(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-13
(45)【発行日】2022-10-21
(54)【発明の名称】正極添加剤及びその製造方法、正極及びその製造方法、並びにリチウムイオン電池
(51)【国際特許分類】
H01M 4/62 20060101AFI20221014BHJP
H01M 4/139 20100101ALI20221014BHJP
H01M 4/505 20100101ALI20221014BHJP
H01M 4/525 20100101ALI20221014BHJP
H01M 4/13 20100101ALI20221014BHJP
【FI】
H01M4/62 Z
H01M4/139
H01M4/505
H01M4/525
H01M4/13
(21)【出願番号】P 2021542236
(86)(22)【出願日】2018-09-28
(86)【国際出願番号】 CN2018108383
(87)【国際公開番号】W WO2020062046
(87)【国際公開日】2020-04-02
【審査請求日】2021-03-31
(73)【特許権者】
【識別番号】521130170
【氏名又は名称】寧波致良新能源有限公司
【氏名又は名称原語表記】NINGBO ZHILIANG NEW ENERGY CO., LTD.
(74)【代理人】
【識別番号】110001999
【氏名又は名称】弁理士法人はなぶさ特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】盧 威
(72)【発明者】
【氏名】李 偉紅
(72)【発明者】
【氏名】陳 朝陽
(72)【発明者】
【氏名】陳 立▲ウェイ▼
(72)【発明者】
【氏名】韓 少傑
【審査官】増山 淳子
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第106129365(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第105977456(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第104425845(CN,A)
【文献】米国特許出願公開第2018/0026317(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/13-4/62
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極材料、正極添加剤、結着剤、導電剤、N-メチルピロリドンを混合して正極スラリーを得るステップと、前記正極スラリーにより正極を製造するステップと、を含み、
前記正極添加剤は、質量%で10%~40%の炭素被覆リン酸マンガン鉄リチウムと有機溶媒とを含み、前記炭素被覆リン酸マンガン鉄リチウムが前記有機溶媒に分散され、前記炭素被覆リン酸マンガン鉄リチウムの粒度中数が30nm~100nmであ
り、
前記正極材料と前記正極添加剤における前記炭素被覆リン酸マンガン鉄リチウムとの質量比は80:20~99:1である、正極の製造方法。
【請求項2】
前記炭素被覆リン酸マンガン鉄リチウムにおける炭素は、質量%で2%~15%であることを特徴とする請求項1に記載の
正極の製造方法。
【請求項3】
前記有機溶媒は、N-メチルピロリドン及びN,N-ジメチルホルムアミドから選ばれる少なくとも1種で
あることを特徴とする請求項1に記載の
正極の製造方法。
【請求項4】
前記正極添加剤は、質量%で2%以下の結着
剤をさらに含み、
前記結着剤は、フッ化ポリビニリデン又はスチレンブタジエンゴムで
あることを特徴とする請求項1に記載の
正極の製造方法。
【請求項5】
前記正極添加剤の固形分は、質量%で10%~45%であることを特徴とする請求項1に記載の
正極の製造方法。
【請求項6】
前記正極添加剤は、質量%で10%以下の導電剤をさらに含み、
前記導電剤は、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、グラフェン及びカーボンナノチューブから選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする請求項1に記載の正極の製造方法。
【請求項7】
前記正極添加剤は、さらに質量%で0.5%以下の無機材料を含み、
前記無機材料は、ナノ酸化アルミニウム、ナノ酸化チタン及びナノ酸化マグネシウムから選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする請求項1に記載の正極の製造方法。
【請求項8】
前記炭素被覆リン酸マンガン鉄リチウムの粒度中数は60nm~80nmであることを特徴とする請求項1に記載の正極の製造方法。
【請求項9】
前記正極材料、正極添加剤、結着剤、導電剤、N-メチルピロリドンを混合して正極スラリーを得るステップにおいて、さらに、連続攪拌で前記結着剤と前記N-メチルピロリドンとを混合した後、前記導電剤、前記正極添加剤及び前記正極材料を加入して前記正極スラリーを得るステップを含むことを特徴とする請求項1に記載の正極の製造方法。
【請求項10】
