ガスとなる。またシステムを小型にすると燃料電池スタックと燃焼器とを接続する通路が短くなるため、酸化剤ガスが燃料極側に逆流するまでの時間が短くなる。よって、前記のように燃料を追加供給する場合、システムが発電停止命令を受けてから前記の追加供給を行うまでの時間が短くなるため、高温の改質ガスが温度低下しないまま燃料電池スタックに供給される虞がある。
【0004】
そこで、本発明は、システム停止命令後に燃料を追加供給する場合に燃料電池スタックの耐熱上限温度を超える改質ガスが燃料電池スタックに供給されることを回避する燃料電池システム、及び燃料電池システムの制御方法を提供することを目的とする。
【0005】
本発明のある態様によれば、改質ガスと酸化剤ガスが供給されて発電可能な固体酸化物型の燃料電池と、酸化剤ガスを燃料電池に供給する酸化剤ガス供給装置と、改質ガスを燃料電池に供給する改質部と、改質ガスの原料となる燃料を改質部に供給する燃料供給装置と、燃料電池の排出ガスを燃焼する燃焼部と、を備える燃料電池システムである。ここで、改質部は、燃焼部が生成する燃焼ガスと熱交換することで燃料を改質ガスに改質可能である。そして、システム停止時に酸化剤ガスが燃料電池の燃料極下流から流入することを防止するために改質部を通じて燃料を燃料電池に追加供給する制御を燃料供給装置に対して行う第1制御部が設けられる。さらに、システム停止時に燃料電池に流入する改質ガスの温度が所定の温度を超えないように追加供給の前に改質部に燃料を供給する第2制御部を備える。
【図面の簡単な説明】
【0006】
【
図1】
図1は、本実施形態の燃料電池システムの主要構成を示すブロック図である。
【
図2】
図2は、システム停止命令時に取り出し電流、アノードガス流量、カソードガス流量をそれぞれゼロにした場合における改質器の出口温度(アノードガスの温度)の変化を示すタイムチャートである。
【
図3】
図3は、システム停止命令時にアノードガス流量及びカソードガス流量徐々に減少させてゼロにした場合における改質器の出口温度(アノードガスの温度)の変化を示すタイムチャートである。
【
図4】
図4は、燃料電池スタックが高負荷状態のときにシステム停止命令があった場合であって、システム停止命令時に取り出し電流をゼロにし、且つアノードガス流量及びカソードガス流量を徐々に減少させてゼロにした場合の燃焼器の温度(燃焼ガスの温度)及び改質器の出口温度(アノードガスの温度)の変化を示すタイムチャートである。
【
図5】
図5は、燃料供給量及び取り出し電流を算出する制御ロジックを示す図である。
【
図6】
図6は、システム停止命令から燃料供給を停止するまでの手順を示すフローチャートである。
【
図7】
図7は、燃料電池スタックが高負荷状態のときにシステム停止命令があった場合であって、システム停止命令時に取り出し電流、アノードガス流量、カソードガス流量を徐々に減少させてゼロにした場合の燃焼器の温度(燃焼ガスの温度)及び改質器の出口温度(アノードガスの温度)の変化を示すタイムチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下、図面を参照しながら本発明の実施形態について説明する。
【0008】
[燃料電池システムの構成]
図1は、本実施形態の燃料電池システムの主要構成を示すブロック図である。本実施系形態の燃料電池システムは、燃料電池スタック1(燃料電池)にアノードガス(改質ガス)を供給する燃料供給系統と、燃料電池スタック1に空気(カソードガス、酸化剤ガス)を供給する空気供給系統と、燃料電池スタック1から排出されたアノードオフガス(アノードガス)及びカソードオフガス(カソードガス)を燃焼する燃焼系統と、燃料電池スタック1から電力を取り出して動力を得る駆動系統から構成され、主に車両(電動車両)に搭載される。
【0009】
燃料供給系統は、タンク21、ポンプ22(燃料供給装置)、インジェクタ23,24(燃料供給装置)、改質器25(改質部)を含む。空気供給系統は、コンプレッサー31、熱交換器32を含む。燃焼系統は燃焼器4(燃焼部)を含む。駆動系統は、DC/DCコンバータ61、バッテリ62、駆動モータ63を含む。また、燃料電池システムは、システム全体の動作を制御する制御部7(第1制御部、第2制御部、第3制御部)を含む。
【0010】
燃料電池スタック1は、固体酸化物型の燃料電池(SOFC:Solid Oxide Fuel Cell)であり、セラミック等の固体酸化物で形成された電解質層を、改質器25により改質されたアノードガス(改質ガス)が供給されるアノード(燃料極)と、カソードガス(酸化剤ガス)として酸素を含む空気が供給されるカソード(空気極)により挟み込んで得られるセルを積層したものである。燃料電池スタック1では、アノードガス中に含まれる水素とカソードガス中の酸素とを反応させて発電を行うとともに、反応後に生成されるアノードオフガス(アノードガスを含有する)とカソードオフガス(酸素を含有する)を排出する。
【0011】
燃料電池スタック1は、燃料電池スタック1にアノードガスを供給する通路11、カソードガスを燃料電池スタック1に供給する通路12、燃料電池スタック1から排出されたアノードオフガス(アノードガス)を燃焼器4側に排出する通路13、燃料電池スタック1から排出されたカソードオフガス(カソードガス)を燃焼器4側に排出する通路14に接続されている。ここで、通路13及び通路14は合流路15により合流しており、合流路15は燃焼器4に接続されている。
【0012】
ここで、アノードとは、燃料電池スタック1を構成するアノード電極のみならず、アノード電極にアノードガスを供給する燃料電池スタック1の内部通路(通路11に接続する)、及びアノード電極で反応後のアノードオフガスを排出させる燃料電池スタック1の内部通路(通路13に接続する)も含むものとする。同様に、カソードとは、燃料電池スタック1を構成するカソード電極のみならず、カソード電極にカソードガスを供給する燃料電池スタック1の内部通路(通路12に接続する)、及びカソード電極で反応後のカソードオフガスを排出させる燃料電池スタック1の内部通路(通路14に接続する)も含むものとする。
【0013】
