(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-14
(45)【発行日】2022-10-24
(54)【発明の名称】インダクタンス解析方法、インダクタンス解析プログラム、およびインダクタンス解析システム
(51)【国際特許分類】
G06F 30/23 20200101AFI20221017BHJP
G01R 33/02 20060101ALI20221017BHJP
【FI】
G06F30/23
G01R33/02 Z
(21)【出願番号】P 2019012617
(22)【出願日】2019-01-28
【審査請求日】2021-10-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000005108
【氏名又は名称】株式会社日立製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110002365
【氏名又は名称】特許業務法人サンネクスト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】宮田 健治
(72)【発明者】
【氏名】高橋 暁史
【審査官】堀井 啓明
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-176061(JP,A)
【文献】国際公開第2015/097735(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06F 30/00-30/398
G01R 33/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
インダクタンス解析システムが実行するインダクタンス解析方法であって、
非線形磁性体とコイルとを含んで構成された電気機器の非線形磁性体領域に含まれる各要素の或る時間ステップにおける透磁率分布を、非線形過渡磁界解析により算出し、
前記或る時間ステップから次の時間ステップへ、時間ステップを更新する前に、前記或る時間ステップにおける透磁率分布を用いて線形磁界解析を実行し、該線形磁界解析による解析結果に基づいて、前記或る時間ステップにおける前記コイルに関するインダクタンス行列成分を算出する
各処理を含んだことを特徴とするインダクタンス解析方法。
【請求項2】
前記インダクタンス解析システムが、
前記インダクタンス行列成分を算出するごとに、該インダクタンス行列成分を表示装置に表示する
処理を含んだことを特徴とする請求項1に記載のインダクタンス解析方法。
【請求項3】
前記インダクタンス解析システムが、
時間ステップごとに前記透磁率分布を算出し、時間ステップを更新する前に、該透磁率分布を用いて線形磁界解析を実行し、該線形磁界解析による解析結果に基づいて、該時間ステップごとの前記インダクタンス行列成分を算出する
ことを特徴とする請求項1に記載のインダクタンス解析方法。
【請求項4】
前記インダクタンス解析システムが、
連続するN個の時間ステップ(Nは2以上の整数)ごとに前記透磁率分布を算出し、時間ステップを更新する前に、該透磁率分布を用いて線形磁界解析を実行し、該線形磁界解析による解析結果に基づいて、該N個の時間ステップごとの前記インダクタンス行列成分を算出する
ことを特徴とする請求項1に記載のインダクタンス解析方法。
【請求項5】
前記インダクタンス解析システムが、
第1の時間ステップ数に達するまで、時間ステップごとに前記透磁率分布を算出し、時間ステップを更新する前に、該透磁率分布を用いて線形磁界解析を実行し、該線形磁界解析による解析結果に基づいて、該時間ステップごとの前記インダクタンス行列成分を算出する
ことを特徴とする請求項1に記載のインダクタンス解析方法。
【請求項6】
前記インダクタンス解析システムが、
時間ステップを更新する前に、N個の時間ステップ(Nは2以上の整数)の経過ごとに前記透磁率分布を算出し、該透磁率分布を用いて線形磁界解析を実行し、該線形磁界解析による解析結果に基づいて、該N個の時間ステップごとの前記インダクタンス行列成分を算出する
ことを特徴とする請求項1に記載のインダクタンス解析方法。
【請求項7】
前記インダクタンス解析システムが、
時間ステップごとに前記透磁率分布を算出し、第2の時間ステップ数が経過後の時間ステップごとに、時間ステップを更新する前に、該透磁率分布を用いて線形磁界解析を実行し、該線形磁界解析による解析結果に基づいて、該時間ステップごとの前記インダクタンス行列成分を算出する
