(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-14
(45)【発行日】2022-10-24
(54)【発明の名称】線維性疾患の治療のための方法
(51)【国際特許分類】
A61K 31/4545 20060101AFI20221017BHJP
A61K 9/12 20060101ALI20221017BHJP
A61K 9/72 20060101ALI20221017BHJP
A61P 11/00 20060101ALI20221017BHJP
【FI】
A61K31/4545
A61K9/12
A61K9/72
A61P11/00
(21)【出願番号】P 2020516787
(86)(22)【出願日】2018-06-01
(86)【国際出願番号】 US2018035646
(87)【国際公開番号】W WO2018223023
(87)【国際公開日】2018-12-06
【審査請求日】2021-05-31
(32)【優先日】2017-06-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】519427066
【氏名又は名称】イテリオン・セラピューティクス・インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110001173
【氏名又は名称】弁理士法人川口國際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ハン,ルオラン
(72)【発明者】
【氏名】ノースラップ,ジョン
(72)【発明者】
【氏名】カシバトラ,スリニバス・ラオ
(72)【発明者】
【氏名】ホリガン,スティーブン
(72)【発明者】
【氏名】ラーソン,ジェフ
【審査官】小川 知宏
(56)【参考文献】
【文献】特表2014-534229(JP,A)
【文献】特表2016-512547(JP,A)
【文献】特表2013-513625(JP,A)
【文献】Physiological Research,2012年,61,337-346
【文献】Journal of Cell Communication and Signaling,2016年,10,33-40
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/4545
A61K 9/00 - 9/72
A61P 11/00
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
肺線維症を
治療するための医薬組成物であって、
以下の式:
【化1】
の化合物、またはその薬学的に許容される塩
を含み、
前記医薬組成物は、患者において、ベータカテニンが、トランスデューシン・ベータ様1(TBL1)タンパク質と結合することを防ぎ、および
治療有効量が、0.0001~1000mg/kg/日である、医薬組成物。
【請求項2】
前記医薬組成物が、静脈内、非経口、経口、吸入(エアロゾル化送達を含む)、頬側、鼻腔内、直腸、病巣内、腹腔内、皮内、経皮、皮下、動脈内、心臓内、脳室内、頭蓋内、気管内、髄腔内投与、筋肉内注射、硝子体内注射、および局所適用の方法のうちの1つ以上を通じて投与される、請求項
1に記載の医薬組成物。
【請求項3】
エアロゾル化送達を通じて投与される、請求項2に記載の医薬組成物。
【請求項4】
気管内投与される、請求項2に記載の医薬組成物。
【請求項5】
ポロキサマーおよびソルビトールを含む溶液に配合されている、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項6】
ナノ粉砕懸濁液に配合されている、請求項1に記載の医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、肺線維症、デュピュイトラン拘縮、強皮症、全身性硬化症、皮膚硬化を伴わない強皮症様障害、肝硬変、間質性肺線維症、ケロイド、慢性腎疾患、慢性移植片拒絶、および他の瘢痕/創傷治癒異常、術後癒着、反応性線維症、類腱腫、ならびに他の病態を含む線維性疾患の治療の分野に関する。
【背景技術】
【0002】
肺線維症、デュピュイトラン拘縮、強皮症、全身性硬化症、皮膚硬化を伴わない強皮症様障害、肝硬変、間質性肺線維症、ケロイド、慢性腎疾患、慢性移植片拒絶、および他の瘢痕/創傷治癒異常、術後癒着、反応性線維症、ならびに類腱腫を含む線維性疾患は、多くの場合罹患率および死亡率の原因となり、全ての組織および器官系に影響を及ぼし得る重大な病態である。
【0003】
肺線維症は、肺組織が肥厚化し、硬化し、瘢痕化する病態である。線維症(瘢痕)の原因は、決定できることも時にはあるが、この病態の病因は不明のままであることが多い。肺線維症の発症に知られる原因がない(そして肺線維症に対するある特定のX線撮影および/または病理的判断基準が満たされる)とき、疾患は特発性肺線維症(IPF)と呼ばれる。
【0004】
IPFには明確な人口統計学的プロファイルがなく、都市環境および農村環境の両方で見出され得るIPFの危険因子には、喫煙およびある特定の遺伝因子が含まれる。IPFは、女性よりも男性が多く罹患し、通常50歳~70歳で生じる。
【0005】
デュピュイトラン拘縮は、代替的に手掌線維腫症(または「デュピュイトラン病」)としても知られ、手の結合組織(手掌筋膜)上のコラーゲンなどの細胞外基質の蓄積に関連する疾患であり、それを肥厚化して短くし、指、最も一般的には薬指および小指をねじ曲げる物理的作用を伴う。デュピュイトラン拘縮は、進行性の手指の屈曲拘縮を通して現れ、機能が著しく損なわれる。これは、男性および女性の両方が罹患するが、男性の発生率の方が高い。
【0006】
デュピュイトラン病の原因はよく理解されておらず、現在基礎疾患は治癒可能ではない。
【0007】
したがって、線維性疾患を治療する新規な方法の必要性がある。
【発明の概要】
【0008】
本発明は、WNT/ベータカテニンシグナル伝達が線維性疾患の重要なメディエーターであり、このシグナル伝達経路の阻害が線維症および線維性疾患状態を改善するという所見に関する。Wnt/ベータカテニンシグナル伝達経路の阻害剤は、肺線維症、デュピュイトラン拘縮、強皮症、全身性硬化症、皮膚硬化を伴わない強皮症様障害、肝硬変、間質性肺線維症、ケロイド、慢性腎疾患、慢性移植片拒絶、および他の瘢痕/創傷治癒異常、術後癒着、反応性線維症、ならびに類腱腫を含むが、これらに限定されない線維性疾患の治療および/または予防のために使用することができる。
【0009】
本発明は、静脈内、非経口、経口、吸入(エアロゾル化送達を含む)、頬側、鼻腔内、直腸、病巣内、腹腔内、皮内、経皮、皮下、動脈内、心臓内、脳室内、頭蓋内、気管内、髄腔内投与、筋肉内注射、硝子体内注射、および局所適用を含むあらゆる可能な投与方法を含む。
【0010】
一実施形態では、本発明は、特に肺病態を治療するための、かかる化合物のエアロゾル化送達に関する。別の実施形態では、本発明は、デュピュイトラン拘縮を治療するための静脈内注射を提供する。さらに別の実施形態では、本発明は、ケロイドの治療のための局所適用を提供する。
【0011】
したがって、本発明は、線維性疾患を治療および/または予防する方法を提供し、この方法は、それを必要とする患者に、治療有効量の式Iの化合物であって、
【化1】
式I
式中、R
Aは水素であり、
R
7およびR
8は独立して、HおよびSO
2NR
3R
4から選択され、
R
7およびR
8のうちの1つは水素であり、
R
1、R
2、R