燃料供給系統は、タンク21、ポンプ22、インジェクタ23、改質器25をこの順で直列に接続するメイン通路26と、メイン通路26のポンプ22とインジェクタ23との間となる位置から分岐して燃焼器4に接続するサブ通路27があり、サブ通路27にはインジェクタ24が介装されている。
【0014】
タンク21は、例えばエタノールと水を混合させた液体からなる改質用の燃料を蓄えるものであり、ポンプ22は、燃料を吸引して一定の圧力でインジェクタ23,24に燃料を供給するものである。
【0015】
インジェクタ23,24は、ポンプ22により燃料が圧入されるノズルボディ(不図示)と、ノズルボディの先端にある燃料噴射孔(不図示)を閉止する方向に付勢されたプランジャロッド(不図示)と、プランジャロッドを当該付勢の方向とは逆方向に移動させるソレノイド(不図示)を備える。インジェクタ23,24において、ソレノイドに制御電流を印加することでソレノイドがプランジャロッドを当該逆方向に移動させるように駆動し、これによりプランジャロッドが燃料噴射孔を開放して燃料を噴射する。また、制御電流を停止することでソレノイドの駆動を停止させ、プランジャロッドが付勢力により移動して燃料噴射孔を閉止して燃料の噴射を停止させる。インジェクタ23,24において、燃料噴射孔の開放・閉止のデューティー比は、制御電流のオン・オフのデューティー比に依存する。よって、インジェクタ23,24は、制御電流のデューティー比を調整することで噴射する燃料の流量を調整することができる。
【0016】
改質器25は、インジェクタ23から供給された燃料を、水素を包含するアノードガスに改質して燃料電池スタック1に供給するものである。改質器25は、燃焼器4から排出された燃焼ガスと熱交換することで、インジェクタ23から供給された燃料を気化させ、気化燃料を触媒反応によりアノードガスに改質しつつ燃料電池スタック1で電気化学反応(発電反応)が可能な温度にまで加熱し、当該アノードガスを燃料電池スタック1に供給することができる。
【0017】
コンプレッサー31(酸化剤ガス供給装置)は、外気を取り入れて空気(カソードガス)を熱交換器32に供給するものである。熱交換器32は、燃焼器4から排出された燃焼ガスと熱交換することで空気を燃料電池スタック1で電気化学反応が可能な温度に加熱してカソードガスとして燃料電池スタック1に供給することができる。なお、酸化剤ガス供給装置として、燃焼ガスとの熱交換を行わずに燃料電池スタック1に高温の空気(カソードガス)を直接供給できる装置を適用してもよい。
【0018】
燃焼器4は、アノードオフガス(排出ガス)とカソードオフガス(排出ガス)との混合ガス(排出ガス)を触媒燃焼させ二酸化炭素や水を主成分とする燃焼ガスを生成するものである。燃焼器4には、触媒(不図示)において燃料が燃焼可能な温度になるまで昇温するヒータ(不図示)が取り付けられている。また燃焼器4はサブ通路27に接続され、インジェクタ24から供給された燃料が触媒において燃焼することで触媒の温度を触媒燃焼可能な温度にまで上昇させることができる。
【0019】
燃焼器4で生成された燃焼ガスは通路41から排出される。通路41は通路42及び通路43に分岐し、通路42は改質器25に接続され、通路43は熱交換器32に接続される。改質器25には通路44が接続され、通路44からは改質器25との熱交換に用いられた燃焼ガスが排出される。熱交換器32には通路45が接続され、通路45からは熱交換器32との熱交換に用いられた燃焼ガスが排出される。そして、通路44及び通路45に排出された燃焼ガスは外部に放出される。
【0020】
温度センサ5は、例えば合流路15に取り付けられ、合流路15を流れる混合ガスの温度の情報を制御部7に出力する。制御部7は、混合ガスの温度により燃料電池スタック1の出口温度を推定することができる。
【0021】
DC/DCコンバータ61は、燃料電池スタック1に接続され、燃料電池スタック1の出力電圧を昇圧してバッテリ62または駆動モータ63に電力を供給するものである。バッテリ62は、DC/DCコンバータ61から供給された電力を充電するとともに、駆動モータ63に電力を供給することができる。駆動モータ63は、インバータ(不図示)を介してバッテリ62及びDC/DCコンバータ61に接続され、車両の動力源となっている。また、車両の減速時において、駆動モータ63は回生電力を発生させるが、これをバッテリ62に充電させることができる。
【0022】
制御部7は、マイクロコンピュータ、マイクロプロセッサ、CPUを含む汎用の電子回路と周辺機器から構成され、特定のプログラムを実行することにより燃料電池システムを制御するための処理を実行する。また制御部7は、燃料電池システムを構成する構成要素の駆動・停止制御(オン・オフ制御)を行うことができる。
【0023】
制御部7が行う燃料電池システムの制御としては、燃料電池スタック1を暖機する暖機制御、通常の発電を行う発電制御、システムを停止させる停止制御がある。制御部7は、インジェクタ23,24(ソレノイド)に対して制御電流を出力するとともにそのデューティー比を制御することができる。また、制御部7はDC/DCコンバータ61にPWM信号を出力し、そのデューティー比を変化させることで燃料電池スタック1からの取り出し電流(発電量)を制御することができる。さらに、制御部7には、バッテリ62からSOC(State Of Cahrge:バッテリ充電率)の情報が入力され、SOCの値に基づいて燃料電池スタック1による発電の要否を判断することができる。
【0024】
なお、図示は省略しているが、外部から燃料電池スタック1とは極性が逆の電圧(例えば燃料電池スタック1の開放電圧と絶対値が同じ電圧)を燃料電池スタック1に印加する回路を接続しておき、停止制御中に制御部7が当該回路をスイッチ制御して、アノード(アノード電極)の劣化(酸化)を抑制できるようにしてもよい。
【0025】
[燃料電池システムの暖機制御]
燃料電池システムの暖機制御は、ユーザーのイグニッション・オン操作(車両キーをオンにする操作)、またはバッテリ62のSOCが所定の値を下回ったことを契機に開始する。まず、システムが暖機制御を開始すると、制御部7は、燃焼器4のヒータをオンにし燃焼器4の触媒が燃料を燃焼可能な温度になるまで加熱する。