ことを特徴とする請求項1に記載のインダクタンス解析方法。
【請求項8】
前記第2の時間ステップ数は、前記コイルに関するインダクタンスが定常状態となる時間ステップ数である
ことを特徴とする請求項7に記載のインダクタンス解析方法。
【請求項9】
コンピュータを、
非線形磁性体とコイルとを含んで構成された電気機器の非線形磁性体領域に含まれる各要素の或る時間ステップにおける透磁率分布を、非線形過渡磁界解析により算出し、
前記或る時間ステップから次の時間ステップへ、時間ステップを更新する前に、前記或る時間ステップにおける透磁率分布を用いて線形磁界解析を実行し、該線形磁界解析による解析結果に基づいて、前記或る時間ステップにおける前記コイルに関するインダクタンス行列成分を算出する
各処理を実行するインダクタンス解析システムとして機能させるためのインダクタンス解析プログラム。
【請求項10】
処理装置と主記憶装置とを有し、前記処理装置と前記主記憶装置とが協働して処理を実行するインダクタンス解析システムであって、
前記処理装置は、
非線形磁性体とコイルとを含んで構成された電気機器の非線形磁性体領域に含まれる各要素の或る時間ステップにおける透磁率分布を、非線形過渡磁界解析により算出し、
前記或る時間ステップから次の時間ステップへ、時間ステップを更新する前に、前記或る時間ステップにおける透磁率分布を用いて線形磁界解析を実行し、該線形磁界解析による解析結果に基づいて、前記或る時間ステップにおける前記コイルに関するインダクタンス行列成分を算出する
各処理を実行することを特徴とするインダクタンス解析システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インダクタンス解析方法、インダクタンス解析プログラム、およびインダクタンス解析システムに関する。
【背景技術】
【0002】
モータや変圧器等の磁性材料を用いた電気機器においては、コイルの自己インダクタンスや相互インダクタンスが重要な物理量になる。磁性材料は、一般的に非線形磁気特性を持っているため、磁性材料の透磁率はコイル電流依存性を持つ。
【0003】
図1は、従来技術のインダクタンス解析処理を例示するフローチャートである。
図1に示すように、従来技術のインダクタンス解析では、非線形特性を考慮した有限要素法等の数値解析手法による非線形過渡磁界解析を実施し、非線形磁気特性を有する磁性体領域の全てのメッシュ分割要素における透磁率の過渡データを算出する(ステップS12)。透磁率の過渡データは、透磁率分布データともいう。算出された透磁率分布データは、外部記憶装置に一旦記憶される(ステップS13)。
【0004】
そして、従来技術のインダクタンス解析では、非線形過渡磁界解析を終了させた後に(ステップS14NO)、外部記憶装置から読出した透磁率分布データを用いて線形磁界解析を行い、インダクタンス行列成分を出力する(ステップS21~S25)。具体的には、あるコイルに例えば1Aの電流を流し、他のコイルには電流を流さない時の各コイルの鎖交磁束を線形磁界解析で求める。このような解析作業を、電流を流す対象コイルを順に変えていき、一連の線形磁界解析を実施することで、コイルのインダクタンス行列を算出している。
【0005】
また、モータではd軸およびq軸のインダクタンスが重要になるので、dq軸インダクタンス行列を算出している。
【0006】
以上のように、インダクタンス行列を算出する場合、その算出に必要な磁性体領域の透磁率分布を求めるために、非線形過渡磁界解析を実施している。この方法は、例えば非特許文献1に開示されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【文献】K. Yamazaki et al., “TorqueAnalysis of Interior Permanent-Magnet Synchronous Motors by Considering Cross-Magnetization:Variation in Torque Components With Permanent-Magnet Configurations,” IEEETRANSACTIONS ON INDUSTRIAL ELECTRONICS, VOL. 61, NO. 7, JULY 2014, pp. 3192 - 3201
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上記従来技術では、透磁率分布データを外部記憶装置に一旦記憶させているため(