前記正極材料は、ニッケルコバルトマンガン三元材料、ニッケルコバルトアルミニウム三元材料、ニッケルマンガン酸リチウム、マンガン酸リチウム及びコバルト酸リチウムから選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする請求項1に記載の正極の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はリチウムイオン電池の分野に関し、特に正極添加剤及びその製造方法、正極及びその製造方法、並びにリチウムイオン電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、スマートフォン、タブレットコンピュータ、電子リストバンドなどの各種家電が急速な変化され、省エネ・環境保護の電気交通用具市場が急速に成長され、エネルギーパワー蓄積電池が市場に展開されることにより、これらの製品の電源とするリチウムイオン電池は市場に急速に発展してきた。リチウム電池の応用分野や市場で爆発的に発展することに伴い、リチウムイオン電池のエネルギー密度がより高く要求されてきた。このため、リチウムイオン電池の正極材料端に高電圧のコバルト酸リチウム(充電電圧>4.3V)、LiNi0.6Co0.2Mn0.2O2、LiNi0.8Co0.1Mn0.1O2およびリチウムニッケルコバルトアルミニウム酸化物などの高ニッケル三元材料を使用するようになり、これらの材料は商品化の生産で実現されている。また、高電圧のスピネル材料LiNi0.5Mn1.5O4、リチウム富化正極材料が開発されている。これらの正極材料等を用いることにより、リチウムイオン電池のエネルギー密度を効果的に高めることができる。
【0003】
従来のコバルト酸リチウム材料は、4.2Vまで充電すると1グラム当たり140mAh/gの容量を放出し、4.5Vまで充電すると1グラム当たり190mAh/gに達するとともに使用電圧が上昇した。現在、一部の携帯電話は、電池がコバルト酸リチウム電池が4.35Vに充電されている。なお、電気自動車の航続距離を向上させて電池内のコバルト元素の使用量を低減させるために、現在で電気自動車電池に用いられている三元材料は、NCM111(LiNi1/3Co1/3Mn1/3O2)からNCM523(LiNi0.5Co0.2Mn0.3O2)への移行が進んでおり、さらにNCM811(LiNi0.8Co0.1Mn0.1O2)及びNCA(リチウムニッケルコバルトアルミニウム酸化物)への移行が進んでいる。正極材料中のニッケル含有量が増加することにつれて、正極材料の1グラム当たりの容量が徐々に増加するので、電池のエネルギー密度の向上に寄与する。これと同時に、三元材料中のコバルト含有量を低減することにより、正極材料の原料コストも低減することができる。従って、現在のリチウムイオン電池正極材料は、高電圧化、1グラム当たりの高容量化へ発展し、コバルト酸リチウム材料の動作電圧を高めることと正極材料中のニッケル含有量を高めることなど、を例とする。
【0004】
しかし、コバルト酸リチウム電池の動作電圧が高くなると、正極材料と有機電解液との界面が不安定になる。高電圧状態の正極は反応性が非常に高いため、熱暴走が起こりやすく、燃焼や爆発が起こりやすくなる。三元材料は、ニッケルの含有量が増加することにつれて、正極材料の熱安定性が急激に低下し、安全上で大きな危害が生じる。電気自動車の電源電池パックに広く使用されていると、より深刻な結果をもたらす。このため、電池のエネルギーの高密度を追求しつつ、電池の安全性をいかに確保するかは、リチウムイオン電池産業の大きな課題となっている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記課題に基づいて、よりよいエネルギー密度とよりよい安全性とを両立できる正極添加剤を提供することが必要である。
【0006】
また、本願は、正極添加剤の製造方法、正極及びその製造方法、並びにリチウムイオン
電池をさらに提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本願の一つの実施形態は、正極添加剤であって、質量%で10%~40%の炭素被覆リン酸マンガン鉄リチウムと有機溶媒とを含み、前記炭素被覆リン酸マンガン鉄リチウムが有機溶媒に分散され、前記炭素被覆リン酸マンガン鉄リチウムの粒度中数が30nm~100nmである。
【0008】
本願の一つの実施形態は、正極添加剤の製造方法であって、炭素被覆リン酸マンガン鉄リチウムを有機溶媒に分散させて正極添加剤が得られるステップを含む。
【0009】
本願の一つの実施形態は、正極の製造方法であって、正極材料、上記正極添加剤または上記正極添加剤の製造方法で製造される正極添加剤、結着剤、導電剤、N-メチルピロリドンを混合して正極スラリーが得られ、前記正極材料と前記正極添加剤における前記炭素被覆リン酸マンガン鉄リチウムとの質量比は80:20~99:1であるステップと、前記正極スラリーにより正極を製造するステップと、を含む。
【0010】
本願の一つの実施形態は、上記正極の製造方法により製造される正極である。
【0011】
本願の一つの実施形態は、上記正極を備えるリチウムイオン電池である。
【0012】
本発明の1以上の実施例の詳細は、添付図面及び以下の説明に記載されている。本発明の他の特徴、目的および利点は、明細書、添付図面およびクレームから明らかになる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
本発明又は従来技術の実施例の技術案をより明確に説明するために、以下、実施例又は従来技術の説明に使用される図面を簡単に説明する。以下の説明の図面は、本発明の一部の実施例に過ぎず、当業者は、創造的な努力なくてもこれらで添付された図面から他の実施例の図面が得られることが自明である。
【
図1】
図1は実施例の正極の製造方法のフローチャートである。
【
図2a】
図2aは比較例6で製造した正極の正極材料の走査型電子顕微鏡像である。
【
図3a】
図3aは実施例20で製造した正極の正極材料の走査型電子顕微鏡像である。
【
図4a】
図4aは比較例7で製造した正極の正極材料の走査型電子顕微鏡像である。
【
図5a】
図5aは実施例26で製造した正極の正極材料の走査型電子顕微鏡像である。
【
図6a】
図6aは比較例8で製造した正極の正極材料の走査型電子顕微鏡像である。
【
図7a】
図7aは実施例27で製造した正極の正極材料の走査型電子顕微鏡像である。
【
図8】
図8は実施例20で製造した正極の正極材料のEDXエネルギースペクトル図である。
【
図9】
図9は実施例26で製造した正極の正極材料のEDXエネルギースペクトル図である。
【
図10】
図10は実施例27で製造した正極の正極材料のEDXエネルギースペクトル図である。
【
図11】
図11は実施例20及び比較例6の正極から組み立てたボタン型ハーフセルの電気試験グラフである。