【0026】
次に制御部7は、コンプレッサー31及びポンプ22をオンにし、インジェクタ24に所定のデューティー比の制御電流を出力し、燃焼器4に燃料を供給する。これにより、空気が熱交換器32、燃料電池スタック1を介して燃焼器4に供給され、燃焼器4に供給された燃料が燃焼し、触媒の温度がさらに上昇する。このとき制御部7は、ヒータをオフにする。
【0027】
燃焼器4において、燃料が燃焼することで燃焼ガスが生成され、燃焼ガスは改質器25及び熱交換器32に供給され、改質器25及び熱交換器32が加熱される。熱交換器32を加熱することで熱交換器32を通過する空気が加熱され、加熱された空気が燃料電池スタック1に供給されることで燃料電池スタック1が加熱される。
【0028】
制御部7は、改質器25の温度が燃料を改質可能であって電気化学反応に必要な温度に到達し、燃料電池スタック1及び熱交換器32の温度が電気化学反応に必要な温度に到達し、燃焼器4が触媒燃焼可能な温度に到達した段階で、インジェクタ24に対する制御電流と停止し、インジェクタ23に対して所定のデューティー比で制御電流を出力する。これにより、燃焼器4への燃料の供給が停止し、改質器25に所定の流量で燃料が供給される。改質器25に供給された燃料はアノードガス(改質ガス)に改質されて燃料電池スタック1に供給され、熱交換器32により加熱された空気はカソードガスとして燃料電池スタック1に供給されることで燃料電池スタック1において電気化学反応を開始し、暖機制御は終了する。なお、燃料電池スタック1から排出されたアノードガス(アノードオフガス)及びカソードガス(カソードオフガス)は燃焼器4において触媒反応により燃焼され、当該燃焼により生成される燃焼ガスが引き続き改質器25及び熱交換器32と熱交換を行う。
【0029】
[燃料電池システムの発電制御]
次に、燃料電池システムの発電制御時における動作について説明する。システムの発電制御は、タンク21から供給された燃料が改質器25においてアノードガスに改質され、このアノードガスが燃料電池スタック1(アノード)に供給される。一方、カソードガスとしての空気が熱交換器32により昇温され燃料電池スタック1(カソード)に供給される。アノードガスとカソードガスが供給された燃料電池スタック1では電気化学反応により電力が発生する。電気化学反応に使用されたアノードオフガスとカソードオフガスは燃焼器4に導入される。そして、燃焼器4は、アノードオフガス、カソードオフガスを混合した状態で燃焼して燃焼ガスを生成し、これが熱交換器32及び改質器25を通過して加熱する。
【0030】
また、制御部7は、DC/DCコンバータ61にPWM(Pulse Width Modulation)信号を出力してPWM信号のデューティー比を変化させることで、燃料電池スタック1からの取り出し電流を制御し、所定の電力をバッテリ62または駆動モータ63に供給する。
【0031】
車両の運転中は、システム(バッテリ62、駆動モータ63等)が要求する電力にほぼ比例する形でアノードガスの供給量(インジェクタ23の噴射量)、及びカソードガスの供給量(コンプレッサー31の回転数)を直線的に変化させることができる。しかし、燃料電池スタック1には、燃料電池スタック1が発電可能な状態を維持するための電力、すなわちポンプ22、コンプレッサー31等の補機類を稼動させるための電力が必要である。よって、燃料電池スタック1に対する要求電力がゼロであっても、燃料電池スタック1は、少なくとも前述の補機類を稼動させるための電力を発電している。
【0032】
燃料電池スタック1の発電中において、燃料電池スタック1は、アノードガス及びカソードガスによる加熱(及び電気化学反応)により所定の温度(例えば600℃)を維持している。燃焼器4にはアノードガス及びカソードガスが供給されこれを燃焼して燃焼ガスを生成しているので、燃焼器4及び燃焼ガスは所定の温度(T
comb、例えば800℃、
図2参照)を維持している。改質器25は、当該燃焼ガスと熱交換することで、所定の温度(改質器25の出口温度:T
fuel_out、例えば600℃、
図2参照)のアノードガスを供給している。熱交換器32も前記燃焼ガスと熱交換することで所定の温度(例えば600℃)のカソードガスを燃料電池スタック1に供給している。なお、燃料電池スタック1に流入する改質ガスの温度は例えば改質器25の温度(改質器25の出口温度:T
fuel_out)で表すことができ、燃料電池スタック1に流入するカソードガスの温度も熱交換器32の温度で表すことができる。
【0033】
[燃料電池システムの停止制御]
図2は、システム停止命令時に取り出し電流、アノードガス流量、カソードガス流量をそれぞれゼロにした場合における改質器25の出口温度(アノードガスの温度)の変化を示すタイムチャートである。
【0034】
燃料電池システムの停止制御は、制御部7により行われるが、車両停止後のユーザーによるイグニッション・オフ操作(車両キーをオフにする操作)や、バッテリ62のSOCが所定の充電率となり燃料電池スタック1に対する発電要求が停止したこと、或いは車両から発生する音を小さくするために燃料電池スタック1(特にコンプレッサー31)を停止させる操作をユーザーが行ったことを契機に開始される。
【0035】
図2に示すように、通常の停止制御は、時刻t1にシステム停止命令を受けると発電を停止する(取り出し電流Iをゼロにする)とともにアノードガス(供給量:m
fuel)及びカソードガス(供給量:m
air)の供給を停止する。
【0036】
このとき、改質器25及び燃料電池スタック1(アノード)はタンク21側と遮断されている。よって、時間経過とともに燃料電池スタック1の温度が低下するとアノードの圧力が低下してカソードの圧力よりも低くなるので、合流路15を介してカソードガスがアノードに逆流することになる。
【0037】
したがって、時刻t1のシステム停止命令の後、時刻t2で追加燃料を改質器25に供給することでアノードガス(または未改質の燃料ガス)を、改質器25を介して燃料電池スタック1(アノード)に供給し、アノード電極にカソードガスが入り込んでアノード電極が酸素に接触することで当該電極が劣化することを回避する。その後も温度低下(アノードの圧力低下)に応じて追加燃料を断続的に供給し、燃料電池スタック1の温度がアノード電極が劣化反応をする下限温度(例えば300℃)よりも低くなったところで燃料の供給を完全停止させることで終了する。
