(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-13
(45)【発行日】2022-10-21
(54)【発明の名称】有機薄膜トランジスタ、および、有機薄膜トランジスタの製造方法
(51)【国際特許分類】
H01L 21/336 20060101AFI20221014BHJP
H01L 29/786 20060101ALI20221014BHJP
H01L 51/05 20060101ALI20221014BHJP
H01L 51/40 20060101ALI20221014BHJP
【FI】
H01L29/78 626C
H01L29/78 618B
H01L29/78 619A
H01L29/78 627D
H01L29/28 100A
H01L29/28 390
(21)【出願番号】P 2020538262
(86)(22)【出願日】2019-07-31
(86)【国際出願番号】 JP2019029955
(87)【国際公開番号】W WO2020039864
(87)【国際公開日】2020-02-27
【審査請求日】2021-02-15
(31)【優先権主張番号】P 2018157040
(32)【優先日】2018-08-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】306037311
【氏名又は名称】富士フイルム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100152984
【氏名又は名称】伊東 秀明
(74)【代理人】
【識別番号】100148080
【氏名又は名称】三橋 史生
(72)【発明者】
【氏名】岩瀬 英二郎
【審査官】岩本 勉
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/117534(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/026349(WO,A1)
【文献】特開2017-098290(JP,A)
【文献】国際公開第2015/133391(WO,A1)
【文献】特開2010-152298(JP,A)
【文献】特開2011-181590(JP,A)
【文献】特表2004-506985(JP,A)
【文献】特表2007-516347(JP,A)
【文献】特開2008-072087(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/336
H01L 29/786
H01L 51/05
H01L 51/40
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂層および無機層からなるガスバリア層と、
前記ガスバリア層の一方の主面側に形成される、ゲート電極、絶縁膜、有機半導体層、ソース電極、および、ドレイン電極を有するトランジスタ素子と、
前記トランジスタ素子の、前記ガスバリア層とは反対側に接着層を介して積層される封止層と、を有し、
前記ガスバリア層の前記樹脂層の厚みが、前記ガスバリア層の前記無機層から前記封止層までの厚みよりも薄
く、
前記ガスバリア層の、前記トランジスタ素子とは反対側の面に、前記ガスバリア層から剥離可能な基板を有する有機薄膜トランジスタ。
【請求項2】
前記封止層が、樹脂層および無機層からなるガスバリア層であり、前記トランジスタ素子の両側のガスバリア層の少なくとも一方の前記樹脂層の厚みが、一方の前記ガスバリア層の前記無機層から他方の前記ガスバリア層の前記無機層までの厚みよりも薄い請求項1に記載の有機薄膜トランジスタ。
【請求項3】
前記トランジスタ素子の両側のガスバリア層の前記樹脂層の厚みが、一方の前記ガスバリア層の前記無機層から他方の前記ガスバリア層の前記無機層までの厚みよりも薄い請求項2に記載の有機薄膜トランジスタ。
【請求項4】
前記ガスバリア層の前記無機層から前記封止層までの厚みに対する、前記ガスバリア層の前記樹脂層の厚みの比率が0.01~0.9の範囲である請求項1~
3のいずれか一項に記載の有機薄膜トランジスタ。
【請求項5】
前記ガスバリア層の前記無機層が窒化珪素からなる請求項1~
4のいずれか一項に記載の有機薄膜トランジスタ。
【請求項6】
前記ガスバリア層の前記無機層の厚みが50nm以下である請求項1~
5のいずれか一項に記載の有機薄膜トランジスタ。
【請求項7】
前記ガスバリア層の前記樹脂層の厚みが0.1μm~2μmの範囲である請求項1~
6のいずれか一項に記載の有機薄膜トランジスタ。
【請求項8】
前記接着層の厚みが2.1μm~10μmの範囲である請求項1~
7のいずれか一項に記載の有機薄膜トランジスタ。
【請求項9】
前記ガスバリア層の前記樹脂層のガラス転移温度が200℃以上である請求項1~
8のいずれか一項に記載の有機薄膜トランジスタ。
【請求項10】
前記ガスバリア層の前記樹脂層が、ビスフェノール構造を含む請求項1~
9のいずれか一項に記載の有機薄膜トランジスタ。
【請求項11】
前記ガスバリア層の前記樹脂層が、ポリアリレートを含む請求項1~
10のいずれか一項に記載の有機薄膜トランジスタ。
【請求項12】
基板と、前記基板から剥離可能な樹脂層および前記樹脂層上に形成された無機層を有する第1のガスバリア層とを有する転写型ガスバリアフィルムの前記ガスバリア層の上に、ゲート電極、絶縁膜、有機半導体層、ソース電極、および、ドレイン電極を有するトランジスタ素子を形成するトランジスタ形成工程と、
前記トランジスタ素子の上に接着層を介して、基板と前記基板から剥離可能な樹脂層および前記樹脂層上に形成された無機層を有する第2のガスバリア層とを有する転写型ガスバリアフィルムを、前記無機層側を前記トランジスタ素子に向けて貼り合わせる貼合工程と、
2つの前記転写型ガスバリアフィルムそれぞれから前記基板を剥離する剥離工程と、を有し、
前記貼合工程において、前記第1のガスバリア層の前記樹脂層の厚み、および、前記第2のガスバリア層の前記樹脂層の厚みの少なくとも一方が、前記第1のガスバリア層の前記無機層から前記第2のガスバリア層の前記無機層までの厚みよりも薄くなるように前記転写型ガスバリアフィルムを貼り合わせる有機薄膜トランジスタの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機薄膜トランジスタ、および、この有機薄膜トランジスタを製造する製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
有機半導体は、従来の無機半導体とは異なり、各種溶剤に溶かすことができる有機分子からなるため、塗布および印刷技術等によって形成することができる。そのため、ロール・トゥ・ロール(以下、RtoRともいう)で製造する各種デバイスに用いることができる。このような有機半導体を用いた有機薄膜トランジスタが各種提案されている。
【0003】
有機薄膜トランジスタの一般的な構成としては、基板上に形成されるゲート電極、このゲート電極を覆う絶縁膜、絶縁膜上に形成される有機半導体層、有機半導体層上に形成されるソース電極およびドレイン電極を有する。
このように半導体として有機半導体を用いることで、有機薄膜トランジスタにフレキシブル性を持たせることが多数提案されている。しかしながら、フレキシブルな有機薄膜トランジスタには2つの問題がある。
【0004】
1つはフレキシブルな有機薄膜トランジスタを曲げたときに生じる、屈曲性に起因するトランジスタ素子を構成する部材の破損である。トランジスタ素子の積層構造は、構成要素同士の密着性が低く、曲げると壊れやすい。そのため、フレキシブルな有機薄膜トランジスタを作製するには、トランジスタ素子を挟み込む封止構造が必要である。
【0005】
2つめは、この封止構造はガスバリア性を有する必要がある。有機半導体そのものは熱安定性が高く、湿度の影響も受けにくいので大気安定性は比較的高い。しかしながら、有機半導体と絶縁膜との界面、有機半導体と各電極との界面は水分により酸化し、電子トラップが増加するため電子リークが増加してしまう。そのため、大気安定性を持たせるためには、封止構造がガスバリア性を有する必要がある。