【
図12】
図12は実施例26及び比較例7の正極から組み立てたボタン型ハーフセルの電気試験グラフである。
【
図13】
図13は実施例27及び比較例8の正極から組み立てたボタン型ハーフセルの電気試験グラフである。
【
図14】
図14は実施例20及び比較例6の正極から組み立てたボタン型ハーフセルのレート試験の比較図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明を理解するために、図面を参照しながら、本発明の実施例をより詳細に説明する。
【0015】
一実施例において、正極添加剤はリン酸マンガン鉄リチウム分散液であり、質量%で10~40質量%の炭素被覆リン酸マンガン鉄リチウム(LMFP)と有機溶媒とを含み、炭素被覆リン酸マンガン鉄リチウムが有機溶媒に分散されている。
【0016】
ここで、炭素被覆リン酸マンガン鉄リチウムの粒度中数(D50)は、30nm~100nmである。炭素被覆リン酸マンガン鉄リチウムの粒度中数が100nmより大きいと、正極材料を良好に被覆できなく、正極材料の容量に影響を与え、結果として正極材料の容量が低下する。炭素被覆リン酸マンガン鉄リチウムは市販で取得されてもよい。一般に、炭素被覆リン酸マンガン鉄リチウム中の炭素は、2%~15%である。
【0017】
ここで、有機溶媒は、本分野で一般的に用いられている有機溶媒であってもよい。具体的には、有機溶媒は、N-メチルピロリドン(NMP)及びN,N-ジメチルホルムアミド(DMF)から選ばれる少なくとも1種である。
【0018】
一実施例において、正極添加剤の製造工程は、炭素被覆リン酸マンガン鉄リチウムを有機溶媒に分散させて炭素被覆リン酸マンガン鉄リチウムの分散液が得られることにより、正極添加剤が得られるステップを含む。具体的には、炭素被覆リン酸マンガン鉄リチウムを有機溶媒中で研削することにより、炭素被覆リン酸マンガン鉄リチウムを有機溶媒に分散させて分散液を形成する。すなわち、研削によりその凝集した炭素被覆リン酸マンガン鉄リチウムを解重合分散させることで、正極添加剤の炭素被覆リン酸マンガン鉄リチウムが一次粒子になり、すなわち、粒度中数(D50)が30nm~100nmになる。
【0019】
さらに、炭素被覆リン酸マンガン鉄リチウムの粒度中数(D50)は60nm~80nmである。炭素被覆リン酸マンガン鉄リチウムの粒径が小さすぎると、コストが高くて正極材料の製造コストが高くなる。このような粒径範囲の炭素被覆リン酸マンガン鉄リチウムは、正極添加剤が適切なコストを有することを保証するだけでなく、正極材料を良好に被覆して正極材料の高容量化を図ることができる。
【0020】
さらに、正極添加剤は、質量%で2%以下の結着剤を含む。結着剤が多すぎると、正極材料の電気特性に影響を与える。ここで、結着剤は、本分野で一般的に用いられている結着剤であってもよい。具体的には、結合剤がフッ化ポリビニリデン(PVDF)またはスチレンブタジエンゴム(SBR)である。このとき、正極添加剤は、結着剤と有機溶媒とを完全に溶解するまでかき混ぜて混合した後、炭素被覆リン酸マンガン鉄リチウムを加入して正極添加剤が得られることによって製造される。
【0021】
さらに、正極添加剤は、質量%で0.5%以下の無機材料を含む。無機材料は、ナノ酸化アルミニウム、ナノ酸化チタンおよびナノ酸化マグネシウムから選択される少なくとも1種である。これらの無機材料は、不活性金属酸化物材料である。上記の含有量の無機材料は、正極材料と電解液との反応を効果的に阻止し、安全性及び信頼性をさらに向上させ
る。しかし、無機材料が多すぎると、正極材料の1グラムあたりの容量の性能に影響を及ぼす。このとき、正極添加剤を製造する際には、炭素被覆リン酸マンガン鉄リチウムを加入する工程で無機材料を加入する。
【0022】
さらに、無機材料と炭素被覆リン酸マンガン鉄リチウムとの質量比は1:20以下である。無機材料が多すぎると、正極材料の導電性が低下し、正極材料の容量が低下する。
【0023】
さらに、正極添加剤は、質量%で10%以下の導電剤を含む。導電剤が多すぎると、有効材料の含有量が減少し、容量が低下する。ここで、導電剤は、本分野において一般的に用いられている導電剤であってもよい。具体的には、導電剤は、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、グラフェン及びカーボンナノチューブから選ばれる少なくとも1種である。これらの材料は全部ナノカーボンであり、リチウムイオン電池用の通常の導電剤である。したがって、これらの材料は、正極添加剤の導電剤としても用いられる。このとき、正極添加剤を製造する際には、炭素被覆リン酸マンガン鉄リチウムを加入する工程で導電剤を加入する。
【0024】
さらに、正極添加剤の固形分は質量%で10%~45%である。この固形分を含む正極添加剤は、適度な粘性を有する。濃度が高すぎると、正極添加剤の流動性が悪くて使いにくい。濃度が低すぎると、後段で正極添加剤が過剰に使用されてその溶媒が無駄になる。また、正極添加剤の固形分は質量%で25%~30%である。
【0025】
上記正極添加剤は、少なくとも以下の利点を有する。
(1)上記の正極添加剤を正極材料に加入して正極材料と共に正極を製造することにより、正極の正極材料と電解液との直接の接触面積を減少させて正極材料と電解液との間の副反応を減少させるだけではなく、正極材料中の金属イオンで電解液への溶解を減少させることもできる。さらに、リチウムイオン電池にパンク、短絡、過充電、高温などの過酷な条件が発生した場合に、リチウムイオン電池の燃焼、爆発などの危険性を低減することができるので、リチウムイオン電池の安全性が向上するとともに、正極材料の1グラム当たりの容量およびレート性能が向上する。これにより、リチウムイオン電池のエネルギー密度を高めることができる。
(2)正極添加剤に結着剤を加入することにより、炭素被覆リン酸マンガン鉄リチウムを有機溶媒に良好に分散させ、有機溶媒に沈降が起こりにくく、正極のスラリー混合時の計量誤差を低減することができる。