【0038】
停止制御を開始すると燃焼器4に供給されるアノードガス及びカソードガスの流量が急激に低下して燃焼ガスの発生量が低下することで燃焼器4及び燃焼ガスの温度(Tcomb)が低下するが、しばらくの間は燃料電池スタック1の耐熱上限温度Tmax(例えば620℃)よりも高い状態を維持している。
【0039】
一方、改質器25において、アノードガスの供給(インジェクタ23による燃料の供給)が停止すると改質器25にアノードガスが滞留し、当該滞留したアノードガスと燃焼ガスとの熱交換が進行し、また吸熱反応である改質反応の量が減少することで、アノードガスの温度が燃料電池スタック1の耐熱上限温度Tmaxを超える場合が発生する。
【0040】
また、燃料電池システム全体を小型化した場合、通路13及び通路14が短くなるので、カソードガスが合流路15を介してアノード側に逆流してアノードの電極に到達する時間が早くなる。このため、上記の時刻t2が時刻t1に近づき、改質器25の出口付近のアノードガスの温度(温度Tfuel-out)が未だ燃料電池スタック1の耐熱上限温度Tmaxよりも高い状態のときに追加燃料が供給され、当該アノードガスが追加燃料により押し出されて燃料電池スタック1に供給されることになる。このように追加燃料を供給することでカソードガスの逆流は回避できるが、燃料電池スタック1が耐熱上限温度Tmaxを超えた温度のアノードガスに晒されてしまうので燃料電池スタック1に熱的ダメージを与えることになる。
【0041】
そこで、本実施形態では、システム停止命令時に燃料供給を瞬時に停止するのではなく、燃料の供給量を徐々に低下させて供給を停止することで燃料電池スタック1がその耐熱上限温度より高い温度のアノードガスに晒されることを防止している。
【0042】
図3は、システム停止命令時にアノードガス流量及びカソードガス流量徐々に減少させてゼロにした場合における改質器25の出口温度(アノードガスの温度)の変化を示すタイムチャートである。
【0043】
[停止制御時の改質器(アノードガス)の温度変化]
図3に示すように、本実施形態では、時刻t1でシステム停止命令を受けると、燃料の供給量m
fuelを時刻tm(t1<tm<t2)においてゼロになるように徐々(例えば直線的)に減少させる。このとき、空気(カソードガス)の供給量m
airも燃料の供給量m
fuelに対応して減少させる。空気(カソードガス)の供給量m
airは、例えば、アノードガスとカソードガスの混合比が燃焼器4において燃焼効率が最大となる混合比となるように燃料の供給量m
fuelに対応して減少させる。
【0044】
このとき、燃焼器4においては、燃料電池スタック1から供給されるアノードガスとカソードガスの供給量が徐々に減少し、生成される燃焼ガスの量が減少するので燃焼器4(燃焼ガス)の温度は徐々に減少する。
【0045】
改質器25においては、システム停止命令後も燃料が供給されるので、アノードガスが改質器25に滞留することはなく、新たに供給された燃料により改質反応(吸熱反応)の量もほとんど減少せず、さらに前記のように燃焼ガスの温度も減少するので改質器25から供給されるアノードガスの温度上昇を抑制若しくは回避することができる。
【0046】
その後、時刻tmにおいて燃料(アノードガス)の供給及び空気(カソードガス)の供給を停止すると、改質器25(アノードガス)の温度及び燃焼器4(燃焼ガス)の温度は外部との温度差に基づいて放熱(温度減少)する。
【0047】
前記のように、システム停止命令後も燃料が供給されるので、その分カソードガスがアノード側に逆流する時間を延ばすことができる。よって時刻t2(時刻tmよりも後)において燃料を追加供給しても燃料電池スタック1側に押し出されるアノードガス(または未改質の燃料ガス)の温度が発電中のアノードガスの温度よりも低くなっており、押し出されたアノードガスが燃料電池スタック1に熱的なダメージを与えることはない。なお、時刻t1から時刻tmまでに供給する燃料の供給量は、時刻t2における追加供給に係る供給量よりも多くなる。これにより、システム停止命令後のアノードガスの温度上昇を抑制することができる。
【0048】
[停止制御時に改質器の供給する燃料の供給量(下限値)]
次に、システム停止命令後に供給する燃料の供給量m
fuelとその下限値m
fuel1について検討する。まず、改質器25において許容される燃料の熱交換量は、当該熱交換により燃料の温度が燃料電池スタック1の耐熱上限温度T
maxを超えない熱交換量となるので、熱交換前の燃料の温度(改質器25の入口温度)をT
ref、燃料の比熱をCp
fuelとすると熱交換量(最大値)は、
【数1】
となる。
【0049】
一方、燃焼ガスの供給量は、カソードガスの供給量m
airと、アノードガスとの混合(燃焼)を考慮した場合の排気分流比γを用いると、
【数2】
となる。
【0050】
燃焼ガスの初期温度は、燃焼器4の温度T
combと同じであるが、これが放熱により最終的に熱交換前の燃料の温度(改質器25の入口温度)にまで低下すると考える。燃焼ガスにおいては、燃料がすでに燃焼しているので、燃焼ガスの比熱は空気の比熱Cp
airに近似できる。よって、燃焼ガスの改質器25における放熱量は、
【数3】
となる。
【0051】
さらに、改質器25の熱交換効率をη
refとすると、燃料の熱交換量は、燃焼ガスの放熱量にη
refを掛け合わせた値(熱交換量)に等しいから、数式1及び数式3から、
【数4】
となる。
【0052】
システム停止後は発電が停止しているので、燃料電池スタック1に供給された燃料は全て燃焼器4で燃焼される。よって、燃焼器4によって発生する熱量は、燃料の単位質量当りの熱量(改質反応の吸熱成分を含む)をLHVとすると、
【数5】
となる。
【0053】
また燃料電池スタック1から排出された空気(カソードガス)は燃焼器4において燃料の燃焼に用いられ燃焼器4の温度T