【0006】
上記2つの問題から有機薄膜トランジスタは、屈曲性が高く、水分を遮蔽できる材料での封止構造が求められている。
【0007】
このような問題に対して、有機薄膜トランジスタをガスバリアフィルムで封止することが提案されている。
例えば、特許文献1には、樹脂フィルムの一方の表面に第1無機層及び薄膜トランジスタがこの順序で形成され、もう一方の表面に第2無機層が形成された薄膜デバイスが記載されている。
【0008】
しかしながら、PET(ポリエチレンテレフタレート)フィルム等の樹脂フィルム上に無機層を積層してなるガスバリアフィルムを用いる構成では、上述した2つの問題を十分に回避することができない。
【0009】
一方、特許文献2には、基板(セパレータ)の表面に剥離層を形成し、剥離層の表面にガスバリア層を形成してなる転写型のガスバリアフィルムが開示されている。
このような転写型のガスバリアフィルムを、例えば、有機EL素子等の貼着対象に接着層を介して貼着して、基板を剥離することで、貼着対象に転写(剥離転写)することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】特開2017-084846号公報
【文献】特開2017-043060号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、特許文献2に記載の転写型ガスバリアフィルムから基板を剥離して転写される転写層は、COC(シクロオレフィンコポリマー)樹脂等で形成された剥離樹脂層の上に、ガラス転移温度が高いアクリレート樹脂等で形成された有機層を有し、この有機層の上に窒化珪素等で形成された無機層を有する構成である。
このように基板を有さない構成の転写層は、プラスチックフィルムよりも屈曲性は高い。しかしながら、無機層の下地層となる有機層は、無機層を形成する際に耐熱性が必要となるため、ガラス転移温度が高い材料で形成される。ガラス転移温度が高い有機層は硬いため、屈曲性に限界がある。そのため、有機薄膜トランジスタには、さらに屈曲性が高い封止手段が必要である。
【0012】
本発明の課題は、このような問題点を解決することにあり、屈曲性が高く、大気安定性の高い有機薄膜トランジスタ、および、有機薄膜トランジスタの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、以下の構成によって課題を解決する。
[1] 樹脂層および無機層からなるガスバリア層と、
ガスバリア層の一方の主面側に形成される、ゲート電極、絶縁膜、有機半導体層、ソース電極、および、ドレイン電極を有するトランジスタ素子と、
トランジスタ素子の、ガスバリア層とは反対側に接着層を介して積層される封止層と、を有し、
ガスバリア層の樹脂層の厚みが、ガスバリア層の無機層から封止層までの厚みよりも薄い有機薄膜トランジスタ。
[2] 封止層が、樹脂層および無機層からなるガスバリア層であり、トランジスタ素子の両側のガスバリア層の少なくとも一方の樹脂層の厚みが、一方のガスバリア層の無機層から他方のガスバリア層の無機層までの厚みよりも薄い[1]に記載の有機薄膜トランジスタ。
[3] トランジスタ素子の両側のガスバリア層の樹脂層の厚みが、一方のガスバリア層の無機層から他方のガスバリア層の無機層までの厚みよりも薄い[2]に記載の有機薄膜トランジスタ。
[4] ガスバリア層の、トランジスタ素子とは反対側の面に、ガスバリア層から剥離可能な基板を有する[1]~[3]のいずれかに記載の有機薄膜トランジスタ。
[5] ガスバリア層の無機層から封止層までの厚みに対する、ガスバリア層の樹脂層の厚みの比率が0.01~0.9の範囲である[1]~[4]のいずれかに記載の有機薄膜トランジスタ。
[6] ガスバリア層の無機層が窒化珪素からなる[1]~[5]のいずれかに記載の有機薄膜トランジスタ。
[7] ガスバリア層の無機層の厚みが50nm以下である[1]~[6]のいずれかに記載の有機薄膜トランジスタ。
[8] ガスバリア層の樹脂層の厚みが0.1μm~2μmの範囲である[1]~[7]のいずれかに記載の有機薄膜トランジスタ。
[9] 接着層の厚みが2.1μm~10μmの範囲である[1]~[8]のいずれかに記載の有機薄膜トランジスタ。
[10] ガスバリア層の樹脂層のガラス転移温度が200℃以上である[1]~[9]のいずれかに記載の有機薄膜トランジスタ。
[11] ガスバリア層の樹脂層が、ビスフェノール構造を含む[1]~[10]のいずれかに記載の有機薄膜トランジスタ。
[12] ガスバリア層の樹脂層が、ポリアリレートを含む[1]~[11]のいずれかに記載の有機薄膜トランジスタ。
[13] 基板と、基板から剥離可能な樹脂層および樹脂層上に形成された無機層を有する第1のガスバリア層とを有する転写型ガスバリアフィルムのガスバリア層の上に、ゲート電極、絶縁膜、有機半導体層、ソース電極、および、ドレイン電極を有するトランジスタ素子を形成するトランジスタ形成工程と、
トランジスタ素子の上に接着層を介して、基板と基板から剥離可能な樹脂層および樹脂層上に形成された無機層を有する第2のガスバリア層とを有する転写型ガスバリアフィルムを、無機層側をトランジスタ素子に向けて貼り合わせる貼合工程と、
2つの転写型ガスバリアフィルムそれぞれから基板を剥離する剥離工程と、を有し、
貼合工程において、第1のガスバリア層の樹脂層の厚み、および、第2のガスバリア層の樹脂層の厚みの少なくとも一方が、第1のガスバリア層の無機層から第2のガスバリア層の無機層までの厚みよりも薄くなるように転写型ガスバリアフィルムを貼り合わせる有機薄膜トランジスタの製造方法。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、屈曲性が高く、大気安定性の高い有機薄膜トランジスタ、および、有機薄膜トランジスタの製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の有機薄膜トランジスタの一例を概念的に示す断面図である。
【
図2】本発明の有機薄膜トランジスタの他の例を概念的に示す断面図である。
【
図3】本発明の有機薄膜トランジスタの他の例を概念的に示す断面図である。
【
図4】本発明の有機薄膜トランジスタの他の例を概念的に示す断面図である。
【
図5】本発明の有機薄膜トランジスタの製造方法の一例を説明するための図である。
【
図6】本発明の有機薄膜トランジスタの製造方法の一例を説明するための図である。
【
図7】本発明の有機薄膜トランジスタの製造方法の一例を説明するための図である。
【
図8】本発明の有機薄膜トランジスタの製造方法の一例を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の有機薄膜トランジスタ、および、有機薄膜トランジスタの製造方法の実施形態について、図面に基づいて説明する。
【0017】
[有機薄膜トランジスタ]
本発明の有機薄膜トランジスタは、
樹脂層および無機層からなるガスバリア層と、
ガスバリア層の一方の主面側に形成される、ゲート電極、絶縁膜、有機半導体層、ソース電極、および、ドレイン電極を有するトランジスタ素子と、
トランジスタ素子の、ガスバリア層とは反対側に接着層を介して積層される封止層と、を有し、
ガスバリア層の前記樹脂層の厚みが、ガスバリア層の無機層から封止層までの厚みよりも薄い有機薄膜トランジスタである。
【0018】
図1に、本発明の有機薄膜トランジスタの一例を概念的に示す。
図1は、本発明の有機薄膜トランジスタの主面に垂直な方向の断面を模式的に示す断面図である。主面とは、シート状物(フィルム、板状物)の最大面である。
【0019】
図1に示す有機薄膜トランジスタ10aは、第1のガスバリア層12aと、トランジスタ素子18と、接着層30と、第2のガスバリア層12bとを有して構成される。