図1のステップS13)、データの記憶と読出し(
図1のステップS22)のオーバーヘッドが生じる。このオーバーヘッド回避のため、透磁率分布データを主記憶装置に記憶させるという手段を取ることも考えられるが、消費メモリが増大するという問題が生じてしまう。この問題は、二次元解析等のデータサイズが小規模である場合には生じないが、特にデータサイズが大きくなる三次元解析では顕著になる。
【0009】
また、上記従来技術では、通常の非線形過渡磁界解析を終了したあとに、インダクタンスの線形磁界解析のために、別途ユーザが解析条件を設定しなおす必要があり(
図1のステップS21)、不便である。このように、従来技術では、インダクタンス解析を効率的に行い得ないという問題がある。
【0010】
本発明は以上の点を考慮してなされたもので、例えば、インダクタンス解析を効率的に行い得るようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
かかる課題を解決するため本発明においては、インダクタンス解析システムが実行するインダクタンス解析方法であって、非線形磁性体とコイルとを含んで構成された電気機器の非線形磁性体領域に含まれる各要素の或る時間ステップにおける透磁率分布を、非線形過渡磁界解析により算出し、前記或る時間ステップから次の時間ステップへ、時間ステップを更新する前に、前記或る時間ステップにおける透磁率分布を用いて線形磁界解析を実行し、該線形磁界解析による解析結果に基づいて、前記或る時間ステップにおける前記コイルに関するインダクタンス行列成分を算出する各処理を含んだことを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、例えば、インダクタンス解析を効率的に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】従来技術のインダクタンス解析処理を例示するフローチャート。
【
図2】実施例1のインダクタンス解析処理を例示するフローチャート。
【
図3】モータをメッシュ分割した有限要素モデルを例示する図。
【
図4】実施例2のインダクタンス解析処理を例示するフローチャート。
【
図5】実施例2のインダクタンス解析の三相インダクタンス行列成分の解析を例示する図。
【
図6】実施例3のインダクタンス解析のdq軸インダクタンス行列成分の解析を例示する図。
【
図7】実施例3のインダクタンス解析処理を例示するフローチャート。
【
図8】実施例4のインダクタンス解析処理を例示するフローチャート。
【
図9】インダクタンス解析システムを実現するためのコンピュータのハードウェア構成を例示する図。
【
図10】実施例1のインダクタンス解析システムの機能構成を例示するブロック図。
【
図11】実施例1のインダクタンス解析システムを実現するためのコンピュータの具体例を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下図面に基づき、本発明の実施例を詳述する。以下の実施例は、モータや変圧器、発電機等の、磁性材料を用いた電気機器に適用可能である。本明細書において、各図面において、同一参照番号は同一あるいは類似の構成または処理を示し、後出の説明が省略される。また。各実施例および各変形例は、本発明の技術思想の範囲かつ整合する範囲内で一部または全部を組合せることができる。
【実施例1】
【0015】
<実施例1のインダクタンス解析処理>
図2は、実施例1のインダクタンス解析処理を例示するフローチャートである。本実施例では、非線形磁性体とコイルとを含んで構成された電気機器を有限要素法、境界要素法、磁気モーメント法等の数値解析手法で時間ステップごとにステップ・バイ・ステップ方法で非線形過渡磁界解析した透磁率分布データから、時間ステップごとのインダクタンス行列成分を算出する。本実施例のインダクタンス解析処理は、ユーザ指定の契機で、後述する
図10のインダクタンス解析システム100が有する、CPU(Central Processing Unit)等の演算処理装置でのプログラム実行により実現される解析部113により実行される。
【0016】
先ず、ステップS31では、解析部113は、非線形過渡磁界解析に必要なメッシュデータおよび解析条件の入力を実行する。次に、ステップS32では、解析部113は、解析対象の非線形過渡磁界解析を実行する。解析部113は、ステップS32において、非線形磁性体領域における透磁率分布を算出し、有限要素法等の各メッシュ要素における透磁率を主記憶装置に記憶させる。