3、およびR
4はそれぞれ独立して、H、アルキル、ヘテロアルキル、シクロアルキル、アリールシクロアルキル、アリール、ヘテロアリール、ヘテロシクロアルキルから選択され、NR
1R
2およびNR
3R
4のそれぞれが、独立して、組み合わされてヘテロシクロアルキルを形成することができ、該アルキル、ヘテロアルキル、シクロアルキル、アリールシクロアルキル、アリール、ヘテロアリール、またはヘテロシクロアルキルが、任意に置換されていてもよい、化合物、
またはその薬学的に許容される塩、エステル、アミド、立体異性体、幾何異性体、もしくはプロドラッグを投与することを含む。
【0012】
米国特許第8,129,519号は、本発明の化合物を作製する方法を記載している。一実施形態では、本発明は、本発明によって線維性疾患を治療および/または予防するために、米国特許第8,129,519号の化合物のいずれかを使用することを企図する。
【0013】
好ましい一実施形態では、NR1R2およびNR3R4は独立して、環中に1個の窒素を含む6~15員ヘテロシクロアルキルである。
【0014】
好ましい実施形態では、式Iの化合物は、以下の構造を有するか、
【化2】
またはその薬学的に許容される塩、エステル、アミド、立体異性体、幾何異性体、もしくはプロドラッグである。この化合物は、BC-2059またはテガビビント(Tegavivint)としても知られている。米国特許第8,129,519号は、この化合物を作製する方法を記載している。
【0015】
一実施形態では、線維性疾患は、肺線維症、デュピュイトラン拘縮、強皮症、全身性硬化症、皮膚硬化を伴わない強皮症様障害、肝硬変、間質性肺線維症、ケロイド、慢性腎疾患、慢性移植片拒絶、および他の瘢痕/創傷治癒異常、術後癒着、反応性線維症からなる群から選択される。
【0016】
好ましい実施形態では、障害は肺線維症である。
【0017】
別の好ましい実施形態では、障害はデュピュイトラン拘縮である。
【0018】
さらに別の好ましい実施形態では、障害はケロイドである。
【0019】
本発明は、それを必要とする患者へのテガビビントの全身投与またはエアロゾル化送達を含む肺線維症の治療の方法を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】[
図1A]デュピュイトラン疾患(DD)(DD249細胞)の増殖率を有する患者の線維性手掌筋膜細胞に由来する初代手掌筋膜線維芽細胞の細胞増殖阻害のグラフを示す。[
図1B]DD249 25pMの吸光度の細胞増殖阻害のチャートを示す。[
図1C]DD249 50pMの吸光度の細胞増殖阻害のチャートを示す。[
図1D]デュピュイトラン病(PF249細胞)の増殖率を有する患者からの見かけ上の非線維性手掌筋膜(PF)に由来する同系初代手掌筋膜線維芽細胞の細胞増殖阻害のグラフを示す。[
図1E]PF249 25pMの吸光度の細胞増殖阻害のチャートを示す。[
図1F]PF249 50pMの吸光度の細胞増殖阻害のチャートを示す。
【
図2】[
図2A]デュピュイトラン疾患(DD)(DD77細胞)を有する患者の線維性手掌筋膜細胞に由来する初代手掌筋膜線維芽細胞の細胞増殖阻害を示す。[
図2B]デュピュイトラン病(PF77細胞)を有する患者からの見かけ上の非線維性手掌筋膜(PF)に由来する同系初代手掌筋膜線維芽細胞の細胞増殖阻害を示す。
【
図3】[
図3A]デュピュイトラン疾患を有する1人の患者の外植片組織から培養された同系DD細胞(DD180細胞)、デュピュイトラン疾患を有するその患者の外植片組織から培養された同系PF細胞(PF180細胞)、およびデュピュイトラン疾患病歴の無い1人の患者の移植片組織から培養された同系DD細胞(CT38細胞)におけるCTNNB1遺伝子発現の遺伝子発現解析を示す。[
図3B]DD180、PF180、およびCT38細胞におけるEGR1遺伝子発現の遺伝子発現解析を示す。[
図3C]DD180、PF180、およびCT38細胞におけるNRG1遺伝子発現の遺伝子発現解析を示す。[
図3D]DD180、PF180、およびCT38細胞におけるWISP1遺伝子発現の遺伝子発現解析を示す。
【
図4】[
図4A]格子解放から4.5時間後でのDD180細胞の線維芽細胞集団化コラーゲン格子(FPCL)の収縮アッセイを示す。[
図4B]格子解放から24時間後でのDD180細胞のFPCLの収縮アッセイを示す。
【
図5A】静脈内へのテガビビント治療の有りまたは無しの場合での、ブレオマイシン誘発性肺線維症マウスモデルにおける肺コンプライアンス解析を示す。
【
図5B】静脈内へのテガビビント治療の有りまたは無しの場合での、ブレオマイシン誘発性肺線維症マウスモデルにおけるSircolコラーゲンアッセイの結果を示す。
【
図6A】鼻腔内へのテガビビント治療の有りまたは無しの場合での、ブレオマイシン誘発性肺線維症マウスモデルにおける肺コンプライアンス解析を示す。
【
図6B】鼻腔内へのテガビビント治療の有りまたは無しの場合での、ブレオマイシン誘発性肺線維症マウスモデルにおけるSircolコラーゲンアッセイの結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0021】
定義
別段の記載がない限り、以下の定義が使用される。
【0022】
「対象」という用語には、ヒトを含む哺乳動物が含まれる。「患者」および「対象」という用語は、互換的に使用される。
【0023】
「治療有効量」という用語は、疾患または障害を治療するために対象に投与された際に、疾患または障害に作用するのに十分な化合物の量を意味する。「治療有効量」は、化合物、治療中の障害、および障害の重症度;利用される特定の化合物の活性;利用される特定の成分;患者の年齢、体重、一般的な健康状態、性別、および日常の食事;利用される特定の化合物の投与時間、投与経路、および排泄速度;治療期間;利用される特定の化合物と組み合わせて、または同時に使用される薬物;ならびに医学分野において周知である同様の要因を含む様々な要因に応じて異なり得る。例えば、所望される治療的効果を達成するのに必要とされるよりも低いレベルで化合物の用量を開始し、所望される効果が達成されるまで用量を徐々に増加させることは、十分に当技術分野の範囲内である。
【0024】
一実施形態では、「治療する」または「治療」という用語は、疾患または障害を改善すること(すなわち、疾患またはその臨床症状のうちの少なくとも1つを阻止または減少させること)を指す。別の実施形態では、「治療する」または「治療」とは、少なくとも1つの身体的パラメータを改善することを指し、これは対象によって認識できない場合がある。さらに別の実施形態では、「治療する」または「治療」とは、物理的(例えば、認識できる症状の安定化)、生理学的(例えば、物理的パラメータの安定化)のいずれか、またはその両方の疾患または障害の調節を指す。さらに別の実施形態では、「治療する」または「治療」は、疾患または障害の発症を遅延させること、またはさらにそれを予防することを指す。
【0025】
「薬学的に許容される塩」という語句は、健全な医学的判断の範囲内で過度の毒性、刺激、アレルギー応答が無い、ヒトおよび下等動物の組織と接触して使用するのに好適であり、かつ合理的な利益/リスク比にふさわしいそれらの塩を意味する。薬学的に許容される塩は、当技術分野において周知である。例えば、S.M.Bergeらが、J.Pharmaceutical Sciences,1977,66:1以下において薬学的に許容される塩を詳細に記載している。
【0026】