なお、以下の説明において、便宜的に有機薄膜トランジスタの第1のガスバリア層12a側を下側、第2のガスバリア層12b側を上側として説明を行う。
【0020】
第1のガスバリア層12aは、第1の樹脂層14aと、無機層16とからなり、ガスバリア性を発現する層である。第1のガスバリア層12aは、転写型のガスバリアフィルムから剥離基板を剥離されたものである。この点は後に詳述する。
第1のガスバリア層12aの無機層16の上には、トランジスタ素子18が形成される。
【0021】
トランジスタ素子18は、第1のガスバリア層12aの無機層16の表面に形成されたゲート電極20と、ゲート電極20を包含するように形成された絶縁膜22と、絶縁膜22上に形成された有機半導体層24と、有機半導体層24上にそれぞれ離間して形成されるソース電極26およびドレイン電極28と、を有する。すなわち、トランジスタ素子18は、いわゆるボトムゲート-トップコンタクト型のトランジスタ素子である。
【0022】
トランジスタ素子18の上には接着層30を介して第2のガスバリア層12bが積層されている。すなわち、トランジスタ素子18は接着層30に包埋されており、接着層30の上面には第2のガスバリア層12bが積層されている。接着層30は、第1のガスバリア層12aの、トランジスタ素子18が形成されていない部分にも接している。
接着層30は、常温では固体であり、加熱により流動する樹脂からなる層である。
【0023】
第2のガスバリア層12bは、第2の樹脂層14bと、無機層16とからなり、ガスバリア性を発現する層である。第2のガスバリア層12bは、転写型のガスバリアフィルムから剥離基板を剥離されたものである。この点は後に詳述する。
すなわち、有機薄膜トランジスタ10aは、トランジスタ素子18を2つのガスバリア層で封止した構成である。
【0024】
ここで、
図1に示す有機薄膜トランジスタは、第1のガスバリア層12aの第1の樹脂層14aの厚みT
1、および、第2のガスバリア層12bの第2の樹脂層14bの厚みT
2が、第1のガスバリア層12aの無機層16から第2のガスバリア層12bの無機層16までの厚みT
0よりも薄い構成を有する。第1のガスバリア層12aの無機層16から第2のガスバリア層12bの無機層16までの間の、トランジスタ素子18が形成されていない領域は接着層30が充填されているので、以下の説明では、第1のガスバリア層12aの無機層16から第2のガスバリア層12bの無機層16までの厚みT
0を、接着層30の厚みともいう。
【0025】
前述のとおり、有機薄膜トランジスタにおいて、トランジスタ素子をガスバリアフィルムで封止する場合に、ガスバリアフィルムがPETフィルム等の樹脂フィルムを有する構成の場合には、トランジスタ素子を構成する有機半導体層および各電極が、プラスチックフィルムの屈曲に追従することができずに損傷してしまうという問題があった。
また、ガスバリア層から基板を剥離可能な転写型ガスバリアフィルムが提案されており、この転写型ガスバリアフィルムを用いることも考えられるが、無機層の下地層となる有機層は、無機層を形成する際に耐熱性が必要となるため、ガラス転移温度が高い材料で形成されており、屈曲性に限界がある。そのため、有機薄膜トランジスタには、さらに屈曲性が高い封止手段が必要であった。
【0026】
これに対して、本発明は、第1のガスバリア層12aの第1の樹脂層14aの厚みT1、および、第2のガスバリア層12bの第2の樹脂層14bの厚みT2をガスバリア層に挟まれた接着層30の厚みT0よりも薄くすることで、有機薄膜トランジスタとしての屈曲性を高くすることができる。これにより、屈曲性が高く、かつ、水分の侵入の無く大気安定性に優れ、トランジスタ素子の損傷を抑制でき、耐久性に優れた有機薄膜トランジスタとすることができる。
【0027】
なお、
図1に示す例では、第1のガスバリア層12aの第1の樹脂層14aの厚みT
1、および、第2のガスバリア層12bの第2の樹脂層14bの厚みT
2の両方を接着層30の厚みT
0よりも薄くする構成としたが、本発明はこれに限定はされず、厚みT
1および厚みT
2の少なくとも一方が接着層30の厚みT
0よりも薄い構成であればよい。屈曲性をより高くできる等の点から、厚みT
1および厚みT
2の両方が接着層30の厚みT
0よりも薄いことが好ましい。
【0028】
第1の樹脂層14aの厚みT1、および、第2の樹脂層14bの厚みT2は、薄いほど屈曲性を高くできる。また、接着層30の厚みT0はある程度厚いと屈曲性を高くできる。
一方、第1の樹脂層14a、および、第2の樹脂層14bは無機層の下地層となるため、欠陥のない緻密な無機層16を形成するためには、第1の樹脂層14a、および、第2の樹脂層14bが基板の表面の凹凸および異物を包埋して、無機層16の形成面を平坦な表面とする必要がある。また、第1のガスバリア層12a、および、第2のガスバリア層12bから基板を剥離する際に、剥離時に引き裂かれない機械強度を維持する必要がある。そのため、第1の樹脂層14aの厚みT1、および、第2の樹脂層14bはある程度の厚みが必要である。また、十分な密着性を得られる観点から接着層30はある程度の厚みが必要である。
また、有機薄膜トランジスタ全体の軽量化および薄手化を図れる観点からは、第1の樹脂層14aの厚みT1、第2の樹脂層14bおよび接着層30の厚みT0は薄いのが好ましい。
以上の観点から、第1の樹脂層14aの厚みT1と接着層30の厚みT0との比率T1/T0は、0.01~0.9が好ましく、0.05~0.6がより好ましく、0.1~0.5がさらに好ましい。
同様に、第2の樹脂層14bの厚みT2と接着層30の厚みT0との比率T2/T0は、0.01~0.9が好ましく、0.05~0.6がより好ましく、0.1~0.5がさらに好ましい。
【0029】
具体的には、第1の樹脂層14aの厚みT1、および、第2の樹脂層14bの厚みT2は、0.1μm~2μmの範囲とするのが好ましく、0.5μm~1.5μmの範囲とするのがより好ましく、0.7μm~1μmの範囲とするのがさらに好ましい。
【0030】
また、接着層の厚みT0は、0.1μm~10μmの範囲とするのが好ましく、2.1μm~10μmの範囲とするのがより好ましく、3μm~5μmの範囲とするのがさらに好ましい。
【0031】
ここで、
図1に示す例では、トランジスタ素子18は、いわゆるボトムゲート-トップコンタクト型のトランジスタ素子としたが、これに限定はされない。例えば、
図2に示す有機薄膜トランジスタ10bのように、トランジスタ素子18は、ゲート電極20、ならびに、ソース電極26およびドレイン電極28が、有機半導体層24の下側にある、いわゆるボトムゲート-ボトムコンタクト型のトランジスタ素子としてもよい。あるいは、ゲート電極20、ならびに、ソース電極26およびドレイン電極28が、有機半導体層24の上側にある、いわゆるトップゲート-トップコンタクト型のトランジスタ素子としてもよいし、ゲート電極20が有機半導体層24の上側にあり、ソース電極26およびドレイン電極28が有機半導体層24の下側にある、いわゆるトップゲート-ボトムコンタクト型のトランジスタ素子としてもよい。
【0032】
また、
図1に示す例では、トランジスタ素子18は、第1のガスバリア層12aの無機層16に接して形成される構成としたが、これに限定はされない。例えば、
図3に示す有機薄膜トランジスタ10cのように、トランジスタ素子18が第1のガスバリア層12aの無機層16との間に接着層30を有する構成としてもよい。
【0033】
また、前述のとおり、第1のガスバリア層12aおよび第2のガスバリア層12bは、転写型ガスバリアフィルムから転写された層である。そのため、有機薄膜トランジスタを使用する際には、
図1に示すように、基板が剥離された状態であるが、例えば、搬送時等には、
図4に示す有機薄膜トランジスタ10dのように、基板32が積層された状態であってもよい。