【0017】
次に、ステップS33では、解析部113は、ステップS32で算出した透磁率分布データを用いた線形磁界解析を実行する。次に、ステップS34では、解析部113は、ステップS33の線形磁界解析の結果に基づいて、コイル鎖交磁束値からコイルに関するインダクタンス行列成分を算出し出力する。ステップS34のインダクタンス行列成分の出力は、時間ステップごとにインダクタンス行列成分が算出される都度、新たに算出されたインダクタンス行列成分を、後述の表示装置102(
図9参照)に表示するものでもよい。例えば、インダクタンス行列成分の表示は、インダクタンス行列成分の波形表示を、新たな算出結果を追加しながら更新するものでもよい。
【0018】
次に、ステップS35では、解析部113は、次の時間ステップへ更新してステップS32~S34を実行するか否かを判定する。解析部113は、ステップS32~S34を実行する場合(ステップS35Yes)にステップS32に処理を戻し、実行しない場合(ステップS35No)に本インダクタンス解析処理を終了する。以上により、解析部113は、ステップS32~S34を所定の時間ステップ分だけ実行する。
【0019】
以上の解析プロセスについて、具体的に説明する。
図3は、モータをメッシュ分割した有限要素モデルを例示する図であり、一般的なモータを、回転方向構造の周期性により、1/2領域(180度領域)のみメッシュ分割して図示した平面図である。
図3に示すモータは、U相、V相、W相のコイルを有する三相交流モータである。
【0020】
図3(a)のメッシュ分割されたモータ解析モデルにおいて、+Uは紙面手前側を正方向とし、-Uは紙面奥側を正方向とするU相コイルであり、U相コイル同士は直列に接続されている。V相、W相も同様である。
図3(b)は、
図3(a)のメッシュ分割されたモータ解析モデルの非線形磁性体領域から抽出した、透磁率が時間的に変動する非線形磁性体領域を示す。この非線形磁性体領域のメッシュ分割された各要素の透磁率を求めたあと、求めた透磁率の値に一時的に固定し、永久磁石に設定する磁化を一時的にゼロにする。
【0021】
U相、V相、W相の各コイル電流によるコイル鎖交磁束ΦU、ΦV、ΦWは、3行3列の対称行列であるインダクタンス行列を用いて、コイル電流IU、IV、IWと、下記式(1)に示す関係にある。下記式(1)において、Lu、Lv、LwはそれぞれU相コイル、V相コイル、W相コイルの自己インダクタンスである。また、MuvはU相コイルとV相コイル間の相互インダクタンスであり、MvwはV相コイルとW相コイル間の相互インダクタンスであり、MwuはW相コイルとU相コイル間の相互インダクタンスである。
【0022】
【0023】
上記式(1)より明らかであるように、例えばIU=1A、IV=0A、Iw=0Aと設定した線形磁界解析により求めたコイル鎖交磁束ΦU、Φv、ΦWがそれぞれU相インダクタンスLU、相互インダクタンスMUV、相互インダクタンスMWUとなる。他の行列成分に関しても同様に求めることができる。
【0024】
また、dq軸空間におけるコイル電流Id、Iqによるコイル鎖交磁束Φd、Φqは、モータ解析ならびにモータ制御でよく利用されている2行2列の対称行列であるdq軸インダクタンス行列を用いて、下記式(2)に示す関係にある。下記式(2)において、Ld、Lqはそれぞれd軸自己インダクタンス、q軸自己インダクタンスであり、Mdqはd軸およびq軸間の相互インダクタンスである。dq軸インダクタンス行列成分についても、例えばId=1A、Iq=0Aと設定した線形磁界解析によりLd、Mdqを求めることができ、Id=0A、Iq=1Aと設定した線形磁界解析によりMdq、Lqを求めることができる。
【0025】
【0026】
<実施例1の効果>
本実施例によれば、非線形磁気特性を有する磁性体領域における透磁率分布に関する透磁率分布の時系列データをすべて記憶しておく必要がないため、透磁率分布データの外部記憶装置等への書込みおよび読出しのプロセス(
図1のステップS13に相当)が不要となる。このため、書込みおよび読出しのプロセスに要する所要時間を省くことができ、インダクタンス解析にかかる処理を高速化し、実行時間を短縮できる。また、外部記憶装置等の記憶容量の使用量を削減することができる。さらに、従来ユーザが設定していたインダクタンス行列成分を解析するためにコントロールデータを再入力する(
図1のステップS21に相当)必要がないため、効率的で利便性が高いという効果もある。