薬学的に許容される塩には、酸付加塩が含まれるが、これに限定されない。例えば、窒素原子は酸を有する塩を形成し得る。代表的な酸付加塩には、酢酸、アジピン酸塩、アルギン酸塩、クエン酸塩、アスパラギン酸塩、安息香酸塩、ベンゼンスルホン酸塩、重硫酸塩、酪酸塩、樟脳塩、樟脳スルホン酸塩、ジグルコン酸塩、グリセロリン酸塩、ヘミ硫酸塩、ヘプタン酸塩、ヘキサン酸塩、フマル酸塩、塩酸塩、臭化水素酸塩、ヨウ化水素酸塩、2-ヒドロキシエタンスルホン酸塩(イソチオン酸塩)、乳酸塩、マレイン酸塩、メタンスルホン酸塩、ニコチン酸塩、2-ナフタレンスルホン酸塩、シュウ酸塩、パルミチン酸塩、ペクチン酸塩、過硫酸塩、3-フェニルプロピオン酸塩、ピクリン酸塩、ピバル酸塩、プロピオン酸塩、コハク酸塩、酒石酸塩、チオシアン酸塩、リン酸塩、グルタミン酸塩、重炭酸塩、p-トルエンスルホン酸塩、およびウンデカン酸が含まれるが、これらに限定されない。さらに、塩基性窒素含有基は、塩化メチル、塩化エチル、塩化プロピル、および塩化ブチル、臭化物およびヨウ化物などのハロゲン化低級アルキル;硫酸塩ジメチル、硫酸塩ジエチル、硫酸塩ジブチル、および硫酸塩ジアミルなどの硫酸塩ジアルキル;塩化デシル、塩化ラウリル、塩化ミリスチル、および塩化ステアリル、臭化物およびヨウ化物などの長鎖ハロゲン化物;臭化ベンジルおよび臭化フェネチルなどのハロゲン化アリールアルキルなどの薬剤を用いて四級化できる。水溶性、または油溶性、または分散性の製品が、それらにより取得される。薬学的に許容される酸付加塩を形成するために利用できる酸の例には、塩酸、臭化水素酸、硫酸、およびリン酸などの無機酸、ならびにシュウ酸、マレイン酸、コハク酸、およびクエン酸などの有機酸が含まれる。
【0027】
薬学的に許容される塩には、リチウム、ナトリウム、カリウム、カルシウム、マグネシウム、およびアルミニウム塩などのアルカリ金属またはアルカリ土類金属、ならびにアンモニウム、テトラメチルアンモニウム、テトラエチルアンモニウム、メチルアンモニウム、ジメチルアンモニウム、トリメチルアンモニウム、トリエチルアンモニウム、ジエチルアンモニウム、およびエチルアンモニウムなどを含む無毒性の第四級アンモニアおよびアミンカチオンに基づくカチオンが含まれるが、これらに限定されない。塩基付加塩の形成のために有用な他の代表的な有機アミンには、エチレンジアミン、エタノールアミン、ジエタノールアミン、ピペリジン、ピペラジンなどが含まれる。
【0028】
本発明の目的に有用な化合物は1つ以上の二重結合を含むことができ、したがって、潜在的にシス/トランス(E/Z)異性体、および他の立体配座異性体を生じさせる。それとは反すると述べられない限り、本発明は、かかる可能な異性体の全て、およびかかる異性体の混合物を含む。
【0029】
それとは反すると述べられない限り、化学結合がくさびまたは破線としてではなく実線としてのみ示されている式は、可能な各異性体、例えば各エナンチオマーおよびジアステレオマー、ならびにラセミ混合物またはスケール混合物などの異性体の混合物が想定される。本明細書に記載される化合物は、1つ以上の不斉中心を含むことができ、したがって、潜在的にジアステレオマーおよび光学異性体を生じさせる。それとは反すると述べられない限り、本発明は、かかる全ての可能なジアステレオマー、ならびにそれらのラセミ混合物、それらの実質的に純粋な分解されたエナンチオマー、全ての可能な幾何異性体、およびその薬学的に許容される塩を含む。立体異性体の混合物、および単離された特定の立体異性体も含まれる。かかる化合物を調製するために使用される合成手順の過程の間、または当技術分野において即知であるラセミ化またはエピマー化手順の使用において、かかる手順の生成物は立体異性体の混合物であり得る。
【0030】
多くの有機化合物は、平面偏光の平面を回転させることができる光学的活性な形態で存在する。光学活性化合物の記載において、冒頭に付けるDおよびL、またはRおよびSは、そのキラル中心(複数可)に関する分子の絶対配置を示すために使用される。冒頭に付けられるdならびに/または(+)および(-)は、化合物による平面偏光の回転のサインを示すために利用され、(-)または/は、化合物が左旋性であることを意味する。(+)またはdが冒頭に付けられる化合物は右旋性である。付与された化学構造について、立体異性体と呼ばれるこれらの化合物は、互いに重ね合わせることができない鏡像であることを除いて同一である。特定の立体異性体はエナンチオマーとも示され得、かかる異性体の混合物はしばしばエナンチオマー性混合物と称される。エナンチオマーの50:50混合物は、ラセミ混合物と称される。
【0031】
本明細書に記載される多くの化合物は、1つ以上のキラル中心を有することができ、したがって異なるエナンチオマー性形態で存在することができる。必要に応じて、キラル炭素はアスタリスク(*)を用いて示される。キラル炭素との結合が開示される式において直線として描かれている場合は、キラル炭素の(R)および(S)配置の両方、したがってエナンチオマーおよびその混合物の両方が式内に含まれることが理解される。当技術分野において使用されるように、キラル炭素に関して絶対配置を指定することが望ましい場合は、キラル炭素との結合の一方はくさびとして描かれることができ(平面より上の原子との結合)、もう一方は短い平行線の連続またはくさびとして描かれることができる(平面より下の原子との結合)。Cahn-Inglod-Prelogシステムを使用して、(R)または(S)配置をキラル炭素に割り当てることができる。
【0032】
本発明の目的に有用な化合物は、それらの同位体の天然存在比および非天然存在比の両方において原子を含み得る。開示される化合物は、記載されるものと同一、しかし1つ以上の原子が、自然に通常見られる原子の質量または質量数とは異なる原子の質量または質量数を有する原子と置き換えられているという事実のために、同位体標識化または同位体置換化の化合物であり得る。本発明の化合物に組み込むことができる同位体の例には、水素、炭素、窒素、酸素、リン、フッ素、および塩素の同位体、それぞれ2H、3H、13C、14C、15N、18O、17O、35S、18F、および36Clなどが含まれる。
【0033】
化合物はさらに、そのプロドラッグ、および該化合物または該プロドラッグの薬学的に許容される塩を含み、前述の同位体および/または他の原子の他の同位体を含むそれらは本発明の範囲内である。本発明の特定の同位体性標識化化合物、例えば3Hおよび14Cなどの放射性同位体が組み込まれているものは、薬物および/または基質組織分布アッセイに有用である。トリチウム化、すなわち3H、および炭素14、すなわち14C同位体は、調製の容易さおよび検出性のために特に好ましい。さらに、重水素、すなわち2Hなどのより重い同位体で置換すると、より優れた代謝の安定性がもたらされるため、特定の治療上の利点を得ることができ、例えば、生体内での半減期の延長または必要な投与量の減少など、いくつかの状況において好ましい場合がある。本発明の同位体性標識化化合物およびそのプロドラッグは、一般に、非同位体性標識化試薬を容易に得られる同位体性標識化試薬と置き換えることにより、以下の手順を実施することによって調製することができる。
【0034】
本発明の目的に有用な化合物は、溶媒和物として存在し得る。いくつかの場合において、溶媒和物を調製するために使用される溶媒は水溶液であり、溶媒和物はしばしば水和物として称される。化合物は水和物として存在することができ、これは、例えば、溶媒からまたは水溶液からの結晶化により得ることができる。これに関連して、1、2、3または任意の数の溶媒和物または水分子は、本発明による化合物と組み合わせて、溶媒和物および水和物を形成することができる。それとは反すると述べられない限り、本発明は、かかる可能な溶媒和物を全てを含む。