図4に示す有機薄膜トランジスタ10dは、第1のガスバリア層12aの、トランジスタ素子とは反対側の面に積層された基板32と、第2のガスバリア層12bの、トランジスタ素子とは反対側の面に積層された基板32と、を有する以外は、
図1に示す有機薄膜トランジスタ10aと同様の構成を有する。各基板32それぞれは、第1のガスバリア層12a、または、第2のガスバリア層12bから剥離可能に積層されている。
【0034】
また、
図1に示す例では、トランジスタ素子18の上側および下側の両面をガスバリア層12で封止する構成としたが、本発明はこれに限定はされず、少なくとも一方がガスバリア層12であり、他方がPEN(ポリエチレンナフタレート)基板、COP(シクロオレフィンポリマー)、PI(ポリイミド)等の、有機薄膜トランジスタで用いられる従来公知の封止層、あるいは、支持体であってもよい。
具体的には、トランジスタ素子18の下側、すなわち、トランジスタ素子18が形成される面をガスバリア層12とし、トランジスタ素子18の上側を接着層30を介して従来公知の封止層で封止する構成であってもよい。あるいは、トランジスタ素子18が形成される面を従来公知のトランジスタ素子の支持体(封止層)とし、トランジスタ素子18の上側を接着層30を介してガスバリア層12で封止する構成であってもよい。
【0035】
以下、有機薄膜トランジスタを構成する部位について詳細に説明する。
なお、以下の説明において、第1のガスバリア層12aおよび第2のガスバリア層12bを区別する必要がない場合には、まとめてガスバリア層12として説明を行う。同様に、第1の樹脂層14aおよび第2の樹脂層14bを区別する必要がない場合には、まとめて樹脂層14として説明を行う。
【0036】
<基板(セパレータ)>
基板32は、各種のガスバリアフィルムおよび各種の積層型の機能性フィルムなどにおいて基板(支持体)として利用される、公知のシート状物(フィルム、板状物)を用いることができる。
また、基板32は、各種の光学透明接着剤(OCA(Optical Clear Adhesive))においてセパレータ(軽剥離セパレータおよび重剥離セパレータ)として用いられている各種のシート状物も利用可能である。
【0037】
基板32の材料には、制限はなく、樹脂層14、無機層16、接着層30、および、トランジスタ素子18を形成可能で、さらに、樹脂層14を形成するための組成物に含まれる溶剤で溶解しないものであれば、各種の材料が利用可能である。基板32の材料としては、好ましくは、各種の樹脂材料が例示される。
基板32の材料としては、例えば、ポリエチレン(PE)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリアミド(PA)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリアクリトニトリル(PAN)、ポリイミド(PI)、透明ポリイミド、ポリメタクリル酸メチル樹脂(PMMA)、ポリカーボネート(PC)、ポリアクリレート、ポリメタクリレート、ポリプロピレン(PP)、ポリスチレン(PS)、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体(ABS)、シクロオレフィン共重合体(COC)、シクロオレフィンポリマー(COP)、トリアセチルセルロース(TAC)、および、エチレン-ビニルアルコール共重合体(EVOH)等が挙げられる。
【0038】
基板32の厚さは、用途および材料等に応じて、適宜、設定できる。
基板32の厚さには、制限はないが、転写型ガスバリアフィルムの機械的強度を十分に確保できる、可撓性(フレキシブル性)の良好な転写型ガスバリアフィルムが得られる、転写型ガスバリアフィルムの軽量化および薄手化を図れる、転写の際にガスバリア層12から容易に剥離できる転写型ガスバリアフィルムが得られる等の点で、5~150μmが好ましく、10~100μmがより好ましい。
【0039】
<樹脂層>
樹脂層14は、ガスバリア層12を構成する層であり、無機層16を適正に形成するための下地層となる層である。また、樹脂層14は、基板32が剥離可能に貼着される樹脂層である。すなわち、樹脂層14は、基板32から剥離可能な樹脂層である。従って、樹脂層14と無機層16との密着力が、基板32と樹脂層14との密着力よりも強い。
後述するが、樹脂層14の表面に形成される無機層16は、好ましくは、プラズマCVD(Chemical Vapor Deposition)によって形成される。そのため、無機層16を形成する際に、樹脂層14がプラズマによってエッチングされて、樹脂層14と無機層16との間には、樹脂層14の成分と無機層16の成分とを有する、混合層のような層が形成される。その結果、樹脂層14と無機層16とは、非常に強い密着力で密着される。
従って、樹脂層14と無機層16との密着力は、基板32と樹脂層14との密着力よりも、遥かに強く、樹脂層14から基板32を剥離しても、樹脂層14と無機層16とが剥離することは無い。
なお、樹脂層14の厚さとは、上述の混合層を含まない、樹脂層14の形成成分のみからなる層の厚さである。
【0040】
また、樹脂層14は、無機層16を適正に形成するための下地層であるので、基板32の表面に形成される樹脂層14は、基板32の表面の凹凸および表面に付着する異物等を包埋する。その結果、無機層16の形成面を適正にして、適正に無機層16を形成することを可能にする。
基板32を剥離可能にする樹脂層14に無機層16を形成することにより、基板32が剥離可能な転写型ガスバリアフィルムを実現している。
さらに、樹脂層14は、基板32を剥離した後は、無機層16を保護する保護層として作用する。
【0041】
無機層16の形成の際に樹脂層14には高い温度がかかるため、樹脂層14は、耐熱性が高いのが好ましい。具体的には、樹脂層14は、ガラス転移点(Tg)が175℃以上であるのが好ましく、200℃以上であるのがより好ましく、250℃以上であるのがさらに好ましい。
上述のように、樹脂層14の表面に形成される無機層16は、好ましくは、プラズマCVDによって形成される。樹脂層14のTgを180℃以上とすることにより、無機層16を形成する際における、プラズマによる樹脂層14のエッチングおよび揮発を好適に抑制して、適正な樹脂層14および無機層16を好適に形成できる等の点で好ましい。
樹脂層14のTgの上限には、制限はないが、500℃以下であるのが好ましい。
【0042】
また、Tgと同様の理由で、樹脂層14を形成する樹脂は、ある程度、分子量が大きいのが好ましい。
具体的には、樹脂層14を形成する樹脂は、分子量(重量平均分子量(Mw))が500以上であるのが好ましく、1000以上であるのがより好ましく、1500以上であるのがさらに好ましい。
【0043】
なお、樹脂層14のTgは、示差走査熱量計(DSC)等を用いる公知の方法で特定すればよい。また、分子量も、ゲル浸透クロマトグラフィ(GPC)等を用いる公知の方法で測定すればよい。また、市販品を用いる場合には、樹脂層14のTgおよび分子量は、カタログ値を用いればよい。
以上の点に関しては、後述する接着層30も同様である。
【0044】
樹脂層14の形成材料としては、公知のガスバリアフィルムで無機層の下地層として用いられている、樹脂層(有機層)が各種利用可能である。樹脂層14は、例えば、モノマー、ダイマーおよびオリゴマー等を重合(架橋、硬化)した有機化合物からなる層である。樹脂層14を形成するための組成物は、有機化合物を1種のみ含んでもよく、2種以上含んでもよい。
樹脂層14は、例えば、熱可塑性樹脂および有機ケイ素化合物等を含有する。熱可塑性樹脂は、例えば、ポリエステル、(メタ)アクリル樹脂、メタクリル酸-マレイン酸共重合体、ポリスチレン、透明フッ素樹脂、ポリイミド、フッ素化ポリイミド、ポリアミド、ポリアミドイミド、ポリエーテルイミド、セルロースアシレート、ポリウレタン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリカーボネート、脂環式ポリオレフィン、ポリアリレート、ポリエーテルスルホン、ポリスルホン、フルオレン環変性ポリカーボネート、脂環変性ポリカーボネート、フルオレン環変性ポリエステル、および、アクリル化合物等が挙げられる。有機ケイ素化合物は、例えば、ポリシロキサンが挙げられる。