(3)正極添加剤に導電剤を加入して炭素被覆リン酸マンガン鉄リチウムと導電剤とを均一に混合することにより、炭素被覆リン酸マンガン鉄リチウム材料自体の導電性が向上し、正極材料1グラム当たりの容量が増加する。
【0026】
図1に示すように、本実施例の正極の製造方法は、以下の工程を含む。
ステップS110:正極材料、正極添加剤、結着剤、導電剤、N-メチルピロリドンを混合して正極スラリーが得られる。
【0027】
一実施例において、ステップS110は、連続攪拌で結着剤とN-メチルピロリドンとを混合し、導電剤、正極添加剤及び正極材料を順に加入して正極スラリーを得て、正極スラリーをより均一に混合するステップを含む。
【0028】
なお、ステップS110は上記のステップに限定されない。例えば、他の実施例において、正極材料、正極添加剤、結着剤、導電剤、N-メチルピロリドンを直接にかき混ぜることで混合してもよい。
【0029】
ここで、正極材料は、本分野で一般的に用いられている正極材料であってもよい。具体
的には、正極材料は、ニッケルコバルトマンガン三元材料(NCM)、ニッケルコバルトアルミニウム三元材料(NCA)、マンガン酸リチウム(LiMn2O4)およびコバルト酸リチウム(LiCoO2)から選ばれる少なくとも1つである。
【0030】
ここで、ニッケルコバルトマンガン三元材料は、一般式でLiNi1-y-zCoyMnzO2であり、0<y<1、0<z<1、y+z<1である。
【0031】
ここで、リチウムニッケルコバルトアルミニウム酸化物三元材料(NCA)は、一般式でLiNi1-y-zCoyAlzO2であり、0<y<1、0<z<1、y+z<1、1-y-z≧0.8である。
【0032】
また、正極材料の粒度中数は3μm~20μmである。
【0033】
ここで、正極添加剤は、上記正極添加剤であるので、ここではさらに記載しない。正極添加剤の炭素被覆リン酸マンガン鉄リチウムに対する正極材料の質量比は80:20~99:1である。正極添加剤の炭素被覆リン酸マンガン鉄リチウムに対する正極材料の質量比が99:1より大きい場合には、十分な安全性が得られなく、その質量比が80:20未満である場合には、正極の製造コストが高すぎて正極の圧密化が低い。添加剤の使用量が60:40~80:20である場合には、安全性が向上するが、エネルギー密度が低下する。
【0034】
ここで、結着剤は、本分野で一般的に用いられる結着剤であってもよい。具体的には、結合剤がフッ化ポリビニリデンである。
【0035】
ここで、導電剤は、本分野で一般的に用いられる導電剤であってもよい。導電剤は、質量比で1:0.1~1:2のアセチレンブラックとカーボンナノチューブとからなる。正極添加剤の炭素被覆リン酸マンガン鉄リチウムに対する正極材料の質量比が99:1より大きい場合には、十分な安全性が得られなく、その質量比が80:20未満である場合には、正極の製造コストが高すぎて正極の圧密化が低い。添加剤の使用量が60:40~80:20である場合には、安全性も向上するが、エネルギー密度が低下する。
【0036】
ここで、N-メチルピロリドンは有機溶媒である。
【0037】
また、正極添加剤と正極材料の炭素被覆リン酸マンガン鉄リチウムとの合計量と、結着剤と、導電剤との質量比は、(94~98.49):(1.5~3):(0.01~3)である。
【0038】
ステップS120:正極スラリーを正極に製造する。
【0039】
具体的には、正極スラリーを正極に製造する工程は、正極を集電体に塗布して乾燥させて正極が得られるステップを含む。集電体は、アルミニウム箔、ニッケル発泡体等の本分野で一般に用いられている正極集電体であってもよい。
【0040】
上記の正極の製造方法は、少なくとも以下の利点を有する。
(1)上記正極の製造方法は、操作が簡単で工業化生産が容易である。
(2)上記の製造方法は、上記正極添加剤、正極材料、結着剤、導電剤およびN-メチルピロリドンを混合して正極スラリーを製造し、該正極スラリーを正極にすることにより、正極の正極材料と電解液との直接の接触面積が小さくなる。上記の正極の製造方法、正極材料と電解液との間の副反応を低減することにより、正極材料中の金属イオンで電解液への溶解を低減する。さらに、リチウムイオン電池にパンク、短絡、過充電、高温などの過
酷な条件が発生した場合に、リチウムイオン電池の燃焼、爆発などの危険性を低減することができるので、リチウムイオン電池の安全性が向上するとともに、正極材料の1グラム当たりの容量およびレート性能が向上する。これにより、リチウムイオン電池のエネルギー密度を高めることができる。
【0041】
一実施例において、正極は、上記正極の製造方法によって製造される。該正極は、1グラム当たりの容量およびレート性能が高く、リチウムイオン電池のエネルギー密度を高めるのに有利であるだけでなく、サイクル性能が良く、リチウムイオン電池のサイクル寿命および安全性を向上させるのに有利である。
【0042】
一実施例において、リチウムイオン電池は、上記正極を含む。該リチウムイオン電池は、エネルギー密度が高く、サイクル寿命が長く、安全性に優れている。
【実施例】
【0043】
以下、具体的な実施例の一部である(以下の実施例では、特に明記がない限り、不可避的不純物以外の不特定成分を含まない)。
【0044】
実施例1~10
実施例1~10の正極添加剤の製造方法は以下である。
表1に示すように、各原料は質量%で計量される。結着剤と有機溶媒とを機械的に撹拌しながら1時間で混合して予備混合溶液が得られる。その後、炭素被覆リン酸マンガン鉄リチウムと無機材料と導電剤とを予備混合溶液に加入して0.5時間で機械的に撹拌し、サンドミルで2時間でサンドすることで、予備混合溶液中にリン酸マンガン鉄リチウムと無機材料と導電剤とを分散させて正極添加剤が得られる。ここで、実施例1~10で用いた炭素被覆リン酸マンガン鉄リチウムの炭素の質量%を表2に示す。
【0045】
【0046】