【0035】
本明細書に記載される特定の化合物は、平衡な互変異性体として存在し得ることも理解される。例えば、α-水素を有するケトンは、平衡なケト体およびエノール体で存在できる。
【0036】
本明細書で使用される「置換される」という用語は、有機化合物の全ての許容可能な置換基を含むことが考慮される。広範な態様において、許容される置換基には、有機化合物の非環式および環式、分枝および非分枝、炭素環式および複素環式、ならびに芳香族および非芳香族の置換基が含まれる。例示的な置換基には、例えば、以下に記載されるものが含まれる。許容される置換基は、適切な有機化合物に対して1つ以上であり、かつ同一かまたは異なり得る。本開示の目的では、窒素などのヘテロ原子は、水素置換基および/または本明細書に記載される有機化合物の任意の許容可能な置換基を有することができ、ヘテロ原子の原子価を満たす。この開示は、有機化合物の許容可能な置換基によるいかなる様式においても制限されることを意図しない。さらに、「置換」または「~で置換される」という用語には、かかる置換が置換される原子および置換基の許容される原子価に従うという暗黙の条件が含まれ、置換により、安定な化合物、例えば、転位、環化、除去などによる自発的な変換を受けない化合物がもたらされる。さらに、特定の態様において、それとは反すると明示的に示されない限り、個々の置換基はさらに任意に置換されることができる(すなわち、さらに置換されるまたは非置換される)ことが企図される。
【0037】
様々な用語を定義する際の、「A1」、「A2」、「A3」、および「A4」は、様々な特定の置換基を表す一般的な記号として本明細書で使用される。これらの記号は、本明細書に開示されているものに限定されない任意の置換基であり得、それらがある場合において特定の置換基であると定義されている際に、別の場合において、他の置換基として定義できる。
【0038】
本明細書で使用される「アルキル」という用語は、メチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、n-ブチル、イソブチル、s-ブチル、t-ブチル、n-ペンチル、イソペンチル、s-ペンチル、ネオペンチル、ヘキシル、ヘプチル、オクチル、ノニル、デシル、ドデシル、テトラデシル、ヘキサデシル、エイコシル、テトラコシルなどの1~24個の炭素原子の分枝または非分枝の飽和炭化水素基である。アルキル基は、環式または非環式であり得る。アルキル基は、分枝または非分岐であり得る。アルキル基はさらに、置換または非置換であり得る。例えば、アルキル基は、本明細書に記載されるように、アルキル、シクロアルキル、アルコキシ、アミノ、エーテル、ハロゲン化物、ヒドロキシ、ニトロ、シリル、スルホ-オキソ、またはチオールを含むがこれらに限定されない1つ以上の基で置換され得る。「低級アルキル」基は、1~6個(例えば、1~4個)の炭素原子を含むアルキル基である。
【0039】
例えば、「C1-C3アルキル」基は、メチル、エチル、n-プロピル、i-プロピル、およびシクロプロピルから、またはそのサブセットから選択することができる。特定の態様において、「C1-C3アルキル」基は、任意でさらに置換され得る。例えば、「C1-C4アルキル」基は、メチル、エチル、n-プロピル、i-プロピル、シクロプロピル、n-ブチル、i-ブチル、s-ブチル、t-ブチル、およびシクロブチルから、またはそのサブセットから選択することができる。特定の態様において、「C1-C4アルキル」基は、任意でさらに置換され得る。例えば、「C1-C6アルキル」基は、メチル、エチル、n-プロピル、i-プロピル、シクロプロピル、n-ブチル、i-ブチル、s-ブチル、t-ブチル、シクロブチル、n-ペンチル、i-ペンチル、s-ペンチル、t-ペンチル、ネオペンチル、シクロペンチル、n-ヘキシル、i-ヘキシル、3-メチルペンタン、2,3-ジメチルブタン、ネオヘキサン、およびシクロヘキサンから、またはそのサブセットから選択することができる。特定の態様において、「C1-C6アルキル」基は、任意でさらに置換され得る。例えば、「C1-C8アルキル」基は、メチル、エチル、n-プロピル、i-プロピル、シクロプロピル、n-ブチル、i-ブチル、s-ブチル、t-ブチル、シクロブチル、n-ペンチル、i-ペンチル、s-ペンチル、t-ペンチル、ネオペンチル、シクロペンチル、n-ヘキシル、i-ヘキシル、3-メチルペンタン、2,3-ジメチルブタン、ネオヘキサン、シクロヘキサン、ヘプタン、シクロヘプタン、オクタン、およびシクロオクタンから、またはそのサブセットから選択することができる。特定の態様において、「C1-C8アルキル」基は、任意でさらに置換され得る。例えば、「C1-C12アルキル」基は、メチル、エチル、n-プロピル、i-プロピル、シクロプロピル、n-ブチル、i-ブチル、s-ブチル、t-ブチル、シクロブチル、n-ペンチル、i-ペンチル、s-ペンチル、t-ペンチル、ネオペンチル、シクロペンチル、n-ヘキシル、i-ヘキシル、3-メチルペンタン、2,3-ジメチルブタン、ネオヘキサン、シクロヘキサン、ヘプタン、シクロヘプタン、オクタン、シクロオクタン、ノナン、シクロノナン、デカン、シクロデカン、ウンデカン、シクロウンデカン、ドデカン、およびシクロドデカンから、またはそのサブセットから選択することができる。特定の態様において、「C1-C12アルキル」基は、任意でさらに置換され得る。
【0040】
本明細書を通して、「アルキル」は一般に、非置換アルキル基および置換アルキル基の両方を指すために使用され、しかしながら、置換アルキル基はさらに、アルキル基上の特定の置換基(複数可)を同定することによって、本明細書で特に言及される。例えば、「ハロゲン化アルキル」または「ハロアルキル」という用語は、具体的には、1つ以上のハロゲン化物、例えばフッ素、塩素、臭素、またはヨウ素で置換されたアルキル基を指す。「アルコキシアルキル」という用語は、具体的には、以下で記載されるような1つ以上のアルコキシ基で置換されるアルキル基を指す。「アルキルアミノ」という用語は、具体的には、以下で記載されるような1つ以上のアミノ基などで置換されたアルキル基を指す。ある実例で「アルキル」が使用され、別の実例で「アルキルアルコール」などの特定の用語が使用されている場合に、「アルキル」という用語がさらに、「アルキルアルコール」などの特定の用語を示さないことを意味するものでない。
【0041】
この実行は、明細書に記載される他の基にも使用される。すなわち、「シクロアルキル」などの用語は、非置換および置換シクロアルキル部分の両方を指す一方で、さらに置換部分は本明細書で具体的に同定されることができ、例えば、特定の置換シクロアルキルは、例えば「アルキルシクロアルキル」と称され得る。同様に、置換アルコキシは、例えば「ハロゲン化アルコキシ」として特に称され得、特定の置換アルケニルは、例えば「アルケニルアルコール」などであり得る。重ねて、「シクロアルキル」などの一般用語、および「アルキルシクロアルキル」などの特定の用語を使用する実行がさらに、一般用語に特定の用語が含まれないことを意味するものではない。
【0042】