【0045】
樹脂層14は、強度が優れる観点と、ガラス転移点の観点とから、好ましくは、ラジカル硬化性化合物および/またはエーテル基を有するカチオン硬化性化合物の重合物を含む。
樹脂層14は、樹脂層14の屈折率を低くする観点から、好ましくは、(メタ)アクリレートのモノマー、オリゴマー等の重合体を主成分とする(メタ)アクリル樹脂を含む。樹脂層14は、屈折率を低くすることにより、透明性が高くなり、光透過性が向上する。
【0046】
樹脂層14は、より好ましくは、ジプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート(DPGDA)、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート(TMPTA)、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート(DPHA)などの、2官能以上の(メタ)アクリレートのモノマー、ダイマーおよびオリゴマー等の重合体を主成分とする(メタ)アクリル樹脂を含み、さらに好ましくは、3官能以上の(メタ)アクリレートのモノマー、ダイマーおよびオリゴマー等の重合体を主成分とする(メタ)アクリル樹脂を含む。また、これらの(メタ)アクリル樹脂を、複数用いてもよい。主成分とは、含有する成分のうち、最も含有質量比が大きい成分をいう。
【0047】
また、樹脂層14は、芳香族環を有する樹脂によって形成することで、基板32を剥離可能にすることができる。
樹脂層14は、好ましくは、ビスフェノール構造を含む樹脂を主成分とする。樹脂層14は、より好ましくは、ポリアリレート(ポリアリレート樹脂(PAR))を主成分とする。周知のように、ポリアリレートとは、ビスフェノールAに代表されるビスフェノールなどの2価フェノールと、フタル酸(テレフタル酸、イソフタル酸)などの2塩基酸との重縮合体からなる芳香族ポリエステルである。
樹脂層14をビスフェノール構造を含む樹脂を主成分とすることにより、特に、樹脂層14をポリアリレートを主成分とすることにより、基板32と樹脂層14との密着力が適正で、かつ、容易に基板32を剥離可能とすることができる。また、適度な柔軟性を有するので基板32を剥離する際の無機層16の損傷(割れおよびヒビ等)を防止できる、耐熱性が高いため適正な無機層16を安定して形成できる、転写後の性能劣化を防止できる、有機薄膜トランジスタとしての屈曲性を高くすることができる等の点で好ましい。
なお、主成分とは、含有する成分のうち、最も含有質量比が大きい成分をいう。
【0048】
樹脂層14を芳香族環を有する各種の樹脂で形成する場合には、樹脂層14は、芳香族環を有する樹脂であれば、市販品を用いて形成してもよい。
樹脂層14の形成に利用可能な市販品の樹脂としては、ユニチカ株式会社製のユニファイナー(unifiner)(登録商標)およびUポリマー(登録商標)、ならびに、三菱ガス化学株式会社製のネオプリム(登録商標)等が例示される。
【0049】
樹脂層14は、材料に応じた公知の方法で形成できる。
例えば、樹脂層14は、樹脂層14となる樹脂(有機化合物)等を溶剤に溶解した組成物(樹脂組成物)を調製して、基板32に塗布し、組成物を乾燥させる、塗布法で形成できる。塗布法による樹脂層14の形成では、必要に応じて、さらに、乾燥した組成物に、紫外線を照射することにより、成物中の樹脂(有機化合物)を重合(架橋)させてもよい。
樹脂層14を形成するための組成物は、有機化合物に加え、好ましくは、有機溶剤、界面活性剤、および、シランカップリング剤などを含む。
【0050】
樹脂層14は、ロール・トゥ・ロールによって形成するのが好ましい。以下の説明では、『ロール・トゥ・ロール』を『RtoR』とも言う。
周知のように、RtoRとは、長尺なシート状物を巻回してなるロールから、シート状物を送り出し、長尺なシートを長手方向に搬送しつつ成膜を行い、成膜済のシート状物をロール状に巻回する製造方法である。RtoRを利用することで、高い生産性と生産効率が得られる。
【0051】
なお、第1のガスバリア層12aの第1の樹脂層14aと第2のガスバリア層12bの第2の樹脂層14bとは、同じ材料で形成されていてもよいし、異なる材料で形成されていてもよい。また、厚みも同じであっても異なっていてもよい。
【0052】
また、樹脂層14は基板32と剥離可能に形成される必要がある。そのため、上述のように樹脂層14の材料として剥離性を有する材料を用いてもよいし、樹脂層14と基板32との間に剥離層を設けてもよい。剥離層としては、従来公知の剥離層が適宜利用可能である。
【0053】
<無機層>
無機層16は、無機化合物を含む薄膜であり、少なくとも樹脂層14の表面に形成される。ガスバリア層12おいて、無機層16が、主にガスバリア性能を発現する。
基板32の表面には、凹凸および異物のような、無機化合物が着膜し難い領域がある。上述のように、基板32の表面に樹脂層14を設け、その上に無機層16を形成することにより、無機化合物が着膜し難い領域が覆われる。そのため、無機層16の形成面に、無機層16を隙間無く形成することが可能になる。
【0054】
無機層16の材料には、制限はなく、ガスバリア性能を発現する無機化合物からなる、公知のガスバリア層に用いられる無機化合物が、各種、利用可能である。
無機層16の材料としては、例えば、酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、酸化タンタル、酸化ジルコニウム、酸化チタン、酸化インジウムスズ(ITO)などの金属酸化物; 窒化アルミニウムなどの金属窒化物; 炭化アルミニウムなどの金属炭化物; 酸化ケイ素、酸化窒化ケイ素、酸炭化ケイ素、酸化窒化炭化ケイ素などのケイ素酸化物; 窒化ケイ素、窒化炭化ケイ素などのケイ素窒化物; 炭化ケイ素等のケイ素炭化物; これらの水素化物; これら2種以上の混合物; および、これらの水素含有物等、の無機化合物が挙げられる。また、これらの2種以上の混合物も、利用可能である。
中でも、窒化ケイ素、酸化ケイ素、酸窒化ケイ素、酸化アルミニウム、および、これらの2種以上の混合物は、透明性が高く、かつ、優れたガスバリア性能を発現できる点で、好適に利用される。その中でも、ケイ素を含有する化合物は、好適に利用され、その中でも特に、優れたガスバリア性能を発現できる点で、窒化ケイ素は、好適に利用される。
【0055】
無機層16の厚さには、制限はなく、材料に応じて、目的とするガスバリア性能を発現できる厚さを、適宜、設定できる。
無機層16の厚さは、50nm以下が好ましく、5~50nmがより好ましく、10~30nmがさらに好ましい。
無機層16の厚さを2nm以上とすることにより、十分なガスバリア性能を安定して発現する無機層16が形成できる点で好ましい。また、無機層16は、一般的に脆く、厚過ぎると、割れ、ヒビ、および、剥がれ等を生じる可能性が有るが、無機層16の厚さを50nm以下とすることにより、割れが発生することを防止できる。
【0056】
なお、第1のガスバリア層12aの無機層16と第2のガスバリア層12bの無機層16とは、同じ材料で形成されていてもよいし、異なる材料で形成されていてもよい。また、厚みも同じであっても異なっていてもよい。
【0057】
無機層16は、材料に応じた公知の方法で形成できる。
例えば、CCP(Capacitively Coupled Plasma)-CVDおよびICP(Inductively Coupled Plasma)-CVD等のプラズマCVD、原子層堆積法(ALD(Atomic Layer Deposition))、マグネトロンスパッタリングおよび反応性スパッタリング等のスパッタリング、ならびに、真空蒸着などの各種の気相成膜法が好適に挙げられる。