combまで加熱されるのであるから燃焼前のカソードガスの温度(燃料電池スタック1の出口温度)をT
stk(燃焼前の混合ガスの温度)とすると、燃焼前後における空気の熱量の増加分は、
【数6】
となる。
【0054】
そして、燃料が燃焼したときの熱量が全て空気の温度上昇に用いられたと考えると数式5と数式6から、
【数7】
が得られる。
【0055】
燃焼ガスの温度T
combは定数として扱うことができる。したがって、システム停止命令後に供給すべき燃料の供給量m
fuel及びその下限値m
fuel1は、数式4及び数式7を同時に満たすように、
【数8】
と表すことができる。なお、燃焼器4に接続する通路41(
図1)に温度センサ(不図示)を取り付け、燃焼ガスの温度T
combを直接計測し、f
1(後述のf
2も同様)においてT
combをパラメータとして組み込み、当該f
1にT
combの値を代入するようにしてもよい。
【0056】
ここで、f1は、燃料電池スタック1の出口温度Tstkと、空気(カソードガス)の供給量mairの関数であり、予めTstkとmairをパラメータとするマップとして形成することができる。したがって、制御部7は、温度センサ5から入力された温度の情報から燃料電池スタック1の出口温度Tstkを推定し、コンプレッサー31の回転数(出力)によりカソードガスの供給量mairを推定することでシステム停止後の燃料の供給量の下限値mfuel1を算出し、これに基づいて燃料の供給量mfuelを制御することができる。
【0057】
システム停止命令後は発電しないので、数式8においてTstkは時間経過とともに値が低くなる関数であり、f1も時間経過とともに単調減少し最後にはゼロになる関数である。よって、mfuelは時間経過とともに単調減少し、最後にはゼロにすることとができる。
【0058】
停止制御においてはコンプレッサー31の回転数を一定にすることもできる。この場合f1は燃料電池スタック1の出口温度Tstkのみを変数とする関数となるので、容易に燃料の供給量mfuelの下限値を算出することができる。
【0059】
また、システム停止命令後の燃料電池スタック1の出口温度Tstkの温度変化に再現性がある場合、すなわちTstk(t)として時間の関数で近似できる場合、f1はカソードガスの供給量mair(コンプレッサー31の回転数)のみを変数とする関数となるので、この場合も容易に燃料の供給量mfuelの下限値を算出することができる。
【0060】
さらに、システム停止命令後においてカソードガスの供給量をmair(t)として時間の関数(若しくは一定でもよい)として制御部7が制御し、燃料電池スタック1の出口温度をTstk(t)として時間の関数で近似できる場合、関数f1は、f1(Tstk(t)、mair(t))と時間にのみ依存する関数になるので、温度センサ5を省略することができる。
【0061】
なお、
図3では、燃料(アノードガス)供給量m
fuel、空気(カソードガス)供給量m
airがシステム停止命令の前後において連続的に変化しているが、システム停止命令直後の直前との間に段差が形成される場合がある。
【0062】
[高負荷状態の燃料電池システムの停止制御(発電なし)]
図4は、燃料電池スタック1が高負荷状態のときにシステム停止命令があった場合であって、システム停止命令時に取り出し電流をゼロにし、且つアノードガス流量及びカソードガス流量を徐々に減少させてゼロにした場合の燃焼器4の温度(燃焼ガスの温度)及び改質器25の出口温度(アノードガスの温度)の変化を示すタイムチャートである。
【0063】
システム停止命令前に、燃料電池スタック1が高負荷状態の場合、すなわち取り出し電流I(発電量)、燃料(アノードガス)供給量mfuel、空気(カソードガス)供給量mairが通常(低負荷状態)よりも大きくなっている場合について検討する。
【0064】
そして、
図4に示すように、システム停止命令により取り出し電流Iを瞬時にゼロにし、燃料(アノードガス)供給量m
fuel、空気(カソードガス)供給量m
airを徐々に低下させる制御を行った場合について検討する。
【0065】
すると、システム停止命令時に大量のアノードガス及びカソードガスが燃料電池スタック1に供給されるが、当該燃料電池スタック1では発電が停止するので、アノードガス及びカソードガスは消費されることなく、そのまま燃焼器4に供給される。すると、燃焼器4では、システム停止命令時において、アノードガス(燃料)及びカソードガス(酸素)の供給量が直前まで発電で消費された分だけ増加する。これにより、燃焼器4におけるアノードガス(燃料)及びカソードガス(酸素)の燃焼量が増加して燃焼器4(燃焼ガス)の温度が燃焼器4の耐熱上限温度を超えてしまい燃焼器4に熱的ダメージを与えてしまう虞がある。また、燃焼器4から排出された燃焼ガスもシステム停止命令前の温度よりも高くなり、燃焼ガスと熱交換するアノードガス及びカソードガスの温度が、燃料電池スタック1の耐熱上限温度を超え、これが燃料電池スタック1に供給されることで、燃料電池スタック1に熱的ダメージを与えてしまう虞がある。
【0066】
そこで、本実施形態では、燃料電池スタック1が高負荷状態のときにシステム停止命令があった場合に、燃料電池スタック1の取り出し電流I(発電量)を徐々に低下させて燃焼器4におけるアノードガス(燃料)及びカソードガス(酸素)の燃焼量の増加を抑制している。
【0067】
[停止制御時に改質器の供給する燃料の供給量(上限値)]
前記のように、燃料電池スタック1が高負荷状態のときはシステム停止後も発電を継続している。よって、燃料電池スタック1において消費されずに燃焼器4に供給される燃料の供給量をm
fuel2とすると、燃焼器4によって発生する熱量は、燃料の単位質量当りの熱量をLHVとすると、
【数9】
となる。
【0068】
また燃料電池スタック1から排出された空気(カソードガス)は燃焼器4により燃焼され燃焼器4の耐熱上限温度T
combmaxまで加熱可能であり、燃焼前のカソードガスの温度は燃料電池スタック1の出口温度T
stkとなるので、燃焼前後における空気の熱量の増加分は、
【数10】
となる。
【0069】
そして、燃料が燃焼したときの熱量が全て空気の温度上昇に用いられたと考えると数式9と数式10から、