本明細書で使用される「シクロアルキル」という用語は、少なくとも3個の炭素原子で構成される非芳香族の炭素系環である。シクロアルキル基の例には、シクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、シクロヘキシル、ノルボルニルなどが含まれるが、これらに限定されない。「ヘテロシクロアルキル」という用語は、上記で定義されたシクロアルキル基の種類であり、かつ、「シクロアルキル」という用語の意味に含まれ、環の炭素原子の少なくとも1つが、窒素、酸素、硫黄、またはリンなどこれらに限定されないヘテロ原子で置き換えられている。シクロアルキル基およびヘテロシクロアルキル基は、置換または非置換であり得る。シクロアルキル基およびヘテロシクロアルキル基は、本明細書に記載されるように、アルキル、シクロアルキル、アルコキシ、アミノ、エーテル、ハロゲン化物、ヒドロキシ、ニトロ、シリル、スルホオキソ、ニトリル、スルホンアミド、またはチオールを含むがこれらに限定されない1つ以上の基で置換され得る。
【0043】
本明細書で使用される「アリール」という用語は、ベンゼン、ナフタレン、フェニル、ビフェニル、フェノキシベンゼンなどを含むがこれらに限定されない任意の炭素系の芳香族基を含む基である。「アリール」という用語には、「ヘテロアリール」がさらに含まれ、これは、芳香族基の環内に組み込まれた少なくとも1つのヘテロ原子を有する芳香族基を含む基として定義される。ヘテロ原子の例には、窒素、酸素、硫黄、およびリンが含まれるが、これらに限定されない。同様に、「非ヘテロアリール」という用語は、「アリール」という用語をさらに含み、ヘテロ原子を含まない芳香族基を含む基を定義する。アリール基は、置換または非置換であり得る。アリール基は、シクロアルキル、アルコキシ、アルケニル、シクロアルケニル、アルキニル、シクロアルキニル、アリール、ヘテロアリール、アルデヒド、アミノ、カルボン酸、エステル、エーテル、ハロゲン化物、ヒドロキシ、ケトン、アジド、ニトロ、シリル、スルホ-オキソ、ニトリル、スルホンアミド、またはチオールを含むがこれらに限定されない1つ以上の基で置換され得る。「ビアリール」という用語は、特定の種類のアリール基であり、かつ「アリール」の定義に含まれる。ビアリールとは、ナフタレンのように縮合された環構造を介して結合される、またはビフェニルのように1つ以上の炭素-炭素結合を介して付加される、2個のアリール基を指す。
【0044】
本明細書で使用される「ハロゲン」、「ハライド」、および「ハロ」という用語は、フッ素、塩素、臭素、およびヨウ素のハロゲンを指す。様々な態様において、ハロゲンは、フルオロ、クロロ、ブロモ、およびヨードから選択され得ることも考えられる。例えば、ハロゲンは、フルオロ、クロロ、およびブロモから選択され得る。さらなる例として、ハロゲンは、フルオロおよびクロロから選択され得る。さらなる例として、ハロゲンは、クロロおよびブロモから選択され得る。さらなる例として、ハロゲンは、ブロモおよびヨードから選択され得る。さらなる例として、ハロゲンは、クロロ、ブロモ、およびヨードから選択され得る。一態様では、ハロゲンは、フルオロであり得る。さらなる態様では、ハロゲンは、クロロであり得る。またさらなる態様では、ハロゲンは、ブロモである。またさらなる態様では、ハロゲンは、ヨードである。
【0045】
特定の態様では、ハロゲンの代わりに擬ハロゲン(例えば、トリフレート、メシレート、トシレート、ブロシレートなど)を使用でき得ることも考えられる。例えば、特定の態様では、ハロゲンは、疑ハロゲンで置き換えることができる。さらなる例として、偽ハロゲンは、トリフレート、メシレート、トシレート、およびブロシレートから選択することができる。一態様では、偽ハロゲンは、トリフレートである。さらなる態様では、偽ハロゲンは、メシレートである。さらなる態様では、偽ハロゲンは、トシレートである。さらなる態様では、偽ハロゲンは、ブロシレートである。
【0046】
本明細書で使用される「ヘテロ環」という用語は、環員の少なくとも1つが炭素以外である単環式および多環式の芳香族または非芳香族環系を指す。ヘテロ環は、アゼチジン、ジオキサン、フラン、イミダゾール、イソチアゾール、イソオキサゾール、モルホリン、オキサゾールを含み、オキサゾールは、1,2,3-オキサジアゾール、1,2,5-オキサジアゾール、1,3,4-オキサジアゾール、ピペラジン、ピペリジン、ピラジン、ピラゾール、ピリダジン、ピリジン、ピリミジン、ピロール、ピロリジン、テトラヒドロフラン、テトラヒドロピランを含み、テトラジンは、1,2,4,5-テトラジンを含み、テトラゾールは、1,2,3,4-テトラゾールおよび1,2,4,5-テトラゾールを含み、チアジアゾールは、1,2,3-チアジアゾール、1,2,5-チアジアゾール、および1,3,4-チアジアゾールを含み、チアゾール、チオフェン、トリアジンは、1,3,5-トリアジンおよび1,2,4-トリアジンを含み、トリアゾールは、1,2,3-トリアゾール、1,3,4-トリアゾールなどを含む。
【0047】
本明細書で使用される「ヒドロキシル」という用語は、式-OHによって表される。
【0048】
本明細書で使用される「R1」、「R2」、「R3」、nが整数である「Rn」は、独立して、上記に列挙される1つ以上の基を有することができる。例えば、R1が直鎖状アルキル基である場合、アルキル基の水素原子のうちの1つは、ヒドロキシル基、アルコキシ基、アルキル基、ハロゲン化物などで任意に置換され得る。選択される基に応じて、第1の基を第2の基に組み込むか、または第1の基を第2の基に付属(つまり、付加)することができる。例えば、「アミノ基を含むアルキル基」という語句では、アミノ基は、アルキル基の骨格内に組み込まれることができる。あるいは、アミノ基は、アルキル基の骨格に付加されることができる。選択される基(複数可)の性質により、第1の基が第2の基に埋め込まれるか、または付加されるかが決定されるであろう。
【0049】
本明細書に記載されるように、本発明の目的に好適な化合物は、「任意に置換される」部分を含み得る。一般に、「置換される」という用語は、「任意に」という用語が先行するかにかかわらず、示された部分の1個以上の水素が、好適な置換基で置き換えられることを意味する。特に明記されない限り、「任意に置換される」基は、その基の各置換可能な位置に好適な置換基を有し得、任意に付与される構造内の複数の位置が、示される基から選択される複数の置換基で置換され得る場合に、置換基は、全ての位置のそれぞれで同一または異なり得る。本発明により想定される置換基の組み合わせとしては、好ましくは、安定なまたは化学的に実現可能な化合物の形成をもたらすものである。さらに、特定の態様において、それとは反すると明示的に示されない限り、個々の置換基はさらに任意に置換されることができる(すなわち、さらに置換されるまたは非置換される)ことが企図される。
【0050】
本明細書が異なる定義を使用しない限り、米国特許第8,129,519号の定義および他の開示の全てが、参照により本明細書に明示的に組み込まれる。
【0051】
本発明の詳細な説明
本発明は、WNT/ベータカテニンシグナル伝達が線維性疾患の重要なメディエーターであり、このシグナル伝達経路の阻害が線維症および線維性疾患状態を改善するという所見に関する。Wnt/ベータカテニンシグナル伝達経路の阻害剤は、肺線維症、デュピュイトラン拘縮、強皮症、全身性硬化症、皮膚硬化を伴わない強皮症様障害、肝硬変、間質性肺線維症、ケロイド、慢性腎疾患、慢性移植片拒絶、および他の瘢痕/創傷治癒異常、術後癒着、反応性線維症、ならびに類腱腫を含むが、これらに限定されない線維性疾患の治療および/または予防のために使用することができる。
【0052】
したがって、本発明は、線維性疾患を治療および/または予防する方法を提供し、この方法は、それを必要とする患者に、治療有効量の式Iの化合物であって、