中でも、上述したように、樹脂層14と無機層16との密着力を向上できる点で、CCP-CVDおよびICP-CVD等のプラズマCVDは、好適に利用される。
なお、無機層16も、RtoRで形成するのが好ましい。
【0058】
<接着層>
接着層30は、第2のガスバリア層12bを、トランジスタ素子18が形成された第1のガスバリア層12aに貼り合わせるためのものである。接着層30は、第1のガスバリア層12aと第2のガスバリア層12bとの間に、トランジスタ素子18を包埋するように形成される。
また、接着層30は、ガスバリア性能を発現する無機層16を保護する保護層としても作用する。
【0059】
本発明の有機薄膜トランジスタ10において、接着層30は、従来より転写型のガスバリアフィルムにおいて用いられているOCA(光学透明接着剤)でもよいし、ホットメルト接着剤(HMA(Hot Melting Adhesive))を用いる接着層であってもよい。具体的には、ホットメルト接着層は、常温では固体で、加熱することで流動して、接着性を発現する接着層である。なお、本発明において、常温とは23℃である。
接着層30として、ホットメルト接着剤を用いることにより、従来の転写型のガスバリアフィルムに比して、ガスバリア性能をより高くすることができる。
【0060】
ホットメルト接着剤を用いる場合は、接着層30は、30~200℃で流動して接着性を発現するのが好ましく、接着層30は、40~180℃で流動して接着性を発現するのがより好ましく、50~150℃で流動して接着性を発現するのがさらに好ましい。
接着層30が常温で流動して接着性を発現する場合には、ガスバリアフィルムの切断時および転写時に、上述した箔引きが生じやすく、ガスバリア性能の低下等を生じる。
また、流動して接着性を発現する温度が高すぎると、貼着対象への貼着時に必要な加熱温度が高くなってしまい、基板32、樹脂層14および貼着対象に熱ダメージを与えてしまう。
【0061】
ホットメルト接着剤を用いる場合は、接着層30のTgには制限は無いが、130℃以下であるのが好ましく、100℃以下であるのがより好ましく、60℃以下であるのがさらに好ましく、30℃以下であるのが特に好ましい。
接着層30のTgを130℃以下とすることにより、熱流動性が得やすいため、加熱による接着性および転写性を向上して上述した箔引きを防止できる、低温で接着でき生産性を向上できる等の点で好ましい。
接着層30のTgの下限にも制限はないが、-150℃以上であるのが好ましい。
【0062】
ホットメルト接着剤を用いる場合は、接着層30は、常温では固体で、加熱により流動して接着性を発現できれば、材料に制限はない。
ホットメルト接着剤を用いる場合は、接着層30は、非晶性樹脂を主成分とするのが好ましく、アクリル樹脂を主成分とするのがより好ましく、単一のアクリレートモノマーを重合してなる樹脂(アクリルホモポリマー(ホモアクリルポリマー))を主成分とするのがさらに好ましい。
接着層30の主成分を非晶性樹脂、特にアクリル樹脂とすることにより、透明性が高いガスバリアフィルムが得られる等の点で好ましい。
さらに、接着層30の主成分をアクリルホモポリマーとすることにより、上述した利点に加え、熱による転写性を良好にできる、箔引きを防止できる、硬化した後の巻き取り時にブロッキングしにくい等の点で好ましい。また、接着層30をアクリルホモポリマーで形成することにより、上述した利点に加え、接着層30を、比較的、低い温度で流動して接着性を発現する層にできる。従って、ガスバリアフィルムに高い耐熱性を要求されない場合には、アクリルホモポリマーからなる接着層30は、好適に利用される。
【0063】
ホットメルト接着剤を用いる場合は、常温では固体で、加熱により流動して接着性を発現する接着層30を形成できれば、公知の各種の樹脂が利用可能であり、また、市販品も利用可能である。
具体的には、大成ファインケミカル株式会社製の0415BA(アクリルホモポリマー)および#7000シリーズ等が例示される。
【0064】
接着層30には、必要に応じて、スチレンアクリル共重合体(スチレン変性アクリル樹脂)、ウレタンアクリル共重合体(ウレタン変性アクリル樹脂)、および、ガラス転移点調節用のアクリル樹脂からなる群より選択される1以上を含んでもよい。
接着層30に、これらの成分を添加することで、接着層30のTgを向上できる。従って、用途等に応じて、有機薄膜トランジスタに耐熱性が要求される場合には、これらの成分を添加した接着層30は、好適に例示される。
また、接着層30にスチレンアクリル共重合体と添加することで、接着層30の硬さを調節できるので、貼着対象との硬さのバランスを調節できる。接着層30にウレタンアクリル共重合体を添加することにより、無機層16との密着性を向上できる。
【0065】
なお、これらの成分の添加量には、制限はなく、添加する成分および目的とするTgに応じて、適宜、すればよい。しかしながら、これらの成分の添加量は、接着層30の主成分が、上述した非晶性樹脂およびアクリル樹脂等となる量とするのが好ましい。
【0066】
スチレンアクリル共重合体、ウレタンアクリル共重合体、および、ガラス転移点調節用のアクリル樹脂には、制限はなく、樹脂等のTg調節に使用される、各種の樹脂が利用可能である。また、これらの成分は、市販品も利用可能である。
一例として、スチレンアクリル共重合体としては、大成ファインケミカル株式会社製の#7000シリーズ等が例示される。
ウレタンアクリル共重合体としては、アクリット8UA347Hなどの大成ファインケミカル株式会社製のアクリット(登録商標)8UAシリーズ等が例示される。
ガラス転移点調節用のアクリル樹脂としては、PMMA(例えば、三菱ケミカル株式会社製のダイヤナール(登録商標)など)等が例示される。
【0067】
<ゲート電極>
ゲート電極20は、有機薄膜トランジスタのゲート電極として用いられている従来公知の電極を用いることができる。
ゲート電極20の材料および形成方法は、特開2015-170760号公報の段落[0049]~[0051]に記載の材料および形成方法が例示される。
【0068】
ゲート電極20の厚みは、任意であるが、1nm以上が好ましく、10nm以上が特に好ましい。また、500nm以下が好ましく、200nm以下が特に好ましい。
【0069】
<ソース電極、ドレイン電極>
ソース電極26は、有機薄膜トランジスタにおいて、配線を通じて外部から電流が流入する電極である。また、ドレイン電極28は、配線を通じて外部に電流を送り出す電極であり、通常、有機半導体層24に接して設けられる。
ソース電極26およびドレイン電極28の材料および形成方法は、上記ゲート電極と同様の材料および形成方法が例示される。また、特開2015-170760号公報の段落[0163]~[0164]に記載の形成方法も例示される。
【0070】
ソース電極26及びドレイン電極28の厚みは、任意であるが、それぞれ、1nm以上が好ましく、10nm以上が特に好ましい。また、500nm以下が好ましく、300nm以下が特に好ましい。
【0071】
<絶縁膜>
絶縁膜22は、絶縁性を有する層であれば特に限定されず、単層であってもよいし、多層であってもよい。
絶縁膜22の材料および形成方法としては、特開2015-170760号公報の段落[0053]~[0062]に記載の材料および形成方法が例示される。
【0072】
絶縁膜22の厚みは、任意であるが、0.2μm以上が好ましく、0.5μm以上が特に好ましい。また、5μm以下が好ましく、2μm以下が特に好ましい。
【0073】
<有機半導体層>
有機半導体層24は、半導体性を示し、キャリアを蓄積可能な層である。有機半導体層24は、有機半導体を含有する層であればよい。
有機半導体層24の材料および形成方法としては、特開2015-170760号公報の段落[0063]~[0160]に記載の材料および形成方法が例示される。また、有機半導体層24の材料として、特開2015-195361に記載の有機半導体、特開2018-006745号に記載の有機半導体も例示される。