【数11】
が得られる。
【0070】
燃焼ガスの温度T
combmaxは定数として扱うことができる。したがって、システム停止命令後に供給する燃料の供給量m
fuel及びその上限値m
fuel2は、数式4及び数式11を同時に満たすように、
【数12】
と表すことができる。
【0071】
ここで、f2は、f1と同様に、燃料電池スタック1の出口温度Tstkと、カソードガスの供給量mairの関数であり、予めTstkとmairをパラメータとするマップとして形成することができる。したがって、制御部7は、温度センサ5から入力された温度の情報により燃料電池スタック1の出口温度Tstkを推定し、コンプレッサー31の回転数によりカソードガスの供給量mairを推定することでシステム停止後の燃料の供給量の上限値mfuel2を算出し、これに基づいて燃料の供給量mfuelを制御することができる。
【0072】
上限値m
fuel2は上記の下限値m
fuel1と同様に時間経過とともに単調に減少する関数であるが、m
fuel1よりもm
fuel2が常に大きいとき、すなわち燃料電池スタック1が低負荷状態のとき、システム停止命令時の燃料の供給量m
fuelは、
【数13】
の範囲で任意に制御することができる(
図3参照)。
【0073】
一方、燃料電池スタック1が高負荷状態のときにシステム停止命令があると、mfuel1がmfuel2よりも大きくなる場合がある。この場合、システム停止命令時の燃料の供給量mfuelをその下限値mfuel1にしたとしても、この供給量がmfuel2よりも大きくなる。よって、燃焼器4(燃焼ガス)の温度がその耐熱上限温度を超えてしまい、燃焼器4に対して熱的ダメージを与える虞がある。さらに当該燃焼ガスが改質器25及び熱交換器32と熱交換するので、結果的に燃料電池スタック1の温度がその耐熱上限温度を超えてしまい、燃料電池スタック1にも熱的ダメージを与えてしまう虞がある。
【0074】
そこで、本実施形態では、燃料電池スタック1において、下限値mfuel1と上限値mfuel2との差分の燃料について発電消費することで、燃焼器4及び燃料電池スタック1の熱的ダメージを回避することにしている。
【0075】
[停止制御時の燃料供給量及び取り出し電流の算出]
図5は、燃料供給量及び取り出し電流を算出する制御ロジックを示す図である。制御部7は、システム停止命令後に温度センサ5から入力された温度の情報から燃料電池スタック1の出口温度T
stkを推定し、コンプレッサー31の回転数から空気の供給量m
airを算出する。
【0076】
制御部7は、出口温度Tstkと空気の供給量mairからmfuel1(下限値)及びmfu
el2(上限値)を算出する。制御部7は、例えばmfuel1をシステム停止命令後の燃料の供給量mfuelとして設定する。
【0077】
制御部7(第3制御部)は、m
fuel1(モル数)とm
fuel2(モル数)との差分を算出し、m
fuel1-m
fuel2>0のとき、取り出し電流Iを、
【数14】
により算出することができる。
【0078】
数式14において、「Ncell」は燃料電池スタック1のセル数、「F」はファラデー定数、「2」は電気化学反応において水素分子1個の反応につき2個の電子が放出されることを考慮したものである。また数式14は、予めmfuel1とmfuel2をパラメータとするマップとして形成することもできる。なお、数式14により表される取り出し電流Iは下限値であり、これよりも大きな電流を取り出すようにしてもよい。なお取り出した電流は、DC/DCコンバータ61がバッテリ62(又は駆動モータ63)に供給することができる。
【0079】
一方、制御部7(第3制御部)は、mfuel1-mfuel2≦0のとき、取り出し電流Iを0とする、すなわち発電を停止する制御を行う。
【0080】
なお、停止制御において、制御部7(第2制御部)は、燃料の供給量mfuelを下限値mfuel1がゼロになるとゼロにすることができる。また、mfuel1-mfuel2>0の関係は、mfuel1がゼロになる直前まで継続する場合がある。この場合、制御部7は、燃料の供給量mfuelがゼロになるまで(ゼロになる直前まで)燃料電池スタック1の発電を継続する。
【0081】
[本実施形態の制御フロー]
図6は、システム停止命令から燃料供給を停止するまでの手順を示すフローチャートである。
【0082】
システム停止命令があると、ステップS1において、制御部7はmfuel1及びmfuel2を算出する。
【0083】
ステップS2において、制御部7(第2制御部)はmfuel1がゼロ以下であるか否か判断し、YES(是)であれば後述のステップS4またはステップS5に基づく燃料供給を停止し、NO(否)であればステップS3に移行する。
【0084】
ステップS3において、制御部7(第3制御部)はmfuel1-mfuel2>0であるか否かを判断し、YES(是)であればステップS4に移行し、NO(否)であればステップS5に移行する。
【0085】
ステップS4において、制御部7(第2制御部)は、例えば燃料の供給量mfuelを下限値mfuel1に設定し、改質器25を介して燃料電池スタック1に燃料(アノードガス)を供給し、さらに制御部7(第3制御部)は取り出し電流Iを数式14に基づく値、若しくはそれ以上の値となるように制御する。
【0086】
ステップS5において、制御部7(第2制御部)は、例えば燃料の供給量mfuelを下限値mfuel1に設定し、改質器25を介して燃料電池スタック1に燃料(アノードガス)を供給し、さらに制御部7(第3制御部)は取り出し電流Iをゼロにして発電を停止する。
【0087】
ステップS4において、制御部7(第2制御部)は、空気の供給量mairを、燃料電池スタック1における発電量を満たすように、且つ燃焼器4において燃焼ガスを生成する際にアノードガス(燃料)と最適な混合比となるように制御する。
【0088】
ステップS5において、制御部7(第2制御部)は、空気の供給量mairを、燃焼器4において燃焼ガスを生成する際にアノードガス(燃料)と最適な混合比となるように制御する。
【0089】