【化3】
式I
式中、R
Aは水素であり、
R
7およびR
8は独立して、HおよびSO
2NR
3R
4から選択され、
R
7およびR
8のうちの1つは水素であり、
R
1、R
2、R
3、およびR
4はそれぞれ独立して、H、アルキル、ヘテロアルキル、シクロアルキル、アリールシクロアルキル、アリール、ヘテロアリール、ヘテロシクロアルキルから選択され、NR
1R
2およびNR
3R
4のそれぞれが、独立して、組み合わされてヘテロシクロアルキルを形成することができ、該アルキル、ヘテロアルキル、シクロアルキル、アリールシクロアルキル、アリール、ヘテロアリール、またはヘテロシクロアルキルが、任意に置換されていてもよい、化合物、
またはその薬学的に許容される塩、エステル、アミド、立体異性体、幾何異性体、もしくはプロドラッグである。
【0053】
好ましい一実施形態では、NR1R2およびNR3R4は独立して、環中に1個の窒素を含む6~15員ヘテロシクロアルキルである。
【0054】
米国特許第8,129,519号は、本発明の化合物を作製する方法を記載している。
【0055】
好ましい実施形態では、式Iの化合物は、以下の構造を有するか、
【化4】
、
またはその薬学的に許容される塩、エステル、アミド、立体異性体、もしくは幾何異性体である。化合物は、BC-2059またはテガビビントとしても知られている。米国特許第8,129,519号は、この化合物を作製する方法を記載している。
【0056】
一実施形態では、線維性疾患は、肺線維症、デュピュイトラン拘縮、強皮症、全身性硬化症、皮膚硬化を伴わない強皮症様障害、肝硬変、間質性肺線維症、ケロイド、慢性腎疾患、慢性移植片拒絶、および他の瘢痕/創傷治癒異常、術後癒着、反応性線維症からなる群から選択される。
【0057】
好ましい実施形態では、障害は肺線維症である。
【0058】
別の好ましい実施形態では、障害はデュピュイトラン拘縮である。
【0059】
さらに別の好ましい実施形態では、障害はケロイドである。
【0060】
BC-2059は初めに、WNT/ベータカテニンシグナル伝達経路の転写活性化を阻害する能力について、細胞系のスクリーニングにおいて同定された。この化合物シリーズの特性評価により、この化合物シリーズのメンバーが、ベータカテニンの分解を誘発し、ベータカテニン転写活性化複合体を妨害し、核内受容体シグナル伝達経路モジュレータの特性を有することが発見された。BC-2059は、TBL1と相互作用し、ベータカテニンがTBL1と関連するのを防ぎ、ベータカテニンの分解を引き起こすことが見出されている。
【0061】
BC-2059のこの活性は、がん細胞におけるベータカテニン経路を阻害し、それらの細胞にアポトーシスを引き起こすことが見出された。具体的には、クロム性骨髄性白血病(CML)患者由来の細胞株、ならびに骨髄増殖性新生物(MPN)患者由来の細胞株および初代細胞は、BC-2059の存在下でアポトーシスおよび増殖阻害を受ける。さらに、BC-2059の活性は、これらの疾患において治療的に重要なシグナル伝達経路(ヤヌスキナーゼ2(JAK2)、ブレークポイントクラスターアベルソン(BCR-ABL)、およびヒストンデアセチラーゼ(HDAC)阻害剤などと相乗作用があり、疾患を有する個体においてこれらの薬剤と組み合わせて使用することにより、これらの疾患を改善することができる。
【0062】
したがって、いくつかの実施形態では、提供される薬剤は、チロシンキナーゼ阻害剤(ニロチニブを含むがこれに限定されない)、ヒストンデアセチラーゼ阻害剤(パノビノスタットを含むがこれに限定されない)、他の抗がん剤、および他の治療剤を含むがこれらに限定されない他の治療剤と組み合わせて使用することができる。
【0063】
上記または他の治療に使用する場合に、治療有効量の本発明の化合物うちの1つを純粋な形態で、またはかかる形態が存在する場合に、薬学的に許容される塩、エステル、またはプロドラッグの形態で利用できる。あるいは、化合物は、1つ以上の薬学的に許容される賦形剤と組み合わせて目的の化合物を含む薬学的組成物として投与することができる。
【0064】
ヒトまたは下等動物に投与される本発明の化合物の1日の合計用量は、約0.0001~約1000mg/kg/日の範囲であり得る。必要に応じて、1日の有効用量は投与の目的として複数の用量に分割でき、したがって、単回用量組成物は、かかる量またはその約数を含んで一日用量を構成してもよい。
【0065】
本発明のより明確な理解のために、詳細を以下に提供する。これらは単なる例示であり、決して本発明の範囲を限定するものとして理解されるべきではない。実際に、本明細書に示され記載されたものに加えて、本発明の様々な修正が、以下の実施例および前述の記載から当技術分野で明らかになるであろう。かかる修正も、添付の特許請求の範囲内に含まれることが意図されている。
【実施例】
【0066】
実施例1
線維性(デュピュイトラン疾患)および非繊維性の手掌筋膜に対するテガビビントの効果
実験条件
テガビビント(BC-2059)粉末を100%のジメチルスルホキシド(DMSO)中で10_mMストック溶液に再構成した。ストックを無血清培地(α最小必須培地、αMEM)中で100nMに希釈し、分析を実施する直前に無血清αMEM中で100pMにさらに希釈した。100pMから0.78pMへの連続希釈を様々なアッセイで評価した。分析のサブセットにおいて、αMEM中0.001%のDMSOをビヒクル対照として使用し、αMEM単独を未処置対照として使用した。
【0067】
デュピュイトラン疾患を有する2人の患者の繊維性手掌筋膜に由来する初代手掌筋膜線維芽細胞(DD細胞)(DD249、DD77)、およびこれらの患者からの見かけ上の非線維性手掌筋膜(PF細胞)に由来する同系初代線維芽細胞(PF細胞)(PF249、PF77)に対して、増殖/生存率分析を三連で実施した。これらの分析のために、1型コラーゲンでコーティングした96ウェルトレイ上で細胞を培養して、インビボでの基質相互作用をより良好に複製した。これらの分析のために2つの独立したアッセイを使用した:1人の患者に由来する細胞での最大72時間の分析のためのAlamar Blueアッセイ、および他の患者に由来する細胞での最大24時間の分析のための水溶性テトラゾリウム(WST-1)アッセイ。ANOVA反復測定により、増殖に対する有意な治療効果が経時的に検出された。
【0068】
リアルタイムPCR ABI Prism 7500で遺伝子発現分析を三連で評価した。全RNA試料は、デュピュイトラン疾患を有する1人の患者からの外植片組織から培養された同系のDDおよびPF細胞(DD180およびPF 180)、ならびに正常な同種異系対照としてデュピュイトラン疾患の病歴を有さない1人の患者(CT38)に由来した。Agilent 2100 BioanalyzerでRNAの品質を評価し、製造業者の指示に従ってHigh-Capacity cDNA Archive Kit(Applied Biosystems)を使用して、2μgの高品質の全RNAをcDNAの第1鎖に逆転写した。TaqMan遺伝子発現アッセイを使用して、1型コラーゲンでコーティングした6ウェルトレイ上で培養した細胞における48時間の処置後のCTNNB1、EGR1、NRG1、およびWISP1 mRNAレベルを測定した。以下の条件下で実施した標的およびハウスキーピング遺伝子のPCR反応の並行PCR増幅の効率の確認後に、ΔΔCΤ法を使用した:95℃で5分間の初期変性に続いて、変性(95℃で15秒間)、プライマーアニーリング(60℃で1分間)、および転写物伸長(50℃で2分間)のサイクルを40サイクル。