【0074】
有機半導体層24の厚みは、任意であるが、0.001μm以上が好ましく、0.01μm以上が特に好ましい。また、1μm以下が好ましく、0.5μm以下が特に好ましい。
【0075】
[有機薄膜トランジスタの製造方法]
本発明の有機薄膜トランジスタの製造方法は、
基板と、基板から剥離可能な樹脂層および樹脂層上に形成された無機層を有する第1のガスバリア層とを有する転写型ガスバリアフィルムのガスバリア層の上に、ゲート電極、絶縁膜、有機半導体層、ソース電極、および、ドレイン電極を有するトランジスタ素子を形成するトランジスタ形成工程と、
トランジスタ素子の上に接着層を介して、基板と基板から剥離可能な樹脂層および樹脂層上に形成された無機層を有する第2のガスバリア層とを有する転写型ガスバリアフィルムを、無機層側をトランジスタ素子に向けて貼り合わせる貼合工程と、
2つの転写型ガスバリアフィルムそれぞれから基板を剥離する剥離工程と、を有し、
貼合工程において、第1のガスバリア層の樹脂層の厚みT1が、第1のガスバリア層の無機層から第2のガスバリア層の無機層までの厚みT0よりも薄くなるように転写型ガスバリアフィルムを貼り合わせる有機薄膜トランジスタの製造方法である。
【0076】
以下、
図5~
図8の概念図を参照して、本発明の有機薄膜トランジスタの製造方法の一例を説明する。
【0077】
まず、
図5に示すような基板32と、第1の樹脂層14aおよび無機層16を有する第1のガスバリア層12aとを有する転写型ガスバリアフィルム40aを準備する。この転写型ガスバリアフィルム40aは、第1のガスバリア層12aから基板32を剥離可能なものである。
このような転写型ガスバリアフィルム40aは、基板32の上に前述の方法で第1の樹脂層14aを形成し、さらに、第1の樹脂層14aの上に、前述の方法で無機層16を形成することで作製することができる。
【0078】
次に、
図6に示すように、トランジスタ形成工程において、上記転写型ガスバリアフィルム40aの無機層16上にトランジスタ素子18を形成する。
前述のとおり、トランジスタ素子18は、ゲート電極20と、絶縁膜22と、有機半導体層24と、ソース電極26およびドレイン電極28と、を有する。上述のとおり、トランジスタ素子18の各構成要素は従来公知の方法で形成することができる。
【0079】
次に、
図7に示すように、貼合工程において、トランジスタ素子18が形成された転写型ガスバリアフィルム40aの上に、接着層30を介して、基板32と第2のガスバリア層12bとを有する転写型ガスバリアフィルム40bを貼り合わせる。貼り合わせの際には、第2のガスバリア層12bの無機層16側をトランジスタ素子18に向けて貼り合わせる。転写型ガスバリアフィルム40bは、転写型ガスバリアフィルム40aと同様の構成を有する。
【0080】
接着層30は、あらかじめ、転写型ガスバリアフィルム40bの無機層16側の表面に積層されていてもよいし、トランジスタ素子18が形成された転写型ガスバリアフィルム40aの上に、接着層30となる接着剤を塗布した後に、接着剤の上に転写型ガスバリアフィルム40bを貼り合わせた後、接着剤を硬化させてもよい。
【0081】
接着層30を、転写型ガスバリアフィルム40bの無機層16側の表面にあらかじめ積層している場合には、接着層30側をトランジスタ素子18に向けて転写型ガスバリアフィルム40bを当接し、基板32側から加熱することで、接着層30を流動させて接着性を発現させた後、再度硬化させることで、転写型ガスバリアフィルム40bを貼り合わせることができる。
【0082】
次に、
図8に示すように、剥離工程において、転写型ガスバリアフィルム40aおよび転写型ガスバリアフィルム40bの基板32をそれぞれ剥離する。
【0083】
ここで、本発明の有機薄膜トランジスタの製造方法においては、貼合工程において、第1のガスバリア層12aの第1の樹脂層14aの厚みT1が、第1のガスバリア層12aの無機層16から第2のガスバリア層12bの無機層16までの厚み(接着層30の厚み)T0よりも薄くなるように転写型ガスバリアフィルム40bを貼り合わせる。言い換えると、転写型ガスバリアフィルム40aの作製の際に、第1の樹脂層14aの厚みT1を接着層30の厚みT0よりも薄くなるように形成しておく。
これによって、第1のガスバリア層の樹脂層の厚みT1が、第1のガスバリア層の無機層から第2のガスバリア層の無機層までの厚みT0よりも薄い、本発明の有機薄膜トランジスタが作製される。
【0084】
なお、上記有機薄膜トランジスタの製造方法は、各工程をRtoRによって行ってもよいし、カットされた転写型ガスバリアフィルムを用いて、バッチ式で行ってもよい。また、転写型ガスバリアフィルム40aおよび転写型ガスバリアフィルム40bの作製、および、上記有機薄膜トランジスタの製造方法の各工程のすべてを一連のRtoRによって行ってもよい。
【0085】
上記例では、トランジスタ素子18の上側および下側の両面をガスバリア層12で封止する構成の有機薄膜トランジスタの製造方法について説明したがこれに限定はされない。
例えば、トランジスタ素子18が形成される面がガスバリア層12で、トランジスタ素子18の上側を接着層30を介して従来公知の封止層で封止する構成の場合には、上記貼合工程において、転写型ガスバリアフィルムに代えて、従来公知の封止層を用いればよい。
また、トランジスタ素子18が形成される面が従来公知の封止層(支持体)で、トランジスタ素子18の上側を接着層30を介してガスバリア層12で封止する構成の場合には、トランジスタ形成工程において、転写型ガスバリアフィルムに代えて、従来公知の封止層を用いればよい。
【0086】
以上、本発明の有機薄膜トランジスタ、および、有機薄膜トランジスタの製造方法について詳細に説明したが、本発明は上記の態様に限定はされず、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、種々、改良や変更を行ってもよい。
【実施例】
【0087】
以下に実施例を挙げて本発明を具体的に説明する。本発明は、以下に示す具体例に限定されない。
【0088】
[実施例1]
<転写型ガスバリアフィルムの作製>
基板32としてTAC(トリアセチルセルロース)フィルム(富士フイルム株式会社製 厚み80μm、幅1000mm、長さ100m)を用い、基板32の上に以下の手順でガスバリア層12を形成した。
【0089】
(樹脂層の形成)
ポリアリレート(ユニチカ株式会社製ユニファイナ―(登録商標)M-2000H)とシクロヘキサノンを用意し、重量比率として5:95となるように秤量し、常温で溶解させ、固形分濃度5%の塗布液とした。使用したポリアリレートのTgは275℃(カタログ値)である。
この塗布液を、ダイコーターを用いてRtoRにより上記基板に塗布し、130℃の乾燥ゾーンを3分間通過させた。最初の膜面タッチロールに触れる前に、PE(ポリエチレン)の保護フィルムを貼合し、後に巻き取った。基板32上に形成された樹脂層14の厚さは、2μmであった。
【0090】
(無機層の形成)
ドラムに基板を巻きかけて成膜を行う、RtoRの一般的なCVD装置を用いて、樹脂層14の表面に無機層16として窒化珪素層を形成した。
CVD装置は、CCP-CVDによる成膜装置、基板を巻き掛けて搬送する対向電極となるドラム、樹脂層に積層された保護フィルムを剥離するガイドローラ、剥離した保護フィルムを巻き取る回収ロール、長尺な保護フィルムを巻回したロールの装填部、および、成膜済の無機層の表面に保護フィルムを積層するガイドローラ等を有する。なお、CVD装置は2つ以上の成膜ユニット(成膜装置)を有するものを用いた。
【0091】