【0027】
また、本実施例によれば、長時間にわたる非線形過渡解析の終了を待たずとも、1回の時間ステップの過渡解析の終了後にインダクタンス行列を算出できる。特に、三次元解析等の大規模な解析の場合、従来技術では、長時間の非線形過渡解析が終了しないとインダクタンス解析結果が得られない。しかし、本実施例によれば非線形過渡解析の途中でもインダクタンス解析結果の途中経過を出力できるため、早期に解析結果の一部を知ることができる。
【0028】
本実施例では、時間ステップの都度、非線形過渡磁界解析による透磁率分布データの算出および透磁率分布データに基づく線形解析を行うが、一般的には、処理が複雑化すると考えられ、効率的にインダクタンス解析を行う手段として想到されることは難しい。しかし、透磁率分布データの外部記憶装置等への書込みおよび読出しを不要とし、インダクタンス行列成分を解析するためのコントロールデータの再入力を必要としないため、上述の効果を奏し、インダクタンス解析を効率的に行う目的を達成することができる。
【実施例2】
【0029】
<実施例2のインダクタンス解析処理>
図4を用いて本発明の実施例2を説明する。実施例1では時間ステップ更新ごとに毎回インダクタンス行列成分を算出する例であったが、本発明はこれに限定されるものではない。すなわち、実施例2では、N時間ステップ分の非線形過渡解析を実施した後に、まとめてN時間ステップ分の線形磁界解析を行い、各時間ステップのインダクタンス行列成分を算出する。
【0030】
図4は、実施例2のインダクタンス解析処理を例示するフローチャートである。N時間ステップとは、前後するN個の時間ステップをいう。代表的なNの値としては、2、3、4等の比較的小さな整数である。ステップS42、S42、S44のそれぞれは、実施例1のステップS32、S33、S34において、N時間ステップ分をまとめて実施する解析プロセスになっている。
【0031】
先ず、ステップS41では、解析部113は、非線形過渡磁界解析に必要なメッシュデータおよび解析条件を入力する。次に、ステップS42では、解析部113は、解析対象の非線形過渡磁界解析をN時間ステップ分だけ実行する。解析部113は、ステップS42において、非線形磁性体領域における有限要素法等の各メッシュ要素の透磁率分布を算出する非線形過渡磁界解析をN時間ステップだけ実行し、算出結果を主記憶装置に記憶させる。
【0032】
次に、ステップS43では、解析部113は、ステップS42で算出した透磁率分布データを用いたN時間ステップの線形磁界解析を実行する。次に、ステップS44では、解析部113は、ステップS43の線形磁界解析の結果に基づいて、N時間ステップのコイル鎖交磁束値からコイルに関する各時間ステップのインダクタンス行列成分を算出し出力する。
【0033】
次に、ステップS45では、解析部113は、時間ステップを更新してステップS42~S44を実行するか否かを判定する。解析部113は、ステップS42~S44を実行する場合(ステップS45Yes)にステップS42に処理を戻し、実行しない場合(ステップS45No)には本インダクタンス解析処理を終了する。以上により、解析部113は、ステップS42~S44を、N時間ステップを単位とする所定の時間ステップ分だけ実行する。
【0034】
<実施例2の効果>
本実施例によれば、N個の時間ステップごとに非線形過渡磁界解析および透磁率分布データを用いた線形磁界解析をまとめて実行することでも、実施例1と同様の効果を得ることができる。
【実施例3】
【0035】
<実施例3のインダクタンス解析処理>
図5~
図7を用いて実施例3を説明する。実施例3は、必要な時間帯に含まれる時間ステップのみインダクタンス解析を実行する実施例である。
図5は、実施例2のインダクタンス解析の三相インダクタンス行列成分の解析結果を例示する図である。
図5は、ある三相コイル電流で駆動する完全三相回転対称系のモータの三相インダクタンス行列成分であるL
u、L
v、L
w、M
uv、M
vw、M
wuの波形を示す。ここで、上述と同様に、L
u、L
v、L
wはそれぞれU相コイル、V相コイル、W相コイルの自己インダクタンスである。M
uvはU相コイルとV相コイル間の相互インダクタンスであり、M
vwはV相コイルとW相コイル間の相互インダクタンスであり、M
wuはW相コイルとU相コイル間の相互インダクタンスである。
【0036】
図5から分かる通り、三相インダクタンス行列成分は、例えば電気角180度で1周期の波形を形成する。この場合、L