【0069】
Raykha,C.,Crawford,J.,Gan,B.S.,Fu,P.,Bach,L.A.,and O’Gorman,D.B.(2013)IGF-II and IGFBP-6 regulate cellular contractility and proliferation in Dupuytren’s disease.Biochimica et biophysica acta.1832,1511-9に記載されるプロトコルを使用して、デュピュイトラン疾患(DD180)を有する1人の患者の繊維性手掌筋膜に由来する初代手掌筋膜線維芽細胞に対して線維芽細胞集団化コラーゲン格子アッセイを実施した。
【0070】
実験結果
利用された増殖/生存率アッセイおよび培養中の細胞の目視検査の両方の結果に基づき、BC-2059は、線維症由来の線維芽細胞、および見かけ上は罹患していない手掌筋膜に由来する同種線維芽細胞の両方について、>100pMの濃度で細胞毒性であった。評価したDDおよびPF細胞(N=2人の患者)の増殖/生存率アッセイにおいて、BC-2059に対する感受性の一貫した統計学的に有意な差異は明白であった。
図1A~1Cに示されるように、DD249細胞は生存可能であり、24時間処置した細胞と比較して、48時間および72時間にわたり25pMのBC-2059中で有意に多い細胞数に増殖することができたが、24時間処置した細胞と比較して、48時間および72時間にわたり50pMのBC-2059中で増殖することができなかった。
【0071】
対照的に、同種PF249細胞は、24時間処置した細胞と比較して、48時間および72時間にわたり25pMおよび50pMの両方のBC-2059中でより多い細胞数に増殖した。
図1D~1Fを参照されたい。
【0072】
これらの発見は、
図2Aおよび2Bに示されるように、異なるアッセイWST-1を使用して、異なる患者に由来する細胞DD77およびPF77において24時間にわたって複製された。
【0073】
≦25_pMのBC-2059で処置した細胞では、DD細胞のChIP-seq分析において核内β-カテニンと関連する遺伝子の発現に対する認識可能な効果は特定されなかった。
【0074】
結論
予備分析では、線維症由来細胞の増殖が阻害されるが、同種手掌筋膜由来細胞の増殖が阻害されない、BC-2059の濃度の治療ウィンドウを約50pMと特定した。我々の分析のいずれにおいても、≦25pMのBC-2059では細胞増殖/生存率、遺伝子発現、または収縮性に対するいかなる一貫した効果も特定されず、これは、25pM超のBC-2059治療ウィンドウのさらなる確証を提供する。
【0075】
BC-2059は、ベータ-カテニンの核局在を阻害するが、その転写は阻害しない。しかしながら、BC-2059で処置した細胞におけるCTNNB1 mRNAレベルの補償的な増加の任意の証拠があるかどうかを判定する価値があった。
図3Aが示すように、≦25_pMのBC-2059で処置した細胞において、CTNNB1発現の補償的な増加の証拠はなかった。我々の過去のデータは、ベータ-カテニンが、CT細胞中のEGR1およびNRG1のプロモーター内の転写因子と結合するが、DDまたはPF細胞中のEGR1およびNRG1のプロモーター内の転写因子とは結合せず、β-カテニンが、DD細胞中のWISP1プロモーター内の転写因子と結合するが、PFまたはCT細胞中のWISP1プロモーター内の転写因子とは結合しないことを示す。EGR1およびNRG1の発現レベルはCT細胞で最も高かった一方、WISP1発現は、予想通りDD細胞で最も高く、≦25_pMのBC-2059で処置した細胞ではEGR1、NRG1、またはWISP1の発現レベルにおいてBC-2059によって誘発された変化の証拠は見られなかった。
図3B~3Dを参照されたい。
【0076】
異なる患者に由来する細胞間の遺伝的変異性について補償するために、少なくとも6人の追加の個体の繊維性および見かけ上の非繊維性手掌筋膜に由来する細胞(すなわち、DDおよびPF細胞)に対して、25~100pMの範囲でBC-2059の追加のより詳細なインビトロ分析を実施することを推奨する。6人の患者/群(DDおよびPF)は、80%の確率でp<0.05での有意性を検出するのに十分であると計算した。
【0077】
実施例2
テガビビントで肺線維症を治療する方法
パイロット研究において、50mg/kgのテガビビントを週に2回(1週間に2回)、尾静脈注射を介してC57BL/6野生型マウスに投与した。肺線維症を誘発するために0日目にブレオマイシンを気管内投与し、6、10、14、18、および21日目にテガビビントまたはビヒクル(水中5%のデキストロース)を投与した。
【0078】
この実験の目的は、インビボでのブレオマイシン誘発性肺線維症に対する、全身投与されたテガビビントの効果を評価することであった。
【0079】
図5Aは、肺の伸長および拡張能力の機能的尺度である肺コンプライアンスに対する効果を実証している。肺線維症は通常、低下したコンプライアンス、すなわち、硬い肺と関連付けられている。
図5Aに示されるように、ブレオマイシンのみで処置した動物(第2の群)は、ビヒクルのみで処置した動物(第1の群)と比較して、有意に低下したコンプライアンスを示し、これは、ブレオマイシン処置後の肺線維症の誘発を示す。テガビビント単独(第3の群)は、コンプライアンスに対する効果を有さず、ブレオマイシン後のテガビビント処置(第4の群)は、コンプライアンス測定値が部分的に回復した。アスタリスクは、
**p<0.01および
***p<0.001での統計学的有意性を示す。
【0080】
図5Bは、Sircolアッセイを使用した、肺組織中の全可溶性コラーゲン含有量に対する効果を実証している。これは、線維症の誘発が、新たなコラーゲン合成の増加および可溶性コラーゲン濃度の上昇と関連付けられるため、肺線維症の定量的尺度である。
図5Bに示されるように、ブレオマイシンのみで処置した動物(第2の群)は、ビヒクルのみで処置した動物(第1の群)と比較して、有意に増加した可溶性コラーゲン濃度を示し、これは、ブレオマイシン処置後の肺線維症の誘発を示す。テガビビント単独(第3の群)は効果を有さず、ブレオマイシン後のテガビビント処置(第4の群)は、コラーゲンレベルをビヒクルのみの対照と同じレベルまで完全に回復させた。アスタリスクは、
***p<0.005での統計学的有意性を示す。
【0081】
この実験は、テガビビント処置が、全身投与を介してブレオマイシン誘発性肺線維症を効果的に減弱させたことを実証している。
【0082】
別のパイロット研究において、5mg/kgのテガビビントを週に2回(1週間に2回)、鼻腔内送達を介してC57BL/6野生型マウスに投与した。肺線維症を誘発するために0日目にブレオマイシンを気管内投与し、6、10、14、18、および21日目にテガビビントまたはビヒクル(水中5%のデキストロース)を投与した。
【0083】
この実験の目的は、インビボでのブレオマイシン誘発性肺線維症に対する、局所投与されたテガビビントの効果を評価することであった。
【0084】
図6Aは、ブレオマイシンモデルにおける肺コンプライアンスに対する局所テガビビントの効果を実証する。