ここで、表1の「--」は、材料が存在しないか、材料の含有量が0であることを示す。表1の無機材料の「材料」には、ナノ酸化アルミニウムが記載されています。ナノ酸化アルミニウム:ナノ酸化チタン=1:1、ナノ酸化チタン:ナノ酸化アルミニウム:ナノ酸化マグネシウム=1:3:6は質量比を表し、導電剤とする「材料」でカーボンナノチューブ:グラフェン=1:1は質量比を表し、「有機溶媒」でDMF:NMP=1:2は質量比を表す。
【0047】
【0048】
実施例11
本実施例の正極の製造方法は実施例7とほぼ同じであり、異なる点は、本実施例の工程(1)における正極添加剤の製造が異なる。本実施例の正極添加剤は、無機材料、結着剤及び導電剤を含まない。その製造方法は以下である。
表1によると、各原料は質量%で計量されている。有機溶媒と炭素被覆リン酸マンガン鉄リチウムとを機械的に0.5時間で撹拌して混合する。その後、サンドミルで2時間でサンドして正極添加剤を得た。ここで、本実施例で用いた炭素被覆リン酸マンガン鉄リチウム中の炭素の質量%は実施例7と同じである。
【0049】
実施例12
本実施例の正極の製造方法は実施例7とほぼ同じであり、異なる点は、本実施例の工程(1)における正極添加剤の製造が異なる。本実施例の正極添加剤は、導電剤と結着剤とを含まない。その製造方法は以下である。
表1によると、各原料は質量%で計量されている。炭素被覆リン酸マンガン鉄リチウムと無機材料を有機溶媒に加入して0.5時間で機械的に撹拌する。その後、サンドミルで2時間でサンドして正極添加剤を得た。ここで、本実施例で用いた炭素被覆リン酸マンガン鉄リチウム中の炭素の質量%は実施例7と同じである。
【0050】
実施例13
本実施例の正極の製造方法は実施例7とほぼ同じであり、異なる点は、本実施例の工程(1)における正極添加剤の製造が異なる。本実施例の正極添加剤は、無機材料と導電剤を含まない。その製造方法は以下である。
表1によると、各原料は質量%で計量されている。結着剤と有機溶媒を機械的に1時間でかき混ぜることで混合して予備混合溶液を得た。その後、予備混合溶液に炭素被覆リン酸マンガン鉄リチウムを加入し、0.5時間で機械的にかき混ぜる。その後、サンドミルで2時間でサンドして正極添加剤を得た。ここで、本実施例で用いた炭素被覆リン酸マンガン鉄リチウム中の炭素の質量%は実施例7と同じである。
【0051】
実施例14
本実施例の正極の製造方法は実施例7とほぼ同じであり、異なる点は、本実施例の工程(1)における正極添加剤の製造が異なる。本実施例の正極添加剤は、無機材料と結着剤を含まない。その製造方法は以下である。
表1によると、各原料は質量%で計量されている。導電剤と炭素被覆リン酸マンガン鉄リチウムを予備混合溶液に加入し、0.5時間で機械的にかき混ぜる。その後、サンドミルで2時間でサンドして正極添加剤を得た。ここで、本実施例で用いた炭素被覆リン酸マンガン鉄リチウム中の炭素の質量%は実施例7と同じである。
【0052】
実施例15
本実施例の正極の製造方法は実施例7とほぼ同じであり、異なる点は、本実施例の工程(1)における正極添加剤の製造が異なる。本実施例の正極添加剤は、導電剤を含まない。その製造方法は以下である。
表1によると、各原料は質量%で計量されている。結着剤と有機溶媒とを機械的に1時間でかき混ぜることで混合して予備混合溶液を得た。その後、無機材料と炭素被覆リン酸マンガン鉄リチウムとを予備混合溶液に加入し、0.5時間で機械的にかき混ぜる。その後、サンドミルで2時間でサンドして正極添加剤を得た。ここで、本実施例で用いた炭素被覆リン酸マンガン鉄リチウム中の炭素の質量%は実施例7と同じである。
【0053】
実施例16
本実施例の正極の製造方法は実施例7とほぼ同じであり、異なる点は、本実施例の工程(1)における正極添加剤の製造が異なる。本実施例の正極添加剤は、結着剤を含まない。その製造方法は以下である。
表1によると、各原料は質量%で計量されている。炭素被覆リン酸マンガン鉄リチウム、無機材料及び導電剤を有機溶媒に加入し、0.5時間で機械的に撹拌する。その後、サンドミルで2時間でサンドして正極添加剤を得た。ここで、本実施例で用いた炭素被覆リン酸マンガン鉄リチウム中の炭素の質量%は実施例7と同じである。
【0054】
実施例17と実施例18
実施例17と実施例18の正極の製造方法は実施例7とほぼ同じであり、各原料の質量%が異なる。ここで、実施例17と実施例18の正極の製造方法を表1に示すが、実施例17及び実施例18で用いた炭素被覆リン酸マンガン鉄リチウム中の炭素の質量%は実施例7と同じである。
【0055】
比較例1
比較例1の正極添加剤の製造方法は実施例1とほぼ同じであり、本実施例の工程(1)における正極添加剤の製造が異なる。本実施例の正極添加剤は、炭素被覆リン酸マンガン鉄リチウムを含まない。この時、正極添加剤は、無機材料が10.2質量%で、結着剤が1.5質量%で、導電剤が0.01質量%で、正極添加剤の固形分が11.71wt%である。ここで、本実施例で用いた炭素被覆リン酸マンガン鉄リチウム中の炭素の質量%は実施例1と同じである。
【0056】
実施例19~実施例34
実施例19~実施例34の正極の製造方法は以下である。
表3の具体的な材料と割合によると、結着剤とN-メチルピロリドンを30分間で撹拌混合する。その後、連続撹拌しながら導電剤を加入し、再び30分間で撹拌混合する。そして、実施例1~18で製造した正極添加剤を加入し、30分間で撹拌混合する。その後、正極材料を加入して12時間でかき混ぜることで混合して正極スラリーを得た。正極スラリーを集電体に塗布し、110℃で乾燥させて正極を得た。ここで、実施例19~28の正極材料の粒径は表3に示し、実施例29~36の正極材料の粒径は実施例25と同じである。
【0057】
表3中において、Aは正極材料の質量を示し、Bは正極添加剤の炭素被覆リン酸マンガン鉄リチウムの質量を示す。そして、正極材料と正極添加剤の炭素被覆リン酸マンガン鉄リチウムとの質量和をA+Bとし、正極材料と正極添加剤の炭素被覆リン酸マンガン鉄リチウムとの質量比をA:Bとする。Cは結着剤の質量を表し、Dは導電剤の質量を表し、(A+B):C:Dは正極添加剤と正極材料の炭素被覆リン酸マンガン鉄リチウムとの合計量、結着剤、導電剤で三者の比を表す。
【0058】