v、L
wは、L
uの波形をそれぞれ-60度、-120度だけ位相シフトした波形になっており、M
vw、M
wuの波形は、M
uvの波形をそれぞれ-60度、-120度だけ位相シフトした波形になっている。このため、例えばL
uおよびM
uvの波形のみ求めれば、その他の4成分の波形は位相シフトで求めることができる。
【0037】
従って、電気角180度の範囲の各時間ステップにおいて、非線形過渡磁界解析で透磁率分布を求めたあと、求めた透磁率分布を用いて、各時間ステップのLv、Lw、およびLuの何れか、およびMuv、Mvw、Mwuの何れかを算出する1回の線形磁界解析を実施する。これにより、全ての三相インダクタンス行列成分を求めることができる。電気機器は概ね完全三相回転対称系である場合が多いので、かかる方法が有用である。なお、“電気角180度”、“-60度、-120度の位相シフト”は、一例を示すに過ぎない。
【0038】
また、回転機では、三相インダクタンスよりもdq軸インダクタンス行列成分を用いる。よって、d軸自己インダクタンスL
d、q軸自己インダクタンスL
q、およびdq軸相互インダクタンスM
dqを算出することでインダクタンス行列成分を求める。
図6は、実施例3のインダクタンス解析のdq軸インダクタンス行列成分の解析を例示する図である。
【0039】
図6から分かる通り、d軸自己インダクタンスL
d、q軸自己インダクタンスL
q、およびdq軸相互インダクタンスM
dqは、電気角60度で1周期の波形を形成する。従って、電気角60度の範囲の各時間ステップにおいて、非線形過渡磁界解析で求めた透磁率分布を用いて、各時間ステップのd軸自己インダクタンスL
dおよびq軸自己インダクタンスL
qを算出する2回の線形磁界解析を実施する。これにより、全てのdq軸インダクタンス行列成分を求めることができる。なお、この“電気角60度”は、一例を示すに過ぎない。
【0040】
図7は、実施例3のインダクタンス解析処理を例示するフローチャートである。
図7に示す実施例3のインダクタンス解析処理において、ステップS31~S34は
図2に示す実施例1のインダクタンス解析処理と同様である。
【0041】
実施例3では、ステップS34に続くステップS37において、解析部113は、時間ステップを更新するか否かの判断としてインダクタンス解析を継続するか否かを判断する。例えば、ステップS37において、インダクタンス解析は、三相インダクタンス行列成分の場合は電気角180度分に相当する時間ステップ数の経過、または、dq軸インダクタンス行列成分の場合は電気角60度分に相当する時間ステップ数の経過を以って、終了と判断される。電気角180度分に相当する時間ステップ数、または、電気角60度分に相当する時間ステップ数は、第1の時間ステップ数の一例である。
【0042】
解析部113は、時間ステップを更新(インダクタンス解析を継続)する場合(ステップS37Yes)、ステップS32へ処理を戻し、時間ステップを更新しない場合(ステップS37No)、ステップS38へ処理を移す。ステップS38では、解析部113は、インダクタンス解析終了以降の残りの非線形過渡磁界解析を実行する。インダクタンス解析終了以降の残りの非線形過渡磁界解析とは、ステップS32で実行された非線形過渡磁界解析に引き続く非線形過渡磁界解析である。ステップS38が終了すると、解析部113は、本インダクタンス解析処理を終了する。
【0043】
<実施例3の効果>
本実施例では、電気機器のインダクタンスの周期性に基づいて、1周期に相当する電気角の範囲に限り、各時間ステップにおいて、非線形過渡磁界解析により求めた透磁率分布を用いて、各時間ステップのインダクタンス行列成分を算出する。よって、インダクタンス解析の実行時間を短縮できる。
【0044】
また、本実施例では、完全三相回転対称系の電気機器の場合、各時間ステップにおいて、非線形過渡磁界解析により求めた透磁率分布を用いた線形磁界解析に際し、何れか1相の自己インダクタンスを算出する。また、位相シフトに基づいて他の2相の自己インダクタンスおよび相互インダクタンスを算出する。よって、線形磁界解析の実施回数を削減し、処理を高速化できる。
【実施例4】
【0045】
<実施例4のインダクタンス解析処理>
図8を用いて本発明の実施例4を説明する。実施例2では、N時間ステップ分の非線形過渡磁界解析および線形磁界解析をまとめて実施するとしたが、実施例4では、N時間ステップ(Nは2以上の整数)ごとに1回の線形磁界解析を実施する。すなわち、本実施例においては、非線形過渡磁界解析は、毎時間ステップ実行されるが、非線形過渡磁界解析による透磁率分布データを用いた線形磁界解析およびインダクタンス行列成分算出は、N時間ステップに1回だけ実行される。