図6Aに示されるように、ブレオマイシンのみで処置した動物(第2の群)は、ビヒクルのみで処置した動物(第1の群)と比較して、有意に低下した肺コンプライアンスを示し、これは、ブレオマイシン処置後の肺線維症の誘発を示す。局所テガビビント単独(第3の群)は、コンプライアンスの増加をもたらし、ブレオマイシン後のテガビビント処置(第4の群)は、ブレオマイシンのみの(第2の)群と比較して、コンプライアンスの増加傾向を示したが、統計学的有意性を実証するにはより多くの動物が必要とされ得る。アスタリスクは、
*p<0.05および
**p<0.01での統計学的有意性を示す。
【0085】
図6Bは、ブレオマイシンモデルにおける可溶性コラーゲン含有量に対する局所テガビビントの効果を実証する。
図6Bに示されるように、ブレオマイシンのみで処置した動物(第2の群)は、ビヒクルのみで処置した動物(第1の群)と比較して、有意に増加した可溶性コラーゲン濃度を示し、これは、ブレオマイシン処置後の肺線維症の誘発を示す。局所テガビビント単独(第3の群)はコラーゲンのわずかな増加を示し、これは、局所的薬物に対する肺組織の軽度の炎症反応に起因する可能性がある。ブレオマイシン後のテガビビント処置(第4の群)は、ブレオマイシンのみの(第2の)群と比較して、コラーゲンレベルを有意に低下させた。アスタリスクは、
**p<0.01、
****p<0.0001での統計学的有意性を示す。
【0086】
この実験は、局所的に投与したテガビビント処置も、ブレオマイシン誘発性肺線維症を効果的に減弱させたことを実証している。
【0087】
実施例3
テガビビント製剤の噴霧送達
25mg/mLの濃度でポロキサマー188/ソルビトール中に懸濁させたテガビビント粒子を使用した。これらの製剤をエアロゾルの形態で、全身曝露の方法でマウスに適用した。マウスをプラスチック箱の中に置いた。この箱を密封し、その側面の一方が噴霧装置の排出口に接続し、他方の側面で閉鎖水域のシステムに接続した。動物の部屋の換気フードの中で手順全体を実行した。
【0088】
最初の実験について、SATER LABSの噴霧器を使用した。このデバイスは、噴射システムを使用する。5匹のマウスの各群ごとに5mlの薬物、すなわち125mgのテガビビント(BC2059)をデバイスに注入し、次いで、噴霧のためにデバイスを電源に接続した。エネルギーは、5~7ポンドの圧力、および1分あたり6~8リットルの流量を可能にする、DeVilbiss圧縮機モデル646によって供給された。第2の実験について、使用したデバイスは、超音波噴霧器であるAlteraであった。
【0089】
2つの実験について、10匹の雄のbcat-Ex3マウスを各セットごとに使用した。これらのマウスを5匹ずつの2つの群に分けた。第1の群は、連続する5日間にわたり毎日薬物を投与された。第2の群は、薬物を1回のみ(5日目)投与された。5日目に、全てのマウスを屠殺し、肺を採取し、各群からの5つの試料を各々入れた2つのラベル付きナイロン袋の中で試料を-30度で保管した。
【表1】
【0090】
実施例4
特発性肺線維症のマウスモデルにおける噴霧されたテガビビントの有効性
この実験の目的は、ブレオマイシン誘発性の特発性肺線維症(IPF)のマウスモデルにおけるテガビビントナノ懸濁液を研究することであった。試験物は以下の通りである:
0.625%ポロキサマー188および10%ソルビトール中のナノ粉砕懸濁液25mg/mL中のテガビビント(BC2059)。化合物を約4℃で冷蔵した。
噴霧機器は、Altera超音波eRapidマシン噴霧器(モデル#678G1002)であった。
動物は、8~12週齢のC57BL/6雄マウス(Jackson Lab,Bar Harbor,ME)であった。
【表2】
【0091】
肺線維症のマウスモデルは、気管内(IT)注入されたブレオマイシン(APP Pharmaceuticals,Schaumburg,IL)によって誘発された。50マイクロリットルの生理食塩水0.9%またはPBS中の0.025Uのブレオマイシンの1用量を0日目に各動物に対照として投与した。
【0092】
テガビビントナノ懸濁液をエアロゾルの形態で、全身曝露の方法で群3に適用した。マウスをプラスチック箱の中に置いた。この箱を密封し、その側面の一方が噴霧装置の排出口に接続し、他方の側面で閉鎖水域のシステムに接続した。動物の部屋の換気フードの中で手順全体を実行した。各処置セッションにおいて、チャンバ内の4~5匹のマウスの各群に5mlの25mg/ml テガビビント(125mg)を15分間噴霧した。エアロゾルへのマウスの曝露を高めるために、エアロゾルチャンバ内に沈殿したテガビビントをシリンジで回収し、2回目および3回目に再噴霧した。ブレオマイシンの投与後5日目~21日目の間、毎日2回マウスに噴霧した。群1および2は、同様の様式でビヒクル5mlを噴霧された。
【0093】
0、5、8、12、16、19、および21日目に動物の体重を記録した。
【0094】
以前に記載されるように(Morales-Nebreda L,et al.AJRCMB 2015)、Scireqによって確立されたプロトコルに従ってFlexiVentマウスベンチレーター(Scireq,Montreal,PQ,Canada)を使用して21日目に肺メカニクスの測定を21日目に行った。気道抵抗、動的および準静的組織コンプライアンス、ならびにエラスタンスを計算するために使用した強制的な振動および準静的な圧力-容量曲線プロトコルの前に、合計3回の肺容量操作により各マウスの標準ベンチレーション履歴を得た。
【0095】
21日目に、全ての動物を屠殺し、肺を採取した。以前に記載されるように(Morales-Nebreda L,et al.AJRCMB 2015)、ヒドロキシプロリンアッセイを使用して全肺コラーゲン含有量を評価した。簡潔には、マウスの肺を採取し、1mlの0.5M酢酸中で懸濁させ、次いで、最初にホモジナイザーで(氷上で60秒間)、次にDounceホモジナイザー中で15ストロークを使用して(氷上で)均質にした。得られたホモジネートを10分間回転させ(12,000×g)、上清を後続の分析に使用した。ラット尾コラーゲン(Sigma-Aldrich,St.Louis,MO)を使用して0.5M酢酸中でコラーゲン標準を調製した。0.2gのシリウスレッドF3B(Sigma-Aldrich)を200mlの水と混合することによってピクロシリウスレッド染料を調製し、1mlのピクロシリウスレッド染料を100μlのコラーゲン標準または肺ホモジネートに添加し、次いで、環状撹拌機上で室温で30分間連続的に混合した。次いで、沈殿したコラーゲンをペレット化し、0.5M酢酸で1度洗浄した(12,000×gで各15分間)。得られたペレットを1mlの0.5M NaOH中に再懸濁させ、比色プレートリーダー(Bio-Rad,Hercules,CA)を使用した分光測定(540nm)でシリウスレッド染色を定量化した。
【0096】
結果
群2は、ブレオマイシン処置後の統計学的に有意な体重減少を示し、IPF誘発の指標の1つである。対照的に、群3の吸入テガビビント処置は、ブレオマイシン誘発性肺損傷によって引き起こされた体重喪失を逆転させた。
【表3】
【0097】
さらに、ブレオマイシン誘発性は、群2における肺コンプライアンスを低下させ、これは、線維症の誘発を示す。群3におけるブレオマイシン損傷後の吸入テガビビント処置は、群1の偽処置対照のコンプライアンス値の近くまでコンプライアンス値を逆転させた。
【表4】
【0098】
さらに、ヒドロキシプロリンアッセイによって測定された全肺コラーゲン含有量は、群2において著しい増加を示し、これはブレオマイシン損傷後の活性な線維症を示す。対照的に、群3におけるブレオマイシン損傷後の吸入テガビビント処置は、この変化を逆転させ、コラーゲンレベルは群1における偽処置対照に近い。
【表5】