【0059】
ここで、NCM (523)はLiNi0.5Co0.3Mn0.2O2を表し、NCM (622)はLiNi0.6Co0.2Mn0.2O2を表し、 NCM (811)はLiNi0.8Co0.1Mn0.1O2を表す。
【0060】
【0061】
比較例2
比較例2の正極の製造方法は実施例19とほぼ同じであるが、異なる点は、比較例2の正極に比較例1の正極添加剤を用いた。
【0062】
比較例3
比較例3の正極の製造方法は以下である。
結着剤とN-メチルピロリドンとを30分間で撹拌混合する。その後、連続撹拌で導電剤を加入して30分間で撹拌混合する。そして、ナノ酸化アルミニウムを加入し、30分間で撹拌混合する。その後、NCM(523)正極材料を加入し、12時間で撹拌混合して正極スラリーを得た。正極スラリーを集電体に塗布し、110℃で乾燥させて正極を得た。ここで、正極材料、結着剤、導電剤、N-メチルピロリドンは実施例20と同じであり、添加割合も実施例20と同じである。比較例3の正極材料と酸化アルミニウムの質量比は93:7で、正極材料と酸化アルミニウムとの質量和:結着剤の質量:導電剤の質量=97:1.5:1.5である。
【0063】
比較例4
比較例4の正極の製造方法は以下である。
結着剤とN-メチルピロリドンとを30分間で撹拌混合する。その後、連続撹拌で導電剤を加入して30分間で撹拌混合する。そして、炭素被覆リン酸マンガン鉄リチウムを加入し、30分間で撹拌混合する。その後、正極材料を加入し、12時間で撹拌混合して正極スラリーを得た。正極スラリーを集電体に塗布し、110℃で乾燥させて正極を得た。ここで、正極材料、結着剤、導電剤、N-メチルピロリドンは実施例20と同じであり、添加割合も実施例20と同じである。比較例4の正極材料と炭素被覆リン酸マンガン鉄リチウムの質量比は93:7で、正極材料と酸化アルミニウムの質量和:結着剤の質量:導電剤の質量=97:1.5:1.5である。
【0064】
比較例5
比較例5の正極の製造方法は以下である。
炭素被覆リン酸マンガン鉄リチウムとNCM(523)を質量比の93:7で機械的に15分間で融解する。その後、導電剤と結着剤を加入し、機械的に15分間で融着して正極活性材料を得た。結合剤とN-メチルピロリドンを30分間で撹拌混合する。その後、連続攪拌で導電剤を加入して30分間でかき混ぜることで混合する。その後、正極活性材料を加入し、12時間でかき混ぜることで混合して正極スラリーを得た。正極スラリーを集電体に塗布し、110℃で乾燥させて正極を得た。ここで、比較例5の導電剤及び結着剤は実施例1の導電剤及び結着剤と同じである。導電剤と炭素被覆リン酸マンガン鉄リチウムの質量比は1:14.3で、結着剤と炭素被覆リン酸マンガン鉄リチウムの質量比は1:19で、結着剤、導電剤、N-メチルピロリドンは実施例20と同じであり、添加割合も実施例20と同じである。比較例5の正極活性材料の質量:結着剤の質量:導電剤の質量=97:1.5:1.5である。
【0065】
比較例6
比較例6の正極の製造方法は以下である。
結着剤とN-メチルピロリドンを30分間で撹拌混合する。その後、連続撹拌で導電剤を加入し、30分間で撹拌混合する。そして、NCM(523)正極材料を加入し、最後に12時間で撹拌混合して正極スラリーを得た。正極スラリーを集電体に塗布し、110℃で乾燥させて正極を得た。ここで、結着剤、導電剤及びN-メチルピロリドンは実施例20と同じであり、比較例6の正極材料の質量:結着剤の質量:導電剤の質量=97:1.5:1.5である。
【0066】
比較例7
比較例7の正極の製造方法は以下である。
結着剤とN-メチルピロリドンとを30分間で撹拌混合する。その後、連続撹拌で導電剤を加入し、30分間で撹拌混合する。そして、LiMn2O4正極材料を加入し、最後に12時間で撹拌混合して正極スラリーを得た。正極スラリーを集電体に塗布し、110℃で乾燥させて正極を得た。ここで、結着剤、導電剤及びN-メチルピロリドンは実施例26と同じであり、比較例7の正極材料の質量:結着剤の質量:導電剤の質量=97:1.5:1.5である。
【0067】
比較例8
比較例8の正極の製造方法は以下である。
結着剤とN-メチルピロリドンを30分間で撹拌混合する。その後、連続撹拌で導電剤を加入し、30分間で撹拌混合する。そして、LiCoO2正極材を加入し、最後に12時間で撹拌混合して正極スラリーを得た。正極スラリーを集電体に塗布し、110℃で乾燥させて正極を得た。ここで、結着剤、導電剤及びN-メチルピロリドンは実施例27と同じであり、比較例8の正極材料の質量:結着剤の質量:導電剤の質量=97:2:1である。
【0068】
試験:
1、走査型電子顕微鏡試験:
【0069】
図2aは比較例6で製造した正極の正極材料の走査型電子顕微鏡(SEM)像であり、
図2bは
図2aの10倍拡大図である。図から分かるように、正極材料の粒子表面は導電剤で被覆されており、導電剤の間に均一なネット層構造が形成されている。
【0070】
図3aは実施例20で製造した正極の正極材料の(SEM)走査型電子顕微鏡像であり、
図3bは
図3aの10倍拡大図である。図から分かるように、リン酸マンガン鉄リチウムと導電剤は均一なネット層構造を形成し、該ネット層構造は、均一かつ緻密で正極材料の粒子表面を被覆し、リン酸マンガン鉄リチウムの粒径は約60nmである。
【0071】
図4aは比較例7で製造した正極の正極材料の走査型電子顕微鏡像であり、
図4bは
図4aの10倍拡大図である。図から分かるように、正極材料の不規則の表面には導電剤で被覆され、導電剤の間に均一なネット層構造が形成されている。
【0072】
図5aは実施例26で製造した正極の正極材料の走査型電子顕微鏡像であり、
図5bは
図5aの10倍拡大図である。図から分かるように、リン酸マンガン鉄リチウムと導電剤は均一なネット層構造を形成しており、該ネット層構造は、均一かつ緻密でマンガン酸リチウム材料の不規則の粒子表面を被覆し、リン酸マンガン鉄リチウムの粒径は約60nmである。
【0073】
図6aは比較例8で製造した正極の正極材料の走査型電子顕微鏡像であり、