[高負荷状態の燃料電池システムの停止制御(発電あり)]
図7は、燃料電池スタック1が高負荷状態のときにシステム停止命令があった場合であって、システム停止命令時に取り出し電流、アノードガス流量、カソードガス流量を徐々に減少させてゼロにした場合の燃焼器4の温度(燃焼ガスの温度)及び改質器25の出口温度(アノードガスの温度)の変化を示すタイムチャートである。
【0090】
図7では、システム停止時の燃料の供給量m
fuelを下限値m
fuel1として燃料を供給する場合について示している。また
図7では、m
fuel1及びm
fuel2は時間経過とともに単調減少し、m
fuel1はシステム停止命令時(時刻t1)にm
fuel2よりも大きいが途中(時刻ti:t1<ti<tm<t2)でその大小関係が入れ替わる場合について示している。
【0091】
時刻t1でシステム停止命令を受けると、燃料(アノードガス)の供給量mfuelをmfuel1となるように徐々に減少させ、これに対応して空気(カソードガス)の供給量mairを減少させる。取り出し電流Iは、数式14に基づく値、若しくはそれ以上の値をとりつつ徐々に減少させる。これにより、燃料電池スタック1でアノードガスが消費され、燃焼器4には供給量mfuelがmfuel2、若しくはそれ以下となるアノードガスが供給される。
【0092】
よって、時刻t1以降において、燃焼器4(燃焼ガス)の温度上昇が回避され、供給量mfuelが時間経過とともに減少するので燃焼器4(燃焼ガス)の温度が徐々に低下する。よって燃焼器4の温度がその耐熱上限温度(Tcombmax)に到達することはなく、燃焼器4に対して熱的ダメージを与えることはない。また、燃焼ガスの温度上昇が回避されるので、改質器25(アノードガス)の温度(及び熱交換器32の温度)は、ほぼ一定となる。
【0093】
時刻tiにおいて、mfuel1がmfuel2と同じになり、それ以後mfuel1がmfuel2よりも低くなるので、取り出し電流Iはゼロになり発電が停止する。時刻tiで発電が停止するので、それ以後、空気(カソードガス)の供給量mairは発電しない分早い割合で低下していく。
【0094】
時刻tmにおいて、mfuel1がゼロになるので燃料(アノードガス)の供給を停止する。時刻tmにおいて、燃料の供給が停止するので、燃焼ガスの生成も停止し、これにより改質器25の温度はさらに減少していく。
【0095】
時刻t2において制御部7(第1制御部)の制御により追加燃料が供給されるが、アノードガス(又は未改質の燃料ガス)の温度は発電時の温度よりも低くなっているので当該アノードガスが燃料電池スタック1に供給されても熱的ダメージは生じない。
【0096】
[本実施形態の効果]
本実施形態の燃料電池システムによれば、改質ガス(アノードガス)と酸化剤ガス(カソードガス)が供給されて発電可能な固体酸化物型の燃料電池(燃料電池スタック1)と、酸化剤ガス(カソードガス)を燃料電池(燃料電池スタック1)に供給する酸化剤ガス供給装置(コンプレッサー31)と、改質ガス(アノードガス)を燃料電池(燃料電池スタック1)に供給する改質部(改質器25)と、改質ガス(アノードガス)の原料となる燃料を改質部(改質器25)に供給する燃料供給装置(ポンプ22、インジェクタ23)と、燃料電池(燃料電池スタック1)の排出ガス(アノードオフガス、カソードオフガス)を燃焼する燃焼部(燃焼器4)と、を備え、改質部(改質器25)は、燃焼部(燃焼器4)が生成する燃焼ガスと熱交換することで燃料を改質ガス(アノードガス)に改質可能であり、システム停止時(停止制御時)に酸化剤ガス(カソードガス)が燃料電池(燃料電池スタック1)の燃料極下流から流入することを防止するために改質部(改質器25)を通じて燃料を燃料電池(燃料電池スタック1)に追加供給する制御を燃料供給装置(インジェクタ23)に対して行う第1制御部(制御部7)が設けられた燃料電池システムにおいて、システム停止時(停止制御時)に燃料電池(燃料電池スタック1)に流入する改質ガス(アノードガス)の温度が所定の温度を超えないように追加供給の前に改質部(改質器25)に燃料を供給する第2制御部(制御部7)を備える。
【0097】
上記構成により、改質部(改質器25)においては、システム停止命令後も燃料が供給されるので、改質ガス(アノードガス)が改質部(改質器25)に滞留することなく押し出され改質ガス(アノードガス)に対する過度な熱交換が回避できる。また、新たに供給された燃料により改質反応(吸熱反応)の量もほとんど減少しない。よって、燃料(アノードガス)の温度上昇が抑制されその熱容量を維持することができる。したがって、その後の燃料の追加供給により改質部(改質器25)から燃料電池スタック1に押し出される改質ガス(アノードガス)の温度上昇を抑制しつつ、燃料の熱容量を保ちながらシステム全体の温度を低下させることができ、燃料電池スタック1への熱的ダメージを回避しつつ燃料の供給を停止させことが可能な燃料電池システムとなる。
【0098】
本実施形態において、所定の温度は、燃料電池(燃料電池スタック1)の耐熱上限温度である。これにより、燃料電池(燃料電池スタック1)に対する熱的ダメージを確実に回避することができる。
【0099】
本実施形態において、第2制御部(制御部7)による燃料の供給量(t1からtmまでの供給量)は、第1制御部(制御部7)による燃料の供給量よりも多い。これにより、システム停止命令後の改質ガス(アノードガス)の温度上昇を抑制することができる。
【0100】
本実施形態の燃料電池システムによれば、改質ガス(アノードガス)と酸化剤ガス(カソードガス)が供給されて発電可能な固体酸化物型の燃料電池(燃料電池スタック1)と、酸化剤ガス(カソードガス)を燃料電池(燃料電池スタック1)に供給する酸化剤ガス供給装置(コンプレッサー31)と、改質ガス(アノードガス)を燃料電池(燃料電池スタック1)に供給する改質部(改質器25)と、改質ガス(アノードガス)の原料となる燃料を改質部(改質器25)に供給する燃料供給装置(ポンプ22、インジェクタ23)と、燃料電池(燃料電池スタック1)の排出ガス(アノードオフガス、カソードオフガス)を燃焼する燃焼部(燃焼器4)と、を備え、改質部(改質器25)は、燃焼部(燃焼器4)が生成する燃焼ガスと熱交換することで燃料を改質ガス(アノードガス)に改質可能であり、システム停止時(停止制御時)に酸化剤ガス(カソードガス)が燃料電池(燃料電池スタック1)の燃料極下流から流入することを防止するために改質部(改質器25)を通じて燃料を燃料電池(燃料電池スタック1)に追加供給する制御を燃料供給装置(インジェクタ23)に対して行う第1制御部(制御部7)が設けられた燃料電池システムにおいて、システム停止時(停止制御時)に改質部(改質器25)の温度が燃料電池(燃料電池スタック1)の耐熱上限温度(Tmax)を超えないように追加供給の前に改質部(改質器25)に燃料を供給する第2制御部(制御部7)を備える。