装填部に装填されたロールから樹脂層14が形成された基板32を送り出し、成膜前の最後の膜面タッチロールを通過後に保護フィルムを剥離し、暴露された樹脂層14の上に無機層16を形成した。無機層16の形成には、2つの電極(成膜ユニット)を使用し、原料ガスは、シランガス、アンモニアガスおよび水素ガスを用いた。原料ガスの供給量は、第1成膜ユニットは、シランガス150sccm、アンモニアガス300sccmおよび水素ガス500sccmとし、第2成膜ユニットは、シランガス150sccm、アンモニアガス350sccmおよび水素ガス500sccmとした。第1成膜ユニットおよび第2成膜ユニットにおいて、プラズマ励起電力は2.5kW、プラズマ励起電力の周波数は13.56MHzとした。ドラムには、周波数0.4MHz、0.5kWのバイアス電力を供給した。また、ドラムは、冷却手段によって30℃に温度制御した。成膜圧力は50Paとした。成膜直後の無機層16の膜面にPEの保護フィルムを貼合し、後に巻き取った。無機層16の膜厚は20nmであった。
【0092】
以上により、ロール状に巻き取られた長尺な転写型ガスバリアフィルムを作製した。この長尺な転写型ガスバリアフィルムから、転写型ガスバリアフィルム40aおよび40bを100×100mmの大きさで切り出した。
【0093】
<トランジスタ素子の作製>
転写型ガスバリアフィルム40aの無機層16上に以下のようにしてトランジスタ素子18を作製した。
【0094】
(ゲート電極の形成)
転写型ガスバリアフィルム40aからPEの保護フィルムを剥離して、暴露された無機層16の上に金を真空蒸着し、ゲート電極20を形成した。ゲート電極20は幅10mm、厚さ50nmとした。
【0095】
(絶縁膜の形成)
AGC株式会社製Cytop(登録商標) CTL-809M(固形分濃度9wt%)をゲート電極20を覆うようにスピンコートし、150℃にて乾燥して溶媒を除去し、絶縁膜22(厚さ200nm)を形成した。
【0096】
(有機半導体層の形成)
下記に示す有機半導体bを0.5wt%濃度で溶解したトルエン溶液を調製した。この溶液を絶縁膜22の上にスピンコート(500回転で20秒及び1000回転で20秒)し、乾燥後の層厚が150nmとなるように有機半導体層24を形成した。
【0097】
【0098】
(ソース電極およびドレイン電極の形成)
有機半導体層24の上に金を真空蒸着し、ソース電極26およびドレイン電極28を形成した。ソース電極26およびドレイン電極28はそれぞれ、チャネル長30μm、厚さ50nmとし、チャネル幅は10mmとした。
以上によりトランジスタ素子18を作製した。
【0099】
<第2のガスバリア層の転写>
接着層30として、5μmのOCA(パナック社製)を用意し、トランジスタ素子18を形成した転写型ガスバリアフィルム40aの上に貼り合わせた。もう一つの転写型ガスバリアフィルム40bの保護フィルムを剥離した後、暴露した無機層16側を接着層30に向けて貼り合わせた。
その後、転写型ガスバリアフィルム40aおよび40bそれぞれの基板32を剥離した。
【0100】
以上により、2つのガスバリア層12の間にトランジスタ素子18を封止した有機薄膜トランジスタを作製した。
なお、第1の樹脂層14aの厚みT1および第2の樹脂層14bの厚みT2は、2μmであり、接着層30の厚みT0は5μmであった。また、第1の樹脂層14aの厚みT1と接着層30の厚みT0の比率T1/T0、および、第2の樹脂層14bの厚みT2と接着層30の厚みT0の比率T2/T0は、0.4であった。
【0101】
[実施例2]
第1の樹脂層14aの厚みT1および第2の樹脂層の厚みT2を0.1μmに変更した以外は実施例1と同様にして有機薄膜トランジスタを作製した。
第1の樹脂層14aの厚みT1と接着層30の厚みT0の比率T1/T0、および、第2の樹脂層14bの厚みT2と接着層30の厚みT0の比率T2/T0は、0.02であった。
【0102】
[実施例3]
接着層として、3μmのOCA(パナック社製)を用いた以外は実施例1と同様にして有機薄膜トランジスタを作製した。
第1の樹脂層14aの厚みT1と接着層30の厚みT0の比率T1/T0、および、第2の樹脂層14bの厚みT2と接着層30の厚みT0の比率T2/T0は、0.6であった。
【0103】
[実施例4]
第2の樹脂層の厚みT2を5μmに変更した以外は実施例3と同様にして有機薄膜トランジスタを作製した。
すなわち、第2の樹脂層の厚みT2が接着層30の厚みT0よりも厚い構成とした。
第1の樹脂層14aの厚みT1と接着層30の厚みT0の比率T1/T0、は、0.6であり、第2の樹脂層14bの厚みT2と接着層30の厚みT0の比率T2/T0は、1.7であった。
【0104】
[実施例5]
第2の樹脂層の厚みT2を4μmに変更した以外は実施例2と同様にして有機薄膜トランジスタを作製した。
すなわち、第2の樹脂層の厚みT2が接着層30の厚みT0よりも厚い構成とした。
第1の樹脂層14aの厚みT1と接着層30の厚みT0の比率T1/T0、は、0.02であり、第2の樹脂層14bの厚みT2と接着層30の厚みT0の比率T2/T0は、0.8であった。
【0105】
[実施例6]
第2のガスバリア層に代えて、下記ガスバリアフィルムを用いた以外は実施例1と同様にして有機薄膜トランジスタを作製した。
【0106】
厚み4μmのPENフィルム(帝人株式会社製テオネックス(登録商標))に、実施例1と同様の方法でCVDで無機膜(SiN膜)を形成し、ガスバリアフィルムを作製した。無機膜の厚みは20nmとした。
【0107】
[比較例1]
(樹脂層の形成)
第1の樹脂層14aの厚みT1および第2の樹脂層の厚みT2を10μmに変更した以外は実施例1と同様にして有機薄膜トランジスタを作製した。
第1の樹脂層14aの厚みT1と接着層30の厚みT0の比率T1/T0、および、第2の樹脂層14bの厚みT2と接着層30の厚みT0の比率T2/T0は、2であった。
【0108】
[評価]
<キャリア移動度>
上記で作製した各実施例および比較例の有機薄膜トランジスタについて、キャリア移動度を下記方法により評価した。
ソース電極-ドレイン電極間に-40Vの電圧を印加し、ゲート電圧を40V~-40Vの範囲で変化させ、ドレイン電流Idを表わす下記式を用いてキャリア移動度μを算出した。
Id=(w/2L)μCi(Vg-Vth)2
(式中、Lはゲート長、wはゲート幅、Ciは絶縁層の単位面積当たりの容量、Vgはゲート電圧、Vthは閾値電圧)
【0109】
<耐久性>
各実施例および比較例の有機薄膜トランジスタを、温度85℃、相対湿度85%RHの環境下に500時間、放置した後、先と同様に、キャリア移動度を測定した(耐久500hr)。
また、各実施例および比較例の有機薄膜トランジスタを、温度85℃、相対湿度85%RHの環境下に1000時間、放置した後にも、先と同様に、キャリア移動度を測定した(耐久1000hr)。
【0110】
<屈曲性>
各実施例および比較例の有機薄膜トランジスタを、φ8mmで10万回外曲げした後に、先と同様に、キャリア移動度を測定した。
結果を、下記の表に示す。
【0111】
【0112】
表1から本発明の有機薄膜トランジスタは、比較例に比べて、高温多湿の環境に放置しても、キャリア移動度の低下が小さく、大気安定性が高いことがわかる。また、屈曲試験後のキャリア移動度の低下が小さく、屈曲性が高いことがわかる。
【0113】
また、実施例1と実施例6との対比から、トランジスタ素子の両側を、樹脂層および無機層からなるガスバリア層で封止するのが好ましいことがわかる。
また、実施例3と実施例4との対比から、トランジスタ素子の両側のガスバリア層の樹脂層の厚み(T1、T2)が接着層の厚みT0よりも薄いことが好ましいことがわかる。
また、実施例1~5の対比から、樹脂層の厚みと接着層の厚みとの比率は0.01~0.9が好ましく、0.6以下がより好ましいことがわかる。
以上の結果より、本発明の効果は明らかである。
【符号の説明】
【0114】
10、10a~10d 有機薄膜トランジスタ
12a 第1のガスバリア層
12b 第2のガスバリア層
14、14a~14d 樹脂層
16 無機層
18 トランジスタ部
20 ゲート電極
22 絶縁膜
24 有機半導体膜
26 ソース電極
28 ドレイン電極
30 接着層
32 剥離基板
40a、40b 転写型ガスバリアフィルム