図6bは
図6aの10倍拡大図である。図から分かるように、正極材料の球状粒子表面は導電剤で被覆され、導電剤の間に均一なネット層構造が形成されている。
【0074】
図7aは実施例27で製造した正極の正極材料の走査型電子顕微鏡像であり、
図7bは
図7aの10倍拡大図である。図から分かるように、リン酸マンガン鉄リチウム粒子と導電剤は均一なネット層構造を形成し、該ネット層構造は、均一かつ緻密で正極材料の球状粒子表面を被覆し、リン酸マンガン鉄リチウムの粒径は約60nmである。
【0075】
ここで、実施例19、21~25及び実施例28~36の正極の正極材料は実施例20、26、27と同様の様子を有し、ここで説明を省略する。
【0076】
2、EDX試験:
【0077】
図8は実施例20で製造した正極の正極材料のEDXエネルギースペクトル図である。図から分かるように、正極材料は、Ni、Co、Mn、Fe、O、P、C等の元素を含む。これは、三元正極材料の表面がリン酸マンガン鉄リチウムの成分を含むことを示している。
【0078】
図9は実施例26で製造した正極の正極材料のEDXエネルギースペクトル図である。図から分かるように、正極材料は、Mn、Fe、O、P、C等の元素を含む。これは、マンガン酸リチウム正極材料の表面がリン酸マンガン鉄リチウムの成分を含むことを示している。
【0079】
図10は実施例27で製造した正極の正極材料のEDXエネルギースペクトル図である。図から分かるように、正極材料は、Co、Mn、Fe、O、P、C等の元素を含む。これは、コバルト酸リチウム正極材料の表面がリン酸マンガン鉄リチウムの成分を含むことを示している。
【0080】
ここで、実施例19、21~25および実施例28~36の正極の正極材料は実施例20、26、27と同様のEDXエネルギースペクトル図を有し、ここで説明を省略する。
【0081】
3、電気性能試験:
【0082】
実施例20、26、27および比較例6~8の正極は、ボタン型ハーフセルに組み立てられた。そのうち、全部のハーフセルは、リチウムシートを負極とする。実施例20と比較例6の正極から製造したハーフセルは、2.75V~4.3Vの範囲で0.2Cの電流で定電流定電圧で充放電し、実施例26と比較例7の正極から製造したハーフセルは、3.0V~4.3Vの範囲で0.2Cの電流で定電流定電圧で充放電した。実施例27と比較例8の正極から製造したハーフセルは、3.5V~4.35Vの範囲で0.2Cの電流で定電流定電圧で充放電した。
【0083】
図11は実施例20及び比較例6の正極から組み立てたボタン型ハーフセルの電気試験グラフである。実施例20と比較例6の正極から製造したハーフセルは0.2C電流で放電する1グラムあたりの容量がそれぞれに163.5mAh/gと162.8mAh/gである。これは、実施例1の正極添加剤が三元リチウムイオン電池の電気化学的性能に影響を与えないことを示している。同時に、図からわかるように、実施例20の正極から製造したハーフセルの電気曲線は、3.6V~3.4Vの電圧プラットホームで振幅の小さい曲がりを有する。これは、リン酸マンガン鉄リチウムのFe
2+/Fe
3+の放電プラットホームであると考えられ、実施例2の正極添加剤の添加量が少なく、曲がり振幅が小さいことから。
【0084】
図12は実施例26及び比較例7の正極から組み立てたボタン型ハーフセルの電気試験
グラフである。図からわかるように、実施例26及び比較例7の正極から製造したハーフセルは0.2Cの電流で放電容量がそれぞれに109.0mAh/g及び108.9mAh/gである。これは、実施例8の正極添加剤がマンガン酸リチウムイオン電池の電気化学的性能に影響を与えないことを示している。同時に、図からわかるように、実施例26の電気曲線は、3.6V~3.4Vの電圧プラットホームで振幅の小さい曲がりを有する。これは、リン酸マンガン鉄リチウムのFe
2+/Fe
3+の放電プラットホームであると考えられ、正極添加剤の添加量が少なく、曲がり振幅が小さいことから。
【0085】
図13は実施例27及び比較例8の正極から組み立てたボタン型ハーフセルの電気試験グラフである。図から分かるように、実施例27及び比較例8の正極から製造したハーフセルは0.2Cの電流で放電容量がそれぞれに160.0mAh/g及び158.7mAh/gである。これは、実施例9の正極添加剤がコバルト酸リチウムリチウムイオン電池の電気化学的性能に影響を与えないことを示している。同時に、図からわかるように、実施例27の電気曲線は、3.6V~3.4Vの電圧プラットホームで振幅の小さい曲がりを有する。これは、リン酸マンガン鉄リチウムのFe
2+/Fe
3+の放電プラットホームであると考えられ、正極添加剤の添加量が少なく、曲がり振幅が小さいことから。
【0086】
図14は実施例20と比較例6の正極から組み立てたボタン型ハーフセルのレート試験の比較図である。2種類のボタン電池をそれぞれに0.2C、0.5C、1C、2Cのレートにおける電流で3サイクルの充放電試験を行い、これらのデータを比較図に示す。図からわかるように、実施例20のレート性能と比較例6のレート性能とは類似している。これは、実施例2の正極添加剤が三元リチウムイオン電池のレート性能に影響を与えないことを示している。
【0087】
実施例19、21~25、実施例28~36および比較例2~5の正極も上記の方法でボタン型ハーフセルに組み立てた。実施例19、21~25、実施例29~36および比較例2~5の正極から製造したハーフセルは、2.75V~4.3Vの範囲で0.2C、1Cおよび2Cの電流で定電流定電圧で充放電し、実施例28の正極から製造したハーフセルは、3.0V~4.3Vの範囲で0.2C、1C、2Cの電流で定電流定電圧で充放電した。ここで、実施例19~36及び比較例2~比較例8の正極から製造したハーフセルは0.2C、1C、2Cの電流で放電容量が表5に示す。
【0088】
【0089】
表5から分かるように、実施例19~36の正極から組み立てられたボタン型ハーフセルは、0.2C、1C、2Cの電流で放電容量がそれぞれに少なくとも110.3mAh/g、100.5mAh/g、89.2mAh/gであるので、よりよい放電容量を有する。