【0101】
上記構成により、改質部(改質器25)においては、システム停止命令後も燃料が供給されるので、改質ガス(アノードガス)が改質部(改質器25)に滞留することなく押し出され改質ガス(アノードガス)に対する過度な熱交換が回避できる。また、新たに供給された燃料により改質反応(吸熱反応)の量もほとんど減少しない。よって、燃料(アノードガス)の温度上昇が抑制されその熱容量を維持することができる。したがって、その後の燃料の追加供給により改質部(改質器25)から燃料電池スタック1に押し出される改質ガス(アノードガス)の温度上昇を抑制しつつ、燃料の熱容量を保ちながらシステム全体の温度を低下させることができ、燃料電池スタック1への熱的ダメージを回避しつつ燃料の供給を停止させことが可能な燃料電池システムとなる。
【0102】
本実施形態において、第2制御部(制御部7)は、改質部(改質器25)の温度が燃料電池(燃料電池スタック1)の耐熱上限温度(Tmax)を超えないようにするための燃料の流量の下限値(mfuel1)を算出し下限値(mfuel1)で燃料を供給する。
【0103】
これにより、システム停止時(停止制御時)の燃料の消費量を削減しつつシステム全体の温度を低下させることができる。
【0104】
本実施形態において、システム停止時(停止制御時)において燃料電池(燃料電池スタック1)の取り出し電流量(I)を制御する第3制御部(制御部7)と、を備え、第3制御部(制御部7)は、燃焼部(燃焼器4)の耐熱上限温度(Tcombmax)を超えないようにするための燃料の流量の上限値(mfuel2)を算出し、下限値(mfuel1)と上限値(mfuel2)との差分に基づいて取り出し電流量(I)を制御する。
【0105】
これにより、システム停止時(停止制御時)の燃料の消費量を削減するとともに、発電により燃焼部(燃焼器4)に供給される燃料の流量を上限値(mfuel2)以下にすることができるので、燃料電池(燃料電池スタック1)及び燃焼部(燃焼器4)に対する熱的ダメージを回避可能となる。
【0106】
本実施形態において、第3制御部(制御部7)は、酸化剤ガス(カソードガス)の流量(mair)と燃料電池(燃料電池スタック1)の出口温度(Tstk)の少なくともいずれか一方に基づいて上限値(mfuel2)を算出する。これにより、燃焼ガスの温度及び供給量を検知するセンサを取り付けることなく、簡易な方法で上限値(mfuel2)を算出することができる。
【0107】
本実施形態において、第3制御部(制御部7)は、下限値(mfuel1)が上限値(mfuel2)以下になると取り出し電流量(I)をゼロにする。これにより、停止制御時の発電停止のタイミング(ti)を容易に判断することができる。
【0108】
本実施形態において第2制御部(制御部7)は、酸化剤ガス(カソードガス)の流量(mair)と燃料電池(燃料電池スタック1)の出口温度(Tstk)に基づいて下限値(mfuel1)を算出する。これにより、燃焼ガスの温度及び供給量を検知するセンサを取り付けることなく、簡易な方法で下限値(mfuel1)を算出することができる。
【0109】
本実施形態において、第2制御部(制御部7)は、下限値(mfuel1)がゼロになると燃料の供給を停止する。これにより、停止制御時の燃料供給停止のタイミング(tm)を容易に判断することができる。
【0110】
本実施形態において、第2制御部(制御部7)は、システム停止時に燃料の流量(mfuel)に対応して、酸化剤ガス供給装置(コンプレッサー31)を介して酸化剤ガス(カソードガス)の流量(mair)を制御する。これにより、停止制御時の消費電力を削減することができる。
【0111】
本実施形態の燃料電池システムの制御方法によれば、改質部(改質器25)が生成した改質ガス(アノードガス)と、酸化剤ガス(カソードガス)と、を固体酸化物型の燃料電池(燃料電池スタック1)に供給して発電する場合において、改質部(改質器25)が燃料電池(燃料電池スタック1)の排出ガス(アノードオフガス、カソードオフガス)を燃焼して生成した燃焼ガスと熱交換することで改質ガス(アノードガス)の原料となる燃料を改質ガス(アノードガス)に改質するものとし、システム停止時(停止制御時)に酸化剤ガス(カソードガス)が燃料電池(燃料電池スタック1)の燃料極(アノード)下流から流入することを防止するために改質部(改質器25)を通じて燃料を燃料電池(燃料電池スタック1)に追加供給する燃料電池システムの制御方法において、システム停止時(停止制御時)に燃料電池(燃料電池スタック1)に流入する改質ガス(アノードガス)の温度が所定の温度を超えないように追加供給の前に改質部(改質器25)に燃料を供給する。
【0112】
上記方法により、改質部(改質器25)においては、システム停止命令後も燃料が供給されるので、改質ガス(アノードガス)が改質部(改質器25)に滞留することなく押し出され改質ガス(アノードガス)に対する過度な熱交換が回避できる。また、新たに供給された燃料により改質反応(吸熱反応)の量もほとんど減少しない。よって、燃料(アノードガス)の温度上昇が抑制されその熱容量を維持することができる。したがって、その後の燃料の追加供給により改質部(改質器25)から燃料電池スタック1に押し出される改質ガス(アノードガス)の温度上昇を抑制しつつ、燃料の熱容量を保ちながらシステム全体の温度を低下させることができ、燃料電池スタック1への熱的ダメージを回避しつつ燃料の供給を停止させことが可能となる。