【0046】
図8は、実施例4のインダクタンス解析処理を例示するフローチャートである。
図8に示す実施例4のインダクタンス解析処理において、ステップS31~S35は
図2に示す実施例1のインダクタンス解析処理と同様である。
【0047】
実施例4のインダクタンス解析処理では、ステップS32に続くステップS51において、解析部113は、インダクタンス行列成分を算出するか否かを判定する。インダクタンス行列成分は、N時間ステップの経過ごとに算出される。解析部113は、インダクタンス行列成分を算出する場合(ステップS51Yes)、ステップS33に処理を移す。一方、解析部113は、インダクタンス行列成分を算出しない場合(ステップS51No)、ステップS35に処理を移す。
【0048】
<実施例4の効果>
本実施例によれば、インダクタンス行列成分は時間的に大きく変動しないため、インダクタンス行列成分を算出する時間ステップ数を削減することで、解析全体に要する実行時間を短縮できる。
【0049】
[変形例]
なお、以上述べた実施例1~4において、コイルに関するインダクタンス行列成分の算出を開始する時間ステップは、初期時間ステップに限定されない。解析対象によっては、過渡解析において解析対象の場が定常状態に落ち着くには、ある程度の時間ステップ数を要する場合もある。定常状態とは、磁束密度やインダクタンス(モータの場合はトルク波形)等の物理量が時間周期的になった状態をいう。高精度のインダクタンス行列成分を算出したい場合は、所定の第2の時間ステップ数が経過して定常状態に到達した後にインダクタンス行列成分算出を実行してもよい。所定の第2の時間ステップ数を適宜定めることで、インダクタンス行列成分の算出開始タイミングが調整でき、インダクタンス行列成分の精度と算出処理速度とのバランスを図ることができる。
【0050】
<実施例1~4のインダクタンス解析システムの構成>
以下、実施例1~4で示した実施形態の手法を実行するインダクタンス解析システムを説明する。
図9は、インダクタンス解析システムを実現するためのコンピュータのハードウェア構成を例示する図である。
図10は、実施例1のインダクタンス解析システムの機能構成を例示するブロック図である。
図11は、実施例1のインダクタンス解析システムを実現するためのコンピュータの具体例を示す図である。
【0051】
<インダクタンス解析システムのハードウェア構成>
先ず、インダクタンス解析システムのハードウェア構成について説明する。
図9に示すように、インダクタンス解析システム100は、計算機101、表示装置102、記憶装置103、および入力装置104から構成される。入力装置104は、例えばキーボードやマウスであり、計算機101の処理に必要なデータの入力等に使用する。必要なデータとは、例えば、メッシュデータや、解析条件設定に必要なコントロールデータである。
【0052】
記憶装置103には、計算機101の処理結果データや、入力装置104を介して入力される入力データがデータファイルとして記憶される。なお、記憶装置103は、計算機101の外部に設置して計算機101と接続する構成でもよいし、計算機101の内部に設置する構成でもよい。
【0053】
表示装置102は、記憶装置103のデータファイル(処理結果データ、入力データ等)を表示する。
【0054】
計算機101は、記憶装置103のデータファイルをもとに、
図2、
図4や
図7に示す解析プロセスを実現するためのプログラムを実行する。このプログラムは、例えば、上記実施例1~4の手法を記載したアルゴリズムがコーディングされたソースファイルをコンパイルして得られる解析実行モジュールである。計算機101のCPUが、メモリ上に読み込んだ解析実行モジュールを実行することにより、解析が実行される。
【0055】
<インダクタンス解析システムの機能構成>
次に、インダクタンス解析システムの機能構成について説明する。
図10に示すように、インダクタンス解析システム100は、メッシュデータ記憶部111と、コントロールデータ記憶部112と、解析部113と、解析結果記憶部114と、解析結果表示部115とを有する。メッシュデータ記憶部111、コントロールデータ記憶部112、および解析結果記憶部114は、揮発性または不揮発性の記憶装置で構成される。
【0056】