【0090】
ここで、実施例25の正極から組み立てられたボタン型ハーフセルは、0.2C、1C、2Cの電流で放電容量がそれぞれに少なくとも198mAh/g、186.4mAh/g、175.4mAh/gであるので、実施例26~36の正極から組み立てられたボタン型ハーフセルよりよい放電容量を有する。
【0091】
ここで、実施例20と比較例3の正極から組み立てたボタン型ハーフセルは、添加剤の種類が異なる以外が同じ条件である。ただし、実施例20で組み立てたボタン型ハーフセルは、0.2C、1C、2Cの電流で放電容量がそれぞれに少なくとも163.9mAh/g、153.0mAh/g、136.8mAh/gである。比較例3から組み立てられたボタン型ハーフセルは、0.2C、1C、2Cの電流で放電容量が少なくとも140.7mAh/g、128.2mAh/g、115.3mAh/gであるので、実施例20に比べてはるかに劣っている。その原因は、実施例20で容量のリン酸マンガン鉄リチウムを添加剤としたことに対して、比較例3で非容量の酸化アルミニウムを添加剤とする。これは、正極材料を被覆するための正極添加剤として無機材料だけで使用することにより、人為的なパッシベーション層を形成することができ、電解液と正極材料との直接接触を低減し、金属イオンの溶出を抑制し、極端な場合に正極材料と電解液との不可逆反応を緩和することができ、未変性の正極材料よりもよいサイクル及び安全安定性を有する正極材料とすることができるからである。しかし、無機材料自体が不活性であり、1グラム当たりの容量がないため、正極材料の1グラム当たりの総容量の進展が低減され、リチウムイオン電池のエネルギー密度が低下する。同時に、正極材料の表面を無機材料で被覆した後に電解液と正極材料との直接接触が減少し、正極材料のレート性能も低下する。正極添加剤としてリン酸マンガン鉄リチウムを用いると、電池の安全性の問題を解決できるだけでなく、正極活性材料として1グラム当たりの容量を発揮するので、正極材料のエネルギー密度やレート性能が大きく低下しない。すなわち、リン酸マンガン鉄リチウムを含む正極添加剤またはリン酸マンガン鉄リチウム粉末を用いると、正極材料の1グラムあたりの容量が高く、レート性能が良いである。無機材料だけで含む正極添加剤または無機材料粉末を用いると、正極材料の1グラムあたりの容量が低く、レート性能が劣る。
【0092】
また、表5からわかるように、実施例20と比較例4のリン酸マンガン鉄リチウムの導入方法(前者は添加剤とし、後者は粉末とする)異なり、他の条件は同じである。ただし、実施例20の正極から組み立てたボタン型ハーフセルは、0.2C、1C、2Cの電流で放電容量がそれぞれに少なくとも163.9mAh/g、153.0mAh/g、136.8mAh/gである。比較例4から組み立てたボタン型ハーフセルは0.2C、1C、2Cの電流で放電容量がそれぞれに160mAh/g、146.8mAh/g、132.9mAh/gである。比較例4の正極から組み立てたボタン型ハーフセルの電気化学的性能は実施例20よりも著しく劣っている。比較例4の正極は、1グラムあたりの容量が低く、レート性能が低く、実施例20の正極は、1グラムあたりの容量が高く、レート性能が良いである。これは、正極添加剤のリン酸マンガン鉄リチウムの一次粒子が正極材料の表面に均一に被覆され、リン酸マンガン鉄リチウム粉末が正極材料に混合されているだけである。前者の構造でリン酸マンガン鉄リチウム粒子の導電性の向上に寄与し、リン酸マンガン鉄リチウムの容量の発揮を向上させる。溶融プレコート法により製造されるNCM(523)-リン酸マンガン鉄リチウムの正極活性材料と、リン酸マンガン鉄リチウムの正極添加剤とする正極材料とは、1グラム当たりの容量の発揮およびレート性能がほぼ同じである。
【0093】
4、安全性能試験:
【0094】
実施例20、26、27及び比較例6~8で製造した正極シートをソフトパック電池とし、このソフトパック電池をニードルパンチし、過充電試験及び電気性能試験を行う。ここで、実施例20、26、27及び比較例6~8から得られたソフトパック電池のニードルパンチの結果、過充電試験の結果及び電流が1C以下で1グラム当たりの容量が表6に示す。
【0095】
ニードルパンチ試験:直径6mmで平滑なステンレス針を用いて、2.2cm/sの速度でフル充電したソフトパック電池をスパイクして1時間で観察した。爆発や着火はない。
【0096】
過充電試験:フル充電したソフトパック電池を1Cの電流で規定条件の充電終止電圧の1.5倍まで充電して1時間で観察した。爆発や着火はない。
【0097】
【0098】
表5から分かるように、実施例20、26、27の正極スラリーから製造したソフトパック電池はいずれも安全試験に合格した。比較例6~8の正極スラリーから製造したソフトパック電池はいずれも安全試験に合格しなかった。実施例20、26、27の正極スラリーから製造したソフトパック電池は、比較例8~10の正極スラリーから製造したソフトパック電池と近い1グラムあたりの容量を有する。これは、実施例2、実施例8、実施例9の正極添加剤がソフトパック電池の1グラムあたりの容量にほとんど影響を与えないことを示している。
【0099】
ここで、実施例19、20~25、28~36の正極の正極材料は実施例20、26、27と同様の安全性能を有するので、ここで説明を省略する。
【0100】
上記各実施例の技術的特徴は、任意に組み合わせることができる。説明を簡単にするために、上記の例における各技術的特徴のすべての可能な組み合わせが記載されているわけではない。ただし、これらの技術的特徴のすべての組み合わせは、互いに矛盾しない限り、本発明の範囲内であるとみなすべきである。
【0101】
上記の例は、本発明のいくつかの実施例を具体的かつ詳細に説明したに過ぎず、本発明の範囲を限定することは理解できない。なお、当業者であれば、本発明の主旨を逸脱しない前提でなされるいくつかの変形及び改良は本発明の保護範囲内である。従って、本発明の保護範囲は、請求項によって定義される。