メッシュデータ記憶部111は、微分方程式を有限要素法等で数値的に解くためのメッシュデータを記憶する。このメッシュデータには、解析領域のメッシュを構成する各要素の節点の位置座標成分、節点番号、および材料番号等が含まれている。
【0057】
コントロールデータ記憶部112は、解析部113による解析処理を実行するための解析条件等をまとめたコントロールデータを記憶する。このコントロールデータには、磁性体領域に存在する磁性体に関する情報が含まれている。磁性体に関する情報は、例えば、磁性体領域の材料特性や磁石の残留磁化等である。これらのメッシュデータ記憶部111およびコントロールデータ記憶部112に記憶される各種のデータは、入力装置104を介して入力され、記憶装置103に記憶される。
【0058】
解析部113は、CPU等の処理装置であり、メッシュデータ記憶部111およびコントロールデータ記憶部112に記憶されているデータ内容に従って、解析領域を対象として微分方程式を数値的に解く等の解析処理を実行することで、コイルに関するインダクタンスを計算する。
【0059】
解析結果記憶部114は、解析部113による解析結果を記憶する。解析結果表示部115は、解析部113による解析結果を、例えば
図9に示す表示装置102の表示画面に表示する等の出力処理を行う。
【0060】
<インダクタンス解析システムを実現するコンピュータの具体例>
最後に、インダクタンス解析システムを実現するコンピュータについて具体的に説明する。
図11に示すように、インダクタンス解析システム100を実現するコンピュータ500は、CPUに代表される演算処理装置530、RAM(Random Access Memory)等のメモリ540、入力装置560(例えばキーボード、マウス、タッチパネル等)、および出力装置570(例えば外部ディスプレイモニタに接続されたビデオグラフィックカード)が、メモリコントローラ550を通して相互接続される。
【0061】
コンピュータ500において、インダクタンス解析システム100を実現するためのプログラムが、I/O(Input/Output)コントローラ520を介してSSDやHDD等の外部記憶装置580から読み出されて、演算処理装置530およびメモリ540の協働によりプロセスとして実行される。これにより、コンピュータ500において、インダクタンス解析システム100が実現される。
【0062】
または、所定の記憶媒体に記憶された形態で頒布されたインダクタンス解析システム100を実現するためのプログラムが、媒体読み取り装置(不図示)を介して所定の記憶媒体から読み出されて実行されてもよい。あるいは、インダクタンス解析システム100を実現するためのプログラムは、ネットワークインターフェース510を介した通信により外部のコンピュータから取得されてもよい。
【0063】
なお、コンピュータ500は、一部の物理構成、例えば外部記憶装置580や媒体読み取り装置がネットワークを介して接続されたものであってもよい。また、コンピュータ500は、複数の演算処理装置530を有し、これら複数の演算処理装置530が負荷分散を行いながら処理を実行するものであってもよい。また、インダクタンス解析システム100が、複数のコンピュータ500を含み、これら複数のコンピュータ500が負荷分散を行いながら処理を実行するものであってもよい。
【0064】
なお、本発明は上記した実施例に限定されるものではなく、様々な変形例を含む。例えば、上記した実施例は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、ある実施例の構成の一部を他の実施例の構成に置き換えることが可能であり、また、ある実施例の構成に他の実施例の構成を加えることも可能である。また、各実施例の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換・統合・分散をすることが可能である。また実施例で示した各処理は、処理効率または実装効率に基づいて適宜分散または統合してもよい。
【符号の説明】
【0065】
100:インダクタンス解析システム、101:計算機、102:表示装置、103:記憶装置、104:入力装置、111:メッシュデータ記憶部、112:コントロールデータ記憶部、113:解析部、114:解析結果記憶部、115:解析結果表示部、500:コンピュータ、510:ネットワークインターフェース、520:コントローラ、530:演算処理装置、540:メモリ、550:メモリコントローラ、560:入力装置、570:出力装置、580:外部記憶装置